(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
車室内の温度を調節する装置として車両用空調装置が知られている。例えば特許文献1に示されるように、車両用空調装置は、冷却用熱交換器(蒸発器)と、加熱用熱交換器(ヒータコア)と、エアミックスドアと、を備える。冷却用熱交換器は、車室内あるいは車外からケース内に導入された空気(空調風)を冷却する部材である。加熱用熱交換器は、冷却用熱交換器よりも空調風の流れの下流側に配置され、空調風を加熱する部材である。エアミックスドアは、加熱用熱交換器を通過する空調風の通路(温風通路)の入口と、加熱用熱交換器をバイパスする空調風の通路(バイパス通路)の入口の開閉を調節し、温風通路とバイパス通路とに振り分けられる空調風の割合を調節する部材である。
【0003】
特許文献1の車両用空調装置のケースには、車室の上側に供給される空調風の出口となるフェイス開口部と、ケースにおける車幅方向の両側にそれぞれに設けられ、車室の足元側に供給される空調風の出口となるフット開口部とが設けられている。この特許文献1の構成ではさらに、ケース内におけるバイパス通路に温風通路が合流する領域、即ち温風と冷風とが混合されるエアミックス領域に設けられ、フェイス開口部およびフット開口部に導く空調風の量を調整する分配器を備える。
【0004】
特許文献1の構成によれば、特にフット開口部をエアミックス領域の側方に設けることで、フット開口部が車両後方に向って開口する構成よりも、車長方向にケースをコンパクトにできる。そのため、特許文献1の構成は、エンジンルームのスペースに制約のあるコンパクトカーに好適である。また、特許文献1の構成によれば、エアミックス領域の側方にフット開口部を形成することで、フット開口部に空調風を導き易いため、空調風の圧力損失や、その圧力損失に伴う騒音を低減できるとしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
車室内の快適性を向上させる上で、車室内への空調風の送風量を増加できることが重要である。送風量を増加できれば、素早く車室の温度を調整できるからである。そのため、ケース内の圧力損失を従来構成よりも低減できる構成が求められている。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、ケース内の圧力損失を低減できる車両用空調装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者が検討した結果、エアミックス領域から側方に開口するフット開口部を備える従来構成では、ケース内の圧力損失を低減する余地があることが分かった。車両用空調装置では、車両の後方側に向う空調風の流れがあるが、ケースの側方から空調風を取り出す構成では、車両後方側に向う流れを止めてしまい、圧力損失が生じてしまう。本発明者は、この点に着目し、以下に示す車両用空調装置を完成させた。
【0009】
本発明の一態様に係る車両用空調装置は、
加熱用熱交換器と冷却用熱交換器を収納するケースと、
前記ケースに設けられ、車室の上側に供給される空調風の前記ケースにおける出口であるフェイス開口部と、
前記ケースにおける車幅方向の両側にそれぞれに設けられ、前記車室の足元側に供給される前記空調風の前記ケースにおける出口であるフット開口部と、
前記ケース内に形成される温風と冷風とが混合されるエアミックス領域に設けられ、前記フェイス開口部および前記フット開口部に導く前記空調風の量を調整する分配器と、を備える車両用空調装置であって、
前記分配器は、前記フェイス開口部に前記空調風を導くフェイスモード位置と、前記フット開口部に前記空調風を導くフットモード位置との間で、回動自在に前記ケースに支持される可動壁と、前記可動壁の回動に連動し、前記フット開口部における前記エアミックス領域に形成される部分の開度を変化させる連動壁と、を備え、
前記可動壁は、短辺と長辺と一対の斜辺とを備える台形状の板状片であり、前記短辺の位置で車幅方向に延びる回転軸に軸支されており、
前記連動壁は、前記可動壁の前記斜辺の位置に前記可動壁に一体に設けられ、前記回転軸の位置を中心とする扇状の板状片であり、
