特許第6863320号(P6863320)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6863320
(24)【登録日】2021年4月5日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】揮発成分放出装置
(51)【国際特許分類】
   B60H 3/00 20060101AFI20210412BHJP
   A61L 9/12 20060101ALI20210412BHJP
   A23B 7/144 20060101ALN20210412BHJP
   A23L 3/3409 20060101ALN20210412BHJP
【FI】
   B60H3/00 J
   A61L9/12
   !A23B7/144
   !A23L3/3409
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2018-53755(P2018-53755)
(22)【出願日】2018年3月22日
(65)【公開番号】特開2019-166853(P2019-166853A)
(43)【公開日】2019年10月3日
【審査請求日】2019年6月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100113664
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 正往
(74)【代理人】
【識別番号】110001324
【氏名又は名称】特許業務法人SANSUI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩井 幸一郎
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 宏
(72)【発明者】
【氏名】榊原 清美
【審査官】 浅野 弘一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特表2016−539835(JP,A)
【文献】 特表2017−531478(JP,A)
【文献】 特開2005−000305(JP,A)
【文献】 特開平08−132866(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第03002142(EP,A1)
【文献】 特開2010−000854(JP,A)
【文献】 仏国特許出願公開第02848915(FR,A1)
【文献】 国際公開第2006/087610(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60H 3/00
A61L 9/12
A23B 7/144
A23L 3/3409
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気流中に配設される揮発成分放出装置であって、
揮発成分を保持した揮発源を収容すると共に該気流の上流側から下流側へ延在する筒体と、
該筒体の上流側開口の開度を変更する第1バルブと、
該筒体の下流側開口の開度を変更する第2バルブと、
該第1バルブと該第2バルブを駆動する駆動手段と、
該第2バルブよりも上流側に配設され、前記気流の一部を該第1バルブ側へ導入させると共に該気流の残部を通過させる分流体とを備え、
該分流体は、該気流の残部を通過させる貫通穴が複数配設されており、下流側よりも上流側の気圧を高める抵抗板であり、
該抵抗板は、該筒体を嵌挿する嵌挿穴を有し、該第1バルブと該第2バルブの中間に配設される揮発成分放出装置。
【請求項2】
前記筒体、前記第1バルブ、前記第2バルブおよび前記駆動手段を有する一群が、前記気流の方向に沿って並列に複数配設されている請求項1記載の揮発成分放出装置。
【請求項3】
前記第1バルブは、回転角に応じて開度が変化する第1ロータリーバルブであり、
前記第2バルブは、回転角に応じて開度が変化する第2ロータリーバルブであり、
前記駆動手段は、該第1ロータリーバルブと該第2ロータリーバルブを連結するシャフトと、該シャフトを回転させて該第1ロータリーバルブと該第2ロータリーバルブを作動させるモータとを備える請求項1または2に記載の揮発成分放出装置。
【請求項4】
前記揮発源は、前記揮発成分を内蔵すると共に前記筒体内に着脱されるカートリッジからなる請求項1〜のいずれかに記載の揮発成分放出装置。
【請求項5】
前記気流を誘導するダクト内に嵌装される請求項1〜のいずれかに記載の揮発成分放出装置。
【請求項6】
