(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、食品、医薬品、エレクロトニクス部品等の包装に用いられる包装材料は、内容物の変質を防止するため、酸素等の気体を遮断するガスバリア性を備えることが求められている。現在、包装材料としては、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)等のPVA系樹脂を用いたガスバリア性フィルムや、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)系樹脂を用いたガスバリア性フィルムが多用されている。しかし、PVA系樹脂を用いたガスバリア性フィルムは湿度依存性が大きく、湿度の上昇に従い、吸湿・膨潤等によってガスバリア性が大幅に低下する問題がある。PVDC系樹脂を用いたガスバリア性フィルムは、酸素透過度に対する湿度依存性はほとんどないものの、分子構造中に塩素原子を含むことから、焼却によるダイオキシン発生のおそれがあり、環境への影響が懸念されている。さらに、PVA系樹脂やPVDC系樹脂は、化石資源由来の材料をもとに製造されており、資源の枯渇や温暖化ガス削減の観点から好ましくない。
【0003】
一方、近年、これまでの環境負荷型技術から環境保全型への技術転換が世界中で巻き起こる中、再生可能な天然資源が注目されてきている。これは、ほとんどの天然資源は石油由来のプラスチックより燃焼熱が低い上に、生分解性もあり土に戻すことができ、廃棄物処理の心配がないためである。そこで、天然資源を有効利用した材料を使用することは、環境問題の深刻化する中で、最優先課題となっている。その中でも木材の主成分であるセルロースは、地球上に最も大量に蓄積された天然高分子材料であることから、将来目指すべき資源循環型社会の中核を担う物質として期待が寄せられている。
【0004】
例えば特許文献1においては、カルボキシ基が導入されたセルロースパウダーを含むガスバリア膜形成用コーティング剤が提案されている。
【0005】
また、非特許文献1においては、木材中のセルロース繊維にカルボキシ基を導入したのち、水中で軽微な機械解繊処理を施すことによってセルロースをシングルミクロフィブリル単位で分散させたセルロースシングルナノファイバー(以下CSNF;Cellulose Single Nanofiber、とも称する。)の調製に成功している。このようにして得られるCSNFは、短軸径が3nm前後と微細であることから、得られるCSNF水分散液、および水分を除去して得られる成型体の透明度が非常に高い。CSNFをガスバリア材料として用いれば、透明性の高いガスバリア用積層体を得ることも可能である(例えば特許文献2参照)。
【0006】
しかし、これらの上記セルロース系材料を用いたガスバリア膜については、実用上の様々な課題が残されたままであり、産業化に至っていないのが現状である。
【0007】
例えば特許文献1記載のコーティング剤にあっては含まれるガスバリア材料の粒子径が大きいため緻密なガスバリア膜の形成が難しく、実用上十分なガスバリア性を得られるとは言いがたい。また、透明性を全く有していないため、透明包装材用途への適用も難しい。
【0008】
一方、特許文献2に記載のCSNFを利用したガスバリア膜の場合、CSNFが緻密な膜を形成することで高いガスバリア性と透明性を両立する膜を形成可能である。しかしながら、本発明者が前記CSNFガスバリア膜の実用性を検証したところ、前記ガスバリア膜は脆性を有していることが明らかとなった。すなわち、前記ガスバリア膜を包装材料として用いた場合、製袋や折り曲げなどの加工の再にガスバリア膜に微小なクラックが発生してガスバリア性が著しく劣化してしまう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、セルロース系材料を用いたガスバリア膜であって、そのガスバリア膜を屈曲させた場合でもクラックを生じることなくガスバリア性を維持可能なガスバリア膜とその製造方法およびガスバリア膜を製造するための分散液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題の解決のため鋭意検討を重ねたところ、カルボキシ基が導入されたセルロース系材料を溶媒中で機械解繊処理して得られるセルロース系材料の分散液の光線透過率を一定の範囲になるように制御することによって、前記分散液を用いて形成したガスバリア膜の耐屈曲性が改善することを見出し、本発明を達成するに至った。具体的には、文献2に記載されたバルーン膨潤構造を形成したセルロース系材料を含むガスバリア膜とすることで、ガスバリア性と耐屈曲性の両立を可能とした。
