(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記仕上げ焼鈍工程において、前記仕上げ焼鈍温度までの昇温速度を0.1℃/s以上10.0℃/s未満とし、かつ、前記仕上げ焼鈍温度での保持時間を10〜120sとすることを特徴とする、請求項3に記載の電磁鋼板の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明者らは、{100}<011>結晶方位のみならず、その周囲の方向において優れた磁気特性を有し、さらに、1000Hz以上の高周波数域において十分な磁束密度と低鉄損とを有する電磁鋼板を得る方法について検討を行った。その結果、以下の知見を得るに至った。
【0015】
従来の製造方法と同様に、熱延鋼板に対して、高い圧下率で冷間圧延を施すことにより、{100}<011>結晶方位が集積する。その後、中間焼鈍して再結晶させてひずみを除去し、さらに比較的高い圧下率で冷間圧延を施すことにより、さらに結晶の回転が生じ、{100}<011>からわずかにずれた方向の結晶粒が増加する。
【0016】
本発明は上記の知見に基づいてなされたものである。以下、本発明の各要件について詳しく説明する。
【0017】
1.化学組成
各元素の限定理由は下記のとおりである。なお、以下の説明において含有量についての「%」は、「質量%」を意味する。
【0018】
C:0.0035%以下
炭素(C)は、本実施形態に係る電磁鋼板に不可避的に含まれる不純物である。つまり、C含有量は0%超である。Cは微細な炭化物を形成する。微細な炭化物は、磁壁の移動を阻害するだけでなく、製造工程中における粒成長を阻害する。それにより、磁束密度が低下したり、鉄損が増加したりする。この観点から、C含有量は0.0035%以下である。C含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、C含有量の過度の低減は、製造コストを高める。したがって、工業的生産における操業を考慮した場合、C含有量の好ましい下限は0.0001%であり、さらに好ましくは0.0005%であり、さらに好ましくは0.0010%である。
【0019】
Si:2.00〜3.50%
シリコン(Si)は鋼の電気抵抗を高め、鉄損を低減する。Si含有量が2.00%未満であると、この効果が得られない。一方、Si含有量が3.50%を超えると、鋼の磁束密度が低下する。Si含有量が3.50%を超えるとさらに、冷間加工性が低下し、冷間圧延時に鋼板に割れが発生する場合がある。したがって、Si含有量は2.00〜3.50%である。Si含有量の好ましい下限は2.10%であり、さらに好ましくは2.40%である。Si含有量の好ましい上限は3.40%であり、さらに好ましくは3.20%である。
【0020】
Mn:2.00〜5.00%
マンガン(Mn)は鋼の電気抵抗を高め、鉄損を低減する。Mnはさらに、Ac
3変態点を低下させ、本実施形態の電磁鋼板の成分系において、相変態による結晶粒の微細化を可能とする。これにより、最終の製造工程終了後の電磁鋼板において、鋼板板面における{100}<011>結晶方位のランダム強度比を高めることができる。上述のとおり、本実施形態の電磁鋼板のSi含有量は高い。SiはAc
3変態点を上昇させる元素である。そこで、本実施形態では、Mn含有量を高めることにより、Ac
3点を低下させ、熱間圧延工程での相変態を可能とする。Mn含有量が2.00%未満であると、上記効果が得られない。一方、Mn含有量が高すぎると、MnSが過剰に生成して、冷間加工性が低下する。したがって、Mn含有量は2.00〜5.00%である。Mn含有量の好ましい下限は2.20%であり、さらに好ましくは2.40%である。Mn含有量の好ましい上限は4.80%であり、さらに好ましくは4.60%である。
【0021】
P:0.050%以下
