(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6863719
(24)【登録日】2021年4月5日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】外部接続された拡声器システム
(51)【国際特許分類】
B60R 11/02 20060101AFI20210412BHJP
B60R 13/08 20060101ALI20210412BHJP
G10K 11/175 20060101ALI20210412BHJP
H04B 3/20 20060101ALI20210412BHJP
【FI】
B60R11/02 S
B60R11/02 M
B60R13/08
G10K11/175
H04B3/20
【請求項の数】13
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-226663(P2016-226663)
(22)【出願日】2016年11月22日
(65)【公開番号】特開2017-114475(P2017-114475A)
(43)【公開日】2017年6月29日
【審査請求日】2019年11月1日
(31)【優先権主張番号】15202357.8
(32)【優先日】2015年12月23日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】504147933
【氏名又は名称】ハーマン ベッカー オートモーティブ システムズ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】マルクス クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス フェファー
【審査官】
上谷 公治
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−007794(JP,A)
【文献】
特開2005−026817(JP,A)
【文献】
欧州特許出願公開第02629289(EP,A1)
【文献】
特開2012−061940(JP,A)
【文献】
特開2010−208433(JP,A)
【文献】
特開2007−245951(JP,A)
【文献】
特開2008−247221(JP,A)
【文献】
特開平11−133981(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 11/02
B60R 13/08
G10K 11/175
H04B 3/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の客室と前記客室の外側との間のバッフル内に配置された拡声器であって、前記拡声器は、音響信号を前記客室に発するように構成されている、拡声器と、
高周波騒音を除去するように構成されたパッシブ騒音低減システムと、
マイクが、前記拡声器に二次経路を介して音響的に連結され、前記拡声器が、前記マイクにアクティブ騒音制御フィルタを介して電気的に連結されている、アクティブ騒音制御システムと、
を備えている拡声器システムであって、
前記拡声器が、第1の側面と第2の側面とを備え、前記第1の側面が、前記車両の前記客室に向いており、前記第2の側面が、前記車両の前記外側に向いており、
前記マイクが、前記拡声器の前記第1の側面に、かつ、前記パッシブ騒音低減システムに隣接して、配置されている、
拡声器システム。
【請求項2】
前記拡声器が、拡声器入力経路に接続され、
前記マイクが、マイク出力経路に接続され、
減算器が、前記マイク出力経路の下流と第1の有益信号経路とに接続され、
前記アクティブ騒音制御フィルタが、前記減算器の下流に接続され、
加算器が、前記アクティブ騒音制御フィルタと前記拡声器入力経路との間と、第2の有益信号経路と、に接続され、
両方の有益信号経路が、再生される有益信号を供給される、
請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記有益信号経路のうちの少なくとも1つが、1つまたは複数のスペクトル成形フィルタを備える、
請求項1または請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記アクティブ騒音制御フィルタが、低周波騒音を除去するように構成されている、請求項1から3のいずれかに記載のシステム。
【請求項5】
前記アクティブ騒音低減フィルタが、1kHzより低い周波数の騒音を除去するように構成され、前記パッシブ騒音低減システムが、1kHzより高い周波数の騒音を除去するように構成されている、請求項1から4のいずれかに記載のシステム。
