(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
プロピレン系重合体を含み且つ顔料および/または無機充填材を配合した溶融状態の熱可塑性樹脂組成物を、スプルー部とランナー部を経てゲート部からキャビティに圧入し射出成形体を形成する射出成形用金型であって、
スプルー部とゲート部との間のランナー部に絞り部が設けられ、
絞り部の平均断面積(S1)が、ランナー部の平均断面積の3〜23%の範囲にあることを特徴とする射出成形用金型。
プロピレン系重合体を含み且つ顔料および/または無機充填材を配合した溶融状態の熱可塑性樹脂組成物を、スプルー部とランナー部を経てゲート部からキャビティに圧入し射出成形体を形成する射出成形方法であって、
スプルー部とゲート部との間のランナー部に絞り部が設けられ、
絞り部の平均断面積(S1)が、ランナー部の平均断面積の3〜23%の範囲にあることを特徴とする射出成形方法。
【背景技術】
【0002】
顔料や無機充填剤を含む樹脂(例えばポリプロピレン樹脂)組成物を射出成形することにより得られる成形体は、その優れた機械物性、成形性、経済性により、自動車部品や家電部品等種々の分野で利用されている。
【0003】
自動車部品分野では、ポリプロピレンを単体で用いるほか、ポリプロピレンにエチレン−プロピレン共重合体(EPR)、エチレン−ブテン共重合体(EBR)、エチレン−オクテン共重合体(EOR)、スチレン−ブタジエン共重合体(SBR)、ポリスチレン−エチレン/ブテン−ポリスチレントリブロック共重合体(SEBS)等のゴム成分を添加して衝撃性を改善した材料(例えば、特許文献1)、タルク、マイカ、ガラス繊維等の無機充填材を添加し、剛性を改善した材料、ゴム成分、無
機充填材
を添加し優れた機械物性を付与したブレンドポリマーが使用されている(例えば、特許文献2)。
【0004】
射出成形体の外観不良には、さまざまな形態があり、金型内での樹脂の不安定流動に起因して発生する縞模様状のフローマーク(タイガーマーク、タイガーストライプ、スワールマーク等とも呼ぶ)、金型内で二つ以上の溶融樹脂フロントラインがぶつかった位置に発生するウェルドライン、樹脂中の気体や水分の蒸発に起因するシルバーストローク、顔料や無機充填材の分散が不十分なために発生する色ムラ等がある。
【0005】
近年、自動車部材や家電部材に用いられるプロピレン系樹脂組成物には顔料や無機充填材をブレンドして用いられることが多く、このような顔料・充填材が原因になって上記の外観不良が生じることが多々ある。外観不良改善のために、例えば、顔料や無機充填材の分散剤、表面改質剤を添加する、特定の顔料を使用する等の手法が採られている(特許文献3〜9)が、機械強度低下の一因となることがあり、また、コストアップ要因でもある。金型や射出成形機本体を改良することで上記外観不良改善を図ることも多く研究されている(特許文献10〜15)。具体的には、スプルー部および/またはランナー部先端に樹脂溜めを設ける、キャビティ近傍に発熱体および冷却材を設ける等の方法がある。
【0006】
ゲートから樹脂の流れ方向に向かって、ほぼ同じ場所に発生するスジ状の外観不良を抑制する方法として、以下に述べる二つの方法が開示されているに過ぎない。一つの方法は、ランナー部とゲート部の間にランナー部の幅、上下方向よりも大きなボリューム部を形成する方法である(特許文献16)。しかし、この方法が解決しようとする課題は、樹脂組成物中のタルクが、射出成形機の供給流路(シリンダー内)で塊となって壁面に付着、射出成形時に塊が剥がれて分散されずに製品形状部に混入して発生する成形体表面の白いスジ状の跡を解決するための方法である。したがって、十分にパージした直後の成形品や、顔料のみで無機充填材は含有していない樹脂からなる成形品の表面でも、ゲートから樹脂の流れ方向に向かって、連続して成形した成形品のほぼ同じ場所に発生するスジ状の外観不良については何ら検討されていない。もう一つの方法は、射出成形用の樹脂組成物への分散剤の添加や、pHや粒径を特定したカーボンブラックを使用する方法(特許文献17、18)である。しかし、このような方法では成形体の機械強度を低下させたり、またコストアップ要因になる場合がある。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、本発明の射出成形金型の一実施形態の射出成形部内を示す斜視図であり、2個取りの射出成形部内の各構造の配置を例示するものである。
