特許第6863785号(P6863785)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ NTN株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6863785-固定式等速自在継手 図000003
  • 特許6863785-固定式等速自在継手 図000004
  • 特許6863785-固定式等速自在継手 図000005
  • 特許6863785-固定式等速自在継手 図000006
  • 特許6863785-固定式等速自在継手 図000007
  • 特許6863785-固定式等速自在継手 図000008
  • 特許6863785-固定式等速自在継手 図000009
  • 特許6863785-固定式等速自在継手 図000010
  • 特許6863785-固定式等速自在継手 図000011
  • 特許6863785-固定式等速自在継手 図000012
  • 特許6863785-固定式等速自在継手 図000013
  • 特許6863785-固定式等速自在継手 図000014
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6863785
(24)【登録日】2021年4月5日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】固定式等速自在継手
(51)【国際特許分類】
   F16D 3/224 20110101AFI20210412BHJP
【FI】
   F16D3/224
【請求項の数】3
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-52663(P2017-52663)
(22)【出願日】2017年3月17日
(65)【公開番号】特開2018-155321(P2018-155321A)
(43)【公開日】2018年10月4日
【審査請求日】2020年2月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100155457
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】小林 智茂
(72)【発明者】
【氏名】小林 正純
【審査官】 日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−78124(JP,A)
【文献】 特開平3−113124(JP,A)
【文献】 特開2007−120546(JP,A)
【文献】 特開2007−120615(JP,A)
【文献】 特開2006−242264(JP,A)
【文献】 特開2012−233550(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 1/00− 9/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向一方が開口したカップ状のマウス部を有し、球面状の内周面に8本のトラック溝が形成された外側継手部材と、球面状の外周面に8本のトラック溝が形成された内側継手部材と、前記外側継手部材のトラック溝と前記内側継手部材のトラック溝とで形成されるボールトラックに配された複数のボールと、前記ボールを収容する複数のポケットを有し、前記外側継手部材の内周面及び前記内側継手部材の外周面に摺接する保持器とを備えた固定式等速自在継手であって、
最大作動角が20°以下であり、
継手中心O(f)から前記外側継手部材の前記マウス部の開口側端面までの軸方向長さW1と前記ボールの直径DBALLとの比W1/DBALLが0.35〜0.52であり、
前記外側継手部材の内周面の開口端における直径が、前記保持器を軸方向から見たときのポケットの周方向中央部における外径よりも大きく、
前記外側継手部材のマウス部の内底面のうち、最も継手奥側に位置する部分が、前記外側継手部材の内周面を奥側に延長した仮想球面よりも開口側に配された固定式等速自在継手。
【請求項2】
後輪用ドライブシャフト専用である請求項1に記載の固定式等速自在継手。
【請求項3】
前記外側継手部材のトラック溝の曲率中心と前記内側継手部材のトラック溝の曲率中心とがそれぞれ継手中心に対して軸方向反対側に等距離だけオフセットしている請求項1又は2に記載の固定式等速自在継手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定式等速自在継手に関する。
【背景技術】
【0002】
