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特許6863618腎不全を患っている患者におけるC−O−P結合を含む誘導体の使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6863618
(24)【登録日】2021年4月5日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】腎不全を患っている患者におけるC−O−P結合を含む誘導体の使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/6615 20060101AFI20210412BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20210412BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20210412BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20210412BHJP
【FI】
   A61K31/6615
   A61P9/00
   A61P13/12
   A61K45/00
【請求項の数】9
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2019-146292(P2019-146292)
(22)【出願日】2019年8月8日
(62)【分割の表示】特願2015-562269(P2015-562269)の分割
【原出願日】2014年3月14日
(65)【公開番号】特開2019-206580(P2019-206580A)
(43)【公開日】2019年12月5日
【審査請求日】2019年8月8日
(31)【優先権主張番号】P201330383
(32)【優先日】2013年3月15日
(33)【優先権主張国】ES
(73)【特許権者】
【識別番号】514087614
【氏名又は名称】ラボラトリス サニフィット,エセ.エレ.
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】ペレッロ ベスタード,ジョーン
(72)【発明者】
【氏名】サルセド ロカ,キャロリーナ
(72)【発明者】
【氏名】フェレル レーネズ,ミケル デビッド
(72)【発明者】
【氏名】イセルン アエングアル,ベルナト
(72)【発明者】
【氏名】ジョーベルト,ピエテル エイチ.
【審査官】 飯濱 翔太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−529759(JP,A)
【文献】 フィチン酸について,有機合成化学,1967年,第25巻第2号,P.167−179,特に1.フィターゼとその作用の欄
【文献】 Pharmaceutical development and technology,2010年,Vol.15, No.5,p.526-531
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−33/44
A61K 47/00−47/69
A61K 9/00− 9/72
A61K 45/00
A61P 9/00
A61P 13/12
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イノシトール六リン酸またはその薬剤的に容認できる塩の使用であって
剤が非大量瞬時投与の持効性放出の形式で投与され、上記薬剤は、非経口、局所、または経腸投与に適している形式であることを特徴とし、腎不全を患っている対象における石灰化を伴う心血管疾患の処置および/または予防のための薬剤を製造するための、使用。
【請求項2】
イノシトール六リン酸またはその薬剤的に容認できる塩と、少なくとも他の作用物質とを含む混合物の使用であって
剤が非大量瞬時投与の持効性放出の形式で投与され、上記薬剤は、非経口、局所、または経腸投与に適している形式であることを特徴とし、腎不全を患っている対象における石灰化を伴う心血管疾患の処置および/または予防のための薬剤を製造するための、使用。
【請求項3】
上記少なくとも他の作用物質は、ビタミン、カルシウム受容体作動薬化合物、ビスホスホネート、リン吸着剤、チオ硫酸塩、ピロリン酸塩、クエン酸塩、利尿薬、血圧降下薬、抗高コレステロール血症剤、およびこれらの組み合わせ、からなる群より選択される、請求項に記載の使用。
【請求項4】
上記ビタミンは、ビタミンB、ビタミンD、ビタミンK、またはこれらの組み合わせである、請求項に記載の使用。
【請求項5】
上記カルシウム受容体作動薬化合物は、シナカルセト((R)−N−[1−(1−ナフチル)エチル]−3−[3−(トリフルオロメチル)フェニル]プロパン−1−アミン)、NPS R−467(((R)−N−(3−フェニルプロピル)−1−(3−メトキシフェニル)エチルアミン))、NPS R−568((R)−2−クロロ−N−(1−(3−メトキシフェニル)エチル)ベンゼンプロパンアミン)、KAI−4169(エテルカルセチド)、またはこれらの組み合わせである、請求項に記載の使用。
【請求項6】
上記リン吸着剤は、カルシウム塩、鉄塩、ランタン塩、アルミニウム塩、マグネシウム塩、またはこれらの組み合わせである、請求項に記載の使用。
【請求項7】
上記ビスホスホネートは、エチドロネート、アレンドロネート、リセドロネート、ゾレドロネート、チルドロネート、パミドロネート、モニドロネート、ネリドロネート、パミドロネート、オルパドロネート、クロドロネート、イバンドロネート、またはこれらの組み合わせである、請求項に記載の使用。
【請求項8】
上記イノシトール六リン酸および上記少なくとも他の作用物質は、単独、同時、または順次に投与される、請求項のいずれか1項に記載の使用。
【請求項9】
上記心血管疾患は、心臓病、冠状動脈性疾患、心不全、心筋梗塞症、狭心症、脳血管疾患、アステローム性動脈硬化症、動脈硬化症、血栓症、高血圧症、動脈瘤、末梢血管疾患、虚血、不整脈、脳卒中、または心臓死である、請求項1〜のいずれか1項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔概要〕
本発明は、他の処置を受けているかどうかに関わらず、腎不全を患っている患者における疾病の処置のための、持効性放出の形式でのC−O−P結合を含む化合物の使用に関する。
【0002】
〔先行技術水準〕
腎不全(腎機能障害または腎疾患としても知られている)は、糸球体濾過速度(GFR)または糸球体濾過指数の随伴性の減少とともに、腎臓機能の進行性喪失を引き起こす疾病である。腎臓障害の初期段階は無症候性であるが、疾病が進行するにつれて尿毒症が現れる。尿毒症は、腎臓による毒素の正常でない濾過および除去に起因する血液の汚染を説明する概念である。
【0003】
腎疾患は以下のように分類される。
【0004】
(1)急性腎不全:腎臓機能の進行性喪失であり、通常、乏尿、および、液体と電解質との不均等を引き起こす。疾病の原因が特定され、処置されるまで、透析による処置が必要である。
【0005】
(2)慢性腎臓病(CKD):数か月または数年を超える期間にわたって、腎臓機能が非常にゆっくりと失われる。腎臓機能の程度によって、GFRに基づいて、5つの段階のCKDが定義される。
【0006】
段階1:正常または高GFR(>90ml/分)
段階2:軽度のCKD。GFR=60〜89ml/分
段階3:中程度のCKD。GFR=30〜59ml/分
段階4:重度のCKD。GFR=15〜29ml/分
段階5:末期のCKD。GFR<15ml/分。健康状態を維持するために、透析または腎臓移植が必要である。
【0007】
さらに、急性腎不全は、CKDに付随して起こる可能性がある。これは、慢性腎不全急性増悪として知られている。
【0008】
上述の状態を患っている患者は、様々な別の治療手段を用いて処置される。他の機能のうちで、腎臓は、肝臓と共に、カルシウム恒常性の重要な役割を果たすビタミンD(VitD)を活性化させる役目がある。したがって、腎機能障害を患っている患者は、ビタミンD欠乏症を示す。その結果、これが、導入されるべき第1の薬理学的な処置である。
【0009】
疾病の処置を伴う腎機能障害は、高カルシウム血症および高リン酸塩血症を引き起こす。したがって、腎不全を患っている患者は、血液中のリン酸塩濃度を低減させるためのリン酸塩吸着リン酸塩吸着薬、および、副甲状腺ホルモン(PTH)レベルを制御することにより血漿中のカルシウムレベルを制御するためのカルシウム受容体作動薬を用いて処置される。上述したリン酸塩吸着リン酸塩吸着薬は、セベラマー、並びに、ランタン、鉄、カルシウム、および他の金属の様々な塩を含んでいる。主なカルシウム受容体作動薬は、シナカルセトおよびKAI−4169である。
【0010】
さらに、血圧、コレステロール、利尿薬の使用、チオ硫酸ナトリウム、またはビスホスホネートを制御するために腎機能障害に投与される他の種類の併用薬も存在する。
【0011】