本発明は、上記知見に基づくものであり、以下の態様を有する。
【0013】
本願請求項1に記載の発明は、セルロース系材料を含むガスバリア膜であって、そのセルロース系材料が、カルボキシ基を有し、
前記セルロース系材料を水中に分散させ、N-オキシル化合物の共存下で酸化処理することによりセルロースが酸化され、カルボキシ基が導入され、前記酸化反応の際にアルコールを添加することにより酸化反応を停止させ且つ
バルーン膨潤構造をした未解繊状態のセルロースナノファイバー部分とミクロフィブリル単位で分散したセルロースシングルナノファイバー部分が緻密に絡み合った構造を形成し、
前記ガスバリア膜は、光路長10mmにおける660nmでの光線透過率が30%以上80%以下であることを特徴とするセルロース系材料を用いたガスバリア膜であり、前記ガスバリア膜を金属棒に巻付け後の酸素透過度が7.1cc/m
2/day以下であることを特徴とするセルロース系材料を用いたガスバリア膜。
【0014】
また請求項2に記載の発明は、前記セルロース系材料の結晶構造がセルロースI型であることを特徴とする請求項1に記載のセルロース系材料を用いたガスバリア膜である。
【0016】
また請求項
3に記載の発明は、上述したガスバリア膜を形成するための分散液であって
、カルボキシ基を有するセルロース系材料の固形分濃度を溶媒に対して0.5質量%とし
て単独で溶媒に分散させ、機械解繊処理を行うことで、光路長10mmにおける660n
mでの光線透過率が30%以上80%以下に調整したことを特徴とするセルロース系材料
の分散液である。
【0017】
また請求項
4に記載の発明は、上述したガスバリア膜を形成するためのガスバリア膜の製造方法であって、セルロース系材料にカルボキシ基を導入する工程と、カルボキシ基が
導入されたセルロース系材料を機械解繊処理によって溶媒に単独で分散させ、蒸留水に対
する固形分濃度が0.5%である時に、光路長10mmにおける660nmでの光線透過
率が30%以上80%以下となるように分散液を調整する工程と、
その分散液を使用してキャスト法により膜状成型体を得る工程と、を具備することを特徴
とするガスバリア膜の製造方法である。
【0018】
また、別の実施形態は、カルボキシ基を有するセルロース系材料の分散液を用いたガスバリア膜であって、そのセルロース系材料の固形分濃度を蒸留水に対して0.5質量%として単独で蒸留水に分散させ、機械解繊処理を行うことで、光路長10mmにおける660nmでの光線透過率が30%以上80%以下に調整したことを特徴とするセルロース系材料を用いたガスバリア膜である。
【0019】
また、別の実施形態は、セルロース系材料にカルボキシ基を導入する工程と、カルボキシ基が導入されたセルロース系材料を機械解繊処理によって蒸留水に単独で分散させ、蒸留水に対する固形分濃度が0.5%である時に、光路長10mmにおける660nmでの光線透過率が30%以上80%以下となるように分散液を調整する工程と、その分散液を使用してキャスト法により膜状成型体を得る工程と、を具備することを特徴とするガスバリア膜の製造方法である。
【0020】
また、別の実施形態は、セルロース系材料にカルボキシ基を導入する工程と、カルボキシ基が導入されたセルロース系材料を機械解繊処理によって蒸留水に単独で分散させ、蒸留水に対する固形分濃度が0.5%である時に、光路長10mmにおける660nmでの光線透過率が30%以上80%以下となるように分散液を調整する工程と、基材上にその分散液を塗布し、溶媒を除去して積層体を得る工程と、を具備することを特徴とするガスバリア膜の製造方法である。
【0021】
また、別の実施形態は、前記セルロース系材料にカルボキシ基を導入する工程が、N−オキシル化合物を用いた酸化反応に基づく工程であることを特徴とする上述したガスバリア膜の製造方法である。
【0022】
また、別の実施形態は、前記セルロース系材料にカルボキシ基を導入する工程において、カルボキシ基の含有量が、セルロース系材料1g当たり0.2mmol以上3.0mmol以下であることを特徴とする上述したガスバリア膜の製造方法である。
【0023】
また、別の実施形態は、前記セルロース系材料の原料として木材漂白クラフトパルプを用いることを特徴とする上述したガスバリア膜の製造方法である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、カルボキシ基が導入されたセルロース系材料を用いて、実用上の耐屈曲性を備えたガスバリア膜とセルロース系材料の分散液およびガスバリア膜の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明のガスバリア膜とその製造方法の詳細を説明する。
