(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
膜電極接合体と同膜電極接合体を挟む一対の金属板からなるセパレータとを備えた発電セルが直列接続される態様で積層されてなるとともに、前記発電セルの積層方向において並ぶように前記セパレータに形成された貫通孔によって構成されて冷却水が流通する冷却水路を有してなる燃料電池スタックの製造方法であって、
前記冷却水として電着塗料粒子を含むものを用いつつ前記燃料電池スタックを運転して、前記セパレータにおいて高電位になる部位に電着塗料からなる被覆層を形成する
燃料電池スタックの製造方法。
膜電極接合体と同膜電極接合体を挟む一対の金属板からなるセパレータとを備えた発電セルが直列接続される態様で積層されてなるとともに、前記発電セルの積層方向において並ぶように前記セパレータに形成された貫通孔によって構成されて冷却水が流通する冷却水路を有する燃料電池スタックにおいて、
前記冷却水として電着塗料粒子を含むものを用いつつ前記燃料電池スタックを運転して、前記セパレータにおいて高電位になる部位に電着塗料からなる被覆層が形成されている
ことを特徴とする燃料電池スタック。
膜電極接合体と同膜電極接合体を挟む一対の金属板からなるセパレータとを備えた発電セルが直列接続される態様で積層されてなるとともに、前記発電セルの積層方向において並ぶように前記セパレータに形成された貫通孔によって構成されて冷却水が流通する冷却水路を有する燃料電池スタックにおいて、
前記冷却水は電着塗料粒子を含んでいる
ことを特徴とする燃料電池スタック。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、燃料電池スタックの製造方法および同燃料電池スタックの一実施形態について説明する。
図1に示すように、車両10には、駆動源としての電動モータ11と、同電動モータ11に電力を供給する燃料電池スタック30とが搭載されている。燃料電池スタック30は、固体高分子型の燃料電池の発電セルを複数(本実施形態では、400個)有しており、それら発電セルが直列接続される態様で積層された構造になっている。車両10には、燃料(本実施形態では、水素)が充填された燃料タンク12と空気を濾過するフィルタ13とが設けられている。そして、燃料電池スタック30(詳しくは、各発電セル)には、燃料タンク12から燃料ガス(水素ガス)が供給されるとともに、フィルタ13を介して酸化剤ガス(空気)が供給される。燃料電池スタック30は、それら燃料ガスおよび酸化剤ガスを利用して電力を発生する。
【0017】
車両10には、燃料電池スタック30を冷却するための電池冷却系14が設けられている。この電池冷却系14は、燃料電池スタック30の内部に区画形成されて冷却水が流通する内部水通路31(冷却水導入路43、冷却水排出路44、およびセル間通路45)や、同内部水通路31への冷却水の給排を行う水給排装置20などによって構成されている。
【0018】
水給排装置20は、ラジエータ21や、外部水通路22,23、バイパス水路24、ウォーターポンプ25、サーモスタット弁26などを有している。ラジエータ21は、内部を通過する冷却水を外気との熱交換を通じて冷却するための熱交換器である。外部水通路22は上記内部水通路31(冷却水排出路44)から流出する冷却水をラジエータ21に導くための通路であり、外部水通路23はラジエータ21を通過した後の冷却水を内部水通路31(冷却水導入路43)に戻すための通路であり、バイパス水路24はラジエータ21を迂回するように各外部水通路22,23を連通する通路である。ウォーターポンプ25は外部水通路23に設けられており、このウォーターポンプ25が作動することによって電池冷却系14の内部に充填された冷却水が強制循環されるようになっている。サーモスタット弁26は、当接する冷却水の温度に応じて開度が変化する三方弁であり、外部水通路22とバイパス水路24との接続部分に設けられている。サーモスタット弁26の開度変化によって外部水通路22およびバイパス水路24の通路断面積が変更されて、ラジエータ21への冷却水の流入量が調節されるようになっている。本実施形態では、こうしたサーモスタット弁26の作動を通じて、冷却水の温度が所定温度(本実施形態では、摂氏85度)になるように自動的に調節されるようになっている。
【0019】
以下、燃料電池スタック30の構造について詳しく説明する。