前記ケースは、前記エアミックス領域から車長方向の後方に張り出し、前記可動壁が前記フェイスモード位置にあるときに前記可動壁によって前記エアミックス領域と区画されるフット領域を備え、
各前記フット開口部は、前記ケースにおける前記フット領域と前記エアミックス領域とに跨って形成され、その開口方向が車両の斜め後方に向いている。
【発明の効果】
【0010】
斜め後方に開口するフット開口部によって、車長方向への車両用空調装置の大型化を抑制しつつ、車両後方側に向う空調風の勢いを削ぐことなく、空調風をフット開口部に導くことができる。そのため、本発明の一形態に係る車両用空調装置によれば、側方に開口するフット開口部を有する従来の車両用空調装置に比べて、ケース内における圧力損失を低減することができる。
【0011】
可動壁と連動壁を一体化することで、可動壁を動作させるだけで連動壁も動作させることができる。そのため、連動壁を動作させる駆動機構を省略することができ、コストを含めた車両用空調装置の生産性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態に係る車両用空調装置を図面に基づいて説明する。各図面では、矢印によって車両前方FR、車両後方RR、車両右方RS、車両左方LS、車両上方UP、および車両下方DWを示す。丸印の中心に黒点を有する矢じりマークは紙面手前側を示し、丸印の中にバツ印を有する矢羽根マークは紙面奥側を示している。
【0014】
<実施形態1>
≪全体構成≫
図1,2に示すように、車両用空調装置1は、ケース2、冷却用熱交換器3、加熱用熱交換器4、エアミックスドア5、分配器6、およびブロア7を備える。本例の車両用空調装置1の特徴の一つとして、分配器6に関わる部分を挙げることができる。車両用空調装置1は、三つの空調モードを切り替え可能に構成されている。三つの空調モードとは、車室の足元に空調風8を送り込むフットモード、車室の上側(乗員の上半身側)に空調風8を送り込むフェイスモード、および足元と上方の両方に空調風8を送り込むバイレベルモードである。本例の車両用空調装置1は、フットモード時とバイレベルモード時にケース2内の空調風8の圧力損失を低減できる構成を備えることを特徴の一つとする。以下、車両用空調装置1に備わる各構成を簡単に説明した後、ケース2内の圧力損失の低減に係る構成を詳細に説明する。
【0015】
≪ケース≫
ケース2は、車両用空調装置1の部材3,4,5,6,7を内部に収納する。ケース2内には、ブロア7よって外気または内気(車室からの空気)が導入される。これら外気または内気は、ケース2内で温度調整され、空調風8として車室に導入される。ブロア7は、ケース2外に設けられていても良い。
図1,2では、空調風8のおおよその流れを太線矢印で示す。
【0016】
上記ケース2には、ケース2内で温度調節を行なった空調風8を車室に導くフット開口部20とフェイス開口部21とを備える。さらにケース2は、デフロスターに繋がる図示しないデフ開口部を備えている。フット開口部20は、紙面奥側のケース2の車両右方RSの側部と、図示しない紙面手前側の車両左方LSの側部と、に設けられる空調風8の出口であって、図示しないフットダクトに繋がっている。フットダクトは、車室の足元に空調風8を供給する。本例の構成では、フット開口部20の開口方向も特徴の一つであり、その点については後段に項目を設けて改めて説明する。一方、フェイス開口部21は、ケース2における空調風8の出口であって、本例では車両上方UPに開口し、図示しないフェイスダクトに繋がっている。フェイスダクトは、車室の上側(乗員の上半身)に空調風8を供給する。フェイス開口部21およびフット開口部20に導く空調風8の量は、後述する分配器6で調整される。
【0017】
≪冷却用熱交換器≫
冷却用熱交換器3は、外気や内気を冷却する部材である。本例の冷却用熱交換器3は、冷媒が循環されるエバポレータである。エバポレータ3を備える熱交換システムには、公知の構成を利用できる。エバポレータ3内に冷媒を循環させておけば、空調風8はエバポレータ3を通過する際に冷却される。エバポレータ3内の冷媒の循環を停止しておけば、空調風8は冷却されることなく単にエバポレータ3を通過する。
【0018】
≪加熱用熱交換器≫
