特許第6862869号(P6862869)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6862869空気入りタイヤの製造方法および空気入りタイヤ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6862869
(24)【登録日】2021年4月5日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤの製造方法および空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B29D 30/30 20060101AFI20210412BHJP
   B60C 5/14 20060101ALI20210412BHJP
【FI】
   B29D30/30
   B60C5/14 A
【請求項の数】13
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2017-16019(P2017-16019)
(22)【出願日】2017年1月31日
(65)【公開番号】特開2018-122497(P2018-122497A)
(43)【公開日】2018年8月9日
【審査請求日】2020年1月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸 秀樹
【審査官】 鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2016/063785(WO,A1)
【文献】 特開2016−130083(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/029781(WO,A1)
【文献】 特開平11−005261(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/060128(WO,A1)
【文献】 特開2015−123935(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29D 30/00−30/72
B60C 5/00− 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂とエラストマーとの混合物を含む熱可塑性エラストマー組成物を主成分とするフィルムと該フィルムの両面に積層された一対のゴムシートとで構成された3層構造の積層体をタイヤ成形ドラムの外周に巻き付けて前記積層体の巻き始め端と巻き終わり端とを接合するスプライス工程を含む空気入りタイヤの製造方法において、
前記一対のゴムシートのうち前記タイヤ成形ドラム上で前記フィルムよりも前記タイヤ成形ドラム側の層を内側ゴムシートとし、前記フィルムよりも前記タイヤ成形ドラムの逆側に配置された層を外側ゴムシートとしたとき、
前記巻き始め端の端面が傾斜面を成すことで、前記巻き始め端における前記内側ゴムシートの端部が前記フィルムの端部よりも前記積層体の巻き付け方向の逆側に位置し、前記巻き始め端における前記外側ゴムシートの端部が前記フィルムの端部よりも前記積層体の巻き付け方向側に位置し、前記傾斜面は、前記積層体の端部を前記タイヤ成形ドラムに巻き付ける前に100℃以上の温度の刃物で切断することで構成されており、
前記巻き始め端における前記外側ゴムシートの外表面と前記巻き終わり端における前記内側ゴムシートの内表面とが当接するように前記積層体の前記巻き始め端と前記巻き終わり端とを重ね合わせて接合することを特徴とする空気入りタイヤの製造方法。
【請求項2】
前記巻き始め端における前記内側ゴムシートの端部と前記巻き始め端における前記外側ゴムシートの端部とを結んだ直線が前記タイヤ成形ドラムの外表面に垂直な方向に対して成す角度が20°〜70°であることを特徴とする請求項に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項3】
前記巻き終わり端における前記外側ゴムシートの端部が前記フィルムの端部よりも前記積層体の巻き付け方向側に位置し、前記巻き終わり端における前記内側ゴムシートの端部が前記フィルムの端部と同じ位置または前記フィルムの端部よりも前記積層体の巻き付け方向の逆側に位置することを特徴とする請求項1または2に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項4】
前記巻き終わり端の端面が傾斜面を成すことで、前記巻き終わり端における前記外側ゴムシートの端部が前記フィルムの端部よりも前記積層体の巻き付け方向側に位置し、前記巻き終わり端における前記内側ゴムシートの端部が前記フィルムの端部よりも前記積層体の巻き付け方向の逆側に位置することを特徴とする請求項に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項5】
前記積層体の端部を前記タイヤ成形ドラムに巻き付ける前に100℃以上の温度の刃物で切断することで、前記巻き終わり端の前記傾斜面を構成したことを特徴とする請求項に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項6】
前記巻き終わり端における前記内側ゴムシートの端部と前記巻き終わり端における前記外側ゴムシートの端部とを結んだ直線が前記タイヤ成形ドラムの外表面に垂直な方向に対して成す角度が20°〜70°であることを特徴とする請求項3〜5のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項7】
前記巻き始め端における前記外側ゴムシートの外表面と前記巻き終わり端における前記内側ゴムシートの内表面とが当接する部分の長さが5mm〜20mmであることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項8】
前記フィルムがナイロンを含むことを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項9】
前記フィルムの厚さが0.03mm〜0.15mmであることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項10】
前記一対のゴムシートのそれぞれの厚さが0.2mm〜1.0mmであることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項11】
前記スプライス工程から加硫工程までの間に重ね合わされた前記巻き始め端と前記巻き終わり端とを圧着させる工程を含むことを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項12】
前記積層体が未加硫のインナーライナー層であることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項13】
