(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、脂肪酸アミド、脂肪酸エステル及び脂肪酸金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1種をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に記載された実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形例も含むものとして理解されるべきである。なお、本明細書における「(メタ)アクリル〜」とは、「アクリル〜」および「メタクリル〜」の双方を包括する概念である。また、「〜(メタ)アクリレート」とは、「〜アクリレート」および「〜メタクリレート」の双方を包括する概念である。
【0019】
1.組成物
本実施形態に係る組成物は、ヨウ素価が2〜150である熱可塑性樹脂(A)(以下、単に「成分(A)」ともいう。)と、水とを含有する組成物であって、前記組成物100質量部に対して前記水を100〜2000ppm含有し、前記熱可塑性樹脂(A)が共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位を有し、前記熱可塑性樹脂(A)の、結晶融解ピーク温度が50℃〜95℃であり、かつ、結晶融解熱量が10J/g〜40J/gであることを特徴とする。
以下、本実施形態に係る組成物に含有される各成分について詳細に説明する。
【0020】
1.1.熱可塑性樹脂(A)
本実施形態に係る組成物に含まれる熱可塑性樹脂(A)は、ヨウ素価が2〜150であり、共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位を含有し、結晶融解ピーク温度が50℃〜95℃であり、かつ、結晶融解熱量が10J/g〜40J/gである熱可塑性樹脂であり、成形体を作製するために用いられる。
【0021】
成分(A)は、共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位を有するが、必要に応じて芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位をさらに有することができる。以下、成分(A)を構成する繰り返し単位、成分(A)の構造及び特性について順に説明する。
【0022】
1.1.1.共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位
成分(A)は、共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位を有する。共役ジエン化合物としては、例えば1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−クロル−1,3−ブタジエンなどを挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上であることができる。共役ジエン化合物としては、1,3−ブタジエンが特に好ましい。
【0023】
成分(A)において、共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位の含有割合は、成分(A)の全繰り返し単位を100質量部とした場合に30〜100質量部であることが好ましく、35〜100質量部であることがより好ましい。共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位の含有割合が前記範囲にあると、粘弾性及び強度に優れた成形体を製造することが容易となる。
【0024】
1.1.2.芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位
成分(A)は、芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位をさらに有してもよい。芳香族ビニル化合物としては、例えばスチレン、tert−ブチルスチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−エチルスチレン、ジビニルベンゼン、1,1−ジフェニルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、N,N−ジエチル−p−アミノエチルスチレン、ビニルピリジン等を挙げることができる。これらの中でも、スチレンが特に好ましい。
【0025】
成分(A)において、芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位の含有割合は、成分(A)の全繰り返し単位を100質量部とした場合に0〜70質量部であることが好ましく、0〜60質量部であることがより好ましい。
【0026】
1.1.3.その他の繰り返し単位
成分(A)は、上記以外の繰り返し単位を有してもよい。上記以外の繰り返し単位としては、例えば、不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位、不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位、α,β−不飽和ニトリル化合物に由来する繰り返し単位等が挙げられる。
【0027】
上記不飽和カルボン酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸エステルであることが好ましい。このような(メタ)アクリル酸エステルの具体例としては、例えば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸i−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸i−ブチル、(メタ)アクリル酸n−アミル、(メタ)アクリル酸i−アミル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシメチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸プロピレングリコール、トリ(メタ)アクリル酸トリメチロールプロパン、テトラ(メタ)アクリル酸ペンタエリスリトール、ヘキサ(メタ)アクリル酸ジペンタエリスリトール、(メタ)アクリル酸アリルなどを挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上であることができる。これらのうち、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル及び(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシルから選択される1種以上であることが好ましく、(メタ)アクリル酸メチルであることが特に好ましい。
