特許第6862796号(P6862796)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6862796
(24)【登録日】2021年4月5日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】移動体
(51)【国際特許分類】
   G05D 1/02 20200101AFI20210412BHJP
   B62D 15/00 20060101ALI20210412BHJP
   B62D 11/04 20060101ALI20210412BHJP
   B62K 17/00 20060101ALN20210412BHJP
【FI】
   G05D1/02 W
   B62D15/00
   B62D11/04 Z
   !B62K17/00
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-229687(P2016-229687)
(22)【出願日】2016年11月28日
(65)【公開番号】特開2018-86863(P2018-86863A)
(43)【公開日】2018年6月7日
【審査請求日】2019年11月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】591261509
【氏名又は名称】株式会社エクォス・リサーチ
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】特許業務法人しんめいセンチュリー
(72)【発明者】
【氏名】荒木 敬造
【審査官】 中田 善邦
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−156804(JP,A)
【文献】 特開2010−225139(JP,A)
【文献】 実開昭61−186604(JP,U)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0207961(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D1/00−1/12,
B62D11/04,15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動輪と下側回転軸とを有する下車両と、
上側回転軸を有し、その上側回転軸を介して前記下車両と接続される上車両とを備え、
前記上車両と前記下車両とは、前記上側回転軸と前記下側回転軸とを介して相対的に回転可能に構成されると共に、前記上車両は、前記下車両が回転しても回転しない程度に、前記上側回転軸の回転抵抗に対して充分に大きな慣性モーメントを有しており、
前記上車両の質量中心は、前記下側回転軸の軸上に位置するように構成され
前記上車両は非接地に構成されると共に、
前記下車両の前後動作時において、前記駆動輪による倒立振り子制御によって前記上車両を支持する制御手段を備えていることを特徴とする移動体。
【請求項2】
駆動輪と下側回転軸とを有する下車両と、
上側回転軸を有し、その上側回転軸を介して前記下車両と接続される上車両とを備え、
前記上車両と前記下車両とは、前記上側回転軸と前記下側回転軸とを介して相対的に回転可能に構成されると共に、前記上車両は、前記下車両が回転しても回転しない程度に、前記上側回転軸の回転抵抗に対して充分に大きな慣性モーメントを有しており、
前記上車両の質量中心は、前記下側回転軸の軸上に位置するように構成され、
前記上車両の質量中心を左右方向へ移動させる重量移動手段と、
前記下車両の左右動作時に前記重量移動手段を制御して前記上車両を支持する制御手段と、を備えていることを特徴とする移動体。
【請求項3】
前記重量移動手段は、前記下車両の前記下側回転軸に設けられ、前記駆動輪側の下側回転軸と前記上車両側の下側回転軸との相対位置を左右方向に変位可能なスライド機構を有していることを特徴とする請求項記載の移動体。
【請求項4】
前記重量移動手段は、前記下車両の前記下側回転軸に設けられ、その下側回転軸を左右方向に傾斜可能な傾斜機構を有していること
を特徴とする請求項又はに記載の移動体。
【請求項5】
駆動輪と下側回転軸とを有する下車両と、
上側回転軸を有し、その上側回転軸を介して前記下車両と接続される上車両とを備え、
前記上車両と前記下車両とは、前記上側回転軸と前記下側回転軸とを介して相対的に回転可能に構成されると共に、前記上車両は、前記下車両が回転しても回転しない程度に、前記上側回転軸の回転抵抗に対して充分に大きな慣性モーメントを有しており、
