(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6863422
(24)【登録日】2021年4月5日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】リン含有オレフィン化合物塩の精製方法及びそれにより得た精製物を用いたオレフィン化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07F 9/52 20060101AFI20210412BHJP
C07C 21/18 20060101ALI20210412BHJP
C07C 17/35 20060101ALI20210412BHJP
【FI】
C07F9/52
C07C21/18
C07C17/35
【請求項の数】9
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2019-144223(P2019-144223)
(22)【出願日】2019年8月6日
(65)【公開番号】特開2021-24816(P2021-24816A)
(43)【公開日】2021年2月22日
【審査請求日】2020年8月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】筒井 裕子
(72)【発明者】
【氏名】仲上 翼
(72)【発明者】
【氏名】茶木 勇博
(72)【発明者】
【氏名】臼井 隆
(72)【発明者】
【氏名】岩本 智行
(72)【発明者】
【氏名】串田 恵
【審査官】
高森 ひとみ
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第03320321(US,A)
【文献】
OVAKIMYAN,M.Z. et al.,Halogenation of quaternary phosphonium salts containing prop-1(2)-enyl group,Russian Journal of General Chemistry,2017年,Vol.87, No.8,pp.1727-1730
【文献】
MAIER,L. et al.,Vinyl derivatives of the metals. VI. Preparation, properties and some reactions of trivinyl compounds of group V elements,Journal of the American Chemical Society,1957年,Vol.79,pp.5884-5889
【文献】
RABINOWITZ,R. et al.,Synthesis of vinylphosphonium compounds,Journal of Polymer Science, Part A,1965年,Vol.3, No.5,pp.2055-2061
【文献】
FROHN,H. et al.,The unusual reactivity of C3F7OCF=CF2 with PBu3 and the complex hydrides M[EH4](M:Li,Na;E:B,Al); preparation of potassium perfluoro-2-propoxyeth-1-enyltrifluoroborate K[C3F7OCF=CFBF3],Journal of Fluorine Chemistry,2003年,Vol.123,pp.43-49
【文献】
BURTON, D.J. et al.,Preparation of E-1,2,3,3,3-pentafluoropropene, Z-1,2,3,3,3-pentafluoropropene and E-1-iodopentafluoropropene,Journal of Fluorine Chemistry,1989年,Vol.44,No.1,pp.167-174
【文献】
FROHN,H. et al.,(Fluoroorgano)fluoroboranes and -fluoroborates. 2. Synthesis and spectroscopic characterization of potassium polyfluoroalken-1-yltrifluoroborates,Zeitschrift fuer Anorganische und Allgemeine Chemie,2001年,Vol.627, No.11,pp.2499-2505
【文献】
WANG,S. et al.,A solvent-free facile synthesis of (E)-bis(phosphonium)ethylenes from organo-phosphines and TfOCH2CF2H reagent,Tetrahedron Letters,2015年,Vol.56, No.45,pp.6219-6222
