特許第6862817号(P6862817)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6862817銅およびモリブデンを含む多層薄膜をエッチングする液体組成物、およびこれを用いたエッチング方法、並びに表示デバイスの製造方法
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  • 特許6862817-銅およびモリブデンを含む多層薄膜をエッチングする液体組成物、およびこれを用いたエッチング方法、並びに表示デバイスの製造方法 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6862817
(24)【登録日】2021年4月5日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】銅およびモリブデンを含む多層薄膜をエッチングする液体組成物、およびこれを用いたエッチング方法、並びに表示デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23F 1/18 20060101AFI20210412BHJP
   C23F 1/26 20060101ALI20210412BHJP
   H01L 21/308 20060101ALI20210412BHJP
   H01L 21/306 20060101ALI20210412BHJP
【FI】
   C23F1/18
   C23F1/26
   H01L21/308 F
   H01L21/306 F
【請求項の数】17
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-246122(P2016-246122)
(22)【出願日】2016年12月20日
(65)【公開番号】特開2017-115245(P2017-115245A)
(43)【公開日】2017年6月29日
【審査請求日】2019年9月20日
(31)【優先権主張番号】特願2015-248179(P2015-248179)
(32)【優先日】2015年12月21日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100110663
【弁理士】
【氏名又は名称】杉山 共永
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】松原 将英
(72)【発明者】
【氏名】夕部 邦夫
(72)【発明者】
【氏名】茂田 麻里
(72)【発明者】
【氏名】浅井 智子
(72)【発明者】
【氏名】原田 奈津美
【審査官】 祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−209568(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/015322(WO,A1)
【文献】 特開平05−125561(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第104513981(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23F 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅を主成分とする物質からなる銅層およびモリブデンを主成分とする物質からなるモリブデン層を含む多層薄膜をエッチングする液体組成物であって、(A)過酸化水素を3〜9質量%、(B)酸を6〜20質量%、(C)アルカリ化合物(ただし、カフェインを除く)を1〜10質量%、及び(D)カフェインを0.1〜4質量%含み、かつpH値が2.5〜5.0であり、
前記液体組成物に銅10000ppmとモリブデン500ppmとを溶解し、35℃で60分保存したときの、下記式で定義される前記液体組成物に含まれる過酸化水素の濃度低下値が1質量%以下であることを特徴とする液体組成物。
過酸化水素の濃度低下値 = 保存前の過酸化水素濃度−保存後の過酸化水素濃度
【請求項2】
前記(B)酸が、フッ素を含有する酸を含まない、請求項1に記載の液体組成物。
【請求項3】
前記(B)酸が、有機酸のみを含有する、請求項1または2に記載の液体組成物。
【請求項4】
更に、0.1〜20000ppmの量の銅、及び0.1〜1000ppmの量のモリブデンのいずれか又は両方を含む、請求項1から3のいずれかに記載の液体組成物。
【請求項5】
前記液体組成物に銅10000ppmとモリブデン500ppmとを溶解し、35℃で60分保存したときの、前記式で定義される前記液体組成物に含まれる過酸化水素の濃度低下値が0.3質量%以下である、請求項1から4のいずれかに記載の液体組成物。
【請求項6】
前記(B)酸が、コハク酸、グリコール酸、乳酸、マロン酸およびリンゴ酸からなる群より選ばれる1種以上の有機酸を含む、請求項1から5のいずれかに記載の液体組成物。
【請求項7】
前記(C)アルカリ化合物が、直鎖状または分枝状の炭素数1〜6のアルキル基(ただし、鎖状のヘキシル基を除く)を有するアルキルアミン、アルカノールアミン、ジアミン、環状アミン類およびアルキルアンモニウムヒドロキシドからなる群より選択される1種以上を含む、請求項1から6のいずれかに記載の液体組成物。
【請求項8】
前記(C)アルカリ化合物が、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、N,N−ジエチル−1,3−プロパンジアミン、および1−アミノ−2−プロパノールからなる群より選ばれる1種以上を含む、請求項1から7のいずれかに記載の液体組成物。
【請求項9】
銅を主成分とする物質からなる銅層およびモリブデンを主成分とする物質からなるモリブデン層を含む多層薄膜に、
(A)過酸化水素を3〜9質量%、(B)酸を6〜20質量%、(C)アルカリ化合物(ただし、カフェインを除く)を1〜10質量%、及び(D)カフェインを0.1〜4質量%含有し、かつ、pH値が2.5〜5.0である液体組成物であって、
前記液体組成物に銅10000ppmとモリブデン500ppmとを溶解し、35℃で60分保存したときの、下記式で定義される前記液体組成物に含まれる過酸化水素の濃度低下値が1質量%以下である前記液体組成物を接触させる工程を含む、前記多層薄膜のエッチング方法。
過酸化水素の濃度低下値 = 保存前の過酸化水素濃度−保存後の過酸化水素濃度
【請求項10】
前記(B)酸が、フッ素を含有する酸を含まない、請求項9に記載のエッチング方法。
【請求項11】