前記上車両の質量中心は、前記下側回転軸の軸上に位置するように構成され、
前記上車両は非接地に構成されると共に、
前記下車両には従動輪が設けられていることを特徴とする移動体。
【請求項6】
駆動輪と下側回転軸とを有する下車両と、
上側回転軸を有し、その上側回転軸を介して前記下車両と接続される上車両とを備え、
前記上車両と前記下車両とは、前記上側回転軸と前記下側回転軸とを介して相対的に回転可能に構成されると共に、前記上車両は、前記下車両が回転しても回転しない程度に、前記上側回転軸の回転抵抗に対して充分に大きな慣性モーメントを有しており、
前記上車両の質量中心は、前記下側回転軸の軸上に位置するように構成され、
前記下車両の前記下側回転軸に設けられ、前記駆動輪側の下側回転軸と前記上車両側の下側回転軸との相対位置を前後左右方向に変位可能なスライド機構と、
前記上車両の質量中心が移動した場合に、前記スライド機構を制御して、前記上車両の質量中心を前記下側回転軸の軸上に戻すスライド制御手段とを備えていることを特徴とする移動体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体に関し、特に、走行中に向きを変えずに移動方向を変更できる移動体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、回転テーブル11と、その回転テーブル11の軸部17を回転軸として、回転テーブル11上に回転自在に載置された車体10とを有する無人走行車が開示されている。駆動輪21,22は回転テーブル11に設けられ、従動輪としてのキャスター14a〜14dは車体10に設けられる。無人走行車は、回転テーブル11の駆動輪21,22を駆動することによって走行する。
【0003】
回転テーブル11には軸部17を中心に等間隔に8つの凹穴23が穿設されており、車体10の下面には1つの突起15が突設されている。この突起15が8つの凹穴23のいずれかと嵌合することにより、車体10と回転テーブル11との相対位置が固定(ロック)される。
【0004】
ここで、車体10の向きを変えずに車体10の移動方向を変更したい場合には、車体10と回転テーブル11との相対位置を変更する必要がある。かかる場合には、無人走行車を停止した状態で、車体10に設けられた4本のアウトリガー13a〜13dを伸張し、突起15と凹穴23との嵌合を解除する。その状態で回転テーブル11を所望の方向に回転させた後、伸張状態にあるアウトリガー13a〜13dを縮退し、突起15をいずれかの凹穴23と嵌合させる。これにより、車体10と回転テーブル11とは相対位置が変更された状態でロックされる。即ち車体10の向きを変えずに車体10の移動方向を変更できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭60−148774号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記無人走行車では、走行中に車体10の向きを変えずに車体10の移動方向を変更することは困難であった。上記無人走行車では、突起15と凹穴23とのロック機構を削除したとしても、車体10の質量中心は回転軸(軸部17)と必ずしも一致しないので、走行中に回転テーブル11の移動方向を変更すると、加減速により発生するモーメントによって車体10が回転してしまう。また、4つの従動輪(キャスター14a〜14d)の回転抵抗は必ずしも均一ではないので、走行中に回転テーブル11の移動方向を変更すると、回転抵抗の大きな従動輪により発生するモーメントによって車体10が回転してしまう。よって、無人走行車の走行中に、車体10の向きを変えずに車体10の移動方向を変更することは困難であった。
【0007】
このため上記無人走行車では、停止状態において、車体10をアウトリガー13a〜13dで地面に固定し、次に回転テーブル11の方向を変更し、更に突起15と凹穴23とを嵌合させてロックすることにより、車体10の向きを変えずに車体10の移動方向を変更するようにしていた。
