(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記超音波発生器は、選択した前記超音波の周波数を中心として、±0.1kHz〜±10kHzの範囲で掃引しつつ、前記処理液に対して超音波を印加することができる、請求項1〜9の何れか1項に記載の超音波処理装置。
処理液と、被処理物と、を収納することができる処理部に対して超音波を印加しながら前記被処理物に対して所定を施す際に、前記処理部に対してファインバブルを含有する前記処理液を供給するファインバブルの供給方法であって、
前記処理部に対して、前記処理部に設けられ、前記被処理物に対して超音波を印加する超音波発生器と、前記処理部の中の前記処理液を循環させるための循環経路と、を設け、
前記循環経路は、
前記処理液を循環させる循環ポンプと、前記処理部から引き抜いた前記処理液を前記循環ポンプへと接続する処理液引抜配管と、前記循環ポンプを経た前記処理液を前記処理部へと吐出させる処理液吐出配管と、を有しており、かつ、
前記処理液引抜配管に対して直列に、引き抜かれた前記処理液を脱気するとともに、前記処理液中にファインバブルを発生させるファインバブル発生器が設けられており、
前記ファインバブル発生器は、
前記処理液の開口流路の大きさが前記処理液引抜配管の内径よりも狭まっている狭隘部を2つ以上有しており、かつ、隣り合う前記狭隘部の前記開口流路は、前記処理液が直進しないように構成されており、
それぞれの前記狭隘部は、前記処理液引抜配管の内径の開口断面積をA0とし、前記処理部側から前記循環ポンプ側に向かってi(iは、1以上の整数。)番目の前記狭隘部における前記処理液引抜配管の内径の開口断面積をAiと表したときに、Ai/A0として表されるi番目の前記狭隘部の開口断面積比Riが、下記の式(1)を満足し、
i番目の前記狭隘部とi+1番目の前記狭隘部との間隔をLiと、表したときに、下記の式(2)を満足し、
前記狭隘部の個数をNとし、前記処理部側から前記循環ポンプ側に向かってN番目の前記開口面積比RNと表したときに、下記の式(3)及び式(4)を満足する、ファインバブルの供給方法。
Ri=0.10〜0.50 ・・・式(1)
1.0≦Li/2(A0/π)0.5≦5.0 ・・・式(2)
Ri+1≧Ri ・・・式(3)
RN/R1≧1.10 ・・・式(4)
前記ファインバブル発生器は、前記処理部へと吐出される前記処理液中において、溶存気体量が飽和溶存気体量に対して50%以下となるように、前記ファインバブルを発生させる、請求項11に記載のファインバブルの供給方法。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0020】
(超音波処理装置の全体構成)
まず、
図1A及び
図1Bを参照しながら、本発明の実施形態に係る超音波処理装置の全体的な構成について、簡単に説明する。
図1A及び
図1Bは、本実施形態に係る超音波処理装置の全体的な構成の一例を模式的に示した説明図である。
【0021】
本実施形態に係る超音波処理装置1は、被処理物に対して所定の処理を施す処理液に加えて超音波を併用し、被処理物の表面(処理液に接している部位)に対して所定の処理を施す装置である。かかる超音波処理装置1は、鋼材等に代表される各種の金属体や、プラスチック樹脂製部材等に代表される各種の非金属体等に対して、例えば洗浄等の各種の処理を施す際に利用することができる。例えば、鋼板、鋼管、鋼線材等といった各種の金属体を被処理物とし、本実施形態に係る超音波処理装置1を用いることで、これらの金属体に対して、酸洗処理や脱脂処理、更には洗浄処理を行うことができる。また、本実施形態に係る超音波処理装置1は、酸洗処理後の水洗処理を実施する際に対しても、用いることが可能である。
【0022】
ここで、酸洗処理とは、金属体の表面に形成された酸化物スケールを、酸性溶液を用いて除去する処理であり、脱脂処理とは、有機溶剤、有機溶剤を界面活性剤で乳化させたもの、又は、アルカリ系の脱脂液を用いて、加工処理等に用いる潤滑剤や加工油等の油分を除去する処理である。これらの酸洗処理及び脱脂処理は、表面仕上げ処理(金属被覆処理、化成処理、塗装処理等)を金属体に対して施すに先だって実施される前処理である。かかる酸洗処理によって、地の金属の一部を溶解させることもある。また、表面仕上げ品質を向上させるためのエッチングによる金属体の溶解にも、かかる酸洗処理は用いられている。また、酸洗処理の前段に脱脂処理が設けられている場合もあり、脱脂処理における脱脂性能が、その後の酸洗処理のスケールの除去に影響を及ぼすこともある。更には、脱脂処理は、最終製品の仕上げ品質としての油分管理指標である濡れ性の改善にも、使用される。
【0023】
更に、以下で詳述する本実施形態に係る超音波処理装置1は、上記のような製造ラインにおける洗浄工程以外にも、使用済み配管や定期的もしくは不定期に汚れ除去を必要とするタンク、装置の洗浄等に対しても用いることが可能である。
【0024】
以下では、処理部の一例として、処理液の保持されている処理槽が存在し、かかる処理槽の内部に、被処理物が処理液で満たされるように設けられる場合を例に挙げて、詳細に説明を行うものとする。
【0025】
ただし、本実施形態に係る超音波処理装置1は、例えば熱交換器に設けられている配管に対して超音波処理を行う場合等のように、処理対象とする装置に予め設けられている部材を処理槽として利用可能なものについては、別途処理槽を設けることなく適用することが可能である。
【0026】
本実施形態に係る超音波処理装置1は、
図1Aに例示したように、処理槽10と、超音波発生器20と、処理液の循環経路30と、を有している。また、処理液の循環経路30は、
図1Aに示したように、循環ポンプ31と、処理液引抜配管33と、処理液吐出配管35と、を有しており、処理液引抜配管33に対して直列に、ファインバブル発生器40が設けられている。ファインバブル発生器40によって、循環経路30を流れる処理液3中にファインバブルが発生し、発生したファインバブルが、処理液3とともに処理槽10内に供給される。また、本実施形態に係る超音波処理装置1は、上記の構成に加えて、更に、曲面部材50を有していることが好ましい。
【0027】
ここで、ファインバブルとは、気泡径が100μm以下である微細気泡である。ファインバブルは、被処理物に対する超音波の伝播効率を向上させ、超音波キャビテーションの核として処理性を向上させるものである。
【0028】
また、
図1Bに模式的に示したように、超音波発生器20、循環経路30、ファインバブル発生器40、及び、曲面部材50の個数及び配置については、特に限定されるものではなく、処理槽10の形状や大きさに応じて、適宜個数を調整しながら配置することが可能である。また、図中の各部材の大きさは、説明を容易とするため適宜強調されており、実際の寸法、部材間の比率を示すものではない。
【0029】
以下では、本実施形態に係る超音波処理装置1における各構成について、詳細に説明する。
【0030】
<処理槽10について>
処理部の一例である処理槽10には、被処理物に対して所定の処理を施すために用いられる処理液3や、被処理物そのものが収容される。これにより、処理槽10内に収容された被処理物は、処理液3に浸漬されることで、処理液3で満たされた状態で存在するようになる。処理槽10に保持される処理液3の種類については、特に限定されるものではなく、被処理物に対して行う処理に応じて、公知の処理液を用いることが可能である。
【0031】
ここで、本実施形態に係る処理槽10を形成するために用いられる素材は、特に限定されるものではなく、鉄、鋼、ステンレス鋼板等といった各種の金属材料であってもよいし、繊維強化プラスチック(FRP)やポリプロピレン(PP)等といった各種のプラスチック樹脂であってもよいし、耐酸レンガ等のような各種のレンガであってもよい。すなわち、本実施形態に係る超音波処理装置1を構成する処理槽10として、上記のような素材で形成された処理槽を新たに準備することも可能であるし、各種の製造ラインにおける既設の処理槽を利用することも可能である。
【0032】
また、処理槽10の大きさについても特に限定されるものではなく、液面深さ1〜2m程度×全長3〜25m程度のような各種形状の大型処理槽であったとしても、本実施形態に係る超音波処理装置1の処理槽10として利用可能である。
【0033】
<超音波発生器20について>
超音波発生器20は、処理槽10に収容されている処理液3や被処理物に対して、所定周波数の超音波を印加するものである。超音波発生器20は、特に限定されるものではなく、未図示の超音波発振器に接続された超音波振動子など、公知のものを利用することが可能である。また、
図1A及び
図1Bでは、超音波発生器20を処理槽10の壁面に設ける場合について図示しているが、超音波発生器20の処理槽10への設置位置についても特に限定されるものではなく、処理槽10の壁面や底面に対して、1又は複数の超音波振動子を適宜設置すればよい。なお、処理槽10全体に均一に超音波が伝播されるような条件となれば、個々の超音波振動子の発振負荷のバランスが一様となるため、超音波振動子の個数が複数であったとしても、発生した超音波間で干渉が生じなくなる。
【0034】
