特許第6863681号(P6863681)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6863681無機系組成物、ガラス電解質、二次電池および装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6863681
(24)【登録日】2021年4月5日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】無機系組成物、ガラス電解質、二次電池および装置
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/16 20060101AFI20210412BHJP
   C03C 3/21 20060101ALI20210412BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20210412BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20210412BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20210412BHJP
【FI】
   C03C3/16
   C03C3/21
   H01M10/0562
   H01M10/052
   H01B1/06 A
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-83317(P2016-83317)
(22)【出願日】2016年4月19日
(65)【公開番号】特開2017-119611(P2017-119611A)
(43)【公開日】2017年7月6日
【審査請求日】2019年1月18日
(31)【優先権主張番号】特願2015-255470(P2015-255470)
(32)【優先日】2015年12月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプスアルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135183
【弁理士】
【氏名又は名称】大窪 克之
(74)【代理人】
【識別番号】100085453
【弁理士】
【氏名又は名称】野▲崎▼ 照夫
(74)【代理人】
【識別番号】100108006
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】花田 成
(72)【発明者】
【氏名】畑内 隆史
【審査官】 山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−201115(JP,A)
【文献】 特開2012−041195(JP,A)
【文献】 特開2002−173336(JP,A)
【文献】 特開2005−154248(JP,A)
【文献】 特開2015−063447(JP,A)
【文献】 特開2013−237578(JP,A)
【文献】 特開2008−112661(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 3/16
C03C 3/21
H01B 1/06
H01M 10/052
H01M 10/0562
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Li2O−Nb25−P25−WO3系であり、
酸化物基準で、Li2O成分の含有量CLi、Nb25成分の含有量CNb、P25成分の含有量CP、およびWO3成分の含有量CWが下記関係を満たすこと(GeO2を含有する場合を除く。)を特徴とする無機系組成物:
50モル%≦CLi≦60モル%、
5モル%≦CNb≦30モル%、
15モル%≦CP≦30モル%、かつ
2モル%≦CW≦30モル%。
【請求項2】
Li2O−Nb25−P25−WO3系であり、
酸化物基準で、Li2O成分の含有量CLi、Nb25成分の含有量CNb、P25成分の含有量CP、WO3成分の含有量CW、およびMoO3成分含有量CMoが下記関係を満たすこと(GeO2を含有する場合を除く。)を特徴とする無機系組成物:
50モル%≦CLi≦60モル%、
5モル%≦CNb≦25モル%、
15モル%≦CP≦30モル%、
2モル%≦CW≦25モル%、かつ
5モル%≦CMo≦10モル%。
【請求項3】
W/(CNb+CW)で定義される第1比R1が次の関係を満たす、請求項1または2に記載の無機系組成物。
0<R1≦1.0