図2に示すように、燃料電池スタック30の内部には、複数の発電セル50が直列接続される態様で積層されている。燃料電池スタック30は、それら発電セル50を積層方向Dにおいて挟み込むように配置された一対のターミナルプレート33,34を有している。
【0020】
それらターミナルプレート33,34の一方(プラス側ターミナルプレート33[
図2の右側])には、燃料電池スタック30のプラス出力端子(図示略)が設けられており、積層方向Dにおける外方側(
図2の右側)の面を覆うように絶縁材料からなるインシュレータ35とプレッシャープレート36とが取り付けられている。
【0021】
また、一対のターミナルプレート33,34の他方(マイナス側ターミナルプレート34[
図2の左側])には、燃料電池スタック30のマイナス出力端子(図示略)が設けられており、積層方向Dにおける外方側(
図2の左側)の面を覆うようにスタックマニホールド37が取り付けられている。スタックマニホールド37には、燃料ガスを給排する燃料ガス配管37Aと、酸化剤ガス(具体的には空気)を給排する酸化剤配管37Bと、冷却水を給排する冷却水配管37Cとが接続されている。このスタックマニホールド37を介して、燃料電池スタック30内部への燃料ガスの給排や、同燃料電池スタック30内部への酸化剤ガスの給排、並びに内部水通路31への冷却水の給排が行われる。
【0022】
燃料電池スタック30は、積層方向Dと直交する方向(
図2の上下方向)において発電セル50を挟む位置で同発電セル50の外面に沿って延びる一対の接続プレート38を有している。これら接続プレート38の一方(
図2の右側)の端部はプレッシャープレート36にボルト締結固定されており、他方(
図2の左側)の端部はスタックマニホールド37にボルト締結固定されている。これにより燃料電池スタック30は、複数の発電セル50、ターミナルプレート33,34およびインシュレータ35がプレッシャープレート36とスタックマニホールド37との間に挟持された構造になっている。
【0023】
次に、発電セル50の構造について詳しく説明する。
図3に示すように、発電セル50は膜電極接合体51を有している。この膜電極接合体51は、固体高分子膜である電解質膜と、同電解質膜を挟む一対の電極と、それら電解質膜および電極を挟むカーボンシートからなる一対のガス拡散層とを備えた5層構造になっている。発電セル50は、上流側セパレータ60と下流側セパレータ70との間に平板形状のフレームプレート80が挟まれた構造になっている。フレームプレート80は、中央部分が上記膜電極接合体51をなすとともにそれ以外の部分が絶縁体によって構成されている。
【0024】
図3および
図4に示すように、上流側セパレータ60は、金属(ステンレス鋼)製の薄板状部材に対してプレス加工によって凹凸が付与されたものである。この凹凸は、発電セル50の内部に燃料ガスを通過させる流路を区画したり、隣り合う発電セル50の間に冷却水を流通させる流路(前記セル間通路45[
図1参照])を区画したりする役割がある。本実施形態では、上流側セパレータ60の大きさが平面視で「0.06」平方メートル程度になっている。なお
図4は、フレームプレート80(
図3参照)に対向する面が手前になる状態の上流側セパレータ60を示している。
【0025】
上流側セパレータ60は貫通孔61〜66を有している。貫通孔61は上流側セパレータ60の長手方向(
図4の左右方向)における一方の縁部の上方部分(
図4の左上)に設けられて、各発電セル50の内部に燃料ガスを分配して導入する燃料ガス導入路39の一部を構成している。貫通孔62は上流側セパレータ60の長手方向における他方の縁部の下方部分(
図4の右下)に設けられて、各発電セル50から燃料ガスを排出する燃料ガス排出路40の一部を構成している。貫通孔63は上流側セパレータ60の長手方向における一方の縁部の上方部分(
図4の右上)に設けられて、各発電セル50の内部に酸化剤ガスとしての空気を分配して導入する空気導入路41の一部を構成している。貫通孔64は上流側セパレータ60の長手方向における他方の縁部の下方部分(
図4の左下)に設けられて、各発電セル50から空気を排出する空気排出路42の一部を構成している。貫通孔65は上流側セパレータ60の長手方向における一方(
図4の左側)の縁部に設けられて、各発電セル50のセル間通路45に冷却水を分配して導入する冷却水導入路43の一部を構成している。貫通孔66は上流側セパレータ60の長手方向における他方(