【0008】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、走行中に向きを変えずに移動方向を変更できる移動体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的を達成するために本発明の第1の移動体は、駆動輪と下側回転軸とを有する下車両と、上側回転軸を有し、その上側回転軸を介して前記下車両と接続される上車両とを備え、前記上車両と前記下車両とは、前記上側回転軸と前記下側回転軸とを介して相対的に回転可能に構成されると共に、前記上車両は、前記下車両が回転しても回転しない程度に、前記上側回転軸の回転抵抗に対して充分に大きな慣性モーメントを有しており、前記上車両の質量中心は、前記下側回転軸の軸上に位置するように構成され、前記上車両は非接地に構成されると共に、前記下車両の前後動作時において、前記駆動輪による倒立振り子制御によって前記上車両を支持する制御手段を備えている。
本発明の第2の移動体は、駆動輪と下側回転軸とを有する下車両と、上側回転軸を有し、その上側回転軸を介して前記下車両と接続される上車両とを備え、前記上車両と前記下車両とは、前記上側回転軸と前記下側回転軸とを介して相対的に回転可能に構成されると共に、前記上車両は、前記下車両が回転しても回転しない程度に、前記上側回転軸の回転抵抗に対して充分に大きな慣性モーメントを有しており、前記上車両の質量中心は、前記下側回転軸の軸上に位置するように構成され、前記上車両の質量中心を左右方向へ移動させる重量移動手段と、前記下車両の左右動作時に前記重量移動手段を制御して前記上車両を支持する制御手段と、を備えている。
本発明の第3の移動体は、駆動輪と下側回転軸とを有する下車両と、上側回転軸を有し、その上側回転軸を介して前記下車両と接続される上車両とを備え、前記上車両と前記下車両とは、前記上側回転軸と前記下側回転軸とを介して相対的に回転可能に構成されると共に、前記上車両は、前記下車両が回転しても回転しない程度に、前記上側回転軸の回転抵抗に対して充分に大きな慣性モーメントを有しており、前記上車両の質量中心は、前記下側回転軸の軸上に位置するように構成され、前記上車両は非接地に構成されると共に、前記下車両には従動輪が設けられている。
本発明の第4の移動体は、駆動輪と下側回転軸とを有する下車両と、上側回転軸を有し、その上側回転軸を介して前記下車両と接続される上車両とを備え、前記上車両と前記下車両とは、前記上側回転軸と前記下側回転軸とを介して相対的に回転可能に構成されると共に、前記上車両は、前記下車両が回転しても回転しない程度に、前記上側回転軸の回転抵抗に対して充分に大きな慣性モーメントを有しており、前記上車両の質量中心は、前記下側回転軸の軸上に位置するように構成され、前記下車両の前記下側回転軸に設けられ、前記駆動輪側の下側回転軸と前記上車両側の下側回転軸との相対位置を前後左右方向に変位可能なスライド機構と、前記上車両の質量中心が移動した場合に、前記スライド機構を制御して、前記上車両の質量中心を前記下側回転軸の軸上に戻すスライド制御手段とを備えている。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の移動体によれば、下車両の駆動輪が駆動されると、下車両と共に上車両が走行する。即ち、移動体が走行(移動)する。上車両は上側回転軸と下側回転軸とを介して下車両に対し相対的に回転可能に構成されており、上車両は下車両が回転しても回転しない程度に上側回転軸の回転抵抗に対して充分に大きな慣性モーメントを有し、上車両の質量中心は下車両の下側回転軸の軸上に位置する。よって、下車両の走行中に下車両が移動方向を変更しても、上車両へのモーメントの発生を抑えることができる。従って、移動体(下車両)の走行中に、移動体(上車両)の向きを変えずに、移動体(下車両)の移動方向を変更できる。更に、下車両の前後動作時には、制御手段は駆動輪による倒立振り子制御によって上車両を支持するので、上車両に従動輪等を設けずとも、上車両を下車両で支持することができ、上車両を非接地に構成できる。よって、上車両に従動輪等を設けた場合の、上車両へのモーメントの発生を防ぐことができる。
【0012】
請求項の移動体によれば、下車両の駆動輪が駆動されると、下車両と共に上車両が走行する。即ち、移動体が走行(移動)する。上車両は上側回転軸と下側回転軸とを介して下車両に対し相対的に回転可能に構成されており、上車両は下車両が回転しても回転しない程度に上側回転軸の回転抵抗に対して充分に大きな慣性モーメントを有し、上車両の質量中心は下車両の下側回転軸の軸上に位置する。よって、下車両の走行中に下車両が移動方向を変更しても、上車両へのモーメントの発生を抑えることができる。従って、移動体(下車両)の走行中に、移動体(上車両)の向きを変えずに、移動体(下車両)の移動方向を変更できる。更に、下車両の左右動作時には、制御手段は、上車両の質量中心を左右方向へ移動させる重量移動手段を制御して、上車両を支持する。よって、下車両の左右動作時において、上車両に従動輪等を設けずとも、上車両を下車両で支持することができ、上車両を非接地に構成できる。
