(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6863421
(24)【登録日】2021年4月5日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】オレフィン化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 17/35 20060101AFI20210412BHJP
C07C 21/18 20060101ALI20210412BHJP
【FI】
C07C17/35
C07C21/18
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2019-144222(P2019-144222)
(22)【出願日】2019年8月6日
(65)【公開番号】特開2021-24815(P2021-24815A)
(43)【公開日】2021年2月22日
【審査請求日】2020年8月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】筒井 裕子
(72)【発明者】
【氏名】仲上 翼
(72)【発明者】
【氏名】茶木 勇博
(72)【発明者】
【氏名】臼井 隆
(72)【発明者】
【氏名】岩本 智行
(72)【発明者】
【氏名】串田 恵
【審査官】
高森 ひとみ
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2016/140317(WO,A1)
【文献】
FROHN,H. et al.,The unusual reactivity of C3F7OCF=CF2 with PBu3 and the complex hydrides M[EH4](M:Li,Na;E:B,Al); preparation of potassium perfluoro-2-propoxyeth-1-enyltrifluoroborate K[C3F7OCF=CFBF3],Journal of Fluorine Chemistry,2003年,Vol.123,pp.43-49
【文献】
BURTON, D. J. et al.,Preparation of E-1,2,3,3,3-pentafluoropropene, Z-1,2,3,3,3-pentafluoropropene and E-1-iodopentafluoropropene,Journal of Fluorine Chemistry,1989年,Vol.44,No.1,pp.167-174
【文献】
FROHN,H. et al.,(Fluoroorgano)fluoroboranes and -fluoroborates. 2. Synthesis and spectroscopic characterization of potassium polyfluoroalken-1-yltrifluoroborates,Zeitschrift fuer Anorganische und Allgemeine Chemie,2001年,Vol.627, No.11,pp.2499-2505
【文献】
ISHIHARA, T. et al.,Effective dephosphorylation catalyzed by fluoride ion: a novel synthesis of terminal F-alkylacetylenes from F-alkanoyl chlorides,Tetrahedron Letters,1984年,Vol.25,No.13,pp.1377-1378
【文献】
CONANT, J.B. et al.,Addition reactions of the phosphorus halides. V. The formation of an unsaturated phosphonic acid,J. Am. Chem. Soc.,1922年,Vol.44, No.11,pp.2530-2536
【文献】
LAHRACHE, H. et al.,Halodephosphorylation of a,b-unsaturated phosphonic acid monoesters,Tetrahedron Letters,2005年,Vol.46,pp.1635-1637
【文献】
SU, D. et al.,Synthesis of trans-1,2-difluoroethenediylbis(phosphonic acid) and other unsaturated phosphonic acids,J. Am. Chem. Soc.,1990年,Vol.112,pp.3152-3155
【文献】
