特許第6863576号(P6863576)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 内山工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6863576-スペーサ 図000002
  • 特許6863576-スペーサ 図000003
  • 特許6863576-スペーサ 図000004
  • 特許6863576-スペーサ 図000005
  • 特許6863576-スペーサ 図000006
  • 特許6863576-スペーサ 図000007
  • 特許6863576-スペーサ 図000008
  • 特許6863576-スペーサ 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6863576
(24)【登録日】2021年4月5日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】スペーサ
(51)【国際特許分類】
   F01P 3/02 20060101AFI20210412BHJP
   F02F 1/10 20060101ALI20210412BHJP
   F02F 1/14 20060101ALI20210412BHJP
【FI】
   F01P3/02 A
   F02F1/10 D
   F02F1/14 Z
   F02F1/14 D
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-78828(P2017-78828)
(22)【出願日】2017年4月12日
(65)【公開番号】特開2018-178843(P2018-178843A)
(43)【公開日】2018年11月15日
【審査請求日】2020年3月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000225359
【氏名又は名称】内山工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002686
【氏名又は名称】協明国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100087664
【弁理士】
【氏名又は名称】中井 宏行
(74)【代理人】
【識別番号】100143926
【弁理士】
【氏名又は名称】奥村 公敏
(74)【代理人】
【識別番号】100149504
【弁理士】
【氏名又は名称】沖本 周子
(72)【発明者】
【氏名】牧野 耕治
【審査官】 櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】 韓国公開特許第10−2009−0128601(KR,A)
【文献】 国際公開第2016/104478(WO,A1)
【文献】 特開2016−180314(JP,A)
【文献】 特開2017−057289(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01P 3/02
F02F 1/10
F02F 1/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のシリンダブロックにシリンダボアを取り囲むように形成された冷却水流路内に配置されるスペーサであって、
凸曲部を有する剛性材製の支持体と、
前記支持体における前記凸曲部の凸曲面を含む側面に取付けられる多孔質体と、を備え、
前記多孔質体は、圧縮状態に維持され、所定の外的要因が付加されたことを契機として圧縮前の状態に復元する特性を有し、
前記多孔質体の前記凸曲部に対応する部分には、前記支持体とは反対側に開口するスリットが形成されていることを特徴とするスペーサ。
【請求項2】
請求項1に記載のスペーサにおいて、
前記スリットは、前記冷却水流路の深さ方向に延びるように形成され、当該スリットの前記冷却水流路の深さ方向に沿った長さが、前記多孔質体の前記冷却水流路の深さ方向に沿った長さより短くなるように形成されていることを特徴とするスペーサ。
【請求項3】
請求項2に記載のスペーサにおいて、
