特許第6863571号(P6863571)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6863571
(24)【登録日】2021年4月5日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】出力ドライバ回路
(51)【国際特許分類】
   H03K 17/08 20060101AFI20210412BHJP
【FI】
   H03K17/08 C
【請求項の数】10
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-246420(P2016-246420)
(22)【出願日】2016年12月20日
(65)【公開番号】特開2018-101882(P2018-101882A)
(43)【公開日】2018年6月28日
【審査請求日】2019年11月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000227205
【氏名又は名称】NECプラットフォームズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】高橋 正剛
(72)【発明者】
【氏名】浅田 登
【審査官】 渡井 高広
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−211737(JP,A)
【文献】 特開2009−055549(JP,A)
【文献】 特開平11−239050(JP,A)
【文献】 特開2006−211514(JP,A)
【文献】 特開2016−208329(JP,A)
【文献】 特開2006−340088(JP,A)
【文献】 特開平02−260712(JP,A)
【文献】 特開平09−135158(JP,A)
【文献】 特開平10−308635(JP,A)
【文献】 特開2011−109159(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03K 17/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソースが電源の一方の端子に接続され、及びドレインが負荷を介して前記電源の他方の端子に接続される電界効果トランジスタと、
前記ソースと前記電源の一方の端子との間に直列に挿入される直列抵抗と、
前記電界効果トランジスタのゲートに所定の電圧を印加するゲート電圧生成回路とを備え、
前記所定の電圧をVとし、前記電源の一方の端子の電圧をVとし、前記負荷の定格電流をIとし、該定格電流Iよりも大きい短絡発生時の過大電流をIとし、前記直列抵抗の抵抗値をRとし、前記電界効果トランジスタがオンとなる第1のしきい値電圧をVth1としたとき、下記式、
|Vth1|+I×R≦|V−V|<|Vth1|+I×R
を満たす出力ドライバ回路。
【請求項2】
前記電界効果トランジスタのドレイン電流が0となる第2のしきい値電圧をVth2としたとき、下記式、
|V−V|>|Vth2|+I×R
を更に満たす請求項1に記載の出力ドライバ回路。
【請求項3】
ゲート電圧生成回路が所定の分圧比で電源電圧を分圧し、前記所定の電圧を生成する分圧回路を含む請求項1又は2に記載の出力ドライバ回路。
【請求項4】
前記ゲート電圧生成回路が、前記分圧回路と前記電源の他方の端子との間に挿入された制御用トランジスタを更に含み、前記制御用トランジスタは制御信号に応じてオンし、前記分圧回路は前記制御用トランジスタがオンすると前記電源電圧を分圧する請求項3に記載の出力ドライバ回路。
【請求項5】
前記ゲート電圧生成回路が、前記所定の電圧を出力するロジックゲートを含む請求項1又は2に記載の出力ドライバ回路。
【請求項6】
前記ロジックゲートは制御信号に応じて前記所定の電圧を出力する請求項5に記載の出力ドライバ回路。
【請求項7】
前記負荷は、ワイヤーハーネスを介して前記電界効果トランジスタに接続される請求項1から6何れか1項に記載の出力ドライバ回路。
【請求項8】
前記電源は車両に搭載されるバッテリである請求項1から7何れか1項に記載の出力ドライバ回路。
【請求項9】
前記電界効果トランジスタはpチャネル型のトランジスタであり、前記直列抵抗は、前記電源の高電位側の電源端子と前記ソースとの間に接続される請求項1から8何れか1項に記載の出力ドライバ回路。
【請求項10】
前記電界効果トランジスタはnチャネル型のトランジスタであり、前記直列抵抗は、前記電源の低電位側の電源端子と前記ソースとの間に接続される請求項1から8何れか1項に記載の出力ドライバ回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は出力ドライバ回路に関し、更に詳しくは、負荷に対する電源供給を制御するトランジスタを有する出力ドライバ回路に関する。
【背景技術】
【0002】
電界効果トランジスタ(FET:Field Effect Transistor)を含み、負荷への直流電源の印加を制御する駆動回路(出力ドライバ回路)の1つが、特許文献1に開示されている。特許文献1に記載の駆動回路において、FETのソース及びドレインは、直流電源と負荷との間に挿入されており、FETのゲートに印加される電圧に応じて負荷に対する電源の供給及び停止が制御される。一般に、駆動回路において、エネルギーの効率化を図るために、FETのON抵抗を減らしたいという要望がある。この要望のため、ゲートに印加される電圧は、しきい値電圧Vthに対して十分に高く設定される。
【0003】
駆動回路に関し、過大電流が生じた際の出力用トランジスタ(パワーFET)の負担をなくすことを目的とした駆動回路が特許文献2に記載されている。特許文献2に記載の駆動回路は、パワーFETのソースと直流電源との間に電流検出用の抵抗(電流検出抵抗)を有する。加えて、この駆動回路は、パワーFETのゲートとソースの間に2つのバイポーラトランジスタを有する。
