特許第6862785号(P6862785)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6862785
(24)【登録日】2021年4月5日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】木造構造体の補強構造、及び補強方法
(51)【国際特許分類】
   E04B 2/56 20060101AFI20210412BHJP
   E04G 23/02 20060101ALI20210412BHJP
【FI】
   E04B2/56 643A
   E04G23/02 D
【請求項の数】9
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-226593(P2016-226593)
(22)【出願日】2016年11月22日
(65)【公開番号】特開2018-84050(P2018-84050A)
(43)【公開日】2018年5月31日
【審査請求日】2019年10月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】花村 浩嗣
(72)【発明者】
【氏名】松崎 洋一
(72)【発明者】
【氏名】榎本 浩之
(72)【発明者】
【氏名】三谷 一房
(72)【発明者】
【氏名】堀居 令奈
【審査官】 新井 夕起子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−185586(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3132888(JP,U)
【文献】 特開2009−150092(JP,A)
【文献】 特開2005−090224(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0211194(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 2/56 − 2/70
E04B 1/26
E04G 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下方向と交差する横方向に沿って配された上横材と、前記上横材の下方に位置しつつ、前記横方向に沿って配された下横材と、互いの間に前記横方向の間隔をあけて前記横方向の両側にそれぞれ位置しつつ、前記上下方向に沿ってそれぞれ配された二つの縦材と、前記上横材と前記下横材と前記二つの縦材とで囲まれた空間に配されつつ、法線方向が前記上下方向及び前記横方向と交差する見込み方向を向いた面材と、を有した木造構造体を補強する構造であって、
前記見込み方向において前記面材よりも一方側の位置に配されて、第1貫入材で前記上横材の下面に固定された木製の上受け材と、
前記面材よりも前記一方側の位置に配されて、第2貫入材で前記下横材の上面に固定された木製の下受け材と、
前記面材よりも前記一方側の位置に配されて、第3貫入材で上部を前記上受け材に固定されつつ第4貫入材で下部を前記下受け材に固定された木製の補強用面材と、を有し、
前記上受け材と前記下受け材と前記補強用面材とは、前記二つの縦材に固定されていないことを特徴とする木造構造体の補強構造。
【請求項2】
請求項1に記載の木造構造体の補強構造であって、
前記上受け材と前記下受け材とは、互いの間に前記上下方向の隙間をあけて対向しており、
前記上受け材は、前記見込み方向の前記一方側の面における下側部分に、前記見込み方向の他方側にへこんだへこみ部を有し、
前記下受け材は、前記見込み方向の前記一方側の面における上側部分に、前記見込み方向の他方側にへこんだへこみ部を有し、
前記補強用面材における前記上下方向の中央部は、前記上部及び前記下部よりも前記見込み方向の他方側に突出した部分を有し、
前記補強用面材の前記上部及び前記下部が、それぞれ、前記上受け材の前記へこみ部の底面及び前記下受け材の前記へこみ部の底面に当接しており、
前記補強用面材の前記中央部の前記突出した部分は、前記上受け材と前記下受け材との間の前記隙間に介挿されつつ、前記上受け材の下面及び前記下受け材の上面に当接していることを特徴とする木造構造体の補強構造。
【請求項3】
請求項2に記載の木造構造体の補強構造であって、
前記上受け材の前記へこみ部の前記底面における上端縁の入り隅部に、前記第1貫入材の頭部が位置しており、
前記下受け材の前記へこみ部の前記底面における下端縁の入り隅部に、前記第2貫入材の頭部が位置しており、
前記第1貫入材の前記頭部及び前記第2貫入材の前記頭部は、それぞれ、前記一方側から前記補強用面材の前記上部及び前記下部で覆われていることを特徴とする木造構造体の補強構造。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかに記載の木造構造体の補強構造であって、
前記第1貫入材は、上方、又は、上方且つ前記見込み方向の他方側を向いた斜め方向に貫入されており、
前記第2貫入材は、下方、又は、下方且つ前記見込み方向の他方側を向いた斜め方向に貫入されていることを特徴とする木造構造体の補強構造。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れかに記載の木造構造体の補強構造であって、
前記見込み方向に貫入された複数の前記第3貫入材が、前記横方向に並んで配されているとともに、少なくとも1つの前記第3貫入材の前記上下方向の位置が、前記横方向に隣り合う別の前記第3貫入材の前記上下方向の位置とずれており、
前記見込み方向に貫入された複数の前記第4貫入材が、前記横方向に並んで配されているとともに、少なくとも1つの前記第4貫入材の前記上下方向の位置が、前記横方向に隣り合う別の前記第4貫入材の前記上下方向の位置とずれていることを特徴とする木造構造体の補強構造。
【請求項6】
請求項5に記載の木造構造体の補強構造であって、
前記補強用面材、前記上受け材、及び前記下受け材のうちの少なくとも1つの部材の木目が、前記横方向に沿っていることを特徴とする木造構造体の補強構造。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れかに記載の木造構造体の補強構造であって、
