(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6862838
(24)【登録日】2021年4月5日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】塗膜および塗料
(51)【国際特許分類】
C09D 129/04 20060101AFI20210412BHJP
C09D 129/14 20060101ALI20210412BHJP
C09D 139/06 20060101ALI20210412BHJP
C09D 133/04 20060101ALI20210412BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20210412BHJP
【FI】
C09D129/04
C09D129/14
C09D139/06
C09D133/04
C09D7/61
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-4922(P2017-4922)
(22)【出願日】2017年1月16日
(65)【公開番号】特開2017-132994(P2017-132994A)
(43)【公開日】2017年8月3日
【審査請求日】2019年8月8日
(31)【優先権主張番号】特願2016-12276(P2016-12276)
(32)【優先日】2016年1月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591183153
【氏名又は名称】トーヨーカラー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】権藤 亮介
(72)【発明者】
【氏名】太田 大志
(72)【発明者】
【氏名】加藤 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】宇野 友偉
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 望
【審査官】
仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】
特表2005−517074(JP,A)
【文献】
特開2000−281955(JP,A)
【文献】
特表2005−526867(JP,A)
【文献】
特開2015−085561(JP,A)
【文献】
登録実用新案第3064083(JP,U)
【文献】
特開平04−370160(JP,A)
【文献】
特表2012−509969(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 129/04
C09D 129/14
C09D 133/04
C09D 139/06
C09D 7/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンブラックと結着剤とを含む塗料用粒子を含有してなる塗膜であって、カーボンブラックと結着剤との合計100質量部に対するカーボンブラックの含有量が80〜90質量部であり、前記塗料用粒子の平均粒子径が5〜20μmであり、前記塗膜の60°鏡面光沢度(Gs)が0.1〜15%であり、前記結着剤が、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂および酸価100mgKOH/g以上のアクリル樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする塗膜。
【請求項2】
JIS L0849:2013に規定された摩擦試験機 II 形(学振形)法に準ずる摩擦試験前の60°鏡面光沢度と、前記摩擦試験後の60°鏡面光沢度との差(△Gs)が、0.1〜5%である請求項1記載の塗膜。
【請求項3】
前記結着剤が、Fedorsの溶解度パラメータ(SP値)10以下の溶剤に対して不溶である請求項1または2記載の塗膜。
【請求項4】
カーボンブラックと結着剤とを含む塗料用粒子を含有してなる塗料であって、カーボンブラックと結着剤との合計100質量部に対するカーボンブラックの含有量が80〜90質量部であり、前記塗料用粒子の平均粒子径が5〜20μmであり、前記結着剤が、塩基性官能基を含有するポリビニルピロリドン樹脂であることを特徴とする塗料。
【請求項5】
塗料より形成された塗膜の60°鏡面光沢度(Gs)が、0.1〜15%である請求項4記載の塗料。
【請求項6】
