(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、気候変動や地球温暖化の懸念から、多くの国が温室効果ガス排出量削減について検討している。
【0003】
スマートグリッド用途および輸送用途のためのバッテリエネルギー貯蔵システム(Battery Energy Storage System。以下、BESSと略す。)は、一般に、複数の電池セル、電力エレクトロニクス装置、電池セル温度を制御する冷却システム、および電池管理システムを有しており、システムを安全な動作状態に保っている。このような冷却システムを有する電池システムの場合、冷却システムがセル温度を所定の最大値以下に保つように設計および制御されている。
【0004】
また近年、電池システムのサイズと重量もより小型、軽量化することが求められている。この電池システムの小型化及び軽量化のためには、冷却システムを削減することが1つの解決策となっている。そのため、強制冷却機構(冷却システム)を有しない、いわゆる自然冷却電池システムに対しての需要が高まっている。
【0005】
このような自然冷却の電池システムでは、動作条件または周囲条件に応じては、冷却性能が十分でないため、温度が最大許容値まで上昇してしまうことが予想される。特に電池セルの温度が限界値まで達すると、電池セルの温度が低下するまでの間、充放電プロセスを停止する必要があり、その結果、電池システムの利用率は低くなってしまう。
【0006】
上記課題を考慮して、電池セル温度を使用制限温度以下に保ち、電池システムが充放電プロセスを停止する頻度を低下させること、および仮に充放電プロセスが停止したとしても復帰までの時間短縮化する電池システムの提供が要求されている。
【発明を実施するための形態】
【0015】
≪実施例1≫
図1は、インバータ2を介して負荷3に結合された自然冷却用電池システム1の概略図を示しており、インバータ2および電池システム1の両方は、上位システムコントローラ4によって監視されている。電池システム1は、電池セル101、電池管理システム102、電流センサ103、各電池セルの電圧を計測する電圧測定回路104、複数個直列に接続された電池セル101の総電圧を測定する電圧センサ105、温度センサ106、リレー107と有している。電池システム1は双方向に情報を送信できる通信ケーブルを介して上位システムコントローラ4に接続されている。
【0016】
自然冷却用電池システム1は、電池セル101の温度を使用制限温度T
limit以下に維持するためのファンや冷却プレートなどの冷却装置を備えていない。そのため、充放電プロセス中、電池セル101の温度は、電気化学反応、相変化、ジュール熱および周囲条件影響によって大きく変化する。特に充放電電流は電池セルの温度に大きく影響する。
【0017】
本発明では電池セル101を流れる電流を制限することによって、急峻な温度上昇を低減し、電池セル101の温度を使用制限温度以内に保つことができる。
【0018】
続いて電池管理システム102の内容について説明する。
図2は、電池管理システム102のブロック図を示すものである。電池管理システム102は、電池状態演算部501と、電流制限演算部502とを有する。電池状態演算部501は、電流センサ103から実電流Iを、電圧センサ105から全閉回路電圧(Closed Circuit Voltage。以下、CCVと略す。)を、温度センサ106から電池セル温度情報を受け取り、開回路電圧(Open Circuit Voltage。以下、OCVと略す。)、分極電圧Vp、充電状態(State of Charge、以下SOCと略す)、劣化状態(State of Health、以下SOHと略す)等の実際の電池状態を算出する。そして電流制限演算部502には、実電流I、全閉回路電圧CCV、電池セル温度、外部温度T
ambient及び電池状態演算部501からの情報が入力され、充放電電流指令が上限電流値を超えないようにI
limitを算出して上位コントローラ4に送信する。
【0019】
続いて電池状態演算部501の内容について説明する。
図3は、電池状態演算部501のブロック図の一例である。電池状態演算部501は、電池モデル部601と状態検出部602からなる。電池モデル部601は、電池セルの等価回路を有し、その中の情報として電池システム1の構成、すなわち直列数や1つのストリング中の接続セル数、並列ストリングの数などの情報が含まれている。
【0020】
