(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の第1から第3実施形態について、図面を適宜参照しつつ説明する。なお、図面は模式的なものである。そのため、厚みと平面寸法との関係、比率等は現実のものとは異なることに留意すべきであり、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている。また、以下に示す第1から第3実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記の実施形態に特定するものではない。
【0010】
(第1実施形態)
(構成)
図1に示すように、第1実施形態に係る車両搭載型のクレーン1は、自走可能な車両100を有し、この車両100のシャーシフレーム101上にベース2が連結固定されている。更に、このベース2上には、コラム3が旋回自在に設けられており、このコラム3の上端部にはブーム4が起伏自在に枢支されている。なお、ベース2の左右両側には、アウトリガ5が設けられている。
【0011】
更に、上記コラム3にはウインチ6が設けられている。そして、この車両搭載型のクレーン1は、このウインチ6からワイヤロープ7をブーム4の先端部に導いて、ブーム4の先端部の滑車(図示略)を介してフック8に掛回すことにより、フック8をブーム4の先端部から吊下している。また、ベース2の側方には、上記ウインチ6を含むクレーンのアクチュエータを操作するための複数の操作レバー9が付設されている。
【0012】
車両搭載型のクレーン1は、更に、2速切換式ピストンモータ10と、ロードセル11と、回転センサ12と、制御部20と、油圧ポンプ50と、リリーフ弁51と、ウインチ用切換弁52とを備えている。
2速切換式ピストンモータ10は、ウインチモータ10aと、電磁式切換弁10bと、変速用ピストン10cと、カウンタバランス弁10dとを備えている。
【0013】
ウインチ6は、ウインチドラム6aと、減速機6bと、ドラム回転軸6cとを備えている。ウインチモータ10aのモータ回転軸(図示略)とドラム回転軸6cとは結合されており、ウインチモータ10aが駆動してモータ回転軸が回転すると、これに伴ってドラム回転軸6cが回転する。ドラム回転軸6cの回転力は遊星歯車等から構成される減速機6bを介してウインチドラム6aへと伝達され、この伝達された回転力によってウインチドラム6aが回転する。ウインチドラム6aには、ワイヤロープ7が、その一端側が固定されていると共に巻き回されており、ウインチドラム6aが時計回り又は反時計回りに回転することによって、ワイヤロープ7の繰り込み又は繰り出しが行われる。これにより、ワイヤロープ7の他端側が掛け回されたフック8が巻上げ又は巻下げされる。
【0014】
ロードセル11は、ブーム4の先端部に設けられ、ワイヤロープ7の張力に基づきクレーン1の吊荷重Wを検出する。ロードセル11は、検出した吊荷重Wを、信号線を介して制御部20に送信する。
回転センサ12は、ウインチ6のドラム回転軸6cに、ドラム回転軸6cと同心に固定された円環状の回転検出プレート12aと、回転検出プレート12aの回転位置情報R1及びR2を検出する近接スイッチ12b及び12cとを備える。近接スイッチ12b及び12cは、回転検出プレート12aの周方向に沿って、例えば、電気角で90度の位相差を有して設けられており、これら近接スイッチで検出した回転位置情報R1及びR2を、信号線を介して制御部20に送信する。
【0015】
なお、近接スイッチ12b及び12cとしては、例えば、誘導形、静電容量形、光電形、磁気形のスイッチを用いることが可能である。また、回転検出プレート12aは、光電形であれば、例えば周方向に沿って複数のスリットが等間隔に設けられたロータリエンコーダのプレート等が該当し、磁気形であれば、例えば周方向に交互に異なる複数の磁極が配された磁石リング等が該当する。また、回転検出プレート12aに代えて、ウインチドラム6aに回転検出用の突起を設ける構成としてもよい。
【0016】
第1実施形態において、回転検出プレート12aは磁石リングから構成され、近接スイッチ12b及び12cはホールIC等の磁気検出センサを含んで構成されていることとする。そして、回転位置情報R1及びR2として回転検出プレート12aの回転位置に応じた電気角の情報を検出することとする。
ウインチモータ10aは、可変容量型の油圧モータを含んで構成されている。このウインチモータ10aは、2速切換式のモータであり、速度モードとして、低速モード及び高速モードの2速の速度モードを備えている。
【0017】
具体的に、ウインチモータ10aは、
図2(a)及び(b)に示すように、シリンダ60と、第1プランジャピストン61と、第2プランジャピストン62と、シリンダ60のプランジャピストンの突出する側の面と対向する傾斜面を有する斜板63とを備えている。
第1プランジャピストン61は、一端側がシリンダ60の第1のピストン室64内に該ピストン室64内を摺動可能に設けられている。加えて、第1のピストン室64から突出する他端が、
図2に示す状態では、斜板63の傾斜面の傾斜方向に沿った一端側に当接して設けられている。
【0018】
第2プランジャピストン62は、一端側がシリンダ60の第2のピストン室65内に該ピストン室65内を摺動可能に設けられている。加えて、第2のピストン室65から突出する他端が、
図2に示す状態では、斜板63の傾斜面の傾斜方向に沿った他端側に当接して設けられている。
斜板63は、プランジャピストンの進退方向に傾転可能に設けられ、その傾転角αは変速用ピストン10cのストローク量を変更することによって変更可能に構成されている。従って、傾転角αが変わるとウインチモータ10aの第1及び第2プランジャピストン61及び62のストローク量が変わり、ウインチモータ10aの容量(モータ吸収量、1回転あたりの必要油量)が変わる。即ち、斜板63の傾転角αを変化させることで、圧油の供給量が一定の状態でも回転速度を変化させることが可能である。
【0019】
具体的には、
図2(a)に示すように、変速用ピストン10cのストローク量を小さくして、斜板63の傾転角αを大きくすると、第1プランジャピストン61と第2プランジャピストン62とのストローク差Dsが大きくなる。これによって、モータ容量及びモータトルクが大きくなり、モータ回転数が低回転数(低速モード)となる。一方、
図2(b)に示すように、変速用ピストン10cのストローク量を大きくして、斜板63の傾転角αを小さくすると、第1プランジャピストン61と第2プランジャピストン62とのストローク差Dsが小さくなる。これによって、モータ容量及びモータトルクが小さくなり、モータ回転数が高回転数(高速モード)となる。
【0020】