SPRAGUE, L. G. et al.,Syntesis and characterization of (E) and (Z)-1,2-difluoroethenediylbisphosphonates,Journal of Fluorine Chemistry,1990年,Vol.49,pp.75-85
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 5/00
C07C11/04
C07C17/35
C07C21/02
CAplus/REGISTRY(STN)
CAplus/CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】
〔式中、X
1及びX
2は、独立してF,Cl,Br,I又はHを示す。W
+は、同一又は異なってPR
3又はP
(OR)3(但しRはC及びHを含む飽和又は不飽和の構造を有する基であり、互いに結合して環を形成してもよく、C及びH以外の原子を含んでいてもよい。)からなる1価のカチオンを示す。前記R
3又は(OR)3に含まれる3つのRは、同一又は異なっていてもよい。M
−は、
BF4−を示す。〕
で表されるリン含有オレフィン化合物塩A、
並びに
下記一般式(2)
【化2】
〔式中、X
1,X
2,W
+及びM
−は、前記と同じである。Yは、F,Cl,Br,I,H,アルキル基,アルキルエーテル基,フルオロアルキル基又はフルオロアルキルエーテル基を示す。〕
で表されるリン含有オレフィン化合物塩B
、
からなる群から選択される少なくとも一種のリン含有オレフィン化合物塩を塩基と反応させることにより
脱リン水素化したオレフィン化合物を得るオレフィン化合物の製造方法であって、
前記反応の温度が
15℃以上50℃以下である、オレフィン化合物の製造方法。
【請求項2】
前記反応は、前記リン含有オレフィン化合物塩を溶媒中又は分散媒中で反応させる、請求項1に記載のオレフィン化合物の製造方法。
【請求項3】
前記リン含有オレフィン化合物塩がリン含有オレフィン化合物塩
Aであり、オレフィン化合物が下記一般式(5)
【化3】
〔式中、X
1及びX
2は、前記と同じである。〕
で表される、請求項1
又は2に記載のオレフィン化合物の製造方法。
【請求項4】
前記リン含有オレフィン化合物塩がリン含有オレフィン化合物塩
Bであり、オレフィン化合物が下記一般式(6)
【化4】
〔式中、X
1,X
2及びYは、前記と同じである。〕
で表される、請求項1
又は2に記載のオレフィン化合物の製造方法。
【請求項5】
前記オレフィン化合物は、(E)−1,2−ジフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン及び1,1−ジフルオロエチレンからなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、オレフィン化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(E)−1,2−ジフルオロエチレン(以下、「R1132(E)」と表記する)は、地球温暖化係数(GWP)が小さいため、温室効果ガスであるジフルオロメタン(R−32)、1,1,1,2,2−ペンタフルオロエタン(R−125)を代替する冷媒として注目されている。
【0003】
従来、R1132(E)の製造方法としては、例えば非特許文献1において下記手順に沿って目的物を含む反応生成物が得られることが報告されている(Abstract並びに3.2. Reactions of olefin 1 with Pbu3の特に3.2.2)。
【0004】
【化1】
【0005】
上記報告例によれば、目的物であるR1132(E)の他、シス及びトランス−1H−ノナフルオロ−2−プロピキシエテン(シス:トランス=1:5)が不純物として約16%(1.9gに対して0.3g)混在することが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Journal of Fluorine Chemistry 123 (2003) 43-49
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、従来技術に比して純度の高い目的物を得ることができる、塩基との反応を用いたオレフィン化合物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、例えば、以下の項に記載の発明を包含する。
1.下記一般式(1)
【0009】
【化2】
【0010】
〔式中、X
1及びX
2は、独立してF,Cl,Br,I又はHを示す。W
+は、同一又は異なってPR
3又はP
(OR)3(但しRはC及びHを含む飽和又は不飽和の構造を有する基であり、互いに結合して環を形成してもよく、C及びH以外の原子を含んでいてもよい。)からなる1価のカチオンを示す。前記R
