(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1における耐震補強構造体では、アンカー筋を施工する手間がかかる。また、配筋作業、型枠設置作業、コンクリート打設作業、型枠解体作業が必要となり、耐震壁を施工する手間がかかる。
【0005】
本発明は上記事実を考慮して、プレキャストコンクリートを用いて施工性がよい耐震壁構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の耐震壁構造は、複数階に設けられた鉄筋コンクリート製の柱梁架構と、前記柱梁架構を正面視して、側面が前記柱梁架構の柱の側面と離間し、上面が前記柱梁架構の梁の下面と離間し、下面が前記柱梁架構の梁の上面と離間して前記柱梁架構内に配置されたプレキャストコンクリート製の耐震壁と、前記柱梁架構から前記耐震壁へせん断力を伝達するコッターと、前記耐震壁の両端部に前記柱梁架構の柱に沿って埋設さ
れた鋼棒と、
前記梁に埋設され、下階に配置された前記耐震壁の上端面から突出した前記鋼棒が挿入されたシース管と、上階に配置された前記耐震壁の下端面に埋設され、上階に配置された前記耐震壁に埋設された前記鋼棒が挿入されたスリーブと、前記シース管と前記スリーブとに跨って配置された機械式継手と、下階に配置された前記耐震壁から突出した前記鋼棒の上端部及び上階に配置された前記耐震壁に埋設された前記鋼棒の下端部と前記機械式継手との隙間、並びに、前記機械式継手と前記シース管及びスリーブとの隙間に注入されたグラウトと、を備え、前記コッターは、前記柱の側面、前記耐震壁の側面、前記耐震壁の上面、前記耐震壁の下面及び前記梁の上面にそれぞれ形成された凹部及び前記柱梁架構と前記耐震壁との間にグラウト材が注入されて形成されている。
【0007】
請求項1に記載の耐震壁構造は、柱梁架構と耐震壁との間に形成されたコッターにより柱から耐震壁へせん断力が伝達される。また、梁からコッターを介して耐震壁へせん断力が伝達される。このため、柱梁架構に作用する鉛直方向の力と水平方向の力を、耐震壁に負担させることができる。
【0008】
このため、耐震壁の壁筋を柱及び梁に定着させ、この壁筋を介して柱及び梁から耐震壁へ力を伝達させる必要がない。したがって、耐震壁の壁筋を柱及び梁に跨って施工する必要がなく施工性がよい。
【0009】
また、耐震壁の両端部に埋設された鋼棒の端部が、柱梁架構の梁又は他の耐震壁に固定される。このため、柱に曲げモーメントが作用して耐震壁寄りの柱の側面が引張力を受けた際、鋼棒が引張力を負担することにより、柱の側面の伸び変形が抑制される。したがって、柱のひび割れを抑制できる。
【0010】
一態様に記載の耐震壁構造は、前記梁には、下階に配置された前記耐震壁の上端面から突出した前記鋼棒が貫通する貫通孔が形成され、上階に配置された前記耐震壁の下端面には前記鋼棒が挿入される挿入孔が形成されている。
【0011】
一態様に記載の耐震壁構造は、下階に配置された耐震壁の上端面から突出した鋼棒が、梁の貫通孔を貫通し、さらに上階に配置された耐震壁の下端面に形成された挿入孔に挿入される。すなわち、上階に配置された耐震壁の挿入孔が、梁に形成された貫通孔と連通している。このため、挿入孔へグラウト材を注入することで、貫通孔を通じて下階に配置された耐震壁と柱梁架構の間にもグラウト材が回り込む。したがって、グラウト材の注入作業の効率が高い。
一態様に記載の耐震壁構造は、前記貫通孔と前記挿入孔とに跨って配置された機械式継手を備え、下階に配置された前記耐震壁から突出した前記鋼棒の上端部と、上階に配置された前記耐震壁に埋設された前記鋼棒の下端部とが、前記機械式継手によって接続されている。
【0012】
一態様に記載の耐震壁構造は、前記コッターは、互いに対向する前記柱の側面と前記耐震壁の端面及び前記梁の下面と前記耐震壁の端面にそれぞれ形成され、グラウト材が注入される凹部を有している。
【0013】
一態様に記載の耐震壁構造は、コッターが凹部で形成されているので、柱、梁、耐震壁の端面から突出していない。このため、耐震壁を配置する際にコッター同士が干渉することがなく、施工しやすい。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る耐震壁構造によると、プレキャストコンクリートを用いて施工性がよい耐震壁構造を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(耐震壁構造)
