特許第6862984号(P6862984)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6862984カチオン可染性ポリエステル太細マルチフィラメント
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6862984
(24)【登録日】2021年4月5日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】カチオン可染性ポリエステル太細マルチフィラメント
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/84 20060101AFI20210412BHJP
   D01F 6/62 20060101ALI20210412BHJP
【FI】
   D01F6/84 305B
   D01F6/62 303H
【請求項の数】3
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2017-59426(P2017-59426)
(22)【出願日】2017年3月24日
(65)【公開番号】特開2018-162531(P2018-162531A)
(43)【公開日】2018年10月18日
【審査請求日】2020年2月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】倉又 望
(72)【発明者】
【氏名】加藤 泰崇
(72)【発明者】
【氏名】吉原 潤一郎
【審査官】 斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−231625(JP,A)
【文献】 特開2006−200064(JP,A)
【文献】 特開2002−235240(JP,A)
【文献】 特開2010−202991(JP,A)
【文献】 特公昭61−027484(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 1/00 − 6/96
D01F 9/00 − 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチフィラメント長手方向の繊度斑に由来するウースター太細斑が3〜12%で、かつ沸騰水収縮率が2〜20%であり、共重合成分として金属スルホネート基を含有するイソフタル酸成分をポリエステルの全ジカルボン酸成分に対して1.1〜3.2モル%含有し、かつモース硬度が3以上である無機粒子を0.01質量%以上含有したカチオン可染性ポリエステル太細マルチフィラメントにおいて、ウースター波形の繊度変動ベースラインからの繊度変動率幅20%以上の繊度変動ピークの個数の変動係数CV%が12%以下であることを特徴とするカチオン可染性ポリエステル太細マルチフィラメント。
【請求項2】
ウースター波形の繊度変動ベースラインからの繊度変動率幅20%以上の繊度変動ピーク個数の平均値が1〜10個/mである請求項1に記載のカチオン可染性ポリエステル太細マルチフィラメント。
【請求項3】
破断強度が1.9〜2.5cN/dtex、タフネスが19.0以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のカチオン可染性ポリエステル太細マルチフィラメント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチフィラメントにおける太細斑の発生頻度のバラツキが少なくして、織編物の濃染部を与える太部および淡染部を与える細部の局在化を起こりにくくし、かつ優れた布帛強度や寸法安定性を備え、濃淡コントラストの大きい杢調を表現できる織編物を与え得るカチオン可染性ポリエステル太細マルチフィラメントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、意匠性に優れたスポーツ衣料・インテリア用途の織編物のニーズが高まっており、濃淡コントラストの大きな杢調素材、特に天然繊維調とは異なる、杢調バラツキの少ない意匠性素材の需要が拡大している。杢調素材の代表的なマルチフィラメントとして、ポリエステル高配向未延伸マルチフィラメントを不均一延伸して糸長手方向に太細のあるマルチフィラメントとすることは公知の技術である。これにより得られた太細マルチフィラメントはその太部と細部により発生する濃淡染色差による杢感と、太部と細部の収縮率の違いに起因する優れたスパン感を有するため、婦人・紳士用アウターやカジュアルウエアなど薄地織編物衣料用途に高評価を得ている(例えば特許文献1、特許文献2、特許文献3参照)。
【0003】
一方、ポリエステルマルチフィラメントの染色性改良を目的に、金属スルホネート基を含有するイソフタル酸成分などに代表されるイオン性染着座席を共重合して、鮮明性に優れたカチオン染料により染色可能とする方法は知られており、太細斑を有するポリエステル太細マルチフィラメントで、カチオン染料によって染色されるカチオン可染性ポリエステル太細マルチフィラメントも知られている(例えば特許文献4、特許文献5参照)。
【0004】
しかしながら、金属スルホネート基を含有するイソフタル酸成分などを共重合させたポリエステルマルチフィラメントでは、その溶融粘度を低くする目的から重合度を低くしているため、得られるポリエステルマルチフィラメントの強度が低下することから曳糸性が極めて悪く、紡糸中に単繊維糸切れが頻発し、紡糸困難である。また、仮に紡糸できたとしても、その素材の強度が低いこともあり、後加工、すなわち撚糸、サイジング、製織編、あるいは仮撚加工および仕上げ加工などで毛羽や断糸が発生するという課題がある。更には、原料ポリマーに共重合成分に由来する熱劣化物や副生成物が異物となってマルチフィラメント中に流入し、曵糸性悪化やマルチフィラメント物性バラツキを引き起こす。
【0005】
