特許第6863215号(P6863215)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6863215
(24)【登録日】2021年4月5日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】MEMS発振器
(51)【国際特許分類】
   H03B 5/30 20060101AFI20210412BHJP
   H03H 9/02 20060101ALI20210412BHJP
   H03H 9/24 20060101ALI20210412BHJP
【FI】
   H03B5/30 Z
   H03H9/02 K
   H03H9/02 A
   H03H9/24 Z
【請求項の数】12
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-197676(P2017-197676)
(22)【出願日】2017年10月11日
(65)【公開番号】特開2019-71583(P2019-71583A)
(43)【公開日】2019年5月9日
【審査請求日】2020年5月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000149734
【氏名又は名称】株式会社大真空
(74)【代理人】
【識別番号】100086737
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 和秀
(72)【発明者】
【氏名】山下 雅樹
(72)【発明者】
【氏名】森脇 徹
【審査官】 橋本 和志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−076588(JP,A)
【文献】 特開2005−072419(JP,A)
【文献】 特開2016−167660(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03B 5/30
H03H 9/02
H03H 9/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
収納凹部を有するベースと、
発振回路を含む集積回路素子と、
MEMS共振子を含むMEMS素子と、
前記収納凹部の開口を閉塞する蓋体とを備え、
前記集積回路素子及び前記MEMS素子が収納された前記収納凹部が、前記蓋体によって気密に封止され、
少なくとも前記MEMS素子は、その外周面が前記収納凹部と前記蓋体との接合によって形成される空間内に露出しており、
前記集積回路素子の能動面とは反対側の非能動面が、導電性接着剤を介して前記収納凹部の底面に接合されており、
前記集積回路素子の前記非能動面が接合される前記収納凹部の底面の接合領域には、導体パターンが形成されており、
前記接合領域は、少なくとも、前記導電性接着剤の厚みが薄い第1領域と、該第1領域よりも前記導電性接着剤の厚みが厚い第2領域とを有する、
ことを特徴するMEMS発振器。
【請求項2】
前記MEMS素子は、その能動面が前記集積回路素子の能動面に対向するように、前記集積回路素子に接合されている、
請求項1に記載のMEMS発振器。
【請求項3】
前記導体パターンの電位が接地電位に設定されて、前記集積回路素子の前記非能動面は、その電位が、前記接地電位に固定されている、
請求項1または2に記載のMEMS発振器。
【請求項4】
前記ベースが、セラミック材料からなる、
請求項1ないし3のいずれかに記載のMEMS発振器。
【請求項5】
前記ベースの前記収納凹部の内周壁には、前記収納凹部の底面よりも高い段部が形成されている、
請求項1ないし4のいずれかに記載のMEMS発振器。
【請求項6】
前記接合領域において、前記第2領域の占める面積が、前記第1領域の占める面積に比べて大きい、
請求項1ないし5のいずれかに記載のMEMS発振器。
【請求項7】
前記導体パターンは、前記収納凹部の前記底面の素地上に導体がパターン状に形成されてなり、
前記接合領域における前記第1領域は、前記導体が形成されている領域であり、前記第2領域は、前記導体が形成されていない領域である、
請求項1ないし6のいずれかに記載のMEMS発振器。
【請求項8】
前記第1領域が、前記集積回路素子の外形に沿う枠状の領域であり、前記第2領域が、前記枠状の領域によって囲まれた領域である、
請求項7に記載のMEMS発振器。
【請求項9】
前記集積回路素子が、平面視矩形であり、
前記第1領域が、前記矩形の四辺に沿う枠状の領域、及び、前記四辺の少なくとも一組の対辺同士を結ぶ直線状の領域であり、前記第2領域が、前記枠状の領域及び前記直線状の領域によって囲まれた領域である、
