(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
連続鋳造のタンディッシュから鋳型内に溶鋼を供給する浸漬ノズル内の溶鋼流量測定方法であって、前記浸漬ノズルの上部にスライディングノズル、さらにその上部に上ノズルを有し、前記上ノズル内溶鋼流と交差する交流磁場を励磁し、前記上ノズル内溶鋼流の流動方向と平行な方向の磁場又は磁場の時間変化を1箇所以上の箇所で検出し、検出した信号に基づき浸漬ノズル内の溶鋼流量を算出することを特徴とする浸漬ノズル内の溶鋼流量測定方法。
前記交流磁場の励磁は励磁コイルによって行い、励磁コイルの直径D、励磁する交流磁場の周波数fを下記(1)式、(2)式によって定めることを特徴とする請求項1に記載の浸漬ノズル内の溶鋼流量測定方法。
D≧2W (1)
f≦(1−0.2aH)2/(0.04πμσH2) (2)
ただし、W:励磁コイル位置における上ノズルのコイル幅方向内半径(m)、H:励磁コイル位置における上ノズルの励磁磁場方向内半径(m)、μ:真空の透磁率(N/A2)、σ:溶鋼の電気伝導度(S/m)、a:溶鋼非通過時の上ノズル内励磁磁場方向励磁磁場分布から定まる定数(m-1)
前記交流磁場を励磁する励磁コイルと、磁場又は磁場の時間変化を検出する検出器のペアを2組設置し、各組を上ノズルに対して相対して設置し、2組の検出結果に基づいて浸漬ノズル内の溶鋼流量を算出することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の浸漬ノズル内の溶鋼流量測定方法。
連続鋳造のタンディッシュから鋳型内に溶鋼を供給する浸漬ノズル内の溶鋼流量測定装置であって、前記浸漬ノズルの上部にスライディングノズル、さらにその上部に上ノズルを有し、前記上ノズル内溶鋼流と交差する交流磁場を励磁する励磁コイルと、前記上ノズル内溶鋼流の流動方向と平行な方向の磁場又は磁場の時間変化を1箇所以上の箇所で検出する検出器と、検出した信号に基づき浸漬ノズル内の溶鋼流量を算出する演算装置を有することを特徴とする浸漬ノズル内の溶鋼流量測定装置。
前記励磁コイルと検出器のペアを2組設置し、各組を上ノズルに対して相対して設置し、スライディングノズルの摺動方向と励磁コイルの軸方向が直交するように配置し、前記演算装置は2組の検出結果に基づいて浸漬ノズル内の溶鋼流量を算出することを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の浸漬ノズル内の溶鋼流量測定装置。
タンディッシュに接続する上ノズルに、請求項4乃至請求項6のいずれか1項に記載の浸漬ノズル内の溶鋼流量測定装置を設置してなることを特徴とする連続鋳造用タンディッシュ。
タンディッシュには2本の浸漬ノズルが接続され、少なくとも1本の浸漬ノズルに、請求項4乃至請求項6のいずれか1項に記載の浸漬ノズル内の溶鋼流量測定装置を設置してなることを特徴とする連続鋳造用タンディッシュ。
タンディッシュ内に開口を有するタンディッシュ堰を設け、タンディッシュ堰にて区分された取鍋溶鋼注入側を第1領域、その反対側を第2領域とし、第1領域と第2領域側とにはそれぞれ異なる成分組成の溶鋼を保持し、タンディッシュの一方の領域底部に内層溶鋼用浸漬ノズル、他方の領域底部に表層溶鋼用浸漬ノズルを配置し、
鋳型幅方向全幅にわたって厚み方向に直流磁場を印加する直流磁場発生装置を配置し、当該直流磁場発生装置によって形成される直流磁場帯をはさんだストランドの上部を上側溶鋼プール、下部を下側溶鋼プールとし、前記表層溶鋼用浸漬ノズルから上側溶鋼プールに溶鋼を供給し、内層溶鋼用浸漬ノズルから下側溶鋼プールに溶鋼を供給し、
表層溶鋼用浸漬ノズルと内層溶鋼用浸漬ノズルの少なくとも一方を有する注入ノズルに請求項4乃至請求項6のいずれか1項に記載の浸漬ノズル内の溶鋼流量測定装置を設け、
前記2つの浸漬ノズルそれぞれから、それぞれの溶鋼プール中で凝固によって消費される溶鋼量を鋳型内に供給するに際し、前記溶鋼流量測定装置を設けた側の浸漬ノズルにおいては当該浸漬ノズルが溶鋼を供給する溶鋼プール中で凝固によって消費される溶鋼量に見合った溶鋼流量となるように調整し、他方の浸漬ノズルにおいては鋳型内湯面レベルが一定となるように溶鋼流量を制御することを特徴とする複層鋳片の連続鋳造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一つの取鍋、一つのタンディッシュにて連続鋳造用溶鋼を供給し、鋳片表層部の合金元素濃度が内部と比較して異なる複層状の連続鋳造鋳片を鋳造する連続鋳造方法が提案されている。当該方法で用いるタンディッシュでは、タンディッシュの溶鋼プール内に開口を有するタンディッシュ堰を設け、溶鋼プールを2つのゾーンに分割する。2つの溶鋼プールのうち、取鍋溶鋼注入流から遠い側のプール内に所定の元素を連続的に添加し濃度を調整することで、タンディッシュ堰の両側のプールに異なる成分組成からなる2種類の溶鋼を保持する。各溶鋼プールの底部にそれぞれ浸漬ノズルを配置する。鋳型下方のストランドにおいては、ストランド幅方向全幅にわたって配置された直流磁場発生装置によって、ストランドに直流磁場帯を形成し、鋳造方向のストランドを直流磁場帯の上側と下側に分割する。タンディッシュ底部に設けた2つの浸漬ノズルのうち、追加元素を添加した側の浸漬ノズル(表層溶鋼用浸漬ノズル)からは直流磁場帯の上側溶鋼プールに溶鋼を供給し、取鍋溶鋼注入流側の浸漬ノズル(内層溶鋼用浸漬ノズル)からは直流磁場帯の下側溶鋼プールに溶鋼を供給する。それぞれの浸漬ノズルから供給する溶鋼の成分が異なるので、鋳片の表層と内層の成分組成が異なる複層鋳片を製造することができる。
【0010】