カーボンブラックと結着剤とを含む塗料用粒子であって、カーボンブラックと結着剤との合計100質量部に対するカーボンブラックの含有量が80〜90質量部であり、平均粒子径が5〜20μmであり、前記結着剤が、塩基性官能基を含有するポリビニルピロリドン樹脂であることを特徴とする塗料用粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗膜およびそれを形成するための塗料に関する。さらに詳しくは、高い耐摩耗性(耐擦傷性、耐摩擦性ともいう)を有すると共に、低光沢性の塗膜およびそれを形成するための塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車等の車体の外装塗膜や建築用外装塗膜において、意匠性の観点から、光の反射が抑えられた低光沢の塗膜が注目されている。光沢が抑えられた低光沢性の塗膜としては、塗膜を形成するための塗料中に、マイクロサイズのシリカ粒子を添加した塗料が良く知られている。そのような塗料を用いて形成した塗膜は、塗膜表面にシリカ粒子に起因する微小な凹凸が形成され、入射した光が塗膜表面の凹凸によって散乱することにより低光沢性が発現する。しかし、このような塗膜表面に凹凸を有する塗膜では、摩擦等によってその表面が擦傷されると、シリカ粒子が剥落してしまい、塗膜表面の光沢が高くなるといった耐摩耗性に劣る問題があった。また、シリカ粒子自体は透明な材料であるため、黒色に代表される濃色の塗膜を得ようとすると、塗膜中のシリカ粒子の含有率が高くなるにつれて、相対的に塗膜中の着色剤(顔料や染料等)の含有率が低くなり、着色力や隠蔽性が低下してしまうといった問題点があった。
【0003】
また、光沢を抑えるためにマイクロサイズのシリカ粒子を配合した塗料は、比重の大きなシリカ粒子が塗料中で沈降してしまうため、使用直前に撹拌行う等の必要があり、ハンドリング性を損ない、プロセスコスト面からも改良が求められていた。
【0004】
上記のような耐摩耗性の問題を改良すべく、例えば、特許文献1には、アクリル樹脂被覆シリカ粒子分散体、架橋剤および被膜形成性樹脂を含有する塗料組成物が開示されている。しかし、シリカ粒子の替わりにアクリル樹脂によって被覆されたシリカ粒子を使用しても、塗膜表面に凹凸があることには変わらないため、摩擦等の物理的外力が塗膜に加わると、アクリル樹脂被覆シリカ粒子のみが剥落してしまい、満足し得る十分な耐摩耗性の塗膜を得ることはできなかった。
【0005】
着色力や隠蔽性が不足する問題を改良すべく、カーボンブラック等の顔料を内包した樹脂ビーズをシリカ粒子の代替として用いることもできるが、ビーズ内での顔料の含有量が少なく、十分な着色力や隠蔽性を得ることは困難であり、耐摩耗性の課題に関しても十分な耐摩耗性の塗膜を得ることはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014−177598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、高い耐摩耗性ならびに隠蔽性を有する低光沢の塗膜を提供することを目的とする。また、そのような塗膜を形成するための高い分散安定性を有する塗料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究の結果、カーボンブラックと結着剤とを特定の配合量により5〜20μmの粒子状とし、それを塗料用粒子として塗料に配合することによって、上記のようなシリカ粒子を使用せずに、高い耐摩耗性を有する低光沢の塗膜が得られることを見出し、本発明に至った。
【0009】
すなわち、本発明は、カーボンブラックと結着剤とを含む塗料用粒子を含有してなる塗膜であって、カーボンブラックと結着剤との合計100質量部に対するカーボンブラックの含有量が80〜90質量部であり、前記塗料用粒子の平均粒子径が5〜20μmであり、前記塗膜の60°鏡面光沢度(Gs)が0.1〜15%であることを特徴とする塗膜に関する。
【0010】
また、本発明は、摩擦試験前の60°鏡面光沢度と、摩擦試験後の60°鏡面光沢度との差(△Gs)が、0.1〜5%である上記塗膜に関する。
【0011】
また、本発明は、前記結着剤が、Fedorsの溶解度パラメータ(SP値)10以下の溶剤に対して不溶である上記塗膜に関する。
【0012】
また、本発明は、前記結着剤が、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂および酸価100mgKOH/g以上のアクリル樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種である上記塗膜に関する。
【0013】