【0028】
上記不飽和カルボン酸の具体例としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等のモノまたはジカルボン酸を挙げることができ、これらの中から選択される1種以上であることができる。特に、アクリル酸、メタクリル酸及びイタコン酸から選択される1種以上であることが好ましい。
【0029】
上記α,β−不飽和ニトリル化合物の具体例としては、例えばアクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロルアクリロニトリル、α−エチルアクリロニトリル、シアン化ビニリデンなどを挙げることができ、これらから選択される1種以上であることができる。これらのうち、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルから選択される1種以上であることが好ましく、アクリロニトリルであることが特に好ましい。
【0030】
また、成分(A)は、以下に示す化合物に由来する繰り返し単位をさらに有してもよい。このような化合物としては、例えばフッ化ビニリデン、四フッ化エチレン、六フッ化プロピレン等のエチレン性不飽和結合を有する含フッ素化合物;(メタ)アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド等のエチレン性不飽和カルボン酸のアルキルアミド;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル;エチレン性不飽和ジカルボン酸の酸無水物;モノアルキルエステル;モノアミド;アミノエチルアクリルアミド、ジメチルアミノメチルメタクリルアミド、メチルアミノプロピルメタクリルアミド等のエチレン性不飽和カルボン酸のアミノアルキルアミド等を挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上であることができる。
【0031】
1.1.4.熱可塑性樹脂(A)の構造、特性及び合成方法
本実施形態における熱可塑性樹脂(A)としては、特に限定されないが、芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位からなるブロックと、主に共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位からなるブロック共重合体や、共役ジエン化合物に由来しビニル結合量が低い繰り返し単位のブロックと、共役ジエン化合物に由来しビニル結合量が高い繰り返し単位のブロックとを有するブロック共重合体の水素添加物が好ましく用いられる。具体的にはブタジエンやイソプレンなどの共役ジエン化合物のブロック共重合体、スチレンとブタジエンやイソプレンなどの共役ジエン化合物とのブロック共重合体、あるいはその水素添加物が好ましく、耐久性の観点からブタジエン−ブタジエン−ブタジエンブロック共重合体、スチレン−ブタジエン−ブタジエンブロック共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体の水素添加物がより好ましい。このような熱可塑性樹脂(A)は、特許第3303467号公報、特許第3282364号公報、特開2010−255007号公報や国際公開第2007/126081号に記載されている方法により合成することができる。
【0032】
このようなスチレン−共役ジエンブロック共重合体における芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位の含有量としては、通常5〜40質量%であり、10〜35質量%の範囲にあることが好ましい。芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位の含有量が前記範囲にあると、粘着力を一層高めることができ、また凝集破壊により糊残りが生じなくなる傾向がある。
【0033】
成分(A)のヨウ素価は、2〜150である必要があり、2〜100であることが好ましく、2〜70であることがより好ましい。成分(A)のヨウ素価が前記範囲内にあると、ブロッキングし難く、耐熱性、柔軟性、透明性が良好な組成物の提供が可能となる。なお、ヨウ素価は、対象となる物質100gと反応するハロゲンの量をヨウ素のグラム数に換算して表す値であるので、ヨウ素価の単位は「g/100g」となる。本明細書において、例えば、「ヨウ素価が2〜150である」とは、「ヨウ素価が2〜150g/100g」である旨を意味する。
【0034】
ヨウ素価が前記範囲でない場合、ブロッキング特性が悪化する傾向がある。これは、主鎖に不飽和結合が多く含まれることで主鎖の絡み合い密度が低下したり、エチレン連鎖が不飽和結合で分断されることにより結晶性が低下する、などの影響で熱可塑性樹脂の形状保持性が低下するためと考えられる。また、ヨウ素価が前記範囲でない場合、耐熱性も悪化する傾向が認められ、共押出のような高温での加工工程に耐えられない場合がある。これは熱可塑性樹脂に含まれる不飽和結合が高温で反応する影響と考えられる。
【0035】
また、ヨウ素価が前記範囲でない場合、硬度が増加したり、Haze値が悪化する傾向が認められる。なお、本発明における熱可塑性樹脂(A)のヨウ素価は、「JIS K 0070:1992」に記載の方法に準じて測定することができる。
【0036】
