特許第6863797号(P6863797)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6863797
(24)【登録日】2021年4月5日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】人工衛星及びデブリリムーバ
(51)【国際特許分類】
   B64G 1/24 20060101AFI20210412BHJP
【FI】
   B64G1/24 400
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-69839(P2017-69839)
(22)【出願日】2017年3月31日
(65)【公開番号】特開2018-171947(P2018-171947A)
(43)【公開日】2018年11月8日
【審査請求日】2019年8月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100205350
【弁理士】
【氏名又は名称】狩野 芳正
(74)【代理人】
【識別番号】100117617
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 圭策
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 宏
(72)【発明者】
【氏名】星野 智裕
【審査官】 立花 啓
(56)【参考文献】
【文献】 特表2014−520724(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64G 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
姿勢検知センサシステムとメインコントローラと姿勢制御システムとを搭載した衛星本体と、
デブリリムーバ
とを具備する人工衛星であって、
前記姿勢検知センサシステムは、当該人工衛星の姿勢の検知に用いられる姿勢データを取得し、
前記姿勢制御システムは、当該人工衛星の運用の際、当該人工衛星の姿勢を制御するように構成され、かつ、当該人工衛星の運用が終了した後、動作を停止するように構成され、
前記メインコントローラは、当該人工衛星の運用が終了した後、当該人工衛星を減速して軌道高度を下げる又は大気圏に再突入させるための超低高度移動シーケンスの開始を判断し、前記超低高度移動シーケンスを開始した後、前記デブリリムーバに起動信号を供給するように構成されており、
前記デブリリムーバは、前記超低高度移動シーケンスの実行に専用に用いられる装置であり、前記超低高度移動シーケンスが開始されるまでは推力を発生せず、前記超低高度移動シーケンスが開始された後、前記起動信号に応答して、当該人工衛星に規定された基準軸に対して固定された特定の推力方向に推力を発生するように構成された推力発生装置を備えており、
前記メインコントローラは、前記超低高度移動シーケンスの実行において、前記姿勢検知センサシステムから前記姿勢データを受け取り、前記姿勢データに基づいて、前記推力発生装置の前記推力方向が当該人工衛星を減速させる方向の姿勢を当該人工衛星が取っているか否かを判断し、前記推力方向が当該人工衛星を減速させる方向の姿勢を当該人工衛星が取っていると判断したときに前記推力発生装置に推力を発生させるように前記起動信号を生成する
人工衛星。
【請求項2】
請求項1に記載の人工衛星であって、
前記メインコントローラは、前記超低高度移動シーケンスを開始した後は、地上に設けられて当該人工衛星を管制する地上局から独立して前記超低高度移動シーケンスを実行するように構成された
人工衛星。
【請求項3】
請求項1に記載の人工衛星であって、
前記メインコントローラは、前記超低高度移動シーケンスが開始された後、所定の時間間隔で、当該人工衛星の姿勢が前記推力発生装置の前記推力方向が当該人工衛星を減速させる方向に向く姿勢であるかの判断を前記姿勢データに基づいて行い、当該人工衛星の姿勢が前記推力発生装置の前記推力方向が当該人工衛星を減速させる方向に向く姿勢であると判断する毎に、一定の時間、前記推力発生装置に推力を発生させるように動作する
人工衛星。
【請求項4】
姿勢検知センサシステムとメインコントローラとを搭載した衛星本体と、
デブリリムーバ
とを具備する人工衛星であって、
前記姿勢検知センサシステムは、当該人工衛星の姿勢の検知に用いられる姿勢データを取得し、
前記メインコントローラは、当該人工衛星の運用が終了した後、当該人工衛星を減速して軌道高度を下げる又は大気圏に再突入させるための超低高度移動シーケンスの開始を判断し、前記超低高度移動シーケンスを開始した後、前記デブリリムーバに起動信号を供給するように構成されており、
