(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、永久磁石は、BrとHcJとが高いことが好ましいが、これらの特性を良好に得ることは未だに容易なことではなく、簡便且つ良好にこれらの特性が得られるフェライト磁石が求められている。一方、近年、可変磁カ磁石として、特にBrの高いフェライト磁石が求められている。
【0008】
特許文献1および特許文献2のLa−Coフェライトは、高い磁気特性をもつことが記載されている。しかし、特許文献1および特許文献2のLa−CoフェライトのBrが4.7kGを超えることはない。
【0009】
特許文献3および特許文献4には、Ca−La−Coフェライトがオルソフェライト相または第3相を含有することでHcJが向上することが記載されている。しかし、これらの相を含有しないフェライトに比べて、Brは、同等か劣化することが記載されている。
【0010】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、従来のLa−Coフェライト焼結磁石の磁気特性に比べて、Brが飛躍的に向上したフェライト磁石を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明のフェライト磁石は、
マグネトプランバイト構造を有するフェライト相とオルソフェライト相とを有するフェライト磁石であって、A、R、Fe及びMeそれぞれの金属元素の総計の構成比率を
A
1−xR
x(Fe
12−yMe
y)
zの式(1)で表したとき、
(式(1)中、AはSr、Ba、Ca及びPbから選択される少なくとも1種の元素であり、Rは希土類元素(Yを含む)及びBiから選択される少なくとも1種の元素であってLaを少なくとも含み、Meは、Co、または、CoおよびZnである。)
式(1)中、x、y、およびzは、下記式(2)、(3)、(4)および(5)を満たし、
0.71≦x≦0.84 (2)
0.30≦y≦0.60 (3)
0.80≦z<1.10 (4)
1.60<x/yz<4.00 (5)
前記オルソフェライト相の含有量(m)がモル%で、
0<m<28.0
であることを特徴とする。
【0012】
本発明のフェライト磁石において、オルソフェライト相の含有量(m)がモル%で、0<m<28.0であることにより、高いBrを得ることができる。したがって、本発明のフェライト磁石は、永久磁石として十分なBr及びHcJを有している。
【0013】
通常、M型フェライト磁石中にマグネトプランバイト構造を有するフェライト相(以降、M型フェライト相、あるいは、M相ともいう)以外の相が含まれる場合、その割合が多いほど磁気特性に望ましくない影響を与える傾向にある。特にオルソフェライト相が含有される場合は、Brが低下することが知られている。
【0014】
しかし、本発明においては、La−Coフェライト磁石が、Brを低下させる要因となるオルソフェライト相を含有することによって、逆にBrを向上させることができるという驚くべき効果を得ることができる。この理由の詳細は不明であるが、本発明の組成範囲において、オルソフェライト相とM型フェライト相との間に何らかの磁気的相互作用が働いていることも考えられる。
【0015】
上記の効果をより良好に得る観点からは、フェライト磁石は、オルソフェライト相の含有量(m)がモル%で、0<m≦25.1であることが好ましく、より好ましくは0<m≦16.3である。
【0016】
また、本発明のフェライト磁石は、Siを含み、Siの含有量がSiO
2換算で0.002質量%を超え0.15質量%未満であることが好ましい。
【0017】
従来のフェライト焼結磁石は、Siを粒界成分とする焼結助剤を含有することにより、高いBrと高いHcJとを得ている。ただし、これらの効果を得るために、Siを比較的に多く含有させており、具体的には、SiO
2換算でのSiの含有量を0.3〜1.3質量%程度に設定している。
【0018】
しかし、本発明においては、上記のように、Siの含有量を当業者の常識外の微量に制御することによって、特にBrが飛躍的に向上するという驚くべき効果を得ることができる。
【0019】
上記の効果をより良好に得る観点からは、より好ましいSiの含有量はSiO
2換算で、0.03〜0.11質量%である。さらに好ましいSiの含有量はSiO
