(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された回転打撃工具によれば、インパクト発生時の打撃音はある程度軽減されるものの、作業環境の更なる改善のために、ボルトやナットの締結作業時に発生する騒音の更なる軽減が望まれている。
【0005】
本発明は、かかる状況に鑑み、回転打撃工具に比べ、ボルトやナットの締結作業時の稼働音がより静かな締付工具を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、ボルトまたはナットの締付工具が提供される。この締付工具は、モータと、遊星減速機と、ソケットと、反力受け部材とを備えている。
【0007】
遊星減速機は、モータによって駆動される。また、遊星減速機は、第1出力シャフトと第2出力シャフトとを備えている。第1出力シャフトおよび第2出力シャフトは、所定の軸線に対して同軸状に配置され、互いに逆方向に回転可能に構成されている。
【0008】
ソケットは、ボルトまたはナットに係合可能に構成されている。また、ソケットは、遊星減速機の第1出力シャフトに連結され、第1出力シャフトと一体的に回転するように構成されている。反力受け部材は、遊星減速機の第2出力シャフトに連結され、ソケットの回転時の反力によって、第2出力シャフトと一体的に前記ソケットと逆方向に回転するように構成されている。また、反力受け部材は、外部の当接対象物に当接可能なアーム部を備えている。
【0009】
締付工具は、少なくとも、モータが、ソケットをボルトまたはナットを締め付ける正転方向に回転させるように駆動され、締付トルクが予め定められた所定の目標トルクに達した場合に駆動が停止される締付モードで動作可能に構成されている。また、反力受け部材の回転速度は、締付モードにおいてモータの駆動開始から締付トルクが目標トルクに達するまでの時間と、アーム部と当接対象物との間に介在物が存在する場合に、使用者がアーム部と介在物との干渉を回避するための動作を行うのに要する時間とに応じて定められている。
【0010】
本態様の締付工具は、ボルトまたはナットの締め付けをソケットの回転によって行うため、回転打撃工具に比べて稼働音がより静かであり、また、ソケットの回転時の反力によってソケットと逆方向に回転する反力受け部材を備えるため、アーム部を介して当接対象物で反力を受けることができる。このような締付工具では、アーム部が当接対象物から離間して配置され、アーム部と当接対象物の間に介在物が存在する状態で締付作業が開始されると、反力受け部材が回転するのに伴って、アーム部と介在物とが干渉する可能性がある。そこで、本態様のように、反力受け部材の回転速度を、締付トルクが目標トルクに達するまでの時間と、使用者が干渉を回避するための動作を行うのに要する時間とに応じて定めることで、アーム部と介在物の干渉の可能性を低減しつつ、締付所要時間をできるだけ短縮することができる。
【0011】
なお、本態様に係る締付工具に採用されるモータは、直流モータであっても交流モータであってもよいし、ブラシの有無も特に限定されない。但し、小型で大出力が得られるという観点からは、ブラシレスDCモータが採用されることが好ましい。
【0012】
遊星減速機は、典型的には、太陽ギア、遊星ギアおよびインターナルギアを含む遊星ギア機構を主体として構成される。遊星減速機は、遊星ギア機構を1つのみ備えていてもよいし、2つ以上備えていてもよい。本態様の遊星減速機は、2つの出力シャフト(第1出力シャフトと第2出力シャフト)を有するように構成される。典型的には、遊星ギアのキャリアおよびインターナルギアを、夫々、第1出力シャフトおよび第2出力シャフトとすることができる。なお、第1出力シャフトと第2出力シャフトが「互いに逆方向に回転可能」とは、第1出力シャフトと第2出力シャフトのうち、何れか一方の出力シャフトに作用するトルクの反力(反動)として、このトルクと大きさが等しいトルク(反作用トルク(reaction torque))が他方の出力シャフトに逆方向に作用して、他方の出力シャフトが逆方向に回転することを意味する。
【0013】
ソケットは、第1出力シャフトに対して直接連結されてもよいし、間接的に(言い換えると、別部材を介して)連結されていてもよい。また、複数種類のボルトまたはナットに対応するために、ソケットは、第1出力シャフトに対して着脱可能に構成されていることが好ましい。
【0014】
ソケットと同様、反力受け部材も、第2出力シャフトに対して直接連結されてもよいし、間接的に(言い換えると、別部材を介して)連結されていてもよい。また、反力受け部材のアーム部が当接する当接対象物として、一般的には、近傍に配置されたボルトまたはナットや、その他の部材が使用される。このため、締付対象のボルトまたはナットと当接対象物との配置関係に応じて、アーム部の形状やサイズが異なる複数種類の反力受け部材を交換できるように、反力受け部材は、第2出力シャフトに対して着脱可能に構成されていることが好ましい。なお、反力受け部材は、典型的には、第2出力シャフトに直接または間接的に連結されるベース部(典型的には、筒状部分)と、アーム部とを備え、アーム部は、第2シャフトの回転軸に交差する方向(典型的には径方向)に延在する部分を含む。アーム部は、全体としては、例えば、直線状に形成されていてもよいし、L字状等、屈曲部を含む構成とされてもよい。
【0015】