リプレッサー因子(例えば、マトリックスGlaタンパク質、オステオポンチン、フェチュイン、ビタミンK)の欠乏、または、促進因子(ビタミンD、FGF23、炎症性のサイトカイン、脂質沈着、アポトーシス小体、核形成複合体など)における不均等が、進行を遅延または促進させる可能性があるとはいえ、高カルシウム血症および高リン酸塩血症は、心血管の石灰化を引き起こす可能性がある。変化した腎臓の機能が、骨リモデリングにも影響を与える多量の効果を引き起こすので、腎機能障害を患っている患者は、通常、CKD−MBD(慢性腎臓病ミネラル骨異常症)を患っている患者として説明される。
【0012】
冠動脈石灰化の程度は、より低い生存率、およびより多数の心血管イベントと関連があることが示されている(RS Shantouf, MJ Budoff, N Ahmadi, A Ghaffari, F Flores, A Gopal, N Noori, J Jing, CP Kovesdy, K Kalantar-Zadeh. Total and Individual Coronary Artery Calcium Scores as Independent Predictors of Mortality in HemodialysisPatients. Am J Nephrol 2010;31:419−425)。
【0013】
特に、冠動脈石灰化を測定することができない(CAC=0)患者は、心血管イベントの割合が低く、死亡率が低いことが示された。CACスコアが上昇するにつれて、心血管イベントの数も上昇し、生存率が低くなる。
【0014】
さらに、Russoらは、血管の石灰化の性急な進行は、より低い生存率および心血管アクシデントのより高いリスクと関連があることを明らかにした(D Russo, S Corrao, YBattaglia, M Andreucci, A Caiazza, A Carlomagno, M Lamberti, N Pezone, A Pota, L Russo, M Sacco, B Scognamiglio. Progression of coronary artery calcification and cardiac events in patients with chronic renal disease not receiving dialysis. Kidney Int 2011;80:112−118)。
【0015】
したがって、心血管イベント(死を含む)は、以下の両方のパラメータと関連がある:・血管の石灰化の程度
・上記の血管の石灰化の進行速度。
【0016】
現在のところ、透析患者に対して、より高い生存率、またはより低い心血管アクシデントの割合を発揮する認可された治療法は存在しない。そして、体内における石灰化の進行および骨リモデリングの不均等に起因する、腎機能障害に関連した多様な疾病を処置する必要が残っている。
【0017】
構造がリンを含む様々な化合物(ピロリン酸塩、ビスホスホネート、イノシトールリン酸、ヘキサメタリン酸など)が、カルシウムを含む結晶の形成を阻害することが報告されている。上述のC−O−P結合を含む大きなファミリー内のいくつかの化合物が様々な種類の石灰化を阻害することが発見されている。しかし、既知の研究は、正常な腎臓機能である場合か、上述の化合物が効果的であると知られていない尿毒素の場合であるので、これらの治療が、腎機能障害の存在下において有用であることは、未だ証明されていない。
【0018】
〔発明の詳細な説明〕
予想外に、本発明の発明者は、腎不全を患っている個人における長期間の投薬をするための形式を発見した。この形式は、尿毒症を患っている個人には効果的ではないと思われていた式Iの化合物の効力を再構築させることができる。上述した長期間の投薬は、大量瞬時投与または短期間の注入タイプの投薬と対照を成し、これらの化合物の適切なレベルが、十分な時間の期間、血液内で維持される、または再構築されることを可能にする。結果として、腎臓障害に関連した疾病の初期段階、またはこれらの疾病がすでに確立した場合のどちらにおいても、腎臓障害に関連した疾病が、予防、治療、抑制、および/あるいは緩和される、または、腎臓障害に関連した疾病の進行を抑えられる。
【0019】
従って、本発明の1つの実施形態は、少なくとも1つの式Iの化合物、またはその薬剤的に容認できる塩の使用に関する。
【0020】
【化1】
【0021】
ここで、各R〜R12は、H、−X、−OX、−NHX、−NX、−SX、−OSOHX、−OSO、または式IIの化合物を別々に表す。
【0022】
【化2】
【0023】
ここで、各Xは、H、C1〜30アルキル、C2〜30アルケニル、C2〜30アルキニル、またはCyを別々に表す。C1〜30アルキル、C2〜30アルケニル、C2〜30アルキニルは、1つ以上のR14で別々にかつ任意に置換されている。Cyは、任意に1つ以上のR15で置換されている。Cyは、飽和している、部分的に不飽和している、または芳香族であってもよい炭素環式または複素環式の3〜10員環を表す。上記複素環は、O、S、およびNから選択される1つから4つのヘテロ原子を有している。上記環は、いずれかの使用可能なC原子を介して分子の残りと結合されることができる。Cyは、それぞれ飽和している、部分的に不飽和している、または芳香族の炭素環または複素環である、1つから4つの間の5または6員環と任意に縮合されている。上述の縮合した複素環は、O、N、およびSから選択される1つまたは2つのヘテロ原子を有してもよい。各R13は、H、C1〜30アルキル、−NH、−NHC1〜30アルキル、または−N(C1〜30アルキル)を別々に表す。各C1〜30アルキルは、1つ以上のハロゲン、−OH、−CN、および−NO基で独立にかつ任意に置換されている。各R14およびR15は、−OH、C1〜30アルコキシ、C1〜30アルキルチオニル、C1〜30アシルオキシ、リン酸塩、ハロゲン、トリハロC1〜30アルキル、ニトリル、またはアジドを別々に表す。上述の使用は、R〜R12のうち少なくとも1つが式IIの別々に化合物を表している条件で行われる。上述の使用は、薬剤が持効性放出の形式で投与されることを特徴とし、腎不全を患っている対象における腎不全に関連する疾病の処置のための薬剤を製造するためのものである。
【0024】
他の実施形態では、発明は、上で定義された使用に関し、各Xは、好ましくは、H、C1〜30アルキル、またはCyを別々に表す。C1〜30アルキルは、1つ以上のR14で任意に置換されている。Cyは、1つ以上のR15で任意に置換されている。各R14およびR15は、−OH、C1〜30アルコキシ、C1〜30アルキルチオニル、C1〜30アシルオキシ、リン酸塩、ハロゲン、トリハロC1〜30アルキル、ニトリル、またはアジドを別々に表す。
【0025】
他の実施形態では、発明は、上で定義された使用に関し、各Xは、H、C1〜30アルキル、またはCyを表す。
【0026】
他の実施形態では、発明は、上で定義された使用に関し、各Xは、Hを表す。
【0027】
他の実施形態では、発明は、上で定義された使用に関し、ラジカルR、R、R、R、R、およびR11のうち少なくとも1つは、式IIの化合物を別々に表す。
【0028】
【化3】
【0029】
各R13は、H、C1〜30アルキル、−NH、−NHC1〜30アルキル、または−N(C1〜30アルキル)を別々に表す。各C1〜30アルキルは、1つ以上のハロゲン、−OH、−CN、および−NO基で別々にかつ任意に置換されている。R、R、R、R、R10、およびR12は、Hを別々に表す。
【0030】
他の実施形態では、発明は、上で定義された使用に関し、R、R、R、R、R、およびR11は、式IIの化合物を別々に表す。
【0031】
【化4】
【0032】
各R13は、H、またはC1〜30アルキルを別々に表す。各C1〜30アルキルは、1つ以上のハロゲン、−OH、−CN、および−NO基で別々にかつ任意に置換されている。R、R、R、R、R10、およびR12は、Hを別々に表す。
【0033】
他の実施形態では、発明は、上で定義された使用に関し、R、R、R、R、R、およびR11は、式IIの化合物を別々に表す。
【0034】
【化5】
【0035】
各R13は、H、またはC1〜30アルキルを別々に表す。R、R、R、R、R10、およびR12は、Hを別々に表す。
【0036】
他の実施形態では、発明は、上で定義された使用に関し、R、R、R、R、R、およびR11は、式IIの化合物を別々に表す。
【0037】
【化6】
【0038】
各R13は、Hを別々に表す。R、R、R、R、R10、およびR12は、Hを別々に表す。
【0039】
更なる実施形態では、発明は、上で定義された使用に関し、式Iの化合物は、イノシトール六リン酸(IP6)である。イノシトールは、分子の任意の異性体を意味すると推定される。
【0040】
イノシトールリン酸は、生体内の脱リン酸により、他のイノシトールリン酸(IP5、IP4、IP3、IP2、IP1、またはイノシトール)を形成することができる。
【0041】
全ての式Iの化合物は、C−O−P結合を有する。上記結合は、カルシウムを含む結晶に対する親和性、および生体内で加水分解されるのに十分に不安定な結合を、式Iの化合物に提供する。これにより、骨内のカルシウムを含む結晶(例えば、ヒドロキシアパタイト(HAP))との不可逆的な結合を抑制することができる。このことは、長期間投薬される場合のビスホスホネートと同様に、体内で加水分解されないP−C−P結合を上述の化合物が含むことから、骨リモデリングに対する悪影響を有する。
【0042】