請求項7に記載のMEMS素子。
【請求項10】
前記接合領域は、前記収納凹部の底面の素地に、凹部及び凸部の少なくともいずれか一方が形成された凹凸形成領域を有し、
前記第1領域が、前記凹凸形成領域における前記凸部が形成された領域または前記凹部が形成されていない領域であり、
前記第2領域が、前記凹凸形成領域における前記凸部が形成されていない領域または前記凹部が形成された領域である、
請求項1ないし6のいずれかに記載のMEMS発振器。
【請求項11】
前記凸部が形成された領域または前記凹部が形成されていない領域である前記第1領域の少なくとも一部には、前記導体パターンが形成されている、
請求項10に記載のMEMS発振器。
【請求項12】
前記収納凹部の前記底面と前記ベースの外底面との間には、接地層が埋設されている、
請求項1ないし11のいずれかに記載のMEMS発振器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MEMS共振子を備えたMEMS発振器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、MEMS(Micro Electro-Mechanical Systems:微小電気機械システム)技術を用いたMEMSデバイスの開発が広く行われている。MEMS技術とは、シリコンなどの半導体製造プロセス等における技術を応用して種々の機械要素の小型化を実現する技術であり、マイクロマシンと呼ばれる場合もある。
【0003】
このようなMEMS技術を用いて製造されるMEMSデバイスとして、例えば、特許文献1には、MEMS技術を用いて製作されたセンサチップと、ICチップとを樹脂でパッケージしたデバイスが開示されている。この特許文献1では、その図4に記載されているように、センサチップがフリップチップボンディングされたICチップを、リードフレームに組み付け、センサチップ及びICチップの全体を樹脂モールドしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2005−528995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1のMEMSデバイスでは、MEMS技術を用いて製作されたMEMS素子であるセンサチップは、ICチップと共に完全に樹脂で覆われているために、温度変化による樹脂の膨張と収縮によって生じる応力と、センサチップの材料である単結晶シリコンと樹脂との線膨張係数の差異により発生する応力とがセンサチップに加わることになり、特に高精度が要求されるアプリケーションではこれらの応力の影響を無視できなくなる。
【0006】
特に、MEMS素子が、MEMS発振器を構成するMEMS共振子(MEMSレゾネータ)である場合には、これらの応力が、例えばMEMS共振子に歪みを生じさせ、発振振周波数が温度に対して変化する、いわゆる周波数温度特性の本来の特性からの変動や、温度に対する周波数ヒステリシス特性が悪化する等の現象が生じてしまう。
【0007】
また、MEMS発振器が実装される回路基板からの外部応力の影響もある。
【0008】
本発明は、上記のような点に鑑みて為されたものであって、外部応力の影響を可及的に低減したMEMS発振器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では、上記目的を達成するために、次のように構成している。
【0010】
すなわち、本発明のMEMS発振器は、収納凹部を有するベースと、発振回路を含む集積回路素子と、MEMS共振子を含むMEMS素子と、前記収納凹部の開口を閉塞する蓋体とを備え、前記集積回路素子及び前記MEMS素子が収納された前記収納凹部が、前記蓋体によって気密に封止され、少なくとも前記MEMS素子は、その外周面が前記収納凹部と前記蓋体との接合によって形成される空間内に露出しており、前記集積回路素子の能動面とは反対側の非能動面が、導電性接着剤を介して前記収納凹部の底面に接合されており、前記集積回路素子の前記非能動面が接合される前記収納凹部の底面の接合領域には、導体パターンが形成されており、前記接合領域は、少なくとも、前記導電性接着剤の厚みが薄い第1領域と、該第1領域よりも前記導電性接着剤の厚みが厚い第2領域とを有する。
【0011】
前記MEMS素子は、その能動面が前記集積回路素子の能動面に対向するように、前記集積回路素子に接合されているのが好ましい。
【0012】
本発明のMEMS発振器によれば、MEMS共振子を含むMEMS素子の外周面は、ベースの収納凹部と蓋体との接合によって形成される空間内に露出しているので、MEMS素子の外周面が樹脂で覆われて、空間内に露出していない上記特許文献1のように樹脂の膨張、収縮による応力を受けることがない。これによって、MEMS素子が周囲の樹脂の応力を受けて歪むといったことがなく、MEMS発振器の周波数温度特性の変動や、温度に対する周波数ヒステリシス特性を改善することができる。