リン(P)は、本実施形態に係る電磁鋼板に不可避的に含まれる不純物である。つまり、P含有量は0%超である。Pは、鋼中に偏析して、鋼の加工性を低下させる。この観点から、P含有量を0.050%以下とする。P含有量の好ましい上限は0.040%であり、さらに好ましくは0.030%である。P含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、P含有量の過剰な低減は製造コストを高めてしまう。工業的生産における操業を考慮した場合、P含有量の好ましい下限は0.0001%であり、さらに好ましくは0.0003%である。
【0022】
S:0.0070%以下
硫黄(S)は、本実施形態に係る電磁鋼板に不可避的に含まれる不純物である。つまり、S含有量は0%超である。Sは、MnS等の硫化物を形成する。硫化物は、磁壁移動を妨げ、磁気特性を低下する。本発明の電磁鋼板の化学組成の範囲において、S含有量が0.0070%を超えると、生成した硫化物により、磁気特性が低下する。つまり、磁束密度が低下し、鉄損が高まる。したがって、S含有量は0.0070%以下である。S含有量の好ましい上限は0.0060%であり、さらに好ましくは0.0050%である。S含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、S含有量の過剰な低減は製造コストを高めてしまう。工業的生産を考慮すれば、S含有量の好ましい下限は0.0001%であり、さらに好ましくは0.0003%である。
【0023】
Al:0.15%以下
アルミニウム(Al)は、フェライト安定化元素である。Al含有量が0.15%を超えると、Ac
3変態点が上昇し、本発明の電磁鋼板の化学組成の範囲において、相変態による結晶粒の微細化を阻害する。その結果、最終の製造工程終了後の電磁鋼板において、鋼板板面における{100}<011>結晶方位のランダム強度比が低下する。したがって、Al含有量は0.15%以下である。Al含有量の好ましい上限は0.10%であり、さらに好ましくは、0.05%以下である。Al含有量は0%であってもよい。つまり、Al含有量は0〜0.15%である。しかしながら、Al含有量の過剰な低減は製造コストを高めてしまう。したがって、工業的生産での操業を考慮した場合、Al含有量の好ましい下限は0.0001%であり、さらに好ましくは0.0003%である。
【0024】
N:0.0030%以下
窒素(N)は、本実施形態に係る電磁鋼板に不可避的に含まれる不純物である。つまり、N含有量は0%超である。Nは微細な窒化物を形成する。微細な窒化物は、磁壁の移動を阻害する。そのため、磁束密度が低下し、鉄損が高まる。したがって、N含有量は0.0030%以下である。N含有量の好ましい上限は0.0020%であり、さらに好ましくは0.0010%である。N含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、N含有量の過剰な低減は製造コストを高めてしまう。したがって、工業的生産を考慮すれば、N含有量の好ましい下限は0.0001%である。
【0025】
Ni:0〜1.00%
ニッケル(Ni)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Ni含有量は0%であってもよい。本実施形態に係る電磁鋼板がNiを含有する場合、NiはMnと同様に鋼板の電気抵抗を高め、鉄損を低減する。Niはさらに、A
3変態点を低下させて、相変態による結晶粒の微細化を可能とする元素である。しかしながら、Ni含有量が高すぎると、Niは高価であるため製品コストが高くなる。したがって、Ni含有量は0〜1.00%である。Ni含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.10%であり、さらに好ましくは0.20%である。Ni含有量の好ましい上限は0.90%であり、さらに好ましくは0.85%である。なお、Niは0.04%程度であれば電磁鋼板中に不純物として含まれ得る。
【0026】
Cu:0〜0.10%