図1に示す実施形態において、スプルー部101の先からは二本のランナー部102が分岐しており、各ランナー部102は各ゲート部104部に連結し、各ゲート104部は各キャビティ105に直結している。この実施形態においては、スプルー部101とゲート部104部との間に位置する各ランナー部102の一部分(樹脂流動経路途中)に特定サイズの絞り部103が各々設けられており、この絞り部103が存在することにより成形品のスジ状の外観不良が抑制される。
【0018】
図1に示す実施形態(及び後述する実施例)においては、ランナー部102、絞り部103、ゲート部104の各断面(樹脂流動方向に対する垂直断面)の形状は長方形であり、各部の断面形状と断面面積は変化していない。ただし、本発明はこれに限定されない。例えば、ランナー部102、絞り部103、ゲート部104の各断面の形状は特に限定されず、例えば四角状(正方形、長方形、台形、平行四辺形等)、円形状、楕円状、半円状の何れでも良い。各部の断面の面積は全て同一であっても良いし、位置によって異なっていても良い。また、ランナー部102、絞り部103、ゲート部104の周径および周形状も特に限定されず、全て同一であっても良いし、位置によって異なっていても良い。また、
図1に示す実施形態は2個取りの金型であるが、本発明はこれに限定されない。所望に応じて、例えば4個取り、6個取り、8個取り・・・と数を増やしていっても良いし、あるいは1個のみを成形する金型であっても良い。
【0019】
図2は、本発明の射出成形金型の一実施形態の射出成形部内のモデル図である。この
図2では、ランナー部102に形成された絞り部103の相対形状と、ランナー部102中に占める絞り部103の相対配置をモデル的に示している。ランナー部102の一部分(樹脂流動経路途中)には、長さL
2、幅d
1、厚さd
2の絞り部分103が形成されている。
【0020】
絞り部分103の平均断面積S
1(S
1=d
1×d
2)は、ランナー部102の平均断面積S
0の3〜30%の範囲にあり、好ましくは5〜28%の範囲にある。この値が3%未満では、十分なスジ状外観不良の解消効果がえられず、また射出に際して圧力を高める必要もあるので実用的ではない。一方、この値が30%を超えると、スジ状外観不良の十分な抑制効果が得られない。本発明においては、ランナー部102にこのような絞り部103を設けることによって、溶融状態の樹脂組成物がランナー部102から絞り部103を経由して再びランナー部102を通過する際に溶融樹脂組成物が激しく混練され、その結果スジ状外観不良の発生が抑制されると考えられる。
なお、本発明では、絞り部分103の平均断面積S1のランナー部102の平均断面積S0に対する割合は、3〜23%の範囲から選択される。
【0021】
絞り部103とゲート部104を結ぶランナー部102の距離(L
3)は、スジ状外観不良の抑制効果の点から、絞り部103の平均周径の好ましくは20〜250%の範囲にあり、より好ましくは25〜200%の範囲にある。絞り部分103の平均断面積S
1は、スジ状外観不良の抑制効果の点から、ゲート部104の平均断面積の好ましくは5〜125%、好ましくは8〜120%にある。なお、絞り部103は、ランナー部102の流路を狭める入れ子金型の挿入によって簡易に形成することができる。そして、絞り部のサイズが異なる複数の入れ子金型をあらかじめ用意しておけば、射出成形体の種類、樹脂組成物の種類、射出条件等に応じて入れ子金型を入れ替え、絞り部103のサイズを簡易に変更することもできる。
【0022】
なお、ランナー部102、絞り部103、ゲート部104の各断面や
内周径が異なる場合は、下記式1および式2で定義される平均断面積Sと平均
内周径Cを用いれば良い。下記式1において、S(l)は、始点から距離lにおける断面積を示す。下記式2において、C(l)は、始点から距離lにおける
周径を示す。Lはランナー全長(但し、絞り部の間隔L
2を除く)、絞り部全長L
2またはゲート部全長である。
【0025】