なお、電磁式切換弁10bから流出したパイロット圧油で変速用ピストン10cがストロークされているため、斜板63の傾斜に掛かる傾斜時間はほぼ一定となる。
図1に戻って、油圧ポンプ50は、車両100のエンジンの駆動力によって駆動する例えば容量固定型のポンプである。
リリーフ弁51は、アンロードが必要なときにポンプポートとタンクポートとを連通させる弁である。
【0021】
ウインチ用切換弁52は、2速切換式ピストンモータ10に対する、油圧ポンプ50からの圧油の供給及び非供給を切り換える弁である。
具体的に、ウインチ用切換弁52は、ウインチ6用の操作レバー9aが中立位置のときに、油圧ポンプ50からの圧油が2速切換式ピストンモータ10に供給されないようにブロックするスプール位置(初期位置)となる。一方、操作レバー9aを巻上げ方向に傾倒させた場合は、巻上げ方向に対応する回転方向にウインチモータ10aを回転させる油路に油圧ポンプ50からの圧油を供給するスプール位置へと切り換える。また、操作レバー9aを巻下げ方向に傾倒させた場合は、巻下げ方向に対応する回転方向にウインチモータ10aを回転させる油路に油圧ポンプ50からの圧油を供給するスプール位置へと切り換える。
【0022】
電磁式切換弁10bは、速度モードを低速モード及び高速モードのいずれか一方に切り換えるための電磁弁(ソレノイド)である。電磁式切換弁10bは、制御部20からの電磁弁をON/OFFにする制御信号Ctrに応じてスプールを切り換える。
具体的に、現在の速度モードが低速モードであるときに、第1実施形態では、制御信号Ctrによって電磁弁をON状態とすることで、スプールの位置が高速モードの位置へと切り換わる。これによって、変速用ピストン10cに圧油が供給され、変速用ピストン10cが伸長する。その結果、斜板63の傾転角αが減少し、ウインチモータ10aの容量が高速制御用の容量(小容量)となる。即ち、1回転当たりの押しのけ容積が小さくなるので、ウインチ6を低トルクかつ高速に変速させることが可能となる。
【0023】
一方、現在の速度モードが高速モードであるときに、制御信号Ctrによって電磁弁をOFF状態とすることで、スプールの位置が低速モードの位置へと切り換わる。この位置では、変速用ピストン10cの圧油がタンクに解放され、第1及び第2プランジャピストン61及び62によって自力で斜板63の傾転角αが増加し、ウインチモータ10aの容量が低速制御用の容量(大容量)へと復帰する。即ち、1回転当たりの押しのけ容積が大きくなるので、ウインチ6は高トルクかつ低速で変速させることが可能となる。
【0024】
変速用ピストン10cは、電磁式切換弁10bを介して、パイロット圧油を供給することで、ウインチモータ10aの斜板63を、速度モードに応じた傾転角αとなるように傾転させる。
カウンタバランス弁10dは、低圧の供給圧で開弁し、吊荷負荷(吊荷重)に応じたブレーキ圧力を出口側に発生させることによって吊荷が急降下するのを防ぐための弁である。
なお、ロードセル11、回転センサ12及び制御部20から第1実施形態に係るウインチ作動速度制御装置が構成される。
【0025】
(制御部20のハードウェア構成)
制御部20は、
図3に示すように、所定の制御プログラムに基づいて、各種演算処理を行うCPU(Central Processing Unit)21と、CPU21の演算過程で必要な演算結果を格納するためのRAM(Random Access Memory)22と、制御プログラムを含む各種データを格納しているROM(Read Only Memory)23と、時間計測用のタイマ24とを備えている。
【0026】
制御部20は、さらに、ロードセル11、回転センサ12等の外部デバイスとの間でデータの入出力を媒介する入出力I/F(インターフェース)25と、データ転送用の各種内外バス26とを備えている。各種内外バス26によって、CPU21、RAM22、ROM23及びタイマ24との間が接続されていると共に、このバス26に入出力I/F25を介して各種デバイスが接続されている。
【0027】
そして、電源を投入すると、ROM23等に記憶されたBIOS等のシステムプログラムが、ROM23に予め記憶された各種の制御プログラムをRAM22にロードし、RAM22にロードされたプログラムに記述された命令に従ってCPU21が各種リソースを駆使して演算処理を行うことでウインチ6を含む上記各装置を作動制御するための各機能をソフトウェア上で実現できるようになっている。
【0028】
(制御部20の機能構成)
制御部20は、
図1に示すように、機能構成部として、ウインチ作動速度制御部200を備える。
ウインチ作動速度制御部200は、
図4に示すように、回転情報演算部201と、吊荷重モード判定部202と、回転数モード判定部203と、速度切換制御部204とを備えている。
【0029】
回転情報演算部201は、回転センサ12からの回転位置情報R1及びR2に基づき、ウインチ6の回転数として、ウインチドラム6aの回転数Rf[rpm]を演算する。例えば、回転位置情報R1及びR2をそれぞれ時間微分して回転数Rf1及びRf2を演算し、更に、第1実施形態では、これらの平均値をとって回転数Rfを演算する。加えて、回転情報演算部201は、回転センサ12からの回転位置情報R1及びR2に基づき、これらの位相差の符号からウインチモータ10aの回転方向Rdを検出する。そして、演算した回転数Rfを吊荷重モード判定部202及び回転数モード判定部203にそれぞれ出力し、検出した回転方向Rdを吊荷重モード判定部202に出力する。
【0030】
吊荷重モード判定部202は、回転情報演算部201からの回転数Rf及び回転方向Rdと、ロードセル11からの吊荷重Wと、ROM23に予め記憶された荷重閾値Thwとに基づき、クレーン1の現在の吊荷重Wによる速度モードの判定処理(以下、「第1モード判定処理」と記載する)を実行する。そして、この判定処理による判定結果である第1判定結果DR1を速度切換制御部204に出力する。
【0031】
ここで、荷重閾値Thwは、クレーン1の吊り上げ荷重(最大荷重)に応じて決められる値であり、高速で変速させても安定して巻上げ及び巻下げ動作が可能な荷重の上限値等から設定される。
回転数モード判定部203は、速度切換制御部204からの指令に応じて、回転情報演算部201からの回転数Rfと、ROM23に予め記憶された回転数閾値Thvとに基づき、ウインチモータ10aの現在の回転数Rfによる速度モードの判定処理(以下、「第2モード判定処理」と記載する)を実行する。そして、この判定処理による判定結果である第2判定結果DR2を速度切換制御部204に出力する。
【0032】
ここで、回転数閾値Thvは、ウインチモータ10aを低速モードから高速モードに切り換える際に、切換後の速度変動が予め設定した許容範囲内となる回転数から設定される。
