(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記微多孔層において、細孔径が0.5μm以上10μm未満である細孔の容積の和が、細孔径が10μm未満の細孔の容積の和の30%以上70%未満である、請求項1〜3のいずれかに記載のガス拡散電極。
請求項1〜5のいずれかに記載のガス拡散電極の製造方法であって、前記微多孔層を形成するための塗液、すなわち微多孔層形成用塗液が造孔剤としての消失材を含み、前記消失材の炭化収率が20%以下かつアスペクト比が10以下であり、微多孔層形成用塗液の塗布時に導電性多孔質基材の面直方向に前記造孔剤の長軸方向を配向させる、ガス拡散電極の製造方法。
前記消失材がアクリル系樹脂、スチレン系樹脂、でんぷん、セルロース、ポリ乳酸樹脂、昇華性低分子体、マイクロバルーンのいずれかである、請求項6に記載のガス拡散電極の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のガス拡散電極は、導電性多孔質基材の少なくとも片面に微多孔層を有する。
【0017】
このガス拡散電極は触媒層つき電解質膜の少なくとも片側に積層され、膜電極接合体を形成する用途に用いることができる。この膜電極接合体をセパレータで挟み、積層することにより、燃料電池を形成することができる。
【0018】
<ガス拡散電極>
固体高分子形燃料電池において、ガス拡散電極には、セパレータから供給されるガスを触媒層へと拡散するための高いガス拡散性、電気化学反応に伴って生成する水をセパレータへ排出するための高い排水性、発生した電流を取り出すための高い導電性が要求される。このため一例として
図1に示されるようなガス拡散電極を用いることができる。ガス拡散電極12は導電性を有し、通常、10μm以上100μm以下の領域に細孔径のピークを有する多孔体からなる基材である導電性多孔質基材10と、10μm以下の領域に細孔径を有する微多孔層11を有する。ここで導電性多孔質基材の細孔径と微多孔層の細孔径及びそれらの分布は、水銀ポロシメーターによる細孔径分布測定により求めることができる。
【0019】
<導電性多孔質基材>
導電性多孔質基材としては、具体的には、例えば、炭素繊維織物、炭素繊維抄紙体、炭素繊維不織布、カーボンフェルト、カーボンペーパー、カーボンクロスなどの炭素繊維を含む多孔質基材、発泡焼結金属、金属メッシュ、エキスパンドメタルなどの金属多孔質基材を用いることが好ましい。中でも、耐腐食性が優れることから、炭素繊維を含むカーボンフェルト、カーボンペーパー、カーボンクロスなどの多孔質基材を用いることが好ましく、さらには、電解質膜の厚み方向の寸法変化を吸収する特性、すなわち「ばね性」に優れることから、炭素繊維抄紙体を炭化物で結着してなる基材、すなわちカーボンペーパーを用いることが好適である。
【0020】
本発明においては、ガス拡散電極のガス拡散性を高めて燃料電池の発電性能を極力高めるため、導電性多孔質基材の空隙率は好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上とする。空隙率の上限としては導電性多孔質基材の構造を保つため、95%以下であることが好ましい。
【0021】
また、導電性多孔質基材の厚みを薄くすることによっても、ガス拡散電極のガス拡散性を高めることができるので、導電性多孔質基材の厚みは220μm以下が好ましく、160μm以下がさらに好ましく、さらに好ましくは130μm以下である。一方、機械的強度を維持し、製造工程でのハンドリングを容易にするために、通常70μm以上が好ましい。
【0022】
このような導電性多孔質基材を用いてガス拡散電極を効率よく製造するためには、上記導電性多孔質基材を長尺に巻いた状態のものを巻き出して、巻き取るまでの間に連続的に微多孔層を形成することが好ましい。
【0023】