前記気流を生じる気流源をさらに備える請求項1〜のいずれかに記載の揮発成分放出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揮発成分の放出を行う装置に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、空調装置(エアコン)等の気流を利用して、車室内に揮発成分の放出がなされている。例えば、揮発成分の一種である芳香成分を車室内に放出し、運転者をリラックスさせたり、リフレッシュさせられる。また、揮発成分の一種である機能性成分を車室内に放出することにより、運転者の集中力や覚醒度を向上させることも可能である。このような揮発成分の放出を行う装置は種々提案されており、例えば、下記の特許文献に関連した記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平6−38996号公報
【特許文献2】特開2014−266号公報
【特許文献3】特開2014−267号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1にある芳香発生装置は、圧縮空気源を必須としており、他から供給される気流の利用が困難である。
【0005】
特許文献2および特許文献3にある香り提供装置は、複数の香料保持体が一つの気化容器内に上流側から下流側に沿って直列的に(香料保持体を気流に直交させて)配置している。この場合、上流側の香料保持体から放出された香料は、下流側の香料保持体に付着するため、各香料の放出を適切に調整することが困難である。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みて為されたものであり、従来と異なる構造の揮発成分放出装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究した結果、揮発源を収容する筒体を気流の上流側から下流側に沿って配設すると共に、その筒体に気流の一部が確実に導入されるようにする部材(分流体)を設けることを着想した。これを具現化し、発展させることにより、以降に述べる本発明を完成するに至った。
【0008】
《揮発成分放出装置》
(1)本発明は、気流中に配設される揮発成分放出装置であって、揮発成分を保持した揮発源を収容すると共に該気流の上流側から下流側へ延在する筒体と、該筒体の上流側開口の開度を変更する第1バルブと、該筒体の下流側開口の開度を変更する第2バルブと、該第1バルブと該第2バルブを駆動する駆動手段と、該第2バルブよりも上流側に配設され、前記気流の一部を該第1バルブ側へ導入させると共に該気流の残部を通過させる分流体とを備え、該分流体は、該気流の残部を通過させる貫通穴が複数配設されており、下流側よりも上流側の気圧を高める抵抗板であり、該抵抗板は、該筒体を嵌挿する嵌挿穴を有し、該第1バルブと該第2バルブの中間に配設される。
【0009】
(2)本発明の揮発成分放出装置(単に「放出装置」という。)は、気流の流れ方向(上流側から下流側への方向)に沿って配設した筒体の下流側開口から揮発成分を放出する。その放出量(濃度)は、第1バルブと第2バルブの開度を駆動手段で変更することにより調整される。
【0010】
ここで本発明の放出装置は、第2バルブよりも上流側(上流開口側または第1バルブ側)に分流体を備える。この分流体により、気流の一部が筒体内に安定して導入される。また分流体は、単に気流を筒体内へ誘導するだけでなく、主となる気流は筒体の側方を通過させている。このため放出された揮発成分は、筒体の側方を通過した気流の残部に乗って下流側へ運搬される。こうして本発明の放出装置によれば、筒体内の揮発成分が安定して放出される。
【0011】
なお、本発明の放出装置は、下流側の第2バルブに加えて上流側の第1バルブも有する。このため、例えば、揮発成分の放出が不要なときは、両バルブを閉塞状態とすることにより、揮発成分が上流側開口(第1バルブ側)から漏出しないようにできる。
【0012】
《その他》
本明細書でいう「気流」は、本発明の放出装置以外から供給される気流で足る。但し、本発明の放出装置は、設置場所や用途に応じて、適宜、気流の発生装置(送風ファン等)等をさらに備えてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施例である揮発成分放出装置の正面図である。
図2】その放出装置を構成する基板と抵抗板の斜視図である。
図3】その放出装置を構成する放出量調整器の全体斜視図である。