速度切換制御部204は、吊荷重モード判定部202からの第1判定結果DR1が低速モードを示す場合に、速度モードを低速モードに切り換える制御信号Ctrを、電磁式切換弁10bに送信する。
【0033】
一方、速度切換制御部204は、吊荷重モード判定部202からの第1判定結果DR1が高速モードを示す場合に、第2モード判定処理の実行指令ECを回転数モード判定部203に出力する。そして、この実行指令ECに応じた回転数モード判定部203からの第2判定結果DR2に基づき、ウインチモータ10aの速度モードを低速モード及び高速モードのいずれか一方に決定する。そして、現在の速度モードを、決定した速度モードに切り換える制御信号Ctrを、電磁式切換弁10bに送信する。
【0034】
(ウインチ作動速度制御処理)
次に、
図5に基づき、制御部20のウインチ作動速度制御部200で実行される、ウインチ作動速度制御処理の処理手順の一例を説明する。なお、ウインチ作動速度制御処理は、所定周期で繰り返し実行される処理である。
CPU21において、プログラムが実行されウインチ作動速度制御処理が開始されると、
図5に示すように、まずステップS100に移行する。
【0035】
ステップS100では、回転情報演算部201において、回転センサ12からの回転位置情報R1及びR2に基づき、ウインチドラム6aの回転数Rfを演算する。更に、回転位置情報R1及びR2の位相差の符号から回転方向Rdを検出する。そして、演算した回転数Rfを吊荷重モード判定部202及び回転数モード判定部203にそれぞれ出力し、検出した回転方向Rdを吊荷重モード判定部202に出力して、ステップS102に移行する。
【0036】
ステップS102では、吊荷重モード判定部202において、第1モード判定処理を実行する。そして、この判定処理の判定結果である第1判定結果DR1を速度切換制御部204に出力して、ステップS104に移行する。
ステップS104に移行した場合は、速度切換制御部204において、第1判定結果DR1は低速モードであるか否かを判定する。そして、低速モードであると判定した場合(Yes)は、ステップS106に移行する。一方、低速モードではないと判定した場合(No)は、実行指令ECを回転数モード判定部203に出力して、ステップS108に移行する。
【0037】
ステップS106に移行した場合は、速度切換制御部204において、ウインチモータ10aの速度モードを低速モードに切り換える制御信号Ctrを、電磁式切換弁10bに送信する。その後、一連の処理を終了する。
これによって、例えば、現在の速度モードが高速モードである場合は、電磁式切換弁10bのスプールが低速モードの位置に切り換わって圧油の流入を遮断し、変速用ピストン10cのストローク量が小さくなる。これによって、斜板63が、傾転角αが大きくなる方向に傾転して、ウインチモータ10aの容量が低速モードに対応する容量に切り換わる。
【0038】
一方、ステップS108に移行した場合は、回転数モード判定部203において、速度切換制御部204からの実行指令ECに応じて、第2モード判定処理を実行する。そして、この判定処理の判定結果である第2判定結果DR2を速度切換制御部204に出力して、ステップS110に移行する。
ステップS110では、速度切換制御部204において、回転数モード判定部203からの第2判定結果DR2が、低速モードであるか否かを判定する。そして、低速モードであると判定した場合(Yes)は、ステップS106に移行し、そうでないと判定した場合(No)は、ステップS112に移行する。
【0039】
ステップS112に移行した場合は、速度切換制御部204において、ウインチモータ10aの速度モードを高速モードに切り換える制御信号Ctrを、電磁式切換弁10bに送信する。その後、一連の処理を終了する。
これによって、例えば、現在の速度モードが低速モードである場合は、電磁式切換弁10bのスプールが高速モードの位置に切り換わって2速切換式ピストンモータ10のポートに圧油が流入して、変速用ピストン10cのストローク量が大きくなる。これによって、斜板63が、傾転角αが小さくなる方向に傾転して、ウインチモータ10aの容量が高速モードに対応する容量に切り換わる。
【0040】
(第1モード判定処理)
次に、
図6に基づき、上記ステップS102で実行される第1モード判定処理の処理手順の一例を説明する。
ステップS102で第1モード判定処理が実行されると、
図6に示すように、まずステップS200に移行する。
【0041】
ステップS200では、吊荷重モード判定部202において、回転情報演算部201からの回転方向Rdに基づき、ウインチモータ10a(ウインチドラム6a)の回転方向は、巻上方向か否かを判定する。そして、巻上方向であると判定した場合(Yes)は、ステップS202に移行し、そうでないと判定した場合(No)は、ステップS210に移行する。
【0042】
ステップS202に移行した場合は、吊荷重モード判定部202において、ロードセル11からの吊荷重Wを取得し、取得した吊荷重WをRAM22の所定領域に上書きして記憶する。その後、ステップS204に移行する。
ステップS204では、吊荷重モード判定部202において、吊荷重Wは、荷重閾値Thw以上であるか否かを判定する。そして、荷重閾値Thw以上であると判定した場合(Yes)は、ステップS206に移行し、そうでないと判定した場合(No)は、ステップS208に移行する。
【0043】
ステップS206に移行した場合は、吊荷重モード判定部202において、吊荷重Wによる速度モードを低速モードと判定する。そして、低速モードを示す第1判定結果DR1を、速度切換制御部204に出力して、一連の処理を終了し元の処理に復帰する。
一方、ステップS208に移行した場合は、吊荷重モード判定部202において、吊荷重Wによる速度モードを高速モードと判定する。そして、高速モードを示す第1判定結果DR1を、速度切換制御部204に出力して、一連の処理を終了し元の処理に復帰する。
【0044】
また、ステップS200において、ウインチモータ10aの回転方向が巻上方向ではないと判定されて、ステップS210に移行した場合は、現在の回転数Rfが、0であるか否かを判定する。そして、0であると判定した場合(Yes)は、ステップS202に移行し、そうでないと判定した場合(No)は、RAM22に記憶された吊荷重Wを維持して、ステップS204に移行する。即ち、第1実施形態では、吊荷が巻上げ中と静止中のときに吊荷重Wを取得し、吊荷が巻下げ中は、ロードセル11で検出される荷重値が不安定となるため吊荷重Wを取得しないようになっている。
【0045】
(第2モード判定処理)
次に、
図7に基づき、上記ステップS108で実行される第2モード判定処理の処理手順の一例を説明する。
ステップS108で第2モード判定処理が実行されると、
図7に示すように、まずステップS300に移行する。
【0046】