本発明において、導電性多孔質基材には、フッ素樹脂を付与することで撥水処理が施されたものが好適に用いられる。フッ素樹脂は撥水性樹脂として作用するので、本発明において用いる導電性多孔質基材は、フッ素樹脂などの撥水性樹脂を含むことが好ましい。導電性多孔質基材が含む撥水性樹脂、つまり導電性多孔質基材が含むフッ素樹脂としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)(たとえば“テフロン”(登録商標))、FEP(四フッ化エチレン六フッ化プロピレン共重合体)、PFA(ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂)、ETFE(エチレン四フッ化エチレン共重合体)、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)、PVF(ポリフッ化ビニル)等が挙げられるが、強い撥水性を発現するPTFE、あるいはFEPが好ましい。
【0024】
撥水性樹脂の量は特に限定されないが、導電性多孔質基材の全体100質量%中に0.1質量%以上20質量%以下が適切である。0.1質量%以上とすることにより十分な撥水性が発揮される。20質量%以下とすることにより、撥水性を発現しつつ、ガスの拡散経路あるいは排水経路となる細孔を確保できる。
【0025】
導電性多孔質基材を撥水処理する方法は、一般的に知られている撥水性樹脂を含むディスパージョンに導電性多孔質基材を浸漬する処理技術のほか、ダイコート、スプレーコートなどによって導電性多孔質基材に撥水性樹脂を塗布する塗布技術も適用可能である。また、フッ素樹脂のスパッタリングなどのドライプロセスによる加工も適用できる。なお、撥水処理の後、必要に応じて乾燥工程、さらには焼結工程を加えても良い。
【0026】
<微多孔層>
次いで、微多孔層について説明する。本発明では、導電性多孔質基材の少なくとも片面に微多孔層をひとつまたは複数層有する。微多孔層の役割としては、(1)凹凸を持った導電性多孔質基材との緩衝材として触媒を保護、(2)目の粗い導電性多孔質基材の表面の平滑化、(3)カソードで発生する水蒸気の凝縮防止の効果、(4)燃料ガス・酸素ガスの供給と反応生成物の排出といった物質交換、などである。
【0027】
本発明では、
図1に示す微多孔層の厚さ11は、導電性多孔質基材の表面あれを被覆して平滑化するために、10μm以上60μm以下であることが好ましい。なお、微多孔層の厚さ11とは、
図1に示されるようにガス拡散電極の厚さ12から導電性多孔質基材の厚さ10を減じた厚さである。
【0028】
微多孔層の厚さ11を10μm以上とすることで、前記した平滑化効果を向上でき、60μm以下とすることでガス拡散電極自体のガス拡散性(透過性)を大きくでき、また電気抵抗を小さくできることから高発電性能を得ることができる。ガス拡散性を高める、あるいは電気抵抗を下げるという観点からは、微多孔層の厚さ11は、好ましくは50μm以下、より好ましくは40μm以下である。
【0029】
ガス拡散電極の厚さ12または導電性多孔質基材の厚さ10については、マイクロメーターなどを用い、基材に0.15MPaの荷重を加えながら測定を行なうことができる。また、微多孔層の厚さ11については、ガス拡散電極の厚さ12から導電性多孔質基材の厚さ10を差し引いて求めることができる。
【0030】
微多孔層に細孔が存在することにより、ガス(酸素あるいは水素)が供給され、さらに生成した水蒸気や水を排出することができる。この細孔を通じたガス(酸素あるいは水素)や水の拡散を増加させることで発電に必要な物質交換を促進し、発電性能を促進できる。このため細孔形状を精密に制御することが重要となる。細孔形状を精密に制御する方法として、気泡を混合する方法、乾燥焼結工程で粒子を消失させ粒子が占める空間を細孔とする方法、微多孔層形成用塗液での導電性微粒子の凝集を利用し凝集粒子間に細孔を形成する方法などが例として挙げられる。
【0031】
細孔径および細孔形状を決定する特徴値を求める方法を次に述べる。まず導電性多孔質基材と少なくともひとつの微多孔層を有するガス拡散電極を、(株)日立ハイテクノロジーズ製IM4000などのイオンミリング装置を用いて任意の位置で厚み方向(面直方向)にカットし、その厚み方向の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察する。次にその断面SEM画像を二値化して細孔を抽出し、面積が0.25μm
