(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記基板部の平面積をS1×S2、前記フィン部の高さをh1として設定した全体体積V=S1×S2×h1に対して、前記空隙部の体積が占める空隙率が50%以上65%以下であることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載のヒートシンク。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
LED素子を搭載した電子部品等の場合、冷却方法が冷媒を流通させない自然放冷であることがある。そのような場合でも確実に冷却できるヒートシンクが望まれている。
【0008】
本発明は、対流熱抵抗を低下させつつ、自然放冷にも対応可能な冷却性能を有するヒートシンクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のヒートシンクは、基板部、及び前記基板部の表面に立設されて相互に平行に配置された2以上のフィン部を有する金属成形体と、前記フィン部間に形成された1以上の溝部内に充填された複数のコイル状金属線材からなる1以上の充填体とを有し、前記コイル状金属線材は、第1外径を有する第1端部と、前記第1外径とは異なる大きさの第2外径を有する第2端部とを有し、一部が前記溝部内面および他の前記コイル状金属線材の少なくともいずれかに冶金的接合されている。このヒートシンクは、前記溝部の長さ方向に直交する断面において、前記溝部の深さ方向に沿って延び深さを3分割する2本の第1分割線について、前記各第1分割線上の空隙部の長さの平均値は、前記溝部の深さに対する比率が20%以上60%以下であり、前記溝部の長さ方向に直交する断面において、前記溝部の幅を3分割する2本の第2分割線について、前記各第2分割線上の前記空隙部の長さの平均値は、前記溝部の幅に対する比率が45%以上65%以下である。
【0010】
このヒートシンクは、中実材のフィン部間の溝部内に複数のコイル状金属線材からなる充填体が充填されており、フィン部及び基板部と充填体とを合わせた広い面積で熱移動が行われる。コイル状金属線材は金属成形体又は他のコイル状金属線材に冶金的に接合されている、つまりコイル状金属線材からなる充填体は溝部内面に冶金的接合部を介して接合されているので、金属成形体と充填体との間の接合界面の熱抵抗が小さく、熱移動が円滑に促進される。
【0011】
溝部内で充填体内の空隙を満たす熱媒と、コイル状金属線材及び金属成形体の表面との間で熱交換される。このとき、熱媒を強制流通させない状態であると、コイル状金属線材あるいは金属成形体の表面から自然対流によって熱媒が流れる(移動する)。本発明の充填体は、コイル状金属線材からなるので、空隙が大きく、発泡金属や繊維多孔体と比べ圧力損失は小さい。
【0012】
充填体を形成しているコイル状金属線材は、そのコイルの長さ方向と直交する方向の熱媒の流れに対して線材の各部が交差する。さらに、そのコイルの外径が第1端部側と第2端部側とで異なっているため、コイルの長さ方向に沿う方向の熱媒の流れに対しても線材の各部が交差する。
【0013】
このため、コイル状金属線材の向きにかかわらず、コイル状金属線材と熱媒との間で確実に熱交換することができる。したがって、熱媒を強制流通させる場合だけでなく、自然放冷の場合でも、速やかに放熱することができる。
【0014】
充填体は、コイル状金属線材の太さや巻き数等を変えるだけで、溝部内への充填率等を自在に制御できるため、製品設計の自由度が高い。コイル状金属線材は、線材をコイル状に巻いた形状であり、容易に成形可能である。コイル状金属線材はタンデムロールなどで成形した線材を巻く以外に、中実材を切削して得られる切削片も利用できる。
【0015】
このヒートシンクにおいて、溝部の幅に対する各空隙部の比率が平均で45%未満、あるいは溝部の深さに対する各空隙部の比率が平均で20%未満では、空隙部が小さく隣接するコイル状金属素材および金属成形体が接近し過ぎ、空隙部を経由する熱の放散が損なわれる。
【0016】