かかる問題を抱えたカチオン可染性ポリエステルマルチフィラメントを太細マルチフィラメント化することで、太部もしくは細部が局在化し、太部局在箇所はマルチフィラメントの強度およびタフネスを低下させるため、曵糸性の更なる悪化を引き起こすとともに物性バラツキを助長させる。このようなカチオン可染性ポリエステル太細マルチフィラメントについて、特許文献4および5記載の方法で、マルチフィラメント長手方向にランダムに太細斑を成させた場合は、特に太部局在化が進行するため、太細斑による杢調に再現性が得られないばかりか、著しいタフネス低下による延伸性悪化や高次加工性不調を引き起こす。また、太部は配向度の小さい未延伸部が集中しているため、太部局在化したマルチフィラメントを用いた織編物では、布帛強度の低下や、熱セット時のシボ立ちやひきつれが発生する。
【0006】
かかる問題を改善する手法として、高温熱セットによって太部の熱結晶化を促進させ、高強度化、低収縮率化を図る技術(例えば特許文献6)や、太部を微分散させる技術(例えば特許文献7)が存在する。しかし、特許文献6記載の方法にて得られたカチオン可染性ポリエステル太細マルチフィラメントでは、安定した高次加工性を十分に達成できるタフネスは得られず、また特許文献7記載の方法ではマルチフィラメント長手方向に太細斑が分散してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭50−18717号公報
【特許文献2】特公昭51−7202号公報
【特許文献3】特開昭52−103523号公報
【特許文献4】特開2002−235239号公報
【特許文献5】特開2003−306830号公報
【特許文献6】特開2006−200064号公報
【特許文献7】特開2004−277956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来技術、例えば特許文献4および5記載の方法にて得た杢調は発色鮮明性に優れ、濃淡コントラストが大きいものの、太細マルチフィラメントの太細斑の発生頻度バラツキが大きいため、織編物にしたとき濃染部を示す太部もしくは淡染部を示す細部の局在化が起こり、杢調バラツキが大きくなって杢調素材として扱いにくくなる。前記問題を解決する技術として特許文献6および7記載の方法があるが、これにより得られたカチオン可染性ポリエステル太細マルチフィラメントは、発色鮮明性に優れるものの、得られた杢調は濃淡コントラストが小さく、意匠性素材としての特徴が弱まってしまう。
【0009】
これらの課題に対して本発明は、優れた発色鮮明性を有しつつもマルチフィラメント長手方向における太細斑の発生頻度バラツキを少なくして、織編物の濃染部を与える太部および淡染部を与える細部の局在化を起こりにくくすることで杢調バラツキを小さくし、かつ優れた布帛強度や寸法安定性を備え、意匠性素材として十分な濃淡コントラストの大きい杢調を表現できる織編物を与え得るカチオン可染性ポリエステル太細マルチフィラメントを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため、本発明は以下の構成を採用する。
(1)マルチフィラメント長手方向の繊度斑に由来するウースター太細斑が3〜12%で、かつ沸騰水収縮率が2〜20%であり、共重合成分として金属スルホネート基を含有するイソフタル酸成分をポリエステルの全ジカルボン酸成分に対して1.1〜3.2モル%含有し、かつモース硬度が3以上である無機粒子を0.01質量%以上含有したカチオン可染性ポリエステル太細マルチフィラメントにおいて、ウースター波形の繊度変動ベースラインからの繊度変動率幅20%以上の繊度変動ピークの個数の変動係数CV%が12%以下であることを特徴とするカチオン可染性ポリエステル太細マルチフィラメント。
(2)ウースター波形の繊度変動ベースラインからの繊度変動率幅20%以上の繊度変動ピーク個数の平均値が1〜10個/mである(1)に記載のカチオン可染性ポリエステル太細マルチフィラメント。
(3)破断強度が1.9〜2.5cN/dtex、タフネスが19.0以上であることを特徴とする(1)または(2)に記載のカチオン可染性ポリエステル太細マルチフィラメント。
【発明の効果】
【0011】
本発明のカチオン可染性ポリエステル太細マルチフィラメントは染色したときの発色鮮明性が良好であり、かつ濃染部と淡染部により表現される杢調の濃淡コントラストが大きく、杢調バラツキが小さい織編物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の高配向未延伸マルチフィラメントを得る方法を説明するための紡糸工程の一例を示す工程概略図
図2】本発明の実施例で使用した不均一延伸装置を模式的に示す説明図
図3】定応力伸張領域伸度を説明するための荷重−伸長曲線(A:定応力伸張領域伸度、B:破断点伸度)
図4】ウースター斑の波形チャートと繊度変動ピーク(a:ウースター波形チャートのベースライン、b:ベースライン位置aから+20%位置)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明におけるポリエステルとは、繊維形成性の優れたポリエステルであり、主たる酸成分がテレフタル酸またはそのエステル誘導体、主たるグリコール成分がエチレングリコールからなるものであって、エチレンテレフタレート単位を少なくとも80モル%以上含むものを指し、さらに金属スルホネート基を含有するイソフタル酸成分が全カルボン酸に対し1.1〜3.2モル%共重合されたカチオン染料で染色可能な改質ポリエステルである。
【0014】
金属スルホネート基を含有するイソフタル酸成分として、例えばジメチル(5−ナトリウムスルホ)イソフタレートやビス−2−ヒドロキシエチル(5−ナトリウムスルホ)イソフタレート等が挙げられる。
【0015】