前記スリットは、前記冷却水流路の深さ方向及び前記冷却水流路の周方向に複数形成されていることを特徴とするスペーサ。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のスペーサにおいて、
前記支持体は、硬質合成樹脂製であり、前記多孔質体とともに一体成型されてなり、前記スリットは、当該支持体側には開口しない形状とされていることを特徴とするスペーサ。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載のスペーサにおいて、
前記多孔質体は圧縮状態のセルロース系スポンジからなり、前記外的要因の付加は、当該セルロース系スポンジに水分が接触することであることを特徴とするスペーサ。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載のスペーサにおいて、
前記シリンダボアは複数配列され、前記凸曲部は、隣接するシリンボア間部分に向かって突出する形状とされていることを特徴とするスペーサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のシリンダブロックにシリンダボアを取り囲むように形成された冷却水流路内に配置されるスペーサに関する。
【背景技術】
【0002】
前記内燃機関の冷却水流路には、流通する冷却水の流れ(流量、流速等)を規制するためのスペーサが開口部から挿入されて配置される(例えば、特許文献1〜3参照)。これらの特許文献1〜3に開示されたスペーサ(規制部材)では、合成樹脂等の剛体製のスペーサ本体(支持体)のシリンダボア側の面に、冷却水と接触すると膨大化して、冷却水流路のシリンダボア側の壁面に接触する部材が取付けられている。このようにスペーサ本体に取付けられる部材は、膨大化する前は嵩低い(厚みが薄い)ため、当該スペーサを、冷却水流路内に挿入する際には挿入抵抗を小さくして挿入を円滑にし、冷却水流路内に配置した後は膨大化して、冷却水の流通を規制する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014−194219号公報
【特許文献2】WO2016/104478号公報
【特許文献3】特開2016−128256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、シリンダブロックが複数のシリンダボアを有している場合、複数のシリンダボアを取り囲むように形成される冷却水流路は、隣接するシリンダボア間部分では、シリンダボア側に向くくびれ部を備える。したがって、当該冷却水流路内に配置されるスペーサには、このくびれ部に対応してシリンダボア側に向く凸曲部が形成される。前記特許文献に開示されたスペーサにおいては、前記膨大化する部材がスペーサ本体のシリンダボア側の面に取付けられており、スペーサの冷却水流路内への挿入性や、冷却水の流通規制の点で有効である。
【0005】
そして、本出願人は、特許文献2及び特許文献3に示されるスペーサの実用化の過程で、前記膨大化する部材としての多孔質体を前記凸曲部に設けることを考案した上で、さらに次のような問題点が生じることも知見した。図8(a)(b)は、このような問題点が生じる状態を示す図である。図8に示すスペーサ102は、シリンダブロック100に形成された冷却水流路101内に挿入される形状のスペーサ本体103と、スペーサ本体103のシリンダボア(図1参照)側面103aに一体とされた多孔質体104とから構成される。多孔質体104は、特許文献2或いは特許文献3に示される例と同様のセルロース系スポンジからなる。図8では、スペーサ本体103は、冷却水流路101のボア間部分(図1参照)に対応する位置に凸曲部103bを有し、多孔質体104は、この凸曲部103bの凸曲面を含むスペーサ本体103のシリンダボア側面103aに一体に取付けられている。図8(a)は、スペーサ本体103と圧縮状態に維持された多孔質体104とが一体とされたスペーサ102が、シリンダブロック100の冷却水流路101内に配置された状態を示している。また、図8(b)は、冷却水流路101内に冷却水が導入され、冷却水と接触することによって多孔質体104が圧縮前の状態に復元した状態を示している。
【0006】
