特許第6862746号(P6862746)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6862746
(24)【登録日】2021年4月5日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】ゴム押出物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 48/30 20190101AFI20210412BHJP
   B29C 48/21 20190101ALI20210412BHJP
   B29C 48/92 20190101ALI20210412BHJP
   B29K 21/00 20060101ALN20210412BHJP
   B29L 9/00 20060101ALN20210412BHJP
【FI】
   B29C48/30
   B29C48/21
   B29C48/92
   B29K21:00
   B29L9:00
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-199954(P2016-199954)
(22)【出願日】2016年10月11日
(65)【公開番号】特開2018-62078(P2018-62078A)
(43)【公開日】2018年4月19日
【審査請求日】2019年10月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 智
【審査官】 正 知晃
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭51−103965(JP,A)
【文献】 特開2008−062512(JP,A)
【文献】 特開2013−141790(JP,A)
【文献】 特開2017−217892(JP,A)
【文献】 特開平7−32443(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 48/00−48/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の未加硫ゴムを1つのダイに形成された流路に流して前記流路の終端となる1つの押出口から押出して一体化させたゴム押出物を製造するゴム押出物の製造方法において、
前記ダイに、それぞれの前記未加硫ゴムを互いに完全に隔離する剛体の一定厚さの平坦な平板状の整流板を押出方向に延在させて固定し、前記整流板の延在長さを10mm以上に設定して、前記整流板の前端を前記押出口の前端面から1mm以上後退した位置に設定し、それぞれの前記未加硫ゴムのうち、少なくとも1つの未加硫ゴムの前記ダイでの流速を調整することにより、それぞれの前記未加硫ゴムの前記ダイでの流速を同程度に設定して、前記ダイの前記整流板が存在している領域ではそれぞれの前記未加硫ゴムを互いに完全に分離させた状態で、前記流路を前記整流板によって区画して形成された横断面積が異なる区画流路に流して前方に誘導して、前記整流板よりも前方領域で、それぞれの前記未加硫ゴムを一体化させることを特徴とするゴム押出物の製造方法。
【請求項2】
前記整流板の前端を、前記押出口の前端面から後方に30mm以内の範囲に設定する請求項1に記載のゴム押出物の製造方法。
【請求項3】
前記流路の厚さが一定であり、側面視で前記整流板が前記流路に対して平行に配置されている請求項1または2に記載のゴム押出物の製造方法
【請求項4】
前記整流板の厚さが0.5mm以上3mm以下である請求項1〜3のいずれかに記載のゴム押出物の製造方法
【請求項5】
前記整流板は、その前端部のみが前方に向かって細くなる形状である請求項1〜4のいずれかに記載のゴム押出物の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム押出物の製造方法に関し、さらに詳しくは、複数の未加硫ゴムを1つの押出口から押出して一体化させる際に、ゴムどうしの境界面の変動を抑えつつ押出したゴム押出物の湾曲を抑制することができるゴム押出物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
タイヤ等のゴム製品を製造する際には、ゴム押出装置によって未加硫ゴムを押出す押出し工程がある。ゴム押出装置では、複数の未加硫ゴムを1つの押出口から押出して一体化させる、いわゆる多色ゴム押出を行うことがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
