(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6863074
(24)【登録日】2021年4月5日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】マイクロ流路チップ
(51)【国際特許分類】
G01N 35/08 20060101AFI20210412BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20210412BHJP
B01J 19/00 20060101ALI20210412BHJP
B81B 7/02 20060101ALI20210412BHJP
【FI】
G01N35/08 A
G01N37/00 101
B01J19/00 321
B81B7/02
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-102190(P2017-102190)
(22)【出願日】2017年5月24日
(65)【公開番号】特開2018-197694(P2018-197694A)
(43)【公開日】2018年12月13日
【審査請求日】2020年3月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(74)【代理人】
【識別番号】100179213
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 未知子
(74)【代理人】
【識別番号】100170542
【弁理士】
【氏名又は名称】桝田 剛
(72)【発明者】
【氏名】長濱 正宗
【審査官】
長谷 潮
(56)【参考文献】
【文献】
特表2016−516562(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0111141(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0050749(US,A1)
【文献】
国際公開第99/001742(WO,A1)
【文献】
特表2001−502793(JP,A)
【文献】
特開平03−007571(JP,A)
【文献】
特開2002−328080(JP,A)
【文献】
特開2005−091258(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2006/0057580(US,A1)
【文献】
特許第6759841(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 35/00−37/00
B01J 19/00
B81B 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1流体を収容するための第1流体空間と、前記第1流体空間に連通する第1マイクロ流路と、前記第1マイクロ流路に連通し、前記第1流体空間から前記第1マイクロ流路を介して導入される前記第1流体を反応させるための反応空間とを有する本体部と、
前記第1流体空間から前記第1流体を前記第1マイクロ流路へ送り出すように、前記第1流体空間内を移動可能な第1プランジャと、
前記本体部に対し着脱自在に固定されるカバーと
を備え、
前記本体部は、第1部材と、前記第1部材と異なる材料からなり、前記第1部材に結合された第2部材とを含み、
前記本体部は、前記第1流体と反応させる検体を前記反応空間へ導入するための導入口と、前記導入口に連通し、前記導入口を介して前記反応空間へ導入される前記検体を収容するための検体空間を有し、
前記検体空間は、前記本体部の上面において開口するとともに、側面及び底面を有する皿状に形成され、
前記導入口は、前記検体空間の前記底面に形成され、
前記カバーは、前記検体空間の開口を覆い、前記カバーにおける前記本体部と対向する面及び前記本体部における前記カバーと対向する面の一方に磁石が配置されており、他方に前記磁石に磁力により結合する要素が配置されている、
マイクロ流路チップ。
【請求項2】
前記磁石は、前記カバーにおける前記本体部と対向する面及び前記本体部における前記カバーと対向する面の一方に埋め込まれており、前記磁石に磁力により結合する要素は、他方に埋め込まれている、
請求項1に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項3】
第1流体を収容するための第1流体空間と、前記第1流体空間に連通する第1マイクロ流路と、前記第1マイクロ流路に連通し、前記第1流体空間から前記第1マイクロ流路を介して導入される前記第1流体を反応させるための反応空間とを有する本体部と、
前記第1流体空間から前記第1流体を前記第1マイクロ流路へ送り出すように、前記第1流体空間内を移動可能な第1プランジャと、
前記本体部に対し着脱自在に固定されるカバーと