前記液体組成物が、更に、0.1〜20000ppmの量の銅、及び0.1〜1000ppmの量のモリブデンのいずれか又は両方を含む、請求項9または10に記載のエッチング方法。
【請求項12】
(A)過酸化水素濃度を3〜9質量%、(B)酸を6〜20質量%、(C)アルカリ化合物(ただし、カフェインを除く)を1〜10質量%、及び(D)カフェインを0.1〜4質量%含有し、かつ、pH値が2.5〜5.0である液体組成物であって、
前記液体組成物に銅10000ppmとモリブデン500ppmとを溶解し、35℃で60分保存したときの、下記式で定義される前記液体組成物に含まれる過酸化水素の濃度低下値が1質量%以下である前記液体組成物と、基板上に積層された銅を主成分とする物質からなる銅層およびモリブデンを主成分とする物質からなるモリブデン層を含む多層薄膜とを20℃〜60℃で10〜300秒の間、接触処理する工程を含む、表示デバイスの製造方法。
過酸化水素の濃度低下値 = 保存前の過酸化水素濃度−保存後の過酸化水素濃度
【請求項13】
前記(B)酸が、フッ素を含有する酸を含まない、請求項12に記載の表示デバイスの製造方法。
【請求項14】
前記液体組成物が、更に、0.1〜20000ppmの量の銅、及び0.1〜1000ppmの量のモリブデンのいずれか又は両方を含む、請求項12または13に記載の表示デバイスの製造方法。
【請求項15】
前記(B)酸が、コハク酸、グリコール酸、乳酸、マロン酸およびリンゴ酸からなる群より選ばれる1種以上の有機酸を含む、請求項12から14のいずれかに記載の表示デバイスの製造方法。
【請求項16】
前記(C)アルカリ化合物が、直鎖状または分枝状の炭素数1〜6のアルカリ基(ただし、鎖状のヘキシル基を除く)を有するアルキルアミン、アルカノールアミン、ジアミン、環状アミン類およびアルキルアンモニウムヒドロキシドからなる群より選択される1種以上を含む、請求項12から15のいずれかに記載の表示デバイスの製造方法。
【請求項17】
前記(C)アルカリ化合物が、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、N,N−ジエチル−1,3−プロパンジアミン、および1−アミノ−2−プロパノールからなる群より選ばれる1種以上を含む、請求項12から16のいずれかに記載の表示デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅を主成分とする物質からなる銅層およびモリブデンを主成分とする物質からなるモリブデン層を含む多層薄膜のエッチングに用いられ、高い銅濃度においても安定したエッチング性能を有する液体組成物およびこれを用いたエッチング方法、並びに表示デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、フラットパネルディスプレイなどの表示デバイスの配線材料として、アルミニウムまたはアルミニウム合金が一般に使用されてきた。しかし、ディスプレイの大型化および高解像度化に伴い、このようなアルミニウム系の配線材料では、配線抵抗などの特性に起因した信号遅延の問題が発生し、均一な画面表示が困難な傾向にある。
【0003】
そこで、より抵抗が低い材料として銅や銅合金などの銅を主成分とする物質からなる配線を採用する例が増加しつつある。しかし、銅を主成分とする物質は抵抗が低いという利点を有する一方、ゲート配線で用いる場合はガラス、二酸化ケイ素、窒化ケイ素などの下地層と銅を主成分とする物質との密着性が十分ではない、またソース・ドレイン配線で用いる場合はその下地層となるシリコン半導体膜への拡散が生じるなどの問題がある。そのため、これを防止するために、ガラスなどの下地層との密着性が高く、シリコン半導体膜への拡散が生じにくいバリア性をも兼ね備えたバリア膜の積層の検討が行われており、当該バリア膜としてモリブデンやモリブデン合金などのモリブデンを主成分とする物質などが多用されている。
【0004】
ところで、銅を主成分とする物質を含む積層膜は、スパッタ法などの成膜プロセスによりガラス等の基板上に積層し、次いでレジストなどをマスクにしてエッチングするエッチング工程を経て配線パターンとなる。図1は、銅を主成分とする物質からなる配線層2と、モリブデンを主成分とする物質からなるバリア層3を積層させた多層薄膜を、事前にパターン形成されたレジスト層1をマスクにしてエッチングした後の、配線断面形状を模式的に例示したものである。そして、このエッチング工程の方式には、エッチング液を用いる湿式(ウェット)とプラズマなどのエッチングガスを用いる乾式(ドライ)とがある。ここで、湿式(ウェット)において用いられるエッチング液は、(i)高い加工精度、(ii)エッチング残渣が少ないこと、(iii)エッチング対象となる銅を含んだ配線材料の金属の溶解に対して、エッチング性能が安定していること(バスライフの延長効果)などに加えて、ディスプレイの大型化および高解像度化に対応するために、(iv)エッチング後の配線断面形状を所定の範囲内とする、エッチング後の良好な配線断面形状を得ることが求められる。より具体的には、図1に示される配線層2の端部のエッチング面と下地層4の下地材料とのなす角度(テーパー角5)が20〜60°の順テーパー形状、レジスト層1の端部から配線層2の下に設けられるバリア層3と接する配線端部までの水平距離(CDロス6)が2.0μm以下、好ましくは1.5μm以下であることが求められる。
【0005】
特許文献1では、(A)過酸化水素10〜30質量%、(B)エッチング抑制剤0.1〜5質量%、(C)キレート剤0.1〜5質量%、(C)添加剤0.1〜5質量%、(D)フッ素化合物0.01〜2質量%、(E)アンダーカット抑制剤0.01〜2質量%、及び残部が水からなる銅およびモリブデン含有膜のエッチング液組成物が開示されており、アンダーカット抑制剤としてピリミジンとイミダゾールの縮合構造内にアミノ基、ヒドロキシル基、カルボニル基、メチル基の官能基を1個以上含む化合物を例示している。しかしながら、特許文献1に開示されたエッチング液組成物では、過酸化水素の分解抑制効果については言及していない。
また、特許文献1に開示されたエッチング液組成物にはフッ素化合物が添加されている。フッ素化合物は下地層として多用されるガラス等を腐食させ、その結果、光学特性が変化するなど弊害が生じることから、ガラス等へのダメージが小さい、さらにはフッ素化合物を含まないエッチング液組成物が望まれる。
【0006】
また、特許文献1に開示されたエッチング液組成物では、10〜30質量%と比較的多量の過酸化水素が含まれている。エッチング操作を繰り返すことにより、該エッチング液組成物中に溶解した金属イオンが増えるにつれ、過酸化水素の安定性が低下することが知られている。該エッチング液組成物中の過酸化水素の濃度低下が激しい場合、所望のエッチング性能が得られなくなる他、過酸化水素の補充量が多くなり、経済的に不利となる。また、分解熱の蓄積により分解速度が急激に速くなることにより、エッチング液組成物の沸騰および大量の酸素ガスが発生し、エッチング装置が変形や破裂する危険がある。