前記デブリリムーバは、
前記超低高度移動シーケンスの実行に専用に用いられる装置であり、前記超低高度移動シーケンスが開始されるまでは推力を発生せず、前記超低高度移動シーケンスが開始された後、前記起動信号に応答して、当該人工衛星に規定された基準軸に対して固定された特定の推力方向に推力を発生するように構成された推力発生装置と、
前記推力発生装置に電力を供給する補助電源と
を備えており、
前記メインコントローラは、前記超低高度移動シーケンスの実行において、前記姿勢検知センサシステムから前記姿勢データを受け取り、前記姿勢データに応答して、前記推力発生装置の前記推力方向が当該人工衛星を減速させる方向の姿勢を当該人工衛星が取っているときに前記推力発生装置に推力を発生させるように前記起動信号を生成し、
前記補助電源は、前記衛星本体における前記姿勢検知センサシステム及び前記メインコントローラへの電力の供給が途絶したことを検出したときに、前記姿勢検知センサシステム及び前記メインコントローラに電力を供給するように構成された
人工衛星。
【請求項5】
打ち上げ前に人工衛星に連結され、前記人工衛星の運用が終了した後、前記人工衛星を減速して軌道高度を下げるため又は大気圏に再突入させるための超低高度移動シーケンスに専用に用いられるデブリリムーバであって、
前記人工衛星のフレームに当該デブリリムーバを機械的に連結する連結機構と、
前記人工衛星の衛星本体から起動信号を受け取るコントローラと、
前記人工衛星に規定された基準軸に対して固定された特定の推力方向に推力を発生するように構成された推力発生装置と、
補助電源
とを備え、
前記コントローラは、前記超低高度移動シーケンスの実行において、前記起動信号に応答して、前記推力発生装置の前記推力方向が前記人工衛星を減速させる方向に向く姿勢を前記人工衛星が取っているときに前記推力発生装置に推力を発生させ、
前記補助電源は、前記衛星本体において、前記人工衛星の姿勢を検知する姿勢検知センサシステム及び前記起動信号を生成するメインコントローラへの電力の供給が途絶したことを検出すると、前記メインコントローラと前記姿勢検知センサシステムに電力を供給するように構成された
デブリリムーバ。
【請求項6】
請求項5に記載のデブリリムーバであって、
前記コントローラは、前記超低高度移動シーケンスが開始された後、前記起動信号がアクティブになる毎に、一定の時間、前記推力発生装置に推力を発生させるように動作する
デブリリムーバ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工衛星及びデブリリムーバに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の宇宙開発の進展は目覚ましく、国家のみならず様々な事業体が宇宙開発に参入している。このような宇宙開発の結果、宇宙物体(space object)の数は、飛躍的に増加している。宇宙物体の中には、現にミッションの遂行に用いられるものもあるが、何ら有用な活動を行うことなく宇宙空間に存在しているものも少なくない。このような宇宙物体は、スペースデブリと呼ばれている。スペースデブリは、人工衛星その他の宇宙機の活動の脅威となるため、近年の宇宙開発においては、スペースデブリの数の増大が一つの問題となっている。
【0003】
スペースデブリの発生の要因には、様々なものがあるが、ミッションを完了した後に宇宙空間に残された人工衛星も、スペースデブリの相当の割合を占めている。このため、人工衛星を、そのミッションが完了した後にスペースデブリとして宇宙空間に残存しないようにするための技術の提供が求められている。
【0004】
なお、特開2015−174647号公報は、宇宙空間に存在する対象物に接着する接着部と、推進力を得るための推進部とを備え、該接着部で対象物に接着した状態で推進部によって対象物と移動することにより該対象物を所定の目標位置へと運搬する宇宙用装置、及び該宇宙用装置を用いてデブリを除去するデブリ除去システムを開示している。
【0005】
また、特表2014−520724号公報は、宇宙衛星を軌道変更させる及び/又は地球に帰還させる目的で、打ち上げ前に宇宙衛星に連結されるが宇宙衛星に対して独立な装置を開示している。当該装置は、制御手段と、制御手段に作動的に接続された、移動/撤去シーケンスを作動させるための手段と、制御手段によって作動され、宇宙衛星を宇宙空間から地球上の目標領域へ撤去する推進手段と、装置を宇宙衛星から独立させるための電力供給手段と、当該装置を打ち上げ前に宇宙衛星に機械的に連結する手段と、推進ベクトルの不整合を軽減する手段とを備えている。
【0006】