を備え、
前記本体部は、第1部材と、前記第1部材と異なる材料からなり、前記第1部材に結合された第2部材とを含み、
前記本体部は、前記第1流体と反応させる検体を前記反応空間へ導入するための導入口と、前記導入口に連通し、前記導入口を介して前記反応空間へ導入される前記検体を収容するための検体空間を有し、
前記検体空間は、前記本体部の上面において開口するとともに、側面及び底面を有する皿状に形成され、
前記導入口は、前記検体空間の前記底面に形成され、
前記カバーは、前記検体空間の開口を覆うように前記本体部に対しルアーフィッティング式又はねじ式に固定される、
マイクロ流路チップ。
【請求項4】
前記本体部において、前記検体空間の前記開口を形成する部位は、円筒状の部位であり、前記円筒状の部位の外周面には第1ねじ山が形成され、前記カバーにおいて前記外周面と対向する面には、前記第1ねじ山に螺合する第2ねじ山が形成される、
請求項3に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項5】
第1流体を収容するための第1流体空間と、前記第1流体空間に連通する第1マイクロ流路と、前記第1マイクロ流路に連通し、前記第1流体空間から前記第1マイクロ流路を介して導入される前記第1流体を反応させるための反応空間とを有する本体部と、
前記第1流体空間から前記第1流体を前記第1マイクロ流路へ送り出すように、前記第1流体空間内を移動可能な第1プランジャと、
前記本体部に対し固定されるカバーと
を備え、
前記本体部は、第1部材と、前記第1部材と異なる材料からなり、前記第1部材に結合された第2部材とを含み、
前記本体部は、前記第1流体と反応させる検体を前記反応空間へ導入するための導入口と、前記導入口に連通し、前記導入口を介して前記反応空間へ導入される前記検体を収容するための検体空間を有し、
前記検体空間は、前記本体部の上面において開口するとともに、側面及び底面を有する皿状に形成され、
前記導入口は、前記検体空間の前記底面に形成され、
前記カバーは、前記検体空間の開口を覆うように前記本体部に対し固定されるセプタムである、
マイクロ流路チップ。
【請求項6】
前記検体空間の前記開口を規定する周縁部は、前記本体部の上面において上に立ち上がっており、前記セプタムは、前記立ち上がっている部分に固定されている、
請求項5に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項7】
前記本体部は、第2流体を収容するための第2流体空間と、前記第2流体空間に連通する第2マイクロ流路とをさらに有し、
前記第2流体空間から前記第2流体を前記第2マイクロ流路を介して前記検体空間に送り出すことにより、前記検体空間から前記検体を前記反応空間に向かって押し出すように、前記第2空間内を移動可能な第2プランジャ
をさらに備え、
前記検体空間の側面には、前記第2マイクロ流路と連通する側面開口が形成される、
請求項1から6のいずれかに記載のマイクロ流路チップ。
【請求項8】
前記本体部は、第2流体を収容するための第2流体空間と、前記第2流体空間に連通する第2マイクロ流路とをさらに有し、
前記第2流体空間から前記第2流体を前記第2マイクロ流路を介して前記検体空間に送り出すことにより、前記検体空間から前記検体を前記反応空間に向かって押し出すように、前記第2空間内を移動可能な第2プランジャ
をさらに備え、
前記第1プランジャと前記第2プランジャとは、前記検体空間の開口側から見て重ならず、かつ互いに平行となるように配置されている、
請求項1から7のいずれかに記載のマイクロ流路チップ。
【請求項9】
前記本体部は、第2流体を収容するための第2流体空間と、前記第2流体空間に連通する第2マイクロ流路とをさらに有し、
前記第2流体空間から前記第2流体を前記第2マイクロ流路に送り出すことにより、前記第2流体空間から前記第2流体を前記反応空間に向かって押し出すように、前記第2空間内を移動可能な第2プランジャ
をさらに備え、
前記第1プランジャと前記第2プランジャとは、前記検体空間の開口側から見て重ならず、かつ互いに平行となるように配置されている、
請求項1から6のいずれかに記載のマイクロ流路チップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ流路チップに関する。
【背景技術】
【0002】
バイオメディカル分野や生化学分野等では、主として研究開発用途のため、マイクロ流路チップが使用されている。マイクロ流路チップとは、試薬等の流体が搬送されるマイクロ流路が形成されたデバイスであるが、多くの場合、マイクロ流路チップ自体には、流体を搬送する機能が備えられていない。そのため、例えば、流体を搬送するためのポンプを別途用意しなければならない(特許文献1等参照)。また、マイクロ流路チップを回転させることで、遠心力により流体を搬送する方法も提案されている(特許文献2,3等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015−014512号公報
