特許第6863480号(P6863480)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6863480
(24)【登録日】2021年4月5日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】熱伝導度検出器
(51)【国際特許分類】
   G01N 25/18 20060101AFI20210412BHJP
   G01N 30/66 20060101ALI20210412BHJP
   G01N 27/18 20060101ALI20210412BHJP
【FI】
   G01N25/18 E
   G01N30/66
   G01N27/18
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2019-559889(P2019-559889)
(86)(22)【出願日】2017年12月19日
(86)【国際出願番号】JP2017045415
(87)【国際公開番号】WO2019123525
(87)【国際公開日】20190627
【審査請求日】2020年2月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100205981
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 大輔
(72)【発明者】
【氏名】中間 勇二
【審査官】 相川 俊
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2017/154059(WO,A1)
【文献】 特開2011−179851(JP,A)
【文献】 特開2010−185867(JP,A)
【文献】 特開2010−073619(JP,A)
【文献】 特開2002−240582(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 25/18
G01N 27/18
G01N 30/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体として被測定ガスが流れる検出流路と、
前記検出流路内における該検出流路を流れる流体と直接的に接触する位置に設けられ、前記検出流路を流れる流体の流れ方向に略平行な方向へ1回以上折り返されたフィラメントを少なくとも含み、前記検出流路を流れる流体を介して熱伝導を行なう熱伝導部と、
前記フィラメントの電圧又は電流の変化に応じた電気信号を検出する検出回路と、を備え、
前記フィラメントは、前記検出流路内において前記流れ方向に対して略垂直に設けられた折返しピンに引っ掛けられて折り返されており、
前記折返しピンには、当該折返しピンに引っ掛けられた前記フィラメントの折返し部分が当該折返しピンの長手方向へずれることを防止するための位置ずれ防止構造が設けられている、熱伝導度検出器。
【請求項2】
前記位置ずれ防止構造は前記折返しピンの外周面に設けられた溝又は突起からなる、請求項1に記載の熱伝導度検出器。
【請求項3】
前記折返しピンは絶縁性材料により構成されている、請求項1又は2に記載の熱伝導度検出器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導度検出器(TCD:Thermal Conductivity Detector)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばガスクロマトグラフィーに用いられる検出器として熱伝導度検出器が知られている。熱伝導度検出器は発熱体(フィラメント)から発熱体周囲を流れる流体(ガス)への熱伝導を検出する。ガスは、フィラメントが収容された検出流路に導入された後、その検出流路から排出される。
【0003】
熱伝導度検出器には、ガススイッチング方式と呼ばれるものがある(例えば特許文献1を参照)。この方式の熱伝導度検出器は、リファレンスガスの流入箇所を変えることによって生じる圧力差により、測定用フィラメントが設けられた検出流路に被測定ガスとして、分離カラムからのガス(カラムガス)が導入されるのか、リファレンスガスが導入されるのかを制御して、その差分の信号を取得する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭53−046091号公報
【特許文献2】国際公開第2017/154059号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
熱伝導度検出器は、流体との熱伝導を行なうフィラメントの長さを長くして流体との接触面積を大きくとることによって検出感度を向上させることができる。特許文献1に開示された熱伝導度検出器では、フィラメントが直線形状に設けられているので、フィラメントを長くするためにはフィラメントが配置される検出流路を長くする必要がある。しかし、検出流路の長さは熱伝導度検出器全体の大きさによって制限され、長いフィラメントを配置するのに十分な長さの検出流路を確保できない場合もある。
【0006】
また、検出流路の長さを長くすると、被測定ガスがその検出流路を通過するまでにより長い時間を要するため、クロマトグラムのピーク形状が広がってしまうという問題もある。さらに、検出流路を流れる被測定ガスを,カラムガスとリファレンスガスとの間で一定時間ごとに切り替えるガススイッチング方式の熱伝導度検出器では、一定時間内にフィラメント周囲のガスをすべて置換する必要がある。これらの理由から、フィラメントの長さはおよそ十数mmに制限されていた。