ポリエステル繊維の発色鮮明性や明瞭な濃淡コントラストを有する杢調を付与すると共に、製糸性を良好とするためには、改質ポリエステル中のイソフタル酸成分は全カルボン酸成分に対して1.1〜3.2モル%共重合していることが重要である。イソフタル酸成分の含有量が1.1モル%未満では、十分な発色鮮明性が得られず、杢調も濃淡コントラストの小さい天然繊維ライク長のものとなる。また、イソフタル酸成分の含有量が3.2モル%を超える場合、マルチフィラメントの太細斑に関係なく均一に染まるため、杢調が目立たなくなる上に、マルチフィラメントの機械的特性(強度等)が低下する。イソフタル酸成分の含有量は、好ましくは1.2〜2.6モル%である。
【0016】
また、本発明ではグリコール成分として、ネオペンチルグリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、4,4−ジヒドロキシビスフェノール、これらのグリコールにエチレンオキサイドが付加したグリコールおよびポリエチレングリコールなどを共重合成分として含有していてもよく、減粘効果の大きい重量平均分子量90〜6000のポリエチレングリコールを0.2〜10質量%共重合成分として含有することで発色鮮明性に加えて高次加工操業性がより好ましくなる。
【0017】
本発明のカチオン可染性ポリエステル太細マルチフィラメントは、マルチフィラメント長手方向の繊度斑に由来するウースター太細斑が3〜12%であることが必須である。ウースター太細斑が3%未満であると染色織編物としたとき、濃淡染色差による杢調が発現せず、また12%より大きいと濃染部を示す太部の局在化が起こって織編物の寸法安定性が悪化する。ウースター太細斑は4〜8%がより好ましい。
【0018】
本発明のカチオン可染性ポリエステル太細マルチフィラメントの沸騰水収縮率は2〜20%の範囲である。沸騰水収縮率が2%より小さいと得られた布帛に膨らみ感がなく、衣料用途への展開が困難となる。また、沸騰水収縮率が20%より大きいと、織編物とした場合の精練、染色などで熱処理する際に異常に収縮し風合いが硬くなる。沸騰水収縮率は4〜13%がより好ましい。
【0019】
本発明のカチオン可染性ポリエステル太細マルチフィラメントは、マルチフィラメント長手方向の繊度変動率について、ウースター波形チャートにおける繊度変動率のベースラインからの繊度変動率幅が20%以上となる繊度変動ピークの変動係数CV%が12%以下であることが必須である。変動係数CV%が12%より大きいと、マルチフィラメント長手方向の太細斑発生頻度のバラツキが大きく、織編物にした際、太部および細部の局在化が起こり、安定した杢調が得られないばかりか、布帛強度や寸法安定性にも劣る。変動係数CV%は5〜11%以下がより好ましい。
【0020】
さらに本発明のカチオン可染性ポリエステル太細マルチフィラメントは、マルチフィラメント長手方向の繊度変動率について、ウースター波形チャートにおける繊度変動率のベースラインからの繊度変動率幅が20%以上となる繊度変動ピークの平均値が1〜10個/mであることが好ましい。繊度変動ピーク個数の平均値が10個/m以下であれば杢調の濃染部となるマルチフィラメント長手方向における太部割合が適度となり、染色織編物の杢調は濃染部が優勢となるので狙いとする明瞭な杢調が得られる。また、繊度変動ピーク個数の平均値が1個/m以上であると、杢調の濃染部となるマルチフィラメント長手方向における太部が適度に存在するため、染色織編物としたときに明瞭な杢調が発現する。
【0021】
本発明のカチオン可染性ポリエステル太細マルチフィラメントの破断強度は1.9〜2.5cN/dtexの範囲であることが好ましい。破断強度が1.9cN/dtexより大きいと撚糸、サイジング、製織編、あるいは仮撚加工などの後工程において糸切れ等のトラブルがなく良好である。また、破断強度が2.5cN/dtex以下であると、後加工工程の通過性はより良好であり、かつ織編物にして染色した際に杢調の濃淡コントラストが良好となる。破断強度は2.0〜2.4cN/dtexがより好ましい。
【0022】
本発明のカチオン可染性ポリエステル太細マルチフィラメントのタフネスは19.0以上であることが好ましい。なお、タフネスTはマルチフィラメントの強度をScN/dtex、伸度をE%とすると、次式(1)によって示される。タフネスが19.0以上であると織編物にした際の布帛強度が衣料用途レベルであり高次加工性が良好である。タフネスは20.0以上であることがより好ましい。
T(−)=S(cN/dtex)×{E(%)}1/2 ・・・ (1) 。
【0023】
本発明のカチオン可染性ポリエステル太細マルチフィラメントの具体的な製造方法を以下に詳細に記載する。
本発明の太細マルチフィラメントは、従来公知の改質ポリエステルの溶融紡糸方法で製造できる。
【0024】
以下に図1を用いて説明する。まず、ポリエステルを溶融して紡糸口金1から吐出させて糸条を形成し、冷却装置2で冷却し、次いで給油ガイド3で給油した後に交絡ノズル4を経て、ゴデッドローラー5および交絡ノズル6を経て高配向未延伸マルチフィラメントをドラム7に巻き取る。
【0025】
本発明の太細マルチフィラメントは前記高配向未延伸マルチフィラメントを所定の倍率で摩擦抵抗体を用いて不均一延伸することによって得られる。不均一延伸工程は紡糸工程に連続して行うことも可能であるが、紡糸直後の高配向未延伸マルチフィラメントは図3のAで示す定応力伸張領域が明瞭でないので、不均一延伸してもマルチフィラメントに太細を形成しにくい。そのため一旦高配向未延伸マルチフィラメントとして巻き取った後に不均一延伸することが好ましい。
【0026】
図2は本発明で採用できる好ましい不均一延伸糸の製造装置の一実施態様である。図2において、高配向未延伸マルチフィラメント7をフィードローラー8、11の間で摩擦抵抗体9と加熱延伸ローラー10を介して低倍率延伸を行い太細マルチフィラメントとした後、ワインダー12で巻き取る。
【0027】