【特許文献2】特開2009−300433号公報
【特許文献3】特開2008−268198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ポンプを別途用意する方法では、ポンプとマイクロ流路チップとの接続にチューブを使用しなければならず、これではデッドボリュームが大きくなり、さらには操作が複雑になる。また、遠心力により搬送する方法は、マイクロ流路の設計が複雑になり、設計の自由度が損なわれるという問題がある。また、その他にも、様々な特性の付与されたマイクロ流路チップが求められている。
【0005】
本発明は、簡単に流体を搬送することができ、様々な特性を有するマイクロ流路チップを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1観点に係るマイクロ流路チップは、本体部と、第1プランジャとを備える。前記本体部は、第1流体を収容するための第1流体空間と、前記第1流体空間に連通する第1マイクロ流路と、前記第1マイクロ流路に連通し、前記第1流体空間から前記第1マイクロ流路を介して導入される前記第1流体を反応させるための反応空間とを有する。前記第1プランジャは、前記第1流体空間から前記第1流体を前記第1マイクロ流路へ送り出すように、前記第1流体空間内を移動可能である。前記本体部は、第1部材と、前記第1部材と異なる材料からなり、前記第1部材に結合された第2部材とを含む。
【0007】
第2観点に係るマイクロ流路チップは、第1観点に係るマイクロ流路チップであって、前記第2部材は、前記第1部材よりも光透過性の高い材料からなる。前記第2部材は、前記反応空間を画定する側壁を少なくとも部分的に構成する。
【0008】
第3観点に係るマイクロ流路チップは、第1観点又は第2観点に係るマイクロ流路チップであって、前記第1部材と前記第2部材は、粘着シート層を介して貼着されている。
【0009】
第4観点に係るマイクロ流路チップは、第1観点から第3観点のいずれかに係るマイクロ流路チップであって、前記第1流体空間は、互いに分離された複数の空間を有し、前記第1プランジャは、前記複数の空間内にそれぞれ配置される複数のプランジャを有する。
【0010】
第5観点に係るマイクロ流路チップは、第1観点から第4観点のいずれかに係るマイクロ流路チップであって、前記第1流体と反応させる検体を前記反応空間へ導入するための導入口をさらに有する。
【0011】
第6観点に係るマイクロ流路チップは、第5観点に係るマイクロ流路チップであって、前記本体部は、前記導入口に連通し、前記導入口を介して前記反応空間へ導入される前記検体を収容するための検体空間をさらに有する。
【0012】
第7観点に係るマイクロ流路チップは、第6観点に係るマイクロ流路チップであって、前記検体空間を覆うように前記本体部に対し着脱自在に固定されるカバーをさらに備える。
【0013】
第8観点に係るマイクロ流路チップは、第7観点に係るマイクロ流路チップであって、前記カバーにおける前記本体部と対向する面及び前記本体部における前記カバーと対向する面の一方に磁石が配置されており、他方に前記磁石に磁力により結合する要素が配置されている。
【0014】
第9観点に係るマイクロ流路チップは、第7観点に係るマイクロ流路チップであって、前記カバーは、前記本体部に対しルアーフィッティング式又はねじ式に固定される。
【0015】
第10観点に係るマイクロ流路チップは、第6観点に係るマイクロ流路チップであって、前記検体空間を覆うように前記本体部に対し固定されるセプタムをさらに備える。
【0016】
第11観点に係るマイクロ流路チップは、第6観点から第10観点に係るマイクロ流路チップであって、第2プランジャをさらに備える。前記本体部は、第2流体を収容するための第2流体空間と、前記第2流体空間及び前記検体空間に連通する第2マイクロ流路とをさらに有する。前記第2プランジャは、前記第2流体を前記第2流体空間から前記第2マイクロ流路を介して前記検体空間に送り出すことにより、前記検体空間から前記検体を前記反応空間に向かって押し出すように、前記第2空間内を移動可能である。
【0017】
第12観点に係るマイクロ流路チップは、第1観点から第11観点のいずれかに係るマイクロ流路チップであって、前記本体部は、前記反応空間に連通する第3マイクロ流路と、前記第3マイクロ流路に連通し、前記反応空間から前記第3マイクロ流路を介して前記第1流体を回収するための回収空間とをさらに有する。
【0018】
第13観点に係るマイクロ流路チップは、第1観点から第12観点のいずれかに係るマイクロ流路チップであって、栓をさらに備える。前記栓は、前記第1流体空間から前記第1マイクロ流路への前記第1流体の流れをブロックするブロック状態を形成し、前記ブロック状態を解除可能である。