図1(A)に示すように、本実施形態の耐震壁構造は、プレキャストコンクリート製の柱12及び梁14で形成された柱梁架構10と、柱梁架構10内に配置されたプレキャストコンクリート製の耐震壁20と、柱梁架構10と耐震壁20との間に形成されたコッター30、32と、耐震壁20の両端部に柱12に沿って埋設された鉄筋40と、を備えている。
【0017】
(柱梁架構)
柱梁架構10は複数階に亘って連続して設けられており、柱梁架構10を構成する柱12及び梁14はプレキャストコンクリート製とされている。柱12の側面には凹部12Vが高さ方向(
図1(A)における矢印V方向)に等間隔に並んで形成されている。
図1(A)、(B)に示すように、凹部12Vは柱12の成形時に脱型しやすくするために内側から外側へ向かって拡がる台形状に形成されている。また、梁14の上下端面には凹部14Hが水平方向(
図1(A)における矢印H方向)に等間隔に並んで形成されており、凹部12Vと同様に台形状に形成されている。
【0018】
梁14の両端部にはそれぞれシース管50が埋設され、梁14の上下を連通する貫通孔が形成されている。このシース管50は、
図2(C)に示すように、梁14の上端面へ開口した大径部52と梁14の下端面へ開口した小径部54とを備えており、小径部54から挿入された鉄筋40が大径部52まで貫通して配置されている。また、大径部52の内部には、鉄筋40を囲繞するように機械式継手60が配置されている。
【0019】
機械式継手60の下端部は、シース管50の大径部52と小径部54との間に形成された段差部53と当接し、機械式継手60の上端部は、梁14の上部に配置された耐震壁20Uの下端面に埋設されたスリーブ70Uに挿入されている。また、機械式継手60の上端部には、上階の耐震壁20Uの鉄筋40Uが挿入されている。
【0020】
機械式継手60は、鉄筋をねじ込まずに挿入可能な差し込み式の機械式継手であり、鉄筋40及び鉄筋40Uと機械式継手60との間にグラウト材Gが充填されることにより、鉄筋40及び鉄筋40U間で応力を伝達することができる。なお、シース管50、機械式継手60、スリーブ70の内部全体にグラウト材Gが注入され、このグラウト材Gは梁と耐震壁20との間に充填されたグラウト材Gと一体化されている。
【0021】
なお、鉄筋40は本発明における鋼棒の一例であり、本実施形態においては異形鉄筋とされ、グラウト材Gの付着力が高められている。鉄筋40としては異形鉄筋に代えて丸鋼を用いてもよい。また、梁14に埋設されたシース管50は必ずしも必要ではなく、梁14には大径部と小径部とを備えた貫通孔が形成されていればよい。同様に耐震壁20にはスリーブ70は必ずしも必要ではなく、耐震壁20の下端面に挿入孔が形成されていればよい。
【0022】
なお、
図1(A)における領域Fは、柱12、梁14、耐震壁20の断面を示している。鉄筋40、シース管50、スリーブ70は領域Fの外部、すなわち柱12、梁14、耐震壁20の立面を示した領域においても、領域Fと同様に実線で描かれているが、これは説明を分かり易くするために単純化しているものであり、外部から視認することはできない。
図3、4、5、6についても同様とする。
【0023】
(耐震壁)
図1(A)に示すように、耐震壁20は柱梁架構10と隙間を空けて配置され、この隙間に形成された空間にグラウト材Gが充填されることにより耐震壁20が柱梁架構10に固定されている。なお、耐震壁20の下方の梁14と耐震壁20との間にはスペーサー16が配置され、耐震壁20の下方の梁14と耐震壁20との間の隙間を確保している。
【0024】
なお、スペーサー16は樹脂製のブロックとされているが、金属製のブロックとしてもよい。又は、耐震壁20と一体的に形成され、耐震壁20から突出するコンクリート突起としたり、耐震壁20に埋設したナットに捩じ込んだボルトとすることもできる。スペーサー16をボルトにすれば、捩じ込み量を調整することで耐震壁20の水平精度を調整することができる。
【0025】
なお、