超音波発生器20から出力される超音波の周波数は、例えば、20kHz〜200kHzであることが好ましい。超音波の周波数が20kHz未満である場合には、被処理物の表面から発生するサイズの大きな気泡により超音波伝播が阻害され、超音波による処理性向上効果が低下する場合がある。また、超音波の周波数が200kHzを超える場合には、被処理物を処理する際の超音波の直進性が強くなりすぎて、処理の均一性が低下する場合がある。超音波発生器20から出力される超音波の周波数は、好ましくは20kHz〜150kHzであり、更に好ましくは、25kHz〜100kHzである。
【0035】
なお、印加する超音波の周波数は、被処理物に応じて上記範囲内で適切な値を選定することが好ましく、被処理物の種類によっては、2種類以上の周波数の超音波を印加してもよい。
【0036】
また、超音波発生器20は、ある選択した超音波の周波数を中心として所定の範囲で周波数を掃引しつつ超音波を印加することが可能な、周波数掃引機能を有していることが好ましい。このような周波数掃引機能によって、以下のような2つの更なる効果を実現することが可能となる。
【0037】
液体中に存在している、ファインバブルを含む微小気泡に対して超音波を印加した場合、微小気泡に対して、Bjerknes力と呼ばれる力が作用し、微小気泡は、周波数に依存する共振気泡半径R
0に応じて、超音波の腹や節の位置に引き寄せられることとなる。ここで、超音波印加機構20が有している周波数掃引機能によって、超音波の周波数が変化した場合、周波数に依存する共振気泡半径R
0は、周波数の変化に応じて広がることとなる。その結果、キャビテーション発生の泡径が広がることとなり、多くの微小気泡(例えば、ファインバブル)をキャビテーション核として利用することが可能となる。これにより、超音波発生器20が有している周波数掃引機能によって、本実施形態に係る超音波処理装置1の処理効率が更に向上することとなる。
【0038】
一方、超音波の一般的な性質として、「超音波の波長が照射物体の厚みに対応する波長の1/4となったときに、超音波が照射物体を透過する」という現象が知られている。そこで、周波数を適切な範囲で掃引しながら超音波を印加することで、例えば被処理物が管状体等の中空部を有するものであった場合に、管状体内へと透過する超音波を増加させることが可能となり、本実施形態に係る超音波処理装置1の処理効率が更に向上することとなる。
【0039】
ここで、照射物体表面での超音波の透過を考える場合、超音波は、照射物体に垂直入射する場合だけでなく、多重反射を繰り返しながら伝播していくため、一定の音場は形成しづらい傾向にある。その中でも、照射物体の壁面を透過する条件を生み出すために、被処理物の位置がどこに存在していたとしても、「超音波の波長が、被処理物の厚みに対応する波長の1/4となる」という条件を満たすことが可能な周波数を実現することが好ましい。このような周波数の範囲について、本発明者らが検討したところ、ある選択した超音波の周波数を中心として±0.1kHz〜±10kHzの範囲で周波数を掃引しつつ超音波を印加することで、上記のような超音波の透過が実現可能であることが明らかとなった。これらの理由から、超音波発生器20は、ある選択した超音波の周波数を中心として±0.1kHz〜±10kHzの範囲で周波数を掃引しつつ超音波を印加することが可能な、周波数掃引機能を有していることが好ましい。
【0040】
<循環経路30及びファインバブル発生器40について>
循環経路30は、処理槽10に保持されている処理液3を循環させるための経路である。この循環経路30は、
図1Aに示したように、処理液3を循環させるための循環ポンプ31と、処理槽10から引き抜いた処理液3を循環ポンプ31へと接続する処理液引抜配管33と、循環ポンプ31を経た処理液3を処理槽10へと吐出させる処理液吐出配管35と、を少なくとも有している。また、ファインバブル発生器40は、
図1Aに示したように、処理液引抜配管33に対して直列に設けられており、処理槽10から引き抜かれた処理液3を脱気するとともに、処理液3中にファインバブルを発生させる。
【0041】
ここで、循環ポンプ31は、例えば遠心ポンプやダイヤフラムポンプ等の一般的な汎用ポンプを用いることとし、真空ポンプ、減圧ポンプ、加圧ポンプ等の特殊なポンプは用いないこととする。
【0042】
ファインバブル発生器40は、負圧環境下にある処理液引抜配管33の途中に設けられている。かかるファインバブル発生器40により、処理槽10から引き抜かれた処理液3中にファインバブルが生成される。なお、ファインバブル発生器40を、処理液引抜配管33ではなく、正圧環境下にある処理液吐出配管35の途中に設けた場合には、処理液3の脱気を行うことができず、結果として、所望のファインバブルを発生させることができない。
【0043】
ここで、ファインバブル発生器40により処理槽10へと吐出される処理液3中に生成されるファインバブルの平均気泡径は、1μm〜100μmであることが好ましい。ここで、平均気泡径とは、ファインバブルの直径に関する個数分布において、標本数が最大となる直径である。平均気泡径が1μm未満の場合、ファインバブル発生器40が大型となり、気泡径を整えてのファインバブルの供給が困難になる場合がある。平均気泡径は、より好ましくは2μm以上であり、更に好ましくは3μm以上である。これにより、気泡径を整えてのファインバブルの供給を、より確実に実現することが可能となる。一方平均気泡径が100μmを超える場合には、ファインバブルの浮上速度が増加することで洗浄液中でのファインバブルの寿命が短くなり、現実的な洗浄が出来なくなる場合がある。また、気泡径が大きすぎる場合、超音波の伝播がファインバブルによって阻害され、超音波の持つ洗浄力向上効果が低下してしまう場合がある。平均気泡径は、より好ましくは90μm以下であり、更に好ましくは80μm以下であり、より一層好ましくは70μm以下である。これにより、超音波の持つ洗浄力向上効果が低下することを、より確実に防止することが可能となる。
【0044】
また、ファインバブル発生器40により処理槽10へと吐出される処理液3中におけるファインバブルの気泡密度は、1×10
3個/mL〜1×10
10個/mLであることが好ましい。ファインバブルの気泡密度が10
3個/mL未満である場合には、ファインバブルによる超音波伝搬性向上作用が十分得られない場合があり、また、処理に必要な超音波キャビテーションの核が少なくなってしまい、好ましくない。ファインバブルの気泡密度は、より好ましくは1×10
3個/mL以上であり、更に好ましくは5×10
3個/mL以上であり、更に一層好ましくは1×10
4個/mL以上である。これにより、ファインバブルによる超音波伝播性向上作用を、より確実に発現させることが可能となる。一方、ファインバブルの気泡密度が1×10
10個/mL超である場合には、ファインバブル発生器40が大型になったり、ファインバブル発生器40の台数を増やすことになったりして、ファインバブルの供給が現実的ではない場合があり、好ましくない。ファインバブルの気泡密度は、より好ましくは1×10
9個/mL以下であり、更に好ましくは1×10
8個/mL以下であり、より一層好ましくは1×10
7個/mL以下である。
【0045】
なお、本実施形態に係る超音波処理装置1を用いた作業時には、処理槽10内に保持された処理液におけるファインバブルの気泡密度が、処理槽10へと吐出される処理液3中におけるファインバブルの気泡密度と一致するように制御した後に、上記のような各種処理を実施することが好ましい。
【0046】
また、ファインバブル発生器40は、処理液3中において、超音波の周波数に共振する直径である周波数共振径以下の気泡径を有するファインバブルの個数の割合が処理液3中に存在するファインバブル全体の個数の70%以上となるように、ファインバブルを発生させることが好ましい。以下、その理由について説明する。
【0047】
ファインバブルを含む各種気泡の固有振動数は、Minnaert共振周波数とも呼ばれ、以下の式101で与えられる。
【0049】
ここで、上記式101において、
f
0:気泡の固有振動数(Minnaert共振周波数)
R
0:気泡の平均半径
p
∞:周辺液体の平均圧力
γ:断熱比(空気のγ=1.4)
ρ:液体密度
である。
【0050】
いま、着目する気泡の内部に空気が存在するとした場合に、気泡の周辺液体が水であり、圧力が大気圧であるとすると、気泡の固有振動数と気泡の平均半径との積f
0R
0の値は、上記式101より約3kHz・mm程度となる。これより、印加される超音波の周波数が20kHzであれば、かかる超音波に共振する気泡の半径R
0は、約150μmとなるため、周波数20kHzの超音波に共振する気泡の直径である周波数共振径2R
0は、約300μmとなる。同様に、印加される超音波の周波数が100kHzであれば、かかる超音波に共振する気泡の半径R
0は、約30μmとなるため、周波数100kHzの超音波に共振する気泡の直径である周波数共振径2R
0は、約60μmとなる。
【0051】
この際に、共振半径R
0よりも大きな半径を有する気泡は阻害因子となる。なぜなら、ファインバブルを含む気泡が共振する際、気泡は、短時間に膨張と収縮とを繰り返し、最終的には圧壊するが、第一音波が気泡を通過する時点で気泡の大きさが周波数共振径2R
0よりも大きければ、超音波は気泡表面で拡散してしまうからである。逆に、第一音波が気泡を通過する時点で気泡の大きさが周波数共振径2R