図8(b)に示すように、多孔質体104は冷却水に接すると圧縮前の状態に復元しようとする。図8(b)において、矢印a1,a2は多孔質体104の復元方向を示し、これは多孔質体104の圧縮方向に対向する方向である。さらに具体的には、多孔質体104は、凸曲部103bの凸曲面以外の曲面部では、当該曲面部の曲率中心(シリンダボアの中心)に向く方向a1に復元し、凸曲部103bの凸曲面部では当該凸曲部103bの頂部の向く方向a2に復元する。この復元によって、凸曲部103bの凸曲面部以外の曲面部における多孔質体104は、冷却水流路101のシリンダボア側壁面(内側内壁面)101aに当接する。しかし、多孔質体104の凸曲部103bに対応する部分では、矢印bに示す方向の表面長さが復元後に長くなる必要があるため、多孔質体の伸び性能が低い場合、この部分の多孔質体104は復元方向a2には充分に復元しない。その結果、凸曲部103bにおける多孔質体104と冷却水流路101のシリンダボア側壁面101aとの間に隙間ができ、この部分を流れる冷却水を充分に規制できなくなる。
【0007】
本発明は、前記に鑑みなされたもので、支持体の凸曲部を含む部分に設けられる圧縮状態の多孔質体が凸曲部で復元する量を増加させることができる新規なスペーサを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るスペーサは、内燃機関のシリンダブロックにシリンダボアを取り囲むように形成された冷却水流路内に配置されるスペーサであって、凸曲部を有する剛性材製の支持体と、前記支持体における前記凸曲部の凸曲面を含む側面に取付けられる多孔質体と、を備え、前記多孔質体は、圧縮状態に維持され、所定の外的要因が付加されたことを契機として圧縮前の状態に復元する特性を有し、前記多孔質体の前記凸曲部に対応する部分には、前記支持体とは反対側に開口するスリットが形成されていることを特徴とする。
【0009】
支持体の凸曲部に取付けられている多孔質体は、当該多孔質体の復元の際、多孔質体の伸び性能が低いと、これが阻害要因となって、凸曲部における多孔質体の本来の復元が充分になされなくなる。しかし、本発明に係るスペーサによれば、この部分の多孔質体にはスリットが設けられているから、スリットの開口部幅が拡大することで、多孔質体の伸びの不足分が補われる。したがって、多孔質体の伸び性能が低くとも、その影響が緩和され、この部分の多孔質体が、圧縮状態から圧縮前の状態へ復元する際の復元量の増加が図られる。
【0010】
本発明に係るスペーサにおいて、前記スリットは、前記冷却水流路の深さ方向に延びるように形成され、当該スリットの前記冷却水流路の深さ方向に沿った長さが、前記多孔質体の前記冷却水流路の深さ方向に沿った長さより短くなるように形成されているものとしてもよい。
これによれば、スリットが多孔質体の深さ方向全体に及んでいないから、多孔質体を支持体に一体化する際等の取扱い時に、スリットを起点として多孔質体が断裂する懸念を低減することができる。
【0011】
本発明に係るスペーサにおいて、前記スリットは、前記冷却水流路の深さ方向及び前記冷却水流路の周方向に複数形成されているものとしてもよい。
これによれば、深さ方向及び周方向に形成される複数のスリットによって、実質的にスリットの開口部幅の総和が大きくなって、凸曲部に対応する部分の多孔質体が、圧縮状態から圧縮前の状態へ復元する際の復元量の増加をより効果的に図ることができる。
【0012】
本発明に係るスペーサにおいて、前記支持体は、硬質合成樹脂製であり、前記多孔質体とともに一体成型されてなり、前記スリットは、当該支持体側には開口しない形状とされているものとしてもよい。
これによれば、支持体と多孔質体とを一体成型する際、支持体の材料である樹脂がスリットに流れ込むことがないため、スリットによる前記復元量の増加効果が維持される。
【0013】
本発明に係るスペーサにおいて、前記多孔質体は圧縮状態のセルロース系スポンジからなり、前記外的要因の付加は、当該セルロース系スポンジに水分が接触することであるものとしてもよい。
これによれば、伸び性能が低いセルロース系スポンジの場合に、スリットによる前記復元量の増加効果がより好適に発揮される。
【0014】
本発明に係るスペーサにおいて、前記シリンダボアは複数配列され、前記凸曲部は、隣接するシリンボア間部分に向かって突出する形状とされているものとしてもよい。
