【実施例】
【0036】
[II.実施例]
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
実施例および比較例において、パラメータの測定される対象となるダンボール材(以下「測定ダンボール材」と称する)は、両面ダンボールのシートである。
この測定ダンボール材は、下記のサイズである。
・ サ イ ズ :縦寸法1300[mm],
横寸法1150[mm],
高さ寸法1800[mm]
測定ダンボール材は、作業者が手作業で、帯状に延在するダンボールウェブを上記のサイズとなるように蛇腹折りに折り畳んで作成された。
【0037】
実施例1〜11および比較例12〜19では、以下に示す三種のフルートのうち何れか一つのフルートを採用した。
・ A フルート(シングルフルート),総厚:5.0[mm]
・ E フルート(シングルフルート),総厚:1.5[mm]
・ AB フルート(ダブルルフルート),総厚:8.2[mm]
【0038】
実施例1〜11および比較例12〜19のそれぞれで表ライナおよび裏ライナには、下記の品番「No.1」〜「No.15」のうち何れか一つのライナ原紙を用いた。品番「No.1」〜「No.15」のライナ原紙のそれぞれは、下記の坪量および密度である。
・ No.1 :坪量120[g/m
2],密度0.8[g/cm
3]
・No.2,No.6〜11:坪量170[g/m
2],密度0.8[g/cm
3]
・ No.3 :坪量210[g/m
2],密度0.8[g/cm
3]
・ No.4 :坪量280[g/m
2],密度0.8[g/cm
3]
・ No.5 :坪量170[g/m
2],密度0.7[g/cm
3]
・ No.12,14 :坪量170[g/m
2],密度0.5[g/cm
3]
・ No.13,15 :坪量170[g/m
2],密度0.9[g/cm
3]
【0039】
品番「No.1」のライナ原紙は、フリーネスが400[ml]の針葉樹クラフトパルプおよびダンボール古紙パルプを原料とし、多層抄き抄紙機を使用して抄紙を行って三層で構成されるダンボール用ライナ原紙として、下記の抄紙条件で作成された。フリーネスは、JIS P8121 2012に準拠して下記の測定装置で測定した。
・測定装置:製品名「カナディアンスタンダードフリーネス」,熊谷理機工業株式会
社,製品番号「No.2580‐A」
【0040】
・品番「No.1」の抄紙条件
>サイズ剤:薬剤名「サイズパイン N−830(荒川化学工業株式会社製)」を
紙層の全パルプの合計100[質量部]に対して0.3[質量部]で
含有する
>紙力増強剤:薬剤名「PT−1001(荒川化学工業株式会社製)」を紙層の全
パルプの合計100[質量部]に対して0.5[質量部]で含有す
る
>硫酸バンド:紙層の全パルプの合計100[質量部]に対して5[質量部]で含
有する
>針葉樹クラフトパルプ:表層のパルプ繊維のうち10[質量%]の割合で含有し
た。また、針葉樹クラフトパルプは紙層の全パルプのう
ち6[質量%]であった。
>微細繊維量:ライナをなすパルプ繊維のうち36.7[%]であった。
上記の抄紙条件でライナ原紙の三層のうち表層を作成した。ライナ原紙の三層のうち中層と裏層との抄紙条件は上記の抄紙条件に限定されない。
【0041】
品番「No.2」のライナ原紙は、坪量を170[g/m
2]に変更した以外は、「No.1」のライナ原紙と同様の作成方法で作成された。
品番「No.3」のライナ原紙は、坪量を210[g/m
2]に変更した以外は、「No.1」のライナ原紙と同様の作成方法で作成された。
品番「No.4」のライナ原紙は、坪量を280[g/m
2]に変更した以外は、「No.1」のライナ原紙と同様の作成方法で作成された。
【0042】
品番「No.5」〜「No.15」のライナ原紙のそれぞれは、下記を除いて「No.2」のライナ原紙と同様の作成方法で作成された。
・No.5:密度を0.7[g/cm
3]に変更した
・No.6:微細繊維量を16.5[%]に変更した
・No.7:微細繊維量を19.8[%]に変更した
・No.8:微細繊維量を26.8[%]に変更した
・No.9:表層のパルプのうち針葉樹クラフトパルプの含有される割合を20[質
量%]に変更し、長さ平均繊維長を1.50[mm]に変更した
【0043】