また電池モデル部601は、電流センサ103、電圧センサ105、温度センサ106から実電流値I、総電圧値、電池セルの温度値情報を受信し、電池セル101の開放電圧OCV、分極電圧V
p、充電状態SOCを算出する。
【0021】
電池セル101は、動作状態および環境条件に応じて、容量劣化および内部抵抗の増加が発生する。そのため、状態検出ユニット602は、入力情報として電池モデル部601に入力される情報と同じ情報(電流センサ103、電圧センサ105、温度センサ106からの情報)を受け取り、電池セルの実際の劣化条件である容量劣化情報(SOH
Q)および内部抵抗増加情報(SOH
R)を推定して出力する。
【0022】
図4は、電池モデル部601に実装される電池セル等価回路の一例を示す。電池セル等価回路は、内部抵抗R604と直列に接続された開放電圧源(V
OC)603と、分極現象をモデル化するためのRC並列回路である容量回路605と抵抗回路606を含む。本実施例では当該電池モデルを使用して開放電圧OCV、分極電圧V
p、充電状態SOCを算出した。
【0023】
続いて電流制御演算部502の詳細について説明する。本発明の特徴はこの電流制御演算部502にあり、この部分で複数の定電流に対応する複数の温度上昇予測(仮想情報)が算出されることとなる。
図5は、電流制御演算部502のブロック図である。電流制御演算部502は、電池状態計算部607、温度モデル部608、メモリ部609と、最適条件演算部610とを有する。具体的な制御や演算については
図6を用いて説明する。
【0024】
図6は、電流制限演算部502が許容最大充放電電流I
limitを算出する手順を詳細に説明するフローチャートである。
【0025】
まず第1のステップS1は、電流制御演算部502が電流センサ103、電圧センサ105、温度センサ106及び電池状態演算部501から実際のバッテリ情報である実電圧V、実電流I、電池セル温度T
cell、電池システムの周囲温度T
ambient、および電池状態演算部501で演算された充電状態SOC、容量劣化情報SOH
Q、内部抵抗増加情報SOH
Rを取得する。
【0026】
続いて、電池状態計算部607では、0からシステムの最大電流Imaxとの間に含まれる複数の仮想電流I
i(1≦i≦p、i及びpは整数で、pは任意の固定値)と、複数の仮想タイムウィンドウをΔt
j>0(1≦j≦q、j及びqは整数で、qは任意の固定値)決定する。そのためにステップS2及びステップS3でiとjを初期化して1にする。そして、これらの値はメモリ部609に記憶される。
【0027】
なお、このタイムウィンドウは電流を流す時間と対応することとなり、この値の取り方によって、どの程度電流を流せば電池セル101の上限使用温度に達するのかが決まるため非常に重要な値となる。
【0028】
続いてステップS4で電池状態計算部607は、上述した実電流I、閉回路電圧CCV、充電状態SOC、劣化状態SOH、電池セル温度T
cellに加え、メモリ部609から出力される仮想電流I
i、仮想タイムウィンドウΔt
j取得する。そしてその後、t(現在)からt+Δt
j(未来)までの予想値である仮想電流I
iと仮想タイムウィンドウΔt
jとの組み合わせ(I
i、Δt
j)(1≦i≦p、1≦j≦q)について、それぞれ開回路電圧OCV
i,j、総電圧CCV
i,
j、充電電流SOC
i,
j、および分極電圧Vp
i,jを演算する。
【0029】
そしてステップS5では、温度モデル部608が、これらの予測結果を受け取り、仮想電流I
iが印加された場合の電池セル101の熱的挙動を予測する。
【0030】
このとき温度モデル部608は、温度T
i,j(t)= T(I
i,t+Δt
j)と温度の時間変化の微分値(温度勾配)であるT’
i,
j(t)= dT / dtを計算する。
【0031】
そして実際の温度を初期値として、仮想タイムウィンドウΔt
jの間に仮想電流I
i(定電流)を印加した場合の熱的挙動を計算する。一例として、電池セル101の熱的挙動は、(数1)のエネルギー平衡方程式を解くことによって得られる。
【0033】
続いてステップS6に進み、温度T
i,jと温度勾配T’
i,
jがメモリ部609に格納される。そしてステップS6aに進みjがqを比較し、jがqより小さい(j+1>qを満たさない)場合にはステップS4の前に戻りjの値にj+1を代入して再度ステップS4からステップS6までを繰り返す。一方でjがqより大きい(j+1>qを満たす)場合、ステップS6bに進み、iの値でもjと同様の計算(iの場合にはi+1>pか否か)を計算する。そして全ての予測結果T
i,
j(t)、T’