C−O−P結合を含まないリン酸化した化合物(例えば、ピロリン酸塩)は反対であり、C−O−P結合を含まないリン酸化した化合物のP−O−P結合は、腸において非常に容易に加水分解されることを意味している。これは、非経口投与のみが可能であることを意味している。
【0043】
C−O−P結合を有する本発明の化合物は、その効力と、体が上記化合物を排除する機構を示すという事実とによって適切な中間を示す。したがって、本発明の化合物は、副作用の危険率を低減する。
【0044】
その意味において、発明者は、上述の化合物がそれらの受容体と速やかに結合するので、化合物が比較的短い期間で最大限結合することができることを証明した。また、発明者は、上記の結合が可逆的であり、これは、化合物が適度な期間にわたって、受容体の表面から排除されることができることを意味していることを証明した。この事実は、P−C−P結合を含む化合物と比べて非常に大きな違いを示している。P−C−P結合を含む化合物は、生体内において、例えば骨の中で、P−C−P結合を含む化合物の受容体の表面上で、数か月の半減期を示す可能性があり、これにより、骨リモデリングに影響を与える。
【0045】
他の実施形態では、発明は、上で定義された使用に関し、カルシウム受容体作動薬化合物;ビタミンB、ビタミンD、およびビタミンK;リン(リン酸塩)キレート剤;チオ硫酸塩、利尿薬、好ましくは、チアジドまたはインダパミド;ビスホスホネートまたはそれらの薬剤的に容認できる塩;クエン酸塩、血圧降下薬および抗高コレステロール血症剤の中から選択される化合物をさらに含む。
【0046】
上記の利尿薬化合物は、好ましくは、チアジドまたはインダパミドを含む。
【0047】
他の実施形態では、発明は、上で定義された使用に関し、ビタミンDおよび/またはビタミンKをさらに含む。
【0048】
本発明を通して、基または基の一部としての、用語「C1〜30アルキル」は、特に、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、ヘキシル、デシルおよびドデシル基を含む1〜30個の炭素原子を含む直鎖または枝分かれした鎖のアルキル基を表す。
【0049】
用語「C2〜30アルケニル」は、2〜30個の炭素原子を含む直鎖または枝分かれした鎖のアルキル基を表しており、また、1つ以上の二重結合を含む。C2〜30アルケニルは、例として、特に、エテニル、1−プロペニル、2−プロペニル、イソプロペニル、1−ブテニル、2−ブテニル、3−ブテニル、および1,3−ブタジエニルを含む。
【0050】
用語「C2〜30アルキニル」は、2〜30個の炭素原子を含む直鎖または枝分かれした鎖のアルキル基を表しており、また、1つ以上の三重結合を含む。C2〜30アルキニルは、例として、特に、エチニル、1−プロピニル、2−プロピニル、1−ブチニル、2−ブチニル、3−ブチニル、および1,3−ブタジイニルを含む。
【0051】
Cy基は、飽和している、部分的に不飽和している、または芳香族であり、使用可能なC原子を介して分子の残りと結合している3〜10員環の炭素環または複素環に係わる。Cyが複素環式である場合には、Cyは、N、O、およびSから選択される1つから4つの間のヘテロ原子を含む。さらに、Cyは、飽和している、部分的に不飽和している、または芳香族である、最大で4つの5または6員環の炭素環式または複素環式の環と任意に縮合されてもよい。もし縮合環が複素環であるならば、上記の環は、N、O、およびSから選択される1つまたは2つのヘテロ原子を含む。Cyは、例として、特に、フェニル、ナフチル、チエニル、フリル、ピロリル、チアゾリル、イソチアゾリル、イミダゾリル、ピラゾリル、1,2,3−トリアゾリル、1,2,4−トリアゾリル、テトラゾリル、1,3,4−チアジアゾリル、1,2,4−チアジアゾリル、ピリジル、ピラジニル、ピリミジニル、ピリダジニル、ベンゾイミダゾリル、ベンゾフラニル、イソベンゾフラニル、インドリル、イソインドリル、ベンゾチオフェニル、ベンゾチアゾリル、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、アゼチジニル、およびアジリジニルを含む。
【0052】
基または基の一部としてのC1〜30アルコキシ基は、−OC1〜30アルキル基を表しており、C1〜30アルキル部は、上記と同じ意味である。C1〜30アルコキシ基は、例として、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ、およびtert−ブトキシを含む。
【0053】
基または基の一部としてのC1〜30アルキルチオニル基は、−SOC1〜30アルキル基を表しており、C1〜30アルキル部は、上記と同じ意味である。C1〜30アルキルチオニル基は、例として、メチルチオニル、エチルチオニル、プロピルチオニル、イソプロピルチオニル、ブチルチオニル、イソブチルチオニル、sec−ブチルチオニル、およびtert−ブチルチオニルを含む。
【0054】
基または基の一部としてのC1〜30アシルオキシ基は、−COC1〜30アルキル基を表しており、C1〜30アルキル部は、上記と同じ意味である。C1〜30アシルオキシ基は、例として、アセチル、エタノイル、プロパノイル、および2、2−ジイソプロピルペンタノイルを含む。
【0055】
ハロゲンラジカル、または、その略語のハロ(halo)は、フッ素、塩素、臭素、およびヨウ素を示す。
【0056】
トリハロC1〜30アルキル基は、上で定義した3つのハロゲンラジカルによってC1〜30アルキル基の3つの水素原子を置換することにより得られる基を表す。トリハロC1〜30アルキル基は、例として、特に、トリフルオロメチル、トリブロモメチル、トリクロロメチル、トリヨードメチル、トリフルオロエチル、トリブロモエチル、トリクロロエチル、トリヨードエチル、トリブロモプロピル、トリクロロプロピル、およびトリヨードプロピルを含む。
【0057】
−NHC1〜30アルキル基は、上で定義したC1〜30アルキル基によって、−NH基の1つの水素原子を置換することにより得られる基を表す。−NHC1〜30アルキル基は、例として、特に、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、およびペンチルアミンを含む。
【0058】
−N(C1〜30アルキル)は、上で定義したC1〜30アルキル基によって、−NH基の2つの水素原子を置換することにより得られる基を表す。−N(C1〜30アルキル)は、例として、特に、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、およびジイソブチルアミンを含む。
【0059】
「1つ以上によって任意に置換される」という表現は、基が置換されることができる十分な位置を有している場合に、1つ以上の置換基、好ましくは1、2、3、または4つの置換基、より好ましくは1、2、または3つの置換基、さらにより好ましくは1または2つの置換基によって、基が置換される可能性があることを表す。もし置換が行われる場合には、置換基は同じ置換基であってもよいし、異なる置換基であってもよい。また、置換基は、使用することができるいずれの場所に配置されてもよい。
【0060】
本発明のさらなる態様は、少なくとも1つの上述の一般的な式Iの化合物、並びに、他の作用物質および/または薬剤的に容認できる媒体を含む混合物の使用に関する。
【0061】
薬剤が持効性放出の形式で投与されることを特徴とし、腎不全を患っている対象における腎不全に関連する疾病の処置および/または予防のための薬剤を製造するために、作用物質は、カルシウム受容体作動薬、ビタミン、リン吸着剤、チオ硫酸塩、ビスホスホネート、ピロリン酸塩、クエン酸塩、利尿薬、血圧降下薬および抗高コレステロール血症剤を含むリストから選択される。
【0062】
上述の化合物は、通常、腎臓障害に関連する疾病を処置するために使用される。CKD−MBDは、常に、根底にある問題として、高カルシウム血症および高リン酸塩血症をもたらすカルシウムおよびリンの代謝の不均衡を有している。そして、主にHAP(リン酸カルシウム)から成る骨が血液中の過剰なカルシウムおよびリンのための緩衝剤として作用しない、すなわちカルシウムを含む結晶が体内の様々な組織および機構に蓄積される段階が訪れる。結果として、前段落における様々な薬は、単一の目的、すなわち上述したカルシウムおよびリンの代謝の不均衡を制御するのを助けること以外に、様々なレベルで作用する。
【0063】
作用物質として説明した化合物のいくつかは、結晶化プロセスの熱力学を変化させる。結晶化プロセスの熱力学の変化は、腎不全に関連した疾病の直接的または間接的な原因となるカルシウムを含む結晶構造内に存在するイオンの濃度を変更することによって行われる。この下位群は、カルシウム受容体作動薬、リン吸着剤、チオ硫酸塩、ビタミンD、および利尿薬を含む。
【0064】
カルシウム受容体作動薬は、血液のPTHレベルを制御することにより、カルシウムおよびリン酸塩の濃度が制御されることを可能にする。上記化合物は、シナカルセト、NPS R−467、NPS R−568、KAI−4169を含む。
【0065】
チオ硫酸塩は、血液中のフリーのカルシウム濃度を減少させるキレート剤である。
【0066】
