(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
溝が形成された軸部にヘッド部が一体形成されたボルトと、当該ボルトに係合可能な中空筒状のカラーを備えたファスナを介して、前記ヘッド部と前記カラー間に配された作業材を締結する締結工具であって、
前記軸部の端部領域を把持可能なボルト把持部と、前記カラーに係合可能なアンビルと、前記ボルト把持部を駆動して、前記アンビルに対し所定の長軸方向に相対移動させるボルト把持部駆動機構と、前記ボルト把持部駆動機構を駆動するモータと、少なくとも前記ボルト把持部駆動機構の一部または全部を収容するハウジングとを有し、
前記軸部の端部領域を把持した状態の前記ボルト把持部が、前記ボルト把持部駆動機構を介して、前記アンビルに対して、前記長軸方向のうちの所定の第1方向へと相対移動することにより、前記アンビルが、前記軸部に嵌合された状態の前記カラーを、前記長軸方向のうちの前記第1方向とは反対の第2方向、および前記カラーの径方向内側へと押圧し、前記カラーと前記ヘッド部とで前記作業材を挟着するとともに、前記カラーの中空部を前記溝に圧着し、前記端部領域が前記軸部と一体となった状態を維持して前記ファスナの加締めを完了可能に構成され、
さらに前記軸部の端部領域を把持した状態の前記ボルト把持部が、前記ボルト把持部駆動機構を介して、前記アンビルに対して、前記第2方向へと相対移動することにより、前記ボルトに加締められた状態の前記カラーを前記アンビルから離脱させるとともに、前記軸部の端部領域を前記ボルト把持部から離脱可能に構成されており、
前記ボルト把持部駆動機構は、前記ハウジングに対し前記長軸方向への移動が規制された状態で支持されるとともに、前記モータによって回転駆動される第1機構部と、前記長軸方向への移動が可能かつ前記長軸周りの回動が規制された状態で、前記ボルト把持部に連接された第2機構部と、を有し、
前記第1機構部の回転駆動により、前記第2機構部が前記長軸方向に駆動され、これによって前記ボルト把持部が、前記アンビルに対して前記長軸方向に移動されるよう構成され、
さらに、前記第1機構部の前記第1方向側および第2方向側には、前記第1機構部の回動を許容しつつ、前記ボルト把持部から前記第2機構部を介して前記第1機構部へと伝達される前記長軸方向の軸力を受けるスラスト転がりベアリングがそれぞれ設けられ、
さらに、前記第1機構部は、前記第1機構部の外周領域において、前記スラスト転がりベアリングとは別に設けられたラジアル軸受によって支持され、
前記第1方向側および第2方向側のスラスト転がりベアリングの双方が、前記第1機構部の外径寸法よりも大径となるように構成されていることを特徴とする締結工具。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記問題点に鑑み、本発明は、上記第1の形態、すなわちボルトの軸部とその端部領域が一体となった状態で加締めを完了する形態に係るファスナが用いられる締結工具の構成をより一層合理化することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した課題を解決するべく、本発明に係る締結工具が構成される。当該締結工具は、溝が形成された軸部にヘッド部が一体形成されたボルトと、当該ボルトに係合可能な中空筒状のカラーを備えたファスナを介して、前記ヘッド部と前記カラー間に配された作業材を締結する。
【0008】
本発明に係る締結工具は、軸部の端部領域を把持可能なボルト把持部と、前記カラーに係合可能なアンビルと、前記ボルト把持部を駆動して、前記アンビルに対し所定の長軸方向に相対移動させるボルト把持部駆動機構と、前記ボルト把持部駆動機構を駆動するモータと、少なくとも前記ボルト把持部駆動機構の一部または全部を収容するハウジングとを有する。
「少なくとも前記ボルト把持部駆動機構の一部または全部を収容するハウジング」とは、ハウジングが、ボルト把持部駆動機構の一部のみを収容する態様、ボルト把持部駆動機構の全部を収容する態様、ボルト把持部駆動機構の一部およびボルト把持部駆動機構以外の構成部材を収容する態様、ボルト把持部駆動機構の全部およびボルト把持部駆動機構以外の構成部材を収容する態様のいずれも包含する。
また「ハウジング」は、少なくともボルト把持部駆動機構の一部または全部を収容することができる構造であれば足り、その外形構造、露出部の有無や程度を問わない。
【0009】
そして、前記軸部の端部領域を把持した状態の前記ボルト把持部が、前記アンビルに対して、前記長軸方向のうちの所定の第1方向へと相対移動することにより、前記アンビルが、前記軸部に嵌合された状態の前記カラーを、前記長軸方向のうちの前記第1方向とは反対の第2方向、および前記カラーの径方向内側へと押圧し、前記カラーと前記ヘッド部とで前記作業材を挟着するとともに、前記カラーの中空部を前記溝に圧着し、前記端部領域が前記軸部と一体となった状態を維持しつつ前記ファスナの加締め(Swage、スウェージ)を完了する。典型的には、上記「第1方向」は、締結工具の後方側、上記「第2方向」は締結工具の前方側に該当する。
【0010】
さらに前記軸部の端部領域を把持した状態の前記ボルト把持部は、前記ボルト把持部駆動機構を介して、前記アンビルに対して、前記第2方向へと相対移動することにより、前記ボルトに加締められた状態の前記カラーを前記アンビルから離脱させるとともに、前記軸部の端部領域を前記ボルト把持部から離脱可能に構成されている。
【0011】
また前記ボルト把持部駆動機構は、前記ハウジングに対し前記長軸方向への移動が規制された状態で支持されるとともに、前記モータによって回転駆動される第1機構部と、前記長軸方向への移動が可能かつ前記長軸周りの回動が規制された状態で前記ボルト把持部に連接された第2機構部と、を有する。そして、前記第1機構部の回転駆動により、前記第2機構部が前記長軸方向に駆動され、これによって前記ボルト把持部が、前記アンビルに対して前記長軸方向に相対移動されるよう構成されている。
【0012】
ボルト把持部駆動機構としては、例えば、第1機構部がボールナット、第2機構部がボールネジシャフトで構成されたボールネジ機構を採用することが好適である。本発明にボールネジ機構を採用した場合、ボールナットとボールネジシャフトを同心状に設定することでボルト把持部駆動機構の構造をコンパクト化するとともに、動力伝達媒体としての複数のボールに負荷を分散して伝達させることができる。またボールナットとボールネジシャフト間の減速比を相対的に大きく設定でき、モータの出力をボルト把持部駆動機構に伝達する経路上に減速機構を多数配置することを回避・低減でき、締結工具の装置構成簡素化に資する。