【0013】
集積回路素子の非能動面とベースの収納凹部の底面の接合領域との間には、導電性接着剤が介在するので、ベースから集積回路素子に作用する応力を、導電性接着剤によって緩和することができる。また、集積回路素子に作用する応力を緩和することによって、この集積回路素子の能動面に対向するように接合されたMEMS素子に作用する応力を緩和することができる。
【0014】
更に、集積回路素子の非能動面が接合される収納凹部の底面の接合領域は、第1領域よりも導電性接着剤の厚みが厚い第2領域を有しているので、この第2領域では、第1領域に比べて、導電性接着剤の厚みが厚い分、ベースから集積回路素子に作用する応力を、一層緩和することができる。
【0015】
前記導体パターンの電位が接地電位に設定されて、前記集積回路素子の前記非能動面は、その電位が、前記接地電位に固定されているのが好ましい。
【0016】
上記構成によれば、集積回路素子の非能動面の電位は、ベースの収納凹部の底面の導体パターンによって接地電位に固定されるので、電位が変動することによる特性のばらつきを防止することができると共に、導体パターンによる電磁気的なシールド効果を得ることができる。
【0017】
前記ベースは、硬度が高く、耐熱性及び耐腐食性等に優れたセラミック材料からなるのが好ましい。
【0018】
前記ベースの前記収納凹部の内周壁には、前記収納凹部の底面よりも高い段部が形成されているのが好ましい。
【0019】
上記構成によれば、ベースに段部が形成されているので、ベースの厚みが増して剛性が高まることになる。これによって、当該MEMS発振器が実装される回路基板等の外部からの応力を低減することができ、ベースの収納凹部に収納されているMEMS素子に作用する応力を低減することができる。
【0020】
前記接合領域において、前記第2領域の占める面積が、前記第1領域の占める面積に比べて大きいのが好ましい。
【0021】
上記構成によれば、集積回路素子の非能動面が接合される収納凹部の底面の接合領域において、第1領域よりも導電性接着剤の厚みが厚い第2領域が占める面積が、第1領域の占める面積に比べて大きいので、第2領域の厚みの厚い導電性接着剤によって、ベースから集積回路素子に作用する応力を、効果的に緩和することができる。
【0022】
前記導体パターンは、前記収納凹部の前記底面の素地上に導体がパターン状に形成されてなり、前記接合領域における前記第1領域は、前記導体が形成されている領域であり、前記第2領域は、前記導体が形成されていない領域である。
【0023】
上記構成によれば、接合領域の第2領域は、導体が形成されていない領域であるので、導体の厚みの分だけ、接合される集積回路素子の非能動面と収納凹部の底面と間隔が大きくなり、導体が形成されている第1領域に比べて、導電性接着剤の厚みを厚くすることができ、第1領域に比べて、ベースから集積回路素子に作用する応力を、一層緩和することができる。
【0024】
前記第1領域を、前記集積回路素子の外形に沿う枠状の領域とし、前記第2領域を、前記枠状の領域によって囲まれた領域としてもよい。あるいは、前記集積回路素子が、平面視矩形であり、前記第1領域を、前記矩形の四辺に沿う枠状の領域、及び、前記四辺の少なくとも一組の対辺同士を結ぶ直線状の領域とし、前記第2領域を、前記枠状の領域及び前記直線状の領域によって囲まれた領域としてもよい。
【0025】
上記構成によれば、第1領域は、集積回路素子の外形に沿う枠状の領域や直線状の領域であって、第2領域は、第1領域に囲まれた領域となるので、比較的簡単に第1領域及び第2領域を形成することができる。
【0026】
前記接合領域は、前記収納凹部の底面の素地に、凹部及び凸部の少なくともいずれか一方が形成された凹凸形成領域を有し、前記第1領域が、前記凹凸形成領域における前記凸部が形成された領域または前記凹部が形成されていない領域であり、前記第2領域が、前記凹凸形成領域における前記凸部が形成されていない領域または前記凹部が形成された領域である。
【0027】
上記構成によれば、凹部及び凸部の少なくともいずれか一方が形成された凹凸形成領域において、第2領域は、凸部が形成されていない領域または凹部が形成された領域であるので、凸部が形成された領域または凹部が形成されていない領域である第1領域に比べて、接合される集積回路素子の非能動面と収納凹部の底面との間隔が大きくなり、その分、導電性接着剤の厚みを厚くして、ベースから集積回路素子に作用する応力を、効果的に緩和することができる。
【0028】