【0004】
特許文献2に記載の駆動回路において、負荷抵抗の短絡などが生じてパワーFETのドレイン電流が増加すると、電流検出抵抗の電圧降下が大きくなる。電流検出抵抗の電圧降下が大きくなると、2つのバイポーラトランジスタは、速やかにパワーFETのゲート電圧を引き下げ、パワーFETをオフにする。このようにすることで、短絡時に過大なドレイン電流が流れることを抑制でき、過大電流が生じた際のパワーFETの負担をなくすことができる。パワーFETなどの電流駆動素子を過電流から保護するための機能を備える駆動回路は、例えば特許文献3にも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開昭63−106226号公報
【特許文献2】特開平6−236812号公報
【特許文献3】特開2003−9375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の駆動回路において、FETのソースは直流電源に直接接続される。FETのソースが直流電源に直接に接続されることで、負荷に電源が供給されるまでの間の電圧降下を最小化できる。FETのソースが直流電源に直接に接続される方式は、エネルギーの使い方として無駄なく負荷に電力を供給するために考えられた一般的な方式である。
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の駆動回路では、短絡などが生じた場合にFETに過大電流が流れることは考慮されていない。例えば、特許文献1の駆動回路を車載用途に適用し、駆動回路と負荷との間がワイヤーハーネスを用いて接続される場合を考える。駆動回路においてFETがONしている場合に、ワイヤーハーネスが破損し、ワイヤーハーネスが、出力電位と異なる側の他の配線材又は車両のボディに短絡すると、FETやワイヤーハーネスに大電流が流れる。一般に、車両のバッテリは大電流の供給が可能であり、短絡時には、FETにその絶対最大規格電流以上の電流が流れることとなる。その場合、大電流が流れることで、ワイヤーハーネス及びFETが損傷することがある。
【0008】
特許文献2に記載の駆動回路では、短絡などが生じて過大電流が流れる事態になった場合においても、パワーFETの負担をなくすことが可能である。しかしながら、特許文献2においては、過大電流が生じた際にパワーFETのゲートとソースとの間の電位差Vgsを変化させるために、2つのバイポーラトランジスタが用いられている。特許文献2では、パワーFETのオン領域とオフ領域とを切り替えるために2つのバイポーラトランジスタが必要であり、部品点数が多いという問題がある。
【0009】
また、特許文献3に記載の負荷駆動装置では、過電流が検出されたときに、電流駆動素子を停止させることができる。しかしながら、特許文献3では、制御にCPU(Central Processing Unit)が用いられており、過大電流に対する保護がソフトウェアを用いて実施される。短絡などが生じた場合は、迅速に電流駆動素子を停止することが望まれるのに対し、特許文献3に記載の負荷駆動装置においては、ソフトウェアの処理に要する時間が比較的に長く、短絡などの事象に対する対処は困難である。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑み、部品点数の増加を抑えつつ、短絡などの事象にも対処可能な出力ドライバ回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明は、ソースが電源の一方の端子に接続され、及びドレインが負荷を介して前記電源の他方の端子に接続される電界効果トランジスタと、前記ソースと前記電源の一方の端子との間に直列に挿入される直列抵抗と、前記電界効果トランジスタのゲートに所定の電圧を印加するゲート電圧生成回路とを備え、前記所定の電圧をVとし、前記電源の一方の端子の電圧をVとし、前記負荷の定格電流をIとし、該定格電流Iよりも大きい短絡発生時の過大電流をIとし、前記直列抵抗の抵抗値をRとし、前記電界効果トランジスタがオンとなる第1のしきい値電圧をVth1としたとき、下記式、
|Vth1|+I×R≦|V−V|<|Vth1|+I×R
を満たす出力ドライバ回路を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の出力ドライバ回路は、部品点数の増加を抑えつつ、短絡などの事象にも対処することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の第1実施形態に係る出力ドライバ回路を示す回路。
図2】トランジスタの動作のトランジェント解析に用いた回路モデルを示す図。
図3】トランジェント波形を示す波形図。
図4】出力ドライバ回路の通常動作時のトランジェント解析に用いた回路モデルを示す図。
図5】出力ドライバ回路の通常動作時におけるトランジェント波形を示す波形図。
図6】出力ドライバ回路の短絡故障時のトランジェント解析に用いた回路モデルを示す図。
図7】出力ドライバ回路の短絡故障発生時におけるトランジェント波形を示す波形図。
図8】本発明の第2実施形態に係る出力ドライバ回路を示す回路図。
図9】出力ドライバ回路の通常動作時のトランジェント解析に用いた回路モデルを示す図。
図10】出力ドライバ回路の通常動作時におけるトランジェント波形を示す波形図。
図11】出力ドライバ回路の短絡故障時のトランジェント解析に用いた回路モデルを示す図。