ボルト把持部駆動機構については、ボールネジ機構の他、例えば、第1機構部がピニオンギア、第2機構部がラック部で構成されたラック&ピニオン機構を採用し、あるいはカム機構等の回転直線変換機構を採用することも可能である。
【0013】
上記第1の形態、すなわちボルトの軸部とその端部領域が一体となった状態で加締めを完了する形態に係るファスナにおいて、変形を伴う強い力を作用させて作業材の締結を行う場合、ボルト把持部をアンビルに対して相対移動するのに非常に強い負荷(軸力)が必要となる。また加締め作業が完了し、ボルトに加締められた状態のカラーをアンビルから離脱させる場合も、当該カラーがアンビルに強固に圧着されていることから、やはり強い負荷(軸力)が必要となる。これらの負荷は、いずれもアンビルに対してボルト把持部を相対移動させるために必要とされるものであり、当該ボルト把持部を駆動するためのボルト把持部駆動機構にも上記負荷が同様に作用することになる。すなわち本発明においては、第1機構部の回転駆動により第2機構部を長軸方向に駆動し、これによってボルト把持部のアンビルに対する長軸方向の相対移動動作を行う構成を採用するため、かかる負荷は、ボルト把持部から第2機構部を介して第1機構部へと長軸方向の軸力として作用することになる。このように長軸方向への軸力が第1機構部に強く作用する場合、当該軸力が第1機構部の円滑な回転駆動の妨げになることが懸念される。
本発明では、かかる加締め作業における軸力、および加締め作業が完了してカラーをアンビルから離脱させる際の軸力が、第1機構部の回動動作の妨げとなることを防止するべく、第1機構部の構成に工夫を加えている。具体的には、前記第1機構部の第1方向側および第2方向側に、前記第1機構部の回動を許容しつつ、前記ボルト把持部から前記第2機構部を介して前記第1機構部へと伝達される前記長軸方向の軸力を受けるスラスト転がりベアリングをそれぞれ設けている。
【0014】
当該スラスト転がりベアリングは、加締め作業およびカラーのアンビル離脱の際に、第1機構部に作用する長軸方向の軸力を、当該長軸方向周りに転動しつつ受ける部材であり、典型的には軌道部、転動体、転動体保持部を有する構成とされ、例えばスラスト玉軸受、スラストアンギュラ玉軸受、スラスト円筒ころ軸受、スラスト針状ころ(ニードル)軸受、スラスト円錐ころ軸受、スラスト自動調心ころ軸受等が好適に採用可能である。
本発明においては、第1機構部の第2方向側に設けられるスラスト転がりベアリングは、加締め作業に際して、ボルト把持部をアンビルに対して相対移動する際に生じる力、すなわちボルト把持部をアンビルに対して第1方向に相対移動することでファスナを加締める際に、ボルト把持部から第2機構部を介して第1機構部へと伝達される軸力を確実に受け止め、第1機構部の回動動作に支障がでないように構成されている。
一方、第1機構部の第1方向側に設けられるスラスト転がりベアリングは、加締め作業が完了し、ボルトに加締められた状態のカラーをアンビルから離脱させる際に生じる力、すなわちボルト把持部をアンビルに対して第2方向に相対移動することでカラーをアンビルから離脱させるのに必要な軸力が、ボルト把持部から第2機構部を介して第1機構部へ伝達されるのを確実に受け止め、第1機構部の回転動作に支障がでないように構成されている。
【0015】
第1方向側に設けられるスラスト転がりベアリング(第1スラスト転がりベアリング)および第2方向側に設けられるスラスト転がりベアリング(第2スラスト転がりベアリング)は、第1機構部のハウジングに対する円滑な回動動作を許容しつつ、長軸方向への軸力を確実に受け止める構成であれば足りるものであり、その両者、あるいは一方に関し、第1機構部に直接的に当接状に連接されてもよく、あるいは、スラストワッシャ等の介在部材を挟んで第1機構部に間接的に連接されてもよい。また、第1スラスト転がりベアリングおよび第2スラスト転がりベアリングは、第1機構部とハウジングの間に介在配置される態様の他、締結工具におけるハウジング以外の構成要素と第1機構部の間に介在配置されてもよい。
【0016】
第1機構部は、第1方向側および第2方向側にそれぞれスラスト転がりベアリングが配置されるが、更に前記第1機構部の外周領域において、前記スラスト転がりベアリングとは別に設けられたラジアル軸受によって支持される。これにより第1機構部の長軸方向周りの回動動作の円滑性が一層担保されることになる。
さらに前記第1方向側および第2方向側のスラスト転がりベアリングの双方が、前記第1機構部の外径寸法よりも大径となるように構成されている。
【0017】
本発明における「モータ」としては、小型で大出力が得られるブラシレスモータが好適に採用可能であるが、これに限定されるものではない。
またモータの駆動電流供給手段としては、締結工具に取り付けられるDCバッテリが好適であるが、例えばAC電源を用いることも可能である。
【0018】
本発明における「作業材」としては、典型的には、それぞれ貫通孔を有する複数の締結作業部材で構成され、締結作業部材としては、締結強度が要求される金属材料等が好適に用いられる。この場合、各締結作業部材を、互いの貫通孔が合致した状態で重合し、あるいは締結作業部材を重合させた状態で貫通孔を形成した上で、各貫通穴にファスナのボルトの軸部を貫通し、合致した貫通孔の一方端側にボルトのヘッド部が位置し、他方端側にカラーが位置するようにファスナを設定するのが好適である。
【0019】
本発明に係る「締結工具」の用途としては、例えば航空機や自動車等の輸送機器の製造工程、ソーラパネルやプラント工場の設置基材等のように、作業材を特に高強度にて締結する必要がある場面に好適に用いられる。
【0020】
本発明における「ボルト把持部」は、軸部の端部領域にそれぞれ係合可能な複数の爪(ジョーとも称呼される)で構成することができる。この場合、各爪は、軸部の径方向に位置移動可能に構成し、端部領域を把持する係合位置と端部領域を解放する解放位置との間で切換え可能とすることができる。また係合位置と解放位置の切換えについては、アンビルに対するボルト把持部の相対移動に伴って、当該アンビルの形状に倣う形で切換え動作が自動で行われる態様、あるいは使用者の手動操作で切換えを行う態様が採用できる。
【0021】
本発明における「ボルト」はピンとしても定義可能である。本発明において、カラーの中空部が圧着される「溝」は、少なくとも軸部における圧着箇所に形成されていれば足りる。一方、軸部におけるカラーの中空部の圧着箇所以外の部分、あるいは軸部の全体に溝部を形成する態様も包含される。圧着箇所以外の溝は、例えばカラーの位置決めや仮留め等に利用可能である。