2以上の細孔を「大細孔」と定義して、大細孔の画素数を計測する。
【0032】
さらに、様々な形状の大細孔を、最小近似法により、同一の細孔面積を有する楕円として楕円近似することで、楕円の円形度、長軸配向角度を求めることができる。大細孔の円形度が大きいほうがガス(酸素あるいは水素)、水が通過しやすく、好ましい。具体的には、大細孔内部において、気体や液体の移動が促進される円形度が0.5以上となる細孔の個数基準での比率(円形細孔比率)が50%以上であることが好ましく、さらに好ましくは60%以上が好ましい。円形細孔比率の上限は100%である。ここで円形度は画像中の細孔面積をS、細孔の周囲長をLとしたときに4πS/L
2で定義される数値であり、1に近いほど円形となる。
【0033】
また、大細孔は面直方向に長い形状を持つことで、微多孔層内部から電極基材に向かう面直方向に物質移動、特に液体の排出を促進できるため、加湿条件での耐フラッディング性が向上する。具体的には、
図2に示すように、大細孔3の細孔の楕円近似形状5において、楕円近似形状の長軸6が面内方向8(面直に垂直な方向)に対する配向角度θ(9)が45°以上90°以下である細孔(面直方向に配向した大細孔)の個数基準での比率(面直配向の大細孔比率)が微多孔層の細孔個数全体における40%以上あることが好ましく、50%以上あることがさらに好ましい。面直配向の大細孔比率の上限は100%である。
【0034】
また、大細孔が微多孔層に多く存在するほど物質拡散経路が増大するため、乾燥条件でも加湿条件でも発電性能が向上し望ましい。よって、微多孔層の面直方向断面において大細孔の数密度(大孔密度)が0.15個/μm
2以上あることが好ましく、より好ましくは0.2個/μm
2以上、さらに好ましくは0.3個/μm
2以上あることが好ましい。大孔密度が0.15個/μm
2以上あることで、耐ドライアップ性・耐フラッディング性を高く維持できる。
【0035】
<容積比率>
また、大細孔に相当する細孔が微多孔層内に占める容積比率も物質交換に大きな影響を与える。この細孔容積は水銀圧入法などを用いて測定できる。つまり、細孔に水銀を侵入させるために圧力を加え、圧力と圧入された水銀量から細孔径分布を求める方法を用いることができる。これらの方法により、細孔径ごとの細孔容積を把握することができる。本発明では微多孔層は10μm未満の細孔径を持つ領域である。このうち大細孔に起因する細孔径範囲は0.5μmから10μmの細孔径を持つことが通常であるが、その範囲の細孔径を有する大細孔容積が微多孔層全体の細孔容積に占める比率(大細孔容積比率)は30%以上あることが好ましい。加湿条件での耐フラッディング性も向上させるためには、大細孔容積比率は40%以上あることが好ましく、45%以上がさらに好ましい。一方、微多孔層は、ガス拡散電極として発電する時に1〜3MPa程度加圧されている。このとき大細孔を維持し、良好な形状を確保するためには、大細孔容積比率は70%未満、さらに好ましくは65%以下がよい。
【0036】
微多孔層は、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、炭素繊維のチョップドファイバー、グラフェン、黒鉛などの導電性微粒子を含んだ層である。この微多孔層に含まれる導電性微粒子の一次粒径が小さいほど、触媒層との接触界面が平滑となり良好な接触を実現できる。そのため、一次粒径は0.3μm以下であることが好ましく、0.1μm以下とすることでさらに良好な接触界面を得ることができる。導電性微粒子としては、コストが低く、安全性や製品の品質の安定性の点から、カーボンブラックが好適に用いられる。微多孔層中に含まれるカーボンブラックとしては、0.1μm以下の一次粒径を有することに加え、不純物が少なく触媒の活性を低下させにくいという点でアセチレンブラックが好適に用いられる。またカーボンブラックの不純物の含有量の目安として灰分が挙げられる。灰分が0.1質量%以下のカーボンブラックを用いることが好ましい。なお、カーボンブラック中の灰分は少ないほど好ましく、灰分が0質量%のカーボンブラック、つまり、灰分を含まないカーボンブラックが特に好ましい。