さらに、特許文献1の実施例3に記載のエッチング液組成物の調合を試みた結果、グアニンの溶け残りが発生した(本願明細書の比較例7参照)。また、グアニンを添加しない特許文献1の比較例1に記載のエッチング液組成物に、銅粉末を5000ppm溶解する評価を行った結果、銅粉末の溶け残りが発生した(本願明細書の比較例8参照)。
【0007】
特許文献2では、(A)過酸化水素を0.1〜10質量%、(B)フッ化水素酸を1.0〜12.0質量%、及び(C)プリンアルカロイド化合物を0.1〜3.0質量%含むステンレス鋼およびチタン用酸洗処理液が開示されている。
特許文献3では、無機酸および過酸化水素を主成分とする水溶液に過酸化水素の安定剤としてプリンアルカロイドを添加する金属の化学溶解処理液が開示されている。しかしながら、特許文献2および3には、銅を主成分とする物質からなる銅層およびモリブデンを主成分とする物質からなるモリブデン層を含む多層薄膜のエッチングには言及していない。
また、モリブデンの溶解速度を上げるため、特許文献2に記載の液体組成物のように、フッ素化合物を添加した場合には、フッ素化合物は上記のように下地層として多用されるガラスおよび二酸化ケイ素または窒化ケイ素を腐食させ、その結果、光学特性が変化するなど弊害が生じることから、ガラス等へのダメージが小さな液体組成物が強く望まれている。
特許文献3でも、実施例においてフッ化水素酸を使用しているため、フッ化水素酸は下地層として多用されるガラスおよび二酸化ケイ素または窒化ケイ素を腐食させ、その結果、光学特性が変化するなど弊害が生じることから、ガラス等へのダメージが小さな液体組成物が強く望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】大韓民国特許公開公報2015−39526号
【特許文献2】特開平11−256374
【特許文献3】特開平5−125561
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、ガラス等の下地材料を腐食することなく、銅を主成分とする物質からなる銅層およびモリブデンを主成分とする物質からなるモリブデン層を含む多層薄膜のエッチングに用いられ、高い銅濃度においても安定したエッチング性能を有する液体組成物およびこれを用いたエッチング方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決するために検討を行った結果、液体組成物において、特定量の(A)過酸化水素、(B)酸、(C)アルカリ化合物(ただし、カフェインを除く)、及び(D)カフェインを含み、pH2.5〜5.0である液体組成物によって、上記課題を解決できることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。すなわち、本発明は下記のとおりである。
【0011】
<1> 銅を主成分とする物質からなる銅層およびモリブデンを主成分とする物質からなるモリブデン層を含む多層薄膜をエッチングする液体組成物であって、(A)過酸化水素を3〜9質量%、(B)酸を6〜20質量%、(C)アルカリ化合物(ただし、カフェインを除く)を1〜10質量%、及び(D)カフェインを0.1〜4質量%含み、かつpH値が2.5〜5.0であることを特徴とする液体組成物である。
<2> 前記(B)酸が、フッ素を含有する酸を含まない、上記<1>に記載の液体組成物である。
<3> 前記(B)酸が、有機酸のみを含有する、上記<1>または<2>に記載の液体組成物である。
<4> 更に、0.1〜20000ppmの量の銅、及び0.1〜1000ppmの量のモリブデンのいずれか又は両方を含む、上記<1>から<3>のいずれかに記載の液体組成物である。
<5> 35℃で60分保存した後の前記液体組成物に含まれる過酸化水素の濃度が、保存前と比較して1質量%以下の低下値を示す、上記<1>から<4>のいずれかに記載の液体組成物である。
<6> 前記(B)酸が、コハク酸、グリコール酸、乳酸、マロン酸およびリンゴ酸からなる群より選ばれる1種以上の有機酸を含む、上記<1>から<5>のいずれかに記載の液体組成物である。
<7> 前記(C)アルカリ化合物が、直鎖状または分枝状の炭素数1〜6のアルキル基(ただし、鎖状のヘキシル基を除く)を有するアルキルアミン、アルカノールアミン、ジアミン、環状アミン類およびアルキルアンモニウムヒドロキシドからなる群より選択される1種以上を含む、上記<1>から<6>のいずれかに記載の液体組成物である。
<8> 前記(C)アルカリ化合物が、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、N,N−ジエチル−1,3−プロパンジアミン、および1−アミノ−2−プロパノールからなる群より選ばれる1種以上を含む、上記<1>から<7>のいずれかに記載の液体組成物である。
<9> 銅を主成分とする物質からなる銅層およびモリブデンを主成分とする物質からなるモリブデン層を含む多層薄膜に、(A)過酸化水素を3〜9質量%、(B)酸を6〜20質量%、(C)アルカリ化合物(ただし、カフェインを除く)を1〜10質量%、及び(D)カフェインを0.1〜4質量%含有し、かつ、pH値が2.5〜5.0である液体組成物を接触させる工程を含む、前記多層薄膜のエッチング方法である。
<10> 前記(B)酸が、フッ素を含有する酸を含まない、上記<9>に記載のエッチング方法である。
<11> 前記液体組成物が、更に、0.1〜20000ppmの量の銅、及び0.1〜1000ppmの量のモリブデンのいずれか又は両方を含む、上記<9>または<10>に記載のエッチング方法である。
<12> (A)過酸化水素濃度を3〜9質量%、(B)酸を6〜20質量%、(C)アルカリ化合物(ただし、カフェインを除く)を1〜10質量%、及び(D)カフェインを0.1〜4質量%含有し、かつ、pH値が2.5〜5.0である液体組成物と、基板上に積層された銅を主成分とする物質からなる銅層およびモリブデンを主成分とする物質からなるモリブデン層を含む多層薄膜とを20℃〜60℃で10〜300秒の間、接触処理する工程を含む、表示デバイスの製造方法である。
<13> 前記(B)酸が、フッ素を含有する酸を含まない、上記<12>に記載の表示デバイスの製造方法である。
<14> 前記液体組成物が、更に、0.1〜20000ppmの量の銅、及び0.1〜1000ppmの量のモリブデンのいずれか又は両方を含む、上記<12>または<13>に記載の表示デバイスの製造方法である。