また、本発明は、カーボンブラックと結着剤とを含む塗料用粒子を含有してなる塗料であって、カーボンブラックと結着剤との合計100質量部に対するカーボンブラックの含有量が80〜90質量部であり、前記塗料用粒子の平均粒子径が5〜20μmであることを特徴とする塗料に関する。
【0014】
また、本発明は、塗料より形成された塗膜の60°鏡面光沢度(Gs)が、0.1〜15%である上記塗料に関する。
【0015】
また、本発明は、カーボンブラックと結着剤とを含む塗料用粒子であって、カーボンブラックと結着剤との合計100質量部に対するカーボンブラックの含有量が80〜90質量部であり、平均粒子径が5〜20μmであることを特徴とする塗料用粒子に関する。
【0016】
また、本発明は、カーボンブラックと結着剤とを含む塗料用粒子の製造方法であって、カーボンブラックと結着剤との合計100質量部に対するカーボンブラックの含有量が80〜90質量部であるカーボンブラックと結着剤とを含む分散液を、噴霧乾燥することを特徴とする塗料用粒子の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、高い耐摩耗性ならびに隠蔽性を有する光沢の抑えられた塗膜を得ることができるようになった。また、そのような塗膜を形成するための高い分散安定性を有する塗料を得ることができるようになった。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<カーボンブラックと結着剤とを含む塗料用粒子>
本発明におけるカーボンブラックと結着剤とを含む塗料用粒子(以下、単に「粒子」と称することがある)は、カーボンブラックと樹脂との合計100質量部に対してカーボンブラックの含有量が80〜90質量部であることを特徴とする。カーボンブラックの含有量が80〜90質量部の場合、分散液や塗料を作製する際の物理的外力に対しても十分な強度を有することができる。該粒子を用いた塗膜も、摩擦等の物理的外力を加えても、粒子が崩壊しにくく、耐摩耗性の高い塗膜を得ることができる。さらに粒子同士の凝集が少なく、塗膜中に均一に分散することが可能となり、塗膜の光沢を抑えながら、隠蔽性が良好な塗膜を得ることができる為、上記の組成とすることが好ましい。
【0019】
塗料用粒子の平均粒子径は、5〜20μmである。平均粒子径が、5〜20μmの場合、塗料の分散安定性が高く、さらに塗膜の光沢を抑えることが可能である為、好ましい。
【0020】
尚、本明細書における塗料用粒子の平均粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した粒子径の算術平均値である。詳細には、塗料用粒子の粉末を倍率20000倍で観察し、任意の100個の粒子を選択し、各々の粒子径を平均して求めた値である。粒子形状が長軸、短軸を有する場合には、長軸と短軸の長さの平均値を、その粒子の粒子径として用いた。
【0021】
塗料用粒子の製造方法は、特に限定されるものではないが、カーボンブラックと結着剤とを混合して均一になるよう分散して分散液を調製した後、分散液を噴霧乾燥して塗料用粒子を得ることが好ましい。
【0022】
カーボンブラックと結着剤を均一に混合して分散液を得る際に用いられる分散機としては、ディスパー、ホモミキサー、プラネタリーミキサー、エム・テクニック社製「クレアミックス」、PRIMIX社「フィルミックス」、ペイントコンディショナー(レッドデビル社製)、ボールミル、サンドミル(シンマルエンタープライゼス社製「ダイノミル」等)、アトライター、パールミル(アイリッヒ社製「DCPミル」等)、コボールミル、湿式ジェットミル(ジーナス社製「ジーナスPY」、スギノマシン社製の「スターバースト」、ナノマイザー社製「ナノマイザー」等)、エム・テクニック社製「クレアSS−5」、奈良機械製作所社製「マイクロス」、ロールミル等の分散機が挙げられる。分散機は、一種類のみを使用しても良いし、複数種を併用してもよい。
【0023】
噴霧乾燥には、S K ジェット・オー・ミル、ミストドライヤー、スプレードライヤー、流動媒体槽、スラリードライヤー等の噴霧乾燥機を使用できる。粒子の粒子径は、噴霧乾燥時の分散液の濃度、噴霧時の吐出圧、吐出速度等により制御することができる。
【0024】
<カーボンブラック>
本発明に用いるカーボンブラックとしては、気体若しくは液体の原料を反応炉中で連続的に熱分解し製造するファーネスブラック、エチレン重油を原料としたケッチェンブラック、原料ガスを燃焼させてその炎をチャンネル鋼底面に当てて急冷し析出させたチャンネルブラック、ガスを原料とし燃焼と熱分解を周期的に繰り返すことにより得られるサーマルブラック、アセチレンガスを原料とするアセチレンブラック等の各種カーボンブラックを単独または二種以上を併せて使用することができる。又、酸化処理されたカーボンブラックや、中空カーボン等も使用できる。上記の内、ファーネスブラックが、ハンドリング性および着色力の点から好ましい。
