特許第6863592号(P6863592)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6863592
(24)【登録日】2021年4月5日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】シルトフェンス
(51)【国際特許分類】
   E02B 15/00 20060101AFI20210412BHJP
【FI】
   E02B15/00 B
【請求項の数】9
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2018-12575(P2018-12575)
(22)【出願日】2018年1月29日
(65)【公開番号】特開2019-131969(P2019-131969A)
(43)【公開日】2019年8月8日
【審査請求日】2019年6月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】314015974
【氏名又は名称】アサヒ産業有限会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104949
【弁理士】
【氏名又は名称】豊栖 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100074354
【弁理士】
【氏名又は名称】豊栖 康弘
(72)【発明者】
【氏名】安田 英治
【審査官】 柿原 巧弥
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭51−062537(JP,A)
【文献】 特開2016−132876(JP,A)
【文献】 特開平10−237850(JP,A)
【文献】 特開2011−168973(JP,A)
【文献】 特開2013−245532(JP,A)
【文献】 特開2008−038337(JP,A)
【文献】 特開2007−056571(JP,A)
【文献】 特開平04−016614(JP,A)
【文献】 特開昭62−182308(JP,A)
【文献】 米国特許第07828494(US,B1)
【文献】 特開2001−295255(JP,A)
【文献】 特開平02−200132(JP,A)
【文献】 特開2013−158251(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 3/00
E02B 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水に浮く浮きとなるフロート部と、
前記フロート部の下部に連結されたフェンス部と、
前記フェンス部の下端に固定されたウエイト部と、
を備えるシルトフェンスであって、
前記フェンス部が、可撓性を有するシート材で構成されると共に、前記フェンス部の表面の複数箇所に植物を配置してなり、
前記植物が、1株ないし複数株の個体を備える植物ユニット、あるいは1本ないし複数本の植物片を備える植物ユニットとして、前記フェンス部の表面に連結具を介して交換自在に配置されてなるシルトフェンス。
【請求項2】
請求項に記載されるシルトフェンスであって、
前記植物が水生植物で、前記植物ユニットが前記水生植物を着生させる着生部材を備えることを特徴とするシルトフェンス。
【請求項3】
請求項に記載されるシルトフェンスであって、
前記植物が陸上植物で、前記陸上植物を茎で裁断して植物片としてなるシルトフェンス。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一に記載されるシルトフェンスであって、
前記フェンス部は、前記シート材の表面が複数列の帯状の補強シートで補強されてなり、前記補強シートに前記植物ユニットが連結されてなるシルトフェンス。
【請求項5】
請求項に記載されるシルトフェンスであって、
前記補強シートが、前記シート材の表面に上下左右に格子状に逢着されて前記シート材を補強しており、該補強シートの交差部に前記植物ユニットを連結してなるシルトフェンス。
【請求項6】
水に浮く浮きとなるフロート部と、
前記フロート部の下部に連結されたフェンス部と、
前記フェンス部の下端に固定されたウエイト部と、
を備えるシルトフェンスであって、
前記フェンス部が、可撓性を有するシート材で構成されると共に、前記フェンス部の表面の複数箇所に植物を配置してなり、さらに、
前記フェンス部に配置された前記植物にエアーを供給するエアー供給装置を備えており、
前記エアー供給装置が、
前記フェンス部の下部に配置されて、供給されるエアーを気泡として吐出する気泡発生部と、
前記気泡発生部に給気ホースを介してエアーを供給するエアー供給ポンプとを備え、
前記気泡発生部から吐出される気泡を前記植物に供給するようにしてなるシルトフェンス。
【請求項7】
水に浮く浮きとなるフロート部と、
前記フロート部の下部に連結されたフェンス部と、
前記フェンス部の下端に固定されたウエイト部と、
を備えるシルトフェンスであって、
前記フェンス部が、可撓性を有するシート材で構成されると共に、前記フェンス部の表面の複数箇所に植物を配置してなり、さらに、
前記フロート部を発光させる発光手段を備えており、
前記発光手段が、
前記フロート部に内蔵されたLEDと、
前記LEDに電力供給する電源部と、
前記LEDの発光状態を制御する制御部とを備えており、
前記フロート部が、
浮き部材の周囲を被覆するカバー部を透光性部材として、内蔵されるLEDの発光を外部に透過させるようにしてなるシルトフェンス。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一に記載されるシルトフェンスであって、
前記フェンス部が、前記植物が配置される面の外観を緑色としてなるシルトフェンス。
【請求項9】
請求項1からのいずれか一に記載されるシルトフェンスであって、
前記植物が、前記フェンス部の上部から下部にわたって配置されてなるシルトフェンス
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海、河川、湖沼、池、ダム等の沿岸や水底の土木工事の際に、工事領域の周辺水域の周りに設置されて、工事に伴って発生する汚濁が外部の水域に拡散されるのを防止するシルトフェンスであって、とくに、シルトフェンスの外側の水域における水中環境を良好にするシルトフェンスに関する。
【背景技術】
【0002】
海や河川、湖沼等において、護岸を整備したり、水底を浚渫する土木工事の際には、工事領域の水質が悪化する。とくに、油圧ショベル等の重機で水底や岸辺を掘削すると、水底の泥や土、へドロ等の沈殿物が掻き上げられて攪拌される結果、周辺水域に汚濁が発生して水質が汚染される。発生した汚濁が、工事領域の周辺水域だけでなく、さらに外部の広い水域にまで拡散すると、汚濁による環境悪化が懸念される。