<15> 前記(B)酸が、コハク酸、グリコール酸、乳酸、マロン酸およびリンゴ酸からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の有機酸を含む、上記<12>から<14>のいずれかに記載の表示デバイスの製造方法である。
<16> 前記(C)アルカリ化合物が、直鎖状または分枝状の炭素数1〜6のアルカリ基(ただし、鎖状のヘキシル基を除く)を有するアルキルアミン、アルカノールアミン、ジアミン、環状アミン類およびアルキルアンモニウムヒドロキシドからなる群より選択される1種以上を含む、上記<12>から<15>のいずれかに記載の表示デバイスの製造方法である。
<17> 前記(C)アルカリ化合物が、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、N,N−ジエチル−1,3−プロパンジアミン、および1−アミノ−2−プロパノールからなる群より選ばれる1種以上を含む、上記<12>から<16>のいずれかに記載の表示デバイスの製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の液体組成物によれば、銅を主成分とする物質からなる銅層およびモリブデンを主成分とする物質からなるモリブデン層を含む多層薄膜を、一括でかつ良好なエッチング速度でエッチングすることができる。本発明の好ましい様態によれば、銅を主成分とする物質からなる銅層およびモリブデンを主成分とする物質からなるモリブデン層を含む多層薄膜のエッチングが完了して下地材料が露出するまでのジャストエッチング時間として10〜300秒程度、あるいはエッチング速度として0.1〜3μm/分程度でエッチングすることができる。
また、本発明の液体組成物によれば、銅を主成分とする物質からなる銅層およびモリブデンを主成分とする物質からなるモリブデン層を含む多層薄膜からなる配線材料を、良好な配線断面形状で加工することができる。本発明の好ましい様態によれば、銅を主成分とする物質からなる銅層およびモリブデンを主成分とする物質からなるモリブデン層を含む多層薄膜のエッチング後の配線断面形状は、銅配線端部のエッチング面と下地層の下地材料とのなす角度(テーパー角)が20〜60°の順テーパー形状、かつレジスト端部から配線の下に設けられるバリア層と接する配線端部までの水平距離(CDロス)が2.0μm以下でエッチングすることができる。
【0013】
また、本発明の液体組成物によれば、銅を主成分とする物質からなる銅層およびモリブデンを主成分とする物質からなるモリブデン層を含む多層薄膜からなる配線材料をエッチング後の下地材料の上に残る残渣を少なくすることができる。また、本発明の液体組成物によれば、銅を主成分とする物質からなる銅層およびモリブデンを主成分とする物質からなるモリブデン層を含む多層薄膜からなる配線材料をエッチング後の析出物の発生を抑制することができる。
また、本発明の好ましい態様の液体組成物はフッ素化合物を含まないため、ガラス、二酸化ケイ素、窒化ケイ素等の下地材料の腐食性が極めて低い。そのため、下地材料を腐食することなく、銅を主成分とする物質からなる銅層およびモリブデンを主成分とする物質からなるモリブデン層を含む多層薄膜をエッチングすることができる。エッチング工程に使用する装置材料に対する腐食性も低いため、装置材料の選定においても経済的に有利となる。
また、本発明の液体組成物は、過酸化水素の安定性が高いため、取扱が容易である。本発明の液体組成物は、銅を主成分とする物質からなる銅層およびモリブデンを主成分とする物質からなるモリブデン層を含む多層薄膜のエッチング工程において安全に使用することができる。
【0014】
また、本発明の液体組成物は、銅やモリブデンの溶解に対するエッチング性能の変動が少ないため、銅を主成分とする物質からなる銅層およびモリブデンを主成分とする物質からなるモリブデン層を含む多層薄膜のエッチング工程において、安定的に効率よく表示デバイスを生産することができ、結果的に低コストを図ることができる。エッチング工程において分解する過酸化水素の量が少ないため、過酸化水素の補充量を少なくすることができ経済的にも有利である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、ガラスからなる下地層4上に積層された銅からなる配線層2およびモリブデンからなるバリア層3を積層させた多層薄膜を、本発明の液体組成物を用いてエッチングした後の配線断面の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。
銅を主成分とする物質からなる銅層およびモリブデンを主成分とする物質からなるモリブデン層を含む多層薄膜をエッチングするための液体組成物
本発明の液体組成物は、銅を主成分とする物質からなる銅層およびモリブデンを主成分とする物質からなるモリブデン層を含む多層薄膜のエッチングに用いられ、(A)過酸化水素を3〜9質量%、(B)酸を6〜20質量%、(C)アルカリ化合物(ただし、カフェインを除く)を1〜10質量%、及び(D)カフェインを0.1〜4質量%含み、かつ、pH値が2.5〜5.0である。また、本発明の液体組成物は、0.1〜20000ppmの量の銅、及び0.1〜1000ppmの量のモリブデンのいずれかまたは両方を含むことが好ましい。更に、35℃で60分保存した後の液体組成物に含まれる過酸化水素の濃度が、保存前と比較して1質量%以下の低下値を示すことが好ましい。
【0017】
(A)過酸化水素
本発明の液体組成物に用いられる過酸化水素は、酸化剤として銅やモリブデンを酸化する機能を有する。該液体組成物中の過酸化水素の含有量は、3質量%以上が好ましく、4質量%以上がより好ましく、4.5質量%以上が特に好ましい。また、9質量%以下が好ましく、8質量%以下がより好ましく、7質量%以下が特に好ましい。更に、3〜9質量%が好ましく、4〜8質量%がより好ましく、特に4.5〜7質量%が好ましい。
過酸化水素の含有量が上記の範囲内であれば、過酸化水素の管理が容易となり、かつ適度なエッチング速度が確保できるので、エッチング量の制御が容易となるので好ましい。過酸化水素の含有量が上記範囲よりも多い場合には、過酸化水素の安定性が低下し、安全に取り扱うことが困難となる。一方、過酸化水素の含有量が上記範囲よりも少ない場合には、銅やモリブデンを十分に酸化できず、エッチング速度が遅くなるため好ましくない。
【0018】
(B)酸
本発明の液体組成物に用いられる酸は、銅およびモリブデンの溶解に寄与するものであり、無機酸、有機酸のいずれも使用することができるが、有機酸を主成分として使用することが好ましい。即ち、有機酸と無機酸との質量比は、有機酸:無機酸=75:25〜100:0が好ましく、80:20〜100:0がより好ましい。