【請求項6】
前記アクティブ騒音低減フィルタが、500Hzより低い周波数の騒音を除去するように構成され、前記パッシブ騒音低減システムが、500Hzより高い周波数の騒音を除去するように構成されている、請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
前記パッシブ騒音低減システムが、少なくとも1層の防音ウールを備える、請求項1から6のいずれかに記載のシステム。
【請求項8】
前記少なくとも1層の防音ウールが、前記拡声器の膜に隣接して配置され、
前記膜が、前記客室と防音ウールの前記層との間に配置され、
防音ウールの前記層が、前記客室と前記膜との間に配置され、または、
前記膜が、防音ウールの2つの層の間に配置されている、
請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
前記マイクが、前記少なくとも1層の防音ウールが前記マイクと前記拡声器の前記膜との間に配置されるように前記拡声器の前に配置されている、
請求項7または請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
前記マイクが、前記パッシブ騒音低減システムの前記防音ウールによって囲まれている、請求項7または請求項8に記載のシステム。
【請求項11】
前記バッフルが、その中に前記拡声器が置かれている開口部を備える、請求項1から10のいずれかに記載のシステム。
【請求項12】
音響信号が、車両の客室の内側に、前記客室と前記客室の外側との間のバッフル内に配置された拡声器によって、発せられ、
高周波騒音が、パッシブ騒音低減システムによって除去され、
妨害信号が、前記拡声器に二次経路を介して音響的に連結されたマイクを備えるアクティブ騒音制御システムによって低減される、
騒音低減音響再生方法であって、
前記拡声器が、前記マイクに、アクティブ騒音制御フィルタを介して電気的に連結されており、
前記拡声器が、第1の側面と第2の側面とを備え、前記第1の側面が、前記車両の前記客室に向いており、前記第2の側面が、前記車両の前記外側に向いており、
前記マイクが、前記拡声器の前記第1の側面に、かつ、前記パッシブ騒音低減システムに隣接して、配置されている、
騒音低減音響再生方法。
【請求項13】
入力信号が、前記拡声器に供給され、
前記拡声器によって発せられた前記音響信号が、マイク出力信号を提供する前記マイクによって受信され、
前記マイク出力信号が、フィルタ入力信号を生成するために、有益信号から減算され、
前記フィルタ入力信号が、エラー信号を生成するために、アクティブ騒音制御フィルタ内でフィルタにかけられ、
前記有益信号が、前記拡声器入力信号を生成するために、前記エラー信号に加算される、
請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、外部接続された拡声器システムに関し、特に、車両における外部接続された拡声器システムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車音響システムは、通常、車両の客室内のさまざまな位置に配置された、いくつかの拡声器を含む。典型的な拡声器の位置は、ドアパネルまたは内装トリムパネルを含む。ウーファ―またはサブウーファ―としても知られている低周波数再生スピーカーは、しばしば、トランク、リヤパネルシェルフ、シャーシ、または車両の任意のフレーム要素に配置される。このようにして、その他の必要な拡声器ハウジングを省略することができ、なぜなら、拡声器の前側及び後側は、それぞれ、リヤパネルシェルフまたはシャーシによって、互いに隔離されているからである。したがって、このアプローチは、音響性能を犠牲にせずに、非常にコンパクトで重量効率の良い配置を可能にする。しかしながら、ハウジングなしでは、スピーカー構成要素は、極限環境条件に耐えねばならず、そのために、スピーカーを、たとえば、耐候性膜によって保護することが必要になる。さらに、密閉された客室によって通常遮断される騒音が、車両に入ることがあり、より大きな騒音公害に繋がる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
拡声器システムは、車両の客室と客室の外側との間のバッフル内に配置された拡声器を含む。拡声器は、音響信号を客室に発するように構成されている。拡声器システムは、さらに、アクティブ騒音制御システムを含み、そこでは、マイクが、拡声器に、二次経路を介して音響的に連結されており、拡声器が、マイクに、アクティブ騒音制御フィルタを介して電気的に連結されている。
【0004】
