特許第6862982号(P6862982)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6862982樹脂添加剤、樹脂部品、及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6862982
(24)【登録日】2021年4月5日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】樹脂添加剤、樹脂部品、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/22 20060101AFI20210412BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20210412BHJP
   C08K 3/40 20060101ALI20210412BHJP
   C08J 5/00 20060101ALI20210412BHJP
   C08J 3/20 20060101ALI20210412BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20210412BHJP
   C08L 97/00 20060101ALI20210412BHJP
   B29B 7/90 20060101ALI20210412BHJP
   B29B 7/92 20060101ALI20210412BHJP
   B29B 9/06 20060101ALI20210412BHJP
   B29C 45/00 20060101ALI20210412BHJP
【FI】
   C08J3/22
   C08L101/00
   C08K3/40
   C08J5/00CES
   C08J3/20 B
   C08K3/34
   C08L97/00
   B29B7/90
   B29B7/92
   B29B9/06
   B29C45/00
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-57468(P2017-57468)
(22)【出願日】2017年3月23日
(65)【公開番号】特開2018-159009(P2018-159009A)
(43)【公開日】2018年10月11日
【審査請求日】2019年5月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】特許業務法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】瀬木 真琴
【審査官】 加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−222806(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第03130636(EP,A1)
【文献】 特開2005−307201(JP,A)
【文献】 特開2007−084688(JP,A)
【文献】 特開平10−045919(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/22
B29B 7/90
B29B 7/92
B29B 9/06
B29C 45/00
C08J 3/20
C08J 5/00
C08K 3/34
C08K 3/40
C08L 97/00
C08L 101/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
補強材としてタルクを含有する樹脂部品の素材となる樹脂に添加される樹脂添加剤であって、
前記タルクよりも硬い高硬度補強材であるシリカの粉末と、
前記高硬度補強材と前記樹脂との密着性を向上させる材料で、熱溶融して前記高硬度補強材と混練可能な相溶化剤と、
を有し、
前記高硬度補強材であるシリカの粒径が3.5〜24μmに設定されており、
前記高硬度補強材と相溶化剤とが一体化された状態でペレット状に形成されている樹脂添加剤。
【請求項2】
補強材としてタルクを含有する樹脂部品の素材となる樹脂に添加される樹脂添加剤であって、
前記タルクよりも硬い高硬度補強材である木粉の粉末と、
前記高硬度補強材と前記樹脂との密着性を向上させる材料で、熱溶融して前記高硬度補強材と混練可能な相溶化剤と、
を有し、
前記高硬度補強材である木粉の粒径が101μmに設定されており、
前記高硬度補強材と相溶化剤とが一体化された状態でペレット状に形成されている樹脂添加剤。
【請求項3】
請求項1又は請求項2のいずれかに記載された樹脂添加剤であって、
前記樹脂部品の摩擦係数を低減させる滑材が添加されている樹脂添加剤。