0よりも小さければ、超音波は気泡表面で拡散せずに気泡中を通過することができる。
【0052】
かかる観点から、処理液3中において、周波数共振径2R
0以下の気泡径を有するファインバブルの個数の割合を、処理液3中に存在するファインバブル全体の個数の70%以上とすることが好ましい。周波数共振径2R
0以下の気泡径を有するファインバブルの個数の割合を70%以上とすることで、超音波の伝播効率を更に向上させることが可能となる。また、第一音波を処理槽10の壁面/底面まで伝播させることで、処理槽10全体への超音波の拡散及び反射が繰り返され、均一な超超音波処理槽を実現することが可能となる。また、周波数共振径2R
0以下であった気泡も、所定の超音波照射時間を超えると膨張と収縮とを繰り返して圧壊し、キャビテーションを利用した処理に寄与することができる。
【0053】
なお、周波数共振径2R
0以下の気泡径を有するファインバブルの個数の割合は、ファインバブル発生直後に膨張する泡が少なからず存在することを考慮して、98%以下であることが好ましい。周波数共振径2R
0以下の気泡径を有するファインバブルの個数の割合は、より好ましくは、80%以上98%以下である。
【0054】
ここで、ファインバブルの平均気泡径や気泡密度は、液中パーティクルカウンターや気泡径分布計測装置等といった、公知の機器により測定することが可能である。
【0055】
また、本実施形態に係る超音波処理装置1において、より均一な超音波伝搬と高い洗浄性とを両立するためには、処理液3中の溶存気体量(より詳細には、溶存酸素量)を、ファインバブル発生器40により適切な値に制御することが好ましい。このような処理液3中の適切な溶存気体量は、処理液3における溶存飽和量の1%〜50%であることが好ましい。溶存気体量が溶存飽和量の1%未満である場合には、気泡をファインバブルとして発生させることが困難となる上に、超音波によるキャビテーション発生が起こらず、超音波による処理性向上能力(表面処理性向上能力)が発揮できないため好ましくない。一方、溶存気体量が溶存飽和量の50%を超える場合には、溶存した気体により超音波の伝搬が阻害され、処理槽10全体への均一な超音波伝搬が阻害されるため、好ましくない。処理液3中の溶存気体量(溶存酸素量)は、好ましくは、処理液3における溶存飽和量の5%〜40%以下である。
【0056】
ここで、処理液3の温度が変化すれば、処理液3の溶存飽和量は変化する。また、処理液3の温度変化に起因する、処理液3を構成する液体の分子運動量(例えば、水分子運動量)の違いが、伝搬性に影響する。具体的には、温度が低ければ、処理液3を構成する液体の分子運動量は少なく、超音波を伝搬しやすくなり、処理液3の溶存飽和量(溶存酸素量)も高くなる。従って、上記範囲内となるような所望の溶存気体量(溶存酸素量)を実現可能なように、処理液3の温度を適宜制御することが好ましい。処理液3の温度は、処理液3を用いて実施する具体的な処理内容にもよるが、例えば、20℃〜85℃程度であることが好ましい。
【0057】
具体的には、処理液3中の溶存気体量は、例えば、0.1ppm以上11.6ppm以下であることが好ましく、1.0ppm以上11.0ppm以下であることがより好ましい。そのため、本実施形態に係る循環経路30及びファインバブル発生器40は、処理槽10内に保持された処理液3中の溶存気体量が上記のような範囲の値となるように、処理液3の温度や処理液3中の溶存気体量を制御する。
【0058】
ここで、処理液3中の溶存気体量は、隔膜電極法及び光学式溶存酸素計といった、公知の機器によって測定することが可能である。
【0059】
なお、水溶液中の溶存気体は、主に、酸素、窒素、二酸化炭素、ヘリウム、アルゴンであり、水溶液の温度や成分に影響を受けるものの、酸素と窒素がその大半を占めている。また、本実施形態で着目するような各種の超音波処理に影響を与えうる溶存気体は、主に酸素である。
【0060】
以上のようなファインバブルの平均気泡径及び気泡密度、並びに、処理液3における溶存気体量は、以下で詳述するようなファインバブル発生器40の構造を適切に設定して、処理液3の減圧−解放サイクルを適切に制御することにより、実現される。
【0061】
以下では、
図2〜
図14を参照しながら、本実施形態に係るファインバブル発生器40と、かかるファインバブル発生器40が設けられる処理液引抜配管33について、詳細に説明する。
図2〜
図8は、本実施形態に係る超音波処理装置が備えるファインバブル発生器について説明するための説明図である。
図9A〜
図9Eは、ファインバブル発生器の内部における圧力変化の様子を示したグラフ図である。
図10A〜
図10Dは、ファインバブル発生器の内部における圧力分布の様子を示したグラフ図である。
図11〜
図13は、ファインバブル発生器について説明するためのグラフ図である。
図14は、ファインバブルの粒径と溶存酸素濃度との関係を示したグラフ図である。
【0062】
本実施形態に係るファインバブル発生器40は、
図2に模式的に示したように、処理液3の開口流路(処理液3の流れる経路)の大きさが処理液引抜配管33の内径よりも狭まっている狭隘部41を、2つ以上有しており、かつ、隣り合う狭隘部41の開口流路は、処理液3が直進しないように構成されている。以下で詳述するように、狭隘部41において処理液3が減圧されて減圧状態となり、隣り合う狭隘部41の間に対応する部分(循環ポンプ31に最も近い側に位置する狭隘部に続く、障害物などが存在しない区域も含み、以下、「非狭隘部43」ともいう。)において、減圧状態にある処理液3の圧力が解放される。そのため、狭隘部41は、処理液3が減圧される減圧区域と考えることができ、非狭隘部43は、減圧状態にある処理液3の圧力が解放される解放区域と考えることができる。また、狭隘部41と非狭隘部43とで、処理液3の減圧及び解放を行う減圧解放サイクル45が構成される。
【0063】
それぞれの狭隘部41では、処理液3の流路が狭まるように、処理液3にとっての障害物が処理液引抜配管33の内壁に設けられており、それぞれの非狭隘部43では、かかる障害物が存在せずに、処理液引抜配管33の開口断面すべてが処理液3の流路となるようになっている。
【0064】
上記のような狭隘部41の個数Nが1つしか存在しない場合には、処理液3を十分に減圧することができず、また、キャビテーションにより発生する気泡の径が大きくなってしまい、超音波を用いた処理により適合したファインバブルを安定して発生させることができない。なお、ファインバブル発生器40における狭隘部41の個数Nは、10個以下とすることが好ましい。狭隘部41の個数Nが、10を超える場合には、圧損が生じるとともに、ファインバブルの気泡径への影響も小さくなるため、好ましくない。ファインバブル発生器40における狭隘部41の個数Nは、より好ましくは2個以上8個以下であり、更に好ましくは2個以上6個以下であり、より一層好ましくは2個以上4個以下である。
【0065】
かかる狭隘部41が処理液引抜配管33に存在することで、負圧環境下に更に効率的な減圧区域を設けて処理液3中の溶存気体を気泡化させることができ、狭隘部41を繰り返し設けることで、生じた気泡を微細化させることができる。処理液引抜配管33内の負圧環境は、−0.05MPa〜−0.10MPaの範囲内であることが好ましい。
【0066】
本実施形態に係るファインバブル発生器40において、処理液引抜配管33の内径の開口断面積をA
0とし、処理槽10側から循環ポンプ31側に向かってi番目(iは、1以上の整数であり、狭隘部41の個数に対応している。)の狭隘部41における処理液引抜配管33の内径の開口断面積をA
iとしたときに、A
i/A
0として表されるi番目の狭隘部41の開口断面積比R
iが、互いに独立に、0.10≦(A
i/A
0)≦0.50で表される関係を満足する。
【0067】
ここで、開口断面積A
iは、i番目の狭隘部41において、開口流路となる部分の面積の最大値(より詳細には、i番目の狭隘部41を、管軸方向に対して垂直な面に投射したときにおける、開口流路となる部分の面積の最大値)である。
【0068】
図2では、それぞれの狭隘部41が、所望の開口断面積比(A
i/A
0)を実現するように、処理液引抜配管33の内表面から突出するように設けられた突出部材401により実現される場合について、図示している。
図2に示した例では、第1減圧解放サイクル45における狭隘部41の開口断面積A
1は、非狭隘部43の開口断面積A
0に対して、0.10≦(A
1/A
0)≦0.50で表される関係を満足する。同様に、第2減圧解放サイクル45における狭隘部41の開口断面積A
2は、解放区域43の開口断面積A
0に対して、0.10≦(A
2/A
0)≦0.50で表される関係を満足する。
【0069】
開口断面積比(A
i/A
0)が0.10未満となる場合には、狭隘部41における処理液3の流路が狭くなりすぎる結果、十分な流路が確保できないために処理液の循環に支障をきたし、ポンプ負荷により故障が発生する可能性がある。各狭隘部41における開口断面積比(A
i/A
0)は、互いに独立に、好ましくは0.15以上であり、より好ましくは0.20以上である。一方、開口断面積比(A
i/A
0)が0.50を超える場合には、狭隘部41における処理液3の流路が広くなりすぎる結果、十分に減圧を行うことができず、適切な気泡径のファインバブルを発生させることができない。各狭隘部41における開口断面積比(A
