(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6863487
(24)【登録日】2021年4月5日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】出没式筆記具
(51)【国際特許分類】
B43K 24/08 20060101AFI20210412BHJP
【FI】
B43K24/08 150
B43K24/08 110
【請求項の数】3
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2020-4958(P2020-4958)
(22)【出願日】2020年1月16日
(62)【分割の表示】特願2015-213879(P2015-213879)の分割
【原出願日】2015年10月30日
(65)【公開番号】特開2020-62891(P2020-62891A)
(43)【公開日】2020年4月23日
【審査請求日】2020年1月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005511
【氏名又は名称】ぺんてる株式会社
(72)【発明者】
【氏名】吉村 典久
【審査官】
藤井 達也
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−34879(JP,A)
【文献】
特開2009−285985(JP,A)
【文献】
特開2013−132837(JP,A)
【文献】
実開平2−108087(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B43K 1/00− 1/12
B43K 5/00− 8/24
B43K 21/00−21/26
B43K 24/00−24/18
B43K 27/00−27/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸筒内に回転子の回転、並びに、前後動によって出没するリフィルが配置された出没式筆記具であって、前記軸筒の内面に周状のリブによる区画壁を設け、その区画壁の後方に前記回転子を配置すると共に、前記区画壁にリフィルが貫通する貫通孔を設け、その貫通孔の前端に前端側から後端に向けて縮径となるテーパー部を設け、一方、前記回転子には前記リフィルが挿着されるリフィル挿入孔を設け、そのリフィル挿入孔の前方部に先端から後方に向けて縮径となるテーパー部を設け、前記区画壁に設けた貫通孔の内径をDとし、回転子に設けたリフィル挿入孔の先端部の内径をEとし、また、前記リフィルの半径をFとし、さらに、貫通孔の内径と回転子の外径との隙間をGとし、回転子の前端部における厚さをHとしたとき、D−E<F、且つ、G+H<Fである出没式筆記具。
【請求項2】
前記リフィルの没入時において、回転子の先端部を区画壁の領域内に位置させた請求項1に記載の出没式筆記具。
【請求項3】
前記軸筒を前軸と後軸とから構成すると共に、それら前軸と後軸とを着脱可能に結合させた請求項1又は請求項2に記載の出没式筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸筒内に芯体を配置すると共にノック部品を押圧することでペン先を出没するノック式ボールペンにおける、その芯体のセット性に関するものである。
【背景技術】
【0002】
1例として、押棒カムの押圧力を受けて軸筒内壁に形成したカム面と係脱する回転カム部材の移動によって筆記部材の筆端部が軸筒開口部から出没するノック式筆記具において、回転カム部材に形成した中空部内に筆端部とインキ貯蔵部を設けてなる筆記部材を圧入嵌着または、ねじ嵌着などの手動で着脱可能に固定的に取付けるとともに、回転カム部材の段部と軸筒後方段部との間に弾発部材を掛着したことを特徴とするノック式筆記具が知られている。