【0003】
このような工事領域からの汚濁の拡散を防止するために、工事領域の周囲には通常シルトフェンスが設置される。シルトフェンスは、水面に浮くフロート部と、このフロート部の下方に連結されたシート状のフェンス部と、フェンス部の下端に設けられた錘部と備え、沈降する錘部でフェンス部を上下に張設して、フェンス部を水中にスクリーン状に張設している。以上の構造のシルトフェンスは、フロート部を水面に浮遊させる状態で、フェンス部を水面から水底に向かって垂下させて設置して、工事領域の汚濁をフェンス部でブロックして、汚れが外部の水域に拡散するのを防止している。
【0004】
以上のように、シルトフェンスは、土木工事中において、工事領域で発生する汚濁が外部の水域に拡散するのを防止する働きがある。しかしながら、このようなシルトフェンスは、工事が終了しても、直ちに撤去できない問題点がある。それは、工事終了後においても、工事領域の周辺水域には汚濁が残存しているからである。このため、工事が終了した後も、この水域の汚濁が改善されるまでシルトフェンスを撤去することができず、長期間にわたって、例えば数ヶ月、長い場合には1年以上もシルトフェンスを設置した状態に保持することがある。
【0005】
このように、海や河川、湖沼等の護岸において、長期間にわたってシルトフェンスを設置した状態に保持するのは、その水域で生存する魚等の水棲動物にとって決して好ましい環境とは言えない。それは、人工物であるシート状のシルトフェンスが水中に張設された状態に保持されるからである。とくに、シルトフェンスは、水中の広い範囲にわたってシート状のフェンス部をスクリーン状に配置するため、小魚やエビ等の水棲動物が身を潜める場所がなく、大型の魚に狙われやすくなるため、これらの水棲動物が根付かなくなってしまう。
【0006】
このため、長期間にわたって、このようなシルトフェンスが配置された水域にあっては、水中の生態系が崩れてしまい、シルトフェンスを除去した後も、水棲動物の生存環境が直ぐには元には戻らず、魚類が生存する環境になるまでに非常に長い時間が必要になる。特に、1度崩れた生態系は直ぐに元には戻らず、場合によっては、魚類が生存できない状態が永年的に継続される虞もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012−180733号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来のこのような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的の一は、工事領域の周辺水域の周りに設置されるシルトフェンスの外側の水域における水中環境を良好にして、魚などの水棲動物に優しい水中環境を実現できるシルトフェンスを提供することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明のシルトフェンスによれば、水に浮く浮きとなるフロート部1と、フロート部1の下部に連結されたフェンス部2と、フェンス部2の下端に固定されたウエイト部3とを備えるシルトフェンスであって、フェンス部2が、可撓性を有するシート材5で構成されると共に、フェンス部2の表面の複数箇所に植物4を配置している。
【0010】
上記構成によると、フェンス部の表面の複数箇所に植物を配置しているので、植物が配置された面を汚濁領域の外側の水域に配置することで、シート材の表面に配置された植物を水中に設置して、水棲動物に優しい環境を実現することができる。水中に配置される植物は、水棲動物、例えば、小型の魚類や甲殻類、またはこれらの稚魚やプランクトン等の生物であって、とくに、食物連鎖の底辺側に属する水棲動物の隠れ家となり、これらの生物の生存環境を改善して、多数の水棲動物を根付かせることができる。このため、従来のシルトフェンスのように、水棲動物が警戒して近づかなくなるのを有効に防止して長期間にわたって水棲動物を保護して周辺水域の生態系が崩れるのを有効に防止できる。
【0011】
本発明のシルトフェンスは、フェンス部2が、植物4が配置される面の外観を緑色とすることができる。
【0012】
上記構成によると、フェンス部の表面であって植物が配置される面の外観を緑色とするので、水中に生息する水棲動物にストレスを与えることなく、種々の水棲動物が集まり易い環境を実現できる。このようにフェンス部の外観を緑色とするシルトフェンスは、魚付保安林と同様の効果により、森林色に近似する外観のフェンス部に水中の魚が根付くのを促進できる。
【0013】
本発明のある態様にかかるシルトフェンスは、植物4が、1株ないし複数株の個体を備える植物ユニット5、あるいは1本ないし複数本の植物片を備える植物ユニット7として、フェンス部2の表面に連結具14を介して交換自在に配置する。
【0014】
上記構成によると、フェンス部に配置される植物を、1株ないし複数株の個体、あるいは1本ないし複数本の植物片を備える植物ユニットとしてフェンス部の表面に連結具14を介して交換自在に配置するので、フェンス部の複数箇所に対して簡単かつ容易に植物を配置できる。また、植物ユニットを連結具14を介して交換自在に配置するので、植物が経時的に劣化したり、シルトフェンスを別の現場で使用する際には、植物を新しいものに交換しながら使用できる。
【0015】
本発明のシルトフェンスは、植物4を水生植物4aとして、植物ユニット7が水生植物4aを着生させる着生部材21を備えて、この着生部材21に水生植物4aを着生させることができる。
【0016】
上記構成によると、植物を水生植物として、植物ユニットが水生植物を着生部材に着生させることで、長期間にわたって植物を水中で生存させることができる。
【0017】
本発明のシルトフェンスは、植物4を陸上植物4bとして、陸上植物4bを茎で裁断して植物片とすることができる。
【0018】
上記構成によると、植物を陸上植物とすると共に、この陸上植物を茎で裁断して植物片とし、1本ないし複数本の植物片で植物ユニットを構成するので、身近に多く存在する陸上植物を使用することで、簡単かつ安価に植物を調達しながらフェンス部の表面に植物を配置できる。
【0019】
本発明のシルトフェンスは、フェンス部2が、シート材5の表面を複数列の帯状の補強シート6で補強して、補強シート6に植物ユニット7を連結することができる。
【0020】