【請求項4】
請求項3に記載された樹脂添加剤であって、
前記高硬度補強材と相溶化材と滑材との重量比率が10:3:3に設定されている樹脂添加剤。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載された樹脂添加剤の製造方法であって、
前記高硬度補強材の粉末と、前記高硬度補強材と前記樹脂との密着性を向上させる相溶化剤のペレットとを混合する混合工程と、
前記混合工程の後、前記高硬度補強材と前記相溶化剤とを混練機に投入し、前記相溶化剤を熱溶融させて前記高硬度補強材と混練する混練工程と、
前記混練工程の後、前記高硬度補強材と前記相溶化剤とを冷却してペレット状に成形する成形工程と、
を有する樹脂添加剤の製造方法。
【請求項6】
請求項1から請求項4のいずれかに記載されている前記樹脂添加剤が添加されている樹脂組成物により成形されている樹脂部品。
【請求項7】
請求項6に記載された樹脂部品であって、
前記樹脂と高硬度補強材と相溶化材と滑材との重量比率が90:10:3:3に設定されている樹脂部品。
【請求項8】
請求項6又は請求項7のいずれかに記載された樹脂部品の製造方法であって、
高硬度補強材と相溶化剤とが一体化された状態でペレット状に形成されている樹脂添加剤と、樹脂とタルクとが一体化された状態で形成されている樹脂ペレットとを混合する混合工程と、
混合工程後の樹脂添加剤のペレットと樹脂ペレットとを射出成形機に供給し、樹脂部品を成形する成形工程と、
を有する樹脂部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂添加剤、その樹脂添加剤が添加された樹脂組成物により形成される樹脂部品、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
耐熱性の向上、剛性の向上、成形時の寸法安定性の向上等を目的としてポリプロピレン樹脂に補強材(フィラー)としてタルクを添加することが好適に行われている。前記タルクは、滑石を微粉砕した無機粉末であり、化学的に安定した物質である。特許文献1に記載の技術では、平均粒径が1μm以上で14μm以下のタルクを添加したポリプロピレン樹脂を自動車のインストルメントパネル(樹脂部品)の材料として使用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−117005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記タルクは無機鉱物中で最も硬度が低いため(モース硬度1)、樹脂部品の表面が鋭利なもので引っ掻かれた場合、タルクが露出したり、破壊されて白化し、樹脂部品の表面に引っ掻き疵が付き易い。
【0005】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、本発明が解決しようとする課題は、樹脂部品を疵付き難くする樹脂添加剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した課題は、各請求項の発明によって解決される。請求項1の発明は、補強材としてタルクを含有する樹脂部品の素材となる樹脂に添加される樹脂添加剤であって、前記タルクよりも硬い高硬度補強材であるシリカの粉末と、前記高硬度補強材と前記樹脂との密着性を向上させる材料で、熱溶融して前記高硬度補強材と混練可能な相溶化剤とを有し、前記高硬度補強材であるシリカの粒径が3.5〜24μmに設定されており、前記高硬度補強材と相溶化剤とが一体化された状態でペレット状に形成されている。
【0007】
本発明によると、樹脂添加剤は高硬度補強材と相溶化剤とが一体化された状態でペレット状に形成されている。このため、樹脂部品を射出成形する際、前記樹脂添加剤を素材となる樹脂のペレットに対して所定比率で混ぜることができる。これにより、樹脂部品中にタルクよりも硬い高硬度補強材の粒子が混ざるようになる。この結果、樹脂部品の表面が鋭利な物で引っ掻かれるような場合に、前記鋭利な物が樹脂部品中の高硬度補強材の粒子で受けられるようになり、樹脂部品の疵付きを改善できる。
【0008】
請求項2の発明は、補強材としてタルクを含有する樹脂部品の素材となる樹脂に添加される樹脂添加剤であって、前記タルクよりも硬い高硬度補強材である木粉の粉末と、前記高硬度補強材と前記樹脂との密着性を向上させる材料で、熱溶融して前記高硬度補強材と混練可能な相溶化剤とを有し、前記高硬度補強材である木粉の粒径が101μmに設定されており、前記高硬度補強材と相溶化剤とが一体化された状態でペレット状に形成されている。
【0009】
請求項3に係る発明によると、樹脂添加剤には、樹脂部品の摩擦係数を低減させる滑材が添加されている。このため、樹脂部品の表面が滑り易くなり、疵が付き難くなる。
