【実施例1】
【0039】
成形材料の配合は、粉末状の活性炭(粒子径が100μm以下のもの)100重量部、ナイロン繊維(繊維径10μm、繊維長0.5mm)40重量部、バインダ(ベントナイト)67重量部、酸化鉄粉末250重量部、である。この成形材料を
図2に示したような円柱形状のハニカム状に押出成形し、かつ焼成した。なお、メルタブルコアとなるナイロン繊維(ポリアミド樹脂繊維)の比重は、1.1g/cm
3である。
【0040】
焼成後の状態におけるハニカム吸着材11は、直径30mm、長さ75mm、の円柱形状であり、セル通路12のピッチPは1.7mm、壁13の厚さTは0.55mm、である。焼成後の状態における金属酸化物(酸化鉄)の重量比は、60wt%であった。メルタブルコアであるナイロン繊維が焼成時に消失したことにより形成されたマクロポアの量(ハニカム吸着材11の単位重量あたりのマクロポアが占める容積)は、0.18mL/gであった。なお、マクロポアの容積は、例えば「ISO 15901−1」で規定される水銀圧入法によって測定できる。
【0041】
また、ハニカム状をなすハニカム吸着材11の中で吸着材材料が占める割合である占有率は、ハニカム吸着材11の外形寸法およびセル通路12の寸法、個数から幾何学的に定まるものであり、この実施例1では、54%であった。
【0042】
このようにして得られたハニカム吸着材11について、BWCと、単体での通気抵抗とを測定した。
【0043】
BWCの測定は、ASTM D5228に準拠して行い、その結果は、7.3g/dLであった。
【0044】
通気抵抗は、ガスを通流させたときの前後差圧として測定した通気抵抗を、ハニカム吸着材11の長さで除して、単位長さあたりの通気抵抗[Pa/cm]とした。さらに、試験時の流量をハニカム吸着材11の断面積で除して線流速[cm/s]を求め、100cm/s時の単位長さあたりの通気抵抗を求めた。その結果は、8.2Pa/cmであった。本発明における通気抵抗の達成目標は、キャニスタ1としてのチャージ時およびパージ時のガスの流れを確保するために、10Pa/cmである。
【0045】
さらに、実施例1のハニカム吸着材11を
図1に示したような構成の試験用キャニスタ1に組み込んで、DBL試験に類似した試験を行い、ドレンポート5から漏れ出たブリードエミッションの量を測定した。その結果は、14mgであった。試験用のキャニスタ1は、
図1に示す第1チャンバ6に、直径2mm程度の造粒活性炭を1.9L充填し、第2チャンバ7に、これとは異なる特性の造粒活性炭を0.1L充填した構成であり、第3チャンバ8にハニカム吸着材11が配置される。
【0046】
試験方法としては、キャニスタ1内にチャージポート3から蒸発したガソリン成分を所定量流入させた後に、所定の空気量および流速のパージ空気でもってパージを行う。この吸脱着サイクルを数回行い、吸脱着量を安定化させる。次に、ブタンをチャージポート3からキャニスタ1に流入させて、吸着材に吸着させた後に、吸着材の温度が一定になるまで放置する。その後パージを行い、半日放置する。次に、車両のガソリンタンクにキャニスタ1を接続し、外気温変化を模擬するように温度を変化させてブリードエミッションを測定する。ブリードエミッション量は、ドレンポート5から排出される気体中の炭化水素濃度を検出し、それを重量に換算して導き出したものである。
【0047】
本発明におけるブリードエミッション量の達成目標は、北米の新しい規制で定められたキャニスタ単体での規制値に準拠して、20mgである。
【0048】
このように実施例1のハニカム吸着材11においては、ブリードエミッションを目標である20mg以下に低減することができると同時に、通気抵抗を目標である10Pa/cm以下とすることができる。また同時に、BWCは、7.3g/dLと比較的高い値を確保することができ、しかも占有率が54%と比較的高い値となるので、ハニカム吸着材11の外形寸法を基準とした見かけの単位容積当たりの吸着能力が高く得られ、小型のハニカム吸着材11でもってドレンポート5からの漏れ出しを効果的に抑制することができる。
【実施例5】
【0061】
実施例5は、実施例1に比較して、メルタブルコアとなる繊維としてポリエステル樹脂繊維を用いたものであり、酸化鉄の配合比が変更されているほかは、実施例1と同様である。
【0062】
成形材料の配合は、粉末状の活性炭100重量部に対し、ポリエステル樹脂繊維45重量部、バインダ67重量部、酸化鉄粉末233重量部、である。なお、メルタブルコアとなるポリエステル樹脂繊維の比重は、1.3g/cm
3である。
【0063】
焼成後の状態におけるセル通路12のピッチPは1.7mm、壁13の厚さTは0.55mm、である。焼成後の状態における酸化鉄の重量比は、58wt%であった。マクロポア量は、0.21mL/g、占有率は、54%であった。
【0064】
