【実施例】
【0051】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0052】
<セリア−ジルコニア系複合酸化物の調製>
(1)プラセオジム添加パイロクロア型セリア−ジルコニア系複合酸化物(Pr添加パイロクロアCZ)の合成
硝酸セリウム六水和物129.7g、オキシ硝酸ジルコニウム二水和物99.1g、硝酸プラセオジム六水和物5.4g及び18%過酸化水素水36.8gをイオン交換水500ccに溶解させ、25%アンモニア水340gを用いて逆共沈法により水酸化物沈殿を得た。ろ紙で沈殿を分離し、得られた沈殿を乾燥炉にて150℃で7時間乾燥して水分を除去し、電気炉にて500℃で4時間焼成し、粉砕して、セリア−ジルコニア−プラセオジミア複合酸化物を得た。
【0053】
次に、得られた粉末を、加圧成型機(Wet−CIP)を用いて、2000kgf/cm
2の圧力を加えて成型してセリア−ジルコニア−プラセオジミア複合酸化物の成型体を得た。
【0054】
次に、得られた成型体を、活性炭を入れた黒鉛坩堝内で、Ar雰囲気下で、1700℃で5時間還元し、プラセオジム添加パイロクロア型セリア−ジルコニア系複合酸化物(Pr添加パイロクロアCZ)を調製した。得られたPr添加パイロクロアCZは、その後、電気炉にて500℃で5時間焼成した。
【0055】
(2)プラセオジム添加蛍石型セリア−ジルコニア系複合酸化物(Pr添加蛍石CZ)の合成
硝酸セリウム六水和物129.7g、オキシ硝酸ジルコニウム二水和物99.1g、硝酸プラセオジム六水和物5.4g及び18%過酸化水素水36.8gをイオン交換水500ccに溶解させ、25%アンモニア水340gを用いて逆共沈法により水酸化物沈殿を得た。ろ紙で沈殿を分離し、得られた沈殿を乾燥炉にて150℃で7時間乾燥して水分を除去し、電気炉にて900℃で5時間焼成して、プラセオジム添加蛍石型セリア−ジルコニア系複合酸化物(Pr添加蛍石CZ)を得た。
【0056】
実施例1
振動ミルを用いて、200g/バッチのPr添加パイロクロアCZを、二次粒子径(D50)が3μmになるように粉砕条件を設定して粉砕して、二次粒子径(D50)が3.3μmである実施例1のPr添加パイロクロアCZを調製した。
【0057】
実施例2
ストリームミルを用いて、200g/バッチのPr添加パイロクロアCZを、二次粒子径(D50)が5μmになるように粉砕条件を設定して粉砕して、二次粒子径(D50)が4.9μmである実施例2のPr添加パイロクロアCZを調製した。
【0058】
比較例1
振動ミルを用いて、200g/バッチのPr添加パイロクロアCZを、二次粒子径(D50)が1μmになるように粉砕条件を設定して粉砕して、二次粒子径(D50)が0.5μmである比較例1のPr添加パイロクロアCZを調製した。
【0059】
比較例2
ストリームミルを用いて、200g/バッチのPr添加パイロクロアCZを、二次粒子径(D50)が11μmになるように粉砕条件を設定して粉砕して、二次粒子径(D50)が11.2μmである比較例2のPr添加パイロクロアCZを調製した。
【0060】
比較例3
振動ミルを用いて、200g/バッチのPr添加蛍石CZを、二次粒子径(D50)が1μmになるように粉砕条件を設定して粉砕して、二次粒子径(D50)が1.0μmである比較例3のPr添加蛍石CZを調製した。
【0061】
比較例4
ストリームミルを用いて、200g/バッチのPr添加蛍石CZを、二次粒子径(D50)が5μmになるように粉砕条件を設定して粉砕して、二次粒子径(D50)が5.1μmである比較例4のPr添加蛍石CZを調製した。
【0062】
比較例5
