特許第6863414号(P6863414)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6863414
(24)【登録日】2021年4月5日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂組成物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/18 20060101AFI20210412BHJP
   C08L 27/16 20060101ALI20210412BHJP
   C08K 5/17 20060101ALI20210412BHJP
   B32B 25/08 20060101ALI20210412BHJP
   B32B 25/14 20060101ALI20210412BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20210412BHJP
   C08J 5/00 20060101ALI20210412BHJP
   C08J 3/24 20060101ALI20210412BHJP
   C09K 3/10 20060101ALI20210412BHJP
【FI】
   C08L27/18
   C08L27/16
   C08K5/17
   B32B25/08
   B32B25/14
   B32B27/30 D
   C08J5/00CEW
   C08J3/24 Z
   C09K3/10 M
   C09K3/10 Z
【請求項の数】10
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2019-129933(P2019-129933)
(22)【出願日】2019年7月12日
(65)【公開番号】特開2020-15908(P2020-15908A)
(43)【公開日】2020年1月30日
【審査請求日】2019年7月12日
(31)【優先権主張番号】特願2018-133090(P2018-133090)
(32)【優先日】2018年7月13日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】とこしえ特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】上田 明紀
(72)【発明者】
【氏名】小野 剛
(72)【発明者】
【氏名】徳平 勝貞
【審査官】 三宅 澄也
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/020182(WO,A1)
【文献】 国際公開第2006/057332(WO,A1)
【文献】 国際公開第2006/057331(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/073489(WO,A1)
【文献】 国際公開第2006/120882(WO,A1)
【文献】 特開2007−246928(JP,A)
【文献】 特開2016−222752(JP,A)
【文献】 特開平05−140401(JP,A)
【文献】 特開2003−055577(JP,A)
【文献】 特開平10−101880(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00− 13/08
C08L 1/00−101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂(A)および架橋フッ素ゴム(B)を含む熱可塑性樹脂組成物であって、
フッ素樹脂(A)が、クロロトリフルオロエチレン単位およびテトラフルオロエチレン単位を含み、かつ、ポリマーの主鎖末端または側鎖末端にカルボニル基、オレフィン基およびアミノ基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を有する共重合体であり、
架橋フッ素ゴム(B)が、フッ素樹脂(A)の存在下、フッ素樹脂(A)の溶融条件下にて、フッ素ゴム(b)を、熱分解温度が250℃以上であるポリアミン化合物(c)および架橋促進剤(d)と共に、動的に架橋処理したものであり、
フッ素樹脂(A)とフッ素ゴム(b)との質量比(フッ素樹脂(A)/フッ素ゴム(b))が、66/34以下であり、45/55以上であり、
ポリアミン化合物(c)が、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)−2−フェニルベンゼン、4,4’−[(1,4−フェニレン)ビス(ジメチルメチレン)]ビスアニリン、1,4−ビス(4’−アミノフェノキシ)−2,3,5−トリメチルベンゼン、および、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンからなる群より選択される少なくとも1種であ
熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
フッ素ゴム(b)が、ビニリデンフルオライド/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン系フッ素ゴムである請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
架橋促進剤(d)が、第4級アンモニウム塩である請求項1または2に記載の熱可塑性組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法であって、
フッ素樹脂(A)の存在下、フッ素樹脂(A)の溶融条件下にて、フッ素ゴム(b)を、熱分解温度が250℃以上であるポリアミン化合物(c)および架橋促進剤(d)と共に、動的に架橋処理する工程を含む
熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物から形成される成形品。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物から形成される熱可塑性樹脂層(W)と、エラストマー組成物から形成されるエラストマー層(X)とを含む積層体。
【請求項7】
前記エラストマー組成物が、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、水素添加アクリロニトリル−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴムとポリ塩化ビニルとのブレンドゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴムとアクリルゴムとのブレンドゴム、塩素化ポリエチレン、フッ素ゴム、エピクロロヒドリンゴム、エチレン−プロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、シリコーンゴムおよびアクリルゴムからなる群より選択される少なくとも1種のエラストマーを含有する請求項に記載の積層体。
【請求項8】
前記エラストマー組成物が、オニウム塩、アミン化合物およびエポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を含有する請求項6または7に記載の積層体。
【請求項9】
請求項に記載の成形品、または、請求項6〜8のいずれかに記載の積層体からなる燃料用ホースまたは燃料用チューブ。
【請求項10】
請求項に記載の成形品、または、請求項6〜8のいずれかに記載の積層体からなる燃料用シール材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、熱可塑性樹脂組成物およびその製造方法、成形品、積層体、燃料用ホース、燃料用チューブならびに燃料用シール材に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料バリア性と柔軟性を両立した熱可塑性樹脂組成物の開発が進められてきた。たとえば、特許文献1では、フッ素樹脂(A)および架橋フッ素ゴム(B)を含む熱可塑性樹脂組成物であって、フッ素樹脂(A)がポリマーの主鎖末端または側鎖末端にカルボニル基、オレフィン基またはアミノ基を有する共重合体であり、架橋フッ素ゴム(B)が、フッ素樹脂(A)の存在下、フッ素樹脂(A)の溶融条件下にて、フッ素ゴム(b)を架橋剤(c)と共に、動的に架橋処理したものである、熱可塑性樹脂組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2009/020182号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示では、燃料バリア性を大きく損なうことなく、引張弾性率を低減させた熱可塑性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示によれば、フッ素樹脂(A)および架橋フッ素ゴム(B)を含む熱可塑性樹脂組成物であって、フッ素樹脂(A)が、クロロトリフルオロエチレン単位およびテトラフルオロエチレン単位を含み、かつ、ポリマーの主鎖末端または側鎖末端にカルボニル基、オレフィン基およびアミノ基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を有する共重合体であり、架橋フッ素ゴム(B)が、フッ素樹脂(A)の存在下、フッ素樹脂(A)の溶融条件下にて、フッ素ゴム(b)を、熱分解温度が210℃以上であるポリアミン化合物(c)および架橋促進剤(d)と共に、動的に架橋処理したものであり、フッ素樹脂(A)とフッ素ゴム(b)との質量比(フッ素樹脂(A)/フッ素ゴム(b))が、70/30未満であり、20/80以上である熱可塑性樹脂組成物が提供される。
【0006】
フッ素ゴム(b)が、ビニリデンフルオライド/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン系フッ素ゴムであることが好ましい。
【0007】
また、本開示によれば、フッ素樹脂(A)および架橋フッ素ゴム(B)を含む熱可塑性樹脂組成物であって、フッ素樹脂(A)が、クロロトリフルオロエチレン単位およびテトラフルオロエチレン単位を含む共重合体であり、前記熱可塑性樹脂組成物から形成される成形品について、赤外吸収スペクトル分析をした場合に、2360cm−1に現れる吸収ピークの高さに対する、3451cm−1に現れる吸収ピークの高さの比[K1]が、0.001以上であり、かつ、3035cm−1に現れる吸収ピークの高さに対する、1722cm−1に現れる吸収ピークの高さの比[K2]が、0.3以上であり、引張弾性率が、250MPa以下である熱可塑性樹脂組成物が提供される。
【0008】
また、本開示によれば、上記の熱可塑性樹脂組成物の製造方法であって、フッ素樹脂(A)の存在下、フッ素樹脂(A)の溶融条件下にて、フッ素ゴム(b)を、熱分解温度が210℃以上であるポリアミン化合物(c)および架橋促進剤(d)と共に、動的に架橋処理する工程を含む熱可塑性樹脂組成物の製造方法が提供される。
【0009】
また、本開示によれば、上記の熱可塑性樹脂組成物から形成される成形品が提供される。
【0010】
また、本開示によれば、上記の熱可塑性樹脂組成物から形成される熱可塑性樹脂層(W)と、エラストマー組成物から形成されるエラストマー層(X)とを含む積層体が提供される。
【0011】
前記エラストマー組成物が、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、水素添加アクリロニトリル−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴムとポリ塩化ビニルとのブレンドゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴムとアクリルゴムとのブレンドゴム、塩素化ポリエチレン、フッ素ゴム、エピクロロヒドリンゴム、エチレン−プロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、シリコーンゴムおよびアクリルゴムからなる群より選択される少なくとも1種のエラストマーを含有することが好ましい。
【0012】
前記エラストマー組成物が、オニウム塩、アミン化合物およびエポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を含有することが好ましい。