延伸に用いる高配向未延伸マルチフィラメントは無機粒子を0.01〜3.0質量%含有するものである。無機粒子を0.01質量%以上含有していると、高配向未延伸マルチフィラメント表面に無機粒子が露出するため、摩擦抵抗体上でのスティックスリップ現象が安定化し、マルチフィラメント長手方向の太細斑の発生頻度バラツキが小さくなる。また、無機粒子含有率が3.0質量%以下であると、紡糸、延伸および織編工程においてマルチフィラメントや織編機が損傷を受けにくくなり、毛羽や糸切れが少なく、操業性が良好となる。ここでいうスティックスリップ現象とは、走行糸条が摩擦抵抗体に接した際、経時的に張力変動が発生するものである。すなわち、延伸張力が摩擦抵抗体上の最大静止摩擦力を上回ると糸条はスリップして延伸されず、一方下回ると摩擦抵抗体上で把持されて延伸されることで、マルチフィラメント長手方向にフィラメントの太細斑が形成される現象をいう。
【0028】
無機粒子の種類は特に限定されるものではないが、モース硬度が3〜8の範囲にあることが必要である。モース硬度が3以上であると延伸工程での走行糸条と摩擦抵抗体間の動摩擦力が高くなるため、好ましいとしているスティックスリップ現象が起こる。一方、モース硬度が8以下であると設備損傷が少なく、糸質や操業性が良好である。モース硬度が3〜8の範囲にある無機粒子としては、酸化マグネシウムやシリカ、酸化チタン、酸化ジルコニウム等が挙げられる。
【0029】
また、無機粒子の平均粒径は、無機粒子原末由来の一次粒子について1.0μm以下であることが良好である。無機粒子の平均粒径が1.0μm以下であると、無機粒子による設備損傷や、マルチフィラメントへのダメージによる毛羽や糸切れ発生頻度が少なくなり、高次加工操業性が良好となる。
【0030】
カチオン可染性ポリエステル太細マルチフィラメント中に前記無機物をブレンドするには特別な方法を採用する必要はなく、例えば改質ポリエステルの重合工程で加える方法、マスターペレット化したのちベースとなる改質ポリエステルと混練する方法、無機物と液状改質ポリエステルとをあらかじめ混合した液状の添加剤組成物を、紡糸直前の溶融改質ポリエステル流中にギアポンプ等で計量しながら注入添加した後、静的あるいは動的混練分散を行う方法等が挙げられる。紡糸機の汚染や取扱性、コスト等を加味するとマスターペレットによる方法が最も一般的である。
【0031】
本発明の高配向未延伸フィラメントを製造するに際しては図1に示す給油ガイド3にて給油を行う。高配向未延伸マルチフィラメントに付与される紡糸油剤は平滑性を付与する有効成分を6〜15質量%配合することが好ましい。ここでいう有効成分とはポリエーテルや脂肪酸エステル、鉱物油等、ポリエステルマルチフィラメントへの平滑性付与剤として一般的に知られている物質であれば特に限定されない。有効成分濃度が6質量%以上であると摩擦抵抗体と高配向未延伸マルチフィラメントとの摩擦力が良好となり、摩擦抵抗体上で走行糸条が安定化するため、マルチフィラメント長手方向の太細斑の発生頻度バラツキが良好となる。有効成分濃度が15質量%以下であれば、設備の糸条走行部分へのスカム析出が少なく、紡糸、延伸および高次加工操業性が良好となる。
【0032】
さらに、高配向未延伸マルチフィラメントへの紡糸油剤付着量は0.7〜1.6質量%であることが好ましい。給油方式については給油ガイドや階下オイリングローラー等、一般的に溶融紡糸された高配向未延伸マルチフィラメントに油剤付着させる手法であれば特に限定されない。紡糸油剤付着量が0.7質量%以上であると紡糸工程では設備との擦過による単糸切れがなく、また延伸工程では高配向未延伸マルチフィラメントパッケージの解じょ性が良好となるので紡糸・加工操業性が良好となる。また、紡糸油剤付着量が1.6質量%以下であると設備の糸条走行部分へのスカム析出が少なく、揮発した油剤が摩擦抵抗体上に過度に付着することもないので摩擦抵抗体の表面状態が安定化して、マルチフィラメント長手方向の太細斑の発生頻度バラツキが小さくなり、操業性面ならびに品質面ともに良好である。
【0033】
摩擦抵抗体としては円柱状の熱ピンが好ましい。円柱状熱ピンを外周するように高配向未延伸マルチフィラメントが巻かれていることで、摩擦抵抗体が走行糸条を安定的に把持することができ、スティックスリップ現象が安定化することでマルチフィラメント長手方向の太細斑の発生頻度バラツキが小さくなる。
【0034】
また、摩擦抵抗体温度はポリマーのガラス転移点温度Tg〜100℃であることが好ましい。摩擦抵抗体の温度がTg以上であると、太細の分散性が良好で、長い太部の発生が少ない。一方、摩擦抵抗体の温度が100℃以下であれば太細糸のウースター斑、濃淡コントラストともに低下を抑制できる。
【0035】
更に、摩擦抵抗体と高配向未延伸マルチフィラメントとの接触時間は3.0×10―3〜6.0×10―3秒であることが好ましい。接触時間が3.0×10―3秒以上であると摩擦抵抗体上での走行糸条の揺れが小さく、加工時の糸切れがなくスティックスリップ現象の安定化により太細斑発生頻度バラツキが小さくなる。また、接触時間が6.0×10−3秒以下であると濃染部となる太部の割合が良好となるためマルチフィラメントの機械的特性が良好となることに加えて、織編物としたときの寸法安定性にも優れ、かつフィラメント間の太細位相差が良好となるため太細斑バラツキがなく良好な杢調が得られる。
【0036】
本発明における高配向未延伸マルチフィラメントは紡糸速度2000〜3200m/minにて紡糸することが好ましい。紡糸速度が2000m/min以上であると、延伸後の太細マルチフィラメントの強度が実用レベルとなり、生産性の観点からも有利である。また、紡糸速度3200m/min以下である場合、図3の定応力伸長伸度(A部分)が発現して、延伸工程にてマルチフィラメント長手方向の太細斑の発生が良好となる。紡糸速度は2350〜3000m/minがより好ましい。
【0037】