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載される無機系組成物からなり、Liイオン伝導性を有するガラス電解質。
【請求項5】
請求項4に記載されるガラス電解質を固体電解質として備える二次電池。
【請求項6】
請求項5に記載される二次電池を電源として備える装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質として機能しうるガラス電解質を形成可能な無機系組成物、その無機系組成物からなるガラス電解質、そのガラス電解質を備える二次電池、およびその二次電池を備える装置に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、特許文献1には、酸化物基準でLiO成分、P成分、GeO成分及びM成分(MはTa、Nb、Vから選ばれる一種以上)を含有し、LiO成分の含有量が30〜65モル%であるガラス電解質が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015−63447号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載される発明において必須成分とされるGeO成分は、ガラス化を容易にする成分とされているが、含有させることにより、組成物の溶融温度を上昇させたり、リチウムイオンの伝導度を低下させたりする。また、GeO成分は比較的高価な材料である。
【0005】
本発明の目的は、リチウムイオン伝導性に優れるガラス電解質を形成可能な無機系組成物であって、GeO成分を含有しない無機系組成物を提供することにある。本発明は、上記の無機系組成物からなるガラス電解質、およびそのガラス電解質を備える二次電池も提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために提供される、本発明は、一態様として、LiO−Nb−P−WO系であることを特徴とする無機系組成物である。かかる無機系組成物は、WO成分を適切に含有するため、ガラス化が容易であり、上記無機系組成物から形成されたガラス電解質は、リチウムイオン伝導性に優れる。
【0007】
上記の無機系組成物は、酸化物基準で、LiO成分の含有量CLi、Nb成分の含有量CNb、P成分の含有量C、およびWO成分の含有量Cが下記関係を満たすことが好ましい:
50モル%≦CLi≦60モル%、
5モル%≦CNb≦30モル%、
15モル%≦C≦30モル%、かつ
0モル%<C≦30モル%。
【0008】
上記関係を満たすことにより、無機系組成物のガラス化を容易にすることおよびその無機系組成物からなるガラス電解質のリチウムイオン伝導性を向上させることがより安定的に実現される。
【0009】
無機系組成物のガラス化を容易にすることをより安定的に実現する観点から、C/(CNb+C)で定義される第1比R1が次の関係を満たすことが好ましい場合がある。
0<R1≦1.0
【0010】
酸化物基準で、MoO成分の含有量CMoを、0モル%<CMo≦10モル%とすることが、無機系組成物のガラス転移温度を低下させる観点から好ましい場合がある。
【0011】
本発明の他の一態様は、上記の本発明に係る無機系組成物からなり、Liイオン伝導性を有するガラス電解質である。
【0012】
本発明の別の一態様は、上記の本発明に係るガラス電解質を固体電解質として備える二次電池である。本発明のまた別の一態様は、上記の本発明に係る二次電池を電源として備える装置である。
【0013】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、リチウムイオン伝導性に優れるガラス電解質を形成可能な無機系組成物が、GeO成分を含有することなく提供される。また、本発明によれば、上記の無機系組成物からなるガラス電解質、そのガラス電解質を備える二次電池、および二次電池を備える装置も提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係る二次電池を示す断面図である。
図2】実施例1の無機系組成物のX線回折スペクトルである。
図3】実施例2の無機系組成物のX線回折スペクトルである。
図4】実施例3の無機系組成物のX線回折スペクトルである。
図5】実施例4の無機系組成物のX線回折スペクトルである。
図6】実施例5の無機系組成物のX線回折スペクトルである。
図7】実施例6の無機系組成物のX線回折スペクトルである。
図8】実施例7の無機系組成物のX線回折スペクトルである。
図9】実施例8の無機系組成物のX線回折スペクトルである。
図10】実施例1から実施例6の無機系組成物からなるガラス電解質のリチウムイオン伝導度を測定した結果を示すグラフである。