i/A
0)は、互いに独立に、好ましくは0.45以下であり、より好ましくは0.40以下である。
【0070】
また、本発明者らが実施した以下に示すシミュレーション結果から、障害物のエッジ(
図2に示した例では、突出部材401の処理槽10側に位置する破線で囲んだエッジ)を起点として、負圧が発生することが明らかとなった。そのため、突出部材401は、
図3に示したような、エッジ形状を有していてもよい。なお、
図3に示したようなエッジ形状を有する突出部材401の場合、開口流路の大きさが最も狭くなる部位を起点として、負圧が発生する。突出部材401の形状を、
図3に示したような形状とすることにより、より確実に負圧を発生させることが可能となる。
【0071】
狭隘部41は、
図2や
図3に示したような突出部材41ではなく、例えば
図4に示したように、所望の開口断面積比(A
i/A
0)を実現するように1又は複数の貫通孔が設けられた開口部材403によって実現されてもよい。かかる場合においても、処理液引抜配管33内における開口部材403の配置を考慮することで、処理液3が直進しないように狭隘部41の開口流路を構成することができる。ここで、「処理液3が直進しない」とは、管軸方向視で、狭隘部41における開口流路の50%以上が、隣接する減狭隘部41の非開口部分により塞がれている状態を意味する。なお、開口部材403における貫通孔の形状や配置方法については、特に限定されるものではなく、所望の開口断面積比(A
i/A
0)が実現できるように、適宜決定すればよい。
【0072】
また、処理液3をより確実に直進させないようにするために、処理液引抜配管33を管軸方向視したときに、隣り合う狭隘部41の開口流路の位置は、互いに重複しないことがより好ましい。
【0073】
また、狭隘部41として、
図5に示したように、
図2及び
図3で開示したような突出部材401と、
図4で開示したような開口部材403と、を組み合せてもよい。すなわち、狭隘部41の少なくとも1つは、突出部材401によって実現されていてもよく、開口部材403によって実現されていてもよい。
【0074】
更に、狭隘部41の少なくとも1つとして、
図6に模式的に示したように、所定の開口断面積比(A
i/A
0)の範囲内で突出部材の流路への突出度合いを変化させることが可能な、可動式の突出部材405を用いることも可能である。なお、
図6では、一方の狭隘部41を開口部材403により実現しているが、一方の狭隘部41を突出部材401により実現してもよい。
【0075】
本発明者らは、
図7に一例を示したような、連続して設けられた2つの減圧解放サイクル45を有するファインバブル発生器40のモデルを各種構築し、市販の汎用物理シミュレーションソフトウェアであるCOMSOL Multiphysicsを用いて、ファインバブル発生器40に関して、各種のシミュレーションを実施した。
【0076】
ここで、
図7に示したように、ファインバブル発生器40の各狭隘部は、突出部材401によって実現されているものとし、各狭隘部における開口断面積を、それぞれA
1、A
2とし、非狭隘部における開口断面積(処理液引抜配管33の開口断面積)を、A
0とした。なお、非狭隘部における開口断面積A
0を与える処理液引抜配管33の内径D
0は、50mmとした。また、第1の狭隘部と、第2の狭隘部とは、離隔距離L=100[mm]で隣り合っているものとした。ここで、離隔距離Lは、隣り合う狭隘部の中央部間距離とする。第1の狭隘部及び第1の非狭隘部における処理液3の圧力を、それぞれP
1、P
1’とし、第2の狭隘部及び第2の非狭隘部における処理液3の圧力を、それぞれP
2、P
2’とした。
【0077】
ここで、本シミュレーションにおいて構築したファインバブル発生器40のモデルは、
図8に示した5種類であり、No.4及びNo.5のモデルは、本発明の範囲外となるファインバブル発生器40のモデルとなっている。各モデルでは、それぞれの狭隘部における開口断面積比(A
1/A
0)、(A
2/A
0)を、それぞれ、
図8に示した値に設定した上で、ファインバブル発生器40の入側での圧力を0MPaで共通とし、処理液3の出側流速を0.15m/秒で共通とした。なお、以下のシミュレーションでは、ファインバブル発生器40の入側圧力を0Paとして負圧としていないが、負圧とした場合においても、以下に示した各位置での圧力差(ギャップ)の関係が維持された結果が得られることを、別途確認している。
【0078】
本シミュレーションによる、ファインバブル発生器40の出側でのファインバブル(「FB」と略記することがある。)の粒径(平均気泡径)を、
図8に合わせて示した。また、No.1、No.2、No.3、No.4、No.5のモデルにおける、ファインバブル発生器40の内部での圧力変化の様子を、
図9A〜
図9Eに示した。更に、No.1、No.2、No.3、No.5のモデルにおけるファインバブル発生器40の内部での圧力分布の様子を、
図10A〜
図10Dに示した。
【0079】
まず、
図8のNo.1に示したモデルについて、
図9Aに示した結果を参照する。ファインバブル発生器40の入側からファインバブル発生器40内に流れ込んだ処理液3は、第1の狭隘部において、P
1=−180Pa程度まで減圧された後、第1の非狭隘部において、P
1’=−80Pa〜−60Pa程度まで圧力が上昇し、第2の狭隘部において、P
2=−240Pa程度まで更に減圧された後、第2の非狭隘部において、P
2’=−140Pa〜−80Pa程度まで圧力が上昇していることがわかる。また、この際に得られたファインバブルの粒径は、
図8から、0.010mm(=10μm)であったことがわかる。また、
図10Aに示した圧力分布に着目すると、
図10Aにおける等圧線(同じ圧力値を示した位置を結んだ線分)の起点は、突出部材401の上流側に位置する端点となっており、先だって言及したように、障害物のエッジ(突出部材401の処理槽10側に位置するエッジ)を起点として、負圧が発生することがわかる。
【0080】
また、
図8のNo.2に示したモデルについて、
図9Bに示した結果を参照する。ファインバブル発生器40の入側からファインバブル発生器40内に流れ込んだ処理液3は、第1の狭隘部において、P
1=−140Pa程度まで減圧された後、第1の非狭隘部において圧力が解放され、第2の狭隘部において、P
2=−280Pa程度まで更に減圧された後、第2の非狭隘部において、圧力が解放されていることがわかる。また、この際に得られたファインバブルの粒径は、
図8から、0.050mm(=50μm)であったことがわかる。また、
図10Bに示した圧力分布に着目すると、本モデルについても、No.1のモデルと同様に、
図10Bにおける等圧線(同じ圧力値を示した位置を結んだ線分)の起点は、突出部材401の上流側に位置する端点となっており、先だって言及したように、障害物のエッジ(突出部材401の処理槽10側に位置するエッジ)を起点として、負圧が発生することがわかる。
【0081】
図8のNo.3に示したモデルについて、
図9Cに示した結果を参照する。ファインバブル発生器40の入側からファインバブル発生器40内に流れ込んだ処理液3は、第1の狭隘部において、P
1=−260Pa程度まで減圧された後、第1の非狭隘部において圧力が解放され、第2の狭隘部においても、P
2=−260Pa程度まで更に減圧された後、第2の非狭隘部において、圧力が解放されていることがわかる。また、この際に得られたファインバブルの粒径は、
図8から、0.005mm(=5μm)であったことがわかる。また、
図10Cに示した圧力分布に着目すると、本モデルについても、No.1のモデルと同様に、
図10Cにおける等圧線(同じ圧力値を示した位置を結んだ線分)の起点は、突出部材401の上流側に位置する端点となっており、先だって言及したように、障害物のエッジ(突出部材401の処理槽10側に位置するエッジ)を起点として、負圧が発生することがわかる。
【0082】
一方、処理液3が直進してしまうように突出部材401が設けられた、
図8のNo.4に示したモデルについて、
図9Dに示した結果を参照する。ファインバブル発生器40の入側からファインバブル発生器40内に流れ込んだ処理液3は、第1の狭隘部において、P
1=−180Pa程度まで減圧された後、第1の非狭隘部において、P
1’=−90Pa〜−70Pa程度まで圧力が上昇し、第2の狭隘部において、P
2=−140Pa程度まで減圧された後、第2の非狭隘部において、P
2’=−120Pa〜−70Pa程度まで圧力が上昇していることがわかる。また、この際に得られたファインバブルの粒径は、
図8から、0.200mm(=200μm)であったことがわかる。
【0083】
また、従来から存在するベンチュリー管と同様の構造を有する、
図8のNo.5に示したモデルについて、
図9Eに示した結果を参照する。この場合、ファインバブル発生器40の入側からファインバブル発生器40内に流れ込んだ処理液3は、第1の狭隘部において、P
1=−65Pa程度まで減圧された後、第1の非狭隘部において、P
1’=−35Pa程度まで圧力が解放されていることがわかる。また、この際に得られたファインバブルの粒径は、
図8から、5.00mmであったことがわかる。また、
図10Cに示した圧力分布に着目すると、本モデルについても、