このようにして得られたハニカム吸着材11について、実施例1と同様の試験を行ったところ、BWCは、7.1g/dL、通気抵抗は、8.2Pa/cm、ブリードエミッション量は、14mgであった。
【0065】
さらに、いくつかの比較例となるハニカム吸着材11を同様に製造し、かつ試験を行った。
[比較例6]
比較例6の配合は、粉末状の活性炭100重量部に対し、ナイロン繊維86重量部、バインダ134重量部、酸化鉄粉末466重量部、である。
【0066】
焼成後の状態におけるセル通路12のピッチPは1.6mm、壁13の厚さTは0.52mm、である。焼成後の状態における酸化鉄の重量比は、67wt%であった。マクロポア量は、0.28mL/g、占有率は、54%であった。
【0067】
このようにして得られたハニカム吸着材11について、実施例1と同様の試験を行ったところ、BWCは、5.2g/dL、通気抵抗は、8.4Pa/cm、ブリードエミッション量は、47mgであった。従って、BWCおよびブリードエミッション量が目標を達成できない結果となった。
[比較例7]
比較例7の配合は、粉末状の活性炭100重量部に対し、ナイロン繊維22重量部、バインダ75重量部、である。金属酸化物は配合していない。
【0068】
焼成後の状態におけるセル通路12のピッチPは1.5mm、壁13の厚さTは0.70mm、である。マクロポア量は、0.41mL/g、占有率は、72%であった。
【0069】
このようにして得られたハニカム吸着材11について、実施例1と同様の試験を行ったところ、BWCは、8.2g/dL、通気抵抗は、35.5Pa/cm、ブリードエミッション量は、30mgであった。従って、通気抵抗およびブリードエミッション量が目標を達成できない結果となった。
[比較例8]
比較例8の配合は、粉末状の活性炭100重量部に対し、ナイロン繊維22重量部、バインダ35重量部、酸化鉄粉末40重量部、である。
【0070】
焼成後の状態におけるセル通路12のピッチPは1.5mm、壁13の厚さTは0.70mm、である。焼成後の状態における酸化鉄の重量比は、23wt%であった。マクロポア量は、0.40mL/g、占有率は、72%であった。
【0071】
このようにして得られたハニカム吸着材11について、実施例1と同様の試験を行ったところ、BWCは、7.8g/dL、通気抵抗は、35.5Pa/cm、ブリードエミッション量は、25mgであった。従って、通気抵抗およびブリードエミッション量が目標を達成できない結果となった。
[比較例9]
比較例9の配合は、粉末状の活性炭100重量部に対し、ナイロン繊維40重量部、バインダ63重量部、酸化鉄粉末423重量部、である。
【0072】
焼成後の状態におけるセル通路12のピッチPは1.5mm、壁13の厚さTは0.70mm、である。焼成後の状態における酸化鉄の重量比は、72wt%であった。マクロポア量は、0.10mL/g、占有率は、72%であった。
【0073】
このようにして得られたハニカム吸着材11について、実施例1と同様の試験を行ったところ、BWCは、6.5g/dL、通気抵抗は、35.5Pa/cm、ブリードエミッション量は、20mgであった。従って、通気抵抗が目標を達成できない結果となった。
[比較例10]
比較例10の配合は、粉末状の活性炭100重量部に対し、バインダ120重量部、酸化鉄粉末240重量部、である。メルタブルコアとなるナイロン繊維は配合していない。
【0074】
焼成後の状態におけるセル通路12のピッチPは1.5mm、壁13の厚さTは0.70mm、である。焼成後の状態における酸化鉄の重量比は、52wt%であった。マクロポア量は、0.08mL/g、占有率は、72%であった。
【0075】
このようにして得られたハニカム吸着材11について、実施例1と同様の試験を行ったところ、BWCは、7.8g/dL、通気抵抗は、35.5Pa/cm、ブリードエミッション量は、40mgであった。従って、通気抵抗およびブリードエミッション量が目標を達成できない結果となった。
[比較例11]
比較例11の配合は、粉末状の活性炭100重量部に対し、ナイロン繊維170重量部、バインダ67重量部、酸化鉄粉末233重量部、である。
【0076】
焼成後の状態におけるセル通路12のピッチPは1.7mm、壁13の厚さTは0.55mm、である。焼成後の状態における酸化鉄の重量比は、58wt%であった。マクロポア量は、0.58mL/g、占有率は、54%であった。
【0077】
このようにして得られたハニカム吸着材11について、実施例1と同様の試験を行ったところ、BWCは、6.3g/dL、通気抵抗は、8.6Pa/cm、ブリードエミッション量は、45mgであった。従って、BWCおよびブリードエミッション量が目標を達成できない結果となった。
[比較例12]
比較例12の配合は、粉末状の活性炭100重量部に対し、ナイロン繊維43重量部、バインダ67重量部、酸化鉄粉末233重量部、である。