図12】出力ドライバ回路の短絡故障発生時におけるトランジェント波形を示す波形図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係る出力ドライバ回路を示す。出力ドライバ回路10は、トランジスタQ1、直列抵抗R1、分圧回路15、及びスイッチ回路22を有する。出力ドライバ回路10は、例えば車載向けの出力ドライバ回路として使用される。出力ドライバ回路10は、例えばバッテリなどの直流電源に接続されており、ワイヤーハーネス17を介して負荷RLに電源(負荷電流)を供給する。
【0015】
本実施形態において、トランジスタQ1には、pチャネル型の電界効果トランジスタが用いられる。トランジスタQ1のソースSは、直列抵抗R1を介して、例えば直流12Vの直流電源が接続される第1の電源端子13に接続される。トランジスタQ1のドレインDは、ワイヤーハーネス17を介して負荷RLに接続され、更に負荷RLを介して、接地電位が与えられる第2の電源端子20に接続される。トランジスタQ1がONのとき、第1の電源端子13から供給される直流電源がワイヤーハーネス17を通じて負荷RLに供給される。トランジスタQ1がOFFのとき、負荷RLには直流電源が供給されない。
【0016】
分圧回路15は、分圧抵抗R3と分圧抵抗R5とを含む。分圧回路15は、トランジスタQ1のゲートGに印加される所定の電圧を生成する。分圧回路15は、スイッチ回路22を介して第2の電源端子20に接続される。スイッチ回路22は、例えば抵抗R4とトランジスタQ2とを含む。トランジスタQ2は、バイポーラトランジスタであり、そのベースは、抵抗R4を介して制御信号Sinが入力される制御信号端子14に接続されている。分圧回路15及びスイッチ回路22は、ゲート電圧生成回路を構成する。
【0017】
トランジスタQ2は、制御信号端子14に十分高い電圧、例えば12Vが印加されている場合にON状態となり、分圧回路15と第2の電源端子20との間を接続する。トランジスタQ2がON状態のとき、分圧回路15において、分圧抵抗R3及び分圧抵抗R5を通じて、第1の電源端子13側から第2の電源端子20側に電流が流れる。トランジスタQ2は、制御信号端子14に低い電圧、例えば0Vが印加されている場合はOFF状態であり、分圧回路15と第2の電源端子20との間を接続しない。トランジスタQ2がOFF状態のとき、分圧回路15において、第1の電源端子13側から第2の電源端子20側に電流は流れない。
【0018】
分圧回路15は、スイッチ回路22においてトランジスタQ2がON状態のとき、第1の電源端子13から入力される電源電圧を、分圧抵抗R3の抵抗値と分圧抵抗R5の抵抗値との比で定まる所定の分圧比で分圧する。分圧抵抗R3と抵抗R5の接続ノードは、トランジスタQ1のゲートGに接続されており、ゲートGには、分圧回路15で分圧された所定の電圧(V)が印加される。
【0019】
分圧回路15における分圧比は、通常使用時、つまりワイヤーハーネス17などに短絡などが生じていない状態で使用されているときに、トランジスタQ1のゲートGとソースSとの間の電位差Vgs(その絶対値)が、トランジスタQ1のON時のしきい値電圧(第1のしきい値電圧Vth1)よりも少し高くなるように設定されている。電位差Vgsがしきい値電圧Vth1より大きいことで、トランジスタQ1はONとなる飽和領域で動作する。この場合、トランジスタQ1のソースSとドレインDとの間を流れる電流(ドレイン電流)Idsが、ワイヤーハーネス17を介して負荷RLに負荷電流として供給される。
【0020】
一方、スイッチ回路22においてトランジスタQ2がOFF状態のとき、分圧回路15の一端側が解放される。この場合、分圧回路15は、第1の電源端子13から入力される電源電圧を所定の分圧比で分圧しない。トランジスタQ2がOFF状態のとき、トランジスタQ1のゲートGには電源電圧と等しい電圧が印加され、トランジスタQ1のゲートGとソースSとの間の電位差Vgsはほぼ0になる。電位差Vgsがほぼ0Vとなることで、トランジスタQ1はOFFとなる。この状態は、トランジスタQ1におけるソースSとドレインDの間の抵抗Rdsの抵抗値が大きくなった状態である。この場合、トランジスタQ1のドレイン電流は0又はほぼ0であり、負荷RLには負荷電流が供給されない。
【0021】
本実施形態では、トランジスタQ1のソースSには、直列抵抗R1が直列に接続されており、トランジスタQ1がONの状態で負荷RLに負荷電流が流れると、直列抵抗R1において電圧降下が発生する。直列抵抗R1における電圧降下VR1は、負荷電流(ドレイン電流)をIとしてVR1=R1×Iで表される。トランジスタQ1のゲートGとソースSとの間の電位差Vgsは、電源電圧をVccとしたとき、Vgs=V−(Vcc−R1×I)で表される。
【0022】
本実施形態において、直列抵抗R1の抵抗値と、分圧回路15における分圧抵抗R3の抵抗値及び分圧抵抗R5の抵抗値とは、短絡などが生じていない通常の状態における負荷電流、例えば負荷RLの定格電流Iに対して、電位差Vgsが、トランジスタQ1のONのしきい値電圧Vth1以上となるように設定されている。具体的には、ゲート電圧Vは、|Vcc−V|≧|Vth1|+I×R1が満たされる電圧に設定される。トランジスタQ1のドレイン電流は、ゲートGとソースSとの間の電位差Vgsに対して指数関数的に変化する。上記のように電位差Vgsがしきい値電圧Vth1よりも少し高い電圧となるように設定されていることで、通常時における発熱を低減できる。
【0023】
ここで、一般に、トランジスタQ1のしきい値電圧Vth1は、ドレイン電流が流れはじめるときのゲートGとソースSとの間の電位差Vgsとして定義される。例えば、しきい値電圧Vth1は、電位差Vgs(その絶対値)を増加させてドレイン電流を増やしていくときに、ドレイン電流が所定の基準電流に等しくなったときの電位差Vgsとして定義される。トランジスタQ1において、電位差Vgsがしきい値電圧Vth1以上のとき、ドレイン電流は、ソースとドレインとの間の電位差Vdsに依存せずに一定となる。しきい値電圧Vth1は、複数の電位差Vgsについてドレイン電圧とドレイン電流との関係を求め、飽和領域において、ドレイン電圧を固定してドレイン電流の1/2乗とVgsとの関係を求め、その関係におけるX軸の切片の電圧(ドレイン電流の1/2乗が0となるVgs)を求めることで得られた電圧としても定義され得る。