成形体を製造するに際して、組成物を溶融押出装置等を使用して押出成形する場合には、組成物に含まれる成分(A)の、230℃、21.2N荷重で測定されるメルトフローレート(MFR)が、0.1〜100g/10分であることが好ましく、1.0〜50g/10分であることがより好ましく、2.0〜30g/10分であることが特に好ましい。MFRが0.1g/10分未満であると、押出成形時の負荷が過大となる場合がある。一方、MFRが100g/10分を超えると、ドローダウン等の押出成形性に問題を生ずる傾向にある。
【0037】
成分(A)の質量平均分子量(Mw)は、1×10
5〜1×10
6であることが好ましく、2×10
5〜5×10
5であることがより好ましい。成分(A)の質量平均分子量(Mw)が前記範囲にあると、成形加工性に優れた成形体が得られやすい。なお、ここでいう「質量平均分子量」とは、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)によって測定されたポリスチレン換算の質量平均分子量のことを指す。
【0038】
また、成分(A)の分子量分布が、下記の[1]及び[2]の要件を満たすことが好ましい。
[1]2×10
4以上8×10
4未満の分子量区間に成分(A)が0.3〜5質量%、好ましくは0.5〜4.5質量%存在すること。
[2]8×10
4以上1×10
6以下の分子量区間に成分(A)が90〜99.7質量%、好ましくは95〜99.5質量%存在すること。
【0039】
上記[1]及び[2]の要件における成分(A)の存在割合が前記範囲にあると、溶剤と接触した際の組成物溶出を効果的に抑制でき、組成物の粘性を低減させることができる。これにより、耐溶剤性と加工性の物性バランスに優れた組成物を得ることができる傾向がある。
【0040】
成分(A)は、50〜95℃の範囲に少なくとも1つの融解ピーク(結晶融解ピーク)を有する。この融解ピーク温度は、示差走査熱量測定法(DSC法)により測定される。具体的には、示差走査熱量計(DSC)を使用し、サンプルとなる成分(A)を200℃で10分保持した後、−80℃まで10℃/分の速度で冷却し、次いで−80℃で10分間保持した後、10℃/分の速度で昇温したときの熱流量(結晶融解熱量)のピーク温度である。なお、その融解ピークの結晶融解熱量は10〜40J/gであり、好ましくは15〜35J/gの範囲である。
【0041】
本実施形態に係る組成物中の成分(A)の含有割合は、組成物の全質量を100質量%としたときに、好ましくは50〜100質量%、より好ましくは55〜100質量%、特に好ましくは60〜100質量%である。
【0042】
1.2.ブロッキング防止剤(B)
本実施形態に係る組成物は、ブロッキング防止剤(B)(以下、単に「成分(B)」ともいう。)を含有することができる。本実施形態に係る組成物は、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、脂肪酸アミド、脂肪酸エステル及び脂肪酸金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有することができる。このような化合物を組成物が含有することにより、ホッパーなどでのブロッキング(詰まり)を抑制して成形体の生産性をさらに向上させることができる。
【0043】
ブロッキング防止剤(B)としては、フッ素系重合体、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、エチレン−プロピレン共重合体ワックス、フィッシャー・トロプシュワックス及びそれらの部分酸化物あるいはエチレン性不飽和カルボン酸との共重合体等の合成炭化水素系ワックス;モンタンワックス誘導体、パラフィンワックス誘導体、マイクロクリスタリンワックス誘導体等の変成ワックス;硬化ひまし油、硬化ひまし油誘導体等の水素化ワックス;セチルアルコール、ステアリン酸、12−ヒドロキシステアリン酸等の高級脂肪酸及びアルコール;グリセリルステアレート、ポリエチレングリコールステアレート、ステアリン酸ステアリル、パルミチン酸イソプロピル等の脂肪酸エステル;ステアリン酸アミド等の脂肪酸アミド;ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸リチウム等の脂肪酸金属塩;無水フタル酸イミド;塩素化炭化水素等が挙げられる。
【0044】
これらの中でも、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、脂肪酸アミド、脂肪酸エステル及び脂肪酸金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。本実施形態に係る組成物にこれらの成分を添加すると、ペレット製造工程や成形体を作製する製造装置においてホッパーなどでのブロッキングをより効果的に抑制することができる。
【0045】
本実施形態に係る粘着剤用組成物における成分(B)の含有割合は、成分(A)の合計100質量部に対して0.02質量部以上0.5質量部以下であることが好ましく、0.03質量部以上0.4質量部以下であることがより好ましい。本実施形態に係る組成物における熱可塑性樹脂(A)の含有量をMa(質量部)、ブロッキング防止剤(B)の含有量をMb(質量部)としたときに、熱可塑性樹脂(A)とブロッキング防止剤(B)の量比(Ma/Mb)は、200〜4000であることが好ましく、250〜3500であることが好ましい。
【0046】
1.3.水
本実施形態に係る組成物は、組成物100質量部に対して水を100〜2000ppm含有するが、130〜1000ppm含有することが好ましく、150〜600ppm含有することがより好ましい。水分含有率が前記範囲内にあると、組成物を成形する際に、成形加工性に優れ、良好な外観の成形体を製造することができる。水分含有率が前記範囲を超えると、水分が射出成形機のシリンダー内で加熱され熱可塑性エラストマー中で気泡となり、成形品表面で破泡してHazeの悪化や外観不良(シリバーストリーク)になる可能性がある。
【0047】
なお、本発明において「組成物の水分含有率」とは、組成物のペレットの水分含有率と同義である。本発明における組成物の水分含有率は、JIS K7251 「プラスチック−水分含有率の求め方」に準拠して測定した値である。