2換算で、0.03〜0.09質量%である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、従来のLa−Coフェライト焼結磁石の磁気特性に比べて、Brが飛躍的に向上したフェライト磁石を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本実施形態のフェライト磁石は、マグネトプランバイト構造を有するフェライト相とオルソフェライト相とを有するフェライト磁石であって、A、R、Fe及びMeそれぞれの金属元素の総計の構成比率を、下記の組成式(1)で表したとき、
A
1−xR
x(Fe
12−yMe
y)
z (1)
(組成式(1)中、AはSr、Ba、Ca及びPbから選択される少なくとも1種の元素であり、Rは希土類元素(Yを含む)及びBiから選択される少なくとも1種の元素であってLaを少なくとも含み、Meは、Co、または、CoおよびZnである。)
組成式(1)中、x、y、およびzは、下記式(2)、(3)、(4)および(5)を満たし、
0.71≦x≦0.84 (2)
0.30≦y≦0.60 (3)
0.80≦z<1.10 (4)
1.60<x/yz<4.00 (5)
前記オルソフェライト相の含有量(m)がモル%で、
0<m<28.0
である。
【0023】
なお、本実施形態では、フェライト磁石全体の組成を上記の組成式(1)に換算して表す。したがって、本実施形態のフェライト磁石が、マグネトプランバイト構造を有するフェライト相以外の相(例えば、オルソフェライト、ヘマタイト、スピネル等)を含んでいる場合には、これらの相に含まれる各元素量を組成式(1)に換算する。
【0024】
換言すれば、フェライト磁石全体に含まれる各元素量を組成式(1)に適用して、x、yおよびzを算出する。
【0025】
以下、上述したフェライト磁石についてより詳細に説明する。
【0026】
A:
Aは、Sr、Ba、Ca及びPbから選択される少なくとも1種の元素である。Aとして、少なくともSrを用いることが保磁カ(HcJ)向上の観点から最も好ましい。
【0027】
R(x):
上記組成式(1)におけるxは、RがAを置換している割合を示している。上記組成式(1)においてxが0.71未満になると、すなわちRの量が少なすぎると、フェライト磁石におけるRの固溶量が不十分となり、Br及びHcJが低下する。しかし、xが0.84を超えると、BrおよびHcJが低下する。そこで本発明はxの範囲を0.71≦x≦0.84とする。好ましいxの値は0.74≦x≦0.84、より好ましいxの値は0.76≦x≦0.84、さらに好ましいxの値は0.76≦x0.81である。
【0028】
Rは、Yを含む希土類元素及びBiから選択される少なくとも1種の元素であるが、Rとして、Laを用いるのが残留磁束密度(Br)向上の観点から好ましい。そのため、本発明ではLaを必須とする。
【0029】
Me(y):
上記組成式(1)におけるyは、MeがFeを置換している割合、すなわち、Co量またはCo+Zn量を示している。yもxと同様、本発明においては高い残留磁束密度(Br)を得る観点から設定される。yが0.30未満ではフェライト磁石におけるMeの固溶量が不十分となり、Br及びHcJが低下する。一方、yが0.60を超えると六方晶M型フェライト中に置換固溶できない過剰な元素Meが存在する。そこで本発明はyの範囲を0.30≦y≦0.60とする。好ましいyの値は0.30≦y≦0.55、より好ましいyの値は0.30≦y≦0.51、さらに好ましいyの値は0.34≦y≦0.51である。
【0030】
z:
上記組成式(1)におけるzは、A及びRの合計に対するFe及びMeの合計の比を示している。zが小さすぎると、A及びRを含む非磁性相が増えるため、飽和磁化が低くなってくる。一方、zが大きすぎると、α−Fe
2O
3相又は、Meを含むスピネルフェライト相が増えるため、飽和磁化が低くなってくる。そこで本発明はzの範囲を0.80≦z<1.10とする。好ましいzの値は0.80≦z≦1.04、より好ましいzの値は0.84≦z≦1.04、さらに好ましいzの値は0.84≦z≦1.00である。
【0031】
x/yz:
上記組成式(1)におけるx/yzは、Rの置換量とMeの置換量との比率を示している。本実施形態では、x/yzは1.60<x/yz<4.00とする。x、yおよびzがこの関係を満たすことで、良好なBrとHcJが得られる。この比率が高すぎる場合と低すぎる場合とでは、Br及びHcJがむしろ低下してしまう傾向にある。好ましいx/yzの値は1.62≦x/yz≦2.97、より好ましいx/yzの値は1.75≦x/yz≦2.97、さらに好ましいx/yzの値は1.75≦x/yz≦2.62である。
【0032】
オルソフェライト相(m):
本実施形態のフェライト磁石は、M相(マグネトプランバイト構造を有するフェライト相)を主相として含み、M相以外の相として、オルソフェライト相を少なくとも含む。本実施形態では、オルソフェライト相の含有量(m)がモル%で、0<m<28.0である。オルソフェライト相の含有量がこのような条件を満たすことで、高いBrを有するフェライト磁石が得られる。