【0024】
ワイヤーハーネス17において破損などが生じ、供給側のワイヤーハーネス17の配線が直接に第2の電源端子20に接続された箇所に接触した場合、第1の電源端子13から供給される電流は、直列抵抗R1及びトランジスタQ1を通じて、負荷RLを通らずに第2の電源端子20に流れ込むことになる。この場合、トランジスタQ1のドレイン電流は通常時よりも大きくなり、直列抵抗R1における電圧降下VR1は、通常時のものに比べてドレイン電流が大きくなった分だけ大きくなる。
【0025】
分圧回路15が生成するゲート電圧Vは、ドレイン電流が大きくなっても変化しない。つまり、トランジスタQ1のゲートGに印加される電圧は変化しない。ドレイン電流の増加に伴って直列抵抗R1における電圧降下VR1が大きくなると、トランジスタQ1のゲートGとソースSとの間の電位差Vgs(その絶対値)は、電圧降下VR1が増加した分だけ減少する。電位差Vgsが、トランジスタQ1のONのしきい値電圧Vth1よりも小さくなると、トランジスタQ1は非飽和領域で動作し、ドレイン電流が低下する。
【0026】
本実施形態では、分圧回路15が生成するゲート電圧Vは、短絡などが生じて過大電流が生じたときに、その過大電流に対して、電位差Vgsが、トランジスタQ1のONのしきい値電圧Vth1よりも低くなるように設定されている。具体的には、過大電流をIとしたとき、ゲート電圧Vは、|Vcc−V|<|Vth1|+I×R1が満たされる電圧に設定される。本実施形態において、トランジスタQ1がOFFするときのしきい値電圧(第2のしきい値電圧)をVth2としたとき、|V−V|>|Vth2|+I×R1が満たされることが好ましい。OFFのしきい値電圧Vth2は、例えば、ゲートGとソースSとの間の電位差Vgs(その絶対値)を低下させてドレイン電流を減少させていったときに、ドレイン電流が0になるときの電位差Vgsとして定義される。この場合、過大電流が生じたとき、トランジスタQ1を完全にOFFにしない範囲において動作させることができる。
【0027】
出力ドライバ回路10において、トランジスタQ1のゲートGとソースSとの間の電位差Vgsがしきい値電圧Vth1を下回り、トランジスタQ1のドレイン電流が低下すると、それに伴い、直列抵抗R1における電圧降下VR1は低下する。電位差Vgs及びドレイン電流は、直列抵抗R1の抵抗値で規定される定数に依存して収束し、ドレイン電流は、あらかじめ設定された電流値を超えない。その結果、ワイヤーハーネス17が破損して電流が増加しても、電流制限がかかることになる。その際、電位差Vgsは、トランジスタQ1のONのしきい値Vth1とOFFのしきい値Vth2との間の値を取る。別の言い方をすれば、トランジスタQ1は、ONの領域とOFFの領域との間で動作する。
【0028】
本実施形態では、出力ドライバ回路10は、第1の電源端子13とトランジスタQ1のソースSとの間に直列抵抗R1を有する。また、トランジスタQ1のON時に、トランジスタQ1のゲートGには、分圧回路15を用いて、通常時におけるゲートGとソースSとの間の電位差Vgsがしきい値電圧Vth1よりも少し高い電圧となるように設定された電圧が印加される。出力ドライバ回路10において、短絡などが生じてトランジスタQ1のドレイン電流が増加すると、その分だけ直列抵抗R1の電圧降下が増加し、ソースSの電位がゲートGの電位に近づく。電位差Vgsがしきい値電圧Vth1を下回ると、トランジスタQ1はON状態を維持できず、ドレイン電流が減少する。トランジスタQ1と直列抵抗R1と分圧回路15の分圧抵抗R3及びR5とを、あらかじめ部品定格内でトランジスタQ1のONを維持できない定数を選定して実装しておけば、回路部品が破損するのを防止できる。このため、信頼性を向上することができ、また、保守性を改善することができる。本実施形態では、例えばワイヤーハーネス17が短絡しても、回路部品の破損が防止できるため、発煙又は発火に至る事故を未然に防止でき、出力ドライバ回路10が搭載される車両などの延焼を防止できる。
【0029】
また、本実施形態において、トランジスタQ1は、通常のONの際は、飽和領域で使用される。トランジスタQ1は、非常時のワイヤーハーネス17などの短絡時は、非飽和領域で動作する。本実施形態では、通常時と非常時の動作を、1つのトランジスタQ1を使用して機能実現できるため、部品点数が少なくて済み、出力ドライバ回路10を安価に製造可能である。さらに、本実施形態では、ワイヤーハーネス17の破損時にトランジスタQ1の保護が可能であるため、ワイヤーハーネス自身の特別な保護を行う必要がない。例えば、ワイヤーハーネス17に2重絶縁ワイヤーハーネスを使用し、或いは電気配管を使用する必要はない。本実施形態では、この点においても費用の削減が可能である。
【0030】
以下、数値例を用いて説明する。まず、トランジスタQ1のしきい値電圧Vth1及びVth2について説明する。図2は、トランジスタの動作のトランジェント解析に用いた回路モデルを示す。本発明者は、図2に示される回路モデルを用いて、トランジスタQ1の動作を、Spiceを用いてトランジェント解析した。トランジェント解析において、トランジスタQ1には、pチャネル型のFETであるIRF9510を用いた。図2に示される回路モデルにおいて、トランジスタQ1のゲートには抵抗R4を介して可変電圧電源が接続されている。トランジェント解析では、可変電圧電源が出力する電圧を、0Vから12Vまでの範囲で徐々に変化させた。
【0031】