加熱用熱交換器4は、冷却用熱交換器(エバポレータ)3を通過した空調風8を加熱する部材である。本例の加熱用熱交換器4は、エンジンを冷却する冷媒が循環されるヒータコアである。ヒータコア4を備える熱交換システムには公知の構成を利用できる。エンジンの熱によって高温になった冷媒をヒータコア4内に循環させておけば、空調風8はヒータコア4を通過する際に加熱される。その他、加熱用熱交換器4として、電熱線ヒータを用いることもできる。
【0019】
≪エアミックスドア≫
エアミックスドア5は、エバポレータ3とヒータコア4との間にスライド自在に配置される部材である。このエアミックスドア5のスライド位置を変えることで、ヒータコア4を通過する空調風8の通路である温風通路と、ヒータコア4を迂回する空調風8の通路であるバイパス通路への空調風8の流入割合を調節できる。別の言い方をすれば、エアミックスドア5は、エバポレータ3を通過した空調風8(冷風)と、ヒータコア4を通過した空調風8(温風)と、の混合割合を調節できる。冷風と温風は、二点鎖線で示すエアミックス領域2Mで合流・混合される。
【0020】
ここで、本例のエアミックスドア5はスライド式であるが、回転軸を中心として回動する揺動式とすることもできる。
【0021】
≪分配器≫
分配器6は、乗員による空調モードの切り替えに応じて、ケース2内における空調風8の風向を切り替える部材である。本例の分配器6の構成は、フットモード時とバイレベルモード時にケース2内の空調風8の圧力損失を低減する構成に関わるため、次段以降で詳しく説明する。
【0022】
≪圧力損失を低減する構成≫
本例の分配器6は、
図3に示す可動壁60と連動壁61とを備える。可動壁60は、ケース2内の空調風8(
図1,2)の全体の流れを切り替える部材である。本例の可動壁60は、短辺と長辺と一対の斜辺とを備える台形状の板状片であり、短辺の位置で車幅方向に延びる回転軸62に軸支される(
図1,2を合わせて参照)。
【0023】
一方、連動壁61は、可動壁60の動きに連動してフット開口部20(
図1,2)の開度を調節する部材である。本例の連動壁61は、可動壁60の車幅方向の両端、即ち可動壁60の斜辺の位置に一体に設けられている。連動壁61は、回転軸62の位置(短辺の位置)を中心とする扇状の板状片であって、可動壁60に対して垂直に設けられている。この連動壁61は、ケース2内では車両上方UPに向くように配置されている(
図1,2を合わせて参照)。連動壁61を可動壁60に一体化することで、連動壁61を駆動するための駆動部を省略することができる。
【0024】
上記連動壁61は、回転によってフット開口部20を開閉する構成であるため、回転軸と反対側の端面が円弧状となった扇形状であることが好ましいが、扇形状以外の形状、例えば矩形状や三角形状などであっても良い。
【0025】
ここで、可動壁60が台形状に形成されているのは、ケース2の張出部25近傍の水平断面図である
図4に示すように、本例の車両左方LSのフット開口部20の開口方向が車両の左斜め後方に向いており、車両右方RSのフット開口部20の開口方向が車両の右斜め後方に向いているからである。張出部25は、
図1,2,5,6に示すように、ほぼ垂直に延びるケース2の後壁が、一旦車両前方FRに屈曲してから車両後方RRに折り返し、車両後方RRに迫り出すことで形成される。張出部25は、台形状の底面25b(
図4参照)と、その底面25bの斜面から上方に延びる側壁25s(
図6参照)を有する。
図6に示すように、張出部25の側壁25sに繋がるケース2の側壁2sも張出部25の側壁25sと同じ角度で傾斜しており、フット開口部20は、張出部25の側壁25sから張出部25の側壁25sに繋がるケース2の側壁2sに跨がって形成されている。そのため、フット開口部20は、冷風と温風が混合されるエアミックス領域2Mと、後述するフット領域2Fとに跨がっている。
図3の連動壁61はフット開口部20の開度を調整する部材であるため、連動壁61はフット開口部20に平行に設けられていることが好ましい。そのため、連動壁61が設けられる斜辺がフット開口部20に平行となる台形状に可動壁60が形成されている。なお、
図5,6では、
図1,2に比べて張出部25やフット開口部20の形状を簡略化して示している。
【0026】