【0022】
本発明における「アンビル」は、加締め力によってカラーを変形させる金属床として構成され、当該カラーの外郭部を受承するためのボア(開口中空部)を有することが好ましい。
「アンビル」の第1の具体態様として、ボアにテーパー部を設けるとともに、ボア径につき、カラーの加締め領域の外径よりも小径に形成することが好ましい。これにより、ボルト把持部がアンビルに対して締結動作方向に相対動作する際に、アンビルのテーパー部がカラーに当接し、当該カラーを長軸方向に押圧しつつ、さらなる相対動作に応じて、カラーが径方向に圧搾されながらアンビルのボア内に入り込んでいくことになる。
この結果、カラーは、ヘッド部との間で作業材を長軸方向に狭着するとともに、アンビルのボアによってカラーが径方向に圧搾されて縮径変形することで、カラーの中空部が軸部の溝に圧着され、これによってカラーがボルトに加締められ、ファスナによる作業材の締結が遂行される。
【0023】
さらに「アンビル」の第2の具体態様として、カラーの外径を変化させて形成し、締結作業時には、アンビルのボア内径よりも小径に形成されたカラーの端部が、変形を伴うことなく当該ボアに受承されるとともに、ボア内径よりも大径に形成されたカラーの所定部分が、ボルト把持部の相対動作とともに、アンビルによって長軸方向に押圧されつつ、当該アンビルのボアによって径方向に圧搾されて縮径状に変形されて加締められる態様も採用可能である。あるいは上記第1の具体態様と第2の具体態様を組み合わせる第3の具体態様も採用可能である。
【0024】
本発明の好ましい形態として、前記第1方向側のスラスト転がりベアリングにつき、ニードルベアリングで構成することが好ましい。上述のように、第1方向側のスラスト転がりベアリングは、加締め作業が完了し、ボルトに加締められた状態のカラーをアンビルから離脱させる際に生じる力、すなわちボルト把持部をアンビルに対して第2方向に相対移動することでカラーをアンビルから離脱させるのに必要な軸力を受けるものであるが、この軸力は、確かに強い負荷ではあるものの、第2方向側のスラスト転がりベアリングが受けるファスナ加締め作業時の軸力よりは相対的に小さいものとなる。従って、第1方向側のスラスト転がりベアリングは、第2方向側のスラスト転がりベアリングよりも受承負荷が相対的に小さいことに鑑み、構造の簡素化・コンパクト化に優れるニードルベアリングで構成することが好ましい。
【0025】
さらに本発明の好ましい形態として、第1スラスト転がりベアリングにつき、第1機構部の後端部に当接するよう構成することが好ましい。後端部に当接する構成とすることで軸方向寸法が増大することを回避し、装置のコンパクト化に資する。なお「後端面に当接」については、例えばスラストワッシャやOリング等の補助部材が介在することを排除するものではない。なお当該後端部は、典型的には長軸方向と交差する後端面によって構成可能である。
【0026】
さらに本発明の好ましい形態として、ボルト把持部駆動機構につき、第1機構部としてのボールナットおよび第2機構部としてのボールネジシャフトを有するボールネジ機構で構成することが好ましい。この場合、第1機構部と第2機構部は、ボールネジ機構としてのボールを介在する形で係合することになる。更に、ボールナットには、モータを介して当該ボールナットを回転駆動するためのギアを配置することが好ましい。そして当該ボールナットのギア外周部につき、ハウジングの上部において当該ハウジングの外郭内に位置するよう構成することが好ましい。ハウジングの上部においてギア外周部がハウジングの外郭内に位置するとは、ハウジングの上下方向に関し、第1機構部のギアがハウジング内に収まることを意味し、これにより締結工具におけるセンターハイトのコンパクト化に資することになる。
【0027】
さらに本発明の好ましい形態として、モータから第1機構部への動力伝達経路には、減速用の遊星ギア機構を配置することが好ましい。遊星ギア機構は、占有容積に比して、動力伝達に際しての減速比を比較的大きく確保できる特性を有することから、動力伝達経路上に多数の減速機構を配置することを回避・低減でき、締結工具の装置構成簡素化に資する。特に、ボルト把持部駆動機構に、減速比を大きく確保できるボールねじナット機構を採用すれば、更に装置構成が一層簡素化し、コンパクト化に資することとなる。
【発明の効果】
【0028】
本発明は、上記第1の形態、すなわちボルトの軸部とその端部領域が一体となった状態で加締めを完了する形態に係るファスナが用いられる締結工具に関して、その構成をより一層合理化することに寄与し得る技術が提供されることとなった。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態として、ファスナを介して作業材を締結する締結工具について説明する。
図1に、本発明の実施形態に係る作業材Wおよびファスナ1が示される。本実施形態に係る作業材Wは、一例として板状金属製の締結作業部材W1、W2からなり、各締結作業部材W1、W2に予め形成された貫通孔W11、W21が互いに合致するように重ね合されている。
【0031】
ファスナ1は、ボルト2およびカラー6を主体として構成される。ボルト2は、ヘッド3と、当該ヘッド3と一体形成されるとともに外周部に溝5が形成されたボルト軸4を有する。ヘッド3は本発明の「ヘッド部」に対応する。溝5は、ボルト軸4の長軸方向に関し、略全長に渡って形成されている。カラー6は、カラー中空部7を有する円筒状に形成されるとともに、当該カラー中空部7がボルト軸4に挿通されることで、ボルト2と係合する。カラー中空部7の内壁は、平滑面として処理されるとともに、特に図示しないものの、カラー6をボルト軸4に挿通した場合の仮留め用係合部が形成されている。
図1に示すファスナ1は、カラー6がボルト軸4の溝5に係合して仮留めされた状態が示されている。
【0032】
図2に、本発明の実施形態に係る締結工具100の全体構成が示される。当該締結工具100は、リベッタないしロックボルトツール等とも称呼される。
【0033】
なお、以下の説明においては、符号「FR」を締結工具100の前側方向(
図2における紙面左側方向)と定義し、さらに符号「RR」を後側方向(
図2における紙面右側方向)、符号「U」を上側方向(
図2における紙面上側方向)、符号「B」を下側方向(
図2における紙面下側方向)、符号「L」を左側方向(
図5における紙面下側方向)、符号「R」を右側方向(
図5における紙面上側方向)と定義し、さらに符号「LD」を締結工具の長軸が延在する方向、すなわち長軸方向(