締付工具は、締付モードのみで動作可能であってもよいし、締付モード以外の動作モードでも動作可能であってもよい。目標トルクは、予め定められた一律の値であってもよいし、使用者の外部操作によって設定可能とされていてもよい。なお、締付トルクは、例えば、締付トルクと所定の相関関係を有するモータの電流値や、第2出力シャフトの歪みとして検出することができる。なお、締付トルクが目標トルクに達した場合のモータの駆動停止は、典型的には、制御部によって制御される。
【0016】
使用者がアーム部と介在物との干渉を回避するための動作とは、例えば、介在物を移動させる動作や、反力受け部材の回転を止めるための動作等をいう。かかる動作を行うのに要する時間としては、例えば、人間が物体を視認してから体が反応して動くまでの平均的な反応時間を採用可能である。
【0017】
本発明においては、反力受け部材の回転速度は、60rpmから100rpmまでの範囲内に
定められる。人間が物体を視認してから体が反応して動くまでの反応時間に鑑みると、反力受け部材の回転速度が100rpm以下であることが好ましい。一方、反力受け部材の回転速度が60rpm未満となると、締付所要時間が回転打撃工具に比べて長くなってしまう。よって、反力受け部材の回転速度を本態様に規定する範囲内とすることで、アーム部と介在物との干渉の可能性を低減しつつ、回転打撃工具と同等の作業効率を確保することができる。反力受け部材の回転速度は、70rpmから90rpmまでの範囲内に定められているとより好ましく、概ね80rpmとされることが更に好ましい。
また本発明では、目標トルクとして略100N・mでの締め付けが可能に構成されている。
【0018】
本発明の一態様において、締付工具は、ハウジングと、ハンドルと、バッテリとを更に備えていてもよい。ハウジングは、モータと、遊星減速機の少なくとも一部とを収容する。ハンドルは、ハウジングから所定の軸線に交差する方向に突出するとともに、使用者による把持が可能に構成されている。バッテリは、ハンドルの突出側の端部に設けられたバッテリ装着部に取り外し可能に装着されている。そして、バッテリが装着された場合の締付工具の重心は、ハンドル内に位置していてもよい。本態様のように、重心の位置がハンドル内にある場合、使用者は、どの方向に向けて締付作業を行う場合でも、締付工具を操作しやすい。なお、重心は、ハンドル内において、指による押圧操作が可能に構成されたトリガの近傍にあるとより好ましい。また、本態様の重心配置は、バッテリが装着された場合の総重量が2.5kg以下の締付工具(つまり、片手で締付工具を把持した状態で、色々な方向に向けて使用する可能性が高い締付工具)に適用された場合に、特に効果を発揮する。
【0019】
本発明の一態様において、締付工具は、使用者による押圧操作が可能に構成された操作部材と、操作部材の押圧操作が解除された場合、反力受け部材の回転を止めるように構成されたブレーキ部とを更に備えてもよい。本態様によれば、使用者は、介在物が存在する場合、反力受け部材のアーム部と介在物との干渉を回避するための動作として、操作部材の押圧操作を解除することができる。モータを停止するだけではモータが慣性で回転し、反力受け部材が更に回転してしまう可能性があるが、本実施形態では、ブレーキ部が反力受け部材の回転を止めるため、より迅速且つ確実に干渉を回避することができる。
【0020】
本発明の一態様において、締付工具は、アーム部を含む所定領域へ向けて光を照射するように構成された照明装置を更に備えてもよい。本態様によれば、使用者は、薄暗い作業場などにおいても当接対象物または介在物に対するアーム部の近接状態を容易に確認することができる。
【0021】
本発明の一態様において、締付工具は、使用者の外部操作によって、目標トルクを設定可能に構成されたトルク設定部材を更に備えてもよい。本態様によれば、使用者は、締付工具で締め付けるボルトまたはナットの種類(ネジの呼び径等)に応じて適切な目標トルクを設定することができる。
【0022】
本発明の一態様において、締付工具は、締付モードと、緩めモードとを含む複数の動作モードで動作可能に構成されていてもよい。緩めモードは、モータが、ソケットをボルトまたはナットを緩める逆転方向に回転させるように駆動される動作モードである。そして、緩めモードにおける第1出力シャフトのトルクは、締付モードにおける第1出力シャフトのトルクの最大値よりも大きく設定されていてもよい。ボルトまたはナットを締め付けた後、その締め付けを緩める場合には、締付時よりも大きなトルクが必要となる。本態様によれば、緩めモードにおける第1出力シャフトのトルクが、締付モードにおけるトルクの最大値よりも大きく設定されているため、緩めモードにおいても適切なトルクでボルトまたはナットを緩めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して、実施形態について説明する。なお、以下の実施形態では、作業材90の貫通孔に挿通されたボルト91に対してナット92を締め付ける締付工具1を例示する。
【0025】
まず、
図1を参照して、締付工具1の概略構成について説明する。