前記凸部が形成された領域または前記凹部が形成されていない領域である前記第1領域の少なくとも一部には、前記導体パターンが形成されてもよい。
【0029】
上記構成によれば、凹凸形成領域において、凸部が形成された領域または前記凹部が形成されていない領域である第1領域は、前記凸部が形成されていない領域または前記凹部が形成された領域である第2領域に比べて、接合される集積回路素子の非能動面との距離が近接しているので、この第1領域に導体パターンを形成し、この導体パターンと集積回路素子の非能動面とを導電性接着剤を介して電気的に接続することができる。
【0030】
前記収納凹部の前記底面と前記ベースの外底面との間に、接地層を埋設してもよい。
【0031】
上記構成によれば、収納凹部の底面とベースの外底面との間に埋設された接地層が、電磁気的なシールド機能を発揮する。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、MEMS共振子を含むMEMS素子の外周面は、ベースの収納凹部と蓋体との接合によって形成される空間内に露出しているので、MEMS素子の外周面が樹脂で完全に覆われて、空間内に露出していない上記特許文献1のように樹脂の温度変化などによる膨張、収縮による応力を受けることがない。これによって、MEMS素子が周囲の樹脂の応力を受けて歪むといったことがなく、MEMS発振器の周波数温度特性の変動や、温度に対する周波数ヒステリシス特性を改善することができる。
【0033】
また、集積回路素子の非能動面とベースの収納凹部の底面の接合領域との間には、導電性接着剤が介在するので、ベースから集積回路素子に作用する応力を、導電性接着剤によって緩和することができる。更に、集積回路素子の非能動面が接合される収納凹部の底面の接合領域には、第1領域よりも導電性接着剤の厚みが厚い第2領域を有しているので、この第2領域では、第1領域に比べて、ベースから集積回路素子に作用する応力を、一層緩和することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1図1は本発明の一実施形態に係るMEMS発振器の断面図である。
図2図2図1のMEMS発振器のリッドを外した状態の平面図である。
図3図3図1の実施形態のベースの平面図である。
図4図4図2のA−A線に沿う部分拡大断面図である。
図5図5は他のベースの平面図である。
図6】本発明の他の実施形態に係るベースの平面図である。
図7図7は本発明の他の実施形態に係るMEMS発振器の断面図である。
図8図8図7の実施形態のベースの平面図である。
図9図9図7の実施形態の図4に対応する部分拡大断面図である。
図10図10は本発明の他の実施形態の図4に対応する部分拡大断面図である。
図11図11は本発明の他の実施形態に係るMEMS発振器の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0036】
(実施形態1)
図1は、本発明の一実施形態に係るMEMS発振器の断面図であり、図2は、図1のMEMS発振器のリッドを外した状態の平面図である。
【0037】
この実施形態のMEMS発振器1は、MEMS共振子(MEMSレゾネータ)を含むMEMS素子2と、発振回路を含む集積回路素子としてのICチップ3と、これらを収納して気密に封止するパッケージ4とを備えている。
【0038】
パッケージ4は、上部が開口した収納凹部5を有し、MEMS素子2及びICチップ3を収納保持するベース6と、ベース6の上部開口を閉塞して、収納凹部5を気密封止する蓋体としてのリッド7とを備えている。
【0039】
ベース6は、平面視略矩形であり、アルミナ等のセラミック材料からなり、セラミックグリーンシートを積層して上部が開口した凹状に一体焼成して構成されている。
【0040】
ベース6の収納凹部5は、平面視略矩形であり、ベース6の長辺方向(図1図2の左右方向)の両端の内周壁に、収納凹部5の底面5aよりも高い段部5b,5cが、ベース6の短辺方向(図2の上下方向)に沿ってそれぞれ設けられている。各段部5b,5cの底面5aからの高さは略等しく、各段部5b,5cの上面には、ICチップ3接続用の配線パターンからなる複数の接続電極9b,9cがそれぞれ形成されている。
【0041】
このようにベース6の収納凹部5の内周壁には、底面5aより高い段部5b,5cが形成されてベース6が厚くなっているので、段部が形成されていない構成に比べて、ベース6の剛性が高まる。これによって、当該MEMS発振器1が実装される回路基板からの外部応力を低減することができ、ベース6の収納凹部5に収納されているICチップ3及びMEMS素子2への外部応力を低減することができる。
【0042】