【0010】
請求項4に係る発明によると、高硬度補強材と相溶化材と滑材との重量比率が10:3:3に設定されている
【0011】
請求項5の発明は、請求項1から請求項4のいずれかに記載された樹脂添加剤の製造方法であって、前記高硬度補強材の粉末と、前記高硬度補強材と前記樹脂との密着性を向上させる相溶化剤のペレットとを混合する混合工程と、前記混合工程の後、前記高硬度補強材と前記相溶化剤とを混練機に投入し、前記相溶化剤を熱溶融させて前記高硬度補強材と混練する混練工程と、前記混練工程の後、前記高硬度補強材と前記相溶化剤とを冷却してペレット状に成形する成形工程とを有する。
【0012】
請求項6の発明によると、樹脂部品は、請求項1から請求項4のいずれかに記載されている前記樹脂添加剤が添加されている樹脂組成物により成形されている。
請求項7の発明によると、樹脂部品は、前記樹脂と高硬度補強材と相溶化材と滑材との重量比率が90:10:3:3に設定されている。
【0013】
請求項8の発明は、請求項6又は請求項7のいずれかに記載された樹脂部品の製造方法であって、高硬度補強材と相溶化剤とが一体化された状態でペレット状に形成されている樹脂添加剤と、樹脂とタルクとが一体化された状態で形成されている樹脂ペレットとを混合する混合工程と、混合工程後の樹脂添加剤のペレットと樹脂ペレットとを射出成形機に供給し、樹脂部品を成形する成形工程とを有する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、樹脂部品を疵付き難くする樹脂添加剤を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態1に係る樹脂部品(インストルメントパネル)の模式斜視図である。
図2】前記樹脂部品のベースとなる樹脂、樹脂添加剤の配合割合と疵付き白化荷重等との関係等を表す図である。
図3】本実施形態1に係る樹脂添加剤の製造工程を表すブロック図である。
図4】前記樹脂添加剤の製造工程における混合工程を表す模式図である。
図5】前記樹脂添加剤の製造工程における混練工程、ペレット成形工程を表す模式図である。
図6】前記樹脂部品の製造工程を表すブロック図である。
図7】前記樹脂部品の製造工程を表す模式図である。
図8】前記樹脂部品の表面を引っ掻き硬度計により疵付き評価をしている様子を表す模式図である。
図9】樹脂添加剤の補強材(フィラー)の粒径と疵付き白化荷重等との関係を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[実施形態1]
以下、図1から図9に基づいて本発明の実施形態1に係る樹脂添加剤、樹脂部品、及びその製造方法について説明する。本実施形態に係る樹脂部品は、自動車の車室内に設置されるインストルメントパネル10である。インストルメントパネル10は、図1に示すように、自動車の走行に必要な計器類が取付けられるパネルであり、ベースとなる樹脂に樹脂添加剤30を添加した樹脂組成物20により成形されている。
【0017】
インストルメントパネル10の素材となる樹脂組成物20は、図2の実施例1に示すように、ポリプロピレン樹脂(PP)に対してタルク23を20%(重量%)配合したタルク配合樹脂21をベースにして製造される。ここで、タルク配合樹脂21を構成するタルク23は、上記したように、滑石を微粉砕した無機粉末であり、平均粒径が約5μmに設定されている。そして、タルク配合樹脂21の重量を90とした場合に、そのタルク配合樹脂21に対して補強材(フィラー)のシリカ32が重量10、相溶化剤34が重量3、滑材36が重量3、着色剤が重量3の割合で添加されることで樹脂組成物20が形成される。即ち、シリカ32、相溶化剤34、滑材36、及び着色剤が樹脂添加剤30となる。
【0018】
<樹脂添加剤30について>
樹脂添加剤30は、ベースとなるタルク配合樹脂21に添加されることで樹脂部品であるインストルメントパネル10の表面10fの疵付きを抑制するとともに、光沢を抑えるためのものである。樹脂添加剤30を構成するシリカ32は二酸化ケイ素(SiO2)の粉末であり、平均粒径が約3.5μmに設定されている。シリカ32は、モース硬度が7でタルク23(モース硬度1)に対して格段に硬い材料であり、インストルメントパネル10の表面10fの疵付き等を抑える働きをする。即ち、シリカ32が本発明の高硬度補強材に相当する。
【0019】