【0037】
また、微多孔層には、ガス拡散性、水の排水性に重要な働きをする大細孔を形成するための造孔剤を添加することができる。造孔の手法として、添加した材料が加熱により分解・昇華・収縮などで消失する消失材を用いることもできるし、導電性微粒子の凝集を利用して空隙を形成する方法なども例として挙げられる。消失材は乾燥温度から焼結温度までの間の温度条件で消失するものが望ましい。例えばアクリル系樹脂、スチレン系樹脂、でんぷん、セルロース、ポリ乳酸樹脂、昇華性低分子体、マイクロバルーン等を用いることができる。ここで昇華性低分子体とは通常分子量が1000以下の低分子有機物粉体であり、焼結温度において昇華して消失するものである。昇華性低分子体の一例としてアントラセンやペンタセン、フェナントレンなどがあげられる。
【0038】
これらの消失材として用いる粒子のアスペクト比が1に近いと大細孔の円形度を大きくしやすい。一方、アスペクト比が大きい場合には、消失材の配向を利用して、面直方向に細孔の長軸が配置されるように塗布を行うことで、焼結後の面直配向の大細孔比率を大きくできる。このことから消失材として用いる粒子のアスペクト比は1以上が好ましいが、一方で10以下が好ましく、円形度と両立させるためには4以下がより好ましい。また、そのサイズは、大細孔を形成するために一次粒径1μm以上が好ましく、さらに好ましくは1.5μm以上である。一方、微多孔層に発生するクラックや大細孔内での液滴の滞留を抑制するためには一次粒径は4μm以下が好ましく、さらに好ましくは3μm以下である。
【0039】
消失材としては、また、焼結において空孔を形成しやすく、好ましくは一般的な焼結条件である350℃における炭化収率が20%以下である材料が良く、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)やアゾジカルボンアミド樹脂があげられる。これは上記炭化収率が20%より大きな消失材を用いると、焼結後に消失材の炭化物が親水性となっており、空孔そのものに水を溜め込みその排出を阻害するためである。炭化収率は例えばSII社EXTRA TGA6200のようなTGA装置を用いて測定することができる。具体的には大気中にて50℃から350℃まで2℃/minの昇温速度で温度上昇させ350℃にて10min保持する。350℃にて保持された後の質量を50℃での初期質量で除して100を乗じたものを炭化収率とする。
【0040】
また、微多孔層には、導電性、ガス拡散性、排水性、あるいは保湿性、熱伝導性といった特性、さらには燃料電池内部のアノード側での耐強酸性、カソード側での耐酸化性が求められるため、微多孔層は、導電性微粒子に加えて、フッ素樹脂をはじめとする撥水性樹脂を含むことが好ましい。微多孔層が含む好ましいフッ素樹脂としては、導電性多孔質基材を撥水する際に好適に用いられるフッ素樹脂と同様、PTFE、FEP、PFA、ETFE等が上げられる。撥水性が特に高いという点でPTFE、あるいはFEPが好ましい。
【0041】
上記微多孔層を形成させるためには、導電性多孔質基材に、微多孔層を形成するための塗液、すなわち微多孔層形成用塗液(以下、微多孔層塗液という)を塗布することが一般的である。微多孔層塗液は通常、前記した導電性微粒子と水やアルコールなどの分散媒を含んでなり、導電性微粒子を分散するための分散剤として、界面活性剤などが配合されることが多い。また、微多孔層が撥水性樹脂を含むものとする場合には、微多孔層塗液に予め撥水性樹脂を含ませておくことが好ましい。
【0042】