また、本開示によれば、上記の成形品、または、上記の積層体からなる燃料用ホースまたは燃料用チューブが提供される。
また、本開示によれば、上記の成形品、または、上記の積層体からなる燃料用シール材が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、燃料バリア性を大きく損なうことなく、引張弾性率を低減させた熱可塑性樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の具体的な実施形態について詳細に説明するが、本開示は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0015】
本開示の熱可塑性樹脂組成物は、フッ素樹脂(A)および架橋フッ素ゴム(B)を含む。
【0016】
本開示の一実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、架橋フッ素ゴム(B)が、フッ素樹脂(A)の存在下、フッ素樹脂(A)の溶融条件下にて、フッ素ゴム(b)を、熱分解温度が210℃以上であるポリアミン化合物(c)および架橋促進剤(d)と共に、動的に架橋処理したものである。このように、動的な架橋処理において、特定のポリアミン化合物を用いることによって、燃料バリア性を大きく損なうことなく、引張弾性率を低減させた熱可塑性樹脂組成物が得られる。また、得られる熱可塑性樹脂組成物は、比較的小さい圧縮永久歪みを有する。
【0017】
また、本開示の一実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、上記熱可塑性樹脂組成物から形成される成形品について、赤外吸収スペクトル分析をした場合に、2360cm−1に現れる吸収ピークの高さに対する、3451cm−1に現れる吸収ピークの高さの比[K1]が、0.001以上であり、かつ、3035cm−1に現れる吸収ピークの高さに対する、1722cm−1に現れる吸収ピークの高さの比[K2]が、0.3以上であり、引張弾性率が、250MPa以下であることによっても、特徴づけることができる。このように、本開示の熱可塑性樹脂組成物が、特徴的な吸収ピークを示すものであることによって、燃料バリア性を大きく損なうことなく、引張弾性率を低減させた熱可塑性樹脂組成物が得られる。また、得られる熱可塑性樹脂組成物は、比較的小さい圧縮永久歪みを有する。
【0018】
比[K1]としては、好ましくは0.003以上であり、さらに好ましくは0.005以上であり、上限は限定されないが、通常は1.500以下であり、比[K2]としては、好ましくは0.4以上であり、さらに好ましくは0.5以上であり、特に好ましくは1.0以上であり、最も好ましくは1.5以上であり、上限は限定されないが、通常は5.0以下である。
【0019】
比[K1]および比[K2]は、次の方法により算出できる。熱可塑性樹脂組成物を、直径120mmの金型に入れ、300℃に加熱したプレス機にセットし、約2.9MPaの圧力で溶融プレスして、熱可塑性樹脂シートを作製する。この熱可塑性樹脂シートについて、フーリエ変換赤外分光光度計[FT−IR]を用いて透過法で赤外吸収スペクトルを測定し、下記の式により比[K1]および比[K2]を算出する。
比[K1]=H1a/H1b
比[K2]=H2a/H2b
H1a:3475cm−1と3415cm−1の各吸光度を結ぶ直線をベースラインとしたときの3451cm−1の吸光度高さ
H1b:2680cm−1と2030cm−1の各吸光度を結ぶ直線をベースラインとしたときの2360cm−1の吸光度高さ
H2a:1760cm−1と1660cm−1の各吸光度を結ぶ直線をベースラインとしたときの1722cm−1の吸光度高さ
H2b:3170cm−1と2900cm−1の各吸光度を結ぶ直線をベースラインとしたときの3035cm−1の吸光度高さ
【0020】
特徴的な吸収ピークを示す上記の熱可塑性樹脂組成物は、好ましくは、フッ素樹脂(A)の存在下、フッ素樹脂(A)の溶融条件下にて、フッ素ゴム(b)を、熱分解温度が210℃以上であるポリアミン化合物(c)および架橋促進剤(d)と共に、動的に架橋処理して、架橋フッ素ゴム(B)を得ることにより、製造することができる。各吸収ピークに帰属する結合の種類に基づくと、比[K1]が大きいほど、フッ素樹脂(A)が有する官能基とポリアミン化合物(c)との反応により形成される架橋構造が多く形成されたことを意味し、比[K2]が大きいほど、フッ素ゴム(b)の主鎖に多くの二重結合が形成され、形成された二重結合とポリアミン化合物(c)とが反応することによって、架橋構造が多く形成されたことを意味するものと推測される。すなわち、比[K1]および比[K2]により、熱可塑性樹脂組成物中の架橋密度が推測できるものと考えられる。このような推測の妥当性にかかわらず、本開示の一実施態様の熱可塑性樹脂組成物は、比[K1]および比[K2]が上記範囲にあることによって、燃料バリア性および引張弾性率のバランスに優れ、圧縮永久歪も小さいものである。
【0021】
上記引張弾性率は、好ましくは230MPa以下であり、より好ましくは200MPa以下である。上記引張弾性率の下限は、特に限定されないが、30MPa以上であってよい。
【0022】
上記引張弾性率は、次の方法により測定することができる。熱可塑性樹脂組成物を、直径120mmの金型に入れ、300℃に加熱したプレス機にセットし、約2.9MPaの圧力で溶融プレスして、厚さ0.5mmの熱可塑性樹脂シートを作製する。得られた熱可塑性シートから、ASTM D638 TypeV型ダンベルを用いて標線間距離3.18mmのダンベル状試験片を打ち抜く。得られたダンベル状試験片を用いて、オートグラフ(島津製作所社製 AGS−J 5kN)を使用して、ASTM D638に準じて、25℃において50mm/minの引張速度で引張試験を行い、引張弾性率を求める。
【0023】
本開示の熱可塑性樹脂組成物においては、また、燃料バリア性と、引張弾性率および圧縮永久歪みとのバランスの観点から、架橋フッ素ゴム(B)がフッ素樹脂(A)に分散した分散構造を有し、架橋フッ素ゴム(B)の平均分散粒子径が、5μm以下であることが好ましい。
【0024】
上記平均分散粒子径としては、好ましくは2μm以下であり、より好ましくは1μm以下であり、下限は特に限定されないが、0.01μm以上であってよい。
【0025】
上記平均分散粒子径とは、原子間力顕微鏡(AFM)、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)のいずれか、あるいはこれらを組み合わせて使用することにより得られた像を、画像解析ソフトウェア「ImageJ」で解析し、分散相の任意の粒子を20個選択してそれぞれ算出した円相当径の平均値である。たとえば、AFMを使用する場合、連続相のフッ素樹脂(A)と分散相の架橋フッ素ゴム(B)の表面情報から得られる差が明暗の像として得られる。また、SEMを使用する場合は、反射電子像または二次電子像で得られた像に対し分散相の架橋フッ素ゴム(B)が明確となるようにコントラストを強調、あるいは、明暗の調整または両方の調整を像に施すことによりAFM同様、分散相の架橋ゴム粒子径を読み取ることができる。TEMの場合もSEM同様、得られた像のコントラスト、あるいは明暗の調整または両方の調整を像に施すことによりAFMやSEM同様、分散相の架橋ゴム粒子径を読み取ることができる。これらは、各々の熱可塑性重合体組成物に対し、より確認しやすい方を選択すればよい。
【0026】
本開示の熱可塑性樹脂組成物において、フッ素樹脂(A)とフッ素ゴム(b)との質量比(フッ素樹脂(A)/フッ素ゴム(b))は、70/30未満であり、20/80以上である。上記質量比は、燃料バリア性と、引張弾性率および圧縮永久歪みとのバランスの観点から、好ましくは66/34以下であり、好ましくは30/70以上であり、より好ましくは45/55以上である。フッ素樹脂(A)が少なすぎると、燃料バリア性が不十分となるおそれがあり、多すぎると、引張弾性率および圧縮永久歪みが大きくなりすぎるおそれがある。
【0027】
本開示の熱可塑性樹脂組成物において、フッ素樹脂(A)と架橋フッ素ゴム(B)との質量比(フッ素樹脂(A)/架橋フッ素ゴム(B))は、70/30未満であり、20/80以上である。上記質量比は、燃料バリア性と、引張弾性率および圧縮永久歪みとのバランスの観点から、好ましくは65/35以下であり、好ましくは30/70以上であり、より好ましくは45/55以上である。フッ素樹脂(A)が少なすぎると、燃料バリア性が不十分となるおそれがあり、多すぎると、引張弾性率および圧縮永久歪みが大きくなりすぎるおそれがある。
【0028】
本開示において、熱可塑性樹脂組成物中のフッ素樹脂(A)と架橋フッ素ゴム(B)との質量比は、たとえば、熱可塑性樹脂組成物を調製するために用いたフッ素樹脂(A)の質量と、フッ素ゴム(b)、ポリアミン化合物(c)および架橋促進剤(d)の各質量の合計との比から算出することができる。
【0029】
本開示の熱可塑性樹脂組成物において、フッ素樹脂(A)とフッ素ゴム(b)との体積比(フッ素樹脂(A)/フッ素ゴム(b))は、燃料バリア性と、引張弾性率および圧縮永久歪みとのバランスの観点から、好ましくは69/31以下であり、より好ましくは63/37以下であり、好ましくは18/82以上であり、より好ましくは28/72以上であり、さらに好ましくは42/58以上である。フッ素樹脂(A)が少なすぎると、燃料バリア性が不十分となるおそれがあり、多すぎると、引張弾性率および圧縮永久歪みが大きくなりすぎるおそれがある。
【0030】
本開示の熱可塑性樹脂組成物において、フッ素樹脂(A)と架橋フッ素ゴム(B)との体積比(フッ素樹脂(A)/架橋フッ素ゴム(B))は、燃料バリア性と、引張弾性率および圧縮永久歪みとのバランスの観点から、好ましくは68/32以下であり、より好ましくは63/37以下であり、好ましくは18/82以上であり、より好ましくは27/73以上であり、さらに好ましくは42/58以上である。フッ素樹脂(A)が少なすぎると、燃料バリア性が不十分となるおそれがあり、多すぎると、引張弾性率および圧縮永久歪みが大きくなりすぎるおそれがある。
【0031】
本開示において、熱可塑性樹脂組成物中のフッ素樹脂(A)と架橋フッ素ゴム(B)との体積比は、たとえば、熱可塑性樹脂組成物を調製するために用いたフッ素樹脂(A)の質量をその比重で除した値と、フッ素ゴム(b)の質量をその比重で除した値、ポリアミン化合物(c)の質量をその比重で除した値および架橋促進剤(d)の質量をその比重で除した値の合計との比から算出することができる。また、本開示の熱可塑性樹脂組成物において、架橋フッ素ゴム(B)がフッ素樹脂(A)に等方的かつ均質に分散している場合には、フッ素樹脂(A)と架橋フッ素ゴム(B)との体積比は、原子間力顕微鏡(AFM)、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)のいずれか、あるいはこれらを組み合わせて使用することにより得られた像から、連続相のフッ素樹脂(A)と分散相の架橋フッ素ゴム(B)との面積比を算出し、それを1.5乗することによっても算出することができる。
【0032】
本開示の熱可塑性樹脂組成物の燃料透過係数は、好ましくは30(g・mm)/(m・day)以下であり、より好ましくは25(g・mm)/(m・day)以下である。上記燃料透過係数の下限は、特に限定されないが、燃料バリア性と、引張弾性率および圧縮永久歪みとのバランスを考慮して、4(g・mm)/(m・day)以上であってよい。
【0033】
上記燃料透過係数は、次の方法により測定することができる。熱可塑性樹脂組成物を、直径120mmの金型に入れ、300℃に加熱したプレス機にセットし、約2.9MPaの圧力で溶融プレスして、熱可塑性樹脂シートを作製する。20mLの容積を有するSUS製容器(開放部面積1.26×10−3)に模擬燃料であるCE10(トルエン/イソオクタン/エタノール=45/45/10容量%)を18mL入れて、熱可塑性樹脂シートを容器開放部にセットして密閉することで、試験体とする。該試験体を恒温装置(60℃)に入れ、試験体の質量を測定し、単位時間あたりの質量減少が一定となったところで下記の式により燃料透過係数を求める。
【数1】
【0034】
フッ素樹脂(A)