また、Spaceflight Industries社のウェブサイトには、打ち上げ宇宙機に接合して用いられ、ペイロードを増大させるペイロードアダプタが開示されている(http://www.spaceflight.com/sherpa/)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2015−174647号公報
【特許文献2】特表2014−520724号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】米国Spaceflight Industries社ウェブサイト http://www.spaceflight.com/sherpa/
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明の目的の一つは、ミッションが完了した人工衛星が、スペースデブリとして宇宙空間に残存することを防ぐための技術を提供することにある。本発明の他の目的及び新規な特徴は、以下の開示から当業者には理解されよう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下に、「発明を実施するための形態」で使用される符号を付しながら、課題を解決するための手段を説明する。これらの符号は、「特許請求の範囲」の記載と「発明を実施するための形態」との対応関係の一例を示すために付加されたものである。
【0011】
本発明の一の観点では、人工衛星(1)が、姿勢検知センサシステム(11)とメインコントローラ(14)とを搭載した衛星本体(11〜15)と、デブリリムーバ(3)とを具備する。姿勢検知センサシステム(11)は、当該人工衛星(1)の姿勢の検知に用いられる姿勢データ(42)を取得する。メインコントローラ(14)は、当該人工衛星の運用が終了した後、当該人工衛星(1)を減速して大気圏に再突入させるための超低高度移動シーケンスの開始を判断し、超低高度移動シーケンスを開始した後、前記デブリリムーバに起動信号を供給するように構成されている。デブリリムーバ(3)は、超低高度移動シーケンスの実行に専用に用いられる装置であり、超低高度移動シーケンスが開始されるまでは推力を発生せず、超低高度移動シーケンスが開始された後、起動信号(41)に応答して、当該人工衛星(1)に規定された基準軸に対して固定された特定の推力方向に推力を発生するように構成された推力発生装置(31)を備えている。メインコントローラ(14)は、超低高度移動シーケンスの実行において、姿勢検知センサシステム(11)から姿勢データ(42)を受け取り、姿勢データ(42)に応答して、推力発生装置(31)の推力方向が当該人工衛星(1)を減速させる方向の姿勢を当該人工衛星(1)が取っているときに推力発生装置(31)に推力を発生させるように起動信号(41)を生成する。
【0012】
一実施形態では、メインコントローラ(14)は、超低高度移動シーケンスを開始した後は、地上に設けられて当該人工衛星(1)を管制する地上局から独立して超低高度移動シーケンスを実行するように構成されている。
【0013】
一実施形態では、メインコントローラ(14)は、超低高度移動シーケンスが開始された後、所定の時間間隔で、当該人工衛星(1)の姿勢が推力発生装置(31)の推力方向が当該人工衛星を減速させる方向に向くような姿勢であるかの判断を姿勢データ(42)に基づいて行い、当該人工衛星の姿勢が推力発生装置(31)の推力方向が当該人工衛星(1)を減速させる方向に向く姿勢であると判断する毎に、一定の時間、推力発生装置(31)に推力を発生させるように動作する。
【0014】
一実施形態では、デブリリムーバ(3)は、更に、推力発生装置(31)に電力を供給する補助電源(34)を備えている。補助電源(34)は、デブリリムーバ(3)への電力の供給をメインとしており、電源システム(15)から直接供給はされないシステムであり、独立した動作を可能としている。また、補助電源(34)は、衛星本体(11−15)における姿勢検知センサシステム(11)及びメインコントローラ(14)への電力の供給が途絶したことを検出したときに、姿勢検知センサシステム(11)及びメインコントローラ(14)に電力を供給するように構成されてもよい。
【0015】
