特許第6862996号(P6862996)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6862996
(24)【登録日】2021年4月5日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】石炭の粉化評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/22 20060101AFI20210412BHJP
   G01N 1/28 20060101ALN20210412BHJP
【FI】
   G01N33/22 A
   !G01N1/28 T
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-64862(P2017-64862)
(22)【出願日】2017年3月29日
(65)【公開番号】特開2018-169199(P2018-169199A)
(43)【公開日】2018年11月1日
【審査請求日】2020年1月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】宇部興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106297
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 克博
(72)【発明者】
【氏名】小林 浩
(72)【発明者】
【氏名】山田 記央
(72)【発明者】
【氏名】▲虫▼合 一浩
(72)【発明者】
【氏名】田野 龍海
(72)【発明者】
【氏名】村谷 剛
(72)【発明者】
【氏名】本郷 孝
【審査官】 高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−283008(JP,A)
【文献】 特開2009−221361(JP,A)
【文献】 特開2007−291262(JP,A)
【文献】 特開2008−297385(JP,A)
【文献】 特開2014−077035(JP,A)
【文献】 特開2003−041263(JP,A)
【文献】 特開2007−284615(JP,A)
【文献】 特開2014−019814(JP,A)
【文献】 特開2014−019746(JP,A)
【文献】 特開昭60−044432(JP,A)
【文献】 特開昭61−213288(JP,A)
【文献】 米国特許第04169170(US,A)
【文献】 コークス類−試験方法,JIS K 2151:2004,日本,一般社団法人日本規格協会,2004年,P1-3,12-17
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/00−33/46
G01N 1/00− 1/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
石炭を体積破壊させる体積破壊工程と、
落下させた前記石炭を表面破壊させる表面破壊工程と
を有する石炭の粉化特性評価方法であって、
前記体積破壊工程では、前記石炭を布製の袋に0.5〜5kg入れて高さ8〜10mから落下させ、
前記表面破壊工程では、落下させた前記石炭をφ300mm以上1400mm以下の回転機に装入して30〜50rpmで500〜1000回転させること
を特徴とする石炭の粉化特性評価方法。
【請求項2】
請求項1に記載の石炭の粉化特性評価方法において、
前記体積破壊工程における高さは8.6mであること
を特徴とする石炭の粉化特性評価方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の石炭の粉化特性評価方法において、
前記表面破壊工程ではφ350mmの回転機を用い、40rpmで800回転させること
を特徴とする石炭の粉化特性評価方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の石炭の粉化特性評価方法において、
前記石炭は改質炭であること
を特徴とする石炭の粉化特性評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石炭の粉化評価方法に関し、特には、大規模な設備を必要とすることなく簡便に石炭の粉化特性を評価することができる石炭の粉化評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、褐炭などを成型して得られる改質炭は、既存の石炭インフラ設備にてバルク輸送(船舶への積み込み・荷揚げ、車両による運搬、貯蔵ヤードでの横持ち)され、目的の荷揚地へと出荷される。バルク輸送中は、落下や擦れなどの衝撃を受けて製品が粉化することが予想される。
【0003】
したがって出荷される製品はバルク輸送に耐える十分な粉化特性を有することが求められる。なお、石炭の粉化特性を評価するものとしては、JIS Z 8841造粒物―強度試験法がある。加えて、特許文献1では、回転試験後に篩にかける手法にて評価を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−19746
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、石炭のバルク輸送中の粉化特性を評価しようとする場合、図面を参照して後述するように、従来、大規模な設備での評価が必要であり、煩雑である。また、特許文献1の評価方法はバルク輸送時の粉化を想定しておらず、バルク輸送時の粉化を適切に評価するものではない。
【0006】
そこで本発明の目的は、大規模な設備を必要とすることなく簡便に石炭のバルク輸送中の粉化特性を評価することができる石炭の粉化評価方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明の一形態の粉化評価方法は下記の通りである:
石炭を体積破壊させる体積破壊工程と、
落下させた前記石炭を表面破壊させる表面破壊工程と
を有する石炭の粉化特性評価方法であって、
前記体積破壊工程では、前記石炭を布製の袋に0.5〜5kg入れて高さ8〜10mから落下させ、
前記表面破壊工程では、落下させた前記石炭をφ300mm以上1400mm以下の回転機に装入して30〜50rpmで500〜1000回転させること
を特徴とする石炭の粉化特性評価方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、大規模な設備を必要とすることなく簡便に石炭の粉化特性を評価することができる石炭の粉化評価方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一形態に係る粉化評価方法のフローチャートである。
図2】本発明の一形態に係る粉化評価方法を実施した結果を示すグラフである。
図3】袋の形状を模式的に示す図であり、(a)が空の状態、(b)が試料を入れた状態を示す。
図4】回転試験機の回転部の構成を模式的に示す図であり、(a)が正面図、(b)が斜視図である。
図5】大規模なハンドリング設備の構成を模式的に示す図である。
図6図5の設備を使った粉化評価方法の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(1.ハンドリング設備での粉化評価方法)
ハンドリング設備の一例を図5に模式的に示す。このハンドリング設備1は、一例で、受入ホッパ11と、ベルトコンベア12と、ホッパ13と、抜出しベルトコンベア15と、二軸パドルミキサ17と、ベルトコンベア18〜20とを備えている。ハンドリング設備1は、受入ホッパ11に石炭の試料を供給すると、ベルトコンベア12によってそれがホッパ13に搬送され、次いで、ホッパ13、ベルトコンベア15、二軸パドルミキサ17、ベルトコンベア18〜20、ベルトコンベア12の順で試料を循環させるものである。
【0011】
ベルトコンベア18、19の接続部分、ベルトコンベア19、20の接続部分、ベルトコンベア20、12の接続部分にはそれぞれシュート20−1〜20―3が設けられ、石炭は、このシュートを通って落下するようになっている。このようなハンドリング設備1を用いて、石炭の粉化特性評価が行われる。
【0012】
(参考例1)
参考例1の粉化評価は一例で次のような手順で行われる。
(i)まず、成型した石炭を、ハンドリング設備1の循環経路に供給して、所定時間、循環搬送を行う。(ii)その後、サンプルを採取し、粒度分布を測定する。循環時間による粉化の程度は、限定されるものではないが、2mm篩(ふるい)通過質量百分率で評価する。
【0013】
ハンドリング設備1の搬送能力は一例で50t/hである。循環させる石炭は一例でインドネシア亜瀝青炭であるA炭である。試料量は一例で2mである。参考例1における成型した石炭の粒度分布(粉化評価試験前、及びハンドリング設備1での評価試験後)を表1に示す。
【0014】
【表1】
【0015】
(参考例2)
参考例2の評価方法では、試料を改質炭に変えた以外は参考例1と同様の装置、条件で試験を実施した。改質炭はインドネシア褐炭であるB炭を粉砕後圧縮成型したものを用いる。参考例2における改質炭の粒度分布(粉化評価試験前、及びハンドリング設備1での評価試験後)を表2に示す。
【0016】
【表2】
【0017】
(結果)
参考例1、2の結果を図6に示す。また、図6のグラフにおいて、横軸はハンドリング設備1における循環時間(min)であり、縦軸は2mm篩通過質量百分率(質量%)である。
【0018】
石炭および改質炭のいずれも循環時間が長くなるほど、ハンドリング時の衝撃で破砕され、当然ながら、微粉(2mm篩通過質量百分率)が増加していくが、改質炭(参考例2)は石炭(参考例1)よりも微粉が少なくなっている。この結果から、改質炭は石炭と比べ粉化が抑制されていることが分かる。また、参考例1、2いずれの試料においても循環後約50分を経過すると、粉化の進行が停滞することが分かる。
【0019】
このことから、同設備で50分間の処理を行えば、改質炭のバルク輸送中の粉化の限界が確認できることが分かった。
【0020】
(2.本実施形態に係る評価方法)
石炭の粉化特性は重要な品質評価項目であるが、図5のような大型の試験機で評価することはサンプル量確保の観点から、改質炭などの開発段階では利用するのが困難であるし、評価に多くの人員や重機が必要である。改質炭などの製造方法を迅速に最適化するに当っては、最小量のサンプルで簡便かつ短時間に複数のサンプルの粉化特性を評価することが望ましい。
【0021】
そこで、本発明者らは、図5のようなハンドリング試験装置(50分間の循環処理)で得られる結果を、少量サンプル・実験室規模で再現可能な評価方法を検討した。具体的には、バルク輸送時の石炭または改質炭に対しては体積破壊と表面破壊が複合的に行われていると考え、体積破壊を与えるために高所から落下させた後、表面破壊を与えるための回転処理を行うことで評価設備、手順の小規模化および簡略化を図ることとした。種々の検討の結果、次のような評価方法が有用であることを見出した。本実施形態に係る評価方法は、体積破壊工程(ステップS1)と表面破壊工程(ステップS2)との2工程を有する(図1も参照)。
【0022】
ステップS1は、体積破壊工程である。この工程では、石炭または改質炭の試料を袋の中に入れて所定高さから落下させる。袋は一例で布製である。袋に入れる量は一例で0.5kg以上5.0kg以下である。「所定高さ」は一例で8m以上10m以下である。落下させる回数は一例で5回以上25回以下である。袋の材質は、どのようなものであっても原則構わないが、落下衝撃が内容物に伝わるように生地がある程度薄く、かつ、破れが生じないように十分丈夫なものであることが好ましい。また、軽量であるものも好ましい。