前記上受け材の前記一方側の面は、前記上横材の前記一方側の面との境界位置において、前記上横材の前記一方側の面よりも前記見込み方向の他方側に位置しており、
前記下受け材の前記一方側の面は、前記下横材の前記一方側の面との境界位置において、前記下横材の前記一方側の面よりも前記他方側に位置していることを特徴とする木造構造体の補強構造。
【請求項8】
請求項7に記載の木造構造体の補強構造であって、
前記上受け材の下面に前記補強用面材の上面が当接しているとともに、前記下受け材の上面に前記補強用面材の下面が当接しており、
前記補強用面材の前記一方側の面は、前記上受け材の前記一方側の面との境界位置において、前記上受け材の前記一方側の面よりも前記一方側に位置しているか、又は前記見込み方向において同じ位置に位置しており、
前記補強用面材の前記一方側の面は、前記下受け材の前記一方側の面との境界位置において、前記下受け材の前記一方側の面よりも前記一方側に位置しているか、又は前記見込み方向において同じ位置に位置していることを特徴とする木造構造体の補強構造。
【請求項9】
上下方向と交差する横方向に沿って配された上横材と、前記上横材の下方に位置しつつ、前記横方向に沿って配された下横材と、互いの間に前記横方向の間隔をあけて前記横方向の両側にそれぞれ位置しつつ、前記上下方向に沿ってそれぞれ配された二つの縦材と、を有した木造構造体を補強する方法であって、
前記上下方向及び前記横方向と交差する見込み方向の一方側から前記上横材の下面に木製の上受け材の上面を当接しつつ第1貫入材で固定する上受け材固定工程と、
前記見込み方向の前記一方側から前記下横材の上面に木製の下受け材の下面を当接しつつ第2貫入材で固定する下受け材固定工程と、
前記見込み方向の前記一方側から前記上受け材及び前記下受け材に木製の補強用面材を当接しつつ、第3貫入材で前記補強用面材の上部を前記上受け材に固定し、第4貫通材で前記補強用面材の下部を前記下受け材に固定する補強用面材固定工程と、を有し、
前記上受け材固定工程、前記下受け材固定工程、及び前記補強用面材固定工程では、前記上受け材、前記下受け材、及び前記補強用面材を前記二つの縦材に固定しないことを特徴とする木造構造体の補強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木造構造体の補強構造、及び補強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
社寺等における伝統的木造建築物は、図1の概略正面図に示すように、上下方向と交差する横方向に沿って配された通し肘木等の上横材8と、その下方に位置しつつ横方向に沿って配された頭貫等の下横材4と、横方向の両側にそれぞれ配された二つの組物等の二つの縦材10,10と、を有している。また、これら上横材8と下横材4と二つの縦材10,10との四者で囲まれた正面視横長形状の空間SPには、琵琶板等の面材9(図1中でドット模様の部分を参照)が、見込み方向(上下方向及び横方向と交差する方向であって、図1中では紙面を貫通する方向)の所定位置に配置されている。
【0003】
そして、かような伝統的木造建築物についても、耐震性を高める目的で補強工事がなされることがあるが、この点につき、特許文献1には、琵琶板9の上縁部及び下縁部を、それぞれ通し肘木8及び頭貫4の両者にほぞ等の係合部で係合させることで、互いの水平変位を規制することが開示されている。そして、これにより、当該琵琶板9に地震時の水平力を負担させて耐震性を高めるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−90224号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、伝統的木造建築物において屋外に面した部材は、接触禁止の重要文化財であることが多いが、この点につき、前述の琵琶板9は、見込み方向の屋外と屋内とを仕切る部材である。そのため、同琵琶板9の直近屋外側には重要文化財が位置していることが多く、或いは当該琵琶板9自体が重要文化財である場合もあることから、同琵琶板9に上記のような係合部を設けることは一般に困難である。
【0006】
この点につき、適宜な補強部材(不図示)の上部及び下部を、それぞれ見込み方向の屋内側から上横材8及び下横材4の両者に固定すれば、琵琶板9や屋外に面する重要文化財には一切触れずに、当該建築物の補強を行えるものと考えられる。
【0007】
また、かかる補強の際に、当該補強部材を上横材8及び下横材4以外に更に前述の二つの縦材10,10にも固定することが考えられるが、そうすると、これら二つの縦材10,10が発揮し得る有効な作用効果を阻害してしまう恐れがある。
【0008】
例えば、上述のように二つの縦材10,10が組物10,10の場合には、当該組物10は、大斗11や肘木12等の複数の部材11,12,13が上下方向に積み重ねられつつ、互いの間に配されただぼ等の係合子(不図示)を介して、適宜な遊び等をもって係合したものである。そのため、地震時に、これら係合する各部材11,12,13同士は、互いにある程度独立に動くことが許容されていて、その結果、当該組物10が支える通し肘木8や不図示の軒等の部材が速やかに揺れることで制振作用が生じるものと言われている。
【0009】
しかし、かかる組物10に上記の補強部材を固定してしまうと、地震時の水平力の入力時に当該組物10を構成する各部材11,12,13が動き難くなってしまい、その結果、上記の制振作用を発揮できなくなる恐れがある。
【0010】
本発明は、上記のような従来の問題に鑑みなされたものであって、その目的は、屋内側などの見込み方向の一方側から補強構造を木造構造体に配置可能にするとともに、同木造構造体が有する組物等の縦材の動きを上記補強構造が規制しないようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる目的を達成するために請求項1に示す発明は、
上下方向と交差する横方向に沿って配された上横材と、前記上横材の下方に位置しつつ、前記横方向に沿って配された下横材と、互いの間に前記横方向の間隔をあけて前記横方向の両側にそれぞれ位置しつつ、前記上下方向に沿ってそれぞれ配された二つの縦材と、前記上横材と前記下横材と前記二つの縦材とで囲まれた空間に配されつつ、法線方向が前記上下方向及び前記横方向と交差する見込み方向を向いた面材と、を有した木造構造体を補強する構造であって、
