(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、ゴム成分及び酸化亜鉛を混練する混練工程と、押出機により、前記混練工程で得られた混練物を押し出す押出工程とを含むタイヤ用ゴム組成物の製造方法である。該製造方法では、シリンダ、スクリュー、及び前記シリンダの内面に突設したピンを備え、かつ前記スクリューの山部と山部との間に存在する前記ピンの平均個数が1〜4個である押出機が使用される。更に前記製造方法は、ゴム成分100質量部に対する酸化亜鉛の含有量が1.0質量部以下のタイヤ用ゴム組成物の製造に用いられる。
【0010】
酸化亜鉛が配合されたゴム組成物がタイヤに汎用されているが、一般に、クラック等を考慮し、酸化亜鉛を減量すると、スコーチが短く、焼けやすくなり、良好な押出加工性を確保できない。本発明では、押出機のピン密度を最適化することで、焼けにくくなり、酸化亜鉛が少量の配合ゴムでも、優れた押出加工性が得られ、シリカ分散を顕著に向上できる。
【0011】
これは、酸化亜鉛が少量であると、スコーチが短く焼けやすくなり、十分な加工ができず、所望のシリカ分散が得られないが、押出機のピンを最適化することにより、スコーチが短いゴムでも十分な加工(練効果)が施されて、充分なシリカ分散性が得られるものと推察される。従って、スコーチが短い配合ゴムでも、良好な押出加工性を得つつ、低燃費性、ウェットグリップ性能等の性能バランスが相乗的に改善され、諸物性の向上が期待できる。
【0012】
以下、各工程の詳細について説明する。
【0013】
〔混練工程〕
混練工程では、ゴム成分及び酸化亜鉛を混練し、混練物を作製する。このような工程としては、例えば、ゴム成分、シリカ、シランカップリング剤、及び酸化亜鉛を混練するベース練り工程と、ベース練り工程で得られた混練物1及び加硫剤を混練する仕上げ練り工程とを含む混練工程等が挙げられる。
【0014】
(ベース練り工程)
ベース練り工程では、ゴム成分、シリカ、シランカップリング剤、及び酸化亜鉛を混練する。
【0015】
ゴム成分としては、例えば、天然ゴム(NR)、エポキシ化天然ゴム(ENR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)等のジエン系ゴムが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、SBR、BR、NR、IRが好ましい。
【0016】
シランカップリング剤としては特に限定されないが、例えば、スルフィド系、ビニル系、アミノ系、グリシドキシ系、ニトロ系、クロロ系シランカップリング剤等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なかでも、スルフィド系シランカップリング剤が好ましく、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィドがより好ましい。
【0017】
シリカとしては特に限定されず、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。シリカの窒素吸着比表面積(N
2SA)は、好ましくは50〜250m
2/g、より好ましくは120〜200m
2/gである。
なお、シリカの窒素吸着比表面積は、ASTM D3037−81に準じてBET法で測定される値である。
【0018】
酸化亜鉛としては、従来公知のものを使用でき、例えば、三井金属鉱業(株)、東邦亜鉛(株)、ハクスイテック(株)、正同化学工業(株)、堺化学工業(株)等の製品を使用できる。
【0019】
ベース練り工程では、上述のゴム成分、シリカ、シランカップリング剤、酸化亜鉛以外に、他の成分を投入して混練してもよい。他の成分としては、例えば、カーボンブラック、オイル、ステアリン酸、老化防止剤、加硫促進剤等が挙げられる。
【0020】
ベース練り工程において、ゴム成分、シリカ、シランカップリング剤及び酸化亜鉛の投入量は、全量(全工程で使用する合計量)であってもよいし、一部であってもよい。
シリカの分散をより促進できるという理由から、ゴム成分、シリカ、シランカップリング剤及び酸化亜鉛は、ベース練り工程で全量を投入して混練することが好ましい。
【0021】
ベース練り工程で使用する混練機としては、密閉型のバンバリーミキサーが好ましい。バンバリーミキサーのローターの形状は、接線式、噛合式のいずれであってもよい。
【0022】
ベース練り工程で作製される混練物1の排出温度は、130〜160℃が好ましい。なお、ベース練り工程は、1回の練り工程からなるもの、2回以上に分割した練り工程からなるもの、のいずれでもよい。
【0023】
(仕上げ練り工程)