図1に示すように、締付工具1の外郭は、主に、本体ハウジング11と、遊星ギアユニット3の一部と、ハンドル15によって形成されている。本体ハウジング11と遊星ギアユニット3は、遊星ギアユニット3の一部が本体ハウジング11に収容され、一部が外部に露出された状態で、所定の軸線Aに沿って延在する。軸線A方向において遊星ギアユニット3の露出側の一端部には、ナット92に係合可能なソケット5と、反力受け部材6とが連結されている。ハンドル15は、使用者による把持が可能に構成されており、本体ハウジング11から軸線Aに交差する方向に突出している。ハンドル15の基端部には、使用者による押圧操作が可能なトリガ151が設けられている。また、ハンドル15の突出側の端部には、バッテリ装着部17を介して、充電式のバッテリ8が取り外し可能に装着されている。
【0026】
使用者が、ボルト91に対してある程度まで螺合されたナット92にソケット5を係合させ、トリガ151を押圧操作すると、締付工具1はナット92の締付を行う。このとき、隣接するナット92等の当接対象物に反力受け部材6が当接することで、ソケット5の回転時の反力を、当接対象物で受けることができる。
【0027】
なお、以下では、締付工具1の方向に関して、説明の便宜上、軸線A方向を締付工具1の前後方向と規定し、ソケット5が配置されている側を前側、反対側を後側と規定する。また、軸線Aに直交し、ハンドル15の延在方向に対応する方向を上下方向と規定し、本体ハウジング11が配置される側を上側、バッテリ8が装着される側を下側と規定する。
【0028】
以下、
図1〜
図11を参照して、締付工具1の詳細構成について説明する。
【0029】
図4に示すように、本体ハウジング11には、主に、モータ2と、遊星ギアユニット3の一部とが収容されている。本実施形態では、モータ2として、小型で高出力なブラシレスDCモータが採用されている。モータ2は、ロータ(図示略)と共に回転する出力シャフト21の回転軸が軸線A上を延在するように、本体ハウジング11の後端部内に配置されている。遊星ギアユニット3は、遊星減速機として構成されており、モータ2の前側に配置されている。遊星ギアユニット3は、モータ2によって駆動され、ソケット5および反力受け部材6に動力を伝達する。なお、遊星ギアユニット3、ソケット5、および反力受け部材6については、後で詳述する。
【0030】
図1、
図2および
図4に示すように、本体ハウジング11の下端部には、使用者の外部操作に応じて、締付工具1の動作モードを、締付モードと緩めモードとの間で切り替えるための切替スイッチ111が設けられている。締付モードとは、モータ2が、ソケット5を、ナット92を締め付ける正転方向に回転させるように駆動される(正転駆動される)動作モードである。一方、緩めモードとは、モータ2が、ソケット5を、正転方向とは逆の方向、すなわち、ナット92を緩める逆転方向に回転させるように駆動される(逆転駆動される)動作モードである。
【0031】
本実施形態では、切替スイッチ111は、締付モードおよび緩めモードのうち何れかを設定可能なモード設定部材として構成されている。具体的には、切替スイッチ111は、本体ハウジング11によって左右方向に移動可能に保持されており、その配置位置に応じた信号を出力する。後述のコントローラ7(
図4参照)は、切替スイッチ111が右側から押圧されて、
図2に示すように、その左端部が本体ハウジング11から左方へ突出する位置(以下、左方位置という)に配置されると、モータ2を締付モードで正転駆動する。図示は省略するが、反対に、切替スイッチ111が左側から押圧されて、右端部が本体ハウジング11から右方へ突出する位置に配置(以下、右方位置という)されると、コントローラ7は、モータ2を緩めモードで逆転駆動する。なお、切替スイッチ111は、締付モードおよび緩めモードに加え、その他の動作モードを設定可能に構成されていてもよい。
【0032】
図3および
図4に示すように、本体ハウジング11の上面には、使用者の外部操作によって、締付作業時の目標トルクを設定可能なトルク設定ダイアル113が設けられている。詳細は後述するが、目標トルクとは、ナット92の締付完了の判断基準として使用されるトルクの閾値をいう。本実施形態では、トルク設定ダイアル113は、回転位置(基準位置からの回転量)に応じて無段階で目標トルクの調整が可能に構成されており、上面には、その目安として、ゼロから9までの数値が示されている。
【0033】
図1および
図4に示すように、本体ハウジング11の下端部の前端には、照明ユニット115が設けられている。本実施形態の照明ユニット115は、光源としての発光ダイオード(LED)と、LEDを収容する透光材料製(透明樹脂、ガラス等)のケースを主体として構成されている。照明ユニット115は、LEDが発する光が前方の所定領域を照らすように、光の照射方向が設定されている。本実施形態では、所定領域は、ソケット5による締付が行われる作業領域と、後述の反力受け部材6のアーム部65の回転移動範囲を含むように設定されている。
【0034】
図1および
図4に示すように、ハンドル15は、使用者によって把持可能に構成されており、上端部の前側に、指での押圧操作が可能なトリガ151を有する。ハンドル15の内部には、スイッチ152が収容されている。スイッチ152は、トリガ151の押圧操作に応じてオンとされてオン信号を出力し、トリガ151の押圧が解除されるとオフとされてオフ信号を出力する。
【0035】
また、
図4に示すように、ハンドル15の下端部には、上述のように、バッテリ8を着脱可能に構成されたバッテリ装着部17が設けられている。バッテリ装着部17にバッテリ8が装着された場合の締付工具1の総重量は、2kg程度である。また、バッテリ8が装着された場合の締付工具1の重心Gは、
図1〜