該液体組成物中の酸の含有量は6質量%以上が好ましく、また20質量%以下が好ましく、6〜20質量%が好ましく、8〜17質量%がより好ましい。酸の含有量が上記範囲内であれば、銅およびモリブデンの溶解を十分に行うことができる。酸の含有量が上記範囲よりも少ない場合には、銅およびモリブデンが十分に溶解できないため好ましくない。一方、酸の含有量が上記範囲よりも多い場合には、薬液の原料費が高くなり経済的に不利である。
【0019】
本発明の液体組成物に用いられる酸としては、有機酸がより好ましく挙げられる。有機酸はエッチング後に含有される銅イオンのマスキング剤としても機能し、銅イオンの溶解度を向上し、また過酸化水素の分解を抑制することが出来る。有機酸としては、炭素数1〜18の脂肪族カルボン酸、炭素数6〜10の芳香族カルボン酸のほか、炭素数1〜10のアミノ酸などが特に好ましく挙げられる。
炭素数1〜18の脂肪族カルボン酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、乳酸、グリコール酸、ジグリコール酸、ピルビン酸、マロン酸、酪酸、ヒドロキシ酪酸、酒石酸、コハク酸、リンゴ酸、マレイン酸、フマル酸、吉草酸、グルタル酸、イタコン酸、アジピン酸、カプロン酸、アジピン酸、クエン酸、プロパントリカルボン酸、trans−アコニット酸、エナント酸、カプリル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸などが好ましく挙げられる。
炭素数6〜10の芳香族カルボン酸としては、安息香酸、サリチル酸、マンデル酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸などが好ましく挙げられる。
また、炭素数1〜10のアミノ酸としては、カルバミン酸、アラニン、グリシン、アスパラギン、アスパラギン酸、サルコシン、セリン、グルタミン、グルタミン酸、4−アミノ酪酸、イミノジ酪酸、アルギニン、ロイシン、イソロイシン、ニトリロ三酢酸などが好ましく挙げられる。
【0020】
有機酸としては、上記した有機酸のなかでも、酢酸、コハク酸、アラニン、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、グリコール酸、酒石酸、マロン酸、グリシン、グルタル酸、マレイン酸、およびtrans−アコニット酸が好ましく、特に、コハク酸、リンゴ酸、乳酸、グリコール酸、およびマロン酸が好ましく、これらを単独で又は複数を組み合わせて用いることができる。
一方、本発明の液体組成物に用いられる無機酸としては、硝酸及び硫酸が好ましく、硝酸がより好ましい。
【0021】
本発明の好ましい態様では、(B)酸が、フッ素を含有する酸を含まないため、ガラス、二酸化ケイ素、窒化ケイ素等の下地材料の腐食性が極めて低い。そのため、下地材料を腐食することなく、銅を主成分とする物質からなる銅層およびモリブデンを主成分とする物質からなるモリブデン層を含む多層薄膜をエッチングすることができる。エッチング工程に使用する装置材料に対する腐食性も低いため、装置材料の選定においても経済的に有利となる。
【0022】
(C)アルカリ化合物(ただし、カフェインを除く)
本発明の液体組成物に用いられるアルカリ化合物(ただし、カフェインを除く)は、pH値の調節およびエッチング後の良好な配線断面形状に寄与するものである。アルカリ化合物としては、アミン化合物およびアルキルアンモニウムヒドロキシドが好ましく、直鎖状または分枝状の炭素数1〜6のアルキル基(ただし、鎖状のヘキシル基を除く)を有するアルキルアミン、アルカノールアミン、ジアミン、環状アミン類およびアルキルアンモニウムヒドロキシドからなる群より選択される1種以上を含むことが好ましい。
該液体組成物中のアルカリ化合物(ただし、カフェインを除く)の含有量は、1質量%以上が好ましく、2質量%以上がより好ましく、3質量%以上が特に好ましい。また、10質量%以下が好ましく、9質量%以下がより好ましく、8質量%以下が特に好ましい。さらに、1〜10質量%が好ましく、2〜9質量%がより好ましく、特に3〜8質量%が好ましい。アルカリ化合物(ただし、カフェインを除く)の含有量が上記範囲内であれば、エッチング後の良好な配線断面形状を得ることができる。
【0023】
アミン化合物またはアルキルアンモニウムヒドロキシドとしては、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、1,2−プロパンジアミン、1,3−プロパンジアミン、N,N−ジメチル−1,3−プロパンジアミン、N,N−ジエチル−1,3−プロパンジアミン、1,3−ジアミノブタン、2,3−ジアミノブタン、ペンタメチレンジアミン、2,4−ジアミノペンタン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、N−メチルエチレンジアミン、N,N−ジメチルエチレンジアミン、トリメチルエチレンジアミン、N−エチルエチレンジアミン、N,N−ジエチルエチレンジアミン、トリエチルエチレンジアミン、1,2,3−トリアミノプロパン、ヒドラジン、トリス(2−アミノエチル)アミン、テトラ(アミノメチル)メタン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレルペンタミン、ヘプタエチレンオクタミン、ノナエチレンデカミン、ジアザビシクロウンデセンなどのポリアミン;
エタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン、N−アミノエチルエタノールアミン、N−プロピルエタノールアミン、N−ブチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、1−アミノ−2−プロパノール、N−メチルイソプロパノールアミン、N−エチルイソプロパノールアミン、N−プロピルイソプロパノールアミン、2−アミノプロパン−1−オール、N−メチル−2−アミノ−プロパン−1−オール、N−エチル−2−アミノ−プロパン−1−オール、1−アミノプロパン−3−オール、N−メチル−1−アミノプロパン−3−オール、N−エチル−1−アミノプロパン−3−オール、1−アミノブタン−2−オール、N−メチル−1−アミノブタン−2−オール、N−エチル−1−アミノブタン−2オール、2−アミノブタン−1−オール、N−メチル−2−アミノブタン−1−オール、N−エチル−2−アミノブタン−1−オール、3−アミノブタン−1−オール、N−メチル−3−アミノブタン−1−オール、N−エチル−3−アミノブタン−1−オール、1−アミノブタン−4−オール、N−メチル1−アミノブタン−4−オール、N−エチル−1−アミノブタン−4−オール、1−アミノ−2−メチルプロパン−2−オール、2−アミノ−2−メチルプロパン−1−オール、1−アミノペンタン−4−オール、2−アミノ−4−メチルペンタン−1−オール、2−アミノヘキサン−1−オール、3−アミノヘプタン−4−オール、1−アミノオクタン−2−オール、5−アミノオクタン−4−オール、1−アミノプロパン−2,3−ジオール、2−アミノプロパン−1,3−ジオール、トリス(オキシメチル)アミノメタン、1,2−ジアミノプロパン−3−オール、1,3−ジアミノプロパン−2−オール、2−(2−アミノエトキシ)エタノール、2−(2−アミノエチルアミノ)エタノール、ジグリコールアミンなどのアルカノールアミン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキシ、テトラブチルアンモニウムヒドロキシドが好ましく挙げられ、これらを単独で又は複数を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、1−アミノ−2−プロパノール、N,N−ジエチル−1,3−プロパンジアミン、およびテトラメチルアンモニウムヒドロキシドが特に好ましい。
【0024】
(D)カフェイン
本発明の液体組成物に用いられるカフェインは、過酸化水素の安定剤として寄与する。カフェインと同様にピリミジンとイミダゾールの縮合構造内にアミノ基、ヒドロキシル基、カルボニル基、メチル基の官能基を1個以上含む化合物として、テオフィリンやテオブロミン、グアニン、アデニン等が挙げられるが、本発明の液体組成物における過酸化水素の安定化効果は殆ど無い。
【0025】
本発明の液体組成物中のカフェインの含有量は、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、0.6質量%以上が特に好ましい。また、4質量%以下が好ましく、3.5質量%以下がより好ましく、3質量%以下が特に好ましい。さらに、0.1〜4質量%が好ましく、0.5〜3.5質量%がより好ましく、特に0.6〜3質量%が好ましい。カフェインの含有量が0.1質量%より少ないと、過酸化水素の安定化効果が小さく好ましくない。一方、カフェインの含有量が4質量%より多いと、液体組成物中にカフェインを完全に溶解することができない。
【0026】
pH値
本発明の液体組成物は、pH値が2.5〜5.0であることを要し、3.0〜4.5であることが好ましい。pH値が2.5未満であると残渣が発生しやすくなり、電気特性が悪化してしまうことがある。一方、pH値が5.0よりも大きいと、(A)過酸化水素の安定性が低下し、安全に取り扱うことが難しくなる。また、過酸化水素の含有量が低下するとエッチング性能が悪化し、安定してエッチングが行えなくなる。
【0027】
銅イオン供給源
本発明の液体組成物は、銅が溶解した際の安定性が高いため、より好ましい実施様態として、銅イオン供給源を配合することができる。銅イオン供給源を配合することにより、本発明の液体組成物を銅層およびモリブデン層を含む多層薄膜のエッチングに使用する場合に、本発明の液体組成物に銅を主成分とする物質が溶解した際のエッチング性能の変動をより少なくすることができる。銅イオン供給源としては、液体組成物中に銅イオンを供給できる物質であれば特に制限は無く、例えば、銅、銅合金、酸化銅、硫酸銅、硝酸銅、水酸化銅、酢酸銅などが挙げられる。酸化銅、硫酸銅、硝酸銅、水酸化銅などの化合物は銅原子の酸化数が高く、溶解によって銅イオンが容易に供給できるため、特に好ましい。本発明の液体組成物のより好ましい実施様態として、銅イオン供給源を配合するには、銅を主成分とする化合物を溶解する、あるいは銅を主成分とする化合物を溶解した溶液を混合することによって実施できる。また、銅を主成分とする物質からなる銅層を含む多層薄膜をエッチング後の銅イオンが溶解した液体組成物を混合することによっても実施できる。銅イオン供給源の含有量としては、銅換算の質量分率として好ましくは0.1〜20000ppm、より好ましくは10〜10000ppm配合することができる。
【0028】
モリブデン酸イオン供給源
本発明の液体組成物は、モリブデンが溶解した際の安定性が高いため、より好ましい実施様態として、モリブデン酸イオン供給源を配合することができる。モリブデン酸イオン供給源を配合することにより、本発明の液体組成物を銅層およびモリブデン層を含む多層薄膜のエッチングに使用する場合に、本発明の液体組成物にモリブデンを主成分とする物質が溶解した際のエッチング性能の変動をより少なくすることができる。モリブデン酸イオン供給源としては、液体組成物中にモリブデン酸イオンを供給できる物質であれば特に制限は無く、例えば、モリブデン、酸化モリブデン、モリブデン酸アンモニウムなどが挙げられる。酸化モリブデン、モリブデン酸アンモニウムなどの化合物はモリブデン原子の酸化数が高く、溶解によってモリブデン酸イオンが容易に供給できるため、特に好ましい。本発明の液体組成物のより好ましい実施様態として、モリブデン酸イオン供給源を配合するには、モリブデンを主成分として含む化合物を溶解する、あるいはモリブデンを主成分とする化合物を溶解した溶液を混合することによって実施できる。また、モリブデンを主成分する物質からなるモリブデン層を含む多層薄膜をエッチング後のモリブデン酸イオンが溶解した液体組成物を混合することによっても実施できる。モリブデン酸イオン供給源の含有量としては、モリブデン換算の質量分率として好ましくは0.1〜1000ppm、より好ましくは0.5〜500ppm配合することができる。
【0029】

本発明の液体組成物に使用される水は、蒸留、イオン交換処理、フィルター処理、各種吸着処理などによって、金属イオンや有機不純物、パーティクル粒子などが除去されたものが好ましく、特に純水、超純水が好ましい。
【0030】
その他の成分
本発明の液体組成物は、上記した(A)〜(D)成分、銅イオン供給源、モリブデン酸イオン供給源、水のほか、通常使用される水溶性有機溶剤、界面活性剤、消泡剤、着色剤、その他液体組成物に通常用いられる各種添加剤を、本発明の液体組成物の効果を害しない範囲で含んでもよい。
【0031】
銅を主成分とする物質からなる銅層およびモリブデンを主成分とする物質からなるモリブデン層を含む多層薄膜のエッチング方法及び表示デバイスの製造方法
本発明のエッチング方法は、銅を主成分とする物質からなる銅層およびモリブデンを主成分とする物質からなるモリブデン層を含む多層薄膜をエッチングする方法であり、本発明の液体組成物、すなわち(A)過酸化水素を3〜9質量%、(B)酸を6〜20質量%、(C)アルカリ化合物(ただし、カフェインを除く)を1〜10質量%、及び(D)カフェインを0.1〜4質量%含み、かつ、pH値が2.5〜5.0である液体組成物を用いることを特徴とし、エッチング対象物と本発明の液体組成物とを接触させる工程を有するものである。また、本発明のエッチング方法により、銅を主成分とする物質からなる銅層およびモリブデンを主成分とする物質からなるモリブデン層を含む多層薄膜を一括でエッチングを行うことができ、かつ、エッチング性能が安定しているため、安定的に効率よく表示デバイスを生産することができ、結果的に低コストを図ることができる。