以下の数値例において、設計目標として、負荷RLの負荷電流は1A以上であるとする。しきい値電圧Vth及びソースとドレインとの間の抵抗Rdsは、トランジスタQ1のドレイン電流に依存して変化する。本発明者は、ドレイン電流は設計目標として1.2A程度の電流とし、シミュレーションを用いてしきい値電圧Vthの確認を行った。抵抗R4の抵抗値は10kΩとし、負荷RLの抵抗値は8.2Ωとした。なお、図2に示されるように、トランジスタQ1の動作の解析に用いられる回路モデルにおいて、直列抵抗R1は省略されている。
【0032】
図3は、トランジスタQ1の動作時のトランジェント波形を示す。図3において、縦軸は電圧又は電流を表し、横軸は時間を表している。トランジェント解析では、ゲート電圧を12Vから0Vまで徐々に変化させつつ、図2のA点の電圧(VA)、B点の電圧(VB)、C点を流れる電流(IC)、及びD点の電圧(VD)を求めた。A点の電圧VAはトランジスタQ1のゲート電圧に相当し、B点の電圧はソース電圧に相当する。電圧VAと電圧VBとの差は、トランジスタQ1におけるゲートとソースとの間の電位差Vgsに相当する。また、C点を流れる電流ICはトランジスタQ1のドレイン電流(負荷電流)に相当し、D点の電圧VDは負荷に供給される電圧に相当する。
【0033】
電圧VAが12Vのとき、ゲートとソースとの間の電位差Vgsは0Vであり、電流ICは0である。電圧VAを12Vから徐々に低下させていくと、時刻t11で電流ICが流れ始めた。このときの電圧VAは8.866Vであった。時刻t11における電圧VAと電圧VB(電源電圧)との差を、トランジスタQ1のOFFのしきい値電圧Vth2と定義すると、しきい値電圧Vth2は、VA−VB=8.866−12≒−3.1Vとなる。
【0034】
電圧VAを更に低下させていくと、ゲートとソースとの間の電位差Vgsが増加するに連れて、ドレイン電流である電流ICは増加していった。電位差Vgsが十分に大きくなると、トランジスタQ1はONとなり、電圧VAを変化させても、電流ICの大きさはほぼ一定となった。
【0035】
図3を参照すると、電流ICは、時刻t12以降、ほぼ一定となっていることがわかる。電流ICが一定になり始める時刻t12における電圧VAは4.817Vであった。時刻t12における電圧VAと電圧VBとの差を、トランジスタQ1のONのしきい値電圧Vth1と定義すると、しきい値電圧Vth1は、VA−VB=4.817−12≒−7.2Vとなる。ゲートとソースとの間の電位差Vgsがしきい値電圧Vth1以上となっている時刻t12以降において、電圧VDで示されるように、負荷RLには十分な大きさの電圧が供給された。
【0036】
次いで、出力ドライバ回路10の通常動作時の動作について説明する。図4は、出力ドライバ回路の通常動作時のトランジェント解析に用いた回路モデルを示す。本発明者は、図4に示される回路モデルを用いて、出力ドライバ回路の通常動作時の動作を、Spiceを用いてトランジェント解析した。
【0037】
トランジェント解析において、図2の回路モデルと同様に、トランジスタQ1には、pチャネル型のFETであるIRF9510を用いた。また、負荷RLの抵抗値は8.2Ωとした。直列抵抗R1には2W品の抵抗を用い、直列抵抗R1の抵抗値は、正常動作時に1V未満の電圧降下とすることを見込んで、E24系列から0.74Ωとした。分圧回路15(図1を参照)の分圧抵抗R3及びR5の抵抗値は、設計目標としてゲートとソースとの間の電位差Vgsが8V程度となるように、E24系列からそれぞれ82kΩ及び39kΩとした。スイッチ回路22(図1を参照)を構成するトランジスタQ2には、npn型のバイポーラトランジスタ2N2484を用い、抵抗R4の抵抗値は3kΩとした。
【0038】
図5は、出力ドライバ回路の通常動作時におけるトランジェント波形を示す。図5において、縦軸は電圧又は電流を表し、横軸は時間を表している。トランジェント解析では、制御信号端子14に入力する制御信号Sinを高電圧と低電圧との間で切り替えつつ、図4のA点の電圧(VA)、B点の電圧(VB)、C点を流れる電流(IC)、及びD点の電圧(VD)を求めた。A点の電圧VAはトランジスタQ1のゲート電圧に相当し、B点の電圧はソース電圧に相当し、C点を流れる電流ICはトランジスタQ1のドレイン電流(負荷電流)に相当し、D点の電圧VDは負荷に供給される電圧に相当する。電源電圧と電圧VBとの差は直列抵抗R1における電圧降下に相当する。
【0039】
時刻t21でトランジスタQ2がONすると、分圧抵抗R3と分圧抵抗R5との接続ノードの電圧は3.84Vとなり、トランジスタQ1のゲート電圧である電圧VAは約3.84Vになった。このとき、トランジスタQ1のゲートとソースとの間の電位差Vgsはしきい値電圧Vth1よりも大きく、トランジスタQ1がONすることで、負荷電流でもある電流ICが流れ始めた。
【0040】
時刻21でトランジスタQ1がONした後、電流ICは1.19Aであった。電流ICが流れることで、トランジスタQ1のソース電圧である電圧VBは11.12V程度となった。別の言い方をすると、電流ICに伴う直列抵抗R1の電圧降下は0.88V程度であった。電圧VAは、例えば異常時の負荷電流に対して、電流ICがその異常時の負荷電流になった場合にゲートとソースとの電位差Vgsがしきい値電圧Vth1よりも低くなるように設定されているものとする。電圧VAは、通常動作時に直列抵抗R1に電圧降下が生じてもゲートとソースとの電位差Vgsがしきい値電圧Vth1以下とならないように設定されており、トランジスタQ1はONを維持できた。
【0041】
トランジスタQ1がONのとき、負荷に供給される電圧である電圧VDは、9.75V程度であり、負荷RLに十分な大きさの電圧が供給されることが確認できた。時刻t22でスイッチ回路22のトランジスタQ2がOFFし、電圧VAが電源電圧12Vになると、トランジスタQ1はOFFした。このとき、電流ICは0になり、電圧VBは12Vになり、電圧VDは0Vとなった。
【0042】