本発明の金型を用いて成形する樹脂組成物の種類は特に限定されないが、通常は熱可塑性樹脂組成物である。特に本発明は、顔料および/または無機充填材を配合した熱可塑性樹脂組成物の成形に非常に有用である。
【0026】
熱可塑性樹脂組成物の種類は特に限定されないが、プロピレン系重合体を含む熱可塑性樹脂組成物が好ましい。プロピレン系重合体の具体例としては、ホモポリプロピレン、プロピレンとエチレンまたは他のα−オレフィン(炭素原子数4〜8)とのランダム共重合体もしくはブロック共重合体が挙げられる。ブロック共重合体は、まずプロピレンを重合し、次いでエチレンまたはα−オレフィンとプロピレンとを重合することにより製造できる。プロピレン系重合体を含む熱可塑性樹脂組成物は、必要に応じてプロピレン系重合体以外の重合体を含んでいても良い。
【0027】
プロピレン系重合体としては、特にプロピレン・エチレンブロック共重合体が好ましい。プロピレン・エチレンブロック共重合体の23℃・n−デカン可溶分量は、好ましくは5質量%以上15質量%以下、より好ましくは7質量%以上13質量%以下である。この23℃・n−デカン可溶分量は、サンプル5gにn−デカン200mlを加え、145℃で30分間加熱溶解し、その後3時間かけて23℃まで冷却し、冷却後に溶解している成分の割合である。
【0028】
プロピレン系重合体のメルトフローレート(MFR)は、好ましくは10g/10分以上100g/10分以下である。
【0029】
本発明の金型を用いて成形する樹脂組成物は、特に、樹脂成分としてポリプロピレン100質量部に対して、エチレン・α−オレフィン共重合体やエチレン・α−オレフィン・ジエン共重合体等の共重合体10質量部以上100質量部未満と、顔料および/または無機充填材を所望量配合した樹脂組成物が好ましい。この樹脂組成物には、必要に応じて添加剤を添加しても良い。
【0030】
エチレン・α−オレフィン共重合体を構成するα−オレフィンとしては、炭素原子数3〜10のα−オレフィンが好ましく、その具体例としては、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン等が挙げられる。エチレン・α−オレフィン共重合体のメルトフローレート(MFR)は、好ましくは0.5g/10分以上10g/10分未満、より好ましくは1.5
g/10分以上10g/10分未満である。
【0031】
エチレン・α−オレフィン・ジエン共重合体を構成するα−オレフィンとしては、炭素原子数3〜10のα−オレフィンが好ましく、その具体例としては、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン等が挙げられる。また、ジエンの具体例としては、5−エチリデン−2−ノルボルネン、5−プロピリデン−2−ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、5−ビニル−2−ノルボルネン等が挙げられる。エチレン・α−オレフィン・ジエン共重合体のメルトフローレート(MFR)は、好ましくは0.4g/10分未満、より好ましくは0.05
g/10分以上0.35g/10分以下である。
【0032】
本発明は、顔料および/または無機充填材を配合した熱可塑性樹脂組成物の成形に非常に有用である。
【0033】
無機充填剤の種類は特に限定されず、公知の無機充填剤を使用できる。その具体例としては、タルク、クレー、炭酸カルシウム、マイカ、けい酸塩類、炭酸塩類、ガラス織維等が挙げられる。無機充填剤は1種単独で、あるいは2種以上組み合わせて使用できる。中でも、タルク、炭酸カルシウムが好ましく、タルクがより好ましい。タルクの平均粒径は、好ましくは1〜5μm、より好ましくは1〜3μmである。無機充填剤は1種単独で用いても、2種以上を併用しても良い。無機充填剤の配合量は、樹脂成分(例えば、ポリプロピレンとエチレン・α−オレフィン共重合体やエチレン・α−オレフィン・ジエン共重合体等の共重合体)の合計100質量部に対して、通常は0質量部以上40質量部以下、好ましくは1質量部以上30質量部以下、より好ましくは5質量部以上25質量部以下である。
【0034】