多色ゴム押出では、送り出されるそれぞれの未加硫ゴムの押出口直前での流速差に起因して、それぞれの未加硫ゴムが一体化して押出口から押し出されたゴム押出物が湾曲することがある。このゴム押出物の湾曲を抑えるために、未加硫ゴムを送り出すスクリューの回転速度(押出速度)を調整して、それぞれの未加硫ゴムの流速差を小さくすると、一体化した未加硫ゴムどうしの境界面が変動する。これに伴い、ゴム押出物の形状が設定どおりに得られなくなることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015−47838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、複数の未加硫ゴムを1つの押出口から押出して一体化させる際に、ゴムどうしの境界面の変動を抑えつつ押出したゴム押出物の湾曲を抑制することができるゴム押出物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため本発明のゴム押出物の製造方法は、複数の未加硫ゴムを1つのダイに形成された流路に流して前記流路の終端となる1つの押出口から押出して一体化させたゴム押出物を製造するゴム押出物の製造方法において、前記ダイに、それぞれの前記未加硫ゴムを互いに完全に隔離する剛体の一定厚さの平坦な平板状の整流板を押出方向に延在させて固定し、前記整流板の延在長さを10mm以上に設定して、前記整流板の前端を前記押出口の前端面から1mm以上後退した位置に設定し、それぞれの前記未加硫ゴムのうち、少なくとも1つの未加硫ゴムの前記ダイでの流速を調整することにより、それぞれの前記未加硫ゴムの前記ダイでの流速を同程度に設定して、前記ダイの前記整流板が存在している領域ではそれぞれの前記未加硫ゴムを互いに完全に分離させた状態で、前記流路を前記整流板によって区画して形成された横断面積が異なる区画流路に流して前方に誘導して、前記整流板よりも前方領域で、それぞれの前記未加硫ゴムを一体化させることを特徴とするゴム押出物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、1つの押出口が形成された1つのダイに、それぞれの未加硫ゴムを互いに完全に隔離する剛体の整流板を押出方向に延在させて固定し、しかも、前記整流板の前端を前記押出口の前端面から1mm以上後退した位置に設定する。これにより、前記ダイの前記整流板が存在している領域ではそれぞれの前記未加硫ゴムを互いに完全に分離させた状態で前方に誘導できる。そのため、それぞれの未加硫ゴムの対向面は、互いに接合する直前まで整流板に沿った一定の状態になる。これに伴い、それぞれの未加硫ゴムの流速を同程度に調整しても、一体化したゴム押出物になった時のそれぞれの未加硫ゴムの境界面の変動を抑制することができる。また、それぞれの未加硫ゴムの流速を同程度に調整することで、一体化したゴム押出物が湾曲する不具合を回避できる。さらに、前記整流板の前端を前記押出口の前端面から1mm以上後退した位置に設定することで、前記整流板よりも前方領域では、それぞれの前記未加硫ゴムをしっかりと一体化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明に用いるゴム押出装置の断面構造を側面視で例示する説明図である。
図2図1のダイを正面視で例示する説明図である。
図3図1のダイおよびヘッド周辺の拡大図である。
図4図1のゴム押出装置によりそれぞれの未加硫ゴムが一体化する状態を例示する説明図である。
図5】整流板の変形例を縦断面視で例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のゴム押出物の製造方法を図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0011】
図1図3に例示する本発明に用いるゴム押出物の製造装置1は、複数の筒状のシリンダ2A、2Bと、これら複数のシリンダ2A、2Bの先端に設置される1つのヘッド4と、この1つヘッド4の先端部に配置されて1つの押出口6を有するダイ5とを備えた、いわゆる、多色ゴム押出装置である。それぞれのシリンダ2A、2Bには、内部で混練した未加硫ゴムr1、r2をヘッド4に向かって供給するスクリュー3A、3Bが内設されている。この製造装置1にはさらに、剛体の整流板8がダイ5設置されている。押出口6の前方には引き取りコンベヤ9が配置されている。
【0012】
回転するスクリュー3A、3Bによってそれぞれのシリンダ2A、2Bから供給される複数の未加硫ゴムr1、r2が1つの押出口6から押出されて一体化したゴム押出物Rになる。ゴム押出物Rは押出口6から押し出されつつ、引き取りコンベヤ9によって引き取られて次工程に搬送される。
【0013】
整流板8は押出口6の近傍に配置され、ゴム押出物Rの押出方向に延在してダイ5に固定されている。整流板8は、それぞれのシリンダ2A、2Bから供給される未加硫ゴムr1、r2を互いに完全に隔離する剛体であり、例えば鋼板等の金属で形成される。
【0014】
整流板8の前端8aは、押出口6の前端面から1mm以上後退した位置に設定されている。即ち、押出口6の前端面から後方に所定寸法aの位置を始点にして後方に延在する延在長さbの整流板8が設置されていて、所定寸法aは1mm以上に設定されている。整流板8が存在することで、ダイ5には一方の未加硫ゴムr1が流れる第一流路7Aと他方の未加硫ゴムr2が流れる第二流路7Bとが形成されている。
【0015】
所定寸法aの上限値は、整流板8が押出口6の近傍の範囲で設定され、例えば30mm程度である。延在長さbは例えば10mm以上に設定される。延在長さbの上限値は例えば100mm程度であるが、これに限定されない。
【0016】
整流板8の厚さは、流れる未加硫ゴムr1、r2の圧力によって容易に変形しないように0.5mm以上にする。整流板8の変形を確実に抑制するには、この厚さは2mm以上にすることが好ましい。一方、整流板8の厚さが過大であると、それぞれの未加硫ゴムr1、r2を一体化させ難くなるため、例えば3mm以下にする。