これによれば、冷却水流路におけるシリンダボア間部分の冷却水の流れを規制する多孔質体の機能を向上させることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るスペーサによれば、支持体の凸曲部を含む部分に設けられる圧縮状態の多孔質体が凸曲部で復元する量を増加させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係るスペーサの第一の実施形態であって、当該スペーサを内燃機関の冷却水流路内に配置した状態を示す概略的横断平面図である。
図2】(a)は図1のX部の拡大図であり、(b)は(a)の状態から冷却水が多孔質体に接触して多孔質体が圧縮前の状態に復元した状態を示す(a)と同様図である。
図3】(a)は図1におけるY−Y線矢示断面図であり、(b)は(a)の状態から冷却水が多孔質体に接触して多孔質体が圧縮前の状態に復元した状態を示す(a)と同様図である。
図4】(a)は同実施形態のスペーサの凸曲部を含む部分をシリンダボア側から見た図であり、(b)(c)はその変形例を示す同様図である。
図5】(a)(b)は、他の変形例を示す図4(a)と同様図である。
図6】本発明に係るスペーサの第2の実施形態を示す図1と同様図である。
図7】本発明に係るスペーサの第3の実施形態を示す図であって、その要部の図1と同様図と多孔質体が膨大化した状態の部分拡大図である。
図8】(a)(b)は支持体の凸曲部に多孔質体が取付けられた従来のスペーサを示し、(a)はスペーサを内燃機関の冷却水流路内に配置した状態を示す凸曲部を含む部分の横断面図であり、(b)は(a)の状態から冷却水が多孔質体に接触して多孔質体が圧縮前の状態に復元した状態を示す(a)と同様図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の実施の形態について、図1図7を参照して説明する。図1図5は、本発明に係るスペーサの第一の実施形態を示し、図1は、同実施形態のスペーサを、内燃機関10におけるシリンダブロック1の冷却水流路3内に挿入した状態を示している。図1に示すシリンダブロック1は、3気筒の自動車用エンジン(内燃機関)10を構成するものであり、3個のシリンダボア(気筒)2…が隣接状態で直列に連なるように設けられている。1a…は、シリンダヘッド9をヘッドガスケット9aを介して(図3(b)参照)シリンダブロック1に合体締結させるためのボルト(不図示)用挿通孔である。3個のシリンダボア2…の周囲には、オープンデッキタイプの溝形状の冷却水流路3が一連に形成されている。シリンダブロック1の適所には、この冷却水流路3に通じる冷却水導入口4と冷却水導出口5とが設けられている。冷却水導出口5は、不図示のラジエータに配管接続され、ラジエータのアウトレット側は、ウォータポンプ(不図示)を介して冷却水導入口4に配管接続される。これによって、冷却水流路3とラジエータとの間で冷却水(不凍液も含む)が循環するように構成される。なお、シリンダヘッド9にも冷却水流路(不図示)が設けられる場合は、シリンダブロック1の冷却水流路3と、シリンダヘッド9の冷却水流路とが連通するよう構成される。この場合は、シリンダブロック1には、前記冷却水導出口がなくても良く、シリンダヘッド9に冷却水導出口が設けられ、これにラジエータに通じる配管が接続される。
【0018】
冷却水流路3は、シリンダボア2を取り囲むよう形成された円弧形状部3a…と、隣接するシリンダボア2,2間部分に互いに接近して対をなすよう形成されたくびれ形状部3b…とを有している。くびれ形状部3b…の溝幅は、冷却水流路3の他の円弧形状部3aの溝幅より大とされている。そして、冷却水流路3の両内壁面は、前記円弧形状部3a…及びくびれ形状部3bに対応するよう形成されたシリンダボア2側の内壁面(内側内壁面)3cと、シリンダボア2とは反対側の内壁面(外側内壁面)3dとにより構成される。各シリンダボア2内には、その軸方向に沿って往復動するピストン20が設けられ、ピストン20は、その外周部に取り付けられたピストンリング20aを介してシリンダボア壁2aの内周面2aaを摺接し得るように構成されている。なお、本実施形態における冷却水流路3の周方向dとは、シリンダボア2…を平面視した状態でシリンダボア2…を取り囲む環形状を基準とする方向である。冷却水流路3の深さ方向cとは、冷却水流路3の周方向dに直交するとともに、各シリンダボア2…の中心軸に沿った方向である。