代表的な固定式等速自在継手として、ゼッパ型等速自在継手がある。ゼッパ型等速自在継手では、外側継手部材のトラック溝の曲率中心と内側継手部材のトラック溝の曲率中心とが、継手中心に対して軸方向反対側に等距離だけオフセットしている。これにより、ボールが常に作動角の二等分面内に保持され、外側継手部材と内側継手部材との間での等速性が確保される。
【0003】
ゼッパ型等速自在継手は、通常、6個のトルク伝達ボールを有しているが、下記の特許文献1には、ゼッパ型等速自在継手のトルク伝達ボールの数を8個にしたものが示されている。このようにボールの数を8個にすることで、6個のボールを備えたゼッパ型等速自在継手と同等以上の強度、負荷容量、及び耐久性を確保しながら、軽量・コンパクト化を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−103365号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に示されているような固定式等速自在継手の組立工程では、図11(A)(B)に示すように、外側継手部材101と保持器104とを互いの軸線を直交させた状態とし、この状態で保持器104を外側継手部材101の開口側から挿入していた。この場合、外側継手部材101の内部には、軸線を直交させた状態の保持器104を収容できる空間を確保する必要があり、具体的には、外側継手部材101の底面101fは、内周面101cを延長した仮想球面Q’よりも奥側に配する必要がある。このため、外側継手部材101の軸方向寸法が嵩み、重量増を招いていた。
【0006】
そこで、本発明が解決すべき課題は、固定式等速自在継手のより一層の軽量・コンパクト化を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明は、軸方向一方を開口したカップ状のマウス部を有し、球面状の内周面に8本のトラック溝が形成された外側継手部材と、球面状の外周面に8本のトラック溝が形成された内側継手部材と、前記外側継手部材のトラック溝と前記内側継手部材のトラック溝とで形成されるボールトラックに配された複数のボールと、前記ボールを収容する複数のポケットを有し、前記外側継手部材の内周面及び前記内側継手部材の外周面に摺接する保持器とを備えた固定式等速自在継手であって、前記外側継手部材の内周面の開口端における直径が、前記保持器を軸方向から見たときのポケットの周方向中央部における外径よりも大きく、前記外側継手部材のマウス部の底面が、前記外側継手部材の内周面を奥側に延長した仮想球面と干渉する位置に設けられた固定式等速自在継手を提供する。
【0008】
本発明では、外側継手部材の開口部の内径を大きくし、具体的には、外側継手部材の内周面の開口端における直径を、保持器を軸方向から見たときのポケットの周方向中央部における外径よりも大きくした。これにより、保持器と外側継手部材とを同軸上に並べて配置し、この状態で保持器を外側継手部材の内周に挿入することができる(図10参照)。この場合、外側継手部材の内部に、軸線を直交させた保持器を収容可能な空間を設ける必要はないため、図11に示す従来品よりも外側継手部材の内部空間を小さく(浅く)することができる。具体的には、外側継手部材のマウス部の底面を、外側継手部材の内周面を奥側に延長した仮想球面と干渉する位置に設けることができる。これにより、外側継手部材の軸方向寸法を縮小して軽量化を図ることができる。
【0009】
ところで、ドライブシャフトには、前輪に取り付けられる前輪用ドライブシャフトと、後輪に取り付けられる後輪用ドライブシャフトとがある。前輪用ドライブシャフトのアウトボード側の固定式等速自在継手は、操舵輪である前輪に取り付けられるため、最大作動角が大きいもの(例えば45°以上)が使用される。一方、後輪用ドライブシャフトのアウトボード側の固定式等速自在継手は、操舵されない後輪に取り付けられるため、前輪用ドライブシャフトの固定式等速自在継手よりも最大作動角が小さいもので足りる。
【0010】
図7に、後輪用ドライブシャフト専用の低作動角の固定式等速自在継手3が最大作動角(20°)を取った状態を示し、図8に、前輪用ドライブシャフトにも適用可能な高作動角の固定式等速自在継手3’が最大作動角(47°)を取った状態を示す。これらの図から明らかなように、固定式等速自在継手を後輪用ドライブシャフト専用として最大作動角を小さくすることにより、外側継手部材に対するボールの軸方向移動量が小さくなるため、外側継手部材のトラック溝の軸方向長さ、特に、継手中心から外側継手部材のマウス部の開口側端面までの軸方向長さを短くすることができる。これにより、最大作動角の小さい本発明品{図5(A)の上半分参照}は、最大作動角の大きい従来品{図5(A)の下半分参照}よりも、外側継手部材の球面状の内周面の開口端における内径側への迫り出しが減じられ、外側継手部材の開口端の内径を大きくすることができる。これにより、上記のように、外側継手部材の内周面の開口端における直径を、保持器を軸方向から見たときのポケットの周方向中央部における外径よりも大きくすることが可能となる。