3又は(OR)3に含まれる3つのRは、同一又は異なっていてもよい。M
−は、原子又は化合物からなる1価のアニオンを示す。〕で表されるリン含有オレフィン化合物塩A、
下記一般式(2)
【0011】
【化3】
【0012】
〔式中、X
1,X
2,W
+及びM
−は、前記と同じである。Yは、F,Cl,Br,I,H,アルキル基,アルキルエーテル基,フルオロアルキル基又はフルオロアルキルエーテル基を示す。〕
で表されるリン含有オレフィン化合物塩B、
下記一般式(3)
【0013】
【化4】
【0014】
〔式中、X
1及びX
2は、前記と同じである。Zは、同一又は異なってP(=O)(OR)
2(但しRはC及びHを含む飽和又は不飽和の構造を有する基であり、互いに結合して環を形成してもよく、C及びH以外の原子を含んでいてもよい。)を示す。〕
で表されるリン含有オレフィン化合物塩C、並びに
下記一般式(4)
【0015】
【化5】
【0016】
〔式中、X
1,X
2,Y及びZは、前記と同じである。〕
で表されるリン含有オレフィン化合物塩D、
からなる群から選択される少なくとも一種のリン含有オレフィン化合物塩を塩基と反応させることにより
脱リン水素化したオレフィン化合物を得るオレフィン化合物の製造方法であって、
前記反応の温度が50℃以下である、オレフィン化合物の製造方法。
2.前記反応の温度が15℃以上50℃以下である、上記項1に記載のオレフィン化合物の製造方法。
3.前記反応は、前記リン含有オレフィン化合物塩を溶媒中又は分散媒中で反応させる、上記項1又は2に記載のオレフィン化合物の製造方法。
4.前記リン含有オレフィン化合物塩がリン含有オレフィン化合物塩A及びリン含有オレフィン化合物塩Cの少なくとも一種であり、オレフィン化合物が下記一般式(5)
【0017】
【化6】
【0018】
〔式中、X
1及びX
2は、前記と同じである。〕
で表される、上記項1〜3のいずれかに記載のオレフィン化合物の製造方法。
5.前記リン含有オレフィン化合物塩がリン含有オレフィン化合物塩B及びリン含有オレフィン化合物塩Dの少なくとも一種であり、オレフィン化合物が下記一般式(6)
【0019】
【化7】
【0020】
〔式中、X
1,X
2及びYは、前記と同じである。〕
で表される、上記項1〜3のいずれかに記載のオレフィン化合物の製造方法。
6.前記オレフィン化合物は、(E)−1,2−ジフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン及び1,1−ジフルオロエチレンからなる群から選択される少なくとも一種である、上記項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本開示のオレフィン化合物の製造方法は、特定のリン含有オレフィン化合物塩を50℃以下の温度で塩基と反応させることにより、
脱リン水素化した高純度のオレフィン化合物を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本開示のオレフィン化合物の製造方法は、下記一般式(1)
【0024】
〔式中、X
1及びX
2は、独立してF,Cl,Br,I又はHを示す。W
+は、同一又は異なってPR
3又はP
(OR)3(但しRはC及びHを含む飽和又は不飽和の構造を有する基であり、互いに結合して環を形成してもよく、C及びH以外の原子を含んでいてもよい。)からなる1価のカチオンを示す。前記R
3又は(OR)3に含まれる3つのRは、同一又は異なっていてもよい。M
−は、原子又は化合物からなる1価のアニオンを示す。〕
で表されるリン含有オレフィン化合物塩A、
下記一般式(2)
【0026】
〔式中、X
1,X
2,W
+及びM
−は、前記と同じである。Yは、F,Cl,Br,I,H,アルキル基,アルキルエーテル基,フルオロアルキル基又はフルオロアルキルエーテル基を示す。〕
で表されるリン含有オレフィン化合物塩B、
下記一般式(3)
【0028】
〔式中、X
1及びX
2は、前記と同じである。Zは、同一又は異なってP(=O)(OR)
2(但しRはC及びHを含む飽和又は不飽和の構造を有する基であり、互いに結合して環を形成してもよく、C及びH以外の原子を含んでいてもよい。)を示す。〕
で表されるリン含有オレフィン化合物塩C、並びに
下記一般式(4)
【0030】
〔式中、X
1,X
2,Y及びZは、前記と同じである。〕
で表されるリン含有オレフィン化合物塩D、
からなる群から選択される少なくとも一種のリン含有オレフィン化合物塩を塩基と反応させることにより
脱リン水素化したオレフィン化合物を得るオレフィン化合物の製造方法であって、
前記反応の温度が50℃以下であることを特徴とする。
【0031】
上記特徴を有する本開示のオレフィン化合物の製造方法は、特定のリン含有オレフィン化合物塩を50℃以下の温度で塩基と反応させることにより、