溝部の幅に対する空隙部の比率が平均で65%を超え、あるいは溝部の深さに対する空隙部の比率が平均で60%を超えると、空隙部が大き過ぎることから、金属成形体とコイル状金属素材の熱伝達による放熱が低減する。
【0017】
このヒートシンクにおいて、フィン部及び基板部と充填体とは、焼結や固相接合、あるいははんだ付けやろう付けなど、機械的接合とは異なり、金属原子間の化学結合を界面に有する冶金的接合により接合されている。
【0018】
本発明のヒートシンクの好ましい態様として、前記コイル状金属線材の長さ方向と直交する横断面形状は五角形以下の多角形に形成されているとよい。
【0019】
コイル状金属線材の横断面形状は円形や楕円でもよいが、円形や楕円の場合は、熱媒の流れがコイル状金属線材の両側面(円弧面)に沿って滑らかに分かれる。
【0020】
これに対して、コイル状金属線材の横断面形状が三角形、四角形、五角形のいずれかであると、複数の平面又は曲率半径の大きい湾曲面により外形が形成される。その平面又は湾曲面に熱媒の流れが衝突すると、コイル状金属線材の後方で渦が発生する。その結果、流れが乱されてかく乱効果が高められ、熱交換をさらに促進できる。なお、横断面形状が四角形の場合、薄板状の線材も含む。
【0021】
本発明のヒートシンクの好ましい態様として、前記コイル状金属線材は、単一のコイルの全長をLmm、巻き数をNとしたとき、比率N/Lが0.1mm
−1以上であるとよい。
【0022】
比率N/Lが0.1mm
−1未満では、流れの乱される機会が少なく、かく乱効果において所期の効果を得ることが難しい。
【0023】
本発明のヒートシンクの好ましい態様として、前記コイル状金属線材の最大外径をDAmm、最小外径をDBmm、単コイル全長をLmmとしたとき、比率(DA−DB)/Lが0.05以上であるとよい。
【0024】
本発明のヒートシンクの好ましい態様として、切削加工により生じる切削片であるとよい。
【0025】
切削片であれば、特別な加工は必要なく、そのまま用いることが可能であり、入手も容易である。
【0026】
本発明のヒートシンクは、前記基板部の平面積をS1×S2、前記フィン部の高さをh1として設定した全体体積V=S1×S2×h1に対して、前記空隙部の体積が占める空隙率が50%以上65%以下であると好ましい。コイル状金属線材の冶金的接合にはんだ材やろう材を用いた場合も、空隙率がこの範囲であれば熱媒の流れ(移動)を適切に確保でき、効率のよい熱伝達が可能である。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、コイル状金属線材を使用することにより熱交換に寄与する表面積が拡大するとともに、両端で直径の異なるコイル状金属線材としたことにより熱媒の移動が妨げにくくなり、かつ、大きい空隙部が所定の配置となるように設けたことにより、放熱性に優れており、熱媒を強制流通させない場合でも優れた放熱性を発揮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に、本発明の実施形態を説明する。本発明の一実施形態のヒートシンク101は、
図1〜
図3に示すように、金属成形体10と1個以上(本実施形態では9個)の充填体20とを組み合わせた複合構造とされている。
【0030】
金属成形体10は、平板状の基板部11と、基板部11の片面に立設されて相互に平行に配置された多数(本実施形態では8枚)の帯板状(プレート状)のフィン部12と、これらフィン部12間に形成された1以上の溝部13とを有する。金属成形体10は、基板部11と各フィン部12とがアルミニウム(アルミニウム合金を含む。)の中実材によって一体に形成された成形体である。
【0031】
充填体20は、
図4〜8に示すように、金属成形体10と同じ材質のアルミニウム(またはアルミニウム合金)からなる複数のコイル状金属線材21(以下、「コイルチップ21」)により形成されている。1個の溝部13内に1個の充填体20が備えられている。
【0032】
金属成形体10及び充填体20は、熱伝導性が良好であればよく、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるものに限られるものではない。後述するように金属成形体10と充填体20とが焼結により接合される場合、焼結できる金属であれば金属成形体10と充填体20とが異なる金属からなるものでもよい。はんだ付けやろう付けにより金属成形体10と充填体20とを接合する場合も、熱伝導性が良好ではんだ付けやろう付けが可能な金属であればよい。