ステップS300では、回転数モード判定部203において、現在の回転数Rfは、回転数閾値Thv未満であるか否かを判定する。そして、回転数閾値Thv未満であると判定した場合(Yes)は、回転数Rfが低速モード領域にあると判断して、ステップS302に移行し、そうでないと判定した場合(No)は、回転数Rfが低速モード領域にないと判断して、ステップS304に移行する。
【0047】
ステップS302に移行した場合は、回転数モード判定部203において、回転数Rfによる速度モードを低速モードと判定し、低速モードを示す第2判定結果DR2を速度切換制御部204に出力して、一連の処理を終了し元の処理に復帰する。
一方、ステップS304に移行した場合は、回転数モード判定部203において、回転数Rfによる速度モードを高速モードと判定し、高速モードを示す第2判定結果DR2を速度切換制御部204に出力して、一連の処理を終了し元の処理に復帰する。
【0048】
(動作)
次に、
図8及び
図9に基づき、第1実施形態のウインチ作動速度制御装置の動作を説明する。
このウインチ作動速度制御装置は、吊荷重Wが荷重閾値Thw(例えば、クレーン1の最大吊荷重量が2.9[t]の場合に1.2[t])以上となる場合、第1判定結果DR1が低速モードとなるため、従来と同様に速度モードが低速モードで固定される。従って、以下、吊荷重Wが荷重閾値Thw未満となる場合の動作を説明する。
【0049】
いま、作業者が、ウインチ6用の操作レバー9aを、中立位置の状態(即ち、ウインチモータ10aが停止している状態)から、例えば、説明の便宜上、
図8(a)に示すとおり、操作時間に対する操作量が比例して増加するように巻上げ方向に操作したとする。このとき、ウインチモータ10aは、低速モードに対応する容量となっており、操作量が増加するに従って、
図8(b)の低速モードの直線に示すように、操作量の増加に応じて比較的低速に回転数Rfが上昇していく。
【0050】
回転数Rfが回転数閾値Thv(例えば、ウインチドラム6aの最大回転数が100[rpm]の場合に33[rpm])未満となる間は、第2モード判定処理で第2判定結果DR2が低速モードとなる。そのため、電磁式切換弁10bのスプールは、低速モードの位置を維持し、変速用ピストン10cへの圧油の流入が遮断された状態を維持する。その結果、斜板63の傾転角αは低速モードの角度を維持し、ウインチモータ10aは低速モードに対応する容量で低速駆動する。
【0051】
その後、回転数Rfが上昇して、回転数閾値Thv以上になると、第2判定結果DR2が高速モードとなる。そのため、制御部20から高速モードに切り換える制御信号Ctrが電磁式切換弁10bに送信され、電磁式切換弁10bのスプールが、高速モードの位置に切り換わる。その結果、変速用ピストン10cに圧油が流入し、斜板63が、その傾転角αが高速モードの角度となる位置まで傾転する。そして、ウインチモータ10aは高速モードに対応する容量に切り換わる。これにより、ウインチモータ10aは高速モードに対応する容量で高速駆動し、
図8(b)の高速モードの直線に示すように、操作量の増加に応じて比較的高速に回転数Rfが上昇していく。
【0052】
この
図8(b)においては、一般的な通常操作(正常時)の回転数Rfの推移の例を示している。
上記に示したように、斜板63の傾斜に掛かる傾斜時間t
2はほぼ一定であるから、この通常時では、低速モードから高速モードへは、
図8(b)で示すような傾斜時間t
2に対する回転数上昇の傾きを有する切換タイミングで以って高速モードへと移行している。
【0053】
なお、高速モードへと移行することで発生する回転数の速度変動は、傾斜時間t
2に対する回転数上昇が許容範囲内に納まるように予め設定されている。
一方、
図9(a)〜(c)に示す例は、ウインチ用の操作レバーの操作量(スプール位置)に基づきウインチの作動速度を制御する従来技術の構成に対応しており、通常時における低速モードから高速モードへの切換タイミングは、上記
図8(a)に示す例と同様に、操作時間が、経過時間t
1を経過したときのタイミングとなる。この切換タイミングの操作量(スプール位置P)を切換位置PXとする。
【0054】
即ち、作業者が、
図9(a)に示すように、
図8(a)と同様の操作量と時間との関係でウインチ用の操作レバーを巻上げ方向に操作した場合に、
図9(b)に示すように、
図8(b)と同様の切換タイミングで低速モードから高速モードへと切り換えられる。
しかし、操作量の推移は正常でも、例えば気温と、連続使用など使用状況に伴う油温上昇による圧油の粘性変化等が要因で、通常時とは異なる回転数Rfの推移となる場合がある。
【0055】
具体的に、
図8(c)及び
図9(c)中の折れ線Fに示すように、同じ経過時間t
1に対する操作量の推移に対して回転数Rfが通常時よりも高速で上昇する場合がある。このような場合に、従来構成では、
図9(c)中の折れ線Fに示すように、操作量(スプール位置P)が切換位置PXとなる経過時間t
1まで速度モードの切り換えが行われないため、通常時よりも高い回転数となってから高速モードへと切り換わることになる。
【0056】
これに対して、第1実施形態のウインチ作動速度制御装置は、実際のウインチ6の回転数Rfに基づき、回転数Rfが回転数閾値Thv以上となるタイミングで速度モードを低速モードから高速モードへと切り換える。即ち、
図8(c)中の折れ線Fに示すように、通常時よりも切換開始タイミングは早くなるが、通常時とほぼ同様の傾転時間t
2に対する回転数上昇の傾きを有する切換タイミングで速度モードを低速モードから高速モードへと切り換える。
【0057】
一方、
図8(c)及び
図9(c)中の折れ線Sに示すように、同じ操作量の推移に対して回転数Rfが通常時よりも低速で上昇する場合もある。このような場合も、従来構成では、
図9(c)中の折れ線Sに示すように、操作量(スプール位置P)が切換位置PXとなってから速度モードを低速モードから高速モードへと切り換える。そのため、通常時よりも低い回転数で高速モードへと切り換わることになる。
【0058】
これに対して、第1実施形態のウインチ作動速度制御装置は、
図8(c)中の折れ線Sに示すように、通常時よりも切換開始タイミングは遅くなるが、通常時と同様に回転数Rfが回転数閾値Thvよりも大きくなるタイミングで速度モードを低速モードから高速モードへと切り換える。
ここでも、
図8(c)中の折れ線Sと通常時を示す折れ線Nとを比較しても分かるように、傾転時間t
2に対する回転数上昇の傾きに変化は少なく、かつ切換後の速度変動が予め設定した許容範囲内であるから問題は生じない。
同じく従来構成の
図9(c)中の折れ線SとNを比較すると、NよりSの方が傾きは小さく、切換後の速度変動が予め設定した許容範囲内であるから、
図9においても通常時の折れ線Nより回転数が遅くなる場合については、問題は生じない。