図4】その放出量調整器の要部分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書で説明する内容は、本発明の揮発成分放出装置のみならず、その使用方法や制御方法等にも該当し得る。上述した本発明の構成要素に、本明細書中から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成要素を付加し得る。いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。
【0015】
《分流体》
分流体は、気流本来の流れを残しつつ、気流の一部を第1バルブ側へ適切に導入させる。分流体の形態は種々考えられるが、その一例として、気流の残部を通過させる貫通穴が複数配設された抵抗板がある。抵抗板を設けることにより、抵抗板が無いときよりも、抵抗板の下流側(第1バルブ側)の気圧をその上流側の気圧よりも高めることができる。これにより、第1バルブを通じて筒体内へ気流が安定的に導入される。
【0016】
貫通穴のサイズ、数、配置等は均一的でもよいし分布的でもよい。貫通穴のサイズ等を変化させることにより、筒体内を流れる気流と筒体外を流れる気流の割合(分流比)を調整したり、放出装置を通過する気流の分布を調整したりできる。例えば、流量が多くなる中央付近は貫通穴を大きくしたり多く配置し、流量が少なくなる側壁付近は貫通穴を小さくしたり少なく配置して、気流の分散化(均一化)を図ってもよい。なお、貫通穴は、丸状に限らず角形状でもよい。
【0017】
抵抗板は、第1バルブと第2バルブの中間または筒体の上流側開口と下流側開口の中間に配設されるとよい。このとき筒体は、抵抗板に設けた嵌挿穴に嵌挿されるとよい。
【0018】
《筒体》
筒体は、長手方向(軸方向)に貫通していればよく、円筒体でも、角筒体でも、内周側と外周側の断面形状が異なっていてもよい。筒体は、揮発源を収容できると共にその揮発源から生じた揮発成分が放散される空間を備えると好ましい。
【0019】
《バルブ/駆動手段》
筒体の両開口側には、筒体内を通過する気流量(ひいては揮発成分の放出量)を調整するバルブが設けられる。バルブには種々あり、例えば、バタフライバルブ、ロータリーバルブ、グローブバルブ等がある。いずれの場合でも駆動手段と整合しているとよい。
【0020】
ロータリーバルブを用いると、小型化を図りつつ、各開口の開度調整も容易となる。そこで第1バルブは回転角に応じて開度が変化する第1ロータリーバルブであり、第2バルブは回転角に応じて開度が変化する第2ロータリーバルブとしてもよい。
【0021】
第1バルブと第2バルブは、必ずしも連動している必要はない。例えば、第1バルブの開度を一定としつつ、第2バルブの開度を調整することにより揮発成分の放出量を調整してもよい。もっとも、両者を連動させることにより、駆動手段の簡素化を図れる。例えば、上述した場合なら、第1ロータリーバルブと第2ロータリーバルブをシャフトで連結して、そのシャフトをモータで回転させると、第1ロータリーバルブと第2ロータリーバルブを連動して作動させることができる。
【0022】
本明細書でいう「開度」は、全閉と全開のいずれかでもよいし、両者間を段階的または連続的に変化させる可変開度でもよい。なお、ここでいう全開は、バルブの開口部の全開を意味し、必ずしも筒体の開口部の全開ではない。勿論、両者が一致してもよい。可変開度を採用すれば、揮発成分の放出量を精緻に制御できる。この際、駆動源として、ステッピングモータ、サーボモータ、超音波モータ等を用いるとよい。
【0023】
《揮発成分の混合》
放出装置は、筒体、第1バルブ、第2バルブおよび駆動手段を有する一群が1セットのみでもよいし、複数セットあってもよい。複数セットの場合、複数種の揮発源(揮発成分が異なる揮発源)を各筒体にそれぞれ収容し、それらを気流の方向に沿って並列に配設する。この場合、各筒体から一種の揮発成分だけを所望量放出させることができるので、揮発成分の混合を的確にまたは高精度に行うことができる。
【0024】
《揮発成分/揮発源》
揮発成分は、その種類を問わない。揮発成分は、人の嗅覚により認識される芳香成分でも、芳香の有無を問わず何らかの作用を及ぼす機能性成分でもよい。機能性成分には、例えば、人に対して緊張の緩和(リラックス効果)、集中力や覚醒の向上(リフレッシュ効果)等を促すものがある。機能性成分は、人に作用を及ぼすものには限らず、例えば、野菜や果物等の鮮度を保持する成分、逆に果物等を追熟させる成分、防腐や防カビ等に効果がある成分などでもよい。
【0025】
揮発成分を保持する揮発源は、揮発成分の放出が可能な構造体であればよく、種々の形態をとり得る。揮発源は、例えば、気体や液体等を容器に充填したものでも、液体を多孔質体等に浸潤させたものでも、固形物等でもよい。揮発源は、設置や交換等が容易なものが好ましい。例えば、揮発源は、揮発成分を内蔵すると共に筒体内に着脱自在なカートリッジからなるとよい。
【0026】
《設置》