【0023】
ステップS2は、表面破壊工程である。この工程では、上記工程で落下させた試料を所定の回転試験機に入れて、所定の回転速度で、所定の回転数だけ回転させる。表面破壊工程に用いる装置は、回転試験機に限らず表面破壊が与えられる装置であれば、どのようなものでも良い。
【0024】
所定の回転試験機としては、例えば、回転部の内径がφ300mm以上のものを利用してもよい。所定の回転速度としては、一例で、30rpm以上50rpmである。所定の回転数としては、一例で、500回転以上1000回転以下である。試験機の構成例については他の図面も参照して後述する。
【実施例】
【0025】
下記のような具体的な条件にて本発明の一形態に係る粉化評価方法を実施した。
【0026】
ステップS1として、石炭(実施例1)または改質炭(実施例2)の試料1kgを8.6mの高さから20回落下させた。なお、落下後のサンプルを全量回収する必要があるため、落下の際は、布製の袋に試料を梱包し、袋ごと落下させた。落下に当っては、試料を入れた布製袋を重力落下させて地上のコンクリート面に激突させる方法とした。
【0027】
落下試験に用いた袋を図3に示す。袋41の形状は下記の通りである。
・材質:PE織布(フレキシブルコンテナバッグとして使用されるようなもの。通気性有り。)
・形状:平底の底部直径がφ500mmで高さ(深さ)が500mmの円筒形状
・容量(梱包前、円筒形として):79.5リットル
【0028】
袋への試料の充填に関し、1袋当たり1kg充填した。図3(a)のような空の状態の袋(上端開口部に紐を有する)に試料を入れ、図3(b)のような形態で袋を閉じた。
【0029】
試料1kgの充填量(容積)は、かさ密度が0.5〜0.9kg/リットルの場合、1.1〜2.0リットルとなる。試料の充填率は、したがって1.4〜2.5%の範囲内である(「a〜b」はa以上b以下を示す。)。なお、本発明の一形態においては、充填率は1.0〜10%の範囲内としてもよい。
【0030】
ステップS2として、その後に回転試験機(40rpm)で10分間処理を行った。回転強度はJISZ8841造粒物―強度試験法で規定されている回転強度試験機を用いたが、衝撃力を増加させるため、内部に高さ60mmのリフターを2箇所(0°と180°の位置)に設置したものを使用した。
【0031】
回転強度試験機は、具体的には図4(a)の正面図および図4(b)の斜視図に模式的に示すような回転部を有するものである。回転部は、内部に試料を入れて回転する円筒部材45を有している。円筒部材45は、内径が350mmで内部の軸方向長さが175mmである。この円筒部材45の内部2個所(0°と180°の位置)に高さ60mmのリフター45a、45aを設置した。なお、JIS規格ではリフターの高さは10mmである。リフター45aは、平板状の部材であり、図4(a)に示すように半径方向に延びるように配置され、より具体的には、内周面から中心側に向かって延在している。また、図4(b)に示すように、リフター45aは、円筒部材45と同じく175mmに形成されている。リフター45aの厚みはこの例では10mmである。
【0032】
図2は、ステップS1、S2の処理を行った後、2mmの篩を通過したものの割合(質量%)をプロットしたものである。比較のため参考例1、2も併せて示す。実施例1の試料は参考例1で用いたA炭であり、実施例2の試料は参考例2で用いたB炭の改質炭である。また、実施例1における試料の粒度分布を表1に示し、実施例2における試料の粒度分布を表2に示す。
【0033】
図2では実施例1,2の評価条件(8.6mの高さから20回落下させ、かつ40rpmで20分間回転)を参考例1,2の評価条件(ハンドリング設備1での循環時間50分)と同等と見做して記載した。そのため図2の横軸は図6と同様(ハンドリング設備1での循環時間)である。図6では実施例1、2いずれも参考例1、2と同様の挙動を示している。
【0034】
以上より、ハンドリング試験50分間の衝撃に相当するラボ試験法(落下8.6mを20回し、回転40rpmを20分)で改質炭のバルク輸送中の粉化特性が評価できた。また、評価に必要な試料量は1kgと小規模化を図ることができた。
【0035】
(付記)
本出願は以下の発明を開示する:
1.石炭を体積破壊させる体積破壊工程と、
落下させた前記石炭を表面破壊させる表面破壊工程と
を有する石炭の粉化特性評価方法であって、
前記体積破壊工程では、前記石炭を布製の袋に0.5〜5kg入れて高さ8〜10mから落下させ、
前記表面破壊工程では、落下させた前記石炭をφ300mm以上の回転機に装入して30〜50rpmで500〜1000回転させること
を特徴とする石炭の粉化特性評価方法。
【0036】
このような方法によれば、次のような作用効果が得られる。すなわち、石炭はハンドリング中に一定量が粉化するが、上記の試験を行うことで採掘−積出−運搬−陸揚げ−運搬、を経て発電所等で使用されるまでの粉化量を高い精度で推定し、粉化特性を評価することが可能となる。特に、図5に示したような大規模な設備を用いる必要もないので、簡便に粉化特性を評価することができるものとなる。
【0037】
2.上記粉化特性評価方法において、前記体積破壊工程における高さは8.6mであることを特徴とする方法。本発明は具体的にはこのような高さからの落下を行うことで実施可能である。
【0038】
3. 前記表面破壊工程ではφ350mmの回転機を用い、40rpmで800回転させることを特徴とする方法。本発明は具体的にはこのような回転試験を行うことで実施可能である。
【0039】
4.上記記載石炭の粉化特性評価方法において、前記石炭は改質炭であることを特徴とする方法。この方法によれば、改質炭においても上記手法により粉化特性を評価できる。
【符号の説明】
【0040】
41 袋
45 円筒部材
45a リフター
図1
図2
図3
図4
図5
図6