図4の右側)の縁部に設けられて、セル間通路45を通過した後の冷却水を合流させて排出する冷却水排出路44の一部を構成している。なお、貫通孔61,62,63,64の周縁部分はフレームプレート80から離間する方向(
図4の紙面における奥側)に向けて窪んだ凹部61A,62A,63A,64Aになっており、それら凹部61A,62A,63A,64Aの底において各貫通孔61,62,63,64は開口している。また、上流側セパレータ60の外縁部分は、フレームプレート80から離間する方向に向けて窪んだ凹部68になっている。
【0026】
また、上流側セパレータ60の長手方向における中央部分には、フレームプレート80から離間する方向に向けて窪んだ凹部67が形成されている。この凹部67の形成範囲は、膜電極接合体51に隣接する部分(
図4中に破線で示す部分)を含んでいる。発電セル50(
図3)の内部では、上流側セパレータ60と上記フレームプレート80とが密着している。これにより、上流側セパレータ60とフレームプレート80との間には、凹部67によって、燃料ガスが通過する流路の一部になる空間が区画形成されている。なお、上記凹部67の底壁は凹凸(図示略)を有する形状になっている。
【0027】
図3および
図5に示すように、フレームプレート80は貫通孔81〜86を有している。これら貫通孔81〜86は、上流側セパレータ60の貫通孔61〜66に対応する位置に設けられて、各流体流路(燃料ガス導入路39、燃料ガス排出路40、空気導入路41、空気排出路42、冷却水導入路43、および冷却水排出路44)の一部を構成している。発電セル50の内部では、それら貫通孔81〜86の周縁において、フレームプレート80と上流側セパレータ60(
図3)とが密着している。これにより、フレームプレート80と上流側セパレータ60との対向面間において、燃料ガス導入路39や、燃料ガス排出路40、空気導入路41、空気排出路42、冷却水導入路43、冷却水排出路44がその外部に対してシールされている。
【0028】
ただし、
図3および
図5に示すように、フレームプレート80には、上流側セパレータ60の貫通孔61(詳しくは、凹部61A)に隣接する位置から凹部67に隣接する位置まで延びる長孔81Aが複数(本実施形態では5本)形成されている。これら長孔81Aは、上流側セパレータ60と下流側セパレータ70(
図1参照)との間において、燃料ガス導入路39(詳しくは、貫通孔61)と凹部67の内部とを連通する隙間になる。
【0029】
また、フレームプレート80には、上流側セパレータ60の貫通孔62(詳しくは、凹部62A)に隣接する位置から凹部67に隣接する位置まで延びる長孔82Aが複数(同5本)形成されている。これら長孔82Aは、上流側セパレータ60と下流側セパレータ70との間において、燃料ガス排出路40(詳しくは、貫通孔62)と凹部67の内部とを連通する隙間になる。
【0030】
そして、
図3中に白抜きの矢印で示すように、燃料電池スタック30の内部では、燃料ガスが「燃料ガス導入路39→長孔81A→凹部67の内部→長孔82A→燃料ガス排出路40」といった順に流れるようになる。
【0031】
下流側セパレータ70は、上流側セパレータ60と基本構造が同一である。そのため以下での下流側セパレータ70の構造についての詳しい説明は省略する。なお
図3の下流側セパレータ70は、フレームプレート80に対向する面が奥側になる状態の下流側セパレータ70を示している。
【0032】
下流側セパレータ70は、発電セル50の内部に空気を通過させる流路を区画したり、前記セル間通路45を区画したりする役割がある。
下流側セパレータ70は貫通孔71〜76を有している。貫通孔71は下流側セパレータ70の長手方向における一方の縁部の上方部分(
図3の左上)に設けられて、前記燃料ガス導入路39の一部を構成している。貫通孔72は下流側セパレータ70の長手方向における他方の縁部の下方部分(
図3の右下)に設けられて、前記燃料ガス排出路40の一部を構成している。貫通孔73は下流側セパレータ70の長手方向における一方の縁部の上方部分(
図3の右上)に設けられて、前記空気導入路41の一部を構成している。貫通孔74は下流側セパレータ70の長手方向における他方の縁部の下方部分(
図3の左下)に設けられて、前記空気排出路42の一部を構成している。貫通孔75は下流側セパレータ70の長手方向における一方(
図3の左側)の縁部に設けられて、前記冷却水導入路43の一部を構成している。貫通孔76は下流側セパレータ70の長手方向における他方(