【0033】
図1〜
図3に示すように、基板部11は長さS1,幅S2の矩形平面形状を有している。各フィン部12は基板部11の表面から垂直に所定の高さh1、所定の厚さt1で立設されている。
図1に示す例では、フィン部12は、基板部11の表面において、長さ方向の全長にわたって設けられ、基板部11の幅方向に所定の離間間隔c1をおいて相互に平行に並べられている。これにより、各フィン部12の間に設けられた溝部13の開口幅はc1となる。溝部13内には熱媒が導入される。
【0034】
本実施形態において、フィン部12のうち最も外側に配置される外側フィン部12Aの外側面が基板部11の両側縁面よりも内側に配置されているが、外側フィン部12Aの外側面と基板部11の両側縁面は同一面であっても良い。すなわち、外側フィン部12Aは、基板部11の両側縁面よりも必ずしも内側に配置しなくても良い。この場合、外側フィン部12Aの外側には充填体20は配置されない。
【0035】
外側フィン部12Aの外側面から基板部11の側縁面までの離間距離c2は、フィン部12間の離間間隔c1と同じか、離間間隔c1より小さく形成されている。
【0036】
充填体20を形成しているコイルチップ21は、
図5及び
図6に模式的に示したように、全体としては略螺旋状に巻回されているが完全なコイル形状ではなく、全体にねじられるようにして形成されている。
【0037】
充填体20を形成する前の各コイルチップ21において、外径の大きい側の端部を第1端部21a(第1外径d1)、小さい側の端部を第2端部21b(第2外径d2)とする。略螺旋状のコイルチップ21の外径を円の直径として測定することは困難であるので、その先端(第1端部21a,第2端部21b)からほぼ1巻き分以上の線材において最も外側に配置され、180°対向する2箇所をコイルの長さ方向と直交する方向に測定したときに得られる寸法を外径(d1,d2)とする。
【0038】
充填体20における各コイルチップ21において、1つのコイルチップ21の全長をLmm、巻き数をNとしたとき、比率N/Lが0.1mm
−1以上とされ、最大外径をDAmm、最小外径をDBmmとしたとき、比率(DA−DB)/Lが0.05以上である。
【0039】
ここでいうコイルチップ21の最大外径DAは、コイルチップ21を単体で測定した場合の第1外径d1ではなく、コイルチップ21がフィン部12間に充填されることにより押圧変形された状態の最大長径とその直角に対応する短径の平均値とする。厳密には、最小外径DBも同様、コイルチップ21を単体で測定した場合の第2外径d2ではなく、押圧変形された状態の最小長径とその直角に対応する短径の平均値とするが、小径であり充填された後の変形も小さいので、最小外径DBは第2外径d2と同じとみなしても差し支えない。
【0040】
各コイルチップ21の長さ方向に直交する横断面形状は、
図8に示すように、円形ではなく、三角形状に形成されている。
【0041】
充填体20は、各溝部13を埋めるように設けられ、各溝部13の内面(フィン部12および基板部11の表面)に焼結部(冶金的接合部)22を介して接合されている。
図4に示すように、すべての各コイルチップ21がフィン部12又は基板部11に接合されているとは限らず、ほかのコイルチップ21に対してのみ焼結部22を介して接合されているコイルチップ21もある。ただし、1個の充填体20としては、全長のいずれかの部分でフィン部12および基板部11に焼結部22を介して接合されている。
【0042】
言い換えれば、各コイルチップ21は、溝部13の内面と他のコイルチップ21の少なくともいずれかに接合されている。
図4において、ハッチングして示したコイルチップ21は、金属成形体10には接合されておらず、他のコイルチップ21のみに接合されている。
【0043】