上記構成によると、シート材を補強シートで補強することで、フェンス部全体を補強できると共に、この補強シートに植物ユニットを連結することで、植物ユニットの連結部分が破損するのを有効に防止できる。とくに、シルトフェンスは、全体の重量を軽量化し、かつ体積を小さくするために、シート材を薄くして軽量にすることが好ましいが、このように薄くて軽いシート材は破損しやすくなる。このシルトフェンスは、シート材を補強シートで補強するので、シート材が破損するのを有効に防止して長期間にわたって使用できる。とくに、このシルトフェンスは、補強シートを帯状として複数列に配置するので、全体の重量や体積が大きく増加するのを抑制しながらフェンス部全体を効果的に補強できる。
【0021】
本発明のシルトフェンスは、補強シート6をシート材5の表面に上下左右に格子状に逢着してシート材5を補強し、補強シート6の交差部に植物ユニット7を連結することができる。
【0022】
上記構成によると、シート材の表面に逢着される補強シートを上下左右に配置して格子状に連結するのでシート材をより強固に補強できる。とくに、補強シートをシート材の上下左右に逢着する構造は、シルトフェンスの上下方向の強度と長さ方向の強度を効果的に強化できる。シルトフェンスは、シート材で構成されるフェンス部の下端にウエイト部を備えているので、水中に設置し、あるいは水中から引き上げる際にシート材に負荷がかかりやすくなるが、シート材の表面に上下方向に補強シートを逢着して補強することで、このような負荷に対して効果的に補強でき、シート材の破損を有効に防止できる。また、シルトフェンスは、河川や沿岸に設置されるので、水流や潮の干満により長さ方向に負荷を受けることがあるが、シート材の表面に左右方向に補強シートを逢着することで、シルトフェンスの長さ方向における強度を強くしてシート材が破損するのを有効に防止できる。さらに、格子状に逢着される補強シートの交差部に植物ユニットを連結するので、植物ユニットの連結部分にかかる負荷を、交差する補強シートで支持して、シート材が破損するのを効果的に防止できる。
【0023】
本発明のシルトフェンスは、植物4をフェンス部2の上部から下部にわたって配置することができる。
【0024】
上記構成により、フェンス部の上部から下部にわたって植物を配置するので、水底に生息する水棲動物から、水面近くに生息する水棲動物まで、広範囲にわたって種々の水棲動物の生活環境を良化できる。
【0025】
本発明の他の態様に係るシルトフェンスは、さらに、フェンス部2に配置された植物4にエアーを供給するエアー供給装置8を備えることができる。エアー供給装置8は、フェンス部2の下部に配置されて、供給されるエアーを気泡として吐出する気泡発生部61と、気泡発生部61に給気ホース62を介してエアーを供給するエアー供給ポンプ63とを備えて、気泡発生部61から吐出される気泡を植物4に供給する。
【0026】
上記構成により、フェンス部の下部に配置された気泡発生部から気泡を吐出することで、フェンス部に配置された植物にエアーを供給できる。これにより、フェンス部に配置された植物や、この植物を隠れ家として生息する水棲動物に多量の酸素を供給でき、フェンス部の近傍における生活環境をさらに良好にできる。
【0027】
本発明の他の態様に係るシルトフェンスは、さらに、フロート部1を発光させる発光装置9を備えることができる。発光装置9は、フロート部1に内蔵された発光素子65と、発光素子65に電力供給する電源部66と、発光素子65の発光状態を制御する制御部67とを備えて、フロート部1が、浮き部材11の周囲を被覆するカバー部12を透光性部材として、内蔵される発光素子65の発光を外部に透過させる。
【0028】
上記構成により、フロート部に内蔵された発光素子を発光させることで、夜間等において、フロート部の位置を周囲に知らせることができ、近辺を通過する船舶にシルトフェンスの位置を明確に表示することができる。これにより、夜間等における周辺水域の安全を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の一実施形態にかかるシルトフェンスの使用状態を示す平面図である。
図2図1に示すシルトフェンスの使用状態を示す断面図である。
図3図2に示すシルトフェンスを外側から見た正面図である。
図4図3に示すシルトフェンスの拡大正面図である。
図5】植物ユニットの他の一例を示す斜視図である。
図6】植物ユニットの他の一例を示す斜視図である。
図7】植物ユニットの他の一例を示す斜視図である。
図8】植物ユニットの他の一例を示す斜視図である。
図9】植物ユニットの他の一例を示す斜視図である。
図10】シルトフェンスの他の一例を示す正面図である。
図11】本発明の他の実施形態にかかるシルトフェンスの正面図である。
図12図11に示すシルトフェンスの使用状態を示す断面図である。
図13】本発明の他の実施形態にかかるシルトフェンスの正面図である。
図14】本発明の他の実施形態にかかるシルトフェンスの拡大正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明に係る実施形態及び実施例を、図面に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施形態及び実施例は、本発明の技術思想を具体化するためのシルトフェンスを例示するものであって、本発明は、シルトフェンスを以下のものに特定しない。なお、各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。さらに以下の説明において、同一の名称、符号については同一もしくは同質の部材を示しており、詳細説明を適宜省略する。さらに、本発明を構成する各要素は、複数の要素を同一の部材で構成して一の部材で複数の要素を兼用する態様としてもよいし、逆に一の部材の機能を複数の部材で分担して実現することもできる。また、一部の実施例、実施形態において説明された内容は、他の実施例、実施形態等に利用可能なものもある。
【0031】
本発明のシルトフェンスは、海、河川、湖沼、池、ダム等の沿岸や水底の土木工事において、工事領域の周辺水域の周りに設置されて、工事に伴って発生する汚濁が外部の水域に拡散されるのを防止する。さらに、本発明のシルトフェンスは、汚濁が外部に拡散するのを防止することに加えて、シルトフェンスの外側の水域における水中環境を良好にして、魚等の水棲動物に優しい環境を実現できるようにしている。なお、本明細書において、海、河川、湖沼、池、ダム等の沿岸や水底で行われる土木工事とは、護岸工事、浚渫工事、埋め立て工事、港湾工事、改修工事等の種々の工事を含む広い意味で使用する。
【0032】
本発明のシルトフェンスは、図1に示すように、沿岸で施工される土木工事により工事領域51の周辺水域の汚濁が外部に拡散するのを防止するために、工事領域51の周囲に沿って設置される。図1は、海岸で土木工事が行われる際に、この工事領域51の周辺水域を囲む状態でシルトフェンス100を設置して、工事領域51の周辺水域と外部の水域とを遮断する状態を示している。ここで、工事領域51の周辺水域であって、シルトフェンス100に囲まれる水域は、工事により発生する汚濁が拡散される汚濁領域52となる。シルトフェンス100は、汚濁領域52の汚濁が外部に拡散するのを防止している。