脱リン水素化した高純度のオレフィン化合物を製造することができる。
【0032】
上記リン含有オレフィン化合物塩Aは、下記一般式(1)
【0034】
〔式中、X
1及びX
2は、独立してF,Cl,Br,I又はHを示す。W
+は、同一又は異なってPR
3又はP
(OR)3(但しRはC及びHを含む飽和又は不飽和の構造を有する基であり、互いに結合して環を形成してもよく、C及びH以外の原子を含んでいてもよい。)からなる1価のカチオンを示す。前記R
3又は(OR)3に含まれる3つのRは、同一又は異なっていてもよい。M
−は、原子又は化合物からなる1価のアニオンを示す。〕
【0035】
上記X
1及びX
2は、独立してF,Cl,Br,I又はHを示す。これらの中でも、目的物のオレフィン化合物がR1132(E)である場合にはX
1及びX
2は共にFであることが好ましい。
【0036】
上記W
+は、同一又は異なってPR
3又はP
(OR)3(但しRはC及びHを含む飽和又は不飽和の構造を有する基であり、互いに結合して環を形成してもよく、C及びH以外の原子を含んでいてもよい。)からなる1価のカチオンを示す。つまり、W
+は、有機ホスフィン化合物のカチオンである。
【0037】
上記RはC及びHを含む飽和又は不飽和の構造を有する基であり、互いに結合して環を形成してもよく、C及びH以外の原子を含んでいてもよい。当該基の骨格の一種の炭化水素基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アリールアルキル基、アリールアルケニル基、その他、上記要件を満たす二重結合又は三重結合を有する炭化水素基が挙げられる。これらの炭化水素基は、互いに結合して環を形成してもよく、C及びH以外の原子を含む置換基を有していてもよい。
【0038】
上記アルキル基、アルケニル基及びアルキニル基(以下、「アルキル基等」と総称する。)の炭素数は限定的ではない。なお、アルキル基の炭素数は1〜10が好ましく、1〜8がより好ましく、1〜6が更に好ましく、1〜4が最も好ましい。また、アルケニル基及びアルキニル基の炭素数は2〜10が好ましく、2〜8がより好ましく、2〜6が更に好ましく、2〜4が最も好ましい。上記アルキル基等が環状構造の場合には、その炭素数は4〜12が好ましく、4〜10がより好ましく、5〜8が更に好ましく、6〜8が最も好ましい。
【0039】
上記アルキル基等の構造は上記Rの規定を満たす限り特に限定されない。上記アルキル基等は、直鎖状でもよく、側鎖を有していてもよい。上記アルキル基等は、鎖状構造でもよく、環状構造(シクロアルキル基、シクロアルケニル基又はシクロアルキニル基)でもよい。また、上記アルキル基等は、C及びH以外の原子を含む置換基を1種又は2種以上有していてもよい。更に、上記アルキル基等は、前記置換基以外に鎖状構造中又は環状構造中にC及びH以外の原子を1種又は2種以上含んでいてもよい。上記C及びH以外の原子としては、例えば、O、N及びSの1種又は2種以上が挙げられる。
【0040】
上記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基及び2−エチルヘキシル基が挙げられる。上記シクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基及び2−メチルシクロヘキシル基が挙げられる。上記アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基及びイソプロペニル基が挙げられる。上記シクロアルケニル基としては、例えば、シクロヘキセニル基が挙げられる。
【0041】
上記アリール基、アリールアルキル基及びアリールアルケニル基(以下、「アリール基等」と総称する。)の炭素数は限定的ではないが、炭素数は6〜15が好ましく、6〜12がより好ましく、6〜10が更に好ましい。
【0042】
上記アリール基等の構造は上記Rの規定を満たす限り特に限定されない。上記アリール基等は、置換基を1種又は2種以上を有していてもよい。例えば、上記アリール基等に含まれる芳香環は、置換基を1種又は2種以上有していてもよい。当該置換基の位置は、o−、m−及びp−のいずれでもよい。当該置換基としては、例えば、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、及び臭素原子等)、アルキル基、アルケニル基、ニトロ基、アミノ基、水酸基及びアルコキシ基の1種又は2種以上が挙げられる。これらの置換基が芳香環に位置する場合、当該置換基の位置は、o−、m−及びp−のいずれでもよい。
【0043】