【発明の効果】
【0019】
第1観点によれば、試液等の第1流体を収容するための第1流体空間と、第1流体空間から第1流体を送り出す第1プランジャが提供される。すなわち、第1流体空間及び第1プランジャからなるシリンジが提供されるため、当該シリンジの操作により第1流体を送り出すことが可能になる。従って、簡易な構成で流体を搬送することができる。
【0020】
また、第1観点によれば、本体部は、第1部材と、第1部材と異なる材料からなり、第1部材に結合された第2部材とを含む。これにより、例えば、マイクロ流路チップの成形性や、マイクロ流路チップ内に形成される反応空間を観察する際の視認性を高める等、マイクロ流路チップに様々な特性を付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施形態に係るマイクロ流路チップ及びこれに接続される周辺装置の構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しつつ、本発明の一実施形態に係るマイクロ流路チップについて説明する。
【0023】
<1.マイクロ流路チップの構成>
図1に、本実施形態に係るマイクロ流路チップ1及びこれに接続される周辺装置の構成を示す。同図においては、マイクロ流路チップ1の平面図が示されており、マイクロ流路チップ1の内部に形成されているマイクロ流路L1〜L6等の各部の位置関係も示されている。
図2及び
図3は、それぞれ
図1のII−II線断面図及びIII−III線断面図である。
【0024】
図1〜
図3に示される通り、マイクロ流路チップ1は、概ね立方体形状のブロック状に構成されている本体部10を有する。本体部10の内部には、微細な管路であるマイクロ流路L1〜L6が形成されているとともに、マイクロ流路L1〜L6に連通する様々な空間S1〜S6が形成されている。より具体的には、複数の(本実施形態では、3つの)流体空間S1〜S3、検体空間S4、反応空間S5及び回収空間S6が形成されており、いずれの空間S1〜S6も、マイクロ流路L1〜L6に比べてサイズの大きい開けた空間である。なお、ここでいうサイズとは、後述される流体の移動する方向に垂直な平面(
図2及び
図3の上下方向であり、鉛直方向に平行な面)内での面積である。特にサイズは限定されないが、空間S1〜S6のサイズは、マイクロ流路L1〜L6のサイズの3倍以上、より好ましくは、10倍以上とすることができる。また、50倍以上、100倍以上とすることもできる。
【0025】
マイクロ流路チップ1は、これに限定されないが、バイオメディカル分野や生化学分野等において、主として研究開発用途で使用される。また、マイクロ流路チップ1は、POCT(臨床現場即時検査)において使用することもできる。この場合、典型的には、以上の流体空間S1,S2には、試薬が収容され、検体空間S4には、試薬により検査される血液や尿等の検体が収容される。なお、試薬及び検体は、いずれも通常液体であるが、勿論、気体であってもよい。反応空間S5は、試薬と検体とを混合し、反応させる空間である。回収空間S6は、反応後の試薬及び検体を回収し、少なくとも一時的に溜めておく空間である。
【0026】
流体空間S1は、マイクロ流路L1に連通しており、さらにマイクロ流路L1は、反応空間S5に連通している。すなわち、流体空間S1は、マイクロ流路L1を介して反応空間S5に連通している。流体空間S2は、マイクロ流路L2に連通しており、さらにマイクロ流路L2は、反応空間S5に連通している。すなわち、流体空間S2は、マイクロ流路L2を介して反応空間S5に連通している。反応空間S5は、マイクロ流路L5に連通しており、さらにマイクロ流路L5は、回収空間S6に連通している。すなわち、反応空間S5は、マイクロ流路L5を介して回収空間S6に連通している。回収空間S6は、マイクロ流路L6に連通しており、マイクロ流路L6は、本体部10の側面10bまで延び、外部空間に連通している。
【0027】
流体空間S3は、マイクロ流路L3に連通しており、さらにマイクロ流路L3は、検体空間S4に連通している。すなわち、流体空間S3は、マイクロ流路L3を介して検体空間S4に連通している。検体空間S4は、マイクロ流路L4に連通しており、さらにマイクロ流路L4は、反応空間S5に連通している。すなわち、検体空間S4は、マイクロ流路L4を介して反応空間S5に連通している。流体空間S3には、典型的には、検体空間S4からマイクロ流路L4を介して検体を反応空間S5へ押し出すための流体、好ましくは試薬及び検体と反応しない不活性な流体が収容される。例えば、流体空間S3には、空気が収容される。なお、ここでいう「不活性」とは、必ずしも試薬及び検体と完全に反応しないことを意味するのではなく、検体の試験を妨げない程度に試薬及び検体と反応しないことを意味する。
【0028】