図1(A)において耐震壁20の下方の梁14と耐震壁20との間の隙間は、耐震壁20の上方の梁14と耐震壁20との間の隙間と幅がほぼ等しく形成されているが、この隙間幅はさらに小さくすることができる。隙間幅を小さくすることで、耐震壁20の下方の梁14と耐震壁20との間でせん断力を伝えやすくなる。
【0026】
耐震壁20の側面には凹部20Vが高さ方向に等間隔に並んで形成されている。また、凹部20Vは柱12の凹部12Vと対向する位置に形成されている。さらに、凹部20V、凹部12Vには、耐震壁20と柱梁架構10との間の空間に充填されたグラウト材Gが一体的に充填されている。
【0027】
このため、柱12に作用する軸力が凹部12V、20Vに充填されたグラウト材Gを介して耐震壁20へ伝達される。すなわち凹部12V、20V及びグラウト材Gが柱12と耐震壁20の間でせん断力QVを伝達するコッター30として機能する。
【0028】
同様に耐震壁20の上下端面には凹部20Hが水平方向に等間隔に並んで形成されている。また、凹部20Hは梁14の凹部14Hと対向する位置に形成されている。さらに、凹部20H、凹部14Hには、耐震壁20と柱梁架構10との隙間に充填されたグラウト材Gが一体的に充填されている。
【0029】
このため、梁14に作用する軸力が凹部14H、20Hに充填されたグラウト材Gを介して耐震壁20へ伝達される。すなわち凹部14H、20H及びグラウト材Gが柱12と耐震壁20の間でせん断力QHを伝達するコッター32として機能する。
【0030】
耐震壁20の両端部には、それぞれ、
図1(A)の矢印H方向に2本、
図1(C)の矢印D方向に2本、合計4本(両端部の合計8本)の鉄筋40が埋設されている。鉄筋40は、耐震壁20の側端面(矢印H方向の端面)から概ね100mm〜150mm程度離れた位置より内側に埋設されている。
【0031】
鉄筋40の上端部は耐震壁20の上端面から突出し、梁14に埋設されたシース管50に挿入されている。また、鉄筋40の下端部は、耐震壁20の下端面に埋設されたスリーブ70に挿入されている。また、
図2(C)に示すように、鉄筋40の下端部は、耐震壁20の下方の梁14に埋設されたシース管50から突出した機械式継手60に挿入されている。
【0032】
(施工方法)
耐震壁20を柱梁架構10内に施工するためには、まず
図3に示すように、下階の梁14Bの上部にスペーサー16を介して耐震壁20を載置する。このとき耐震壁20は柱12の間に配置されるが、
図2(A)に示すように、下階の耐震壁20Bの上端面から突出した鉄筋40Bの上端部は、下階の梁14Bに埋設されたシース管50Bから突出していない。また、耐震壁20に埋設された鉄筋40の下端部は、耐震壁20に埋設されたスリーブ70から突出していない。さらに、機械式継手60はスリーブ70の内部に収容されている。すなわち、耐震壁20の下端面と下階の梁14Bの上端面からは突出するものがない。
【0033】
このため、耐震壁20は梁14Bの上部で横方向(水平方向)に容易にスライドすることができ、所定の位置に位置合わせしやすい。なお、所定の位置とは、
図2(A)における下階の耐震壁20Bの上端面から突出した鉄筋40Bと、配置する耐震壁20に埋設された鉄筋40との平面位置が概ね合致する位置である。
【0034】
機械式継手60をスリーブ70の内部に収容するために、機械式継手60の上端部には紐62の一方の端部が接合され、紐62は耐震壁20に略水平に形成されたグラウト注入孔22を通されて、他方の端部が耐震壁20の側面に固定されている。なお、本実施形態においては柱12の後に耐震壁20を配置しているが、この施工順序は逆でもよい。
【0035】
次に、
図2(B)に示すように紐62の固定を解除し、機械式継手60を自重により梁14のシース管50の内部へ落とし、段差部53へ係止させる。これにより、機械式継手60は耐震壁20に埋設されたスリーブ70と梁14に埋設されたシース管50とに跨って配置される。
【0036】
さらに、
図4に示すように、耐震壁20と、梁14Bとの間の隙間をエアーホース18や図示しない型枠等によって塞ぐ。これにより、梁14Bと上階の耐震壁20との間の空間VUと、梁14Bと下階の耐震壁20との間の空間VDとが、シース管50、機械式継手60、スリーブ70を介して連通される。なお、下階の耐震壁20と梁14Bとの間の隙間は、梁14Bを設置した際にエアーホース18で塞がれている。このため、耐震壁20に形成されたグラウト注入孔22からグラウト材Gを注入することで、グラウト材Gはスリーブ70、機械式継手60、シース管50、空間VD及び空間VUに充填される。このとき、グラウト材Gは凹部14H、20Hにも一体に充填される。なお、