【特許文献1】実願平1‐17730号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記の従来技術の組み立てにあっては、軸筒を先金、前軸、後軸に分割し、前軸後軸間に弾発部材を設け、その後、前軸後軸を接合し、リフィルをセットし、先金を螺合する工程が想定される。さらに、使用者はリフィル交換の際に先金部を取り外し、リフィル交換を行うので、弾発部材を無くすことがなくなるのである。しかし、この組立時、リフィル交換時には軸筒の細径部にリフィルを通す際や、回転子へのリフィルの挿入の際、リフィル端面が回転カムに設けた段部や、軸筒内部の細径部の端面に引っ掛かり、煩わしさを感じるとともに、生産性を低下させていた。
【課題を解決するための手段】
【0004】
そこで、軸筒内に回転子の回転、並びに、前後動によって出没するリフィルが配置された出没式筆記具であって、前記軸筒の内面に周状のリブによる区画壁を設け、その区画壁の後方に前記回転子を配置すると共に、前記区画壁にリフィルが貫通する貫通孔を設け、その貫通孔の前端に前端側から後端に向けて縮径となるテーパー部を設け、一方、前記回転子には前記リフィルが挿着されるリフィル挿入孔を設け、そのリフィル挿入孔の前方部に先端から後方に向けて縮径となるテーパー部を設け、前記区画壁に設けた貫通孔の内径をDとし、回転子に設けたリフィル挿入孔の先端部の内径をEとし、また、前記リフィルの半径をFとし、さらに、貫通孔の内径と回転子の外径との隙間をGとし、回転子の前端部における厚さをHとしたとき、D−E<F、且つ、G+H<Fである出没式筆記具を第1の要旨とし、前記リフィルの没入時において、回転子の先端部を区画壁の領域内に位置させたことを第2の要旨とし、前記軸筒を前軸と後軸とから構成すると共に、それら前軸と後軸とを着脱可能に結合させたことを第3の要旨とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明は、軸筒内に回転子の回転、並びに、前後動によって出没するリフィルが配置された出没式筆記具であって、前記軸筒の内面に周状のリブによる区画壁を設け、その区画壁の後方に前記回転子を配置すると共に、前記区画壁にリフィルが貫通する貫通孔を設け、その貫通孔の前端に前端側から後端に向けて縮径となるテーパー部を設け、一方、前記回転子には前記リフィルが挿着されるリフィル挿入孔を設け、そのリフィル挿入孔の前方部に先端から後方に向けて縮径となるテーパー部を設け、前記区画壁に設けた貫通孔の内径をDとし、回転子に設けたリフィル挿入孔の先端部の内径をEとし、また、前記リフィルの半径をFとし、さらに、貫通孔の内径と回転子の外径との隙間をGとし、回転子の前端部における厚さをHとしたとき、D−E<F、且つ、G+H<Fである出没式筆記具を第1の要旨としているので、リフィル挿入時に回転子先端にリフィルパイプの先端が接触したとしても、少しの振動で挿入孔へ誘導され、組立時やリフィル交換時にリフィルのセット性が良く、煩わしさを感じず、生産性の良いノック式筆記具を提供することができる。
【0006】
さらに、前記リフィルの没入時において、回転子の先端部を区画壁の領域内に位置させたことを第2の要旨としているので、より回転子の芯出しがされ、リフィルセット性が良くなると共に、ノック作動時に回転子先端が区画壁に衝突するという作動不良も抑制される。
【0007】
また、前記軸筒を前軸と後軸とから構成すると共に、それら前軸と後軸とを着脱可能に結合させたことを第3の要旨としているので、前軸を外し、リフィルを後軸先端から挿入する筆記具においては、リフィル交換時の煩わしさを極力少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図26】リフィル後端が回転子先端に乗った状態の段面図
【
図27】リフィルパイプが軸内テーパー部に案内される断面図
【
図32】クリップが一体の頭冠を取付けた形態を表す正面図