【0033】
ただし、オルソフェライト相が0モル%であると十分な効果が得られず、Br及びHcJが低下する。また、オルソフェライト相の含有量が多すぎると、Br及びHcJの低下が見られる場合があるので、オルソフェライト相の含有量の上限は、所望とするBr及びHcJに応じて決定することが望ましい。好適なBrおよびHcJを得る観点からは、好ましいオルソフェライト相の含有量(m)は、0.03モル%以上であることが好ましく、0.1モル%以上であることがより好ましく、4.0モル%以上であることがより好ましい。一方、好適なBrおよびHcJを得る観点からは、オルソフェライト相の含有量(m)は、25.1モル%以下であることが好ましく、16.3モル%以下であることがさらに好ましく、11.0モル%以下であることが特に好ましい。
【0034】
オルソフェライト(orthoferrite)とは、化学式がRFeO
3(Rは希土類元素またはイットリウム)で表される鉄酸化物である。オルソフェライトは、ペロブスカイト型構造を有している。また、オルソフェライトは、室温で弱い磁性を持つ。
【0035】
また、オルソフェライトにおけるRとFeとOとの比率は1:1:3が代表的である。しかし、組成や雰囲気によりこれらの比率は変動する。さらに、Fe以外の元素が置換されていることもある。これらのような場合でも、本実施形態のフェライト磁石中のオルソフェライト相として包含する。
【0036】
オルソフェライトについては、例えば、特許文献2の0026段落には、従来磁石には不必要な相であると考えられていたオルソフェライト相を磁石中に存在させることにより、磁石の保磁力(HcJ)を向上させることが記載されている。
【0037】
しかしながら、強い磁性成分の中に、弱い磁性成分または非磁性成分を導人し、そのことにより、Brを低くしてHcJを高くすることは、当業者の技術常識である。本発明によれば、強い磁性成分の中に弱い磁性成分を導入して強い磁性成分を減らしているにもかかわらず、そのことにより、強磁性に由来するBrが著しく向上する。このことは、従来の常識を覆す画期的な知見である。
【0038】
特許文献1では、オルソフェライト相の存在が、一切示唆されていない。むしろ、仮焼温度を1350〜1450℃とすることでM相比率を高めて、オルソフェライト相の存在を排除している。しかし、本実施形態では、本組成範囲において、仮焼温度、仮焼温度に保持する時間、仮焼工程での昇降温速度等を制御することにより、フェライト磁石中にオルソフェライト相を形成できる。
【0039】
本発明のフェライト磁石は、M相およびオルソフェライト相から構成されていてもよいし、M相およびオルソフェライト相以外の相をさらに含んでいてもよい。M相およびオルソフェライト相以外の相としては、例えば、ヘマタイト相、スピネル相等が例示される。
【0040】
本実施形態では、フェライト磁石において、M相およびオルソフェライト相の合計は、98.7モル%以上であることが好ましく、99.2モル%以上であることがより好ましい。また、フェライト磁石において、M相は、74.9モル%以上であることが好ましく、83.7モル%以上であることがより好ましい。
【0041】
本実施形態におけるフェライト磁石におけるM相、オルソフェライト相、ヘマタイト相およびスピネル相の存在は、以下の条件によるX線回折や電子線回折などにより確認することが出来る。これらの相がフェライト磁石の組織中に占めるモル比は、M型フェライト、オルソフェライト、ヘマタイト、スピネルそれぞれの粉末試料を所定比率で混合し、その混合物について得られたX線回折強度と、実際に製造されたフェライト磁石について得られたX線回折強度とを比較算定することにより算出した。
【0042】
X線発生装置
連続定格:3kW
管電圧:45kV
管電流:40mA
サンプリング幅:0.02deg
走査速度:4.00deg/min
発散スリット:1.00deg
散乱スリット:1.00deg
受光スリット:0.30mm
【0043】
本実施形態の組成式(1)は、A、R、Fe及びMeそれぞれの金属元素の総計の構成比率を示したものであるが、酸素Oも含めた場合には、A
1−xR
x(Fe
12−yMe
y)
zO
19で表すことができる。ここで、酸素Oの原子数は19となっているが、これは、Meがすべて2価、FeおよびRがすべて3価であって、かつx=y、z=1のときの、酸素の化学量論組成比を示したものである。
【0044】