【文献】
VEDEJS,E. et al.,Tributylphosphine: a remarkable acylation catalyst,Journal of the American Chemical Society,1993年,Vol.115, No.8,pp.3358-3359
【文献】
MONKOWIUS,U. et al.,Contributions to the Little Known Chemistry of Trivinylphosphine and Trivinylarsine,Organometallics,2003年,Vol.22, No.1,pp.145-152
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 5/00
C07C11/04
C07C17/35
C07C21/02
CAplus/REGISTRY(STN)
CAplus/CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】
〔式中、X
1及びX
2は、独立してF,Cl,Br,I又はHを示す。W
+は、同一又は異なってPR
3又はP
(OR)3(但しRはC及びHを含む飽和又は不飽和の構造を有する基であり、互いに結合して環を形成してもよく、C及びH以外の原子を含んでいてもよい。)からなる1価のカチオンを示す。前記R
3又は(OR)3に含まれる3つのRは、同一又は異なっていてもよい。M
−は、
BF4−を示す。〕
で表されるリン含有オレフィン化合物塩A、並びに
下記一般式(2)
【化2】
〔式中、X
1,X
2,W
+及びM
−は、前記と同じである。Yは、F,Cl,Br,I,H,アルキル基,アルキルエーテル基,フルオロアルキル基又はフルオロアルキルエーテル基を示す。〕
で表されるリン含有オレフィン化合物塩B
からなる群から選択される少なくとも一種のリン含有オレフィン化合物塩を含む固体を
45〜60℃の溶媒中に溶解した後、溶液の温度を−0.25℃/分以下で下げることで再析出及び/又は再結晶させることにより、前記リン含有オレフィン化合物塩の精製物を得る工程を有する、リン含有オレフィン化合物塩の精製方法。
【請求項2】
前記溶媒は、酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n−ブチル、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール及びブタノールからなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1に記載の精製方法。
【請求項3】
前記精製物を吸引濾過及び/又は加圧濾過により取り出す工程を更に有する、請求項1又は2に記載の精製方法。
【請求項4】
前記固体は、
(トランス−2−パーフルオロプロポキシ−1,2−ジフルオロエテン−1−イル)(トリブチル)ホスホニウムテトラフルオロボラヌイド、
(シス−2−パーフルオロプロポキシ−1,2−ジフルオロエテン−1−イル)(トリブチル)ホスホニウムテトラフルオロボラヌイド、
パーフルオロプロポキシビニルエーテル、
(2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−トリブチルホスフィン−1−オン)テトラフルオロボラヌイド、
三フッ化ホウ素トリブチルホスフィンオキシド、
テトラフルオロほう酸、
(1,2−ジフルオロエテン−1−イル)(トリブチル)ホスホニウムテトラフルオロボラヌイド)、
ジエチルエーテル、
ジメチルエーテル、及び
2−メトキシ−2−メチルプロパン
からなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含有する、請求項1〜3のいずれかに記載の精製方法。
【請求項5】
前記精製物における前記リン含有オレフィン化合物塩の純度が95質量%以上である、請求項1〜4のいずれかに記載の精製方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の精製方法より得られた前記精製物と塩基とを反応させることにより脱リン水素化したオレフィン化合物を含む反応生成物を得るオレフィン化合物の製造方法。
【請求項7】
前記オレフィン化合物は、(E)−1,2−ジフルオロエチレンである、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記反応生成物は、(E)−1,2−ジフルオロエチレンと、アセチレン、トリフルオロエチレン、ペンタフルオロエタン(R−125)、1,1,1,2−テトラフルオロエタン(R−134a)、(Z)−1,2−ジフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、シス及びトランス−1H−ノナフルオロ−2−プロポキシエテンからなる群から選択される少なくとも一種とを含有する、請求項6又は7に記載の製造方法。