図4では構成を分かり易くするため、
図1に示したスペーサー16は省略している。
【0037】
グラウト材Gの充填後、柱12の上部に仕口部材12A及び梁14を載置する。このとき、耐震壁20の上端面から突出した鉄筋40を梁14に埋設されたシース管50に通しながら、梁14を鉛直方向へ落とし込む。仕口部材12Aは、平断面寸法が柱12の平断面寸法と同一とされ、両側の梁14と一体化されている。また、梁14は中央部で分割され、分割されたそれぞれの部材は鉄筋とスリーブ等を用いて接合される。
【0038】
なお、本実施形態において仕口部材12Aはプレキャストコンクリートで形成されているが、本発明の実施形態はこれに限らない。例えば柱主筋、梁主筋の継手として併用される現場打ちコンクリートで形成してもよい。
【0039】
また、本実施形態において柱12及び梁14はプレキャストコンクリートで形成されているが、本発明の実施形態はこれに限らず、現場打ちコンクリートで形成してもよい。また、柱梁架構10の構造形式としては鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造、これらの混合構造など、さまざまな構造や規模のものであってもよい。
【0040】
柱12及び梁14を現場打ちコンクリートで形成する場合は、例えば柱12の型枠を設置後、耐震壁20を所定の位置に配置して梁14の型枠を設置する。そして柱12、梁14のコンクリートを打設する。この場合、柱12と耐震壁20の間、梁14と耐震壁20の間を、互いの応力伝達を十分に行える程度に十分に近接させることで、柱12の凹部12V及び梁14の凹部14Hを設けない構成とすることができる。
【0041】
あるいは、柱12のコンクリートを打設後、耐震壁20を所定の位置に配置して梁14の型枠を設置する。そして梁14のコンクリートを打設する。この場合、梁14と耐震壁20の間を、互いの応力伝達を十分に行える程度に十分に近接させることで、梁14の凹部14Hを設けない構成とすることができる。
【0042】
次に、
図5に示すように耐震壁20と梁14との間の隙間を、エアーホース18や型枠等で塞ぎ、耐震壁20と柱12との間の隙間を図示しないエアーホースや型枠等によって塞ぐ。これにより、柱12と耐震壁20との間には空間VVが形成される。この空間VVにグラウト材Gを注入することで、グラウト材Gは空間VVに充填される。このとき、グラウト材Gは凹部12V、20Vにも一体に充填される。
【0043】
さらに、仕口部材12Aの上部に上階の柱12Uを載置し、梁14の上部にスペーサー16を介して上階の耐震壁20Uを載置する。
【0044】
以上の工程を繰り返すことで、
図6に示すように、複数階に亘って耐震壁20が施工される。なお、本実施形態においては耐震壁20に形成されたグラウト注入孔22からグラウト材Gを注入することで、スリーブ70、機械式継手60、シース管50、空間VD及び空間VUにグラウト材Gが充填されるものとしたが、本発明の実施形態はこれに限らない。例えば空間VDと空間VUにはグラウト材を別々に注入してもよい。この場合は、柱12の上部に仕口部材12A及び梁14を載置した後、シース管50からグラウト材を注入し、シース管50と空間VDにグラウト材を充填する。さらに上階の耐震壁20Uを載置した後、スリーブ70、機械式継手60、空間VUにグラウト材Gを充填する。
【0045】
(作用・効果)
本実施形態の耐震壁構造によると、
図1(A)に示すように、凹部12V、20V及びグラウト材Gによって形成されたコッター30、凹部14H、20H及びグラウト材Gによって形成されたコッター32によって、柱梁架構10に作用する鉛直方向の力と水平方向の力を、耐震壁20に負担させることができる。したがって、例えば耐震壁20から突出させた壁筋を、柱12及び梁14に跨って施工する必要がない。このため耐震壁20の施工性が高い。
【0046】
なお、本実施形態においてコッター30は、柱12に形成された凹部12V、耐震壁20に形成された凹部20Vを備えているが、本発明の実施形態はこれに限らない。例えば