フッ素樹脂(A)は、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)単位およびテトラフルオロエチレン(TFE)単位を含む共重合体である。
【0035】
フッ素樹脂(A)のCTFE単位の含有量は、燃料バリア性、引張弾性率および圧縮永久歪みのバランスにより一層優れ、耐熱性にも優れる熱可塑性樹脂組成物が得られることから、全単量体単位に対して、好ましくは10〜90モル%、より好ましくは15〜60モル%、さらに好ましくは18〜40モル%である。CTFE単位が少なすぎると、燃料バリア性が不十分となるおそれがあり、多すぎると、耐熱性が不十分となるおそれがある。一方、フッ素樹脂(A)のTFE単位の含有量は、燃料バリア性、引張弾性率および圧縮永久歪みのバランスにより一層優れ、耐熱性にも優れる熱可塑性樹脂組成物が得られることから、全単量体単位に対して、好ましくは10〜90モル%であり、より好ましくは40〜85モル%であり、さらに好ましくは60〜82モル%である。TFE単位が少なすぎると、耐熱性が不十分となるおそれがあり、多すぎると、燃料バリア性が不十分となるおそれがある。
【0036】
フッ素樹脂(A)において、CTFE単位とTFE単位との含有割合は、燃料バリア性、引張弾性率および圧縮永久歪みのバランスにより一層優れ、耐熱性にも優れる熱可塑性樹脂組成物が得られることから、モル比で、好ましくは10/90〜90/10であり、より好ましくは15/85〜60/40であり、さらに好ましくは18/82〜40/60である。
【0037】
フッ素樹脂(A)は、燃料バリア性、引張弾性率および圧縮永久歪みのバランスにより一層優れ、耐熱性および耐クラック性にも優れる熱可塑性樹脂組成物が得られることから、CTFE単位、TFE単位、ならびに、CTFEおよびTFEと共重合可能な単量体(α)に由来する単量体(α)単位を含むものが好ましい。
【0038】
単量体(α)としては、CTFEおよびTFEと共重合可能な単量体であれば特に限定されず、エチレン、ビニリデンフルオライド(VdF)、CF=CF−ORf(式中、Rfは、炭素数1〜8のパーフルオロアルキル基)で表されるパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)、CX=CX(CF(式中、X、XおよびXは同一もしくは異なって、水素原子またはフッ素原子;Xは、水素原子、フッ素原子または塩素原子;nは、1〜10の整数)で表されるビニル単量体、CF=CF−OCH−Rf(式中、Rfは、炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基)で表されるアルキルパーフルオロビニルエーテル誘導体などがあげられ、なかでも、PAVE、上記ビニル単量体およびアルキルパーフルオロビニルエーテル誘導体からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、PAVEおよびヘキサフルオロプロピレン(HFP)からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましい。
【0039】
上記PAVEとしては、CF=CF−ORf(式中、Rfは炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)であることが好ましく、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)(PMVE)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)(PEVE)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)、パーフルオロ(ブチルビニルエーテル)などがあげられ、なかでもPMVE、PEVEおよびPPVEからなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0040】
上記アルキルパーフルオロビニルエーテル誘導体としては、Rfが炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基であるものが好ましく、CF=CF−OCH−CFCFがより好ましい。
【0041】
フッ素樹脂(A)においては、燃料バリア性、引張弾性率および圧縮永久歪みのバランスにより一層優れ、耐熱性および耐クラック性にも優れる熱可塑性樹脂組成物が得られることから、全単量体単位に対して、CTFE単位およびTFE単位の合計の含有量が、好ましくは90〜99.9モル%であり、より好ましくは95〜99.5モル%であり、単量体(α)単位が、好ましくは0.1〜10モル%であり、より好ましくは0.5〜5モル%である。単量体(α)単位が少なすぎると、成形性および耐クラック性が不十分となるおそれがあり、多すぎると、燃料バリア性および耐熱性が不十分となるおそれがある。
【0042】
上述したフッ素樹脂(A)の各単量体単位の含有量は、NMR、FT−IR、元素分析、蛍光X線分析を単量体の種類によって適宜組み合わせることで算出できる。
【0043】
フッ素樹脂(A)の融点は、燃料バリア性、引張弾性率および圧縮永久歪みのバランスにより一層優れ、耐熱性にも優れる熱可塑性樹脂組成物が得られることから、好ましくは150〜340℃であり、より好ましくは215〜290℃であり、さらに好ましくは225〜280℃であり、特に好ましくは235〜260℃である。融点は、示差走査熱量計〔DSC〕を用いて10℃/分の速度で昇温したときの融解ピークに対応する温度である。融点が低すぎると、耐熱性が不十分となるおそれがあり、高すぎると、成形温度が高温となり、ポリアミン化合物(c)の一部が分解して成形不良を生じるおそれがある。
【0044】
フッ素樹脂(A)のメルトフローレート(MFR)は、0.01〜100g/10分であることが好ましい。MFRは、メルトインデクサー(東洋精機製作所社製)を用い、297℃において、5kg荷重下で直径2mm、長さ8mmのノズルから単位時間(10分間)あたりに流出するポリマーの質量(g)を測定することで得られる。
【0045】
フッ素樹脂(A)は、また、ポリマーの主鎖末端または側鎖末端にカルボニル基、オレフィン基およびアミノ基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を有する共重合体である。
【0046】
上記カルボニル基とは、−C(=O)−を有する官能基である。
【0047】
具体的には、例えば、
カーボネート基[−O−C(=O)−OR(式中、Rは炭素原子数1〜20のアルキル基またはエーテル結合性酸素原子を含む炭素原子数2〜20のアルキル基である)]、
ハロホルミル基[−C(=O)X、Xはハロゲン原子]、
ホルミル基[−C(=O)H]、
式:−R−C(=O)−R(式中、Rは、炭素原子数1〜20の2価の有機基であり、Rは、炭素原子数1〜20の1価の有機基である)で示される基、
式:−O−C(=O)−R(式中、Rは、炭素原子数1〜20のアルキル基またはエーテル結合性酸素原子を含む炭素原子数2〜20のアルキル基である)で示される基、
カルボキシル基[−C(=O)OH]、
アルコキシカルボニル基[−C(=O)OR(式中、Rは、炭素原子数1〜20の1価の有機基である)]、
カルバモイル基[−C(=O)NR(式中、RおよびRは、同じであっても異なっていてもよく、水素原子または炭素原子数1〜20の1価の有機基である)]、
酸無水物結合[−C(=O)−O−C(=O)−]、
イソシアネート基[−N=C=O]、
などをあげることができる。
【0048】
の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基などがあげられる。上記Rの具体例としては、メチレン基、−CF−基、−C−基などがあげられ、Rの具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基などがあげられる。Rの具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基などがあげられる。また、RおよびRの具体例としては、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、フェニル基などがあげられる。
【0049】
これらカルボニル基の中でも、燃料バリア性、引張弾性率および圧縮永久歪みのバランスにより一層優れる熱可塑性樹脂組成物が得られ、フッ素樹脂への導入が容易であることから、カルボキシル基、ハロホルミル基、アルコキシカルボニル基およびカーボネート基からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、−COOH、−OC(=O)OCHCHCH、−COFおよび−OC(=O)OCH(CHからなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましい。
【0050】
オレフィン基(Olefinic group)とは、炭素−炭素二重結合を有する官能基である。オレフィン基としては、下記式:
−CR10=CR1112
(式中、R10、R11およびR12は、同じであっても異なっていてもよく、水素原子、フッ素原子または炭素原子数1〜20の1価の有機基である。)で表される官能基が挙げられ、−CF=CF、−CH=CF、−CF=CHF、−CF=CHおよび−CH=CHからなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0051】
アミノ基とは、アンモニア、第一級または第二級アミンから水素を除去した1価の官能基である。アミノ基としては、下記式:
−NR1314
(式中、R13およびR14は、同じであっても異なっていてもよく、水素原子または炭素原子数1〜20の1価の有機基である。)で表される官能基が挙げられ、−NH、−NH(CH)、−N(CH、−NH(CHCH)、−N(Cおよび−NH(C)からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0052】
フッ素樹脂(A)の官能基の個数は、赤外吸収スペクトル分析により測定でき、たとえば、特公昭37−3127号公報および国際公開第99/45044号に記載されている方法にて測定することができる。赤外分光光度計を用いてフッ素樹脂(A)のフィルムシートの赤外吸収スペクトル分析し、官能基特有の周波数の吸収帯からその官能基の数を測定する場合、たとえば、−COF末端は1884cm−1の吸収帯、−COOH末端は1813cm−1と1775cm−1の吸収帯、−COOCH末端は1795cm−1の吸収帯、−CONH末端は3438cm−1の吸収帯、−CHOH末端は3648cm−1の吸収帯、−CF=CF末端は1790cm−1、カーボネート基〔−OC(=O)O−〕を含む末端は1810〜1815cm−1の吸収帯から計算することができる。各吸収帯に現れるピークの吸光度は、たとえば、得られた赤外吸収スペクトルをPerkin−Elmer Spectrum for windows Ver.1.4Cを用いて自動でベースラインを判定させることにより測定できる。
【0053】
フッ素樹脂に上記官能基を導入する方法としては、特に限定されないが、例えば、フッ素樹脂重合時に上記官能基を有する単量体を共重合する方法、上記官能基または上記官能基に変換できる官能基を有する重合開始剤を使用して重合を行う方法、フッ素樹脂に高分子反応で上記官能基を導入する方法、酸素共存下でポリマー主鎖を熱分解する方法、二軸押出機など強いせん断力を加えることのできる装置を用いてフッ素樹脂の末端を変換させる方法などをあげることができる。
【0054】
上記官能基を有する単量体としては、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水イタコン酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸、メサコン酸、無水メサコン酸、アコニット酸、無水アコニット酸などの脂肪族不飽和カルボン酸があげられる。
【0055】
フッ素樹脂(A)の上記官能基の個数は、燃料バリア性、引張弾性率および圧縮永久歪みのバランスにより一層優れる熱可塑性樹脂組成物が得られ、成形時の発泡が回避できることから、フッ素樹脂(A)を構成する炭素原子100万個当たり20〜5000個であることが好ましく、30〜4000個であることがより好ましく、40〜3000個であることがさらに好ましい。