図2における紙面左右方向)と定義するとともに、各図において適宜に図示することとする。
本実施形態における後側方向RRは本発明の「第1方向」に対応し、前側方向FRは本発明の「第2方向」に対応し、長軸方向LDは本発明の「長軸方向」に対応する。
【0034】
図2に示すように、締結工具100の外郭は、アウタハウジング110、当該アウタハウジングに連接するグリップ部114を主体として構成されている。
アウタハウジング110は、モータ135を収容するモータ収容領域111と、インナハウジング120を収容するインナハウジング収容領域113と、コントローラ131を収容するコントローラ収容領域117を主体として構成されている。インナハウジング120は、遊星ギア減速機構140、ベベルギア減速機構150およびボールネジ機構160の収容部材であり、その詳細については後述する。コントローラ収容領域117の下部には、モータ135の駆動電源となるバッテリ130を締結工具100に取外し自在に接続するためのバッテリ装着部118が設けられている。
図2においては、インナハウジング収容領域113のうち、モータ収容領域111に隣接する領域は、遊星ギア減速機構140およびベベルギア減速機構150を収容する減速ギア収容領域112として示されている。
またモータ収容領域111とコントローラ収容領域117の連接領域には、モータ135の駆動電流値に関する閾値設定用の操作ダイアル132が設けられている。操作ダイアル132は、特に図示しないものの、その上面表示部に、複数の閾値表示(本実施形態では無段階レベル)が印字されており、作業者の選択および手動操作により、任意の閾値が設定可能とされる。なお閾値に関する詳細については後述する。
【0035】
グリップ部114には、作業者が手動操作可能なトリガ115および当該トリガ115の手動操作に応じてオン・オフされる電気スイッチアセンブリ116が配置されている。
上記コントローラ収容領域117、モータ収容領域111、インナハウジング収容領域113(減速ギア収容領域112を含む)、およびグリップ部114は、連続状に配置されてクローズループをなす。
【0036】
図3に、モータ収容領域111および減速ギア収容領域112の詳細な構造が示される。
モータ収容領域111に収容されるモータ135には、DCブラシレスモータが採用され、冷却ファン138が取り付けられたモータ出力軸136が、各端部領域においてベアリング137,137によって軸支されている。モータ出力軸136の一方端は、遊星ギア減速機構140における第1サン・ギア141Aに一体回転可能に連結されている。
【0037】
減速ギア収容領域112に収容される遊星ギア減速機構140は、2段減速式であり、その減速第1段は、第1サン・ギア141Aと、当該第1サン・ギア141Aに噛合い係合する複数の第1遊星ギア142Aと、各第1遊星ギア142Aに噛合い係合する第1インターナルギア143Aを主体として構成される。また減速第2段は、第1遊星ギア142Aのキャリアを兼ねる第2サン・ギア141Bと、当該第2サン・ギア141Bに噛合い係合する複数の第2遊星ギア142Bと、各第2遊星ギア142Bに噛合い係合する第2インターナルギア143Bと、各第2遊星ギア142Bの公転動作を受承して回動されるキャリア144を主体として構成されている。
【0038】
キャリア144は、減速ギア収容領域112において、遊星ギア減速機構140に隣接した状態で収容されるベベルギア減速機構150の駆動側中間軸151に一体回転可能に連結されている。
ベベルギア減速機構150は、ベアリング152,152に両端支持された駆動側中間軸151と、当該駆動側中間軸151に設けられた駆動側ベベルギア153と、ベアリング155,155に両端支持された被動側中間軸154と、当該被動側中間軸154に設けられた被動側ベベルギア156およびボールナット駆動ギア157を主体として構成されている。なお「中間軸」とは、上記モータ出力軸136から、後述するボールネジ機構160(
図4参照)へと、モータ135の回転出力を伝達する経路における中間の軸を意味するものである。なおモータ出力軸136および駆動側中間軸151の延在方向EDは、被動側中間軸154の延在方向、すなわち長軸方向LDと傾斜状に交差する構成とされている。
【0039】
図4および
図5に、インナハウジング収容領域113の詳細な構造が示される。インナハウジング収容領域113に収容されるインナハウジング120は、既に述べたように、遊星ギア減速機構140、ベベルギア減速機構150およびボールネジ機構160の収容部材である。本実施形態では、インナハウジング120のうち、遊星ギア減速機構140を収容する領域は樹脂で形成され、ベベルギア減速機構150およびボールネジ機構160を収容する領域は金属で形成され、両者はネジによって相互に一体結合されている(便宜上、図示を省略)。
図4に示すように、インナハウジング120の後側方向RRには、ガイドフランジ取付アーム122を介して、ガイドフランジ123が連結されている。ガイドフランジ123には、長軸方向LDへと延在する長穴状のガイド穴124が形成されている。本実施形態におけるインナハウジング120は本発明の「ハウジング」に対応する。
【0040】
またインナハウジング120の前側方向FRには、ジョイントスリーブ127を介してアンビル181係止のためのスリーブ125が連結されている。スリーブ125は、長軸方向LDに延在するスリーブボア126を有する円筒体として構成されている。
【0041】
インナハウジング120はボールネジ収容領域121を有し、当該ボールネジ収容領域121にはボールネジ機構160が収容される。ボールネジ機構160は本発明の「ボルト把持部駆動機構」に対応する。
ボールネジ機構160は、ボールナット161およびボールネジシャフト169を主体として構成される。ボールナット161の外周部には、ボールナット駆動ギア157に噛合い係合する被動ギア162が形成され、当該被動ギア162がボールナット駆動ギア157からモータの回転出力を受けることにより、ボールナット161は長軸LD周りに回動可能とされている。またボールナット161には長軸方向LDに延在するボア163が形成され、当該ボア163には溝部164が設けられている。
【0042】
本実施形態におけるボールナット161は、長軸方向LDに強い軸力が作用した状態で、長軸方向LD周りに回動可能にインナハウジング120に支持される。そのためボールナット161の外周部とインナハウジング120の間にはラジアル転がりベアリングが配置され、ボールナット161の軸方向両端部にはそれぞれスラスト転がりベアリングが配置されている。