図7(A)に示すように、柱12の凹部12Vに代えて凸部12VEを形成してもよい。
【0047】
又は、
図7(B)に示すように、耐震壁20の凹部20Vに代えて凸部20VEを形成してもよい。
【0048】
あるいは、
図7(C)に示すように、柱12、耐震壁20の何れにも凹部を形成せず、柱12に凸部12VEを形成し、耐震壁20に凸部20VEを形成してもよい。この場合、凸部12VEと凸部20VEとを高さ方向で交互に配置することで、柱12と耐震壁20との間の間隔t1を狭くすることができる。t1を狭くすれば充填するグラウト材の量を少なくできる。
【0049】
なお、耐震壁20は柱梁架構10の構面内へ設置する際、凸部12VEと凸部20VEとの干渉を避けるため、水平方向からスライドさせて設置する必要がある。しかし、
図2(A)に示したように、耐震壁20の下端面及び梁14の上端面から突出するものがないので、容易に施工できる。
【0050】
同様に本実施形態においてコッター32は、梁14に形成された凹部14H、耐震壁20に形成された凹部20Hを備えているが、本発明の実施形態はこれに限らない。例えば
図7(A)に示すように、梁14の凹部14Hに代えて凸部14HEを形成してもよい。
【0051】
又は、
図7(B)に示すように、耐震壁20の凹部20Hに代えて凸部20HEを形成してもよい。
【0052】
あるいは、
図7(C)に示すように、柱12、耐震壁20の何れにも凹部を形成せず、梁14に凸部14HEを形成し、耐震壁20に凸部20HEを形成してもよい。この場合、凸部14HEと凸部20HEとを水平方向で交互に配置することで、梁14と耐震壁20との間の間隔t2を狭くすることができる。t2を狭くすれば充填するグラウト材の量を少なくできる。コッター32がこれらの何れの形態とされていても、柱梁架構10に作用する水平方向の力を、耐震壁20に負担させることができる。
【0053】
また、
図7(A)〜(C)に示すように、凸部12VE、20VE、14HE、20HEの形状は台形状であっても立方体形状であってもよい。台形状であれば成形後の脱型が容易であるし、立方体形状であれば型枠の構造が単純になる。
【0054】
また、
図7(D)〜(F)に示すように、耐震壁20に形成した凹部20HP及び梁14に形成した凹部14HPに対して、
図7(D)に示した矢印H方向に係合するせん断力伝達部材36を配置してもよい。せん断力伝達部材36は例えば金属ブロックや高強度コンクリートブロックとされ、せん断歪みが生じにくいため、梁14に作用する水平力を耐震壁20へ伝達しやすい。
【0055】
せん断力伝達部材36を配置するためには、例えば
図7(D)、(E)に示すように耐震壁20には壁面20F間を貫通する凹部20HPを形成しておく。そして、
図7(E)に示すように、せん断力伝達部材36を矢印D方向(柱梁架構10の構面と直交する方向)からスライドさせて凹部20HPへ挿入する。次いで
図7(F)に示すように、矢印V方向(上方向)へスライドさせ、凹部20HPにスペーサー等を入れてせん断力伝達部材36を持ち上げた状態で凹部14HPへ係合させる。これにより、せん断力伝達部材36は、耐震壁20に形成した凹部20HP及び梁14に形成した凹部14HPに係合する。
【0056】
また、
図1(A)に示すように、本実施形態の耐震壁構造によると、耐震壁20に埋設された鉄筋40の上端部は、梁14に固定され、機械式継手60によって上階の耐震壁20Uに埋設された鉄筋40Uと接続される。そして鉄筋40の下端部は、耐震壁20の下端面に埋設されたスリーブ70に挿入され、機械式継手60によって下階の耐震壁20Bの上端面から突出した鉄筋40Bと接続される。
【0057】
これにより、地震時等において柱12に曲げモーメントが作用して耐震壁20寄りの柱12の側面が引張力を受けた際、鉄筋40が引張力を負担することができる。このため柱12の側面の伸び変形が抑制され、柱12のひび割れを抑制できる。
【0058】
なお、本実施形態において鉄筋40の上端部は梁14に固定され、機械式継手60によって上階の耐震壁20Uに埋設された鉄筋40Uと接続されているが、本発明の実施形態はこれに限らない。
【0059】
例えば、