【0033】
(実施形態1)
図1ないし図3に示すシルトフェンス100は、水に浮く浮力を有するフロート部1と、このフロート部1の下部に連結されて水面から水底に向かって配置されたフェンス部2と、フェンス部2の下端に連結されたウエイト部3と、フェンス部2の表面の複数箇所に配置された植物4とを備えている。図のシルトフェンス100は、フェンス部2の片側面であって、汚濁水域52の外側の水域に対向する面に植物4を配置している。
【0034】
図1に示すシルトフェンス100は、工事領域51の周辺の汚濁水域52を完全にカバーできる全長を有している。すなわち、フロート部1、フェンス部2、及びウエイト部3の全長を、汚濁水域52をカバーできる全長として、工事領域51から発生する汚濁を汚濁水域52内で封じ込めて、外部の水域に広がるのを防止している。このシルトフェンス100は、図1に示すように、工事領域51から所定の距離だけ離れた位置に配置される。シルトフェンス100を汚濁水域52の定位置に固定するために、図1に示すシルトフェンス100は、所定の全長を有するフロート部1の中間部の複数箇所に、サブフロート31とアンカー32を連結して固定している。図1図2に示すシルトフェンス100は、フロート部1の両側に上部ワイヤー等の連結線材33を介してサブフロート31を連結すると共に、これ等のサブフロート31に、アンカーワイヤー34を介してアンカー32を固定している。アンカー32は水底に設置する状態で配置されており、その自重によって、シルトフェンス100を定位置に保持して、シルトフェンス100が潮流やうねり、干満等で移動するのを防止している。
【0035】
(フロート部1)
フロート部1は、図3に示すように、水に浮く浮力を有する浮き部材11を備えている。浮き部材11には、円柱状の発泡スチロールや中空状のプラスチック容器等の大きな浮力を有する部材が使用できる。フロート部1は、発泡スチロールやプラスチック容器からなる浮き部材11をカバー部12で被覆して定位置に保持している。カバー部12は、例えば、可撓性を有するシート材を筒状に形成したもので、内部に浮き部材11を収納すると共に、複数個の浮き部材11を長さ方向に数珠状に連結してフロート部1としている。
【0036】
フロート部1は、筒状のカバー部12に収納される複数の浮き部材11を隙間なく配置することができる。このフロート部1は、水面上からの汚濁の拡散を確実に防止できる。ただ、フロート部1は、筒状のカバー部12に収納される複数の浮き部材11を多少の隙間を設けて配置することもできる。このフロート部1は、隣接する浮き部材11の間の隙間において、容易に折曲させることができ、水面上に設置されるフロート部1の自由度を向上できる。図3に示すフロート部1は、浮き部材11の両端面のコーナー部を湾曲面状に面取りしており、隣接する浮き部材11の境界においてフロート部1を折曲し易くしている。
【0037】
(フェンス部2)
フェンス部2は、水中にスクリーン状に配置されるシート材5を備えており、水面から水底にわたって配置されて汚濁水域52の汚濁が外部に拡散するのを防止する。フェンス部2のシート材5は、可撓性を有しており、好ましくは液体成分は透過させるが、固体成分は通過させないものを使用する。このようなシート材5として、例えば、ポリエステル等のプラスチック繊維を所定の大きさの目となるように形成された織物シートや編物シート、あるいはプラスチックシートが使用できる。ただ、フェンス部2には、液体成分を透過させない非透水性シートを使用することもできる。
【0038】
さらに、フェンス部2は、好ましくは植物4が配置される面の外観を緑色とする。このシルトフェンス100は、植物4が配置される外側面の外観を緑色とすることで、水中に生息する水棲動物が集まり易い環境を実現できる。とくに、フェンス部2の外観を緑色とするシルトフェンス100は、古くから伝承されてきた魚付保安林と同様の効果が期待でき、水中に生息する魚にストレスを与えることなく、優しい環境を実現してこれらの魚が根付くのを促進できる。
【0039】
このように、外観を緑色とするフェンス部2は、好ましくはシート材5として緑色に着色されたものを使用する。本明細書において、緑色とは、黄緑色のような明るい緑色から、深緑色のような暗い緑色までを含む広い意味で使用する。緑色のシート材5は、単色で色合いが均一なものとすることもできるが、部分的に濃淡をつけることもでき、また複数の領域によって色合いや濃淡を変化させてもよい。とくに、水棲動物が違和感を感じることのない自然な濃淡や色合い、例えば迷彩柄とすることもできる。なお、水中に浸漬して使用されるシルトフェンス100は、深くて視界の悪い水底部に配置した状態では、太陽光が届きにくくなるため、地上における色合いよりも暗く見えることがある。したがって、本明細書においてシート材を緑色にするとは、水中に沈める前の状態、すなわち、地上での色調を意味するものとする。
【0040】
シート材5は、水棲動物のストレスや警戒心を軽減し、かつ魚が好んで接近するようにするために緑色とすることが好ましいが、本発明は、必ずしもシート材の色を緑色には特定しない。シート材は、シルトフェンスとして最も一般的に使用される白色とすることも、茶色や黒色、紫色等の暗い色とし、あるいは青色、黄色、ベージュ色のような明るい色とすることもできる。
【0041】
さらに、図3に示すフェンス部2は、シート材5を補強するために、シート材5の表面に複数列の帯状の補強シート6を連結している。図に示す補強シート6は、布地、織布、不織布、あるいはプラスチック繊維からなる織物シートや編物シート等のシート部材を細長い帯状としたもので、シート材5よりも強度が強いものを使用する。フェンス部2は、この帯状の補強シート6をフェンス部2の外周縁に沿って逢着して外周部を補強すると共に、フェンス部2の中間部には複数列にわたって上下左右に格子状に逢着することでシート材5を補強している。
【0042】
図3に示すフェンス部2は、全体として大きな1枚のシート状に形成しているが、その製造工程においては、複数枚のシート材5を外周縁部で連結することで所望の大きさに形成することができる。例えば、1枚のフェンス部2の大きさを、上下幅(H)が15m、全長(L)が20mとする場合、1m〜数mの縦横の長さを有するシート材5を複数枚つなぎ合わせることで所定の大きさのフェンス部2とすることができる。このような場合においても、複数のシート材5のつなぎ目となる連結部分を補強シート6を介して逢着することで、連結部分の強度を高めて補強し、この部分から分離するのを有効に防止できる。
【0043】