図3の右側)の縁部に設けられて、前記冷却水排出路44の一部を構成している。
【0033】
なお、貫通孔71,72,73,74の周縁部分はフレームプレート80から離間する方向に向けて窪んだ凹部71A,72A,73A,74Aになっており、それら凹部71A,72A,73A,74Aの底において各貫通孔71,72,73,74は開口している。また下流側セパレータ70の外縁部分は、フレームプレート80から離間する方向に向けて窪んだ凹部78になっている。
【0034】
下流側セパレータ70の長手方向における中央部分の凹部77の形成範囲は、膜電極接合体51に隣接する部分(
図4中の破線参照)を含んでいる。発電セル50の内部では、下流側セパレータ70と上記フレームプレート80とが密着している。これにより、下流側セパレータ70とフレームプレート80との間には、凹部77によって、空気が通過する流路の一部になる空間が区画形成されている。
【0035】
また発電セル50の内部では、フレームプレート80の各貫通孔81〜86の周縁において、同フレームプレート80と下流側セパレータ70とが密着している。これにより、フレームプレート80と下流側セパレータ70との対向面間において、燃料ガス導入路39や、燃料ガス排出路40、空気導入路41、空気排出路42、冷却水導入路43、冷却水排出路44がその外部に対してシールされている。
【0036】
ただし、
図3および
図5に示すように、フレームプレート80には、下流側セパレータ70の貫通孔73(詳しくは、凹部73A)に隣接する位置から凹部77に隣接する位置まで延びる長孔83Aが複数(本実施形態では5本)形成されている。これら長孔83Aは、上流側セパレータ60と下流側セパレータ70との間において、空気導入路41(詳しくは、貫通孔73)と凹部77の内部とを連通する隙間になる。
【0037】
また、フレームプレート80には、下流側セパレータ70の貫通孔74(詳しくは、凹部74A)に隣接する位置から凹部77に隣接する位置まで延びる長孔84Aが複数(同5本)形成されている。これら長孔84Aは、上流側セパレータ60と下流側セパレータ70との間において、空気排出路42(詳しくは、貫通孔74)と凹部77の内部とを連通する隙間になる。
【0038】
そして
図3中に斜線の矢印で示すように、燃料電池スタック30の内部では、空気が「空気導入路41→長孔83A→凹部77の内部→長孔84A→空気排出路42」といった順に流れるようになる。
【0039】
図6に概略的に示すように、燃料電池スタック30は複数の発電セル50が積層された構造であり、同燃料電池スタック30内部において隣り合う発電セル50の間には前記セル間通路45が区画形成されている。
【0040】
具体的には、燃料電池スタック30が組み立てられた状態では、隣り合う発電セル50のうちの一方の上流側セパレータ60の外縁部分(詳しくは、凹部68の底壁)と、他方の下流側セパレータ70の外縁部分(詳しくは、凹部78の底壁)とが密着した状態になる。これにより、一方の発電セル50の上流側セパレータ60外面と他方の発電セル50の下流側セパレータ70外面とによりセル間通路45が区画形成されている。
【0041】
また、上流側セパレータ60の貫通孔65,66の周縁や下流側セパレータ70の貫通孔75,76の周縁においては、フレームプレート80から離間する方向に窪む凹部が形成されておらず、それらセパレータ60,70の外面同士が離間している。そのため、上流側セパレータ60の貫通孔65,66や下流側セパレータ70の貫通孔75,76は、それらセパレータ60,70の間のセル間通路45に対して開口(連通)した状態になっている。このようにセル間通路45は、冷却水導入路43(貫通孔65,75)と冷却水排出路44(貫通孔66,76)とに各別に連通されている。
【0042】
なお、燃料電池スタック30が組み立てられた状態では、隣り合う発電セル50のうちの一方の上流側セパレータ60の貫通孔61〜64の周縁全周(詳しくは、凹部61A〜64Aの底壁)と、他方の下流側セパレータ70の貫通孔71〜74の周縁全周(詳しくは、凹部71A〜74Aの底壁)とが密着した状態になる。そのため、上流側セパレータ60の貫通孔61〜64や下流側セパレータ70の貫通孔71〜74は、それらセパレータ60,70の間のセル間通路45に対して開口(連通)していない。
【0043】
そして、
図3中にドットハッチングの矢印で示し、