ストリームミルを用いて、200g/バッチのPr添加蛍石CZを、二次粒子径(D50)が8μmになるように粉砕条件を設定して粉砕して、二次粒子径(D50)が10.9μmである比較例5のPr添加蛍石CZを調製した。
【0063】
<セリア−ジルコニア系複合酸化物の評価>
<X線回折(XRD)測定>
実施例1−2及び比較例1−5で得られたセリア−ジルコニア系複合酸化物を大気中1100℃で5時間加熱処理し(高温耐久試験)、処理後のセリア−ジルコニア系複合酸化物の結晶相をX線回折法により測定した。X線回折装置としてTTR−III((株)リガク製)を用いてX線回折パターンを測定し、I(14/29)値及びI(28/29)値を求めた。実施例1−2及び比較例1−2のセリア−ジルコニア系複合酸化物について得られた結果を表1に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
表1より、実施例1−2及び比較例1−2のセリア−ジルコニア系複合酸化物において、I(14/29)値がほぼ同等であることから、パイロクロアCZの二次粒子径(D50)が耐熱性に与える影響は小さく、実施例1−2のセリア−ジルコニア系複合酸化物は十分な耐熱性を有している。
【0066】
<酸素吸放出量の測定試験:OSC評価>
実施例1−2及び比較例1−5で得られたセリア−ジルコニア系複合酸化物の酸素吸放出量(OSC)を以下のようにして測定した。
【0067】
耐久試験は、1050℃で5時間加熱処理し、耐久試験中のガス組成は、8%−CO+10%−H
2O⇔20%−O
2+10%−H
2Oを15分毎に交互に切り替えた。
【0068】
更に耐久試験後の実施例1−2及び比較例1−5のセリア−ジルコニア系複合酸化物と、Pdを担持した(0.25重量%)Pd/Al
2O
3粉末を重量比1:1で物理混合し、得られた粉末を、加圧成型機(Wet−CIP装置)を用い、1000kgf/cm
2の圧力を加えて成型し、粉砕及び篩い分けして1mm角のペレットを作製した。
【0069】
固定床流通装置に3.0gのペレットを配置し、トータル流量15Lの評価用ガスを用いて試験を実施した。1%−O
2(N
2バランス)処理後2%−CO(N
2バランス)流通時の初期(0〜13秒)のCO
2発生量から、CO+1/2 O
2→CO
2の反応式に基づき、セリア−ジルコニア系複合酸化物から放出されたO
2量を算出し、初期の酸素吸放出量(OSC)を求めることで、酸素吸放出速度を評価した。なお、セリウムからの酸素の放出は2CeO
2→Ce
2O
3+1/2 O
2の反応式で表される。
【0070】
結果を
図1に示す。
図1は、実施例1−2及び比較例1−5のセリア−ジルコニア系複合酸化物の初期の酸素吸放出量(OSC)(棒グラフ)と、これらの複合酸化物を用いた排ガス浄化用触媒の最大酸素吸蔵量(Cmax)(折れ線グラフ)を示す。
図1(棒グラフ)より、蛍石構造を有するセリア−ジルコニア系複合酸化物(比較例3〜5)では、二次粒子径を制御しても初期の酸素吸放出量(OSC)は増加せず、ほぼ一定であるのに対し、パイロクロア構造を有するセリア−ジルコニア系複合酸化物(実施例1、2及び比較例1、2)では、二次粒子径(D50)の範囲を特定の範囲とすることで初期の酸素吸放出量(OSC)が有意に増加し、酸素吸放出速度が有意に向上することが示された。
【0071】
<エンジンベンチ評価>
実施例1−2及び比較例1−5のセリア−ジルコニア系複合酸化物を用いて排ガス浄化用触媒を調製し、評価した。
【0072】
(1)触媒の調製
触媒の材料として以下の材料を用いた:
実施例1−2及び比較例1−5のセリア−ジルコニア系複合酸化物
Al
2O
3:La
2O
3(1重量%)複合化Al
2O
3
ACZL:Al
2O
3(30重量%)、CeO