【請求項9】
下記一般式(1)
【化3】
〔式中、X
1及びX
2は、独立してF,Cl,Br,I又はHを示す。W
+は、同一又は異なってPR
3又はP
(OR)3(但しRはC及びHを含む飽和又は不飽和の構造を有する基であり、互いに結合して環を形成してもよく、C及びH以外の原子を含んでいてもよい。)からなる1価のカチオンを示す。前記R
3又は(OR)3に含まれる3つのRは、同一又は異なっていてもよい。M
−は、
BF4−を示す。〕
で表されるリン含有オレフィン化合物塩A、並びに
下記一般式(2)
【化4】
〔式中、X
1,X
2,W
+及びM
−は、前記と同じである。Yは、F,Cl,Br,I,H,アルキル基,アルキルエーテル基,フルオロアルキル基又はフルオロアルキルエーテル基を示す。〕
で表されるリン含有オレフィン化合物塩B
からなる群から選択される少なくとも一種のリン含有オレフィン化合物塩を含み、更に
(トランス−2−パーフルオロプロポキシ−1,2−ジフルオロエテン−1−イル)(トリブチル)ホスホニウムテトラフルオロボラヌイド、
(シス−2−パーフルオロプロポキシ−1,2−ジフルオロエテン−1−イル)(トリブチル)ホスホニウムテトラフルオロボラヌイド、
パーフルオロプロポキシビニルエーテル、
(2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−トリブチルホスフィン−1−オン)テトラフルオロボラヌイド、
三フッ化ホウ素トリブチルホスフィンオキシド、
テトラフルオロほう酸、
(1,2−ジフルオロエテン−1−イル)(トリブチル)ホスホニウムテトラフルオロボラヌイド)
、
ジメチルエーテル、及び
2−メトキシ−2−メチルプロパン
からなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含有する固体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、リン含有オレフィン化合物塩の精製方法及びそれにより得た精製物を用いたオレフィン化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(E)−1,2−ジフルオロエチレン(以下、「R1132(E)」と表記する)は、地球温暖化係数(GWP)が小さいため、温室効果ガスであるジフルオロメタン(R−32)、1,1,1,2,2−ペンタフルオロエタン(R−125)を代替する冷媒として注目されている。
【0003】
従来、R1132(E)の製造方法としては、例えば非特許文献1において下記手順に沿って目的物を含む反応生成物が得られることが報告されている(Abstract並びに3.2. Reactions of olefin 1 with Pbu3の特に3.2.2)。
【0004】
【化1】
【0005】
上記報告例によれば、目的物であるR1132(E)の他、シス及びトランス−1H−ノナフルオロ−2−プロピキシエテン(シス:トランス=1:5)が不純物として約16%(1.9gに対して0.3g)混在することが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Journal of Fluorine Chemistry 123 (2003) 43-49
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、オレフィン化合物の製造方法において目的物の純度を高めるために有用な、当該製造方法に適用し得る原料又は中間体のリン含有オレフィン化合物塩の精製方法、及びそれにより得た精製物を用いたオレフィン化合物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、例えば、以下の項に記載の発明を包含する。
1.下記一般式(1)
【0009】
【化2】
【0010】
〔式中、X
1及びX
2は、独立してF,Cl,Br,I又はHを示す。W
+は、同一又は異なってPR
3又はP
(OR)3(但しRはC及びHを含む飽和又は不飽和の構造を有する基であり、互いに結合して環を形成してもよく、C及びH以外の原子を含んでいてもよい。)からなる1価のカチオンを示す。前記R
3又は(OR)3に含まれる3つのRは、同一又は異なっていてもよい。M
−は、原子又は化合物からなる1価のアニオンを示す。〕
で表されるリン含有オレフィン化合物塩A、並びに
下記一般式(2)
【0011】
【化3】
【0012】
〔式中、X
1,X
2,W
+及びM
−は、前記と同じである。Yは、F,Cl,Br,I,H,アルキル基,アルキルエーテル基,フルオロアルキル基又はフルオロアルキルエーテル基を示す。〕
で表されるリン含有オレフィン化合物塩B
からなる群から選択される少なくとも一種のリン含有オレフィン化合物塩を含む固体を溶媒中で再析出及び/又は再結晶させることにより、前記リン含有オレフィン化合物塩の精製物を得る工程を有する、リン含有オレフィン化合物塩の精製方法。