鋳型当たりで1本の浸漬ノズルを用いる通常の連続鋳造であれば、タンディッシュから浸漬ノズルを経由して鋳型内に注入する溶鋼注入量の調整に際し、鋳型内湯面位置が一定になるように調整することにより、自動的に鋳造量と等しい量の溶鋼を供給することができる。それに対して、鋳型当たりで2本の浸漬ノズルから溶鋼を供給する場合、それぞれの浸漬ノズルからの溶鋼供給量のバランスを調整する必要がある。
【0011】
これに対して、2本の浸漬ノズルのうちの少なくとも一方について、当該浸漬ノズルを通じて供給する溶鋼流量実績が計測できれば、他方については鋳型内湯面レベルを一定となるように制御することで、結果として、それぞれの浸漬ノズルからの流量実績がより正確に目標溶鋼流量に一致するように流量制御が可能になるので好ましい。
【0012】
本発明は、タンディッシュから鋳型内に溶鋼を供給する浸漬ノズル内の流量を非接触で測定する、浸漬ノズル内溶鋼流量測定方法及び流量測定装置、並びにそれを用いた連続鋳造用タンディッシュを提供することを目的とする。また、上記浸漬ノズル内溶鋼流量測定方法及び流量測定装置を用いて、鋳片の表層と内層の成分組成が異なる複層鋳片を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
即ち、本発明の要旨とするところは以下のとおりである。
(1)連続鋳造のタンディッシュから鋳型内に溶鋼を供給する浸漬ノズル内の溶鋼流量測定方法であって、前記浸漬ノズルの上部にスライディングノズル、さらにその上部に上ノズルを有し、前記上ノズル内溶鋼流と交差する交流磁場を励磁し、前記
上ノズル内溶鋼流の流動方向と平行な方向の磁場又は磁場の時間変化を1箇所以上の箇所で検出し、検出した信号に基づき浸漬ノズル内の溶鋼流量を算出することを特徴とする浸漬ノズル内の溶鋼流量測定方法。
(2)前記交流磁場の励磁は励磁コイルによって行い、励磁コイルの直径D、励磁する交流磁場の周波数fを下記(1)式、(2)式によって定めることを特徴とする(1)に記載の浸漬ノズル内の溶鋼流量測定方法。
D≧2W (1)
f≦(1−0.2aH)
2/(0.04πμσH
2) (2)
ただし、W:励磁コイル位置における上ノズルのコイル幅方向内半径(m)、H:励磁コイル位置における上ノズルの励磁磁場方向内半径(m)、μ:真空の透磁率(N/A
2)、σ:溶鋼の電気伝導度(S/m)、a:溶鋼非通過時の上ノズル内励磁磁場方向励磁磁場分布から定まる定数(m
-1)
(3)前記交流磁場を励磁する励磁コイルと、磁場又は磁場の時間変化を検出する検出器のペアを2組設置し、各組を上ノズルに対して相対して設置し、2組の検出結果に基づいて浸漬ノズル内の溶鋼流量を算出することを特徴とする(1)又は(2)に記載の浸漬ノズル内の溶鋼流量測定方法。
(4)連続鋳造のタンディッシュから鋳型内に溶鋼を供給する浸漬ノズル内の溶鋼流量測定装置であって、前記浸漬ノズルの上部にスライディングノズル、さらにその上部に上ノズルを有し、前記上ノズル内溶鋼流と交差する交流磁場を励磁する励磁コイルと、前記
上ノズル内溶鋼流の流動方向と平行な方向の磁場又は磁場の時間変化を1箇所以上の箇所で検出する検出器と、検出した信号に基づき浸漬ノズル内の溶鋼流量を算出する演算装置を有することを特徴とする浸漬ノズル内の溶鋼流量測定装置。
(5)前記励磁コイルの直径D、励磁する交流磁場の周波数fを下記(1)式、(2)式によって定めることを特徴とする(4)に記載の浸漬ノズル内の溶鋼流量測定装置。
D≧2W (1)
f≦(1−0.2aH)
2/(0.04πμσH
2) (2)
ただし、W:励磁コイル位置における上ノズルのコイル幅方向内半径(m)、H:励磁コイル位置における上ノズルの励磁磁場方向内半径(m)、μ:真空の透磁率(N/A
2)、σ:溶鋼の電気伝導度(S/m)、a:溶鋼非通過時の上ノズル内励磁磁場方向励磁磁場分布から定まる定数(m
-1)
(6)前記励磁コイルと検出器のペアを2組設置し、各組を上ノズルに対して相対して設置し、スライディングノズルの摺動方向と励磁コイルの軸方向が直交するように配置し、前記演算装置は2組の検出結果に基づいて浸漬ノズル内の溶鋼流量を算出することを特徴とする(4)又は(5)に記載の浸漬ノズル内の溶鋼流量測定装置。
(7)タンディッシュに接続する上ノズルに、(4)乃至(6)のいずれかひとつに記載の浸漬ノズル内の溶鋼流量測定装置を設置してなることを特徴とする連続鋳造用タンディッシュ。
(8)タンディッシュには2本の浸漬ノズルが接続され、少なくとも1本の浸漬ノズルに、(4)乃至(6)のいずれかひとつに記載の浸漬ノズル内の溶鋼流量測定装置を設置してなることを特徴とする連続鋳造用タンディッシュ。
(9)タンディッシュ内に開口を有するタンディッシュ堰を設け、タンディッシュ堰にて区分された取鍋溶鋼注入側を第1領域、その反対側を第2領域とし、第1領域と第2領域側とにはそれぞれ異なる成分組成の溶鋼を保持し、タンディッシュの一方の領域底部に内層溶鋼用浸漬ノズル、他方の領域底部に表層溶鋼用浸漬ノズルを配置し、
鋳型幅方向全幅にわたって厚み方向に直流磁場を印加する直流磁場発生装置を配置し、当該直流磁場発生装置によって形成される直流磁場帯をはさんだストランドの上部を上側溶鋼プール、下部を下側溶鋼プールとし、前記表層溶鋼用浸漬ノズルから上側溶鋼プールに溶鋼を供給し、内層溶鋼用浸漬ノズルから下側溶鋼プールに溶鋼を供給し、
表層溶鋼用浸漬ノズルと内層溶鋼用浸漬ノズルの少なくとも一方を有する注入ノズルに(4)乃至(6)のいずれかひとつに記載の浸漬ノズル内の溶鋼流量測定装置を設け、
前記2つの浸漬ノズルそれぞれから、それぞれの溶鋼プール中で凝固によって消費される溶鋼量を鋳型内に供給するに際し、前記溶鋼流量測定装置を設けた側の浸漬ノズルにおいては当該浸漬ノズルが溶鋼を供給する溶鋼プール中で凝固によって消費される溶鋼量に見合った溶鋼流量となるように調整し、他方の浸漬ノズルにおいては鋳型内湯面レベルが一定となるように溶鋼流量を制御することを特徴とする複層鋳片の連続鋳造方法。