【0043】
具体的には、ボールナット161は、長軸方向LDに離間した状態で配置された複数のラジアルニードルベアリング168を介して、長軸方向LD周りに回動可能な状態でインナハウジング120に両持ち状に支持される。一方、ボールナット161の前側方向FRにおける前方側端部161Fにおいては、スラストボールベアリング166がボールナット161とインナハウジング120の間に介在配置される。これにより、長軸方向LDへの軸力(スラスト荷重)がボールナット161に作用した状態であっても、スラストボールベアリング166が、当該軸力を確実に受けつつ、ボールナット161が長軸方向LD周りに円滑に回動することを許容し、ボールナット161の長軸方向LD周りの回動動作が強い軸力によって阻害されるリスクを未然回避している。
【0044】
またボールナット161の後側方向RRにおける後方側端部161Rについては、スラストニードルベアリング167がボールナット161とインナハウジング120の間に介在配置され、長軸方向LDに作用する軸力(スラスト荷重)が作用した状態であっても、当該スラストニードルベアリング167が、長軸方向LDに作用する軸力を確実に受けつつ、ボールナット161の長軸方向LD周りの回動動作を許容し、強い軸力がボールナット161の長軸方向LD周りの回動動作に悪影響を及ぼすリスクを未然回避している。なお本実施形態では、ボールナット161とスラストボールベアリング166、およびボールナット161とスラストニードルベアリング167の間にはスラストワッシャ165が更に介在配置されている。
【0045】
図4に示されるように、スラストボールベアリング166およびスラストニードルベアリング167は、ボールナット161の前方側端部161Fおよび後方側端部161Rにおける当該ボールナット161の外径寸法よりも大径となるように設定されており、ボールナット161に作用する軸力(スラスト荷重)の単位面積当たりの受圧量が増大することを回避し、動作性および耐久性向上が図られている。
【0046】
さらに
図4、
図5に示すように、ボールネジシャフト169は、長軸方向LDに延在する長尺体として構成され、その外周部に形成された溝部(便宜上図示省略)が、ボールナット161の溝部164にボールを介して係合しており、ボールナット161が長軸方向LD周りに回動することでボールネジシャフト169は長軸方向LDに直線動作するように構成されている。すなわちボールネジシャフト169は、ボールナット161の長軸方向LD周りの回転運動を長軸方向LDへの直線運動に変換する運動変換機構として働く。ボールナット161およびボールネジシャフト169は、ボールナット161に形成された溝部164と、ボールネジシャフト169に形成された溝部(図示省略)がボールを介在させた状態で互いに係合する構成であり、ボールナット161は本発明の「第1機構部」に対応し、ボールネジシャフト169は本発明の「第2機構部」に対応する。
【0047】
なお被動ギア162の外周部は、インナハウジング120に形成された切欠き状の孔部120Hを通じて、当該インナハウジング120の外郭部と略面一となるように寸法設定がなされている。換言すれば、被動ギア162の外周がインナハウジング120の外郭を超えて上側方向Uへと突出しないように構成されている。これにより、ボールネジシャフト169のシャフトライン169Lからアウタハウジング110の上側方向Uの外郭部までの高さ(センターハイトとも称呼される)CHの低減化が図られている。
【0048】
ボールネジシャフト169は、その前側方向FRの端部領域に設けられた螺合部171を介して、後述するボルト把持機構180の第2連結部189と一体状に連結される。またボールネジシャフト169は、その後側方向RRの端部領域にエンドキャップ174が設けられるとともに、
図5に示すように、エンドキャップ174に隣接した状態で、左側方向Lおよび右側方向Rにそれぞれ突出するローラシャフト172を介して、左右一対のローラ173,173が設けられる。各ローラ173は、ガイドフランジ123のガイド穴124にそれぞれ転動可能に支持される。従ってボールネジシャフト169は、インナハウジング120に支持されたボールナット161、およびローラ173が嵌合されるガイド穴124を介して、長軸方向LDにおいて異なる2つの領域で安定的に支持されることになる(両持ち式の支持)。なお、ボールナット161の長軸方向LD周りの回転に伴い、ボールネジシャフト169には長軸方向LD周りの回転トルクが作用する可能性もあるが、上記ローラ173およびガイド穴124の当接により、かかる回転トルクに起因するボールネジシャフト169の長軸方向LD周りの回転が規制されている。
【0049】
なお、本実施形態では、ボールネジシャフト169側にローラ173を設け、インナハウジング120(ないしガイドフランジ123)側にガイド穴124を設けているが、これを逆にして、ボールネジシャフト側にガイド穴、インナハウジング120ないしガイドフランジ123側にローラを配置する構成としてもよい。
またガイド穴124は、ローラ173の当接が確保できる範囲にて、例えばガイドレール等といった他の構成に代替することも可能である。
【0050】
さらに
図4に示すように、ボールネジシャフト169には、エンドキャップ174に隣接して、アーム取付ネジ175およびアーム176を介し、磁石177が設けられている。当該磁石177はボールネジシャフト169と一体化されており、ボールネジシャフト169が長軸方向LDに移動動作する際に磁石177も一体に移動動作する。
【0051】
アウタハウジング110には、
図4においてボールネジシャフト169が前側方向FRに最大限移動した状態における磁石177の位置に対応して、初期位置センサ178が設けられ、後側方向RRに最大限移動した状態における磁石177の位置に対応して、最後端位置センサ179が設けられている。初期位置センサ178および最後端位置センサ179はそれぞれホール素子で形成され、磁石177の位置検出を行う位置検知機構を構成する。本実施形態における初期位置センサ178および最後端位置センサ179は、磁石177がそれぞれ検知可能範囲に置かれた場合に当該磁石177の位置検知が行われるよう設定されている。
図4は、締結工具100が「初期位置」に置かれた状態が示される。
【0052】
図4に示すように、ボルト把持機構180は、アンビル181と、ボルト把持爪185を主体として構成されている。ボルト把持機構180ないしボルト把持爪185は本発明の「ボルト把持部」に対応する。