ビタミンDは、異なる作用メカニズムを有しているが、同様の効果を有している。ビタミンDは、好ましくは、カルシフェロール、エルゴカルシフェロール(VitD2)、コレカルシフェロール(VitD3)、ドキセルカルシフェロール、パリカルシトール、アルファロールもしくはアルファカルシドール、カルシドール、カルシトリオール、またはこれらの誘導体もしくは薬剤的に容認できる塩を含むリストから選択される。
【0067】
リン吸着剤は、リン酸塩が吸収される前にリン酸塩を隔離することにより胃腸内で作用する。これにより、リン吸着剤は、血液中における全身のリン酸塩濃度を減少させる。リン吸着剤は、金属を含んでもよいし、含まなくてもよい。金属を含まないキレート剤は、セベラマーを含む。金属を含むキレート剤は、カルシウム、鉄、ランタン、アルミニウム、およびマグネシウムの様々な塩を含む。
【0068】
体積の変化がカルシウムおよびリン酸塩の濃度を変化させるので、利尿薬もまた、熱力学に影響を与える。利尿薬は、好ましくは、チアジド、チアジドのようなもの(インダパミド、クロルタリドン、メトラゾンなど)、ループ利尿薬(ブメタニド、エタクリン酸、フロセミド、トルセミドなど)、炭酸脱水酵素阻害薬、浸透圧利尿薬、カリウム保持性利用薬などである。チアジドは、好ましくは、クロロチアジド、エピチアジド、ベンドロフルメサイアザイド、またはヒドロクロロチアジドである。
【0069】
残りの化合物(ピロリン酸塩、クエン酸塩、ビスホスホネート、血圧降下薬、抗高コレステロール血症剤、VitB、VitK)は、リプレッサー因子(ピロリン酸塩、クエン酸塩、VitB、VitK、ビスホスホネート)の量を増加させること、または、促進因子(血圧降下薬の場合は壊死性の残りもしくは有機物、または抗高コレステロール血症剤の場合は脂質の沈着物)の量を減少させることによる結晶化の進行を停止する試み、または、骨の代謝の変化によって、動力学的に変化したカルシウムおよびリン酸塩の代謝に逆らって作用する。
【0070】
ビスホスホネートは、窒素を含んでもよいし、窒素を含まなくてもよい。上記ビスホスホネートは、好ましくは、エチドロネート、アレンドロネート、リセドロネート、ゾレドロネート、チルドロネート、パミドロネート、モニドロネート、ネリドロネート、パミドロネート、オルパドロネート、クロドロネート、イバンドロネートを含むリストから選択される。
【0071】
血圧降下薬は、好ましくは、利尿薬(上で記載した)、アドレナリン遮断薬(ベータ遮断薬、アルファ遮断薬、混合物)、カルシウムチャネル遮断薬(ジヒドロピリジン、または非ジヒドロピリジン)、レニンインヒビター、アンギオテンシン変換酵素阻害薬、アンギオテンシンII受容体拮抗薬、アルドステロン拮抗薬、血管拡張薬、アルファ−2作用薬、または血圧ワクチンである。
【0072】
抗高コレステロール血症剤は、好ましくは、スタチン、フィブラート、ナイアシン、胆汁酸金属イオン封鎖剤、エゼチミブ、ロミタピド、フィトステロール、またはオリルスタットである。
【0073】
他の実施形態では、本発明は、腎不全を患っている患者の処置のために単独、同時、または順次に使用するための、少なくとも1つの上で定義した式Iの化合物と、1つ以上の有用な薬とを含む複合調整剤に関する。好ましくは、上記の有用な薬は、カルシウム受容体作動薬、ビタミンB、ビタミンDおよびビタミンK、リン吸着剤、利尿薬、または、ビスホスホネートもしくはその薬剤的に容認できる塩のような他の物質、ピロリン酸、クエン酸塩、血圧降下薬、または抗高コレステロール血症剤の中から選択される。
【0074】
本明細書中では、用語「複合調整剤」または「並列」は、複合調整剤の成分が共に存在する必要がないことを意味している。例えば、ある組成では、上記の成分は、別々にまたは順次に使用されてもよい。従って、表現「並列された」は、上記調整剤が、調整剤の成分の物理的な分離の観点から見て、必ずしも真の組み合わせでないことを意味している。
【0075】
本発明の薬剤の混合物は、1つ以上の賦形剤を含んでもよい。
【0076】
用語「賦形剤」は、本発明の薬剤の混合物の成分の吸収を助け、上記成分を安定化させると共に、整合性を与えるまたは上記混合物をより口当たりの良いものにする風味を与えるという意味で混合物の調整を賦活するまたは手助けをする物質のことを言う。したがって、賦形剤は、本段落で記載しない何れかの他の賦形剤を除外することなく、例えば、甘味料として、混合物を保護する(例えば、空気および/または水分から混合物を隔離する)着色料として、タブレット、カプセル、もしくはいずれかの他のプレゼンテーションのためのフィルターとして、または、腸における成分の溶解、および成分の吸収を保証するための錠剤分解物質として、複合成分(例えば、デンプン、糖またはセルロース)を維持する役割を果たしてもよい。
【0077】
賦形剤の場合と同様に、「薬剤的に容認できる媒体」は、混合物の中に含まれるいずれかの成分を設定された体積または重量まで希釈するために、混合物において使用される物質である。薬剤的に容認できる媒体は、不活性な物質、または、本発明の薬剤の混合物を構成するいずれかの成分と類似した作用を有する物質である。上記の媒体の役割は、他の成分の混合を許可すること、より良い投薬および与薬を許可すること、または混合物に対して粘度および形状を提供することである。
【0078】
本発明のさらなる態様は、治療上効果的な量の式Iの化合物またはそれの薬剤的に容認できる塩を持効性放出(大量瞬時投与でない)の形式の投与を含む、腎不全を患っている患者を処置するための方法に関する。
【0079】
本発明では、用語「腎不全に関連する疾病」は、腎臓障害を患っている個人における広範囲な多様な性質の疾病プロセスを言う。腎不全に関連する疾病は、これらに限られないが、カルシウムまたはカルシウム代謝障害に関連したいずれかの疾病(例えば、腎結石症、心血管石灰化、心血管疾患、骨粗しょう症、骨肉腫、痛風、石灰沈着性腱炎、皮膚石灰沈着症、リウマチ様関節炎、骨ミネラル疾病、骨軟化症、無形成骨、抵抗性カルシウム形成)を言ってもよい。
【0080】
他の腎不全に関連する疾病は、心血管タイプの疾病(例えば、これらに限られないが、冠状動脈性疾患、心不全、心臓病、アステローム性動脈硬化症、動脈硬化症、血栓症、高血圧症、心筋梗塞症、動脈瘤、狭心症、末梢血管疾患、および脳血管疾患)であってもよい。腎機能障害を患っている患者は、心血管のアクシデント、イベント、または疾病(虚血、不整脈、心筋梗塞、脳卒中など)を患っている可能性がある。
【0081】
前段落において記載された障害を含む様々な障害が、尿毒症の存在下で石灰化の進行を予防、低減、遅延、停止させることによって処置できる可能性があるということは、重要な概念である。カルシウム障害に関連した疾病、または該疾病により誘発された石灰化は、投薬を開始したときには、すでに存在しているかもしれないし、またはまだ存在していないかもしれない。疾病がすでに存在している場合には、投薬は疾病の進行を低減するまたは停止させるものとなり、疾病がまだ存在していない場合には、投薬は疾病の出現または発症を予防するためのものとなる。
【0082】
本発明では、用語「腎不全」または「腎機能障害」は、腎臓機能(GFR)の段階が段階1〜5のいずれかである弱まった腎臓機能を有し、急性腎不全または慢性腎不全急性増悪を患っている対象のことを言う。
【0083】
本発明では、用語「個人」または「対象」は、ヒトを含むいずれかの動物種のことを言う。
【0084】
本発明では、用語「持効性放出」、「ゆっくりとした放出」、および「非大量瞬時投与」は、血流の中に化合物をゆっくりと放出する投与形式のことを言う。これにより、「大量瞬時投与タイプ」の投与の場合よりも長い期間、有効なレベルを血漿中で維持することができる。大量瞬時投与タイプの投与は、高速静脈注射(例えば、10秒未満)、または約3分未満にわたる静脈内注射を含む。
【0085】
本発明の1つの実施形態では、持効性放出によって、血液内で30分間以上、治療上適切なレベルを維持することができる。イノシトールリン酸の場合では、上記の適切なレベルは、好ましくは0.15マイクロモル(μM)よりも高い、より好ましくは0.3μMよりも高い、さらにより好ましくは0.6μMよりも高い。
【0086】
発明者は、比較テストにより、対象が腎機能障害(尿毒症)を示している場合に、正常な腎臓機能の条件で実現される血管石灰化に対する処置の効果が消滅することを予想外に発見した。したがって、適切な治療上のレベルを得て、該レベルを適切な期間維持するための非大量瞬時投与タイプの投与が著しく効果的であり、また副作用を低減させることができ、それゆえ、製品の安全性の性質を向上させることができるということが初めて述べられる。上記の非大量瞬時投与の投与は、24時間の期間、好ましくは4時間の期間、より好ましくは20分間の期間、さらにより好ましくは5分間の期間で投与される。いずれの場合においても、投与は短い期間を超えて起こるが、最も重要な側面は、非大量瞬時投与タイプの化合物の血液への放出は長期にわたり、少なくとも30分間、好ましくは1時間以上、より好ましくは3時間以上、さらにより好ましくは4時間以上、治療上のレベルが血液中に維持されるのを可能にするということである。
【0087】