図10Dにおける等圧線の起点は、突出部材401の上流側に位置する端点となっている。
【0084】
図8に示した5種類のモデルについて、各狭隘部及び非狭隘部における圧力値、及び、得られたファインバブルの粒径に関するシミュレーション結果を、
図11にあわせて示した。
【0085】
先だって言及したように、本実施形態に係るファインバブル発生器40では、ファインバブルの粒径(平均気泡径)が100μm以下のファインバブルを発生させることが好ましい。一方で、No.1及びNo.2、No.3のモデルでは、平均気泡径が100μm以下のファインバブルを発生させることができているが、No.4及びNo.5のモデルでは、平均気泡径が100μm以下のファインバブルを発生させることができないことがわかる。
【0086】
これらの結果を比較すると、平均気泡径が100μm以下となっているモデルでは、第2の狭隘部における圧力値が、第1の狭隘部における圧力値よりも十分に小さくなっている一方で、平均気泡径が100μmを超えたモデルでは、第2の狭隘部における圧力値が、第1の狭隘部における圧力値よりも大きくなっていることがわかる。また、2つ以上の減圧解放サイクルにおいて、第1の狭隘部の圧力値及び第2の狭隘部共に十分に圧力値が小さくなることが好ましいことがわかる。この結果は、ファインバブル発生器40の入側の開口断面積比を小さくすることで実現できることがわかる。
【0087】
また、
図8のNo.1に示したモデルについて、離隔距離Lを100mmとし、処理液3の流速を0.15m/秒としたままで、処理液引抜配管33の内径D
0を、25mm、50mm、100mm、200mmの4種類に変化させた場合のシミュレーション結果を、
図12に示した。ここで、処理液引抜配管33の内径D
0は、処理液引抜配管33の内径の開口断面積A
0を用いて、2×(A
0/π)
0.5とも表すことができる。
【0088】
図12において、離隔距離L/引抜配管内径D
0との関係を横軸にとり、ファインバブルの粒径(平均気泡径)に着目すると、1.0≦L/D
0≦5.0の範囲内で、ファインバブルの粒径が100μm以下になることが分かる。また、第2の狭隘部での圧力値P
2が小さくなるL/D
0=2.0において、ファインバブル粒径がより小さくなることが分かる。かかる結果から、L/D
0<1.0の範囲では、減圧区間での十分な圧力差が生まれず、ファインバブルを発生させることができない。1.0≦L/D
0という関係が満たされることで、ファインバブルの粒径100μm以下を実現することができる。L/D
0の値は、好ましくは1.5以上又は2.0以上である。1.5≦L/D
0又は2.0≦L/D
0となることで、ファインバブル粒径を、より一層小さくすることができる。一方、5.0<L/D
0の範囲おいても、粒径100μm以下のファインバブルを生成することはできるが、圧力差は小さくなる傾向であり、離隔距離Lが長くなるほど配管長も必要となるため、装置設置の制約の観点から好ましくない。L/D
0の値は、好ましくは4.5以下であり、より好ましくは4.0以下である。
【0089】
なお、上記のようなシミュレーションにおいて、処理液引抜配管33の内径D
0が2倍となった場合であっても、離隔距離Lを2倍とし、流速を4倍とすることで、上記説明と同様の結果が得られ、元の内径の場合と比較して、ファインバブルの平均気泡径及び気泡密度は変わらない。
【0090】
また、別途、狭隘部の個数を2つ以上とした場合に、上記と同様のシミュレーションを実施した結果、2つ以上の減圧解放サイクルにおいて、最も処理槽10側に位置する第1の狭隘部と、第1の狭隘部の下流側に設けられる(第1の狭隘部に隣り合うように設けられる)第2の狭隘部と、の圧力値が共に小さくなることが、ファインバブルのより一層の微細化に有効であることが明らかとなった。
【0091】
上記に加えて、ファインバブル発生器40の入側の開口断面積に対して、循環ポンプ31に近い側に位置する開口断面積の比を1.10倍以上にすることが好ましい。
【0092】
すなわち、狭隘部の個数をNとし、処理槽10の側から循環ポンプ31側に向かってN番目の狭隘部の開口面積比R
Nと表したときに、下記の式(151)及び式(153)を満足することが好ましい。
【0093】
R
i+1≧R
i ・・・式(151)
R
N/R
1≧1.10 ・・・式(153)
【0094】
上記式(151)及び式(153)が共に満たされることで、狭隘部での圧力値をより小さくすることが可能となり、脱気がより一層しやすくなる上に、ファインバブルの粒径をより小さくすることが可能となる。R
N/R
1の値は、より好ましくは1.25以上である。
【0095】
次に、処理液引抜配管33及びファインバブル発生器40における処理液3の流速Vについて検討する。ここで、安定した処理液3の循環を考慮すると、流速Vは、少なくとも0.05m/秒以上であることが好ましい。一方、流速Vを5m/秒を超えた値とした場合には、循環ポンプ31が大型化するとともに、流速Vが速くなりすぎる結果、ファインバブル発生器40の破損が生じる可能性がある。従って、本実施形態において、処理液引抜配管33及びファインバブル発生器40における処理液3の流速Vは、0.050m/秒以上5.000m/秒以下とすることが好ましい。
【0096】
ここで、
図8のNo.1に示したモデルについて、処理液3の流速を、0.075m/秒、0.150m/秒、0.300m/秒と変化させた場合のシミュレーション結果を、
図13に示した。
図13から、処理液3の流速Vが速くなるほど、第2の狭隘部における圧力値P
2が小さくなるとともに、発生するファインバブルの粒径(平均気泡径)も小さくなることがわかる。
【0097】
また、処理液3中のファインバブルの気泡密度は、処理液容量[m
3]/循環流量(=流速[m/min]×(配管内径D
0[m]/2)
2×π)×循環経路数×時間[min]を適切に制御することによって、所望の範囲に調整することができる。上記範囲を、0.03〜6.70の範囲内とすることで、より確実に適正なファインバブルの気泡密度を実現することができる。上記の範囲は、より好ましくは、0.05〜6.00の範囲内である。
【0098】
以上説明した内容は、本実施形態において、処理液引抜配管33及びファインバブル発生器40における各種条件に着目したものであったが、以下では、処理液3における条件について検討する。
【0099】
処理液3(例えば、水)における溶存ガス濃度(%)と、かかる処理液3中で存在するファインバブルの粒径(平均気泡径)と、の関係を、
図14に示した。
図14から明らかなように、処理液3の溶存ガス濃度(換言すれば、処理液3の脱気状態)に応じてファインバブルの粒径が変化し、処理液3の溶存ガス濃度を制御することで、ファインバブルの粒径を所望の状態に制御可能であることがわかる。
図14から明らかなように、ファインバブルの粒径を100μm以下とするためには、処理液3中の溶存ガス濃度を50%以下とすることが好ましいことがわかる。
【0100】
ここで、処理液3中の溶存ガス濃度(すなわち、溶存気体量)は、処理液3の流速Vを変化させたり、開口断面積比(A
i/A
0)を調整したりすることで、所望の範囲内の値に調整することができる。例えば、循環ポンプ31の出力を上げて処理液3の流速Vを増加させることで、発生する負圧を高め、溶存ガス濃度を低下させることができる。また、開口断面積比(A
i/A
0)を小さくすることで、発生する負圧を高め、溶存ガス濃度を低下させることができる。この際、本実施形態に係るファインバブル発生機構40の下流側において、上記のような公知の機器により溶存気体量を測定しながら、上記のような各制御条件を、溶存気体量が所望の範囲内の値となるまで調整すればよい。なお、処理液3の流速Vと、開口断面積比(A
i/A
0)のどちらを優先的に調整するかは、特に限定されるものではなく、調整のしやすい制御条件をはじめに調整すればよい。処理液3中の溶存気体量を上記のような方法で調整することで、発生するファインバブルの平均気泡径や濃度(密度)を所望の範囲内の値とすることができる。
【0101】
以上、本実施形態に係る循環経路30及びファインバブル発生機構40について、
図2〜
図14を参照しながら、詳細に説明した。
【0102】
<曲面部材50について>
再び
図1A及び
図1Bに戻って、本実施形態に係る曲面部材50について、簡単に説明する。
曲面部材50は、超音波発生器20の振動面に向かって凸な曲面を有する部材であり、曲面部材50に到達した超音波を多方向へと反射させる部材である。かかる曲面部材50を処理槽10内の壁面及び底面の少なくとも何れか一方に設けることで、超音波発生器20の振動面から発生した超音波を、処理槽10内の全体へと伝播させることが可能となる。なお、曲面部材50は、必要に応じて設ければよく、本実施形態に係る超音波処理装置1において、曲面部材50は存在しなくともよい。
【0103】
より詳細には、本実施形態に係る曲面部材50には、球面又は非球面の表面形状を有する凸湾曲部が少なくとも存在し、かかる凸湾曲部が、凸湾曲部以外の部分よりも、超音波印加機構20の振動面側に突出した状態となっている凸曲面を有している。また、本実施形態に係る曲面部材50は、凸湾曲部ではない部分である非凸湾曲部を有していてもよいし、凸曲面のみから構成されていてもよい。更に、本実施形態に係る曲面部材50は、中実な柱状体であってもよいし、中空な筒状体であってもよい。また、曲面部材50が中空である場合、処理槽10に装着された状態の曲面部材50の空隙には、空気等の各種気体が存在していてもよいし、処理槽10に保持されている処理液3等の各種液体が存在していてもよい。