続いて、短絡などが生じた場合の出力ドライバ回路10の動作について説明する。図6は、出力ドライバ回路の短絡故障時のトランジェント解析に用いた回路モデルを示す。図6に示される回路モデルは、トランジスタQ1のドレインと負荷RLとの間においてワイヤーハーネス17に破損などが生じて、トランジスタQ1のドレインが低抵抗な短絡抵抗R6を介して第2の電源端子20に接続されている点で、図4に示される回路モデルと異なる。短絡抵抗R6の抵抗値は0.001Ωとした。本発明者は、図6に示される回路モデルを用いて、出力ドライバ回路の短絡(地絡)故障発生時の動作を、Spiceを用いてトランジェント解析した。
【0043】
図7は、出力ドライバ回路の短絡故障発生時におけるトランジェント波形を示す。図7において、縦軸は電圧又は電流を表し、横軸は時間を表している。トランジェント解析では、通常動作時の解析と同様に、制御信号端子14に入力する制御信号Sinを高電圧と低電圧との間で切り替えつつ、図6のA点の電圧(VA)、B点の電圧(VB)、C点を流れる電流(IC)、及びD点の電圧(VD)を求めた。A点の電圧VAはトランジスタQ1のゲート電圧に相当し、B点の電圧はソース電圧に相当し、C点を流れる電流ICはトランジスタQ1のドレイン電流(負荷電流)に相当し、D点の電圧VDは負荷に供給される電圧に相当する。
【0044】
時刻t31でトランジスタQ2がONすると、分圧抵抗R3と分圧抵抗R5との接続ノードの電圧は3.84Vとなり、トランジスタQ1のゲート電圧である電圧VAは約3.84Vになった。この点は、図5に示されるものと同様である。トランジスタQ1のゲートとソースとの間の電位差Vgsがしきい値電圧Vth1よりも大きくなると、トランジスタQ1がONし、負荷電流でもある電流ICが流れ始める。このとき、トランジスタQ1のドレインは短絡抵抗R6を通じて接地されており、通常時よりも大きな電流が電流ICとして流れ始める。
【0045】
電流ICとして通常時よりも大きい電流が流れ始めると、電流が増加した分だけ直列抵抗R1の電圧降下が大きくなり、その分だけトランジスタQ1のソース電圧である電圧VBが低下する。電圧VBが低下すると、電圧VAと電圧VBとの差が小さくなる。ゲートとソースとの間の電位差Vgsがしきい値電圧Vth1よりも小さくなると、トランジスタQ1がONを維持できなくなる。トランジスタQ1がONを維持できないことで、電流ICが減少して電圧VBは上昇し、電位差Vgsは大きくなる。このような動作の結果、電流ICは1.6Aとなり、電圧VBは10.8Vになった。電位差Vgsは、3.84V−10.8V=−6.96Vであり、この電位差(その絶対値)は、上記したしきい値電圧Vth1の絶対値(7.2V)よりも低い。
【0046】
トランジスタQ1のドレインは低抵抗の短絡抵抗R6を通じて接地されているため、電圧VDはほぼ0のまま変化しない。トランジスタQ1は、電位差Vgsがしきい値電圧Vth1よりも低い状態で動作を続け、出力ドライバ回路10において、電流ICを1.6Aに制限できることが確認された。時刻t32でスイッチ回路22のトランジスタQ2がOFFし、電圧VAが電源電圧12Vになると、トランジスタQ1はOFFし、電流ICは0になり、電圧VBは12Vになった。
【0047】
以上の具体的な数値例からも理解されるように、本実施形態に係る出力ドライバ回路10は、特許文献2とは異なり、ゲートとソースの間にバイポーラトランジスタを設けることなく出力電流の制限が可能である。従って、本実施形態に係る出力ドライバ回路10は、部品点数の増加を抑えつつ、短絡などの事象にも対処することが可能である。
【0048】
引き続き、本発明の第2実施形態を説明する。図8は、本発明の第2実施形態に係る出力ドライバ回路を示す。出力ドライバ回路10aは、トランジスタQ1、直列抵抗R1、及びロジックゲート16を有する。ロジックゲート(ロジック回路)16は、例えばTTL(Transistor-transistor logic)回路、又はCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)回路で構成される。
【0049】
本実施形態では、トランジスタQ1には、nチャネル型の電界効果トランジスタが用いられる。トランジスタQ1のドレインDは、ワイヤーハーネス17を介して負荷RLに接続され、更に負荷RLを介して、例えば+12Vの直流電源が接続される第1の電源端子13に接続される。トランジスタQ1のソースSは、直列抵抗R1を介して、接地電位が与えられる第2の電源端子20に接続される。トランジスタQ1がONのとき、ワイヤーハーネス17が第2の電源端子20に接続され、負荷RLに電流が供給される。トランジスタQ1がOFFのとき、負荷RLには電流が供給されない。
【0050】
本実施形態では、分圧回路15及びスイッチ回路22(図1を参照)に代えて、ロジックゲート16が用いられる。ロジックゲート16は、ゲート電圧生成回路を構成し、トランジスタQ1のゲートに所定の電圧を出力する。ロジックゲート16は、制御信号端子14に接続されており、制御信号端子14から入力される制御信号Sinに応じて、トランジスタQ1のゲートGに出力する電圧(ゲート電圧)を、所定の電圧と0Vとの間で切り替える。
【0051】
制御信号Sinは、例えば0Vと5Vの論理レベルを有している。ロジックゲート16は、制御信号Sinが0V(Lowレベル)のときゲート電圧を0Vとし、制御信号Sinが5V(Highレベル)のときゲート電圧を所定の電圧とする。一般には、ロジックゲート16の出力電圧は5V以下である。本実施形態において、トランジスタQ1にnチャネル型のFETが用いられる場合は、接地電位が基準の電位であるため、トランジスタQ1のゲートGにロジックゲート16を直接に接続して使用できる。
【0052】