樹脂添加剤30を構成する相溶化剤34は、シリカ32の粒子とポリプロピレン樹脂との密着性を向上させるための材料であり、マレイン酸変性ポリプロピレンが使用される。また、滑材36は、インストルメントパネル10の表面10fの摩擦係数を低減させる材料であり、ステアリン酸マグネシウム(Mg)の粉末が使用される。ここで、滑材36としてステアリン酸マグネシウムの代わりに、ステアリン酸カルシウム(Ca)、ステアリン酸亜鉛(Zn)、ステアリン酸鉛(Pb)等を使用することも可能である。また、着色剤(図番省略)は、インストルメントパネル10の色に合わせて樹脂組成物20を着色する材料である。
【0020】
<樹脂添加剤30の製造方法について>
樹脂添加剤30は、図3に示すように、混合工程と混練工程とペレット成形工程とを経て製造される。混合工程は、図4に示すように、シリカ32の粉末と、相溶化剤34のペレットと、滑材36の粉末と、着色剤の粉末とを所定の重量比率、即ち、10:3:3:3の重量比率(図2 実施例1参照)で均一に混合する工程である。混合工程では、図4に示すように、攪拌羽根を備える混合装置37によってシリカ32の粉末と相溶化剤34のペレットと滑材36の粉末、及び着色材の粉末とが均一に混合される。
【0021】
混練工程は、混合工程で均一に混合されたシリカ32、相溶化剤34、滑材36、及び着色材の混合物を混練機38(図5参照)により混練する工程である。混練機38は、図5に示すように、押出式の混練機であり、混練機本体部380を備えている。混練機本体部380は、円筒形のシリンダ部381と、そのシリンダ部381内に回転可能に収納されている螺旋状のスクリュー(図示省略)と、前記スクリューを回転させる駆動部383とを備えている。また、混練機本体部380は、前記シリンダ部381内にシリカ32等の混合物を投入するホッパー384と、シリンダ部381内の温度を調整する温度調整部385とを備えている。
【0022】
混練工程では、先ず、混合工程で均一に混合されたシリカ32、相溶化剤34、滑材36、及び着色材の混合物が混練機38(混練機本体部380)のホッパー384に供給される。このとき、混練機本体部380のシリンダ部381内の温度は温度調整部385により約200℃に調整されている。これにより、ホッパー384から混練機本体部380のシリンダ部381内に一定量のシリカ32、相溶化剤34、滑材36、及び着色材の混合物が供給されると、相溶化剤34、滑材36、着色材が熱溶融する。そして、螺旋状のスクリューが回転することでシリカ32と相溶化剤34と滑材36と着色材とが混練されて、混練後の樹脂添加剤30が、図5に示すように、シリンダ部381の製品出口(図示省略)から軟化棒状体30wとして押し出される。
【0023】
ペレット成形工程は、混練機本体部380から押出された軟化棒状体30wから所定サイズの樹脂添加剤30のペレットを製造する工程である。ペレット成形工程では、混練機38の冷却槽388とカッタ389とが使用される。冷却槽388は、混練機本体部380から押出された軟化棒状体30wを切断に可能な温度まで水冷する装置である。また、カッタ389は、水冷後の軟化棒状体30wをペレットのサイズに切断する装置である。即ち、混練機本体部380から押出された軟化棒状体30wは、冷却槽388で水冷された後、カッタ389で所定サイズに切断され、樹脂添加剤30のペレットが製造される。
【0024】
<インストルメントパネル10(樹脂部品)の製造方法について>
インストルメントパネル10は、図6に示すように、混合工程と射出成形工程とを経て製造される。混合工程では、図7に示すように、攪拌羽根を備える混合装置43により樹脂添加剤30のペレットとタルク配合樹脂21のペレットとが所定の重量比率で均一に混合される。即ち、図2の実施例1に示すように、タルク配合樹脂21の重量90に対して樹脂添加剤30の重量19(=10+3+3+3)の割合で混合される。
【0025】
射出成形工程では、樹脂添加剤30とタルク配合樹脂21の混合ペレット40が射出成形機45に供給されてインストルメントパネル10の成形が行われる。射出成形機45は、図7に示すように、可動型46mと固定型46sとからなる成形型46と、成形型46の成形空間内に溶融樹脂を圧入する射出ユニット47とを備えている。射出ユニット47には、射出ユニット47に対して混合ペレット40を供給するためのホッパー48が設けられている。これにより、樹脂添加剤30とタルク配合樹脂21の混合ペレット40を射出成形機45のホッパー48に供給して射出成形を行うことで、タルク23及びシリカ32を補強材(フィラー)とする樹脂組成物20によりインストルメントパネル10が成形される。
【0026】
<インストルメントパネル10(樹脂部品)の疵付き試験について>