補強シート6は、複数のシート材5のつなぎ目だけでなく、1枚のシート材5の中間部にも逢着して補強される。フェンス部2の中間部において、上下方向に逢着される補強シート6は、フェンス部2の上端から下端にわたって設けられる。これにより、フェンス部2の上下方向の強度を効果的に強化できる。また、フェンス部2の中間部に左右方向に逢着される補強シート6は、フェンス部2の両端を連結する状態で設けられる。これにより、フェンス部2の長さ方向の強度を効果的に強化できる。シルトフェンス100は、水中に浸漬した状態から水面上に引き上げる際には、下端部にウエイト部3が固定され、かつ全体が水分を含んでいるため全体の重量が大きくなる。このため、フェンス部2の外周部及び中間部に複数列の帯状の補強シート6を上下左右に格子状に逢着することで、フェンス部2全体の強度を強くすることができ、シルトフェンス100を引き上げる際にシート材が破損するのを有効に防止できる。
【0044】
ここで、シート材5に複数列にわたって逢着される補強シート6の間隔(k)は狭くするほどフェンス部2の強度を高くすることができる。反対に補強シート6の間隔(k)を広くすると、製造にかかる手間を低減して低コストにできる。したがって、フェンス部2は、これらのことを考慮して使用する補強シート6の材質、横幅(d)、隣接する補強シート6同士の間隔(k)を決定する。例えば、補強シート6として布材を使用する場合、補強シート6の横幅(d)を3〜10cm、好ましくは4〜8cmとし、補強シート6間の間隔(k)を30cm〜200cm、好ましくは50cm〜100cmとする。
【0045】
フェンス部2は、好ましくは補強シート6についても緑色とする。これにより、フェンス部2の表面全体を緑色の外観とすることができる。ただ、補強シート6は、シート材5に比較してフェンス部2全体に対する面積が小さいので、必ずしも緑色に特定することはなく、他の色調、例えば、黒色や茶色、紫色、青色、黄色、ベージュ色等とすることもできる。
【0046】
フェンス部2は、周辺水域52の汚濁が外部に拡散するのを防止するために、好ましくは水面から水底まで延長された上下幅(H)を有する。さらに、フェンス部2は、図2に示すように、水中に上下方向に配置された状態で前後方向にたわむことができるように、可撓性を有している。可撓性を有するフェンス部2は、図示しないが、海で使用される場合においては、潮の干満やうねり等によって海面が上下動することがあるが、このような場合においても下端のウエイト部3が海底から離れることがないように、十分な上下幅(H)を有することが好ましい。たとえば、干潮時における水深を5mとする海域においては、この水深よりも1m以上、好ましくは3m以上大きな上下幅(H)とする。これにより、下端に設けたウエイト部3が海底から離れて、この隙間から汚濁が外部に漏れるのを防止できる。以上のように、フェンス部2は、これを使用する水域の水深や潮の干満等を考慮して最適な上下幅(H)とすることができる。
【0047】
(ウエイト部3)
ウエイト部3は、フェンス部2の下端縁に沿って設けられた錘である。ウエイト部3は、自重で水底まで沈降すると共に、フェンス部2の下端を下方に引っ張って水底まで沈降させる比重を有する。このようなウエイト部3として金属製のチェーンが使用できる。金属製のチェーンであるウエイト部3は、複数のリングを連結することで、自由な形状に変形可能であって、水底に沿って敷設される状態で、水底面との間に隙間を生じさせることなく理想的に沈降できる。このような金属として、鉄や鉛等の比重の大きな金属が使用できる。とくに、鉄製のチェーンは汎用性に優れて安価で加工が簡単である。
【0048】
チェーンであるウエイト部3は、図3に示すように、複数箇所がフェンス部2の下端に連結されてフェンス部2に固定される。以上のウエイト部3は、水底に接触するまで沈降することでフェンス部2の下端を水底まで沈降させて、シート状のフェンス部2を水中にスクリーン状に広げた状態で配置することができる。
【0049】
図3に示すシルトフェンス100は、フロート部1、フェンス部2、及びウエイト部3からなるフェンスユニット10を形成しており、このフェンスユニット10を複数連結することで、図1に示すように、工事領域51の汚濁水域52全体をカバーできる全長に形成される。フロート部1は、複数の浮き部材11を収納してなるカバー部12の対向する端縁が互いに連結される。フェンス部2は対向する側縁が互いに連結される。ウエイト部3は、対向する端縁を互いに連結することができる。このような連結には、図示しないが、ロープや連結金具等が使用できる。
【0050】
(植物4)
植物4は、フェンス部2の表面の複数箇所に配置される。図2に示すシルトフェンス100は、フェンス部2の片側面であって、汚濁水域52の反対側の面、すなわち外側水域53に対向する面に植物4を配置している。この植物4は、外側水域53の水中に配置されて、外側水域53における水中環境を良好にして、外側水域53に生息する水棲動物の生存環境を保護する。
【0051】
(植物ユニット7)
植物4は、図4図6に示すように1株ないし複数株の個体を備える植物ユニット7とし、あるいは1本ないし複数本の植物片を備える植物ユニット7としてフェンス部2の表面に配置される。フェンス部2に配置される植物4は、好ましくは、複数株の個体、または複数本の植物片を一つに束ねた植物ユニット7として、複数の植物ユニット7を所定の配列でフェンス部2に配置される。このように、複数の植物4を一つに束ねてフェンス部2に配置する構造は、フェンス部2の表面に効率よく多数の植物4を配置できる。ただ、植物は、必ずしも複数株または複数本を一つに束ねた植物ユニットとして配置する必要はなく、植物ユニット7を1株の個体、または1本の植物片で構成することもできる。
【0052】
フェンス部2に配置される植物4には、水生植物4aを使用することができる。水生植物4aは、例えば、淡水中で生息する水草や水藻とし、あるいは海水中で生息する海草や海藻とすることができる。これらの水生植物4aは、水中で生存できるため、水中に配置される植物として長期間にわたって理想的に配置される。このような水生植物4aの選択は、シルトフェンス100が設置される水域に応じて決定することができる。例えば、河川や湖沼等の淡水域に設置されるシルトフェンスでは、淡水中で生息する水草や水藻を使用し、沿岸部等の海水域に設置されるシルトフェンスでは、海水中で生息する海草や海藻を使用することで、長期間にわたって植物4を生存状態に保持できる。ただ、水生植物4aは、必ずしも淡水域と海水域とで使用する植物を区別する必要はなく、淡水域や汽水域に設置されるシルトフェンスに海水中で生息する海草や海藻を使用し、海水域や汽水域に設置されるシルトフェンスに淡水中で生息する水草や水藻を使用することもできる。
【0053】