本発明の他の観点では、打ち上げ前に人工衛星(1)に連結され、人工衛星(1)の運用が終了した後、人工衛星(1)を減速して大気圏に再突入させるための超低高度移動シーケンスに専用に用いられるデブリリムーバ(3)が提供される。当該デブリリムーバ(3)は、人工衛星(1)のフレーム(1a)に当該デブリリムーバ(3)を機械的に連結する連結機構(35)と、人工衛星(1)の衛星本体(11〜15)から起動信号(41)を受け取るコントローラ(32)と、人工衛星(1)に規定された基準軸に対して固定された特定の推力方向に推力を発生するように構成された推力発生装置(31)とを備えている。コントローラ(32)は、超低高度移動シーケンスの実行において、起動信号(41)に応答して、推力発生装置(31)の推力方向が人工衛星(1)を減速させる方向に向くような姿勢を人工衛星(1)が取っているときに推力発生装置(31)に推力を発生させる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ミッションが完了した人工衛星が、スペースデブリとして宇宙空間に残存することを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】一実施形態における人工衛星の構成を示すブロック図である。
図2】本実施形態の変形例における人工衛星及びデブリリムーバの構成を示すブロック図である。
図3】本実施形態における人工衛星及びデブリリムーバの動作の概要を示す概念図である。
図4】本実施形態においてミッションが正常に完了した場合の人工衛星及びデブリリムーバの動作を示すフローチャートである。
図5】本実施形態において人工衛星の運用継続が不可能になった場合の人工衛星及びデブリリムーバの動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。
図1は、一実施形態における人工衛星1の構成を示すブロック図である。本実施形態では、人工衛星1が、地上に設けられた運用管制地上局2による管制の下で運用されるように構成されている。
【0019】
人工衛星1は、姿勢検知センサシステム11と、姿勢制御システム12と、通信システム13と、メインコントローラ14と、電源システム15とを備えている。姿勢検知センサシステム11と、姿勢制御システム12と、通信システム13と、メインコントローラ14と、電源システム15とは、フレーム1aに収容されている。
【0020】
姿勢検知センサシステム11は、人工衛星1の姿勢を検知するために用いられる様々なデータを取得する。姿勢検知センサシステム11は、例えば、ジャイロセンサ、太陽センサ、地球センサ、恒星センサ、地磁気センサなどを含んでいてもよい。姿勢検知センサシステム11が取得したデータは、姿勢データ42としてメインコントローラ14に送られる。
【0021】
姿勢制御システム12は、メインコントローラ14による制御の下、人工衛星1の姿勢を制御する。姿勢制御システム12は、例えば、スラスタ、CMG(Control Moment Gyros)等を含んでいてもよい。
【0022】
通信システム13は、運用管制地上局2との間で通信を行う。通信システム13は、例えば、アンテナ21、ダイプレクサ22及び送受信機23を含んでいてもよい。アンテナ21は、運用管制地上局2からの信号を受け取り、また、運用管制地上局2に信号を送信する。ダイプレクサ22は、アンテナ21の送信、受信を切り換える。送受信機23は、運用管制地上局2に送信される信号の変調及び運用管制地上局2から受信した信号の復調を行う。
【0023】
メインコントローラ14は、人工衛星1に設けられた各機器の制御を行う。例えば、メインコントローラ14は、姿勢検知センサシステム11によって取得された姿勢データ42から人工衛星1の姿勢を特定し、人工衛星1の姿勢が目標姿勢になるように姿勢制御システム12を操作する操作信号を生成する。また、メインコントローラ14は、通信システム13を用いて運用管制地上局2からコマンドを受け取り、当該コマンドに応答して人工衛星1に設けられた各機器を制御する。更に、メインコントローラ14は、人工衛星1に設けられた各機器の状態を監視し、各機器の状態を示すテレメトリデータを、通信システム13を用いて運用管制地上局2に送信する。また、メインコントローラ14は、与えられたミッションを遂行するように各機器の制御を行い、ミッションの遂行により得られたミッションデータを通信システム13を用いて運用管制地上局2に送信する。
【0024】
電源システム15は、人工衛星1に設けられた各機器(例えば、姿勢検知センサシステム11、姿勢制御システム12、通信システム13及びメインコントローラ14)の動作に必要な電力を供給する。電源システム15は、例えば、太陽電池パネル24、2次電池25及び電力制御器26を備えていてもよい。太陽電池パネル24は、太陽光を受けて電力を発生する。2次電池25は、打上げ前に充電された電力を供給すると共に、太陽電池パネル24によって発生された電力を蓄積する能力を有する。電力制御器26は、太陽電池パネル24による電力の発生、2次電池25への電力の蓄積、及び、電源システム15から各機器への電力の供給を制御する。
【0025】