【0011】
上記の固定式等速自在継手は、最大作動角を20°以下とすることが好ましい。
【0012】
本発明は、例えば、ゼッパ型の固定式等速自在継手、具体的には、外側継手部材のトラック溝の曲率中心と内側継手部材のトラック溝の曲率中心とがそれぞれ継手中心に対して軸方向反対側に等距離だけオフセットした固定式等速自在継手に適用することができる。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明によれば、固定式等速自在継手のより一層の軽量・コンパクト化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】後輪駆動車の動力伝達機構を概略的に示す平面図である。
図2】後輪用ドライブシャフトの断面図である。
図3】(A)は、上記後輪用ドライブシャフトに組み込まれた摺動式等速自在継手の縦断面図{(B)図のX−X線における断面図}であり、(B)は同横断面図{(A)図の継手中心平面における断面図}である。
図4】(A)は、上記後輪用ドライブシャフトに組み込まれた固定式等速自在継手の縦断面図{(B)図のY−Y線における断面図}であり、(B)は同横断面図{(A)図の継手中心平面における断面図}である。
図5】(A)は、固定式等速自在継手の縦断面図であり、上半分が本発明品、下半分が従来品を示す。(B)は、固定式等速自在継手の継手中央平面における横断面図であり、上半分が本発明品、下半分が従来品を示す。
図6】固定式等速自在継手の内側継手部材及び保持器の縦断面図であり、上半分が本発明品、下半分が従来品を示す。
図7】本発明品に係る固定式等速自在継手が最大作動角(20°)を取った状態を示す断面図である。
図8】従来品に係る固定式等速自在継手が最大作動角(47°)を取った状態を示す断面図である。
図9】(A)は、本発明品の保持器のポケット面とボールとの接点の軌跡であり、(B)は、従来品の保持器のポケット面とボールとの接点の軌跡である。
図10】(A)は、本発明品の外側継手部材の内周に保持器を組み込む様子を示す縦断面図であり、(B)は、(A)図を軸方向から見た正面図である。
図11】(A)は、従来品の外側継手部材の内周に保持器を組み込む様子を示す縦断面図であり、(B)は、(A)図を軸方向から見た正面図である。
図12】本発明品の固定式等速自在継手にボールを組み込む様子を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0016】
図1に、独立懸架式の後輪駆動車(例えばFR車)の動力伝達機構を示す。この動力伝達機構では、エンジンEから出力された回転駆動力が、トランスミッションM及びプロペラシャフトPSを介してデファレンシャルギヤGに伝達され、そこから左右の後輪用ドライブシャフト1を介して左右の後輪(車輪W)に伝達される。
【0017】
後輪用ドライブシャフト1は、図2に示すように、インボード側(図中右側)に軸方向変位および角度変位の両方を許容する摺動式等速自在継手2を、アウトボード側(図中左側)に角度変位のみを許容する固定式等速自在継手3をそれぞれ設け、両等速自在継手2,3を中間シャフト4で連結した構造を具備する。インボード側の摺動式等速自在継手2はデファレンシャルギヤGに連結され、アウトボード側の固定式等速自在継手3は車輪Wに連結される(図1参照)。
【0018】
図3に示すように、摺動式等速自在継手2は、デファレンシャルギヤGに取り付けられる外側継手部材21と、中間シャフト4のインボード側端部に取り付けられる内側継手部材22と、外側継手部材21と内側継手部材22との間でトルクを伝達する8個のボール23と、8個のボール23を保持する保持器24とを備える。
【0019】
外側継手部材21は、軸方向一方{アウトボード側、図3(A)では左側}が開口したカップ状のマウス部21aと、マウス部21aの底部から軸方向他方{インボード側、図3(A)では右側}に延びるステム部21bとを一体に有する。マウス部21aの円筒状の内周面21cには、軸方向に延びる8本の直線状のトラック溝21dが設けられる。ステム部21bのインボード側端部の外周面には、デファレンシャルギヤGのスプライン穴に挿入されるスプライン21eが設けられる。尚、マウス部21a及びステム部21bは、同一材料で一体形成する他、これらを別体に形成した後、溶接等により接合してもよい。
【0020】
内側継手部材22の軸心には、中間シャフト4が挿入されるスプライン穴22cが設けられる。内側継手部材22の球面状の外周面22dには、軸方向に延びる8本の直線状のトラック溝22eが設けられる。すなわち、内側継手部材22は、スプライン穴22cを有する円筒部22aと、円筒部22aから外径に突出した複数の突出部22bとを一体に有し、複数の突出部22bの円周方向間にトラック溝22eが設けられる。複数の突出部22bの外径面が、内側継手部材22の球面状の外周面22dとなる。