上記アリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基、エチルフェニル基、キシリル基、クメニル基、メシチル基、メトキシフェニル基(o−、m−及びp−)、エトキシフェニル基(o−、m−及びp−)、1−ナフチル基、2−ナフチル基、ビフェニリル基等が挙げられる。上記アリールアルキル基としては、例えば、ベンジル基、メトキシベンジル基(o−、m−及びp−)、エトキシベンジル基(o−、m−及びp−)、フェネチル基等挙げられる。上記アリールアルケニル基としては、例えば、スチリル基、シンナミル基等が挙げられる。
【0044】
上記PR
3又はP
(OR)3に含まれる3つのRは、互いに結合して環を形成してもよい。該環の構造には特に限定はない。例えば、その環員数は、通常、リン原子を含めて4員環〜10員環、好ましくは5員環〜8員環とすることができる。その環員数は通常、5員環又は6員環である。上記環は、その構造中にヘテロ原子(酸素原子、窒素原子、及び硫黄原子等)を含んでいてもよい。更に、上記環は、他の置換基を有していてもよい。また、上記環は、その構造中に不飽和結合を有していてもよい。
【0045】
上記PR
3又はP
(OR)3に含まれる3つのRは、同一構造でもよく、異なる構造でもよい。
【0046】
M
−は、原子又は化合物からなる1価のアニオンを示す。
【0047】
上記アニオンを形成する原子又は化合物は、例えば、フッ素、塩素、臭素又はヨウ素のハロゲンイオン;ギ酸、酢酸、シュウ酸等のカルボキシルイオン;メタンスルホニルオキシ、トリフルオロメタンスルホニルオキシ、ベンゼンスルホニルオキシ、トルエンスルホニルオキシ等のスルホナートイオン;フッ化アンチモンイオン;フッ化リンイオン;フッ化ヒ素イオン;フッ化ホウ素イオン;過塩素酸イオン等が挙げられる。これらの中でも、目的物のオレフィン化合物がR1132(E)である場合にはフッ化ホウ素イオンであることが好ましい。
【0048】
上記リン含有オレフィン化合物塩Bは、下記一般式(2)
【0050】
〔式中、X
1,X
2,W
+及びM
−は、前記と同じである。Yは、F,Cl,Br,I,H,アルキル基,アルキルエーテル基,フルオロアルキル基又はフルオロアルキルエーテル基を示す。〕
で表される。
【0051】
上記X
1,X
2,W
+及びM
−は、リン含有オレフィン化合物塩Aの説明と同じである。
【0052】
上記Yは、F,Cl,Br,I,H,アルキル基,アルキルエーテル基,フルオロアルキル基又はフルオロアルキルエーテル基を示す。
【0053】
上記アルキル基としては、リン含有オレフィン化合物塩AのR(アルキル基)の説明と同じである。
【0054】
上記アルキルエーテル基としては、リン含有オレフィン化合物塩AのR(アルキル基)に酸素原子が結合した化合物である。
【0055】
上記フルオロアルキル基としては、炭素原子上にフッ素原子が任意の数、任意の組み合わせで置換した化合物である。その中でも炭素数1〜4の化合物が好ましく、炭素数が1の化合物が特に好ましい。
【0056】
上記フルオロアルキルエーテル基としては、上記フルオロアルキル基に酸素原子が結合した化合物である。
【0057】
上記リン含有オレフィン化合物塩Cは、下記一般式(3)
【0059】
〔式中、X
1及びX
2は、前記と同じである。Zは、同一又は異なってP(=O)(OR)
2(但しRはC及びHを含む飽和又は不飽和の構造を有する基であり、互いに結合して環を形成してもよく、C及びH以外の原子を含んでいてもよい。)を示す。〕
で表される。
【0060】
上記X
1及びX
2は、リン含有オレフィン化合物塩Aの説明と同じである。
【0061】
上記Zは、同一又は異なってP(=O)(OR)
2(但しRはC及びHを含む飽和又は不飽和の構造を有する基であり、互いに結合して環を形成してもよく、C及びH以外の原子を含んでいてもよい。)を示す。
【0062】
上記RはC及びHを含む飽和又は不飽和の構造を有する基であり、互いに結合して環を形成してもよく、C及びH以外の原子を含んでいてもよい。当該基の骨格の一種の炭化水素基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アリールアルキル基、アリールアルケニル基、その他、上記要件を満たす二重結合又は三重結合を有する炭化水素基が挙げられる。これらの炭化水素基は、互いに結合して環を形成してもよく、C及びH以外の原子を含む置換基を有していてもよい。
【0063】
上記アルキル基、アルケニル基及びアルキニル基(以下、「アルキル基等」と総称する。)の炭素数は限定的ではない。なお、アルキル基の炭素数は1〜10が好ましく、1〜8がより好ましく、1〜6が更に好ましく、1〜4が最も好ましい。また、アルケニル基及びアルキニル基の炭素数は2〜10が好ましく、2〜8がより好ましく、2〜6が更に好ましく、2〜4が最も好ましい。上記アルキル基等が環状構造の場合には、その炭素数は4〜12が好ましく、4〜10がより好ましく、5〜8が更に好ましく、6〜8が最も好ましい。