前記見込み方向において前記面材よりも一方側の位置に配されて、第1貫入材で前記上横材の下面に固定された木製の上受け材と、
前記面材よりも前記一方側の位置に配されて、第2貫入材で前記下横材の上面に固定された木製の下受け材と、
前記面材よりも前記一方側の位置に配されて、第3貫入材で上部を前記上受け材に固定されつつ第4貫入材で下部を前記下受け材に固定された木製の補強用面材と、を有し、
前記上受け材と前記下受け材と前記補強用面材とは、前記二つの縦材に固定されていないことを特徴とする。
【0012】
上記請求項1に示す発明によれば、当該補強構造が有する上受け材、下受け材、及び補強用面材の三者の何れの部材も、上記面材よりも見込み方向の一方側の位置に配されている。よって、当該補強構造を、見込み方向の一方側から木造構造体に問題無く配置することができる。
また、これら上受け材、下受け材、及び補強用面材の三者の何れの部材も、二つの縦材には、固定されていない。よって、これら二つの縦材の動きを当該補強構造が規制しないようにすることができる。
【0013】
請求項2に示す発明は、請求項1に記載の木造構造体の補強構造であって、
前記上受け材と前記下受け材とは、互いの間に前記上下方向の隙間をあけて対向しており、
前記上受け材は、前記見込み方向の前記一方側の面における下側部分に、前記見込み方向の他方側にへこんだへこみ部を有し、
前記下受け材は、前記見込み方向の前記一方側の面における上側部分に、前記見込み方向の他方側にへこんだへこみ部を有し、
前記補強用面材における前記上下方向の中央部は、前記上部及び前記下部よりも前記見込み方向の他方側に突出した部分を有し、
前記補強用面材の前記上部及び前記下部が、それぞれ、前記上受け材の前記へこみ部の底面及び前記下受け材の前記へこみ部の底面に当接しており、
前記補強用面材の前記中央部の前記突出した部分は、前記上受け材と前記下受け材との間の前記隙間に介挿されつつ、前記上受け材の下面及び前記下受け材の上面に当接していることを特徴とする。
【0014】
上記請求項2に示す発明によれば、補強用面材の上部及び下部が、それぞれ、上受け材のへこみ部の底面及び下受け材のへこみ部の底面に当接している。よって、補強用面材の上部及び下部にそれぞれ第3貫入材及び第4貫入材を上記見込み方向の一方側から貫入させることで、補強用面材を上受け材及び下受け材に容易に固定可能となる。
また、補強用面材の上記突出した部分は、上受け材の下面及び下受け材の上面と当接している。よって、仮に、地震時に、下横材が上横材に対して相対的に横方向に水平変位することに起因して、上記見込み方向に沿った軸回りの回転モーメントが補強用面材に作用した場合にも、上記の当接に基づいて、当該回転モーメントに有効に対抗することができる。そして、これにより、当該補強構造は、高い耐震性を奏することができる。
【0015】
請求項3に示す発明は、請求項2に記載の木造構造体の補強構造であって、
前記上受け材の前記へこみ部の前記底面における上端縁の入り隅部に、前記第1貫入材の頭部が位置しており、
前記下受け材の前記へこみ部の前記底面における下端縁の入り隅部に、前記第2貫入材の頭部が位置しており、
前記第1貫入材の前記頭部及び前記第2貫入材の前記頭部は、それぞれ、前記一方側から前記補強用面材の前記上部及び前記下部で覆われていることを特徴とする。
【0016】
上記請求項3に示す発明によれば、上述の各入り隅部に位置する第1貫入材の頭部及び第2貫入材の頭部は、それぞれ、見込み方向の一方側から補強用面材の上部及び下部で覆われている。よって、上記見込み方向の一方側から当該頭部を視認不能にして補強の痕跡を隠すことができて、これにより、補強後の木造構造体の見栄えの悪化を抑制可能となる。
【0017】
請求項4に示す発明は、請求項1乃至3の何れかに記載の木造構造体の補強構造であって、
前記第1貫入材は、上方、又は、上方且つ前記見込み方向の他方側を向いた斜め方向に貫入されており、
前記第2貫入材は、下方、又は、下方且つ前記見込み方向の他方側を向いた斜め方向に貫入されていることを特徴とする。
【0018】
上記請求項4に示す発明によれば、第1貫入材及び第2貫入材は、それぞれ上記のような方向に貫入されている。よって、これら第1貫入材及び第2貫入材を、それぞれ上受け材及び下受け材に対して見込み方向の一方側から問題無く貫入することができる。
【0019】
請求項5に示す発明は、請求項1乃至4の何れかに記載の木造構造体の補強構造であって、
前記見込み方向に貫入された複数の前記第3貫入材が、前記横方向に並んで配されているとともに、少なくとも1つの前記第3貫入材の前記上下方向の位置が、前記横方向に隣り合う別の前記第3貫入材の前記上下方向の位置とずれており、
前記見込み方向に貫入された複数の前記第4貫入材が、前記横方向に並んで配されているとともに、少なくとも1つの前記第4貫入材の前記上下方向の位置が、前記横方向に隣り合う別の前記第4貫入材の前記上下方向の位置とずれていることを特徴とする。
【0020】
上記請求項5に示す発明によれば、横方向に隣り合う少なくとも一組の第3貫入材同士は、互いの上下方向の位置がずれており、同様に、横方向に隣り合う少なくとも一組の第4貫入材同士は、互いの上下方向の位置がずれている。よって、地震時に、これら第3貫入材又は第4貫入材を介して補強用面材、上受け材、及び下受け材に作用し得る水平力を上下方向に分散させることができる。そして、これにより、上下方向の同じ位置に水平力が過度に集中して作用することで生じ得る不具合、例えば、補強用面材、上受け材、及び下受け材の割れ等の破損を防ぐことができて、その結果、補強構造の耐力を高めることができる。
【0021】
請求項6に示す発明は、請求項5に記載の木造構造体の補強構造であって、
前記補強用面材、前記上受け材、及び前記下受け材のうちの少なくとも1つの部材の木目が、前記横方向に沿っていることを特徴とする。
【0022】
上記請求項6に示す発明によれば、補強用面材、上受け材、及び下受け材のうちの少なくとも1つの部材の木目が、横方向に沿っているので、当該部材を見込み方向の一方側から見た場合の見栄えを良くできる。但し、木目が水平方向に沿っていると、水平力の作用時に第3貫入材及び第4貫入材の位置で割れ等の破損を助長し得るが、この点につき、請求項5に記載のように、第3貫入材の上下方向の位置は上下方向に分散されており、また、第4貫入材の上下方向の位置も上下方向に分散されている。そのため、上記の如く見栄えの良化を図りながらも、補強用面材、上受け材、及び下受け材の割れ等の破損を防ぐことができる。