騒音低減音響再生方法は、音響信号を、客室の内部に、客室と客室の外側との間のバッフル内に配置された拡声器によって発することを含む。方法は、さらに、妨害信号を、拡声器に二次経路を介して音響的に連結されているマイクを含むアクティブ騒音制御システムによって低減することを含み、拡声器は、マイクに、アクティブ騒音制御フィルタを介して電気的に連結されている。
【0005】
他のシステム、方法、特徴、及び利点は、以下の説明と図とを検討することで、当業者には明白であり、または明白になる。本明細書に含まれる全ての追加的なシステム、方法、特徴、及び利点は、本発明の範囲に含まれ、以下の特許請求の範囲によって保護される、ということが意図されている。
例えば、本願発明は以下の項目を提供する。
(項目1)
車両の客室と前記客室の外側との間のバッフル内に配置された拡声器であって、音響信号を前記客室に発するように構成された、拡声器と、
マイクが、前記拡声器に二次経路を介して音響的に連結され、前記拡声器が、前記マイクにアクティブ騒音制御フィルタを介して電気的に連結されている、アクティブ騒音制御システムと、
を備える、拡声器システム。
(項目2)
前記拡声器が、拡声器入力経路に接続され、
前記マイクが、マイク出力経路に接続され、
減算器が、前記マイク出力経路の下流と第1の有益信号経路とに接続され、
前記アクティブ騒音制御フィルタが、前記減算器の下流に接続され、
加算器が、前記アクティブ騒音制御フィルタと前記拡声器入力経路との間と、第2の有益信号経路と、に接続され、
両方の有益信号経路が、再生される有益信号を供給される、
上記項目に記載のシステム。
(項目3)
前記有益信号経路のうちの少なくとも1つが、1つまたは複数のスペクトル成形フィルタを備える、
上記項目のうちのいずれか一項に記載のシステム。
(項目4)
前記アクティブ騒音制御フィルタが、低周波騒音を除去するように構成されている、上記項目のうちのいずれか一項に記載のシステム。
(項目5)
高周波騒音を除去するように構成されたパッシブ騒音低減システムをさらに備える、上記項目のうちのいずれか一項に記載のシステム。
(項目6)
前記アクティブ騒音低減フィルタが、1kHzより低い周波数の騒音を除去するように構成され、前記パッシブ騒音低減システムが、1kHzより高い周波数の騒音を除去するように構成されている、上記項目のうちのいずれか一項に記載のシステム。
(項目7)
前記アクティブ騒音低減フィルタが、500Hzより低い周波数の騒音を除去するように構成され、前記パッシブ騒音低減システムが、500Hzより高い周波数の騒音を除去するように構成されている、上記項目のうちのいずれか一項に記載のシステム。
(項目8)
前記パッシブ騒音低減システムが、少なくとも1層の防音ウールを備える、上記項目のうちのいずれか一項に記載のシステム。
(項目9)
前記少なくとも1層の防音ウールが、前記拡声器の膜に隣接して配置され、
前記膜が、前記客室と防音ウールの前記層との間に配置され、
防音ウールの前記層が、前記客室と前記膜との間に配置され、または、
前記膜が、防音ウールの2つの層の間に配置されている、
上記項目のうちのいずれか一項に記載のシステム。
(項目10)
前記拡声器が、第1の側面と第2の側面とを備え、前記第1の側面が、前記車両の前記客室に向いており、前記第2の側面が、前記車両の前記外側に向いている、上記項目のうちのいずれか一項に記載のシステム。
(項目11)
前記マイクが、前記拡声器の前記第1の側面に配置されている、上記項目のうちのいずれか一項に記載のシステム。
(項目12)
前記マイクが、前記パッシブ騒音低減システムの前記防音ウールによって囲まれている、上記項目のうちのいずれか一項に記載のシステム。
(項目13)
前記バッフルが、その中に前記拡声器が置かれている開口部を備える、上記項目のうちのいずれか一項に記載のシステム。
(項目14)
音響信号が、車両の客室の前記内側に、前記客室と前記客室の前記外側との間のバッフル内に配置された拡声器によって、発せられ、
妨害信号が、前記拡声器に二次経路を介して音響的に連結されたマイクを備えるアクティブ騒音制御システムによって低減され、前記拡声器が、前記マイクに、アクティブ騒音制御フィルタを介して電気的に連結されている、
騒音低減音響再生方法。
(項目15)
入力信号が、前記拡声器に供給され、
前記拡声器によって発せられた前記音響信号が、マイク出力信号を提供する前記マイクによって受信され、
前記マイク出力信号が、フィルタ入力信号を生成するために、有益信号から減算され、
前記フィルタ入力信号が、エラー信号を生成するために、アクティブ騒音制御フィルタ内でフィルタにかけられ、
前記有益信号が、前記拡声器入力信号を生成するために、前記エラー信号に加算される、
上記項目に記載の方法。
(摘要)