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
作用について説明する。軸をペン先4bが上向きとなる状態とし、リフィル4を後軸3先端から挿入した際、自由落下により、リフィル4が区画壁1aに設けた貫通孔1bを通り、次いで回転子5のリフィル挿入孔5aへ挿入される。この際、多少の組み立てのブレにより、リフィル4の軸芯と軸の軸芯がずれた際、リフィル4の後端部は後軸内壁へと接触してしまう。しかし、前記貫通孔1b前端に設けた、前端側から後端に向けて縮径となる軸内テーパー部1Cによって、リフィル4は貫通孔1b内へと案内され、次いで、前記回転子5のリフィル挿入孔5aの前方部に先端から後方に向けて縮径となるように設けた回転子テーパー部5bによってスムーズに回転子5のリフィル挿入孔5aへと案内される。この際、区画壁1aに設けた貫通孔1bの内径をDとし、回転子5に設けたリフィル挿入孔5aの先端部の内径をEとし、また、前記リフィル4の半径をFとしたとき、D−E<Fとすることで、仮に回転子5の先端部にリフィル4の後端部が接触してしまっても、少しの振動で回転子5の回転子テーパー部5bに落ち込み、リフィル挿入孔5aへと案内される。併せて、貫通孔1bの内径と回転子5の外径との隙間をGとし、回転子5の前端部における厚さをHとしたとき、G+H<Fとすることで貫通孔1bの内径と回転子5の外径との間にリフィル4の後端が入り込むこともなく、より組み立ての信頼性が向上する。さらに、前記回転子5はペン先4bが没状態において、回転子5の先端が区画壁1aに設けた貫通孔1bの軸における長手方向の領域内、 即ち、区画壁1aの幅Sの領域内に位置することで、ペン先4bの出没作動時に関して区画壁1aの後端面に回転子5の先端が衝突することなく、スムーズな出没が可能となる。また、前述したリフィル4の後端部が回転子5の先端部に接触し、その接触した状態が維持されてしまうという現象もおきにくくなると同時に、ペン先4bが出状態において、区画壁1aに設けた貫通孔1bと回転子5による隙間をなるべく少なくでき、筆記時のリフィル4のたわみ、ガタつきを極力抑えられるのである。なお、前記後軸貫通孔1b前端に設けた軸内テーパー部1C、並びに回転子5に設けた回転子テーパー部5bはそのテーパー面の表面をリフィルパイプが引っ掛かり難い表面粗さ(平均粗さ1.60μm以下)とする。尚、その表面の最大粗さはVK−8500(キーエンス社製、JIS B0601 1994に準拠)を用いて測定し、5点測定した平均値を使用している。尚、測定には50倍レンズを使用し、撮影した画像の中央部分を一辺が10μmの正方形で切り取って測定を行った。
第1例を
図1〜
図6に示し説明する。軸体内にボールペン体であるリフィル4を配置すると共に、そのボールペン体であるリフィル4を出没可能に配置した、所謂、出没式の筆記具である。比較的硬質な樹脂材質から形成された軸筒の表面には、グリップ部6として、比較的軟質な樹脂材質(軟質部材)が被覆されている。前記軸筒1を形成する比較的硬質な樹脂材質の1例としては、本例においてはポリカーボネートを使用しているが、ポリエチレンテレフタレートやアクリル、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体(ABS)、アクリロニトリルスチレン共重合体(AS)、ポリプロピレンなどが挙げられる。また、軟質部材を形成する比較的軟質な樹脂材質としては、本例においては熱可塑性エラストマーを使用しているが、軟質アクリルなども挙げられる。前記グリップ部6は本実施例では外面を多角形状としたグリップが被覆されているが、表面に凹凸を設けたグリップや三角形状をしたグリップなど、把持した際に滑りにくいグリップが好ましい。なお、本実施例では前記軸筒1は前軸2と後軸3の二分割で構成し、前軸2の後端に雄ねじ2a、後軸3先端に雌ねじ3aを設け、お互いを螺合させることで一体としているが、圧入嵌合方式でも構わなく、一体として形成し、先金部を外せるようにしても構わない。