図3に示すように、ハンドル15内に位置する。より詳細には、重心Gは、上下方向においてはトリガ151の下端部と概ね同じ位置にあり、前後方向においてはトリガ151の若干後側の位置にある。使用者は、ハンドル15を把持し、様々な方向へ締付工具1を向けて締付作業を行うが、重心Gがハンドル15内にある場合、使用者は、どの方向においても締付工具1を操作しやすい。特に、本実施形態では、重心Gがハンドル15内においてトリガ151の近傍にあるため、締付工具1は優れた操作性を発揮することができる。
【0036】
ハンドル15の下端部内(バッテリ装着部17の上側)には、モータ2の駆動制御等、締付工具1の制御を司るコントローラ7が収容されている。本実施形態では、コントローラ7は、CPU、ROM、RAM等を含むマイクロコンピュータで構成されている。コントローラ7は、図示しない配線を介して、上述の切替スイッチ111、トルク設定ダイアル113、照明ユニット115、トリガ151のスイッチ152等に電気的に接続されている。更に、
図2に示すように、ハンドル15の下端部の左側面には、U字状のフック157が、ネジによって取り付けられている。フック157は、使用者のベルト等に引掛け可能に構成されている。
【0037】
以下、遊星ギアユニット3、ソケット5、および反力受け部材6の詳細構成について、順に説明する。
【0038】
まず、遊星ギアユニット3について説明する。
図5に示すように、本実施形態の遊星ギアユニット3は、第1遊星ギア機構31、第2遊星ギア機構32、第3遊星ギア機構33、および第4遊星ギア機構34の4組の遊星ギア機構と、これら4組の遊星ギア機構を支持するギアハウジング36とを備えている。
【0039】
図4、
図5および
図7に示すように、第1遊星ギア機構31は、太陽ギア311と、キャリア312と、5つの遊星ギア315と、インターナルギア317とを含む。第1遊星ギア機構31は、軸線A周りに回転するモータ2の出力シャフト21を入力シャフトとして構成されており、太陽ギア311は、出力シャフト21の前端に固定されている。キャリア312は、太陽ギア311に噛合する5つの遊星ギア315を回転可能に支持するとともに、軸線Aと同軸状に配置されたシャフト部313を有する。インターナルギア317は、軸線Aと同軸状に配置されており、遊星ギア315に噛合する。
【0040】
図5および
図8に示すように、第2遊星ギア機構32は、太陽ギア321と、キャリア322と、5つの遊星ギア325と、インターナルギア327とを含む。太陽ギア321は、第1遊星ギア機構31のキャリア312のシャフト部313に固定されている。キャリア322は、太陽ギア321に噛合する5つの遊星ギア325を回転可能に支持するとともに、軸線Aと同軸状に配置されたシャフト部323を有する。インターナルギア327は、軸線Aと同軸状に配置されており、遊星ギア325に噛合する。
【0041】
なお、第1遊星ギア機構31のインターナルギア317と第2遊星ギア機構32のインターナルギア327は、いずれも円筒状の保持スリーブ351によって保持されている。より詳細には、
図7に示すように、インターナルギア317の外周部には、軸線A方向に延在する突状318が複数形成される一方、保持スリーブ351の後側部分の内周部には、軸線A方向に延在し、突状318に係合可能な溝352が複数形成されている。また、図示は省略するが、インターナルギア327の後端部の外周部にも、インターナルギア317と同様の突状が形成されている。よって、インターナルギア317、327が保持スリーブ351に嵌合されることで、インターナルギア317、327は、保持スリーブ351によって軸線A周りの回転が禁止された状態で保持される。
【0042】
図5および
図9に示すように、第3遊星ギア機構33は、太陽ギア331と、キャリア332と、3つの遊星ギア335と、インターナルギア337とを含む。太陽ギア331は、第2遊星ギア機構32のキャリア322のシャフト部323に固定されている。キャリア332は、太陽ギア331に噛合する3つの遊星ギア335を回転可能に支持するとともに、軸線Aと同軸状に配置されたシャフト部333を有する。インターナルギア337は、軸線Aと同軸状に配置されており、遊星ギア335に噛合する。
【0043】
図5および
図10に示すように、第4遊星ギア機構34は、太陽ギア341と、キャリア342と、3つの遊星ギア345と、インターナルギア337とを含む。太陽ギア341は、第3遊星ギア機構33のキャリア332のシャフト部333に固定されている。キャリア342は、太陽ギア341に噛合する3つの遊星ギア345を回転可能に支持するとともに、軸線Aと同軸状に配置されたシャフト部343を有する。インターナルギア337は、第3遊星ギア機構33と第4遊星ギア機構34に共通の部材であって、軸線A方向(前後方向)において、少なくとも、第3遊星ギア機構33の遊星ギア335と、第4遊星ギア機構34の遊星ギア345とを収容可能な長さに形成されている。
【0044】
なお、インターナルギア337の後端部には、凹凸が形成されている。一方、上述のインターナルギア317、327の保持スリーブ351の前端部にも、同様に凹凸が形成されている。インターナルギア337の凹凸が保持スリーブ351の凹凸に嵌合されることで、インターナルギア337は、保持スリーブ351を介してインターナルギア317、327と軸線A方向に一体化されている。言い換えると、インターナルギア317、327、337、および保持スリーブ351は、全体として、第1遊星ギア機構31〜第4遊星ギア機構34に共通する1つのインターナルギア(以下、インターナルギアユニット35という)を構成している。
【0045】
図5に示すように、第1遊星ギア機構31〜第4遊星ギア機構34を支持するギアハウジング36は、主に、後部ハウジング361と、前部ハウジング363と、抜け止めスリーブ367によって構成されている。
【0046】
後部ハウジング361は、有底円筒状に形成されている。後部ハウジング361には、軸線A周りの回転が許容された状態で、保持スリーブ351が収容されている。後部ハウジング361の底部に形成された貫通孔362には、太陽ギア311が固定されたモータ2の出力シャフト21が挿入される(
図4参照)。
【0047】
前部ハウジング363は、後部ハウジング361よりも大径の筒状に形成されており、前部ハウジング363の後端部内に後部ハウジング361の前端部が嵌め込まれている。この状態で、前部ハウジング363と後部ハウジング361とがネジ(図示略)で固定され、一体化されている。抜け止めスリーブ367は、前端にフランジ368を有する円筒状に形成されている。抜け止めスリーブ367は、インターナルギア337の外周面と前部ハウジング363の内周面との間に、フランジ368が前部ハウジング363の前端に当接するように、前側から嵌め込まれている。インターナルギア(インターナルギアユニット35)の前端部は、抜け止めスリーブ367から前方へ突出し、外部に露出している。
【0048】
なお、抜け止めスリーブ367は、その外周部の周方向に形成された3本の環状溝に夫々装着されたOリング369によって、前部ハウジング363に対する移動が規制されている。インターナルギア337の後端部には、径方向外側へ突出するフランジ338が設けられており、抜け止めスリーブ367が嵌めこまれると、フランジ338は、後部ハウジング361の前端と抜け止めスリーブ367の後端との間に配置される。これにより、インターナルギア337の軸線A方向(前後方向)の移動が規制され、且つ、軸線A周りの回転が許容された状態で、抜け止めスリーブ367に保持されている。上述のように、保持スリーブ351も軸線A周りの回転が許容された状態で後部ハウジング361に保持されている。つまりインターナルギアユニット35は、軸線A周りの回転が許容された状態で、ギアハウジング36(後部ハウジング361、前部ハウジング363、および抜け止めスリーブ367)によって保持されている。
【0049】
図9〜
図11に示すように、前部ハウジング363の後端部の周方向の4箇所には、前部ハウジング363の円筒状の前側部分よりも径方向外側に突出する固定部364が設けられている。固定部364は、前後方向に延在する貫通孔365を有する。
図1に示すように、固定部364の前側から、ネジ37が貫通孔365に挿通され、本体ハウジング11に形成されたネジ穴(図示略)に螺合されることで、ギアハウジング36が本体ハウジング11に固定されている。
【0050】
上述のように構成された遊星ギアユニット3において、モータ2の動力は、第1遊星ギア機構31、第2遊星ギア機構32、第3遊星ギア機構33、および第4遊星ギア機構34の順に伝達される。具体的には、モータ2の駆動に伴い、出力シャフト21と一体的に第1遊星ギア機構31の太陽ギア311が回転する。遊星ギア315は、自転しつつ太陽ギア311の周りを公転することで、キャリア312(シャフト部313)を、軸線A周りに出力シャフト21と同じ方向に回転させる。第2遊星ギア機構32、第3遊星ギア機構33、第4遊星ギア機構34でも、同様の伝達が行われ、キャリア322、332、342が出力シャフト21と同じ方向に回転する。
【0051】
一方で、第1遊星ギア機構31〜第4遊星ギア機構34において、キャリア312、322、332、342の回転時の反力は、遊星ギア315、325、335、345を介して、ギアハウジング36に保持されたインターナルギアユニット35をキャリア312、322、332、342とは逆方向に回転させるように作用する。つまり、遊星ギアユニット3において、動力伝達経路の最下流側に位置する第4遊星ギア機構34のキャリア342のシャフト部343およびインターナルギアユニット35は、互いに逆方向に回転する2つの最終出力シャフトとして構成されている。このことから、以下では、第4遊星ギア機構34のキャリア342のシャフト部343およびインターナルギアユニット35を、夫々、第1出力シャフト343および第2出力シャフト35ともいう。
【0052】
以下、
図4および
図11を参照して、ソケット5について説明する。本実施形態では、ソケット5は、遊星ギアユニット3の第1出力シャフト343(キャリア342のシャフト部343)に着脱可能に構成されている。なお、本実施形態では、ソケット5を第1出力シャフト343に着脱可能とする構成として、周知の構成が採用されているため、ここでは簡単に説明する。
【0053】
図11に示すように、第1出力シャフト343は、前端部に、角柱状に形成されたソケット装着部346を有する。ソケット装着部346には、軸線Aに直交する方向に延在し、抜け止め用のピン(図示略)が挿通される貫通孔347が設けられている。一方、