また、フィードローラー8と加熱延伸ローラー10の速度比で延伸倍率は決定されるが、延伸倍率は安定した太細斑を生じさせるために、延伸倍率を以下(2)式に従って決定したとき、0.80≦α≦1.10が好ましい。なお、定応力伸張伸度は図3におけるA部分を指す。αが1.10以下であると太部の発生頻度が好適となり、染色布帛としたとき濃染部が顕在化して、目的とする杢調が得られる。また、αが0.80以上であると太細マルチフィラメントの強度およびタフネスが実用レベルとなり、高次加工時の糸切れ等の発生が少ない。
【0038】
(1+定応力伸長伸度(%)/100)×α倍 ・・・ (2)
(α:延伸倍率における係数) 。
【0039】
更にまた、延伸ローラー10は加熱型であって、加熱延伸ローラーの温度は110〜140℃であることが好ましい。加熱延伸ローラーの温度が110℃以上であると適度な沸騰水収縮率となり、後工程での織編物の寸法安定性が良好で、織編物として良好な杢調となる。加熱延伸ローラーの温度は140℃以下であると適度な熱結晶化のため杢調と風合い(ふくらみ感)が良好な織編物となる。
【0040】
また本発明の目的を逸脱しない範囲で、各種の添加剤などを併用してもよく、例えば難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤および蛍光増白剤などが挙げられる。
【0041】
なお、カチオン可染性ポリエステル太細マルチフィラメントを構成するフィラメントの断面形状は特に限定されず、丸断面、三角断面、楕円、多葉などいずれの形状も好ましく用いることができる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお、実施例中の各特性値は次の方法で求めた。
【0043】
(1)マルチフィラメント中の金属スルホネート基を有するイソフタル酸成分の測定
マルチフィラメント中の元素含有量を(株)リガク製蛍光X線分析装置(ZSX−100e)で分析し、イソフタル酸量に換算した。
(2)マルチフィラメント中のポリエチレングリコールの定量および数平均分子量測定
マルチフィラメント中のポリエチレングリコール含有量は、ポリマーをモノメタノールアミンで加水分解後、カリボール(テトラフェニルホウ酸ナトリウム)にて滴定し定量した。ポリエチレングリコールの数平均分子量は、マルチフィラメントを加水分解した後、ゲル濾過クロマトグラフィー(GPC)にて測定した。
【0044】
(3)ガラス転移点Tg
TAインスツルメント社製Q100を用いた熱特性分析(DSC)にて、サンプル量10mg、測定雰囲気N、昇降温速度は1stおよび2ndともに16℃/minの条件で測定した。
【0045】
(4)ウースター波形チャートから算出される繊度変動ピーク個数の変動係数CV%
後述するウースター糸むら試験機を用いて25秒間測定を実施し、得られたウースター波形チャート(糸長10m分相当)の繊度変動率最低値をベースライン(図4のa)とする。ベースラインaから+20%の位置(図4のb)にラインを引き、ラインbよりプラス側にピークトップを有する繊度変動ピーク個数をカウントする(図4)。糸長10m中のピーク個数をカウントした後、本測定を6回繰り返し、得られたピーク個数から平均値および変動係数CV%を算出する。なお、ウースター波形チャートは、zellweger社製USTER TESTER UT−4を用いて、糸のトータル繊度により使用する測定用スロットルを選択した後、糸速25m/分、撚り数5000T/mの条件にて1分間測定することにより得る。
【0046】
(5)紡糸油剤付着量
得られた高配向未延伸マルチフィラメントを10g精秤し、メタノール100mlで油剤を抽出する。抽出分の高配向未延伸マルチフィラメントに対する割合(質量%)を紡糸油剤付着量(質量%)とする。
【0047】
(6)沸騰水収縮率
カチオン可染性ポリエステル太細マルチフィラメントを周長1.0mの検尺機を用いて10回巻きしてカセ取りした後、このカセに0.09g/dtexの初荷重をかけ、カセの長さを測り、aとする。100℃の温度の沸騰水中で15分間熱処理し、8時間以上自然乾燥した後、0.09g/dtexの荷重をかけ、カセの長さを測り、bとする。a、bはサンプルを変えて3点ずつ測定し、次式により沸騰水収縮率を算出する。
沸騰水収縮率(%)={(a−b)/a}×100 ・・・ (3) 。
【0048】
(7)破断強度・破断伸度・タフネス・定応力伸張領域伸度
ORIENTEC(現エー・アンド・ディ)社製のTENSILON RTC−1210Aを用い、試長200mm、引張速度200mm/分の条件で応力−歪み曲線を求め、糸が破断した際の力を繊度で除した値を強度とし、糸が破断した際の伸びを試料長で除した値に100を乗じた値を伸度として、各値サンプルを変えて3点ずつ測定し、その平均値を求めた。タフネスは、強度および伸度結果から前記(1)の式を用いて表す。定応力伸張領域伸度は、測定で得た図3に示すチャート上のAの伸度を読み取り、サンプルを変えて6点ずつ測定し、その平均値で表す。
【0049】
(8)無機粒子含有量
サンプル5gを磁性るつぼに入れ、電気炉を用いて1000℃で灰化し、灼熱残分を無機物として質量%で表し無機物含有量とする。
【0050】
(9)モース硬度
カチオン可染性ポリエステル太細マルチフィラメントに添加する粒子と同じ組成、結晶構造をもった試験片を作製、または粒子に粉砕する前の鉱物を試験片とし、モース硬度測定用の標準鉱物と互いに引っかいて、引っかきが行われるかどうかで硬さ数を測定する。
【0051】
(10)発色鮮明性
得られたカチオン可染性ポリエステル太細マルチフィラメントを下記条件で製織、染色し、染色織編物の発色鮮明性について、5年以上の品位判定経験を有する検査員3名の目視判定にて、その合議により発色鮮明性が「極めて優れている」は5点、「優れている」は4点、「普通」は3点、「劣っている」は2点、「発色鮮明性無し」は1点とし、4点以上を合格とした。
[製織条件]
縦糸 84T−36Fのカチオン可染性ポリエステルマルチフィラメント
緯糸 実施例で得たカチオン可染性ポリエステル太細マルチフィラメント
経密度 50本/inch
[染色条件]
染料 アイゼンカロチンブルーGLH 0.7%O.W.F.