請求項1〜12に記載の空気入りタイヤの製造方法によって製造された空気入りタイヤであって、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、該一対のビード部間に装架されたカーカス層と、前記カーカス層に沿ってタイヤ内面に配置されたインナーライナー層とを有し、
前記インナーライナー層は前記積層体の両端部が重ね合わされて接合された構造を有し、
前記積層体の接合部においてタイヤ内周側に位置する前記積層体の端部中の前記フィルムの先端が前記積層体の接合部においてタイヤ外周側に位置する前記積層体の端部の内側ゴムシートの内表面に当接し、且つ、
前記積層体の接合部においてタイヤ内周側に位置する前記積層体の端部中の前記フィルムが前記積層体の接合部においてタイヤ内周側に位置する前記積層体の端部中の前記内側ゴムシートに覆われていることを特徴とする空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂とエラストマーとの混合物を含む熱可塑性エラストマー組成物を主成分とするフィルムの両面にゴムシートを積層して構成されたタイヤ構成部材をタイヤ成形ドラムの外周に巻き付けてその両端部どうしを接合するスプライス工程を含む空気入りタイヤの製造方法およびそれにより製造された空気入りタイヤに関し、タイヤ構成部材の両端部が接合されたスプライス部に起因するタイヤ故障を抑制するようにした空気入りタイヤの製造方法および空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂とエラストマーとの混合物を含む熱可塑性エラストマー組成物を主成分とするフィルムをインナーライナー層としてタイヤ最内面に配置することが提案されている。このようなフィルムをインナーライナー層として用いる方法として、例えば、前述のフィルムの両面に接着用のゴムシートを積層して構成された積層体をタイヤ成形ドラムの外周に巻き付けてその両端部どうしを接合することが提案されている。但し、この方法では、積層体の端部構造によっては、フィルムとゴムシートとの層間で剥離が生じたり、タイヤ成形ドラムの表面に塗布された離型剤を巻き込み易いという問題があった。
【0003】
このような問題に対して、例えば、特許文献1では、剥離等の基点となる積層体の巻き付け始端部にスプライスシートを貼り付けてスプライス部を補強することが提案され、特許文献2では、積層体の状態でフィルムの先端がゴムシートによって覆われるように積層体自体を加工することが提案されている。しかしながら、このような方法であっても、必ずしも充分にスプライス部に起因するタイヤ故障を防止することができるとは言えず、また、積層体をタイヤ成形ドラムの外周に巻き付けてその両端部どうしを接合するスプライス工程における工程数が増えたり、積層体自体の製造が難しくなるなどの問題もあり、更なる対策が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012‐056454号公報
【特許文献2】特開2016‐130083号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂とエラストマーとの混合物を含む熱可塑性エラストマー組成物を主成分とするフィルムの両面にゴムシートを積層して構成されたタイヤ構成部材の両端部が接合されたスプライス部に起因するタイヤ故障を抑制するようにした空気入りタイヤの製造方法および空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための空気入りタイヤの製造方法は、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂とエラストマーとの混合物を含む熱可塑性エラストマー組成物を主成分とするフィルムと該フィルムの両面に積層された一対のゴムシートとで構成された3層構造の積層体をタイヤ成形ドラムの外周に巻き付けて前記積層体の巻き始め端と巻き終わり端とを接合するスプライス工程を含む空気入りタイヤの製造方法において、前記一対のゴムシートのうち前記タイヤ成形ドラム上で前記フィルムよりも前記タイヤ成形ドラム側の層を内側ゴムシートとし、前記フィルムよりも前記タイヤ成形ドラムの逆側に配置された層を外側ゴムシートとしたとき、前記巻き始め端の端面が傾斜面を成すことで、前記巻き始め端における前記内側ゴムシートの端部が前記フィルムの端部よりも前記積層体の巻き付け方向の逆側に位置し、前記巻き始め端における前記外側ゴムシートの端部が前記フィルムの端部よりも前記積層体の巻き付け方向側に位置し、前記傾斜面は、前記積層体の端部を前記タイヤ成形ドラムに巻き付ける前に100℃以上の温度の刃物で切断することで構成されており、前記巻き始め端における前記外側ゴムシートの外表面と前記巻き終わり端における前記内側ゴムシートの内表面とが当接するように前記積層体の前記巻き始め端と前記巻き終わり端とを重ね合わせて接合することを特徴とする。
【0007】
上記目的を達成するための空気入りタイヤは、上述の空気入りタイヤの製造方法によって製造された空気入りタイヤであって、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、該一対のビード部間に装架されたカーカス層と、前記カーカス層に沿ってタイヤ内面に配置されたインナーライナー層とを有し、前記インナーライナー層は前記積層体の両端部が重ね合わされて接合された構造を有し、前記積層体の接合部においてタイヤ内周側に位置する前記積層体の端部中の前記フィルムの先端が前記積層体の接合部においてタイヤ外周側に位置する前記積層体の端部の内側ゴムシートの内表面に当接し、且つ、前記積層体の接合部においてタイヤ内周側に位置する前記積層体の端部中の前記フィルムが前記積層体の接合部においてタイヤ内周側に位置する前記積層体の端部中の前記内側ゴムシートに覆われていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法では、上述のように、巻き始め端における内側ゴムシートとフィルムと外側ゴムシートの各端部の位置関係が上記のように設定された積層体を用いて、積層体の巻き始め端における外側ゴムシートの外表面と積層体の巻き終わり端における内側ゴムシートの内表面とが当接するように、積層体の巻き始め端と巻き終わり端とが重なり合うように接合しているので、加硫後には、フィルムの端部よりも突き出た内側ゴムシートの端部によって剥離等の基点となるフィルムの端部が覆われることになり、スプライス部に起因するタイヤ故障を抑制することができる。また、この方法で製造された空気入りタイヤでは、上述のように、積層体の接合部においてタイヤ内周側に位置する積層体の端部(即ち、スプライス工程における巻き始め端)中のフィルムの先端が積層体の接合部においてタイヤ外周側に位置する積層体の端部(即ち、スプライス工程における巻き終わり端)の内側ゴムシートの内表面に当接し、且つ、積層体の接合部においてタイヤ内周側に位置する積層体の端部(即ち、スプライス工程における巻き始め端)中のフィルムが前記積層体の接合部においてタイヤ内周側に位置する積層体の端部(即ち、スプライス工程における巻き始め端)中の内側ゴムシートに覆われることになり、剥離等の基点となるフィルムの端部がゴムに覆われて露出しないため、スプライス部に起因するタイヤ故障を抑制することができる。