【0023】
請求項7に示す発明は、請求項1乃至6の何れかに記載の木造構造体の補強構造であって、
前記上受け材の前記一方側の面は、前記上横材の前記一方側の面との境界位置において、前記上横材の前記一方側の面よりも前記見込み方向の他方側に位置しており、
前記下受け材の前記一方側の面は、前記下横材の前記一方側の面との境界位置において、前記下横材の前記一方側の面よりも前記他方側に位置していることを特徴とする。
【0024】
上記請求項7に示す発明によれば、当該補強構造を見込み方向の一方側から見た人に、上記面材の場合と同様の奥行き感を感じさせることができる。すなわち、補強構造に係る上受け材及び下受け材についても、上横材及び下横材よりも上記見込み方向の他方側に引っ込んだように見せることができる。そして、これにより、当該見た人に、これら上受け材及び下受け材を上記面材の如く視認させることができて、その結果、同補強構造が与え得る見た目の違和感を軽減可能となる。
【0025】
請求項8に示す発明は、請求項7に記載の木造構造体の補強構造であって、
前記上受け材の下面に前記補強用面材の上面が当接しているとともに、前記下受け材の上面に前記補強用面材の下面が当接しており、
前記補強用面材の前記一方側の面は、前記上受け材の前記一方側の面との境界位置において、前記上受け材の前記一方側の面よりも前記一方側に位置しているか、又は前記見込み方向において同じ位置に位置しており、
前記補強用面材の前記一方側の面は、前記下受け材の前記一方側の面との境界位置において、前記下受け材の前記一方側の面よりも前記一方側に位置しているか、又は前記見込み方向において同じ位置に位置していることを特徴とする。
【0026】
上記請求項8に示す発明によれば、上記請求項7のように上受け材を上横材よりも上記見込み方向の他方側に引っ込めて設けるという制約がある場合に、当該上受け材の下面を、可能な限り大きな面積で補強用面材の上面に当接させることができる。同様に、上記請求項7のように下受け材を下横材よりも見込み方向の他方側に引っ込めて設けるという制約がある場合に、当該下受け材の上面を、可能な限り大きな面積で補強用面材の下面に当接させることができる。よって、仮に、地震時に、下横材が上横材に対して相対的に横方向に水平変位することに起因して、上記見込み方向に沿った軸回りの回転モーメントが補強用面材に作用した場合にも、上記の当接に基づいて、当該回転モーメントに有効に対抗することができる。そして、これにより、当該補強構造は高い耐震性を奏することができる。
【0027】
請求項9に示す発明は、
上下方向と交差する横方向に沿って配された上横材と、前記上横材の下方に位置しつつ、前記横方向に沿って配された下横材と、互いの間に前記横方向の間隔をあけて前記横方向の両側にそれぞれ位置しつつ、前記上下方向に沿ってそれぞれ配された二つの縦材と、を有した木造構造体を補強する方法であって、
前記上下方向及び前記横方向と交差する見込み方向の一方側から前記上横材の下面に木製の上受け材の上面を当接しつつ第1貫入材で固定する上受け材固定工程と、
前記見込み方向の前記一方側から前記下横材の上面に木製の下受け材の下面を当接しつつ第2貫入材で固定する下受け材固定工程と、
前記見込み方向の前記一方側から前記上受け材及び前記下受け材に木製の補強用面材を当接しつつ、第3貫入材で前記補強用面材の上部を前記上受け材に固定し、第4貫通材で前記補強用面材の下部を前記下受け材に固定する補強用面材固定工程と、を有し、
前記上受け材固定工程、前記下受け材固定工程、及び前記補強用面材固定工程では、前記上受け材、前記下受け材、及び前記補強用面材を前記二つの縦材に固定しないことを特徴とする。
【0028】
上記請求項9に示す発明によれば、上記の上受け材及び下受け材を、木造構造体において対応する上記の上横材及び下横材に対して、それぞれ、見込み方向の一方側から当接して固定し、そして、これら上受け材及び下受け材に、見込み方向の一方側から木製の補強用面材を当接しつつ固定する。よって、木造構造体の補強を、上記一方側から速やかに行うことができる。
また、かかる補強においては、これら上受け材、下受け材、及び補強用面材の何れの部材も、二つの縦材には固定しない。よって、これら二つの縦材の動きを当該補強構造が規制しないようにすることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、屋内側などの見込み方向の一方側から補強構造を木造構造体に配置可能にするとともに、同木造構造体が有する組物等の縦材の動きを上記補強構造が規制しないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】伝統的木造建築物の概略正面図である。
図2】本実施形態の補強構造20を配置前の木造構造体1の概略正面図である。
図3A】本実施形態の補強構造20を配置後の木造構造体1の補強対象部分を拡大して示す概略正面図である。
図3B図3A中のB−B断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
===本実施形態===
図2乃至図3Bは、本実施形態の補強構造20が設けられる木造構造体1の説明図である。図2は、補強構造20を配置前の木造構造体1の概略正面図である。また、図3Aは、補強構造20を配置後の木造構造体1の補強対象部分を拡大して示す概略正面図であり、図3Bは、図3A中のB−B断面図である。
【0032】
なお、以下では、互いに直交する三方向のことを、「上下方向」、「横方向」、及び「見込み方向」と言う。そして、この例では、横方向及び見込み方向は、それぞれ水平方向を向いている。また、請求項に記載の見込み方向の一方側が、補強対象の木造構造体1の「室内側」に相当し、他方側が「室外側」に相当する。ちなみに、図3Aは、見込み方向の室内側から見た場合の補強構造20の概略正面図である。
【0033】
図2に示すように、本実施形態の補強構造20で補強される木造構造体1は、既存の木造建築物の一部をなしている。ここで、同木造構造体1は、既存軸組として、横方向に一対の柱2,2と、横方向に沿って配された頭貫4と、横方向に沿って配された地覆6と、を有している。そして、各柱2,2と頭貫4及び地覆6とは、互いの端部2e,4e,6eにおいてほぞ及びほぞ穴などの適宜な嵌合構造で連結されている。