【0104】
曲面部材50が上記のような凸曲面を有することで、多方向へ超音波が反射され、偏りのない均一な超音波伝播が実現されて、超音波間の干渉を抑制することができる。ここで、曲面部材50が凹部を含む場合には、超音波が凹部で反射することで集束してしまい、処理槽10全体に効果的に超音波を反射させることができない。また、凸部を含む場合であっても、凸部が曲面ではなく平面である場合には、超音波を一方向にしか反射させることができず、処理槽10全体に効果的に超音波を反射させることができない。
【0105】
上記のような形状を有する曲面部材50は、超音波を反射させる素材を用いて形成されることが好ましい。かかる素材としては、例えば、音響インピーダンス(固有音響インピーダンス)が1×10
7[kg・m
−2・sec
−1]以上2×10
8[kg・m
−2・sec
−1]以下である素材を挙げることができる。音響インピーダンスが1×10
7[kg・m
−2・sec
−1]以上2×10
8[kg・m
−2・sec
−1]以下である素材を用いることで、効率良く超音波を反射させることが可能となる。
【0106】
音響インピーダンスが1×10
7[kg・m
−2・sec
−1]以上2×10
8[kg・m
−2・sec
−1]以下である素材としては、例えば、各種の金属又は金属酸化物や、非酸化物セラミックスを含む各種のセラミックス等を挙げることができる。このような素材の具体例としては、例えば、鋼(固有音響インピーダンス[kg・m
−2・sec
−1]:4.70×10
7、以下、カッコ内の数値は同様に固有音響インピーダンスの値を表す。)、鉄(3.97×10
7)、ステンレス鋼(SUS、3.97×10
7)、チタン(2.73×10
7)、亜鉛(3.00×10
7)、ニッケル(5.35×10
7)、アルミニウム(1.38×10
7)、タングステン(1.03×10
8)、ガラス(1.32×10
7)、石英ガラス(1.27×10
7)、グラスライニング(1.67×10
7)、アルミナ(酸化アルミニウム、3.84×10
7)、ジルコニア(酸化ジルコニウム、3.91×10
7)、窒化ケイ素(SiN、3.15×10
7)、炭化ケイ素(SiC、3.92×10
7)、炭化タングステン(WC、9.18×10
7)等がある。本実施形態に係る曲面部材50においては、処理槽10に保持される処理液3の液性や、曲面部材50に求める強度等に応じて、曲面部材50の形成に用いる素材を適宜選択すればよいが、上記のような音響インピーダンスを有する各種金属又は金属酸化物を用いることが好ましい。
【0107】
以上、本実施形態に係る曲面部材50について、簡単に説明した。
【0108】
以上、
図1A〜
図14を参照しながら、本実施形態に係る超音波処理装置1の全体的な構成について、詳細に説明した。
【0109】
なお、上記説明では、処理部として設けられた処理槽10の内部に、処理液3に浸漬された被処理物を設けた上で、処理槽10内に保持された処理液3を介して、被処理物に対して間接的に超音波を印加する場合を例に挙げたが、超音波発生器20は、処理部内において処理液で満たされた被処理物に対して、直接超音波を印加してもよい。
【0110】
例えば、熱交換器の内部に設けられた配管や、液体を用いる複数の設備間を接続している接続配管等のように、内部が液体で満たされた状態にある中空部材そのものを被処理物としてもよい。かかる場合、中空部材の内部に保持されている液体に対してファインバブルを発生させた上で、中空部材そのものに対して超音波が印加される。
【実施例】
【0111】
次に、実施例及び比較例を示しながら、本発明に係る超音波処理装置及び超音波処理方法について、具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は、あくまでも本発明に係る超音波処理装置及び超音波処理方法の一例であって、本発明に係る超音波処理装置及び超音波処理方法が、以下に示す例に限定されるものではない。
【0112】
(実験例1)
図15は、各種のファインバブル発生器と溶存気体量との関係の検証に用いた装置図である。本実験例では、処理液3として、浄水を使用した。処理槽10は、外壁がSUS製であり、幅0.5m×長さ0.5m×0.4mの大きさを有する容量0.1m
3のものを用いた。また、かかる処理槽10に、循環ポンプ31、処理液引抜配管33、及び、処理液吐出配管35を有する循環経路30を設けた。循環ポンプ31として、それぞれ一般的な汎用ポンプである、IWAKI製MD−40RZ、MD−70RZ、MD−100Rを用いた。処理液引抜配管33の配管内径D
0は、20mmとした。これにより、処理液引抜配管33内の負圧環境は、−0.05MPa〜−0.10MPaの範囲内となっていた。
【0113】
また、
図16に示したような構造を有するファインバブル発生器40を、処理液引抜配管33に着脱可能な治具としてそれぞれ準備し、これら治具を、処理液引抜配管33に対して直列に接続できるようにした。
図16の構造a,b,eでは、管軸方向で
図2のように、構造dでは、管軸方向で
図3のように、狭隘部の開放流路が重複しない。また、構造c、gでは、管軸方向で2つの断面で形状が異なるが、同じく狭隘部の開放流路が重複しない。構造fは、
図4のように一部狭隘部の開放流路が重複する構造とした。なお、複数の狭隘部が連続するファインバブル発生器40では、離隔距離Lが10mm、20mm、50mm、100mm、120mmとなるようにした。更に、処理液引抜配管33に対して、流量計を取り付け、処理液引抜配管33の流量を測定した。処理液3の流速(m/s)は、得られた流量の測定値を配管内径断面積で除することで算出した。
【0114】
更に、各ファインバブル発生器40における減圧解放サイクル間の圧力変化については、市販の流体解析ソフトウェアであるCOMSOL Multiphysicsを用いて、処理液3が流速0.15m/秒で流れたときの減圧区域と解放区域との圧力差を算出した。
【0115】
ファインバブルの平均気泡径は、ベックマン・コールター製の精密粒度分布測定装置Multisizer4、及び、Malvern製のナノ粒子解析装置NanoSight LM10を用いて、処理槽10内の溶液を測定することで特定した。また、溶存気体量の測定は、HORIBA製の溶存酸素計LAQUA OM−51を用い、溶存気体量に比例する値として溶存酸素量(DO)を1分毎に測定し、溶存飽和量に対する溶存気体量(%)を見積もった。より詳細には、溶存酸素量DOを1分毎に測定し、前回測定時の溶存酸素量との差ΔDOを算出していく。連続する3分間において、ΔDOの値がそれぞれ0.1未満となった時点で、溶存酸素量が下限に達したと判断し、その時点での溶存酸素量及び平均気泡径を比較した。
【0116】
【表1】
【0117】
得られた結果を、上記表1にあわせて示した。なお、上記表1の「狭隘部開口断面積比」の欄において、狭隘部開口断面積比R
Nの値を欄内の最も左側に位置するように示しており、狭隘部開口断面積比R
0の値を欄内の最も右側に位置するように示しており、互いに同一の値の狭隘部開口断面積比を有する多段階の狭隘部が存在する場合には、例えば「0.50×4」のように、記載を簡略化している。また、多段階の狭隘部がある条件においては、最大の開口断面積比を与える組み合わせから得られる値を、R
N/R
1とした。
【0118】
まず、比較例を参照すると、減圧解放サイクルの存在しない、単に流路が細くなった比較例1では、溶存気体量を低下させることは可能ではあるが、平均気泡径がファインバブル化せずに、大きいままであった。減圧解放サイクルを設け、流路が直進する比較例2〜3では、比較例1とほぼ変わらず、平均気泡径が大きかった。また、離隔距離比L/D
0が1.0未満である比較例4と、5.0より大きい比較例5は、平均気泡径がファインバブルとみなすことができる100μm以下にならなかった。また、狭隘部の開口断面積比が0.50より大きい比較例6〜7では、圧力が低下せず、気泡もほとんど発生しなかった。狭隘部の開口断面積比が0.10未満の比較例8〜9では、循環できる液がほとんど存在しないために、泡が発生しないか、又は、循環ポンプが空回りして、送液自体ができない状態であった。
【0119】
一方、減圧解放サイクルが2個以上設置され、かつ、開口流路が直進しないように設けられた狭隘部の離隔距離比が所定の範囲に存在する実施例1〜7と、減圧解放サイクルの数を増した実施例8〜9と、狭隘部の形状を変化させた実施例10〜14では、平均気泡径は、ファインバブルとみなすことができる100μm以下になった。同時に、溶存気体量も低下することが観測された。特に、減圧解放サイクルのポンプに近い側の狭隘部を狭くしてR
1/R
N≧1.10の関係を満足する実施例15〜18では、減圧開放間の圧力差が大きくなり、溶存気体の低下と、ファインバブルも数μm以下にまで微細化して気泡密度の増大が観測された。
【0120】
(実験例2)
図17A及び
図17Bは、本発明に係る超音波処理装置を用いた、鋼板の水洗(リンス)処理の実施状態を模式的に示した説明図である。処理液3であるリンス溶液としては、浄水を用いた。処理槽10は、外壁がSUS製であり、幅2.0×長さ7m×0.5mの大きさの容量7m