本発明の重要な態様は、カルシウム障害に関連した疾病を予防または処置するために、腎機能障害を患っている対象の処置から成る。C−O−P結合を有する化合物がカルシウムを含む塩の結晶化を阻害することはすでに説明されているが、腎機能障害を患っている対象に対して化合物を使用すること、および非大量瞬時投与タイプの投与として化合物を使用することは新しいことである。例えば、イノシトール六リン酸エステル(IP6)は、正常な腎臓機能を有するラット内の腎臓結石の処置に対しての説明がなされている(F Grases, B Isern, P Sanchis, JJ Torres, A Costa-Bauza, A. Phytate acts as an inhibitor of renal calculi. Front Biosci 2001;12:2580-2587)。しかし、腎機能障害を患っている対象内の腎臓結石の形成に対するIP6の効果はまだ説明されておらず、上記の使用は完全に新しいものである。尿毒症の存在下においてカルシウム障害に関連する疾病に対する上記化合物の効果を実証するための様々な最近の試みは失敗に終わっている。これにより、上記化合物は腎機能障害の存在下で上記疾病を処置することに関して有用ではないと、当業者は結論付けている。
【0088】
尿素症を患っている動物にC−O−P結合を含む式Iを有する化合物を投与した場合に、血液内で非常に低いレベルが得られ、またより短い期間であることを、発明者は予想外に発見した。この発見は、当業者の理解と完全に正反対のものである。腎機能障害の条件で化合物を投与した場合、より重度の腎機能障害により上記化合物のよりゆっくりした除去が引き起こされるので、正常な腎臓機能の場合と比較すると、上記化合物の腎臓による除去が低減される。したがって、腎機能障害を患っている対象に化合物を投与した場合には、正常な腎臓機能を有する対象と比べて、血液中の上記化合物のより高いレベルが、より長い期間得られると、当業者は予想していたのであろう。
【0089】
予想外に、発明者は、式Iの化合物の振る舞いが全く反対であることを発見した。以前の方法では、上記化合物を、生物学的マトリックス(例えば、血液)内で正しく定量化することができなかったが、最近の適切な分析ツールの開発によって、この驚くべき振る舞いを発見することができた(Perello J, Maraschiello C, Lentheric I, Mendoza P, TurF, Tur E, Encabo M, Martin E, Benito M, Isern B. Method for the direct detection and/or quantification of at least one compound with a molecular weight of at least 200. PCT/EP2012/069878)。
【0090】
式Iの化合物を対象に投与した場合、血液または血漿中の上記化合物のより低いレベルが得られ、また、いくつかの場合には、上記のレベルは検出不可能であった。正常な腎臓機能を有する対象に対して同様の投与経路を介して同じ用量の投与を行うと、より長い期間、血液内においてより高いレベルが引き起こされた。
【0091】
尿毒症の存在下における上記化合物の除去は、化合物のより多くの代謝によって、非常に速いことを発明者は発見した。この発見は、なぜ尿毒症の存在下では上記化合物の効果を実証する様々な試みが失敗したかを説明する。なぜなら、化合物は、正常な腎臓機能の条件下よりもさらに急激に破壊され(代謝され)、特定の受容体および疾病に対する治療効果を発揮することができないからである。換言すれば、より高い代謝レートによって、治療レベルに達することができず、効果を実証する十分な時間を維持することができないからである。
【0092】
本発明の化合物または混合物は、非大量瞬時投与タイプの放出または効果を引き起こすいずれかの適切な方法(例えば、血管内(例えば、静脈内)注入、他の非経口の(皮下の、皮下沈着物、腹腔内の、筋肉内の、皮内の、くも膜下腔内の、硬膜外の、脊髄性の、または他の公知の)投与、局所的な(鼻腔内の、吸入、膣内の、経皮性の、または他の公知の)投与、経腸的な(経口の、舌下の、直腸の、など)投与、経口の、精髄の、腹腔内の調整、または他の公知の方法)によって投与されてもよい。
【0093】
経口投薬の特定の場合では、血液内でより高いレベルを得る、またはより長い期間上記レベルを維持することにより、持効性放出(非大量瞬時投与)の効果を得るまたは増強するために、輸送技術が使用されてもよい。例として、上記輸送技術は、リポソーム、有機高分子の使用、会合またはイオン対(例えば、第四級アンモニウム塩)の形成を含んでもよい。さらに、輸送技術は、化合物の吸収の遅延もしくは変調を行ってもよいし、および/または、上記化合物が血流または長時間の暴露を維持することを助けることができる対応する受容体に達する前に、胃腸管または初回肝臓通過の間における上記化合物の代謝を防いでもよい。
【0094】
透析による処置を受けている患者の特定の場合では、極めて適切な投薬方法は、患者の静脈内に直接化合物を投与するのではなく、透析装置を介した(濾過の前または後で)化合物の非大量瞬時投与タイプの投与から成る。したがって、血液が患者から離れて透析回路を循環している間に、血液は化合物によって処理されることが可能であり、化合物を含む血液が体に戻されるときに、化合物が一連の利点を示す方法で血液に導入される。
【0095】
上述した投与方法は、予想外に、もっともらしい別の手段として発見された。比較的小さい分子量を有する上述の化合物は、透析膜によって容易に失われるはずであるので、透析装置を介した投与は不可能であろうと当業者は疑いなく考えてきただろう。したがって、血液が再び対象の体に達する前に、フィルター(透析膜)を通過する際に化合物は失われる(透析される)ので、血液が体の外部にあるときにおける透析システムを介した化合物の投与は、代替の手段にならないであろうと、業者は疑いなく考えてきただろう。IP6の場合には、例えば、IP6のタンパク質との結合は70〜90%の範囲であり、これは化合物の10〜30%のみ透析することができることを意味するので、上記化合物は失われないということを、発明者は予想外に発見した。しかし、さらに、化合物の高い負電荷が、有効な方法で化合物のフィルターの透過を著しく妨げる静電気的な反発力を引き起こす。
【0096】
さらに、上記化合物(好ましくはイノシトールリン酸)は、血流中のフリーまたはイオン性のカルシウムをキレート化する(隔離する)ことができ、これにより、上記カルシウムがその生物学的な役割を果たすために必要なカルシウム濃度を減少させることを発明者は示した。したがって、カルシウムのキレート化は、ある血液濃度に達したときに問題となる。非大量瞬時投与タイプの投与は濃度ピークを回避し、カルシウムのキレート化に対する効果が除去されるので、非大量瞬時投与タイプの投与はさらに非常に適切である。
【0097】
さらに、透析患者の場合では、透析装置を介した投与によって、血液を体に戻す前に、血液は透析液と平衡化することができる。これにより、C−O−P結合を含む化合物はイオン性のカルシウムを分離するが、この事実は、血液が透析膜を通過するときに補償され、それゆえ、上記副作用を除去し、安全性を著しく向上させる。
【0098】
本発明で使用される場合には、用語「処置」は、対象(好ましくは哺乳類、さらに好ましくはヒト)における所定の疾病または病的状態の結果として引き起こされる効果を無効にすることを言い、以下に示す項目を含んでいる。
(i)疾病または病的状態を抑制すること、換言すれば、これらの発達または進行を遅らせるまたは停止させること;
(ii)疾病または病的状態を軽減すること、換言すれば、疾病もしくは病的状態、またはこれらの症状を退行させること;
(iii)疾病または病的状態を安定させること。
【0099】
本発明の1つの実施形態では、式Iの化合物がカルシウムを含む結晶の形成または成長プロセスの熱力学を変化させる他の化合物と組み合わされたときに相乗効果が起こることが観察されるように、式Iの化合物と上記のリストから選択される腎機能障害のための他の処置との間において、予想外に相乗効果が観察される。さらに、式Iの化合物を、上記プロセス(促進因子を減少させ、リプレッサー因子を増加させること)の動力学を変更する他の化合物と組み合わせることによっても上記の相乗効果が生じることが観察された。
【0100】
一般的に、投与された本発明の化合物の有効量は、関連する化合物の相対的効力、処置される障害の重症度、および対象の重量に依存するであろう。投薬は、1日毎から1週間毎、1か月毎、2か月毎、または公知の他のいずれかの頻度まで及んでもよい。
【0101】
明細書および特許請求の範囲を通して使用されるように、単語「含む」およびその変形は、他の技術的特徴、利点、添加物、構成要素または工程を除外することを意図されていない。当業者にとって、本発明の他の主題、利点、および特徴は、本明細書から部分的に得られ、本発明の実践から部分的に得られるであろう。後述する実施例および図面は、説明のために提供されるものであり、本発明を制限することを意図されていない。
【0102】
〔図面の簡単な説明〕
図1. 37℃、pH7.4で8時間培養した後における、異なる濃度のHAP結晶へのIP6の吸着量を示す図である。
【0103】
図2. HAP結晶へのIP6の吸着量を示す図である。IP6(7.6μM)は、130mgのHAPの存在下において、5分間から8時間、37℃、pH7.4で培養された。
【0104】