流体空間S1〜S3は、筒状の、本実施形態では円筒状の空間であり、中心軸方向に沿って一端側が本体部10の側面10aに達している。言い換えると、流体空間S1〜S3は、それぞれ本体部10の側面10aに形成される開口45〜47を介して、外部空間に連通している。一方、マイクロ流路L1〜L3は、本体部10の側面10aと反対側の端部において、流体空間S1〜S3に連通している。
【0029】
流体空間S1〜S3には、それぞれプランジャ21〜23が挿入されている。プランジャ21〜23は、それぞれ流体空間S1〜S3の中心軸方向に沿って、流体空間S1〜S3内を往復移動可能に構成されている。プランジャ21〜23が内側に向かって押されたとき、それぞれ流体空間S1〜S3内の流体は、マイクロ流路L1〜L3へと送り出される。すなわち、マイクロ流路チップ1においては、流体空間S1〜S3とプランジャ21〜23とにより、複数の(本実施形態では、3つの)「シリンジ」が形成されている。これらのシリンジは、流体空間S1〜S3内の流体を搬送する機能を実現する。
【0030】
プランジャ21〜23は、それぞれ軸体21a〜23aを有するとともに、軸体21a〜23aの内側の先端部においてガスケット21b〜23bを有する。ガスケット21b〜23bは、それぞれ流体空間S1〜S3の側壁に対し滑らかに摺動するとともに、流体空間S1〜S3の気密性を保持することができる。そのため、ガスケット21b〜23bは、典型的には、ゴム材料、より好ましくは、抽出成分の少ないブチルゴムから構成することができる。また、プランジャ21〜23の摺動性を向上させるために、流体空間S1〜S3の側壁及びガスケット21b〜23bの側面の少なくとも一方に、シリコーングリース等の潤滑剤を塗布しておくことが好ましい。
【0031】
プランジャ21〜23は、手動で移動させることも可能であるが、本実施形態では、コンピュータ3により制御される駆動装置2に連結されている。コンピュータ3は、駆動装置2を介してプランジャ21〜23の動作を独立して制御することができる。より具体的には、コンピュータ3は、プランジャ21〜23の移動量、ひいては、流体空間S1〜S3から送出される各種流体の流速を自在に制御することができる。コンピュータ3は、例えば、CPU等の制御部、記憶装置、入力装置及び表示装置を備える汎用のパーソナルコンピュータとして実現され、操作者は、入力装置を介してプランジャ21〜23の移動量、すなわちマイクロ流路チップ1内を流れる各種流体の流速を設定することができる。記憶装置には、以上の動作を制御部に実行させるための専用のプログラムがインストールされている。
【0032】
駆動装置2の具体的な構成は、プランジャ21〜23を流体空間S1〜S3内で往復移動させることができる限り、特に限定されない。このような機械的動作を実現する方法は様々知られているため、ここでは詳細な説明を省略するが、一例を挙げると、ステッピングモーターを用いて実現することができる。この場合、例えば、回転運動を直線運動に変換可能な適当な機構を介して、ステッピングモーターのシャフトにプランジャ21〜23の軸体21a〜23aを連結すればよい。
【0033】
以上のとおり、マイクロ流路チップ1においては、流体を収容するための流体空間S1〜S3と、流体空間S1〜S3から流体を送り出すためのプランジャ21〜23とが提供される。すなわち、流体空間S1〜S3及びプランジャ21〜23からなるシリンジが提供されるため、当該シリンジの操作より、流体空間S1〜S3内の流体を送り出すことが可能になる。従って、簡易な構成で容易に流体を搬送することができる。
【0034】
検体空間S4は、本実施形態では、本体部10の上面10cに形成される「皿」12により画定される。検体空間S4を画定する皿12の側面には、マイクロ流路L3に連通する開口48が形成されている。また、検体空間S4を画定する皿12の底面には、マイクロ流路L4に連通し、マイクロ流路L4を介して検体空間S4内の検体を反応空間S5へ導入するための導入口30が形成されている。以上より、プランジャ23が流体空間S3内で押されると、流体空間S3内の流体がマイクロ流路L3を介して検体空間S4内に押し出される。このとき、検体空間S4内の検体は、こうして検体空間S4内に流入した流体により導入口30を介してマイクロ流路L4に押し出され、最終的にはマイクロ流路L4を介して反応空間S5まで搬送される。
【0035】
本体部10には、検体空間S4を覆う着脱自在のカバー70を配置することができる。これにより、カバー70を開くことで、検体空間S4内に検体を収容できるとともに、収容後は、検体空間S4内の検体が外気に触れることを抑制し、また、検体空間S4内にゴミ等が入り込むことを防止することができる。
【0036】
なお、本実施形態では、