しかし、x、y、zは、上述した範囲内で変化し、種々の値を取り得るので、x、y、zの値によって、酸素の原子数は異なってくる。また、例えば焼成雰囲気が還元性雰囲気の場合は、酸素の欠損(べイカンシー)ができる可能性がある。さらに、FeはM型フェライト中においては通常3価で存在するが、これが2価などに変化する可能性がある。また、Coおよび/またはMeも価数が変化する可能性があり、Rにおいても3価以外の価数をとる可能性があり、さらにオルソフェライト相を含むため、これらにより金属元素に対する酸素の比率は変化する。以上から、実際の酸素の原子数は、19から偏倚した値を示すことがあり、そのような場合をも本願発明は包含する。
【0045】
本実施形態のフェライト磁石は、さらにSiを含むことが好ましい。具体的には、Siの含有量が、SiO
2換算で、0.002質量%を超えて0.15質量%未満であることが好ましい。Siの含有量がこのような条件を満たすことで、高いBrとHcJとを有するフェライト磁石が得られる。ただし、SiO
2換算で0.002質量%以下であると十分な効果が得られず、焼結不足のために、Br及びHcJが低下する。また、Siの含有量が多すぎると、Br及びHcJの低下が見られる場合があるので、Siの含有量は、所望とするBr及びHcJに応じて決定することが望ましい。
【0046】
好適なBrとHcJを得る観点からは、より好ましいSiの含有量はSiO
2換算で、0.03〜0.11質量%である。さらに好ましいSiの含有量はSiO
2換算で、0.03〜0.09質量%である。
【0047】
本実施形態によるフェライト磁石は、Si以外にCaを副成分として含有することができる。Si及びCaは、六方晶M型フェライトの焼結性の改善、磁気特性の制御及び焼結体の結晶粒径の調整等を目的として添加される。
【0048】
本実施形態によるフェライト磁石は、副成分として、SiおよびCa以外の成分を含んでいてもよい。その他の副成分としては、例えば、Alおよび/又はCrを有していてもよい。これらの元素を含有することにより、永久磁石のHcJが向上する傾向にある。良好なHcJの向上効果を得る観点からは、Alおよび/又はCrの含有量は、フェライト磁石全体に対し、Al
2O
3およびCr
2O
3換算で、合計で0.1質量%以上であることが好ましい。ただし、これらの成分は永久磁石のBrを低下させる場合があるため、良好なBrを得る観点からは、合計で3質量%以下とすることが望ましい。
【0049】
また、副成分としては、Bを例えばB
2O
3として含んでいてもよい。Bを含むことで、フェライト磁石からなる焼結体を得る際の仮焼温度や焼成温度を低くすることができ、永久磁石が生産性良く得られるようになる。ただし、Bが多すぎると永久磁石の飽和磁化が低下する場合があるため、フェライト磁石全体に対し、Bの含有量は、B
2O
3換算で0.5質量%以下であることが好ましい。
【0050】
さらに、本実施形態のフェライト磁石は、副成分として、Ga、Mg、Cu、Mn、Ni、In、Li、Ti、Zr、Ge、Sn、V、Nb、Ta、Sb、As、W、Mo等を、酸化物の形態で含んでいてもよい。これらの含有量は、各原子の化学量論組成の酸化物に換算して、酸化ガリウム5質量%以下、酸化マグネシウム5質量%以下、酸化銅5質量%以下、酸化マンガン5質量%以下、酸化ニッケル5質量%以下、酸化インジウム3質量%以下、酸化リチウム1質量%以下、酸化チタン3質量%以下、酸化ジルコニウム3質量%以下、酸化ゲルマニウム3質量%以下、酸化スズ3質量%以下、酸化バナジウム3質量%以下、酸化ニオブ3質量%以下、酸化タンタル3質量%以下、酸化アンチモン3質量%以下、酸化砒素3質量%以下、酸化タングステン3質量%以下、酸化モリブデン3質量%以下であることが好ましい。ただし、これらを複数種類組み合わせて含む場合は、磁気特性の低下を避けるため、その合計が5質量%以下となるようにすることが望ましい。
【0051】
なお、本実施形態のフェライト磁石は、副成分として、アルカリ金属元素(Na、K、Rb等)は含まないことが好ましい。アルカリ金属元素は、永久磁石の飽和磁化を低下させやすい傾向にある。ただし、アルカリ金属元素は、例えばフェライト磁石を得るための原料中に含まれている場合もあり、そのように不可避的に含まれる程度であれば、フェライト磁石中に含まれていてもよい。磁気特性に大きく影響しないアルカリ金属元素の含有量は、合計で3質量%以下である。
【0052】
本実施形態のフェライト磁石の組成は、蛍光X線定量分析などにより測定することができる。
【0053】
本実施形態のフェライト磁石は、上述した組成を有していれば、その形態は特に制限されず、例えば、フェライト焼結磁石、フェライト磁石粉末、フェライト磁石粉末が樹脂中に分散されているボンド磁石及び磁気記録媒体に含まれる膜状の磁性層などが例示される。