【0034】
また、この例では、各柱2の上端部2eの上面2esには、それぞれ組物10が設けられている。そして、横方向に並ぶ二つの組物10,10同士の間には、横方向に沿って通し肘木8が掛け渡されていて、これにより、同通し肘木8が二つの組物10,10に支持されている。
【0035】
なお、この図2の例では、組物10は、下から順に、大斗11、肘木12、及び巻斗13を有しており、これら各部材11,12,13は、上下方向に隣り合う部材と所定の遊び等をもって不図示のだぼで連結されている。例えば、大斗11は、下方に隣接する柱2の上端部2eと所定の遊び等をもってだぼで連結されており、その上方に位置する肘木12及び巻斗13は、順次所定の遊び等をもってだぼで連結されている。また、巻斗13は、その上方に隣接する通し肘木8や不図示の軒に所定の遊び等をもってだぼで連結されていて、これにより、組物10は通し肘木8や軒を支持している。よって、当該組物10を構成する大斗11、肘木12、及び巻斗13は、それぞれ、地震時に、互いにある程度独立に動くことが許容されていて、その結果、当該組物10が支える通し肘木8や軒と共同して所定の制振作用を奏することができる。ちなみに、上述のだぼに代えてほぞで連結しても良い。
【0036】
一方、頭貫4と通し肘木8と二つの組物10,10とで囲まれた正面視横長形状の空間SPには、琵琶板9(面材に相当し、図2中でドット模様の部分を参照)が、当該空間SPを室内側と室外側とに仕切るように、当該琵琶板9の法線方向を見込み方向に向けて設けられている。例えば、琵琶板9の下縁部9ed及び上縁部9euは、それぞれ、頭貫4の上面4su及び通し肘木8の下面8sdに溝状に設けられた大入れ4suk,8sdk(図3B)に挿入されていて、これにより、琵琶板9は、頭貫4及び通し肘木8に、所定の遊び等をもって取り付けられている。
【0037】
かような木造構造体1のうちで本実施形態の補強構造20が配置される補強対象部分は、琵琶板9が設けられた上記空間SPの部分、すなわち、頭貫4(下横材に相当)と通し肘木8(上横材に相当)と二つの組物10,10(二つの縦材に相当)とで囲まれた正面視略矩形状の空間SPの部分(図2中でドット模様の部分)である。
【0038】
図3A及び図3Bに示すように、補強構造20は、第1貫入材71で通し肘木8の下面8sdに固定された木製の上受け材30と、第2貫入材72で頭貫4の上面4suに固定された木製の下受け材40と、第3貫入材73で上部50uを上受け材30に固定されつつ第4貫入材74で下部50dを下受け材40に固定された木製の補強用面材50と、を有する。
【0039】
そして、図3Bから明らかなように、これら上受け材30、下受け材40、及び補強用面材50の何れの部材も、見込み方向において琵琶板9よりも室内側の位置に配されている。よって、当該補強構造20を、見込み方向の室内側から木造構造体1に問題無く配置することができる。そして、これにより、琵琶板9の位置を含めその屋外側の位置に、接触禁止の重要文化財が存在している場合でも、当該補強構造20の配置を問題無く行うことができる。
【0040】
また、これら上受け材30、下受け材40、及び補強用面材50の何れの部材も、図3Aの二つの組物10,10には固定されていない。よって、これら二つの組物10,10の動きを当該補強構造20が規制しないようにすることができて、これにより、木造構造体1の補強後も、組物10は、何等問題なく通し肘木8や軒と共同して所定の制振作用を奏することができる。
【0041】
なお、ここで、上受け材30、下受け材40、及び補強用面材50が互いに連結一体化したものを「補強構造20の本体部20H」と言った場合に、図3Aに示すように、当該本体部20Hにおける横方向の両側の各部分の形状は、それぞれ、横方向の外側に対応して隣り合う組物10における横方向の内側の部分の形状に対応した形状をしている。よって、同本体部20Hがこのような形状をしていることも、当該本体部20Hをなす上受け材30、下受け材40、及び補強用面材50を、組物10と干渉すること無く前述の正面視横長形状の空間SPに、見込み方向の室内側から速やかに配置可能なことに有効に寄与している。
【0042】
また、上受け材30、下受け材40、及び補強用面材50の各木種については、樫や檜、杉などを例示できる。そして、何れの木種を用いるかについては、補強構造20に要求される耐力に応じて適宜決定される。
【0043】
以下、補強構造20の本体部20Hをなす上受け材30、下受け材40、及び補強用面材50について説明する。
【0044】
図3Bに示すように、上受け材30は、見込み方向の室内側の面30si(一方側の面に相当)における下側部分30sidに、その全域に亘って屋外側にへこんだへこみ部30hを有している。詳しくは、同図3Bに示すように上受け材30を横方向から見た場合に、同上受け材30の見込み方向の屋外側の面30sxについては全面に亘って平坦面をなしているが、同上受け材30における下側部分の見込み方向の厚さが上側部分のそれよりも薄くなっている。そのため、見込み方向の室内側の面30siについては、上側部分30siuよりも下側部分30sidの方が屋外側に引っ込んでいて、これにより、同上受け材30の室内側の面30siにおける下側部分30sidが正面視横長帯状のへこみ部30hとなっている(図3A)。
【0045】
そして、同図3Bに示すように、かかるへこみ部30hの底面30hbにおける上端縁の入り隅部30hbcには、第1貫入材71としての第1木ねじ71が、室外側且つ上方を向いた斜め方向にねじ込まれていて、これにより、同第1木ねじ71の軸部71aにおけるねじ込み方向の先端部は、上方の通し肘木8に到達している。よって、当該第1木ねじ71に基づいて通し肘木8に上受け材30が相対移動不能に固定されている。
【0046】
また、かかる第1木ねじ71は、上述のようにへこみ部30hの入り隅部30hbcにねじ込まれている。そのため、図3Bの如きねじ込み完了状態においては、同第1木ねじ71の頭部71hも入り隅部30hbcに位置しているが、ここで、当該へこみ部30hの底面30hbには、後述の補強用面材50の上部50uが見込み方向の屋内側から当接されている。そして、これにより、第1木ねじ71の頭部71hは、当該室内側から補強用面材50の上部50uで覆われている。よって、室内側から当該頭部71hを視認不能にして補強の痕跡を隠すことができて、これにより、補強後の木造構造体1の見栄えの悪化を抑制可能となる。