【0021】
外側継手部材21のトラック溝21dと内側継手部材22のトラック溝22eとが半径方向で対向して8本のボールトラックが形成され、各ボールトラックにボール23が一個ずつ配される。トラック溝21d,22eの横断面形状は、楕円形状やゴシックアーチ形状とされ、これにより、トラック溝21d,22eとボール23とは、30〜45°程度の接触角をもって接触する、いわゆるアンギュラコンタクトとされる。尚、トラック溝21d,22eの横断面形状を円弧形状とし、トラック溝21d,22eとボール23とをいわゆるサーキュラコンタクトとしてもよい。
【0022】
保持器24は、ボール23を保持する8個のポケット24aを有する。8個のポケット24aは、全て同形状をなし、円周方向等間隔に配されている。保持器24の外周面には、外側継手部材21の円筒状の内周面21cと摺接する球面部24bと、球面部24bの軸方向両端部から接線方向に延びる円すい部24cとが設けられる。円すい部24cは、摺動式等速自在継手2が最大作動角を取ったときに、外側継手部材21の内周面21cと線接触して、それ以上作動角が大きくなることを規制するストッパとして機能する。保持器24の軸心に対する円すい部24cの傾斜角度は、摺動式等速自在継手2の最大作動角の1/2の値に設定される。保持器24の内周面には、内側継手部材22の球面状の外周面22dと摺接する球面部24dが設けられる。
【0023】
保持器24の外周面の球面部24bの曲率中心O24bと、保持器24の内周面の球面部24dの曲率中心O24d(すなわち、内側継手部材22の球面状外周面22dの曲率中心)は、継手中心O(s)に対して軸方向反対側に等距離だけオフセットしている。図示例では、保持器24の外周面の球面部24bの曲率中心O24bが継手中心O(s)に対してインボード側(継手奥側)にオフセットし、保持器24の内周面の球面部24dの曲率中心O24dが継手中心O(s)に対してアウトボード側(継手開口側)にオフセットしている。これにより、任意の作動角において、保持器24で保持されたボール23が常に作動角の二等分面内に配置され、外側継手部材21と内側継手部材22との間での等速性が確保される。
【0024】
図4に示すように、固定式等速自在継手3は、車輪Wに取り付けられる外側継手部材31と、中間シャフト4のアウトボード側端部に取り付けられる内側継手部材32と、外側継手部材31と内側継手部材22との間でトルクを伝達する8個のボール33と、8個のボール33を保持する保持器34とを備える。
【0025】
外側継手部材31は、軸方向一方{インボード側、図4(A)では右側}が開口したカップ状のマウス部31aと、マウス部31aの底部から軸方向他方{アウトボード側、図4(A)では左側}に延びるステム部31bとを一体に有する。マウス部31aの球面状の内周面31cには、軸方向に延びる8本の円弧状のトラック溝31dが形成されている。各トラック溝31dは、マウス部31aの開口側端面まで延びている。すなわち、外側継手部材31のトラック溝31dとマウス部31aの開口側端面との間には、加工上必要な僅かな面取り部は設けられているが、従来品のように、ボールを組み込むために必要なテーパ面K1{図5(A)参照}は設けられていない。また、外側継手部材31の内周面31cの開口端には、従来品のように、中間シャフトに当接して固定式等速自在継手の最大作動角を規定するようなテーパ面K2{図5(A)参照}は設けられていない。ステム部31bの外周面には、車輪W側のスプライン穴に挿入されるスプライン31eが設けられる。尚、マウス部31a及びステム部31bは、同一材料で一体形成する他、これらを別体に形成した後、溶接等により接合してもよい。また、マウス部31a及びステム部31bの軸心に、軸方向の貫通孔を形成してもよい。
【0026】
内側継手部材32の軸心には、中間シャフト4が挿入されるスプライン穴32cが設けられる。内側継手部材32の球面状の外周面32dには、軸方向に延びる8本の円弧状のトラック溝32eが設けられる。すなわち、内側継手部材32は、スプライン穴32cを有する円筒部32aと、円筒部32aから外径に突出した複数の突出部32bとを一体に有し、複数の突出部32bの円周方向間にトラック溝32eが設けられる。複数の突出部32bの外径面が、内側継手部材32の球面状の外周面32dとなる。
【0027】