前記後軸3の略中央内部には周状のリブによりなる区画壁1aが設けてあり、その中心にはリフィル4が貫通する貫通孔1bが設けてある。前記区画壁1aの後方には弾発部材7が設けてあり、その弾発部材7の一端が区画壁1aの後端面に接触している。一方、弾発部材7の他端は回転子5の前端面に接触し、その回転子5は弾発部材7により後方に付勢されている。頭冠8の後端開口部8aにはノック9が後端を露出するように内挿されており、ノック9の先端には前記回転子5が頭冠8内を前後に摺動するように内挿されている。前記回転子5にはリフィル4が圧入固定されており、リフィル4は回転子5に伴って前後に摺動する。これにより前記ノック9の露出後端部を押圧することでペン先4bが出没されるのである。なお、本実施例では前記頭冠8の内面にはカム溝8bが形成されており、内挿された回転子5の係止部5cとの係止、解除を繰り返すことで、ペン先4bの出没状態を維持する回転カム方式をとっているが、その他の出没維持方法を採用しても構わない。
前記前軸2には軟質部材からなるグリップ部6が2色成形により一体的に成形されているが、各々を成形し、後の組立工程により、グリップ部6を前軸2に被覆しても構わない。2色成形により被覆させる際には前軸2とグリップ部6が境界面で融着している状態が好ましく、例えば前軸2にポリカーボネートを使用する時にはグリップ部6にポリエステル系のエラストマーというように御互いの相性が重要である。境界面での融着が不十分な場合、経時による前軸2に対する軟質部材の緩みが発生する可能性がある。融着が不十分な場合や、前軸2、グリップ部6の成形を別々に行った場合、前軸2に対するグリップ部6の緩みを防止するために、前軸2のグリップ被覆部に緩み防止用の縦リブ2bを放射状に複数設けることで解決している。しかし、上記前軸2とグリップ部6の材質の関係性は単に緩みの問題だけでなく、近年増えてきている透明調のグリップ部6の美観にも影響する。成形時に境界面で融着がされなかった場合、境界面の流れの末端に空気が溜まってしまい。グリップ部6が透明調の場合に、外観から空気の溜まりが見えてしまい、美観を損ねてしまうおそれがある。前述した緩み防止用の縦リブ2bによって、前記空気を二次側表面まで誘導するよう設ければ、その問題も解決が可能である。
【0010】
前記前軸2の内面先端にはペン先4bを中心に位置させるためのリフィル先寄せリブ2cが放射状、かつ、等間隔な位置に形成されている。前記リフィル先寄せリブ2cの内接円径はリフィルパイプの外径よりも若干大きめに設定し、後部形状は後方に向けて拡径となるように設定することで、ノック9の押圧時に抵抗なくペン先4bの出没が可能となる。また、放射状に設けた複数のリフィル先寄せリブ2cの内、全てではない少なくとも一本は他のリフィル先寄せリブ2cよりも長く形成されている。これは二次側の成形をインサート成形にて行う場合に一次側コアピンから二次側コアピンへと移動させる際の位置決めとして機能させるコアピン位置決めリブ2dとするためである。
【0011】
前記後軸3には内部を軸芯方向前後に分ける周状のリブによる区画壁1aがある。前記区画壁1aにはリフィル4が貫通する貫通孔1bが空いている。その区画壁1aは軸の長手方向に幅Sを有している。また、前記貫通孔1b前端には軸の前方から後方に向けて縮径となる軸内テーパー部1Cを設けている。前記軸内テーパー部1Cは本実施例ではリブ状に設けているが、これは成形時に肉厚になることによるヒケを考慮したためであり、一体に周状リブとしても構わない。一体に周状のリブとして設けた場合、リフィル4の径を選ばず安定してリフィル4を回転子5のリフィル挿入孔5aへと案内することが可能になる。
【0012】
本実施例のように放射状にリブとして設ける場合はリブとリブの間隔Yをリフィル4の直径Zよりも大きくしないことが重要である。リブ間Yがリフィル4の直径Zよりも大きくなるとそこにリフィル4が引っ掛かり、組立性を悪化させてしまう可能性があるからである。