3のものを用い、被処理物である鋼板は、ロールにより保持されるようにした。
【0121】
また、かかる処理槽10に、
図17Bに示したように、循環ポンプ31、処理液引抜配管33、及び、処理液吐出配管35を有する循環経路30を2系統設けた。循環ポンプ31として、一般的な汎用ポンプであるセイコー化工機製MEP−0505−2Pを2台用いた。処理液引抜配管33の配管内径D
0は、50mmとした。これにより、処理液引抜配管33内の負圧環境は、−0.05MPa〜−0.10MPaの範囲内となっていた。
【0122】
また、
図16に示した表記に従い、以下の表2に示したような構造を有するファインバブル発生器40を、処理液引抜配管33に着脱可能な治具としてそれぞれ準備し、これら治具を、処理液引抜配管33に対して直列に接続できるようにした。なお、複数の狭隘部が連続するファインバブル発生器40では、離隔距離Lが20mm、40mm、100mm、200mm、300mmとなるようにした。更に、処理液引抜配管33に対して流量計を取り付け、処理液引抜配管33の流量を測定し、処理液3の流速が先だって言及した好ましい範囲内となるように制御した。
【0123】
また、超音波発生器20の超音波発振器は、出力が1200Wであり、超音波の周波数は、35kHzとした。処理槽10の長辺片側壁面に対し、
図17Bに示したようにSUS製投込み振動子を5台配置して、処理液3に対して超音波を印加した。
【0124】
ファインバブルの平均気泡径は、ベックマン・コールター製の精密粒度分布測定装置Multisizer4、及び、Malvern製のナノ粒子解析装置NanoSight LM10を用いて、処理槽10内の溶液を測定することで特定した。また、溶存気体量の測定は、HORIBA製の溶存酸素計LAQUA OM−51を用い、溶存気体量に比例する値として溶存酸素量(DO)を1分毎に測定し、溶存飽和量に対する溶存気体量(%)を見積もった。より詳細には、溶存酸素量DOを1分毎に測定し、前回測定時の溶存酸素量との差ΔDOを算出していく。連続する3分間において、ΔDOの値がそれぞれ0.1未満となった時点で、溶存酸素量が下限に達したと判断し、その時点での溶存酸素量及び平均気泡径を比較した。
【0125】
本実験例では、
図18に模式的に示したように、超音波レベルモニター(カイジョー製19001D)を用いて、0.5m間隔で、計26か所で超音波強度(mV)の測定を行い、相対超音波強度(比較例1の測定結果、すなわち、減圧解放サイクルを行わなかった場合における測定超音波強度を1としたときの相対強度)と、標準偏差(σ)と、を算出して、処理槽10全体での超音波の伝搬性を比較した。
【0126】
本実験例では、酸化スケール皮膜が形成された鋼板を酸洗したものを、被処理物として準備し、上記のような処理槽10を利用して、表面に酸化物微粒子が付着した鋼板の水洗(リンス)を行った。
【0127】
本実験例では、鋼板表面の酸化物微粒子除去率を測定し、測定した酸化物微粒子除去率を洗浄性能として評価した。より詳細には、水洗前後の鋼板表面に付着している酸化物微粒子総量に対する各条件での除去できた酸化物微粒子除去量の割合を以下のようにして算出し、酸化物微粒子除去率とした。
【0128】
すなわち、酸化スケール皮膜が形成された鋼板試料(大きさ5cm×10cm)を、ロールで保持された鋼板に貼り付けた上で、洗浄性能を評価した。鋼板試料を酸洗後、予備水洗、乾燥した。その上で、事前に質量を測定しておいた汎用セロハンテープ(幅15mm×長さ5cm)を2つ用いて、鋼板表面に付着している酸化物微粒子を、2箇所から剥離し、水洗前のテープ質量の測定値とした。また、水洗前に剥離した箇所とは異なる箇所で、水洗後においても同様にテープ剥離を行い、剥離したテープ質量を測定した。
【0129】
水洗前のテープ測定値から、事前に測定しておいたテープ質量を差し引いた値が、酸化物微粒子の総量に対応し、水洗後のテープ測定値から、事前に測定しておいたテープ質量を差し引いた値が、酸化物微粒子の残存量に対応する。そのため、酸化物微粒子の総量から、酸化物微粒子の残存量を差し引いた値が、酸化物微粒子の除去量となる。酸化物微粒子の総量に対する、各条件で除去できた酸化物微粒子の除去量の割合を、酸化物微粒子除去率とした。なお、鋼板試料はロール間に貼り付けて、取り外しを行い、通板100mpmでの除去率として算出した。
なお、下記の表2における洗浄性能の評価基準は、以下の通りである。
【0130】
酸化物微粒子除去率
AA:100%以下〜95%以上
A: 95%未満〜90%以上
AB: 90%未満〜85%以上
B: 85%未満〜80%以上
C: 80%未満〜60%以上
D: 60%未満〜40%以上
E: 40%未満
【0131】
すなわち、評価「AA」及び「A」は、洗浄性能が非常に良好であったことを意味し、評価「AB」及び「B」は、洗浄性能が良好であったことを意味し、評価「C」は、洗浄性能にやや難があったことを意味し、評価「D」及び「E」は、洗浄性能が不良であったことを意味する。
【0132】
【表2】
【0133】
得られた結果を、上記表2にあわせて示した。
なお、「狭隘部開口断面積比」の欄の表記方法、及び、「開口断面積比」の欄の表記方法については、表1と同様である。
【0134】
まず、比較例を参照すると、単純に循環させただけの条件(比較例1)では、溶存気体量を低下させることはできず、気泡が発生することもなかった。そのため、超音波発振付近の強度は高いものの、その他の箇所には超音波は伝搬せず、ばらつき指標である標準偏差も超音波強度33mVに対して20を超えており、超音波の伝搬が不均一であることが分かる。また、減圧解放サイクルの存在しない、単に流路が細くなっただけの比較例2〜3では、溶存気体量を低下させることはできるものの、気泡径がファインバブル化しなかった。このときの相対超音波強度は、比較例1とほぼ変わらず、水洗性能は不良であった。減圧解放サイクルを設け、流路が直進する状態となっている比較例4〜5では、相対超音波強度は1.3倍と上昇したものの、超音波強度の標準偏差が大きかった。これら比較例では、水洗性能も不足しており、洗浄ムラが発生していた。また、狭隘部間隔L/D
0が1.0未満であるか、又は、5.0より大きい比較例6〜8においても、同じくファインバブル化せず、超音波強度の標準偏差が大きくなって水洗性能も不足しており、洗浄ムラが発生していた。狭隘部の開口断面積比が0.10未満の比較例9では、循環できる液がほとんど存在しないために、泡が発生しないか、又は、循環ポンプが空回りして、送液自体ができない状態であった。開口断面積比が0.50より大きい比較例10では、気泡がほとんど発生しなかった。このときの相対超音波強度は比較例1と変わらず、水洗性能も不良であった。
【0135】
一方、減圧解放サイクルが2個以上設置され、開口流路が直進しないように設けられた狭隘部が存在し、狭隘部間隔が所定の範囲に存在する実施例1〜6と、減圧解放サイクルの数を増やした実施例7〜9と、狭隘部の形状を変化させた実施例10〜14では、平均気泡径は、ファインバブルとみなすことができる100μm以下となった。また、溶存気体量も低下することが観測され、超音波強度は3倍以上となり、標準偏差も小さくなって、洗浄性能は良好であった。更に、減圧解放サイクルのポンプに近い側の狭隘部を狭くしてR
1/R
N≧1.10の関係を満足する実施例15〜18では、減圧開放間の圧力差が大きくなり、溶存気体の低下と、ファインバブルも数μm以下にまで微細化して気泡密度の増大が観測された。
【0136】
(実験例3)
図19A及び
図19Bは、本発明に係る超音波処理装置を用いた、鋼管の脱脂処理の実施状態を模式的に示した説明図である。処理槽10は、外壁が鋼鉄製であり、表面にPTFEライニングされており、幅1.0×長さ15.0×0.6mの大きさを有する容量9m
3のものを用いた。かかる処理槽10を利用して、表面に油分が付着した鋼管を所定時間浸漬した。処理液3である脱脂溶液としては、アルカリ系の脱脂液を用いた。被洗浄物である鋼管と処理槽10との間には、1m間隔で、曲面部材として機能する緩衝材(より詳細には、SUS304製の中空の緩衝パイプ)を設けた。
【0137】
また、かかる処理槽10に、
図19Bにその一部を示したように、循環ポンプ31、処理液引抜配管33、及び、処理液吐出配管35を有する循環経路30を、処理槽10の短辺側に対して、2系統設置した。循環ポンプ31として、一般的な汎用ポンプであるセイコー化工機製MEP−0505−2Pを2台用いた。処理液引抜配管33の配管内径D
0は、50mmとした。これにより、処理液引抜配管33内の負圧環境は、−0.05MPa〜−0.10MPaの範囲内となっていた。
【0138】
複数の可動式の突出部材が、配管内で向き合って突出するように配置され、離隔距離Lは40mm、100mm、200mm、300mmとなるように処理液引抜配管33に直列に設置して、ファインバブル発生器40とした。すなわち、かかるファインバブル発生器40は、
図16に示した表記aの構造を有したものである。更に、処理液引抜配管33に対して流量計を取り付け、処理液引抜配管33の流量を測定し、処理液3の流速が先だって言及した好ましい範囲内となるように制御した。
【0139】