仕上げ練り工程では、ベース練り工程で得られた混練物1及び加硫剤を投入して混練する。
【0024】
仕上げ練り工程の混練方法としては特に限定されず、例えば、オープンロール等の公知の混練機を用いることができる。仕上げ練り工程で作製される混練物2の排出温度は、80〜120℃が好ましい。
【0025】
仕上げ練り工程で投入する加硫剤としては、ゴム成分を架橋可能な薬品であれば特に限定されないが、例えば、硫黄等が挙げられる。また、ハイブリッド架橋剤(有機架橋剤)についても本発明における加硫剤として使用できる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なかでも、硫黄が好ましい。
【0026】
仕上げ練り工程では、上述の加硫剤以外に、加硫促進剤を投入して混練してもよい。
加硫促進剤としては特に限定されないが、例えば、グアニジン類、スルフェンアミド類、チアゾール類、チウラム類、ジチオカルバミン酸塩類、チオウレア類、キサントゲン酸塩類等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なかでも、本発明の効果が良好に得られるという理由から、グアニジン類、スルフェンアミド類、チアゾール類、チウラム類が好ましい。
【0027】
グアニジン類としては、1,3−ジフェニルグアニジン、1,3−ジ−o−トリルグアニジン、1−o−トリルビグアニド、ジカテコールボレートのジ−o−トリルグアニジン塩、1,3−ジ−o−クメニルグアニジン、1,3−ジ−o−ビフェニルグアニジン、1,3−ジ−o−クメニル−2−プロピオニルグアニジン等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なかでも、1,3−ジフェニルグアニジン、1,3−ジ−o−トリルグアニジンが好ましい。
【0028】
スルフェンアミド類としては、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N−オキシジエチレン−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N−メチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なかでも、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミドが好ましい。
【0029】
チアゾール類としては、2−メルカプトベンゾチアゾール(MBT)、ジベンゾチアジルジスルフィド(MBTS)、2−(2,4−ジニトロフェニル)メルカプトベンゾチアゾール、2−(2,6−ジエチル−4−モリホリノチオ)ベンゾチアゾール等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なかでも、2−メルカプトベンゾチアゾール、ジベンゾチアジルジスルフィドが好ましい。
【0030】
チウラム類としては、テトラキス(2−エチルヘキシル)チウラムジスルフィド、テトラベンジルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なかでも、テトラキス(2−エチルヘキシル)チウラムジスルフィド、テトラベンジルチウラムジスルフィドが好ましい。
【0031】
なお、仕上げ練り工程では、上述の加硫剤、加硫促進剤以外に、更に他の成分を投入して混練してもよい。
【0032】
〔押出工程〕
押出工程では、仕上げ練り工程で得られた混練物2をシート状に押出成形する。
押出工程では、シリンダ、スクリュー、及び前記シリンダの内面に突設したピン(シリンダの内面に突出するように取り付けたピン)を備え、かつ該スクリューの山部と山部との間に存在するピンの平均個数が所定範囲の押出機を用いて、混練物2が押し出される。
【0033】
図1は、押出工程に用いる押出機の断面概略図(側面図)の一例を示す。
図1(a)、(c)の押出機1は、シリンダ11、スクリュー12、シリンダ11の内面に突設されたピン13を備えたもので、
図1(b)は、ピン13が突設されていないものである。スクリュー12は、軸部回りに螺旋状にフライト121(山部121)を有し、シリンダ11内に挿入して設置される。
図1(a)、(c)のピン13は、シリンダ11内の材料搬送空間に突設されているため、フライト121(山部121)には、ピン13との干渉を防止するため、切欠部122が設けられている。
【0034】
図2は、本発明における「スクリューの山部と山部との間」を示す概略図の一例である。
図2は、