図4に示すように、ソケット5は、全体としては筒状に形成されている。ソケット5の後端部の内周部は、ソケット装着部346が嵌合可能なシャフト装着部51を構成している。ソケット5の後端部がソケット装着部346の外側に嵌合され、ソケット5に設けられた貫通孔(図示略)と貫通孔347にピンが挿通され、ピンがソケット5の外周側からOリング(図示略)によって抜け止めされることで、ソケット5が第1出力シャフト343に装着される。
【0054】
また、ソケット5の前端部の内周部は、ナット92に係合可能なナット係合部55を構成している。締付工具1に着脱可能なソケット5は、サイズ(径)の異なるナット92に対応できるように、複数種類が用意されている。使用者は、実際に使用するナット92のサイズに応じて適切なソケット5を第1出力シャフト343に装着すればよい。
【0055】
以下、
図5、
図6、および
図11を参照して、反力受け部材6について説明する。本実施形態では、反力受け部材6は、遊星ギアユニット3の第2出力シャフト(インターナルギアユニット)35に対して、連結部材38を介して着脱可能に構成されている。
【0056】
図11に示すように、インターナルギア337の前端部には、複数の係止凹部354が周方向に互いに離間して設けられている。係止凹部354は、インターナルギア337の前端から後方へ向けて矩形状に凹む凹部である。また、
図5および
図6に示すように、前端部の内周部は、他の部分よりも周壁が薄く(内径が大きく)形成されており、連結部材38が嵌合される嵌合凹部353を構成している。また、
図6に示すように、インターナルギア337の前端部の内周部には、環状溝355が周方向に設けられている。
【0057】
図5および
図6に示すように、連結部材38は、連結部材38の後端部を構成するギア嵌合部381と、前端部を構成する反力受け装着部385とを含む。ギア嵌合部381は、インターナルギア337に形成された嵌合凹部353に嵌合可能な円筒状に形成されている。また、ギア嵌合部381の前端部には、複数の係止凸部383が周方向に互いに離間して設けられている。係止凸部383は、係止凹部354に嵌合可能な矩形状に形成され、径方向外側に突出するように設けられている。連結部材38は、係止凸部383が係止凹部354に嵌合された状態で、ギア嵌合部381が嵌合凹部353に嵌め込まれ、更に、環状溝355に嵌め込まれた止め輪389によって、インターナルギア337に対して固定されている。つまり、連結部材38は、インターナルギア337に一体状に連結されている。
【0058】
図11に示すように、反力受け部材6は、上述の連結部材38に着脱可能に構成されたベース部61と、ベース部61から突出するアーム部65とを備えている。
【0059】
ベース部61は、連結部材38の反力受け装着部385の外周に嵌合可能な、断面六角形状の取付け孔611を有する。アーム部65は、ベース部61と一体的に形成されており、全体としては、ベース部61の斜め前方へ向けて径方向外側に延在している。詳細には、アーム部65は、ベース部61の前端から斜め前方且つ軸線Aに対して径方向外側に突出する第1部分651と、第1部分651の先端から径方向外側へ突出する第2部分653とを含む。なお、
図2に示すように、アーム部65は、軸線A方向にみたときに、少なくとも一部が本体ハウジング11の外郭よりも外側に突出して視認可能な長さに形成されている。アーム部65のうち、第2部分653は、締付作業時に当接対象物に当接する当接部として構成されている。反力受け部材6は、反力受け装着部385の外周にベース部61が嵌合された状態で、ベース部61に形成された貫通孔(図示略)を介して、連結部材38にネジ(図示略)で固定されている。
【0060】
なお、締結対象のナット92と当接対象物との様々な配置関係に対応できるように、反力受け部材6は、アーム部65の長さや形状が異なる複数種類が用意されている。使用者は、締結対象のナット92と当接対象物との配置関係に応じて適切な反力受け部材6を、連結部材38を介して第2出力シャフト35に装着すればよい。
【0061】
以下、締付工具1によるナット92の締付作業と、緩め作業について、順に説明する。
【0062】
締付作業を行う場合、使用者は、まず、作業材90の貫通孔に挿通されたボルト91に、ナット92を手である程度まで(典型的には、ナット92が完全にボルト91の先端部(頭部と反対側の端部)に螺合された状態まで)螺合させる。また、使用者は、切替スイッチ111を右側から押圧して左方位置に配置することで、締付工具1の動作モードを締付モードに設定する。更に、トルク設定ダイアル113を操作して、ボルト91とナット92の種類に応じた適切な目標トルクを設定する。なお、本実施形態の締付工具1では、目標トルクは、最大100N・mまで設定可能とされている。
【0063】
その後、使用者は、
図4に示すように、ソケット5のナット係合部55をナット92に係合させて、トリガ151を押圧操作する。トリガ151の押圧操作に応じてスイッチ152がオンとされると、コントローラ7は、照明ユニット115のLEDを点灯させた後、モータ2の正転駆動を開始する。本実施形態では、モータ2は、締付トルクが目標トルクに達した場合、または、締付トルクが目標トルクに達する前に、トリガ151の押圧操作が解除され、スイッチ152がオフとされた場合、モータ2の正転駆動を停止する。締付モードにおける正転駆動時には、モータ2は、予め締付モードに対応して設定された回転速度(回転数)で正転駆動される。本実施形態では、正転駆動時のモータ2の回転速度は、反力受け部材6(第2出力シャフト35)の回転速度が60rpm〜100rpmの範囲内となるように設定されている。