ロジックゲート16が出力する所定の電圧は、通常使用時、つまりワイヤーハーネス17などに短絡などが生じていない状態で使用されているときに、トランジスタQ1のゲートとソースとの間の電位差Vgsが、トランジスタQ1のON時のしきい値電圧Vth1よりも少し高くなるように設定されている。電位差Vgsがしきい値電圧Vth1より大きいことで、トランジスタQ1はONとなる飽和領域で動作する。この場合、トランジスタQ1のソースSとドレインDとの間に電流(ドレイン電流)が流れ、負荷RLに負荷電流が流れる。
【0053】
本実施形態においても、トランジスタQ1のソースSには、直列抵抗R1が直列に接続されており、トランジスタQ1がONの状態で負荷RLに負荷電流が流れると、直列抵抗R1において電圧降下が発生する。トランジスタQ1のゲートGとソースSとの間の電位差Vgsは、ロジックゲート16が出力する所定の電圧(ゲート電圧)をVとしたとき、Vgs=V−R1×Iで表される。つまり、電位差Vgsは、ゲート電圧Vに対して、直列抵抗R1の電圧降下分だけ低くなる。
【0054】
本実施形態において、直列抵抗R1の抵抗値とロジックゲート16が出力するゲート電圧Vとは、短絡などが生じていない通常の状態における負荷電流、例えば負荷RLの定格電流Iに対して、電位差Vgsが、トランジスタQ1のONのしきい値電圧Vth1以上となるように設定されている。具体的には、ゲート電圧Vは、V≧Vth1+I×R1が満たされる電圧に設定される。
【0055】
ワイヤーハーネス17において破損などが生じ、ワイヤーハーネス17の配線が直接に第1の電源端子13に接続された箇所に接触した場合、その接触箇所を通じて負荷RLを通らずにトランジスタQ1に向けて電流がながれ、その電流が、トランジスタQ1から直列抵抗R1を通じて第2の電源端子20に流れ込むことになる。この場合、トランジスタQ1のドレイン電流は通常時よりも大きくなり、直列抵抗R1における電圧降下VR1は、通常時のものに比べてドレイン電流が大きくなった分だけ大きくなる。
【0056】
ロジックゲート16が出力するゲート電圧Vは、ドレイン電流が大きくなっても変化しない。つまり、トランジスタQ1のゲートGに印加される電圧は変化しない。ドレイン電流の増加に伴って直列抵抗R1における電圧降下VR1が大きくなると、トランジスタQ1のゲートGとソースSとの間の電位差Vgsは、電圧降下VR1が増加した分だけ減少する。電位差Vgsが、トランジスタQ1のONのしきい値電圧Vth1よりも小さくなると、トランジスタQ1は非飽和領域で動作し、ドレイン電流が低下する。
【0057】
本実施形態では、ロジックゲート16が出力するゲート電圧Vは、短絡などが生じて過大電流が生じたときに、その過大電流に対して、電位差Vgsが、トランジスタQ1のONのしきい値電圧Vth1よりも低くなるように設定されている。具体的には、過大電流をIとしたとき、電圧Vは、V<Vth1+I×R1が満たされる電圧に設定される。本実施形態において、トランジスタQ1がOFFするときのしきい値電圧をVth2としたとき、V>Vth2+I×R1が満たされることが好ましい。この場合、過大電流が生じたとき、トランジスタQ1を完全にOFFにしない範囲において動作させることができる。
【0058】
以下、数値例を用いて説明する。まず、出力ドライバ回路10aの通常動作時の動作について説明する。図9は、出力ドライバ回路の通常動作時のトランジェント解析に用いた回路モデルを示す。本発明者は、図9に示される回路モデルを用いて、出力ドライバ回路の通常動作時の動作を、Spiceを用いてトランジェント解析した。トランジェント解析において、トランジスタQ1には、nチャネル型のFETであるIRF1010Gを用いた。また、直列抵抗R1の抵抗値は0.47Ωとし、負荷RLの抵抗値は8Ωとした。
【0059】
図10は、出力ドライバ回路10aの通常動作時におけるトランジェント波形を示す。図10において、縦軸は電圧又は電流を表し、横軸は時間を表している。トランジェント解析では、制御信号端子14に入力する制御信号Sinを高電圧と低電圧との間で切り替えつつ、図9のA点の電圧(VA)、B点の電圧(VB)、C点の電圧(VC)、及びD点を流れる電流(ID)を求めた。A点の電圧VAはトランジスタQ1のソース電圧に相当し、B点の電圧は負荷RLの電源端子13とは反対側の電圧に相当し、C点の電圧はトランジスタQ1のゲート電圧に相当し、D点を流れる電流IDはトランジスタQ1のドレイン電流(負荷電流)に相当する。電圧VCと電圧VAとの差は、トランジスタQ1におけるゲートとソースとの間の電位差Vgsに相当し、電源電圧と電圧VBとの差は負荷RLの電圧降下(印加電圧)に相当する。
【0060】
時刻t21でロジックゲート16がゲート電圧Vを出力すると、電圧VCは4.96Vとなった。このとき、トランジスタQ1のゲートとソースとの間の電位差Vgsはしきい値電圧Vth1よりも大きく、トランジスタQ1がONすることで、負荷電流である電流IDが流れ始めた。電流IDは1.4Aであった。電流IDが流れ、直列抵抗R1に電圧降下が生じることで、トランジスタQ1のソース電圧である電圧VAは0.66Vとなった。電圧VCは、通常動作時に直列抵抗R1に電圧降下が生じてもゲートとソースとの電位差Vgsがしきい値電圧Vth1以下とならないように設定されており、トランジスタQ1はONを維持できた。
【0061】
トランジスタQ1がONのとき、負荷RLの他端側の電圧VBは0.79Vとなり、負荷RLに印加される電圧は11.21Vであった。時刻t42でロジックゲート16が出力する電圧が0Vとなると、ゲート電圧である電圧VCは0Vになり、トランジスタQ1はOFFした。このとき、電流IDは0になり、電圧VAは0Vになり、電圧VBは12Vとなった。時刻t43でロジックゲート16が電圧Vを出力するとトランジスタQ1がONし、時刻t44でロジックゲート16が0Vを出力するとトランジスタQ1がOFFして、同様な動作が繰り返された。
【0062】