図8(A)に示す鉄筋42のように、上端部を梁14のシース管50を貫通させ、さらに上階の耐震壁20Uの下端面に埋設されたスリーブ70Uに挿入することで、上階の耐震壁20Uに固定してもよい。この場合機械式継手60を用いなくても、鉄筋42と上階の耐震壁20Uに埋設された鉄筋42Uとはスリーブ70Uが機械式継手となって接合される。また、シース管50には機械式継手60を係合させるための段差部53(
図2(C)参照)を設ける必要がないため、シース管50の構成を単純にすることができる。このように、機械式継手60を用いない構成とすることもできる。なお、このときスリーブ70Uとしては、内周面にリブを設けたモルタル充填継手を用いることが好適であるが、鉄筋42と鉄筋42Uとの間で引張力を伝達できるものであればよい。
【0060】
また、例えば
図8(B)に示す鉄筋44のように、上端部を梁14の下端面に埋設したスリーブ56に挿入し、梁14に埋設した鉄筋46と接続してもよい。この場合、鉄筋46を梁14の上端面から突出させ、上階の耐震壁20Uの下端面に埋設したスリーブ70Uに挿入する。このようにすれば、耐震壁20から突出する鉄筋44の突出長さを短くできるので、耐震壁20を運搬しやすく梁14も施工しやすい。
【0061】
また、例えば
図8(C)に示すように、耐震壁20に上下方向に貫通するシース管72を埋設し、PC鋼線48を複数階に亘って貫通させて配置してもよい。この場合PC鋼線48の施工に先立って、例えば
図8(D)に示すようにアングル材80を用いて複数階の柱12に耐震壁20を仮固定しておけば、複数階の梁14のシース管50、耐震壁20のシース管72に対して一度にPC鋼線48を通すことができる。
【0062】
このPC鋼線48は、所望の階数に亘って通したあと油圧ジャッキなどを用いて緊張させることにより、梁14、耐震壁20及び梁14に接合された柱12にプレストレスを与えることができる。プレストレスを与えたあと、シース管72、シース管50の内部にはグラウトが充填される。このようにして柱12にプレストレスを与えることで、柱12の伸び変形が抑制され、柱12のひび割れを抑制できる。なお、必要とするプレストレス力の大きさに応じて、断面積の大きいPC鋼棒を用いてもよい。
【0063】
なお、PC鋼線48は複数階に亘って通さずに、1階分の長さ毎に分割してもよい。この場合、各階の耐震壁20を施工する毎に機械式継手を用いて順次繋ぎながら施工することができる。このように1階分の長さ毎に分割すれば、柱12に耐震壁20を仮固定する必要がないので施工性がよい。
【0064】
また、シース管72には、PC鋼線48やPC鋼棒ではなく、異形鉄筋を通してもよい。この異形鉄筋はPC鋼線48と同様、複数階に亘って耐震壁20を貫通させてもよいし、一階毎に分割してもよい。分割した場合は、内周面に形成したネジと異形鉄筋とを係合させるねじ節鉄筋継手や、鉄筋とスリーブとを圧着して固定する鋼管圧着継手等、各種の機械式継手を用いることができる。
【0065】
また、
図6に示すように、本実施形態の耐震壁構造によると、梁14の上部の空間VUと梁14の下部の空間VDがシース管50により連通される。このため、耐震壁20に形成したグラウト注入孔22からグラウト材Gを注入するだけで、グラウト材Gをシース管50、機械式継手60、スリーブ70及び空間VB、VUに充填することができる。つまり、個別にグラウト材を注入する必要がないので、グラウト注入作業の手間が減る。
【0066】
なお、本実施形態においてグラウト材Gはグラウト注入孔22から注入しているが、本発明の実施形態はこれに限らない。例えば、梁14の下側の空間VDにグラウト注入孔を形成し、このグラウト注入孔からグラウト材Gを圧入してもよい。
【0067】
また、本実施形態においては梁14と耐震壁20との間の空間VU、VDへグラウト材Gを充填した後、柱12と耐震壁20との間の空間VVへグラウト材Gを充填しているが、本発明の実施形態はこれに限らない。例えば空間VDと空間VVとの境界に設けられたエアーホース18を省略して空間VDとVVとを連通してもよい。このとき、空間VUと空間VVとの境界に設けたエアーホース18は設けたままにしておく。このようにすれば、グラウト注入孔22にグラウト材Gを注入することで、空間VDから空間VVにもグラウト材Gが流れ込むので、グラウト注入作業の手間をさらに削減できる。