銅(Cu)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Cu含有量は0%であってもよい。本実施形態に係る電磁鋼板がCuを含有する場合、CuはMnと同様に鋼板の電気抵抗を高め、鉄損を低減する。Cuはさらに、A
3変態点を低下させて、相変態による結晶粒の微細化を可能とする。しかしながら、Cu含有量が高すぎると、CuSが過剰に生成して、仕上げ焼鈍における粒成長を阻害して鉄損が劣化する。したがって、Cu含有量は0〜0.10%である。Cu含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.01%であり、さらに好ましくは0.04%である。Cu含有量の好ましい上限は0.09%であり、さらに好ましくは0.08%である。なお、Cuは0.04%程度であれば電磁鋼板中に不純物として含まれ得る。
【0027】
本発明の電磁鋼板の化学組成において、残部はFeおよび不純物である。ここで「不純物」とは、鋼を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
【0028】
なお、不純物元素として、CrおよびMoの含有量に関しては、特に規定されない。本発明に係る電磁鋼板では、これらの元素を0.2%以下で含有しても、本発明の効果に特に影響はない。
【0029】
Oも不純物元素であるが、0.05%以下の範囲で含有しても、本発明の効果に影響はない。Oは、焼鈍工程において混入することもあるため、スラブ段階(すなわち、レードル値)の含有量においては、0.01%以下の範囲で含有しても、本発明の効果に特に影響はない。
【0030】
上述の不純物以外の他の不純物は例えば、Ti、V、W、Nb、Zr、Ca、Mg、REM、Pb、Bi、As、B、Seである。これらの元素はいずれも、粒成長を抑制する場合がある。上記各元素の含有量はいずれも、0.01%以下であるのが好ましく、0.005%以下であるのがより好ましい。
【0031】
2.電磁鋼板の板面におけるX線ランダム強度
本発明に係る電磁鋼板では、鋼板の板面における{100}<011>結晶方位のX線ランダム強度比が15.0〜50.0である。ここで、鋼板の板面とは、鋼板の圧延方向および板幅方向に平行な面であり、鋼板の板厚方向に垂直な面を意味する。これにより、鋼板板面において、圧延方向RDに対して45°傾斜した方向に、磁化容易軸である<100>方位の集積度が十分に高くなる。
【0032】
鋼板板面における{100}<011>結晶方位のX線ランダム強度比が15.0未満であると、圧延方向RDに対して45°傾斜した方向での磁化容易軸の集積度が低すぎる。この場合、圧延方向RDに対して45°傾斜した方向において、十分な磁束密度が得られず、鉄損も高くなってしまう。一方、鋼板板面における{100}<011>結晶方位のX線ランダム強度比が50.0を超えると、上記化学組成を有する電磁鋼板では、磁束密度が飽和する。
【0033】
したがって、鋼板板面における{100}<011>結晶方位のX線ランダム強度比は15.0〜50.0である。X線ランダム強度比の好ましい下限は17.0であり、さらに好ましくは20.0である。X線ランダム強度比の好ましい上限は47.0であり、さらに好ましくは45.0である。
【0034】
鋼板板面における{100}<011>結晶方位のX線ランダム強度比とは、X線回折測定において、特定方位への集積を持たない標準試料(ランダム試料)の{100}<011>結晶方位のX線回折強度に対する、測定された電磁鋼板サンプルの{100}<011>結晶方位のX線回折強度の比である。
【0035】
鋼板板面における{100}<011>結晶方位のX線ランダム強度比は、次の方法で測定できる。X線回折法によって測定されるα−Fe相の{200}、{110}、{310}、{211}の極点図を基に級数展開法で計算した、3次元集合組織を表す結晶方位分布関数(Orientation Distribution Function:ODF)からX線ランダム強度比を求める。X線回折法による測定は、電磁鋼板の板厚/4〜板厚/2の間の任意の位置で行う。このとき、測定面は滑らかになるよう化学研磨等で仕上げる。