【0047】
なお、図3Aの例では、かような第1木ねじ71は、横方向に所定ピッチで複数の一例として4本以上並んで設けられているが、配置本数は何等4本以上に限らない。
【0048】
図3Bに示すように、下受け材40は、見込み方向の室内側の面40siにおける上側部分40siuに、その全域に亘って屋外側にへこんだへこみ部40hを有している。詳しくは、同図3Bに示すように下受け材40を横方向から見た場合に、同下受け材40の見込み方向の屋外側の面40sxについては全面に亘って平坦面をなしているが、同下受け材40における上側部分の見込み方向の厚さが下側部分のそれよりも薄くなっている。そのため、見込み方向の室内側の面40si(一方側の面に相当)については、下側部分40sidよりも上側部分40siuの方が屋外側に引っ込んでいて、これにより、同下受け材40の室内側の面40siにおける上側部分40siuが正面視横長帯状のへこみ部40hとなっている(図3A)。
【0049】
そして、同図3Bに示すように、かかるへこみ部40hの底面40hbにおける下端縁の入り隅部40hbcには、第2貫入材72としての第2木ねじ72が、室外側且つ下方を向いた斜め方向にねじ込まれていて、これにより、同第2木ねじ72の軸部72aにおけるねじ込み方向の先端部は、下方の頭貫4に到達している。よって、当該第2木ねじ72に基づいて頭貫4に下受け材40が相対移動不能に固定されている。
【0050】
また、かかる第2木ねじ72は、上述のようにへこみ部40hの入り隅部40hbcにねじ込まれている。そのため、図3Bの如きねじ込み完了状態においては、同第2木ねじ72の頭部72hも入り隅部40hbcに位置しているが、ここで、当該へこみ部40hの底面40hbには、後述の補強用面材50の下部50dが見込み方向の屋内側から当接されている。そして、これにより、第2木ねじ72の頭部72hは、当該室内側から補強用面材50の下部50dで覆われている。よって、室内側から当該頭部72hを視認不能にして補強の痕跡を隠すことができて、これにより、補強後の木造構造体1の見栄えの悪化を抑制可能となる。
【0051】
なお、図3Aの例では、かような第2木ねじ72は、横方向に所定ピッチで複数の一例として5本以上並んで設けられているが、配置本数は何等5本以上に限らない。
【0052】
ここで、望ましくは、図3Bに示すように、上受け材30の室内側の面30siにおける上側部分30siuは、その上方に隣接する通し肘木8の室内側の面8si(一方側の面に相当)との境界位置Pb8において、通し肘木8の室内側の面8siよりも屋外側に位置していると良く、また同様に、下受け材40の室内側の面40siにおける下側部分40sidも、その下方に隣接する頭貫4の室内側の面4si(一方側の面に相当)との境界位置Pb4において、頭貫4の室内側の面4siよりも屋外側に位置していると良い。
そして、このようになっていれば、図3Aのように当該補強構造20を見込み方向の室内側から見た人に、琵琶板9の場合と同様の奥行き感を感じさせることができる。すなわち、補強構造20に係る上受け材30及び下受け材40を、それぞれ、通し肘木8及び頭貫4よりも見込み方向の屋外側に引っ込んだように見せることができる。よって、当該見た人に、これら上受け材30及び下受け材40を琵琶板9の一部の如く視認させることができて、これにより、同補強構造20が与え得る見た目の違和感を軽減可能となる。
【0053】
図3Bを参照して一部既述のように、補強用面材50は、上部50uと、下部50dと、上下方向においてこれら上部50uと下部50dとの間に位置する中央部50cとを一体に有している。また、図3Aに示すように、これら上部50u、中央部50c、及び下部50dの正面視の各形状は、何れも横長帯状となっている。更に、図3Bのように横方向から見た場合に、中央部50cは、上部50u及び下部50dよりも見込み方向の屋外側に突出した部分50cpを有している。
そして、上部50uと下部50dとが、それぞれ上受け材30のへこみ部30hの底面30hb及び下受け材40のへこみ部40hの底面40hbに当接した状態においては、当該突出した部分50cpは、上受け材30と下受け材40との間に形成された正面視横長帯状の隙間GPに介挿されつつ、上受け材30の下面30sd及び下受け材40の上面40suに当接している(図3B)。
また、かかる当接状態において、補強用面材50の上部50uには、図3Bに示すように、見込み方向の室内側から第3貫入材73として第3木ねじ73が見込み方向に沿ってねじ込まれていて、同第3木ねじ73の軸部73aにおけるねじ込み方向の先端部は、上記上部50uの室外側に隣接する上受け材30に到達している。
更に同様に、補強用面材50の下部50dには、見込み方向の室内側から第4貫入材74として第4木ねじ74が見込み方向に沿ってねじ込まれていて、同第4木ねじ74の軸部74aにおけるねじ込み方向の先端部は、上記下部50dの室外側に隣接する下受け材40に到達している。
よって、これら上受け材30、補強用面材50、及び下受け材40の三部材は、互いに相対移動不能に固定されていて、これにより、これら三部材30,40,50同士の間で水平力の伝達が速やかになされるようになっている。そして、その結果、同三部材30,40,50は、前述の補強構造20の本体部20Hとして問題無く機能することができる。
【0054】
ちなみに、図3Aに示すように、かかる第3木ねじ73及び第4木ねじ74は、それぞれ、補強用面材50の上部50u及び下部50dにおいて横方向に複数並んで配置されているが、ここで、この例では、少なくとも1つの第3木ねじ73の上下方向の位置が、横方向に隣り合う別の第3木ねじ73の上下方向の位置とずれており、同様に、少なくとも1つの第4木ねじ74の上下方向の位置が、横方向に隣り合う別の第4木ねじ74の上下方向の位置とずれている。
より正確に言えば、この例では、全ての第3木ねじ73,73…が、横方向に隣り合う第3木ねじ73に対して上下方向の位置がずれてなる所謂千鳥配置で配されており、また、第4木ねじ74についても、全ての第4木ねじ74,74…が、横方向に隣り合う第4木ねじ74に対して上下方向の位置がずれてなる千鳥配置で配されている。
【0055】