【発明の効果】
【0014】
連続鋳造のタンディッシュから鋳型内に溶鋼を供給する浸漬ノズル上部の上ノズル内溶鋼流と交差する交流磁場を励磁し、溶鋼流の流動方向と平行な方向の磁場又は磁場の時間変化を1箇所以上の箇所で検出し、検出した信号に基づき上ノズル内の溶鋼流量を算出することにより、浸漬ノズル内の溶鋼流量を非接触で検出することが可能となる。
【0015】
また、一つの取鍋、一つのタンディッシュにて連続鋳造用溶鋼を供給し、鋳片表層部の合金元素濃度が内部と比較して異なる複層状の連続鋳造鋳片を鋳造するに際し、本発明の溶鋼流量測定を用いることにより、鋳片の表層と内層の成分組成が異なる溶鋼流量を正確に制御し、複層鋳片を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
管内を流れる導電性流体の流量を測定する流量計としては、直流磁場中を導電性流体が移動する際に生じる誘導起電力を管内に電極を設けて測定する電磁流量計が一般的である。ただし、測定対象流体が溶鋼である場合、溶鋼は高温であるため、導電性を兼ね備え、耐溶損性、耐食性を併せ持つ材料はない。その一方で、磁場中を導電性流体が移動する際に生じる誘導電流が形成する誘導磁場によって磁場がゆがむことが『磁場の速度効果』として知られており、特許文献2には、この原理を活用して、連続鋳造プロセスにおいて溶鋼を鋳込む鋳型内溶鋼流の表面の流速等を測定する流速測定方法及び装置に関するものが開示されている。
【0018】
図2(A)に示すように、磁場B
E中で溶鋼流6が速度vで磁場B
Eを横切るように動くと、その溶鋼中にE
V =v×B
Eなる速度起電力が磁場B
Eと速度vの両方に垂直な方向に生じる。この速度起電力E
Vにより、溶鋼中に誘導電流J
Vが誘起され、誘導電流に起因する誘導磁場B
Vが発生する。本発明は、この原理を用いて、浸漬ノズル内を流れる溶鋼流量を非接触で計測するものである。
【0019】
図3には、ノズル4内を充満する溶鋼が下方に向かう溶鋼流6を形成している状況を示す。
図3に示すように、本発明の流速測定方法及び測定装置では、ノズル4内溶鋼流6に対し、溶鋼流6と交差する交流磁場B
Eを励磁する。交流磁場B
Eの励磁は励磁コイル2によって行う。励磁コイルの中心軸51が溶鋼流6と直交するように配置して磁場を励磁すると最も好ましい。以下、励磁コイルの中心軸51が溶鋼流6と直交するように配置された場合を例にとり、溶鋼流内の、励磁コイルの中心軸51上の任意の点における励磁磁場B
Eを例にとって、作用について説明する。
【0020】
磁場B
E中で溶鋼が速度vで磁場B
Eを横切るように流れるので、溶鋼中には、速度vと磁場B
Eの両方に直交する方向に誘導電流J
Vが誘起される(
図2(A))。誘導電流J
Vに起因する誘導磁場B
Vは、誘導電流J
Vを中心にした同心円状の磁場を形成し、ノズル4の外側で観察できる。ノズル4の外側において、誘導磁場B
Vの主な方向は溶鋼流6の流動方向の平行方向にあることから、検出器3は、溶鋼流6の流動方向と平行な方向の磁場又は磁場の時間変化を検出することとする。誘導磁場B
Vを検出する検出器3としては、磁場そのもの又は磁場の時間変化を検出する検出器3を用いることができる。好ましくは、検出器3として検出コイル3aを用いることにより、磁場の時間変化を検出することができる。検出コイルの中心軸52と溶鋼流6の方向が平行ないし平行に近い角度とすると好ましい。これにより、溶鋼流6の流動方向と平行な方向の磁場の時間変化を検出することができる。以下、検出器3が検出コイル3aである場合を例にとって説明する。
【0021】
検出コイル3aの設置位置として好ましくは、励磁コイル2とノズル4の間に設置し、検出コイルの中心軸52がノズル4の溶鋼流6と平行になるように配置する。検出コイル3aは1個としてもよく、あるいは複数の検出コイル3aを設置した上で検出信号の和信号を採取することとしても良い。
【0022】
ここで、励磁コイル2に交流の励磁電流を供給し、ノズル4の溶鋼流6に対し垂直な磁場B
Eを励磁する。すると、溶鋼流の中に誘導電流J
Vが流れる。
図2(B)では、溶鋼流中の2箇所の誘導電流(J
V1、J
V2)について例示している。誘導電流J
V1による誘導磁場Bv
11とBv
12を図示している。誘導電流J
V2による誘導磁場Bv
2を図示している。誘導磁場Bv
12とBv
2は、励磁コイル2の直下の検出コイル3aの位置では溶鋼流6に平行となっており、これらの誘導磁場B
Vを、溶鋼流6に平行に配置した検出コイル3aで検出する。この検出した磁場又は磁場の時間変化の大きさは溶鋼流6の流速に対応しているので、これから溶鋼流6の流速を測定することができる。実際には
図3に示すように、検出コイル3aの出力信号を、ロックインアンプ17等を用いて励磁電流と−90゜ずれた位相の成分を検波し、流速測定の元となる流速元信号とする。ここでは磁場の検出に検出コイル3aを用いており、検出コイル3aで検出する信号は磁場B
Eの時間変化であることから、励磁コイル2による励磁磁場B
Eと検出コイル3aの検出電圧とに−90゜の位相差があるため、−90゜ずれた位相成分を検波する。
【0023】
溶鋼流量測定装置1の回路は
図3のように、波形発生器15によって正弦波を発生させ、パワーアンプ16を介して励磁コイル2に励磁電流を供給する。ここでは励磁周波数は3Hzとした。検出コイル3aでの検出信号は、所定帯域幅のバンドパスフィルタにより、不要帯域のノイズ信号をあらかじめ除去した後に、ロックインアンプ17によって、励磁コイル2への励磁電流に対し−90°ずれた位相の成分が検波される。この検波用の基準位相信号が波形発生器15からロックインアンプ17に供給される。そしてロックインアンプ17による検波後の信号が流速測定の元となる流速元信号である。流速元信号は演算装置14としてのコンピュータ18に送られ、ノズル4内の溶鋼流量が計算される。