【0036】
3.磁束密度
上述のように、本発明における電磁鋼板においては、1回目の高圧下率での冷間圧延に引き続き、2回目の冷間圧延を施すことにより、{100}<011>からわずかにずれた方向の結晶粒が多く含まれる。それにより、圧延方向RDから22.5°の方向における磁束密度が相対的に高くなる。
【0037】
具体的には、鋼板の圧延方向RDからそれぞれ0°、22.5°および45°の方向における磁束密度が下記(i)式を満足する。
1.005×(B
50(0°)+B
50(45°))/2≦B
50(22.5°)・・・(i)
但し、上記式中の各記号の意味は以下のとおりである。
B
50(0°):圧延方向から0°の方向における磁束密度(T)
B
50(22.5°):圧延方向から22.5°の方向における磁束密度(T)
B
50(45°):圧延方向から45°の方向における磁束密度(T)
【0038】
上記(i)式を満足することにより、異方性が適度に緩和され、電磁鋼板を電機機器のコアとして利用した場合に、磁気がコアの形状に沿って流れやすくなる。
【0039】
本実施形態に係る電磁鋼板は上述の(i)式を満足することに加えて、下記(ii)式を満足することがより好ましい。本実施形態に係る電磁鋼板が下記(ii)式を満足することにより、分割コアのティース方向およびヨーク方向に磁束が集中し、漏れ磁束を低減できるからである。
B
50(45°)−B
50(0°)≧0.085T・・・(ii)
なお、上記(ii)式中の各記号の意味は(i)式と同様である。
【0040】
4.板厚
本発明において、電磁鋼板の板厚は特に限定されない。電磁鋼板の好ましい板厚は、0.25〜0.50mmである。通常、板厚が薄くなれば、鉄損は低くなるものの、磁束密度が低くなる。本実施形態による電磁鋼板の板厚が0.25mm以上であれば、鉄損がより低く、かつ、磁束密度がより高くなる。一方、板厚が0.50mm以下であれば、低い鉄損を維持できる。板厚の好ましい下限は0.30mmである。本実施形態の電磁鋼板では、板厚が0.50mmと厚くても、高い磁束密度および低い鉄損が得られる。
【0041】
5.用途
本発明に係る電磁鋼板は、磁気特性(高磁束密度および低鉄損)が求められる用途に広く適用可能であり、例えば、以下の用途が挙げられる。(A)電機機器に用いられるサーボモータ、ステッピングモータ、コンプレッサ。(B)電気ビークル、ハイブリッドビークルに用いられる駆動モータ。ここで、ビークルとは、自動車、自動二輪車、鉄道等を含む。(C)発電機。(D)種々の用途の鉄心、チョークコイル、リアクトル(E)電流センサー、等。
【0042】
本発明に係る電磁鋼板は、上記用途以外の用途にも適用可能である。本発明の電磁鋼板は特に、分割コアとしての利用に好適であり、さらに、1000Hz以上の高周波数域に適用される、電気ビークルまたはハイブリッドビークルの駆動モータの分割コア等に好適である。
【0043】
6.製造方法
本発明に係る電磁鋼板の製造方法の一例について説明する。電磁鋼板の製造方法は、(a)熱間圧延工程と、(b)第1冷間圧延工程と、(c)中間焼鈍工程と、(d)第2冷間圧延工程と、(e)仕上げ焼鈍工程とをこの順に備える。以下、各工程について詳述する。
【0044】
(a)熱間圧延工程
熱間圧延工程では、上述の化学組成を満たすスラブに対して熱間圧延を実施して鋼板を製造する。熱間圧延工程は、加熱工程と、圧延工程とを備える。
【0045】
スラブは周知の方法で製造される。例えば、転炉または電気炉等で溶鋼を製造する。製造された溶鋼に対して脱ガス設備等で二次精錬して、上記化学組成を有する溶鋼とする。溶鋼を用いて連続鋳造法または造塊法によりスラブを鋳造する。鋳造されたスラブを分塊圧延してもよい。
【0046】
[加熱工程]