アンビル181は、長軸方向LDに延在するアンビルボア183を有する円筒体として構成される。アンビルボア183においては、前側方向FRにおける開口部181Eから長軸方向LDに所定距離分だけテーパー部181Tが設けられている。テーパー部181Tは、後側方向RRに向かうに従って逐次的に狭くなるように角度αの傾斜角が付与されている。
アンビル181は、その外周に形成されたスリーブ係止リブ182を介してスリーブ125およびスリーブボア126に係止され、インナハウジング120に一体状に連結されている。
【0053】
アンビルボア183の径は、
図1に示すカラー6の外径よりも僅かに小さく設定されており、カラー6の変形を促す強い締結力(軸力)が作用する場合にのみ、当該カラー6が開口部181Eからアンビルボア183へと変形を伴いながら入り込む構成とされている。一方、アンビルボア183の開口部181Eの径は、カラー6の外径よりも僅かに大きく設定されており、当該カラー6のアンビルボア183への挿入ガイド部を形成している。
なおテーパー部181Tは、長軸方向LDにつき、カラー6の高さ寸法よりも長く形成されており、カラー6がアンビルボア183内に最大限入り込んだ場合であっても、当該カラー6は、長軸方向LDについてテーパー部181Tの形成領域内に位置することになる。
【0054】
ボルト把持爪185は、ジョー(顎、Jaw)とも称呼され、特に図示しないものの、長軸方向LDに視て合計3つのボルト把持爪185が仮想円周状に等間隔で配置されており、
図1に示すファスナ1のボルト軸端部領域41を把持するように構成されている。なおボルト軸端部領域41は本発明の「端部領域」に対応する。また各ボルト把持爪185は、ボルト把持爪基部186と一体化されている。
図4および
図5に示すように、ボルト把持爪基部186は、第1連結部187A、第2連結部187B、係止部188、第3連結部189、螺合部171を介してボールネジシャフト169に連結されている。なお
図4、
図5に示すように、第2連結部187Bと係止部188は、当該第2連結部187Bの後端に形成された係止フランジ187Cと、係止部188の前端に形成された係止端部188Aとが長軸方向LDについて互いに係合することで連結される。係止フランジ187Cと係止端部188Aの連結態様として、第3連結部188が後側方向RRに移動する場合には、第2連結部187Bと第3連結部188が一体状に移動する。すなわち、後側方向RRに関しては、ボールネジシャフト169が移動動作する場合、当該ボールネジシャフト169とボルト把持爪185が一体状に後側方向RRに移動動作するものである。一方、第3連結部188が前側方向FRに移動する場合は、第3連結部材188は、係止端部188Aの前方に形成されたスペース190に対応する形で、第2連結部187Bに対し相対移動するように構成されている。
【0055】
なお螺合部171においては、ボールネジシャフト169に小径部が形成されることにより、第2連結部189の外周径とボールネジシャフト169の外周径が略面一となるように構成されている。
【0056】
図6に、本実施形態に係る締結工具100におけるモータ駆動制御機構101の電気的構成がブロック図として示される。モータ駆動制御機構101は、コントローラ131、3相インバータ134、モータ135、およびバッテリ130を主体として構成されている。コントローラ131には、電気スイッチアセンブリ116、操作ダイアル132、初期位置センサ178、最後端位置センサ179、モータ135の駆動電流検出アンプ133の各検出信号が入力される。
駆動電流検出アンプ133は、モータ135の駆動電流を、シャント抵抗によって電圧に変換し、更にアンプによって増幅した信号をコントローラ131に出力する。
【0057】
本実施形態では、モータ135として、小型にもかかわらず相対的に高い出力が得られるDCブラシレスモータが採用されており、当該モータ135におけるロータ角がホールセンサ139によって検出され、当該ホールセンサ139による検出値がコントローラ131に送られる。また3相インバータ134は、本実施形態では120°通電矩形波駆動方式にてブラシレス式のモータ135を駆動する。
【0058】
次に本実施形態に係る締結工具100の作用について説明する。
図7に示すように、締結作業部材W1,W2を重合した状態で、各貫通孔W11、W21にボルト2のボルト軸4を貫通させる。そしてヘッド3が締結作業部材W1に当接するとともに、締結作業部材W2側にボルト軸4が突出した状態で、当該ボルト軸4にカラー6を係合させ、ヘッド3とカラー6とで作業材Wを狭着する(予備組み付け)。
そして当該予備組み付け状態において、作業者が締結工具100を手で保持し、ボルト軸端部領域41に、締結工具100におけるボルト把持爪185を係合させる。このとき、ボルト軸4の略全長に渡って溝5が形成されるとともに、ボルト軸端部領域41の溝は特に大きく形成されているため(併せて
図1参照)、ボルト把持爪185はボルト軸端部領域41に容易かつ確実に係合することができる。
【0059】
図7は、ボルト把持爪185がボルト軸端部領域41を把持した状態、すなわち締結作業の初期状態を示している。当該締結作業の初期状態においては、長軸方向LDに関し、ボールネジシャフト169に連結された磁石177が初期位置センサ178に対応した状態に置かれている。
【0060】
初期状態において作業者がトリガ115(
図2参照)を手動操作することにより、電気スイッチアセンブリ116がスイッチオン状態となり、コントローラ131が3相インバータ134を介してモータ135を正転駆動する。なお「正転駆動」とは、ボールネジシャフト169が後側方向RRに移動することで、ボルト把持爪185が後側方向RRに移動動作する駆動態様を指す。
【0061】
図8に示すように、モータ135が正転駆動されると、ベベルギア減速機構150における最終ギアであるボールナット駆動ギア157と噛合い係合した被動ギア162が回転駆動され、これによってボールナット161が長軸方向LD周りに正転方向(後側方向RRから前側方向FRに視て右回り)に回転駆動される。ボールネジシャフト169は、ボールナット161の回転動作を直線運動に変換する形で、後側方向RRへと移動動作する。これによりボールネジシャフト169とともに、ボルト把持爪185も後側方向RRへと一体状に移動動作する。このとき、ボールネジシャフト169に連結された磁石177は、初期位置センサ178から後側方向RRへと移動し、初期位置センサ178の検知可能範囲から離脱する。
【0062】