【0007】
上記問題に対し、フィラメントを途中でガスの流れ方向へ折り返した状態で検出流路内に配置することが提案されている(特許文献2を参照。)。フィラメントを途中で折り返した状態で検出流路内に配置すれば、検出流路の長さを長くすることなくフィラメントの長さを稼ぐことができる。ガスの流れ方向に沿ってフィラメントが長くなる形状となるため、強制対流によって奪われる熱が少なくなり、シグナルが向上する。そのため、ガスの置換時間を長くしたり、検出器のサイズを大きくしたりすることなくS/Nを向上させることができる。
【0008】
しかし、検出流路内においてフィラメントがガスの流れ方向へ折り返された構造をもつ検出器で、S/Nが変動したり低下したりする場合があることがわかった。
【0009】
そこで、本発明は、検出流路内においてフィラメントがガスの流れ方向へ折り返された構造をもつ熱伝導検出器のS/Nを安定させることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
検出流路内においてガスの流れ方向へフィラメントが折り返される構造は、検出流路内においてガスの流れ方向に対して垂直に立てられたピンにフィラメントを引っ掛けて折り返すことで、容易に実現することができる。本発明者は、このような構造を採用するに当たり、測定時に検出流路の昇降温に伴うフィラメントの伸縮やセルブロックの振動に起因して、ピンに引っ掛けられているフィラメントの位置が当初の位置からずれ、それがS/Nの変動や低下の原因になるという知見を得た。さらには、ピンに引っ掛けられているフィラメントの位置が大きくずれると、最悪の場合には、フィラメントが検出流路の金属製の壁面に接触してショートする場合もあることがわかった。
【0011】
本発明は上記知見に基づいてなされたものであり、測定時の検出流路内の温度変動によってピンに引っ掛けられているフィラメントの位置のずれを抑制して、S/Nの安定化を図るものである。
【0012】
すなわち、本発明に係る熱伝導度検出器は、流体として被測定ガスが流れる検出流路と、前記検出流路内における該検出流路を流れる流体と直接的に接触する位置に設けられ、前記検出流路を流れる流体の流れ方向に略平行な方向へ1回以上折り返されたフィラメントを少なくとも含み、前記検出流路を流れる流体を介して熱伝導を行なう熱伝導部と、前記フィラメントの電圧又は電流の変化に応じた電気信号を検出する検出回路と、を備えたものである。前記フィラメントは、前記検出流路内において前記流れ方向に対して略垂直に設けられた折返しピンに引っ掛けられて折り返されており、前記折返しピンには、当該折返しピンに引っ掛けられた前記フィラメントの折返し部分が当該折返しピンの長手方向へずれることを防止するための位置ずれ防止構造が設けられているものである。
【0013】
前記位置ずれ防止構造は前記折返しピンの外周面に設けられた溝又は突起からなるものであってもよい。
【0014】
前記折返しピンは絶縁性材料により構成されている。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る熱伝導度検出器では、フィラメントが、検出流路内において流体の流れ方向に対して略垂直に設けられた折返しピンに引っ掛けられて折り返されており、折返しピンには、当該折返しピンに引っ掛けられたフィラメントの折返し部分が当該折返しピンの長手方向へずれることを防止するための位置ずれ防止構造が設けられているので、折返しピンに引っ掛けられたフィラメントの折返し部分の位置が検出流路内の温度変動やセルブロックの振動によってずれることが防止され、S/Nの変動や低下が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】熱伝導度検出器を備えたガスクロマトグラフの一例を説明するための概略的な構成図である。
図2】検出流路に配置されたフィラメントの設置構造の一例を示す平面図である。
図3】フィラメント設置部分の断面構造の一例を示す断面図である。
図4】フィラメント設置部分の断面構造の他の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0018】
熱伝導度検出器を備えたガスクロマトグラフの一例について、図1を用いて説明する。
【0019】
このガスクロマトグラフにおいて、測定試料は、試料導入部10に導入されて加熱され、試料ガス流路12を経て、ガスタンク2から供給され流量調節器8で流量を調節されたキャリアガスと混合され、カラムガスとなる。カラムガスは分離カラム14に導入され、成分ごとに分離された後、カラムガス流路16を経て熱伝導度検出器1に導入される。
【0020】
また、ガスタンク2からの流路6はリファレンスガス流路22とメイクアップガス流路26に分岐している。リファレンスガス流路22上とメイクアップガス流路26上のそれぞれに圧力調節器20と24が設けられている。リファレンスガス流路22とメイクアップガス流路26は熱伝導度検出器1に接続されており、ガスタンク2からのガスがリファレンスガス及びメイクアップガスとして熱伝導度検出器1に導入される。
【0021】
熱伝導度検出器1は、切替バルブ28、セルブロック34、バルブ駆動回路46、フィラメント駆動回路48、検出回路50及び周波数信号源52を備えている。セルブロック34内には検出流路36が設けられているとともに、セルブロック34の温度を所定温度に維持するためのヒータ44,温度センサ45が埋設されている。