本発明の表示デバイスの製造方法は、(A)過酸化水素濃度を3〜9質量%、(B)酸を6〜20質量%、(C)アルカリ化合物(ただし、カフェインを除く)を1〜10質量%、及び(D)カフェインを0.1〜4質量%含有し、かつ、pH値が2.5〜5.0である液体組成物と、基板上に積層された銅を主成分とする物質からなる銅層およびモリブデンを主成分とする物質からなるモリブデン層を含む多層薄膜とを20℃〜60℃で10〜300秒の間、接触処理する工程を含むものである。
【0032】
本発明のエッチング方法において、例えば、ガラス等の基板(下地層)上に、モリブデンを主成分とする物質からなるバリア層(モリブデン層)と銅を主成分とする物質からなる配線層(銅層)とを順に積層してなる多層薄膜上に、さらにレジストを塗布し、所望のパターンマスクを露光転写し、現像して所望のレジストパターンを形成したものをエッチング対象物とする。ここで、本発明においては、銅層およびモリブデン層を含む多層薄膜は、モリブデン層の上に銅層が存在する二層積層構造の態様をはじめとし、さらに該銅層上にモリブデン層が存在する三層積層構造の態様も含まれる。また、このような銅層およびモリブデン層を含む多層薄膜は、フラットパネルディスプレイなどの表示デバイスなどの配線に好ましく用いられるものである。よって、モリブデン層の上に銅層が存在するエッチング対象物は、利用分野の観点からも、好ましい態様である。
【0033】
本発明のエッチング方法において、配線層を形成する銅層としては、銅を主成分とする物質により形成されていれば特に制限はなく、銅または、銅合金、銅酸化物、銅窒化物などが例示される。本発明のエッチング方法において、バリア層を形成するモリブデン層としては、モリブデンを主成分とする物質により形成されていれば特に制限はなく、モリブデン、モリブデン合金、モリブデン窒化物などが挙げられる。ここで銅を主成分とする物質とは、銅を50質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上含む物質を意味する。モリブデンを主成分とする物質とは、モリブデンを50質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上含む物質を意味する。
本発明のエッチング方法において、多層薄膜の下地層としては、特に制限はなく、例えば基板材料としてガラスや樹脂、絶縁膜材料として酸化ケイ素や窒化ケイ素、半導体材料としてシリコンや金属酸化物、などを使用することができる。
【0034】
エッチング対象物に本発明の液体組成物を接触させる方法には特に制限はなく、例えば液体組成物を滴下(枚葉スピン処理)やスプレーなどの形式により対象物に接触させる方法や、対象物を液体組成物に浸漬させる方法などの湿式(ウェット)エッチング方法を採用することができる。本発明においては、液体組成物を対象物に滴下(枚葉スピン処理)して接触させる方法、対象物を液体組成物に浸漬して接触させる方法が好ましく採用される。
【0035】
本発明の液体組成物の使用温度としては、20〜60℃の温度が好ましく、特に30〜40℃が好ましい。エッチング液の温度が20℃以上であれば、エッチング速度が低くなりすぎないので、生産効率が著しく低下することがない。液体組成物の温度を高くすることで、エッチング速度は上昇するが、液体組成物の中の成分濃度変化を小さく抑えることなども考慮した上で、適宜最適な処理温度を決定すればよい。
【0036】
エッチング対象物に本発明の液体組成物を接触させる時間は、10〜300秒が好ましく、より好ましくは30〜240秒であり、特に60〜180秒が好ましいが、使用温度やエッチング対象物の膜厚などとの関係で適宜最適化を図ることができる。
【0037】
本発明のエッチング方法において、液体組成物に含まれる過酸化水素および酸は、上記のように銅やモリブデンの酸化や溶解などに消費され、また、それら溶解した銅やモリブデンが過酸化水素の分解を促進するため、過酸化水素濃度の低下に起因した液体組成物の性能の低下が生じる場合がある。このような場合には、適宜、過酸化水素および酸を同時に、あるいは別々に添加することにより、エッチング性能をさらに安定的に延長させることができる。
【実施例】
【0038】
次に、本発明を実施例により、さらに詳しく説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
過酸化水素の安定性の評価
下記表1〜4に記載の液体組成物に、銅10000ppmとモリブデン500ppmとを溶解した後、35℃の水浴中で60分保存した後の過酸化水素の濃度を測定し、保存前と比較して過酸化水素の安定性を評価した。過酸化水素濃度の定量分析は、過マンガン酸カリウムによる酸化還元滴定法により行った。過酸化水素の安定性の評価は、保存前後の過酸化水素の濃度低下値を次式により求め、以下に示す判断基準により評価を行った。結果を下記表1〜3に示した。
(過酸化水素の濃度低下値)=(保存前の過酸化水素濃度)−(保存後の過酸化水素濃度)
判定:
E:0.3質量%以下
G:0.3質量%超〜1質量%以下
B:1質量%超
ここではEとGを合格とした。
【0039】
銅層およびモリブデン層を含む多層薄膜基板の作製例
ガラス基板にモリブデンを20nmの膜厚でスパッタしてモリブデン層を形成し、次いで銅を500nmの膜厚でスパッタして銅層を成膜した。その後、レジストを塗布し、パターンマスクを露光転写後、現像してレジストパターンを作製し、ガラス上に銅層およびモリブデン層を含む多層薄膜基板を作製した。
【0040】
銅層およびモリブデン層のジャストエッチング時間の評価
上記の銅層およびモリブデン層を含む多層薄膜基板に対し、下記表1〜4に記載の液体組成物を35℃にてスプレー噴霧し、エッチング処理した。その後水洗し、窒素ガスを用いて乾燥させた。
目視観察によりレジストに覆われていない部分の銅層およびモリブデン層を含む多層薄膜が消失し、下地のガラス基板が露出するまでの時間をジャストエッチング時間として、以下に記載の判定基準により評価した。
判定:
E:60秒〜120秒
G:10秒以上〜60秒未満、120秒超〜300秒以下
B:10秒未満、300秒超
ここではEとGを合格とした。
【0041】
エッチング後の銅層およびモリブデン層を含む多層薄膜基板の断面形状の観察