加熱工程では、上述の化学組成を有するスラブを1000〜1200℃に加熱する。具体的には、スラブを加熱炉または均熱炉に装入して、炉内にて加熱する。加熱炉または均熱炉での上記加熱温度での保持時間は例えば、30〜200時間である。
【0047】
[圧延工程]
圧延工程では、加熱工程により加熱されたスラブに対して、複数回パスの圧延を実施して、鋼板を製造する。ここで、「パス」とは、一対のワークロールを有する1つの圧延スタンドを鋼板が通過して圧下を受けることを意味する。熱間圧延は例えば、一列に並んだ複数の圧延スタンド(各圧延スタンドは一対のワークロールを有する)を含むタンデム圧延機を用いてタンデム圧延を実施して、複数回パスの圧延を実施してもよいし、一対のワークロールを有するリバース圧延を実施して、複数回パスの圧延を実施してもよい。生産性の観点から、タンデム圧延機を用いて複数の圧延パスを実施するのが好ましい。
【0048】
圧延工程における仕上げ圧延温度はAc
3変態点以上とする。また、圧延完了後は、600℃までの平均冷却速度が50〜150℃/sとなるように600℃以下の温度まで冷却を行う。鋼板温度が600℃となった後の冷却方法は特に限定されない。鋼板温度は、鋼板の表面温度(℃)を意味する。
【0049】
ここで、仕上げ圧延温度とは、熱間圧延工程中の上記圧延工程において、最終パスの圧下を行う圧延スタンド出側での鋼板の表面温度(℃)を意味する。仕上げ圧延温度は例えば、最終パスの圧下を行う圧延スタンド出側に設置された測温計により、測温可能である。なお、仕上げ圧延温度は例えば、鋼板全長を圧延方向に10等分して10区分とした場合において、先端の1区分と、後端の1区分とを除いた部分の測温結果の平均値を意味する。
【0050】
また、600℃までの平均冷却速度は、次の方法により求める。上記化学組成を有する鋼板をサンプル鋼板とし、表面温度を放射温度計により測定することで、圧延完了から600℃に冷却するまで時間を測定する。測定された時間に基づいて、平均冷却速度を求める。
【0051】
(b)第1冷間圧延工程
熱間圧延工程により製造された鋼板に対して、焼鈍工程を実施することなく、冷間圧延工程を実施する。冷間圧延は例えば、一列に並んだ複数の圧延スタンド(各圧延スタンドは一対のワークロールを有する)を含むタンデム圧延機を用いてタンデム圧延を実施して、複数回パスの圧延を実施してもよい。また、一対のワークロールを有するゼンジミア圧延機等によるリバース圧延を実施して、1回パスまたは複数回パスの圧延を実施してもよい。生産性の観点から、タンデム圧延機を用いて複数回パスの圧延を実施するのが好ましい。
【0052】
第1冷間圧延工程では、冷間圧延途中で焼鈍処理を実施することなく冷間圧延を実施する。例えば、リバース圧延を実施して、複数回のパスにて冷間圧延を実施する場合、冷間圧延のパスとパスとの間に焼鈍処理を挟まずに複数回パスの冷間圧延を実施する。なお、リバース式の圧延機を用いて、1回のパスのみで冷間圧延を実施してもよい。また、タンデム式の圧延機を用いた冷間圧延を実施する場合、複数回のパス(各圧延スタンドでのパス)で連続して冷間圧延を実施する。
【0053】
第1冷間圧延工程における圧下率は80〜92%とする。ここで、冷間圧延工程における圧下率は、次のとおり定義される。
圧下率(%)=(1−冷間圧延工程での最終パスの圧延後の鋼板の板厚/冷間圧延工程での1パス目の冷間圧延前の鋼板の板厚)×100
【0054】
なお、熱間圧延工程後であって冷間圧延工程前の焼鈍工程は省略される。本実施形態に係る電磁鋼板の化学組成は、上述のとおり、Mn含有量が高い。そのため、従前の電磁鋼板で実施されている熱延板焼鈍を実施すると、Mnが粒界に偏析して、熱間圧延工程後の鋼板(熱延鋼板)の加工性が著しく低下する。なお、ここでいう焼鈍処理は例えば、300℃以上の熱処理を意味する。
【0055】
(c)中間焼鈍工程
中間焼鈍工程では、第1冷間圧延工程後の鋼板に対して、500℃以上Ac
1変態点未満の範囲の中間焼鈍温度で焼鈍処理を実施する。
【0056】