微多孔層塗液中の導電性微粒子の濃度は、生産性の点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上である。粘度、導電性微粒子の分散安定性、塗液の塗布性などが好適であれば濃度に上限はないが、実際的には微多孔層塗液中の導電性微粒子の濃度を50質量%以下とすることにより塗液の塗布性を確保できる。本発明者らの検討では、特に導電性微粒子としてアセチレンブラックを用いた場合には、水系塗液において微多孔層塗液中のアセチレンブラックの濃度を25質量%以下とすることにより、アセチレンブラック同士の再凝集を防止し、微多孔層塗液が安定的な粘度となり、塗液の塗布性を確保できる。
【0043】
さらに微多孔層塗液に分散剤や増粘剤を加えることで導電性微粒子の分散安定性、塗液の塗布性を得ることができる。また、導電性微粒子と分散媒の混合方法や分散剤・増粘剤の比率、分散時のせん断速度や分散時間の調整、攪拌翼の形状による分散均一性の調整により、塗液内の導電性微粒子の分散状態を制御することで、塗液内に凝集体を作成した塗液を作成し、凝集体間の空隙を利用して大細孔の大きさや数を変更することができる。なお、実施例に後述するとおり、同一組成の塗液を用いた場合であっても、分散のために混練させる時間の調整により、細孔の円形度、配向を調整して、良好な結果を得ることも可能である。
【0044】
導電性多孔質基材上に微多孔層を形成する方法としては、一旦PETフィルムなどの基材上に塗布し、その微多孔層面を導電性多孔質基材上に圧着し、基材フィルムを剥離する転写法、導電性多孔質基材に微多孔層塗液を塗布する直接塗布法などが挙げられる。工程の簡便さから直接塗布法が好ましい。
【0045】
<塗布>
微多孔層塗液の導電性多孔質基材への塗布は、市販されている各種の塗布装置を用いて行うことができる。塗布方式としては、スクリーン印刷、ロータリースクリーン印刷、スプレー噴霧、凹版印刷、グラビア印刷、ダイコーター塗布、バーコーター塗布、ブレードコーター塗布、ロールナイフコーター塗布などが使用できるが、導電性多孔質基材の表面粗さによらず塗布量の定量化を図ることができるため、ダイコーターによる塗布が好ましい。また、燃料電池にガス拡散電極を組み込んだ場合に触媒層との密着を高めるため塗布面の平滑性を求める場合には、ブレードコーターやロールナイフコーターによる塗布が好適に用いられる。以上例示した塗布方法はあくまでも例示のためであり、必ずしもこれらに限定されるものではない。本発明における微多孔層内の面直方向に配向した大細孔の成分を多くするために、塗布方法を工夫することもできる。たとえば、塗液の塗布時に導電性多孔質基材表面で面直方向に流動する成分が多くなるように、導電性多孔質基材表面の近くで吐出圧を高くして塗液を吐出することもでき、面直方向に配向した大細孔を増加できる。
【0046】
微多孔層塗液を塗布した後、必要に応じ、微多孔層塗液の分散媒(水系の場合は水)を乾燥除去する。塗布後の乾燥の温度は、分散媒が水の場合、室温(20℃前後)から150℃以下が望ましく、さらに好ましくは60℃以上120℃以下が好ましい。この分散媒(たとえば水)の乾燥は後の焼結工程において一括して行なっても良い。
【0047】
微多孔層塗液を塗布した後、微多孔層塗液に用いた界面活性剤を除去する目的および撥水性樹脂を一度溶解して導電性微粒子を結着させる目的で、焼結を行なうことが一般的である。焼結の温度は、添加されている界面活性剤の沸点あるいは分解温度にもよるが、250℃以上、400℃以下で行なうことが好ましい。焼結の温度が250℃未満では界面活性剤の除去が十分に達成し得ないかあるいは完全に除去するために膨大な時間がかかり、400℃を越えると撥水性樹脂の分解が起こる可能性がある。
【0048】
焼結時間は生産性の点からできるかぎり短時間、好ましくは20分以内、より好ましくは10分以内、さらに好ましくは5分以内であるが、あまり短時間で急激に焼結を行なうと界面活性剤の蒸気や分解生成物が急激に発生し、大気中で行なう場合には発火の危険性が生じる。焼結の温度と時間は、撥水性樹脂の融点あるいは分解温度と界面活性剤の分解温度に鑑みて最適な温度、時間を選択する。
【0049】
<膜電極接合体>