車両の客室と客室の外側との間のバッフル内に配置された拡声器を含む拡声器システムが、提供される。拡声器は、音響信号を客室に発するように構成されている。拡声器システムは、さらに、アクティブ騒音制御システムを含み、マイクは、拡声器に二次経路を介して音響的に連結されており、拡声器は、マイクにアクティブ騒音制御フィルタを介して電気的に連結されている。
【0006】
システムは、以下の説明と図面とを参照して、より良く理解され得る。図中の構成要素は、必ずしも正しい縮尺ではなく、代わりに、本発明の原理を例示する際には強調されている。さらに、図中では、同じ参照番号は、異なる図を通して、類似の部品を指している。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図2】一般的なフィードバック型アクティブ騒音低減システムのブロック図であり、そこでは、有益信号が、拡声器信号経路に供給される。
【
図3】一般的なフィードバック型アクティブ騒音低減システムのブロック図であり、そこでは、有益信号が、マイク信号経路に供給される。
【
図4】一般的なフィードバック型アクティブ騒音低減システムのブロック図であり、そこでは、有益信号が、拡声器信号経路とマイク信号経路とに供給される。
【
図5】
図4のアクティブ騒音低減システムのブロック図であり、そこでは、有益信号が、スペクトル成形フィルタを介して、拡声器経路に供給される。
【
図6】マイクを有する、外部接続された拡声器システムを例示した概略図である。
【
図7】騒音低減音響再生方法を例示したフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1は、拡声器110を有する車両100を例示している。拡声器110は、自動車音響システムの一部であってよい。自動車音響システムは、通常、いくつかの拡声器を含む。1つの拡声器110のみが、
図1では例示されている。拡声器110は、車両100の客室101内の異なる位置に配置され得る。拡声器110が、車両100の客室101と外側102との間の、車両100のシャーシ内に配置されている場合、その他の必要な拡声器ハウジングを省略することができる。したがって、これは、音響性能を犠牲にすることなく、非常にコンパクトで重量効率が良い。
【0009】
しかしながら、ハウジングなしでは、(
図1では詳細を例示していない)スピーカー構成要素は、極限環境条件に耐えねばならず、そのために、拡声器110を、たとえば、耐候性膜によって保護することが必要になる。拡声器110を車両100の外側102に直接連結することによる別の欠点は、たとえば、トンネルの中に高速度で入っていくとき、または高速度のときにサンルーフを開くときの、車両の内側101と外側102との間の瞬間的な気圧差である。これは、膜の安静位および/または動いている音声コイルの変位に影響を与えることがあり、それによって、拡声器110の全体的な性能に影響を与えることがある。これは、やはり、動作点が動的に変化することに繋がることがあり、それは、拡声器110の音響性能、たとえば、高調波ひずみに影響を与える。さらに、密閉された客室101によって通常遮断される騒音が、客室101に入ることがあり、より大きな騒音公害に繋がる。
【0010】
したがって、拡声器110は、騒音低減システム、つまり、フィードバック型アクティブ騒音制御(ANC)システムに連結されている。フィードバック型ANCシステムは、聴取場所に、理想的には時間において騒音信号と同じ大きさであるが逆の位相を有する騒音低減信号を提供することによって、通常、騒音などの妨害信号を低減または除去さえするように意図されている。騒音信号と騒音低減信号とを重ね合わせることによって、エラー信号としても知られている結果として生じる信号は、理想的には、零に向かう。騒音低減の品質は、いわゆる二次経路、つまり、聴取者の耳を表す、拡声器とマイクとの間の音響経路の品質に依存する。騒音低減の品質は、さらに、マイクと拡声器との間に接続され、マイクによって提供されるエラー信号をフィルタにかける、いわゆるANCフィルタの品質に依存し、フィルタにかけられたエラー信号が、拡声器によって再生された時に、それが、エラー信号をさらに低減する。しかしながら、問題は、フィルタにかけられたエラー信号に加えて、音楽または会話などの有益信号が、特に、フィルタにかけられたエラー信号も再生する拡声器によって、聴取場所に提供された時に発生する。そうすると、有益信号は、システムによって劣化し得る。
【0011】