図3. HAP表面からのIP6の放出動力学を示す図である。IP6(7.6μM)は、130mgのHAPの存在下で培養され、IP6は48時間までの異なる時点において放出された。
【0105】
図4. 正常なラットおよび尿毒症のラットにおいて、10mg/kg皮下投与した後のIP6についてのPKプロファイルを示す図である。
【0106】
図5. 正常なラットおよび尿毒症のラットにおいて、4時間、10および50mg/kg静脈内注入した後のIP6についてのPKプロファイルを示す図である。
【0107】
図6. ラットにおけるビタミンDによって引き起こされる心血管石灰化モデルにおいて、IP6の静脈内投与後の大動脈(A)および心臓(B)内のカルシウム量を示す図である(5×75,000IU/kg)。用量は、mg/kgで表される。Cは、対照群である。
【0108】
図7. ラットにおけるビタミンDによって引き起こされる心血管石灰化モデルにおいて、IP6の皮下投与後の大動脈内のカルシウム量を示す図である(3×300,000IU/kg)。
【0109】
図8. (A)は、心臓の石灰化の進行を示す図であり、(B)は、5日目から14日目までにおける10および60mg/kgのIP6を用いた皮下投与処置後の上記石灰化の進行の阻害を示す図である。100,000IU/kgのビタミンDが、1、2および3日目に投与された。
【0110】
図9. (A)は、腎臓の石灰化の進行を示す図であり、(B)は、5日目から14日目までにおける10および60mg/kgのIP6を用いた皮下投与処置後の上記石灰化の進行の阻害を示す図である。100,000IU/kgのビタミンDが、1、2および3日目に投与された。
【0111】
図10. IP6によるイオン性カルシウムのキレート化を示す図である。濃度が上昇したIP6を、pH7.4、0.15MのNaClを含む2.5mMのカルシウム溶液に加え、イオン性カルシウムレベルを測定した。
【0112】
図11. IP6の大量瞬時投与および非大量瞬時投与タイプの投与後の補正QT間隔の長期化を示す図である。
【0113】
図12. 透析回路を介した20分間の投与後のヒトの血液内のIP6濃度を示す図である。
【0114】
図13. 透析回路を介した20分間のIP6を用いた投与後のヒトの血液内のイオン性カルシウムの濃度を示す図である。
【0115】
図14. (A)は、IP6とシナカルセトとの間の相乗効果を示す図であり、(B)は、IP6とセベラマーとの間の相乗効果を示す図である。
【0116】
〔実施例〕
本発明は、発明者によって実行され、記載される処置方法の特殊性および効力を強調する様々な試験を通じて以下に説明されるであろう。
【0117】
〔実施例1〕
IP6と、腎機能障害のための他の処置との両立する組み合わせ。
【0118】
<目的>
腎機能障害のための他の処置との、IP6の適合性を評価すること。
【0119】
<実験方法>
IP6(皮下注射)、IP6(皮下注射)+セベラマー(経口投与)、IP6(皮下注射)+シナカルセト(経口投与)、IP6(皮下注射)+VitD(皮下注射)、IP6(皮下注射)+チオ硫酸ナトリウム(皮下注射)、および、IP6(皮下注射)+イバンドロネート(皮下注射)を用いて、ウィスターラットを処置した。
【0120】
<結果および考察>
IP6を単独で投与した場合と、他の処置と同時に投与した場合との間に、有意な違いは観察されなかった。IP6を腎機能障害のための他の処置と同時に投与することは、適合性の問題を示さないと結論付けられる。
【0121】
〔実施例2〕
ヒドロキシアパタイト(HAP)に対するIP6の親和性の生体外における測定。
【0122】
<目的>
本試験の目的は、IP6の標的に対するIP6の親和性を分析し、これにより、HAPに対するIP6の親和性についての曲線を得ることである。
【0123】
<実験方法>
4種類の量のHAPを、断続的に撹拌しながら、37℃、pH7.4で4時間、IP6の濃度を増加させながら培養した。標的(HAP)の表面に結合したIP6の総量を定量化した。
【0124】
<結果>
7.6μMまたはそれ以上の濃度で飽和した、投与量に依存した吸着曲線が得られた。HAP表面へのIP6の最大吸着量は、300mgの標的を使用した場合において吸着した4.8mgから、25mgのHAPを使用した場合における6.42mgまでわたった。また、この最大吸着量は、8時間、7.6μMのIP6の存在下で得られた。IP6の結合の振る舞いを特徴づけるために、HAPへのIP6の吸着量についてのEC50およびEmaxを算出した。これは、非線形回帰モデル(Log[作用薬]対反応−傾斜変数;GraphPad Prism software)を使用して実行された。算出したEC50値は、0.46μM(25mgのHAP)、0.96μM(75mgのHAP)、1.22μM(130mgのHAP)、および2.09μM(300mgのHAP)であった。Emaxは、6.42mg/gの値で飽和に達した。結果を図1に示す。
【0125】
<結論>
IP6は、HAPに対して高い親和性を有する。また、HAP結晶へのIP6の吸着量は、HAP表面の吸着サイトが飽和する点である7.6μMのIP6まで直線的に増加する。
【0126】
〔実施例3〕
HAPへのIP6の結合動力学の生体外における測定。
【0127】
<目的>
HAPへのIP6の結合速度を分析すること。
【0128】
<実験方法>
130mgのHAPを、断続的に撹拌しながら、37℃、pH7.4で、様々な時間間隔で、7.6μMのIP6を用いて培養した(3通り)。
【0129】
<結果および考察>
HAPへのIP6の急速な結合が観察され(図2)、60分後に吸着量の最大値に達した。最大の結合の約80%は、5分後に得られた。
【0130】
〔実施例4〕
HAPに対するIP6の生体外における親和性。放出試験。
【0131】
<目的>
HAPからのIP6の放出速度を分析すること。
【0132】
<実験方法>
130mgのHAPを、断続的に撹拌しながら、37℃、pH7.4で、様々な時間間隔で、7.6μMのIP6を用いて3通り培養した。続いて、吸着したIP6を有するHAPを、IP6を含まない溶液の中に置き、HAPの表面から放出されたIP6の量を異なる時点で評価した。
【0133】
<結果および考察>
HAP表面からのIP6の比較的ゆっくりとした放出が観察された(図3)。2日間の培養の後では、80%のIP6がHAPの表面に結合したままであった。
【0134】
〔実施例5〕
正常な腎臓機能を有するラットおよび弱まった腎臓機能を有するラットへ、皮下(s.c.)投与されたIP6に対する薬物動態(PK)プロファイル。
【0135】
<目的>
正常な腎臓機能を有するラットおよび腎機能障害を有するラットに対するPKプロファイルを評価すること。
【0136】
<実験方法>
正常な腎臓機能を有するラットへ、単一用量(10mg/kg)を皮下投与した。60分後までの異なる時点において、血漿試料を得た。腎機能障害を引き起こすために、ウィスターラットの異なるグループに対して、600mg/kgのアデニン(経口投与)を用いて、10日間経口の処置を行った。11日目および13日目にアルファ−カルシドール(300ng/kg)を投与し、14日目に60分後までの異なる時点において、血漿試料を収集した。両方のグループについて、血漿IP6濃度を定量化した。
【0137】
<結果および考察>
正常なウィスターラットは、少なくとも30分間、測定できるレベルを示し、投与から15分後において7.4μMの濃度ピークを示した。尿毒症のラットは、非常に低い暴露を示し、全ての時点において非常に低いレベルであり、投与から5分後において1.8μMの濃度ピークを示した(図4)。代謝産物として、より低いイノシトールリン酸(IP5、IP4、IP3、IP2、IP1)およびイノシトールが検出された。
【0138】
<結論>
尿毒症の動物におけるIP6暴露は、正常な動物の場合よりも低く、より短い期間でより低い濃度ピークであった。この効果は、尿毒症存在下における高い代謝速度によるものである。
【0139】
〔実施例6〕
正常な腎臓機能を有するラットおよび腎機能障害(尿毒症)を有するラットへ、長期の注入によって投与されたIP6についての薬物動態(PK)プロファイル。
【0140】
<目的>
正常な腎臓機能を有するラット、および、腎機能障害を有し、透析されていないラットにおける、静脈内注入によるIP6についてのPKプロファイルを評価すること。
【0141】
<実験方法>
正常な腎臓機能を有するウィスターラットを、毎日、10または50mg/kgの用量のIP6を用いて、4時間以上の静脈内注入によって処置した。0日目の4時間までの異なる時点において、血漿試料を得た。その後、腎機能障害を引き起こすために、10日間、600mg/kgのアデニン(経口投与)を用いて、動物に対して経口的に処置を行った。11日目および13日目にアルファ−カルシドール(300ng/kg)を用いて動物を処置し、14日目に4時間までの異なる時点において、血漿試料を収集した。両方のグループについて、血漿IP6レベルを定量化した。
【0142】
<結果>