【0013】
請求項の移動体によれば、請求項の奏する効果に加え、重量移動手段は、下車両の下側回転軸に設けられ、駆動輪側の下側回転軸と上車両側の下側回転軸との相対位置を左右方向に変位可能なスライド機構を有して構成される。よって、下車両の左右動作時において、上車両に従動輪等を設けずとも、上車両を下車両で支持することができ、上車両を非接地に構成できる。
【0014】
請求項の移動体によれば、請求項又はの奏する効果に加え、重量移動手段は、下車両の下側回転軸に設けられ、その下側回転軸を左右方向に傾斜可能な傾斜機構を有して構成される。よって、下車両の左右動作時において、上車両に従動輪等を設けずとも、上車両を下車両で支持することができ、上車両を非接地に構成できる。なお、重量移動手段としての傾斜機構を、請求項のスライド機構と共に、移動体に搭載しても良い。
【0015】
請求項5の移動体によれば、下車両の駆動輪が駆動されると、下車両と共に上車両が走行する。即ち、移動体が走行(移動)する。上車両は上側回転軸と下側回転軸とを介して下車両に対し相対的に回転可能に構成されており、上車両は下車両が回転しても回転しない程度に上側回転軸の回転抵抗に対して充分に大きな慣性モーメントを有し、上車両の質量中心は下車両の下側回転軸の軸上に位置する。よって、下車両の走行中に下車両が移動方向を変更しても、上車両へのモーメントの発生を抑えることができる。従って、移動体(下車両)の走行中に、移動体(上車両)の向きを変えずに、移動体(下車両)の移動方向を変更できる。更に、下車両には従動輪が設けられるので、上車両に従動輪等を設けずとも、上車両を下車両で支持することができ、上車両を非接地に構成できる。よって、上車両に従動輪等を設けた場合の、上車両へのモーメントの発生を防ぐことができる。
【0016】
請求項6の移動体によれば、下車両の駆動輪が駆動されると、下車両と共に上車両が走行する。即ち、移動体が走行(移動)する。上車両は上側回転軸と下側回転軸とを介して下車両に対し相対的に回転可能に構成されており、上車両は下車両が回転しても回転しない程度に上側回転軸の回転抵抗に対して充分に大きな慣性モーメントを有し、上車両の質量中心は下車両の下側回転軸の軸上に位置する。よって、下車両の走行中に下車両が移動方向を変更しても、上車両へのモーメントの発生を抑えることができる。従って、移動体(下車両)の走行中に、移動体(上車両)の向きを変えずに、移動体(下車両)の移動方向を変更できる。更に、下車両の下側回転軸には、駆動輪側の下側回転軸と上車両側の下側回転軸との相対位置を前後左右方向に変位可能なスライド機構が設けられている。例えば、ここで上車両に荷物などが載せられて上車両の質量中心が移動した場合には、スライド制御手段によってスライド機構が制御され、上車両の質量中心が下側回転軸の軸上に戻される。よって、かかる状態で移動体が走行し、その走行中に下車両が移動方向を変更しても、上車両へのモーメントの発生を抑えることができる。従って、移動体(下車両)の走行中に、移動体(上車両)の向きを変えずに、移動体(下車両)の移動方向を変更できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】(a)は移動体の外観図であり、(b)は移動体の外装の一部を切断して表した部分断面図である。
図2】移動体の電気的構成を示すブロック図である。
図3】操舵処理のフローチャートである。
図4】(a)は第2実施形態における移動体の外装の一部を切断して表した部分断面図であり、(b)は第2実施形態において、左右重量移動装置が動作している場合の移動体の部分断面図である。
図5】第2実施形態における移動体の電気的構成を示すブロック図である。
図6】第2実施形態における操舵処理のフローチャートである。
図7】変形例における移動体の外装の一部を切断して表した部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好ましい実施形態について、添付図面を参照して説明する。まず、図1を参照して、本実施形態における移動体1の構成を説明する。図1(a)は移動体1の外観図であり、図1(b)は移動体1の外装2の一部を切断して表した部分断面図である。移動体1は、ユーザHの前方周囲にて、ユーザHに対し適切な位置に移動して、ユーザHに追従できる装置として機能する。