【0025】
カーボンブラックの粒子径は、着色力の点から、10〜200nmが好ましく、10〜30nmがより好ましい。ただし、ここでいう粒子径とは、一般にカーボンブラックの物理的特性を表す際に使用されている電子顕微鏡で測定された平均一次粒子径を表す。
【0026】
カーボンブラックのBET比表面積は、結着剤との結着が効果的に作用する観点から、20〜400m
2/gが好ましく、50〜300m
2/gがより好ましい。ただし、ここでいうBET比表面積は、窒素吸着によりBET法で測定された比表面積を指し、この物性値は一般にカーボンブラックの物理特性を表すのに用いられる。
【0027】
<結着剤>
本発明に用いられる結着剤は、塗料用粒子を形成する際に、カーボンブラック同士を結着しうる材料を指す。特に、耐摩耗性の点から、塗料作成時に溶剤等によって溶解せず塗料用粒子の形状を維持できる結着剤であることが好ましく、一般的に塗料として用いられるFedorsの溶解度パラメータ(SP値)10以下の溶剤に対して不溶であることが好ましい。中でも、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、酸価100mgKOH/g以上のアクリル樹脂が好ましい。
【0028】
ここで、FedorsのSP値とは、対象とする分子の溶解度パラメータが分子を構成する原子、または、原子団の置換基の数、および種類に依存すると仮定して、下記の式に従い算出される値を指す。
SP値:δ=(ΣE/ΣV)
1/2
単位:(cal/cm
3)
1/2
E:分子を構成する原子または原子団の蒸発エネルギー(単位:cal/mol)
V:分子を構成する原子または原子団のモル体積(単位:cm
3/mol)
【0029】
結着剤の溶剤に対する溶解性は、結着剤固形物と溶剤とをよく混合後、混合液の上澄み液中に結着剤が含まれているか否かによって容易に判断できる。本明細書では、上澄み液中に結着剤が含まれていない場合を「不溶」、含まれている場合を「可溶」とした。
【0030】
<ポリビニルアルコール樹脂>
ポリビニルアルコール樹脂とは、ポリ酢酸ビニルのケン化物を指す。ポリビニルアルコール樹脂のケン価度は、85mol%以上であることが好ましい。また、ポリビニルアルコール樹脂中の水酸基が、カルボニル化合物やアミン等によって一部変性されている変性ポリビニルアルコール樹脂であることがより好ましい。具体的には、日本酢ビ・ポバール社製JP、JC、JM、JF、A、Dシリーズ、日本合成化学社製ゴーセノールシリーズ、ゴーセネックスシリーズ、デンカ社製デンカポバールシリーズなどが挙げられる。
【0031】
<ポリビニルアセタール樹脂>
ポリビニルアセタール樹脂とは、ポリビニルアルコール樹脂のアセタール化物を指し、ポリビニルホルマール、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール等を挙げることができる。ポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度は、35mol%以下であることが好ましい。また、ポリビニルアセタール樹脂中の水酸基が、カルボニル化合物やアミン等によって一部変性されていることがより好ましい。具体的には、積水化学社製エスレックシリーズ、クラレ社製モビタールシリーズなどが挙げられる。
【0032】
<酸価100mgKOH/g以上のアクリル樹脂>
酸価100mgKOH/g以上のアクリル樹脂とは、該アクリル樹脂1gを中和するのに必要な水酸化カリウムを100mg以上要するアクリル樹脂を指す。アクリル樹脂の中でも、特にスチレンと、アクリル酸またはメタクリル酸との共重合体を含有する樹脂が好ましい。具体的には、BASF社製ジョンクリルシリーズ、星光PMC社製RS、VS、YSシリーズ、日本触媒社製アクアリックシリーズなどが挙げられる。
【0033】
<ポリビニルピロリドン樹脂>
ポリビニルピロリドン樹脂とは、N−ビニル−2−ピロリドンの重合物を含有する高分子化合物である。他結着剤と比較して、ポリビニルピロリドン樹脂を用いると、塗膜の隠蔽性がより向上することから好ましい。ポリビニルピロリドン樹脂は、共重合することによって、塩基性官能基、ならびに、酸性官能基を含有させることが可能であり、隠蔽性の観点から塩基性可能基を含有させた樹脂がより好ましい。具体的には、BASF社製ソカランKシリーズ、ソカランVAシリーズ、ISP社製PVPKシリーズ、日本触媒社製ポリビニルピロリドンKシリーズ、スタイリーゼW−20、大阪有機化学工業社製H.C.ポリマーシリーズ、コスカットGA467、GA468などが挙げられる。