【0054】
例えば、フェライト焼結磁石、及びボンド磁石は所定の形状に加工され、以下に示すような幅広い用途に使用される。
【0055】
例えば、フューエルポンプ用、パワーウインド用、ABS(アンチロック・ブレーキ・システム)用、ファン用、ワイパ用、パワーステアリング用、アクティブサスペンション用、スタータ用、ドアロック用、電動ミラー用等の自動車用モータとして使用することができる。
【0056】
また、FDDスピンドル用、VTRキャプスタン用、VTR回転ヘッド用、VTRリール用、VTRローディング用、VTRカメラキャプスタン用、VTRカメラ回転ヘッド用、VTRカメラズーム用、VTRカメラフォーカス用、ラジカセ等キャプスタン用、CD/LD/MDスピンドル用、CD/LD/MDローディング用、CD/LD光ピックアップ用等のOA/AV機器用モータとして使用することができる。
【0057】
さらに、エアコンコンプレッサー用、冷凍庫コンプレッサー用、電動工具駆動用、ドライヤーファン用、シェーバー駆動用、電動歯ブラシ用等の家電機器用モータとしても使用することができる。さらにまた、ロボット軸、関節駆動用、ロボット主駆動用、工作機器テーブル駆動用、工作機器ベルト駆動用等のFA機器用モータとしても使用することが可能である。
【0058】
その他の用途としては、オートバイ用発電器、スピーカ・ヘッドホン用マグネット、マグネトロン管、MRI用磁場発生装置、CDーROM用クランパ、ディストリビュータ用センサ、ABS用センサ、燃料・オイルレベルセンサ、マグネトラッチ、アイソレータ等に、好適に使用される。
【0059】
また、本実施形態のフェライト磁石が粉末の形態をなす場合、その平均粒径を0.1〜5.0μmとすることが望ましい。ボンド磁石用粉末のより望ましい平均粒径は0.1〜2.0μm、さらに望ましい平均粒径は0.1〜1.0μmである。ボンド磁石を製造する際には、フェライト磁石粉末を樹脂、金属、ゴム等の各種バインダーと混練し、磁場中又は無磁場中で成形する。バインダーとしては、NBR(アクリロニトリルブタジエンゴム)、塩素化ポリエチレン、ポリアミド樹脂などが好ましい。成形後、硬化を行ってボンド磁石とする。
【0060】
(フェライト焼結磁石の製造方法)
次に、上述したようなフェライト磁石のうち、フェライト焼結磁石について、その製造方法の一例を示す。本実施形態のフェライト焼結磁石の製造方法では、フェライト焼結磁石は、配合工程、仮焼工程、粉砕工程、成形工程及び焼成工程を経て製造することができる。各工程については以下に説明する。
【0061】
<配合工程>
配合工程では、フェライト磁石の原料を配合して、原料組成物を得る。まず、フェライト磁石の原料としては、フェライト磁石を構成する元素のうちの1種又は2種以上を含む化合物(原料化合物)が挙げられる。原料化合物は、例えば粉末状のものが好適である。原料化合物としては、各元素の酸化物、又は焼成により酸化物となる化合物(炭酸塩、水酸化物、硝酸塩等)が挙げられ、例えばSrCO
3、La(OH)
3、Pr
6O
11、Nd
2O
3、ZnO、Fe
2O
3、BaCO
3、CaCO
3及びCo
3O
4等が例示できる。原料化合物の粉末の平均粒径は、例えば、均質な配合を可能とする観点から、0.1〜2.0μm程度とすることが好ましい。
【0062】
また、原料粉末には、必要に応じてその他の副成分の原料化合物(元素単体、酸化物等)を配合してもよい。配合は、例えば、各原料を、所望とするフェライト磁石の組成が得られるように秤量し、湿式アトライタ、ボールミル等を用い、0.1〜20時間程度、混合、粉砕処理することにより行うことができる。なお、この配合工程においては、全ての原料を混合する必要はなく、一部は後述する仮焼後に添加するようにしてもよい。
【0063】
<仮焼工程>
仮焼工程では、配合工程で得られた原料粉末を仮焼する。仮焼は、例えば、空気中等の酸化性雰囲気中で行うことができる。仮焼の温度は、1000〜1340℃の温度範囲とすることが好ましく、1100〜1340℃がより好ましく、1250〜1340℃がさらに好ましい。好ましい温度範囲とすることで、オルソフェライト相をフェライト磁石中に含ませることができる。仮焼の時間は1秒間〜10時間とすることができ、1秒間〜3時間であると好ましい。仮焼により得られる仮焼体は、主相(M相)およびオルソフェライト相を合計で98.7モル%以上含む。主相の一次粒子径は、好ましくは10μm以下であり、より好ましくは2μm以下である。
【0064】