【0009】
本発明においては、巻き始め端の端面が傾斜面を成すことで、巻き始め端における内側ゴムシートの端部がフィルムの端部よりも積層体の巻き付け方向の逆側に位置し、巻き始め端における外側ゴムシートの端部がフィルムの端部よりも積層体の巻き付け方向側に位置する。これにより、積層体の巻き始め端を斜めに切断する等の方法でフィルムおよびゴムシートの各端部を上述の位置関係にすることが可能になり、スプライス部に起因するタイヤ故障を抑制する効果を簡便に発揮することができる。
【0010】
本発明では、上記のように巻き始め端の端面を傾斜面とするにあたって、積層体の端部をタイヤ成形ドラムに巻き付ける前に100℃以上の温度の刃物で切断することで、巻き始め端の傾斜面を構成する。これにより、傾斜面(切断面)をきれいに形成することができ、加硫後に内側ゴムシートの端部によってフィルムの端部を確実に覆うことができ、スプライス部に起因するタイヤ故障を抑制することができる
【0011】
本発明においては、巻き始め端における内側ゴムシートの端部と巻き始め端における外側ゴムシートの端部とを結んだ直線がタイヤ成形ドラムの外表面に垂直な方向に対して成す角度が20°〜70°であるが好ましい。このように角度を設定することで、加硫後に内側ゴムシートの端部がフィルムの端部を覆い易くなり、スプライス部に起因するタイヤ故障を抑制するには有利になる。
【0012】
本発明においては、巻き終わり端における外側ゴムシートの端部が前記フィルムの端部よりも積層体の巻き付け方向側に位置し、巻き終わり端における内側ゴムシートの端部がフィルムの端部と同じ位置またはフィルムの端部よりも積層体の巻き付け方向の逆側に位置することが好ましい。このように、巻き終わり端も巻き始め端と同様の端部構造にすることで、加硫後には、巻き終わり端においてフィルムの端部よりも突き出た外側ゴムシートの端部によってフィルムの端部が覆われて、巻き始め端および巻き終わり端の両方においてフィルムの端部が露出しなくなるので、スプライス部に起因するタイヤ故障を抑制するには有利になる。
【0013】
このように巻き終わり端も巻き始め端と同様の端部構造にする場合、巻き終わり端の端面が傾斜面を成すことで、巻き終わり端における外側ゴムシートの端部がフィルムの端部よりも積層体の巻き付け方向側に位置し、巻き終わり端における内側ゴムシートの端部がフィルムの端部よりも積層体の巻き付け方向の逆側に位置することが好ましい。これにより、巻き始め端の場合と同様に、積層体の巻き終わり端においてもフィルムおよびゴムシートの各端部を上述の位置関係にすることが容易になり、スプライス部に起因するタイヤ故障を抑制する効果を簡便に発揮することが可能になる。
【0014】
このように巻き終わり端の端面を傾斜面とする場合、積層体の端部をタイヤ成形ドラムに巻き付ける前に100℃以上の温度の刃物で切断することで、巻き終わり端の傾斜面を構成することが好ましい。これにより、巻き始め端の場合と同様に、傾斜面(切断面)をきれいに形成することができ、加硫後に外側ゴムシートの端部によってフィルムの端部を確実に覆うことができ、スプライス部に起因するタイヤ故障を抑制するには有利になる。
【0015】
このように巻き終わり端も巻き始め端と同様の端部構造にする場合、巻き終わり端における内側ゴムシートの端部と巻き終わり端における外側ゴムシートの端部とを結んだ直線がタイヤ成形ドラムの外表面に垂直な方向に対して成す角度が20°〜70°であることが好ましい。このように角度を設定することで、巻き始め端の場合と同様に、加硫後に外側ゴムシートの端部がフィルムの端部を覆い易くなり、スプライス部に起因するタイヤ故障を抑制するには有利になる。
【0016】
本発明においては、巻き始め端における外側ゴムシートの外表面と巻き終わり端における内側ゴムシートの内表面とが当接する部分の長さが5mm〜20mmであることが好ましい。このように巻き始め端と巻き終わり端とが重なり合う部分の長さを適度な範囲に設定することで、タイヤ重量の増加やユニフォミティの悪化を避けながら、巻き始め端と巻き終わり端とが剥離することを防止することができ、スプライス部に起因するタイヤ故障を抑制するには有利になる。
【0017】
本発明においては、フィルムがナイロンを含むことが好ましい。これによりフィルムの柔軟性を高めて成形時のフィルムの剥がれを抑制することができ、スプライス部に起因するタイヤ故障を抑制するには有利になる。
【0018】
本発明においては、フィルムの厚さが0.03mm〜0.15mmであることが好ましい。このようにフィルムの厚さを適度な範囲に設定することで、成形時のフィルムの剥がれを抑制することができ、スプライス部に起因するタイヤ故障を抑制するには有利になる。
【0019】
本発明においては、一対のゴムシートのそれぞれの厚さが0.2mm〜1.0mmであることが好ましい。このようにゴムシートの厚さを適度な範囲に設定することで、スプライス部において巻き始め端と巻き終わり端とが重なり合うことで形成される段差が過大になることを避けることができ、この段差に空気が入り込むことや、この段差に起因するユニフォミティの悪化を回避することができる。
【0020】
本発明においては、スプライス工程から加硫工程までの間に重ね合わされた巻き始め端と巻き終わり端とを圧着させる工程を含むことが好ましい。これにより、スプライス部における剥離をより確実に防止することができ、スプライス部に起因するタイヤ故障を抑制するには有利になる。
【0021】
本発明においては、積層体が未加硫のインナーライナー層であることが好ましい。即ち、本発明の空気入りタイヤの製造方法は、軽量化等の目的で、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂とエラストマーとの混合物を含む熱可塑性エラストマー組成物を主成分とするフィルムをインナーライナー層として用いた空気入りタイヤの製造に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の製造方法が適用された積層体(インナーライナー層)のスプライス部の一例を模式的に示す説明図である。
図2図1のスプライス部の加硫後の状態を模式的に示す説明図である。
図3】本発明の製造方法が適用された積層体(インナーライナー層)のスプライス部の別の例を模式的に示す説明図である。
図4】本発明の製造方法が適用された積層体(インナーライナー層)のスプライス部の別の例を模式的に示す説明図である。
図5】本発明の製造方法で製造することができる空気入りタイヤの一例を示す一部破砕斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0024】