ボルト把持爪185が、初期状態から後側方向RRに移動動作することで、ボルト把持爪185に係合把持されたボルト軸端部領域41も後側方向RRに引張られることになる。カラー6の外径は、アンビルボア183の開口部181Eの径よりもわずかに大きく設定されているものの、ボルト把持爪185がボルト軸端部領域41を後側方向RRへと強く引張ることで、カラー6がアンビル181に当接して制止されるとともに、更なるボルト把持爪185の後側方向RRへの移動動作に伴って、カラー6は開口部181Eからアンビルボア183のテーパー部181Tへと縮径しながら進入することとなる。カラー6は、テーパー部181Tに進入する際、テーパー部181Tの傾斜角α(
図4参照)の長軸方向成分および径方向成分に対応する形で、前側方向FRおよび当該カラー6の径方向内側へと押圧され変形することになる。
【0063】
このとき、カラー6をアンビルボア183に入り込ませるための強い負荷は、ボルト把持爪185、ボルト把持爪基部186、第1連結部187A、第2連結部187B,係止部188、第3連結部189、ボールネジシャフト169を経由し、前側方向FRへの軸力として、ボールナット161に作用することとなる。本実施形態では、ボールナット161の前方側端部161Fがスラストボールベアリング166を介してインナハウジング120に支持されているため、当該スラストボールベアリング166が、長軸方向LD周りに転動してボールナット161の回転動作を許容するとともに、前側方向FRへの軸力を受け、当該軸力がボールナット161の円滑な回転動作の妨げとなることを防止している。
【0064】
図9に示すように、更にボールナット161が正転方向に回転駆動され、ボールネジシャフト169が後側方向RRに移動すると、ボルト把持爪185が、ボルト軸端部領域41を、
図8に示す状態から更に後側方向RRに引張ることとなる。これによりアンビル181に係止されたカラー6は更にテーパー部181Tの奥へと入り込み、この結果、カラー6は更に前側方向FRおよび当該カラー6の径方向内側へと強く押圧され、平滑面として形成されたカラー中空部7が、ボルト軸4に形成された溝5(
図1参照)に強く圧着される。当該圧着によりカラー中空部7と溝5との間で塑性変形による噛み込みが生じ、これによってファスナ1の加締めが完了し、作業材Wの締結作業が完了するに至る。
【0065】
締結作業完了に至る際、
図9に示すように、長軸方向LDについて、初期位置センサ178から離間した磁石177が、最後端位置センサ179に近接するよりも前に、カラー6が、それ以上アンビルボア183の奥へと入り込むことができない状態に陥り(すなわち締結作業の最終段階に入り)、その結果、モータ135の駆動電流値が急激に増大することになる。
図6に示すコントローラ131は、駆動電流検出アンプ133から入力される駆動電流値を、予め設定された所定の閾値と比較する。なお当該閾値は、既に述べたように
図2に示す操作ダイアル132を作業者が手動操作することで適宜に選択設定される。本実施形態では、必要とする軸力、すなわち締結に必要な負荷に応じて5段階の閾値設定がなされている。
当該駆動電流値が所定の閾値を超える場合、加締めによる締結作業が完了したものとして、コントローラ131は、3相インバータ134を介してモータ135の駆動を停止する。本実施形態では、駆動電流値が所定の閾値を超える場合、電気ブレーキを作動させてモータ135を急停止させる構成を採用している。
【0066】
本実施形態では、駆動電流に基づく綿密な出力管理を行うことにより、
図1に示すファスナ1につき、ボルト軸4と一体となった状態を維持したまま締結作業を完了できる。これにより、締結作業後にボルト軸4の破断部をケアする追加工程が不要であり、作業効率の向上が図られる。
【0067】
上記の通り、
図9には、加締めによる締結作業が完了した状態の締結工具100が示されているが、当該締結工具100を、
図9の作業完了状態から、
図7に示す初期状態に復帰させ、ボルト2に加締められた状態のカラー6をアンビル181から離脱させ、次の締結作業に備える必要がある。
【0068】
本実施形態では、締結作業が完了し、作業者がトリガ115(
図2参照)をオフにした場合、
図6に示すコントローラ131が、3相インバータ134を介してモータ135を逆転駆動させる。当該モータ135の逆転動作は、ベベルギア減速機構におけるボールナット駆動ギア157に噛合い係合する被動ギア162を介してボールナット161に伝達され、これによってボールネジシャフト169が前側方向FRに移動し、当該ボールネジシャフト169と一体状に、ボルト把持爪185が前側方向FRに移動することとなる。この時、加締めに際しての強い負荷に起因して、カラー6はアンビルボア183に強固に圧着されているため、カラー6をアンビル181から離脱させるには相応に強い負荷が必要とされる。この負荷は、ボルト把持爪185、ボルト把持爪基部186、第1連結部187A、第2連結部187B、係止部188、第3連結部189、ボールネジシャフト169を経由し、後側方向RRへの軸力として、ボールナット161に作用することとなる。
【0069】
本実施形態では、ボールナット161の後方側端部161Rが、(スラストワッシャ165および)スラストニードルベアリング167を介してインナハウジング120に支持されているため、当該スラストニードルベアリング167が、長軸方向LD周りに転動してボールナット161の回転動作を許容しつつ、後側方向RRへの軸力を確実に受け、当該軸力がボールナット161の円滑な回転動作の妨げとなることを未然に防止している。
【0070】
なお、本実施形態では、正転時における軸力は、上述の通りスラストボールベアリング166で受承されるのに対し、逆転時における軸力はスラストニードルベアリング167で受承される。これは、加締め作業において必要とされる軸力に比べて、カラー6をアンビル181から離脱させるのに必要とされる軸力が相対的に小さいため、負荷受承能力の大小、占有空間の大小、コストの大小に鑑みて逆転時の軸力受承部材としてスラストニードルベアリング167が選定されるものである。もちろん、作業材Wの材質や性状、ファスナの材質や性状等といった各種の締結作業条件に応じて、スラストニードルベアリング167に代えて、他のスラストベアリング(例えばスラストボールベアリング)によって逆転時の軸力を受承する構成を採用してもよい。
また作業材の材質や仕様、ファスナの材質や仕様等との関係で、締結作業条件が許容する場合には、正転時および逆転時のいずれについてもスラストニードルベアリングで受ける構成に代替することも可能である。
【0071】
ところで本実施形態では、