【0056】
なお、本開示で用いる上記官能基を有するフッ素樹脂(A)は、1つのポリマーにおける主鎖の片末端、両末端または側鎖に上記官能基を有する分子のみで構成されているものだけでなく、ポリマーの主鎖の片末端、両末端または側鎖に上記官能基を有する分子と、上記官能基を含まない分子との混合物であってもよい。
【0057】
架橋フッ素ゴム(B)
架橋フッ素ゴム(B)は、フッ素樹脂(A)の存在下、フッ素樹脂(A)の溶融条件下にて、フッ素ゴム(b)を、熱分解温度が210℃以上であるポリアミン化合物(c)および架橋促進剤(d)と共に、動的に架橋処理したものであることが好ましい。
【0058】
動的に架橋処理するとは、バンバリーミキサー、加圧ニーダー、押出機などを使用して、未架橋のフッ素ゴム(b)を溶融混練と同時に動的に架橋させることをいう。これらの中でも、高剪断力を加えることができる点で、二軸押出機などの押出機であることが好ましい。動的に架橋処理することで、フッ素樹脂(A)および架橋フッ素ゴム(B)の相構造を制御することができる。
【0059】
溶融条件下に架橋処理するとは、フッ素樹脂(A)の融点以上の温度で架橋処理することを意味する。架橋処理の温度は、好ましくはフッ素樹脂(A)の融点以上であり、より好ましくは330℃以下であり、さらに好ましくは320℃以下である。フッ素樹脂(A)の融点以上の温度であれば、150℃以上であってもよいが、好ましくは220℃以上であり、より好ましくは260℃以上である。混練の温度を上記範囲とすることにより、フッ素樹脂(A)と架橋フッ素ゴム(B)とを十分に混練できると同時に、未架橋のフッ素ゴム(b)の熱劣化を抑制することができる。
【0060】
本開示の熱可塑性樹脂組成物においては、特定のポリアミン化合物(c)と共に動的架橋を行うことにより架橋フッ素ゴム(B)を得るものであることから、上記のような比較的高温で動的架橋を行う場合であっても、未架橋のフッ素ゴム(b)の架橋が十分に進行し、なおかつ、フッ素樹脂(A)と架橋フッ素ゴム(B)とがお互いに十分に分散する。
【0061】
本開示の熱可塑性樹脂組成物において、フッ素樹脂(A)が連続相を形成しかつ架橋フッ素ゴム(B)が分散相を形成していてもよいし、フッ素樹脂(A)および架橋フッ素ゴム(B)が共連続相構造を形成していてもよいが、フッ素樹脂(A)が連続相を形成しかつ架橋フッ素ゴム(B)が分散相を形成していることが好ましい。また、フッ素樹脂(A)が連続相を形成し、かつ架橋フッ素ゴム(B)が分散相を形成する構造の一部に、フッ素樹脂(A)と架橋フッ素ゴム(B)との共連続相構造を含んでいてもよい。
【0062】
未架橋のフッ素ゴム(b)が分散当初マトリックスを形成していた場合でも、架橋反応により未架橋のフッ素ゴム(b)が架橋フッ素ゴム(B)に変化すると、架橋フッ素ゴム(B)の方が未架橋のフッ素ゴム(b)よりも溶融粘度が高いので、架橋フッ素ゴム(B)が分散相を形成するか、フッ素樹脂(A)および架橋フッ素ゴム(B)が共連続相構造を形成することになる。
【0063】
架橋フッ素ゴム(B)は、未架橋のフッ素ゴム(b)を架橋することにより得られる。
【0064】
フッ素ゴム(b)としては、パーフルオロゴム、部分フッ素化ゴムおよび含フッ素熱可塑性エラストマーからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、部分フッ素化ゴムであることがより好ましい。
【0065】
フッ素ゴム(b)は、例えば、100℃で測定したムーニー粘度ML(1+10)が10〜100であることが好ましい。上記ムーニー粘度ML(1+10)は、ALPHA TECHNOLOGIES社製 ムーニー粘度計MV2000E型を用いて、ASTM D−1646に準拠して測定することができる。
【0066】
フッ素ゴム(b)としては、VdF系フッ素ゴム、TFE/プロピレン系フッ素ゴム、TFE/プロピレン/VdF系フッ素ゴム、エチレン/HFP系フッ素ゴム、エチレン/HFP/VdF系フッ素ゴム、エチレン/HFP/TFE系フッ素ゴムなどがあげられる。なかでも、VdF系フッ素ゴムおよびTFE/プロピレン系フッ素ゴムからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、VdF/TFE/HFP系フッ素ゴムであることがより好ましい。
【0067】
上記VdF系フッ素ゴムは、VdF20〜85モル%と、VdFと共重合可能な少なくとも1種の他のモノマー80〜15モル%とからなる共重合体であることが好ましい。より好ましくは、VdF25〜80モル%と、VdFと共重合可能な少なくとも1種の他のモノマー75〜20モル%とからなる共重合体である。
【0068】
上記VdFと共重合可能な少なくとも1種の他のモノマーとしては、TFE、HFP、フルオロアルキルビニルエーテル、CTFE、トリフルオロエチレン、トリフルオロプロピレン、ペンタフルオロプロピレン、トリフルオロブテン、テトラフルオロイソブテン、ヘキサフルオロイソブテン、フッ化ビニル、一般式(1):CH=CFRf11(式中、Rf11は炭素数1〜12の直鎖または分岐したフルオロアルキル基)で表されるフルオロモノマー、一般式(2):CH=CH−(CF−X21(式中、X21はHまたはFであり、nは3〜10の整数である。)で表されるフルオロモノマー、架橋部位を与えるモノマーなどのモノマー;エチレン、プロピレン、アルキルビニルエーテルなどの非フッ素化モノマーがあげられる。これらをそれぞれ単独で、または、任意に組み合わせて用いることができる。これらのなかでも、TFE、HFP、フルオロアルキルビニルエーテルおよびCTFEからなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。フルオロアルキルビニルエーテルとしては、CF=CF−ORf(式中、Rfは炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)が好ましい。
【0069】
架橋部位を与える単量体としては、たとえば、一般式(3):
CX=CX−RfCHR3131 (3)
(式中、Xは、同じであっても異なっていてもよく、水素原子、フッ素原子または−CH、Rfは、フルオロアルキレン基、パーフルオロアルキレン基、フルオロポリオキシアルキレン基またはパーフルオロポリオキシアルキレン基、R31は、水素原子または−CH、X31は、ヨウ素原子または臭素原子である)で表されるヨウ素または臭素含有単量体、一般式(4):
CF=CFO(CFCF(CF)O)(CF−X41 (4)
(式中、mは、0〜5の整数、nは、1〜3の整数、X41は、シアノ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、臭素原子である)で表される単量体などがあげられ、これらをそれぞれ単独で、または任意に組合わせて用いることができる。
【0070】
VdF系フッ素ゴムの具体例としては、VdF/HFP系ゴム、VdF/TFE/HFP系ゴム、VdF/CTFE系ゴム、VdF/CTFE/TFE系ゴム、VdF/一般式(1)で表されるフルオロモノマー系ゴム、VdF/一般式(1)で表されるフルオロモノマー/TFE系ゴム、VdF/PMVE系ゴム、VdF/PMVE/TFE系ゴム、VdF/PMVE/TFE/HFP系ゴムなどがあげられる。VdF/一般式(1)で表されるフルオロモノマー系ゴムとしては、VdF/CH=CFCF系ゴムおよびVdF/CH=CFCF/HFP系ゴムからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、VdF/一般式(1)で表されるフルオロモノマー/TFE系ゴムとしては、VdF/TFE/CH=CFCF系ゴムが好ましい。
【0071】
VdF/CH=CFCF系ゴムは、VdF単位/CH=CFCF単位がモル比で、好ましくは40/60〜99.5/0.5であり、より好ましくは50/50〜85/15である。
【0072】
TFE/プロピレン系フッ素ゴムは、TFE単位/プロピレン単位がモル比で、好ましくは45/55〜70/30である。
【0073】
VdF/HFP系フッ素ゴムは、VdF単位/HFP単位がモル比で80/20〜65/35であることが好ましい。
【0074】
VdF/TFE/HFP系フッ素ゴムは、VdF単位/TFE単位/HFP単位がモル比で(25〜65)/(15〜45)/(20〜40)であることが好ましい。
【0075】
上述したフッ素ゴム(b)の各単量体単位の含有量は、NMR、FT−IR、元素分析、蛍光X線分析を単量体の種類によって適宜組み合わせることで算出できる。
【0076】
ポリアミン化合物(c)
本開示の熱可塑性樹脂組成物は、熱分解温度が210℃以上であるポリアミン化合物(c)を含む。ポリアミン化合物(c)とは、1つの分子中に2つ以上のアミノ基を有する化合物である。ポリアミン化合物(c)は、フッ素ゴム(b)の架橋剤として働くのみならず、フッ素樹脂(A)の官能基とも反応することで、燃料バリア性を大きく損なうことなく、引張弾性率を低減させた熱可塑性樹脂組成物が得られるものと推測される。
【0077】
熱分解温度が低すぎるポリアミン化合物を用いると、熱可塑性樹脂組成物の製造工程において一部が分解するため、フッ素ゴム(b)の架橋が十分に進行しないばかりでなく、燃料バリア性を大きく損なうことなく、引張弾性率を低減させた熱可塑性樹脂組成物を得ることができない。ポリアミン化合物(c)の熱分解温度は、210℃以上であり、好ましくは250℃以上であり、より好ましくは275℃以上である。熱分解温度の上限は特に限定されないが、通常400℃以下である。
【0078】
上記熱分解温度とは、ポリアミン化合物の熱重量分析[TG](昇温速度10℃/min、乾燥空気下)において、重量減少量が初期重量の1%に到達した時点の温度である。
【0079】
ポリアミン化合物(c)としては、具体的には、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(以下、BAPPとする)、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン(以下、6FBAPPとする)、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン(以下、BAPSとする)、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン(以下、DDSとする)、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン(以下、3,3’−DASとする)、4,4’−[(1,3−フェニレン)ビス(ジメチルメチレン)]ビスアニリン(以下、ビスアニリン−Mとする)、4,4’−[(1,4−フェニレン)ビス(ジメチルメチレン)]ビスアニリン(以下、ビスアニリン−Pとする)、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)−2−フェニルベンゼン(以下、P−TPE−Qとする)、1,4−ビス(4’−アミノフェノキシ)−2,3,5−トリメチルベンゼン(以下、TMBABとする)、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(以下、TPE−Rとする)、トリス(4−アミノフェニル)メタン、テトラキス(4−アミノフェニル)メタンなどが挙げられる。これらのポリアミン化合物(c)は単独で用いてもよく、また他の構造を有するポリアミン化合物(c)と任意に組み合わせて用いてもよい。その中でも、燃料バリア性、引張弾性率および圧縮永久歪みのバランスにより一層優れる熱可塑性樹脂組成物が得られることから、BAPP、6FBAPP、BAPS、DDS、3,3’−DAS、P−TPE−Q、ビスアニリン−P、TMBAB、TPE−Rが好ましく、BAPP、6FBAPP、BAPS、DDS、3,3’−DAS、P−TPE−Qがより好ましく、BAPPがさらに好ましい。
【0080】