【0024】
ノズル内の溶鋼通路に充満して通過する溶鋼流に、励磁コイルによる励磁磁場が交差している。ノズル内の溶鋼流のうち、励磁コイルに近い側から遠い側まで、励磁磁場が浸透する範囲内の各位置における溶鋼流が誘導電流を形成し、各位置における誘導電流が形成した誘導磁場の総和が、検出コイルによって検出される。ここでは、励磁コイル中心軸方向の各位置における現象が、検出コイルによってどのように検出されるかについて、計算に基づいて検証する。
【0025】
ここでは
図2(A)に示すように、励磁コイルの中心軸51方向を「奥行き方向61」と名付ける。そして、奥行き方向61と高さ方向62の両方に直角の方向を、「幅方向60」と名付ける。
【0026】
図3に示すように、ノズル4内溶鋼流路5の半径Rが60mm、励磁コイル2の磁場周波数f=3Hzの場合について検討した。検出コイル3aを励磁コイル2とノズル4外壁の間に設置し、検出コイルの中心軸52方向を高さ方向62とし、溶鋼流方向に平行に配置するものとした。流路内の奥行き方向61距離xを、励磁コイル2に近い側の内壁19でx=0、溶鋼流路5の奥行き方向61中心位置をx=R=60mmとした。
【0027】
ノズル4の溶鋼流路5内を充満して通過する溶鋼流6は、ノズルの内壁19付近において境界層を形成し、内壁19に接する位置(x=0)で流速が0であり、境界層以外の部分では平均流速に近い流速を有する。タンディッシュから鋳型に溶鋼を注入するノズル内の溶鋼流は、レイノルズ数が3000以上であり、乱流状態にある。そこで、乱流状態でのノズル内の溶鋼流の流速分布を、数値計算によって求めた。横軸をノズル内壁からの距離比x
r=x/R、縦軸を、流速比v
r=(xにおける流速)/(ノズル中心での流速)として、計算結果を
図4に示す。
図4から明らかなように、流速比v
rが小さくなる境界層部分は、ノズル内壁からの距離比x
rが0〜0.1程度の範囲に収まっており、ノズル内壁(x
r=0)から距離比x
r=0.2(x=0.2R)程度までの溶鋼流の流速が計測できれば、ノズルの溶鋼流路内の溶鋼流速を十分に再現性良く計測できることがわかった。
【0028】
内径120mm(R=60mm)のノズル表面に垂直に交流磁場を印加することを想定した。励磁コイル2によって、溶鋼が充満した溶鋼流路5内に励磁される磁場B
Eは、コイルからの距離が遠くなるほど減少する。溶鋼流路内に励磁される磁場B
Eについて、ノズルの内壁19における励磁磁場をB
E0とする。ここではまず、距離x=0.2Rにおいて、B
E/B
E0=1/e(eは自然対数の底)となるように、励磁コイル2の形状を選定した。磁場周波数は上述のように3Hzである。
【0029】
数値計算によると、ノズル内半径方向の溶鋼流速分布は
図5に示すような流速分布と推定されている。次に、x=0からx=60mmまでの各位置の励磁磁場B
E/B
E0を計算すると、
図6(A)のようになった。内壁19から0.2Rである距離x=12mmにおいて、B
E/B
E0=1/eとなっている。そして、励磁磁場B
Eと、流速が
図5に示す分布である溶鋼流に基づく誘導磁場B
Vが、ノズル外壁付近に設置した検出コイル3aで検出される強度をセンサー信号指標とし、誘導磁場B
Vの元となる誘導電流J
Vが位置するxの値ごとに計算で求めたセンサー信号指標を縦軸、xを横軸にとって図示すると、
図6(B)のようになる。x=0の付近では溶鋼流速分布に起因してセンサー信号指標が右上がりの勾配を有し、境界層よりも中心側においては、xが大きくなるほどセンサー信号指標が低下するが、内壁19から0.2Rである距離x=12mmにおいて、溶鋼流6に起因するセンサー信号指標も十分に大きな値となっており、x=0からx=0.2Rまでの溶鋼流速起因の誘導磁場B
Vを十分に検出できることが明らかである。実際の検出では、xの各位置ごとの信号が採取できるのではなく、全信号の積算値がセンサーの信号となるが、
図6(C)には各部位の寄与を示した。
【0030】
次に、距離x=0.5Rにおいて、B
E/B
E0=1/e(eは自然対数の底)となるように、励磁コイル2の形状を選定した。磁場周波数は同じく3Hzである。この場合、励磁磁場B
E/B
E0の分布は
図7(A)であり、内壁19から0.5Rである距離x=30mmにおいて、B
E/B
E0=1/eとなっている。センサー信号指標の分布が
図7(B)、各部位の寄与を示したのが
図7(C)である。
図6の場合と比較し、励磁磁場B
Eが溶鋼流路内のより深くまで浸透する条件を選定した結果として、より深い位置までの溶鋼流の流速を積算値の中に反映させることができる。
【0031】
さらに、上記
図6の場合(x=0.2RでB
E/B
E0=1/e)と
図7の場合(x=0.5RでB
E/B
E0=1/e)のそれぞれについて、ノズル内の溶鋼流量を種々変化させ、各溶鋼流量におけるx方向の流速分布を算出し、算出した流速分布に応じてセンサー信号指標を計算し、センサー信号指標の積算値(センサー積算信号指数)を算出した。センサー信号指標を計算するに際し、規準センサー信号強度としてはいずれの条件でも同じ値を用いた。溶鋼流量(相対比)とセンサー積算信号指数との関係については、
図8に示すように、原点をとおる直線関係にあることから、センサー積算信号指数によって溶鋼流量の測定が可能であることがわかる。
【0032】
タンディッシュに収容した溶鋼は、タンディッシュ底部から流出し、浸漬ノズルを経由して鋳型内溶鋼中に供給される。鋳型内に供給する溶鋼量の調整には、ストッパーを用いる場合とスライディングノズルを用いる場合がある。ここでは、スライディングノズルを用いる場合について