前述したように、各コイルチップ21は、第1端部21aと第2端部21bとで外径が異なる。各コイルチップ21は、長さ方向を溝部13の長さ方向すなわち熱媒の流通方向に沿うように配置されることにより、コイルチップ21の円周方向(線材の側面)が溝部13の長さ方向すなわち熱媒の流れと交差する。コイルチップ21の横断面が複数の直線又は曲線を組み合わせた略三角形状をなしていることから、コイルチップ21の表面をなす平面又は湾曲面が熱媒の流れに対して交差する。
【0044】
コイルチップ21は、精密に加工して得られるだけでなく、フライス盤等による切削加工によって生じた切削片(
図7及び
図8参照)が好適に用いられる。切削加工に用いられる切削工具の切れ刃の形状、特に切れ刃における逃げ面の形状や、被削材の切削特性、切削条件等を特定することによって所望の表面形状および横断面形状を有する切削片を得られるが、切削片の形状は一定ではない。
図7,8に示す切削片のように、コイルチップ21の表面は平面、湾曲面の他、若干の凹凸のある曲面等によって形成され、複数の角部を有する。
【0045】
なお、本発明において、コイル状金属線材の横断面形状は三角形に限るものではなく、四角形、五角形のものも用いることができる。
【0046】
このヒートシンク101において、熱媒が流通可能な空隙部Gの大きさ(空隙率)が、熱媒の圧力損失や熱伝達量に影響する。ヒートシンク101における空隙率は、基板部11の表面で熱媒が流通させられる領域の平面積(金属成形体10の平面積、
図1ではS1×S2)とフィン部12の高さh1との積を全体体積Vとして、全体体積Vに対する空隙部Gの体積(フィン部12及び充填体20の金属(アルミニウム)部分を除く空間の体積)の比率として求める。空隙率は、50%以上65%以下とするのが好ましい。
【0047】
図1に示す例のように、フィン部12が立設されている金属成形体10の表面の全体が大気等に露出し、その表面全体で熱媒(例えば空気や水)と熱交換する場合、全体体積Vは、金属成形体10の平面積(S1×S2)とフィン部12の高さh1との積とする。
【0048】
図11に示すように、溝部13の長さ方向に直交する断面において、1つの溝部13の幅を3分割し深さ方向に延びる2本の第1分割線A1,A2上の各空隙部Gの長さF1〜F6の平均値Faおよび深さを3分割し幅方向に延びる2本の第2分割線B1,B2上の各空隙部Gの長さW1〜W4の平均値Waを求め、溝部13の開口幅c1に対するW1〜W4の平均値Waの比率が45%以上65%以下であり、溝部13の深さh1に対するF1〜F6の平均値Faの比率が20%以上60%以下である。
【0049】
第1分割線A1,A2上の空隙部Gの数をm、第2分割線B1,B2上の空隙部Gの数をnとすると、以下の式が満たされる。
0.20×h1≦(F1+…+Fm)/m≦0.60×h1
0.45×c1≦(W1+…+Wn)/n≦0.65×c1
【0050】
具体的には、溝部13の開口幅c1が2mm以上3mm以下、深さh1が4mm以上10mm以下の場合、各分割線上の空隙部Gの幅方向長さの平均値Waは0.9mm以上1.95mm以下、深さ方向長さの平均値Faは0.8mm以上6mm以下である。溝部13は開口幅c1より深さh1が大きく設定される。
【0051】
このような寸法関係に設定することにより、熱媒を強制流通させない場合でも、熱媒との間で確実に熱伝達を生じさせ、優れた放熱性を発揮させることができる。
【0052】
このように構成されるヒートシンク101を製造する場合、例えばアルミニウムの押出成形、鍛造成形、鋳造成形、あるいは基板部11とフィン部12とを接合するろう接などにより、基板部11とフィン部12とを一体に有する中実材の金属成形体10を形成する。各フィン部12間の溝部13内に、
図9,10に示す型51を用いてコイルチップ21(充填体20)を接合する。
【0053】
コイルチップ21の接合には、マグネシウムとシリコンの混合粉末を用いる。MgおよびSiはAlの共晶元素であり、アルミニウム合金製の線材表面に付着させて加熱することにより、線材の付着部分だけを溶融させ、接合させることができる。混合粉末におけるマグネシウムとシリコンの好適な混合比率は、例えば重量比でマグネシウム1に対してシリコン1.5であり、これによりコイルチップ21の接合強度を十分に確保できる。この混合粉末を、高温で焼失する性質を有するバインダーを用いてコイルチップ21の表面に付着させる。
【0054】