外側継手部材31のトラック溝31dと内側継手部材32のトラック溝32eとが半径方向で対向して8本のボールトラックが形成され、各ボールトラックにボール33が一個ずつ配される。トラック溝31d,32eの横断面形状は、楕円形状やゴシックアーチ形状とされ、これにより、トラック溝31d,32eとボール33とは、30〜45°程度の接触角をもって接触する、いわゆるアンギュラコンタクトとされる。尚、トラック溝31d,32eの横断面形状を円弧形状とし、トラック溝31d,32eとボール33とをいわゆるサーキュラコンタクトとしてもよい。
【0028】
外側継手部材31のトラック溝31dの曲率中心O31dと、内側継手部材32のトラック溝32eの曲率中心O32eは、継手中心O(f)に対して軸方向反対側に等距離だけオフセットしている。図示例では、外側継手部材31のトラック溝31dの曲率中心O31dが、継手中心O(f)に対してインボード側(継手開口側)にオフセットし、内側継手部材32のトラック溝32eの曲率中心O32eが、継手中心O(f)に対してアウトボード側(継手奥側)にオフセットしている。これにより、任意の作動角において、保持器34で保持されたボール33が常に作動角の二等分面内に配置され、外側継手部材31と内側継手部材32との間での等速性が確保される。
【0029】
保持器34は、ボール33を保持する8個のポケット34aを有する。8個のポケット34aは、全て同形状をなし、円周方向等間隔に配されている。保持器34の球面状の外周面34bは、外側継手部材31の球面状の内周面31cと摺接する。保持器34の球面状の内周面34cは、内側継手部材32の球面状の外周面32dと摺接する。保持器34の外周面34bの曲率中心(すなわち、外側継手部材31の球面状の内周面31cの曲率中心)及び内周面34cの曲率中心(すなわち、内側継手部材32の球面状の外周面32dの曲率中心)は、それぞれ継手中心O(f)と一致している。
【0030】
中間シャフト4は、図2に示すように、軸方向の貫通孔41を有する中空シャフトを使用することができる。中間シャフト4は、軸方向中央に設けられた大径部42と、軸方向両端に設けられた小径部43と、大径部42と小径部43とを連続するテーパ部44とを備える。中間シャフト4の小径部43には、ブーツ装着用の環状溝45及びスプライン46が設けられる。小径部43の外径は、環状溝45及びスプライン46を除いて一定とされる。尚、中間シャフト4は、中空シャフトに限らず、中実シャフトを使用することもできる。
【0031】
中間シャフト4のインボード側端部のスプライン46は、摺動式等速自在継手2の内側継手部材22のスプライン穴22cに圧入される。これにより、中間シャフト4と内側継手部材22とがスプライン嵌合によりトルク伝達可能に連結される。中間シャフト4のインボード側の端部には環状の凹溝が形成され、この凹溝に止め輪47が装着される。この止め輪47を内側継手部材22のインボード側(軸端側)から係合させることで、中間シャフト4と内側継手部材22との抜け止めが行われる。
【0032】
中間シャフト4のアウトボード側端部のスプライン46は、固定式等速自在継手3の内側継手部材32のスプライン穴32cに圧入される。これにより、中間シャフト4と内側継手部材32とがスプライン嵌合によりトルク伝達可能に連結される。中間シャフト4のアウトボード側の端部には環状の凹溝が形成され、この凹溝に止め輪47が装着される。この止め輪47を内側継手部材32のアウトボード側(軸端側)から係合させることで、中間シャフト4と内側継手部材32との抜け止めが行われる。
【0033】
上記の摺動式等速自在継手2及び固定式等速自在継手3は、後輪用ドライブシャフト専用であるため、前輪用ドライブシャフトにも使用可能であった従来品よりも最大作動角を小さく設定することができる。本実施形態では、摺動式等速自在継手2及び固定式等速自在継手3の最大作動角が、何れも20°以下に設定される。これにより、負荷容量を維持しながら、摺動式等速自在継手2及び固定式等速自在継手3の軽量・コンパクト化を図ることが可能となる。以下、固定式等速自在継手3の内部仕様について、詳しく説明する。
【0034】
下記の表1、図5及び図6に、本発明品に係る固定式等速自在継手3の内部仕様を、ボール径が等しい従来品(最大作動角47°の8個ボールのゼッパ型等速自在継手)と比較して示す。尚、図5及び図6の上半分は、本発明品に係る固定式等速自在継手3の断面図であり、下半分は、従来品に係る固定式等速自在継手3’の断面図である。従来品の各部位には、本発明品の各部位の符号に「’(ダッシュ)」を付した符号を付している。
【0035】
【表1】
【0036】
各パラメータの定義は、以下のとおりである。
【0037】
(1)ボールPCD(ボールのピッチ円径)PCDBALL:外側継手部材31のトラック溝31dの曲率中心O31d又は内側継手部材32のトラック溝32eの曲率中心O32eとボール33の中心とを結ぶ線分の長さ(外側継手部材31のトラック溝31dの曲率中心O31dとボール33の中心とを結ぶ線分の長さと、内側継手部材32のトラック溝32eの曲率中心O32eとボール33の中心とを結ぶ線分の長さとは等しく、この寸法をPCRと言う。)の2倍の値である(PCDBALL=2×PCR)。