【0034】
<塗料>
本発明の塗料は、塗料用粒子を含む塗料であり、更に、適宜用途に応じて、一般的な塗料に用いられる塗膜形成用樹脂、硬化剤、溶剤等を含むことが好ましい。
【0035】
<塗膜形成用樹脂>
本発明における塗膜形成用樹脂(以下、単に「樹脂」と称することがある)は、天然高分子樹脂と合成高分子樹脂に分類され、特に限定されるものではない。具体的には、天然高分子樹脂としては、にかわ、ゼラチン、ガゼイン、アルブミンなどのたんぱく質類、アラビアゴム、トラガントゴム、キサンタンガムなどの天然ゴム類、サポニンなどのグルコシド類、アルギン酸およびアルギン酸プロピレングルコールエステル、アルギン酸トリエタノールアミン、アルギン酸アンモニウムなどのアルギン酸誘導体、メチルセルロース、ニトロセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルヒドロキシセルロースなどのセルロース誘導体やシェラック樹脂などが挙げられる。
【0036】
合成高分子樹脂の例としては、アクリル系共重合体、スチレン・アクリル酸系共重合体、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、セルロース樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、アクリル酸−アクリロニトリル共重合体、アクリルカリウム−アクリロニトリル共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−α−メチルスチレンアクリル酸共重合体、スチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ビニルナフタレン−アクリル酸共重合体、ビニルナフタレン−マレイン酸共重合体、酢酸ビニル−エチレン共重合体、酢酸ビニル−脂肪酸ビニルエチレン共重合体、酢酸ビニル−マレイン酸エステル共重合体、酢酸ビニル−クロトン酸共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸共重合体およびこれらの塩などが挙げられる。
【0037】
樹脂は、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、繊維強化樹脂、フッ素樹脂、セルロース樹脂、アクリルエマルジョン等が好ましい。これらの中でもアクリル樹脂がより好ましい。アクリル樹脂の例としては、メラミン硬化性アクリル樹脂、自己架橋アクリル樹脂、ポリイソシアネート硬化性アクリル樹脂、湿気硬化型シリコン・アクリル樹脂などが挙げられ、具体的には、三菱レイヨン社製ダイヤナールシリーズ、DIC社製アクリディックシリーズ、日立化成社製ヒタロイドシリーズなどが挙げられる。前述の樹脂は1種または2種以上併用しても良く、分散組成物中での配合量は特に限定されるものではないが、塗料用粒子の総和に対して2〜5000質量%が好ましく、より好ましくは5〜900質量%である。
【0038】
<硬化剤>
結着剤や樹脂が、水酸基やカルボキシル基、アミノ基等の反応性官能基を有する場合、塗膜の堅牢性を高めるために硬化剤を使用する事ができる。硬化剤としては、上記反応性官能基と反応することができる化合物が挙げられる。具体的には、使用する樹脂の種類によって異なるが、アミノ樹脂、ポリイソシアネート化合物、エポキシ基含有化合物、カルボキシル基含有化合物などが挙げられる。
【0039】
<溶剤>
溶剤としては、主に有機溶剤を用いることができるが、塗料として用いられる溶剤であれば制限されない。有機溶剤としては、ケトン類、エステル類、炭化水素系溶剤、アルコール類、エーテル類などが挙げられる。結着剤の溶解性の観点からFedorsの溶解度パラメータ(SP値)10以下のケトン類、エステル類、炭化水素系溶剤、エーテル類からなる群より選ばれる1種以上の有機溶剤が好ましい。
【0040】
ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルアミルケトン、メチルイソアミルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等が挙げられる。
【0041】