i、j(t)、1≦i≦p、1≦j≦qがメモリS6に格納されることになる。なお、ステップS6aとステップS6bの処理は入れ替えることも可能であり、処理装置の能力が高い場合には同時にステップS6aとステップS6bの処理をすることも可能である。
【0034】
続いて最適条件演算部610の処理を説明する。ステップS6bからステップS7に進み、最適条件演算部610には、全ての予測結果と使用制限温度T
limitが入力される。そして、最適条件演算部610は、メモリ部609に格納されている全組み合わせ(I
i、Δt
j)(1≦i≦p≦j≦q)の中から1つの組み合わせ(I
i0、Δt
j0)を選択し、例えば下記数2を満たすようI
i0を計算する。
【0036】
そして絶対充放電電流制限I
limitが、I
i0に等しく設定される。
【0037】
最後に、ステップS8で記憶部609から全ての温度T
i,
j(t)、温度勾配T’
i,j(t)、1≦i≦p、1≦j≦qがクリアされて本フローが終了する。
【0038】
図7は本発明を適用した場合の結果を示すものである。それぞれ、tからt''までの電流制限の変化(上図)とその時の電池セル101温度の変化(下図)を示す図である。
図7(a)は現在の時刻tの時の図を示すものであり、実線部は今までの電流履歴や温度履歴を示し、二点鎖は使用制限温度を示すものである。
図6で説明した制御を用いて、現時刻tの電流値Iを仮想電流I
1、I
i、・・・I
pに変化させた仮想値(点線部)とした場合の電池セル101の温度変化を表すものである。なお、仮想電流I
1は仮想の温度変化T
1,1(t)に、仮想電流I
iは仮想の温度変化T
i,j(t)に、仮想電流I
pは仮想の温度変化T
p,q(t)に対応している。
【0039】
図7(a)では時間tにおいて、求められる出力要求(たとえばt+Δt
1まで大きな電流を流したいという要求)から最適条件演算部610によって得られる最適解が(I
1、Δ
t1)となった場合を示している。そして
図7(b)のt’に至るまでのしばらくの間、充放電電流はI
1に制限される。
【0040】
一方で充放電パターンによっては、電流がI
1に制限された場合であっても、想定した以上に内部抵抗が増加し、温度が急激に上昇し始める可能性がある。この場合には制限電流をI
1としていたのでは電池セル101の温度が使用制限温度T
limitを超えてしまう。そのため
図7(b)に示すように時刻t’で再度
図6の処理が行われ、時刻t’+Δt
jまで電流を流す要求があった場合、使用制限温度T
limitを超えないように仮想電流I’
iを選択して充放電電流Iをしばらくの間I’
iに制限する。そして、やはり同様にt’’までの間に想定した以上に電池セル101の温度が急激に上昇した場合(たとえば外部温度が急激に上がった場合など)、制限電流をI’
iとしていたのでは電池セル101の温度が使用制限温度T
limitを超えてしまう。そのため
図7(c)に示すように時刻t’’で再度
図6の処理が行われ、時刻t’’+Δt
qまで電流を流す要求があった場合、制限温度T
limitを超えないように仮想電流I’’
pを選択して充放電電流Iをしばらくの間I’’
pに制限する。以後、この繰り返しにより、極力高い出力を出しつつも制限温度T
limitを超えない電池制御を提供することができる。本発明の電流制限方法を用いることによって、温度勾配が減少し、それによって制限値Tlimitに達するリスクが制限される。なお、本
図7では、電池セル101の利用率が最大となる仮想電流を選択するようにしたが、要求によっては利用率が最大となる仮想電流を選択する必要はない。この場合には電池が不測の温度上昇によってより電池101が停止してしまう可能性は低くなる。
【0041】
以上、簡単に本発明についてまとめる。
【0042】
本発明の電池システム1は、複数の電池セル101と、電池セル101の充放電電流を制御する制御回路102と、を有し、制御回路102は、温度情報(T
cellやT
ambient)、充放電電流(I、I
i)、およびタイムウィンドウの時間幅(Δt
j)に基づいて複数の温度上昇予測を行い、
当該制御回路102は、前記温度上昇予測のうち前記電池セルの使用制限温度を超えない温度上昇予測に対応する充放電電流(I
i)を選択する。このような構成にすることによって、将来の充電/放電電流は予測不可能であったとしても電池セル101が使用制限温度を超えず、電池システムが充放電プロセスを停止する頻度を低下させること、および仮に充放電プロセスが停止したとしても復帰までの時間短縮化した電池システムを提供することが可能となる。