(2)内輪トラック長さ(内側継手部材のトラック溝の軸方向長さ)WI・TRUCK:厳密には、内側継手部材32のトラック溝32eとボール33との接点軌跡の軸方向長さであるが、本明細書では、内側継手部材32の球面状の外周面32dの軸方向長さ、すなわち、外周面32dの軸方向両端から内径側に延びる端面間の軸方向距離のことを言う。
(3)内輪幅(内側継手部材の軸方向幅)W:内側継手部材32の最大軸方向寸法であり、図示例では、内側継手部材32の円筒部32aの両端面間の軸方向距離である。
(4)内輪肉厚(内側継手部材の半径方向の肉厚)T:継手中心平面P(継手中心Oを通り、軸線と直交する平面)におけるトラック溝32eの溝底とスプライン穴32cのピッチ円との半径方向距離である。
(5)スプラインPCD(内側継手部材のスプライン穴のピッチ円径)PCDSPL:内側継手部材32のスプライン穴32cと中間シャフト4のスプライン46との噛み合いピッチ円の直径である。
(6)外輪外径D:外側継手部材31の最大外径である。
(7)継手中心〜外輪開口端面長さW1:継手中心O(f)と外側継手部材31のマウス部31aの開口側端面(インボード側の端面)との軸方向距離である。
(8)保持器肉厚T:保持器34の継手中心平面Pにおける半径方向の肉厚である。
(9)保持器幅W:保持器34の最大軸方向寸法であり、図示例では保持器34の両端面間の軸方向距離である。
【0038】
以下、上記のような内部仕様に至った設計思想を詳しく説明する。
【0039】
固定式等速自在継手3では、作動角が大きくなるほど各ボール33に加わる最大荷重が大きくなるため、上記のように最大作動角を小さくすることで、各ボール33に加わる最大荷重が小さくなる。これにより、ボール33と接触する内側継手部材32の強度に余裕が生じるため、従来品と同等の耐久性を維持しながら、内側継手部材32の半径方向の肉厚を薄くすることができる{T<T’、上記表1の(4)参照}。このように内側継手部材32を薄肉化することで、負荷容量や耐久性の低下を招くことなく、内側継手部材32のトラック溝32eのピッチ円径、すなわち、トラック溝32eに配されるボール33のピッチ円径を従来よりも小さくすることができる{PCDBALL<PCDBALL’、上記表1の(1)参照}。これにより、固定式等速自在継手3を半径方向にコンパクト化して、軽量化を図ることができる。
【0040】
固定式等速自在継手3の最大作動角を小さくすることで、各ボール33に加わる最大荷重が小さくなり、ボール33と接触する保持器34の強度に余裕が生じるため、従来品と同等の耐久性を維持しながら、保持器34の半径方向の肉厚を低減することが可能となる{T<T’、上記表1の(8)参照}。また、図9(A)に示す本発明品(最大作動角20°)の保持器のポケット面Sとボールとの接点の軌跡Cと、図9(B)に示す従来品(最大作動角47°)の保持器のポケット面S’とボールとの接点の軌跡C’とから明らかなように、固定式等速自在継手3の最大作動角を小さくすることで、保持器34のポケット34a内におけるボール33の半径方向(図9の上下方向)の移動量が小さくなる。この観点からも、保持器34の半径方向の肉厚を低減することが可能となる。以上のように、保持器34の肉厚Tを薄くしながら、ボール33のピッチ円径PCDBALLを小さくすることにより、外側継手部材31及び内側継手部材32のトラック溝31d、32eの深さを確保してボール33のトラック溝エッジ部への乗り上げを防止しつつ、固定式等速自在継手3の軽量・コンパクト化を図ることができる。
【0041】
図7に、本発明品に係る固定式等速自在継手3が最大作動角(20°)を取った状態を示し、図8に、従来品に係る固定式等速自在継手3’が最大作動角(47°)を取った状態を示す。これらの図から明らかなように、本発明品における内側継手部材32のトラック溝32eとボール33との接点軌跡L1の長さは、従来品における内側継手部材32’のトラック溝32e’とボール33’との接点軌跡L1’の長さよりも短い。このように、固定式等速自在継手3の最大作動角を小さくすることで、ボール33の軸方向移動量が小さくなるため、内側継手部材32のトラック溝32eの軸方向長さを短くすることができる{WI・TRUCK<WI・TRUCK’、上記表1の(2)参照}。これにより、内側継手部材32を軸方向にコンパクト化して軽量化を図ることが可能となる。
【0042】