2(20重量%)、ZrO
2(45重量%)及びLa
2O
3(5重量%)の複合酸化物
Rh:貴金属含有量2.75重量%の硝酸ロジウム(Rh)水溶液((株)キャタラー製)
Pd:貴金属含有量8.8重量%の硝酸パラジウム(Pd)水溶液((株)キャタラー製)
ハニカム基材:875cc(600H/3−9R−08)のコージェライトハニカム基材((株)デンソー製)。
【0073】
触媒は以下のようにして調製した:
(a)下層:Pd(0.69)/ACZL(45)+Al
2O
3(40)(括弧内の数値は、基材容量に対するコート量(g/L)を示す)
ACZLと硝酸パラジウムとを用い、含浸法により、PdがACZLに担持されたPd/ACZLを調製し、これを蒸留水に懸濁させ、Al
2O
3及びAl
2O
3系バインダーを添加してスラリーを調製した。調製したスラリーを基材へ流し込み、ブロアーで不要分を吹き払い、基材壁面をコーティングした。コーティングには、基材容量に対して、Pdが0.69g/L、Al
2O
3が40g/L、ACZLが45g/L含まれるようにした。コーティング後、120℃に保持した乾燥機で2時間乾燥した後、500℃の電気炉で2時間焼成して、下層コートを作製した。
【0074】
(b)上層:Rh(0.10)/ACZL(110)+Al
2O
3(28)+実施例1−2及び比較例1−5のセリア−ジルコニア系複合酸化物(20)
ACZLと硝酸ロジウムとを用い、含浸法により、RhがACZLに担時されたRh/ACZLを調製し、これを蒸留水に懸濁させ、Al
2O
3及びAl
2O
3系バインダーを撹拌しながら添加し、最後に、実施例1−2及び比較例1−5の各セリア−ジルコニア系複合酸化物を添加して、対応する各スラリーを調製した。得られた各スラリーを、前記(a)によりコーティングを施した基材へ流し込み、ブロアーで不要分を吹き払い、基材壁面の下層コートをコーティングした。コーティングには、基材容量に対して、Rhが0.10g/L、Al
2O
3が28g/L、ACZLが110g/L、実施例1−2及び比較例1−5の各セリア−ジルコニア系複合酸化物が20g/L含まれるようにした。コーティング後、120℃に保持した乾燥機で2時間乾燥した後、500℃の電気炉で2時間焼成して、実施例1−2及び比較例1−5の各セリア−ジルコニア系複合酸化物を用いた、対応する実施例1−2及び比較例1−5の各触媒を得た。
【0075】
(2)耐久試験
1UR−FEエンジン(トヨタ自動車(株)製)を用いて、触媒床温1000℃で25時間の劣化促進試験を実施した。排ガス組成は、スロットル開度とエンジン負荷を調整し、リッチ〜ストイキ〜リーンを一定サイクルで繰り返して劣化を促進させた。
【0076】
(3)OSC試験
前記(2)の耐久試験後の触媒を2AZ−FEエンジン(トヨタ自動車(株)製)に装着し、入りガス温度を600℃に設定し、入りガス雰囲気のA/Fを14.1と15.1を目標にフィードバック制御して周期的に振幅させ、ストイキ点とA/Fセンサー出力の差分より、酸素の過不足を式:OSC(g)=0.23×ΔA/F×噴射燃料量により算出し、最大酸素吸蔵量(Cmax)を求めた。ここで、触媒の初期(0〜13秒)の酸素吸放出量(OSC)と、最大酸素吸蔵量(Cmax)との間には相関関係があり、初期(0〜13秒)の酸素吸放出量(OSC)が大きい場合、最大酸素吸蔵量(Cmax)は大きくなることがわかっている(
図2参照)。よって、触媒の最大酸素吸蔵量(Cmax)を求めることで、酸素吸放出速度を評価することができる。結果を
図1に示す。
図1は、実施例1−2及び比較例1−5のセリア−ジルコニア系複合酸化物の初期の酸素吸放出量(OSC)(棒グラフ)と、これらの複合酸化物を用いた排ガス浄化用触媒の最大酸素吸蔵量(Cmax)(折れ線グラフ)を示す。