型51は、金属成形体10及び充填体20のコイルチップ21と反応しにくい材料(例えばカーボン等)からなり、
図9,10に示すように、フィン部12を収容するための矩形状の凹部52を片面に有する板状に形成されている。型51を
図10に示すように基板部11(金属成形体10)に対向するように重ね合わせると、金属成形体10(基板部11および各フィン部12)と型51との間に空間53が形成される。
【0055】
コイルチップ21は、フライス盤等の切削加工で生じた切削片を用意する。
図9に示すように、複数個のコイルチップ21の長さ方向を溝部13の長さ方向に沿うように、溝部13上に並べて配置する。
【0056】
まず、第1外径d1が離間間隔c1よりも大きいコイルチップ21をフィン部12間に並べ、溝部13上部に配置する。その上に、第1外径d1が離間間隔c1よりも小さいコイルチップ21を乗せる。このように配置すると、各コイルチップ21は
図9に示すように溝部13内に落下せず、互いに接触した状態で各フィン部12の上端部に保持される。
【0057】
上述したマグネシウムとシリコンの混合粉末をバインダーにより表面に付着させたコイルチップ21を上述したように配置した後、型51を金属成形体10に重ね合わせて前進させて、コイルチップ21を溝部13内に押し込み、各空間53内にコイルチップ21を充填する。
【0058】
そして、例えば不活性雰囲気で600℃〜660℃の温度で0.5分〜60分間、加熱することにより、コイルチップ21と金属成形体10との各接点およびコイルチップ21相互間の各接点を接合する焼結部22が形成される。これにより、コイルチップ21同士が焼結部22を介して接合されてなる充填体20が形成されるとともに、金属成形体10と充填体20とが焼結部22を介して一体に接合されたヒートシンク101を得ることができる。
【0059】
このように構成されるヒートシンク101においては、各フィン部12及び基板部11と充填体20とを合わせた広い面積で熱移動が行われる。また、フィン部12及び基板部11と充填体20とは焼結部22を介して接合されているので、接合界面の熱抵抗が小さく、基板部11及びフィン部12から充填体20への熱移動が円滑に促進される。
【0060】
熱媒が空隙部Gを通って流れることにより、充填体20、フィン部12及び基板部11の表面と熱媒との間で熱交換される。充填体20により大きな表面積が形成されているので、金属成形体10から充填体20が受けた熱が熱媒に効率的に移動することにより、ヒートシンク101は優れた熱伝達率が得られる。充填体20は熱媒の流れの障害となり、熱媒の流れを乱すことができるため、中実材のみからなるヒートシンクと比較して、比表面積が大きくなる以上に熱交換が促進される効果がある。
【0061】
また、コイルチップ21は空隙が大きいため、発泡金属や繊維多孔体と比べ、充填体20は圧力損失が低い。充填体20は、各コイルチップ21の太さや外径、充填方法を変えるだけで、空隙率の大きさ等を自在に制御できるため、製品設計の自由度が高い。
【0062】
フィン部12及び基板部11と充填体20とは焼結部22において焼結によって接合され、ろう材を用いていないので、ろう材が浸透して充填体20が埋められることによる空隙率の低下(金属密度の増加)が生じない。ただし、空隙率を低下させすぎない適量のろう材やはんだ材であれば使用してもよく、その場合も空隙率が50%以上65%以下であると好ましい。本発明においては、焼結部やろう接部を含めて、フィン部12及び基板部11と充填体20との接合部を冶金的接合部と称す。
【0063】
コイル状金属線材の外径が全長にわたって同一であると、障害物のないコイルの中央部の空間に流れが集中してしまうため、コイル線材と熱媒との接触が少なくなる。これに対して、本実施形態の各コイルチップ21は、第1端部21aの第1外径d1と第2端部21bの第2外径d2とが異なっているため、溝部13の長さ方向に沿う熱媒の流れに対して、各部が流れに対して交差し、熱媒からの熱を確実に受けることができる。コイルチップ21の長さ方向と直交する方向の熱媒の流れに対しては、コイルチップ21の全長の各部において接触して熱伝達が生じる。したがって、このコイルチップ21は、その配置の向きにかかわらず、熱媒と確実に熱伝達し、ヒートシンク101に優れた放熱性をもたらす。