【0019】
図1に示すように、移動体1は、略円柱状の外装2と、駆動部3と、回転軸4とを有する。外装2には、ユーザHの指示を移動体1に入力し、ユーザHに移動体1等の情報を出力するためのHMI部11が設けられる。なお、外装2の形状は略円柱状に限られるものではなく、直方体状等、種々の形状が採用できる。
【0020】
駆動部3は、移動体1を走行動作させるための装置であり、車軸5と駆動輪6とを有する。駆動輪6は車軸5の左右両端にそれぞれ設けられ、車軸5の内部には左右の駆動輪6を回転動作させるための駆動輪モータ7がそれぞれ設けられる。駆動輪モータ7は、後述のCPU21(図2参照)からの制御信号に基づいて、駆動輪6を回転させる。左右の駆動輪モータ7を、同じ出力で正転および逆転させることで移動体1の前方移動および後方移動を行い、また、駆動輪モータ7を差動させることで、移動体1の移動方向の変更を行う。また、駆動輪モータ7からは、モータの出力電流値等がCPU21(図2参照)に出力され、CPU21によって駆動輪モータ7のトルク制御が行われる。
【0021】
回転軸4は、外装2と駆動部3とを相対的に回転可能に支持するための部材であり、上支軸8と、玉軸受で構成された軸受9と、下支軸10とを有する。上支軸8の一端側は外装2と接続され、他端側は軸受9の上部と接続される。下支軸10の一端側は駆動部3の車軸5と接続され、他端側は軸受9の下部と接続される。また、上支軸8と外装2とは、外装2の重心が回転軸4の下支軸10の軸上となる位置で接続される。外装2の重量は、駆動部3が回転しても回転しない程度に、軸受9の回転抵抗に対して、充分に大きな慣性モーメントを持つ程度とし、一例としては、回転抵抗が0.001N・mの軸受9に対して、重量が10.0kg以上の外装2が用いられる。
【0022】
本実施形態における移動体1は、倒立振り子制御によって、前後のバランスを取りながら走行動作を行う。これによって、駆動輪6が左右2つであっても、駆動部3によって外装2が支持され、外装2を非接地とすることができるので、外装2に従動輪等を設ける必要はない。よって、外装2に従動輪等を設けた場合の、外装2へのモーメントの発生を防ぐことができる。
【0023】
次に、図2を参照して、移動体1の電気的構成について説明する。図2は、移動体1の電気的構成を示すブロック図である。移動体1は、移動体1の各部を制御するための制御部20を有する。制御部20は、CPU21と、ROM22と、RAM23とを有し、これらがバスライン24を介して入出力ポート25にそれぞれ接続されている。また、入出力ポート25には、駆動輪モータ7と、HMI部11と、移動体1の走行速度(単位はkm/h)を検知する速度センサ26と、外装2と駆動部3との相対角(単位はrad)を検知する相対角センサ27とがそれぞれ接続されている。
【0024】
CPU21は、バスライン24により接続された各部を制御する演算装置である。ROM22は、CPU21により実行される制御プログラムや固定値データ等を格納した書き換え不能な不揮発性メモリであり、制御プログラム22aが記憶される。CPU21によって制御プログラム22aが実行されると、図3の操舵処理が実行される。
【0025】
RAM2は、CPU21が制御プログラム22a実行時に各種のワークデータやフラグ等を書き換え可能に記憶するためのメモリであり、相対角センサ27から検知された外装2と駆動部3との相対角が記憶される相対角メモリ23aと、外装2と駆動部3との目標相対角(単位はrad)が記憶される目標相対角メモリ23bとが設けられる。
【0026】
次に、図3を参照して、CPU21で実行される操舵処理について説明する。図3は、操舵処理のフローチャートである。操舵処理は、移動体1の移動方向を変更するための処理である。HMI部11を介してユーザHから移動方向が直接入力された場合や、移動体1がユーザHを追従走行している際に、移動体1とユーザHとの適切な位置を維持するための移動方向が決定された場合に、操舵処理が実行される。
【0027】
操舵処理はまず、入力または決定された移動方向と、速度センサ26とから検知された走行速度とから、外装2と駆動部3との目標相対角を算出し、目標相対角メモリ23bに記憶する(S1)。S1の処理の後、相対角センサ27で相対角を検知し、相対角メモリ23aに記憶する(S2)。
【0028】