図6中に矢印で示すように、燃料電池スタック30の内部では、冷却水が「冷却水導入路43→セパレータ60,70間のセル間通路45→冷却水排出路44」といった順に流れるようになる。
【0044】
ここで、車両10の組み立てに際しては、同車両10への燃料電池スタック30および水給排装置20の組み付けが完了した後に、電池冷却系14の内部への冷却水の注入が行われる。
【0045】
本実施形態では、このときに電池冷却系14内に注入する冷却水として、エチレングリコールを主成分とするものであって、電着塗料粒子を含むものを採用している。この電着塗料粒子は、詳しくは、冷却水中において負(マイナス)の電荷を持つもの(いわゆるアニオン電着塗料)であり、且つ、燃料電池スタック30の発生熱(運転熱)によって適正に固化するものである。本実施形態では、電着塗料粒子として、電池冷却系14における冷却水の目標温度(摂氏85度)よりも低い温度(例えば、摂氏80度)で固化するものが採用されている。また本実施形態では、電池冷却系14内に注入する冷却水の電着塗料粒子の濃度が「0.5%」程度になっている。具体的には、電池冷却系14に対する正規の注入量である「20リットル」の冷却水に対して「100グラム」程度の電着塗料粒子が含まれている。
【0046】
以下、こうした冷却水を採用することによる作用について説明する。
本実施形態では、冷却水を電着塗料の水溶液とし、内部水通路31(特に冷却水導入路43や冷却水排出路44)を水溶液が満たされる容器とし、上流側セパレータ60や下流側セパレータ70のいずれかを陽極(被塗装物)および陰極とするアニオン電着塗装によって、それらセパレータ60,70の表面に電着塗料の層(被覆層90)が形成される。
【0047】
詳しくは、
図6に示すように、燃料電池スタック30の内部に区画形成される冷却水導入路43と冷却水排出路44とがそれぞれ、全ての発電セル50の上流側セパレータ60および下流側セパレータ70を貫通する態様で積層方向Dにおいて延びる一本の通路になっている。そして、それら冷却水導入路43や冷却水排出路44の内部には冷却水が満たされている。そのため、冷却水導入路43の内部や冷却水排出路44の内部が、アニオン電着塗装における電着塗料の水溶液が溜まる容器として機能する。
【0048】
また、燃料電池スタック30の運転時には、積層方向Dにおける上記プラス側ターミナルプレート33(
図2参照)側の発電セル50のセパレータ60,70の電位は高くなり、マイナス側ターミナルプレート34側の発電セル50のセパレータ60,70の電位は低くなる。そして、これらセパレータ60,70は、冷却水導入路43の内部や冷却水排出路44の内部に浸かった状態になっている。そのため、プラス側ターミナルプレート33側の発電セル50のセパレータ60,70がアニオン電着塗装における陽極(被塗装物)になり、マイナス側ターミナルプレート34側の発電セル50のセパレータ60,70がアニオン電着塗装における陰極になる。
【0049】
さらに、燃料電池スタック30の発生熱によって、各セパレータ60,70の温度や冷却水の温度は周囲温度よりも高くなる。そして、こうした燃料電池スタック30の発生熱は、アニオン電着塗装によってセパレータ60,70の表面に付着した電着塗料を固化させる熱として作用するようになる。
【0050】
本実施形態によれば、上記プラス側ターミナルプレート33側の発電セル50のセパレータ60,70と上記マイナス側ターミナルプレート34側の発電セル50のセパレータ60,70との間に生じる電位差や燃料電池スタック30の発生熱を利用して、アニオン電着塗装により、セパレータ60,70の表面に被覆層90を形成することができる。これにより、電着塗料粒子を含む冷却水を用いて燃料電池スタック30を運転するといった簡単な作業を通じて、燃料電池スタック30の運転に際して高電位になるセパレータ60,70、すなわち電食が生じるおそれのあるセパレータ60,70の表面に被覆層90を形成することができる。
【0051】
図7および
図8に、セパレータ60,70の表面に形成される被覆層90の一例を示す。なお
図7(a)は燃料電池スタック30における冷却水導入路43およびその周辺の断面構造を概略的に示しており、
図7(b)は燃料電池スタック30における冷却水排出路44およびその周辺の断面構造を概略的に示している。また、
図8(a)は各セパレータ60(または70)の貫通孔65(または75)およびその周辺の平面構造を示しており、