【0064】
モータ2が正転駆動されると、遊星ギアユニット3の第1出力シャフト(シャフト部)343に連結されたソケット5は、ナット92を締め付ける正転方向に回転される。このとき、遊星ギアユニット3の第2出力シャフト(インターナルギアユニット)35には、反力として逆方向のトルクが作用するため、第2出力シャフト35に連結された反力受け部材6は、ある時点で、軸線Aを中心として、ソケット5とは逆方向に回転し始める。反力受け部材6が回転し、締結対象のナット92に隣接して配置された当接対象物(
図2の例では、ナット92)に第2部分653が当接すると、ソケット5の回転による反力を、反力受け部材6を介して当接対象物が受けることになる。
【0065】
ナット92が作業材90(またはナット92と作業材90の間に配置された座金)に着座すると、締付トルクが増大し、目標トルクに達する。本実施形態では、コントローラ7は、締付トルクとして、電流検出アンプ(図示略)によって検出されたモータ2の駆動電流値を使用し、設定された目標トルクに対応する電流値と比較することで、締付終了の判断を行う。この方法については公知であるため、ここでの詳細な説明は省略する。なお、歪ゲージで測定された実際の締付トルクを目標トルクと比較する方法等、他の公知の方法が採用されてもよい。締付トルクが目標トルクに達すると、コントローラ7は、モータ2の駆動を停止することで、締付工程を終了する。その後、使用者がトリガ151の押圧操作を解除すると、コントローラ7は、所定期間経過後に照明ユニット115のLEDを消灯する。
【0066】
なお、締付トルクが目標トルクに達する前に、トリガ151の押圧操作が解除され、スイッチ152がオフとされた場合には、コントローラ7は、モータ2の駆動を停止する。なお、コントローラ7は、反力受け部材6が慣性で回転し続けるのを防止するために、モータ2を一時的に逆転駆動した後、モータ2の駆動を停止してもよい。この場合、コントローラ7は、モータ2の駆動停止から所定期間経過後に照明ユニット115のLEDを消灯する。
【0067】
緩め作業を行う場合、使用者は、切替スイッチ111を左側から押圧して右方位置に配置することで、締付工具1の動作モードを緩めモードに設定し、ソケット5のナット係合部55をナット92に係合させて、トリガ151を押圧操作する。コントローラ7は、照明ユニット115のLEDを点灯させた後、モータ2の逆転駆動を開始する。締付が完了したナット92を緩める場合、締付時の締付トルクよりも大きなトルクが必要となる。よって、本実施形態では、緩めモードにおける逆転駆動時のトルク値として、締付モードにおけるトルクの最大値よりも高い値(つまり、目標トルクとして設定可能な100N・mよりも高い値)が設定されている。
【0068】
緩めモードにおいては、コントローラ7は、トリガ151の押圧操作が解除され、スイッチ152がオフとされた場合に、モータ2の駆動を停止し、その後、所定期間が経過するとLEDを消灯する。なお、緩めモードでも、締付モードと同様、反力受け部材6が慣性で回転し続けるのを防止するために、コントローラ7は、モータ2を一時的に正転駆動した後、モータ2の駆動を停止してもよい。
【0069】
以上のように構成された実施形態の締付工具1では、回転打撃工具(例えば、インパクトレンチ)の使用時のような打撃音は発生しない。つまり、本実施形態によれば、回転打撃工具に比べて稼働音がより静かな締付工具1が実現されている。
【0070】
以下に、
図12を参照して、本実施形態の締付工具1において、反力受け部材6の回転速度を60rpm、80rpm、100rpmに夫々設定して、締付作業を行った場合と、反力受け部材付きのインパクトレンチ(反力受け部材の回転速度は2,800rpm)で締結作業を行った場合の、軸力(締結力)の経時的変化の比較結果について説明する。なお、所定の軸力Fに到達するまでに要する時間(言い換えると、締付トルクが目標トルクに到達して締付工程が完了するまでの時間)を比較するために、M12に分類されるボルト91にナット92を手締めした状態で、ネジ山3つ分を締付工具1またはインパクトレンチで締めてナット92を着座させる条件を採用した。つまり、締付工程完了時には、ナット92からボルト91のネジ山が3つ出ている状態となる。
【0071】
図12に示すように、インパクトレンチの場合、締付を開始して0.064秒後には、ナット92が着座し、軸力が上昇を開始するが、所定の軸力Fに到達するまでに約4秒を要している。本実施形態の締付工具1で回転速度を60rpmとした場合には、締付を開始してから着座までに3秒を要するものの、その後、軸力は急激に上昇し、締付開始から約3.5秒後には所定の軸力Fに到達している。また、本実施形態の締付工具1で回転速度を80rpmとした場合には、着座までの時間は、約2.25秒、所定の軸力Fに到達するまでの時間は、約2.75秒である。本実施形態の締付工具1で回転速度を100rpmとした場合には、着座までの時間は、約1.8秒、所定の軸力Fに到達するまでの時間は、約2.3秒である。
【0072】