また、区画壁1aに設けた貫通孔1bの内径をDとし、回転子5に設けたリフィル挿入孔5aの先端部の内径をEとし、また、前記リフィル4の半径をFとしたとき、D−E<Fとすることで、仮に回転子5の先端部にリフィル4の後端部が接触してしまっても、少しの振動で回転子5の回転子テーパー部5bに落ち込み、リフィル挿入孔5aへと案内される。併せて、貫通孔1bの内径と回転子5の外径との隙間をGとし、回転子5の前端部における厚さをHとしたとき、G+H<Fとすることで貫通孔1bの内径と回転子5の外径との間にリフィル4の後端が入り込むこともなく、より組み立ての信頼性が向上する。
さらに、本実施例のように、前記後軸3内面を断面形状多角形の多面体とし、前記放射状のリブを断面形状多角形における辺部に設け、さらに前記した通りリブとリブの間隔Yをリフィル4の直径Zよりも大きくしないことにより、横向きでの組立時やリフィル4交換時において、初期段階ではリフィル4の後端は断面形状多角形における頂点部によって案内され、さらに前進していくことで、断面形状多角形における辺部に設けたリブに接触後、2つのリブがレール状となることにより、リフィル4の後端が貫通孔1bへ安定して案内されるやすくなるのである。
前記区画壁1aの後端にはスプリング受け面1dがあり、常に弾発部材7の荷重を受けている。前記区画壁1aは本実施例では後軸3内部に一体に設けてあるが、別部品として設けても構わない。前記頭冠8を前記後軸3に挿入固定する際は、後軸3の後端側から頭冠8の先端を挿入し、頭冠8の係合突起8cを後軸3の係合孔1fに係合させて固定させるが、その際に、一般的には頭冠8の先端を前記後軸3のスプリング受け面1dに接触させることでガタを防止する。しかし、全長方向の寸法は成形条件によっても変化が発生し、ガタの発生、もしくは、圧入不足が発生してしまう。そのため、本実施例ではスプリング受け面1dと頭冠8先端面との間に成形によるバラつきを考慮できるほどの僅かな空間を設ける。その僅かな空間により発生してしまうガタにはスプリング受け面1dから後軸3の内面壁部に設けた、断面略三角形状のガタ防止リブ1eに、頭冠8の先端部が接触することで緩和している。前記ガタ防止リブ1eの形状は長手方向のガタと軸芯方向に発生するガタと両者を抑えるため、三角形状が最も望ましいが、必ずしも形状にこだわりはなく、若干の圧入関係になっていれば良い。
【0013】
前記後軸3には頭冠8を係合固定するための係合孔が形成されている。本実施例では頭冠8の外径は略均一に後軸3の後端内径に収まる形状であるが、後軸3の後端面にあわせて径を大きくした大径部を設けた形状でも構わない。その場合、前記ガタ防止リブ1eは後軸3ではなく、頭冠8大径部と小径部の鍔部に設けても同じ効果が得られる。前記頭冠8の係合突起8cは前方に傾斜面8dを設け、途中平行部8eとなり、平行部8eの後方を係合面8fとする。前記係合面8fの稜線はエッジとし、少しでも後軸3の係合孔1fとの接触面積を増やして頭冠8の抜け強度を向上させ、傾斜面8dから平行部8eにかけてのその他の稜線に関してはR形状(円弧状)とする。これは、後軸3への頭冠8の係合時、一時的に圧入状態となるが、前記係合突起8cにRを設けることで後軸3の内面を傷つけることを抑制でき、割れなどが発生しにくくできるのである。前記割れの抑制としては後軸3の係合孔1fの上部にウェルドを発生しにくくさせるため、係合孔1f上部の頭冠案内部1gはR形状とし、ウェルドの発生を抑制している。また、前記頭冠8のゲート8hは頭冠8の天面から一定距離離れた位置に設けている。これは組立時に後軸3内に潜り、外観上目立たなくなるからである。また、使用者が使用時にゲート跡に触れ不快に感じないためでもある。