次に、インストルメントパネル10(以下、樹脂部品10という)の疵付き試験について説明する。樹脂部品10の疵付き試験は、引っ掻き硬度計50を使用して行われる。引っ掻き硬度計50は、図8に示すように、先端の引っ掻き端子52を樹脂部品10の表面10fに対して直角に所定荷重で押し付け、その引っ掻き端子52を表面10fに沿って移動させることで疵付きの程度を測定する装置である。そして、引っ掻き硬度計50の引っ掻き端子52を樹脂部品10の表面10fに対して押し付ける荷重と、樹脂部品10の表面10fに発生した引っ掻き疵の程度とから樹脂部品10(樹脂組成物20)の性能を評価している。ここで、引っ掻き硬度計50の引っ掻き端子52の径寸法は、0.5mmに設定されている。
【0027】
本実施形態に係る樹脂部品10の場合、図2の実施例1に示すように、タルク配合樹脂21(重量90)に対して、樹脂添加剤30、即ち、シリカ(重量10)、相溶化剤(重量3)、滑材(重量3)が添加されているため、引っ掻き硬度計50による疵付き試験の疵付き白化荷重が6Nであった。即ち、引っ掻き端子52を6Nの荷重で樹脂部品10の表面10fに押し付けて移動させた場合に、表面10fに白化した疵が発生した。これに対し、樹脂部品10をタルク配合樹脂21のみで成形した場合、引っ掻き硬度計50による疵付き試験の疵付き白化荷重が3.5Nであった。即ち、タルク配合樹脂21に対して、樹脂添加剤30を添加することで、樹脂部品10の表面に疵が付き難くなった。
【0028】
この理由として、図8に示すように、引っ掻き硬度計50の引っ掻き端子52が当接する樹脂部品10の表面10fにタルク23の粒子に交じって多数のシリカ32の硬い粒子が存在することが考えられる。これにより、引っ掻き硬度計50の引っ掻き端子52がシリカ32の硬い粒子によって受けられ、引っ掻き端子52がタルク23の粒子を露出崩壊させ難くなることで、疵が付き難くなるものと考えられる。
【0029】
また、光沢計で樹脂部品10の表面10fを測定した場合の光沢は、図2に示すように、前記樹脂部品10をタルク配合樹脂21のみで成形した場合、2.5(2.5%反射)であった。これに対し、タルク配合樹脂21(重量90)に対して、シリカ(重量10)、相溶化剤(重量3)、滑材(重量3)を添加した樹脂組成物20で樹脂部品10を成形した場合、光沢が1.7(1.7%反射)で艶消し効果が確認された。
【0030】
また、本実施形態では、図2の実施例1に示すように、タルク配合樹脂21(重量90)に対して、樹脂添加剤30、即ち、シリカ(重量10)、相溶化剤(重量3)、滑材(重量3)を添加する例を示した。これに対し、図2の比較例1は、タルク配合樹脂21(重量90)に対してシリカ(重量10)を添加し、相溶化剤(重量3)、滑材(重量3)を省略した例を示している。この場合でもシリカ(重量10)の働きで引っ掻き硬度計50による疵付き試験の疵付き白化荷重が5Nであり、タルク配合樹脂21のみの場合(3.5N)と比較すると疵が付き難くなっている。また、図2の比較例2は、タルク配合樹脂21(重量90)に対してシリカ(重量10)と相溶化剤(重量3)とを添加し、滑材(重量3)を省略した例を示している。この場合、引っ掻き硬度計50による疵付き試験の疵付き白化荷重が5.5Nであり、相溶化剤(重量3)の働きでシリカ(重量10)のみを添加した比較例1の場合よりも疵付き難くなっている。
【0031】
また、本実施形態では、図2の実施例1に示すように、シリカ(重量10)の平均粒径を約3.5μmに設定する例を示した。しかし、図9の比較例12に示すように、シリカ(重量10)の平均粒径を約5.3μmに設定しても、平均粒径が約3.5μmの場合と比較して疵付き防止性能(5N)に変化はなかった。また、図9の比較例13に示すように、平均粒径が約3.5μmのシリカ(重量10)の代わりに平均粒径が約20μmのガラスビーズ(モース硬度5)を使用すると、疵付き白化荷重が4.5Nとなり、疵付き防止性能が若干低下した。また、図9の比較例14に示すように、シリカ(重量10)の平均粒径を約24μmにアップすると、疵付き白化荷重が4.5Nとなり、疵付き防止性能が若干低下した。
【0032】
さらに、シリカ(重量10)の代わりにガラスビーズ(重量10)を使用して、図9の比較例15、比較例16、比較例17、比較例18に示すように、ガラスビーズ(重量10)の粒径を順番に大きくしていった場合を考える。比較例18におけるガラスビーズ(重量10)の平均粒径が約245μmの場合、疵付き白化荷重が4Nとなり、疵付き防止性能が他の比較例よりも低下する。これは、ガラスビーズ(重量10)の平均粒径が大きくなると、ガラスビーズの粒の数が少なくなるため、図8において引っ掻き硬度計50の引っ掻き端子52が当接する樹脂部品10の表面10fに存在するガラスビーズの数が少なくなる。この結果、ガラスビーズの粒子が引っ掻き硬度計50の引っ掻き端子52を適正に受けられなくなり、疵付き防止性能が低下するものと考えられる。このため、ガラスビーズ等の最大粒径は150μm以下に設定するのが好ましい。