図1に示すように、本発明の空気入りタイヤの製造方法は、タイヤ構成部材(図示の例では後述の積層構造を有した未加硫のインナーライナー層20)をタイヤ成形ドラムDの外周に巻付けて、その巻き始め端10Aと巻き終わり端10Bとを接合して円筒状に成形するスプライス工程を含む。本発明の製造方法では、このスプライス工程以外の工程については特に限定されず一般的な方法を採用することができる。例えば、図示のようにタイヤ成形ドラムDの外周に巻付けられたタイヤ構成部材(インナーライナー層20)の外周側に、更にカーカス層を含む他のタイヤ構成部材(不図示)を順次貼り合せて円筒状の1次成形体を成形し、この1次成形体を膨径させてベルト層やベルトカバー層を含むトレッドリングの内側に圧着することにより、トロイダル形状を有するグリーンタイヤを成形し、しかる後、グリーンタイヤを金型内に投入して加硫を行うことができる。
【0025】
本発明の製造方法が適用されるタイヤ構成部材は、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂とエラストマーとの混合物を含む熱可塑性エラストマー組成物を主成分とするフィルム11と、このフィルムの両面に積層された一対のゴムシート12,13とで構成された3層構造の積層体10である。以下の説明では、一対のゴムシート12,13のうち、タイヤ成形ドラムD上でフィルム11よりもタイヤ成形ドラムD側に配置された層を内側ゴムシート12とし、フィルム11よりもタイヤ成形ドラムDの逆側に配置された層を外側ゴムシート13とする。この構造を有する積層体10であれば、図示のインナーライナー層20以外にも本発明は適用できるが、インナーライナー層20として熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂とエラストマーとの混合物を含む熱可塑性エラストマー組成物を主成分とするフィルム11が用いられることがあるため、本発明の製造方法は特にインナーライナー層20に好適に適用することができる。
【0026】
本発明の製造方法において、積層体10は、成形ドラムD上に、図の矢印方向(巻き付け方向R)に巻き付けられて、上述のように巻き始め端10Aと巻き終わり端10Bとが接合される。以下、巻き始め端10Aと巻き終わり端10Bとが接合された部位をスプライス部Sと言う。このとき、図1の例では、巻き始め端10Aの端面が傾斜面を成しており、巻き始め端10Aにおける内側ゴムシート12の端部12Aがフィルム11の端部11Aよりも積層体10の巻き付け方向Rの逆側に位置し、巻き始め端10Aにおける外側ゴムシート13の端部13Aがフィルム11の端部11Aよりも積層体10の巻き付け方向R側に位置している。また、積層体10の巻き始め端10Aにおける外側ゴムシート13の外表面と巻き終わり端10Bにおける内側ゴムシート12の内表面とが当接するように積層体10の巻き始め端10Aと巻き終わり端10Bとが重ね合わされて接合されている。
【0027】
このように巻き始め端10Aにおける内側ゴムシート12とフィルム11と外側ゴムシート13の各端部の位置関係が上記のように設定された積層体10を用いて、積層体10の巻き始め端10Aにおける外側ゴムシート13の外表面と積層体10の巻き終わり端10Bにおける内側ゴムシート12の内表面とが当接するように積層体10の巻き始め端10Aと巻き終わり端10Bとが重なり合うように接合しているので、加硫後には、図2に示すように、フィルム11の端部11Aよりも突き出た内側ゴムシート12の端部12Aに相当する部分によって剥離等の基点となるフィルム11の端部11Aが覆われることになり、スプライス部Sに起因するタイヤ故障を抑制することができる。尚、図2では、積層体10としてインナーライナー層20を想定しているため、積層体10(インナーライナー層20)の外周側にはカーカス層4が存在している。
【0028】
積層体10の巻き始め端10Aにおける内側ゴムシート12とフィルム11と外側ゴムシート13の各端部が上述の位置関係を満たしていれば、巻き始め端10Aの端面は図1のように傾斜面を成している必要はなく、例えば、図3,4に示すように巻き始め端10Aが、各層(内側ゴムシート12、フィルム11、外側ゴムシート13)の端部がずれるように積層された階段状の構造を有していてもよい。尚、図3の例では、巻き始め端10Aにおける内側ゴムシート12の端部12Aがフィルム11の端部11Aよりも積層体10の巻き付け方向Rの逆側に位置し、巻き始め端10Aにおける外側ゴムシート13の端部13Aがフィルム11の端部11Aと同じ位置に存在し、図4の例では、巻き始め端10Aにおける内側ゴムシート12の端部12Aがフィルム11の端部11Aよりも積層体10の巻き付け方向Rの逆側に位置し、巻き始め端10Aにおける外側ゴムシート13の端部13Aがフィルム11の端部11Aよりも積層体10の巻き付け方向R側に位置している。この図3,4のような態様であっても、加硫後には、図2に示すように、フィルム11の端部11Aよりも突き出た内側ゴムシート12の端部12Aに相当する部分によって剥離等の基点となるフィルム11の端部11Aが覆われることになり、スプライス部Sに起因するタイヤ故障を抑制することができる。
【0029】
いずれにしても、積層体10の巻き始め端10Aにおける内側ゴムシート12の端部12Aがフィルム11の端部11Aよりも積層体10の巻き付け方向Rの逆側に位置し、積層体10の巻き始め端10Aにおける外側ゴムシート13の端部13Aがフィルム11の端部11Aと同じ位置またはフィルム11の端部11Aよりも積層体10の巻き付け方向R側に位置していれば、加硫後には、フィルム11の端部11Aが覆われることになる。上述の構造の中では、積層体10の製造し易さを鑑みると、図1のように積層体10の巻き始め端10Aの端面が傾斜面である仕様にすることが好ましい。即ち、積層体10の巻き始め端10Aを斜めに切断する等の簡便な方法でフィルム11およびゴムシート12,13の各端部を上述の位置関係にすることができる。特に、積層体10の端部をタイヤ成形ドラムDに巻き付ける前に100℃以上の温度の刃物で切断することで、巻き始め端10Aの傾斜面を形成することが好ましい。これにより、傾斜面(切断面)をきれいに形成することができ、加硫後に内側ゴムシート12の端部12Aによってフィルム11の端部11Aを確実に覆うことができ、スプライス部Sに起因するタイヤ故障を抑制するには有利になる。
【0030】
図1のように積層体10の巻き始め端10Aの端面を傾斜面にする場合、巻き始め端10Aにおける内側ゴムシート12の端部12Aと巻き始め端10Aにおける外側ゴムシート13の端部13Aとを結んだ直線LAがタイヤ成形ドラムDの外表面に垂直な方向に対して成す角度θAが好ましくは20°〜70°、より好ましくは30°〜60°であるとよい。このように角度θAを設定することで、加硫後に内側ゴムシート12の端部12Aがフィルム11の端部11Aを覆い易くなり、スプライス部Sに起因するタイヤ故障を抑制するには有利になる。このとき、角度θAが30°よりも小さいと、傾斜面が巻き終わり端10Bに着き難くなり加硫後に内側ゴムシート12の端部12Aがフィルム11の端部11Aを充分に覆うことが難しくなる。角度θAが70°よりも大きいと、各層が薄くなり剛性が小さい箇所が増えるため、成形時に皺を生じ易くなる。尚、図3,4のように、積層体10の巻き始め端10Aの端面が階段状である場合も、巻き始め端10Aにおける内側ゴムシート12の端部12A(タイヤ成形ドラムD側のエッジ)と巻き始め端10Aにおける外側ゴムシート13の端部13A(巻き終わり端10B側のエッジ)とを結んだ直線LAがタイヤ成形ドラムDの外表面に垂直な方向に対して成す角度θAが上述の範囲であることが好ましい。