【0059】
以上のことから、回転数Rfが通常時よりも速く上昇する場合に、従来構成の経過時間t
1に対する操作量に基づく切換制御(以下、「操作量切換制御」と記載する)では、本願発明の回転数に基づく切換制御(以下、「回転数切換制御」と記載する)と比較して、切換後の速度変動が大きくなっている。即ち、回転数切換制御であれば、速度上昇が通常時よりも大きい異常時において、高速モードに切換後の速度変動を従来よりも小さく抑えることが可能である。
ここで、回転情報演算部201が、回転数検出部に対応し、ロードセル11が、吊荷重検出部に対応する。
また、吊荷重モード判定部202、回転数モード判定部203及び速度切換制御部204が、速度切換制御部に対応する。
【0060】
(第1実施形態の作用及び効果)
第1実施形態に係るウインチ作動速度制御装置は、クレーン1のウインチ6に用いられ、可変容量型のウインチモータ10aの容量の切り換え動作を制御することでウインチ6の作動速度を制御する。具体的に、かかるウインチ作動速度制御装置は、ウインチモータ10aが、低速制御用の容量及び高速制御用の容量を含む複数の容量(第1実施形態では低速モードと高速モードにそれぞれ対応する2つの容量)のうちいずれか一の容量に切り換え可能に構成されている。回転情報演算部201が、ウインチ6の回転数Rfを検出する。ロードセル11が、クレーン1の吊荷重Wを検出する。吊荷重モード判定部202が、吊荷重Wが予め設定した荷重閾値Thw以上であると判定すると、速度切換制御部204が、ウインチモータ10aの容量を、上記複数の容量のうち低速制御用の容量(第1実施形態では低速モードに対応する容量)となるように切り換え動作を制御する。一方、吊荷重モード判定部202が、吊荷重Wが荷重閾値Thw未満であると判定し、回転数モード判定部203が、検出した回転数Rfが回転数閾値Thv以上と判定した場合、速度切換制御部204が、ウインチモータ10aの容量を、上記複数の容量のうち高速制御用の容量となるように切り換え動作を制御する。
【0061】
この構成であれば、吊荷重Wが荷重閾値Thw未満であると判定した場合に、ウインチモータ10aの切り換え動作の制御を、ウインチモータ10aの実際の回転数Rfに基づき制御することが可能となる。これによって、例えば、異常が生じて回転数の上昇速度が通常時よりも高速となるときでも、実回転数が、予め設定された回転数閾値を超えたときにウインチモータ10aを高速制御用の容量に制御することが可能となる。これによって、従来のウインチモータ10aの容量切り換えを操作量に基づいて制御する場合よりも切り換え直後の速度変動を低減することが可能となる。
【0062】
また、吊荷重Wが荷重閾値Thw以上であると判定した場合に、安全性を優先して、ウインチモータ10aの現在の容量を高速制御用の容量に切り換えずに低速制御用の容量となるように制御することが可能となる。即ち、吊荷重Wが荷重閾値Thw以上の場合に、ウインチモータ10aの容量を低速モードに対応する容量で固定することが可能となる。
これによって、例えば、クレーン1が、比較的高トルクが必要な重量物を吊っているときに、トルクがより低くなる高速制御用の容量に切り換わるのを防ぐことが可能となる。その結果、トルク不足による不具合の発生を低減することが可能となるとともに、作業者が操作レバーを最大へと操作しても、危険な高回転に移行することなく安全を配慮した回転数を維持したまま作業を行うことが可能である。
【0063】
また、第1実施形態に係るウインチ作動速度制御装置は、回転情報演算部201が、ウインチ6の回転方向を検出する。吊荷重モード判定部202が、回転情報演算部201で検出した回転方向がクレーン1のフック8(即ち吊荷)を巻上げる回転方向である巻上方向であるか否かを判定する。そして、巻上方向であると判定した場合に、ロードセル11から吊荷重Wを取得してこれを現在の吊荷重として設定する。一方、巻上方向ではないと判定した場合に、検出したウインチ6の回転数Rfに基づきウインチ6が回転しているか否かを判定し、回転していると判定した場合にロードセル11から吊荷重Wを取得せずに前回取得し設定した吊荷重Wを維持した状態のまま適用する。また、回転していないと判定した場合にロードセル11から吊荷重Wを取得してこれを現在の吊荷重Wとして設定する。
【0064】
ここで、吊荷を巻下げ中は、巻下げ速度が過度に加減速すると、吊荷重Wによるワイヤロープ7に掛かる張力が一定にならず、ロードセル11で検出される荷重値が不安定となる場合がある。このことに基づき、吊荷が巻上げ中と静止中のときに吊荷重Wを取得するようにした。これによって、正確な吊荷重Wにより、ウインチの作動速度を制御することが可能となる。
【0065】
(第2実施形態)
(構成)
上記第1実施形態のウインチ作動速度制御装置は、回転数の上昇速度が通常時よりも大きくなる異常時に、吊荷重Wが荷重閾値Thw未満であるときは、回転数Rfが回転数閾値Thv以上となったときに、常に速度モードを低速モードから高速モードへと切り換えるようにした。これに対して、第2実施形態のウインチ作動速度制御装置は、回転数Rfの変化率である回転数変化率CRを検出する。そして、回転数Rfが回転数閾値Thv未満の値から回転数閾値Thv以上の値になったときに、その閾値Thvを跨ぐ直前の回転数変化率CRが変化率閾値Thrよりも大きい場合に、低速モードから高速モードへの切り換えを禁止する点が上記第1実施形態と異なる。
【0066】
以下、上記第1実施形態と同様の構成部に関しては、同じ符号を付して適宜説明を省略し、異なる点について詳細に説明する。
第2実施形態の制御部20は、機能構成部として、上記第1実施形態のウインチ作動速度制御部200に代えて、第2のウインチ作動速度制御部200Aを備える。
この第2のウインチ作動速度制御部200Aは、
図10に示すように、第2の回転情報演算部201Aと、吊荷重モード判定部202と、第2の回転数モード判定部203Aと、速度切換制御部204とを備えている。更に、制御部20は、ハードウェア構成部として、上記第1実施形態のROM23に代えて、ROM23の記憶内容に加えて変化率閾値Thrが記憶されたROM23Aを備えている。
【0067】
第2の回転情報演算部201Aは、上記第1実施形態の回転情報演算部201と同様の機能に加えて、予め設定したサンプリング周期t
3毎に、回転数Rfの変化率である回転数変化率CRを演算する機能を有している。第2の回転情報演算部201Aは、演算した回転数変化率CRを、RAM22に記憶保持する。なお、第2実施形態の第2の回転情報演算部201Aは、所定数の回転数変化率CRを記憶保持し、新規に演算したものを最も古いものに上書きして記憶するようになっている。
【0068】