2.前記溶媒は、酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n−ブチル、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール及びブタノールからなる群から選択される少なくとも一種である、上記項1に記載の精製方法。
3.前記固体を45〜60℃の溶媒中に溶解した後、溶液の温度を−0.5℃/分以下で下げることにより再析出及び/又は再結晶させる、上記項1又は2に記載の精製方法。
4.前記精製物を吸引濾過及び/又は加圧濾過により取り出す工程を更に有する、上記項1〜3のいずれかに記載の精製方法。
5.前記固体は、(トランス−2−パーフルオロプロポキシ−1,2−ジフルオロエテン−1−イル)(トリブチル)ホスホニウムテトラフルオロボラヌイド、
(シス−2−パーフルオロプロポキシ−1,2−ジフルオロエテン−1−イル)(トリブチル)ホスホニウムテトラフルオロボラヌイド、
パーフルオロプロポキシビニルエーテル、
(2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−トリブチルホスフィン−1−オン)テトラフルオロボラヌイド、
三フッ化ホウ素トリブチルホスフィンオキシド、
テトラフルオロほう酸、
(1,2−ジフルオロエテン−1−イル)(トリブチル)ホスホニウムテトラフルオロボラヌイド)、
ジエチルエーテル、
ジメチルエーテル、及び
2−メトキシ−2−メチルプロパン
からなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含有する、上記項1〜4のいずれかに記載の精製方法。
6.前記精製物における前記リン含有オレフィン化合物塩の純度が95質量%以上である、上記項1〜5のいずれかに記載の精製方法。
7.上記項1〜6のいずれかに記載の精製方法より得られた前記精製物と塩基とを反応させることにより脱リン水素化したオレフィン化合物を含む反応生成物を得るオレフィン化合物の製造方法。
8.前記オレフィン化合物は、(E)−1,2−ジフルオロエチレンである、上記項7に記載の製造方法。
9.前記反応生成物は、(E)−1,2−ジフルオロエチレンと、アセチレン、トリフルオロエチレン、ペンタフルオロエタン(R−125)、1,1,1,2−テトラフルオロエタン(R−134a)、(Z)−1,2−ジフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、シス及びトランス−1H−ノナフルオロ−2−プロポキシエテンからなる群から選択される少なくとも一種とを含有する、上記項7又は8に記載の製造方法。
10.下記一般式(1)
【0013】
【化4】
【0014】
〔式中、X
1及びX
2は、独立してF,Cl,Br,I又はHを示す。W
+は、同一又は異なってPR
3又はP
(OR)3(但しRはC及びHを含む飽和又は不飽和の構造を有する基であり、互いに結合して環を形成してもよく、C及びH以外の原子を含んでいてもよい。)からなる1価のカチオンを示す。前記R
3又は(OR)3に含まれる3つのRは、同一又は異なっていてもよい。M
−は、原子又は化合物からなる1価のアニオンを示す。〕
で表されるリン含有オレフィン化合物塩A、並びに
下記一般式(2)
【0015】
【化5】
【0016】
〔式中、X
1,X
2,W
+及びM
−は、前記と同じである。Yは、F,Cl,Br,I,H,アルキル基,アルキルエーテル基,フルオロアルキル基又はフルオロアルキルエーテル基を示す。〕
で表されるリン含有オレフィン化合物塩B
からなる群から選択される少なくとも一種のリン含有オレフィン化合物塩を含み、更に
(トランス−2−パーフルオロプロポキシ−1,2−ジフルオロエテン−1−イル)(トリブチル)ホスホニウムテトラフルオロボラヌイド、
(シス−2−パーフルオロプロポキシ−1,2−ジフルオロエテン−1−イル)(トリブチル)ホスホニウムテトラフルオロボラヌイド、
パーフルオロプロポキシビニルエーテル、
(2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−トリブチルホスフィン−1−オン)テトラフルオロボラヌイド、
三フッ化ホウ素トリブチルホスフィンオキシド、
テトラフルオロほう酸、
(1,2−ジフルオロエテン−1−イル)(トリブチル)ホスホニウムテトラフルオロボラヌイド)、
ジエチルエーテル、
ジメチルエーテル、及び
2−メトキシ−2−メチルプロパン
からなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含有する固体。
【発明の効果】
【0017】