ポリアミン化合物(c)の配合量としては、フッ素ゴム(b)100質量部に対して、0.1〜10質量部であることが好ましい。配合量が少なすぎると、フッ素ゴム(b)の架橋反応ならびにフッ素樹脂(A)の官能基との反応が十分に進行せず、燃料バリア性、引張弾性率および圧縮永久歪みのバランスに優れる熱可塑性樹脂組成物が得られないおそれがある。また、配合量が多すぎると、ポリアミン化合物(c)の分散が不十分となり、発泡などの成形不良発生や燃料バリア性低下のおそれがある。ポリアミン化合物(c)の配合量は、より好ましくは0.5〜5質量部であり、さらに好ましくは1〜5質量部である。
【0081】
また、本開示の熱可塑性樹脂組成物は、フッ素ゴム(b)100質量部に対してポリオール架橋剤やポリヒドロキシ化合物が1質量部以下であることが好ましい。ポリオール架橋剤やポリヒドロキシ化合物が多すぎると、ポリアミン化合物(c)によるフッ素ゴム(b)の架橋反応ならびにフッ素樹脂(A)の官能基との反応を阻害し、燃料バリア性、引張弾性率および圧縮永久歪みのバランスに優れる熱可塑性樹脂組成物が得られないおそれがある。ポリオール架橋剤やポリヒドロキシ化合物の含有量は、フッ素ゴム(b)100質量部に対して、0.1質量部以下がより好ましく、全く含有しないことがさらに好ましい。
【0082】
架橋促進剤(d)
ポリアミン化合物(c)と共に用いられる架橋促進剤(d)としては、従来はポリオール架橋系の架橋を促進するために用いられてきた架橋促進剤を用いることができる。
【0083】
具体的には、架橋促進剤(d)として、オニウム化合物を用いることができる。オニウム化合物としては特に限定されず、たとえば、第4級アンモニウム塩などのアンモニウム化合物、第4級ホスホニウム塩などのホスホニウム化合物、オキソニウム化合物、スルホニウム化合物、環状アミン、1官能性アミン化合物などがあげられ、これらの中でも第4級アンモニウム塩または第4級ホスホニウム塩が好ましく、第4級アンモニウム塩がより好ましい。
【0084】
第4級アンモニウム塩としては特に限定されず、たとえば、8−メチル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムクロリド、8−メチル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムアイオダイド、8−メチル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムハイドロキサイド、8−メチル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムメチルスルフェート、8−エチル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムブロミド、8−プロピル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムブロミド、8−ドデシル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムクロリド、8−ドデシル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムハイドロキサイド、8−エイコシル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムクロリド、8−テトラコシル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムクロリド、8−ベンジル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムクロリド(以下、DBU−Bとする)、8−ベンジル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムハイドロキサイド、8−フェネチル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムクロリド、8−(3−フェニルプロピル)−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムクロリドなどがあげられる。これらの中でも、架橋性、架橋物の物性の点から、DBU−Bが好ましい。
【0085】
また、第4級ホスホニウム塩としては特に限定されず、たとえば、テトラブチルホスホニウムクロリド、ベンジルトリフェニルホスホニウムクロリド(以下、BTPPCとする)、ベンジルトリメチルホスホニウムクロリド、ベンジルトリブチルホスホニウムクロリド、トリブチルアリルホスホニウムクロリド、トリブチル−2−メトキシプロピルホスホニウムクロリド、ベンジルフェニル(ジメチルアミノ)ホスホニウムクロリド、メチルトリフェニルホスホニウムブロミド、アリルトリフェニルホスホニウムブロミド、(ブロモメチル)トリフェニルブロミド、テトラフェニルホスホニウムブロミドなどをあげることができ、これらの中でも、架橋性、架橋物の物性の点からBTPPCが好ましい。
【0086】
また、架橋促進剤として、特開平11−147891号公報に開示されている塩素フリー架橋促進剤を用いることもできる。
【0087】
架橋促進剤(d)の配合量としては、フッ素ゴム(b)100質量部に対して、好ましくは0.01〜10質量部であり、より好ましくは0.1〜3質量部であり、さらに好ましくは0.1〜1.0質量部である。架橋促進剤(d)が少なすぎると、ポリアミン化合物(c)によるフッ素ゴム(b)の架橋反応ならびにフッ素樹脂(A)の官能基との反応が十分に進行せず、燃料バリア性、引張弾性率および圧縮永久歪みのバランスに優れる熱可塑性樹脂組成物が得られないおそれがある。また、配合量が多すぎると、分散不良が生じ、やはり燃料バリア性、引張弾性率および圧縮永久歪みのバランスにより一層優れる熱可塑性樹脂組成物が得られないおそれがある。
【0088】
架橋フッ素ゴム(B)は、燃料バリア性、引張弾性率および圧縮永久歪みのバランスにより一層優れる熱可塑性樹脂組成物が得られることから、ポリアミン化合物(c)および架橋促進剤(d)に加えて、受酸剤と共に、動的に架橋処理したものであることも好ましい。
【0089】
受酸剤としては、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、水酸化バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、生石灰、消石灰、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、フタル酸カルシウム、亜リン酸カルシウム、酸化錫、塩基性亜リン酸錫を挙げることができ、なかでも、酸化マグネシウムが好ましい。
【0090】
受酸剤の配合量としては、フッ素ゴム(b)100質量部に対して、好ましくは0.01〜10質量部であり、より好ましくは0.1〜8質量部であり、さらに好ましくは0.5〜6質量部である。
【0091】
本開示の熱可塑性樹脂組成物は、静電荷が蓄積して引火することを防止するために、導電性を有することも好ましい。この観点から、本開示の熱可塑性樹脂組成物は、カーボンブラック、アセチレンブラックなどの導電性材料を含むことが好ましい。導電性材料は、本開示の熱可塑性樹脂組成物に対して、好ましくは0.01〜20質量%であり、より好ましくは1〜18質量%であり、さらに好ましくは5〜15質量%である。
【0092】
また、本開示の熱可塑性樹脂組成物には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリウレタンなどの他の重合体、タルク、セライト、クレー、酸化チタン、カーボンブラック、硫酸バリウムなどの無機充填材、顔料、難燃剤、滑剤、光安定剤、耐候安定剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、離型剤、発泡剤、香料、オイル、柔軟化剤などを、所期の効果に影響を及ぼさない範囲で添加することができる。
【0093】
本開示は、上記の熱可塑性樹脂組成物の製造方法であって、フッ素樹脂(A)の存在下、フッ素樹脂(A)の溶融条件下にて、フッ素ゴム(b)を、熱分解温度が210℃以上であるポリアミン化合物(c)および架橋促進剤(d)と共に、動的に架橋処理する工程を含む熱可塑性樹脂組成物の製造方法にも関する。
【0094】
上記の工程は、また、フッ素ゴム(b)および架橋促進剤(d)を混練して、フッ素ゴム組成物を得る工程、フッ素樹脂(A)の融点以上の温度で、フッ素樹脂(A)およびポリアミン化合物(c)を混練して、フッ素樹脂組成物を得る工程、ならびに、該フッ素樹脂組成物および前記フッ素ゴム組成物を、フッ素樹脂(A)の融点以上の温度で、混練する工程を含むことができる。
【0095】
上記の工程は、また、フッ素ゴム(b)および架橋促進剤(d)を混練して、フッ素ゴム組成物を得る工程、フッ素樹脂(A)の融点以上の温度で、フッ素樹脂(A)および前記フッ素ゴム組成物を混練して、熱可塑性樹脂組成物中間体を得る工程、ならびに、該熱可塑性樹脂組成物中間体およびポリアミン化合物(c)を、フッ素樹脂(A)の融点以上の温度で、混練する工程を含むことができる。
【0096】
上記の工程は、また、フッ素ゴム(b)、ポリアミン化合物(c)および架橋促進剤(d)を混練して、フッ素ゴム組成物を得る工程、ならびに、フッ素樹脂(A)の融点以上の温度で、該フッ素ゴム組成物およびフッ素樹脂(A)を混練する工程を含むことができる。このとき、必要に応じて、ポリアミン化合物(c)と架橋促進剤(d)を一旦溶融させ融点降下を起こさせた固溶体を用いてもよい。
【0097】
いずれの工程においても、最後の混練工程において、フッ素ゴム(b)が動的に架橋され、フッ素樹脂(A)および架橋フッ素ゴム(B)を含む熱可塑性樹脂組成物を得ることができる。
【0098】
上記のいずれの混練にも、バンバリーミキサー、加圧ニーダー、押出機などを用いることができる。
【0099】
成形品
本開示の成形品は、上記の熱可塑性樹脂組成物から形成される。上記成形品の形状としては、特に限定されず、チューブ、ホース、シート、フィルムなどがあげられる。
【0100】
上記成形品は、一般の成形加工方法や成形加工装置などを用いて、製造することができる。成形加工方法としては、例えば、射出成形、押出成形、圧縮成形、ブロー成形、カレンダー成形、真空成形などの任意の方法を採用することができる。
【0101】
また、上記熱可塑性樹脂組成物の表面に付着している水分やオリゴマー等を飛ばし、外観不良なく安定した成形品を得るために、上記成形品を製造する方法は、上記熱可塑性樹脂組成物を成形する工程の前に、上記熱可塑性樹脂組成物を加熱乾燥する工程を含むことが好ましい。加熱乾燥の温度は、80℃以上であることが好ましく、110℃以上であることがより好ましく、130℃以上であることがさらに好ましく、150℃以上であることが特に好ましい。加熱乾燥の温度は、フッ素樹脂(A)の融点以下であることが好ましく、230℃以下であることがより好ましく、210℃以下であることがさらに好ましく、200℃以下であることが特に好ましい。
【0102】
上記成形品を製造した後、得られた上記成形品を加熱することにより、上記成形品中の揮発成分を除去することもできる。
【0103】
積層体
本開示の積層体は、上記の熱可塑性樹脂組成物から形成される熱可塑性樹脂層(W)と、エラストマー組成物から形成されるエラストマー層(X)を含む。
【0104】
上記エラストマー組成物は、エラストマーを含むものであり、エラストマーとしては、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、水素添加アクリロニトリル−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴムとポリ塩化ビニルとのブレンドゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴムとアクリルゴムとのブレンドゴム、塩素化ポリエチレン、フッ素ゴム、エピクロロヒドリンゴム、エチレン−プロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、アクリルゴム、シリコーンゴム、ブチルゴム、スチレン−ブタジエンゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合体、α,β−不飽和ニトリル−共役ジエン共重合体ゴム、α,β−不飽和ニトリル−共役ジエン共重合体ゴムの水素化物などがあげられる。
【0105】