【0064】
各コイルチップ21の表面が複数の平面又は曲率半径の大きい湾曲面からなり横断面が三角形状に形成されているため、表面が熱媒の流れに対して交差する方向で存在し、熱媒の流れをコイルチップ21の表面により受けて熱媒からの熱を確実に受ける。また、コイルチップ21の表面に流れが衝突して、コイルチップ21の後方で渦が発生し、その結果、熱媒の流れがより乱されてかく乱効果が高められ、熱交換をさらに促進することができる。
【0065】
したがって、熱伝達率が高いヒートシンク101が実現できる。
【0066】
図12〜16は、上記の構成により作製した実際のヒートシンクの観察画像である。
図12はヒートシンク101Aの平面図、
図13はその側面図である。
図14は
図12とは別のヒートシンク101Bの平面図で、
図15はその側面図である。これらヒートシンク101A,101Bは区別して示しているが、両者の相違点は金属成形体10のフィン部12の数が異なる程度であり、充填体20の構成等はほぼ同一である。
図16は
図14のヒートシンク101Bの一つの溝部13の横断面の観察画像である。
【0067】
これらの観察画像からわかるように、コイルチップ21は、コイルチップ21相互間及び金属成形体10との間に適度な間隔をあけて整然と配置されている。
【0068】
図17は、ヒートシンク101CをLEDの放熱部品として用いた応用例である。
【0069】
基板部11のフィン部12とは反対側の平面に、サーマルインターフェース材31が設けられ、このサーマルインターフェース材31の上に絶縁回路基板32が設けられ、その絶縁回路基板32にはんだ層34によりLEDパッケージ33が取り付けられている。
【0070】
絶縁回路基板32は、絶縁基板35の一方の面に銅などからなる金属層36が形成され、絶縁基板35の他方の面に銅などからなる回路層37が形成された構成である。サーマルインターフェース材31は、熱伝導性シート、グリース等の熱伝導性材料からなる。金属層36及び回路層37は絶縁基板35に接着等により接合される。
【0071】
LEDパッケージ33は、図示は省略するが、パッケージ基板の電極にLED素子をボンディングワイヤ等によって結合し、樹脂によって一体に封止したものである。
【0072】
このようなLEDを搭載したヒートシンクは、車両等の照明器具として用いられる。車体等の筐体に取付けられ、自然放冷による冷却が行われる場合が多く、その場合でも、前述したように、優れた放熱性を有している。
【0073】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【実施例】
【0074】
本発明の実施例1〜3として、
図3に示す帯板状(プレート状)のフィン部12を有するヒートシンク101を作製した。基板部11は、長さ寸法:S1=55mm、幅寸法:S2=38mm、板厚:h0=4mmとし、フィン部12を基板部11の全長にわたって形成した。
【0075】
各フィン部12の高さh1は6mmとした。フィン部12の数、フィン部12の離間間隔(溝部13の開口幅)c1、コイルチップ21の最大外径DA、最小外径DB、コイルチップ21単体の全長(単コイル全長)L、巻き数Nは表1の通りとした。
【0076】
各コイルチップ21の最小外径DBは、前述の第2端部21bの第2外径d2であるが、最大外径DAは、フィン部12の間に充填した状態での最大長径とその直角に対応する短径の平均値である。各実施例のコイルチップ21の断面はほぼ三角形状に形成されている。
【0077】
比較例4,5として、溝部内に線の直径が0.3mmの繊維多孔体を充填したヒートシンクを作製した。比較例6として、金属成形体10に充填体を設けないヒートシンクを作製した。基板部の外形寸法およびフィン部の長さ及び高さは、各比較例の各ヒートシンクも、実施例1〜3の金属成形体10と同様とした。
【0078】
金属成形体10及び充填体20の材料としては、A1050を用いた。金属成形体10およびコイル状金属成形体について、表1に示す。コイル状金属線材を用いていない比較例4〜6については、表1中、コイル状金属線材に関係する項目を「―」で示す。
【0079】