本発明のガスバリア膜は、カルボキシ基を有するセルロース系材料の固形分濃度を溶媒に対して0.5質量%として単独で分散させ、機械解繊処理を行うことで、光路長10mmにおける660nmでの光線透過率が30%以上80%以下に調整した分散液を使用して作製される。
【0027】
本発明では、前項のように光線透過率を制御することによって非特許文献2に示されるようなバルーン膨潤(バルーン状に膨潤した状態)したセルロース系材料を製造し、前記バルーン膨潤したセルロース系材料によって形成されたガスバリア膜が提供される。すなわち、本発明において用いられるセルロース系材料は、ミクロフィブリル単位で分散したセルロースシングルナノファイバー部分と未解繊状態のセルロースナノファイバー部分が緻密に絡み合った構造を形成していることが特徴であり、前記ネットワーク構造によって、ガスバリア膜を形成した際にガスバリア性と耐屈曲性を両立することが可能となる。
バルーン膨潤構造とは、
図2に示されるように、酸化された木材セルロース繊維を解繊する際、繊維の端部あるいは中央部からシングルミクロフィブリル化が進行する過程で形成される構造である。
【0028】
さらに、本発明ではセルロース系材料の解繊をバルーン膨潤段階に留めているため、特許文献2に開示されているように完全ナノ分散させたCSNFを用いた場合ほどの高透明性は達成されないが、一部分はCSNF化しているため、特許文献1に比較すれば透明性ははるかに向上しており、グラシン紙程度のレベルの透明性は十分達成可能である。
【0029】
<セルロース系材料を含む分散体の製造方法>
本発明のガスバリア膜に含まれるセルロース系材料は、セルロースにカルボキシ基を導入する工程と、機械解繊処理し分散液化する工程と、により得られる。導入されるカルボキシ基量は0.2mmol/g以上3.0mmol/g以下が好ましく、0.5mmol/g以上2.0mmol/g以下がより好ましい。カルボキシ基量が0.2mmol/g未満であると、セルロースミクロフィブリル間に静電的な反発が働かないため、セルロースミクロフィブリルの解繊が促進しない。また、3.0mmol/gを超えると化学処理に伴う副反応によりセルロースミクロフィブリルが低分子化するため、バルーン膨潤構造を形成することが出来ない。
【0030】
また、前記セルロース系材料は、溶媒に対し固形分濃度を0.5%となるように単独で分散させた際の、光路長10mmにおける660nmでの光線透過率が30%以上80%以下であればよい。前記光線透過率が30%以上80%以下の範囲であれば、バルーン膨潤状態のセルロース系材料を効率的に得ることが可能となる。前記バルーン膨潤状態のセルロース系材料を用いてガスバリア膜を形成すれば、セルロースシングルナノファイバー部分と未解繊のセルロースナノファイバー部分が緻密に絡み合った構造により、連続的に形成されたネットワーク構造を形成可能となり、ガスバリア性と耐屈曲性を両立したガスバリア膜を提供することが可能となる。
【0031】
(セルロース系材料)
前記のセルロース系材料の原料として用いることが出来るセルロースの種類や結晶構造は特に限定されないが、セルロースI型結晶構造から成る原料が好ましい。
【0032】
セルロースI型結晶を用いれば、カルボキシ基を導入後に機械解繊をした際に、セルロースI型構造由来のミクロフィブリル単位で解繊が進むため、セルロースシングルナノファイバー部位を容易に形成することが可能となり、バリア性が向上する。セルロースI型結晶から成る原料としては、例えば木材系天然セルロースに加えて、コットンリンター、竹、麻、バガス、ケナフ、バクテリアセルロース、ホヤセルロース、バロニアセルロースといった非木材系天然セルロースを用いることができる。材料調達の容易さから木材漂白クラフトパルプを原料とすることが好ましい。
【0033】
(セルロース系材料へのカルボキシ基の導入)