便宜上、本明細書では、電気信号と音響信号との間の区別はない。しかしながら、拡声器によって提供される、またはマイクによって受信される、すべての信号は、実際、音響特性がある。すべての他の信号は、電気特性がある。拡声器及びマイクは、拡声器によって形成される入力ステージと、マイクによって形成される出力ステージとを有する、音響サブシステム(たとえば、拡声器−部屋−マイクシステム)の一部であってよく、サブシステムは、電気入力信号を供給され、電気出力信号を提供する。この点において、「経路」は、信号伝導手段、増幅器、フィルタ、などのさらなる要素を含むことができる、電気接続または音響接続を意味する。スペクトル成形フィルタは、入力信号と出力信号とのスペクトルが周波数によって異なるフィルタである。
【0012】
ここで、一般的なフィードバック型アクティブ騒音低減(ANC)システムを例示したブロック図である
図2を参照すると、騒音信号とも呼ばれる妨害信号d[n]が、聴取場所、たとえば、聴取者の耳に、一次経路221を介して伝達される(発っせられる)。一次経路221は、P(z)の伝達特性を有する。加えて、入力信号v[n]は、拡声器223から聴取場所に、二次経路222を介して伝達される(発っせられる)。二次経路222は、S(z)の伝達特性を有する。
【0013】
聴取場所に配置されたマイク224は、一次経路P(z)によってフィルタにかけられた妨害信号d[n]と共に、拡声器223から発生し、二次経路S(z)によってフィルタにかけられた信号を、受信する。マイク224は、これらの受信信号の合計を表すマイク出力信号y[n]を提供する。マイク出力信号y[n]は、フィルタ入力信号u[n]として、ANCフィルタ225に供給され、ANCフィルタ225は、加算器226にエラー信号e[n]を出力する。適応フィルタまたは静的フィルタであり得るANCフィルタ225は、W(z)の伝達特性を有する。加算器226は、また、音楽または会話などの、たとえば、(図面には示されていない)スペクトル成形フィルタを用いて任意で前置フィルタにかけられた有益信号x[n]を受信し、入力信号v[n]を拡声器223に提供する。
信号x[n]、信号y[n]、信号e[n]、信号u[n]、及び信号v[n]は、別々の時間ドメインにある。以下の考察では、それらのスペクトル表現である、X(z)とY(z)とE(z)とU(z)とV(z)とを使用する。
図2に例示したシステムを説明する微分方程式は、以下である。
Y(z)=S(z)・V(z)=S(z)・(E(z)+X(z)) (1)
E(z)=W(z)・U(z)=W(z)・Y(z) (2)
【0014】
図2のシステムでは、有益信号の伝達特性M(z)=Y(z)/X(z)は、したがって、
M(z)=S(z)/(1−W(z)・S(z)) (3)
である。
【0015】
W(z)=1と仮定すると、
lim[S(z)→1]M(z)⇒M(z)→∞ (4)
lim[S(z)→±∞]M(z)⇒M(z)→1または−1 (5)
lim[S(z)→0]M(z)⇒S(z)または0 (6)
である。
【0016】
W(z)=∞と仮定すると、
lim[S(z)→1]M(z)⇒M(z)→0 (7)
である。
【0017】
方程式(4)〜(7)から分かる通り、有益信号伝達特性M(z)は、ANCフィルタ225の伝達特性W(z)が増加すると、0に近づき、一方で、二次経路伝達関数S(z)は、中性、つまり、約1の水準、つまり、0[dB]に留まる。このため、有益信号x[n]が、聴取者によって、ANCがオンまたはオフの時に等しく感知されることを確実にするために、有益信号x[n]は、適切に適応されなければならない。さらに、有益信号伝達特性M(z)は、また、「オン」と「オフ」との間の特定の差が明白であるように、有益信号x[n]の適応が伝達特性S(z)と、経年劣化、温度、聴取者の変化、などによるその変動と、にも依存するということにおいて、二次経路222の伝達特性S(z)にも依存する。
【0018】
図2のシステムでは、有益信号x[n]は、拡声器223の上流に連結された加算器226において、音響サブシステム(拡声器、部屋、マイク)に供給されるが、
図3のシステムでは、有益信号x[n]は、マイク224において供給される。したがって、
図3のシステムでは、加算器226は省略され、加算器227が、マイク224の上流に配置されて、たとえば、前置フィルタにかけられた、有益信号x[n]とマイク出力信号y[n]とを合計する。したがって、拡声器入力信号v[n]は、エラー信号[e]、つまり、v[n]=[e]であり、フィルタ入力信号u[n]は、有益信号x[n]とマイク出力信号y[n]との合計、つまり、u[n]=x[n]+y[n]である。
【0019】
図3に例示したシステムを説明する微分方程式は、以下である。
Y(z)=S(z)・V(z)=S(z)・E(z) (8)
E(z)=W(z)・U(z)=W(z)・(X(z)+Y(z)) (9)
【0020】
したがって、
図3のシステムの有益信号伝達特性M(z)は、妨害信号d[n]を考慮しなければ、
M(z)=(W(z)・S(z))/(1−W(z)・S(z)) (10)