第2の回転数モード判定部203Aは、速度切換制御部204からの実行指令ECに応じて、第2の回転情報演算部201Aからの回転数Rfと、RAM22に記憶された回転数変化率CRと、ROM23Aに予め記憶された回転数閾値Thv及び変化率閾値Thrとに基づき、第3モード判定処理を実行する。ここで、変化率閾値Thrは、ウインチモータ10aが低速モードで駆動中の通常時の回転数Rfの最大変化率よりも大きな値に設定されており、例えば、低速モードにおける通常時の変化率より5[%]増しにした値となる。
【0069】
この第3モード判定処理は、上記第1実施形態の第2モード判定処理と一部異なり、回転数Rfが回転数閾値Thv未満の値(低速モード領域の値)から回転数閾値Thv以上の値(高速モード領域の値)となったときに、その直前の回転数変化率CRが変化率閾値Thr未満か否かを判定する。そして、回転数変化率CRが変化率閾値Thr以上のときは低速モードと判定し、変化率閾値Thr未満のときは高速モードと判定する。そして、この判定結果である第3判定結果DR3を速度切換制御部204に出力する処理となる。
【0070】
なお、この第3判定結果DR3は、回転数Rfが回転数閾値Thv未満の値となった場合の低速モードを示す判定結果も含むものである。
また、第2の回転数モード判定部203Aは、回転数Rfが低速モード領域の値から高速モード領域の値へと切り換わったタイミング(以下、「高速変化タイミング」と記載する)を検出する。
【0071】
第2実施形態の速度切換制御部204は、吊荷重モード判定部202からの第1判定結果DR1が高速モードを示す場合に、第3モード判定処理の実行指令ECを第2の回転数モード判定部203Aに出力する。そして、この実行指令ECに応じた第2の回転数モード判定部203Aからの第3判定結果DR3に基づき、ウインチモータ10aの速度モードを低速モード及び高速モードのいずれか一方に決定する。そして、現在の速度モードを、決定した速度モードに切り換える制御信号Ctrを、電磁式切換弁10bに送信する。
【0072】
(第3モード判定処理)
次に、
図11に基づき、第3モード判定処理の処理手順の一例を説明する。ここで、第2実施形態では、ウインチ作動速度制御処理のステップS108において、上記第1実施形態の第2モード判定処理に代えて、第3モード判定処理を実行する。
ステップS108で第3モード判定処理が実行されると、
図11に示すように、まずステップS400に移行する。
【0073】
ステップS400では、第2の回転数モード判定部203Aにおいて、現在の回転数Rfは、回転数閾値Thv未満であるか否かを判定する。そして、回転数閾値Thv未満であると判定した場合(Yes)は、回転数Rfが低速モード領域にあると判定して、ステップS402に移行し、そうでないと判定した場合(No)は、回転数Rfが低速モード領域にないと判定して、ステップS404に移行する。
【0074】
ステップS402に移行した場合は、第2の回転数モード判定部203Aにおいて、回転数Rfによる速度モードを低速モードと判定し、低速モードを示す第3判定結果DR3を速度切換制御部204に出力して、一連の処理を終了し元の処理に復帰する。
一方、ステップS404に移行した場合は、第2の回転数モード判定部203Aにおいて、高速変化タイミングか否かを判定する。そして、高速変化タイミングであると判定した場合(Yes)は、ステップS406に移行し、そうでないと判定した場合(No)は、ステップS410に移行する。
【0075】
ステップS406に移行した場合は、第2の回転数モード判定部203Aにおいて、高速変化タイミングの直前にRAM22に記憶された回転数変化率CRをRAM22から読み出す。そして、読み出した回転数変化率CRがROM23Aに記憶された変化率閾値Thr未満であるか否かを判定し、変化率閾値Thr未満であると判定した場合(Yes)は、ステップS408に移行する。一方、変化率閾値Thr未満ではないと判定した場合(No)は、ステップS402に移行する。
【0076】
一方、ステップS410に移行した場合は、第2の回転数モード判定部203Aにおいて、現在の速度モードが、低速モードか否かを判定する。そして、低速モードであると判定した場合(Yes)は、ステップS402に移行し、そうでないと判定した場合(No)は、ステップS408に移行する。
ステップS408に移行した場合は、第2の回転数モード判定部203Aにおいて、回転数Rfによる速度モードを高速モードと判定し、高速モードを示す第3判定結果DR3を速度切換制御部204に出力して、一連の処理を終了し元の処理に復帰する。
【0077】
(動作)
次に、
図8を参照しつつ
図12に基づき、第2実施形態のウインチ作動速度制御装置の動作を説明する。
以下、吊荷重Wが荷重閾値Thw未満となる場合の動作を説明する。
いま、作業者が、ウインチ用の操作レバー9aを、中立位置の状態から、
図8(a)に示す操作量と時間との関係で巻上げ方向に操作したとする。そして、ウインチモータ10aが低速モードで駆動しているときに、
図12(a)中の直線Fに示すように、回転数Rfが、同図(a)中の折れ線Nに示す通常時の回転数Rfの上昇速度と比較して高速に上昇したとする。
【0078】
この場合に、第2実施形態のウインチ作動速度制御装置は、
図12(b)中の直線Fの部分拡大図に示すように、回転数Rfが回転数閾値Thv未満の値から回転数閾値Thv以上の値となったタイミングを検出する。引き続き、高速変化タイミングの直前にRAM22に記憶された回転数変化率CRと、ROM23Aに記憶された変化率閾値Thrとを比較する。そして、回転数変化率CRが変化率閾値Thr未満であるか否かを判定する。ここでは、回転数変化率CRが変化率閾値Thr未満ではないと判定されたとする。これにより、第2実施形態のウインチ作動速度制御装置は、速度モードを低速モードと判定して、低速モードから高速モードへの切り換えを禁止する。即ち、回転数変化率CRが変化率閾値以上の大きさとなる場合は、高速モードへの切り換えを行わずに、低速モードのまま維持する。
【0079】
一方、ウインチモータ10aが低速モードで駆動しているときに、
図12(a)中の折れ線Sに示すように、回転数Rfが、同図(a)中の折れ線Nに示す通常時の回転数Rfの上昇速度と比較して低速に上昇したとする。
この場合は、
図12(b)中の折れ線S及びNの部分拡大図に示すように、通常時と比較して回転数変化率CRが小さくなるため、高速変化タイミングの直前にRAM22に記憶された回転数変化率CRが変化率閾値Thr未満となる。第2実施形態のウインチ作動速度制御装置は、回転数変化率CRが変化率閾値Thr未満となる場合は、速度モードを高速モードと判定して、低速モードから高速モードへの切り換えを許可する。即ち、回転数変化率CRが変化率閾値未満となる場合は、高速モードへと切り換える。
【0080】