【0078】
焼成後の状態におけるセル通路12のピッチPは1.8mm、壁13の厚さTは0.44mm、である。焼成後の状態における酸化鉄の重量比は、58wt%であった。マクロポア量は、0.18mL/g、占有率は、43%であった。
【0079】
このようにして得られたハニカム吸着材11について、実施例1と同様の試験を行ったところ、BWCは、5.3g/dL、通気抵抗は、5.4Pa/cm、ブリードエミッション量は、16mgであった。従って、BWCが目標を達成できない結果となった。
[比較例13]
比較例13の配合は、粉末状の活性炭100重量部に対し、バインダ400重量部、である。ナイロン繊維および酸化物は配合していない。
【0080】
焼成後の状態におけるセル通路12のピッチPは1.6mm、壁13の厚さTは0.27mm、である。マクロポア量は、0.05mL/g、占有率は、31%であった。
【0081】
このようにして得られたハニカム吸着材11について、実施例1と同様の試験を行ったところ、BWCは、4.7g/dL、通気抵抗は、5.3Pa/cm、ブリードエミッション量は、14mgであった。従って、BWCが目標を達成できない結果となった。
【0082】
以下の表1は、上述した実施例1〜5および比較例6〜13をまとめた示したものである。
【0083】
【表1】
【0084】
次に、
図4は、上述した実施例1〜5および比較例6〜13に関して、セル通路12のピッチPおよび壁厚Tと、BWCの値との相関をまとめたいわゆるバブルチャートである。ここでは、円の大きさがBWCの大きさを表している。また、各円に付した数字が、実施例1〜5および比較例6〜13の番号に対応している。
図4においては、円が大きいほど、BWCの上で優れていることとなる。
【0085】
同様に、
図5は、実施例1〜5および比較例6〜13に関して、セル通路12のピッチPおよび壁厚Tと、通気抵抗との相関をまとめたバブルチャートである。ここでは、円の大きさが通気抵抗を表しており、円が小さいほど通気抵抗の点で優れている。
【0086】
同様に、
図6は、実施例1〜5および比較例6〜13に関して、セル通路12のピッチPおよび壁厚Tと、ブリードエミッション量との相関をまとめたバブルチャートである。ここでは、円の大きさがブリードエミッション量を表しており、円が小さいほどブリードエミッションの点で優れている。
【0087】
図5に示すように、通気抵抗に関しては、壁厚Tが小さいほど、またピッチPが大きいほど、通気抵抗が小さくなる。なお、壁厚Tが小さいほど、またピッチPが大きいほど、占有率は低くなる。
【0088】
そして、ブリードエミッションに関しては、壁厚Tを薄くすると、吸着残存量が少なくなるため、ブリードエミッション低減の上で有利となる。
【0089】
しかしながら、
図4に示すように、BWCに関しては、一般に、壁厚Tを大きくするほど、またピッチPを小さくするほど、BWCが高い傾向となる。従って、ピッチPに比較して壁厚Tを小さくした比較例12,13では、十分なBWCを確保することができない。なお、図中の一点鎖線は、BWCが目標とする6.5g/dL以上となるであろう壁厚Tの領域を示している。他方、ピッチPに比較して壁厚Tを大きくした比較例7,8,9,10などでは、BWCを確保できる反面、通気抵抗が増加するのは勿論のこと、ブリードエミッション量が増加してしまう。
【0090】
図7は、実施例1〜4および比較例10,11に関して、メルタブルコアであるナイロン繊維の配合量(活性炭100gに対するナイロン繊維の重量)とブリードエミッション量との相関を示したグラフである。この図は、メルタブルコアが活性炭に対し極端に多くても極端に少なくてもブリードエミッションの悪化を来し、適当な範囲に存在すれば、ブリードエミッションが低減する、ことを表している。
【0091】
また、
図8は、実施例1〜4および比較例7,9に関して、金属酸化物(酸化鉄)の配合量(活性炭100gに対する金属酸化物の重量)とブリードエミッション量との相関を示したグラフである。この図は、金属酸化物の量が極端に多くても極端に少なくてもブリードエミッションの悪化を来し、適当な範囲に存在すれば、ブリードエミッションが低減する、ことを表している。
【0092】
さらに、
図9は、実施例1〜5および比較例6〜13に関して、マクロポア量とブリードエミッション量との相関を示したグラフである。この
図9によれば、ブリードエミッションを低減するためには、ある適当な範囲内でマクロポア量が必要なこと、ならびに、ブリードエミッションの多少はマクロポア量のみでは定まらないことが明らかである。
【0093】
従って、マクロポアおよび金属酸化物の量をある範囲に調製した上で、セル通路12のピッチPと壁厚Tとの相関を適切に設定することにより、ブリードエミッション低減と、十分なBWCの確保と、低い通気抵抗と、の三者を同時に満足することができる。