図8(b)は各セパレータ60(または70)の貫通孔66(または76)およびその周辺の平面構造を示している。
図7および
図8では、理解を容易にするために、被覆層90の厚さを実際の厚さ(本実施形態では、数十マイクロメートル)よりも誇張して示している。
【0052】
図7(a)、
図7(b)、
図8(a)および
図8(b)に示すように、被覆層90は、各セパレータ60,70の貫通孔65,66,75,76の内縁部分のうちの上記フレームプレート80に接していない側の部分に形成される。なお、貫通孔65,66,75,76の内縁部分のうちの上記フレームプレート80に接している側の部分には、同フレームプレート80が密着しており冷却水が殆ど侵入しないために、被覆層90は形成されない。
【0053】
ここで仮に、全て(本実施形態では、800枚)のセパレータ60,70に対して個別にマスキングを施した上で電食の発生を抑えるための被覆層90を形成するようにすると、その作業に非常に手間がかかってしまい、燃料電池スタック30の生産性が悪くなってしまう。
【0054】
この点、本実施形態では、被覆層90の形成のための作業として、そうした手間のかかる作業を行う必要がなく、車両10(燃料電池スタック30および周辺機器)を組み立てたうえで燃料電池スタック30を運転するといった作業を行うだけでよいため、格段に短い作業時間で多数のセパレータ60,70の表面に被覆層90を形成することができる。したがって、燃料電池スタック30の生産性を向上させることができる。
【0055】
しかも電着塗装は、スプレー塗装と比較して、均一な厚さの塗膜を形成することが可能である。本実施形態では、そうした電着塗装によってセパレータ60,70表面に被覆層90が形成されるため、比較的薄い被覆層90でセパレータ60,70表面を適正に保護することができるようになる。したがって、スプレー塗装で被覆層を形成する場合と比較して、被覆層90の形成に用いる塗料(電着塗料)の使用量を少なく抑えることができる。
【0056】
また本実施形態では、アニオン電着塗装の特性上、燃料電池スタック30の運転時における電位が比較的高いプラス出力端子側のセパレータ60,70(
図2中に「AR1」で示す範囲に配置される発電セル50のセパレータ60,70[本実施形態では、780枚])には被覆層90が形成される。これに対して、燃料電池スタック30の運転時における電位が低いマイナス出力端子側のセパレータ60,70(
図2中に「AR2」で示す範囲に配置される発電セル50のセパレータ60,70[同20枚])には被覆層90が形成されない。
【0057】
このように本実施形態によれば、燃料電池スタック30の運転に際して高電位になることから電食のおそれのあるセパレータ60,70の表面には被覆層90を的確に形成することができるため、燃料電池スタック30における電食の発生を適正に抑えることができる。しかも、燃料電池スタック30の運転時において低電位であることから電食が生じないセパレータ60,70の表面には被覆層90が形成されないため、燃料電池スタック30における電食の発生を抑える機能を確保しつつ、全てのセパレータ60,70に同一の被覆層90を形成する場合と比較して、電着塗料の使用量を低減することができる。
【0058】
以下、燃料電池スタック30を製造する手順について説明する。
先ず、プレス加工によって上流側セパレータ60および下流側セパレータ70が形成される。その後、上流側セパレータ60の凹部67の内面と下流側セパレータ70の凹部77の内面とに接触抵抗を小さくするための表面処理が施される。この表面処理では、各セパレータ60,70の凹部67,77の内面に導電材料(例えばカーボンなど)からなる導電層が形成される。
【0059】
その後、上流側セパレータ60と、下流側セパレータ70と、別途形成されたフレームプレート80とによって発電セル50が組み立てられる。さらに複数の発電セル50、ターミナルプレート33,34、インシュレータ35、プレッシャープレート36、スタックマニホールド37、および接続プレート38によって燃料電池スタック30が組み立てられる。
【0060】
その後、この燃料電池スタック30が車両10に搭載される。このとき燃料電池スタック30の内部水通路31が水給排装置20の外部水通路22,23に接続される。そして、電池冷却系14の内部に冷却水が注入される。
【0061】