上記エラストマー組成物は、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、水素添加アクリロニトリル−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴムとポリ塩化ビニルとのブレンドゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴムとアクリルゴムとのブレンドゴム、塩素化ポリエチレン、フッ素ゴム、エピクロロヒドリンゴム、エチレン−プロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、シリコーンゴムおよびアクリルゴムからなる群より選択される少なくとも1種のエラストマーを含有することが好ましい。なかでも、上記エラストマー組成物は、耐熱性、耐油性、耐候性、押し出し成型性の点から、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、水素添加アクリロニトリル−ブタジエンゴム、フッ素ゴムおよびエピクロロヒドリンゴムからなる群より選択される少なくとも1種のエラストマーを含有することがより好ましく、フッ素ゴムを含有することがさらに好ましい。
【0106】
上記エラストマー組成物に含有されるフッ素ゴムとしては、VdF系フッ素ゴム、TFE/プロピレン系フッ素ゴム、TFE/プロピレン/VdF系フッ素ゴム、エチレン/HFP系フッ素ゴム、エチレン/HFP/VdF系フッ素ゴム、エチレン/HFP/TFE系フッ素ゴムなどがあげられる。なかでも、VdF系フッ素ゴムおよびTFE/プロピレン系フッ素ゴムからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、VdF/HFP系フッ素ゴムおよびVdF/TFE/HFP系フッ素ゴムからなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましい。VdF/TFE/HFP系フッ素ゴムは、VdF単位/TFE単位/HFP単位がモル比で(25〜65)/(15〜45)/(20〜40)であることが好ましい。
【0107】
上記エラストマー組成物は、熱可塑性樹脂層(W)とエラストマー層(X)との接着力向上の点から、オニウム塩、アミン化合物およびエポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含むことが好ましい。
【0108】
オニウム塩としては特に限定されず、例えば、第4級アンモニウム塩、第4級ホスホニウム塩、オキソニウム塩、スルホニウム塩、環状アミン、1官能性アミン化合物などがあげられ、これらの中でも第4級アンモニウム塩、第4級ホスホニウム塩が好ましい。
【0109】
第4級アンモニウム塩としては特に限定されず、例えば、式(5):
【0110】
【化1】
【0111】
(式中、Rは水素原子、または炭素数1〜30の1価の有機基であり、Xは1価の陰イオンである)で示される化合物、式(6):
【0112】
【化2】
【0113】
(式中、Rは水素原子、または炭素数1〜30の1価の有機基であり、Xは1価の陰イオンである)で示される化合物、式(7):
【0114】
【化3】
【0115】
(式中、3つのRは、同じであっても異なっていてもよく、水素原子、または炭素数1〜30の1価の有機基であり、Xは1価の陰イオンである)で示される化合物、式(8):
【0116】
【化4】
【0117】
(式中、nは、0〜50の整数である)で示される化合物、および、式(9):
【0118】
【化5】
【0119】
で示される化合物などがあげられる。
【0120】
式(5)中のRは、水素原子、または炭素数1〜30の1価の有機基である。炭素数1〜30の1価の有機基としては、特に限定されるものではないが、脂肪族炭化水素基、ベンジル基、フェネチル基、または3−フェニルプロピル基などが挙げられる。式(5)のXとしては、ハロゲンイオン(F、Cl、Br、I)、OH、RO、HCOO、RCOO、C、ROSO、RSO(Rは1価の有機基)などが挙げられる。式(5)の化合物としては、具体的には、8−メチル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムクロリド、8−メチル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムアイオダイド、8−メチル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムハイドロキサイド、8−メチル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムメチルスルフェート、8−エチル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムブロミド、8−プロピル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムブロミド、8−ドデシル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムクロリド、8−ドデシル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムハイドロキサイド、8−エイコシル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムクロリド、8−テトラコシル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムクロリド、DBU−B、8−ベンジル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムハイドロキサイド、8−フェネチル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムクロリド、8−(3−フェニルプロピル)−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムクロリド、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムフタラート、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムトシラート、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムフェノラート、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムナフトエート、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムオクタノエート、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムオレエート、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムホルメート、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムクロライドなどが挙げられる。
【0121】
式(6)中のRは、水素原子、または炭素数1〜30の1価の有機基である。炭素数1〜30の1価の有機基としては、特に限定されるものではないが、脂肪族炭化水素基、ベンジル基などが挙げられる。式(6)中のXとしては、ハロゲンイオン(F、Cl、Br、I)、HCO、OH、RO、HCOO、RCOO、C、ROSO、RSO(Rは1価の有機基)などが挙げられる。式(6)の化合物としては、具体的には、1,8−ジアザビシクロ[4.3.0]−5−ノネニウムフタラート、1,8−ジアザビシクロ[4.3.0]−5−ノネニウムトシラート、1,8−ジアザビシクロ[4.3.0]−5−ノネニウムフェノラート、1,8−ジアザビシクロ[4.3.0]−5−ノネニウムナフトエート、1,8−ジアザビシクロ[4.3.0]−5−ノネニウムオクタノエート、1,8−ジアザビシクロ[4.3.0]−5−ノネニウムオレエート、1,8−ジアザビシクロ[4.3.0]−5−ノネニウムホルメート、1,8−ジアザビシクロ[4.3.0]−5−ノネニウムクロライドなどが挙げられる。
【0122】
式(7)中の、3つのRは、それぞれ同じかまたは異なり、水素原子、または炭素数1〜30の1価の有機基である。炭素数1〜30の1価の有機基としては、特に限定されるものではないが、脂肪族炭化水素基、フェニル基などのアリール基、またはベンジル基があげられる。具体的には、例えば、−CH、−C、−Cなどの炭素数1〜30のアルキル基;−CX71、−C71、−CH71、−CHCX71、−CH71などの炭素数1〜30のハロゲン原子含有アルキル基(X71は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子);フェニル基;ベンジル基;−C、−CHなどのフッ素原子で1〜5個の水素原子が置換されたフェニル基またはベンジル基;−C5−n(CF、−CH5−n(CF(nは1〜5の整数)などの−CFで1〜5個の水素原子が置換されたフェニル基またはベンジル基などがあげられる。また、式(10):
【0123】
【化6】
【0124】
のように、窒素原子を含んでいてもよい。式(7)中のXとしては、ハロゲンイオン(F、Cl、Br、I)、HCO、OH、RO、HCOO、RCOO、C、ROSO、RSO(Rは1価の有機基)などが挙げられる。
【0125】
これらのうち、熱可塑性樹脂層(W)とエラストマー層(X)との接着力が良好な点から、式(5)、式(6)、式(7)または式(8)で示される化合物が好ましい。式(5)で示される化合物としては、DBU−B、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムナフトエート、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムフェノラート、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムフタラート、または1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムホルメートであることがより好ましく、DBU−Bまたは1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムホルメートであることがさらに好ましい。式(7)で示される化合物としては、式(7)中の3つのRが炭素数1〜20のアルキル基またはベンジル基であり、XがClである化合物がより好ましく、式(11):
【0126】
【化7】
【0127】
で示される化合物がさらに好ましい。また、式(8)で示される化合物としては、ゴムとの混練り時の分散性の点から、nは0〜10の整数であることがより好ましく、1〜5の整数であることがさらに好ましい。
【0128】
これらの中でも、DBU−Bが特に好ましい。
【0129】
第4級ホスホニウム塩としては特に限定されず、例えば、テトラブチルホスホニウムクロリド、BTPPC、ベンジルトリメチルホスホニウムクロリド、ベンジルトリブチルホスホニウムクロリド、トリブチルアリルホスホニウムクロリド、トリブチル−2−メトキシプロピルホスホニウムクロリド、ベンジルフェニル(ジメチルアミノ)ホスホニウムクロリドなどをあげることができ、これらの中でも、熱可塑性樹脂層(W)とエラストマー層(X)との接着力が良好な点から、BTPPCが好ましい。
【0130】
また、第4級アンモニウム塩、第4級ホスホニウム塩とビスフェノールAFの固溶体、特開平11−147891号公報に開示されている化合物を用いることもできる。
【0131】
オニウム塩の配合量は、十分な接着性が得られ、オニウム塩のエラストマー組成物への良好な分散性が得られることから、エラストマー100質量部に対して、好ましくは0.1〜10.0質量部であり、より好ましくは0.2〜8.0質量部であり、さらに好ましくは0.3〜7.0質量部である。
【0132】