本開示のリン含有オレフィン化合物塩の精製方法によれば、当該塩を含む固体を溶媒中で再析出及び/又は再結晶させることにより、リン含有オレフィン化合物塩の高純度の精製物が得られる。かかるリン含有オレフィン化合物塩の精製物はオレフィン化合物の製造方法において原料又は中間体として有用であり、前記精製物を原料又は中間体として目的物を合成することにより高純度のオレフィン化合物を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本開示のリン含有オレフィン化合物塩の精製方法は、
下記一般式(1)
【0020】
〔式中、X
1及びX
2は、独立してF,Cl,Br,I又はHを示す。W
+は、同一又は異なってPR
3又はP
(OR)3(但しRはC及びHを含む飽和又は不飽和の構造を有する基であり、互いに結合して環を形成してもよく、C及びH以外の原子を含んでいてもよい。)からなる1価のカチオンを示す。前記R
3又は(OR)3に含まれる3つのRは、同一又は異なっていてもよい。M
−は、原子又は化合物からなる1価のアニオンを示す。〕
で表されるリン含有オレフィン化合物塩A、並びに
下記一般式(2)
【0022】
〔式中、X
1,X
2,W
+及びM
−は、前記と同じである。Yは、F,Cl,Br,I,H,アルキル基,アルキルエーテル基,フルオロアルキル基又はフルオロアルキルエーテル基を示す。〕
で表されるリン含有オレフィン化合物塩B
からなる群から選択される少なくとも一種のリン含有オレフィン化合物塩を含む固体を溶媒中で再析出及び/又は再結晶させることにより、前記リン含有オレフィン化合物塩の精製物を得る工程を有する。
【0023】
上記特徴を有する本開示のリン含有オレフィン化合物塩の精製方法によれば、当該塩を含む固体を溶媒中で再析出及び/又は再結晶させることにより、リン含有オレフィン化合物塩の高純度の精製物が得られる。かかるリン含有オレフィン化合物塩の精製物はオレフィン化合物の製造方法において原料又は中間体として有用であり、前記精製物を原料又は中間体として目的物を合成することにより高純度のオレフィン化合物を製造することができる。
【0024】
上記リン含有オレフィン化合物塩Aは、下記一般式(1)
【0026】
〔式中、X
1及びX
2は、独立してF,Cl,Br,I又はHを示す。W
+は、同一又は異なってPR
3又はP
(OR)3(但しRはC及びHを含む飽和又は不飽和の構造を有する基であり、互いに結合して環を形成してもよく、C及びH以外の原子を含んでいてもよい。)からなる1価のカチオンを示す。前記R
3又は(OR)3に含まれる3つのRは、同一又は異なっていてもよい。M
−は、原子又は化合物からなる1価のアニオンを示す。〕
で表される。
【0027】
上記X
1及びX
2は、独立してF,Cl,Br,I又はHを示す。これらの中でも、精製物をオレフィン化合物の製造方法において原料又は中間体として使用する場合において目的物のオレフィン化合物がR1132(E)である場合にはX
1及びX
2は共にFであることが好ましい。
【0028】
上記W
+は、同一又は異なってPR
3又はP
(OR)3(但しRはC及びHを含む飽和又は不飽和の構造を有する基であり、互いに結合して環を形成してもよく、C及びH以外の原子を含んでいてもよい。)からなる1価のカチオンを示す。つまり、W
+は、有機ホスフィン化合物のカチオンである。
【0029】
上記RはC及びHを含む飽和又は不飽和の構造を有する基であり、互いに結合して環を形成してもよく、C及びH以外の原子を含んでいてもよい。当該基の骨格の一種の炭化水素基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アリールアルキル基、アリールアルケニル基、その他、上記要件を満たす二重結合又は三重結合を有する炭化水素基が挙げられる。これらの炭化水素基は、互いに結合して環を形成してもよく、C及びH以外の原子を含む置換基を有していてもよい。
【0030】
上記アルキル基、アルケニル基及びアルキニル基(以下、「アルキル基等」と総称する。)の炭素数は限定的ではない。なお、アルキル基の炭素数は1〜10が好ましく、1〜8がより好ましく、1〜6が更に好ましく、1〜4が最も好ましい。また、アルケニル基及びアルキニル基の炭素数は2〜10が好ましく、2〜8がより好ましく、2〜6が更に好ましく、2〜4が最も好ましい。上記アルキル基等が環状構造の場合には、その炭素数は4〜12が好ましく、4〜10がより好ましく、5〜8が更に好ましく、6〜8が最も好ましい。
【0031】
上記アルキル基等の構造は上記Rの規定を満たす限り特に限定されない。上記アルキル基等は、直鎖状でもよく、側鎖を有していてもよい。上記アルキル基等は、鎖状構造でもよく、環状構造(シクロアルキル基、シクロアルケニル基又はシクロアルキニル基)でもよい。また、上記アルキル基等は、C及びH以外の原子を含む置換基を1種又は2種以上有していてもよい。更に、上記アルキル基等は、前記置換基以外に鎖状構造中又は環状構造中にC及びH以外の原子を1種又は2種以上含んでいてもよい。上記C及びH以外の原子としては、例えば、O、N及びSの1種又は2種以上が挙げられる。