・No.10:微細繊維量を13.9[%]に変更した
・No.11:微細繊維量を40.1[%]に変更した
・No.12:密度を0.5[g/cm
3]に変更した
・No.13:密度を0.9[g/cm
3]に変更した
・No.14:微細繊維量を13.9[%]に変更し、密度を0.5[g/cm
3]
に変更した
・No.15:表層のパルプのうち針葉樹クラフトパルプの含有される割合を20[
質量%]に変更して、微細繊維量を40.1[%]に変更し、密度を
0.9[g/cm
3]に変更した
【0044】
なお、ライナ原紙中に含有されるサイズ剤,紙力紙増剤等の各種薬剤の含有濃度を測定するにあたり,熱分解ガスクロマトグラフ質量分析装置(熱分解装置:フロンティアラボ社製 PY−2020D,ガスクロマトグラフ質量分析装置:アジレントテクノロジー社製 5973N)を用いて,薬剤含有濃度(対パルプ重量比)を測定した。
その上で、分析対象の上記ライナ原紙を下記手順A1〜A2により、中芯原紙から剥離し、ライナ原紙を乾燥後、粉砕機にて粉砕し、それら粉砕物を200〜300[μg]、2サンプルを熱分解ガスクロマトグラフ質量分析装置にかけて測定した。
【0045】
上記の熱分解ガスクロマトグラフ質量分析装置では、検量線を作成した際に得られた対象薬剤のピークを参考に、ピークを抽出し、ピーク面積を読み取り、読み取ったピーク面積を上記検量線と対比させることで、対象薬剤の薬剤含有濃度を算出することができる。
この測定は、各サンプルについて2回ずつ行って、その平均値を薬剤含有濃度(対パルプ重量比)とした。
なお、各種薬剤の含有濃度が重量比で0.01[%],0.1[%],1[%],5[%],10[%]となるように、各種薬剤をろ紙(ADVANTEC製、円形定性ろ紙、No.2)に染込ませ、乾燥させたものを検量線用サンプルとした。各検量線用サンプルを粉砕し、それら粉砕物を200〜300[μg]を熱分解ガスクロマトグラフ質量分析装置にかけることで上記の検量線を作成した。
【0046】
上記の品番「No.5」,「No.12」〜「No.15」で密度は、多層抄き抄紙機のニップ圧を調節して変更された。
上記の品番「No.6」〜「No.11」,「No.14」,「No.15」で微細繊維量や長さ平均繊維長は、繊維分級機(MAX−F700,相川鉄工株式会社製)を用いて調節された。
【0047】
実施例1〜11および比較例12〜19のそれぞれで中芯には、下記の品番「No.16」,「No.17」のうち何れか一つの中芯原紙を用いた。
・No.16:坪量120[g/m
2],密度0.65[g/cm
3]〔OND−EM
120:王子マテリア株式会社製〕
・No.17:坪量160[g/m
2],密度0.65[g/cm
3]〔OND−EM
160:王子マテリア株式会社製〕
上記の実施例1〜19および比較例20〜29のそれぞれについて、表3〜表5に示すライナ繊維情報が測定された。なお、密度や、長さ平均繊維長,微細繊維,坪量など各種パラメータの測定値には、測定誤差がプラスマイナス10%程度生じる可能性がある。
【0048】
【表3】
【0049】
【表4】
【0050】
【表5】
【0051】
「ライナ繊維情報」は、ライナ原紙を構成するパルプ繊維について測定された情報であり、「ルンケル比」,「長さ平均繊維長」,「微細繊維量」の三種類である。
ルンケル比は、パルプ繊維の形状を示すパラメータであり、(ルンケル比)=(繊維壁厚の2倍)/(繊維内腔径)で算出される。ルンケル比が大きいほど剛直な繊維であることを示している。
長さ平均繊維長は、ライナを構成するパルプ繊維の長さ(繊維長)の平均値である。
微細繊維量は、ライナを構成するパルプ繊維の合計(100[%])に対して微細繊維が含有される量の割合[%]である。微細繊維は、繊維長が0.0[mm]以上であって0.2[mm]以下である微細な繊維である。
【0052】
「ルンケル比」,「長さ平均繊維長」,「微細繊維量」の三種の「ライナ繊維情報」は、下記の手順A1〜A5で測定された。
手順A1:ダンボール材の最上段から2段目を40[cm]角に切り出し、その40
[cm]角ダンボールシートを測定に供試した。切り出し位置はダンボール
シート幅の真ん中とした。それから、ダンボールシートをイオン交換水に
15分間浸漬し、イオン交換水から取り出す。
手順A2:手順A1で取り出したダンボールシートからライナ原紙(表ライナおよび