本実施形態の人工衛星1には、更に、デブリリムーバ3が搭載される。デブリリムーバ3は、人工衛星1の運用が終了した後、人工衛星1を減速して人工衛星1を大気圏に再突入させるための専用の装置である。本実施形態において用いられるデブリリムーバ3は、人工衛星1を大気圏に再突入させる以外の用途には用いられない。当業者に周知であるように、人工衛星1が低軌道(例えば、高度が2000kmよりも低い軌道)に投入されている場合には、人工衛星1を減速させることで人工衛星1を大気圏に再突入又は超低高度(例えば、高度が300〜400kmあるいはこれよりも低い軌道)に移動させることができる。超低高度では、低軌道に比して大気抵抗が大きいため、超低高度に移動した人工衛星は大気抵抗により更に減速され、低軌道から移動しない場合に比してより早く大気圏に再突入することになる。このように、本実施形態のデブリリムーバ3は、人工衛星1を減速することで大気圏への再突入を促し、これにより、ミッションが完了した人工衛星1が、スペースデブリとして宇宙空間に残存することを防ぐ。
【0026】
なお、以下においては、人工衛星1のうちデブリリムーバ3以外の部分を「衛星本体」ということがある。衛星本体は、人工衛星1のうちミッションの遂行に関与する部分であり、本実施形態では、上述された姿勢検知センサシステム11、姿勢制御システム12、通信システム13、メインコントローラ14及び電源システム15を含んでいる。
【0027】
また、デブリリムーバ3が人工衛星1を減速して人工衛星1を再突入させる又は軌道高度を低下させて人工衛星1を超低高度に移動させるために行う動作を「超低高度移動シーケンス」ということがある。更に、デブリリムーバ3に「超低高度移動シーケンス」を実行させる人工衛星1の動作モードを「デオービットモード」ということがある。
【0028】
デブリリムーバ3は、人工衛星1のミッションの遂行に直接は関与しないので、小型、軽量であることが望まれる。加えて、デブリリムーバ3は、超低高度移動シーケンスの実行において、可能な限り自律的に(即ち、運用管制地上局2からの管制を受けず、運用管制地上局2から独立して)人工衛星1を再突入させる動作を行うことが望ましい。デブリリムーバ3が自律的に人工衛星1を再突入させる動作を行うように構成されていれば、ミッションの終了後に人工衛星1を管制する必要が無くなり、人工衛星1の運用が容易になる。
【0029】
このような観点から、本実施形態では、デブリリムーバ3が下記のように構成されている。本実施形態のデブリリムーバ3は、推力発生装置31とコントローラ32と補助電源33とを備えている。
【0030】
推力発生装置31は、人工衛星1を減速するための推力を発生する。本実施形態では、推力発生装置31は、人工衛星1に規定された基準軸に対して固定された特定の推力方向に推力を発生するように構成されている。推力発生装置31は、推力の方向を能動的に制御する制御機構を有していない。これは、推力発生装置31の構成を簡略化することで小型軽量化を容易にするためである。上記のように、デブリリムーバ3は、小型軽量であることが望ましく、小型軽量化及び接続の容易性を有することで人工衛星その他の宇宙機での幅広い利用が可能となり、スペースデブリの増大を抑える一つの可能性となる。推力方向が可変である推力発生装置31を用いると、推力発生装置31の推力方向を検知するセンサを設ける必要性が生じ、減速方向の計算等によりコントローラ32の演算量が増大する。更に、演算量の増大に伴う必要電力が増加する。これらは、デブリリムーバ3の小型軽量化を困難にする要因となり得る。推力発生装置31の推力方向の固定及びコントローラ32の計算の簡略化は、デブリリムーバ3の小型軽量化を容易としている。
【0031】
コントローラ32は、人工衛星1の衛星本体から、起動信号41を受け取り、推力発生装置31による推力の発生の制御を行う。ここで、起動信号41は、デブリリムーバ3に推力発生装置31による推力の発生を指示する信号である。
【0032】
本実施形態では、起動信号41は、人工衛星1の衛星本体のメインコントローラ14からデブリリムーバ3のコントローラ32に供給される。後述されるように、メインコントローラ14は、起動信号41を推力発生装置31の推力方向が人工衛星1を減速させる方向に向くような姿勢を人工衛星1が取っているときに推力発生装置31に推力を発生させるように生成する。
【0033】
補助電源33は、電力蓄積デバイス(例えば、2次電池、大容量キャパシタ)を備えており、超低高度移動シーケンスが実行されているときに、推力発生装置31とコントローラ32とに電力を供給する。補助電源33は、超低高度移動シーケンスを実行する際にデブリリムーバ3の各機器に電力を供給し、デブリリムーバ3の動作を担保する。
【0034】