染色助剤 酢酸ソーダ 0.15g/L
酢酸(100%) 0.5mL/L
浴比 1:100
染色 50℃×15分処理の後、1.6℃/分の速度で昇温し、98℃×20分処理する。
【0052】
(11)濃淡コントラスト
前記、製織条件および染色条件にて得た染色織編物について、5年以上の品位判定経験を有する検査員3名の目視判定にて、その合議により濃淡コントラストが「十分大きい」は5点、「大きい」は4点、「普通」は3点、「小さい」は2点、「濃淡コントラスト無し」は1点とし、4点以上を合格とした。
【0053】
(12)杢調バラツキ
前記、製織条件および染色条件にて得た染色織編物について、5年以上の品位判定経験を有する検査員3名の目視判定にて、その合議により杢調が「十分分散している」は5点、「分散している」は4点、「普通」は3点、「やや局在化している」は2点、「局在化している」は1点とし、4点以上を合格とした。
【0054】
(13)操業性
高次加工の操業性は、カチオン可染性ポリエステル太細マルチフィラメントを用いて織編物を作製する際に、糸切れ回数を仕掛数で除した罰点率が「1.0%未満」は○○、「1.0%以上2.0%未満」は○、「2.0%以上5.0%未満」は△、「5.0%以上」は×とした。○以上が目標レベルである。
【0055】
[実施例1]
25℃オルトクロロフェノール(濃度99.9%)中の固有粘度が0.63のジメチル(5−ナトリウムスルホ)イソフタル酸が全ジカルボン酸に対して1.6モル%、重合工程でモース硬度6、平均粒径0.5μmの酸化チタン一次粒子を0.07質量%添加した改質ポリエチレンテレフタレートを用い、72孔を配列した口金を使用して、図1の工程にて紡糸速度2500m/分で溶融紡糸し、平滑剤有効成分を11.0質量%含む紡糸油剤を1.2質量%塗布したのちに、2糸条取りでドラムに巻き付け、36フィラメント、総繊度が157dtexの高配向未延伸マルチフィラメントを得た。
次に、該高配向未延伸マルチフィラメントを図2に示すような延伸機を使用し、熱ピン9の温度80℃、熱ピンとの接触時間4.6×10−3秒、延伸倍率を(1)式の係数αを0.95として熱ピン延伸後、熱ピン直下の加熱延伸ローラー10(温度120℃)にて熱セットし、フィードローラー11で引取、さらにワインダー12でボビンに巻き取ってカチオン可染性ポリエステル太細マルチフィラメントを得た。
該太細マルチフィラメントのウースター波形を測定し、ウースター太細斑5.2%、繊度変動率幅20%以上の各繊度変動ピークを測定して変動係数CV%を算出したところ9.3%であった。また、沸騰水収縮率は8.0%、破断強度は2.1cN/dtex、タフネスは20.0であった。
該太細マルチフィラメントを製織して染色後、発色鮮明性、濃淡コントラスト、杢調バラツキの官能試験を実施して5段階評価した。結果を表1に示す。得られた織編物は発色鮮明性に極めて優れ、濃淡コントラストも十分大きく、濃染部もしくは淡染部の局在化も見られない安定した杢調が発現した。また、紡糸、延伸および高次加工操業性についても良好であった。
【0056】
[実施例2〜4]
実施例1において使用する無機粒子の含有量を0.01〜3.0質量%としたこと以外は、実施例1と同様にして紡糸・延伸加工実施し、カチオン可染性ポリエステル太細マルチフィラメントを得た。得られたマルチフィラメントの特性を表1に示す。実施例2で得られたマルチフィラメントを用いて作製した織編物は、発色鮮明性に極めて優れ、濃染部や淡染部の局在化のない濃淡コントラストの十分大きな杢調を有しており、紡糸、延伸および高次加工操業性も良好であった。実施例3、4で得られたマルチフィラメントを用いて作製した織編物は発色鮮明性に優れ、濃染部や淡染部の局在化のない濃淡コントラストの大きな杢調を有しており、意匠性素材として問題ないレベルの杢調であった。また、紡糸、延伸および高次加工操業性も良好であった。
【0057】
[実施例5、6]
実施例1において使用する無機粒子のモース硬度を3および8としたこと以外は、実施例1と同様にして紡糸・延伸加工実施し、カチオン可染性ポリエステル太細マルチフィラメントを得た。得られたマルチフィラメントの特性を表1に示す。実施例5、6で得られたマルチフィラメントを用いて作製した織編物は、発色鮮明性に極めて優れ、濃淡コントラストの十分大きな杢調を有しており、意匠性素材として問題ないレベルの杢調であった。また、実施例5では紡糸、延伸および高次加工操業性は良好レベル、実施例6では紡糸、加工および高次加工操業性は問題ないレベルであった。
【0058】
[実施例7]
実施例1において使用する無機粒子の平均粒径を1.0μmとしたこと以外は、実施例1と同様にして紡糸・延伸加工実施し、カチオン可染性ポリエステル太細マルチフィラメントを得た。得られたマルチフィラメントの特性を表1に示す。実施例7で得られたマルチフィラメントを用いて作製した織編物は、発色鮮明性に極めて優れ、濃淡コントラストの十分大きな杢調を有しており、意匠性素材として問題ないレベルの杢調であった。また、紡糸および延伸操業性、高次加工操業性は良好であった。
【0059】
【表1】
【0060】
[実施例8、9]
実施例1において使用する紡糸油剤の平滑剤有効成分濃度を6.0および15.0質量%としたこと以外は、実施例1と同様にして紡糸・延伸加工実施し、カチオン可染性ポリエステル太細マルチフィラメントを得た。得られたマルチフィラメントの特性を表2に示す。実施例8、9で得られたマルチフィラメントを用いて作製した織編物は、発色鮮明性に極めて優れ、濃淡コントラストの十分大きな杢調を有しており、意匠性素材として問題ないレベルの杢調であった。また、紡糸および高次加工操業性は良好、延伸操業性は目標レベルであった。