ICチップ3は、例えば、特定用途向け集積回路(ASIC)であり、MEMS素子2と共に、発振回路を構成する。このICチップ3には、必要に応じてPLL回路や温度補償回路等が内蔵される。このICチップ3は、平面視矩形である。ICチップ3は、その能動面(上面)とは反対側の非能動面(下面)が、ベース6の収納凹部5の底面5aに、樹脂系の導電性接着剤10によって接合されている。この樹脂系の導電性接着剤としては、例えば、ポリイミド系、エポキシ系、あるいは、シリコン系の導電性接着剤などを使用することができる。
【0043】
ICチップ3の能動面には、その周縁部に、ベース6の上記接続電極9b,9cにそれぞれ接続される複数の電極パッド11b,11cが形成されている。また、ICチップ3の能動面の中央側には、MEMS素子2を搭載するための図示しない電極パッドが形成されている。
【0044】
ICチップ3の各電極パッド11b,11cは、ベース6の段部5b,5c上に形成された対応する接続電極9b,9cにボンディングワイヤー12b,12cによってそれぞれ電気的に接続されている。ボンディングワイヤー12b,12cの素材としては、信頼性の観点からAuが好ましいが、Cuなどであってもよい。
【0045】
MEMS素子2は、上記のMEMS技術を用いて製作された素子であり、Si共振子を含んでおり、可動部分が気密封止されている。この実施形態のMEMS素子2は、酸化膜上にシリコン単結晶層を形成した構造のシリコンウェーハであるSOI(Silicon on Insulator)ウェーハを用いて製作されたものである。
【0046】
このMEMS素子2は、ICチップ3の外形より小さく、その能動面がICチップ3の能動面に対向するように、ICチップ3に接合されている。すなわち、MEMS素子2は、その能動面の電極パッドとICチップ3の接続パッドとが、金属バンプであるAuバンプ13によってフリップチップ接続されている。このようにMEMS素子2を、ICチップ3に最短経路でフリップチップ接続するので、電磁誘導による外部からの影響を受け難くすることができる。
【0047】
金属バンプは、Auバンプ13に限らず、半田バンプなどであってもよい。
【0048】
MEMS素子2とICチップ3との間の隙間には、機械的接合強度を向上させるために封止樹脂としてのアンダーフィル樹脂を充填してもよい。
【0049】
ベース6の接続電極9b,9cは、ベース6の内部に形成された図示しない配線パターンによって、ベース6の下面(外底面)に形成された外部接続端子(図示せず)に接続されている。
【0050】
リッド7は、例えばコバールなどの金属からなり、矩形の平板となっている。
【0051】
このリッド7は、コバールなどからなる封止材としての矩形環状のシールリング8によって、ベース6の開口の周縁部にシーム溶接などで接合され、パッケージ4の内部に気密な空間Sが形成される。この接合は、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気中または真空雰囲気中で行われ、パッケージ4の内部の空間Sは、窒素ガス等の不活性ガスが封入または真空とされる。このようにシールリング8を備えているので、シールリングのない構成に比べて、パッケージ4が変形しにくいものとなる。
【0052】
なお、リッド7には、上記した金属以外に、セラミックス、樹脂、あるいはガラスなどを用いることができ、例えばガラス製のリッドを用いた場合には、低融点ガラスを接合材として用いるなど、リッドの材料に応じて適宜に接合材を選定し、ベース6とリッド7との接合を行うことができる。
【0053】
この実施形態によれば、MEMS素子2の外周面、具体的には、少なくともMEMS素子2の能動面以外の外周面は、ベース6の収納凹部5とリッド7との接合によって形成される空間S内に露出している。
【0054】
このようにMEMS素子2の外周面が、空間S内に露出しているので、MEMS素子の外周面を完全に樹脂で封止して、空間に露出していない上記特許文献1のように、温度変化などによる樹脂の膨張、収縮による応力をMEMS素子2が受けることがない。これによって、MEMS素子2が、周囲の樹脂の応力によって歪むといった事態を回避することができ、MEMS発振器1の周波数温度特性の変動や、温度に対する周波数ヒステリシス特性を改善することができる。
【0055】
しかも、MEMS素子2は、ベース6の収納凹部5に固着されたICチップ3上に搭載される、すなわち、MEMS素子2は、ICチップ3が介在した状態でベース6の収納凹部5内に接合されているので、MEMS素子2とベース6との間には、ICチップ3が介在することになる。これによって、MEMS素子2をベース6に直接接合するのに比べて、MEMS素子2に作用するベース6の応力を一層低減することができ、MEMS素子2の特性変動を低減することができる。