【0064】
上記アルキル基等の構造は上記Rの規定を満たす限り特に限定されない。上記アルキル基等は、直鎖状でもよく、側鎖を有していてもよい。上記アルキル基等は、鎖状構造でもよく、環状構造(シクロアルキル基、シクロアルケニル基又はシクロアルキニル基)でもよい。また、上記アルキル基等は、C及びH以外の原子を含む置換基を1種又は2種以上有していてもよい。更に、上記アルキル基等は、前記置換基以外に鎖状構造中又は環状構造中にC及びH以外の原子を1種又は2種以上含んでいてもよい。上記C及びH以外の原子としては、例えば、O、N及びSの1種又は2種以上が挙げられる。
【0065】
上記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基及び2−エチルヘキシル基が挙げられる。上記シクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基及び2−メチルシクロヘキシル基が挙げられる。上記アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基及びイソプロペニル基が挙げられる。上記シクロアルケニル基としては、例えば、シクロヘキセニル基が挙げられる。
【0066】
上記アリール基、アリールアルキル基及びアリールアルケニル基(以下、「アリール基等」と総称する。)の炭素数は限定的ではないが、炭素数は6〜15が好ましく、6〜12がより好ましく、6〜10が更に好ましい。
【0067】
上記アリール基等の構造は上記Rの規定を満たす限り特に限定されない。上記アリール基等は、置換基を1種又は2種以上を有していてもよい。例えば、上記アリール基等に含まれる芳香環は、置換基を1種又は2種以上有していてもよい。当該置換基の位置は、o−、m−及びp−のいずれでもよい。当該置換基としては、例えば、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、及び臭素原子等)、アルキル基、アルケニル基、ニトロ基、アミノ基、水酸基及びアルコキシ基の1種又は2種以上が挙げられる。これらの置換基が芳香環に位置する場合、当該置換基の位置は、o−、m−及びp−のいずれでもよい。
【0068】
上記アリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基、エチルフェニル基、キシリル基、クメニル基、メシチル基、メトキシフェニル基(o−、m−及びp−)、エトキシフェニル基(o−、m−及びp−)、1−ナフチル基、2−ナフチル基、ビフェニリル基等が挙げられる。上記アリールアルキル基としては、例えば、ベンジル基、メトキシベンジル基(o−、m−及びp−)、エトキシベンジル基(o−、m−及びp−)、フェネチル基等挙げられる。上記アリールアルケニル基としては、例えば、スチリル基、シンナミル基等が挙げられる。
【0069】
上記P(=O)(OR)
2に含まれる2つのRは、互いに結合して環を形成してもよい。該環の構造には特に限定はない。例えば、その環員数は、通常、リン原子を含めて4員環〜10員環、好ましくは5員環〜8員環とすることができる。その環員数は通常、5員環又は6員環である。上記環は、その構造中にヘテロ原子(酸素原子、窒素原子、及び硫黄原子等)を含んでいてもよい。更に、上記環は、他の置換基を有していてもよい。また、上記環は、その構造中に不飽和結合を有していてもよい。更に、上記P(=O)(OR)
2に含まれる2つのRは、同一構造でもよく、異なる構造でもよい。
【0070】
上記リン含有オレフィン化合物塩Dは、下記一般式(4)
【0072】
〔式中、X
1,X
2,Y及びZは、前記と同じである。〕
で表される。
【0073】
上記X
1、X
2、Y及びZは、リン含有オレフィン化合物塩A、Cの説明と同じである。
【0074】
このようなリン含有オレフィン化合物塩A〜Dは、いずれも塩基と反応させることにより
脱リン水素化して目的のオレフィン化合物を生成するものであればよく、例えば、下記;
【0076】
のようなR1132(E)の製造プロセスにおいて、塩基との反応に供するリン含有オレフィン化合物塩は、本開示におけるリン含有オレフィン化合物塩Aの具体例の一つである。なお、例えば上記R1132(E)の製造プロセスであれば、リン含有オレフィン化合物塩(結晶体)には、(トランス−2−パーフルオロプロポキシ−1,2−ジフルオロエテ−1−ニル)(トリブチル)ホスホニウムテトラフルオロボレート、(シス−2−パーフルオロプロポキシ−1,2−ジフルオロエテ−1−ニル)(トリブチル)ホスホニウムテトラフルオロボレート及びパーフルオロプロポキシビニルエーテルからなる群から選択される少なくとも一種の不純物が含まれ得る。これらの不純物は、リン含有オレフィン化合物塩を塩基と反応させるに先だって必要に応じて再結晶等の精製方法によりその一部又は全部を除去しておいてもよい。