【0048】
組成物の水分含有率は、組成物を脱湿乾燥機、減圧乾燥機、熱風乾燥機などのペレット乾燥機を用い、使用する熱可塑性エラストマーに適した温度及び時間で加熱処理して制御することができる。乾燥温度が高く、乾燥時間が長いと水分量を大幅に減少させることができるが、組成物のペレットがブロッキングを生じたり、ブリードアウトなどの変質を引き起こす可能性がある。また、乾燥温度が低く、乾燥時間が短いと、水分含有率が増大する傾向がある。いずれにしても、このように乾燥温度と乾燥時間を制御することにより、水分含有率を制御することができる。
【0049】
1.4.その他の成分
本実施形態に係る組成物には、上記の各成分の他、必要に応じて、ラジカル発生剤、老化防止剤、充填剤、着色剤、難燃剤、粘着付与剤等の公知の成分を添加してもよい。
【0050】
ラジカル発生剤は、成形体を作製する際に、加熱や紫外線等の放射線を照射することによりラジカルを発生させ、前記成分(A)を架橋させて架橋度を調整することで、成形体の硬度や耐熱性を制御することができる。ラジカル発生剤としては、紫外線等の光を照射することによりラジカルを発生する光ラジカル発生剤が好ましい。光ラジカル発生剤の具体例としては、ヒドロキシケトン類、ベンジルジメチルケタール類、アミノケトン類、アシルフォスフィンオキサイド類、ベンゾフェノン類等が挙げられる。これらの光ラジカル発生剤は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0051】
ラジカル発生剤としては、オリゴマー型の光ラジカル発生剤であることが特に好ましい。オリゴマー型の光ラジカル発生剤は、紫外線等の光を照射することによってラジカルを発生できる官能基を有する単量体の低分子量重合物である。このようなオリゴマー型の光ラジカル発生剤は、ラジカルの発生点が一分子中に複数個存在するため、酸素による架橋阻害の影響を受けにくく、少量で架橋処理できる点や、基材に塗布する際に無溶剤のホットメルト状態でも飛散せず、ポリマー中からも抽出されない点から好ましく用いられる。
【0052】
オリゴマー型の光ラジカル発生剤の具体例としては、アクリル化ベンゾフェノン(UCB社製、商品名「EbecrylP36」)を重合したオリゴマー、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン(BASF社製、商品名「Irgacure2959」)の一級水酸基と2−イソシアナートエチルメタクリレートの反応物を重合したオリゴマー、2−ヒドロキシ−2−メチル−[4−(1−メチルビニル)フェニル]プロパノールオリゴマー(Lamberti社製、商品名「EsacureKIP150」)などが挙げられる。これらのオリゴマー型の光ラジカル発生剤の分子量は、50000程度までであることが好ましい。
【0053】
老化防止剤としては、例えばヒンダードフェノール系、ホスファイト系等の酸化防止剤、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリチル酸エステル系等の紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系等の光安定剤が好適に添加される。
【0054】
充填剤としては、タルク、シリカ、炭酸カルシウム等の無機充填材、炭素繊維、アミド繊維等の有機充填材を使用することができる。
【0055】
2.成形体
本実施形態に係る成形体は、公知の方法により上述の組成物を用いて作成される。例えば成形体が粘着フィルムである場合、基材層と、当該基材層の片面又は両面に形成された粘着層とを備えたフィルムとなる。以下、基材層及び基材用組成物、粘着フィルムの製造方法について説明する。
【0056】
<基材層及び基材用組成物>
基材層を作製するための基材用組成物は、熱可塑性樹脂を含有することが好ましい。熱可塑性樹脂の中でも、オレフィン系樹脂が好ましい。
【0057】
オレフィン系樹脂としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン系の共重合体を好適に用いることができる。具体的には、プロピレン−エチレン共重合体、プロピレン−ブテン−1共重合体、ブテン−1−エチレン共重合体、プロピレン−エチレン−ブテン−1共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−エチルメタクリレート共重合体、エチレン−メチルアクリレート共重合体、エチレン−メチルメタクリレート共重合体、エチレン−n−ブチルアクリレート共重合体等を挙げることができる。これらの熱可塑性樹脂は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0058】
基材用組成物は熱可塑性樹脂を主成分として含有するが、劣化防止等を目的に、例えば酸化防止剤、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤等の光安定剤、帯電防止剤、その他に、例えば、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、シリカ、酸化亜鉛、酸化チタン等の充填剤、顔料、目ヤニ防止剤、滑剤、アンチブロッキング剤等を適宜添加することができる。
【0059】
基材用組成物に含有される熱可塑性樹脂の、230℃、21.2N荷重で測定されるMFRは、0.01〜100g/10分であることが好ましく、0.1〜80g/10分であることがより好ましい。また、基材用組成物に含有される熱可塑性樹脂は、1種類の熱可塑性樹脂のみで構成されてもよいし、2種類以上の熱可塑性樹脂を混合して構成されてもよい。基材層は単層であってもよく、二層以上の多層であってもよい。また、基材層として発泡層を選択することも可能である。
【0060】
<粘着フィルムの製造方法>
本実施形態に係る粘着フィルムは、基材層と、当該基材層の片面又は両面に形成された粘着層とを備えた、いわゆる積層構造を有するフィルムである。したがって、本実施形態に係る粘着フィルムは、(1)塗布法;予め作製された基材層の片面又は両面に粘着剤用組成物を塗布して粘着層を形成した後に巻き取る方法、(2)共押出し法;基材用組成物と粘着剤用組成物とを、溶融共押出装置等を使用して共押出成形することにより、基材層の片面又は両面に粘着層を形成する方法、などの方法により製造することができる。なお、粘着剤用組成物としては、上述した本実施形態に係る組成物を使用することができる。