ここで、第2の回転情報演算部201Aが、回転数検出部に対応し、第2の回転情報演算部201Aが、変化率算出部に対応し、ロードセル11が、吊荷重検出部に対応する。
また、吊荷重モード判定部202、第2の回転数モード判定部203A及び速度切換制御部204が、速度切換制御部に対応する。
【0081】
(第2実施形態の作用及び効果)
第2実施形態は、上記第1実施形態の作用及び効果に加えて、以下の作用及び効果を奏する。
即ち、第2実施形態に係るウインチ作動速度制御装置は、第2の回転情報演算部201Aが、回転数変化率CRを算出する。吊荷重モード判定部202、第2の回転数モード判定部203A及び速度切換制御部204は、第2の回転情報演算部201Aで検出した回転数Rfがウインチモータ10aの現在の容量を低速制御用の容量(低速モードに対応する容量)から高速制御用の容量(高速モードに対応する容量)へと切り換える回転数となったときに、その直前に第2の回転情報演算部201Aで算出された回転数変化率CRが予め設定した変化率閾値Thr未満であるか否かを判定する。そして、変化率閾値未満ではないと判定した場合に、高速制御用の容量への切り換えを禁止する制御を行う。
【0082】
この構成であれば、何らかの原因によって、低速モードにおける回転数の上昇が通常よりも高速となっている場合に、高速モードへの切り換えによる更なる回転数の急激な上昇を抑制することが可能となる。
【0083】
(第3実施形態)
(構成)
上記第2実施形態のウインチ作動速度制御装置は、回転数Rfが低速モード領域の値から高速モード領域の値に切り換わるときに、その直前の回転数変化率CRが変化率閾値Thr以上のときに、低速モードから高速モードへの切り換えを禁止するようにした。これに対して、第3実施形態では、更に、低速モードから高速モードへ切り換わった後に、回転数変化率CRが高速モード用変化率閾値ThrH以上となったときに、速度モードを高速モードから低速モードへと切り換える点が上記第2実施形態と異なる。ここで、高速モード用変化率閾値ThrHは、上記第2実施形態の変化率閾値Thrよりも大きい値であり、例えば、高速モードにおける通常時の変化率を5[%]増しにした値となる。以下、判別しやすいように、上記第2実施形態の変化率閾値Thrを、「低速モード用変化率閾値ThrL」と記載する。
【0084】
以下、上記第2実施形態と同様の構成部に関しては、同じ符号を付して適宜説明を省略し、異なる点について詳細に説明する。
第3実施形態の制御部20は、機能構成部として、上記第2実施形態の第2のウインチ作動速度制御部200Aに代えて、第3のウインチ作動速度制御部200Bを備える。
この第3のウインチ作動速度制御部200Bは、図示省略するが、上記第2実施形態の第2のウインチ作動速度制御部200Aにおいて、第2の回転数モード判定部203Aに代えて第3の回転数モード判定部203Bを備えた構成となる。
【0085】
この第3の回転数モード判定部203Bは、速度切換制御部204からの実行指令ECに応じて、第2の回転情報演算部201Aからの回転数Rfと、RAM22に記憶された回転数変化率CRと、ROM23Aに予め記憶された回転数閾値Thv、低速モード用変化率閾値ThrL及び高速モード用変化率閾値ThrHとに基づき、第4モード判定処理を実行する。
【0086】
この第4モード判定処理は、上記第2実施形態の第3モード判定処理と一部異なり、回転数Rfが回転数閾値Thv未満ではないと判定されたときに、現在の速度モードが低速モードであるときは回転数変化率CRが低速モード用変化率閾値ThrL未満であるか否かを判定する。また、現在の速度モードが高速モードであるときは回転数変化率CRが高速モード用変化率閾値ThrH未満であるか否かを判定する。そして、回転数変化率CRが低速モード用変化率閾値ThrL未満ではないと判定された場合は、速度モードを低速モードと判定し、一方、低速モード用変化率閾値ThrL未満であると判定された場合は、速度モードを高速モードと判定する。また、回転数変化率CRが高速モード用変化率閾値ThrH未満ではないと判定された場合は、速度モードを低速モードと判定し、一方、高速モード用変化率閾値ThrH未満であると判定された場合は、速度モードを高速モードと判定する。そして、上記低速モード時又は高速モード時の判定結果である第4判定結果DR4を速度切換制御部204に出力する処理となる。
【0087】
即ち、回転数Rfが回転数閾値Thv未満ではないと判定されたときに、低速モードのときと高速モードのときとで、異なる変化率閾値を用いて判定処理を常に行う。そして、高速変化タイミングで回転数変化率CRが低速モード用変化率閾値ThrL以上であると判定した場合と、速度モードが高速モードに切り換わった後に回転数変化率CRが高速モード用変化率閾値ThrH以上であると判定した場合に、速度モードを低速モードと判定する。
【0088】
なお、第4判定結果DR4は、回転数Rfが回転数閾値Thv未満の値となった場合の低速モードを示す判定結果も含むものである。
第3実施形態の速度切換制御部204は、吊荷重モード判定部202からの第1判定結果DR1が高速モードを示す場合に、第4モード判定処理の実行指令ECを第3の回転数モード判定部203Bに出力する。そして、この実行指令ECに応じた第3の回転数モード判定部203Bからの第4判定結果DR4に基づき、ウインチモータ10aの速度モードを低速モード及び高速モードのいずれか一方に決定する。そして、現在の速度モードを、決定した速度モードに切り換える制御信号Ctrを、電磁式切換弁10bに送信する。
【0089】
(第4モード判定処理)
次に、
図13に基づき、第4モード判定処理の処理手順の一例を説明する。ここで、第3実施形態では、ウインチ作動速度制御処理のステップS108において、上記第2実施形態の第3モード判定処理に代えて、第4モード判定処理を実行する。
ステップS108で第4モード判定処理が実行されると、
図13に示すように、まずステップS500に移行する。
【0090】
ステップS500では、第3の回転数モード判定部203Bにおいて、現在の回転数Rfは、回転数閾値Thv未満であるか否かを判定する。そして、回転数閾値Thv未満であると判定した場合(Yes)は、回転数Rfが低速モード領域にあると判定して、ステップS502に移行し、そうでないと判定した場合(No)は、回転数Rfが低速モード領域にないと判定して、ステップS504に移行する。
【0091】
ステップS502に移行した場合は、第3の回転数モード判定部203Bにおいて、回転数Rfによる速度モードを低速モードと判定し、低速モードを示す第4判定結果DR4を速度切換制御部204に出力して、一連の処理を終了し元の処理に復帰する。
一方、ステップS504に移行した場合は、第3の回転数モード判定部203Bにおいて、現在の速度モードが、低速モードが否かを判定し、低速モードであると判定した場合(Yes)は、ステップS506に移行し、そうでないと判定した場合(No)は、ステップS508に移行する。