詳細には、補助電源33は、超低高度移動シーケンスが開始されるまでは、電源システム15から電源ライン43(電源システム15からデブリリムーバ3に電力を供給する電力線)を介して電力を受け取り、電力蓄積デバイスに電力を蓄積する。再突入シーケンスが開始された後においては、補助電源33は、推力発生装置31及びコントローラ32に電力を供給し、デブリリムーバ3の動作を可能としている。ただし、何か不具合により電力供給が困難な場合には電源システム15からの供給が可能なシステム構成を採用してもよい。
【0035】
なお、図1には、デブリリムーバ3が人工衛星1に搭載されている構成(デブリリムーバ3の各機器の少なくとも一部が人工衛星1のフレーム1aの内部に位置している構成)が図示されているが、デブリリムーバ3が人工衛星1のフレーム1aの外部に位置するようにフレーム1aに連結されてもよい。この場合でも、デブリリムーバ3は、人工衛星1の打ち上げ前にフレーム1aに連結され、人工衛星1と共に打ち上げられる。
【0036】
図2は、このような構成のデブリリムーバ3を示している。デブリリムーバ3は、フレーム3aを備えており、デブリリムーバ3のうち推力発生装置31のノズル31aの一部分以外の部分が、フレーム3aに収容されている。フレーム3aには連結機構34が設けられており、連結機構34によりデブリリムーバ3が人工衛星1のフレーム1aに機械的に連結される。
【0037】
続いて、本実施形態における人工衛星1及びデブリリムーバ3の動作を説明する。図3は、本実施形態における人工衛星1及びデブリリムーバ3の動作の概要を示す概念図である。
【0038】
人工衛星1は、打ち上げられて所望の軌道に投入され、当該軌道において運用される。本実施形態では、人工衛星1は、いわゆる低軌道(例えば、高度が2000kmよりも低い軌道)に投入される。人工衛星1は、運用管制地上局2からコマンドを受け取って、所望のミッションを行い、ミッションデータを運用管制地上局2に送信する。また、人工衛星1は、ミッションの実行に当たり、人工衛星1の各機器の状態を示すテレメトリデータを運用管制地上局2に送信する。なお、デブリリムーバ3は人工衛星1の打ち上げ前に人工衛星1に搭載され、又は、連結されることに留意されたい。
【0039】
人工衛星1の運用を終了する場合(例えば、ミッションが完了した場合、又は、何らかの不具合によって人工衛星1の運用継続が不可能になった場合)、デブリリムーバ3の動作が開始され、人工衛星1が減速される。人工衛星1が減速されると、人工衛星1の軌道の高度が低下し、人工衛星1が大気圏に再突入する。これにより、人工衛星1が、スペースデブリとして宇宙空間に残存することが防止される。
【0040】
図4は、ミッションが正常に完了して人工衛星1の運用を終了する場合の人工衛星1及びデブリリムーバ3の動作を示すフローチャートである。
【0041】
人工衛星1は、所望の軌道に投入された後、所望のミッションを遂行する(ステップS01)。補助電源33は、人工衛星1がミッションを遂行している間は、電源システム15から電源ライン43を介して電力を受け取り、電力蓄積デバイスに電力を蓄積する。
【0042】
ミッションが遂行されて正常に完了すると、人工衛星1がデオービットモードに移行される(ステップS02)。詳細には、運用管制地上局2から人工衛星1にデオービットモードへの移行を指示するコマンドが送信され、メインコントローラ14は、当該コマンドに応答して、人工衛星1をデオービットモードに移行させる。
【0043】
人工衛星1がデオービットモードに移行すると、人工衛星1は、最低限の構成要素のみが動作する状態に移行する(ステップS03)。例えば、ミッションを遂行するための機器の動作は停止される。このとき、通信システム13の動作も停止してもよい。後述されるように、デブリリムーバ3は、運用管制地上局2から独立して動作するので、通信システム13の動作を停止してもデブリリムーバ3の動作には影響しない。また、姿勢制御システム12の動作も停止してもよい。下記の説明から理解されるように、デブリリムーバ3の動作は、人工衛星1の運用が終了した後は、人工衛星1の姿勢制御が十分に行われないことを想定している。よって、人工衛星1がデオービットモードに移行した場合には、姿勢制御システム12の動作を停止してもよい。
【0044】
更に、メインコントローラ14は、デオービットモードへの移行を指示するコマンドに応答して、超低高度移動シーケンスを開始する(ステップS04〜S06)。
【0045】