【0077】
本開示のオレフィン化合物の製造方法は、上記リン含有オレフィン化合物塩A〜Dの少なくとも一種のリン含有オレフィン化合物塩を塩基と反応させることにより
脱リン水素化したオレフィン化合物を得るオレフィン化合物の製造方法であって、前記反応の温度が50℃以下である。この反応の温度は、塩基との反応に際し、開始から終了まで50℃以下に維持することを意味し、好ましくは15℃以上50℃以下であり、上限値は40℃以下がより好ましい。
【0078】
本開示の製造方法によれば、トリフルオロエチレン、ペンタフルオロエタン(R−125)、1,1,1,2−テトラフルオロエタン(R−134a)等の副生を抑制して目的物の純度を高めることができるが、上記反応の温度が40℃以下の場合にはこの効果がより得られ易くなる。
【0079】
本開示の製造方法において、前記反応の圧力は限定的ではないが、0.6MPa以下に設定することが好ましく、−0.1〜0MPa程度がより好ましい。かかる圧力範囲に設定することにより、目的物であるオレフィン化合物を含む反応ガスが反応液への溶解を防止又は抑制することができる。なお、本明細書における圧力は、特に断らない限りゲージ圧を意味する。
【0080】
本開示では、リン含有オレフィン化合物塩を塩基と反応させるに際し、不必要な発熱を抑制するためにリン含有オレフィン化合物塩を溶媒中又は分散媒中で塩基と反応させることが好ましい。これにより反応熱を効率的に除熱しながら反応させることができる。前記溶媒又は分散媒としては、例えば、水、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。また、塩基溶液としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等の各種塩基の20〜48質量%水溶液などを好適に用いることができる。かかる濃度範囲(特に20〜25質量%)の各種塩基を用いることにより、反応熱の除熱効率を高めることができる。
【0081】
本開示では、リン含有オレフィン化合物塩がリン含有オレフィン化合物塩A及びリン含有オレフィン化合物塩Cの少なくとも一種である場合には、目的物であるオレフィン化合物は下記一般式(5)
【0083】
〔式中、X
1及びX
2は、前記と同じである。〕
で表される。
【0084】
また、リン含有オレフィン化合物塩がリン含有オレフィン化合物塩B及びリン含有オレフィン化合物塩Dの少なくとも一種である場合には、目的物であるオレフィン化合物は下記一般式(6)
【0086】
〔式中、X
1,X
2及びYは、前記と同じである。〕
で表される。
【0087】
本開示においては、目的物のオレフィン化合物としては、上記一般式(5)及び/又は(6)に含まれる(E)−1,2−ジフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン及び1,1−ジフルオロエチレンからなる群から選択される少なくとも一種が好ましく、特に(E)−1,2−ジフルオロエチレン(R1132(E))であることが好ましい。
【0088】
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示はこれらの例に何ら限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【実施例】
【0089】
以下、実施例に基づき、本開示の実施形態をより具体的に説明する。但し、本開示は実施例の範囲に限定されるものではない。
【0090】
実施例1
下記式(7)で示されるリン含有オレフィン化合物塩100質量部を溶媒(水)200質量部に分散させ、48%水酸化ナトリウム水溶液を滴下して反応させた。反応温度は28〜50℃の範囲に保ち、反応器内の圧力を0MPa以下に維持し、R1132(E)を製造した。
【0091】
【化19】
【0092】
結果を下記表1に示す。
【0093】
実施例2
反応温度を22〜40℃に保持した以外は実施例1と同様にしてR1132(E)を製造した。結果を下記表1に示す。
【0094】
実施例3
反応温度を20〜35℃に保持し、反応器内の圧力を0.36MPa以下に維持した以外は実施例1と同様にしてR1132(E)を製造した。結果を下記表1に示す。
【0095】
実施例4
反応温度を30℃で一定に保った以外は実施例1と同様にしてR1132(E)を製造した。結果を下記表1に示す。
【0096】
実施例5
反応温度を20〜35℃に保持し、20%アンモニア水溶液を使用した以外は実施例1と同様にしてR1132(E)を製造した。結果を下記表1に示す。
【0097】
比較例1
反応温度を70℃に保持し、溶媒を使用しなかった以外は実施例1と同様にしてR1132(E)を製造した。結果を下記表1に示す。
【0098】
【表1】