【0092】
ステップS506に移行した場合は、第3の回転数モード判定部203Bにおいて、RAM22から最新の回転数変化率CRを読み出し、読み出した回転数変化率CRは、低速モード用変化率閾値ThrL未満であるか否かを判定する。そして、低速モード用変化率閾値ThrL未満であると判定した場合(Yes)は、ステップS510に移行し、そうでないと判定した場合(No)は、ステップS502に移行する。
【0093】
一方、ステップS508に移行した場合は、第3の回転数モード判定部203Bにおいて、RAM22から最新の回転数変化率CRを読み出し、読み出した回転数変化率CRは、高速モード用変化率閾値ThrH未満であるか否かを判定する。そして、高速モード用変化率閾値ThrH未満であると判定した場合(Yes)は、ステップS510に移行し、そうでないと判定した場合(No)は、ステップS502に移行する。
ステップS510に移行した場合は、第3の回転数モード判定部203Bにおいて、回転数Rfによる速度モードを高速モードと判定し、高速モードを示す第4判定結果DR4を速度切換制御部204に出力して、一連の処理を終了し元の処理に復帰する。
【0094】
(動作)
次に、
図8を参照しつつ
図14に基づき、第3実施形態のウインチ作動速度制御装置の動作を説明する。
以下、吊荷重Wが荷重閾値Thw未満となる場合の動作を説明する。
いま、作業者が、ウインチ用の操作レバー9aを、中立位置の状態から、
図8(a)に示す操作量と時間との関係で巻上げ方向に操作したとする。そして、ウインチモータ10aが低速モードで駆動しているときに、
図14(a)中の直線Fに示すように、回転数Rfが、同図(a)中の折れ線Nに示す通常時の回転数Rfの上昇速度と比較して高速に上昇したとする。
【0095】
この場合に、第3実施形態のウインチ作動速度制御装置は、上記第2実施形態のウインチ作動速度制御装置と同様に、まず、高速変化タイミングにおいて、回転数変化率CRが低速モード用変化率閾値ThrL未満であるか否かを判定する。そして、低速モード用変化率閾値ThrL未満ではないと判定した場合に、低速モードから高速モードへの切り換えを禁止する。従って、
図14(a)中の直線Fに示すように、高速モードへと切り換わらずに低速モードのまま線形に回転数が変化する。
【0096】
引き続き、第3実施形態のウインチ作動速度制御装置は、
図14(a)中の折れ線Sに示すように、低速モードから高速モードに切り換わった後に、回転数Rfが回転数閾値Thv以上のときは、回転数変化率CRが高速モード用変化率閾値Thr未満であるか否かを常に判定する。そのため、
図14(b)に示すように、高速モード中に回転数が急増して、回転数変化率CRが高速モード用変化率閾値ThrH以上になった場合は、速度モードを高速モードから低速モードへと切り換える。特に、
図14(a)及び(b)中の折れ線Sは、低速モードのときに回転数の上昇速度が通常よりも低速となっており、何らかの異常が生じている状態となっている。そして、高速モードへと切り換え後に異常が逆に働いて急激な回転数の上昇が生じている。第3実施形態のウインチ作動速度制御装置は、このような異常状態のときでも、速度モードを高速モードから低速モードへと安全側に強制的に切り換えることが可能である。
【0097】
ここで、第2の回転情報演算部201Aが、回転数検出部に対応し、第2の回転情報演算部201Aが、変化率算出部に対応し、ロードセル11が、吊荷重検出部に対応する。
また、吊荷重モード判定部202、第3の回転数モード判定部203B及び速度切換制御部204が、速度切換制御部に対応する。
(第3実施形態の作用及び効果)
第3実施形態は、上記第2実施形態の作用及び効果に加えて、以下の作用及び効果を奏する。
【0098】
即ち、第3実施形態に係るウインチ作動速度制御装置は、吊荷重モード判定部202、第3の回転数モード判定部203B及び速度切換制御部204が、ウインチモータ10aの容量が高速制御用の容量(高速モードに対応する容量)に切り換えられた後に、第2の回転情報演算部201Aで算出された回転数変化率CRが高速モード用変化率閾値ThrH未満であるか否かを判定する。そして、回転数変化率CRが高速モード用変化率閾値ThrH未満ではないと判定した場合に、ウインチモータ10aの容量を低速制御用の容量(低速モードに対応する容量)へと切り換える制御を行う。
【0099】
この構成であれば、高速モードに切り換わっている状態のときに、何らかの原因によって、高速モードにおける回転数の上昇が通常よりも高速となっている場合に、低速モードへと強制的に切り換えることが可能となる。その結果、高速モードを維持することによる更なる回転数の急激な上昇を抑制することが可能となる。例えば、低速モードでは正常な速度で回転数が上昇又は正常時よりも低速に回転数が上昇していて、高速モードへと切り換わった後に異常が発現又は異常が逆に働いて回転数が急上昇するような場合に、強制的に低速モードへと切り換えて、安全性を高めることが可能となる。
【0100】
(変形例)
上記各実施形態では、クレーンの吊荷重を検出し、ウインチの回転数に加えて吊荷重にも基づきウインチモータの速度モード(容量)の切り換えを制御していたが、この構成に限らず、吊荷重を用いずに回転数に基づき速度モードの切り換えを制御する構成としてもよい。
【0101】
また、上記各実施形態では、速度モードを2速のいずれか一方に切り換え可能な2速切換式ピストンモータ10に本発明を適用したが、この構成に限らない。3速以上に速度の切り換えが可能な可変容量型モータに対して本発明を適用してもよい。
また、上記各実施形態では、吊荷重を検出するのにワイヤロープの張力を利用するロードセルを用いる構成としたが、この構成に限らない。例えば、クレーンの起伏シリンダのロッド側とシリンダ側の圧力差を検出するモーメント検出器と、ブームの全長を検出するブーム長検出器と、ブームの角度を検出する角度検出器を備え、これらの検出値に基づき吊荷重を推定する構成とするなど他の構成としてもよい。
【0102】
また、上記各実施形態では、本発明を斜板式の可変容量型モータに適用する構成としたが、この構成に限らず、斜軸式の可変容量型モータなど他の可変容量型モータに適用する構成としてもよい。
また、上記各実施形態では、電磁式切換弁によって、速度モードを切り換える構成としたが、この構成に限らず、例えば、油圧パイロット式切換弁を用いて速度モードを切り換える構成としてもよい。
【0103】
上記各実施形態では、ドラム回転軸の回転位置情報に基づきウインチの回転数を検出する構成としたが、この構成に限らず、例えば、モータ軸や減速機の回転位置情報に基づきウインチの回転数を検出する構成としてもよい。