前記回転子5には先端から後端に向けて、リフィル挿入孔5aが設けてあり、リフィル4の後端が入り込み、固定されている。リフィル4の固定方法としては本実施例のような放射状に設けたリフィル圧入リブ5dの他に、全周で圧入となるような圧入突起、リフィル挿入孔5aが後端に向かうほど縮径するようなテーパー状による圧入方法、または、断面形状を異形にし、圧入部を作る方法でも良い。リフィル4は本実施例では前記した通り、回転子5に圧入固定がなされているが、他の製品との汎用性を考慮し、クリンプ4cのついたリフィル4も使用が可能である。その際は、リフィル4は回転子5に固定させるのでなく、前軸2内に弾発部材7を配置しリフィル4を後方に付勢し、回転子5はリフィル4の端面を受けるだけにしても構わない。また、インクの量を増やしたパイプ径の大きなリフィル4に関しても、回転子5に固定するのではなく前軸2内に弾発部材7を配置しリフィル4を後方に付勢し、回転子5はリフィルの端面を受けることにより、出没可能に配置することも可能である。また、前記リフィル挿入孔5aは本実施例では先端から後端に向けて貫通させているが、これは単に筆記時にリフィル4内のインキの吐出に対して、リフィル4の後端部より、空気交換がなされるために貫通させており、必ずしも貫通している必要はない。
前記頭冠8内部にはその先端側から、ノック9、回転子5がそれぞれ挿入される。ノック9には周壁に先端山状の位置決めリブ9aが複数設けてあり、頭冠8への挿入時に自重でもその位置決めリブ9aがカム溝8bを通り、スムーズに奥まで入り込むようになっている。組み立て時においては、ノック9a挿入後、頭冠8先端から回転子5を挿入する。この際、頭冠8の内壁面先端近傍に回転子抜け防止リブ8gをそのリブ内接円径Aが回転子5の最大径部Xより若干小さめになるように設けてあり、その抜け防止リブ8gを乗り越えて頭冠8内に回転子5を前後移動可能に挿入される。即ち、回転子5の挿入後においては、回転子5は自重では落下しないようになっている。
【0014】
前記頭冠8内にはその一方の端面を後軸区画壁1aのスプリング受け部1dに接触させ、もう一端を前記回転子5へと接触させた弾発部材7が内挿されており、使用者のノック9の押圧に対して、弾発力を発生し、ノック9と頭冠8内のカム溝8b、及び、回転子5のカム部により回転が生じる。その回転により、回転子5の係止、解除が繰り返され、リフィル4の出没動作が行われるのである。前記弾発部材7はそのリフィル4の出没動作により頭冠8内において、回転子5に押されることでその全長が伸縮する。回転子5の回転方向はそのカム部と頭冠8のカム溝8bの方向により決定されるが、前期弾発部材7であるスプリングの巻き方向は前記回転子5の回転方向と逆巻きが望ましい。これは回転子5が回転する際にスプリングの巻き終わり部などが引っ掛かり、作動不良が起き難いからである。また、回転子5にはPOM(ポリアセタール)等の潤滑性の良い樹脂により成形するが、場合によってシリコン等の潤滑剤を予め塗布しておくと尚作動が向上される。前記弾発部材7であるスプリングの外径は前記頭冠8の回転子抜け防止リブ8gより小さくし、作動時に影響の出ないものとする。前記スプリングは頭冠8内に全体が挿入されているため、頭冠8を不透明の樹脂で成形すれば、スプリングは外観からは見えない。また、後軸3を透明調で成形することで、後軸3を介して頭冠8が見える為、その色合いの変化を楽しむことが出来る。
【0015】
頭冠8には第一の実施例では頭冠8の外周部に突設するクリップ支持部10と、そのクリップ支持部10に係合するクリップ11と、そのクリップ11の後部を前記軸筒の外周面から離間するように付勢するコイルスプリング12を備え、前記クリップ11の両側面に突設した側支持板11aを前記クリップ支持部10に被せて前記クリップ11が回動自在となる支点10aを構成し、前記コイルスプリング12はその支点10aよりも後方に配設されると共に、前記クリップ11の支点10aよりも前方が軸筒の外周面に当接するように常に付勢された、先端開閉式のクリップが設けてあるが、単純にクリップ11を頭冠8に一体に設けた頭冠でも構わない。前記のような先端開閉式のクリップを頭冠8に具備させる際は、そのクリップ玉部11bを2つ設けることで、外周面へのクリップ玉部11bの接触点が2つに増え、クリップ11が横ブレしにくくなる。