図11】実施例7および実施例8の無機系組成物からなるガラス電解質のリチウムイオン伝導度を測定した結果を示すグラフである。
図12】実施例1から実施例6の無機系組成物の示差熱分析(DTA)結果を示すグラフである。
図13】実施例11の無機系組成物のX線回折スペクトルである。
図14】実施例12の無機系組成物のX線回折スペクトルである。
図15】実施例13の無機系組成物のX線回折スペクトルである。
図16】実施例14の無機系組成物のX線回折スペクトルである。
図17】実施例4および実施例11から実施例14の無機系組成物からなるガラス電解質のリチウムイオン伝導度を測定した結果を示すグラフである。
図18】実施例4および実施例11から実施例14の無機系組成物の示差熱分析(DTA)結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0017】
本発明の一実施形態に係る無機系組成物は、LiO−Nb−P−WO系である。
【0018】
LiO成分は、キャリアとしてのリチウムイオンを提供し、本発明の一実施形態に係る無機系組成物からなるガラス電解質にリチウムイオン伝導性を付与する成分である。上記のガラス電解質に適切にリチウムイオン伝導性を付与する観点から、本発明の一実施形態に係る無機系組成物におけるLiO成分の含有量CLiは、酸化物基準で、50モル%以上であることが好ましく、51.5モル%以上であることがより好ましく、53モル%以上であることが特に好ましい。上記のガラス電解質の結晶性が高まる可能性を低下させる観点から、本発明の一実施形態に係る無機系組成物におけるLiO成分の含有量CLiは、酸化物基準で、60モル%以下であることが好ましく、58.5モル%以下であることがより好ましく、57モル%以下であることが特に好ましい。
【0019】
Nb成分は、無機系組成物に耐候性、特に耐湿性を付与する。かかる耐候性を適切に付与する観点から、本発明の一実施形態に係る無機組成物におけるNb成分の含有量CNbは、酸化物基準で、5モル%以上であることが好ましく、10モル%以上であることがより好ましく、15モル%以上であることが特に好ましい。本発明の一実施形態に係る無機系組成物のガラス化を容易にする観点から、本発明の一実施形態に係る無機組成物におけるNb成分の含有量CNbは、酸化物基準で、30モル%以下であることが好ましく、25モル%以下であることがより好ましく、20モル%以下であることが特に好ましい。
【0020】
成分は、ガラス形成成分であり、本発明の一実施形態に係る無機系組成物からなるガラス電解質のリチウムイオン伝導性を高める観点からも好ましい成分である。上記ガラス電解質の結晶性が高まる可能性を低下させる観点から、本発明の一実施形態に係る無機系組成物におけるP成分の含有量Cは、酸化物基準で、15モル%以上であることが好ましく、17.5モル%以上であることがより好ましく、20モル%以上であることが特に好ましい。上記のガラス電解質のリチウムイオン伝導性を適切に確保する観点から、本発明の一実施形態に係る無機系組成物におけるP成分の含有量Cは、酸化物基準で、30モル%以下であることが好ましく、27.5モル%以下であることがより好ましく、25モル%以下であることが特に好ましい。
【0021】
WO成分は、本発明の一実施形態に係る無機系組成物からなるガラス電解質のリチウムイオン伝導性を向上させる。また、WO成分を含有させることにより、上記のガラス電解質のガラス転移温度を低下させることができる。上記のガラス電解質におけるリチウムイオン伝導性を高めることやガラス転移温度を低下させることを安定的に実現する観点から、本発明の一実施形態に係る無機組成物におけるWO成分の含有量Cは、酸化物基準で、0.1モル%以上であることが好ましく、0.5モル%以上であることがより好ましく、1モル%以上であることが特に好ましい。上記ガラス電解質の結晶性が高まる可能性を低下させる観点、上記のガラス電解質におけるリチウムイオン伝導性を適切に確保する観点などから、本発明の一実施形態に係る無機組成物におけるWO成分の含有量Cは、酸化物基準で、30モル%以下であることが好ましく、25モル%以下であることがより好ましく、20モル%以下であることが特に好ましい。
【0022】
無機系組成物のガラス化を容易にすることをより安定的に実現する観点から、C/(CNb+C)で定義される第1比R1が次の関係を満たすことが好ましい場合がある。
0<R1≦1.0
【0023】
R1は、0.9以下であることが好ましい場合があり、0.8以下であることが好ましい場合があり、0.75以下であることが好ましい場合がある。
【0024】