S2の処理の後、相対角メモリ23aの値が目標相対角メモリ23bの値以上かどうかを確認する(S3)。相対角メモリ23aの値が、目標相対角メモリ23bの値以上である場合は(S3:Yes)、操舵処理は終了する。一方、相対角メモリ23aの値が、目標相対角メモリ23bの値より小さい場合は(S3:No)、駆動部3が目標相対角メモリ23bの値の方向に向くように、駆動輪モータ7を差動させる(S4)。S4の処理の後、S2の処理以下を繰り返す。
【0029】
以上説明した通り、本実施形態の移動体1によれば、回転軸4によって、外装2と駆動部3とが相対的に回転可能に支持される。また、回転軸4の上支軸8と外装2とは、外装2の重心が回転軸4の下支軸10の軸上となる位置に接続される。外装2の重量は、駆動部3が回転しても回転しない程度に、軸受9の回転抵抗に対して、充分に大きな慣性モーメントを持つ程度である。
【0030】
ここで、移動体1の走行中に移動方向を変更する場合は、その変更された移動方向と、速度センサ26が検知した走行速度とから、外装2と駆動部3との目標相対角が算出され、目標相対角メモリ23bに記憶される。そして、相対角センサ27から検知された相対角と、目標相対角メモリ23bの値とが一致するように、左右の駆動輪モータ7を差動させる。この場合でも、外装2の重心は下支軸10の軸上のままなので、外装2へのモーメントの発生を抑えることができる。従って、駆動部3は回転軸の軸受9を中心に回転するので、移動体1の走行中に移動方向を変更した場合でも、外装2の向きを変えずに駆動部3の移動方向を変更できる。
【0031】
例えば、移動体1が、HMI部11をユーザHと正対して走行している場合に、移動方向を変更しても、HMI部11はユーザHと正対した状態を維持することができる。よってHMI部11からの情報を、適切にユーザHに提供でき、また、HMI部11をユーザHが操作しやすい位置を維持することができる。
【0032】
次に、図4図6を参照して、本発明の第2実施形態について説明する。上述した第1実施形態では、外装2と駆動部3とを回転軸4で接続し、駆動部3の駆動輪モータ7を差動させることで、外装2の向きを変えずに、駆動部3の移動方向の変更を行った。第2実施形態では、移動体50に対して、回転軸4に、駆動部3及び下支軸10の一部の位置を左右方向に水平移動させる、左右重量移動装置51を設けている。第2実施形態において、上述した第1実施形態と同一の部分については、同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0033】
図4(a)は、第2実施形態における移動体50の外装の一部を切断して表した部分断面図であり、図4(b)は、第2実施形態において、左右重量移動装置が動作している場合の移動体50の部分断面図である。移動体50には、回転軸4の下支軸10に対して、駆動部3及び下支軸10の一部の位置を、左右方向に水平移動させるための左右重量移動装置51が設けられる。
【0034】
左右重量移動装置51は、上下に重なり合う2つの板状の部材における、上側の板状の部材である上板51aと、下側の板状の部材である下板51bと、上板51aと下板51bとを左右方向に移動させるための左右重量移動モータ52とで構成される。左右重量移動モータ52を駆動させ、下板51bを左右方向に移動させることで、上板51aと下板51bとを左右方向に変位(以下「左右変位」と称す)させることができる(図(b))。これによって、駆動部3及び下支軸10の一部(即ち、下板51b以下の下支軸10)が左右方向に移動され、外装2の重心も左右方向に移動される。なお、この上板51aと下板51bとの左右方向への移動量は、上板51aと下板51bとが走行中に外装2に衝突しない範囲とする。
【0035】
また、左右重量移動モータ52からは、モータの出力電流や出力値がCPU21に出力され、CPU21による左右重量移動モータ52のトルク制御が行われる。なお、左右重量移動モータ52としては、誘導モータやブラシレスモータ等が例示される。
【0036】
次に、図5を参照して、第2実施形態における移動体50の電気的構成について説明する。図5は、第2実施形態における移動体50の電気的構成を示すブロック図である。本実施形態の移動体50は、入出力ポート25に、左右重量移動モータ52と、左右重量移動装置51における左右変位(単位はm)を検知する左右変位検知センサ53とが接続される。また、RAM23に、左右変位検知センサ53で検知された左右変位が記憶される左右変位メモリ23cと、左右重量移動装置51における左右変位の目標値(単位はm)が記憶される目標左右変位メモリ23dとが設けられる。
【0037】