【0019】
本実施形態のスペーサ6は、冷却水流路3内に配置されるスペーサであって、凸曲部71を有する剛性材製の支持体7と、支持体7における凸曲部71の凸曲面71aを含む側面7aに取付けられる多孔質体8とを備える。多孔質体8は、圧縮状態に維持され、所定の外的要因が付加されたことを契機として圧縮前の状態に復元する特性を有する材料からなる。多孔質体8における支持体7の凸曲部71に対応する湾曲部8bには、支持体7とは反対側に開口するスリット81が形成されている。本実施形態における支持体7は、冷却水流路3の全体形状に対応する筒形状とされた硬質合成樹脂(剛性材製)の成型体からなり、冷却水流路3のくびれ形状部3b…に対応する部分に、シリンダボア2,2間部分に向かって突出する凸曲部71…を有している。多孔質体8は、凸曲部71…の凸曲面71aを含むシリンダボア2側の側面(内面)7aに一体に固着されている。つまり、多孔質体81は、凸曲部71の凸曲面71aの一部を覆うように固着されている。スリット81は、多孔質体8における凸曲部71に対応する湾曲部8bに形成されるとともに、冷却水流路3の深さ方向c(図3(a)参照)に延びるように形成されている。多孔質体8の湾曲部8bは、支持体7の凸曲部71に沿うように形成され、シリンダボア2側の側面が支持体7側の側面に比べて曲率半径が大きい曲面に形成されている。より具体的には、スリット81は、多孔質体8の湾曲部8bのうち、凸曲部71の中央に対応する箇所に位置している。また、本実施形態のスリット81は、シリンダボア2側(支持体7とは反対側)に開口するも、支持体7側には開口しないノッチ状に形成されている。具体的には、スリット81は、多孔質体8に貫通しない程度の切り込みが施されることによって形成され、シリンダボア2側から支持体7側に向かうにつれ幅が狭くなるように形成されている。スリット81の個数を含む形成態様としては、図4(a)(b)(c)及び図5(a)(b)に示すような種々の例が採用される。この形成態様の例については後記する。
【0020】
多孔質体8は、圧縮状態のセルロース系スポンジからなり、当該セルロース系スポンジは圧縮状態に維持され、水に接触すると、これが外的要因の付加となり、これを契機として圧縮前の状態に復元する特性を有する。さらに具体的には、セルロース系スポンジとは、パルプ由来のセルロースと、補強繊維として加えられた天然繊維(例えば、綿等)とからなる天然素材である。セルロースは、親水基(OH)を有しており、化学的に水分になじみ易い性質を有する。また、セルロース系スポンジは、多孔質の素材であり、加圧した状態で乾燥させるとセルロース分子間が水素結合して圧縮状態に維持される一方、この状態から水分に晒されると水分子がセルロース分子間の水素結合を解離して圧縮状態から復元する特性を有する。セルロース系スポンジ(多孔質体8)の支持体7に対する一体化は、圧縮された状態のセルロース系スポンジを支持体7とともにインサート成型することによってなされる。したがって、支持体7を構成する樹脂材料の一部がセルロース系スポンジに含浸した状態で、セルロース系スポンジは支持体7に固着している。なお、多孔質体8のスリット81は、支持体7側には開口しない形状とされているので、多孔質体8を支持体7とともにインサート成型する際に、支持体7を構成する樹脂がスリット81内に浸入することは抑制される。
【0021】
前記のように構成されるスペーサ6は、内燃機関10における冷却水流路3内に、その開口部30から挿入されて配置される。図1図2(a)及び図3(a)は、スペーサ6が冷却水流路3内に配置された状態を示している。冷却水流路3内へのスペーサ6の配置に際しては、多孔質体8が圧縮状態に維持されているから、多孔質体8が冷却水流路3の内側内壁部3cに干渉し難く、スムースに挿入される。そして、図3(b)に示すように、シリンダブロック1の上面にシリンダヘッド9がヘッドガスケット9aを介して締結一体とされ、その後冷却水流路3内に冷却水導入口4から冷却水wが導入される。また、シリンダヘッド9の燃焼室90内での燃焼ガスの爆発作用によって、シリンダボア2内のピストン20が上下昇降動作を繰り返し、内燃機関10は稼動状態となる。