本発明の一実施形態に係る無機系組成物は、Al、SiO、KO、CsO、MgO、CaO、BaO、ZnO、SnO、Y、Bi、TeO、Sb、Co、CuO、Fe、MoOなどの成分を任意添加成分として含有することができる。リチウムイオン伝導性に優れるガラス電解質を形成することを容易にする観点から、これらの任意添加成分の総含有量は、酸化物基準で、5モル%以下とすることが好ましい場合があり、1モル%以下とすることがより好ましい場合がある。上記の任意添加成分のうち、MoOを含有させることにより、無機系組成物のガラス転移温度をさらに低下させることができる場合がある。無機系組成物のガラス転移温度を低下させる観点から、MoOの含有量CMoを、酸化物基準で、0モル%<CMo≦10モル%とすることが好ましい場合がある。
【0025】
本発明の一実施形態に係る無機系組成物はガラス化が容易であるため、この無機系組成物から形成されたガラス電解質は、ガラス電解質内の結晶性が高まりにくい。本明細書において、「ガラス電解質」とは、ガラス相を主相とするガラス質であって、ガラス相内に結晶相が散在する構造を含むものとする。本発明の一実施形態に係るガラス電解質は、Nbイオンとはイオン半径の異なるWイオンをNbイオンとともに含有するため、リチウムイオン伝導性に優れる。
【0026】
前述のように、本発明の一実施形態に係る無機系組成物がWO成分を含有することにより、無機系組成物から形成されたガラス電解質のガラス転移温度が低下する。ガラス転移温度の低下は溶融温度が低下するため、好ましい。
【0027】
本発明の一実施形態に係るガラス電解質の製造方法は限定されない。一例を示せば次のとおりである。まず、原材料を調合し、必要に応じ、原材料を前処理する。前処理の具体例として、加熱によって原材料に含まれる揮発成分(例えば炭酸ガス)を除去することが挙げられる。次に、調合した原材料(必要に応じて行われた前処理済み)を溶融し、フリットを作製する。本発明の一実施形態に係る無機系組成物はWO成分を含有するため、溶融温度が比較的低く、900℃〜1100℃程度であり、生産性に優れる。溶融したフリットを急冷することにより、本発明の一実施形態に係る無機組成物からなるガラス電解質を得ることができる。このほか、上記のフリットをボールミリング法に供することによっても、ガラス電解質を得ることができる。
【0028】
本発明の一実施形態に係る二次電池は、本発明の一実施形態に係るガラス電解質を固体電解質として備える。かかる二次電池の具体例として全固体二次電池が挙げられる。図1は、全固体二次電池の一例の断面を概念的に示す図である。図1に示されるように、二次電池100は、基板102上に、集電体104、正極層106、電解質層108および負極層110が順次積層されている。
【0029】
基板102は、集電体104等二次電池100の構成部材を支持する。構造部材が支持できる機械的強度を有する限り、基板102に材料、寸法、形状等の制限は無い。ただし、後に説明する二次電池100の製造工程において、焼成等熱処理が施されるので、熱処理に耐え得る程度の耐熱性を有することが好ましい。また、二次電池100の製造工程において使用される有機溶媒やリチウム塩等に対し化学的安定性を有することが好ましい。基板102として、たとえばガラス基板、金属箔、PET(ポリエチレンテレフタレート)等のフィルムを例示することができる。
【0030】
集電体104は、正極層106および負極層110に接続され、正極層106および負極層110から電荷を集め、供給する。集電体104は、電解質層108に含まれるポリマー電解質に対し化学的に安定な金属等の導電体からなることが好ましい。集電体104として、アルミニウム、銅、ステンレス鋼を例示することができる。なお、正極層106に接続される集電体104にはアルミニウム、ステンレス鋼が好ましく、負極層110に接続される集電体104には銅、ステンレス鋼が好ましい。
【0031】
正極層106は、二次電池100の正極として機能する。正極層106は、正極活物質および導電材を含み、バインダーで固着される。正極活物質は粒子状物質(粉状体)であり、リチウム含有複合酸化物、たとえばマンガン酸リチウム(LiMn)を例示することができる。導電材としてたとえばアセチレンブラックが例示される。バインダーとしてポリエチレンオキサイド(PEO)樹脂、エチレン/プロピレンオキサイド共重合体、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)樹脂が例示される。バインダーにポリエチレンオキサイド(PEO)樹脂、エチレン/プロピレンオキサイド共重合体を用いる場合は、正極層106には、リチウム塩たとえばリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)が添加されても良い。正極層106には、本発明の一実施形態に係るガラス電解質などの固体電解質が含まれていてもよい。