エステル類としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸メトキシプロピル、酢酸メトキシブチル、酢酸セロソルブ、酢酸アミル、酢酸3−エトキシエタノール、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸イソプロピル、プロピオン酸ブチル、プロピオン酸イソブチル、プロピオン酸メトキシプロピル、プロピオン酸メトキシブチル、プロピオン酸セロソルブ、プロピオン酸アミル、プロピオン酸3−エトキシエタノール、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸プロピル、酪酸イソプロピル、酪酸ブチル、酪酸イソブチル、酪酸メトキシプロピル、酪酸メトキシブチル、酪酸セロソルブ、酪酸アミル、酪酸3−エトキシエタノール、イソ酪酸メチル、イソ酪酸エチル、イソ酪酸プロピル、イソ酪酸イソプロピル、イソ酪酸ブチル、イソ酪酸イソブチル、イソ酪酸メトキシプロピル、イソ酪酸メトキシブチル、イソ酪酸セロソルブ、イソ酪酸アミル、イソ酪酸3−エトキシエタノール、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル、1−メトキシプロピル−2−アセテート等が挙げられる。
【0042】
炭化水素系溶剤としては、ベンゼン、トルエン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、エチルベンゼン、スチレン等が挙げられる。
アルコール類としては、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、s−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール、n−アミルアルコール、イソアミルアルコール、t−アミルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール等が挙げられる。
【0043】
エーテル類としては、イソプロピルエーテル、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、プロピルセロソルブ、ブチルセロソルブ、フェニルセロソルブ、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノフェニルエーテル、ジオキサン等が挙げられる。
【0044】
更には、必要に応じて、上記以外の有機溶剤を併用することもできる。上記以外の有機溶剤としては、石油ベンジン、ミネラルスピリット、ソルベントナフサ等が挙げられる。上記の溶剤は、所望する塗料を得る目的で、1種のみ使用しても、2種以上を混合して使用しても差し支えない。
【0045】
本発明における塗料としての適性を向上させるために、塗料に種々の添加剤を配合してもよい。添加剤としては、分散剤、増粘剤、pH調整剤、乾燥防止剤、防腐剤、防かび剤、キレート剤、紫外線吸収材、酸化防止剤、消泡剤、レオロジーコントロール剤等が挙げられる。
【0046】
<塗膜>
本発明における塗膜は、塗料用粒子を含む塗料を基材上に塗工し、乾燥、場合によっては、硬化することにより形成される。意匠性の観点から、塗膜の光沢は、JIS K 5600−4−7:1999で規定された60°鏡面光沢度が、0.1〜15%であり、0.1〜5%であることが好ましい。また、意匠性の耐久性が高いことが好ましく、摩擦によって鏡面光沢度の変化が小さいことが好ましい。例えば、本発明にて得られた塗膜に対して、JIS L0849:2013に規定された摩擦試験機(学振形)法に従い塗膜表面を摩擦し、摩擦試験を行い、摩擦試験前後それぞれの塗膜について60°鏡面光沢度を測定し。摩擦試験前の60°鏡面光沢度と摩擦試験後の60°鏡面光沢度との差の絶対値(ΔGs)が、0.1〜5%であることが好ましく、0.1〜1%であることがより好ましい。
【0047】
<基材>
基材としては、塗料が塗工可能なものであれば、特に制限されず、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリイミド、トリアセテート、ポリフェニレンサルファイド、アラミド、アクリル、ポリフッ化ビニリデン等の樹脂や、アルミニウム、ステンレス、鉄等の金属製のフィルム、板、成形物等が挙げられる。
【0048】
<塗工方法>
通常、塗工に用いられる方法であれば、特に制限されず、例えば、基材がフィルムや板のような平面状物体の場合には、バーコーター、ドクターブレード、スピンコーター等を用いて塗工する方法が挙げられる。また、基材が立体状物体の場合には、ディップコート、スプレーコート等を用いて塗工する方法が挙げられる。
【0049】
<膜厚>