仮焼において、昇温速度は5℃/分以上が好ましく、15℃/分以上であるとより好ましい。また、降温速度は7〜1000℃/分が好ましく、50〜1000℃/分であるとより好ましい。
【0065】
<粉砕工程>
粉砕工程では、仮焼工程により顆粒状や塊状とされた仮焼体を粉砕し、再び粉末状にする。これにより、後述する成形工程での成形が容易となる。この粉砕工程では、配合工程で配合しなかった原料を添加してもよい(原料の後添加)。粉砕工程は、例えば、仮焼体を粗い粉末となるように粉砕(粗粉砕)した後、これを更に微細に粉砕する(微粉砕)、2段階の工程から構成されていてもよい。
【0066】
粗粉砕は、例えば、振動ミル等を用いて、平均粒径が0.5〜5.0μmとなるまで行うことができる。微粉砕では、粗粉砕で得られた粗粉砕材を、さらに湿式アトライタ、ボールミル、ジェットミル等によって粉砕する。微粉砕では、得られた微粉砕材の平均粒径が、好ましくは0.08〜2.0μm、より好ましくは0.1〜1.0μm、さらに好ましくは0.2〜0.8μm程度となるように粉砕を行う。微粉砕材の比表面積(例えばBET法により求められる。)は、7〜14m
2/g程度とすることが好ましい。好適な粉砕時間は、粉砕方法によって異なり、例えば湿式アトライタの場合、30分間〜10時間が好ましく、ボールミルによる湿式粉砕では10〜50時間程度が好ましい。
【0067】
粉砕工程で原料の一部を添加する場合、例えば、添加は微粉砕工程において行うことができる。本実施形態では、オルソフェライト成分であるLa(OH)
3かFe
2O
3かCo
3O
4などを、微粉砕の際に添加することができるが、これらを配合工程や粗粉砕工程において添加してもよい。また、オルソフェライトを配合工程や粗粉砕工程や微粉砕工程において添加してもよい。
【0068】
また、微粉砕工程では、焼成後に得られる焼結体の磁気的配向度を高めるため、例えば一般式C
n(OH)
nH
n+2で示される多価アルコールを添加することが好ましい。ここで、多価アルコールとしては、一般式において、nが4〜100であるものが好ましく、4〜30であるものがより好ましく、4〜20であるものがさらに好ましく、4〜12であるものが一層好ましい。多価アルコールとしては、例えばソルビトールが挙げられる。また、2種類以上の多価アルコールを併用してもよい。さらに、多価アルコールに加えて、他の公知の分散剤を併用してもよい。
【0069】
多価アルコールを添加する場合、その添加量は、添加対象物(例えば粗粉砕材)に対して、0.05〜5.0質量%であることが好ましく、0.1〜3.0質量%であることがより好ましく、0.2〜2.0質量%であることが更に好ましい。なお、微粉砕工程で添加した多価アルコールは、後述する焼成工程で熱分解して除去される。
【0070】
<成形工程>
成形工程では、粉砕工程後に得られた粉砕材(好ましくは微粉砕材)を、磁場中で成形して、成形体を得る。成形は、乾式成形及び湿式成形のいずれの方法でも行うことができる。磁気的配向度を高くする観点からは、湿式成形で行うことが好ましい。湿式成形により成形する場合は、例えば上述した微粉砕工程を湿式で行うことでスラリーを得た後、このスラリーを所定の濃度に濃縮して、湿式成形用スラリーを得ることが好ましい。スラリーの濃縮は、遠心分離やフィルタープレス等によって行うことができる。湿式成形用スラリーは、その全量中、微粉砕材が30〜80質量%程度を占めるものであると好ましい。スラリーにおいて、微粉砕材を分散する分散媒としては水が好ましい。この場合、スラリーには、グルコン酸、グルコン酸塩、ソルビトール等の界面活性剤を添加してもよい。また、分散媒としては非水系溶媒を使用してもよい。非水系溶媒としては、トルエンやキシレン等の有機溶媒を使用することができる。この場合には、オレイン酸等の界面活性剤を添加することが好ましい。なお、湿式成形用スラリーは、微粉砕後の乾燥状態の微粉砕材に、分散媒等を添加することによって調製してもよい。
【0071】
湿式成形では、次いで、この湿式成形用スラリーに対し、磁場中成形を行う。その場合、成形圧力は、9.8〜49MPa(0.1〜0.5ton/cm
2)程度であると好ましく、印加する磁場は398〜1194kA/m(5〜15kOe)程度とすることが好ましい。
【0072】
<焼成工程>
焼成工程では、成形工程で得られた成形体を焼成して焼結体とする。これにより、上述したような、フェライト磁石の焼結体からなる永久磁石(フェライト焼結磁石)が得られる。焼成は、大気中等の酸化性雰囲気中で行うことができる。焼成温度は、1050〜1340℃であると好ましく、1250〜1340℃であるとより好ましい。また、焼成時間(焼成温度に保持する時間)は、0.5〜3時間程度であると好ましい。