図1に示すとおり、マイクロ流路L1,L2,L4は互いに合流した後、反応空間S5に達する。そのため、本実施形態では、流体空間S1,S2及び検体空間S4から送り出される試薬及び検体は、反応空間S5に達する前にいくらか混合され得る。しかしながら、これらのマイクロ流路L1,L2,L4を、反応空間S5に達する前の経路においては合流せず、反応空間S5において初めて合流するように構成することもできる。
【0037】
マイクロ流路L1〜L3の経路上においては、それぞれ本体部10の上面10cに達する開口41〜43が形成されており、開口41〜43には、それぞれマイクロ流路L1〜L3内における流体の流れをブロックするための栓41a〜43aが挿入されている。上述したとおり、マイクロ流路L1〜L3は、流体が収容される空間S1〜S3に比べてサイズが小さいため、流体の流れが阻止されるように構成されていない場合には、毛細管現象により徐々に流体が移動し得る。栓41a〜43aは、これを防止するために設けられており、マイクロ流路チップ1を用いた検体の試験時に適宜取り外され、流体の流れがブロックされるブロック状態を解除することができる。勿論、栓41a〜43aを外した後、再度栓41a〜43aを開口41〜43に嵌め込むことにより、再度ブロック状態を形成し、適宜、流体の流れを停止させることもできる。
【0038】
同様に、マイクロ流路L6の経路上にも、本体部10の側面10bに達する開口44が形成されており、開口44には、マイクロ流路L6内における流体の流れをブロックするための栓44aが挿入されている。栓44aも、着脱自在である。
【0039】
栓41a〜44aの材料は、特に限定されず、例えば、金属、樹脂、ゴム、ガラス等の任意の材料から選択することができる。なお、量産性の観点からは、金属又は樹脂が選択されることが好ましい。また、耐腐食性の高いものが選択されることが好ましく、金属であれば、SUS304等が好ましい。樹脂であれば、PP(ポリプロピレン)、PE(ポリエチレン)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PMMA(ポリメチルメタクリレート)、PC(ポリカーボネート)等が好ましい。
【0040】
また、回収空間S6には、本体部10の上面10cに達する開口49が形成されている。この開口49は、プランジャ21〜23が押されたときに、マイクロ流路L1〜L6及び空間S1〜S6内の圧力を調整するための空気孔である。開口49にも、試験の開始前においては、栓を挿入しておくこともできる。
【0041】
本実施形態では、本体部10は、
図2及び
図3に示されるように、上下に2つのパーツ、より具体的には、下側の第1部材51と上側の第2部材52とを結合することにより製造される。反応空間S5及び回収空間S6は、第1部材51に形成されており、第1部材51の上面において開口しており、当該開口は第2部材52により閉じられる(ただし、第2部材52に形成されている開口49を除く)。また、検体空間S4は、第1部材51及び第2部材に形成されており、第2部材52の上面において開口しており、当該開口は上述したカバー70により閉じられる。流体空間S1〜S3は、第1部材51に形成されており、第1部材51の上面に達していない。マイクロ流路L1〜L5は、主として第1部材51の上面において開口しつつ当該上面に沿って形成されており、流体空間S1〜S3との連結部分の近傍で下方に向かうように延びている。マイクロ流路L6は、第1部材51において側面10bに形成されており、第1部材51の上面に達していない。
【0042】
本実施形態では、以上のような構成の第1部材51及び第2部材52を用いてマイクロ流路チップ1を形成することにより、内部に複雑な空洞のパターンが形成される本体部10を、比較的容易に製造することができる。
【0043】
第1部材51及び第2部材52の材料は、特に限定されないが、好ましくは、樹脂、ガラス、PDMS(ジメチルポリシロキサン)、ゴム等から選択することができる。また、反応空間S5内における反応は観察の対象となり得るため、第1部材51及び第2部材52は、かかる反応の光学検出を容易にするべく、透明性の高い材料から構成されることが好ましい。かかる観点からは、例えば、PMMA(ポリメチルメタクリレート)、PC(ポリカーボネート)、COC(シクロオレフィンコポリマー)、COP(シクロオレフィンポリマー)等の樹脂材料が好ましく選択される。このうち、特にCOPは、光透過性に優れており、好ましい。ただし、一般に、光透過性の高い樹脂材料は、コスト高となる。ところで、反応空間S5内の反応を光学検出する観点からは、少なくとも反応空間S5を画定する側壁を構成する部分のうち、観察される部分の透明性が高ければよい。従って、本実施形態では、第1部材51及び第2部材52が、異なる材料から構成される。より具体的には、上側からの観察を想定して、上側の第2部材52が、第1部材51よりも光透過性の高い材料から構成される。例えば、第2部材52をCOPで構成し、第1部材51をPMMAで構成することができる。なお、勿論、第1部材51及び第2部材52を異なる材料とする場合、異なる種類の樹脂どうしを結合するだけでなく、樹脂とゴム、樹脂とガラス、ゴムとガラス等の組み合わせも可能である。