植物4を水生植物4aとする植物ユニット7は、図4図6に示すように、水生植物4aを着生させる着生部材24を備えて、この着生部材24に水生植物4aを着生させることができる。着生部材24は、水生植物4aの根や仮根を侵入させて張り巡らせることができるような部材であって、好ましくは無数の空隙を有する多孔質な部材が使用できる。このような着生部材24として、連続気泡を有するプラスチック発泡体24A、例えばウレタンフォームやポリエチレンフォーム等からなるブロック材、あるいは軽石や火山石等の多孔質な岩石24B、あるいはまた多孔質に焼成されたセラミック等の焼成体が使用できる。これらの着生部材24は、植物24の根や仮根を着生させることで、植物24を強固に固着でき、また、植物24の生育に適した状態で水中に配置できる。ただ、着生部材24は、必ずしも多孔質な部材には特定せず、図6に示すように、流木や古木のように、表面にひび割れやすき間を有する木材24Cを使用することもできる。このように、植物24の根や仮根を着生させる着生部材24は、無数の隙間に根や仮根を侵入させることで植物24を強固に固着できる。ただ、着生部材24に根が固着するには時間がかかるので、図6に示すように、線材や紐状体からなる結束材25を介して着生部材24の表面に植物24を固定してもよい。着生部材24の表面に固定された植物24の根や仮根は、経時的に着生部材24に着生するからである。
【0054】
さらに、植物ユニット7は、複数の植物24を収納部材26に収納することもできる。このような収納部材26として、図7に示すように、植物栽培用として汎用されるプラスチック製のポット26Aが使用できる。さらに、収納部材26には、木製や竹製のポットを使用することも、あるいは、図8に示すように、木製、竹製、またはプラスチック製の筒体26Bを使用することもできる。これらの収納部材26は、内部に複数の植物4を収納して固定した状態で植物ユニット7としてフェンス部2に連結し、あるいは、植物4の根や仮根を着生部材24に固着させた状態で内部に収納して植物ユニット7としてフェンス部2に連結することができる。
【0055】
さらに、植物ユニット7としてフェンス部2に配置される植物4は、必ずしも水生植物4aとする必要はなく、図9に示すように、陸上植物4bとすることもできる。陸上植物4bである植物4は、水中では生存できないが、このような陸上植物4bを水中に配置しても直ぐには枯れることなく、しばらくの間は、葉や茎が劣化することなく、ある期間は植物の葉が茂った状態に保持されるからである。このような陸上植物4bは、例えば、陸上で繁った木や草を茎や枝で裁断して植物片とし、1本ないし複数本の植物片で植物ユニットを構成してフェンス部2に連結することができる。
【0056】
(連結具14)
以上の植物ユニット7は、連結具14を介してフェンス部2の表面の複数箇所に連結される。図4に示す植物4は、複数株の水草を束ねて植物ユニット7としており、この植物ユニット7を連結具14を介してフェンス部2の表面に交換自在に連結している。図に示す植物ユニット7は、連結具14を線材や紐である紐状体14Aとしており、この紐状体14Aをフェンス部2に設けた連結部13に結束して脱着自在に固定している。ただ、連結具14は、紐状体14Aに特定せず、植物ユニットをフェンス部の連結部に脱着自在に連結できる他の全てのもの、例えば、線材、結束バンド、固定金具等が使用できる。
【0057】
(連結部13)
植物ユニット7は、連結具14を介してフェンス部2に連結されるが、フェンス部2は、植物ユニット7を連結するための連結部13を備えている。図3及び図4に示すフェンス部2は、短冊状のシート部材を中間で折り返すと共に、両端部を積層して固定具15でフェンス部2に固定して輪状の連結部13を設けている。連結部13を構成するシート部材には、補強シート6と同じ材質のものを使用することができる。図に示す固定具15は、ボルトとナットで、ボルトのねじ部をフェンス部2に貫通させると共に、裏面側においてナットを挿通することで連結部13をフェンス部2に固定している。ただ、連結部13は、シート部材の両端部をフェンス部2に逢着して固定することもできる。
【0058】
さらに、図に示すフェンス部2は、シート材5の表面を複数列の帯状の補強シート6で補強しており、この補強シート6に連結部13を固定している。このため、連結部13に連結される植物ユニット7の負荷がかかる連結部分を補強シート6で支持することでシート材が損傷されるのを有効に防止できる。とくに、図3図4に示すフェンス部2は、複数列の帯状の補強シート6を上下左右に延びる格子状に配置してシート材5に逢着しており、上下左右に交差する格子状に逢着される補強シート6の交差部6xに位置して連結部13を固定している。この構造のフェンス部2は、格子状に配置される補強シート6の交差部分の強度が最も強くなる。したがって、植物ユニット7が連結される連結部13を、補強シート6の交差部6xに固定する構造は、フェンス部2の最も補強された部分を連結部13との連結部分として、フェンス部2、とくにシート材5の損傷を効果的に防止しながら植物ユニット7を安定して定位置に保持できる。
【0059】
以上のように、短冊状のシート部材を中間で折り返して両端部をフェンス部2に固定して連結部13を設ける構造は、簡単かつ容易に植物ユニット7を連結可能な連結部13を設けることができる。ただ、連結部は、以上の構造には特定せず、植物ユニット7の連結具14を脱着自在に連結できる他の全ての構造、例えば、紐体や線材をループ状に固定したものや、リング状の金具を固定したものも採用できる。
【0060】
以上のシルトフェンス100は、植物ユニット7をフェンス部2の複数箇所に交換自在に連結するので、植物4が経時的に劣化したり、シルトフェンス100を別の現場で使用する際には、植物4を新しいものに交換しながら使用できる。とくに、植物4として、陸上に生育する陸上植物4bの葉や枝を束ねて植物ユニット7として配置する構造においては、水生植物とは異なり、経時的に植物4が劣化するので、このような植物ユニット7を使用する場合には、植物4を交換することで、長期間にわたって水中の環境を保全できる。
【0061】
図3のシルトフェンス100は、複数の植物ユニット7を、フェンス部2の略全面にわたって均一に配置している。ここで、シルトフェンス100は、フェンス部2に設ける植物ユニット7の数を多くすることで、水中環境を良好にして作用を向上できる。ただ、フェンス部2に設ける植物ユニット7は、数が多過ぎるとコストが高くなると共に、多数の植物ユニット7の設置や交換に手間がかかり、必ずしも経済的ではない。したがって、シルトフェンス100は、フェンス部2に配設する植物ユニット7の数や配列を調整して、植物ユニット7の密度とコストを考慮して配置される。図3のシルトフェンス100は、水平方向に所定の間隔(k)で複数の植物ユニット7を配設している。シルトフェンス100は、前述のように、植物ユニットの密度とコストを考慮して、フェンス部2の全長(L)に対して水平方向に配置する植物ユニット7の個数と間隔(k)を決定し、また、上下幅(H)に対して上下方向に配置する植物ユニット7の個数と間隔(k)とを決定する。複数の植物ユニットが連結される密度は、シルトフェンスが設置される水域の環境に応じて種々に変更することができる。