【0077】
図1より、実施例1−2及び比較例1、2、4のセリア−ジルコニア系複合酸化物を用いた触媒のエンジンベンチ評価においても、実施例1−2及び比較例1−5のセリア−ジルコニア系複合酸化物と同様の結果が確認された。具体的には、
図1(折れ線グラフ)より、本発明では、パイロクロア構造を有するセリア−ジルコニア系複合酸化物の二次粒子径(D50)を特定の範囲(3〜7μm)とすることで、二次粒子径がこの範囲にないパイロクロアCZ及び蛍石構造を有するセリア−ジルコニア系複合酸化物に対して最大酸素吸蔵量(Cmax)が有意に増加し、よって、酸素吸放出速度が有意に向上したことが示された。パイロクロアCZでは、パイロクロア構造特有の酸素内部拡散が速い特性により二次粒子径の影響が非常に大きく、一方、トレードオフの関係にある耐熱性は、二次粒子径に対して酸素吸放出速度とは異なる感度を示し、十分に高い耐熱性が維持されるため、結果として、パイロクロアCZにおいて二次粒子径(D50)を特定の範囲とすることで、高い耐熱性を有しつつ、高い酸素貯蔵容量を維持したまま、酸素吸放出速度を有意に向上させることができたと推測される。
【0078】
パイロクロア構造を有するセリア−ジルコニア系複合酸化物において、二次粒子径(D50)を3〜7μmとすることで、十分な耐熱性を有しつつ、酸素貯蔵容量及び酸素吸放出速度を両立することができ、かかるセリア−ジルコニア系複合酸化物を用いた排ガス浄化用触媒もこのような効果を有する。
【0079】
<スタートアップ触媒(S/C)>
触媒の材料として以下の材料を用いた:
Al
2O
3:La
2O
3(4重量%)複合化Al
2O
3(Sasol社製)
ACZ−1:Al
2O
3(30重量%)、CeO
2(27重量%)、ZrO
2(35重量%)、La
2O
3(4重量%)及びY
2O
3(4重量%)の複合酸化物(Solvay社製)
ACZ−2:Al
2O
3(30重量%)、CeO
2(20重量%)、ZrO
2(44重量%)、Nd
2O
3(2重量%)、La
2O
3(2重量%)及びY
2O
3(2重量%)の複合酸化物(第一稀元素化学工業社製)
OSC材:
・実施例2及び比較例1−2のセリア−ジルコニア系複合酸化物(Pr添加パイロクロアCZ)
・前記ACZ−2
・CZ:CeO
2(30重量%)、ZrO
2(60重量%)、La
2O
3(5重量%)及びY
2O
3(5重量%)の複合酸化物(Solvay社製)
・蛍石型CZ:比較例4と同様にして調製した二次粒子径(D50)6.1μmのPr添加蛍石CZ
ハニカム基材:875cc(600セル六角 壁厚2mil)のコージェライトハニカム基材
【0080】
本発明のセリア−ジルコニア系複合酸化物をOSC材として最上層に添加したS/Cの性能評価をするため、実施例3−7及び比較例6−11のS/Cを以下のようにして調製した。
【0081】
比較例6
(a)下層コートの調製
ACZ−1と硝酸パラジウムとを用い、含浸法により、PdがACZ−1に担持されたPd/ACZ−1を調製し、所定量のPd/ACZ−1、Al
2O
3、硫酸バリウム及びAl
2O
3系バインダーを撹拌しながら蒸留水に添加し、懸濁させてスラリー1を調製した。調製したスラリー1を基材へ流し込み、ブロアーで不要分を吹き払い、基材壁面をコーティングした。コーティングには、基材容量に対して、Pdが0.38g/L、Al
2O
3が40g/L、ACZ−1が45g/L、硫酸バリウムが5g/L含まれるようにした。コーティング後、120℃に保持した乾燥機で2時間乾燥した後、500℃の電気炉で2時間焼成して、下層コートを作製した。
【0082】
(b)上層コートの調製