【0017】
この実施形態では、押出口6の整流板8の上方部分が整流板8の下方部分よりも小さく、かつ、幅方向一方側に偏在している。押出口6の開口形状は、この実施形態で示す形状に限定されず、その他の形状も採用される。例えば、押出口6の整流板8の上方部分と下方部分とが同じ形状のこともある。また、この実施形態のように2つのシリンダ2A、2Bを設ける仕様に限定されず、3つ以上のシリンダを設けることもできる。その場合も、整流板8の配置と仕様は上記のとおりである。
【0018】
次に、本発明のゴム押出物の製造方法を用いてゴム押出物Rを製造する手順を説明する。
【0019】
このゴム押出装置1によってゴム押出物Rを押し出すために、所定量の未加硫の原料ゴムおよび配合剤をそれぞれのシリンダ2A、2Bの内部に投入する。投入された材料は、回転するスクリュー3A、3Bにより混合、混練される。混合、混練されたそれぞれの未加硫ゴムr1、r2は、ある程度柔らかくなって(可塑化されて)押出口6から押出口6の断面形状に型付けされて、未加硫のゴム押出物Rとしてシート状に押し出される。それぞれの未加硫ゴムr1、r2は、同種(同じゴム物性)のことも、異なる種類(異なるゴム物性)のこともある。
【0020】
この際に、それぞれのスクリュー3A、3Bにより前方に送り出されたそれぞれの未加硫ゴムr1、r2が、図4に例示するように、1つのヘッド4に取り付けられた1つのヘッド4およびダイ5に集約される。ダイ5の整流板8が存在している領域では、それぞれの未加硫ゴムr1、r2が整流板8によって互いに完全に分離して状態で前方に誘導される。そのため、それぞれの未加硫ゴムr1、r2の互いの対向面は、互いに接合する直前まで整流板8に沿って流れるので一定の状態の面に形成される。
【0021】
それぞれの未加硫ゴムr1、r2は、整流板8よりも前方領域において、押し出された流れの中で、対向面どうしが自然に接合して一体化する。即ち、整流板8によって完全に隔離された未加硫ゴムr1、r2のスウェル(広がろうとする性質)によって、ゴム押出物Rの対向面どうしが整流板8よりも前方領域で自動的に接合する。
【0022】
それぞれの未加硫ゴムr1、r2のダイ5における流速差が大きい場合は、少なくとも一方の未加硫ゴムR1(r2)の流速を調整してそれぞれの流速を同程度(例えば、流速が同一またはそれぞれの流速の流速差が3%以内)にする。このように未加硫ゴムr1、r2の流速を調整したとしても、両者が接合する時、それぞれの対向面は整流板8に沿った一定の状態になっているので、一体化したゴム押出物Rになった時のそれぞれの未加硫ゴムr1、r2の境界面M(対向面)の変動を抑制することができる。それぞれの未加硫ゴムr1、r2のダイ5における流速差が小さい場合は、未加硫ゴムr1、r2の流速を調整する必要はない。
【0023】
そして、それぞれの未加硫ゴムr1、r2の流速を同程度にすることで、一体化したゴム押出物Rが湾曲する不具合を回避できる。即ち、それぞれの未加硫ゴムr1、r2の流速差に起因して発生するゴム押出物Rの湾曲を抑えることができる。さらに、整流板8の前端8aを押出口6の前端面から1mm以上後退した位置に設定することで、整流板8よりも前方領域では、それぞれの未加硫ゴムr1、r2が分離した状態のままにならずに、しっかりと一体化させることができる。
【0024】
所定寸法aが1mm未満であると、ゴム押出物Rは整流板8によって分離したままの状態になる可能性が高くなり、後工程での使用に支障が生じる。そこで、本発明では、所定寸法aを1mm以上に設定することで、それぞれの未加硫ゴムr1、r2の対向面どうしが接合させ易くしている。互いの対向面どうしが接合することで、それぞれの対向面は消滅して密着した境界面Mになり、引き取りコンベヤ9によって次工程に搬送される。それ故、ゴム押出物Rはそのまま製造ラインの次工程に送って使用することができる。この所定寸法aを過大にすると、それぞれの未加硫ゴムr1、r2の境界面Mの変動を抑制する効果がなくなるので、所定寸法aは例えば1mm以上30mm以下にすることが好ましい。
【0025】
整流板8の延在長さbを10mm以上にすると、整流板8の表面に接触するそれぞれの未加硫ゴムr1、r2を十分に均すことができる。そのため、ゴム押出物Rの境界面Mの変動を抑えるには有利になる。適切な延在長さbは例えば、10mm以上70mm以下である。
【0026】
整流板8の前端部は、この実施形態に例示した形状に限らず、その他の形状を採用することができる。図5(A)に例示するように前端部の一方面を傾斜面にすることも、図5(B)に例示するように前端部の両面を傾斜面にすることもできる。図5(A)、(B)に例示するように、整流板8の前端部を前方に向かって細くなる形状するとそれぞれの未加硫ゴムr1、r2を円滑に一体化させ易くなる。
【符号の説明】
【0027】
1 押出装置
2A、2B シリンダ
3A、3B スクリュー
4 ヘッド
5 ダイ
6 押出口
7A 第一流路
7B 第二流路
8 整流板
8a 前端
9 引取りコンベヤ
r1、r2 未加硫ゴム
R ゴム押出物
M 境界面
図1
図2
図3
図4
図5