【0062】
さらに、図3に示すシルトフェンス100は、フェンス部2の表面の複数箇所であって、上下左右に格子状に逢着された帯状の補強シート6の交差部6xに植物ユニット7を連結している。すなわち、図に示すフェンス部2は、上下方向と左右方向に逢着される補強シート6の交差する部分に植物ユニット7を連結することで、フェンス部2の全面にわたってマトリクス状に配置している。ただ、複数の植物ユニット7は、必ずしも全ての交差部6xに配置する必要はなく、連結されない部分を設けて植物ユニット7が配置される密度を小さくすることもできる。
【0063】
図10に示すシルトフェンス100は、縦横に並べて配列される複数の植物ユニット7であって、上下に隣接して複数列に配列される複数の植物ユニット7の左右の位置をずらせて、上下に交互に設けて千鳥状に配置している。シルトフェンスは、これと同様に、左右に隣接して複数列に配列される複数の植物ユニット7の上下の位置をずらせて、左右に交互に配置することもできる。このように、フェンス部2の複数箇所に配置される植物ユニット7は、配置する植物ユニット7の個数や上下位置、間隔等を種々に変更して、シルトフェンスの設置場所に最適な環境を実現できるように配置される。
【0064】
(実施形態2)
さらに、図11に示すシルトフェンス200は、フェンス部2の表面の複数箇所に配置される植物4を交換できる構造としている。図11に示すシルトフェンス200は、フェンス部2の上下の複数箇所に植物ユニット7を交換自在に配置する配置手段16を備えている。図に示す配置手段16は、複数の植物ユニット7が所定の間隔で脱着自在に固定された紐状の移送線材17と、フェンス部2の下部に配置されて、移送線材17が掛けられた滑車18とを備えている。移送線材17は、中間部を折返し部として滑車18に掛けると共に、折返し部から延びる一対の延長部7A、17Bを水面まで延長し、さらに、一方の延長部17Aに複数の植物ユニット7を脱着自在に固定している。
【0065】
図11図12に示す配置手段16は、移送線材17に脱着自在に固定される植物ユニット7として、図9に示すように、植物4を陸上植物4bとする植物ユニット7を使用する状態を示している。すなわち、陸上植物4bを茎の部分で裁断してなる1本ないし複数本の植物片を備える植物ユニット7としている。図に示す植物ユニット7は、複数の植物片の茎部分を結束部材25で一つに束ねて結束すると共に、結束された植物ユニット7を連結具14である紐状体14Aを介して移送線材17に脱着自在に連結している。図の配置手段16は、滑車18に掛けられた移送線材17の一方の延長部17Aに、複数の植物ユニット7を脱着自在に固定している。複数の植物ユニット7は、上下方向に離間して所定の間隔で固定されている。この配置手段16は、フェンス部2の上下幅(H)とコストを考慮して、上下方向に配置する植物ユニット7の個数と間隔(k)を決定する。
【0066】
図の配置手段16は、複数の植物ユニット7が固定される移送線材17をロープとしている。ロープである移送線材17は、中間部を滑車18に掛ける状態で水中に配置されている。図8の移送線材17は、一方の延長部17A(図において左側)には複数の植物ユニット7を所定の間隔(k)で連結しながら水面まで延長し、他方の延長部17B(図において右側)はそのまま水面まで延長している。ロープである移送線材17は、例えば、図9の拡大図に示すように、連結リング19を挿通して固定すると共に、この連結リング19に植物ユニット7の連結具14である紐状体14Aを脱着自在に連結できるようにしている。図に示す配置手段16は、連結リング19を金属リングとするが、連結リング19はロープに固定された紐体をリング状に形成したものとすることもできる。
【0067】
滑車18は、図11図12に示すように、フェンス部2の下端部に、垂直面内で回転できるように固定されている。滑車18は、外周面に移送線材17を案内する嵌入溝18Aが設けられており、この嵌入溝18Aに案内された移送線材17を移動させる状態で回転できるように、回転軸20を介してフェンス部2に固定されている。さらに、滑車18に掛けられた移送線材17が嵌入溝18Aから外れないように、滑車18の下側半分には正面視半円状の滑車カバー21が設けられている。この滑車カバー21は、滑車18に掛けられた移送線材17の一方の延長部17A(17B)を上方に引っ張る状態では、滑車18をスムーズに回転させて、かつ滑車18から移送線材17が外れるのを防止する。滑車18及び滑車カバー21は、例えば、ステンレス等の金属製で、自重により水中に沈降する比重としている。このように、水中において沈降する滑車18及び滑車カバー21により、滑車18に掛けられた移送線材17は水面から水底に向かって張設された状態で配置される。ただ、滑車と滑車カバーはプラスチック製とすることもできる。滑車と滑車カバーをプラスチック製とする構造は、下端に錘を設けることで水中で沈降させることができる。
【0068】
滑車18は、図12の一部拡大図に示すように、水中に吊り下げられた状態では、回転軸20が水平姿勢となるように配置されている。このことを実現するために、滑車18の回転軸20は、図12図13の一部拡大図に示すように吊り下げバンド22を介して吊り下げられている。すなわち、滑車18の回転軸20は、直接にフェンス部2に固定されることなく、吊り下げバンド22を介してフェンス部2に固定されている。この構造は、水中において自重で落下する滑車18の回転軸20を、滑車18の両側において吊り下げバンド22で支承するので、回転軸20を確実に水平姿勢に保持できる。
【0069】
滑車18の位置は、水底に近いほど、植物ユニット7を水中の深い位置まで移送して配置できる。ただ、滑車18は、図12の(b)で示すように水底に接触すると、正しく駆動しなくなるおそれがある。したがって、滑車18は、図11に示すように、フェンス部2の下部であって、好ましくはフェンス部2の下端よりもある程度上方に配置される。滑車18の固定位置は、図12の(a)に示すように、少なくとも満潮時等の海面の上昇位置において、海底に接触しない位置とすることが好ましい。図11のフェンス部2は、滑車18を配置する位置であって、フェンス部2の下端からの距離(t)をフェンス部2の上下幅(H)の約1/6としている。ただ、滑車18を設ける位置は、フェンス部2の下端からの距離(t)がフェンス部2の上下幅(H)の1/2以内、好ましくは1/4以内となる位置とすることができる。
【0070】