中間焼鈍温度が500℃未満であると、冷間圧延工程により導入されたひずみが十分に低減できない。この場合、{100}<011>結晶方位の集積度が低下する。その結果、電磁鋼板の鋼板板面における{100}<011>結晶方位のX線ランダム強度比が15.0〜50.0の範囲外となる。一方、中間焼鈍温度がAc
1点を超えると、鋼板の組織の一部がオーステナイトに変態してしまい、結晶方位がランダム化してしまう。中間焼鈍温度の好ましい下限は550℃であり、さらに好ましくは570℃である。
【0057】
ここで、中間焼鈍温度は、焼鈍炉の抽出口近傍での板温(鋼板表面の温度)とする。焼鈍炉の板温は、焼鈍炉抽出口に配置された測温計により測定することができる。
【0058】
なお、中間焼鈍工程における中間焼鈍温度での保持時間は当業者に周知の時間でよい。中間焼鈍温度での保持時間は例えば、1〜30sである。ただし、中間焼鈍温度での保持時間はこれに限定されない。また、中間焼鈍温度までの昇温速度も周知の条件でよい。中間焼鈍温度までの昇温速度は例えば、10.0〜20.0℃/sである。ただし、中間焼鈍温度までの昇温速度はこれに限定されない。
【0059】
中間焼鈍時の雰囲気は特に限定されないが、中間焼鈍時の雰囲気には例えば、20%H
2を含有し、残部がN
2からなる雰囲気ガス(乾燥)を用いる。中間焼鈍後の鋼板の冷却速度は特に限定されない。冷却速度は例えば、5.0〜50.0℃/sである。
【0060】
(d)第2冷間圧延工程
中間焼鈍工程を完了後の鋼板に対して、2回目の冷間圧延工程を実施する。具体的には、中間焼鈍工程後の鋼板に対して、常温、大気中において、圧延(冷間圧延)を実施する。ここでの冷間圧延は例えば、上述のゼンジミア圧延機に代表されるリバース圧延機、または、タンデム圧延機を用いる。
【0061】
第2冷間圧延工程では、冷間圧延途中で焼鈍処理を実施することなく冷間圧延を実施する。例えば、リバース圧延を実施して、複数回のパスにて冷間圧延を実施する場合、冷間圧延のパスとパスとの間に焼鈍処理を挟まずに複数回パスの冷間圧延を実施する。なお、リバース式の圧延機を用いて、1回のパスのみで冷間圧延を実施してもよい。また、タンデム式の圧延機を用いた冷間圧延を実施する場合、複数回のパス(各圧延スタンドでのパス)で連続して冷間圧延を実施する。
【0062】
第2冷間圧延工程における圧下率は15.0%を超えて20.0%以下とする。第2冷間圧延工程における圧下率の好ましい下限は17.0%である。ここで、第2冷間圧延工程における圧下率は次のとおり定義される。
圧下率(%)=(1−最終パスの圧延後の鋼板の板厚/1パス目の圧延前の鋼板の板厚)×100
【0063】
第2冷間圧延工程での冷間圧延のパス回数は1回パスのみ(つまり、1回の圧延のみ)であってもよいし、複数回パスの圧延であってもよい。
【0064】
以上のとおり、熱間圧延工程および第1冷間圧延工程により鋼板にひずみを導入した後、中間焼鈍工程により鋼板に導入されたひずみを一度低減させる。そして、第2冷間圧延工程を実施する。これにより、さらに結晶の回転が生じ、{100}<011>からわずかにずれた方向の結晶粒が増加する。その結果、圧延方向RDから22.5°の方向における磁束密度が向上し、異方性が適度に緩和される。
【0065】
(e)仕上げ焼鈍工程
仕上げ焼鈍工程では、第2冷間圧延工程後の鋼板に対して、500℃以上Ac
1変態点未満の範囲の仕上げ焼鈍温度で焼鈍処理を実施する。
【0066】
仕上げ焼鈍温度が500℃未満であると、{100}<011>結晶方位粒の粒成長が十分に起こらない。その結果、電磁鋼板の鋼板板面における{100}<011>結晶方位のX線ランダム強度比が15.0〜50.0の範囲外となる。一方、仕上げ焼鈍温度がAc
1点を超えると、鋼板の組織の一部がオーステナイトに変態してしまう。その結果、電磁鋼板の鋼板板面における{100}<011>結晶方位のX線ランダム強度比が15.0〜50.0の範囲外となる。仕上げ焼鈍温度の好ましい下限は550℃であり、さらに好ましくは570℃である。
【0067】