顔料の種類は特に限定されず、公知の顔料を使用できる。その具体例としては、金属の酸化物、硫化物、硫酸塩等の無機顔料;フタロシアニン系、キナクリドン系、ベンジジン系等の有機顔料等が挙げられる。顔料は1種単独で、あるいは2種以上組み合わせて使用できる。顔料の配合量は、樹脂成分(例えば、ポリプロピレンとエチレン・α−オレフィン共重合体やエチレン・α−オレフィン・ジエン共重合体等の共重合体)の合計100質量部に対して、通常は0.01質量部以上2質量部以下、好ましくは0.05質量部以上2質量部以下である。
【0035】
本発明に用いる樹脂組成物は、必要に応じて、酸化防止剤、耐光安定剤、脂肪酸金属塩等の添加剤を含有しても良い。
【0036】
酸化防止剤としては、公知のフェノール系、イオウ系またはリン系のいずれの酸化防止剤でも使用でき、1種単独で、あるいは2種以上組み合わせて使用できる。酸化防止剤の配合量は、樹脂成分100質量部に対して、通常は0.01質量部以上2質量部以下、好ましくは0.05質量部以上2質量部以下である。
【0037】
耐光安定剤の具体例としては、例えばヒンダードアミン系光安定剤(HALS)や紫外線吸収剤が挙げられる。耐光安定剤は、1種単独で、あるいは2種以上組み合わせて使用できる。耐光安定剤の配合量は、樹脂成分100質量部に対して、通常は0.01質量部以上2質量部以下、好ましくは0.05質量部以上2質量部以下である。
【0038】
脂肪酸金属塩は、プロピレン系樹脂組成物中に含まれている触媒の中和剤、およびその樹脂組成物中に任意に配合される無機充填剤、顔料等の分散剤として機能する。本発明の金型を用いて成形する樹脂組成物が脂肪酸金属塩を含有すると、優れた物性(例えば自動車内装部品として要求される強度等)を備えた成形品が得られる。脂肪酸金属塩の具体例としては、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸亜鉛等が挙げられる。
【0039】
本発明に用いる樹脂組成物は、さらに必要に応じて、耐熱安定剤、帯電防止剤、耐候安定剤、老化防止剤、軟化剤、分散剤、充填剤、着色剤、滑剤等の添加剤を含有しても良い。
【0040】
以上説明した樹脂組成物は、各樹脂成分および必要に応じて用いられる添加剤を、
例えばバンバリーミキサー、単軸押出機、2軸押出機、高速2軸押出機等の混合装置により混合または溶融混練して得ることができる。
【0041】
以上説明した樹脂組成物は、例えば伸び、耐衝撃性および低温耐衝撃性等の機械物性に優れ、かつ流動性に優れるため、各種用途に用いることができる。樹脂組成物のメルトフローレート(MFR)は、好ましくは1g/10分以上100g/10分以下、より好ましくは10g/10分以上70g/10分以下である。このMFRが1g/10分以上であれば、実用的な流動性および成形性が得られ、100g/10分以下であれば衝撃性や機械的強度が低下し難くなり、成形性も維持される。MFRの測定は、JIS K 7210に準拠しており、荷重を2.16kg(21.2N)とし、温度を230℃とした。
【0042】
本発明の射出成形方法は、先に説明した本発明の射出成形金型を用いることを特徴とする成形方法である。この射出成形方法には公知の射出成形機を用いることができ、射出条件も公知の条件を適宜用いれば良い。例えば、成形時の金型温度は通常は20〜60℃であり、射出時間は通常は1〜10秒である。射出時の樹脂圧は絞り部103により通常よりもやや高目になる傾向があるが、好ましくは20〜60kg/cm
2・G、より好ましくは50〜90kg/cm
2・Gである。
【0043】
本発明の射出成形体は、以上説明した本発明の射出成形方法により成形された成形体である。この射出成形体は、たとえ顔料や無機充填剤を含むものであってもスジ状の外観不良が無い。したがって、機械的特性や外観にも優れ、例えば高い意匠性の要求される自動車内外装部品等として非常に有用である。
【0044】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例】
【0045】
以下、本実施形態を、実施例・比較例を参照して詳細に説明する。なお、本発明はこれらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0046】
<1.射出成形方法>
