特許第6862740号(P6862740)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6862740
(24)【登録日】2021年4月5日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】舗装構造
(51)【国際特許分類】
   E01C 11/26 20060101AFI20210412BHJP
【FI】
   E01C11/26 B
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-189531(P2016-189531)
(22)【出願日】2016年9月28日
(65)【公開番号】特開2018-53510(P2018-53510A)
(43)【公開日】2018年4月5日
【審査請求日】2019年8月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】西川 直仁
(72)【発明者】
【氏名】黒岩 正夫
(72)【発明者】
【氏名】阿部 和久
(72)【発明者】
【氏名】山崎 啓三
【審査官】 湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭60−111904(JP,U)
【文献】 実開昭63−023319(JP,U)
【文献】 特開2000−129618(JP,A)
【文献】 特開2006−307596(JP,A)
【文献】 特開2010−241632(JP,A)
【文献】 特開2010−185201(JP,A)
【文献】 特開2013−087501(JP,A)
【文献】 特開2008−184858(JP,A)
【文献】 特開2016−199908(JP,A)
【文献】 米国特許第05022459(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01C 11/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
路床上に積層される路盤と、該路盤上に構築される上部舗装層と、該上部舗装層に内包される埋設物と、を備える舗装構造であって、
前記上部舗装層が、前記路盤に接して構築された樹脂短繊維を含有したモルタル造の基層を備えており、
該基層に前記埋設物が内包されることを特徴とする舗装構造。
【請求項2】
請求項1に記載の舗装構造において、
前記埋設物が、熱放出部材であることを特徴とする舗装構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、埋設物を内包してなる舗装構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、冬季に積雪を観測する寒冷地では道路や駐車場等にロードヒーティング用パイプを内包した融雪舗装を採用している。例えば、特許文献1では、路盤上に敷設された金網にロードヒーティング用パイプを固定した後、約10cm程度の層厚を確保する程度にアスファルトを打設して転圧することにより、アスファルト融雪舗装路を構築する。また、路盤上に敷設されたロードヒーティング用パイプをコンクリートに埋設しコンクリート融雪舗装路とする場合には、一般に10〜15cm程度の層厚を確保する程度にコンクリートを打設することが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−100507号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、路盤上に積層されるアスファルトもしくはコンクリートに10cmを超える層厚を確保することで、舗装性能を確保できるだけでなく、ロードヒーティング用パイプのような外力を受けて変形しやすい埋設物の破損を確実に防止することが可能となる。
【0005】
しかし、層厚が大きい場合には、アスファルトおよびコンクリートのいずれの場合も2〜3層に分けて施工をする必要があるため、打設に手間を要するとともに養生期間も必要となり、工期が長期化しやすい。また、融雪舗装のように埋設物より放出される熱を舗装表面に到達させようとすると、層厚が大きいことに伴って熱伝導抵抗が大きくなることから、あらかじめ大きな熱量を埋設物に供給しなければならず、効率が悪いだけでなくコストも膨大となりやすい。
【0006】