【0061】
塗布法により粘着フィルムを製造する場合、厚さが2〜150μm程度の基材層の片面又は両面に上記の粘着剤用組成物を塗布し、必要に応じて紫外線(UV)もしくは電子線(EB)等のエネルギー線を照射して架橋処理し、厚さ5〜200μmとなる粘着層を形成することにより製造できる。また、基材層の片面に離型処理を施すことにより、転写用粘着フィルムとすることもできる。粘着剤用組成物を基材層へ塗布する際には、必要により加熱して粘度を低下させた状態で塗工することができ、具体的には、ホットメルトコータ、コンマロール、グラビアコータ、ロールコータ、キスコータ、スロットダイコータ、スクイズコータ等を使用することができる。
【0062】
基材用組成物と粘着剤用組成物とを共押出し法により一括成形して粘着フィルムを製造する場合、必要に応じて紫外線(UV)もしくは電子線(EB)等のエネルギー線を照射して架橋処理し、厚さ5〜200μmとなる粘着層を形成することにより製造できる。
【0063】
紫外線照射は、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、エキシマレーザ、メタルハライドランプなどの適宜の紫外線源を用いて行うことができる。紫外線の照射量は、必要とする架橋度に応じて決められるが、好ましくは10mJ/cm
2〜5000mJ/cm
2、より好ましくは100mJ/cm
2〜5000mJ/cm
2である。また、必要に応じて短波長側の紫外線をカットするフィルターやポリエステルシートを用いることもできる。さらに、紫外線照射時の温度は、特に限定はなく、室温から140℃までの加熱条件を適宜選択することができる。
【0064】
電子線の線源としては、例えば、市販されているタングステンフィラメントから発生する熱電子を利用する方式、金属に高電圧パルスを通じて発生させる冷陰極方式及びイオン化したガス状分子と金属電極との衝突により発生する2次電子を利用する2次電子方式を挙げることができる。電子線量は、必要とする架橋度に応じて決められるが、好ましくは10〜1000kGy、より好ましくは100〜500kGyである。
【0065】
上記の粘着フィルムの製造方法においてエネルギー線を照射する場合、粘着層の架橋の進行しやすさという点では、紫外線(UV)照射よりも電子線(EB)照射の方が好適である。電子線を照射した粘着層は、ゲル成分の発生を極微量とすることができ、ゲル成分に由来する異物の発生を抑制することができる点で有利である。一方、紫外線照射の場合、押出温度でラジカル発生剤が分解することがあり、また遮光環境で製造する必要がある等の製造上の問題がある。
【0066】
上記の粘着フィルムの製造方法によれば、粘着剤用組成物により形成された粘着層へ紫外線(UV)もしくは電子線(EB)等のエネルギー線を照射することによって、粘着特性及び耐熱性が向上した粘着層を作製することができる。その際、エネルギー線架橋後において、ブロック共重合体の溶剤可溶分が5〜60質量%、好ましくは10〜50質量%となるようにするのがよい。このような溶剤可溶分とするには、ラジカル発生剤の使用量を選択したり、エネルギー線の照射量を選択するなどして、架橋度を適宜調節すればよい。
【0067】
なお、ラジカル発生剤に代えて、一般にゴムの架橋に用いられる硫黄や硫黄系加硫剤、加硫促進剤を用いると、硫化物イオンや硫酸イオンが大量に発生し、粘着層よりブリードアウトする場合があるので好ましくない。また、過酸化物を用いた架橋では、十分な耐熱性を得ることが困難となる場合がある。
【0068】
なお、このようにして製造された粘着フィルムは、必要に応じてテープ状やシート状などの形状で使用することができる。
【0069】
3.実施例
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例、比較例中の「部」および「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0071】
3.1.1.合成例1
窒素置換された反応容器に、脱気・脱水されたシクロヘキサン800部、1,3−ブタジエン20部、及びテトラヒドロフラン0.03部を仕込み、重合開始温度70℃にてn−ブチルリチウム0.09部を加えて、昇温重合を行った。重合転化率が99%以上に達した後、反応液を25℃に冷却し、水素添加前の重合体を作成した。引き続き、1,3−ブタジエン80部、及びテトラヒドロフラン5部を加えて、さらに昇温重合を行った。重合転化率が99%以上に達した後、ジクロロメチルシラン0.06部を加えて、さらに昇温重合を行った。その後、反応容器内に、ジエチルアルミニウムクロライド0.04部及びビス(シクロペンタジエニル)チタニウムフルフリルオキシクロライド0.06部を加え、撹拌した。水素ガス供給圧0.7MPa−Gauge、反応温度80℃で水素添加反応を開始し、3時間後に反応溶液を60℃・常圧とし、反応容器より抜き出すことにより、熱可塑性樹脂A−1を得た。
【0072】
3.1.2.合成例2
窒素置換された反応容器に、脱気・脱水されたシクロヘキサン800部、1,3−ブタジエン20部、及びテトラヒドロフラン0.03部を仕込み、重合開始温度70℃にてn−ブチルリチウム0.09部を加えて、昇温重合を行った。重合転化率が99%以上に達した後、反応液を45℃に冷却し、1,3−ブタジエン80部、及びテトラヒドロフラン1部を加えて、さらに昇温重合を行った。重合転化率が99%以上に達した後、ジクロロメチルシラン0.06部を加えて、さらに昇温重合を行った。その後、反応容器内に、ジエチルアルミニウムクロライド0.04部及びビス(シクロペンタジエニル)チタニウムフルフリルオキシクロライド0.06部を加え、撹拌した。その後、合成例1と同様に水素添加反応を行い熱可塑性樹脂A−2を得た。
【0073】
3.1.3.合成例3
水素添加反応時間を2時間としたこと以外は合成例1と同様の方法にて、熱可塑性樹脂A−3を得た。