裏ライナ)のそれぞれを、ライナ原紙が破れないよう、手で剥がすことで
中芯原紙から分離する。
手順A3:手順A2で分離したライナ原紙と中芯原紙とのそれぞれを、イオン交換水
に浸し、濃度2%に調整した上で、24時間浸した。
手順A4:手順A3により濃度を調整したライナ原紙と中芯原紙とのそれぞれを24
時間浸した後、標準型離解機(熊谷理機工業社製)を用いて20分間離解
して、パルプを繊維状に分解する。
手順A5:手順A4で離解後のスラリー(パルプ繊維)を分取し、下記の繊維長測定
機を使用して、「ルンケル比」,「長さ平均繊維長」,「微細繊維量」を
測定した。
・繊維長測定機:品番FS−5 UHDベースユニット,バルメット社製
【0053】
――評価――
上記のようにして「ルンケル比」,「長さ平均繊維長」,「微細繊維量」が測定された実施例1〜11および比較例12〜19について、罫割性と地合いを評価した。
「罫割性」とは、測定ダンボール材で連続するシートどうしを折り返した折目の箇所での破れにくさに対応する評価基準である。
「地合い」とは、測定ダンボール材をなすライナを構成するパルプ繊維の分布の均一性に対応する評価基準である。地合いが悪いほど、繊維分布が不均一となりライナに強度ノムラが生じやすくなり罫割を招きやすい傾向がある。
【0054】
罫割性は、下記の手順B1〜B3に従う荷重試験で評価した。
・手順B1:測定ダンボール材をパレットに静置して、ストレッチフィルムで包装し
た後、下記の温湿度条件で24[時間]放置する
>温湿度条件:温度10[℃],湿度10[%Rh]
・手順B2:手順B1の後、下記の振動機を用いて下記の条件で測定ダンボール材に
衝撃を加える
>振動機:製品名「多軸振動試験装置」,品番「DS−3000−15L」,IM
V株式会社製
>加 振 力:30[kN]
>加振方法:ランダム波、
>周 波 数:100[Hz]
・手順B3:上記の手順B1,B2の後に折目に罫割が発生したか否かを目視で確認
する。
【0055】
上記の罫割性は、下記の基準で評価した。
・◎:手順B2の後に何れの折目にも罫割が全く生じない。
・〇:手順B2の後に一[箇所]以上の折目で罫割が生じた。
・△:手順B1の後に一[箇所]以上の折目で罫割が生じた。
・×:手順B1の前に(蛇腹折りに折り畳む時点で)一[箇所]以上の折目で罫割が
生じた。
上記の基準で「〇」以上を良好な評価とし、「△」以下を不良な評価とした。
【0056】
「地合い」の評価では、測定ダンボール材をなすライナを構成するパルプ繊維の分布を目視で確認した。
地合いは、下記の基準で評価した。
・◎:パルプ繊維のムラがない。
・〇:パルプ繊維にムラが生じている(雲状地合)。
・×:パルプ繊維の凝集物が観察された。
上記の基準で「〇」以上を良好な評価とし、「×」以下を不良な評価とした。
【0057】
実施例1〜11では、密度が0.60[g/cm
3]以上であって0.85[g/cm
3]以下であり、長さ平均繊維長が0.98[mm]以上であって1.55[mm]以下であり、微細繊維量が15[%]以上であって38[%]以下であり、罫割性および地合いのいずれでも「〇」以上の評価が得られた。
【0058】
密度が0.80[g/cm
3]以上であり、長さ平均繊維長が1.10[mm]以上であり、微細繊維量が18[%]以上である実施例9〜11では、罫割性で「◎」の評価が得られた。
長さ平均繊維長が0.98[mm]以上であって1.05[mm]以下である実施例1〜7では、地合いで「◎」の評価が得られた。
【0059】
一方、密度が0.60[g/cm
3]未満または0.85[g/cm
3]よりも大きいか、長さ平均繊維長が0.98[mm]未満または1.55[mm]よりも大きいか、もしくは、微細繊維量が15[%]未満または38[%]以下よりも大きい比較例12〜19では、少なくとも罫割性で「△」以下の評価が得られた。
【0060】
比較例12〜19に鑑みて実施例1〜11からは、密度が0.60[g/cm
3]以上であって0.85[g/cm
3]以下であり、長さ平均繊維長が0.98[mm]以上であって1.55[mm]以下であり、微細繊維量が15[%]以上であって38[%]以下であれば、測定ダンボール材の折目の箇所で罫割が抑制されると言える。
実施例9〜11からは、密度が0.80[g/cm