正常なラットは、10および50mg/kgの投与量においてそれぞれ8.4および68.4μMの最大血漿濃度を示した。しかしながら、ラットが尿毒症になっている場合には、10mg/kgで達した最大濃度は30分後における2.8μMであったが、上述の値は高い代謝割合によって4時間後には1.2μMまで減少した。代謝効果は、50mg/kgにおいて部分的に排され、4時間後において24.6μMの最大血漿濃度が得られ、30分以降には、血漿濃度の減少は観察されなかった。したがって、ほぼ一定の濃度が3時間(1時間目から4時間目まで)維持された。最終的な血漿濃度は正常なラットよりも低かったが、後の実施例で示すように、暴露は、有意なままであり、効力を発揮するのに潜在的に十分なままであった。
【0143】
<結論>
尿毒症の動物におけるIP6の暴露は、正常な動物におけるものよりも低く、4時間後により低い濃度に達した。しかしながら、用量が十分に高い場合には、長期の注入によって、有意なレベルが長期間達成され、高い代謝割合による効果を部分的に排した。
【0144】
〔実施例7〕
正常な腎臓機能を有する動物において、カルシウムに関連した疾病におけるIP6の効力。
【0145】
<7.a.>
IP6の静脈内投与による、ビタミンDによって引き起こされる(75,000IU/kg×5)心血管石灰化の阻害。
【0146】
<目的>
ラットにおけるビタミンDによって引き起こされる心血管石灰化を阻害する際の、静脈内IP6の効力を評価すること。
【0147】
<実験方法>
オスのスプラーグドーリー(SD)ラットを7つのグループに分け、毎日、14日間、0、0.05、0.1、0.5、1、5、および10mg/kgの用量で、静脈内にIP6を投与した。処置3日目および7日目に75,000IU/kgのビタミンDを経口投与することにより、石灰化を引き起こした。試料を収集した。14日目に、動物の大動脈および心臓を収集し、石灰化を定量化した。
【0148】
<結果および考察>
ビタミンDの投与によって、大動脈および心臓の石灰化の著しい増加が引き起こされた。0.05〜0.5mg/kgのIP6の静脈内投与は、大動脈および心臓のミネラル量に影響を与えなかった。しかし、1および10mg/kgの間の用量の投与によって、両方の組織において、大動脈で最高60%、心臓で68%の石灰化が減少した(図6)。
【0149】
<7.b.>
IP6の皮下投薬による、ビタミンDにより引き起こされる(300,000IU/kg×3)心血管石灰化の阻害。
【0150】
<目的>
ラットにおけるビタミンDによって引き起こされる心血管石灰化の阻害に対する、皮下投与IP6の効力を評価すること。
【0151】
<実験方法>
オスのSDラットを9つのグループに分けた。上記グループのうち2つのグループ(模擬グループおよび対照群)に対して、2ml/kgの生理食塩水を皮下投与した。6つのグループに対して、0.1、1、10、60および100mg/kg(2ml/kg)の用量でIP6を皮下投与し、他の1グループに対して、35mg/kgのピロリン酸ナトリウム(PPi(2ml/kg))を皮下投与した。1つのグループを、200mg/mlのIP6を装填した皮下投与のアルゼットポンプを用いて処置した。処置3日目から始まる3日間、300,000IU/kgのビタミンD(2ml/kg)を経口投与することにより、石灰化を引き起こした。模擬グループを、同様の方法で生理食塩水を用いて処置した。7日間の処置の後に、心臓、大動脈、および腎臓内のカルシウム量を測定した。
【0152】
<結果および考察>
皮下投与されたIP6は石灰化を阻害し、用量反応の挙動が得られた。有意な効果を引き起こした最小用量は10mg/kgであった。これは28mg/kgのピロリン酸塩と同じ効果を引き起こし、IP6は、より優れた効力を示した。60および100mg/kgの用量は、約60%の効力を示した。アルゼットポンプを使用した長期間の投薬による処置によって、85%の石灰化が減少した(図7)。
【0153】
<結論>
皮下投与されたIP6は、用量反応様式で大動脈の石灰化を阻害し、EC50は3.75mg/kgであり、Emaxは65.5%である。ピロリン酸塩は、優れた効力を示すが、IP6よりも用量が大きい。アルゼットポンプを用いた長期の投与による処置は、効力の著しい上昇をもたらした。
【0154】
<7.c.>
2週間のラットモデルにおけるビタミンDによって引き起こされる血管石灰化(100,000IU/kg×3)の進行に対するIP6(皮下投与)の評価。
【0155】
<目的>
血管石灰化の進行に関するIP6の薬理学的な性質を評価すること。
【0156】
<実験方法>
組織の石灰化を引き起こすために、48体のSDラットに対してビタミンD(皮下投与100,000IU/kg)を用いて、3回処置した。石灰化を5日間進行させ、5日目から14日目まで、0、10、または60mg/kgのIP6を用いた処置を行った。腎臓および心臓の石灰化を評価した。
【0157】
<結果および考察>
5日目から14日目まで、明らかに組織の石灰化が進行した。IP6を用いた処置により、最も多い用量において、心臓の石灰化の進行が100%阻害され(図8)、腎臓の石灰化の進行が95%阻害された(図9)。これらの発見によって、たとえ結石がすでに形成され、組織の中に沈着している場合においても、IP6が生体内で結石が成長することを阻止できることが初めて証明された。
【0158】
〔実施例8〕
腎機能障害(尿毒症)を患っている動物内のカルシウム障害におけるIP6の効力。
【0159】
<8.a.>
腎摘出および静脈内大量瞬時投与モデルによるIP6の投与。
【0160】
<目的>
慢性腎機能障害モデル(5/6腎摘出ラット)の組織石灰化の予防における静脈内注入IP6の効力を測定すること。
【0161】
<実験方法>
右側の腎臓の完全な摘出および左側の腎臓の2/3部分の摘出により、48体のSDラットに対して5/6腎摘出した。1グループにつき16体ずつの動物に対して、2ml/kgの生理食塩水、1mg/kgのIP6、または5mg/kgのIP6をそれぞれ用いて、静脈内注入(大量瞬時投与)により処置した。20%のラクトースを含むリン酸塩リッチな食事(1%のCa、1.2%のP)を動物に与えた。8週間後、大動脈、心臓、および残りの1/3の腎臓を収集し、組織のカルシウム量を測定した。
【0162】
<結果および考察>
動物がIP6を用いて処置した場合に、石灰化の阻害の証拠は見られなかった。モデルは、高い可変性を示したが、小さい割合の対照動物しか石灰化を示さず、外科的処置はおそらくそれほど均一ではないので、尿毒症の動物の高い代謝割合が効力の欠如の理由である。
【0163】
<8.b.>
アデニンおよび大量瞬時投与タイプの皮下注入投与モデル。
【0164】
<目的>
慢性腎機能障害(アデニン)の動物モデルの組織石灰化の予防におけるIP6の効力を測定すること。
【0165】
<実験方法>
10日間、毎日、アデニン(600mg/kg/day)を用いた経口投与処置によって、4グループ(n=12)のオスのウィスターラットにCKDを引き起こした。アデニンを用いた処置の後に、ラットに対して、28日目まで300ng/kg(3回/週、経口投与)の用量でアルファ−カルシドールを投与した。0日目から犠牲になる(28日目)まで、0、3、10、および30mg/kgのIP6の2ml/kgの皮下投与の大量瞬時投与によって、動物を処置した。各処置において、IP6についてPLを評価するために、3体の追加の動物を含めた。28日後、大動脈、心臓、および右の腎臓を収集し、組織のカルシウム量を測定した。
【0166】
<結果および考察>
どの組織においてもカルシウム阻害の証拠は見られなかった。モデルは再現可能であり、一貫した組織石灰化を有していたが、尿毒症の動物におけるIP6の高い代謝割合が効力の欠如の理由である。
【0167】
<8.c.>
アデニンおよび非大量瞬時投与タイプの血管内注入投与モデル。
【0168】
<目的>
尿毒症の動物の組織石灰化の予防における非大量瞬時投与タイプ投与としてのIP6の効力を測定すること。
【0169】
<実験方法>
10日間、毎日、アデニン(600mg/kg/day)を用いた経口投与処置によって、2グループ(n=12)のオスのウィスターラットにCKDを引き起こした。アデニンを用いた処置の後に、ラットに対して、28日目まで300ng/kg(3回/週、経口投与)の用量でアルファ−カルシドールを投与した。0日目から犠牲になる(28日目)まで、50mg/kgのIP6または生理食塩水の血管内注入を用いて、4時間、動物を処置した。28日後、大動脈および心臓を収集し、組織のカルシウム量を測定した。
【0170】
<結果および考察>
IP6を用いた処置によって、大動脈および心臓においてそれぞれ80%および85%の平均石灰化の減少が引き起こされた。実験の終わりまでに血漿IP6レベルを90%減少させる高い代謝割合にも関わらず、長期の非大量瞬時投与タイプの投与によって、代謝効果が補償され、尿毒症条件下でのカルシウム疾病におけるIP6の効力が初めて証明された。
【0171】
〔実施例9〕
IP6による生体外でのカルシウムのキレート化。
【0172】
<目的>
イオン性カルシウムのキレート化についてのIP6の潜在能力を評価すること。
【0173】
<実験方法>
IP6の濃度を増加させながら、pH7.40、0.15MのNaClを含む2.5mMのカルシウムをピペットで採取した。カルシウム選択性の電極および電位差系を用いて、電位差滴定でフリーのイオン性カルシウムの量を測定した。
【0174】
<結果および考察>