ここで、仕上げ焼鈍温度は、焼鈍炉の抽出口近傍での板温(鋼板表面の温度)とする。焼鈍炉の炉温は、焼鈍炉抽出口に配置された測温計により測定することができる。
【0068】
なお、仕上げ焼鈍工程における仕上げ焼鈍温度までの昇温速度は、当業者に周知の昇温速度であればよく、仕上げ焼鈍温度での保持時間も当業者に周知の時間であればよい。
【0069】
仕上げ焼鈍工程時の雰囲気は特に限定されない。仕上げ焼鈍工程時の雰囲気には例えば、20%H
2を含有し、残部がN
2からなる雰囲気ガス(乾燥)を用いる。仕上げ焼鈍後の鋼板の冷却速度は特に限定されない。冷却速度は例えば、5〜20℃/sである。
【0070】
仕上げ焼鈍工程での仕上げ焼鈍温度での好ましい保持時間は10〜120sである。保持時間が10〜120sであれば、{100}<011>結晶方位の集積度が高まる。保持時間のさらに好ましい下限は12sであり、さらに好ましくは15sである。保持時間のさらに好ましい上限は100sであり、さらに好ましくは90sである。
【0071】
ここで、保持時間は、鋼板温度が仕上げ焼鈍温度となってからの保持時間を意味する。
【0072】
仕上げ焼鈍工程での仕上げ焼鈍温度までの好ましい昇温速度は0.1℃/s以上10.0℃/s未満とする。昇温速度が0.1℃/s以上10.0℃/s未満であれば、{100}<011>結晶方位の集積度が高まる。
【0073】
昇温速度は、次の方法により求める。上記化学組成を有し、上記熱間圧延工程から第2冷間圧延工程まで実施して得られた鋼板に熱電対を取り付けて、サンプル鋼板とする。熱電対を取り付けたサンプル鋼板に対して昇温を実施して、昇温を開始してから仕上げ焼鈍温度に到達するまで時間を測定する。測定された時間に基づいて、昇温速度を求める。
【0074】
本発明に係る電磁鋼板の製造方法は、上記製造工程に限定されない。
【0075】
例えば、上記製造工程のうち、熱間圧延工程後であって、冷間圧延工程前に、ショットブラスト工程および/または酸洗工程を実施してもよい。ショットブラスト工程では、熱間圧延工程後の鋼板に対してショットブラストを実施して、熱間圧延工程後の鋼板の表面に形成されているスケールを破壊して除去する。酸洗工程では、熱間圧延工程後の鋼板に対して酸洗処理を実施する。酸洗処理は例えば、塩酸水溶液を酸洗浴として利用する。酸洗により鋼板の表面に形成されているスケールが除去される。熱間圧延工程後であって、冷間圧延工程前に、ショットブラスト工程を実施して、次いで、酸洗工程を実施してもよい。また、熱間圧延工程後であって冷間圧延工程前に、酸洗工程を実施して、ショットブラスト工程を実施しなくてもよい。熱間圧延工程後であって冷間圧延工程前に、ショットブラスト工程を実施して、酸洗処理を実施しなくてもよい。なお、ショットブラスト工程および酸洗工程は任意の工程である。したがって、熱間圧延工程後であって冷間圧延工程前に、ショットブラスト工程および酸洗工程を実施しなくてもよい。
【0076】
本発明に係る電磁鋼板の製造方法はさらに、仕上げ焼鈍工程後にコーティング工程を実施してもよい。コーティング工程では、仕上げ焼鈍工程後の鋼板の表面に、絶縁コーティングを施す。
【0077】
絶縁コーティングの種類は特に限定されない。絶縁コーティングは有機成分であってもよいし、無機成分であってもよい、絶縁コーティングは、有機成分と無機成分とを含有してもよい。無機成分は例えば、重クロム酸−ホウ酸系、リン酸系、シリカ系等である。有機成分は例えば、一般的なアクリル系、アクリルスチレン系、アクリルシリコン系、シリコン系、ポリエステル系、エポキシ系、フッ素系の樹脂である。塗装性を考慮した場合、好ましい樹脂は、エマルジョンタイプの樹脂である。加熱および/または加圧することにより接着能を発揮する絶縁コーティングを施してもよい。接着能を有する絶縁コーティングは例えば、アクリル系、フエノール系、エポキシ系、メラミン系の樹脂である。
【0078】
なお、コーティング工程は任意の工程である。したがって、仕上げ焼鈍工程後にコーティング工程を実施しなくてもよい。