また、図7及び図8に示すように、本発明品における外側継手部材31のトラック溝31dとボール33との接点軌跡L2の長さは、従来品における外側継手部材31’のトラック溝31d’とボール33’との接点軌跡L2’の長さよりも短い。このように、固定式等速自在継手3の最大作動角を小さくすることで、外側継手部材31に対するボール33の軸方向移動量が短くなるため、外側継手部材31のトラック溝31dの軸方向長さ、特に、トラック溝31dの継手中心O(f)よりも開口側部分の軸方向長さ、具体的には、継手中心O(f)から外側継手部材31のマウス部31aの開口側端面までの軸方向長さを短くすることができる{W1<W1’、上記表1の(7)参照}。これにより、外側継手部材31を軸方向にコンパクト化して軽量化を図ることが可能となる。
【0043】
固定式等速自在継手3の最大作動角を小さくすることで、上記のように保持器34の強度に余裕が生じるため、従来品と同等の耐久性を維持しながら、保持器34の軸方向幅を小さくすることができる{W<W’、上記(9)参照}。これにより、保持器34を軸方向にコンパクト化して軽量化を図ることが可能となる。
【0044】
固定式等速自在継手3の最大作動角を小さくすることで、上記のように内側継手部材32の半径方向の肉厚Tを減じることができるため、内側継手部材32のスプライン穴32cを大径化することができる{PCDSPL>PCDSPL’、上記表1の(5)参照}。これにより、スプライン穴32cに挿入される中間シャフト4を大径化して、捩じり強度を高めることができる。また、固定式等速自在継手3の最大作動角を小さくすることで、上記のようにボール33のピッチ円径を縮小することができるため、外側継手部材31を小径化することができる。以上より、本発明品では、外側継手部材31の外径Dと内側継手部材32のスプライン穴32cのピッチ円径PCDSPLとの比D/PCDSPLを、従来品よりも小さくすることができる{D/PCDSPL<D’/PCDSPL’、上記表1の(6)参照}。これにより、固定式等速自在継手3の軽量・コンパクト化と、中間シャフト4の強度向上とを同時に達成することができる。
【0045】
また、上記のように内側継手部材32のスプライン穴32cを大径化することで、内側継手部材32のスプライン穴32cと中間シャフト4のスプライン46との嵌合部のピッチ円径が大きくなるため、スプライン歯同士の接触部の面圧が低減される。これにより、スプライン歯一つ当たりの面圧を維持しながら、内側継手部材32のスプライン穴32cの軸方向長さを短くすることができるため、内側継手部材32の円筒部32aの軸方向幅を短縮することができる。このように、内側継手部材32のトラック溝32eの軸方向長さを短くするだけでなく、スプライン穴32cの軸方向長さを短くすることで、内側継手部材32全体の軸方向幅Wを短くすることができる{W<W’、上記表1の(3)参照}。
【0046】
また、上記のように、外側継手部材31の継手中心O(f)よりも開口側部分の軸方向長さW1を短くすることで、球面状の内周面31cの開口端の内径側への迫り出しが減じられる。これにより、外側継手部材31の開口部の内径が大きくなるため、図10に示すように、外側継手部材31の内周面31cの開口端における直径D31cを、保持器34を軸方向から見たときのポケット34aの周方向中央部における外径D34bよりも大きくすることができる。また、外側継手部材31の球面状内周面31cの、隣接するトラック溝31d間領域の周方向長さL31cは、保持器34のポケット34aの周方向長さL34aよりも短い。この場合、外側継手部材31と保持器34とを同軸上に並べて配置し、保持器34のポケット34aの周方向間に設けられた柱部34dを外側継手部材31のトラック溝31dの周方向位置(好ましくは周方向中央)に配した状態で、保持器34の外周面34bのうち、外側継手部材31の球面状の内周面31cと対向する領域を、内周面31cの開口端よりも内径側に配することができる。これにより、保持器34を、外側継手部材31と同軸に配した状態で、外側継手部材31の内周面31cの開口端に干渉することなく、外側継手部材31の内周に組み込むことができる。
【0047】
また、図11に示す従来品のように、保持器104と外側継手部材101とを互いの軸線を直交させた状態で組み付ける場合、外側継手部材101の内部には、軸線を直交させた状態の保持器104を収容できる空間を確保する必要がある。具体的には、図11(A)に示すように、外側継手部材101の内底面101fは、内周面101cを延長した仮想球面Q’よりも奥側に配する必要がある。これに対し、図10に示す本発明品のように、保持器34と外側継手部材31とを互いの軸心を一致させた状態で組み付ければ、外側継手部材31の内部には、軸線を直交させた保持器34を収容可能な空間を設ける必要がないため、図11に示す従来品よりも外側継手部材31の内部空間を小さく(浅く)することができる。具体的には、図10(A)に示すように、外側継手部材31の内底面31fを、外側継手部材31の内周面31cを延長した仮想球面Qと干渉する位置まで継手開口側(インボード側)に寄せて配することができる。これにより、外側継手部材31の軸方向寸法を縮小して軽量化を図ることができる。