本発明における塗膜の膜厚は、特に制限されるものではないが、一般的な塗膜である5〜100μm程度であることが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の塗料より形成される塗膜は、近年の市場要求に合致した光沢の抑えられた意匠性と高い耐摩耗性を有することから、自動車の外装および内装塗料、建築用塗料、遮光用塗料、その他様々な用途に利用可能である。
【実施例】
【0051】
以下に、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、例中、特に断りのない限り、「部」は質量部、「%」は質量%をそれぞれ意味する。まず、実施例および比較例で用いた材料等を以下に示す。
【0052】
<カーボンブラック>
CB―A:ミツビシカーボン#33(三菱化学社製、ファーネスカーボン、粒子径30nm)
CB−B:ミツビシカーボン#850(三菱化学社製、ファーネスカーボン、粒子径17nm)
【0053】
<結着剤>
<アクリル樹脂>
結着剤A:ジョンクリルHPD−96J(BASF社製、不揮発分34%、酸価240mgKOH/g)100部を140℃ 1時間乾燥させ、樹脂粉末として得た。
結着剤B:ジョンクリル57J(BASF社製、不揮発分37%、酸価215mgKOH/g)100部を140℃ 1時間乾燥させ、樹脂粉末として得た。
結着剤C:ジョンクリル586(BASF社製、不揮発分100%、酸価108mgKOH/g)を水酸化ナトリウムにて中和、溶解することで不揮発分20%の水溶液とし、この水溶液100部を140℃ 1時間乾燥させ、樹脂粉末として得た。
結着剤D:ジョンクリル819(BASF社製、不揮発分100%、酸価75mgKOH/g)を水酸化ナトリウムにて中和、溶解することで不揮発分20%の水溶液としとし、この水溶液100部を140℃ 1時間乾燥させ、樹脂粉末として得た。
結着剤E:BYK−190(BYK Chemie社製、不揮発分40%、酸価10mgKOH/g)100部を140℃ 1時間乾燥させ、樹脂粉末として得た。
【0054】
<ポリビニルブチラール樹脂>
結着剤F:エスレックKW−1(積水化学工業社製、不揮発分20%、アセタール化度9mol%)100部を140℃ 1時間乾燥させ、樹脂粉末として得た。
結着剤G:エスレックKW−3(積水化学工業社製、不揮発分20%、アセタール化度30mol%)100部を140℃ 1時間乾燥させ、樹脂粉末として得た。
【0055】
<ポリビニルアルコール樹脂>
結着剤H:ゴーセノールNL−05(日本合成化学工業社製、不揮発分100%、ケン化度98.5mol%)
結着剤I:ゴーセノールAL−06R(日本合成化学工業社製、不揮発分100%、ケン化度91.0mol%)
結着剤J:ゴーセノールGL−03(日本合成化学工業社製、不揮発分100%、ケン化度86.5mol%)
結着剤K:ゴーセノールNK−05R(日本合成化学工業社製、不揮発分100%、ケン化度95.0mol%、カルボン酸変性)
【0056】
<ポリビニルピロリドン樹脂>
結着剤L:ソカランK−17(BASF社製、不揮発分100%)
結着剤M:コスカットGA648(大阪有機化学工業社製、不揮発分100%、アミン変性)
【0057】
<シリカ>
ACEMATT HK125(エボニック社製、二次凝集体の平均粒子径 7μm)
【0058】
<黒色着色アクリルビーズ>
ア−トパールGR−400BK(根上工業社製、平均粒子径 15μm)
【0059】
<塗膜形成用樹脂>
ダイヤナールBR−77(三菱レイヨン社製、不揮発分100%)
ダイヤナールBR−77の30部を、メチルエチルケトン35部およびトルエン35部に添加し、十分に溶解させることで固形分30%の塗膜形成用樹脂溶液を得た。
【0060】
<硬化剤>
ユーバン20SE−60(三井化学社製、不揮発分60%、アミノ樹脂)
【0061】
<結着剤の溶剤溶解性>
結着剤の溶剤に対する溶解性は、以下に示す方法により判断した。まず、各結着剤を、結着剤固形分5部に対して、以下に示す各溶剤95部をそれぞれ添加し、十分混合した後に25℃にて1時間静置した。この混合液を15000rpmにて遠心分離し、上澄み液を基材上に滴下した後、50℃にて2時間乾燥させた。結着剤固形分が溶剤に溶解して上澄み液中に含まれているか否かによって、下記の基準にて判定した。結果を表1に示す。
(溶剤)
酢酸ブチル(SP値 8.7)
メチルエチルケトン(SP値 9.0)
シクロヘキサノン(SP値 9.8)
(判定基準)
○:結着剤の固形分が認められない。(不溶)
×:結着剤の固形分が認められる。(可溶)
【0062】
<カーボンブラック分散液の製造>