ACZ−2と硝酸ロジウムとを用い、含浸法により、RhがACZ−2に担持されたRh/ACZ−2を調製し、所定量の硝酸パラジウム、Rh/ACZ−2、Al
2O
3及びAl
2O
3系バインダーを蒸留水に撹拌しながら添加し、懸濁させてスラリー2を調製した。得られたスラリー2を、前記(a)によりコーティングを施した基材へ流し込み、ブロアーで不要分を吹き払い、基材壁面の下層コートをコーティングした。コーティングには、基材容量に対して、Rhが0.3g/L、Pdが0.2g/L、ACZ−2が72g/L、Al
2O
3が63g/L含まれるようにした。コーティング後、120℃に保持した乾燥機で2時間乾燥した後、500℃の電気炉で2時間焼成して、上層コートが下層コート上に形成したS/Cを得た。
【0083】
実施例3−6
実施例3、4、5及び6は、上層コートを形成するためのスラリー2に、OSC材として実施例2のセリア−ジルコニア系複合酸化物(Pr添加パイロクロアCZ)を基材容量に対して、それぞれ16g/L、24g/L、48g/L及び55g/Lのコート量となるように添加した以外は比較例6と同様にして各S/Cを得た。
【0084】
実施例7
下層コートを形成するためのスラリー1に、OSC材として実施例2のセリア−ジルコニア系複合酸化物を基材容量に対して24g/Lのコート量となるように添加した以外は比較例6と同様にしてS/Cを得た。
【0085】
比較例7
上層コートを形成するためのスラリー2に、OSC材として比較例2のセリア−ジルコニア系複合酸化物(Pr添加パイロクロアCZ)を基材容量に対して24g/Lのコート量となるように添加した以外は比較例6と同様にしてS/Cを得た。
【0086】
比較例8
上層コートを形成するためのスラリー2に、OSC材として比較例1のセリア−ジルコニア系複合酸化物(Pr添加パイロクロアCZ)を基材容量に対して24g/Lのコート量となるように添加した以外は比較例6と同様にしてS/Cを得た。
【0087】
比較例9
上層コートを形成するためのスラリー2に、OSC材としてCZを基材容量に対して25g/Lのコート量となるように添加した以外は比較例6と同様にしてS/Cを得た。
【0088】
比較例10
上層コートを形成するためのスラリー2に、OSC材としてACZ−2を基材容量に対して24g/Lのコート量となるように添加した以外は比較例6と同様にしてS/Cを得た。
【0089】
比較例11
上層を形成するためのスラリー2に、OSC材として蛍石型CZを基材容量に対して24g/Lのコート量となるように添加した以外は比較例6と同様にしてS/Cを得た。
【0090】
実施例3−7及び比較例6−11のS/Cについて、OSC材の添加位置及び添加量(コート量)、並びにOSC材の特性を表2に示す。
【表2】
【0091】
実施例3−7及び比較例6−11のS/Cについて耐久試験を実施し、性能評価を行った。
【0092】
<耐久試験>
実施例3−7及び比較例6−11の各S/CをV型8気筒エンジンの排気系に装着し、触媒床温950℃で50時間にわたり、ストイキ及びリーンの各雰囲気の排ガスを一定時間(3:1の比率)ずつ繰り返して流すことにより耐久試験を実施した。
【0093】
<性能評価>
耐久試験後の各S/CをL4エンジンに装着して以下の性能を評価した。
OSC:
耐久試験後の各S/CをL4エンジンに装着し、入りガス温度を500℃に設定し、空燃比(A/F)を14.4と15.1を目標にフィードバック制御し、前記排ガス浄化用触媒のOSC試験と同様にして最大酸素吸蔵量(Cmax)を求め、これをOSCとして評価した。
T50−NOx:
耐久試験後の各S/Cに、A/F=14.4の排ガスを供給し、高Ga条件(Ga=35g/s)において500℃まで昇温させた際に、NOx浄化率が50%となる温度(T50−NOx)を計測し、触媒活性を評価した。