図9、
図10によって説明する。タンディッシュ底部13には、溶鋼を流出させるための上ノズル9が設けられ、その下にスライディングノズル10、さらにその下に浸漬ノズル12が連接して配置される。ここでは、上ノズル9、スライディングノズル10、浸漬ノズル12の集合体を総称して注入ノズル8と呼ぶ。スライディングノズル10は、複数のスライディングノズルプレート11を有する。
図9、
図10に示す例では、スライディングノズル10には上プレート11a、センタープレート11b、下プレート11cの3枚のスライディングノズルプレート11が配置されている。それぞれのプレートは溶鋼通過口を有し、上プレート11aと下プレート11cを固定してセンタープレート11bを摺動させることにより、3枚のプレートの溶鋼通過口の位置を調整することにより、開口部50の面積を変動させ、溶鋼注入量を調整している。
【0033】
注入ノズル8内の溶鋼流6については、溶鋼が注入ノズル内に充満して流れている状態(充満流48)になることがある一方、注入ノズル内の空間に溶鋼が充満せず、離散的に溶鋼が落下する状態(非充満流49)になることもある。スライディングノズル10を有する注入ノズル8においては、
図10に示すように、タンディッシュ底部13の上ノズル9から注入ノズル吐出孔47までの間には継ぎ目があり、特にスライディングノズル10には複数の継ぎ目があり、継ぎ目部からは注入ノズル内に空気あるいは継ぎ目部周囲に吹き付けている不活性ガスが流入する。そのため、スライディングノズル10よりも下方の注入ノズル内には、連続鋳造中は継続して非充満流49が形成されることとなる。一方、スライディングノズル10よりも上方の上ノズル9内については、非充満流とはならず、
図10に示すように充満流48が形成される。
【0034】
本発明においては、注入ノズル8の溶鋼流量測定を行う部分において、溶鋼流6が非充満流49であると測定精度が不十分となるため、測定精度を向上させるためには、充満流48の部分において流量測定を行うことが好ましい。そして上述のように、スライディングノズル10より上方の上ノズル9内の溶鋼流路については充満流48が形成されるので、本発明では、上ノズル9内の溶鋼流路5に形成される溶鋼流について、溶鋼流量測定を行うこととした。これにより、励磁コイル2で磁場を励磁する位置も充満流48となり、本発明の溶鋼流量測定を十分な精度で行うことが可能となる。この場合には、上ノズル内にはガス吹き込みを行わないことも必要である。スライディングノズル10よりも下方においては、ガス吹き込みを行っても良い。
【0035】
本発明の溶鋼流量測定においては、ノズルの溶鋼流路5断面におけるできるだけ多くの部分の溶鋼流6を流量測定の対象とすることが好ましい。そこで、ノズルの溶鋼流路の形状との関係において、好ましい測定条件を検討した。前述の検討では、溶鋼流路を半径Rの円形としたが、実際の溶鋼流路は円形とは限らない。そこで、溶鋼流路の断面が円形ではない場合も含めた好ましい条件を定めることとした。
まず、ノズル4の幅方向60(励磁ノズル中心軸51に垂直な水平方向)について検討する。
図1(A)に示すように、励磁コイル2位置におけるノズル4の幅方向60内径の半分(上記のように励磁コイルの中心軸51に垂直な水平方向)をWとする。溶鋼流路5が半径Rの円形であれば、W=Rとなる。励磁コイル2の直径をDとしたとき、
D≧2W (1)
を満足すると好ましい。励磁コイル2によって励磁された磁場は、少なくとも励磁コイル直径Dよりも広い幅で磁場が形成されるので、(1)式を満たす場合には、ノズル4のコイル幅方向内半径Wの全域にわたって励磁磁場を受けることとなり、幅方向全域の溶鋼流が流速測定の対象となるので好ましい。
【0036】
次に、ノズル4の励磁磁場方向(奥行き方向61)について検討する。励磁コイル位置におけるノズルの奥行き方向61内半径をHとする。溶鋼流路5が半径Rの円形であれば、H=Rとなる。前述と同様、溶鋼流路5内の奥行き方向61距離xを、励磁コイル2に近い側の内壁19でx=0、励磁コイルから遠い側の内壁19でx=2H=2R、溶鋼流路5の奥行き方向61中心位置をx=H=Rとおく(
図1、
図3参照)。
【0037】
励磁コイル2の外側における磁力線の分布に起因して、ノズルが配置された位置において、励磁された磁場の強さは、励磁コイル2から距離が離れるに従って弱くなる。ノズル内に溶鋼が流通していない状態において、磁場の強さを距離xで表すと、近似的に
磁場の強さ∝exp(−ax) (2a)
と表すことができる。aは定数である。定数aの値は、励磁コイル2の内径、外形、ターン数とコイル中心からの距離などによって定まるものであり、磁場解析の結果や磁場測定結果を指数関数で近似することによって求めることができる。
【0038】
ノズル4の溶鋼流路5内に溶鋼が存在する状況では、励磁された交流磁場が溶鋼中で減衰し、距離xにおける減衰の程度は、表皮深さδによって
exp(−x/δ) (2b)
で表される。
【0039】
以上を総合すると、ノズル4の内壁19から距離xの位置における励磁磁場B
Eの大きさは、上記2つのファクターの積に比例するとして以下のように表すことができる。
B
E∝exp(−ax)×exp(−x/δ)
=exp(−(a+1/δ) x) (3)
ここで表皮深さδは、
δ=√(1/(πσμf)) (4)
で表される。σ:電気伝導度、μ:真空の透磁率、f:励磁磁場の周波数である。
【0040】
ノズル4内の溶鋼流量をできるだけ正確に評価するためには、x=0.2H、即ちノズル4の内壁19から奥行き方向61に0.2H位置の励磁磁場B
Eの大きさが、x=0における励磁磁場B
E0の大きさの1/e(eは自然対数の底)より大きいと好ましい。そして、そのような条件を確保するためには、上記(3)式、(4)式から、