【0022】
前記のように、冷却水流路3内に冷却水wが導入されると、セルロース系スポンジからなる多孔質体8に冷却水wが接触し、多孔質体8が復元してシリンダボア2側(反圧縮方向)に膨大化する。この復元に伴って、多孔質体8の表面8aが冷却水流路3の内側内壁面3cに当接する。また、多孔質体8の復元の際、湾曲部8bのシリンダボア2側の表面を冷却水流路3の周方向dに拡大させようとする力(湾曲部8bの表面を面域方向に拡張しようとする力)が働く。この時、多孔質体8の前記凸曲部71に対応する湾曲部8bには、冷却水流路3の深さ方向cに延びるスリット81が形成されているから、多孔質体8の復元に伴いスリット81の開口部幅が拡大して、多孔質体8の伸びの不足分が補われる。したがって、多孔質体8の伸び性能が低くとも、その影響が緩和され、多孔質体8の湾曲部8bが、圧縮状態から圧縮前の状態へ復元する際の復元量の増加が図られる。これによって、多孔質体8の湾曲部8bはその対向する内側内壁面3cに当接し、冷却水wの流通が規制され、支持体7の凸曲部71と内側内壁面3cとの間を適正に冷却することができる。
【0023】
図4(a)(b)(c)及び図5(a)(b)は、多孔質体8に形成されるスリット81の種々の形成態様を示している。
図4(a)に示す例では、多孔質体8における支持体7の凸曲部71の中央に対応する部位に、冷却水流路3の深さ方向cに沿った2個のスリット81,81が形成されている。また、中央のスリット81の両側近傍に、深さ方向cに沿って各3個のスリット81…が形成されている。つまり、スリット81は、中央とその両側近傍に形成されることで、周方向dにも複数形成される。中央のスリット81とその両側のスリット81とは、冷却水流路3の周方向dに見て互いに一部が重なり合うように配置されている。この例では、いずれのスリット81…の深さ方向cに沿った長さが、多孔質体8の深さ方向cの全体に及んでいないから、多孔質体8を支持体7に一体化する際等の取扱い時に、スリット81を起点として多孔質体8が断裂する懸念を低減することができる。また、深さ方向c及び周方向dに形成される複数のスリット81…によって、実質的にスリット81…の開口部幅の総和が大きくなって、凸曲部71に対応する部分の多孔質体8が、圧縮状態から圧縮前の状態へ復元する際の復元量の増加をより効果的に図ることができる。また、スリット81は、多孔質体8の深さ方向cの全体において連続していないため、冷却水流路3の開口部30側に位置する多孔質体8の第1端部から冷却水流路3の底壁部31側に位置する多孔質体8の第2端部にかけて、冷却水が流通する経路が存在しない。したがって、多孔質体8は、くびれ形状部3bにおける冷却水流路3の深さ方向cに沿った冷却水の流れを好適に抑制することができる。
【0024】
図4(b)に示す例では、多孔質体8における湾曲部8bの中央に、冷却水流路3の深さ方向cに沿った1個のスリット81が、多孔質体8の深さ方向cの全幅に亘って形成されている。この例では、スリット81の深さ方向cに沿った長さが、多孔質体8の深さ方向cの全幅に及んでいるから、スリット81による多孔質体8の伸びの不足分を補う作用が効果的に発揮される。図4(c)に示す例では、多孔質体8における湾曲部8bの中央に、冷却水流路3の深さ方向cに沿った2個のスリット81,81のみが深さ方向に間隔を空けて形成されている。この例では、多孔質体8を支持体7に一体化する際等の取扱い時に、スリット81を起点として多孔質体8が断裂する懸念を低減することができる。
【0025】
図5(a)に示す例では、多孔質体8における湾曲部8bの中央に、冷却水流路3の深さ方向cに沿った多孔質体8の深さ方向cの全幅より短い1個のスリット81のみが形成されている。この例では、図4(a)の例に比べて、多孔質体8を支持体7に一体化する際等の取扱い時におけるスリット81を起点として多孔質体8が断裂する懸念を低減することができる。図5(b)に示す例では、多孔質体8における湾曲部8bの中央に、4個のスリット81が、同方向dに傾斜した状態で形成されている。この例では、図4(a)に示す例よりも、スリット81の数が少ないが、多孔質体8を支持体7に一体化する際等の取扱い時に、スリット81を起点として多孔質体8が断裂する懸念を低減することができる。また、実質的にスリット81…の開口部幅の総和が大きくなって、多孔質体8の湾曲部8bが、圧縮状態から圧縮前の状態へ復元する際の復元量の増加をより効果的に図ることができる。