【0074】
3.1.4.合成例4、5、6
水素添加反応時間をそれぞれ2時間、1時間、40分に変更した以外は合成例2と同様の方法により、熱可塑性樹脂A−4、A−5、A−6を得た。
【0075】
3.1.5.合成例7
窒素置換された反応容器に、脱気・脱水されたシクロヘキサン600部、1,3−ブタジエン20部、及びテトラヒドロフラン0.03部を仕込み、重合開始温度70℃にてn−ブチルリチウム0.10部を加えて、昇温重合を行った。重合転化率が99%以上に達した後、反応液を10℃に冷却し、次いで、1,3−ブタジエン80部、及びテトラヒドロフラン15部を加えて、さらに昇温重合を行った。重合転化率が99%以上に達した後、テトラクロロシラン0.06部を加えて、さらに昇温重合を行った。その後、反応容器内に、ジエチルアルミニウムクロライド0.03部及びビス(シクロペンタジエニル)チタニウムフルフリルオキシクロライド0.06部を加え、撹拌した。その後、合成例1と同様の方法により水素添加反応を1時間行い熱可塑性樹脂A−7を得た。
【0076】
3.1.6.合成例8
窒素置換された反応容器に、脱気・脱水されたシクロヘキサン600部、1,3−ブタジエン20部、及びテトラヒドロフラン0.03部を仕込み、重合開始温度70℃にてn−ブチルリチウム0.06部を加えて、昇温重合を行った。重合転化率が99%以上に達した後、反応液を10℃に冷却し、次いで、n−ブチルリチウム0.05部、1,3−ブタジエン80部、及びテトラヒドロフラン15部を加えて、さらに昇温重合を行った。重合転化率が99%以上に達した後、テトラクロロシラン0.06部を加えて、さらに昇温重合を行った。その後、反応容器内に、ジエチルアルミニウムクロライド0.03部及びビス(シクロペンタジエニル)チタニウムフルフリルオキシクロライド0.06部を加え、撹拌した。その後、合成例1と同様に水素添加反応を行い熱可塑性樹脂A−8を得た。
【0077】
3.1.7.合成例9
窒素置換された反応容器に、脱気・脱水されたシクロヘキサン600部、1,3−ブタジエン20部、及びテトラヒドロフラン0.03部を仕込み、重合開始温度70℃にてn−ブチルリチウム0.10部を加えて、昇温重合を行った。重合転化率が99%以上に達した後、反応液を10℃に冷却し、次いで、1,3−ブタジエン50部、スチレン30部、及びテトラヒドロフラン15部を加えて、さらに昇温重合を行った。重合転化率が99%以上に達した後、テトラクロロシラン0.06部を加えて、さらに昇温重合を行った。その後、反応容器内に、ジエチルアルミニウムクロライド0.03部及びビス(シクロペンタジエニル)チタニウムフルフリルオキシクロライド0.06部を加え、撹拌した。その後、合成例1と同様に水素添加反応を行い熱可塑性樹脂A−9を得た。
【0078】
3.1.8.合成例10
窒素置換された反応容器に、脱気・脱水されたシクロヘキサン800部、1,3−ブタジエン40部、及びテトラヒドロフラン0.03部を仕込み、重合開始温度70℃にてn−ブチルリチウム0.09部を加えて、昇温重合を行った。重合転化率が99%以上に達した後、反応液を10℃に冷却し、1,3−ブタジエン60部、及びテトラヒドロフラン15部を加えて、さらに昇温重合を行った。重合転化率が99%以上に達した後、ジクロロメチルシラン0.06部を加えて、さらに昇温重合を行った。その後、反応容器内に、ジエチルアルミニウムクロライド0.04部及びビス(シクロペンタジエニル)チタニウムフルフリルオキシクロライド0.06部を加え、撹拌した。その後、合成例1と同様に水素添加反応を行い熱可塑性樹脂A−10を得た。
【0079】
3.1.9.合成例11
窒素置換された反応容器に、脱気・脱水されたシクロヘキサン500部、スチレン6部、及びテトラヒドロフラン13部を仕込み、重合開始温度40℃にてn−ブチルリチウム0.10部を加えて、昇温重合を行った。重合転化率が99%以上に達した後、反応液を10℃に冷却し、次いで、1,3−ブタジエン94部を加えて、さらに昇温重合を行った。重合転化率が99%以上に達した後、ジクロロジメチルシラン0.07部を加えて、さらに昇温重合を行った。その後、反応容器内に、ジエチルアルミニウムクロライド0.03部及びビス(シクロペンタジエニル)チタニウムフルフリルオキシクロライド0.06部を加え、撹拌した。その後、合成例1と同様に水素添加反応を行い熱可塑性樹脂A−11を得た。
【0080】
3.1.10.合成例12
窒素置換された反応容器に、脱気・脱水されたシクロヘキサン800部、1,3−ブタジエン15部、及びテトラヒドロフラン0.03部を仕込み、重合開始温度70℃にてn−ブチルリチウム0.09部を加えて、昇温重合を行った。重合転化率が99%以上に達した後、反応液を15℃に冷却し、1,3−ブタジエン70部、及びテトラヒドロフラン15部を加えて、さらに昇温重合を行った。重合転化率が99%以上に達した後、スチレン15部を加えて、さらに昇温重合を行った。その後、反応容器内に、ジエチルアルミニウムクロライド0.04部及びビス(シクロペンタジエニル)チタニウムフルフリルオキシクロライド0.06部を加え、撹拌した。その後、合成例1と同様に水素添加反応を行い熱可塑性樹脂A−12を得た。
【0081】
3.1.13.合成例13
水素添加反応時間を15分間としたこと以外は合成例11と同様の方法にて、熱可塑性樹脂A−13を得た。
【0082】
3.1.14.合成例14
水素添加反応時間を12時間としたこと以外は合成例10と同様の方法にて、熱可塑性樹脂A−14を得た。
【0083】
3.2.熱可塑性樹脂の評価
作製した熱可塑性樹脂の全結合スチレン含量、ビニル結合含量、ヨウ素価、結晶融解ピーク温度、結晶融解熱量及び分子量は以下の手法で測定した。結果を表1、2に示す。
【0084】
3.2.1.全結合スチレン含量の評価
水素添加前の重合体を四塩化炭素に溶解し、270MHz、
1H−NMRスペクトルから全結合スチレン含量を算出した。結果を表1、2に示す。
【0085】
3.2.2.ビニル結合(1,2結合及び3,4結合)含量の評価
水素添加前の重合体を赤外分析法を用い、ハンプトン法によりビニル結合(1,2結合及び3,4結合)を算出した。結果を表1、2に示す。
【0086】
3.2.3.ヨウ素価の評価