本実施形態では、このようにして組み立てられた車両10が運転されると、セパレータ60,70の表面に被覆層90が形成される。詳しくは、車両10が運転されると、ウォーターポンプ25が作動して電池冷却系14内部の冷却水の流路(冷却水導入路43および冷却水排出路44を含む)を冷却水が流通(循環)するようになる。そして、このときアニオン電着塗装により、高電位になるセパレータ60,70の表面に冷却水中の電着塗料粒子が付着して塗膜を形成するようになる。さらに、その後において発電セル50の発生熱によって燃料電池スタック30の温度や電池冷却系14内の冷却水の温度が上昇すると、各セパレータ60,70の表面に付着した電着塗料粒子が固化して被覆層90になる。このようにして、セパレータ60,70の表面に被覆層90が形成される。
【0062】
なお本実施形態の車両10では、その運転を通じてセパレータ60,70の表面に被覆層90を形成した後においても、電池冷却系14内の冷却水が交換されることなく継続して使用される。したがって本実施形態では、車両10の組み立て工程において特段の作業をせずとも、車両10を組み立てた後に同車両10を運転するといった通常の作業を通じて各セパレータ60,70の表面に被覆層90を形成することができる。
【0063】
以上説明したように、本実施形態によれば、以下に記載する効果が得られる。
(1)電着塗料粒子を含む冷却水を用いて燃料電池スタック30を運転するといった簡単な作業を通じて、電食が生じるおそれのあるセパレータ60,70の表面に被覆層90を形成することができる。そのため、燃料電池スタック30の生産性を向上させることができる。
【0064】
<変形例>
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
・水給排装置20における外部水通路22とバイパス水路24との接続部分に、サーモスタット弁26を設けることに代えて、電磁制御弁を設けるようにしてもよい。こうした構成では、電池冷却系14内を流れる冷却水の温度を検出するとともに、同温度が目標温度になるように上記電磁制御弁の作動を制御すればよい。
【0065】
・上流側セパレータ60の凹部67の内面と下流側セパレータ70の凹部77の内面とに施す表面処理は、それら内面の接触抵抗を小さくすることができるのであれば、任意に変更することができる。そうした表面処理としては、金めっき処理などを採用することができる。また、セパレータ60,70の接触抵抗が小さく抑えられるのであれば、そうした表面処理を省略してもよい。
【0066】
・電着塗料粒子を含む冷却水を注入した状態で車両10を運転してセパレータ60,70の表面に被覆層90を形成した後に、同冷却水を、電着塗料粒子を含まない冷却水に交換するようにしてもよい。
【0067】
・冷却水に添加する電着塗料粒子としては、冷却水中において負の電荷を持つものであり、且つ、燃料電池スタック30の発生熱によって適正に固化するものであれば、任意のものを採用することができる。また、冷却水における電着塗料粒子の濃度は任意に変更することができる。要は、各セパレータ60,70の表面に被覆層90を形成するうえで必要になる量の電着塗料が冷却水に含まれていればよい。
【0068】
・燃料電池スタック30の製造(詳しくは、被覆層90の形成)に際して、車両10に搭載される水給排装置20を利用することに限らず、工場に載置された水給排装置20を用いるようにしてもよい。この場合には、電着塗料粒子として、電池冷却系14における冷却水の目標温度よりも高い温度で固化するものを採用してもよい。こうした構成によれば、アニオン電着塗装によってセパレータ60,70の表面に電着塗料粒子を付着させた後に、加熱装置によって冷却水を加熱して同冷却水の温度を固化温度以上に上昇させることにより、セパレータ60,70の表面に付着した電着塗料粒子を固化させて被覆層90を形成することができる。
【0069】
・上流側セパレータ60や下流側セパレータ70としては、ステンレス鋼以外の鉄合金や、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、同合金からなるものを用いることができる。この場合には、冷却水に添加する電着塗料粒子として、上流側セパレータ60や下流側セパレータ70の形成材料に合わせて、それらセパレータ60,70の表面に付着し易い特性のものを採用することが望ましい。
【0070】
・上記実施形態の燃料電池スタックやその製造方法は、車両に搭載される燃料電池スタックに限らず、地面に載置されるタイプの燃料電池スタックにも適用することができる。