前記セルロース系材料にカルボキシ基を導入する方法としては特に限定されない。例えば高濃度アルカリ水溶液中でセルロースをモノクロロ酢酸又はモノクロロ酢酸ナトリウムと反応させることによりカルボキシメチル化を行っても良い。また、オートクレーブ中でガス化したマレイン酸やフタル酸等の無水カルボン酸系化合物とセルロースを直接反応させてカルボキシ基を導入しても良い。さらには、水系の比較的温和な条件で、可能な限り構造を保ちながら、アルコール性一級炭素の酸化に対する選択性が高い、TEMPOをはじめとするN−オキシル化合物の存在下、共酸化剤を用いた手法を用いてもよい。カルボキシ基導入部位の選択性および環境負荷の問題からTEMPO酸化がより好ましい。前記N−オキシル化合物としては、TEMPO(2,2,6,6−テトラメチルピペリジニル−1−オキシラジカル)、2,2,6,6−テトラメチル−4−ヒドロキシピペリジン−1−オキシル、4−メトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−アセトアミド−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、等が挙げられる。その中でも、TEMPOが好ましい。N−オキシル化合物の使用量は、触媒としての量でよく、特に限定されない。通常、酸化処理する木材系天然セルロースの固形分に対して0.01〜5.0質量%程度である。
【0034】
N−オキシル化合物を用いた酸化方法としては、木材系天然セルロースなどのセルロース系材料を水中に分散させ、N−オキシル化合物の共存下で酸化処理する方法が挙げられる。このとき、N−オキシル化合物とともに、共酸化剤を併用することが好ましい。この場合、反応系内において、N−オキシル化合物が順次共酸化剤により酸化されてオキソアンモニウム塩が生成し、前記オキソアンモニウム塩によりセルロースが酸化される。かかる酸化処理によれば、温和な条件でも酸化反応が円滑に進行し、カルボキシ基の導入効率が向上する。酸化処理を温和な条件で行うと、セルロースの結晶構造を維持しやすい。前記共酸化剤としては、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸や過ハロゲン酸、またはそれらの塩、ハロゲン酸化物、窒素酸化物、過酸化物など、酸化反応を推進することが可能であれば、いずれの酸化剤も用いることができる。
【0035】
入手の容易さや反応性から、次亜塩素酸ナトリウムが好ましい。前記共酸化剤の使用量は、酸化反応を促進することができる量でよく、特に限定されない。通常、酸化処理する木材系天然セルロースなどのセルロース系材料の固形分に対して1〜200質量%程度である。
【0036】
前記N−オキシル化合物および共酸化剤とともに、臭化物およびヨウ化物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物をさらに併用してもよい。これにより、酸化反応を円滑に進行させることができ、カルボキシ基の導入効率を改善することができる。前記化合物としては、臭化ナトリウムまたは臭化リチウムが好ましく、コストや安定性から、臭化ナトリウムがより好ましい。前記化合物の使用量は、酸化反応を促進することができる量でよく、特に限定されない。通常、酸化処理する木材系天然セルロースの固形分に対して1〜50質量%程度である。
【0037】
前記酸化反応の反応温度は、4〜80℃が好ましく、10〜70℃がより好ましい。4℃未満であると、試薬の反応性が低下し反応時間が長くなってしまう。80℃を超えると副反応が促進して試料が低分子化して高結晶性の剛直な微細化セルロース繊維構造が崩壊し、金属微粒子の異方成長を十分に促進することができない。前記酸化処理の反応時間は、反応温度、所望のカルボキシ基量等を考慮して適宜設定でき、特に限定されないが、通常、10分〜5時間程度である。
【0038】
前記酸化反応時の反応系のpHは、9〜11が好ましい。pHが9以上であると反応を効率よく進めることができる。pHが11を超えると副反応が進行し、試料の分解が促進されてしまうおそれがある。前記酸化処理においては、酸化が進行するにつれて、カルボキシ基が生成することにより系内のpHが低下してしまうため、酸化処理中、反応系のpHを9〜11に保つことが好ましい。反応系のpHを9〜11に保つ方法としては、pHの低下に応じてアルカリ水溶液を添加する方法が挙げられる。アルカリ水溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化リチウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、アンモニア水溶液、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液、水酸化テトラエチルアンモニウム水溶液、水酸化テトラブチルアンモニウム水溶液、水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム水溶液などの有機アルカリなどが挙げられる。コストなどの面から水酸化ナトリウム水溶液が好ましい。
【0039】