【0056】
また、この実施形態では、MEMS素子2のみならず、ICチップ3の外周も空間S内に露出しているので、ICチップの外周面を完全に樹脂で封止して、空間に露出していない上記特許文献1のように温度変化などによる樹脂の膨張、収縮による応力をICチップ3が受けることがない。
【0057】
更に、ICチップ3は、樹脂製の導電性接着剤10によって、ベース6の収納凹部5の底面5aに接合されるので、この導電性接着剤10によってベース6からICチップ3に作用する応力を緩和することができ、ICチップ3に接合されたMEMS素子2に作用する応力を低減することができる。
【0058】
この実施形態では、ベース6からICチップ3に作用する応力を、一層効果的に緩和できるように次のように構成している。
【0059】
図3は、ベース6の平面図であり、上記図2において、ICチップ3及びMEMS素子2を搭載する前のベース6の平面図である。
【0060】
平面視矩形のICチップ3が、導電接着剤10によって接合されるベース6の収納凹部5の底面5aの平面視矩形の接合領域16は、ICチップ3の外形に沿う矩形枠状に導体パターン17が形成されている第1領域16Aと、導体パターン17が形成されていない第2領域16Bとを備えている。
【0061】
第1領域16Aの矩形枠状の導体パターン17は、例えば、Auからなる導体のパターンである。この導体パターン17は、矩形の対向する長辺の中央部からそれぞれ外方へ引出された接続部17a,17b及び一つの角部から外方へ引出された接続部17cを介して接地された共通のグランドパターンに接続されている。
【0062】
ICチップ3の非能動面は、導電性接着剤10を介して接合領域16のグランドバターンである導体パターン17に接続されるので、ICチップ3の非能動面の電位が、接地電位に固定される。これによって、ICチップ3の非能動面の電位が変動することによる特性のばらつきを防止することができると共に、グランドパターンである導体パターン17によって電磁気的なシールド効果を得ることができる。
【0063】
導体パターン17の導体の幅Wは、ベース6に対するICチップ3の搭載位置がずれてもICチップ3の非能動面と導体パターン17との電気的接続が確保される幅を有している。
【0064】
接合領域16の第2領域16Bは、導体パターン17が形成されていないので、図2のA−A線に沿う部分拡大断面図である図4に示すように、導体パターン17が形成されている第1領域16Aに比べて、導電性接着剤10の厚みが、導体パターン17の導体の厚みに相当する分だけ厚くなっている。
【0065】
接合領域16において、第2領域16Bの占める面積は、図3に示すように、第1領域16Aの占める面積に比べて大きく、この第2領域16Bでは、導電性接着剤10の厚みを厚くすることができる。
【0066】
このようにICチップ3の非能動面が接合されるベース6の収納凹部5の底面5aの接合領域16は、導電性接着剤10の厚みを厚くできる大きな面積の第2領域16Bを有する。これによって、例えば、図5に示すように、導体パターン17を接合領域16の全面に形成するベタパターンの構成、すなわち、接合領域16が第1領域16Aのみで形成される構成に比べて、導電性接着剤10によって、ベース6からICチップ3に作用する応力を、効果的に緩和することができる。したがって、ICチップ3の能動面にフリップチップ接続されたMEMS素子2に作用するベース6からの応力を効果的に緩和することができる。
【0067】
以上のように本実施形態によれば、MEMS素子2の外周面は、ベース6の収納凹部5とリッド7との接合によって形成される空間S内に露出しているので、上記特許文献1のように樹脂の温度変化などによる膨張、収縮による応力を受けることがなく、MEMS発振器1の周波数温度特性の変動や、温度に対する周波数ヒステリシス特性を改善することができる。
【0068】
また、ICチップ3の非能動面とベース6の収納凹部5の底面5aの接合領域16との間には、導電性接着剤10が介在するので、ベース6からICチップ3及びMEMS素子2に作用する応力を、導電性接着剤10によって緩和することができる。更に、接合領域16は、第1領域16Aよりも導電性接着剤10の厚みが厚い第2領域16Bを有しているので、ベース6からICチップ3及びMEMS素子2に作用する応力を、一層緩和することができる。
【0069】
また、MEMS技術を用いて製作されたMEMS素子2は、非常に小さいので、MEMS発振器1の小型化を図ることができる。
【0070】
上記実施形態では、接合領域16において、導体パターン17が形成された第1領域16Aを、ICチップ3の外形に沿った矩形枠状の領域とし、導体パターンが形成されない第2領域16Bを、第1領域16Aに囲まれた矩形の領域としたが、第1,第2領域16A,16Bは、上記形状の領域に限らず、すのこ状や格子状等の様々な形状の領域とすることができる。