熱可塑性樹脂を「JIS K 0070:1992」に記載の方法に準じてヨウ素価を算出した。結果を表1、2に示す。
【0087】
3.2.4.結晶融解ピーク温度/結晶融解熱量の評価
示差走査熱量計(DSC)を用いて熱可塑性樹脂を200℃で10分保持した後、−80℃まで10℃/分の速度で昇温した時の熱流量(結晶融解熱量(J/g))におけるピーク温度を、結晶融解ピーク温度(℃)とした。結果を表1、2に示す。
【0088】
3.2.5.熱可塑性樹脂の分子量評価
熱可塑性樹脂のGPC分析を行った。具体的には、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC、商品名「HLC−8120GPC」、東ソー・ファインケム社製、カラム:東ソー社製、GMH−XL)を用いて、ポリスチレン換算で数平均分子量(Mn)、質量平均分子量(Mw)、及び分子量分布(Mn/Mw)を求めた。溶媒にはテトラヒドロフランを用いた。
【0089】
熱可塑性樹脂の分子量評価において測定したクロマトグラムから分子量分布曲線全面積を算出した。2×10
4以上8×10
4未満の分子量区間のピーク面積S1と、8×10
4以上1×10
6以下の分子量区間のピーク面積S2を算出した。S1を全面積で除することにより、分子量2×10
4以上8×10
4未満の含有割合を算出した。また、S2を全面積で除することにより、分子量8×10
4以上1×10
6以下の含有割合を算出した。
【0092】
3.3.実施例1
作製した熱可塑性樹脂にステアリン酸カルシウムを0.05部添加し、池貝社製40mm単軸押し出し機に投入して溶融混練りしストランド状に押出し水中で冷却固化したのち、技研工機社製ストランドカッターにてペレット化し円柱状の未乾燥ペレットを得た。
未乾燥ペレット100質量部とステアリン酸カルシウム(和光純薬工業(株)製)0.10質量部をスーパーミキサーSMV−20に添加し、撹拌速度300rpmにて5分撹拌し未乾燥ペレット表面にステアリン酸カルシウムを塗布した。その後、目開き6.0mmのステンレス製3.5メッシュでふるいわけ、さらに目開き1.5mmのステンレス製12メッシュでふるいわけた。12メッシュを通過しない大きさのものを乾燥機(商品名「並行流回分式乾燥機」、佐竹化学機械工業(株)製)を用いて乾燥温度80℃の条件で乾燥し、水分含有量を500ppmに調整した組成物(ペレット)を作成した。なお、このようにして作製した組成物の水分含有量はJIS K7251 「プラスチック−水分含有率の求め方」に記載される水分気化法に準拠して測定することができる。
【0093】
3.3.1.組成物(ペレット)のブロッキング評価
ブロッキングは、乾燥機から回収する際の作業性悪化や押出機ホッパー投入時のエラー原因となるため少ないことが望ましい。このため、以下の方法により組成物(ペレット)のブロッキング状態を確認し、以下の指標に従い評価した。結果を表3に示す。
・「A」:ペレットの互着は認められず、優秀であると判断できる。
・「B」:数珠状ペレットが若干認められるが、解すことでペレット間の互着が解消されるため、生産性に劣るが、実用できるため良好と判断できる。
・「C」:ペレットが互着し一体化し、一体化したペレットは解すことができず、実用に供することができないため不良と判断できる。
【0094】
3.3.2.組成物(ペレット)の硬度評価
粘着剤として使用する際に成形体と被着体は所定の圧力で圧着されるが、成形体の変形量が大きいと被着体との接触面積を充分確保でき良好な粘着性能が期待できることから、硬度が低いことが望ましい。このため、以下の方法に従い組成物(ペレット)の硬度評価を行い、以下の指標に従い評価した。結果を表3に示す。
【0095】
鏡面板上に作製した組成物(ペレット)と2mm厚みのスペーサーを配置し、岩城工業社製熱プレス成型機「AT−37」を用いて、190℃30分熱プレスすることで、2mm厚みのプレスシートを得た。作成したシートを重ねあわせ6mm厚みとし、JIS6253記載のタイプAデュロメーターを用いて15秒後の値を読み取った。
・「AA」:硬度が50未満であり、被着体との貼合において被着体と接触面積を大幅に向上できるため、極めて優秀であると判断できる。
・「A」:硬度が50超え65未満であり、被着体との貼合において被着体と接触面積を向上できるため、優秀であると判断できる。
・「B」:硬度が65超え75未満であり、被着体との貼合において被着体と接触面積が少ないが、実用できるため良好と判断できる。
・「C」:硬度が75超えであり、被着体に対する形状変化を起こすことができず、実用に供することができないため不良と判断できる。
【0096】
3.3.3.組成物(ペレット)のHaze評価
光学部材の加工工程や外観検査での視認性を考慮するとHaze値が低いことが望ましい。このため、以下の指標に従い評価した。結果を表3に示す。
【0097】
上記で作成したシートをJIS−K7136(2000)に準拠し、村上色彩技術研究所社の「HAZEMETER HM−150」を用いて測定した。
・「A」:Hazeが15未満であり、視認性が極めて優秀であると判断できる。
・「B」:Hazeが15超え20未満であり、視認性に劣るが、実用できるため良好と判断できる。
・「C」:Hazeが20超えであり、視認性が不良であるため、実用に供することができず不良と判断できる。
【0098】
3.3.4.成形体(粘着フィルム)の製造と耐熱性及び成形外観評価
基材層としてポリエチレン(三菱化学(株)製、商品名「YF30」)、接着層として上記で作製した組成物(ペレット)を使用し、フィードブロックタイプのTダイを備えた二層共押出装置により、基材層の厚みが100μm、粘着層の厚みが10μmとなるように、シリンダー温度190℃、ダイス温度190℃の成形条件にて基材層と粘着層とを共押出し成形して、粘着フィルムを製造した。
【0099】
一方、上記で作製した組成物(ペレット)を切断し20.0mg秤量し、135℃、1時間オルトジクロロベンゼン20mLに浸漬し、フィルター濾過することで溶出成分Aを回収した。一方、上記で作製した粘着フィルムを切断して20.0mg秤量し、135℃、1時間オルトジクロロベンゼン20mLに浸漬し、フィルター濾過することで溶出成分Bを回収した。溶出成分A、BのGPC測定を実施し、フィルム化工程におけるゲル成分有無を以下のように評価し、組成物(ペレット)の耐熱性を評価した。結果を表3に示す。