【0032】
上記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基及び2−エチルヘキシル基が挙げられる。上記シクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基及び2−メチルシクロヘキシル基が挙げられる。上記アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基及びイソプロペニル基が挙げられる。上記シクロアルケニル基としては、例えば、シクロヘキセニル基が挙げられる。
【0033】
上記アリール基、アリールアルキル基及びアリールアルケニル基(以下、「アリール基等」と総称する。)の炭素数は限定的ではないが、炭素数は6〜15が好ましく、6〜12がより好ましく、6〜10が更に好ましい。
【0034】
上記アリール基等の構造は上記Rの規定を満たす限り特に限定されない。上記アリール基等は、置換基を1種又は2種以上を有していてもよい。例えば、上記アリール基等に含まれる芳香環は、置換基を1種又は2種以上有していてもよい。当該置換基の位置は、o−、m−及びp−のいずれでもよい。当該置換基としては、例えば、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、及び臭素原子等)、アルキル基、アルケニル基、ニトロ基、アミノ基、水酸基及びアルコキシ基の1種又は2種以上が挙げられる。これらの置換基が芳香環に位置する場合、当該置換基の位置は、o−、m−及びp−のいずれでもよい。
【0035】
上記アリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基、エチルフェニル基、キシリル基、クメニル基、メシチル基、メトキシフェニル基(o−、m−及びp−)、エトキシフェニル基(o−、m−及びp−)、1−ナフチル基、2−ナフチル基、ビフェニリル基等が挙げられる。上記アリールアルキル基としては、例えば、ベンジル基、メトキシベンジル基(o−、m−及びp−)、エトキシベンジル基(o−、m−及びp−)、フェネチル基等挙げられる。上記アリールアルケニル基としては、例えば、スチリル基、シンナミル基等が挙げられる。
【0036】
上記PR
3及びP
(OR)3に含まれる3つのRは、互いに結合して環を形成してもよい。該環の構造には特に限定はない。例えば、その環員数は、通常、リン原子を含めて4員環〜10員環、好ましくは5員環〜8員環とすることができる。その環員数は通常、5員環又は6員環である。上記環は、その構造中にヘテロ原子(酸素原子、窒素原子、及び硫黄原子等)を含んでいてもよい。更に、上記環は、他の置換基を有していてもよい。また、上記環は、その構造中に不飽和結合を有していてもよい。
【0037】
上記PR
3及びP
(OR)3に含まれる3つのRは、同一構造でもよく、異なる構造でもよい。
【0038】
M
−は、原子又は化合物からなる1価のアニオンを示す。
【0039】
上記アニオンを形成する原子又は化合物は、例えば、フッ素、塩素、臭素又はヨウ素のハロゲンイオン;ギ酸、酢酸、シュウ酸等のカルボキシルイオン;メタンスルホニルオキシ、トリフルオロメタンスルホニルオキシ、ベンゼンスルホニルオキシ、トルエンスルホニルオキシ等のスルホナートイオン;フッ化アンチモンイオン;フッ化リンイオン;フッ化ヒ素イオン;フッ化ホウ素イオン;過塩素酸イオン等が挙げられる。これらの中でも、精製物をオレフィン化合物の製造方法において原料又は中間体として使用する場合において目的物のオレフィン化合物がR1132(E)である場合にはフッ化ホウ素イオンであることが好ましい。
【0040】
上記リン含有オレフィン化合物塩Bは、下記一般式(2)
【0042】
〔式中、X
1,X
2,W
+及びM
−は、前記と同じである。Yは、F,Cl,Br,I,H,アルキル基,アルキルエーテル基,フルオロアルキル基又はフルオロアルキルエーテル基を示す。〕
で表される。
【0043】
上記X
1,X
2,W
+及びM
−は、リン含有オレフィン化合物塩Aの説明と同じである。
【0044】
上記Yは、F,Cl,Br,I,H,アルキル基,アルキルエーテル基,フルオロアルキル基又はフルオロアルキルエーテル基を示す。
【0045】
上記アルキル基としては、リン含有オレフィン化合物塩AのR(アルキル基)の説明と同じである。
【0046】
上記アルキルエーテル基としては、リン含有オレフィン化合物塩AのR(アルキル基)に酸素原子が結合した化合物である。
【0047】
上記フルオロアルキル基としては、炭素原子上にフッ素原子が任意の数、任意の組み合わせで置換した化合物である。その中でも炭素数1〜4の化合物が好ましく、炭素数が1の化合物が特に好ましい。
【0048】
上記フルオロアルキルエーテル基としては、上記フルオロアルキル基に酸素原子が結合した化合物である。
【0049】