(a+1/δ)(0.2H)≦1 (5)
となり、この式に(4)式のδを代入して周波数fについて解くと、
f≦(1−0.2aH)
2/(0.04πσμH
2) (2)
が得られる。即ち、上記(2)式を満たすように励磁周波数f、励磁コイルの磁場分布を示す定数aを適切に選択することにより、励磁コイル2位置におけるノズル4の奥行き方向61内半径Hの0.2倍位置の励磁磁場B
Eまで含めて、十分な精度で検出が可能となるので好ましい。
【0041】
なお、このように奥行き方向61に減衰した励磁磁場B
Eと溶鋼流動に基づいて、誘導電流J
Vが流れる。誘導電流J
Vによる誘導磁場B
Vはやはり溶鋼中で減衰し、距離xの溶鋼中での減衰程度は同じく
exp(−x/δ) (6)
で表される。上記のように、溶鋼流路の奥行き方向0.2Hの深さまで励磁磁場B
Eが確保される条件を選定することにより、検出される誘導磁場B
Vについても、0.2Hの深さまでの溶鋼流速を検出するに十分な強度を確保することができる。
【0042】
上述のように、上記(2)式を満たすように励磁周波数fを定めることにより、励磁コイル位置におけるノズル4の奥行き方向61で0.2Hの深さまでの溶鋼流6に起因する誘導磁場を検出することができる。従って、ノズル4の溶鋼流路5断面のできるだけ多くの部分について溶鋼流速を検出しようとする場合、
図9、
図10に示すように、交流磁場を励磁する励磁コイル2と、磁場又は磁場の時間変化を検出する検出器3のペアを2組設置し、各組をノズル(上ノズル9)に対して相対して設置し、2組の検出結果に基づいて浸漬ノズル内の溶鋼流量を算出することとすると好ましい。
【0043】
なお、スライディングノズル10の上方に配置された上ノズル9内の溶鋼流で流速測定を行うに際し、溶鋼流路内の流速は、溶鋼流路中心に対して回転対称にならない可能性がある。即ち、スライディングノズルプレート11の溶鋼通過口の重なりにより、上ノズルの溶鋼通路の断面のうちの一部のみに開口部50が形成される場合は、上ノズル9の溶鋼流路のうちで開口部50が形成された側の流速が速くなり、当該位置の反対側では流速が遅くなることが考えられる。そこで本発明では
図9に示すように、上ノズル9の中心軸を回転軸として、スライディングノズルの摺動方向63が、励磁コイル2の中心軸51と90度の角度となるように配置すると好ましい。これにより、上ノズル内の溶鋼流速の不均一を極力排除し、上ノズル内の溶鋼平均流速に近い値を得ることができる。励磁コイルと検出器のペアを2組配置する場合には、上ノズルを挟み込むように配置すると良い。
【0044】
以上説明した溶鋼流量測定方法を適用することにより、連続鋳造のタンディッシュから鋳型内に溶鋼を供給する浸漬ノズル内の溶鋼流量測定装置1であって、浸漬ノズル12の上部にスライディングノズル10、さらにその上部に上ノズル9を有し、上ノズル9内溶鋼流と交差する交流磁場を励磁する励磁コイル2と、溶鋼流の流動方向と平行な方向の磁場又は磁場の時間変化を1箇所以上の箇所で検出する検出器3と、検出した信号に基づき浸漬ノズル内の溶鋼流量を算出する演算装置14を有することを特徴とする浸漬ノズル内の溶鋼流量測定装置1とすることができる。
【0045】
励磁コイル2、検出コイル3aについては、セラミックス製のボビンにコイルを巻いた空心タイプのものを用いるものの他、フェライト等の磁性体にコイルを巻いた磁心タイプのものを用いてもかまわない。また誘導磁場又は磁場の時間変化を検出する検出器3として、検出コイル3aでなくホール素子等の他の磁気センサを使用してもよい。さらに、演算装置14としてコンピュータ上のソフトウェアで処理する方法の他、ソフトウェアの代わりにハードウェア(例えば適当なアナログ回路等)を用いて処理してもかまわない。また各検出コイルからの信号を検波するのに、ロックインアンプを用いる方法の他、各信号の求めたい位相の成分を検出できれば、ロックインアンプでなくてもよく、例えば代わりに同期検波器などを用いても良い。
【0046】
タンディッシュ22に接続する注入ノズル8に、上記本発明の浸漬ノズル内の溶鋼流量測定装置1を設置してなる連続鋳造用タンディッシュは、注入ノズル8を通過する溶鋼流量を測定しつつ連続鋳造を行うことができるので好ましい。
【0047】
次に、一つの取鍋21、一つのタンディッシュ22にて連続鋳造用溶鋼を供給し、鋳片表層部の合金元素濃度が内部と比較して異なる複層状の連続鋳造鋳片を鋳造する連続鋳造方法において、本発明の浸漬ノズル内の溶鋼流量測定装置1を適用する発明について、
図11に基づいて説明する。
【0048】
まず、鋳型23内のメニスカス37の下方の所定位置に直流磁場発生装置28を配置し、直流磁場帯34を形成する。直流磁場帯34においては、磁力線が鋳片の厚み方向に向かう直流磁場を印加し、磁束密度は鋳型幅方向にほぼ均一とする。このような直流磁場帯34を形成することにより、直流磁場帯34を通過しようとする溶鋼には電磁ブレーキがかかり、直流磁場帯34上方の上側溶鋼プール35と下方の下側溶鋼プール36とが事実上遮断されることとなる。上側溶鋼プール35で凝固した凝固シェルが鋳片の表層部44を形成し、下側溶鋼プールで凝固した凝固シェル43が鋳片の内層部45を形成する。そして、直流磁場帯34部分における凝固シェル43の厚さdが、鋳片の表層部の厚さに該当する。従って、直流磁場帯34を配置するメニスカスからの高さhは、目標とする表層部の厚さd、鋳型内における凝固係数K、鋳造速度V
Cに基づいて定めることとなる。
【0049】
そのうえで、その直流磁場帯34の上下それぞれに溶鋼を供給するために2本の浸漬ノズル(25、26)を設置し、それぞれの溶鋼プールにおいて凝固する溶鋼量だけ、各浸漬ノズルから溶鋼を供給することで、表層と内層の成分組成が異なる鋳片が鋳造できる。直流磁場帯34の磁束密度は、上側溶鋼プール35と下側溶鋼プール36との間の溶鋼の入れ替わりを最小限にすることのできる磁束密度を選択する。直流磁場帯34の磁束密度が0.3T(テスラ)以上であれば、十分に溶鋼の入れ替わりを抑止することができる。