【0031】
図1〜4の例では、積層体10の巻き終わり端10Bについても、巻き始め端10Aと同様の構造に構成されている。具体的には、図1では、巻き終わり端10Bの端面が傾斜面を成しており、巻き始め端10Bにおける外側ゴムシート13の端部13Bがフィルム11の端部11Bよりも積層体10の巻き付け方向R側に位置し、巻き終わり端10Bにおける内側ゴムシート12の端部12Bがフィルム11の端部11Bよりも積層体10の巻き付け方向Rの逆側に位置している。図3では、巻き終わり端10Bの端面が各層(内側ゴムシート12、フィルム11、外側ゴムシート13)の端部がずれるように積層された階段状の構造を有し、巻き終わり端10Bにおける外側ゴムシート13の端部13Bがフィルム11の端部11Bよりも積層体10の巻き付け方向R側に位置し、巻き終わり端10Bにおける内側ゴムシート12の端部12Bがフィルム11の端部11Bと同じ位置に存在している。図4では、巻き終わり端10Bの端面が各層(内側ゴムシート12、フィルム11、外側ゴムシート13)の端部がずれるように積層された階段状の構造を有し、巻き終わり端10Bにおける外側ゴムシート13の端部13Bがフィルム11の端部11Bよりも積層体10の巻き付け方向R側に位置し、巻き終わり端10Bにおける内側ゴムシート12の端部12Bがフィルム11の端部11Bよりも積層体10の巻き付け方向Rの逆側に位置している。
【0032】
このように巻き終わり端10Bにおいても、外側ゴムシート13の端部13Bをフィルム11の端部11Bよりも積層体10の巻き付け方向R側に位置し、巻き終わり端10Bにおける内側ゴムシート12の端部12Bがフィルム11の端部11Bと同じ位置またはフィルム11の端部11Bよりも積層体10の巻き付け方向Rの逆側に位置することで、加硫後には、図2に示すように、巻き終わり端10Bにおいてもフィルム11の端部11Bよりも突き出た外側ゴムシート13の端部13Bによってフィルム11の端部11Bが覆われることになる。つまり、巻き始め端10Aおよび巻き終わり端10Bの両方が上述の構造を有することで、巻き始め端10Aおよび巻き終わり端の両方においてフィルム11の端部11A,11Bが露出しなくなるので、スプライス部Sに起因するタイヤ故障を抑制するには有利になる。
【0033】
巻き終わり端10Bでも上述の端部構造を採用する場合についても、巻き始め端10Aと同様に製造性の観点から、図1のような端面を傾斜面にした仕様が好ましい。即ち、この構造であれば、巻き始め端10Aと同様に、積層体10の端部をタイヤ成形ドラムDに巻き付ける前に100℃以上の温度の刃物で切断することで、巻き始め端10Aの傾斜面を形成することが可能になり、傾斜面(切断面)をきれいに形成することができる。
【0034】
また、巻き終わり端10Bにおいても上述の端部構造を採用する場合、巻き終わり端10Bにおける内側ゴムシート12の端部12Bと巻き終わり端10Bにおける外側ゴムシート13の端部13Bとを結んだ直線LBがタイヤ成形ドラムDの外表面に垂直な方向に対して成す角度θBを好ましくは20°〜70°、より好ましくは30°〜60°にするとよい。このように角度θBを設定することで、加硫後に外側ゴムシート13の端部13Bがフィルム11の端部11Bを覆い易くなり、スプライス部Sに起因するタイヤ故障を抑制するには有利になる。このとき、角度θBが30°よりも小さいと、傾斜面が巻き終わり端10Aに着き難くなり加硫後に外側ゴムシート12の端部12Bがフィルム11の端部11Bを充分に覆うことが難しくなる。角度θBが70°よりも大きいと、各層の先端が薄くなり剛性が小さい箇所が増えるため、成形時に皺を生じ易くなる。尚、図3,4のように、積層体10の巻き終わり端10Bの端面が階段状である場合も、巻き終わり端10Bにおける内側ゴムシート12の端部12B(巻き始め端10A側のエッジ)と巻き終わり端10Bにおける外側ゴムシート13の端部13B(フィルム11に接しない側ののエッジ)とを結んだ直線LBがタイヤ成形ドラムDの外表面に垂直な方向に対して成す角度θBが上述の範囲であることが好ましい。
【0035】
尚、図1に示すように、積層体10の巻き始め端10Aが上述の傾斜面である場合に、巻き終わり端10Bも上述の傾斜面であれば、積層体を切断して巻き始め端10Aまたは巻き終わり端10Bの一方を形成した際に、対となる切断面は、巻き始め端10Aまたは巻き終わり端10Bの他方の形状になるため、上述の端部構造を備えた積層体10の製造が容易になる。また、図4に示すように、積層体10の巻き始め端10Aが上述の階段状である場合に、巻き終わり端10Bも上述の階段状であれば、各層が同じ長さを有すると巻き始め端10Aまたは巻き終わり端10Bの一方で上述のように各層がずれるように各層を積層して積層体を形成すると、それに追従して巻き始め端10Aまたは巻き終わり端10Bの他方でも上述のように各層がずれて積層されるので、上述の端部構造を備えた積層体10の製造が容易になる。
【0036】
巻き始め端10Aと巻き終わり端10Bとは、上記のように重ね合わされて、積層体10の巻き始め端10Aにおける外側ゴムシート13の外表面と巻き終わり端10Bにおける内側ゴムシート12の内表面とが当接するようになっているが、このとき巻き始め端10Aにおける外側ゴムシート13の外表面と巻き終わり端10Bにおける内側ゴムシート12の内表面とが当接する部分の長さLが5mm〜20mmであることが好ましい。このように巻き始め端10Aと巻き終わり端10Bとが重なり合う部分の長さLを適度な範囲に設定することで、タイヤ重量の増加やユニフォミティの悪化を避けながら、巻き始め端10Aと巻き終わり端10Bとの剥離を効果的に防止することができ、スプライス部Sに起因するタイヤ故障を抑制するには有利になる。この長さLが5mmよりも小さいと巻き始め端10Aと巻き終わり端10Bとの接着性が弱まり、剥離を生じ易くなる虞がある。この長さLが20mmよりも大きいと、積層体10の使用量が増えるため、タイヤ重量の増加やユニフォミティの低下を招く恐れがある。
【0037】
積層体10の厚さは、本発明が適用される空気入りタイヤの構造や、本発明を適用するタイヤ構成部材の種類に応じて適宜設定することができるが、特に、積層体10がインナーライナー層20である場合には、フィルム11の厚さを0.03mm〜0.15mmにすることが好ましい。このようにフィルム11の厚さを適度な範囲に設定することで、成形時のフィルム11の剥がれを効果的に抑制することができ、スプライス部Sに起因するタイヤ故障を抑制するには有利になる。フィルム11の厚さが0.03mmよりも小さいと、フィルム11自体の剛性が低下して皺を生じ易くなる。フィルム11の厚さが0.15mmよりも大きいと、フィルム11が厚くなり、成形時に剥がれを生じ易くなる。