本発明の放出装置は、例えば、空調装置等に備わる気流の誘導路(ダクト)内に設置される。この際、ダクト等の内壁との間に生じる隙間を少なくすると、分流体による気流制御が容易となる。なお、放出装置は、それ自身が気流発生装置を備えて、揮発成分を能動的に放出してもよい。
【実施例】
【0027】
本発明の一実施例である揮発成分放出装置S(単に「装置S」という。)の正面図を図1に示した。装置Sは、6つの放出量調整器1〜6と、それらを固定する基板9と、基板9から立設させた抵抗板8と、各放出量調整器の作動を制御する制御装置(図略)とを備える。各放出量調整器1〜6はいずれも同構造であるため、本実施例では主に放出量調整器1を取り上げて説明する。なお、各放出量調整器の延在方向(気流方向)を、適宜、軸方向という。
【0028】
《構成》
放出量調整器1の全体斜視図を図3に、その要部分解斜視図を図4にそれぞれ示した。放出量調整器1は、筒体10と、その上流側開口に設けられたロータリーバルブ11と、その下流側開口に設けられたロータリーバルブ12と、筒体10内を長手方向(軸方向)に貫きロータリーバルブ11、12を連結するシャフト13と、揮発成分を内蔵したカートリッジk1を着脱自在に保持できる保持体14と、筒体10の上流側に配設されシャフト13を回転駆動するモータ15(駆動源)とを備える。
【0029】
筒体10は、貫通した円筒状であり、アクリル等の透明樹脂からなる。ロータリーバルブ11は、円弧状の貫通溝1111を有する基体111と、貫通溝1111の開閉を行う半円板1121を有する回転体112とを備える。ロータリーバルブ12は、円弧状の貫通溝1211を有する基体121と、貫通溝1211の開閉を行う半円板1221を有する回転体122とを備える。
【0030】
保持体14は、軸方向に貫通した貫通穴141と、円筒状のカートリッジk1を着脱できる嵌挿穴143とを備える略円筒体からなる。モータ15は、モータケース151に収容されたステッピングモータからなり、取付用のボルト152と入出力端部153がモータケース151から突出している。
【0031】
基板9は、略方形状のアクリル板からなり、ボルト152の嵌挿穴(図略)と入出力端部153の挿通穴91が設けられている。抵抗板8は、基板9の略中央付近から直立しており、筒体10の嵌挿穴81と、その周囲に配置した多数の貫通穴82を有する。
【0032】
放出量調整器1は、筒体10を嵌挿穴81に嵌入すると共に、入出力端部153を挿通穴91から突き出した状態で、ボルト152により基板9に固定される。放出量調整器2〜6も同様である。こうして図1に示すような装置Sが得られる。
【0033】
《動作》
図1に示すように、装置SをダクトD内に配置すると、上流側から供給される気流(図中の矢印)は、抵抗板8により、放出量調整器1の側方を通過する主流と、各放出量調整器1内に取り込まれる副流に分流される。制御装置(パソコン等のコンピュータ)によりモータ15を駆動制御して、ロータリーバルブ11、12の回転量(角)を調整する。これにより貫通溝1111、1211の開度が変更され、筒体10内を通過する空気流量も変化する。この結果、カートリッジk1から生じた揮発成分が筒体10から流出する量(放出量)が制御される。
【0034】
放出量調整器1〜6に、異なる揮発成分を内蔵したカートリッジk1〜k6をそれぞれ設置する。そして、放出量調整器1〜6の各開度を調整すると、6種類の揮発成分を所望割合で混合して放出することができる。
【0035】
なお、筒体10とロータリーバルブ11、12の間は、それぞれO−リング161、162でシールされており、揮発成分はロータリーバルブ12のみを通じて下流側へ放出される。ちなみに、カートリッジk1の着脱(交換)は、筒体10をロータリーバルブ12側へ引き抜くことにより行える。
【0036】
抵抗板8の外周形状とダクトDの内周形状は略一致していると、装置SをダクトD内に略気密に嵌装でき、抵抗板8による気流制御を効果的に行える。抵抗板8の外周形状とダクトDの内周形状の間には、気密性を高めるシール材をさらに配設してもよい。
【0037】
《補足》
他装置から気流が供給されているダクトD内に装置Sを配設する場合を説明した。この他、装置Sは、別途設けたファンF(図1参照)により気流を自ら生成してもよい。また、複数の揮発成分の混合実験等に用いる場合であれば、装置SをカバーCで覆い、混合気を吐出穴aから放出させるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0038】
1 放出量調整器
10 筒体
11 ロータリーバルブ(第1バルブ)
12 ロータリーバルブ(第2バルブ)
15 モータ(駆動手段)
S 揮発成分放出装置
D ダクト
k1 カートリッジ
図1
図2
図3
図4