【0044】
第1部材51及び第2部材52が樹脂材料から製造される場合においては、これらの部材51,52は、例えば、射出成形により容易に製造することができる。なお、この場合、空気孔となる開口49や、開口41〜44、マイクロ流路L1〜L6の一部等は、射出成形時に同時に形成するのではなく、切削で追加工することもできる。
【0045】
第1部材51と第2部材52との結合方法も、特に限定されないが、本実施形態では、両部材51,52は、接着剤により形成される粘着シート層60を介して貼着される。この方法は、第1部材51と第2部材52とが異なる材料から構成される場合において、両部材51,52の接着性を容易に確保できる点で優れる。接着剤としては、透明で、抽出成分の少ないものが好ましく、例えば、スリーエム社製のアクリル系粘着剤転写テープ9969を選択することができる。第1部材51と第2部材52とを同じ材料から構成する場合には、両部材51,52の結合面を融点まで加温した上で両部材51,52を押圧することにより熱融着させる方法も、好ましく選択することができる。
【0046】
<2.マイクロ流路チップの使用方法>
以下、マイクロ流路チップ1の使用方法の一例について説明するが、マイクロ流路チップ1の使用方法はこれに限定されない。
【0047】
まず、マイクロ流路チップ1を用意して、栓41a,42aを取り外し、プランジャ21,22を引きながら、開口41,42を介して試薬を流体空間S1,S2内に注入する。このとき、ガスケット21b,22bは流体空間S1,S2内に残したままとする。その後、再度栓41a,42aによりマイクロ流路L1,L2をブロックする。或いは、プランジャ21,22を流体空間S1,S2から取り外し、開口45,46を介して流体空間S1,S2内に試薬を注入することもできる。なお、予め試薬が収容されているマイクロ流路チップ1を用意することもできる。
【0048】
また、同様に、栓43aを取り外し、プランジャ23を引いて、流体空間S3内に開口43を介して十分な量の空気を充填する。このとき、ガスケット23bは流体空間S3内に残したままとする。空気の充填後、栓43aを開口43に挿入する。ただし、栓43aは、開口43を介してマイクロ流路L3が外部空間と連通しない程度に挿入するが、マイクロ流路L3をブロックする程には挿入しない。
【0049】
次に、プランジャ21〜23の軸体21a〜23aを駆動装置2に連結する。さらに、カバー70を開き、検体空間S4内に検体を収容する。検体とは、例えば、血液や尿等の生体由来成分である。また、検体の収容後、カバー70を閉じ、検体空間S4を外部空間から遮断する。
【0050】
続いて、栓41a,42aを緩める。より正確には、マイクロ流路L1,L2はブロックされないが、開口41,42を介してマイクロ流路L1,L2が外部空間と連通しない程度に、栓41a,42aが挿入された状態とする。また、開口49に栓が取り付けられていた場合には、これを取り外し、空気孔を介して回収空間S6を外部空間に連通させる。
【0051】
以上の準備が終わると、コンピュータ3を操作して駆動装置2を駆動する。これにより、プランジャ21〜23が適当な速度で適当な距離だけ前進させられる。このときのプランジャ21〜23の前進速度及び前進距離は、互いに独立して制御され、その結果、適当な量の試液及び検体が反応空間S5に搬送される。プランジャ21〜23は、同時に駆動されてもよいし、順番に駆動されてもよい。試液は、流体空間S1,S2からマイクロ流路L1,L2を通って反応空間S5に到達する。一方、検体は、流体空間S3から検体空間S4内に押し出された空気に押されて、マイクロ流路L4を通って反応空間S5に到達する。
【0052】
反応空間S5では、これらの流体及び検体が混合され、反応(化学反応及び生化学反応を含む)を開始する。そして、外部からこの様子を光学顕微鏡等の実験観察器具を用いて又は裸眼で観察し、検体の変化を検出する。反応が完了し、観察も終了した後は、コンピュータ3を操作して駆動装置2を駆動し、プランジャ23を前進させる。これにより、反応空間S5内に空気を送り込み、かかる空気で反応後の流体を回収空間S6に押し出す。
【0053】
さらにその後、必要であれば、検体空間S4内に新たな検体を収容し、再度同様の試験を繰り返すことができる。なお、流体空間S3に予め空気ではなく洗浄液を収容しておけば、或いは、試験後に洗浄液を導入すれば、1回の試験が終わった後にマイクロ流路L4、検体空間S4及び反応空間S5を洗浄することができ、次の試験をクリーンな状態で行うことができる。同様に、流体空間S1,S2の一方に予め洗浄液を収容しておいた場合、或いは、試験後に洗浄液を導入する場合にも、次の試験をよりクリーンな状態で行うことができる。
【0054】