次に、図6を参照して、第2実施形態における操舵処理を説明する。図6は、第2実施形態における操舵処理のフローチャートである。S1の処理の後、ユーザHによって入力された移動方向、またはユーザHとの適切な位置を維持するために決定された移動方向と、速度センサ26から検知された走行速度とから、左右重量移動装置51における目標左右変位を算出し、目標左右変位メモリ23dに記憶する(S10)。具体的には、走行中の移動体50の移動方向の変更に伴って発生する、移動体50に対する遠心力等によって想定される、外装2の重心の左右方向のズレ、即ち、回転軸4の下支軸10の軸上からの左右方向のズレに対して、そのズレを補正するための左右重量移動装置51における左右変位の方向および大きさが算出される。
【0038】
S10の処理の後、S2〜S4の処理と、後述のS11〜S13の処理とが並列に実行される。S10の処理の後、上述のS2〜S4の処理と並列して、左右変位検知センサ53で、左右重量移動装置51における左右変位を検知し、左右変位メモリ23cに記憶する(S11)。S11の処理の後、左右変位メモリ23cの値が、目標左右変位メモリ23dの値以上かを確認する(S12)。左右変位メモリ23cの値が、目標左右変位メモリ23dの値より小さい場合は(S12:No)、目標左右変位メモリ23dの値の方向に対して、左右重量移動モータ52を動作させる(S13)。S13の処理の後、S11の処理以下を繰り返す。一方、S12の処理において、左右変位メモリ23cの値が、目標左右変位メモリ23dの値以上である場合は(S12:Yes)、S13の処理をスキップする。
【0039】
S2〜S4の処理およびS11〜S13の処理が終わった場合、具体的には、S3の処理において、相対角メモリ23aの値が目標相対角メモリ23bの値以上、かつ、S12の処理において、左右変位メモリ23cの値が、目標左右変位メモリ23dの値以上となった場合は、操舵処理は終了する。なお、S2〜S4の処理とS11〜S13の処理とを、並列に処理する構成としたが、先にS2〜S4の処理を行い、その後にS11〜S13の処理を行う構成としてもよいし、先にS11〜S13の処理を行い、その後にS2〜S4の処理を行う構成としてもよい。
【0040】
以上説明した通り、第2実施形態の移動体50によれば、下支軸10に、駆動部3及び下支軸10の一部の位置を、左右方向に水平移動させる左右重量移動装置51が設けられる。ここで、移動体50の走行中に移動方向を変更する場合は、その変更された移動方向と、速度センサ26が検知した走行速度とから、左右重量移動装置51における目標左右変位が算出され、目標左右変位メモリ23dに記憶される。そして、左右変位検知センサ53で検知された左右重量移動装置51の左右変位と、目標左右変位メモリ23dの値とが一致するように、左右重量移動モータ52を動作させ、外装2の重心が左右方向に水平移動される。即ち、移動体50の移動方向の変更により生じる遠心力等により、回転軸4の下支軸10の軸上からズレた外装2の重心の位置を、回転軸4の下支軸10の軸上に補正する。よって、移動体50の走行が安定し、外装2に対して、従動輪等を設けなくても外装2を駆動部3で支持することができるので、外装2を非接地のまま走行させることができる。
【0041】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変更が可能であることは容易に推察できるものである。
【0042】
上記実施形態において、軸受9は、玉軸受で構成されるものとした。しかし、必ずしもこれに限られるものではなく、軸受9を油軸受や空気軸受、磁気軸受等、種々の軸受によって構成されるものとしてもよい。
【0043】
上記実施形態において、回転軸4は、外装2に接続された上支軸8と、駆動部3に接続された下支軸10とが、軸受9に接続される構成とした。しかし、必ずしもこれに限られるものではなく、さらに、上支軸8と下支軸10とを相対的に回転させるモータ(以下「軸用モータ」と称す)を設ける構成としてもよい。この軸用モータを回転させることで、上支軸8と下支軸10とが回転し、外装2を任意の方向に向けることができる。
【0044】
また、移動体1,50の走行中かつ、図3図6の操舵処理が実行されていない場合に、相対角センサ27によって外装2と駆動部3との相対角の変化を検知した場合は、その相対角の変化と逆方向へ軸用モータに回転させることで、外装2の向きを一定に保つことができる。なお、軸用モータとしては、軸受9による回転を妨げないように、モータを駆動させない場合にモータの回転抵抗が小さい、誘導モータやブラシレスモータを用いるのが好ましい。