本開示のリン含有オレフィン化合物塩の精製方法は、上記リン含有オレフィン化合物塩A及び上記リン含有オレフィン化合物塩Bの少なくとも一種のリン含有オレフィン化合物塩を含む固体を溶媒中で再析出及び/又は再結晶させることにより、前記リン含有オレフィン化合物塩の精製物を得る工程を有する。なお、上記リン含有オレフィン化合物塩は、その一部又は全部が結晶であってもよい。本開示では、当該塩の一部に結晶でない部分が含まれる可能性があること、及び不純物(請求項では「化合物」と表記している)を含むことを考慮し、当該塩と不純物を含む全体を固体と記載している。また、精製方法の特定においても、上記理由により再結晶のみに限定されないように再析出及び/又は再結晶と記載している。
【0050】
当該固体としては、再析出及び/又は再結晶により固体に含まれる不純物の量を低減させて純度を高める余地があるものであれば特に限定されない。再析出及び/又は再結晶に供する固体に含まれる不純物量は限定的ではないが、例えば5〜70質量%程度である。
【0051】
上記リン含有オレフィン化合物塩A及び上記リン含有オレフィン化合物塩Bの少なくとも一種のリン含有オレフィン化合物塩を含む固体としては限定されないが、精製物を塩基と反応させることにより脱リン水素化してオレフィン化合物を得るオレフィン化合物の製造方法に適用する場合には、目的物のオレフィン化合物の製造原料又は中間体としてのリン含有オレフィン化合物塩を含む固体であることが好ましい。
【0054】
のようなR1132(E)の製造プロセスにおいて、上記塩基との反応に供するリン含有オレフィン化合物塩は、本開示におけるリン含有オレフィン化合物塩Aの具体例の一つである。なお、例えば上記R1132(E)の製造プロセスであれば、リン含有オレフィン化合物塩を含む固体には、
(トランス−2−パーフルオロプロポキシ−1,2−ジフルオロエテン−1−イル)(トリブチル)ホスホニウムテトラフルオロボラヌイド、
[trans−C
3F
7OCF=CFPBu
3][BF
4]、
(シス−2−パーフルオロプロポキシ−1,2−ジフルオロエテン−1−イル)(トリブチル)ホスホニウムテトラフルオロボラヌイド、
[cis−C
3F
7OCF=CFPBu
3][BF
4]、
パーフルオロプロポキシビニルエーテル(C
3VE)、
(2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−トリブチルホスフィン−1−オン)テトラフルオロボラヌイド([CF
3CF
2C(O)−PBu
3][BF
4])、
三フッ化ホウ素トリブチルホスフィンオキシド(BF
3・O=PBu
3)、
テトラフルオロほう酸(HBF
4)、
(1,2−ジフルオロエテン−1−イル)(トリブチル)ホスホニウムテトラフルオロボラヌイド([CHF=CFPBu
3][BF
4])、
ジエチルエーテル(Et
2O)、
ジメチルエーテル(Mt
2O)、及び
2−メトキシ−2−メチルプロパン(MTBE)
からなる群から選択される少なくとも一種の化合物(不純物)が含まれる。
【0055】
再析出及び/又は再結晶の条件は限定的ではないが、溶媒としては、例えば、酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n−ブチル、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール及びブタノールからなる群から選択される少なくとも一種が好ましく、この中でも固体の溶解性及び溶媒のコストの観点からは酢酸エチルがより好ましい。再析出及び/又は再結晶させる際のpHは8以下であることが好ましい。pHをかかる範囲に設定することにより、リン含有オレフィン化合物塩の加水分解を防止して再析出及び/又は再結晶を行うことができる。再析出及び/又は再結晶の回数は限定的ではないが、本開示の精製方法では特に下記の好適な条件を採用する場合には、1回の処理により高純度(95質量%以上)の精製物を得ることも可能である。
【0056】
固体を溶媒に溶解する温度及びその後に溶液の温度を下げる条件は限定的ではないが、溶解性の観点からは45〜60℃の溶媒が好ましく、かかる溶媒中に溶解した後、溶液の温度を−0.25℃/分以下で下げることにより再析出及び/又は再結晶させることが好ましい。また、45〜50℃の溶媒中に溶解した後、溶液を−0.25℃/分以下で下げることにより再析出及び/又は再結晶させることがより好ましい。高純度の精製物を得る観点からは、溶液の温度は上記のようにゆっくりと下げることが好ましい。
【0057】
精製物を取り出す方法は限定的ではないが、例えば、本開示の精製方法は、吸引濾過及び/又は加圧濾過により精製物を取り出す工程を更に有することが好ましく、このとき精製物を含む混合液の温度は5℃以下であることが更に好ましい。
【0058】
本開示の精製方法によれば、再析出及び/又は再結晶により不純物の少なくとも一部が除去されるため、精製物におけるリン含有オレフィン化合物塩の純度は95質量%以上となることが好ましく、99質量%以上となることがより好ましい。