図1(a)の押出機のケースであり、例えば、スクリューの山部121aと山部121bとの間は、押出機1をスクリューの山部121a、121bの破線部で垂直方向(紙面に対して鉛直方向)に切断して作製される空間(区画)、すなわち、押出機1の山部121a及び山部121b間で形成される区画(垂直方向)である。
【0035】
そして、本発明では、スクリューの山部と山部との間に存在するピンの平均個数が1〜4個の押出機が使用される。例えば、
図1(a)(
図2)では、押出機1の各スクリュー山部と山部との間、すなわち、スクリューの山部121a、121bの間、スクリューの山部121b、121cの間、・・・等の各区画内に突設されているピン13の個数の平均(1区画当たりのピンの平均個数)が1〜4個の範囲内である。
【0036】
なお、
図1(a)は、1区画当たり1個のピンが突設されている態様で、スクリューの山部と山部との間に存在するピン13の平均個数は1.0個である。一方、
図1(b)は、ピン13の平均個数が0個(ピンが突設されていない態様)、
図1(c)は、ピン13の平均個数が2.0個(1区画当たり2個のピンが突設されている態様)である。
【0037】
本発明では、ピン13を各区画(各スクリューの山部と山部との間)にできるだけ均一に突設することが望ましく、例えば、1区画当たり1個のピンが突設されている
図1(a)や、1区画当たり2個のピンが突設されている
図1(c)ようにピンを各区画に平均的に取り付けている態様が好適である。よって、各スクリューの山部と山部との間(各区画)に存在するピンの個数も、前記平均個数と同範囲に調整することが好ましい。また、シリンダ11内の軸方向にピン13を均一に突設することが好ましく、軸方向に対して垂直方向については、円形(シリンダ11の内表面(円形))にピン13を均一に突設することが好ましい。
【0038】
押出工程では、押出機1の材料供給部(図示省略)から供給された混練物2が、シリンダ11内のピン13が所定個数突設された混練室内において、スクリュー12の回転により順次移動し、ピン13とスクリュー12との共同作業で混練、可塑化され、先端の射出ノズル(図示省略)の金型に射出され、シート状に成形される。
【0039】
〔加硫工程〕
前述の工程で作製された混練物(未加硫ゴム組成物)は、通常、その後加硫される。例えば、未加硫ゴム組成物を、トレッド等のタイヤ部材の形状に合わせて押し出し加工し、タイヤ成型機上にて通常の方法にて成形し、他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、未加硫タイヤを形成した後、加硫機中で加熱加圧することで、タイヤを製造することができる。加硫温度は、130〜200℃が好ましく、加硫時間は、5〜15分が好ましい。
【0040】
低燃費性及びウェットグリップ性能がバランスよく得られるという理由から、本発明の製造方法により得られるゴム組成物において、酸化亜鉛の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、1.0質量部以下、好ましくは0.8質量部以下、より好ましくは0.6質量部以下である。下限は特に限定されず、酸化亜鉛を含まなくてもよいが、補強性能を保つ観点から、0.1質量部以上が好ましく、0.2質量部以上がより好ましい。
【0041】
低燃費性及びウェットグリップ性能がバランスよく得られるという理由から、本発明の製造方法により得られるゴム組成物において、シリカの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは30質量部以上、より好ましくは50質量部以上であり、また、好ましくは200質量部以下、より好ましくは100質量部以下である。
【0042】
低燃費性及びウェットグリップ性能がバランスよく得られるという理由から、本発明の製造方法により得られるゴム組成物において、シランカップリング剤の含有量は、シリカ100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは8質量部以上であり、また、好ましくは20質量部以下、より好ましくは15質量部以下である。
【0043】
低燃費性及びウェットグリップ性能がバランスよく得られるという理由から、本発明の製造方法により得られるゴム組成物において、カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上であり、また、好ましくは50質量部以下、より好ましくは30質量部以下である。
【実施例】
【0044】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0045】
以下、実施例及び比較例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