前記N−オキシル化合物による酸化反応は、反応系にアルコールを添加することにより停止させることができる。このとき、反応系のpHは前記の範囲内に保つことが好ましい。添加するアルコールとしては、反応をすばやく終了させるためメタノール、エタノール、プロパノールなどの低分子量のアルコールが好ましく、反応により生成される副産物の安全性などから、エタノールが特に好ましい。
【0040】
(酸化セルロースの回収と洗浄)
酸化処理後の反応液は、そのまま微細化工程に供してもよいが、N−オキシル化合物等の触媒、不純物等を除去するために、反応液に含まれる酸化セルロースを回収し、洗浄液で洗浄することが好ましい。酸化セルロースの回収は、ガラスフィルターや20μm孔径のナイロンメッシュを用いたろ過等の公知の方法により実施できる。酸化セルロースの洗浄に用いる洗浄液としては純水が好ましい。
【0041】
(微細化工程;機械解繊処理)
次にセルロース系材料を機械解繊処理する方法について説明する。
セルロース系材料の機械解繊処理については、解繊強度を調節することによって、溶媒に対し固形分濃度を0.5%となるように単独で分散させた際の、光路長10mmにおける660nmでの光線透過率が30%以上80%以下となるように制御することが出来ればとくに限定されず、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、ボールミル、ロールミル、カッターミル、遊星ミル、ジェットミル、アトライター、グラインダー、ジューサーミキサー、ホモミキサー、超音波ホモジナイザー、ナノジナイザー、水中対向衝突などの機械的処理を用いることができる。解繊強度は例えば高圧ホモジナイザーの場合、処理圧力や処理時間によって制御することが可能である。
【0042】
上記のようにして、カルボキシ基が導入されたセルロース系材料を含み、溶媒に対し前記セルロース系材料の固形分濃度を0.5%となるように単独で分散させた際の、光路長10mmにおける660nmでの光線透過率が30%以上80%以下となることを特徴とする分散体を得ることが出来る。前記分散体は、そのまま、または希釈、濃縮等を行って、ガスバリア膜形成用組成物として用いることができる。
【0043】
前記ガスバリア膜形成用組成物は、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、セルロースおよびpH調整に用いた成分以外の他の成分を含有してもよい。前記他の成分としては、特に限定されず、用途等に応じて、公知の添加剤のなかから適宜選択できる。具体的には、アルコキシシラン等の有機金属化合物またはその加水分解物、無機層状化合物、無機針状鉱物、消泡剤、無機系粒子、有機系粒子、潤滑剤、酸化防止剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、安定剤、磁性粉、配向促進剤、可塑剤、架橋剤、等が挙げられる。
【0044】
<ガスバリア膜の製造方法>
次に本発明のガスバリア膜の製造方法について説明する。
本発明のガスバリア膜は、前記セルロース系材料を含むガスバリア膜形成用組成物から溶媒を除去することによって製造することができる。
【0045】
溶媒の除去方法としては特に限定されず、例えば前記ガスバリア膜形成用組成物を平滑な容器に流し込み、乾燥させることによって目的のガスバリア膜を得ることができる。前記容器の材質も特に限定されず、例えばシリコン製の容器を用いることができる。
【0046】
また、適当な基材上に前記ガスバリア膜形成用組成物を塗布したのち乾燥させることによって、前記基材の片面または両面に目的のガスバリア膜を形成することも出来る。前記ガスバリア膜は基材から剥離して用いても良く、剥離せずにそのまま積層体として用いても良い。
【0047】
前記基材としては、特に制限は無く、公知の種々のシート状の基材を用いることができ、例えばプラスチックフィルム、ガラス板、セルロース系基材、等が挙げられる。
【0048】
プラスチックフィルムを構成するプラスチック材料としては、例えば、ポリオレフィン系(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリエステル系(ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、セルロース系(トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、セロファン等)、ポリアミド系(6−ナイロン、6,6−ナイロン等)、アクリル系(ポリメチルメタクリレート等)、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリカーボネート、エチレンビニルアルコール等の有機高分子化合物が挙げられる。また、前述の有機高分子化合物の中から、少なくとも1種以上の成分を持つ、或いは共重合成分に持つ、或いはそれらの化学修飾体を成分に有する有機高分子材料も可能である。また、ポリ乳酸、バイオポリオレフィンなど植物から化学合成されるバイオプラスチック、ヒドロキシアルカノエートなど微生物が生産するプラスチック等を用いることも可能である。