【0022】
検出流路36は互いに略平行に設けられた流路36b及び36cと、流路36bの端部と流路36cの端部とを連通させる流路36aとを備えた流路である。検出流路36の流路36b内における流体と直接的に接触する位置に、流路36bを流れるガスの流れ方向に沿う方向へ延びるフィラメント38が設けられている。フィラメント38は検出流路36の流路36bを流れる流体との間で熱伝導を行なう熱伝導部をなしている。フィラメント38は、フィラメントが流体の流れ方向と略平行な方向へ折り返されており、全長が流路36bの長手方向の長さよりも長くなっている。
【0023】
セルブロック34はカラムガス、メイクアップガス用の入口ポート34a、リファレンスガス用の入口ポート34b及び34cを備えている。入口ポート34aは流路36aの中央部に通じている。入口ポート34bは流路36bの基端部に通じており、入口ポート34cは流路36cの基端部に通じている。流路36bの先端部に排出流路40が接続され、流路36cの先端部に排出流路42が接続されている。
【0024】
入口ポート34aにはカラムガス流路16とメイクアップガス流路26が接続されている。入口ポート34cと34bにはそれぞれ流路30と32が接続されている。流路30と32はそれぞれ切替バルブ28のポートに接続されている。切替バルブ28にはリファレンスガス流路22が接続されており、切替バルブ28は、流路30を通じてリファレンスガスを検出流路36に導入するか、流路32を通じてリファレンスガスを検出流路36に導入するかを切り替える。
【0025】
分離カラム14からのカラムガスは、メイクアップガス流路26からのメイクアップガスとともに入口ポート34aを介して流路36aの中央部から検出流路36内に導入される。リファレンスガスが入口ポート34cから導入されているときは、流路36b側基端部よりも流路36c側基端部の圧力が高くなるため、検出流路36a内に導入されたカラムガスは流路36bを流れる。流路36bを流れたカラムガスは排出流路40を通じて外部へ排出される。
【0026】
逆に、リファレンスガスが入口ポート34bから導入されているときは、流路36c側基端部よりも流路36b側基端部の圧力が高くなるため、検出流路36a内に導入されたカラムガスは流路36cを流れる。流路36cを流れたカラムガスは排出流路40を通じて外部へ排出される。このとき、流路36bはリファレンスガスのみが流れる状態となる。
【0027】
入口ポート34aを通じて流路36に導入されるカラムガスとメイクアップガスの合計流量は例えば10ml/min以下であり、入口ポート34b又は34cを通じて流路36に導入されるリファレンスガスの流量は、例えば50ml/min以下である。流路36bの幅寸法は例えば1.5mm以下であり、深さ寸法は例えば1mm以下である。
【0028】
切替バルブ28はバルブ駆動回路46による制御によって切り替えられる。バルブ駆動回路46は周波数信号源52から一定の周期の信号を受けて切替バルブ28の切り替えを行なう。
【0029】
フィラメント38にはフィラメント駆動回路48によって電圧が印加される。フィラメント駆動回路48は、フィラメント38に流れる電流が一定になるように、又はフィラメント38の抵抗値が一定になるように、フィラメント38に印加する電圧を制御する。
【0030】
フィラメント38に印加される電圧は検出回路50によって測定される。検出回路50は、周波数信号源52の信号を受け取って測定タイミングを同期する。これにより、切替バルブ28の切替えタイミングと同期してフィラメント38の電圧が検出される。
【0031】
図2及び図3に示されているように、この実施例において、フィラメント38は1本の金属線からなる。流路36bの上流側と下流側に導電性ピン54が1つずつ設けられ、さらに流路36bの上流側と下流側にセラミックなどの絶縁性材料で構成された折返しピン56が複数設けられている。フィラメント38は、折返しピン56に引っ掛けられて流体の流れ方向へ折り返され、両端が導電性ピン54に固定されている。導電性ピン54はセルブロック34の筐体と導通しないように絶縁体55によって支持されている。導電性ピン54にはフィラメント駆動回路48及び検出回路50が接続されている。
【0032】
折返しピン56の外周面には溝56aが設けられている。溝56aは、フィラメント38の折返しピン56への引っ掛け部分の位置ずれを防止するための位置ずれ防止構造をなしている。折返しピン56にこのような位置ずれ防止構造が設けられていることで、測定時の昇降温に起因したフィラメント38の位置ずれが抑制され、フィラメント38の位置ずれによるS/Nの変化や低下、流路36bの壁面へのフィラメント38の接触によるショートといった問題を防止することができる。
【0033】
なお、位置ずれ防止構造は、図4に示されているように、折返しピン56の外周面に突起56bを設けることによっても実現することができる。
【符号の説明】
【0034】
1 熱伝導度検出器
28 切替バルブ
30、32 流路
34 セルブロック
34a、34b、34c 入口ポート
36 検出流路
36a、36b、36c 流路(検出流路)
38 フィラメント
40、42 排出流路
44 ヒータ
45 温度センサ
46 バルブ駆動回路
48 フィラメント駆動回路
50 検出回路
52 周波数信号源
図1
図2
図3
図4