本発明は、かかる課題に鑑みなされたものであって、その主な目的は、舗装性能を確保しつつ層厚の薄い構造とすることの可能な、埋設物を内包した舗装構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するため本発明の舗装構造は、路床上に積層される路盤と、該路盤上に構築される上部舗装層と、該上部舗装層に内包される埋設物と、を備える舗装構造であって、前記上部舗装層が、前記路盤に接して構築された樹脂短繊維を含有したモルタル造の基層を備えており、該基層に前記埋設物が内包されることを特徴とする。
【0008】
上述する本発明の舗装構造によれば、路盤上に積層される上部舗装層にひび割れ抵抗性の高い樹脂短繊維入りモルタル造の基層を備えるため、舗装性能を確保しつつ上部舗装層の層厚を一般的なコンクリート舗装やアスファルト舗装と比較して薄くすることができる。これらに加えて、モルタルであることから径の大きい粗骨材を含まないため、基層に埋設物を内包しても、その被り厚を一般的なコンクリート舗装やアスファルト舗装に内包した場合と比較して薄くできる。これにより、上部舗装層に埋設物を内包した舗装構造は、舗装性能を維持しつつ舗装構造全体を層厚の薄い構造とすることが可能となる。
【0009】
また、樹脂短繊維を含有するフレッシュモルタルは、鋼短繊維や炭素短繊維を含有させる場合と比較して、打設時に高い流動性および自己充填性を有している。このため、樹脂短繊維を含有したモルタル造の基層は場所打ち造であっても、埋設物の周囲に樹脂短繊維を含有するフレッシュモルタルが確実に入り込んで空隙を作ることがなく、手間を要さず高精度に構築できる。したがって、舗装構造全体を、短工期で構築可能な施工性の良い舗装構造とすることが可能となる。
【0010】
さらに、樹脂短繊維は鋼繊維のように錆を生じることがないため、不慮の事態により基層にひび割れや損傷が生じて水分が侵入した場合にも、錆に起因する膨張等の不具合を舗装構造全体に及ぼすことがなく、ライフサイクルの長い舗装構造を構築することが可能となる。
【0011】
本発明の舗装構造は、前記埋設物が、熱放出部材であることを特徴とする。
【0012】
上述する本発明の舗装構造によれば、上部舗装層の層厚が薄いことにより、埋設物である熱放出部材から放出された熱を効率よく上部舗装層の表面まで伝導することができるため、融雪道路の舗装構造として好適に採用することが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、上部舗装層に樹脂短繊維入りモルタル造の基層を含み、当該基層にて埋設物を内包することから、埋設物を内包した一般的なコンクリート舗装やアスファルト舗装と比較して、舗装性能を維持しつつ層厚の薄い舗装構造とすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の舗装構造の概略を示す図である。
図2】本発明の舗装構造における構造耐久性試験の様子を示す図である。
図3】本発明の舗装構造における構造耐久性試験の試験結果を示す図である。
図4】本発明の舗装構造を融雪舗装に採用した際の適性を検証する様子を示す図である。
図5】本発明の舗装構造を融雪舗装に採用した際の適性を検証した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の舗装構造は、路盤上に積層される上部舗装層に埋設物が内包されたものであり、車道や歩道、自転車道等の道路、駐車場等に用いられるものである。なお、本実施の形態では、埋設物にロードヒーティング用のパイプを採用して、舗装構造を融雪道路に適用する場合を事例とし、以下に図1図5を参照して詳細を説明する。
【0016】
図1(a)で示すように、支持力が均一となるように原地盤もしくは盛土を締固めた路床上に構築される舗装構造1は、路盤2と上部舗装層3と埋設物4とを備えている。路盤2は、砕石を締固めて必要な層厚を確保したものであり、上部舗装層3を支持し、かつ上部舗装層3から作用される交通荷重を分散させて、効率よく路床に伝達する機能を有する。これら路盤2は、図1(a)で示すように砕石にクラッシャーランを用いた下層路盤21と、砕石に粒度調整砕石を用いた上層路盤22との2層から構成されるものであってもよいし、図1(b)で示すように、1層よりなるのものであってもよい。
【0017】
そして、上記の路盤2上には、埋設管4が配設されるとともに埋設管4を内包するように上部舗装層3が積層されている。上部舗装層3は、路盤2の不陸を整正し、交通荷重を分散させて効率よく路盤2に伝達する機能を有する。これら上部舗装層3は、図1(a)で示すように路盤2の不陸を整正する基層31と、交通荷重を分散させ車両の快適な走行を促す路面となる表層32との2層から構成されるものであってもよいし、図1(b)で示すように、表層の機能をも有する基層31の1層のみからなるものであってもよい。