本発明において、前記したガス拡散電極を、触媒層を有する固体高分子電解質膜の少なくとも片面に接合することにより、膜電極接合体を形成することができる。その際、触媒層側にガス拡散電極の微多孔層を配置することにより、より生成水の逆拡散が起こりやすくなることに加え、触媒層とガス拡散電極の接触面積が増大し、接触電気抵抗を低減させることができる。このため固体高分子電解質膜と触媒層と微多孔層はそれぞれ良好な接触を保つ必要があり、電解質膜と触媒層とガス拡散電極を積層した後に、加圧・加熱により界面の密着度を上げることが望ましい。なお、各層の界面に層間の高密着を目的として接着層や低温起動を可能にするための凝結防止層など、各種機能層を形成することも可能である。触媒層は、固体高分子電解質と触媒担持炭素を含む層からなる。触媒としては、通常、白金が用いられる。アノード側に一酸化炭素を含む改質ガスが供給される燃料電池にあっては、アノード側の触媒としては白金およびルテニウムを用いることが好ましい。固体高分子電解質としては、プロトン伝導性、耐酸化性および耐熱性の高いパーフルオロスルホン酸系の高分子材料を用いることが好ましい。
【0050】
<燃料電池>
本発明の燃料電池は、上述の膜電極接合体上にセパレータを有するものである。すなわち、上述の膜電極接合体の両側にセパレータを配置することにより燃料電池を構成する。通常、このような膜電極接合体の両側にガスケットを介してセパレータで挟んだものを複数個積層することによって固体高分子形燃料電池を構成する。ここでセパレータは一般的に燃料ガス・酸素ガスの供給及び反応生成物の排出の機能を有しており、集電体のガス拡散電極側に流路構造を持つ。単セルまたはスタック構造の両端の集電体から、電流を取り出すことで電池としての機能を得ることができる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明する。実施例で用いた材料、導電性多孔質基材の作製方法、燃料電池の電池性能評価方法を次に示した。
【0052】
<材料>
A:導電性多孔質基材
東レ(株)製ポリアクリロニトリル系炭素繊維“トレカ”(登録商標)T300−6K(平均単繊維径:7μm、単繊維数:6,000本)を原料として、黒鉛を含んだ炭化物の結着材により結着させて作成した厚み150μm、空隙率85%、目付け40g/m
2のカーボンペーパーを用いた。
【0053】
B:導電性微粒子
炭素粉末:カーボンブラック 一次粒径:0.045μm
炭素粉末:人造黒鉛 粉砕品 一次粒径:3μm。
【0054】
C:撥水性樹脂
“ポリフロン”(登録商標)PTFEディスパージョンD−210(PTFE樹脂、ダイキン工業(株)製)。
【0055】
D:界面活性剤
“TRITON”(登録商標)X−100(ナカライテスク(株)製)。
【0056】
E:造孔剤
消失材:アゾジカルボンアミド樹脂 炭化収率(350度10分)0.5% アスペクト比3 平均粒径3μm
消失材:ポリメタクリル酸メチル樹脂粒子(球形)炭化収率(350度10分)0.5% アスペクト比1 平均粒径2μm。
【0057】
F:分散媒として精製水を用いた。
【0058】
<厚みの測定>
ガス拡散電極および導電性多孔質基材の厚みについては、(株)ニコン製デジタル厚み計“デジマイクロ”を用い、基材に0.15MPaの荷重を加えながら測定を行った。
【0059】
微多孔層の厚みについては、微多孔層塗液を基材に塗布・焼結してガス拡散電極を作製した後に、ガス拡散電極の厚みから導電性多孔質基材の厚みを差し引いて測定した。
【0060】
<円形度と細孔形状の計測、面直配向の大細孔比率、大孔密度>
微多孔層に含まれる細孔形状については、ガス拡散電極の厚み方向の断面を作成して評価した。ガス拡散電極の断面の作製に際しては、(株)日立ハイテクノロジーズ製イオンミリング装置IM4000を用いた。作成した断面を走査型電子顕微鏡として(株)日立製作所製S−4800を用い、2000倍に拡大を行って画像撮影し、画像解析ソフトの「ImageJ」を用いて対象サンプルの輝度を測定することにより、細孔の解析を行った。
図3に厚み方向の断面画像における微多孔層のみの輝度分布の概略図を示す。2値化の閾値は輝度分布における最大点13から輝度分布における最大点から輝度が小さくなる側14の輝度分布における最大点から輝度が小さくなる側のショルダーの途中の変曲点15を閾値として、閾値より輝度が小さい部分を細孔として粒子解析により面積を求めた。断面画像を10箇所観察し、全画像面積における0.25μm