銅層およびモリブデン層を含む多層薄膜基板に対し、下記表1〜4に記載の液体組成物を35℃にてスプレー噴霧し、上記ジャストエッチング時間の1.5倍の時間をかけて(50%オーバーエッチング条件)エッチング処理を行った。処理後の銅層およびモリブデン層を含む多層薄膜基板を切断し、その断面を走査型電子顕微鏡(「S5000形(型番)」;日立製)を用いて観察倍率30000倍(加速電圧2kV、エミッション電流10μA)で観察した。得られたSEM画像をもとに、図1で示されるテーパー角、CDロス(μm)を測定した。CDロスとテーパー角は以下の判定基準により評価した。
判定:
CDロス;2.0μm以下を合格とした。
テーパー角;20〜60°を合格とした。
【0042】
エッチング残渣の評価
エッチング処理を行った後の銅層およびモリブデン層を含む多層薄膜基板の表面を、走査型電子顕微鏡(「S5000形(型番)」;日立製)を用いて観察倍率50000倍(加速電圧2kV、エミッション電流10μA)で観察し、残渣を下記の判定基準で評価した。
判定:
E :残渣は全く確認されなかった
G :残渣が若干確認されたが、配線性能への影響はなく実用上問題なかった
B :著しい残渣が確認された
ここではEとGを合格とした。
【0043】
実施例1
成分(A)として過酸化水素5.0質量%、成分(B)として硝酸1.5質量%、グリコール酸1.8質量%、乳酸7.0質量%、マロン酸0.8質量%、コハク酸2.8質量%、及びリンゴ酸0.3質量%(硝酸、グリコール酸、乳酸、マロン酸、コハク酸、及びリンゴ酸の合計の全酸濃度で14.2質量%)、成分(C)としてN,N−ジエチル−1,3−プロパンジアミン5.5質量%、成分(D)としてカフェイン1.0質量%、および水を加えた液体組成物に、銅粉末10000ppm、及びモリブデン粉末500ppmを溶解した。得られた液体組成物を用いて上記評価を行った。得られた結果を下記表1に示す。
【0044】
実施例2〜9
実施例1において各成分濃度とpH値を下記表1に示される値とした以外は、実施例1と同様に液体組成物を調製して評価した。得られた結果を下記表1に示す。
【0045】
実施例10及び11
実施例1において、成分(C)としてアルカリ化合物及びその濃度を、それぞれ下記表2に示される化合物及び値とした以外は、実施例1と同様に液体組成物を調製して評価した。得られた結果を下記表2に示す。
【0046】
参考例
実施例1において各成分濃度とpH値を下記表2に示される値とした以外は、実施例1と同様に液体組成物を調製して評価した。得られた結果を下記表2に示す。
【0047】
実施例13
実施例1においてB成分としての硝酸を除いた以外は、実施例1と同様に液体組成物を調製して評価した。得られた結果を下記表2に示す。
【0048】
実施例1〜9の液体組成物は、銅濃度10000ppmにおいて、35℃で60分保存後における過酸化水素の濃度低下が小さく、且つエッチング形状の優れた液体組成物であることが分かる。
【0049】
実施例10、11及び13の液体組成物は、銅濃度10000ppmにおいて、35℃で60分保存後における過酸化水素の濃度低下が小さく、且つエッチング形状の優れた液体組成物であることが分かる。
【0050】
比較例1〜6
実施例1において各成分濃度とpH値を下記表3に示される値とした以外は、実施例1と同様に液体組成物を調製して評価した。得られた結果を下記表3に示す。
【0051】
比較例1では、pH値2.0ではエッチング後にモリブデン酸化物由来の残渣が発生した。比較例2では、pH値5.5では銅粉末を溶解時に過酸化水素が激しく分解し、過酸化水素濃度が0.1質量%以下となりエッチングできなかった。比較例3では、過酸化水素濃度が1.5質量%ではエッチング速度が小さい他、エッチング残渣が発生した。比較例4では、過酸化水素濃度15質量%では過酸化水素の濃度低下が大きかった。比較例5では、カフェイン濃度が5.0質量%ではカフェインが十分に溶解せず、沈殿したため、エッチング評価できなかった。比較例6では、酸濃度が4.9質量%では銅粉末が十分に溶解せず、沈殿したためエッチング評価できなかった。
【0052】
比較例7
特許文献1に記載の、過酸化水素20質量%、5−アミノ−1H−テトラゾール1.0質量%、イミノニ酢酸1.5質量%、硫酸水素カリウム1.0質量%、及び酸性フッ化アンモニウム0.5質量%を含む液体組成物に、グアニン0.5質量%を加えたが多くが不溶で、エッチング評価できなかった。
【0053】
比較例8
特許文献1に記載の、過酸化水素20質量%、5−アミノ−1H−テトラゾール1.0質量%、イミノニ酢酸1.5質量%、硫酸水素カリウム1.0質量%、及び酸性フッ化アンモニウム0.5質量%を含む液体組成物に、銅粉末5000ppmを加えたが多くが不溶で、エッチング評価できなかった。
【0054】
【表1】
※1 三菱瓦斯化学株式会社製
※2 和光純薬工業株式会社製
※3 N,N−ジエチル−1,3−プロパンジアミン、和光純薬工業株式会社製
※4 和光純薬工業株式会社製
※5 和光純薬工業株式会社製
※6 5−アミノ−1H−テトラゾール、和光純薬工業株式会社製
※7 各成分濃度で「−」の記載は無添加を示す。
【0055】
【表2】

※1 三菱瓦斯化学株式会社製
※2 和光純薬工業株式会社製
※3 テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、株式会社トクヤマ製トクソーSD−25
※4 1−アミノ−2−プロパノール、和光純薬工業株式会社製
※5 N,N−ジエチル−1,3−プロパンジアミン、和光純薬工業株式会社製
※6 和光純薬工業株式会社製
※7 各成分濃度で「−」の記載は無添加を示す。
【0056】
【表3】
※1 三菱瓦斯化学株式会社製
※2 和光純薬工業株式会社製
※3 N,N−ジエチル−1,3−プロパンジアミン、和光純薬工業株式会社製
※4 和光純薬工業株式会社製
【0057】
【表4】
※1 三菱瓦斯化学株式会社製
※2〜8 和光純薬工業株式会社製
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の液体組成物は、銅を主成分とする物質からなる銅層およびモリブデンを主成分とする物質からなるモリブデン層を含む多層薄膜のエッチングに好適に用いることができる。また、当該液体組成物を用いたエッチング方法は、銅層およびモリブデン層を含む多層薄膜を有する配線を一括でエッチングすることができ、かつエッチング後の配線形状を良好なものとすることができるので、高い生産性を達成することができる。更に、過酸化水素の消費が少なく、経済的に優れている。
【符号の説明】
【0059】
1.レジスト層
2.配線層(銅層)
3.バリア層(モリブデン層)
4.下地層(ガラス)
5.テーパー角
6.CDロス
図1