lim[(W(z)・S(z))→1]M(z)⇒M(z)→∞ (11)
lim[(W(z)・S(z))→0]M(z)⇒M(z)→0 (12)
lim[(W(z)・S(z))→±∞]M(z)⇒M(z)→1または−1 (13)
である。
【0021】
方程式(11)〜(13)から分かる通り、有益信号伝達特性M(z)は、オープンループ伝達特性(W(z)・S(z))が増加または減少すると、1または−1に近づき、オープンループ伝達特性(W(z)・S(z))が0に近づくと、0に近づく。このため、有益信号x[n]が、聴取者によって、ANCがオンまたはオフの時に等しく感知されることを確実にするために、有益信号x[n]は、加えて、より高いスペクトル領域に適応されなければならない。しかしながら、「オン」と「オフ」との間の特定の差が明白になるようにするには、より高いスペクトル領域での補正は、非常に困難である。一方で、有益信号伝達特性M(z)は、二次経路222の伝達特性S(z)と、経年劣化、温度、聴取者の変化、などによるその変動と、に依存しない。
【0022】
図4は、一般的なフィードバック型アクティブ騒音低減システムを例示したブロック図であり、そこでは、有益信号は、拡声器経路とマイク経路との両方に供給される。便宜上、一次経路221は、騒音(妨害信号d[n])がまだ存在するにもかかわらず、以下では省略されている。特に、
図4のシステムは、
図2のシステムに基づいているが、有益信号x[n]をマイク出力信号y[n]から減算して、ANCフィルタ入力信号u[n]を形成する、追加的な減算器228と、有益信号x[n]をエラー信号e[n]に加算する加算器229と、を有する。
【0023】
図4に例示したシステムを説明する微分方程式は、以下である。
Y(z)=S(z)・V(z)=S(z)・(E(z)+X(z)) (14)
E(z)=W(z)・U(z)=W(z)・(Y(z)−X(z)) (15)
【0024】
したがって、
図4のシステムでは、有益信号伝達特性M(z)は、
M(z)=(S(z)−W(z)・S(z))/(1−W(z)・S(z)) (16)
lim[(W(z)・S(z))→1]M(z)⇒M(z)→∞ (17)
lim[(W(z)・S(z))→0]M(z)⇒M(z)→S(z) (18)
lim[(W(z)・S(z))→±∞]M(z)⇒M(z)→1 (19)
である。
【0025】
方程式(17)〜(19)から、
図4のシステムの動作は、
図3のシステムの動作と同様である、ということを理解することができる。唯一の差は、オープンループ伝達特性(W(z)・S(z))が0に近づくと、有益信号伝達特性M(z)がS(z)に近づくことである。
図2のシステムと同様に、
図4のシステムは、二次経路222の伝達特性S(z)と、経年劣化、温度、聴取者の変化、などによるその変動と、に依存する。
【0026】
図5では、
図4のシステムに基づき、有益信号x[n]を逆二次経路伝達関数1/S(z)を用いてフィルタにかけるために加算器229の上流に接続された等化フィルタ230を追加的に含む、システムが示されている。
図5に例示したシステムを説明する微分方程式は、以下である。
Y(z)=S(z)・V(z)=S(z)・(E(z)+X(z)/S(z)) (20)
E(z)=W(z)・U(z)=W(z)・(Y(z)−X(z)) (21)
【0027】
したがって、
図5のシステムでは、有益信号伝達特性M(z)は、
M(z)=Y(z)/X(z)=(1−W(z)・S(z))/(1−W(z)・S(z))=1 (22)
である。
【0028】
方程式(22)から分かる通り、マイク出力信号y[n]は、有益信号x[n]と同一であり、それは、等化フィルタが二次経路伝達特性S(z)のちょうど逆である場合、信号x[n]が、システムによって変えられないことを意味している。等化フィルタ230は、最適な結果、つまり、理想的な最小位相である二次経路伝達特性S(z)の逆に対する、その実際の伝達特性の最適な概算、したがって、y[n]=x[n]、のための最小位相フィルタであってよい。この構成は、理想的なリニアライザとして動作し、つまり、それは、聴取者の耳を表す拡声器223からマイク224へ、有益信号を伝達することによる、有益信号のいかなる劣化も補正する。したがって、それは、有益信号x[n]対する二次経路S(z)の憂慮すべき影響を補正または線形化し、ヘッドフォンの音響特性による悪影響なしに、有益信号が、聴取者に、ソースによって提供された通りに到着するようにする、つまり、y[z]=x[z]であるようにする。したがって、そのような線形化フィルタの助けを借りて、不十分に設計された音響システムの音を、音響的に完全に調整された音、つまり、線形の音のようにすることが可能である。
【0029】