超低高度移動シーケンスが開始されると、メインコントローラ14は、姿勢検知センサシステム11から姿勢データ42を受け取る(ステップS04)。更に、メインコントローラ14は、姿勢データ42に基づいて、人工衛星1が、推力発生装置31の推力方向が人工衛星1を減速させる方向に向くような姿勢を取っているか判断する(ステップS05)。人工衛星1が、推力発生装置31の推力方向が人工衛星1を減速させる方向に向くような姿勢を取っていると判断したとき、メインコントローラ14は、起動信号41をアクティブにする。起動信号41がアクティブになったことを検知すると、デブリリムーバ3のコントローラ32は、推力発生装置31に一定時間だけ推力を発生させる(ステップS06)。このような動作では、推力発生装置31による推力の発生が断続的に行われることになる。
【0046】
ステップS04〜S06の動作は、人工衛星1が大気圏に再突入するまで繰り返し行われる。ステップS04〜S06の動作は、所定の時間間隔で行われてもよい。この場合、メインコントローラ14は、推力発生装置31の推力方向が人工衛星1を減速させる方向に向くような姿勢を人工衛星1が取っているかの判断を所定の時間間隔で行い、推力発生装置31の推力方向が人工衛星1を減速させる方向に向くような姿勢を人工衛星1が取っていると判断する毎に、起動信号41をアクティブにして推力発生装置31により推力を発生させる。
【0047】
このような動作によれば、推力発生装置31の構成を簡単化できるうえ、超低高度移動シーケンスにおけるコントローラ32の動作も簡単にすることができる。これは、デブリリムーバ3の小型軽量化に寄与する。
【0048】
超低高度移動シーケンスの実行の際には、人工衛星1の電源システム15から姿勢検知センサシステム11及びメインコントローラ14への電力の供給が途絶する可能性がある。補助電源33は、超低高度移動シーケンスが実行されている間、電源システム15による電力の供給を監視し、電源システム15から姿勢検知センサシステム11及びメインコントローラ14への電力の供給の途絶を検出した場合には、デブリリムーバ3の各機器(例えば、推力発生装置31及びコントローラ32)に加え、姿勢検知センサシステム11及びメインコントローラ14に電力を供給してもよい。
【0049】
上記のようにして超低高度移動シーケンスが実行されることにより、人工衛星1が徐々に減速される。これにより、人工衛星1の高度が徐々に低下し、人工衛星1は、大気圏に再突入する。このような動作により、ミッションが完了した人工衛星1が、スペースデブリとして宇宙空間に残存することが防止される。
【0050】
図5は、ミッションの遂行中に不具合が発生し、人工衛星1の運用継続が不可能になった場合の人工衛星1及びデブリリムーバ3の動作を示すフローチャートである。
【0051】
人工衛星1におけるミッションの遂行中(ステップS01)に不具合が発生し、運用管制地上局2の管制員がミッションデータやテレメトリデータから運用継続が不可能になったと判断した場合、運用管制地上局2から人工衛星1にデオービットモードへの移行を指示するコマンドが送信され、人工衛星1は、該コマンドに応答してデオービットモードに移行する(ステップS02)。
【0052】
このとき、メインコントローラ14は、人工衛星1に重大な故障を検出した場合、自律的に、デオービットモードに移行すると判断してもよい。例えば、通信システム13に重大な故障が発生し、運用管制地上局2との通信が不可能になったことを検出した場合、メインコントローラ14は、自律的に、人工衛星1をデオービットモードに移行させてもよい。
【0053】
人工衛星1がデオービットモードに移行すると、人工衛星1は、最低限の構成要素のみが動作する状態に移行する(ステップS03)。更に、メインコントローラ14は、自律的に、超低高度移動シーケンスを開始する(ステップS04〜S06)。超低高度移動シーケンスにおけるメインコントローラ14及びデブリリムーバ3の動作は、上述した通りである。
【0054】
このような動作によれば、ミッションの遂行中に不具合が発生した場合についても、人工衛星1が、スペースデブリとして宇宙空間に残存することが防止される。
【0055】
以上には、本発明の実施形態が具体的に記述されているが、本発明は、上記の実施形態に限定されない。本発明が種々の変更と共に実施され得ることは、当業者には理解されよう。
【符号の説明】
【0056】
1 :人工衛星
1a :フレーム
2 :運用管制地上局
3 :デブリリムーバ
3a :フレーム
11 :姿勢検知センサシステム
12 :姿勢制御システム
13 :通信システム
14 :メインコントローラ
15 :電源システム
21 :アンテナ
22 :ダイプレクサ
23 :送受信機
24 :太陽電池パネル
25 :2次電池
26 :電力制御器
31 :推力発生装置
31a :ノズル
32 :コントローラ
33 :補助電源
34 :連結機構
41 :起動信号
42 :姿勢データ
43 :電源ライン
図1
図2
図3
図4
図5