【0049】
セルロース系基材は、セルロース系材料から構成される基材であり、セルロース系材料としては、セロハン、アセチル化セルロース、セルロース誘導体、微細化セルロース繊維等が挙げられる。
【0050】
環境等への配慮から基材にも環境負荷の少ないものが求められる場合、基材としては、上記のうち、植物から化学合成されるバイオプラスチックを含む基材、微生物が生産するプラスチックを含む基材、セルロース系基材等が好ましい。基材は、可塑剤、酸化防止剤、難燃剤、充填剤、帯電防止剤、結晶化促進剤、発泡剤、光沢剤、濡れ性改良剤等の添加剤を含有してもよい。基材は、コロナ放電、プラズマ処理、酸化処理等の表面処理が施されていてもよい。基材の厚さは、当該ガスバリア性積層体の用途等に応じて適宜設定でき特に限定されないが、通常、1〜100μm程度である。
【0051】
前記基材上にガスバリア膜形成用組成物を塗布する方法としては、公知の塗布方法を用いて実施できる。例えば、ロールコーター、リバースロールコーター、グラビアコーター、マイクログラビアコーター、ナイフコーター、バーコーター、ワイヤーバーコーター、ダイコーター、ディップコーター、スピンコーター等のコーターを用いて塗布できる。前記ガスバリア膜形成用組成物を含む塗膜の乾燥は、熱風乾燥、熱ロール乾燥、赤外線照射など、公知の乾燥方法を用いて実施できる。乾燥条件としては、特に限定しないが、乾燥温度としては20℃以上200℃以下が好ましく、30℃以上150℃以下がより好ましい。20℃以下では溶媒の除去に時間がかかりすぎてしまい、200度以上ではセルロース系材料が熱分解してしまうおそれがある。
【0052】
ガスバリア膜の厚み(乾燥後の厚み)は、所望のガスバリア性に応じて適宜設定でき特に限定されないが、0.1〜5.0μmが好ましく、0.2〜3.0μmがより好ましい。該厚みが0.1μm以上であると、ガスバリア膜を設けることによるガスバリア性の向上効果が充分に得られ、5.0μm以下であると、内容物の視認性および生産性が良好である。ガスバリア膜の厚みは、前記水性分散液の塗布量、塗布回数等によって調整できる。
【0053】
本発明のガスバリア膜は、前記基材および前記ガスバリア膜に加えて、シール層を設けても良い。シール層は、袋状包装体などを形成する際に密封層として設けられるものである。シール層としては例えばヒートシール可能な熱可塑性樹脂層(以下、ヒートシール層ともいう。)が好ましい。ヒートシール層としては、公知のものを用いることができ、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸エステル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体またはそれらの金属架橋物等の樹脂の1種からなるフィルムが用いられる。ヒートシール層の厚さは、目的に応じて決められるが、一般的には15〜200μmの範囲である。また、本発明のガスバリア膜は、別途シール層を設けなくともガスバリア膜間でのシールが可能である。具体的には超音波シール法によるガスバリア膜同士の接着が可能である。
【0054】
本発明のガスバリア膜は、必要に応じて、前記基材、前記ガスバリア膜および前記シール層以外の他の層をさらに有してもよい。ただしシール層を有する場合、該シール層は、当該ガスバリア膜を含む積層体の少なくとも一方の最外層に配置される。本発明のガスバリア膜が有してもよい他の層としては、たとえば、前記ガスバリア膜または基材とシール層との間に設けられる中間フィルム層、印刷層等が挙げられる。また、各層をドライラミネート法やウェットラミネート法で積層する場合には、該積層のための接着層(ラミネート用接着剤層)を有してもよい。また、ヒートシール層を溶融押し出し法で積層する場合には、該積層のためのプライマー層やアンカーコート層などを有してもよい。
【0055】
前記中間フィルム層は、ボイルおよびレトルト殺菌時の破袋強度を高めるために設けられる。中間フィルム層を構成するフィルムとしては、機械強度及び熱安定性の面から、二軸延伸ナイロンフィルム、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム、二軸延伸ポリプロレンフィルムの内から選ばれる少なくとも1種が好ましい。フィルムの厚さは、材質や要求品質等に応じて決められるが、通常、10〜30μmの範囲内である。