【0048】
また、本発明品に係る固定式自在継手3にボール33を組み込む際には、図12に示すように、外側継手部材31と内側継手部材32とを最大作動角よりも大きい角度で屈曲させて、保持器34のポケット34aの一つを外側継手部材31から露出させる必要がある。このように、固定式自在継手3の作動角を大きくしたとき、両部材31,32の軸心を含む平面上にあるボール33(図12に現れているボール33)、及びこれらのボール33と位相が90°異なるボール33は、作動角0°のときと位相(すなわち、保持器34に対する周方向位置)は変わらない。一方、これらの4個のボール33の周方向間にあるボール33は、作動角0°の状態に対して位相がずれる(すなわち、保持器34に対して周方向に移動する)。従って、保持器34のポケット34aの周方向寸法は、上記のようなボール33の組み込み時の周方向移動を許容する大きさとする必要がある。
【0049】
しかし、全てのポケット34aの周方向寸法を大きくすると、ポケット34a間の柱部が細くなって強度が不足する恐れがある。このため、従来の固定式等速自在継手(8個ボールのゼッパ型等速自在継手)では、周方向寸法が大きいポケットと、周方向寸法が小さいポケットとを交互に配することで、柱部の強度を確保していた。この場合、まず、周方向寸法が大きい4個のポケットにボールを組み込んだ後、周方向寸法が小さい4個のポケットにボールを組み込むことで、全てのポケットにボールを組み込むことができる。しかし、ボールを組み込むポケットの順序を間違えると、ボールを組み込むことができなくなるため、組み込み作業に手間がかかる。
【0050】
上記の固定式等速自在継手3では、最大作動角を小さくすることで、ボールを組み込む際の作動角が従来品よりも小さくなるため、保持器34のポケット34aの周方向寸法を従来品よりも小さくすることができる。これにより、全てのポケット34aの周方向寸法を等しくしても、ポケット34a間の柱部の強度を確保することができる。この場合、どのポケット34aからボール33を組み込んでもよいため、ボール33の組み込み作業が容易になる。尚、本実施形態では、図12に示すように、固定式等速自在継手3にボール33を組み込む際、保持器34の外周面34bの継手奥側端部が外側継手部材31の底面31fに当接し、それ以上作動角が大きくなることが規制されている。
【0051】
以上のように、本発明は、等速自在継手の最大作動角を小さくすることにより得られる様々な条件を考慮して、等速自在継手の内部仕様を検討することで、従来品と同等のトルク負荷容量を維持しながら等速自在継手を軽量・コンパクト化したものである。これにより、後輪用ドライブシャフト専用として使用できる、軽量・コンパクトな固定式等速自在継手の新たなシリーズを構築することができる。
【0052】
本発明は、上記の実施形態に限られない。例えば、上記の固定式等速自在継手は、ボール33が8個である場合を示したが、ボールの数を増減させてもよく、例えば、6個、あるいは10個としてもよい。また、上記の実施形態では、固定式等速自在継手が、トラック溝の溝底が円弧のみからなるゼッパ型等速自在継手である場合を示したが、これに限らず、例えば、トラック溝の溝底が円弧及び直線で構成されたアンダーカットフリー型等速自在継手に本発明を適用してもよい。
【0053】
また、上記の固定式等速自在継手は、後輪のみで駆動する後輪駆動車(例えばFR車)の後輪用ドライブシャフトに限らず、四輪駆動車の後輪用ドライブシャフト(特に、後輪が主駆動輪となる四輪駆動車)にも用いることができる。尚、SUV車は車輪の上下動が大きく、ドライブシャフトの角度変位が大きいため、上記のような低作動角の固定式等速自在継手は適用できない場合がある。従って、上記の固定式等速自在継手は、後輪駆動あるいは四輪駆動の乗用車の後輪用ドライブシャフトに適用することが好ましい。
【符号の説明】
【0054】
1 後輪用ドライブシャフト
2 摺動式等速自在継手
21 外側継手部材
22 内側継手部材
23 ボール
24 保持器
3 固定式等速自在継手
31 外側継手部材
31d トラック溝
32 内側継手部材
32c スプライン穴
32e トラック溝
33 ボール
34 保持器
34a ポケット
4 中間シャフト
31c 外側継手部材の内周面の開口端における直径
34b 保持器を軸方向から見たときのポケットの周方向中央部における外径
O 継手中心
Q 外側継手部材の内周面を奥側に延長した仮想球面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12