【0043】
また、本発明に記載の電池システム1では、温度センサ106、電流センサ103、および電圧センサ105を有し、制御回路102が、電池セルの充電状態SOC、劣化状態SOH、およびその他の電池パラメータを計算するための演算部501を有する。このような構成にすることによって、電池モデルを使用したより正確な熱的挙動の予測が可能となる。
【0044】
また、本発明に記載の電池システム1は、一具体例として、制御回路102が、複数の電流情報と、複数のタイムウィンドウの時間幅とを有するメモリ部609を有し、電流情報I、タイムウィンドウの時間幅Δt及び現在の動作状況に基づいて複数の温度上昇予測を行う。
【0045】
また、本発明に記載の電池システム1は、制御回路102が、複数の温度上昇予測の中で電池セル101を使用制限温度以下に保ち、かつ電池セル101の利用率を増加させる温度上昇予測を選択する最適条件演算部610を有する。このようにすることによって、電池セル101の利用率を最大化しつつ使用制限温度に達することがなくなり、電池101の利用率を最大化することと使用制限温度に到達しないようなバランスを取ることが可能となる。
【0046】
≪実施例2≫
続いて実施例2について説明する。ハイブリッド電気自動車などの輸送用途では、予測運転時間、運転パターン、ユーザー運転スタイル、平坦/斜面道路、気象情報などの追加情報がカーナビゲーションシステムから利用可能になる場合がある。
【0047】
これらの情報データは、電流制限演算部502のメモリ部610に送信することができ、複数の温度予測において考慮すべきΔt
jのセットをより良く選択するために使用することができる。
【0048】
このような情報を用いることによって、より最適条件を演算する精度を向上させることができる。
【0049】
≪実施例3≫
続いて実施例3について説明する。例えば、太陽電池発電所の出力電力を平滑化するために電池システムが設置されている電力網アプリケーションでは、太陽光発電出力を1日前に予測することができ、電池システムの充放電要件が予期可能である。
【0050】
異なる電流制限値とタイムウィンドウ時間値に基づいて複数の温度予測を実行し、最適化することができる。その結果、電流制限スケジュールを取得し、より正確な温度制御を行うことができる。
【0051】
以上、本発明について簡単にまとめる。
【0052】
本発明は、電流限界値が動作条件および周囲条件によって動的に変化することを特徴とする。つまり、電流制限値が、T
limitとT
cellの差のみに依存するのではなく、制御のタイムウィンドウの時間幅によっても最適条件が変化する。そのため、本発明では最適化条件演算部とそのタイムウィンドウに応じて逐次的に最適な条件が選択されることによって、電池セル101の温度制御をより正確に行うことができる。また、本発明は冷却制御をしないような自然冷却システムにおいて特に効果を発揮する。
【0053】
また、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。 本発明ではいくつかの変形が考えられる。
【0054】
一例として、温度モデル部608は、(数1)の本発明に示した温度モデル以外のモデルを使用することも可能である。
【0055】
また、電池状態演算部607は必ずしも電池状態演算部501と異なっている必要はなく、例えば電池状態演算部501のみを用いてもよい。
【0056】
また、温度モデル部608に必要とされる入力は、本発明に記載されたものに限られるものではなく、電池情報に関連する他の入力値を用いてもよい。
【0057】
また、本発明は、自然冷却された電池システムに限定されない。この方法は、強制冷却された電池システムでも実施することができ、冷却システムでより電池制御システムの信頼性を上げる場合や、システムのランニングコストを低減するために使用することができる。
【0058】
本発明によれば、電池管理システムにおいて、BESSの利用率を最大化し、しかも電池セル温度を使用制限温度以下に保つことが可能となる。
【0059】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。例えば、前記した実施の形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。さらに、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。