【0071】
例えば、図6のベース6の平面図に示すように、ICチップ3の非能動面が接合される接合領域16において、第1領域16Aを、導体パターン17がICチップ3の外形に沿う矩形枠状及び矩形の対辺の中央同士を結ぶ直交する直線状に形成された領域、すなわち、第1領域16Aを、導体パターン17が「田」の字状に形成された領域とし、第2領域16Bを、第1領域16Aによって囲まれた4つの矩形の領域としてもよい。
【0072】
この実施形態によれば、グランドパターンである導体パターン17は、矩形枠状に形成されると共に、矩形の対辺の中央同士を結び矩形の中央部で交差する直線状に形成されているので、ICチップ3の非能動面は、導電性接着剤10を介して、矩形枠状の部分だけでなく、中央部で交差する直線状の部分でも導体パターン17に電気的に接続されることになり、ICチップ3の非能動面の電位を、接地電位に安定して固定することができる。また、導体パターン17は、矩形枠状の部分に加えて、矩形の中央部で交差する直線状の部分を有するので、シールド効果を高めることができる。
【0073】
(実施形態2)
図7は、本発明の他の実施形態の図1に対応するMEMS発振器1の断面図であり、図8は、図7の実施形態の図3に対応するベース6の平面図であり、これらの図において、図1の実施形態に対応する部分には、同一の参照符号を付してその説明を省略する。
【0074】
図1の実施形態では、ベース6の接合領域16において、第1領域16A及び第2領域16Bのいずれの領域も収納凹部5の底面5aは、凹凸のない平面である。
【0075】
これに対して、本実施形態では、接合領域16は、収納凹部5の底面5aの素地に、凹部及び凸部の少なくともいずれか一方が形成された凹凸形成領域、この例では、凹部が形成された凹凸形成領域を有している。
【0076】
具体的には、上記図1の実施形態と同様の導体パターン17が形成された矩形枠状の第1領域16Aに囲まれた矩形の第2領域16Bは、一定深さ窪んだ凹部が形成された凹凸形成領域となっている。
【0077】
この実施形態によれば、上記図4に対応する図9の拡大断面図に示されるように、接合領域16の第2領域16Bは、第1領域16Aに比べて、窪んだ分だけ導電性接着剤10の厚みが増すことになり、導電性接着剤10によって、ベース6からICチップ3に作用する応力を、一層効果的に緩和することができ、したがって、ICチップ3の能動面に搭載されたMEMS素子2に作用する応力を一層緩和することができる。
【0078】
この実施形態では、凹凸形成領域には、凹部のみを形成したが、凸部及び凹部の両者を形成してもよい。また、例えば、図4に対応する図10の拡大断面図に示されるように、導体パターン17が形成される第1領域16Aを、一定高さ突出した凸部としてもよい。
【0079】
また、凹部や凸部の形成領域は、上記形状の領域に限らず、例えば、図6に示される4つの矩形領域である第2領域16Bを凹部としてもよく、その他、様々な形状の領域を、凹部や凸部の形成領域としてもよい。
【0080】
その他の構成は、上記実施形態1と同様である。
【0081】
(実施形態3)
図11は、本発明の更に他の実施形態の図1に対応する断面図であり、図1に対応する部分には、同一の参照符号を付してその説明を省略する。
【0082】
この実施形態のMEMS発振器1では、ICチップ3の下方のベース6の内部には、グランドパターンに接続された接地層18が埋設されている。この接地層18は、平面視矩形のICチップ3の形状よりやや大きな面状に形成されている。
【0083】
この実施形態では、ICチップ3の下側のベース6に埋設された接地層18によって下方からのノイズを抑制するシールド効果を得ることができる。
【0084】
その他の構成は、上記実施形態1と同様である。
【0085】
(その他の実施形態)
上記各実施形態は、適宜組合せてもよく、例えば、図6図7に示される実施形態と図11に示される実施形態とを組合せてもよい。
【0086】
上記各実施形態では、段部5b,5cは1段設けたが、複数段設けてもよい。
【符号の説明】
【0087】
1,1,1MEMS発振器
2 MEMS素子
3 ICチップ(集積回路素子)
4,4,4 パッケージ
5 収納凹部
6,6,6,6,6,6ベース
7 リッド(蓋体)
16,16,16,16 接合領域
16A,16A,16A 第1領域
16B,16B,16B 第2領域
17,17 導体パターン
18 接地層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11