【0032】
電解質層108は、二次電池100の電解質として機能する。電解質層108は、本発明の一実施形態に係るガラス電解質およびバインダーを含む。バインダーとして、エチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイドの共重合体を例示することができる。バインダーには、リチウムイオン伝導率を向上する支持電解質が添加されてもよく、支持電解質として、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)を挙げることができる。リチウムイオン伝導性を有する固体電解質は、上記の本発明の一実施形態に係るガラス電解質以外の材料を含有していてもよい。そのような材料として、Li4−2xZnGeO(LISICON)系固体電解質、Li−Al−Ti−PO(LATP)系固体電解質、Li1+XGe2−yAl12(LAGP)系固体電解質を例示することができる。
【0033】
負極層110は、二次電池100の負極として機能する。負極層110は、負極活物質がバインダーで固着された層であり、炭素系材料を含んでもよい。負極活物質としてハードカーボンが例示できる。バインダーとしてポリエチレンオキサイド(PEO)樹脂、エチレン/プロピレンオキサイド共重合体、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)樹脂が例示できる。バインダーにポリエチレンオキサイド(PEO)樹脂、エチレン/プロピレンオキサイド共重合体を用いる場合は、負極層110には、リチウム塩たとえばリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)が添加されても良い。負極層110には、本発明の一実施形態に係るガラス電解質などの固体電解質が含まれていてもよい。
【0034】
本発明の一実施形態に係る装置は、上記の本発明の一実施形態に係る二次電池を電源として備える。本明細書において「電源」とは、一時的に電気的エネルギーを蓄えるキャパシタの概念を含むものとする。本発明の一実施形態に係る二次電池は、前述のように具体的な一例として全固体二次電池が挙げられ、二次電池から電解液が漏れる不具合、すなわち液漏れが生じにくい。液漏れは二次電池の発火を生じる可能性があることから、本発明の一実施形態に係る二次電池を電源として備える装置は、発火の不具合が生じにくい。本発明の一実施形態に係る装置の限定されない具体例は次のとおりである:電話、携帯電話、スマートフォン、タブレット端末、ノートパソコン、時計などの携帯型の電子・電気機器;コンピュータ等のバックアップ電源、家庭用等の蓄電設備など据置型の電気・電子機器;および自動車、航空機、船舶、人工衛星などの運輸機器。
【0035】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【実施例】
【0036】
以下に実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0037】
(実施例1から実施例8)
Li,Nb,WおよびPの各元素を含有する原材料を用意し、白金ルツボで加熱・冷却してフリットを得た。このフリットを再度加熱してフリットを溶融させ(溶融温度:900℃〜1100℃)、この溶融物をロール法により急冷すること(実施例8のみは放冷による徐冷を行った。)により、表1に示される組成の無機系組成物を得た。なお、R1はC/(CNb+C)で定義される第1比を意味する。
【0038】
【表1】
【0039】
得られた無機系組成物のX線回折測定(X線源:CuKα)を行った。結果を表1および図2から図9に示した。表1の「X線測定」の列における記号の意味は次のとおりである。
G:X線回折スペクトルには結晶構造を確認できる程度の強度を有するピークは認められず、測定対象は実質的に結晶相を含まないガラス質であると判断される。
G+C:X線回折スペクトルには結晶構造を確認できる程度の強度を有するピークが認められるが、そのピーク強度は弱く、測定対象の主相はガラス相であり、主相内に結晶相が散在していると推測される。
【0040】
図2は、実施例1の無機系組成物のX線回折スペクトルである。図3は、実施例2の無機系組成物のX線回折スペクトルである。図4は、実施例3の無機系組成物のX線回折スペクトルである。図5は、実施例4の無機系組成物のX線回折スペクトルである。図6は、実施例5の無機系組成物のX線回折スペクトルである。図7は、実施例6の無機系組成物のX線回折スペクトルである。図8は、実施例7の無機系組成物のX線回折スペクトルである。図9は、実施例8の無機系組成物のX線回折スペクトルである。