NR:TSR20
S−SBR:日本ゼオン(株)製のNipol NS210
E−SBR:JSR(株)製のSBR1502
BR:宇部興産(株)製のBR150B
シリカ:エボニックデグッサ社製のウルトラシルVN3(N
2SA:175m
2/g)
シランカップリング剤:エボニックデグッサ社製のSi69(ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド)
カーボンブラック:三菱化学(株)製のダイヤブラックN220(N
2SA:114m
2/g)
オイル:(株)ジャパンエナジー製のX140(アロマオイル)
老化防止剤:大内新興化学工業(株)製のノクラック6C(N−(1,3−ジメチルブチル)−N−フェニル−p−フェニレンジアミン)
ステアリン酸:日油(株)製のビーズステアリン酸つばき
酸化亜鉛(亜鉛華):三井金属鉱業(株)製の酸化亜鉛2種
硫黄:鶴見化学工業(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製のノクセラーCZ(N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
【0046】
(実施例及び比較例)
(1)ベース練り工程
バンバリーミキサーを用いて、表1のベース練り工程の項目に記載の材料を混練し、ゴム温度(混練物の温度)が約150℃になった時点で排出した。
(2)仕上げ練り工程
オープンロールを用いて、ベース練り工程で得られた混練物1と、表1の仕上げ練り工程の項目に記載の材料とを混練し、ゴム温度が約110℃になった時点で排出した。
(3)押出工程
仕上げ練り工程で得られた混練物2を、押出機(スクリュー径:φ80mm、L/D:50、ダイギャップ幅:40mm、シリンダ温度:220℃)を用いて、スクリュー回転数80RPM、押出速度は約9m/分で、リボン状のシートを押出し、未加硫ゴム組成物を得た。なお、各実施例、比較例で用いた押出機のピンの平均個数は、各表に記載のとおりで、各区画に均一に突設した(平均個数1個:
図1(a)、平均個数2個:
図1(c)、平均個数4個:軸方向に均一に突設、該軸方向の垂直方向(円形)に90度ずつ4本突設)。
(4)加硫工程
押出工程で得られた未加硫ゴム組成物を170℃で10分間、0.5mm厚の金型でプレス加硫し、加硫ゴム組成物を得た。
【0047】
得られた加硫ゴム組成物、未加硫ゴム組成物について、下記の評価を行った。結果を表1に示す。なお、基準配合は、比較例1である。
【0048】
(スコーチタイム)
JIS K6300の未加硫ゴム物理試験方法のムーニースコーチ試験の記述に従って試験を行い、130.0±0.5℃でのt10[分]を測定し、それを、基準配合を100とした指数で示した(スコーチ指数)。スコーチタイムが短くなると、ヤケの問題が起こる。今回の評価では、70以下になると、押出工程でヤケの問題が起こる可能性がある。
【0049】
(生地肌)
上記未加硫ゴム組成物をロールにて1.0mm厚さのゴムシートに押出し成形し、得られたゴムシートの生地の状態を確認した。耳切れが発生しておらず、更に生地肌に問題がないものを○、問題が少しあるものを△、そうでないものを×で表記した。
【0050】
(シリカ分散指数)
アルファーテクノロジー社製RPA2000を用いて、測定温度110℃(予熱1分)、周波数6cpm、振幅0.28〜10%の条件で、上記加硫ゴム組成物の貯蔵弾性率の歪依存性を測定し、歪量0.56%時の貯蔵弾性率の値を求め、基準配合の値を100として指数表示した。指数が大きいほど、シリカの分散不良が少なく、シリカが良好に分散していることを示す。
【0051】
(RR指数)
粘弾性スペクトロメーターVES((株)岩本製作所製)を用いて、温度30℃、周波数10Hz、初期歪10%及び動歪2%の条件下で、上記加硫ゴム組成物の損失正接(tanδ)を測定し、基準配合を100として指数表示した。指数が大きいほど、転がり抵抗が低く、低燃費性に優れることを示す。
【0052】
(WET指数)
粘弾性スペクトロメーターVES((株)岩本製作所製)を用いて、温度0℃、周波数10Hz、初期歪10%及び動歪2%の条件下で、上記加硫ゴム組成物の損失正接(tanδ)を測定し、基準配合を100として指数表示した。指数が大きいほど、ウェット路面での摩擦係数が大きく、ウェットグリップ性能に優れることを示す。
【0053】
【表1】
【0054】
表1より、酸化亜鉛量が比較的少ない配合ゴムでも、押出機のピン密度を調整した実施例は、シリカの分散性が顕著に向上し、低燃費性及びウェットグリップ性能がバランス良く改善されることが明らかとなった。また、良好な押出加工性も得られた。