2以上10μm
2未満の細孔の数を計測することで、大孔密度(個/μm
2)を計算した。また、細孔形状解析時に、細孔を楕円近似して、上記面直配向の大細孔比率を求めた。
【0061】
<細孔容積の測定>
得られたガス拡散電極について水銀圧入法を用いて細孔径と細孔容積を測定した。まずガス拡散電極から40mm角の正方形を2枚切り出し、島津製作所社製のオートポアIV 9500を用いて測定した。この結果から、微多孔層における、細孔径0.5μm〜10μmの間の細孔容積V
(0.5〜10)および細孔径10μm以下の細孔容積V
(0−10)を求めた。細孔容積V
(0.5〜10)/V
(0−10)を微多孔層内の大細孔の細孔容積比率として求めた。
【0062】
<発電性能評価>
得られたガス拡散電極を、電解質膜・触媒層一体化品(Greenerity社製:“H500”))の両側に、一体化品の触媒層と微多孔層が接するように挟み、110℃20分間で2MPaの圧力でホットプレスすることにより、膜電極接合体(MEA)を作製した。この膜電極接合体を燃料電池用単セルに組み込み、電池温度80℃、燃料利用効率を70%、空気利用効率を40%、アノード側の水素、カソード側の空気をそれぞれ湿度が30%(乾燥条件)、100%(加湿条件)となるように調整して発電した。湿度が30%(乾燥条件)のとき電流密度を2A/cm
2としたときの出力電圧を耐ドライアップ性の指標とした。また、100%(加湿条件)のとき電流密度を2A/cm
2としたときの出力電圧を、耐フラッディング性の指標とした。
【0063】
(実施例1)
ロール状に巻き取られた厚み150μm、空隙率85%のカーボンペーパーを、巻き取り式の搬送装置を用いて搬送しながら、撥水性樹脂ディスパージョンを満たした浸漬槽に浸漬して撥水処理を行い、100℃に設定した乾燥機で乾燥して、巻き取り機で巻き取って、撥水処理した導電性多孔質基材を得た。この際、撥水性樹脂ディスパージョンとしてPTFEディスパージョン D−210Cを用いて、カーボンペーパーへのPTFE樹脂の付着量が5質量%となるようにPTFEディスパージョン D−210Cを水で薄めた液を浸漬に用いた。
【0064】
次に、撥水処理した導電性多孔質基材を巻き出し、ダイコーターを用いて微多孔層塗液を導電性多孔質基材の表面に塗布し、温度100℃5分間の熱風乾燥処理・温度350℃5分間の焼結処理した後、巻き取ることで連続形成を行った。この際ダイコーターの塗液吐出に用いる口金と基材との隙間を調節することで、口金吐出圧を調整した。以下実施例2以降において、本実施例1の口金吐出圧を基準(相対値1.0)とする。また、微多孔層塗液の塗布にあたっては、焼結後の微多孔層の目付け量が15g/m
2となるように調整した。
【0065】
なお、微多孔層塗液は、表1に示すとおり、導電性微粒子として炭素粉末A“デンカブラック”(登録商標)10質量部、撥水性樹脂C:PTFEディスパージョン(“ポリフロン”(登録商標)D−210C)2.5質量部、界面活性剤D(“TRITON”(登録商標)X−100)14質量部、造孔剤E(アゾジカルボンアミド樹脂)3質量部、精製水70質量部をプラネタリーミキサーで混練し、塗液1を調製した。なお、このときの混練での処理時間を基準として相対値1.0とした。
【0066】
また、上記のように調製したガス拡散電極を、触媒層を両面に設けた電解質膜の両側に、微多孔層と触媒層が接するように熱圧着し、燃料電池の単セルに組み込み、発電性能(限界電流密度)評価を行った。その他の物性値も含め、表2に示す通りであった。比較例1に比べ円形度が高い大細孔構造を得、発電評価結果も良好であった。
【0067】
(実施例2)
塗液組成を表1記載の造孔剤Eを造孔剤F(球形PMMA樹脂)に変更した塗液4とすること以外実施例1と同様の方法でガス拡散電極を得た。その評価結果を表2に示す。実施例1に比べ、さらに細孔の円形度が高くなったが面直配向の大細孔比率は小さくなった。この結果、実施例1に比べて、発電結果では耐ドライアップ性は向上し、大変良好な結果を得たが、耐フラッディング性の向上は見られなかった。