【0056】
前記印刷層は、包装袋などとして実用的に用いるために形成される。印刷層は、ウレタン系、アクリル系、ニトロセルロース系、ゴム系、塩化ビニル系等の従来から用いられているインキバインダー樹脂に各種顔料、体質顔料及び可塑剤、乾燥剤、安定剤等の添加剤などが添加されてなるインキにより構成される層であり、文字、絵柄等が形成された様態となっている。
【0057】
前記ラミネート用接着剤層として用いられる接着剤としては、積層される各層の材質に応じてアクリル系、ポリエステル系、エチレン−酢酸ビニル系、ウレタン系、塩化ビニル−酢酸ビニル系、塩素化ポリプロピレン系などの公知の接着剤を用いることができる。
【0058】
本発明のガスバリア膜を含む積層体の層構成は、前記積層体の用途等を考慮して適宜設定できる。前記積層体を包装材料として用いる場合の好ましい層構成例(a)〜(e)を以下に示す。ただし本発明のガスバリア膜を含む積層体はこれらの層構成例に限定されるものではない。
(a)ガスバリア膜(単膜)。
(b)基材/ガスバリア膜。
(c)ガスバリア膜/ラミネート用接着剤層/ヒートシール層。
(d)基材/ガスバリア膜/ラミネート用接着剤層/ヒートシール層。
(e)基材/ガスバリア膜/ラミネート用接着剤層/中間フィルム層/印刷層/ラミネート用接着剤層/ヒートシール層。
【0059】
本発明のガスバリア膜は、前記本発明のセルロース系材料を含むガスバリア膜形成用組成物から形成されたガスバリア膜であることから、優れたガスバリア性と耐屈曲性を両立する。前記ガスバリア性は、低湿度条件下はもちろん、高湿度条件下でも良好である。具体的には、相対湿度40%、30℃の条件下で10cc(cm
3/m
2・day・Pa)以下の酸素バリア性を成型加工後も有していれば、例えば食品、医薬品、エレクトロニクス部品等の包装材料として実用化の可能性がある。本発明におけるガスバリア膜は後述の実施例において前記条件を十分に満たしている。
【実施例】
【0060】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明の技術範囲はこれらの実施形態に限定されるものではない。以下の各例において、「%」は、特に断りのない限り、質量%(w/w%)を示す。また、本実施例においては、パルプという名称も使用する。
パルプは木材などを原料とする植物繊維であり、主にセルロースから構成されている。
【0061】
<実施例1>
(木材セルロースのTEMPO酸化)
針葉樹クラフトパルプ70gを蒸留水3500gに懸濁し、蒸留水350gにTEMPOを0.7g、臭化ナトリウムを7g溶解させた溶液を加え、20℃まで冷却した。ここに2mol/L、濃度1.15g/mLの次亜塩素酸ナトリウム水溶液450gを滴下により添加し、酸化反応を開始した。系内の温度は常に20℃に保ち、反応中のpHの低下は0.5Nの水酸化ナトリウム水溶液を添加することでpH10に保ち続けた。セルロースの重量に対して、水酸化ナトリウムの添加量の合計が3.50mmol/gに達した時点で、約100mLのエタノールを添加し反応を停止させた。その後、ガラスフィルターを用いて蒸留水によるろ過洗浄を繰り返し、酸化パルプを得た。
【0062】
(酸化パルプのカルボキシ基量測定)
上記TEMPO酸化で得た酸化パルプおよび再酸化パルプを固形分重量で0.1g量りとり、1%濃度で水に分散させ、塩酸を加えてpHを2.5とした。その後0.5M水酸化ナトリウム水溶液を用いた電導度滴定法により、カルボキシ基量(mmol/g)を求めた。結果は1.6mmol/gであった。
【0063】
(酸化パルプの機械解繊処理)
上記TEMPO酸化で得た酸化パルプ1gを99gの蒸留水に分散させ、ジューサーミキサーで5分間微細化処理し、固形分濃度1%のセルロース系材料の水分散液を得た。前記水分散液に対し、レオメーターを用いて定常粘弾性測定を行ったところ、チキソトロピック性を示した。
【0064】
(機械解繊パルプの分光透過率測定)
前記の酸化パルプの機械解繊処理により得た水分散液を、水で希釈して固形分濃度を0.5%としたのち、光路長10mmの石英セルを用いて分光光度計による透過スペクトルの測定を行った。結果を
図1に示す。その結果、660nmにおける光線透過率は71%を示した。
【0065】
(機械解繊パルプの光学顕微鏡観察)
前記水分散液をスライドグラスにキャスト後、カバーガラスをかぶせて光学顕微鏡観察を行ったところ、バルーン膨潤構造を形成していることが確認された。
【0066】
(ガスバリア膜の作製)