【0038】
また、一対のゴムシート12,13のそれぞれの厚さが0.2mm〜1.0mmであることが好ましい。このようにゴムシート12,13の厚さを適度な範囲に設定することで、スプライス部Sにおいて巻き始め端10Aと巻き終わり端10Bとが重なり合うことで形成される段差が過大になることを避けることができ、この段差に空気が入り込むことや、この段差に起因するユニフォミティの悪化を回避することができる。各ゴムシート12,13の厚さが0.2mmよりも小さいと、ゴムシート12,13自体の剛性が低下して皺を生じ易くなる。また、ゴムシート12,13が薄過ぎることで、積層体10全体としても厚さが過小になり、上述の端部構造を形成し難くなる。ゴムシート12,13の厚さが1.0mmよりも大きいと、スプライス部Sにおいて巻き始め端10Aと巻き終わり端10Bとが重なり合うことで形成される段差が過大になり、この段差に空気が入り込む故障が生じ易くなることや、この段差に起因するユニフォミティの低下が懸念される。
【0039】
上述のように、本発明では、スプライス工程以外の工程の詳細は特に限定されず、空気入りタイヤの製造において一般的な方法を採用できるが、加硫工程までの間に重ね合わされた巻き始め端10Aと巻き終わり端10Bとを圧着させる工程を含むことが好ましい。これにより、スプライス部Sにおける剥離をより確実に防止することができ、スプライス部Sに起因するタイヤ故障を抑制するには有利になる。
【0040】
フィルム11は、上述のように熱可塑性樹脂を主成分とするフィルム11か、或いは熱可塑性樹脂とエラストマーの混合物を含む熱可塑性エラストマー組成物を主成分とするフィルム11である。フィルム11に用いることのできる熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミド系樹脂〔例えば、ナイロン6(N6)、ナイロン66(N66)、ナイロン46(N46)、ナイロン11(N11)、ナイロン12(N12)、ナイロン610(N610)、ナイロン612(N612)、ナイロン6/66共重合体(N6/66)、ナイロン6/66/610共重合体(N6/66/610)、ナイロンMXD6(MXD6)、ナイロン6T、ナイロン9T、ナイロン6/6T共重合体、ナイロン66/PP共重合体、ナイロン66/PPS共重合体〕及びそれらのN−アルコキシアルキル化物〔例えば、ナイロン6のメトキシメチル化物、ナイロン6/610共重合体のメトキシメチル化物、ナイロン612のメトキシメチル化物〕、ポリエステル系樹脂〔例えば、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンイソフタレート(PEI)、PET/PEI共重合体、ポリアリレート(PAR)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、液晶ポリエステル、ポリオキシアルキレンジイミドジ酸/ポリブチレンテレフタレート共重合体などの芳香族ポリエステル〕、ポリニトリル系樹脂〔例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメタクリロニトリル、アクリロニトリル/スチレン共重合体(AS)、(メタ)アクリロニトリル/スチレン共重合体、(メタ)アクリロニトリル/スチレン/ブタジエン共重合体〕、ポリメタクリレート系樹脂〔例えば、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリメタクリル酸エチル〕、ポリビニル系樹脂〔例えば、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール(PVA)、ビニルアルコール/エチレン共重合体(EVOH)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、塩化ビニル/塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニリデン/メチルアクリレート共重合体、塩化ビニリデン/アクリロニトリル共重合体(ETFE)〕、セルロース系樹脂〔例えば、酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース〕、フッ素系樹脂〔例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリクロルフルオロエチレン(PCTFE)、テトラフロロエチレン/エチレン共重合体〕、イミド系樹脂〔例えば、芳香族ポリイミド(PI)〕等を用いることができる。
【0041】
なかでも、ポリアミド系樹脂(上述の各種ナイロン)が物性面や加工性、取扱い性などの点で好ましい。即ち、ナイロンを含むフィルム11は柔軟性に優れるため、成形時のフィルムの剥がれを効果的に抑制することができ、スプライス部Sに起因するタイヤ故障を抑制するには有利になる。
【0042】
また、フィルム11を構成することができる熱可塑性樹脂とエラストマーのブレンド物(熱可塑性エラストマー組成物)は、熱可塑性樹脂のマトリクス中にエラストマーが不連続相として分散した構造をとる。かかる構造をとることにより、熱可塑性樹脂と同等の成形加工性を得ることができる。熱可塑性エラストマー組成物を構成する熱可塑性樹脂については、熱可塑性樹脂を単独で用いる場合の同様に上述のものを使用でき、特にポリアミド系樹脂(上述の各種ナイロン)を好適に用いることができる。熱可塑性エラストマー組成物を構成するエラストマーとしては、例えば、ジエン系ゴム及びその水添物〔例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、エポキシ化天然ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR、高シスBR及び低シスBR)、ニトリルゴム(NBR)、水素化NBR、水素化SBR〕、オレフィン系ゴム〔例えば、エチレンプロピレンゴム(EPDM、EPM)、マレイン酸変性エチレンプロピレンゴム(M−EPM)、ブチルゴム(IIR)、イソブチレンと芳香族ビニルまたはジエン系モノマー共重合体、アクリルゴム(ACM)、アイオノマー〕、含ハロゲンゴム〔例えば、Br−IIR、CI−IIR、臭素化イソブチレン−p−メチルスチレン共重合体(BIMS)、クロロプレンゴム(CR)、ヒドリンゴム(CHR)、クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM)、塩素化ポリエチレンゴム(CM)、マレイン酸変性塩素化ポリエチレンゴム(M−CM)〕、シリコンゴム〔例えば、メチルビニルシリコンゴム、ジメチルシリコンゴム、メチルフェニルビニルシリコンゴム〕、含イオウゴム〔例えば、ポリスルフィドゴム〕、フッ素ゴム〔例えば、ビニリデンフルオライド系ゴム、含フッ素ビニルエーテル系ゴム、テトラフルオロエチレン−プロピレン系ゴム、含フッ素シリコン系ゴム、含フッ素ホスファゼン系ゴム〕、熱可塑性エラストマー〔例えば、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、エステル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ボリアミド系エラストマー〕等を好ましく使用することができる。