また、超音波発生器20の超音波発振器として、出力が1200Wであり、周波数の掃引機能を有するものを利用し、超音波振動子は、SUS製の投込み振動子を10台、処理槽10の長手方向の壁面に設置した。また、超音波の周波数は、25〜192kHzとした。
【0140】
ファインバブルの平均気泡径は、ベックマン・コールター製の精密粒度分布測定装置Multisizer4、及び、Malvern製のナノ粒子解析装置NanoSight LM10を用いて、処理槽10内の溶液を測定することで特定した。また、溶存気体量の測定は、HORIBA製の溶存酸素計LAQUA OM−51を用い、溶存気体量に比例する値として溶存酸素量(DO)を1分毎に測定し、溶存飽和量に対する溶存気体量(%)を見積もった。より詳細には、溶存酸素量DOを1分毎に測定し、前回測定時の溶存酸素量との差ΔDOを算出していく。連続する3分間において、ΔDOの値がそれぞれ0.1未満となった時点で、溶存酸素量が下限に達したと判断し、その時点での溶存気体量及び平均気泡径を、比較した。
【0141】
なお、本実験例では、処理槽10の内部に、
図19A及び
図19Bに示したように、一定の間隔で鋼管の傷防止のための緩衝材を設置し、処理槽10の中央部に、内径40mm×長さ10mの鋼管を20本浸漬させて、洗浄評価を行なった。
【0142】
本実験例では、鋼板表面の油分除去率を測定し、測定した油分除去率を脱脂性能として評価した。より詳細には、洗浄前後の質量変化量から油分除去量を算出し、鋼板表面に付着した油分総量に対する各洗浄条件で除去できた油分除去量の割合を、油分除去率とした。なお、下記の表3における脱脂性能の評価基準は、以下の通りである。
【0143】
油分除去率
AA:100%以下〜95%以上
A: 95%未満〜90%以上
AB: 90%未満〜85%以上
B: 85%未満〜80%以上
C: 80%未満〜60%以上
D: 60%未満〜40%以上
E: 40%未満
【0144】
すなわち、評価「AA」及び「A」は、脱脂性能が非常に良好であったことを意味し、評価「AB」及び「B」は、脱脂性能が良好であったことを意味し、評価「C」は、脱脂性能にやや難があったことを意味し、評価「D」及び「E」は、脱脂性能が不良であったことを意味する。
【0145】
【表3】
【0146】
得られた結果を、上記表3にあわせて示した。
なお、「狭隘部開口断面積比」の欄の表記方法、及び、「開口断面積比」の欄の表記方法については、表1と同様である。
【0147】
まず、比較例を参照すると、本発明に係る減圧解放サイクルを2個以上有していない比較例1〜3、狭隘部間隔L/D
0が1.0未満の比較例4、及び、狭隘部間隔L/D
0が5.0より大きい比較例5では、ファインバブルが発生せず、共振径以下の気泡は少なかった。開口断面積比が0.5より大きい比較例6、及び、開口断面積比が0.1未満となる比較例7では、ファインバブルがほとんど発生せず、超音波周波数に対する共振径以下の気泡は少なかった。また、溶存気体量も減っておらず、その結果、脱脂性能が不良となるか、又は、洗浄不足となる領域が発生した。
【0148】
一方、減圧解放サイクルが2個以上設置され、かつ、狭隘部開口断面積比が0.5以内である実施例1〜15は、洗浄性能が良好であり、特に、狭隘部間隔が1.0≦L/D≦5.0を満たす実施例1〜5は、洗浄性能が更に良好であった。また、超音波の周波数の掃引を行った実施例12〜15においては、より効果的に洗浄が可能であった。
【0149】
(実験例4)
外壁がSS(一般構造用圧延鋼材)製であり、内部に、内径45mm×長さ3.0m×厚み9mmの配管が連続的に接続されている縦型熱交換器に着目し、かかる縦型熱交換器の配管を、被処理物とした。本実験例では、配管の内部に水を満たした上で、配管内面に付着した堆積物を、所定時間循環させた。すなわち、本実験例では、被処理物である配管そのものが、処理部として機能する。
【0150】
図20は、本発明に係る超音波処理装置を用いた、熱交換器が備える配管の洗浄処理の実施状態を模式的に示した説明図である。
図20に模式的に示したように、熱交換器の内部に設けられた配管11の一方の端部に対して処理液引抜配管33を接続し、かかる処理液引抜配管33を、循環ポンプ31に接続した。用いた循環ポンプ31は、一般的な汎用ポンプであるセイコー化工機製MEP−0505−2Pである。これにより、処理液引抜配管33内の負圧環境は、−0.05MPa〜−0.10MPaの範囲内となっていた。また、処理液引抜配管33に対し直列に、2つの可動式の突出部材が、配管内で向き合って突出するように配置し、ファインバブル発生器40とした。すなわち、かかるファインバブル発生器40は、
図16に示した表記aの構造を有したものである。また、循環ポンプ31の正圧側に処理液吐出配管35を設け、配管11のもう一方の端部に接続した。なお、ファインバブル発生器40において、離隔距離Lは、40mm、100mm、200mm、300mmとした。
【0151】
また、
図20に示したように、処理液吐出配管35に対して、エア抜きバルブ60及び水供給バルブ70を設け、配管11、処理液引抜配管33、ファインバブル発生器40、及び、処理液吐出配管35の内部に、処理液3として水(より詳細には、清給水)を満たすようにした。更に、処理液引抜配管33に対して、排水用バルブ80を設け、
図20に示したような循環経路30を流れる処理液3の一部を採取できるようにした。なお、処理液引抜配管33に対して流量計を取り付け、処理液引抜配管33の流量を測定し、処理液3の流速が先だって言及した好ましい範囲内となるように制御した。
【0152】
また、超音波発生器20の超音波発振器は、周波数30kHz、出力600Wであるものであり、クランプ型のSUS製超音波振動子を、
図20に模式的に示したように、配管11と処理液引抜配管33との接続部分、及び、配管11と処理液吐出配管35との接続部分に、それぞれ1台取りつけた。
【0153】
ファインバブルの平均気泡径は、ベックマン・コールター製の精密粒度分布測定装置Multisizer4、及び、Malvern製のナノ粒子解析装置NanoSight LM10を用いて、排水用バルブ80より採取した溶液を測定することで特定した。また、溶存気体量の測定は、HORIBA製の溶存酸素計LAQUA OM−51を用い、溶存気体量に比例する値として溶存酸素量(DO)を1分毎に測定し、溶存飽和量に対する溶存気体量(%)を見積もった。より詳細には、溶存酸素量DOを1分毎に測定し、前回測定時の溶存酸素量との差ΔDOを算出していく。連続する3分間において、ΔDOの値がそれぞれ0.1未満となった時点で、溶存酸素量が下限に達したと判断し、その時点での溶存気体量及び平均気泡径を比較した。
【0154】
本実験例では、配管内の清浄度を測定し、洗浄性能として評価した。より詳細には、洗浄1分後の処理液1Lを排水用バルブ80から回収して、オプテックス社製の濁度計TC−3000により濁度を測定し、処理液3の清浄度とした。なお、下記の表4における洗浄性能の評価基準は、以下の通りである。
【0155】
清浄度(濁度)
A:3000以下〜1500以上
B:1500未満〜800以上
C:800未満〜500以上
D:500未満〜300以上
E:300未満〜100以上
F:100未満〜1以上
【0156】
すなわち、評価「A」及び「B」は、堆積物を回収出来たことで濁度は高くなり、洗浄性能として非常に良好であったことを意味し、評価「C」は、洗浄性能が良好であったことを意味し、評価「D」は、洗浄性能にやや難があったことを意味し、評価「E」及び「F」は、洗浄性能が不良であったことを意味する。
【0157】
【表4】
【0158】
得られた結果を、上記表4にあわせて示した。
なお、「狭隘部開口断面積比」の欄の表記方法、及び、「開口断面積比」の欄の表記方法については、表1と同様である。
【0159】
まず、比較例を見ると、本発明に係る減圧解放サイクルを2個以上有しない比較例1〜2、狭隘部間隔L/D
0が1未満の比較例3、及び、狭隘部間隔L/D
0が5を超える比較例4では、ファインバブルがほとんど発生せず、その結果洗浄性能が不良であった。開口断面積比が0.5より大きい比較例5、及び、開口断面積比が0.1未満である比較例6では、ファインバブルがほとんど発生しなかった。また、溶存気体量も減っておらず、その結果、洗浄性能が不良であった。
【0160】
一方、減圧解放サイクルが2箇所以上設置され、かつ、開口断面積比が0.5以内である実施例1〜6は、洗浄性能が良好であり、特に、狭隘部間隔が1.0≦L/D
0≦5.0を満たす実施例1〜4は、洗浄性能が更に良好であった。
【0161】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【解決手段】本発明に係る超音波処理装置は、処理液と被処理物とを収納可能な処理部と、処理部に設けられ、被処理物に対して超音波を印加する超音波発生器と、処理部の中の処理液を循環させる循環経路とを備え、前記循環経路には、処理液引抜配管に対して直列に設けられ、引き抜かれた処理液を脱気するとともに、処理液中にファインバブルを発生させるファインバブル発生器が設けられる。ファインバブル発生器は、開口流路の大きさが処理液引抜配管の内径よりも狭まっている狭隘部を2つ以上有し、隣り合う狭隘部の開口流路は、処理液が直進しないように構成されており、各減圧区域における開口断面積は、所定の関係を満足する。