【0061】
[実施例10、11]
実施例1において使用する紡糸油剤の油剤付着量を0.7および1.6質量%としたこと以外は、実施例1と同じ方法で紡糸・延伸加工を実施し、カチオン可染性ポリエステル太細マルチフィラメントを得た。得られたマルチフィラメントの特性を表2に示す。実施例10で得られたマルチフィラメントを用いて作製した織編物は発色鮮明性に極めて優れ、濃淡コントラストの大きな杢調を有しており、意匠性素材として問題ないレベルの杢調であった。また、紡糸および高次加工操業性は良好、延伸操業性は目標レベルであった。実施例11で得られたマルチフィラメントを用いて作製した織編物は発色性に極めて優れ、濃染部や淡染部の局在化のない濃淡コントラストの十分大きな杢調を有しており、紡糸、加工および高次加工操業性は良好であった。
【0062】
[実施例12、13]
実施例1において使用する摩擦抵抗体(熱ピン)の温度を74および100℃としたこと以外は、実施例1と同じ方法で紡糸・延伸加工を実施し、カチオン可染性ポリエステル太細マルチフィラメントを得た。得られたマルチフィラメントの特性を表2に示す。実施例12で得られたマルチフィラメントを用いて作製した織編物は発色鮮明性に極めて優れ、濃淡コントラストの十分大きな杢調を有しており、意匠性素材として問題ないレベルの杢調であった。また、紡糸および高次加工操業性は良好、延伸操業性は目標レベルであった。実施例13で得られたマルチフィラメントを用いて作製した織編物は発色鮮明性に極めて優れ、濃染部や淡染部の局在化のない濃淡コントラストの大きな杢調を有しており、意匠性素材として問題ないレベルの杢調であった。また、紡糸、延伸および高次加工操業性は良好であった。
【0063】
[実施例14、15]
実施例1において摩擦抵抗体と走行糸条との接触時間を3.0×10−3および6.0×10−3秒としたこと以外は、実施例1と同じ方法で紡糸・延伸加工を実施し、カチオン可染性ポリエステル太細マルチフィラメントを得た。得られたマルチフィラメントの特性を表2に示す。実施例14で得られたマルチフィラメントを用いて作製した織編物は発色鮮明性に極めて優れ、濃染部や淡染部の局在化のない濃淡コントラストの大きな杢調を有しており、意匠性素材として問題ないレベルの杢調であった。また、紡糸および高次加工操業性は良好、延伸操業性は目標レベルであった。実施例15で得られたマルチフィラメントを用いて作製した織編物は発色鮮明性に極めて優れ、濃淡コントラストの十分大きな杢調を有しており、意匠性素材として問題ないレベルの杢調であった。また、紡糸、延伸および高次加工操業性は良好であった。
【0064】
【表2】
【0065】
[実施例16、17]
実施例1において使用する高配向未延伸マルチフィラメントの紡糸速度を2000および3200m/minとしたこと以外は、実施例1と同じ方法で紡糸・延伸加工を実施し、カチオン可染性ポリエステル太細マルチフィラメントを得た。得られたマルチフィラメントの特性を表3に示す。実施例16で得られたマルチフィラメントを用いて作製した織編物は発色鮮明性に極めて優れ、濃淡コントラストの十分大きな杢調を有しており、意匠性素材として問題ないレベルの杢調であった。また、紡糸、延伸および高次加工操業性は良好であった。実施例17で得られたマルチフィラメントを用いて作製した織編物は発色鮮明性に極めて優れ、濃染部や淡染部の局在化のない濃淡コントラストの大きな杢調を有しており、意匠性素材として問題ないレベルの杢調であった。また、紡糸、延伸および高次加工操業性は良好であった。
【0066】
[実施例18、19]
実施例1において延伸倍率における係数αを0.80および1.10としたこと以外は、実施例1と同じ方法で紡糸・延伸加工を実施し、カチオン可染性ポリエステル太細マルチフィラメントを得た。得られたマルチフィラメントの特性を表3に示す。実施例18で得られたマルチフィラメントを用いて作製した織編物は発色鮮明性に極めて優れ、濃淡コントラストの十分大きな杢調を有しており、意匠性素材として問題ないレベルの杢調であった。また、紡糸、延伸および高次加工操業性は良好であった。実施例19で得られたマルチフィラメントを用いて作製した織編物は発色鮮明性に極めて優れ、濃染部や淡染部の局在化のない濃淡コントラストの大きな杢調を有しており、意匠性素材として問題ないレベルの杢調であった。また、紡糸、延伸および高次加工操業性は良好であった。
【0067】
[実施例20、21]
実施例1において熱セット温度を110および140℃としたこと以外は、実施例1と同じ方法で紡糸・延伸加工を実施し、カチオン可染性ポリエステル太細マルチフィラメントを得た。得られたマルチフィラメントの特性を表3に示す。実施例20で得られたマルチフィラメントを用いて作製した織編物は発色鮮明性に極めて優れ、濃淡コントラストの十分大きな杢調を有しており、意匠性素材として問題ないレベルの杢調であった。また、紡糸操業性は良好であり、延伸および高次加工操業性は目標レベルであった。実施例21で得られたマルチフィラメントを用いて作製した織編物は発色鮮明性に極めて優れ、濃淡コントラストの十分大きな杢調を有しており、意匠性素材として問題ないレベルの杢調であった。また、紡糸、延伸および高次加工操業性は良好であった。