【0068】
(実施例3)
塗液の塗布時に口金での吐出圧を相対値1.5にあげること以外は実施例1と同様の方法でガス拡散電極を得た。その評価結果を表2に示す。実施例1に比べ、面直配向の大細孔比率は大きくなった。この結果、実施例1に比べて耐フラッディング性が向上し、大変良好となった。
【0069】
(実施例4)
消失材の添加量を増加させた表1記載の塗液2を用いた以外は実施例3と同様の方法でガス拡散電極を得た。その評価結果を表2に示す。実施例1、3に比べ、面直配向の大細孔比率は大きくなった。この結果、実施例3に比べて耐ドライアップ性も向上し、大変良好であった。
【0070】
(実施例5)
消失材を含まない塗液5を用いて、塗液の混練の処理時間(相対値)を0.7とした以外は実施例3、4と同様の方法でガス拡散電極を得た。その評価結果を表2に示す。この結果、円形細孔比率、面直配向の大細孔比率、大細孔容積比率がいずれも大幅に増加した。その結果、実施例3、4と比べても耐ドライアップ性、耐フラッディング性ともに向上し、大変良好であった。
【0071】
(実施例6)
塗液の混練の処理時間(相対値)を0.5とした以外、実施例5と同様の方法でガス拡散電極を得た。その評価結果を表2に示す。この結果、実施例5に比べ耐ドライアップ性、耐フラッディング性ともに大幅な向上が見られ、極めて良好であった。
【0072】
(実施例7)
塗液の混練の処理時間(相対値)を0.3とし、塗液を塗布時の口金での吐出圧を相対値2.0とした以外、実施例6と同様の方法でガス拡散電極を得た。その評価結果を表2に示す。この結果、実施例6に比べ面直配向の大細孔比率が大幅に増加した。その結果、発電結果では耐フラッディング性がさらに向上し、耐ドライアップ性、耐フラッディング性ともに極めて良好であった。
【0073】
(実施例8)
消失材の添加量を増加させた表1記載の塗液3を用い、塗液の塗布時に口金での吐出圧を相対値1.8にあげた以外は実施例1と同様の方法でガス拡散電極を得た。その評価結果を表2に示す。実施例1に比べ、円形細孔比率、面直配向の大細孔比率、大孔密度、大細孔容積比率のいずれも大きくなった。この結果、実施例1に比べ、耐ドライアップ性、耐フラッディング性ともに大幅な向上が見られ、極めて良好であった。
【0074】
(実施例9)
焼結時の搬送速度を2倍にして昇温速度を倍にした以外は実施例8と同様の方法でガス拡散電極を得た。その評価結果を表2に示す。実施例8に比べ、大細孔容積比率が70%以上に大きくなった。しかし、電池組み立て時の圧縮により、微多孔層が変形して、微多孔層内部の大細孔が収縮したと考えられ、この結果、発電結果で耐ドライアップ性、耐フラッディング性ともに実施例8の結果に及ばないが、良好な結果を示すものではあった。
【0075】
(実施例10)
導電性微粒子に一次粒径3μmの人造黒鉛の粉砕品を用いた塗液6を用いた以外、実施例4と同様の方法でガス拡散電極を得た。その評価結果を表2に示す。この結果、円形細孔比率、面直方向に配向した大細孔比率、大細孔容積比率は十分なものであり、耐ドライアップ性、耐フラッディング性は実施例1と同等であったが、実施例4に比べると劣るものであった。
【0076】
(比較例1)
消失材を含まない塗液5を用いた以外、実施例1と同様の方法でガス拡散電極を得た。その評価結果を表2に示す。円形細孔比率、面直方向に配向した大細孔比率、大孔密度、大細孔容積比率ともに不十分であった。また、発電結果では耐ドライアップ性、耐フラッディング性ともに低く、不十分な値となった。
【0077】
(比較例2)
塗液6を用いた以外、比較例1と同様の方法でガス拡散電極を得た。その評価結果を表2に示す。円形細孔比率、面直配向の大細孔比率、大孔密度、大細孔容積比率とも比較例1より向上したが、微多孔層の塗布面が粗く、触媒層との良好な接触が得られなかったため、発電結果は耐ドライアップ性、特に耐フラッディング性が低く、不十分な値となった。
【0078】
【表1】
【0079】
【表2】