【0059】
このように不純物量が低減された精製物(リン含有オレフィン化合物塩)は、例えば、塩基と反応させることにより脱リン水素化してオレフィン化合物を得るオレフィン化合物の製造方法に適用することができる。この場合には、精製物はリン含有オレフィン化合物塩の純度が向上していることにより、目的物のオレフィン化合物を高い純度で合成することができる。特に、背景技術欄に記載した非特許文献1に開示されたR1132(E)の製造方法におけるリン含有オレフィン化合物塩は本開示のような精製処理はされておらず、目的化合物であるR1132(E)とともに、蒸留で分離し難い1,1,2−トリフルオロエチレン、ペンタフルオロエタン(R−125)、R−134a、(Z)−1,2−ジフルオロエチレン(R1132(Z))等の低沸点成分が副生するが、本開示の精製方法を経た精製物を用いてオレフィン化合物を製造することにより、前述の低沸点成分の副生を抑制することができる点で本開示は従来技術に比して多大な有用性がある。
【0060】
すなわち、本開示は、本開示の精製方法より得られた前記リン含有オレフィン化合物塩A及び前記リン含有オレフィン化合物塩Bからなる群から選択される少なくとも一種のリン含有オレフィン化合物塩の精製物と塩基とを反応させることにより脱リン水素化したオレフィン化合物を含む反応生成物を得るオレフィン化合物の製造方法の発明を包含する。なお、本開示においては、目的物のオレフィン化合物としては、例えば、(E)−1,2−ジフルオロエチレン(R1132(E))であることが好ましい。
【0061】
上記本開示のオレフィン化合物の製造方法における前記反応生成物は、(E)−1,2−ジフルオロエチレンと、例えば、アセチレン、トリフルオロエチレン、ペンタフルオロエタン(R−125)、1,1,1,2−テトラフルオロエタン(R−134a)、(Z)−1,2−ジフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、シス及びトランス−1H−ノナフルオロ−2−プロポキシエテンからなる群から選択される少なくとも一種とを含有する。
【0062】
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示はこれらの例に何ら限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【実施例】
【0063】
以下、実施例に基づき、本開示の実施形態をより具体的に説明する。但し、本開示は実施例の範囲に限定されるものではない。
【0064】
実施例1
下記式に沿って原料オレフィン(A)(C
3F
7OCF=CF
2)から目的物のオレフィン化合物(C)(R1132(E))を合成した。
【0065】
【化11】
【0066】
詳細には、5℃の条件下、エーテル(500ml)にPBu
3(89.2g、440mmol)を溶解した。この溶液を撹拌しながら原料オレフィン(A)(39.2g、147mmol)を5℃の温度で20分かけて滴下し、反応させた。
【0067】
反応混合物を5℃で2時間維持した後、BF
3OEt
2(63.3g、446mmol)を5〜20℃の温度で添加し、続いて25℃の温度で1.5時間撹拌した。
【0068】
上部のエーテル層をデカントし、残渣をエーテルで洗浄し、真空中で乾燥させて白色の粘着性物質(リン含有オレフィン化合物塩(B)を含む固体)(155.5g)を得た。この固体をNMRにより分析したところ、不純物として[CF
3CF
2C(O)−PBu
3][BF
4]が16質量%含まれていた。
【0069】
リン含有オレフィン化合物塩(B)を含む固体を50℃の酢酸エチルに溶解し、溶液の温度を−0.25℃/分で下げることにより再析出及び/又は再結晶させて精製物を得た。なお、精製物は吸引濾過の方法により取り出した。
【0070】
精製物に50質量%水酸化ナトリウム水溶液を加えて塩基と反応させた。液温は28℃から50℃に上がった。
【0071】
塩基との反応生成物(留出物)をガスクロマトグラムにより分析した。
【0072】
結果を下記表1に示す。
【0073】
比較例1
リン含有オレフィン化合物塩(B)を含む固体を再析出及び再結晶しない以外は実施例1と同じ条件により原料オレフィン(A)(C
3F
7OCF=CF
2)から目的物のオレフィン化合物(C)(R1132(E))を合成した。つまり、白色の粘着性物質(リン含有オレフィン化合物塩(B)を含む固体)をそのまま塩基と反応させた。
【0074】
結果を下記表1に示す。
【0075】
【表1】
【0076】
上記表1の結果から明らかな通り、リン含有オレフィン化合物塩(B)を再析出及び/又は再結晶により精製した実施例1の場合には、再析出及び/又は再結晶しなかった比較例1の場合に比して、目的物のオレフィン化合物(C)(R1132(E))の収率が高く、また異性体やその他の副生成物の含有量が相対的に少ないことが分かる。