【実施例】
【0028】
以下、本発明を具体化した実施例1〜5と比較例とを説明する。まず、以下の材料を準備した。
バインダ樹脂:ポリアミドイミド樹脂ワニス
固体潤滑剤:粒子状の超高分子量ポリエチレン(UHPE粒子)(平均粒子径10μm)、MoS
2、グラファイト
シランカップリング剤:アミノ系エトキシシラン(標準)、アミノ系エトキシシラン(反応性)
【0029】
改質工程として、表1の条件でUHPE粒子にプラズマ処理を行い、No.1〜5のUHPE粒子とした。No.6のUHPE粒子は改質工程を行わなかったものである。
【0030】
【表1】
【0031】
また、No.2〜5のUHPE粒子については、改質工程後、表面処理工程として、表1の条件でシランカップリング処理を施した。シランカップリング処理は以下の順序で行った。
【0032】
まず、水が10質量%、メチルアルコールが90質量%のアルコール水溶液を用意し、各UHPE粒子に対して1重量%の各シランカップリング剤の原液をアルコール水溶液に添加し、これを攪拌してシランカップリング剤溶液とした。
【0033】
ヘンシェルミキサーにNo.2〜5のUHPE粒子を入れて攪拌し、攪拌中にシランカップリング剤溶液を数十分かけて滴下し、さらに10分間攪拌した。この後、各UHPE粒子を取り出し、100〜150°Cで30〜90分間乾燥した。凝集した各UHPE粒子はボールミルによって粉砕した。こうして、シランカップリング処理を施したNo.2〜5のUHPE粒子を得た。No.1のUHPE粒子は表面処理工程を行わなかったものである。
【0034】
組成物調製工程として、表2に示す配合割合でバインダ樹脂と各固体潤滑剤とを配合し、よく撹拌した後、3本ロールミルを通し、実施例1〜5及び比較例の摺動層用組成物を調製した。固体潤滑剤は、No.1〜6のいずれかのUHPE粒子と、MoS
2と、グラファイトとからなる。
【0035】
【表2】
【0036】
以下の摺動層形成工程を行った。まず、各摺動層用組成物を溶剤によって希釈して希釈物とし、鋼材からなる母材上に各希釈物をコーティングした後、乾燥を行い、220°C×1.5時間で焼成を行った。この後、膜厚を同じにするために表面研削を行い、膜厚25μmの摺動層を形成した。こうして、実施例1〜5及び比較例の各摺動部材を得た。
【0037】
各摺動部材を以下の試験1〜3に供した。
<試験1(ピンオンディスク往復試験)>
図6に示すように、上面を加熱可能なプレート1上に各摺動部材10を載置する。この状態において、各摺動部材10は、摺動面10aが上面とされている。摺動面10a上において、SUJ2製であり、先端の曲率が10Rのピン2を荷重350gf、往復距離20mm、速度2Hz、往復回数3500回の条件で往復動させる。この際、炭化水素油を含む潤滑剤3を摺動面10a上に滴下する。
【0038】
試験1後の実施例1〜5及び比較例の各摺動部材10の摺動面10aの表面におけるUHPE粒子の残存状態をSEM画像により確認した。実施例1の摺動部材において、試験1の摺動層における500倍のSEM画像写真を
図7に示す。実施例2の摺動部材において、試験1の摺動層における500倍のSEM画像写真を
図8に示す。実施例3の摺動部材において、試験1の摺動層における500倍のSEM画像写真を
図9に示す。実施例4の摺動部材において、試験1の摺動層における500倍のSEM画像写真を
図10に示す。実施例5の摺動部材において、試験1の摺動層における500倍のSEM画像写真を
図11に示す。比較例の摺動部材において、試験1の摺動層における500倍のSEM画像写真を
図12に示す。これらのSEM画像写真から、UHPE粒子が十分に残存しておれば「○」を付し、UHPE粒子が脱落しておれば「×」を付し、表3に結果をして示した。
【0039】
【表3】
【0040】
<試験2(ピンオンディスク往復試験)>
試験1の荷重条件を350gfとし、試験1と同様に試験を行った。試験2後の実施例1〜5及び比較例の各摺動部材10の摺動面10aの摩耗深さ(μm)を確認した。この結果も表3に示す。
【0041】
<試験3(斜板×シュー試験)>
図13に示すように、母材20を圧縮機の斜板形状のものとし、上記と同様、各母材20に摺動層20aを形成し、斜板を得た。一方、保持具4にSUJ2製のシュー5を保持した。そして、斜板の表面に冷凍機油を25g/分の量で付着させながら滑り速度7m/秒で斜板を回転させるとともに、斜板とシュー5との間に5分毎に荷重400Nを加重し、斜板とシュー5との焼付く荷重(N)を調べた。この結果も表3に示す。
【0042】
表3からわかるように、実施例1〜5の摺動部材は比較例の摺動部材よりも耐摩耗性に優れている。特に、実施例2〜5の摺動部材はより優れた耐摩耗性を発揮している。
【0043】
ここで、
図7〜11と、
図12とを比較すれば、比較例の摺動部材では、実施例1〜5の摺動部材と比較し、脱落痕が明確に見てとれる。これは、比較例の摺動部材では、摩擦熱によって表面がUHPE粒子の融点以上の高温となり、UHPE粒子が脱落したことを示している。これに対し、実施例1〜5の摺動部材では、脱落痕をほとんど確認することができない。
【0044】
したがって、実施例1〜5の摺動部材では、相手材との摺動時に固体潤滑剤としてのUHPE粒子がバインダ樹脂から脱落し難いことがわかる。この理由は、摺動層における固体潤滑剤のUHPE粒子がプラズマ処理によって表面が改質されたものだからである。
【0045】
特に、実施例2〜5の摺動部材では、相手材との摺動時に固体潤滑剤としてのUHPE粒子がバインダ樹脂から脱落し難い。この理由は、改質されたUHPE粒子にさらにシランカップリング処理を施しているからである。
【0046】
したがって、実施例1〜5の摺動部材では、摺動層の表面に固体潤滑剤がより多く残存し易く、優れた摺動特性を発揮できることがわかる。このため、これらの摺動部材を圧縮機の斜板等に採用すれば、より優れた圧縮機が得られることがわかる。
【0047】
以上において、本発明を実施例1〜5に即して説明したが、本発明は上記実施例1〜5に制限されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【0048】
例えば、本発明において、母材と摺動層との密着性を高めるため、母材に対してアルカリ等を接触させる脱脂工程を行うことが可能である。また、母材と摺動層との密着性をさらに高めるため、脱脂工程後、リン酸亜鉛、リン酸マンガン等のリン酸塩からなる下地層を形成することも可能である。