【0094】
結果を
図3〜
図5に示す。
図3は、実施例4及び7、並びに比較例6−10のS/Cの最大酸素吸蔵量(Cmax)を示す。
図4は、上層コート中のOSC材(実施例2のセリア−ジルコニア系複合酸化物)の添加量と、最大酸素吸蔵量(Cmax)との関係を示す。
図5は、上層コート中のOSC材(実施例2のセリア−ジルコニア系複合酸化物)の添加量と、T50−NOxとの関係を示す。
【0095】
図3より、本発明のセリア−ジルコニア系複合酸化物を用いたS/Cは、他のOSC材を用いたものに対してOSCが有意に増加したことが示された(実施例4及び比較例7−10)。本発明のセリア−ジルコニア系複合酸化物は高いOSC能を有するため、圧力損失を増加させることなく触媒の低体格化が可能であることが示唆される。また、S/CのOSC能については、本発明のセリア−ジルコニア系複合酸化物を、排ガスと接触しやすい触媒コート層の最上層に含むと、下層に含む場合よりも高くなることが示されている(実施例4及び7)。
【0096】
また、
図4より、S/CのOSC能は、上層コート中の本発明のセリア−ジルコニア系複合酸化物の添加量に応じて増加するが、一方で、
図5より、低温におけるNOx浄化能は、上層コート中の本発明のセリア−ジルコニア系複合酸化物の添加量が増加すると低下する。
図4及び
図5より、本発明のセリア−ジルコニア系複合酸化物を触媒コート層の最上層に含むS/Cにおいて、その添加量は、良好なOSC能及びNOx浄化能を両立できるという点で5〜50g/Lの範囲が好ましい。
【0097】
次に、本発明のセリア−ジルコニア系複合酸化物をOSC材として最上層以外の層に添加したS/Cの性能評価をするため、実施例8−12及び比較例12−15のS/Cを以下のようにして調製した。
【0098】
実施例8−11
実施例8、9、10及び11は、下層コートを形成するためのスラリー1に、実施例2のセリア−ジルコニア系複合酸化物(Pr添加パイロクロアCZ)を基材容量に対して、それぞれ6g/L、12g/L、24g/L及び35g/Lのコート量となるように添加した以外は比較例6と同様にして各S/Cを得た。
【0099】
実施例12
実施例12は、実施例3と同様にして調製した。
【0100】
比較例12
比較例12は、比較例6と同様にして調製した。
【0101】
比較例13及び14
比較例13及び14は、下層コートを形成するためのスラリー1に、比較例2のセリア−ジルコニア系複合酸化物(Pr添加パイロクロアCZ)を基材容量に対して、それぞれ9g/L及び20g/Lのコート量となるように添加した以外は比較例6と同様にして各S/Cを得た。
【0102】
比較例15
下層コートを形成するためのスラリー1に、蛍石型CZを基材容量に対して6g/Lのコート量となるように添加した以外は比較例6と同様にしてS/Cを得た。
【0103】
実施例8−12及び比較例12−15のS/Cについて、OSC材の添加位置及び添加量(コート量)、並びにOSC材の特性を表3に示す。
【表3】
【0104】
実施例8−12及び比較例12−15のS/Cについて耐久試験を実施し、性能評価を行った。
【0105】
<耐久試験>
実施例8−12及び比較例12−15の各S/CをV型8気筒エンジンの排気系に装着し、触媒床温950℃で50時間にわたり、ストイキ及びリーンの各雰囲気の排ガスを一定時間(3:1の比率)ずつ繰り返して流すことにより耐久試験を実施した。
【0106】
<性能評価>
耐久試験後の各S/CをL4エンジンに装着して以下の性能を評価した。
定常NOx浄化率:A/F=14.1及び500℃における定常運転時のNOx浄化率を算出した。