さらに、水面まで延長された移送線材17の両端部を固定するために、水面近くにはリング23が配置されている。滑車18から水面まで延長された延長部17A、17Bは、水面近くにおいてこのリング23に挿通されている。図11に示すリング23は、略円形としている。このリング23は、一端がフェンス部2の上端又はフロート部1に連結されており、このリング23に移送線材17の上端部を挿通して連結することで、移送線材17の両端部の位置を把握しながら管理することができる。移送線材17の両端部は、例えば、リングに結びつけて、あるいは連結具(図示せず)を介してリングに固定することができる。
【0071】
以上の配置手段は、植物4を交換する際には、複数の植物ユニット7が固定された延長部17Aを上方に引っ張って植物ユニット7を水面まで引き上げることで、植物ユニット7を取り外して簡単に交換できる。また、植物ユニット7を新しいものと交換した後、植物ユニット7が固定されない側の延長部17Bを上方に引っ張ることで、植物ユニット7が固定された側の延長部17Aを水中に沈降させて、植物ユニット7を水中の定位置に配置できる。なお、以上のように植物ユニット7を交換する場合は、図12の(a)で示すように、満潮時等のように海面が上昇位置にあるタイミングであって、少なくとも滑車18が水底に接触していない状態で行うことが好ましい。
【0072】
(実施形態3)
さらに、図13に示すシルトフェンス300は、フェンス部2に配置された植物4にエアーを供給するエアー供給装置8を備えている。図のエアー供給装置8は、フェンス部2の下部に配置されて、供給されるエアーを気泡として吐出する気泡発生部61と、気泡発生部61に給気ホース62を介してエアーを供給するエアー供給ポンプ63とを備えている。
【0073】
図13のシルトフェンス300は、フェンス部の下端部の中央部に気泡発生部61を配置している。図に示す気泡発生部61は、フェンス部2の長さ方向である左右方向の広い領域に気泡を吐出できるように、左右方向に延長された棒状としている。この気泡発生部61には給気ホース62を介してエアー供給ポンプ63に連結されている。給気ホース62は、フェンス部2の下端からフロート部1まで延長されると共に、水面上からさらに陸上まで延長されて、陸上に配置されたエアー供給ポンプ63まで延長して配管されている。以上のエアー供給装置8は、エアー供給ポンプ63を駆動させて、気泡発生部61にエアーを供給することで、フェンス部2の下部に配置された気泡発生部から吐出される気泡を、フェンス部2に配置された植物4に供給できる。これにより、フェンス部2に配置された植物4や、この植物4を隠れ家として生息する水棲動物に多量の酸素を供給できる。これにより、フェンス部2の近傍における水棲動物の生活環境をさらに良好にできる。
【0074】
(実施形態4)
さらに、図14に示すシルトフェンス400は、水面上に浮遊するフロート部1を発光させる発光装置9を備えている。図に示す発光装置9は、フロート部1に内蔵された発光素子65と、発光素子65に電力供給する電源部66と、発光素子65の発光状態を制御する制御部67とを備えている。
【0075】
フロート部1は、浮き部材11の周囲を被覆するカバー部12を透光性部材として、内蔵される発光素子65の発光を外部に透過させる構造としている。図に示すフロート部1は、カバー部12に内蔵される浮き部材11を球形としており、球形の浮き部材11を複数個(図では4個)を1列に並べてカバー部12に収納している。
【0076】
発光素子65はLEDで、複数のLEDを球状の浮き部材11の配列方向に並べて配置している。図に示す発光装置9は、発光素子65であるLEDを、カバー部12の内部であって、浮き部材11の表面に配置している。フロート部1に内蔵される発光素子65は、電源ライン68を介して電源部66から電力が供給される。電源ライン68は、カバー部12から水密に引き出されると共に、水面からさらに陸上まで延長されて、陸上に配置された電源部66に配線されている。電源部66は、発光素子65に電力を供給して発光素子65を発光させる。電源部66は、商用電源とすることもできるが、太陽電池と充電電池を組み合わせた電源装置とすることもできる。
【0077】
図に示す発光装置9は、発光素子65の発光パターンを制御する制御部67を備えており、所定の条件下において電源部66から供給される電力を発光素子65に供給して発光素子65を発光させる構造としている。この発光装置9は、例えば、周囲が暗くなる時間帯を記憶しており、あるいは、周囲が暗くなったことをセンサーで感知すると、発光素子65に電力を供給して発光素子65を発光させる。このように周囲が暗くなる夜間等において、フロート部1に内蔵された発光素子65を発光させることで、周囲にフロート部1の位置を知らせることができ、近辺を通過する船舶にシルトフェンス400の存在を明確に表示して、夜間等における周辺水域の安全を確保できる。さらに、発光装置は、図示しないが、複数の発光素子で文字列を形成するように配置することができ、あるいは複数の発光素子をパネル状に配置して特定の文字を表示することもできる。この発光装置は、工事を施工する会社名を表示し、あるいは工期等を表示することで、周囲に対して工事現場の情報を伝えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明のシルトフェンスは、海、河川、湖沼、池、ダム等の沿岸や水底の土木工事の周辺水域において、工事に伴って発生する汚濁が外部の水域に拡散されるのを防止し、かつ、汚濁領域の外側の水域の水中環境を良好にできるシルトフェンスとして、沿岸や水底等の土木工事の現場において好適に使用できる。
【符号の説明】
【0079】
100、200、300、400…シルトフェンス
1…フロート部
2…フェンス部
3…ウエイト部
4…植物
4a…水生植物
4b…陸上植物
5…シート材
6…補強シート
6x…交差部
7…植物ユニット
8…エアー供給装置
9…発光装置
10…フェンスユニット
11…浮き部材
12…カバー部
13…連結部
14…連結具
14A…紐状体
15…固定具
16…配置手段
17…移送線材
17A…延長部
17B…延長部
18…滑車
18A…嵌入溝
19…連結リング
20…回転軸
21…滑車カバー
22…吊り下げバンド
23…リング
24…着生部材
24A…プラスチック発泡体
24B…岩石
24C…木材
25…結束部材
26…収納部材
26A…ポット
26B…筒体
31…サブフロート
32…アンカー
33…連結線材
34…アンカーワイヤー
51…工事領域
52…汚濁水域
53…外側水域
61…気泡発生部
62…給気ホース
63…エアー供給ポンプ
65…発光素子
66…電源部
67…制御部
68…電源ライン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14