【0041】
表1および図2から図9に示されるように、実施例1から実施例8の無機系組成物のいずれについても、X線回折スペクトルには結晶構造を確認できる程度の強度を有するピークは実質的に認められなかった。したがって、X線回折スペクトルにより、これらの無機系組成物は結晶相を実質的に含まないガラス質であると確認された。
【0042】
また、各無機系組成物からなるガラス電解質のリチウムイオン伝導度を測定した。測定方法は次のとおりであった。各無機系組成物を乳鉢で粉砕し、その粉末を上下棒状のステンレス鋼(SUS)材でプレス圧縮した。上下のSUS材を電極として、インピーダンスゲインフェーズアナライザを用いてCole−Coleプロットを得て算出した。測定結果を表1ならびに図10および図11に示した。表1および図10に示されるように、WO成分を含有させることにより無機系組成物からなるガラス電解質のリチウムイオン伝導度を向上させることができることが確認された。また、表1および図11に示されるように、急冷を行っても行わなくても、無機系組成物はガラス化し、得られたガラス電解質のイオン伝導度はいずれも、WO成分を含有しない無機系組成物よりも高いことが確認された。
【0043】
実施例1から実施例6の無機系組成物について、示差熱分析(DTA)を行った。その結果を図12に示す。図12に示されるように、WO成分を含有させることによりガラス転移温度を下げることができることが確認された。
【0044】
(実施例11から実施例14)
Li,PおよびNbに加えMoおよび/またはWの各元素を含有する原材料を用意し、白金ルツボで加熱・冷却してフリットを得た。このフリットを再度加熱してフリットを溶融させ(溶融温度:900℃〜1100℃)、この溶融物をロール法により急冷することにより、表2に示される組成の無機系組成物を得た。なお、R2は(CMo+C)/(CNb+CMo+C)で定義される第2比を意味する。
【0045】
【表2】
【0046】
得られた無機系組成物のX線回折測定(X線源:CuKα)を行った。結果を表2および図13から図16に示した。表2の「X線測定」の列における記号の意味は次のとおりである。
G:X線回折スペクトルには結晶構造を確認できる程度の強度を有するピークは認められず、測定対象は実質的に結晶相を含まないガラス質であると判断される。
G(C):X線回折スペクトルには結晶構造を確認できる程度の強度を有するピークがわずかに認められ、測定対象は結晶相を少量含むガラス質であると判断される。
G+C:X線回折スペクトルには結晶構造を確認できる程度の強度を有するピークが認められるが、そのピーク強度は弱く、測定対象の主相はガラス相であり、主相内に結晶相が散在していると推測される。
【0047】
図13は、実施例11の無機系組成物のX線回折スペクトルである。図14は、実施例12の無機系組成物のX線回折スペクトルである。図15は、実施例13の無機系組成物のX線回折スペクトルである。図16は、実施例14の無機系組成物のX線回折スペクトルである。
【0048】
表2および図13から図16に示されるように、実施例11から実施例13の無機系組成物のいずれについても、X線回折スペクトルには結晶構造を確認できる程度の強度を有するピークは実質的に認められず、実施例14の無機系組成物には、X線回折スペクトルには結晶構造を確認できる程度の強度を有するピークがわずかに認められ、測定対象は結晶相を少量含むガラス質であると判断された。
【0049】
また、各無機系組成物からなるガラス電解質のリチウムイオン伝導度を測定した。測定方法は次のとおりであった。各無機系組成物を乳鉢で粉砕し、その粉末を上下棒状のステンレス鋼(SUS)材でプレス圧縮した。上下のSUS材を電極として、インピーダンスゲインフェーズアナライザを用いてCole−Coleプロットを得て算出した。測定結果を表2ならびに図17に示した。
【0050】
実施例11から実施例14の無機系組成物について、示差熱分析(DTA)を行った。その結果を図18に示す。図18に示されるように、MoOおよびWO成分を含有させることによりガラス転移温度を下げることができることが確認された。
【0051】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0052】
100…二次電池
102…基板
104…集電体
106…正極層
108…電解質層
110…負極層
図1
図2
図3
図4
図5
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