よって、地震時に、これら第3木ねじ73及び第4木ねじ74を介して補強用面材50、上受け材30、及び下受け材40に作用し得る水平力を上下方向に分散させることができる。つまり、上下方向の同じ位置に水平力が過度に集中して作用することを防ぐことができる。そして、その結果、補強用面材50、上受け材30、及び下受け材40の割れ等の破損を防ぐことができる。
【0056】
また、この例では、不図示であるが、補強用面材50、上受け材30、及び下受け材40のうちの少なくとも1つの部材の木目が、横方向に沿っていて、より詳しくは、全部の部材30、40、50の木目が横方向に沿っている。そのため、当該部材を見込み方向の室内側から見た場合の見栄えを良くすることができる。
但し、木目が水平方向に沿っていると、上述の如き水平力の作用時に第3木ねじ73及び第4木ねじ74の位置で割れ等の破損を助長し得るが、この点につき、上述のように、第3木ねじ73の上下方向の位置は上下方向に分散されており、また、第4木ねじ74の上下方向の位置も上下方向に分散されている。よって、上記の如く見栄えの良化を図りながらも、補強用面材50、上受け材30、及び下受け材40の割れ等の破損を有効に抑制可能となる。
【0057】
なお、この図3Bの例では、第3木ねじ73の頭部73hは、補強用面材50の上部50uにおいて室内側の面50si(一方側の面に相当)に位置しており、同様に、第4木ねじ74の頭部74hは、補強用面材50の下部50dにおいて室内側の面50si(一方側の面に相当)に位置している。そのため、図3Aに示すように、各頭部73h,74hは、室内側から見えてしまい、見栄えの悪化を招き得る。
しかし、この点につき、これら第3木ねじ73の頭部73hの頂面の面積及び第4木ねじ74の頭部74hの頂面の面積は、第1木ねじ71の頭部71hの頂面の面積及び第2木ねじ72の頭部72hの頂面の面積よりも小さくなっている。よって、第3木ねじ73及び第4木ねじ74に代えて第1及び第2木ねじ71,72と同サイズの木ねじを使用した場合と比較して、室内側から補強構造20を見た場合の見栄えの悪化を抑制可能となる。また、この例では、前述したように、頂面の面積がより大きな第1木ねじ71及び第2木ねじ72の各頭部71h,72hについては、補強用面材50の上部50u及び下部50dによって、見込み方向の室内側から視認不能に隠されている。よって、このことも、補強後の木造構造体1の見栄えの悪化の抑制に寄与する。
【0058】
一方、図3Bを参照して前述したように、上受け材30、補強用面材50、及び下受け材40の三部材が連結一体化した状態においては、補強用面材50の中央部50cにおいて上部50u及び下部50dよりも屋外側に突出する部分50cpは、上受け材30と下受け材40との間の正面視横長帯状の隙間GPに介挿されつつ、上受け材30の下面30sd及び下受け材40の上面40suに当接している。
【0059】
よって、仮に、地震時に、頭貫4が通し肘木8に対して相対的に横方向に水平変位することに起因して、上記見込み方向に沿った軸Cm回りの回転モーメントM(図3A)が補強用面材50に作用した場合にも、上記の当接に基づいて、当該回転モーメントMに有効に対抗することができる。そして、これにより、当該補強構造20は、高い耐震性を奏することができる。
【0060】
また、かかる当接状態においては、図3Bに示すように、同補強用面材50の上部50uの屋外側の面50usx及び下部50dの屋外側の面50dsxについては、それぞれ、上受け材30のへこみ部30hの底面30hb及び下受け材40のへこみ部40hの底面40hbに当接しているとともに、上部50uの上面50usu及び下部50dの下面50dsdは、それぞれ、上受け材30のへこみ部30hが具備する下方を向いた面30hsd(以下、下面30hsdとも言う)及び下受け材40のへこみ部40hが具備する上方を向いた面40hsu(以下、上面40hsuとも言う)に当接している。そして、かかる当接も、上述の回転モーメントMへの対抗に有効に寄与する。
【0061】
ここで、この回転モーメントMへの対抗作用をより確実に奏させる観点からは、望ましくは、同図3Bに示すように、補強用面材50の室内側の面50si(一方側の面に相当)が、上受け材30の室内側の面30siにおける上側部分30siuとの境界位置Pb30において、当該上側部分30siuよりも室内側に位置しているか、又は見込み方向において同じ位置に位置していると良く、同様に、補強用面材50の室内側の面50siが、下受け材40の室内側の面40siにおける下側部分40sidとの境界位置Pb40において、当該下側部分40sidよりも室内側に位置しているか、又は見込み方向において同じ位置に位置していると良い。
【0062】
そして、このようになっていれば、仮に、前述のような制約、すなわち図3Aのように室内側から見た上受け材30及び下受け材40をあたかも琵琶板9のように見せる目的で、これら上受け材30及び下受け材40を通し肘木8及び頭貫4よりも室外側へ引っ込めて設けるという制約が課せられた場合でも、図3Bのように、上受け材30の下面30hsd及び下受け材40の上面40hsuを、それぞれ、可能な限り大きな面積で補強用面材50における上部50uの上面50usu及び下部50dの下面50dsdに当接させることができる。よって、上記の回転モーメントMに対してより確実に対抗可能となる。
【0063】
かかる補強構造20は、例えば次のようにして木造構造体1に設置される。
【0064】
先ず、上受け材固定工程を行う。すなわち、図3Bに示すように、見込み方向の室内側から通し肘木8の下面8sdに上受け材30の上面30suを当接しつつ、第1木ねじ71で通し肘木8に上受け材30を固定する。しかし、このとき、二つの組物10,10には上受け材30を固定しない。よって、当該上受け材30で組物10の動きを規制しないようにすることができる。
【0065】
また、このとき、経年劣化等に基づいて通し肘木8の下面8sdが湾曲変形していることも考えられるが、その場合には、当該通し肘木8の下面8sdに対応した湾曲形状になるように上受け材30の上面30suを加工すれば良い。
【0066】
次に、下受け材固定工程を行う。すなわち、同じく室内側から頭貫4の上面4suに下受け材40の下面40sdを当接しつつ、第2木ねじ72で頭貫4に下受け材40を固定する。しかし、このとき、二つの組物10,10には下受け材40を固定しない。よって、当該下受け材40で組物10の動きを規制しないようにすることができる。