【0050】
図11に示したように、開口30を有するタンディッシュ堰24によってタンディッシュ22を複数領域に、すなわち、取鍋からの第1溶鋼41を受ける第1領域31と、第1溶鋼41にワイヤー等によって所定元素あるいはその合金を添加し成分調整を行う第2領域32の2つの領域にわける。
図11に示す例では、第1領域31には、取鍋注入流33位置と内層溶鋼用浸漬ノズル25が配置され、第2領域32には表層溶鋼用浸漬ノズル26が配置される。内層溶鋼用浸漬ノズル25からは第1溶鋼41を下側溶鋼プール36へ注入する。表層溶鋼用浸漬ノズル26からは第2溶鋼42を上側溶鋼プール35へ注入する。
【0051】
このようにすることで、タンディッシュ内の第1領域31では取鍋注入流33から内層溶鋼用浸漬ノズル25への溶鋼流が形成されるのに対し、タンディッシュ堰24で区画した第2領域32に成分添加装置27によって所定の元素あるいは合金をワイヤー等によって連続的に添加して含有成分を調整し、第2溶鋼42をつくる。その結果、1つのタンディッシュ内で2種類の溶鋼:第1溶鋼41、第2溶鋼42を保持することが可能となる。
【0052】
本発明において、
図11に模式的に示す例では、鋳型幅全体にわたって形成される直流磁場帯34によってストランドを上側溶鋼プール35と下側溶鋼プール36の2つに分割し、上側溶鋼プール35には表層溶鋼用浸漬ノズル26から第2溶鋼42を注入し、下側溶鋼プール36には内層溶鋼用浸漬ノズル25から第1溶鋼41を注入する。内層溶鋼用浸漬ノズル25から下側溶鋼プール36に供給する溶鋼量をQ
1、表層溶鋼用浸漬ノズル26から上側溶鋼プール35に供給する溶鋼量をQ
2とする。合計溶鋼量Qは
Q=Q
1+Q
2
である。
【0053】
本発明においては、溶鋼量Q
1、溶鋼量Q
2の一方について、本発明の溶鋼流量測定装置1を用いて溶鋼流量を実測し、溶鋼流量制御を行う。ここではまず、上側溶鋼プール35に供給される第2溶鋼の溶鋼量Q
2について、本発明の溶鋼流量測定装置1を用いて溶鋼流量制御を行う場合について説明する。
【0054】
直流磁場帯34の位置において、鋳片の表面側には第1溶鋼プールの溶鋼が凝固した凝固シェル(上側溶鋼プール凝固部分)が形成されている。直流磁場帯位置における凝固シェル断面積をS
2とする。この凝固シェル断面積S
2が、鋳造後鋳片の表層部44面積S
2となる。鋳片表面積のうちの表層部面積S
2以外の部分が内層部45面積S
1であり、S
1とS
2を足した値が鋳片断面積となる。
【0055】
予め、適用する連続鋳造装置における鋳型内での凝固係数K(mm/min
0.5)を確認しておく。メニスカス37から直流磁場帯34までの高さh、鋳造速度V
Cを定めることにより、直流磁場帯34における凝固シェル厚さdが
d=K√(h/V
C)
として求まる。求まった直流磁場帯における凝固シェル厚さdを用いて、直流磁場帯における凝固シェル断面積S
2が定まり、鋳片断面積との差で前述のS
1が定まり、
G
2=ρ
2S
2V
C
によってG
2が定まるので、
Q
2=G
2
となるように、表層溶鋼用浸漬ノズル26からの溶鋼量Q
2を定めればよい。ρ
2は第2溶鋼42の密度である。表層溶鋼用浸漬ノズル26上部の上ノズル9に本発明の溶鋼流量測定装置1を設置し、計測した溶鋼流量実績値が上記溶鋼量Q
2に一致するように流量制御する。
【0056】
その上で、成分調整された第1溶鋼41を下側溶鋼プール36に供給する内層溶鋼用浸漬ノズル25の流量調整において、湯面レベル計46で計測した鋳型内湯面レベルが一定となるように溶鋼量Q
1を制御する。これにより、鋳型内の下側溶鋼プール36では、供給される溶鋼量(Q
1)と、凝固シェルとして排出される時間あたり輸送量(G
1)がバランスするとともに、上側溶鋼プール35では、供給される溶鋼量(Q
2)と凝固シェルとして排出される時間あたり輸送量(G
2)がバランスする。そのため、直流磁場帯を通過して混合する溶鋼流が生じないので、
図11の上側溶鋼プール35と下側溶鋼プール36の界面を安定的に維持することができる。Q
1とQ
2のバランスによって決まる上側溶鋼プール35と下側溶鋼プール36の界面を直流磁場帯の範囲内に制御する。
【0057】
鋳型内への溶鋼供給量制御方法としてあるいは、内層溶鋼用浸漬ノズル25上部の上ノズルに本発明の溶鋼流量測定装置1を設置し、内層溶鋼用浸漬ノズル25からの溶鋼量Q
1が下側溶鋼プール凝固量G
1となるように溶鋼流量制御を行い、表層溶鋼用浸漬ノズル26の溶鋼流量制御については、鋳型内の湯面レベルが一定になるように制御することとしても良い。また、
図11に示す例と異なり、タンディッシュ22の第1領域31には取鍋注入流33位置と表層溶鋼用浸漬ノズル26が配置され、第2領域32にはが内層溶鋼用浸漬ノズル25配置される形態としても良い。
【実施例】
【0058】
[実施例1]
スラブ連続鋳造装置を用い、幅1200mm×厚250mmの鋳片の鋳造において、本発明を適用した。
図9、
図10に示すように、タンディッシュ底部13には、各ストランドに1本の注入ノズル8を有し、注入ノズル8を介してタンディッシュ内溶鋼を鋳型内に注湯する。注入ノズル8は上ノズル9、スライディングノズル10、内径120mmΦの浸漬ノズル12を有し、上ノズル9(内径120mm(内半径R=60mm)、外径150mm)がタンディッシュ底部13に接続され、浸漬ノズル12が鋳型内の溶鋼中に浸漬している。スライディングノズル10は3枚のスライディングノズルプレート11(上プレート11a、センタープレート11b、下プレート11c)を有し、スライディングノズルプレート11のセンタープレート11bの摺動によって開口部50の開度を制御することで溶鋼流量を調整する。