図4(a)(b)(c)及び図5(a)(b)に示す形成態様以外の形成態様も可能であり、これら種々のスリット81の形成態様は、凸曲部71における多孔質体8の復元性等に応じて、適宜適正な形成態様が採用される。
【0026】
図6は、本発明に係るスペーサの第2の実施形態を示す。本実施形態のスペーサ6は、冷却水流路3内の一部に配置されるものであり、図例のスペーサ本体7は、第1の実施形態の支持体7をシリンダボア2…の配列方向に沿った中心線で半割した右半部の形状と略同様の形状とされている。そして、支持体7のボア2,2間部分に位置する凸曲部71の凸曲面71aを含むシリンダボア2側の面(内面)7aには、前記と同様の多孔質体8が一体とされ、この多孔質体8の凸曲部71に対応する部分には前記と同様の形成態様でスリット81が形成されている。
【0027】
本実施形態のスペーサ6は、多孔質体8が圧縮状態に維持された状態で、支持体7に一体とされ、この状態で冷却水流路3内に開口部30(図3参照)より挿入されて配置される。図6は、冷却水流路3内に当該スペーサ6が配置された状態を示している。この挿入の際には、多孔質体8は圧縮された状態であるから、多孔質体8が挿入抵抗の要因になる懸念が少ない。そして、図3(b)と同様に、シリンダヘッド9がシリンダブロック1の上面に締結一体とされて内燃機関10が組み立てられる。その後、冷却水導入口4から冷却水が導入されると、多孔質体8を構成するセルロース系スポンジに冷却水が接触し、セルロース系スポンジが圧縮前の状態に復元して冷却水流路3の幅方向に復元して膨大化する。セルロース系スポンジの復元により、多孔質体8の表面8aが、冷却水流路3の内側内壁面3cに当接する。多孔質体8における湾曲部8bには前記例と同様にスリット81が形成されているから、多孔質体8の復元の際における湾曲部8bの復元の増加を図ることができる。そして、この当接後もセルロース系スポンジの復元に伴いセルロース系スポンジが反力を受けることによって、支持体7が、冷却水流路3の外側内壁面3dに押し付けられように変位する。また、復元したセルロース系スポンジ(多孔質体8)は、冷却水流路3内を流通する冷却水の流れに対向するように位置付けられるから、冷却水の流れを規制する規制手段として機能し、当該スペーサ6の水流れ制御の性能を向上させることができる。
その他の構成は第1の実施形態と同様であるから、共通部分に同一の符号を付してその説明を割愛する。
【0028】
図7は、本発明に係るスペーサの第3の実施形態を示す。本実施形態は、支持体7がシリンダボア2とは反対側に突出する凸曲部72を有し、セルロース系スポンジからなる多孔質体8が、この凸曲部72の凸曲面72aを含むシリンダボア2とは反対側の面(外面)7bに一体とされている。図例では、冷却水流路3における円弧部形状部3aの一部の溝幅が、シリンダボア2とは反対側に拡幅され、外側内壁面3dがシリンダボア2とは反対側に2箇所で屈曲する形状部を含む湾曲形状に形成されている。支持体7は、この拡幅部分で、外側内壁面3dに略沿うようにシリンダボア2とは反対側に湾曲する形状とされている。したがって、凸曲部72は前記外側内壁面3dの屈曲形状部に対応するよう2箇所に形成されている。そして、多孔質体8における支持体7の各凸曲部72,72に対応する湾曲部8bには、前記と同様のスリット81が形成されている。スリット81は支持体7とは反対側(外側内壁面3d側)に開口するも、支持体7側には開口しないノッチ形状に形成されている。また、本実施形態では、スリット81はシリンダボア2側とは反対側(支持体2とは反対側)に開口している。
【0029】