本例のフット開口部20は、張出部25の側壁25sに形成される直角三角形状の開口と、張出部25よりも車両前方FR側のケース2の側壁2sに形成される扇状の開口と、が繋がったような形状となっている。直角三角形状の開口はフット領域2Fに連通し、扇状の開口はエアミックス領域2Mに連通している。もちろん、フット開口部20の形状は、このような形状に限定されるわけではなく、例えば矩形や円形などであっても良い。フット開口部20の開口方向は、例えば車両後方RRに対して車幅方向の外方に10°以上80°以下傾いた方向とすることができる。好ましくは、フット開口部20の開口方向は、車両後方RRに対して車幅方向の外方に30°以上60°以下傾いた角度とする。
【0027】
連動壁61を一体化した可動壁60は図示しない駆動部によって、回転軸62を中心に回動される。回転軸62は、ケース2における加熱用熱交換器4の上方で車両後方RRに張り出す張出部25の上端側に設けられており、車幅方向に沿って延びている。この回転軸62を中心に、可動壁60は、
図1に示すフットモード位置と、
図2に示すフェイスモード位置との間で回動自在に構成されている。
【0028】
車室の足元側に空調風8を送り込むフットモード時は、
図1に示すように可動壁60を時計回りに回転させ、可動壁60によってフェイス開口部21に至る通路を区画する。その際、
図5に示すように、可動壁60に一体化された連動壁61はフット開口部20から退避し、フット開口部20は全開状態となる。その結果、エアミックス領域2Mの空調風8は、フェイス開口部21への流通が阻止されて、フット開口部20から車室の足元側に送り出される。
【0029】
一方、車室の上方側に空調風8を送り込むフェイスモード時は、
図2に示すように可動壁60を反時計回りに回転させ、可動壁60を張出部25の下方側前端のR形状部分に当接させる。その結果、フェイス開口部21に至る通路が開放されると共に、張出部25の内部空間は可動壁60によって区画され、さらにフット開口部20のうち、エアミックス領域2Mに形成される部分は連動壁61によって閉じられる。
図6に示すように、フェイスモード時、可動壁60によって区画された空間(フット領域2F)は、フェイスモード時には空調風8が流れ込まない空間となる。
【0030】
図6に示すように、フット領域2Fにおけるフット開口部20は連動壁61に覆われていないが、フット開口部20から空調風8が漏れることはない。これは、可動壁60がフェイスモード位置にあるとき、フット領域2Fはエアミックス領域2Mから区画されているため、そもそもフット領域2Fに空調風8が流入しないからである。
【0031】
ここで、可動壁60は、フットモード位置とフェイスモード位置の中間の位置に可動壁60を停止させることもできる。そのような位置に可動壁60を停止させることで、足元にも上側にも空調風8を導入するバイレベルモードとなる。
【0032】
≪効果≫
本例の車両用空調装置1によれば、車長方向への装置1の大型化を抑制しつつ、フットモードおよびバイレベルモード時のケース2内の圧力損失を低減することができる。車両用空調装置1の車長方向への大型化を抑制できるのは、
図4に示すように、フット開口部20が車両の斜め後方に向って開口しているため、ケース2の真後ろにフットダクトを配置しなくて済むからである。また、ケース2内の圧力損失を低減できるのは、車両後方RR側に向う空調風8の勢いを削ぐことなく、空調風8をフット開口部20に導くことができるからである。フット開口部20がエアミックス領域2Mとフット領域2Fに跨がる大きさに形成されていることも、ケース2内の圧力損失を低減できる要因の一つである。
【0033】
ケース2内における圧力損失を低減することができれば、ケース2内に空気を送り込むブロア7が同じであれば、従来の車両用空調装置に比べて、本例の車両用空調装置1の空調風8の風量を増大することができる。その結果、車室内の温度を素早く変化させることができるので、車室内の快適性を向上させることができる。また、本例の車両用空調装置1によれば、従来よりも小型のブロア7を採用しても、従来の車両用空調装置と同等の風量を得ることができる。ブロア7の小型化は、車両の軽量化や消費電力の低減に繋がり、車両の燃費を向上させることができる。