前記固形分濃度1%のセルロース系材料の水分散液を、テフロン(登録商標)製の各皿(内寸100mm×100mm×10mm)に10gキャストしたのち、80℃で24時間乾燥して水分を除去しシート状のガスバリア膜を得た。前記成型体をUV硬化樹脂で包埋し、ミクロトームで断面切削サンプルを作製してSEM観察を行ったところ、膜厚は約1μmであることが確認された。
【0067】
<実施例2>
実施例1にて作製した固形分濃度1%のセルロース系材料の水分散液を、膜厚25μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上にバーコーター#100を用いて塗布し、120℃で10分乾燥して、ガスバリア膜を含む積層体を作製した。前記積層体をUV硬化樹脂で包埋し、ミクロトームで断面切削サンプルを作製してSEM観察を行ったところ、積層体のガスバリア膜部分の膜厚は約1μmであることが確認された。
【0068】
<比較例1>
実施例1に記載の酸化パルプの機械解繊工程において、ジューサーミキサーによる処理時間を30分間としたこと以外は実施例1と同様の方法にてガスバリア膜を作製した。なお、分光透過率測定の結果、660nmにおける光線透過率は99%を示した。
【0069】
<比較例2>
実施例1に記載の酸化パルプの機械解繊工程において、ジューサーミキサーによる処理時間を1分間としたこと以外は実施例1と同様の方法にてガスバリア膜を作製した。なお、分光透過率測定の結果、660nmにおける光線透過率は25%を示した。
【0070】
各実施例および比較例で得られたガスバリア膜について、下記の評価を行った。結果を表1に示す。
【0071】
(酸素透過度(等圧法)の測定)
ガスバリア膜またはガスバリア膜を含む積層体の酸素透過度(cm
3/m
2・day・Pa)を、酸素透過度測定装置MOCON−OXTRAN(モダンコントロール社製)を用いて、30℃、40%RH雰囲気下で測定した。前述の通り、測定値が10cc(cm
3/m
2・day・Pa)以下であればガスバリア性は良好と評価できる。
【0072】
(耐屈曲性の評価)
前記ガスバリア膜に対しJISに記載の耐屈曲性試験(JIS−K5600−5−1:円筒形マンドレル法)を行った。具体的には、直径8mmの金属棒に前記ガスバリア膜を巻きつけた状態で10秒保持してから金属棒から取り外し、前項と同様に酸素透過度を評価し、ガスバリア性の変化を比較した。
【0073】
【表1】
【0074】
表1の分光透過スペクトル測定の透過率測定の結果、実施例1、2においては波長660nmにおける透過率が71%であり、光学顕微鏡観察の結果、バルーン膨潤構造を形成していることが確認された。一方、比較例1においては660nmにおける透過率が99%となっており、酸化パルプの全てがシングルミクロフィブリル単位にまで解繊されてしまったことが示唆された。光学顕微鏡観察においてもバルーン膨潤構造は確認できなかった。また、比較例2においては、660nmにおける透過率が25%となっており、ミロフィブリル単位での解繊がほとんど進んでいないことが示唆された。光学顕微鏡観察においては酸化パルプの繊維構造が維持されており、バルーン膨潤は確認できなかった。
【0075】
表1の酸素透過度測定の結果、実施例1、2においては金属棒への巻付け前において良好な酸素バリア性が確認された。これはバルーン膨潤構造において一部解繊されたセルロースナノファイバー部分が、残存しているミクロフィブリル構造間の空隙を埋めることによって酸素バリア性が発現したものと考えられる。また、比較例1においては金属棒への巻き付け前において実施例1、2よりも高い酸素バリア性が確認された。これは酸化パルプが全てセルロースシングルナノファイバーにまで解繊されたことにより緻密な膜を形成することが可能となったためである。一方、比較例2においては酸素バリア性が全く発現しなかった。これは解繊処理が不十分のためミクロフィブリル単位での十分な解繊が進行せず、ミクロフィブリル間の空隙を埋めることができなかったためと考えられる。
【0076】
次に、耐屈曲性試験の結果、実施例1、2においては金属棒への巻付け後であってもバリア性が維持され、耐屈曲性を有したガスバリア膜を形成していることが示唆された。一方、比較例1においては金属棒への巻付け後では酸素バリア性が劣化し、バリア性を維持することが出来なかった。これは実施例1、2においてはセルロースシングルナノファイバー部位と未解繊のセルロースナノファイバー部分が緻密に絡み合って形成された連続的なネットワーク構造がガスバリア膜内で形成されているために、屈曲時であってもマイクロファイバー部分がガスバリア膜を補強することによって、微小なクラックの発生が抑制されたためであると考えられる。