本実施形態のスペーサ6も、冷却水流路3内にその開口部30(図3参照)から挿入されて配置される。そして、シリンダブロック1の上面にシリンダヘッド9(図3(b)参照)が締結一体とされて内燃機関10が組み立てられる。その後、冷却水流路3内に冷却水導入口4から冷却水が導入されると、多孔質体8を構成するセルロース系スポンジに冷却水が接触し、セルロース系スポンジが圧縮前の状態に復元して冷却水流路3の幅方向に復元して膨大化する。セルロース系スポンジの復元により、多孔質体8の表面8aが、冷却水流路3の外側内壁面3dに当接する。図7における拡大図は、多孔質体8が膨大化し、凸曲部72に対応する部分でも、対向する冷却水流路3の外側内壁面3dに当接した状態を示している。このような多孔質体8の膨大化した状態は、他方の凸曲部72においても同様に生じる。そして、多孔質体8の凸曲面72に対応する湾曲部8bには前記例と同様にスリット81が形成されているから、前記例と同様に、多孔質体8の復元の際における凸曲部72に対応する部分の復元量の増加を図ることができる。
その他の構成は前記例と同様であるから、共通部分に同一の符号を付してその説明を割愛する。
【0030】
なお、また、セルロース系スポンジとして、種々の種類のものが挙げられるが、特に限定されない。例えば、気泡の大きさが非常に小さい微粒品、気泡の大きさが小程度の小粒品、気泡の大きさが中程度の中粒品のいずれを用いてもよい。具体的には、気泡の大きさ(径)が0.1〜5mm程度のセルロース系スポンジを用いてもよい。これらの気泡の大きさはセルロース系スポンジの作製過程で使用される結晶ぼう硝の粒度によって決定される。また、セルロース系スポンジは、セルロースと補強繊維とからなるものが好ましいが、これに限らず、セルロース単独で構成されるものであってもよい。また、セルロース系スポンジとは、セルロース自体からなるスポンジの他、圧縮状態を保持できる程度にセルロースの水酸基を残したセルロース誘導体、例えば、セルロースエ−テル類、セルロースエステル類等からなるスポンジ、或いは、これらの混合物からなるスポンジのいずれかから選ばれるものであってもよい。
また、多孔質体8を構成する素材としては、前記セルロース系スポンジ以外に、水膨潤性スポンジや、水可溶性のバインダー或いは所定温度以上の温度で溶解するバインダーによって圧縮状態に維持された発泡体又は非発泡性の多孔質体からなるものでもよい。
また、多孔質体8の支持体7に対する一体化は、インサート成型に限らず、接着剤等や適宜治具による機械的な固着によって行ってもよい。
【0031】
また、スリット81は、多孔質体8の圧縮状態において支持体7とは反対側に開口するような形状に限定されるものではなく、多孔質体8の圧縮状態では開口していなくとも、多孔質体8の膨大化時に開口可能であればよい。スリット81の大きさは適宜変更してもよく、例えば、多孔質体8に切り込みを入れる代わりに、多孔質体8の一部を除去することでスリット81を形成してもよい。また、多孔質体8に形成されるスリット81は、支持体7側には開口しない例について述べたが、支持体7側にも開口するものも採用可能である。特に、支持体7と多孔質体8とをインサート成型以外の方法で一体化する場合(例えば、接着により一体化する場合や、支持体7が合成樹脂以外の材料からなる場合)は、スリット81内に樹脂が浸入する懸念がないので支持体7側に開口があっても差し支えない。スリット81の形成位置は、多孔質体8の湾曲部8bの中央に限らず、湾曲部8bの基端側に形成してもよい。さらに、スペーサ本体7が合成樹脂の成型体からなる例について述べたが、金属など、多孔質体8を構成する素材より剛性を有するものであれば、他の材料からなるものであってもよい。また、スペーサ本体7に対する多孔質体8を固着させる位置(周方向dの位置、冷却水流路3の深さ方向cの位置)や多孔質体8の数(周方向dの数、冷却水流路3の深さ方向cの数)は、冷却水流路3内におけるスペーサ6の安定性、或いは、冷却水流路3内を流通する冷却水wの冷却機能等、求められる仕様に応じて適宜変更してもよい。また、冷却水流路3内に本発明のスペーサを複数配置してもよく、配置するスペーサの数は、冷却水流路3内のスペースや求められる仕様等に応じて適宜変更してもよい。さらにまた、本発明のスペーサが適用される内燃機関として、3気筒の内燃機関を例示したが、これに限らず他の気筒数のエンジンにも適用可能である。
【符号の説明】
【0032】
10 内燃機関
1 シリンダブロック
2 シリンダボア
3 冷却水流路
6 スペーサ
7 支持体
7a,7b 支持体の側面
71,72 凸曲部
71a,72a 凸曲面
8 多孔質体
81 スリット
c 深さ方向
d 周方向
w 冷却水
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8