【0073】
なお、上述したような湿式成形で成形体を得た場合、この成形体を充分に乾燥させないまま焼成を行うと、分散媒等を含んだ成形体が急激に加熱され、分散媒等の揮発が激しく生じて成形体にクラックが発生する可能性がある。そこで、このような不都合を避ける観点から、上記の焼成温度まで到達させる前に、例えば室温から100℃程度まで、0.5℃/分程度のゆっくりとした昇温速度で加熱して成形体を充分に乾燥させることで、クラックの発生を抑制することが好ましい。さらに、界面活性剤(分散剤)等を添加した場合は、例えば、100〜500℃程度の温度範囲において、2.5℃/分程度の昇温速度で加熱を行うことで、これらを充分に除去する(脱脂処理)ことが好ましい。なお、これらの処理は、焼成工程のはじめに行ってもよく、焼成工程よりも前に別途行っておいてもよい。
【0074】
また、500℃程度から焼成温度までの昇温速度、および/または降温速度は、6〜200℃/分であると好ましく、25〜200℃/分であるとより好ましい。
【0075】
以上、フェライト焼結磁石の好適な製造方法について説明したが、少なくとも本実施形態によるフェライト磁石を用いる限り、製造方法は上記には限定されず、条件等は適宜変更することができる。
【0076】
また、磁石として、フェライト焼結磁石ではなく、ボンド磁石を製造する場合は、例えば、上述した粉砕工程までを行った後、得られた粉砕物とバインダーとを混合し、これを磁場中で成形することで、本実施形態のフェライト磁石の粉末を含むボンド磁石を得ることができる。
【実施例】
【0077】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0078】
[実験例1](フェライト焼結磁石の製造)
まず、フェライト磁石の主組成の原料として、酸化鉄(Fe
2O
3)、炭酸ストロンチウム(SrCO
3)、酸化コバルト(Co
3O
4)および水酸化ランタン(La(OH)
3)を準備し、これらの原料を、仮焼後の組成が以下の組成式となるように秤量した。
組成式:
A
1−xR
x(Fe
12−yMe
y)
z
式中、A=Sr、R=La、Me=Coである。また、x=0.80、y=0.35、z=1.10である。
【0079】
次いで、秤量後の原料を、湿式アトライタで1時間混合、粉砕して、スラリーを得た(配合工程)。このスラリーを乾燥した後、大気中、昇温速度と降温速度を15℃/分とし、1310℃で2時間保持する仮焼を行った(仮焼工程)。
【0080】
得られた仮焼粉を、小型ロッド振動ミルで10分間粗粉砕した。この粗粉砕材に、焼成後の焼結体が以下の組成式で、表1の組成となるように、酸化鉄、炭酸ストロンチウム、酸化コバルトおよび及び水酸化ランタンをそれぞれ添加した。さらに、焼成後の焼結体に対して、0.04質量%となるようにSiO
2を添加した。この混合物を、湿式ボールミルを用いて40時間微粉砕して、スラリーを得た(以上、粉砕工程)。
組成式:
A
1−xR
x(Fe
12−yMe
y)
z
式中、A=Sr、R=La、Me=Coである。
【0081】
微粉砕後に得られたスラリーを、固形分濃度が73〜75%となるように調整して湿式成形用スラリーとした。この湿式成形用スラリーを、湿式磁場成型機を使用して、796kA/m(10kOe)の印加磁場中で成形し、直径30mm×厚み15mmの円柱状を有する成形体を得た(成形工程)。
【0082】
得られた成形体は、大気中、室温にて充分に乾燥し、室温〜500℃までを昇温速度5℃/分、500〜1310℃までを55℃/分とし、1310℃で1時間保持した。保持後、降温速度を100℃/分で室温まで冷却する焼成工程を行い、これによりフェライト焼結磁石を得た(焼成工程)。
【0083】
また、実験例1で得られた各フェライト焼結磁石の円柱の上下面を加工した後、最大印加磁場955kA/m(12kOe)のB−Hトレーサを用い、これらのBr及びHcJを求めた。さらに、実験例1で得られた各フェライト焼結磁石中のM相(マグネトプランバイト構造を有するフェライト相)、オルソフェライト相およびヘマタイト相の比率(モル%)を前述したX線回折より求めた。得られた結果をまとめて表1に示す。
【0084】
【表1】
【0085】
表1より、オルソフェライト相の含有量(m)が0モル%を超え、28.0モル%未満であると、Brが4.7(kG)以上およびHcJが2.0(kOe)以上をもつ焼結体が得られ、高いBrと良好なHcJとが得られることが判明した。また、zが0.80以上1.10未満であると、Brが4.7(kG)以上およびHcJが2.0(kOe)以上をもつ焼結体が得られ、高いBrと良好なHcJとが得られることが判明した。