(付記)
軸筒内に回転子の回転、並びに、前後動によって出没するリフィルが配置された出没式筆記具であって、前記軸筒の内面に周状のリブによる区画壁を設け、その区画壁の後方に前記回転子を配置すると共に、前記区画壁にリフィルが貫通する貫通孔を設け、その貫通孔の前端に前端側から後端に向けて縮径となるテーパー部を設け、一方、前記回転子には前記リフィルが挿着されるリフィル挿入孔を設け、そのリフィル挿入孔の前方部に先端から後方に向けて縮径となるテーパー部を設けたことを第1の付記とし、前記区画壁に設けた貫通孔の内径をDとし、回転子に設けたリフィル挿入孔の先端部の内径をEとし、また、前記リフィルの半径をFとし、さらに、貫通孔の内径と回転子の外径との隙間をGとし、回転子の前端部における厚さをHとしたとき、D−E<F、且つ、G+H<Fであることを第2の付記とし、前記リフィルの没入時において、回転子の先端部を区画壁の領域内に位置させたことを第3の付記とし、前記軸筒を前軸と後軸とから構成すると共に、それら前軸と後軸とを着脱可能に結合させたことを第4の付記とする。
【0016】
以上の(付記)によれば、軸筒内に回転子の回転、並びに、前後動によって出没するリフィルが配置された出没式筆記具であって、前記軸筒の内面に周状のリブによる区画壁を設け、その区画壁の後方に前記回転子を配置すると共に、前記区画壁にリフィルが貫通する貫通孔を設け、その貫通孔の前端に前端側から後端に向けて縮径となるテーパー部を設け、一方、前記回転子には前記リフィルが挿着されるリフィル挿入孔を設け、そのリフィル挿入孔の前方部に先端から後方に向けて縮径となるテーパー部を設けたことを第1の付記としているので、組立時やリフィル交換時にリフィルのセット性が良く、煩わしさを感じず、生産性の良いノック式筆記具を提供することができる。
【0017】
また、前記区画壁に設けた貫通孔の内径をDとし、回転子に設けたリフィル挿入孔の先端部の内径をEとし、また、前記リフィルの半径をFとし、さらに、貫通孔の内径と回転子の外径との隙間をGとし、回転子の前端部における厚さをHとしたとき、D−E<F、且つ、G+H<Fであることを第2の付記としているので、リフィル挿入時に回転子先端にリフィルパイプの先端が接触したとしても、少しの振動で挿入孔へ誘導される。
【0018】
さらに、前記リフィルの没入時において、回転子の先端部を区画壁の領域内に位置させることを第3の付記としているので、より回転子の芯出しがされ、リフィルセット性が良くなると共に、ノック作動時に回転子先端が区画壁に衝突するという作動不良も抑制される。
【0019】
また、前記軸筒を前軸と後軸とから構成すると共に、それら前軸と後軸とを着脱可能に結合させたことを第4の付記としているので、前軸を外し、リフィルを後軸先端から挿入する筆記具においては、リフィル交換時の煩わしさを極力少なくすることができる。
【符号の説明】
【0020】
1 軸筒
1a 区画壁
1b 貫通孔
1c 軸内テーパー部
1d スプリング受け面
1e ガタ防止リブ
1f 係合孔
1g 頭冠案内部
2 前軸
2a 雄ねじ部
2b 縦リブ
2c リフィル先寄せリブ
2d コアピン位置決めリブ
3 後軸
3a 雌ねじ部
4 リフィル
4a リフィルパイプ
4b ペン先
4c クリンプ
5 回転子
5a リフィル挿入孔
5b 回転子テーパー部
5c 係止部
5d リフィル圧入リブ
6 グリップ部
7 弾発部材
8 頭冠
8a 後端開口部
8b カム溝
8c 係合突起
8d 傾斜面
8e 平行部
8f 係合面
8g 抜け防止リブ
8h 頭冠ゲート
9 ノック
9a 位置決めリブ
10 クリップ支持部
10a 支点
11 クリップ
11a 支持板
11b 玉部
12 コイルスプリング