IP6は、379μM以上の著しいイオン性カルシウムのキレート化能力を示した。用量反応曲線の片対数表現(図10)は、3788μMで飽和し、EC50が539μMであるS字形を示す。これらの結果を図10に示す。上述の濃度は、生体内の試験において観察されたレベルと一致しており、なぜIP6の副作用が低カルシウム血症(イオン性カルシウムのキレート化)と関連するのかを説明する。
【0175】
〔実施例10〕
IP6による生体内でのカルシウムのキレート化。
【0176】
<10.1>
遠隔測定を用いた意識のあるイヌへ2時間血管内投与した後の心血管機能に対するIP6の効果。
【0177】
<目的>
心電図(ECG)および血清のイオン性カルシウム濃度に対するIP6の非大量瞬時投与タイプ投与の効果を測定すること。
【0178】
<実験方法>
4匹のオスのイヌに対して、ラテン方格法を用いて、2時間、注入による3、10、および30mg/kgのIP6を用いて処置した。投与の間には、1週間の洗い流し期間を実行した。投与の1時間前および20分前、並びに、投与から5分後、15分後、30分後、45分後、1時間後、2時間後、6時間後、および24時間後に、遠隔測定でECGを測定した。第2段階では、投与の20分前、並びに、投与から5分後、15分後、30分後、1時間後、1.5時間後、2時間後、3時間後、および6時間後に、同じ用量に対して、PKのために血液試料を採取した。この場合では、投与間の洗い流し期間は2日間であった。血液試料内の総およびフリーのカルシウムも測定した。
【0179】
<結果>
健康状態、体重、心肺機能、ECG、体温、並びに、血液内の総およびフリーのカリウムは、いずれの用量に対しても、2時間のIP6の投与によっては、比較的影響は受けなかった。平均の血液のイオン性カルシウムの濃度も影響を受けなかった。検出された最大IP6レベルは、3、10、および30mg/kgに対して、それぞれ27、150、および482μMであった。
【0180】
<結論>
上述した実験条件下では、2時間の3、10、および30mg/kgの用量でのIP6の投与は、イヌに対する負の影響がない。
【0181】
<10.2.>
遠隔測定を用いた意識のあるイヌにおける大量瞬時投与タイプの静脈内投与後の心血管機能に対するIP6の効果。
【0182】
<目的>
イヌの血清のイオン性カルシウム、ECG、および臨床的症状におけるIP6の大量瞬時投与タイプの投与の効果を調査すること。
【0183】
<実験方法>
4匹のオスのイヌを用いて、1用量あたり2匹のイヌに対して、10、15、および30mg/kgを用いて注入した。異なる用量の間には、2日間の洗い流し期間を導入した。遠隔操作でECGを記録した。ECG測定までの異なる日に血流のイオン性カルシウムの濃度を測定した。
【0184】
<結果および考察>
10mg/kgの投与では、IP6は、ECGパラメータまたはイオン性カルシウムの濃度に対して優位な効果を示さなかった。15mg/kg以上では、軽度の頻拍および長期の補正QT間隔が観察され、長期の補正QT間隔は30mg/kg以上で顕著であった(図11)。この効果は、イオン性カルシウムが30%減少したことと関連する。低カルシウム血症は、長期の補正QT間隔の原因となる。これらの発見は、前の実施例における2時間以上の投与に対する発見と共に、IP6がイオン性カルシウムをキレート化することができるので、最大血漿IP6濃度に依存して、IPが低カルシウム血症に影響し、補正QT間隔を長くすることを確証する。上記の効果は、非大量瞬時投与タイプの投与による投与期間を長くすることにより、補正することができる。
【0185】
〔実施例11〕
透析システムを介したIP6の投与。
【0186】
<目的>
実際の透析システムを用いたヒトの血液におけるIP6の透析性およびカルシウムのキレート化に対するその効果を確証すること。
【0187】
<実験方法>
実際の透析をシミュレートするために、治療上の瀉血を受けている患者から得た1リットルのヒトの血液を、閉透析回路を形成するレシピエントに導入した。2つの実験を行い(透析前および透析後の投与、バイパスモードおよび透析モードの両方において)、ヒトの血液がレシピエント(これは動物またはヒトの体をシミュレートしている)の外側にあるときに、20分間、ヒトの血液にIP6を投与し、透析回路を介して循環させた。37℃に制御された温度で、1リットルの全ての血液を含むレシピエントを透析装置に接続し、閉回路を形成した。透析装置を1時間接続した(500ml/minの透析液フローおよび350ml/minの血液フロー)。異なる時点で血液試料を収集し、IP6およびイオン性カルシウムのレベルを測定した。
【0188】
<結果および考察>
標準の透析装置を用いて、20分間、透析ラインを介してIP6を透析することにより(これは、標準の臨床処置をシミュレートしている)、IP6は透析膜によって失われないことが示された(図12)。
【0189】
さらに、IP6はフリーのカルシウムをキレート化する(隔離する)(バイパスモードの装置)が、上記装置が透析モードで配置されたときには、イオン性のカルシウムレベルが透析液によって供給されるカルシウムの結果として回復するので、上述のキレート化の負の効果は排されることが確認される(図13)。これにより、透析システムを介した非大量瞬時投与または持効性放出の上述した新しいモード(これは、全実施例で説明したように、生成物効力に対して適切であり、安全性の性質を向上させる)が、IP6に対して確立される。
【0190】
〔実施例12〕
腎機能障害のための他の処置との、IP6の相乗効果。
【0191】
<目的>
IP6の効果と、腎機能障害のための他の処置の効果との間の潜在的な相乗効果を評価すること。
【0192】
<実験方法>
pH7.4で適切な濃度のカルシウムおよびリン酸塩を混合することにより、ヒドロキシアパタイト(HAP)を結晶化した。カルシウムおよびリン酸塩の濃度を適切に変更させることにより、シナカルセトおよびセベラマーの効果をシミュレートした。分析信号として、誘発期間(HAPが結晶化し始めるのに必要な時間)を記録した。
【0193】
<結果および考察>
対照実験における誘発期間は8分間であった。IP6を添加した場合では、誘発時間は、11.4μMの濃度における28分間まで、次第に増加した。続いて、0〜11.4μMの範囲の様々な濃度のIP6を、一定にシミュレートされた濃度のシナカルセトおよびセベラマーと混合し、カルシウムおよびリン酸塩の濃度を適切に変更した。シナカルセトおよびセベラマーの効果をシミュレートした場合には、誘発時間(IP6なし)はそれぞれ14分間および15分間であった。図14に見られるように、IP6を添加した場合には、相乗効果がはっきりと見られた。
【図面の簡単な説明】
【0194】
図1】37℃、pH7.4で8時間培養した後における、異なる濃度のHAP結晶へのIP6の吸着量を示す図である。
図2】HAP結晶へのIP6の吸着量を示す図である。IP6(7.6μM)は、130mgのHAPの存在下において、5分間から8時間、37℃、pH7.4で培養された。
図3】HAP表面からのIP6の放出動力学を示す図である。IP6(7.6μM)は、130mgのHAPの存在下で培養され、IP6は48時間までの異なる時点において放出された。
図4】正常なラットおよび尿毒症のラットにおいて、10mg/kg皮下投与した後のIP6についてのPKプロファイルを示す図である。
図5】正常なラットおよび尿毒症のラットにおいて、4時間、10および50mg/kg静脈内注入した後のIP6についてのPKプロファイルを示す図である。
図6】ラットにおけるビタミンDによって引き起こされる心血管石灰化モデルにおいて、IP6の静脈内投与後の大動脈(A)および心臓(B)内のカルシウム量を示す図である(5×75,000IU/kg)。用量は、mg/kgで表される。Cは、対照群である。
図7】ラットにおけるビタミンDによって引き起こされる心血管石灰化モデルにおいて、IP6の皮下投与後の大動脈内のカルシウム量を示す図である(3×300,000IU/kg)。
図8】(A)は、心臓の石灰化の進行を示す図であり、(B)は、5日目から14日目までにおける10および60mg/kgのIP6を用いた皮下投与処置後の上記石灰化の進行の阻害を示す図である。100,000IU/kgのビタミンDが、1、2および3日目に投与された。
図9】(A)は、腎臓の石灰化の進行を示す図であり、(B)は、5日目から14日目までにおける10および60mg/kgのIP6を用いた皮下投与処置後の上記石灰化の進行の阻害を示す図である。100,000IU/kgのビタミンDが、1、2および3日目に投与された。
図10】IP6によるイオン性カルシウムのキレート化を示す図である。濃度が上昇したIP6を、pH7.4、0.15MのNaClを含む2.5mMのカルシウム溶液に加え、イオン性カルシウムレベルを測定した。
図11】IP6の大量瞬時投与および非大量瞬時投与タイプの投与後の補正QT間隔の長期化を示す図である。
図12】透析回路を介した20分間の投与後のヒトの血液内のIP6濃度を示す図である。
図13】透析回路を介した20分間のIP6を用いた投与後のヒトの血液内のイオン性カルシウムの濃度を示す図である。
図14】(A)は、IP6とシナカルセトとの間の相乗効果を示す図であり、(B)は、IP6とセベラマーとの間の相乗効果を示す図である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14