A/F切り替え時のNOx浄化能:A/Fを14.1と15.1を目標にフィードバック制御した際に排出されるNOx量を測定した。入りガス温度は500℃に設定した。
【0107】
結果を表3、
図6及び
図7に示す。
図6は、下層コート中のOSC材(実施例2のセリア−ジルコニア系複合酸化物)の添加量と、A/F切り替え時のNOx排出量との関係を示す。
図7は、下層コート中のOSC材(実施例2のセリア−ジルコニア系複合酸化物)の添加量と、定常NOx浄化率との関係を示す。
【0108】
表3及び
図6より、本発明のセリア−ジルコニア系複合酸化物を用いたS/Cは、他のOSC材を用いたものに対してA/F切り替え時のNOx排出量が有意に少なくなることが示された。また、定常NOx浄化能及びA/F切り替え時のNOx浄化能について、本発明のセリア−ジルコニア系複合酸化物を下層コートに含むと、上層コートに含む場合よりもこれらの性能が優れ、モード走行時のNOxエミッションの低減に有利であることが示されている。また、表3、
図6及び
図7より、本発明のセリア−ジルコニア系複合酸化物の下層コートへの添加量が5〜30g/Lであると、A/F切り替え時の低いNOx排出量及び高い定常NOx浄化能を両立できることが示された。
【0109】
<アンダーフロア触媒(UF/C)>
触媒の材料として以下の材料を用いた:
Al
2O
3:La
2O
3(4重量%)複合化Al
2O
3(Sasol社製)
ACZ−2:Al
2O
3(30重量%)、CeO
2(20重量%)、ZrO
2(44重量%)、Nd
2O
3(2重量%)、La
2O
3(2重量%)及びY
2O
3(2重量%)の複合酸化物(第一稀元素化学工業社製)
AZ:Al
2O
3(30重量%)、ZrO
2(60重量%)、Nd
2O
3(2重量%)、La
2O
3(4重量%)及びY
2O
3(4重量%)の複合酸化物(第一稀元素化学工業社製)
OSC材:
・実施例2のセリア−ジルコニア系複合酸化物(Pr添加パイロクロアCZ)
・前記ACZ−2
・蛍石型ZC:CeO
2(21重量%)、ZrO
2(72重量%)、Nd
2O
3(5.3重量%)及びLa
2O
3(1.7重量%)の蛍石型ZC複合酸化物(第一稀元素化学工業社製)
ハニカム基材:875cc(400セル四角 壁厚4mil)のコージェライトハニカム基材
【0110】
UF/Cは以下のようにして調製した。
【0111】
比較例16
(a)下層コートの調製
ACZ−2と硝酸パラジウムとを用い、含浸法により、PdがACZ−2に担持されたPd/ACZ−2を調製し、所定量のPd/ACZ−2、Al
2O
3及びAl
2O
3系バインダーを撹拌しながら蒸留水に添加し、懸濁させてスラリー1を調製した。調製したスラリー1を基材へ流し込み、ブロアーで不要分を吹き払い、基材壁面をコーティングした。コーティングには、基材容量に対して、Pdが0.53g/L、Al
2O
3が40g/L、ACZ−2が93g/L含まれるようにした。コーティング後、120℃に保持した乾燥機で2時間乾燥した後、500℃の電気炉で2時間焼成して、下層コートを作製した。
【0112】
(b)上層コートの調製
AZと硝酸ロジウムとを用い、含浸法により、RhがAZに担持されたRh/AZを調製し、所定量のRh/AZ、Al
2O
3及びAl
2O
3系バインダーを蒸留水に撹拌しながら添加し、懸濁させてスラリー2を調製した。得られたスラリー2を、前記(a)によりコーティングを施した基材へ流し込み、ブロアーで不要分を吹き払い、基材壁面の下層コートをコーティングした。コーティングには、基材容量に対して、Rhが0.4g/L、Al
2O
3が35g/L、AZが33g/L含まれるようにした。コーティング後、120℃に保持した乾燥機で2時間乾燥した後、500℃の電気炉で2時間焼成して、上層コートが下層コート上に形成したUF/Cを得た。