実施例および比較例において、射出成形は以下の二種類の方法を用いた。
【0047】
[射出成形方法A]
・射出成形機:100t射出成形機(東芝機械社製、EC100型
・金型:キャビティサイズ=平板(縦240mm、横80mm、厚さ3mm)
・射出部諸元:ランナー断面積=35mm
2、ランナー周長さ=24mm、ゲート断面積=12mm
2、ランナー長さ=198mm
・シリンダ-温度=190℃、金型温度=40℃
・射出時間=3秒、保圧時間=15秒、冷却時間=20秒
【0048】
[射出成形方法B]
・射出成形機:100t射出成形機(日本製鋼所製、J100 EII-P型)
・金型:キャビティサイズ=平板(縦130mm、横120mm、厚さ3mm)
・射出部諸元:ランナー断面積=32.5mm
2、ランナー周長さ=23mm、ゲート断面積=7.8mm
2、ランナー長さ=19mm
・シリンダ-温度=200℃、金型温度=40℃
・射出時間=3秒、保圧時間=15秒、冷却時間20秒
【0049】
<2.測定・評価方法>
実施例・比較例において、各物性の測定および評価は以下の各方法により行った。
【0050】
[流動性(メルトフローレート:MFR)]
MFRは特に断らない限り、ASTM D−1238法に基づき230℃、荷重2.16kgで測定し、ゴム成分の場合は、ASTM D−1238法に基づき190℃、荷重2.16kgの条件で測定した。
【0051】
[プロピレン・エチレン系ブロック共重合体中のn−デカンに不溶な成分(a1)およびn−デカンに可溶な成分(a2)の含有量]
ガラス製の測定容器に、プロピレン・エチレン系ブロック共重合体約3g(10
−4gの単位まで測定した。また、この質量を下記の式においてb(g)と表した。)、n−デカン500mL、およびn−デカンに可溶な耐熱安定剤を少量投入し、窒素雰囲気下、スターラーで攪拌しながら2時間で150℃に昇温してプロピレン・エチレン系ブロック共重合体をn−デカンに溶解させた。次いで、150℃で2時間保持し、その後8時間かけて23℃まで徐冷した。
【0052】
得られたプロピレン・エチレン系ブロック共重合体の析出物を含む液を、磐田ガラス社製25G−4規格のグラスフィルターで減圧ろ過した。ろ液の100mLを採取し、これを減圧乾燥して上記成分(a2)の一部を得た。この質量を10
−4gの単位まで測定した(この質量を、下記の式においてa(g)と表した)。次いで、プロピレン・エチレン系ブロック共重合体中の成分(a1)および(a2)の含有量を以下の式により求めた。
成分(a2)の含有量 [質量%]=100×5a/b
成分(a1)の含有量 [質量%]=100−成分(a2)の含有量
【0053】
[スジ抑制結果]
射出成形体のスジ状外観不良の有無を目視にて観察し、以下の基準で評価した。
「◎」:成形体全面にスジが全く観察されない。
「○」:成形体のゲート部位置付近から薄らとしたスジ状外観不良が僅かに観察される。
「×」:成形体のゲート部位置付近からはっきりとしたスジ状外観不良が観察される。
【0054】
<3.射出成形用の原料樹脂組成物>
実施例および比較例において、原料樹脂組成物は以下の三種類の組成物を用いた。
【0055】
・[組成物P1]:国際公開第2014/046086号の実施例10に記載のタルク含有プロピレン系樹脂組成物(プロピレン・エチレンブロック共重合体の23℃・n−デカン可溶分=11質量%、樹脂組成物のMFR=29g/10分)からなるペレット100質量部に対して、カーボンブラック含有黒色マスターバッチ3質量部をドライブレンドして得た組成物。
【0056】
・[組成物P2]:特開2014―74102号公報の実施例5に記載のタルク含有プロピレン系樹脂組成物(プロピレン・エチレンブロック共重合体の23℃・n−デカン可溶分=19質量%、樹脂組成物のMFR=15g/10分)からなるペレット100質量部に対して、カーボンブラック含有黒色マスターバッチ3質量部をドライブブレンドして得た組成物。
【0057】
・[組成物P3]:プライムポリマー社製、商品名プライムポリプロJ817U(MFR=29g/10分)のペレット100質量部に対して、無機顔料含有灰色マスターバッチ3質量部をドライブレンドして得た組成物。
【0058】
<実施例1〜14、比較例1〜3>