図4に示すボールネジシャフト169の長軸方向LDに関する最大可動範囲として、初期位置センサ178と最後端位置センサ179の離間距離相当分が割り当てられている。換言すれば、磁石177が初期位置センサ178に対応する位置から、最後端位置センサ179に対応する位置までの間の距離が、ボールネジシャフト169の最大可動範囲として与えられる。例えば、ボルト把持爪185がボルト2に係合していない状態でトリガ115をオン操作した場合、実質的に無負荷状態にあるモータ135の駆動電流値は所定の閾値に達することがないため、ボールネジシャフト169は、磁石177が最後端位置センサ179に到達するまで、後側方向RRに移動動作可能である。磁石177が最後端位置センサ179に達した状態は、締結工具100が「停止位置」にあると定義される。
【0072】
一方、ボルト把持爪185がファスナ1のボルト2を把持し、上述した加締めによる締結作業を行う場合は、当該締結作業完了に際してモータ135の駆動電流値が急増し、磁石177が最後端位置センサ179の検出可能範囲に到達するよりも前に、駆動電流値が所定の閾値を超え、その時点でモータ135の駆動が停止されることとなる。
【0073】
図10に、モータ駆動制御機構101における駆動制御フローの概要が示される。なお当該駆動制御フローにおける判断は、特に注記のない限り、上記コントローラ131が行うものとし、また各構成部材の符号については、上記した
図1〜
図9に記載の符号をそのまま流用し、特に
図10で再掲しないものとする。
モータ駆動制御ルーチンにおいては、まずステップS11として、トリガ115および電気スイッチアセンブリ116のオン・オフ状態がモニタされる。そしてトリガ115のオン状態が検出された場合、ステップS12として、3相インバータ134において、モータ135を駆動するためのDuty比算出およびPWM信号の生成が行われ、ステップS13としてモータ135が正転駆動される。上述したように、モータ135の「正転駆動」は、
図4に示すボールネジシャフト169が後側方向RRに直線動作し、ボルト把持爪185がアンビル181に対し後側方向RRに移動する動作に対応している。ステップS13におけるモータ135の正転駆動により、
図1に示すファスナ1において、カラー6のボルト2に対する加締めが行われる。
【0074】
ステップS14においては、上述したモータ135の駆動電流値が所定の閾値を超えることで締結作業が完了したか否か、または、磁石177が最後端位置センサ179に達したか(停止位置に置かれたか)、が判別される。
ステップS14において、締結作業の完了、または停止位置が検出された場合、ステップS15において、電気ブレーキによるモータ135の急速停止が行われる。
次に、ステップS16において、作業者によるトリガのオフ操作が検知された場合、ステップS17において、モータ135の逆転駆動が行われる。当該逆転駆動は、磁石177が初期位置センサ178に達するまで継続される。そしてステップS18における初期位置検出に伴い、電気ブレーキによるモータ135の急速停止が行われ(ステップS19)、モータ駆動処理が終了する。
【0075】
以上の構成および作用に照らし、本実施形態によれば、ボルト軸端部領域41が破断することなくボルト軸4と一体となった状態でファスナ1の加締めを完了する締結工具100につき、コンパクトで綿密な軸力管理を行うことができる合理的な構成が得られることとなった。
【0076】
さらに本件発明および実施形態の趣旨に基づき、以下の態様が適宜に採用される。また以下の態様を、それぞれ独立して、あるいは複数組み合わせて、本件特許請求の範囲に記載の各発明に付加することで更なる態様が採用される。
(態様1)
「前記モータの駆動電流に基づいて、前記ボルト把持部の前記アンビルに対する前記第1方向への相対移動を終了することによって、前記ファスナの加締めを完了する」
この態様によれば、ファスナの加締めが完了に近づくにつれてモータの駆動電流が増大することを有効に利用して綿密な出力管理が行える。
(態様2)
「態様1において、前記モータの駆動電流値が所定の閾値を超える場合に、前記ファスナの加締めを完了する」
この態様によれば、モータの駆動電流値に関する所定の閾値を設定することで、加締め完了のタイミングを確実に図ることができる。
(態様3)
「前記第1方向側および第2方向側のスラスト転がりベアリングの少なくとも一方は、前記第1機構部の外径寸法よりも大径となるように構成されている」
この態様によれば、スラスト転がりベアリングが受ける長軸方向の軸力に関し、単位面積当たりの負荷量を低減することができる。
(態様4)
「前記第1方向側および第2方向側のスラスト転がりベアリングと前記ハウジングの間にはスラストワッシャが介在配置されている」
この態様によれば、スラストワッシャが介在することで部材の組み付け性、動作特性が向上することとなる。
(態様5)
「前記第2機構部の前記長軸周りの回動を規制する規制部材を更に有し、当該規制部材は、前記第2機構部の前記長軸方向への移動動作のガイドを兼務する」
この態様によれば、第2機構部の動作に関する部材構成の簡素化・合理化が図られる。
(態様6)
「態様5において、前記規制部材は、前記ハウジングに連接されるとともに前記長軸方向に延在するガイド部材と、前記第2機構部に連接されるとともに、前記ガイド部材に当接した状態で前記長軸方向にガイドされる被ガイド部材とを有する」
この態様によれば、部材間の当接作用を介して、確実な回動規制および移動動作のガイドが遂行される。
(態様7)
「態様5または態様6において、前記ガイド部材は前記長軸方向に延在する長穴で構成され、前記被ガイド部材は前記長穴に嵌合当接するローラで構成される」
この態様によれば、長穴とローラという簡素化された構成による第2機構部の回動規制および移動動作のガイドが遂行される。
(態様8)
「前記モータから前記第1機構部への動力伝達経路には、更に減速用のベベルギア機構が配置されている」
この態様によれば、ベベルギア機構を採用することで、動力伝達経路の向きを適宜に変更して、装置構成のコンパクト化を促進することができる。
(態様9)
「前記長軸方向における前記第2機構部の位置を検出する検出機構が設けられている」
この態様によれば、第2機構部の位置を検出することで、初期位置への復帰動作を確実ならしめることができる。
(態様10)
「態様9において、前記検出機構は、磁石と、当該磁石の近接を検知可能なホール素子を有し、当該磁石とホール素子の一方が前記第2機構部に設けられ、他方が締結工具における前記第2機構部以外の構成部材に設けられる。」
この態様によれば、磁石とホール素子を利用した確実な第2機構部の位置検出が遂行される。