【0043】
特に、複数のエラストマーをブレンドするとき、そのうち50重量%以上が、ハロゲン化ブチルゴムまたは臭素化イソブチレンパラメチルスチレン共重合ゴムまたは無水マレイン酸変性エチレンαオレフィン共重合ゴムであることが、ゴム体積率を増やして低温から高温に至るまで柔軟、高耐久化できる点で好ましい。また、熱可塑性エラストマー組成物中の熱可塑性樹脂の50重量%以上が、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン6/66共重合体、ナイロン6/12共重合体、ナイロン6/10共重合体、ナイロン4/6共重合体、ナイロン6/66/12共重合体、芳香族ナイロン、およびエチレン/ビニルアルコール共重合体のいずれかであることが耐久性の面で好ましい。
【0044】
上述した特定の熱可塑性樹脂およびエラストマーを組合せて熱可塑性エラストマー組成物を調製する際に、両者の相溶性が不足するときは、第3成分として適当な相溶化剤を用いて相溶化させることができる。熱可塑性樹脂およびエラストマーのブレンド系に相溶化剤を混合することにより、熱可塑性樹脂とエラストマーとの界面張力が低下し、その結果、分散相を形成しているエラストマーの粒子径が微細になることから両成分の特性がより有効に発現されることになる。そのような相溶化剤としては、一般的に熱可塑性樹脂およびエラストマーの両方または片方の構造を有する共重合体、あるいは熱可塑性樹脂またはエラストマーと反応可能なエポキシ基、カルボニル基、ハロゲン基、アミノ基、オキサゾリン基、水酸基等を有した共重合体の構造をとるものとすることができる。これらはブレンドされる熱可塑性樹脂とエラストマーの種類によって選定すればよいが、通常使用されるものには、スチレン/エチレン・ブチレンブロック共重合体(SEBS)及びそのマレイン酸変性物、EPDM、EPM、EPDM/スチレン又はEPDM/アクリロニトリルグラフト共重合体及びそのマレイン酸変性物、スチレン/マレイン酸共重合体、反応性フェノキシン等を挙げることができる。かかる相溶化剤の配合量には特に限定されないが、好ましくは、ポリマー成分(熱可塑性樹脂とエラストマーとの合計)100重量部に対して、0.5〜10重量部がよい。
【0045】
熱可塑性エラストマー組成物において、熱可塑性樹脂とエラストマーとの組成比は、特に限定されるものではない。例えば熱可塑性樹脂のマトリクス中にエラストマーが不連続相として均一に分散した構造をとるように、組成比を適宜決めればよい。熱可塑性樹脂とエラストマーとの組成比は、熱可塑性樹脂/エラストマーの重量比で、好ましくは90/10〜20/80、より好ましくは80/20〜30/70であるとよい。
【0046】
本発明において、熱可塑性樹脂、または熱可塑性樹脂とエラストマーをブレンドした熱可塑性エラストマー組成物には、例えば、フィルム11を構成することに必要な特性を損なわない範囲内で、上述した相溶化剤以外にも、他のポリマーを混合することができる。他のポリマーを混合する目的は、材料の成型加工性を良くするため、耐熱性向上のため、コストダウンのため等があり、これに用いられる材料としては、例えばポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ABS、SBS、ポリカーボネート(PC)等を例示することができる。また、一般的にポリマー配合物に配合される充填剤(炭酸カルシウム、酸化チタン、アルミナ等)、カーボンブラック、ホワイトカーボン等の補強剤、軟化剤、可塑剤、加工助剤、顔料、染料、老化防止剤等をフィルム2としての必要特性を損なわない限り、任意に配合することもできる。
【0047】
また、熱可塑性樹脂とブレンドされるエラストマーは、熱可塑性樹脂との混合の際に、動的に加硫することもできる。動的に加硫する場合の加硫剤、加硫助剤、加硫条件(温度、時間)等は、添加するエラストマーの組成に応じて適宜決定すればよく、特に限定されるものではない。このように熱可塑性エラストマー組成物中のエラストマーが動的加硫をされていることは、得られる熱可塑性エラストマー組成物が加硫エラストマーを含んだものとなるので、外部からの変形に対して抵抗力(弾性)があり、本発明の効果を大きくできることになり好ましい。
【0048】
ゴムシートを構成するゴム組成物の種類は特に限定されないが、隣接するタイヤ構成部材との接着性を確保するために、ジエン系ゴムを用いることが好ましい。ジエン系ゴムとしては、天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム等の空気入りタイヤにおいて一般的に用いられるものを使用することができる。
【0049】
上述の方法で製造された空気入りタイヤは、上記製造方法が適用されたタイヤ構成部材の層(例えば、インナーライナー層)を除いて、一般的な構造を有する。即ち、本発明の方法で製造された空気入りタイヤTは、図5に示すように、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部1と、このトレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2と、サイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3とを備える。尚、図5において、符号CLはタイヤ赤道を示す。
【0050】
左右一対のビード部3間にはカーカス層4が装架されている。このカーカス層4は、タイヤ径方向に延びる複数本の補強コードを含み、各ビード部3に配置されたビードコア5の廻りに車両内側から外側に折り返されている。また、ビードコア5の外周上にはビードフィラー6が配置され、このビードフィラー6がカーカス層4の本体部と折り返し部とにより包み込まれている。一方、トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には複数層(図5では2層)のベルト層7,8が埋設されている。各ベルト層7,8は、タイヤ周方向に対して傾斜する複数本の補強コードを含み、かつ層間で補強コードが互いに交差するように配置されている。これらベルト層7,8において、補強コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば10°〜40°の範囲に設定されている。更に、ベルト層7,8の外周側にはベルト補強層9が設けられている。ベルト補強層9は、タイヤ周方向に配向する有機繊維コードを含む。ベルト補強層9において、有機繊維コードはタイヤ周方向に対する角度が例えば0°〜5°に設定されている。タイヤ内面には上述の方法で製造されたインナーライナー層20を備える。このインナーライナー層20はその材質(フィルム11)によって空気透過防止性能を有し、タイヤ内に充填された空気がタイヤ外に透過することを防いでいる。