上述の比較結果から、反力受け部材6(第2出力シャフト35)の回転速度が60rpm以上の場合には、締付工具1は、インパクトレンチと同等あるいはより短い時間で締付作業を完了することができることがわかる。一方で、アーム部65が当接対象物から離間して配置され、アーム部65と当接対象物の間に介在物が存在する状態で締付作業が開始されると、反力受け部材6が回転するのに伴って、アーム部65と介在物とが干渉する可能性がある。反力受け部材6の回転速度(つまり、ソケット5(第1出力シャフト343)の回転速度)を上げるほど、締付所要時間を短縮化することはできるが、人間が物体を視認してから体が反応して動くまでの反応時間に鑑みると、反力受け部材の回転速度は100rpm以下であることが好ましい。一方、反力受け部材6の回転速度が60rpm未満となると、締付所要時間が回転打撃工具に比べて長くなってしまう。
【0073】
そこで、本実施形態では、反力受け部材6の回転速度を60rpm〜100rpmの範囲内とすることで、アーム部65と介在物との干渉の可能性を低減しつつ、回転打撃工具と同等あるいはそれ以上の作業効率を確保することができる。なお、反力受け部材6の回転速度は、70〜90rpmまでの範囲内に定められているとより好ましく、概ね80rpmとされることが更に好ましい。
【0074】
更に、トリガ151の押圧操作が解除された場合、コントローラ7がモータ2の駆動を制御することで、反力受け部材6の回転を止めるブレーキ部として機能することができる。よって、使用者は、アーム部65と当接対象物の間に介在物が存在する場合、アーム部65と介在物との干渉を回避するための動作として、トリガ151の押圧操作を解除するだけでよい。モータ2を単に停止するだけでは、モータ2が慣性で回転し、反力受け部材6が更に回転してしまう可能性があるが、コントローラ7がモータの出力シャフト21を一時的に本来の回転方向と反対方向に回転させることで反力受け部材6の回転を止める場合には、より迅速且つ確実に干渉を回避することができる。なお、コントローラ7によるモータ2の制御に代えて、トリガ151の押圧操作が解除された場合、反力受け部材6または第2出力シャフト35に作用して反力受け部材6の回転を止めるように構成された機械的なブレーキが設けられてもよい。
【0075】
また、本実施形態の締付工具1は、ソケット5による締付が行われる作業領域と、反力受け部材6のアーム部65の回転移動範囲を含む所定領域を照らす照明ユニット115を備えている。よって、使用者は、薄暗い作業場などにおいても、当接対象物または介在物に対するアーム部65の近接状態を容易に確認することができる。更に、本実施形態では、照明ユニット115は、モータ2の駆動に先立って点灯され、且つ、モータ2の駆動停止後に消灯される。よって、使用者は、締付作業を開始する前および終了した後にも、作業状態や、当接対象物または介在物に対するアーム部65の配置を容易に確認することができる。
【0076】
また、本実施形態では、締付工具1は、使用者の外部操作によって、目標トルクを設定可能に構成されたトルク設定ダイアル113を備えている。よって、使用者は、締付工具1での締付対象であるボルト91とナット9の種類に応じて、適切な目標トルクを設定することができる。また、緩めモードでは、第1出力シャフト343のトルク値として、締付モードにおけるトルクの最大値よりも高い値(つまり、目標トルクとして設定可能な100N・mよりも高い値)が設定されているため、十分に大きなトルクで締付後のナット92を緩めることができる。なお、緩めモードにおけるトルク値は、一律の値ではなく、コントローラ7が、設定されている目標トルクよりも大きな値(例えば、目標値よりも所定値分大きい値)を自動的に設定してもよい。
【0077】
上記実施形態およびその変形例の各構成要素と本発明の各構成要素との対応関係を以下に示す。締付工具1は、本発明の「締付工具」に対応する構成例である。モータ2は、本発明の「モータ」に対応する構成例である。遊星ギアユニット3は、本発明の「遊星減速機」に対応する構成例である。第4遊星ギア機構34のシャフト部343は、本発明の「第1出力シャフト」に対応する構成例である。第4遊星ギア機構34のインターナルギア337(インターナルギアユニット35)は、本発明の「第2出力シャフト」に対応する構成例である。ソケット5は、本発明の「ソケット」に対応する構成例である。反力受け部材6、アーム部65は、夫々、本発明の「反力受け部材」、「アーム部」に対応する構成例である。
【0078】
本体ハウジング11は、本発明の「ハウジング」に対応する構成例である。ハンドル15は、本発明の「ハンドル」に対応する構成例である。バッテリ装着部17は、本発明の「バッテリ装着部」に対応する構成例である。バッテリ8は、本発明の「バッテリ」に対応する構成例である。トリガ151は、本発明の「操作部材」に対応する構成例である。コントローラ7は、本発明の「ブレーキ部」に対応する構成例である。照明ユニット115は、本発明の「照明装置」に対応する構成例である。トルク設定ダイアル113は、本発明の「トルク設定部材」に対応する構成例である。
【0079】
上記実施形態は単なる例示であり、本発明に係る締付工具は、例示された締付工具1の構成に限定されるものではない。本発明および上記実施形態の趣旨に鑑み、以下の態様が更に構築される。以下の各態様は、他の態様、実施形態に示す締付工具1、または各請求項に記載された発明と組み合わされて採用されうる。
【0080】
[態様1]
反力受け部材の回転速度は、70rpmから90rpmまでの範囲内に定められていてもよい。
[態様2]
反力受け部材の回転速度は、概ね80rpmに定められていてもよい。
[態様3]
締付工具は、バッテリが装着された場合の総重量が、2.5kg以下の締付工具として構成されていてもよい。