【0113】
実施例13−16
実施例13、14、15及び16は、上層コートを形成するためのスラリー2に、実施例2のセリア−ジルコニア系複合酸化物(Pr添加パイロクロアCZ)を基材容量に対してそれぞれ11g/L、20g/L、31g/L及び40g/Lのコート量となるように添加した以外は比較例16と同様にして各UF/Cを得た。
【0114】
実施例17
下層コートを形成するためのスラリー1に、実施例2のセリア−ジルコニア系複合酸化物を基材容量に対して11g/Lのコート量となるように添加した以外は比較例16と同様にしてUF/Cを得た。
【0115】
比較例17
上層コートを形成するためのスラリー2に、ACZ−2を基材容量に対して11g/Lのコート量となるように添加した以外は比較例16と同様にしてUF/Cを得た。
【0116】
比較例18
上層コートを形成するためのスラリー2に、蛍石型ZCを基材容量に対して11g/Lのコート量となるように添加した以外は比較例16と同様にしてUF/Cを得た。
【0117】
実施例13−17及び比較例16−18のUF/Cについて、OSC材の添加位置及び添加量(コート量)、並びにOSC材の特性を表4に示す。
【表4】
【0118】
実施例13−17及び比較例16−18のUF/Cについて耐久試験を実施し、性能評価を行った。
【0119】
<耐久試験>
実施例13−17及び比較例16−18の各UF/CをV型8気筒エンジンの排気系に装着し、触媒床温950℃で50時間にわたり、ストイキ及びリーンの各雰囲気の排ガスを一定時間(3:1の比率)ずつ繰り返して流すことにより耐久試験を実施した。
【0120】
<性能評価>
耐久試験後の各UF/CをL4エンジンに装着して以下の性能を評価した。
定常HC浄化率:
A/F=14.4及び550℃における定常運転時のHC浄化率を算出した。
T50−NOx:
耐久試験後の各UF/Cに、A/F=14.4の排ガスを供給し、高Ga条件(Ga=35g/s)において、250℃まで降温させた際に、NOx浄化率が50%となる温度(T50−NOx)を計測し、触媒活性を評価した。
【0121】
結果を
図8〜10に示す。
図8は、実施例13及び17、並びに比較例16−18のUF/Cの定常HC浄化率を示す。
図9は、上層コート中のOSC材(実施例2のセリア−ジルコニア系複合酸化物)の添加量と、定常HC浄化率との関係を示す。
図10は、上層コート中のOSC材(実施例2のセリア−ジルコニア系複合酸化物)の添加量と、T50−NOxとの関係を示す。
【0122】
図8より、本発明のセリア−ジルコニア系複合酸化物を用いたUF/Cは、他のOSC材を用いたものに対して有意に高い定常HC浄化率を有することが示された(実施例13、17及び比較例17−18)。本発明のセリア−ジルコニア系複合酸化物は高い定常HC浄化能を有するため、圧力損失を増加させることなく触媒の低体格化が可能となることが示唆される。また、UF/Cにおいて、本発明のセリア−ジルコニア系複合酸化物を、排ガスと接触しやすい触媒コート層の最上層に含むと、下層に含む場合よりも定常HC浄化率が高くなることが示された(実施例13及び17)。
【0123】
また、
図9より、定常HC浄化率は、上層コート中の本発明のセリア−ジルコニア系複合酸化物の添加量に応じて高くなるが、一方で、
図10より、低温におけるNOx浄化能は、添加量20g/Lから30g/Lの間で低下する。よって、本発明のセリア−ジルコニア系複合酸化物を触媒コート層の最上層に含むUF/Cにおいて、その添加量は、良好な定常HC浄化能及びNOx浄化能を両立できるという点で5〜20g/Lの範囲が好ましい。