【表1】
【0080】
実施例1〜3および比較例4〜6について、各ヒートシンクの空隙率は、フィン部12が立設されている基板部11の表面全体(全体体積V=S1×S2×h1)で熱媒と熱交換するものとして、充填体20の体積(充填材の重量/充填材の密度)をもとに算出した。
【0081】
各ヒートシンクの金属成形体の溝部の長さ方向に沿う横断面において、溝部の深さ及び幅をそれぞれ3等分する各分割線上の、溝部の幅に対する各空隙部の幅方向長さの平均値の比率、および溝部の深さに対する各空隙部の深さ方向長さの平均値の比率をそれぞれ求めた。
【0082】
この場合、ヒートシンクの長さを3等分(例えば
図12のE1線、E2線により等分)する断面において、それぞれの断面の中からヒートシンクの幅方向の中央に配置される溝部(溝部が奇数個の場合(
図14)は矢印で示す中央の溝部、溝部が偶数個の場合(
図12)は矢印で示す中央部の2本のうちのいずれかの溝部)を選択し、2つの断面についてそれぞれ測定し、両断面における空隙部の各長さの平均値とした。
【0083】
これらの結果を表2に示す。コイル状金属線材を用いていない比較例4〜6については、表2中、コイル状金属線材に関係する項目を「―」で示す。
【0084】
【表2】
【0085】
実施例1〜3および比較例4〜6について、圧力損失の測定には、一方向に熱媒(水)が流れる冷却性能測定装置を使用した。測定装置に各ヒートシンクをはめ込み、各フィン部12間に30℃の熱媒を体積流量4L/min(一定)で流し、ヒートシンク前後の差圧を測定して、これを圧力損失とした。熱媒は、フィン部12の長さ方向に流通させた。
【0086】
熱伝達率の導出には、圧力損失測定で用いた冷却性能測定装置による試験で得られた各種測定値を使用した。ヒートシンク101の基板部11の裏面(フィン部12が設けられていない面)上に柔軟性のある放熱グリス、被冷却体(発熱素子)、断熱材の順で重ね、押さえ治具により被冷却体を50cm・Nのトルクで圧着した。
【0087】
被冷却体が圧着されたヒートシンク101について、25℃の一定の温度に調整された環境で、各フィン部12間(各溝部13内)に30℃の熱媒(水)を4L/min(一定)で5分間流し、被冷却体の温度(発熱前温度)が安定していることを確認した後、約450Wの電力Qで被冷却体を15分間発熱させ、基板部11中央の被冷却体と基板部11との界面の温度Tb1および熱媒の水温Twを測定した。
【0088】
熱媒と基板部11との界面の温度Tb2を、温度Tb1を用いてTb2=[Tb1−{Q×h0/(A×k)}]の計算式から算出した。ここで、h0は基板部11の厚み、Aは被冷却体の基板部11への取付面積、「k」はA1050の熱伝導率である。ヒートシンクの熱伝達率Hは、H=[Q/{A×(Tb2−Tw)}]の計算式から算出した。すなわち、熱伝達率Hが大きいほど熱交換性能に優れたヒートシンクであると評価できる。
【0089】
さらに、
図17に示したようにヒートシンクにLEDパッケージを搭載し、自然放冷性能を確認した。サーマルインターフェース部材としては、伝熱シート(デンカ株式会社製、型番:BFG45A)を用い、LED(OSRAM製、型番:LUW CEUP,CE)をボルトで1cN・mのトルクにより2カ所固定した。これを30℃の恒温槽の中に、ヒートシンクを水平に配置した状態に設置し、LEDに0.3Aの直流電流を流して、30分後の電圧を測定し、電気抵抗を算出した。
【0090】
これらの結果を表3に示す。
【0091】
【表3】
【0092】
これらの結果からわかるように、コイルチップ21からなる充填体20を有する実施例1〜3では、熱伝達率が40kw/m
2K以上であり、圧力損失も小さい。また、LEDの電気抵抗も、36.8Ω以上と高くなっており、LEDの温度上昇が抑制され、放熱性に優れていることがわかる。
【0093】
これに対して比較例4,5は、溝部に繊維多孔体を充填したものであり、熱伝達率は高いが、圧力損失が大きくなっている。また、LEDを搭載した試験では、比較例4は、空隙部の各方向の長さ比率が小さいために電気抵抗も低くなった。比較例6は、充填体を何ら設けなかったものであるが、空隙率が大きいために放熱性に劣り、LEDの電気抵抗が低くなった。