【0079】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0080】
表1の化学組成を有するスラブを1150℃に加熱した後、表2に示す条件で熱間圧延を実施し、板厚2.0mmの熱延鋼板を製造した。
【0081】
【表1】
【0082】
【表2】
【0083】
[評価試験]
各鋼番号の電磁鋼板に対して、次の評価試験を実施した。
【0084】
[{100}<110>結晶方位のX線ランダム強度測定試験]
各試験番号の鋼板から、サンプルを採取し、表面を鏡面研磨した。鏡面研磨された領域のうち、ピクセルの測定間隔が平均粒径の1/5以下で、結晶粒が5000個以上測定できる任意の領域を選択した。選択された領域においてEBSD測定を実施して、{200}、{110}、{310}、{211}の極点図を得た。これらの極点図を用いて級数展開法で計算した3次元集合組織を表すODF分布を得た。得られたODFから、{100}<011>結晶方位のX線ランダム強度比を求めた。
【0085】
[磁束密度測定試験]
各試験番号の電磁鋼板から、打ち抜き加工により、55mm×55mmの単板試験片を作製した。単板磁気測定器を用いて、上述の方法により、圧延方向RDからそれぞれ0°、22.5°および45°の方向における磁束密度B
50(0°)、B
50(22.5°)およびB
50(45°)を測定した。測定時における磁場は、5000A/mとした。
【0086】
[1000Hzにおける鉄損W
10/1000]
各試験番号の電磁鋼板から、打ち抜き加工により、55mm×55mmの単板試験片を作製した。単板磁気測定器を用いて、周波数1000Hz、最大磁束密度1.0Tで磁化された単板試験片の鉄損W
10/1000(W/kg)を測定した。
【0087】
[評価結果]
評価結果を表3にまとめて示す。なお、製造された電磁鋼板の化学成分を測定したところ、各鋼番号の電磁鋼板とも、表1に記載の化学成分と同様の化学成分を有していた。
【0088】
【表3】
【0089】
表3に示されるように、本発明の規定を満足する試験No.1〜11及び28〜30では、鉄損および磁束密度に優れることが分かる。また、{100}<011>結晶方位のみならず、その周囲における磁気特性も優れる結果となった。
【0090】
それらに対して、試験No.12ではMn含有量が規定値未満であり、試験No.14ではSi含有量が規定値未満であるため、{100}<011>結晶方位が発達しなかった。試験No.13ではMn含有量が過剰であるため、加工性が低下し、冷間圧延後に割れが生じたため、実験を中止した。また、試験No.15ではSi含有量が過剰でありα−γ変態系の化学組成から外れたため、{100}<011>結晶方位が発達しなかった。
【0091】
試験No.16では仕上げ圧延温度が低く、試験No.17では冷却速度が低すぎ、試験No.18では冷却速度が高すぎたため、{100}<011>結晶方位が発達しなかった。試験No.19では第1冷間圧延率が低すぎ、一方、試験No.20では第1冷間圧延率が高すぎたため、いずれの場合も全体的に磁束密度が低下する結果となった。同様に、試験No.21では中間焼鈍温度が低すぎ、一方、試験No.22では中間焼鈍温度が高すぎたため、いずれの場合も全体的に磁束密度が低下する結果となった。
【0092】
試験No.23では鉄損および磁束密度に優れるものの、第2冷間圧延率が低いため、異方性が緩和されなかった。一方、試験No.24では第2冷間圧延率が高すぎたため、{100}<011>結晶方位からのずれが大きくなり、全体的に磁束密度が低下する結果となった。
【0093】
試験No.25では仕上げ焼鈍温度が低すぎたため、粒成長せずに異方性が強すぎる結果となった。一方、試験No.26では仕上げ焼鈍温度が高すぎたため、α−γ変態が起こり、組織がランダム化したため、全体的に磁束密度が低下する結果となった。さらに、試験No.27では熱延板焼鈍を実施したため、粒界にMnが偏析し、冷間圧延後に割れが生じたため、実験を中止した。