【0045】
上記実施形態において、移動体1,50は、倒立振り子制御によって進行方向に対して前後のバランスを取りながら走行動作を行うものとした。しかし、必ずしもこれに限られるものではなく、駆動部3に従動輪71を設け、倒立振り子制御を省略する構成としてもよい。図7を用いて、変形例における移動体70を説明する。
【0046】
図7は、移動体70の外装の一部を切断して表した部分断面図である。なお、上述した第1,第2実施形態と同一の部分については、同一の符号を付し、その説明は省略する。変形例における移動体70は、回動自在のキャスターで構成される従動輪71を有し、従動輪71は、車軸5の長手方向における中央部に垂直に接続される。従動輪71は駆動輪6と共に、移動体70の走行する路面に常に接するように設けられる。よって、移動体70は、左右の駆動輪6と従動輪71との3点で支持されるので、倒立振り子制御を行わなくても、その姿勢は安定する。また、駆動部3には従動輪71が設けられるので、外装2に従動輪を設けなくても、外装2を駆動部3で支持することができ、外装2を非接地に構成できる。よって、外装2に従動輪を設けた場合の、外装2へのモーメントの発生を防ぐことができる。
【0047】
上記第2実施形態において、移動方向と、左右重量移動装置51の左右変位とによって、左右重量移動モータ52を動作させる構成とした。しかし、必ずしもこれに限られるものではなく、左右変位検知センサ53の代わりに、移動体50における左右方向の重量を検知するセンサを設け、移動方向に対して、左右方向の重量の差または比等の目標値を算出し、その目標値と、左右方向の重量を検知するセンサによって検知される、左右方向の重量の差または比等との差がなくなるように、左右重量移動モータ52を動作させる構成としてもよい。
【0048】
上記第2実施形態において、左右重量移動装置51によって、駆動部3及び下支軸10の一部の位置を左右方向に水平移動するように構成した。しかし、必ずしもこれに限られるものではなく、左右重量移動装置51に傾斜機構を設け、傾斜機構によって駆動部3及び下支軸10の一部の位置が左右方向に傾斜するように構成してもよい。この場合、左右方向の最大傾斜角は、外装2が移動体50の走行する路面に触れない程度とする。移動体50の移動方向に応じて、左右重量移動装置51により、駆動部3及び下支軸10の一部を左右方向に傾斜させることで、移動体50の外装2における重心が、左右方向に移動される。
【0049】
よって、移動体50の移動方向の変更により生じる遠心力等により、回転軸4の下支軸10の軸上からズレた外装2の重心の位置を、回転軸4の下支軸10の軸上に補正することができる。また、外装2に対して、従動輪等を設けなくても外装2を駆動部3で支持することができるので、外装2を非接地のまま走行させることができる。なお、左右重量移動装置51を、この駆動部3及び下支軸10の一部の位置が左右方向に傾斜する構成と、第2実施形態における駆動部3及び下支軸10の一部の位置が左右方向に水平移動する構成とを、共に設ける構成としてもよい。
【0050】
上記第2実施形態において、駆動部3及び下支軸10の一部の位置を、左右方向に水平移動させる左右重量移動装置51を設ける構成とした。しかし、必ずしもこれに限られるものではなく、左右重量移動装置51の代わりに、駆動部3及び下支軸10の一部の位置を、前後左右方向に変位可能なスライド機構を有する重量移動装置を設ける構成としてもよい。スライド機構によって、外装2の重心が下支軸10の軸上に位置するように制御される。例えば、外装2に荷物等が載せられ、外装2の重心が移動した場合には、スライド機構によって、外装2の重心が下支軸10の軸上に戻される。
【0051】
よって、かかる状態で移動体50が走行し、その走行中に駆動部3が移動方向を変更しても、外装2へのモーメントの発生を抑えることができる。従って、移動体50の走行中に、外装2の向きを変えずに、駆動部3の移動方向を変更できる。
【符号の説明】
【0052】
1,50,70 移動体
2 外装(上車両の一部)
3 駆動部(下車両の一部)
6 駆動輪
8 上支軸(上側回転軸、上車両の一部)
10 下支軸(下側回転軸、下車両の一部)
51 左右重量移動装置(重量移動手段、スライド機構)
71 従動輪
S2〜S4,S11〜S12 制御手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7