実施例1〜14においては、
図1及び
図2に示した構成を有する2個取りの射出成形金型(絞り部のサイズは実施例ごとに入れ子金型を入れ替えて変更)を用い、表1〜3に示す樹脂組成物P1〜P3及び射出成形方法A、Bを用いて成形品を成形し、スジ状外観不良の発生状況を調べた。比較例1〜3においては絞り部なしの金型を用い、同様に成形品を成形し、スジ状外観不良の発生状況を調べた。結果を表1〜表3に示す。
なお、実施例7及び8は参考例である。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
【表3】
【0062】
表1〜3に示す結果から明らかなように、実施例1〜14では良好なスジ抑制効果が得られた。
図3は、実施例1で得られた成形体のゲート位置方向からの写真である。この写真の通り、実施例1では成形体全面にスジが全く観察されなかった。
【0063】
一方、比較例1〜3ではスジ抑制効果は得られなかった。
図4は、比較例1で得られた成形体のゲート位置方向からの写真である。この写真の通り、比較例1では成形体のゲート部位置付近からはっきりとしたスジ状外観不良が観察された。
【0064】
[定性分析および顕微鏡写真]
比較例1のカーボンブラック含有成形体に対して、スジ部および正常部(スジ部以外の部分)の切削断面の定性分析を行った。具体的には、試験片作製装置(クライオウルトラミクロトーム、ライカ社製、商品名EM UC6)を用いてスジ部および正常部の切削断面を切り出し、エネルギー分散型X線分析(SEM―EDS)装置(SEM、日立製作所製 商品名S−4800、EDS、ブルカー・エイエックス社製、商品名XFlash5060FQ)を用いて加速電圧12kVの条件下、反射電子像を観察し定性分析を実施した。
図5は比較例1の成形体のスジ部および正常部の断面のEDSスペクトルを示すグラフである。
【0065】
図5から明らかなように、比較例1のカーボンブラック含有成形体において、スジ部断面は正常部断面よりも炭素(C)検出強度が低かった。樹脂に起因する炭素元素の量は成形体全体に渡り一定と考えられるので、炭素(C)検出強度の違いはカーボンブラックの濃度の変化に起因すると推察される。すなわち比較例1で得た成形体において、スジ部は正常部よりもカーボンブラックの濃度が低いことが分かる。
【0066】
さらに、比較例1のカーボンブラック含有成形体のスジ部と正常部を光学顕微鏡(ニコン社製、商品名ECLIPSE(登録商標)LV 100POL)で観察し、光学顕微鏡写真を撮影した。
図6はスジ部の光学顕微鏡写真であり、
図7は正常部の光学顕微鏡写真である。
【0067】
図6および
図7から明らかなように、正常部(
図7)は表面だけがカーボンブラックの濃度が低いが、スジ部(
図6)は表面だけでなく深さ方向50μm程度までカーボンブラックの濃度が低いことが分かる。
【0068】
以上の定性分析(
図5)および顕微鏡写真(
図6、
図7)から、比較例1のカーボンブラック含有成形体において、ゲートから樹脂の流れ方向に向って発生したスジ部はカーボンブラックの濃度が低くなることが原因で発生したことが分かる。これは、例えば特許文献16に記載のような壁面に付着したタルク塊が剥がれて混入することにより発生するスジ部とは発生原因が大きく異なる。すなわち本発明は、ゲートから樹脂の流れ方向に向った箇所でカーボンブラック等の無機充填剤の濃度が低下することにより発生する特別な問題を解決する点においても非常に有効であると言える。
【0069】
比較例3の無機顔料含有成形体に対して、比較例1の成形体と同様にしてスジ部および正常部の切削断面の定性分析を行った。
図8はそのEDSスペクトルを示すグラフである。
図8から明らかなように、比較例3の無機顔料含有成形体において、スジ部断面は正常部断面よりも顔料に起因する元素の濃度が高かった。
【0070】
以上の定性分析(
図8)から、比較例3の無機顔料含有成形体において、ゲートから樹脂の流れ方向に向って発生したスジ部は無機顔料含有の濃度が高くなることが原因で発生したことが分かる。すなわち本発明は、ゲートから樹脂の流れ方向に向った箇所で無機顔料の濃度が増加することにより発生する特別な問題を解決する点においても非常に有効であると言える。