3]以上であり、長さ平均繊維長が1.10[mm]以上であり、微細繊維量が18[%]以上の何れか一つを備えると、折目の箇所で罫割を防止できると言える。
実施例1〜7からは、長さ平均繊維長が0.99[mm]以上であって1.00[mm]以下であると地合いが良好になると言える。
【0061】
比較例17,19からは、密度が0.90[g/cm
3]より大きいことにより、パルプ繊維間の隙間がなくなりライナを折り曲げたときに応力が逃げ難くなり罫割が生じやすくなるものと推測される。比較例19では、さらに長さ平均繊維長が大きい1.55[mm]よりも大きいことにより、ライナが硬くなり過ぎて、罫割性の評価がより劣るものと推測される。
比較例16,18からは、密度が0.50[g/cm
3]未満であることにより、パルプ繊維間の隙間が多く発生してライナの強度が不十分になり、罫割が生じやすくなるものと推測される。
【0062】
比較例13〜15からは、長さ平均繊維長が0.98[mm]未満で微細繊維量が38[%]よりも大きいことにより、長さ平均繊維長が短いことや、長繊維の割合が減ってパルプ繊維どうしの絡まりが少ないことでライナの強度が不十分になり、罫割が生じやすくなるものと推測される。
また、比較例13〜15では長さ平均繊維長が0.98[mm]未満で微細繊維量が38[%]よりも大きいことにより短繊維と長繊維の差が目立たず、地合いが良好になるものと推測される。比較例19では、微細繊維量が38[%]よりも大きいが長さ平均繊維長が長さ1.55[mm]よりも大きいため、短繊維と長繊維との差がはっきり見やすくなり、地合いがやや劣るものと推測される。
比較例12からは、微細繊維量が15[%]未満であることにより、繊維長の長いパルプ繊維(長繊維)の割合が増して長繊維間の隙間が多くなり、罫割が生じやすくなるものと推測される。
【0063】
[III.変形例]
上述の実施形態はあくまでも例示に過ぎず、この実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。また、必要に応じて取捨選択することができ、適宜組み合わせることもできる。
【0064】
たとえば、ダンボール材は蛇腹折りされたダンボール材1に限らず、枚葉シート状のダンボール材であってもよい。ダンボール材には、中芯に対して片側にライナが設けられた片面ダンボールが用いられてもよい。ダンボールを蛇腹折りに折り畳む装置は
図2に例示した構造に限定されない。どのような構造の折り畳み装置を用いて蛇腹折りされたダンボール材でも上述の課題I,IIが生じ得る。
ダンボール材が製函システム用の資材である場合には、意図的に形成された切れ込みやミシン目などの追加加工が折目に施されていないことが好ましく、ダンボール材におけるライナの表層に設けられる罫線を起点(たとえば罫線を内側)に180[°]折り返される箇所が折目であることが好ましい。一方、ダンボール材が製函システム用以外の資材である場合には、切れ込みやミシン目などの加工が折目に施されていてもよい。
【0065】
上述した蛇腹折りのダンボール材の用途は、製函システムに適用される製函用資材としての用途に限らない。
蛇腹折りのダンボール材には、従来の枚葉のダンボールシートと異なる、複数のシートが折目を介して連設された構造を活かした様々な活用方法がある。
例えば、蛇腹折りのダンボール材は、シートを展開した状態で、延在する方向の寸法が大きいウェブ状の紙資材として扱うこともできる。
【0066】
ウェブ状の紙資材として利用方法としては、例えば下記の用途を例に挙げることができる。
災害用品としての利用:窓に貼り付けることで、台風時の窓割れ対策に利用で
きるほか、避難所でのプライバシー保護やストレス軽
減用のパーテーションとしての利用や、緩衝材や冷え
対策用の敷物として利用可能である。
イベント行事での利用:イベントや学校行事の看板等の創作物に利用可能であ
る。
建築/引越資材としての利用:建築現場や引越し現場で一時的にドアや壁、扉などを
守る必要がある場合、対象物に貼り付けるタイプの保
護材(養生材)として活用可能である。対象物に巻き
付けるタイプの保護材(梱包資材)として利用するこ
ともできる。
何れの利用方法においても、複数のシートが折目を介して連設された構造であることで、作業効率向上や、延在する方向の寸法を確保できるという利点がある。