【0033】
即ち、本実施形態では、平均粒径約3.5μmのシリカ(重量10)と相溶化剤(重量3)と滑材(重量3)とを備える樹脂添加剤30を例示した。しかし、平均粒径約3.5μmのシリカ(重量10)の代わりに平均粒径約5.3μm、24μmのシリカ(重量10)を使用することも可能であるし、平均粒径約20μm、50μm,70μm,106μmのガラスビーズ(重量10)を使用することも可能である。即ち、前記ガラスビーズも本発明の高硬度補強材に相当する。
【0034】
<本実施形態に係る樹脂添加剤30の長所について>
本実施形態によると、樹脂添加剤30はシリカ32等(高硬度補強材)と相溶化剤34とが一体化された状態でペレット状に形成されている。このため、樹脂部品10を射出成形する際、樹脂添加剤30を素材となるタルク配合樹脂21のペレットに対して所定比率で混ぜることができる。これにより、樹脂部品10中にタルク23よりも硬いシリカ32の粒子が混ざるようになる。この結果、樹脂部品10の表面10fが鋭利な物(例えば、引っ掻き硬度計50の引っ掻き端子52)で引っ掻かれるような場合に、前記引っ掻き端子52が樹脂部品10中のシリカ32の粒子で受けられることで、樹脂部品10の疵付きを改善できる。
【0035】
また、シリカ32、又はガラスビーズ(高硬度補強材)の粒径は、150μm以下である。このため、例えば、引っ掻き硬度計50の引っ掻き端子52(約0.5mm径)が樹脂部品10の表面10fに当接した場合に、その当接部分に複数のシリカ32、又はガラスビーズの粒子を配置できるようになる。また、樹脂添加剤30には、樹脂部品10の摩擦係数を低減する滑材36が添加されているため、樹脂部品10の表面10fが滑り易くなり、疵が付き難くなる。
【0036】
<変更例>
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更が可能である。例えば、本実施形態では、樹脂添加剤30の補強材(フィラー)としてシリカ32、又はガラスビーズを使用する例を示した。しかし、図2の実施例2に示すように、補強材として平均粒径が101μmの木粉を使用することも可能である。即ち、タルク配合樹脂21が重量90に対して前記木粉と相溶化剤34と滑材36と着色剤とを重量10:重量3:重量3:重量3の割合で配合して樹脂部品10を成形することも可能である。補強材として木粉を添加した樹脂部品10の疵付き白化荷重は、5.5Nであり、補強材としてシリカ32等を使用した場合(6N)と比較して疵付き防止性能が若干低下している。これは、木のモース硬度が約2でシリカ32等(モース硬度7)と比べると硬度が低いため、これが原因と考えられる。
【0037】
ここで、図2の比較例3に示すように、樹脂部品10のベースとしてタルク配合樹脂21(タルク20%、ポリプロピレン樹脂80%)の代わりにポリプロピレン樹脂を使用することも可能である。この場合、ポリプロピレン樹脂が重量80に対して前記木粉と相溶化剤34と着色剤とを重量20:重量3:重量3の割合で配合すると、樹脂部品10の疵付き白化荷重が8Nとなり、疵付き防止性能が改善された。また、本実施形態では、ポリプロピレン樹脂を使用して樹脂部品を成形する例を示したが、ポリプロピレン樹脂(PP)の代わりに、ポリエチレン樹脂(PE)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ABS樹脂、ABE樹脂、ASA樹脂、ポリアミド樹脂(PA)を使用することも可能である。なお、ポリプロピレン樹脂の代わりに上記樹脂を使用した場合、それぞれの樹脂に対応する相溶化剤を使用する必要がある。
【0038】
また、本実施形態では、樹脂添加剤30の製造方法において混練機38に対してシリカ32、相溶化剤34、滑材36、及び着色剤を供給して混練を行う例を示した。しかし、シリカ32、相溶化剤34、滑材36、着色剤に所定量のポリプロピレン樹脂を加えて混練を行うことも可能である。この場合、樹脂部品10の射出成形工程において樹脂添加剤30に加えたポリプロピレン樹脂の量だけベースとなるポリプロピレン樹脂の量を減らすことで対応が可能である。また、本実施形態では、樹脂部品10としてインストルメントパネルを例示したが、ピラートリム等に本発明を適用することも可能である。
【符号の説明】
【0039】
10・・・・インストルメントパネル(樹脂部品)
20・・・・樹脂組成物
21・・・・タルク配合樹脂
23・・・・タルク
30・・・・樹脂添加剤
32・・・・シリカ(高硬度補強材)
34・・・・相溶化剤
36・・・・滑材
38・・・・混練機
45・・・・射出成形機
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図9