次いで、短絡などが生じた場合の出力ドライバ回路10aの動作について説明する。図11は、出力ドライバ回路10aの短絡故障時のトランジェント解析に用いた回路モデルを示す。図11に示される回路モデルは、トランジスタQ1のドレインと負荷RLとの間においてワイヤーハーネス17に破損などが生じて、トランジスタQ1のドレインが低抵抗な短絡抵抗R7を介して第1の電源端子13に接続されている点で、図9に示される回路モデルと異なる。短絡抵抗R7の抵抗値は0.001Ωとした。本発明者は、図11に示される回路モデルを用いて、出力ドライバ回路の短絡(天絡)故障発生時の動作を、Spiceを用いてトランジェント解析した。
【0063】
図12は、出力ドライバ回路の短絡故障発生時におけるトランジェント波形を示す。図12において、縦軸は電圧又は電流を表し、横軸は時間を表している。トランジェント解析では、制御信号端子14に入力する制御信号Sinを高電圧と低電圧との間で切り替えつつ、図11のA点の電圧(VA)、B点の電圧(VB)、C点の電圧(VC)、及びD点を流れる電流(ID)を求めた。A点の電圧VAはトランジスタQ1のソース電圧に相当し、B点の電圧はワイヤーハーネス17の一端側の電圧に相当し、C点の電圧はトランジスタQ1のゲート電圧に相当し、電流IDはトランジスタQ1のドレイン電流(負荷電流)に相当する。
【0064】
時刻t51で、ロジックゲート16がゲート電圧Vを出力すると、トランジスタQ1のゲート電圧である電圧VCは4.96Vとなり、トランジスタQ1がONした。この点は、図10に示されるものと同様である。トランジスタQ1がONすると、トランジスタQ1のドレイン電流でもある電流IDが流れ始める。このとき、トランジスタQ1のドレインは短絡抵抗R7を通じて+12Vの電源端子に接地されており、通常時よりも大きな電流が電流IDとして流れ始める。
【0065】
電流IDとして通常時よりも大きい電流が流れ始めると、電流が増加した分だけ直列抵抗R1の電圧降下が大きくなり、その分だけトランジスタQ1のソース電圧である電圧VAが上昇する。電圧VAが上昇すると、電圧VCと電圧VAとの差が小さくなる。ゲートとソースとの間の電位差Vgsがしきい値電圧Vth1よりも小さくなると、トランジスタQ1がONを維持できなくなる。トランジスタQ1がONを維持できないことで、電流IDが減少して電圧VAは減少し、電位差Vgsは大きくなる。このような動作の結果、電流IDは2.8Aとなり、電圧VAは1.31Vになった。
【0066】
トランジスタQ1のドレインは低抵抗の短絡抵抗R6を通じて+12V側の電源に接続されているため、電圧VBはほぼ12Vのまま変化しない。トランジスタQ1は、電位差Vgsがしきい値電圧Vth1よりも低い状態で動作を続け、出力ドライバ回路10aにおいて、電流IDを2.8Aに制限できることが確認された。
【0067】
時刻t52でロジックゲート16が出力する電圧が0Vとなると、電圧VCは0Vになり、トランジスタQ1はOFFした。このとき、電流IDは0になり、電圧VAは0Vになった。時刻t53でロジックゲート16が電圧Vを出力するとトランジスタQ1がONし、時刻t54でロジックゲート16が0Vを出力するとトランジスタQ1がOFFして、同様な動作が繰り返された。
【0068】
以上の具体的な数値例からも理解されるように、本実施形態に係る出力ドライバ回路10aにおいても、第1実施形態と同様に、ゲートとソースの間にバイポーラトランジスタを設けることなく出力電流の制限が可能である。従って、本実施形態に係る出力ドライバ回路10aにおいても、部品点数の増加を抑えつつ、短絡などの事象にも対処することが可能である。他の効果も、第1実施形態と同様である。
【0069】
なお、第1実施形態ではトランジスタQ1にpチャネル型のFETを用い、第2実施形態ではトランジスタQ1にnチャネル型のFETを用いる例を示したが、これら実施形態において、FETのタイプは特に限定されない。分圧回路15及びスイッチ回路22(図1を参照)が用いられる第1実施形態において、トランジスタQ1にnチャネル型のFETを用いることしてもよい。また、ロジックゲート16が用いられる第2実施形態において、トランジスタQ1にpチャネル型のFETを用いることとしてもよい。pチャネル型のFETが用いる場合は、第1実施形態において説明したものと同様に、負荷RLの高電位側にFETが配置されればよく、nチャネル型のFETが用いられる場合は、第2実施形態において説明したものと同様に、負荷RLの低電位側にFETが配置されればよい。
【0070】
また、第1実施形態ではゲート電圧生成回路が分圧回路15を含み、第2実施形態ではゲート電圧生成回路がロジックゲート16を含む例を説明したが、これらには限定されない。ゲート電圧生成回路は、トランジスタQ1のゲートに所望の電圧を印加できる任意の回路で構成でき、回路のタイプや構成などは特に限定されない。また、上記各実施形態では、トランジスタQ1と負荷RLとがワイヤーハーネス17を用いて接続される例を示したが、これには限定されない。トランジスタQ1と負荷RLとの接続には、任意の配線材料を用いることが可能である。
【0071】
以上、本発明の実施形態を詳細に説明したが、本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で上記実施形態に対して変更や修正を加えたものも、本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0072】
10:出力ドライバ回路
13、20:電源端子
14:制御信号端子
15:分圧回路
16:ロジックゲート
17:ワイヤーハーネス
22:スイッチ回路
Q1、Q2:トランジスタ
R1:直列抵抗
R3、R5:分圧抵抗
R4:抵抗
R6、R7:短絡抵抗
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12