【0068】
[実施例22]
実施例1において重量平均分子量1000のポリエチレングリコールを重合前に添加して共重合させ、ポリエチレングリコール含有量をポリエステルに対して1.2質量%とした以外は、実施例1と同じ方法で紡糸・延伸加工を実施し、カチオン可染性ポリエステル太細マルチフィラメントを得た。得られたマルチフィラメントの特性を表3に示す。実施例22で得られたマルチフィラメントを用いて作製した織編物は発色鮮明性に極めて優れ、濃染部や淡染部の局在化のない濃淡コントラストの十分大きな杢調を有しており、意匠性素材として問題ないレベルの杢調であった。また、紡糸、延伸および高次加工操業性も極めて良好であった。
【0069】
【表3】
【0070】
[比較例1]
イソフタル酸成分量を全ジカルボン酸に対し1.0モル%としたこと以外は、実施例1と同様にして紡糸・延伸加工を実施し、カチオン可染性ポリエステル太細マルチフィラメントを得た。得られたマルチフィラメントの特性を表4に示す。マルチフィラメントを用いて作製した織編物は、発色鮮明性に劣り、濃染部や淡染部の局在化はないものの、濃淡コントラストの小さな杢調を有しており、意匠性素材としては特徴に欠ける杢調であった。
【0071】
[比較例2、3]
実施例1において使用する無機粒子のモース硬度を比較例2では2、比較例3では9としたこと以外は、実施例1と同様にして紡糸・延伸加工実施し、カチオン可染性ポリエステル太細マルチフィラメントを得た。得られたマルチフィラメントの特性を表4に示す。比較例2で得られたマルチフィラメントを用いて作製した織編物は、発色鮮明性に極めて優れ、濃淡コントラストの十分大きな杢調を有していたが、濃染部や淡染部の局在化が見られ、意匠性素材としては扱いにくい杢調であった。比較例3で得られたマルチフィラメントを用いて作製した織編物は、発色鮮明性に極めて優れ、濃淡コントラストの十分大きな杢調を有していたが、濃染部や淡染部の局在化が見られ、意匠性素材としては扱いにくい杢調であった。更に、無機粒子のモース硬度が高いため各工程での設備損傷が激しく、磨耗による毛羽や風綿が多発して、延伸および高次加工操業性は目標未達であった。
【0072】
[比較例4]
実施例1において使用する無機粒子の平均粒径を1.2μmとしたこと以外は、実施例1と同様にして紡糸・延伸加工を実施し、カチオン可染性ポリエステル太細マルチフィラメントを得た。得られたマルチフィラメントの特性を表4に示す。得られたマルチフィラメントを用いて作製した織編物は、発色鮮明性に極めて優れ、濃淡コントラストの十分大きな杢調を有していたが、高次加工工程において糸切れによる停台や、毛羽および風綿の発生等が見られ、高次加工操業性は目標未達であった。
【0073】
【表4】
【0074】
[比較例5、6]
実施例1において使用する紡糸油剤の平滑剤有効成分濃度を比較例5では4.6質量%、比較例6では15.7質量%としたこと以外は、実施例1と同様にして紡糸・延伸加工実施し、カチオン可染性ポリエステル太細マルチフィラメントを得た。得られたマルチフィラメントの特性を表5に示す。比較例5で得られたマルチフィラメントを用いて作製した織編物は、発色鮮明性に極めて優れ、濃淡コントラストの大きな杢調であったが濃染部の局在化が散見され、意匠性素材としては扱いにくい杢調であった。また、平滑性低下に伴って、紡糸、延伸および高次加工工程にて毛羽や風綿が多発し、いずれの操業性も目標未達となった。比較例6で得られたマルチフィラメントを用いて作製した織編物は、発色鮮明性に極めて優れ、濃淡コントラストの大きな杢調であったが濃染部の局在化が散見され、意匠性素材としては扱いにくい杢調であった。また、延伸および高次加工工程において平滑剤由来のタールが糸条走行部分に析出し、糸切れや製品汚れ等が多発して延伸および高次加工操業性が目標未達であった。
【0075】
[比較例7、8]
実施例1において使用する紡糸油剤の付着量を比較例7では0.6質量%、比較例8では1.7質量%としたこと以外は、実施例1と同じ方法で紡糸・延伸加工を実施し、カチオン可染性ポリエステル太細マルチフィラメントを得た。得られたマルチフィラメントの特性を表5に示す。比較例7、8で得られたマルチフィラメントを用いて作製した織編物は発色鮮明性に極めて優れ、濃淡コントラストの十分大きな杢調を有していたが、濃染部の局在化が見られ、意匠性素材としては扱いにくい杢調であった。比較例7では油剤付着量低下に伴って、紡糸、延伸および高次加工工程における走行糸条と設備との擦化による糸切れ、毛羽や風綿の発生等が見られ、延伸および高次加工操業性は目標未達であった。比較例8では油剤付着量過多によって、油剤由来のタールが糸条走行部分に析出し、糸切れや製品汚れ等が多発して延伸および高次加工操業性が目標未達であった。
【0076】
【表5】
【符号の説明】
【0077】
1:口金
2:チムニー
3:給油ガイド
4:第1インターレースノズル
5:引取ローラー
6:第2インターレースノズル
7:高配向未延伸糸
8:フィードローラー
9:摩擦抵抗体(熱ピン)
10:加熱延伸ローラー
11:フィードローラー
12:ワインダー
A:定応力伸張域の伸び
B:破断までの伸び
a:ウースター波形チャートのベースライン
b:ウースター波形チャートのベースラインから繊度変動率+20%を示す直線
図1
図2
図3
図4