アミン化合物としては特に限定されず、例えば、ヘキサメチレンジアミンカーバメート、N,N’−ジシンナミリデン−1,6−ヘキサメチレンジアミン(以下、V3とする)、4,4’−ビス(アミノシクロヘキシル)メタンカルバメートなどの脂肪族ポリアミン化合物誘導体や、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(以下、4,4’−DPEとする)、BAPP、6FBAPP、BAPS、DDS、3,3’−DAS、P−TPE−Q、ビスアニリン−M、ビスアニリン−P、TMBAB、TPE−R、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、2,5−ジメチル−1,4−フェニレンジアミン、N,N’−ジメチル−1,4−フェニレンジアミン、4,4’−メチレンジアニリン、ジアニリノエタン、4,4’−メチレン−ビス(3−ニトロアニリン)、4,4’−メチレン−ビス(2−クロロアニリン)、ジアミノピリジン、メラミンなどの芳香族ポリアミン化合物を使用することができる。これらの中でも、熱可塑性樹脂層(W)とエラストマー層(X)との接着力が良好な点から、V3、4,4’−DPE、BAPP、6FBAPP、BAPS、DDS、3,3’−DAS、P−TPE−Q、ビスアニリン−M、ビスアニリン−P、TMBAB、TPE−Rが好ましく、V3、4,4’−DPE、BAPP、6FBAPP、P−TPE−Q、ビスアニリン−M、ビスアニリン−P、TMBAB、TPE−Rがより好ましい。
【0133】
アミン化合物の配合量は、十分な接着性が得られ、アミン化合物のエラストマー組成物への良好な分散性が得られることから、エラストマー100質量部に対して、好ましくは0.1〜10.0質量部であり、より好ましくは0.2〜8.0質量部であり、さらに好ましくは0.3〜7.0質量部である。
【0134】
エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、多官能エポキシ樹脂などがあげられる。これらのうちビスフェノールA型エポキシ樹脂としては、式(12):
【0135】
【化8】
【0136】
で表わされる化合物などがあげられる。ここで、式(12)におけるnとしては、十分な接着性が得られ、エポキシ樹脂のエラストマー組成物への良好な分散性が得られることから、好ましくは0.1〜3であり、より好ましくは0.1〜0.5であり、さらに好ましくは0.1〜0.3である。
【0137】
エポキシ樹脂の配合量は、十分な接着性およびエラストマー層(X)の柔軟性が得られることから、エラストマー100質量部に対して、0.1〜20.0質量部が好ましく、0.3〜15.0質量部がより好ましく、0.5〜10.0質量部がさらに好ましい。
【0138】
エラストマー層(X)は、未加硫ゴムのもの、または加硫させたもののいずれでも用いることができる。
【0139】
加硫剤としては、通常のエラストマーに使用される加硫剤であれば全て使用できる。例えば、イオウ系加硫剤、パーオキサイド系加硫剤、ポリチオール系加硫剤、キノイド系加硫剤、樹脂系加硫剤、金属酸化物、ジアミン系加硫剤、ポリチオール類、2−メルカプトイミダゾリン、ポリオール系加硫剤、ポリアミン系加硫剤などの加硫剤があり、なかでもパーオキサイド系加硫剤、ポリオール系加硫剤、ポリアミン系加硫剤などが接着性および得られた加硫ゴムの機械物性の点から好ましく、熱可塑性樹脂層(W)とエラストマー層(X)との接着力向上の点から、ポリオール系加硫剤がより好ましい。
【0140】
エラストマー組成物中に配合される加硫剤の配合量としては、適度な加硫密度および適度な圧縮永久歪みが得られることから、エラストマー100質量部に対して、好ましくは0.2〜10質量部であり、より好ましくは0.5〜8質量部である。
【0141】
また、エラストマー組成物には必要に応じてエラストマーに配合される通常の添加物、例えば充填材、加工助剤、可塑剤、着色剤、安定剤、加硫助剤、接着助剤、受酸剤、離型剤、導電性付与剤、熱伝導性付与剤、表面非粘着剤、柔軟性付与剤、耐熱性改善剤、難燃剤などの各種添加剤を配合することができ、前記のものとは異なる常用の加硫剤や加硫促進剤を1種またはそれ以上配合してもよい。
【0142】
エラストマー組成物は、エラストマーと、オニウム塩、アミン化合物および/またはエポキシ樹脂と、加硫剤、加硫助剤、共加硫剤、加硫促進剤、充填材などのその他配合剤とを、一般に使用されているゴム混練り装置を用いて混練りすることにより得ることができる。ゴム混練り装置としては、ロール、ニーダー、バンバリーミキサー、インターナルミキサー、二軸押出機などを用いることができる。
【0143】
特に、加硫剤としてポリオール系加硫剤を用いる場合には、加硫剤・加硫促進剤の融点が比較的高い場合が多く、ゴム中に均一に分散させるために、加硫剤・加硫促進剤をニーダーなどの密閉型の混練り装置を用いて120〜200℃の高温で溶融させながら混練りした後に、充填材などのその他配合剤をこれ以下の比較的低温で混練りする方法が好ましい。また、加硫剤と加硫促進剤を一旦溶融させ融点降下を起こさせた固溶体を用いて均一分散させる方法もある。
【0144】
加硫条件としては、使用する加硫剤などの種類により適宜決めればよいが、通常、150〜300℃の温度で、1分〜24時間焼成を行う。
【0145】
また、加硫方法としては、スチーム加硫など通常用いられている方法はもちろんのこと、常圧、加圧、減圧下においても、また、空気中においても、どのような条件下においても加硫反応を行うことができる。
【0146】
本開示の積層体は、シート状の熱可塑性樹脂層(W)と加硫前のシート状のエラストマー層(X)とを積層させ金型にセットしてヒートプレスし加硫接着させることにより製造することができる。また、熱可塑性樹脂層(W)と、エラストマー層(X)とを、押出機により2層同時押出し、または2基の押出機により内側層上に外側層を押出しすることにより内側層と外側層からなる積層体を押出機により押出して一体化し、ついで加硫接着させることによっても製造することができる。
【0147】
本開示の積層体は、熱可塑性樹脂層(W)とエラストマー層(X)との2層構造でもよいし、熱可塑性樹脂層(W)の両側にエラストマー層(X)が積層されたものであってもよいし、エラストマー層(X)の両側に熱可塑性樹脂層(W)が積層されたものであってもよい。例えば、エラストマー層(X)−熱可塑性樹脂層(W)−エラストマー層(X)または熱可塑性樹脂層(W)−エラストマー層(X)−熱可塑性樹脂層(W)といった3層構造でもよい。さらに、エラストマー層(X)および熱可塑性樹脂層(W)以外のポリマー層(Y)が接着された3層以上の多層構造であってもよいし、エラストマー層(X)および熱可塑性樹脂層(W)以外のポリマー層(Y)が接着された3層の多層構造の片側もしくは両側にポリマー層(Z)を有していてもよい。ポリマー層(Y)とポリマー層(Z)は同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0148】
本開示の積層体は、エラストマー層(X)−熱可塑性樹脂層(W)−エラストマー層(X)の3層構造の片側もしくは両側にポリマー層(Y)を有してもよい。
【0149】
ポリマー層(Y)、(Z)としては、エラストマー層(X)以外のゴム層(Y1)または(Z1)でもよい。ゴム層(Y1)または(Z1)としては、非フッ素ゴムから形成される非フッ素ゴム層(Y1a)または(Z1a)があげられる。非フッ素ゴムは、耐寒性が良好な点や、コスト面で優れていることから好ましい。非フッ素ゴム層(Y1a)と非フッ素ゴム層(Z1a)は同じ非フッ素ゴムから形成されたものでもよいし、異なる非フッ素ゴムから形成されたものでもよい。本開示の積層体は、エラストマー層(X)−熱可塑性樹脂層(W)−非フッ素ゴム層(Y1a)の順に積層されているものであってもよい。また、更に、非フッ素ゴム層(Z1a)を含み、非フッ素ゴム層(Z1a)−エラストマー層(X)−熱可塑性樹脂層(W)−非フッ素ゴム層(Y1a)の順、エラストマー層(X)−熱可塑性樹脂層(W)−非フッ素ゴム層(Z1a)−非フッ素ゴム層(Y1a)の順、または、エラストマー層(X)−熱可塑性樹脂層(W)−非フッ素ゴム層(Y1a)−非フッ素ゴム層(Z1a)の順、に積層されているものであってもよい。
【0150】
非フッ素ゴムの具体例としては、たとえばアクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)またはその水素化物(HNBR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブタジエンゴム(BR)、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)等のジエン系ゴム、エチレン−プロピレン−ターモノマー共重合体ゴム、シリコーンゴム、ブチルゴム、エピクロロヒドリンゴム、アクリルゴム、塩素化ポリエチレン(CPE)、アクリロニトリル−ブタジエンゴムと塩化ビニルのポリブレンド(PVC−NBR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)等があげられる。また、これらの非フッ素ゴムおよびフッ素ゴムを任意の割合で混合したゴムもあげられる。非フッ素ゴムとしては、耐熱性、耐油性、耐候性、押出成形性が良好な点から、ジエン系のゴム、またはエピクロロヒドリンゴムであることが好ましい。より好ましくは、NBR、HNBRまたはエピクロロヒドリンゴムである。ゴム層(Y1)は、NBR、HNBRまたはエピクロロヒドリンゴムからなることが好ましい。また、ゴム層(Z1)は耐候性、コストの点から、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、エピクロロヒドリンゴム、塩素化ポリエチレン(CPE)、アクリロニトリル−ブタジエンゴムと塩化ビニルのポリブレンド(PVC−NBR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、アクリルゴム、またはこれらの混合物からなることが好ましい。なお、ゴム層(Y1)、(Z1)を形成する未加硫ゴム組成物中にも、加硫剤や、その他の配合剤を配合してもよい。
【0151】
また、熱可塑性樹脂層(W)と、エラストマー層(X)の接着性をさらに向上させるために、必要に応じて熱可塑性樹脂層(W)に表面処理を行ってもよい。この表面処理としては、接着を可能とする処理方法であれば、その種類は特に制限されるものではなく、例えばプラズマ放電処理やコロナ放電処理などの放電処理、湿式法の金属ナトリウム/ナフタレン液処理などがあげられる。また、表面処理としてプライマー処理も好適である。プライマー処理は常法に準じて行うことができる。プライマー処理を施す場合、表面処理を行っていない熱可塑性樹脂層(W)の表面を処理することもできるが、プラズマ放電処理、コロナ放電処理、金属ナトリウム/ナフタレン液処理などを予め施した熱可塑性樹脂層(W)の表面を更にプライマー処理すると、より効果的である。
【0152】
本開示の熱可塑性樹脂組成物、成形品および積層体は、燃料バリア性および引張弾性率のバランスに優れており、圧縮永久歪みが小さく、耐熱性および耐クラック性にも優れることから、各種の用途に使用可能である。
【0153】
たとえば、自動車用エンジンのエンジン本体、主運動系、動弁系、潤滑・冷却系、燃料系、吸気・排気系など、駆動系のトランスミッション系など、シャーシのステアリング系、ブレーキ系など、電装品の基本電装部品、制御系電装部品、装備電装部品などの、耐熱性・耐油性・耐燃料油性・耐LLC性・耐スチーム性が要求されるガスケットや非接触型および接触型のパッキン類(セルフシールパッキン、ピストンリング、割リング形パッキン、メカニカルシール、オイルシールなど)などのシール、ベローズ、ダイヤフラム、ホース、チューブ、電線などとして好適な特性を備えている。
【0154】
具体的には、以下に列記する用途に使用可能である。
【0155】
エンジン本体の、シリンダーヘッドガスケット、シリンダーヘッドカバーガスケット、オイルパンパッキン、一般ガスケットなどのガスケット、O−リング、パッキン、タイミングベルトカバーガスケットなどのシール、コントロールホースなどのホース、エンジンマウントの防振ゴム、水素貯蔵システム内の高圧弁用シール材など。
【0156】
主運動系の、クランクシャフトシール、カムシャフトシールなどのシャフトシールなど。
【0157】
動弁系の、エンジンバルブのバルブステムシールなど。
【0158】
潤滑・冷却系の、エンジンオイルクーラーのエンジンオイルクーラーホース、オイルリターンホース、シールガスケットなどや、ラジエータ周辺のウォーターホース、バキュームポンプのバキュームポンプオイルホースなど。
【0159】