【0059】
溶鋼流量測定装置1は、
図9に示すよう、内径120mmのセラミックシリンダーに1.3mmΦの導線を600ターン巻いたものを励磁コイル2とし、その前面に、10mmΦのセラミックシリンダーに0.1mmΦの導線を1200ターン巻いたものを検出コイル3aとし、上記コイル一式はステンレス製円筒状のケース7に収納してセンサーとした。加えて
図12に示すように、ケース7の内面であって、センサーの前面ならびに側面には断熱材20を設け、溶鋼からの輻射熱による過熱を完全に遮断する構造とし、さらに、空気吹き込み口38から乾燥空気を吐出圧5kg/cm
2で吹き込み、励磁コイル2のシリンダー底部を通って検出コイル3a、励磁コイル2外面を通過する空気流れ39を形成し、溶鋼流量測定装置1の過加熱を防止した。
【0060】
ケース7に収納した溶鋼流量測定装置1を2組用意し、
図9、
図10に示すように、タンディッシュ底部13とスライディングノズル10との間の空間に配置し、上ノズル9をはさんで対向するように設置した。スライディングノズルプレート11の摺動方向63と、励磁コイルの中心軸51方向が直交するように配置している。その際、上ノズル9の表面から30mm離れた位置に、内部にセンサーを含有したステンレス製円筒状のケース7が上ノズルを挟んで対向して面している。
【0061】
溶鋼流量測定装置1には、
図3に示すように、波形発生器15、パワーアンプ16、ロックインアンプ17、コンピュータ18が接続されている。励磁コイル2にはパワーアンプ16(定電流アンプ)を用いて3Hzの交流電流(4A)を通電し、交流磁場をノズル表面に対し垂直に印加した。尚、検出コイル3aの電圧信号は5Hzのローパスフィルターを介してノイズ除去するとともに、ロックインアンプ17を用いて3Hzの周波数成分のみを検出した。なお、励磁磁場は上ノズル内部半径60mmに対して、内壁から30mmの位置まで浸透する条件となるようにコイル形状、周波数を設定した。
【0062】
連続鋳造中において、取鍋からタンディッシュへの溶鋼注入を一時中断し、注入ノズルから鋳型内に溶鋼を注入し、その際のタンディッシュ質量を計測しつつ、溶鋼流量測定装置1で溶鋼流量指標を測定した。タンディッシュ質量の時間変化が溶鋼流量実績となる。最初に、鋳型内への溶鋼流量と溶鋼流量測定装置1の信号との対応を少なくとも1回測定し、溶鋼流量測定装置の信号を溶鋼流量に換算して溶鋼流量指標とした。その後、鋳型内への溶鋼流量を種々変化させ、溶鋼流量指標との対応関係を評価した。その結果、
図13に示すように、本発明の溶鋼流量測定装置1を用いて求めた信号(溶鋼流量指標)は、タンディッシュ質量変化から求めた溶鋼流量と極めてよい一致をしめすことがわかった。また、センサー前面に設けた熱電対の温度は50℃程度で実験中安定していた。以上より、本方法を用いることで安定した流量測定が非接触で可能となることがわかった。
【0063】
[実施例2]
一つの取鍋21、一つのタンディッシュ22にて連続鋳造用溶鋼を供給し、鋳片表層部の合金元素濃度が内部と比較して異なる複層状の連続鋳造鋳片を鋳造する連続鋳造方法において、本発明を適用した。
図11に基づいて説明する。
2種類の溶鋼が保持されたタンディッシュの底面に長さの異なる浸漬ノズル(内層溶鋼用浸漬ノズル25、表層溶鋼用浸漬ノズル26)を配置した。表層溶鋼を供給する表層溶鋼用浸漬ノズル26は、上ノズル9とスライディングノズル10を介してタンディッシュ底部13に接続した。ケース7に収納した溶鋼流量測定装置1を2組用意し、
図9〜
図11に示すように、表層溶鋼用浸漬ノズル26に接続したスライディングノズル10とタンディッシュ底部13との間の空間に配置し、上ノズル9をはさんで対向するように設置した。スライディングノズルプレート11の摺動方向63と、励磁コイルの中心軸51方向が直交するように配置している。内層溶鋼用浸漬ノズル25の流量調整機構としては、スライディングノズルを用いる方法とストッパーを用いる方法のいずれを採用しても良い。
【0064】
表層溶鋼用浸漬ノズル26を電磁ブレーキ(直流磁場発生装置28)で区分された鋳型内溶鋼プールの上部(上側溶鋼プール35)に、内層溶鋼用浸漬ノズル25を電磁ブレーキ(直流磁場発生装置28)で区分された下部プール(下側溶鋼プール36)に溶鋼を吐出するようにセットした。
【0065】
タンディッシュ22内にタンディッシュ堰24を設け、タンディッシュ内の第1領域31に所定組成の第1溶鋼41を形成し、第2領域32に第1溶鋼とは組成の異なる第2溶鋼42を形成した。第1溶鋼41を内層溶鋼用浸漬ノズル25から下側溶鋼プール36に供給し、第2溶鋼42を表層溶鋼用浸漬ノズル26から上側溶鋼プール35に供給した。電磁ブレーキ(直流磁場発生装置28)で区分された溶鋼プールの上部(上側溶鋼プール35)に溶鋼を供給するにあたり、本発明の溶鋼流量測定装置1を用いて、表層溶鋼用浸漬ノズル26内を通過する溶鋼流量を測定しつつ、測定した流量が上側溶鋼プール35で凝固によって消費される溶鋼量と同一となるように、スライディングノズル10によって溶鋼流量を制御した。内層溶鋼用浸漬ノズル25を通過する溶鋼流量は、鋳型内に設けた湯面レベル計46を用いて、湯面レベルを一定となるように制御した。その結果、鋳造中、それぞれの浸漬ノズルからの溶鋼量を所定量となるように制御することができたので、上側溶鋼プール35と下側溶鋼プール36との境界位置を常に直流磁場帯34の範囲内に保持することができた。電磁ブレーキの磁束密度として混合抑制に必要な磁束密度の磁場を印加することで表層と内層が明瞭に分離した鋳片をえることができた。