【0086】
[実験例2](フェライト焼結磁石の製造)
実験例2では、焼成後の焼結体の組成が表2の組成式となるようにしたことと、焼成後の焼結体に対してSiの含有量がSiO
2換算で0.05質量%となるように、粗粉砕材に対してSiO
2を添加したことと、焼成温度を1290℃にしたこと以外は、実験例1と同様にしてフェライト焼結磁石の製造を行った。
【0087】
この実験例2は、特にLa(x=0.51〜0.91)の原子比率を大きく変化するようにして、サンプル2−1〜2−8の各種フェライト焼結磁石を製造したものである。実験例2で得られた各フェライト焼結磁石を用い、実験例1と同様にしてこれらのBr(G)、HcJ(Oe)、M相、オルソフェライト相およびヘマタイト相の比率を求めた。得られた結果を表2に示す。
【0088】
【表2】
【0089】
表2より、Laの比率(x)が、0.71以上0.84以下であると、Brが4.7(kG)以上およびHcJが2.0(kOe)以上をもつ焼結体が得られ、高いBrと良好なHcJとが得られることが判明した。
【0090】
[実験例3](フェライト焼結磁石の製造)
実験例3では、焼成後の焼結体の組成が表3の組成式となるようにしたことと、焼成後の焼結体に対してSiの含有量がSiO
2換算で0.05質量%となるように、粗粉砕材に対してSiO
2を添加したこと以外は、実験例1と同様にしてフェライト焼結磁石の製造を行った。
【0091】
この実験例3は、特にCo(y=0.20〜0.61)の原子比率を大きく変化するようにして、サンプル3−1〜3−7の各種フェライト焼結磁石を製造したものである。実験例3で得られた各フェライト焼結磁石を用い、実験例1と同様にしてこれらのBr(G)、HcJ(Oe)、M相、オルソフェライト相、ヘマタイト相およびスピネル相の比率を求めた。得られた結果を表3に示す。
【0092】
【表3】
【0093】
表3より、Coの比率(y)が、0.30以上0.61未満であると、Brが4.7(kG)以上およびHcJが2.0(kOe)以上をもつ焼結体が得られ、高いBrと良好なHcJとが得られることが判明した。また、x/yzが1.60を超え、4.00未満であると、Brが4.7(kG)以上およびHcJが2.0(kOe)以上をもつ焼結体が得られ、高いBrと良好なHcJとが得られることが判明した。
【0094】
[実験例4](フェライト焼結磁石の製造)
実験例4では、フェライト磁石の主組成の原料として、酸化鉄(Fe
2O
3)、炭酸ストロンチウム(SrCO
3)、酸化コバルト(Co
3O
4)および水酸化ランタン(La(OH)
3)を準備し、これらの原料を、仮焼後の組成が以下の組成式となるように秤量した。
組成式:
A
1−xR
x(Fe
12−yMe
y)
z
式中、A=Sr、R=La、Me=Coである。また、x=0.80、y=0.35、z=0.94である。
【0095】
次いで、秤量後の原料を、湿式アトライタで1時間混合、粉砕して、スラリーを得た(配合工程)。このスラリーを乾燥した後、大気中、昇温速度と降温速度とを15℃/分とし、1310℃で2時間保持する仮焼を行った(仮焼工程)。
【0096】
得られた仮焼粉を、小型ロッド振動ミルで10分間粗粉砕した。この粗粉砕材に、焼成後の焼結体に対してSiO
2換算でSiの含有量が表1の値となるように、SiO
2を添加した。この混合物を、湿式ボールミルを用いて40時間微粉砕して、スラリーを得た(以上、粉砕工程)。
【0097】
微粉砕後に得られたスラリーを、固形分濃度が73〜75%となるように調整して湿式成形用スラリーとした。この湿式成形用スラリーを、湿式磁場成型機を使用して、796kA/m(10kOe)の印加磁場中で成形し、直径30mm×厚み15mmの円柱状を有する成形体を得た(成形工程)。
【0098】
得られた成形体は、大気中、室温にて充分に乾燥し、室温〜500℃までを昇温速度5℃/分、500〜1300℃までを55℃/分とし、1300℃で1時間保持した。保持後、降温速度100℃/分で室温まで冷却する焼成工程を行い、これによりフェライト焼結磁石を得た(焼成工程)。
【0099】
実験例4で得られた各フェライト焼結磁石を用い、実験例3と同様にしてこれらのBr(G)、HcJ(Oe)、M相、オルソフェライト相、ヘマタイト相およびスピネル相の比率を求めた。得られた結果を表4に示す。
【0100】
【表4】
【0101】
表4より、SiO
2の含有量が0.002質量%を超え、0.15質量%未満であると、Brが4.7(kG)以上およびHcJが2.0(kOe)以上をもつ焼結体が得られ、高いBrと良好なHcJとが得られることが判明した。