図5に例示したシステムは、音楽などの所望の信号が、どのように、たとえば、ANC回路、特に、フィードバック型ANC回路に供給され得るかを示している。この回路は、所望の信号の望ましくない減衰を引き起こさずに、騒音を除去することができる。それは、さらに、動的な、外因による拡声器の動作点の変化を、自動的に補正するための解決策を提供する。そのような変化は、たとえば、すでに先に説明したものなどの、外部の音圧の変化によって引き起こされ得る。さらに、高調波ひずみを引き起こす運転者固有の非線形性でさえも、補正することができ、システムの最終音響性能は、追加的な等化などに関する制約なしに、最適化され得る。
【0030】
しかしながら、アクティブ騒音制御システムは、一般的に、騒音の低スペクトル構成要素のみを扱うことができる。騒音の高スペクトル貢献部を低減するために、他のシステムを実装することができる。そのようなシステムは、パッシブ騒音低減システムであってよい。たとえば、防音ウールを、拡声器の膜に隣接して配置することができる。防音ウールを、膜の前に、たとえば、拡声器の前側を覆って、配置することができる。また、たとえば、膜の後ろ、膜の前と後ろとの両方に配置することができ、または、膜の中に一体化することができる。防音ウールの使用は、しかしながら、ほんの一例である。騒音の高スペクトル貢献部を低減するために適切な、たとえば、ヘルムホルツ共鳴器などの任意の他のパッシブ騒音低減システムも、同様に実装することができる。
【0031】
図6を参照すると、アクティブ騒音低減システムとパッシブ騒音低減システムとの両方を含む拡声器配置が、概略的に例示されている。拡声器610は、車両の客室の内側601と外側602との間のバッフル640内に配置されている。バッフル640は、開口部641を含むことができ、その中に拡声器610が配置される。音響信号が客室の内側601に発せられるように、拡声器610の第1の側面を、内側601に向けることができ、拡声器610の第2の側面を、外側602に向けることができる。拡声器610の膜または振動板を、拡声器610の第1の側面または拡声器610の第2の側面に配置することができる。
【0032】
拡声器610を、音圧分離がバッフル640と拡声器610との間にないような方法で、または実質的にないような方法で、配置することができる。マイク624を、客室の内側601上の拡声器610の一側面に配置することができる。マイク624は、その位置に、(
図6では例示しない)適切な保持デバイスによって保持され得る。マイクを、拡声器610の第1の側面と第2の側面との間の、拡声器610の内部に配置することも可能である。マイク624は、
図2から
図5に関連して上記で説明した通り、アクティブ騒音制御システム(つまり、エラーマイク)の一部であってよい。マイク624は、したがって、拡声器610に、二次経路を介して音響的に連結されている。(
図6では例示しない)ANCフィルタを、マイク624と拡声器610との間に接続することができる。
【0033】
アクティブ騒音制御は、一般に、低周波数、つまり、約1kHz未満、または約500Hz未満に最も適している。一方で、パッシブ騒音制御は、より高周波数、つまり、約1kHzより上、または約500Hzより上でさらに効果的である。アクティブ騒音システムのマイク624を、パッシブ騒音システムに隣接して配置することができる。たとえば、マイクを、拡声器610の前に、拡声器610の膜とマイク624との間に配置された防音ウールと共に、配置することができる。別の実施例では、マイク624を、パッシブ騒音制御システム642の防音ウールによって囲むことができる。しかしながら、これらは、単に例である。任意の他の適切な実装形態が可能である。
【0034】
図6の拡声器システムは、したがって、外部接続された拡声器における動的問題と騒音問題とに対する効果的な解決策を提供する。外側602または内側601から来る騒音または他の妨害、つまり、拡声器610のひずみ、及び、たとえば、動作点を変える圧力変化などの他の妨害は、拡声器システムを用いて弱められ得る。
【0035】
図7は、騒音低減音響再生方法を例示したフロー図である。この方法では、音響信号は、客室の内部に、車両の客室と客室の外側との間のバッフル内に配置された拡声器によって、発せられる(ステップ701)。さらに、客室の妨害信号は、拡声器に二次経路を介して音響的に連結されているマイクを備えるアクティブ騒音制御システムによって低減される(ステップ702)。
【0036】
本発明のさまざまな実施形態を説明したが、さらに多くの実施形態及び実装形態が本発明の範囲内で可能である、ということが当業者には明白である。したがって、本発明は、添付の特許請求の範囲とそれらの同等物との観点から以外は、制約されるものではない。