【0018】
基層31は、セメント系硬化材、水、細骨材および短繊維を含有したフレッシュモルタルを所定の層厚となるように路盤2上に打設した後、硬化・養生することによって構築されるもので、セメント系硬化材の種類としては、なんら制限を設けるものではなく、普通ポルトランドセメントや早強ポルトランドセメント等いずれのセメントを採用してもよい。
【0019】
また、短繊維の種類としては、モルタルに対して均一に分散させると引張強度、曲げ強度、せん断強度、ひび割れの抑制、じん性、耐衝撃性等モルタルの様々な性能を改善することの可能な、鋼短繊維、炭素短繊維等いずれを採用してもよい。なお、本実施の形態では、上記の性能に加えてフレッシュモルタルに高い流動性をもたらし、かつ高い耐塩害性能を有することで知られる樹脂短繊維を採用している。なお、樹脂短繊維は、PVA繊維等モルタルやコンクリートに分散させる材料として用いられているものであれば、いずれを採用してもよい。
【0020】
このような樹脂短繊維入りモルタル造の基層31について、その構造耐久性を把握するべく構造耐久性試験を行った。具体的には、図2(a)で示すように、所定の間隔を設けて配置した一対のウレタンブロック61を掛け渡すように、埋設管4を内包した状態の基層31を配置し、基層31の上面にて荷重調整した小型のゴム車輪62を繰り返し走行させる。そして、基層31を上下面方向に貫通するひび割れが発生したときの、ゴム車輪62の通過回数を記録する。
【0021】
なお、構造耐久性試験を実施するにあたっては、ホイールトラッキング試験に用いるホイールトラッキング試験機6を転用している。ホイールトラッキング試験は、アスファルト混合物の耐流動性を室内的に確認するために行う試験であり、この試験に用いるホイールトラッキング試験機6は、小型のゴム車輪62を備えている。そこで、この小型のゴム車輪62の下方に一対のウレタンブロック61を配置し、その上面に基層31を設置して、小型のゴム車輪62を走行させた。
【0022】
また、構造耐久性試験の供試体として、樹脂短繊維入りモルタル造で層厚が40mmおよび50mmの2体の基層31を準備するだけでなく、比較例として図2(b)で示すような、層厚が40mmのアスファルト基層7を準備し試験を行った。なお、いずれのも下面近傍に口径13mmのPE管を埋設物4として内包している。また、小型のゴム車輪62には、鉛直荷重として686Nを作用させている。
【0023】
図3で示す耐久性試験の結果をみると、比較例であるアスファルト基層7では、ゴム車輪62がその上面を689回通過したときに、図2(b)で示すように、アスファルト基層7を上下面方向に貫通するひび割れ5が生じた。しかし、樹脂短繊維入りモルタル造の基層31では、ゴム車輪62を14,000回通過させても上下面方向に貫通するひび割れは生じなかった。
【0024】
つまり、樹脂短繊維入りモルタル造の基層31は、その上面に繰り返し荷重が載荷されることによって曲げ力が加わった場合において、外力が作用すると変形を生じるような柔軟性の高いPE管を埋設管4として内包した状態においても、下面に生じたひび割れが広がって上面まで到達し、破壊に至るという現象を生じることがなく、高いひび割れ抵抗性(または耐久性)を備えた構造とすることが可能となる。
【0025】
そして、上部舗装層3は、これら高いひび割れ抵抗性(または耐久性)を有する樹脂短繊維入りモルタル造の基層31を備えることでひび割れ防止を目的とした配筋を省略できるため、舗装性能を確保しつつ上部舗装層3の層厚を一般的なコンクリート舗装やアスファルト舗装と比較して薄くすることができる。
【0026】
これらに加えて、基層31がモルタル造であることから径の大きい粗骨材を含まないため、埋設物4を内包してもその被り厚を一般的なコンクリート舗装やアスファルト舗装に内包した場合と比較して薄くできる。これにより、上部舗装層3に埋設物4を内包した舗装構造1は、舗装性能を維持しつつ舗装構造全体を層厚の薄い構造とすることが可能となる。
【0027】
また、樹脂短繊維を含有するフレッシュモルタルは、鋼短繊維や炭素短繊維を含有させる場合と比較して、打設時に高い流動性と自己充填性を有していることが、一般に知られている。したがって、埋設物4を配置した路盤2上に樹脂短繊維を含有するフレッシュモルタルを現場にて打設し、硬化・養生して基層31を構築した場合にも、埋設物4の周囲には、樹脂短繊維を含有するフレッシュモルタルが確実に入り込んで空隙を作ることがない。したがって、手間を要さず高精度な基層31を構築でき、舗装構造1全体を、短工期で構築可能な施工性の良い舗装構造とすることが可能となる。