燃料系の、燃料用ホース、燃料用チューブ、燃料用シール材、その他燃料系部材など。燃料用ホースまたは燃料用チューブとしては、フィラー(ネック)ホース、燃料供給ホース、燃料リターンホース、ベーパー(エバポ)ホースなどの燃料ホース、燃料タンクのインタンクホース、燃料配管チューブ、キャブレターのコントロールホースなど。燃料用シール材としては、燃料ポンプのオイルシールなど、燃料タンクのフューエルセンダーシール、フィラーシール、タンクパッキンなど、燃料配管チューブのコネクターO−リングなど、燃料噴射装置のインジェクタークッションリング、インジェクターシールリング、インジェクターO−リングなど、キャブレターのフランジガスケットなど。その他燃料系部材としては、燃料ポンプのダイヤフラム、バルブなど、燃料タンクのインタンクフューエルポンプマウントなど、燃料噴射装置のプレッシャーレギュレーターダイヤフラム、チェックバルブ類など、キャブレターのニードルバルブ花弁、加速ポンプピストンなど、複合空気制御装置(CAC)のバルブシート、ダイヤフラムなど。これらの中でも、燃料用ホースまたは燃料用チューブとして好適であり、特にフィラーネックホースまたは燃料供給ホースとして好適である。また、燃料用シール材としても好適であり、特にフューエルセンダーシールとして好適である。
【0160】
吸気・排気系の、マニホールドの吸気マニホールドパッキン、排気マニホールドパッキンなど、EGR(排気際循環)のダイヤフラム、コントロールホース、エミッションコントロールホースなど、BPTのダイヤフラムなど、ABバルブのアフターバーン防止バルブシートなど、スロットルのスロットルボディパッキン、ターボチャージャーのターボオイルホース(供給)、ターボオイルホース(リターン)、ターボエアホース、インタークーラーホース、タービンシャフトシールなど。
【0161】
トランスミッション系の、トランスミッション関連のベアリングシール、オイルシール、O−リング、パッキン、トルコンホースなど、ATのミッションオイルホース、ATFホース、O−リング、パッキン類など。
【0162】
ステアリング系の、パワーステアリングオイルホースなど。
【0163】
ブレーキ系の、オイルシール、O−リング、パッキン、ブレーキオイルホースなど、マスターバックの大気弁、真空弁、ダイヤフラムなど、マスターシリンダーのピストンカップ(ゴムカップ)など、キャリパーシール、ブーツ類など。
【0164】
基本電装部品の、電線(ハーネス)の絶縁体やシースなど、ハーネス外装部品のチューブなど。
【0165】
制御系電装部品の、各種センサー線の被覆材料など。
【0166】
装備電装部品の、カーエアコンのO−リング、パッキン、クーラーホース、外装品のワイパーブレードなど。
【0167】
また自動車用以外では、たとえば、船舶、航空機などの輸送機関における耐油、耐薬品、耐熱、耐スチーム、あるいは耐候用のパッキン、O−リング、ホース、その他のシール材、ダイヤフラム、バルブに、また化学プラントにおける同様のパッキン、O−リング、シール材、ダイヤフラム、バルブ、ホース、ロール、チューブ、耐薬品用コーティング、ライニングに、食品プラント機器および食品機器(家庭用品を含む)における同様のパッキン、O−リング、ホース、シール材、ベルト、ダイヤフラム、バルブ、ロール、チューブに、原子力プラント機器における同様のパッキン、O−リング、ホース、シール材、ダイヤフラム、バルブ、チューブに、一般工業部品における同様のパッキン、O−リング、ホース、シール材、ダイヤフラム、バルブ、ロール、チューブ、ライニング、マンドレル、電線、フレキシブルジョイント、ベルト、ゴム板、ウエザーストリップ、PPC複写機のロールブレードなどへの用途に好適である。
【0168】
また、食品ゴムシール材用途においては、従来ゴムシール材において着香性やゴムの欠片などが食品中に混入するトラブルがあるが、本開示の成形品を用いることにより、この問題を改善でき、好適に使用できる。耐薬品性、低溶出性および低着香性を有するため、医療・ケミカル分野においては、耐油、耐薬品、耐熱、耐スチームあるいは耐候用のシール材、蓋材、ベルト、ロール、ホース、チューブ、フィルム、コーティング、ライニング、ジョイント、容器等に適用できる。一般工業分野では、ゴム材料の強度、すべり性、耐薬品性、透過性を改善する目的において、たとえば、ゴムロール、O−リング、パッキン、シール材等に好適に用いることができる。特に、リチウムイオン電池のパッキン用途には耐薬品性とシールの両方を同時に維持できることから好適に使用できる。その他、低摩擦による摺動性が要求される用途においては、好適に使用できる。
【0169】
これらの中でも、本開示の熱可塑性樹脂組成物、成形品および積層体は、燃料バリア性および引張弾性率のバランスに優れていることから、燃料用ホースまたは燃料用チューブとして好適に用いられ、フィラーネックホースまたは燃料供給ホースとして特に好適に用いられる。すなわち、上記成形品および積層体は、燃料用ホースまたは燃料用チューブであることが好ましく、フィラーネックホースまたは燃料供給ホースであることが特に好ましい。特に、本開示の熱可塑性樹脂組成物、成形品および積層体は、燃料バリア性と引張弾性率とが、高いレベルで両立されていることから、燃料の蒸散を抑制しながら、振動を吸収し、騒音を発生させにくく、また、燃料の圧力の変動(脈動)を減衰させることができる。したがって、本開示の熱可塑性樹脂組成物、成形品および積層体は、自動車に搭載するための燃料用ホースまたは燃料用チューブとして好適に用いられる。
【0170】
また、これらの中でも、本開示の熱可塑性樹脂組成物、成形品および積層体は、燃料バリア性、引張弾性率および圧縮永久歪みのバランスに優れていることから、自動車に搭載するための燃料用シール材としても好適に用いられ、フューエルセンダーシールとして特に好適に用いられる。
【0171】
以上、実施形態を説明したが、特許請求の範囲の趣旨および範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。
【実施例】
【0172】
つぎに本開示の実施形態について実施例をあげて説明するが、本開示はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0173】
実施例の各数値は以下の方法により測定した。
【0174】
モノマー組成
19F−NMR分析により測定した。
【0175】
融点
示差走査熱量計[DSC]を用い、10℃/分の速度で昇温したときの融解ピークを記録し、極大値に対応する温度を融点とした。
【0176】
メルトフローレート(MFR)
メルトインデクサー(東洋精機製作所社製)を用い、297℃において、5kg荷重下で直径2mm、長さ8mmのノズルから単位時間(10分間)あたりに流出するポリマーの質量(g)を測定した。
【0177】
ムーニー粘度
ALPHA TECHNOLOGIES社製 ムーニー粘度計MV2000E型を用いて、ASTM D−1646に準拠して測定した。
【0178】
赤外吸収スペクトル分析
(熱可塑性樹脂シートの作製)
熱可塑性樹脂組成物を、直径120mmの金型に入れ、300℃に加熱したプレス機にセットし、約2.9MPaの圧力で溶融プレスして、厚さ0.25mm、厚さ0.5mmまたは厚さ2.0mmの熱可塑性樹脂シートを得た。
【0179】
(吸収ピークの高さの比の算出)
厚さ0.25mmの熱可塑性樹脂シートについて、フーリエ変換赤外分光光度計[FT−IR]を用いて透過法で赤外吸収スペクトルを測定し、下記の式により比[K1]および比[K2]を算出した。
比[K1]=H1a/H1b
比[K2]=H2a/H2b
H1a:3475cm−1と3415cm−1の各吸光度を結ぶ直線をベースラインとしたときの3451cm−1の吸光度高さ
H1b:2680cm−1と2030cm−1の各吸光度を結ぶ直線をベースラインとしたときの2360cm−1の吸光度高さ
H2a:1760cm−1と1660cm−1の各吸光度を結ぶ直線をベースラインとしたときの1722cm−1の吸光度高さ
H2b:3170cm−1と2900cm−1の各吸光度を結ぶ直線をベースラインとしたときの3035cm−1の吸光度高さ
【0180】
燃料バリア性評価
(燃料透過係数)
20mLの容積を有するSUS製容器(開放部面積1.26×10−3)に模擬燃料であるCE10(トルエン/イソオクタン/エタノール=45/45/10容量%)を18mL入れて、前記方法にて作製した厚さ0.25mmの熱可塑性樹脂シートを容器開放部にセットして密閉することで、試験体とする。該試験体を恒温装置(60℃)に入れ、試験体の重量を測定し、単位時間あたりの重量減少が一定となったところで下記の式により燃料透過係数を求めた。
【数2】
【0181】
引張弾性率
前記方法にて作製した厚さ0.5mmの熱可塑性樹脂シートより、ASTM D638 TypeV型ダンベルを用いて標線間距離3.18mmのダンベル状試験片を打ち抜く。得られたダンベル状試験片を用いて、オートグラフ(島津製作所社製 AGS−J 5kN)を使用して、ASTM D638に準じて、25℃において50mm/minの引張速度で引張試験を行い、引張弾性率を測定した。
【0182】
フッ素樹脂の官能基の個数
フッ素樹脂のシートについて、フーリエ変換赤外分光光度計[FT−IR]を用いて赤外吸収スペクトルを分析した。得られた赤外吸収スペクトルをPerkin−Elmer Spectrum for windows Ver.1.4Cを用いて自動でベースラインを判定させ、所定のピークの吸光度を測定した。なお、カーボネート基〔−OC(=O)O−〕のカルボニル基由来のピークは、1810〜1815cm−1の吸収帯に現れる。
【0183】
圧縮永久歪み
JIS K6262に準じて、前記方法にて作製した熱可塑性樹脂シートを積層して、厚さ3.8±0.1mmの試験片を作製し、表1に記載の温度および時間で、25%の圧縮を行い、圧縮永久歪みを測定した。
【0184】
実施例および比較例では、下記の材料を用いた。
【0185】
フッ素樹脂:
―OC(=O)OCHCHCH基を有するCTFE/TFE共重合体。モノマー組成はCTFE/TFE/パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)=21.0/76.2/2.8(モル比)。融点245℃。297℃におけるMFRは19g/10min。―OC(=O)OCHCHCH基数は80個(炭素原子10個当たり)。引張弾性率は610MPa。燃料透過係数は0.4(g・mm)/(m・day)。
【0186】
フッ素ゴム(b−1):
モノマー組成がVdF/TFE/HFP=58/22/20(モル比)であるVdF/TFE/HFP共重合体。100℃におけるムーニー粘度ML(1+10)は45。
フッ素ゴム(b−2):
モノマー組成がVdF/TFE/HFP=50/20/30(モル比)であるVdF/TFE/HFP共重合体。121℃におけるムーニー粘度ML(1+10)は50。
【0187】
ポリアミン化合物:BAPP(熱分解温度:315℃)
架橋促進剤:DBU−B
受酸剤:酸化マグネシウム
【0188】
比較例1
(工程1)
前記フッ素ゴム(b−1)に、BAPP、DBU−Bおよび酸化マグネシウムを添加して混練し、フッ素ゴム組成物(b−1(a))を得た。
(工程2)
ラボプラストミル(東洋精機製作所社製)に前記フッ素樹脂を投入し、フッ素ゴム組成物(b−1(a))を添加し、分散と反応が十分進行してトルクが安定した時点で撹拌を停止して、熱可塑性樹脂組成物を得た。このとき、熱可塑性樹脂組成物の温度は280℃であった。各材料の配合量および各種測定の結果を表1に示す。
【0189】
実施例1および2
各材料の配合量を表1の記載のとおりに変更した以外は、比較例1と同様にして、熱可塑性樹脂組成物を得た。各材料の配合量および各種測定の結果を表1に示す。
【0190】
比較例2
工程1において、前記フッ素ゴム(b−1)に代えて前記フッ素ゴム(b−2)を用い、DBU−Bを添加せず、さらに0.60質量部のBAPPを工程2で添加した以外は、比較例1と同様にして、熱可塑性樹脂組成物を得た。各材料の配合量および各種測定の結果を表1に示す。
【0191】
比較例3
工程1において、前記フッ素ゴム(b−1)に代えて前記フッ素ゴム(b−2)を用い、DBU−Bを添加しなかった以外は、比較例1と同様にして、熱可塑性樹脂組成物を得た。各材料の配合量および各種測定の結果を表1に示す。
【0192】
【表1】