表2に示す配合組成にて、カーボンブラック、結着剤および水を、それぞれ均一になるように撹拌混合した後に、1mmのガラスビーズを用いてサンドミルにて5時間分散し、各カーボンブラック分散液を得た。尚、表2中の数値は部を表し、空欄は配合していないことを表す。
【0063】
<塗料用粒子の製造>
表2に挙げた各カーボンブラック分散液を、それぞれ噴霧乾燥器(日本ビュッヒ社製、B−290)を用いて、噴霧温度150℃の条件にて噴霧時の吐出圧、吐出速度を調整し、噴霧乾燥することで、表3に示す塗料用粒子を得た。得られた塗料用粒子の平均粒子径を併せて表3に示す。
ただし、本実施例において塗料用粒子17および18以外の塗料用粒子は参考例である。
【0064】
実施例1〜18、比較例1〜4
<塗料の調整>
上記の方法で得られた塗料用粒子4部、塗膜形成用樹脂溶液47部、硬化剤3部、メチルエチルケトン23部、トルエン23部を均一になるように撹拌混合し、塗料を得た。
ただし、塗料の実施例において実施例13および14以外の塗料は参考例である。
【0065】
<塗膜の製造>
得られた塗料を、基材として100μm厚のポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム表面に、乾燥後の膜厚が20μmとなるように塗工し、25℃で5分間静置した後、さらに140℃で30分間加熱乾燥させ、塗膜を得た。
【0066】
比較例5
CB−A 2部、塗料用樹脂 47部、メチルエチルケトン 23部、トルエン23部を均一になるように撹拌混合した後に、1mmのガラスビーズを用いてサンドミルにて5時間分散し、カーボンブラック分散液を得た。得られたカーボンブラック分散液 95.33部対してシリカ 2部、硬化剤3部を添加し、均一になるように撹拌混合し、塗料を得た。得られた塗料を実施例1と同様な方法により塗膜を得た。
【0067】
比較例6
黒色着色アクリルビーズ4部、塗膜形成用樹脂溶液47部、硬化剤3部、メチルエチルケトン23部、トルエン23部を均一になるように撹拌混合し、塗料を得た。得られた塗料を実施例1と同様な方法により塗膜を得た。
【0068】
<評価方法>
得られた塗料および塗膜に対して、以下に示す分散安定性、光沢、耐摩耗性、隠蔽性について評価を行い、結果を表4に示した。
<分散安定性>
上記実施例および比較例に示した塗料を、それぞれガラス瓶にとり、密栓し、25℃で静置した後の凝集物の有無を下記の基準に基づいて評価した。
◎:4日静置しても凝集物が認められなかった。極めて良好。
○:2〜3日静置後に凝集物の発生が認められた。良好。
×:1日静置後に凝集物の発生が認められた。不良。
【0069】
<光沢>
上記の方法によって得られた塗膜について、光沢計(VG−7000、日本電色工業社製)を用いてJIS K 5600−4−7:1999に基づいて60°鏡面光沢度の値(Gs)を測定し、下記の基準に基づいて評価した。
◎:60°鏡面光沢度が0.1%以上5%未満。極めて良好。
○:60°鏡面光沢度が5%以上15%以下。良好。
×:60°鏡面光沢度が15%を超える。不良。
【0070】
<耐摩耗性>
上記の方法によって得られた塗膜を22cm×3cmの大きさに切削して試験片を得た。この試験片を、染色堅ろう度摩擦試験機(FR−2、スガ試験機社製)を用いてJIS L0849:2013に規定された摩擦試験機 II 形(学振形)法に従い塗膜表面を摩擦し、摩擦試験を行った。摩擦試験前後それぞれの塗膜について60°鏡面光沢度を測定した。摩擦試験前の60°鏡面光沢度と摩擦試験後の60°鏡面光沢度との差の絶対値(ΔGs)を、下記の基準に基づいて判定した。
◎:ΔGsが0.1以上1未満。極めて良好。
○:ΔGsが1以上5以下。良好。
×:ΔGsが5を超える。不良。
【0071】
<隠蔽性>
上記の方法によって得られた塗膜について、マクベス濃度計(X−Rite 361T、サカタインクスエンジニアリング株式会社)を用いて光学濃度(OD)を測定した。なお、ODとは、隠蔽性を示す数値であり、数値が大きい程、隠蔽性が高く良好である。隠蔽性に関しては、下記の基準に従って評価した。
◎:5.0以上(隠蔽性が著しく高い)
○:3.0以上5.0未満(隠蔽性が高い)
×:3.0未満(隠蔽性が低い)
【0072】
表4に示すように、実施例1〜18では、塗料としての分散安定性、塗膜としての光沢、耐摩耗性共に良好だった。特に実施例1〜8、11〜18では、塗料としての分散安定性、塗膜の耐摩耗性からより好ましい。さらに実施例17、18は、隠蔽性からより好ましい。
【0073】
【表1】
【0074】
【表2】
【0075】
【表3】
【0076】
【表4】