【0067】
また、このとき、上述の通し肘木8の場合と同様に、経年劣化等に基づいて頭貫4の上面4suが湾曲変形していることも考えられるが、その場合には、当該頭貫4の上面4suに対応した湾曲形状に下受け材40の下面40sdを加工すれば良い。
【0068】
そうしたら、最後に、補強用面材固定工程を行う。すなわち、見込み方向の室内側から上受け材30及び下受け材40に補強用面材50の上部50u及び下部50dを当接しつつ、第3木ねじ73で当該補強用面材50の上部50uを上受け材30に固定し、また第4木ねじ74で同補強用面材50の下部50dを下受け材40に固定する。しかし、このとき、二つの組物10,10には補強用面材50を固定しない。よって、当該補強用面材50で組物10の動きを規制しないようにすることができる。そして、以上をもって、木造構造体1への補強構造20の配置が完了する。
【0069】
ちなみに、上受け材固定工程と下受け材固定工程とは、順不同であり、つまり、上受け材固定工程の前に、下受け材固定工程を行っても良い。
【0070】
===その他の実施の形態===
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。また、本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更や改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれるのはいうまでもない。例えば、以下に示すような変形が可能である。
【0071】
上述の実施形態では、図3A及び図3Bに示すように、第1乃至第4貫入材71〜74の一例として木ねじを示した。そして、同木ねじは、頭部71h〜74hと軸部71a〜74aとを有するとともに、当該軸部71a〜74aの外周面に螺旋状の凸部が設けられたものであるが、何等これに限らない。例えば、鉄丸釘や和釘などを用いても良い。また、かかる第1乃至第4貫入材71〜74の素材も、何等鉄製に限らない。例えば、他の金属製でも良い。
【0072】
上述の実施形態では、図2に示すように、上横材8の一例として通し肘木8を示し、下横材4の一例として頭貫4を示していたが、何等これに限らない。例えば、下横材4が長押でも良い。
【0073】
上述の実施形態では、図2及び図3Aに示すように、二つの縦材10の一例として二つの組物10を示したが、何等これに限らない。例えば、間斗束や大瓶束、蟇股等でも良い。また、二つの縦材10が、互いに異なる部材であっても良い。例えば、二つの縦材10のうちの一方が組物であり、他方が間斗束であっても良い。更に上述の実施形態では、二つの組物10,10が、それぞれ各柱2,2の上端部2e,2eの上面2es,2esに配置されていたが、これら組物10,10が、横方向の間隔をあけて横方向の両側にそれぞれ位置していれば、何等これに限らない。例えば、当該組物10,10が、下横材としての頭貫4の上面4suに配置されていても良い。
【0074】
上述の実施形態では、図2乃至図3Bに示すように、面材9の一例として琵琶板9を例示したが、何等これに限らない。すなわち、上横材8と下横材4と二つの縦材10,10とで区画される空間SPに配される部材であれば、これ以外の部材でも良い。例えば、彫刻等が形成された欄間のような面材9でも良い。
【0075】
上述の実施形態では、図3Bに示すように、請求項に記載の見込み方向の一方側を「室内側」とし、他方側を「室外側」としていたが、何等これに限らず、逆にしても良い。例えば、一方側を「室外側」とし、他方側を「室内側」としても良い。そして、このようにした場合には、室内側に重要文化財が存在するような木造構造体1に対して、本発明の補強構造20を速やかに配置可能となる。
【0076】
上述の実施形態では、図3Bに示すように、第1貫入材としての第1木ねじ71を上受け材30のへこみ部30hの入り隅部30hbcにねじ込んでいた関係上、当該第1木ねじ71を室外側且つ上方を向いた斜め方向にねじ込んでいたが、何等これに限らない。例えば、当該へこみ部30hにおいて上部に位置する前述の下面30hsdにねじ込む場合には、当該第1木ねじ71を上方にねじ込んでも良い。同様に、この図3Bの例では、第2貫入材としての第2木ねじ72を下受け材40のへこみ部40hの入り隅部40hbcにねじ込んでいた関係上、当該第2木ねじ72を室外側且つ下方を向いた斜め方向にねじ込んでいたが、何等これに限らない。例えば、当該へこみ部40hにおいて下部に位置する前述の上面40hsuにねじ込む場合には、当該第2木ねじ72を下方にねじ込んでも良い。
【符号の説明】
【0077】
1 木造構造体、2 柱、2e 端部、2es 上面、
4 頭貫(下横材)、4e 端部、
4si 室内側の面(一方側の面)、4su 上面、4suk 大入れ、
6 地覆、
8 通し肘木(上横材)、8sd 下面、8sdk 大入れ、
8si 室内側の面(一方側の面)、
9 琵琶板(面材)、9ed 下縁部、9eu 上縁部、
10 組物(縦材)、
11 大斗、12 肘木、13 巻斗、
20 補強構造、20H 本体部、
30 上受け材、
30h へこみ部、30hb 底面、30hbc 入り隅部、
30hsd 下面、30sd 下面、
30si 室内側の面(一方側の面)、30sid 下側部分、30siu 上側部分、
30su 上面、
30sx 屋外側の面、
40 下受け材、
40h へこみ部、40hb 底面、40hbc 入り隅部、
40hsu 上面、40su 上面、
40si 室内側の面(一方側の面)、40sid 下側部分、40siu 上側部分、
40sd 下面、
40sx 屋外側の面、
50 補強用面材、
50c 中央部、50cp 突出した部分、
50d 下部、50dsd 下面、50dsx 屋外側の面、
50u 上部、50usu 上面、50usx 屋外側の面、
50si 室内側の面(一方側の面)、
71 第1木ねじ(第1貫入材)、71h 頭部、71a 軸部、
72 第2木ねじ(第2貫入材)、72h 頭部、72a 軸部、
73 第3木ねじ(第3貫入材)、73h 頭部、73a 軸部、
74 第4木ねじ(第4貫入材)、74h 頭部、74a 軸部、
Pb4 境界位置、Pb8 境界位置、Pb30 境界位置、Pb40 境界位置、
SP 空間、GP 隙間、Cm 軸、
図1
図2
図3A
図3B