【0028】
さらに、上記の舗装構造1は、樹脂短繊維に錆を生じることがないため、不慮の事態により樹脂短繊維入りモルタル造の基層31にひび割れや損傷が生じて水分が侵入した場合にも、錆に起因する膨張等の不具合を舗装構造1全体に及ぼすことがなく、長いライフサイクルを確保することが可能となる。
【0029】
このような舗装構造1を融雪舗装に採用した際の適性を検証するべく、埋設物4にロードヒーティング用パイプを適用し、以下の試験を行った。具体的には、図4で示すように、上部舗装舗装3の態様が異なる4つの供試体を製造し、気温マイナス10℃に設定した実験室内において舗装表面を融雪温度(1℃)とするために必要な、4つの供試体各々に埋設したロードヒーティング用パイプに通水させる温水の水温を測定した。
【0030】
なお、図4で示す4つの供試体はそれぞれ以下の構成を有している。ケース1の供試体は、樹脂短繊維入りモルタル造の基層31を層厚40mmに設定し、これを上部舗装層3として1層の路盤2上に積層してなる舗装構造1である。ケース2の供試体は、樹脂短繊維入りモルタル造であって層厚40mmの基層31とアスファルトよりなり層厚40mmの表層32とを上部舗装層3とし、1層の路盤2上に積層した舗装構造1である。
【0031】
また、比較例として製造したケース3の供試体は、無筋コンクリート造基層91を層厚90mmに設定し、これを上部舗装層9として1層の路盤2上に積層した舗装構造8である。同じく比較例として製造したケース4の供試体は、層厚90mmの無筋コンクリート造基層91とアスファルトよりなり層厚40mmの表層92とを上部舗装層9とし、1層の路盤2上に積層した舗装構造8である。
【0032】
図5をみると、比較例であるケース4の舗装構造8は、ロードヒーティング用パイプよりなる埋設物4と上部舗装層9の表面との距離が最も長いことから、舗装表面を融雪温度(1℃)まで上昇させるのに必要な通水温度が最も高く、19.4℃となっている。一方で、ケース1の舗装構造1は、埋設物4と上部舗装層3の表面との距離が最も短いことから、舗装表面を融雪温度(1℃)まで上昇させるのに必要な通水温度が最も低く11.1℃となっており、ケース4との間で8℃以上の差を生じることがわかる。
【0033】
これらの結果からもわかるように、樹脂短繊維入りモルタル造の基層31を上部舗装層3に備える舗装構造1であるケース1およびケース2は、埋設物4と上部舗装層3との距離を短く設定できるため、埋設物4であるロードヒーティング用パイプから放出された熱を効率よく舗装表面まで伝達することができ、融雪道路の舗装構造として好適に採用することが可能となる。
【0034】
本発明の舗装構造は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0035】
本実施の形態では、樹脂短繊維入りモルタル造の基層31を備えた上部舗装層3を融雪舗装に採用する場合に、埋設物4としてロードヒーティング用パイプを事例に挙げたが、必ずしもこれに限定されるものではなく、電熱線や鋼管等の融雪舗装に用いられる熱放出部材であれば、埋設物4にいずれを採用することも可能である。
【0036】
また、樹脂短繊維入りモルタル造の基層31を備えた上部舗装層3は、必ずしも融雪舗装への適用に限定されるものではなく、例えば、埋設物4にワイヤレス給電システムを採用し、走行中の電気自走者に給電可能なワイヤレス給電(無線給電)道路の舗装として採用することも可能である。
【0037】
さらに、本実施の形態において、埋設物4を路盤2の上面に配置し基層31の最下部に配置させたが、必ずしもこれに限定されるものではなく、埋設物4を基層31の中間深さに位置させてもよい。
【0038】
加えて、本実施の形態において、樹脂短繊維入りモルタル造の基層31を備えた上部舗装層3を砕石よりなる路盤2上に積層したが、必ずしもこれに限定されるものではなく、例えば橋梁床板等、いずれの既存材料よりなる路盤や床板の上に積層してもよい。また、樹脂短繊維入りモルタル造の基層31の上面に積層する表層32についても、従来より舗装の表層として使用されているものであれば、いずれを採用してもよい。
【符号の説明】
【0039】
1 舗装構造
2 下部舗装
21 下部路盤
22 上部路盤
3 上部舗装層
31 基層
32 表層
4 埋設物
5 ひび割れ
6 ホイールトラッキング試験機
61 ウレタンブロック
62 ゴム車輪
7 アスファルト基層
8 舗装構造
9 上部舗装層
91 無筋コンクリート造基層
92 表層
図1
図2
図3
図4
図5