・「A」:溶出成分Aと溶出成分BのGPC強度比、GPC形状共に変化がほとんど認められず、ゲル成分が極めて微量である。異物量が極めて少ないため、優秀であると判断できる。
・「B」:溶出成分Aと溶出成分BのGPC強度比に変化がほとんど認められずゲル成分は微量であるが、GPC形状から多量体生成が認められた。多量体の形成は認められるものの、ゲル成分は微量であることから、異物量が少なく実用できるため良好と判断できる。
・「C」:溶出成分BのGPC強度が極めて小さく、多量化によるゲル成分が極めて多いため実用に供することができず不良と判断できる。
ペレット化やフィルム化工程時に生成する異物はフィルムの欠陥や歩留り不良の原因となり少ないことが望ましい。尚、GPCの評価には、ポリマーラボラトリー社製高温GPC測定システム「PL−GPC220」、カラムはポリマーラボラトリー社製カラム「MIXED−B」、測定温度は135℃で実施した。
【0100】
また、上記で作製した粘着フィルムの表面を光学顕微鏡で観察し、下記のように評価した。結果を表3に示す。
・「A」:フィルム表面に、気泡などの異常は認められず、優秀と判断できる。
・「B」:フィルム表面に若干の気泡が存在したが、実用できるため良好と判断できる。
・「C」:フィルム表面に気泡が多く認められ、実用に供することができず不良と判断できる。
粘着フィルムの粘着性能や粘着フィルム使用過程での視認性を考慮すると、フィルム表面の気泡による表面荒れや濁りが小さいことが望ましい。
【0101】
3.3.5.溶液貯蔵安定性
組成物15gとシクロヘキサン85gをセパラに投入し80℃に加温して溶解させた。その後、シクロヘキサン溶液を250mLポリビンに回収し40℃に冷却し、40℃で24時間静置した。静置後のポリマー溶液の外観と溶液粘度から、溶液貯蔵安定性を以下のように判断した。尚、溶液粘度の測定には東機産業社のビスコメーターTVB10Mを用い、測定温度は40℃にて実施した。
・「A」:ポリビンを90度傾けた際、ポリマー溶液が流動した。溶液の粘度が3,000mPa・s以下であり溶液の流動性が高く、溶液貯蔵安定性が優秀と判断した。溶液貯蔵安定性が優秀であるため、配管での移送や容器への移液が容易であり、キャストやコーティングなどウェットプロセスを容易に行うことができるため、優秀である。
・「B」:ポリビンを90度傾けた際、ポリマー溶液が流動した。溶液の粘度が3,000mPa・s以上であったため、溶液の流動性がやや低いものの、溶液貯蔵安定性が良好と判断した。溶液貯蔵安定性が良好であるため、ウェットプロセスに適用できるため、良好である。
・「C」:ポリビンを90度傾けた際、ポリマー溶液が流動しなかった。溶液が流動せず、溶液の粘度を測定することができなかったため、溶液貯蔵安定性が不良と判断した。
【0102】
3.3.6.耐溶剤性
鏡面板上に作製した組成物(ペレット)と2mm厚みのスペーサーを配置し、岩城工業社製熱プレス成型機「AT−37」を用いて、190℃30分熱プレスすることで、2mm厚みのプレスシートを得た。作製したプレスシートを10mm×30mmに切出し、30℃環境下でオレイン酸50gに72時間浸漬した。浸漬後のプレスシートをピンセットで取出し、プレスシート外観と寸法変化量から耐溶剤性を以下のように判断した。なお、寸法変化量は以下のようにして評価した。
寸法変化量(%)=((浸漬後のシート面積−浸漬前のシート面積)/浸漬前のシート面積)×100
・「A」:寸法変化量が200%以下であり、ピンセットを用いてプレスシート形状を維持したまま取り出すことができ、耐溶剤性が優秀であると判断した。成形品に溶剤が付着した際の膨潤に対する耐性が高く、物性変化が抑えられ、形状保持性にも優れるため、各種成形品の素材として優秀である。
・「B」:寸法変化量が200%以上であり、ピンセットを用いてプレスシート形状を維持したまま取り出すことができ、耐溶剤性が良好であると判断した。成形品に溶剤が付着した際に膨潤による物性変化は起こるものの、溶剤の保持性や形状維持性が優れるので、各種成形品の素材として良好である。
・「C」:ピンセットを用いてプレスシートを取り出す際にシート形状が崩れ、寸法変化量を測定できず、耐溶剤性が不良と判断した。耐溶剤性が不良であるため、成形品に溶剤が付着した際に成形品形状を維持できず、物性変化が大きいため、各種成形品の素材として不良である。
【0103】
3.4.実施例2〜12、比較例1〜8
熱可塑性樹脂A−2〜A−14を用いて、ブロッキング防止剤(B)の種類と量、水分量を表3〜4の成分と量に変更した以外は実施例1と同様の方法で組成物(ペレット)を作製し、実施例1と同様に評価した。結果を表3〜4に示す。
なお、水分量は組成物(ペレット)の乾燥時間を適時変更して調整した。
【0106】
3.5.結果
実施例1〜12によれば、本発明に係る組成物は、ペレット作製における生産性や作業性に優れ、被着体に対する高い粘着力を示し、押出フィルム成形時のゲル異物量や外観に優れ、フィルム使用時の視認性に優れた、押出成形体を製造することができた。
比較例1〜8によれば、水分量が多いと押出フィルム成形時の外観不良が起こり、水分量が少ないとペレット乾燥時のブロッキングが起こり、熱可塑性樹脂のヨウ素価が高いと得率の低下やブロッキングや耐溶剤性の悪化、更には押出フィルムの異物が発生し、熱可塑性樹脂のヨウ素価が低いと硬度やHaze、溶液貯蔵安定性の悪化が起こることがわかった。
【0107】
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成)を包含する。また本発明は、上記の実施形態で説明した構成の本質的でない部分を他の構成に置き換えた構成を包含する。さらに本発明は、上記の実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成することができる構成をも包含する。さらに本発明は、上記の実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成をも包含する。