試験が終了した後は、マイクロ流路チップ1をそのまま廃棄することもできるが、回収空間S6内に溜められた流体を除去した後に、マイクロ流路チップ1を廃棄することもできる。後者の場合には、栓44aを取り外し、さらにプランジャ23を前進させることで、回収空間S6内に溜められた流体をマイクロ流路L6を介して外部空間に押し出すようにすればよい。なお、このとき、開口49を栓等により塞いでおくことが好ましい。
【0055】
<3.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。例えば、以下の変更が可能である。また、以下の変形例の要旨は、適宜組み合わせることができる。
【0056】
<3−1>
検体空間S4を省略することもできる。この場合、例えば、反応空間S5において、検体と試薬とを反応させるのではなく、試薬と試薬を混合し、これらを反応させることができる。また、検体空間S4を省略し、検体を反応空間S5に直接収容することもできる。この場合、例えば、反応空間S5に開閉自在なカバーを設け、これを開くことで形成される導入口を介して反応空間S5に検体を収容し、その後カバーを閉じ、検体の反応を開始させることができる。或いは、反応空間S5に連通する導入口30を、反応空間S5を画定する本体部10の側壁に設け、当該導入口30を介して検体を反応空間S5に導入することもできる。
【0057】
<3−2>
マイクロ流路L6を省略することもできる。この場合、回収空間S6内に反応後の流体を残したまま、マイクロ流路チップ1を廃棄することができる。また、マイクロ流路L6に加え、回収空間S6を省略し、代わりにマイクロ流路L5を外部空間に連通させることもできる。この態様は、繰り返し試験を行わない場合に適する。また、マイクロ流路L5,L6及び回収空間S6を全て省略することもできる。この場合、反応後の流体を反応空間S5に残したまま、マイクロ流路チップ1を廃棄することができる。
【0058】
<3−3>
流体空間及びプランジャからなるシリンジの数は、上述したものに限られず、1つであってもよいし、2つであってもよいし、4つ以上であってもよい。また、このようなシリンジから送り出される流体は、上述した試薬や検体を押し出すための不活性な流体に限らず、例えば、洗浄液であってもよい。シリンジに収容される流体の種類は、マイクロ流路チップ1の使用目的に応じて、適宜選択される。
【0059】
<3−4>
上記実施形態では、本体部10は、2つの部材51,52から構成されたが、3つ以上の部材を結合することにより構成することもできる。勿論、1つの部材から構成することもできる。
【0060】
<3−5>
反応空間S5の数は、上述したものに限られず、複数設けられていてもよい。回収空間S6についても、同様である。
【0061】
<3−6>
検体空間S4を覆うカバー70を、本体部10に対して着脱自在に固定することができる。検体空間S4はカバー70に覆われることにより、外部空間から遮断される。この場合、例えば、
図4に示すように、カバー70における本体部10と対向する面に要素71を配置し、本体部10におけるカバー70と対向する面に要素72を配置し、要素71,72の一方を磁石とし、他方をこの磁石に磁力により結合する要素とすることができる。要素71,72は、両方を磁石とすることができる。また、このとき、要素71,72は、それぞれカバー70及び本体部10に埋め込むように配置することが好ましい。
【0062】
また、別の例を挙げると、カバー70を、本体部10に対しねじ式又はルアーフィッティング式に着脱自在に固定することができる。このように、カバー70と本体部10とを螺号式により固定することができる。この場合、例えば、
図5に示すように、本体部10において検体空間S4の上部開口を形成する部位を円筒部位75とし、円筒部位75の外周面にねじ山を形成してもよい。そして、カバー70において円筒部位75の外周面と対向する面に、円筒部位75のねじ山に螺号するねじ山を形成することができる。
【0063】
<3−7>
図6に示すように、検体空間S4を覆うように本体部10に対し固定されるカバー70としてのセプタムを設けることができる。検体空間S4はセプタムに覆われることにより、外部空間から遮断される。この場合、検体が収容されたシリンジを用意し、シリンジの針をセプタムに刺通することにより、検体を検体空間S4に注入することができる。
【符号の説明】
【0064】
1 マイクロ流路チップ
10 本体部
21,22 プランジャ(第1プランジャ)
23 プランジャ(第2プランジャ)
30 導入口
41a〜44a 栓
51 第1部材
52 第2部材
60 粘着シート層
70 カバー
S1,S2 流体空間(第1流体空間)
S3 流体空間(第2流体空間)
S4 検体空間
S5 反応空間
S6 回収空間
L1,L2 マイクロ流路(第1マイクロ流路)
L3 マイクロ流路(第2マイクロ流路)
L4 マイクロ流路
L5 マイクロ流路(第3マイクロ流路)