【0051】
このタイヤの赤道線断面では、図2に示すように、上述の方法で製造されたタイヤ構成部材の層(インナーライナー層20)は、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂とエラストマーとの混合物を含む熱可塑性エラストマー組成物を主成分とするフィルム11と、このフィルム11のタイヤ内周側に積層された内側ゴムシート12と、このフィルム11のタイヤ外周側(カーカス層4側)に積層された外側ゴムシート13とからなる3層構造の積層体の両端部が重ね合わせられて接合された構造を有する。そして、両端部が接合された部位(スプライス部S)では、タイヤ内周側に位置する積層体10の端部10A(上述の巻き始め端10Aに対応)中のフィルム11の先端11Aがタイヤ外周側に位置する積層体10の端部10B(上述の巻き終わり端10Bに対応)の内側ゴムシート12の内表面に当接し、且つ、タイヤ内周側に位置する積層体10の端部10A(巻き始め端10A)中のフィルム11がタイヤ内周側に位置する積層体10の端部10A(巻き始め端10A)中の内側ゴムシート12に覆われている。
【0052】
尚、図2の例では、製造時に、巻き終わり端10Bにおいても上述の端部構造を採用しており、両端部が接合された部位(スプライス部S)では、タイヤ外周側に位置する積層体10の端部10B(上述の巻き始終わり端10Bに対応)中のフィルム11の先端11Bがタイヤ内周側に位置する積層体10の端部10A(上述の巻き始め端10Aに対応)の外側ゴムシート13の外表面に当接し、且つ、タイヤ外周側に位置する積層体10の端部10B(巻き終わり端10B)中のフィルム11がタイヤ外周側に位置する積層体10の端部10B(巻き終わり端10B)中の外側ゴムシート13に覆われている。
【0053】
このように、本発明の製造方法によって製造された空気入りタイヤは、積層体10からなるタイヤ構成部材(インナーライナー層20)が上述の構造を有するため、剥離等の基点となるフィルム11の端部11A(巻き終わり端10Bにおいても上述の端部構造を採用した場合は端部11Aおよび端部11B)がゴムシート12,13に覆われて露出せず、スプライス部Sに起因するタイヤ故障を抑制することができる。
【実施例】
【0054】
表1に示す組成の熱可塑性エラストマー組成物からなるフィルムの両面に、表2に示す組成のゴム組成物からなるゴムシートを積層して構成された3層構造の積層体をインナーライナーとして用いた空気入りタイヤを製造するにあって、表3に示すようにフィルムの厚さ、内側ゴムシートの厚さ、外側ゴムシートの厚さ、積層体の端部構造、巻き始め端の角度、巻き終わり端の角度、巻き始め端における外側ゴムシートの外表面と巻き終わり端における内側ゴムシートの内表面とが当接する部分の長さL、端面の形成方法を異ならせた比較例1〜2、実施例1〜10の12種類の空気入りタイヤを各50本ずつ成形し、スプライス部の状態(各層の浮きやシワの有無)を評価し、その結果を表3に合わせて示した(尚、積層体の端部構造が階段状である実施例2、端面の形成方法が室温の切断刃である実施例1,3〜9は参考例である)。評価結果は、スプライス部の状態が悪いもの(各層の浮きやシワが生じたタイヤ)の本数により5段階で評価した(状態が悪いものが0〜2本の場合を「5」、3〜5本の場合を「4」、6〜10本の場合を「3」、11〜20本の場合を「2」、21〜50本の場合を「1」とした)。
【0055】
尚、巻き始め端の角度については、内側ゴムシートの端点を頂点として積層体の端面がドラム表面に垂直な線よりも積層体の巻き付け方向側に傾斜している場合を正の値、積層体の端面がドラム表面に垂直な線よりも積層体の巻き付け方向の逆側に傾斜している場合を負の値で示した。また、巻き終わり端の角度については、内側ゴムシートの端点を頂点として積層体の端面がドラム表面に垂直な線よりも積層体の巻き付け方向側に傾斜している場合を正の値、積層体の端面がドラム表面に垂直な線よりも積層体の巻き付け方向の逆側に傾斜している場合を負の値で示した。
【0056】
表3の「積層体の端部構造」の欄は、積層体の端面が傾斜面である場合を「傾斜面」、積層体の端面が階段状である場合を「階段状」、積層体の端面がドラムに垂直である場合を「垂直」と示し、対応する図面がある場合はその番号を併記した。表3の「端面の形成方法」の欄は、積層体の端面が傾斜面である場合の傾斜面の形成方法を示しており、切断刃で切断した場合を「切断刃」と示し、その切断刃の温度を併記した。尚、実施例2では、フィルム、内側ゴムシート、および外側ゴムシートの各層の端部を予め垂直に切断しておいた後、各層をずらして貼り合せて階段状の端部を形成しているため、表3の「端面の形成方法」の欄は空欄とした。
【0057】
【表1】
【0058】
表1において使用した原材料の種類を下記に示す。
・Br−IPMS:臭素化イソブチレン‐p‐メチルスチレン共重合体、エクソンモービルケミカル社製 Exxpro 3035
・変性EEA:無水マレイン酸変性エチレン‐エチルアクリレート共重合体、三井・デュポンポリケミカル社製 HPR‐AR201
・N6/66:ナイロン6/66共重合体、宇部興産社製 UBEウベナイロン5033B
・酸化亜鉛:正同化学工業社製、亜鉛華3号
・ステアリン酸:千葉脂肪酸社製 工業用ステアリン酸
・ステアリン酸亜鉛:日油社製 ステアリン酸亜鉛
【0059】
【表2】
【0060】
表2において使用した原材料の種類を下記に示す。
・SBR:スチレンブタジエンゴム、日本ゼオン社製 Nipol 1502
・NR:天然ゴム、SIR‐20
・CB:カーボンブラック、東海カーボン社製 シーストV
・ステアリン酸:千葉脂肪酸社製 工業用ステアリン酸
・アロマオイル:昭和シェル石油社製 デソレックス3号
・酸化亜鉛:正同化学工業社製、亜鉛華3号
・変性レゾルシン・ホルムアルデヒド縮合体:田岡化学工業社製 スミカノール620
・メチレンドナー:変性エーテル化メチロールメラミン、田岡化学工業社製 スミカノール507AP
・硫黄:軽井沢精錬所社製 5%油展処理硫黄
・加硫促進剤:ジ‐2‐ベンゾチアゾリルジスルフィド、大内新興化学工業社製 ノクセラーDM
【0061】
【表3】
【0062】
表3から明らかなように、適切な層厚、端部構造を採用した実施例1〜10の空気入りタイヤでは、スプライス部における各層の浮きや皺を防止することができた。一方、比較例1,2では、剥がれの基点となるフィルムの端部をゴムシートで覆うことができず、スプライス部において浮きが生じた。
【符号の説明】
【0063】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
4 カーカス層
5 ビードコア
6 ビードフィラー
7,8 ベルト層
9 ベルト補強層
10 インナーライナー層(積層体)
10A 巻き始め端
10B 巻き終わり端
11 フィルム
12 内側ゴムシート
13 外側ゴムシート
CL タイヤ赤道
図1
図2
図3
図4
図5