(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、車両の冷態時は、オイルの温度が低く、オイルの粘度が高くなる。高粘度のオイルが潤滑に用いられると、摩擦損失が増大し(例えば、ギヤがオイルを掻き上げる際の撹拌抵抗が増大し)、車両の燃費が低下する。そのため、オイルを昇温する必要がある。特に、特許文献1に開示されるような電気自動車の場合、エンジンで発生した熱を利用してオイルを昇温できないので、エンジンを搭載した車両に比べてオイルの昇温に時間を要する。そのため、オイルの昇温を促進することが望まれている。
【0005】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、オイルの昇温を促進させることが可能なオイルの昇温装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るオイルの昇温装置は、ケースに収容され、当該ケースに取り付けられたベアリングによって支持される回転軸に設けられるギヤと、ギヤの回転軸の軸方向の少なくとも一方側の側部に設けられ、ギヤの一方側の側部とケース内の非回転部との間隔が所定の間隔以下のときに非回転部に接触する接触部材と、を備え、ギヤは、トルクがかかっている状態のときにスラスト力が発生するギヤであり、ギヤのスラスト力は、ギヤに一方の方向にトルクが加わった場合に非回転部側の方向に発生し、ケースは、回転軸よりも大きい線膨張係数を有し、温度の上昇に伴って少なくとも回転軸の軸方向において回転軸よりも膨張することを特徴とする。
【0007】
本発明に係るオイルの昇温装置では、回転軸(ギヤ)が一方の方向に回転中に、ギヤには非回転部側の方向にスラスト力が発生するので、このスラスト力によって接触部材が非回転部に押し付けられ、この押し付けられた接触部材が非回転部に接触する。これにより、ギヤと共に回転する接触部材と非回転部との間で差回転が発生し、摩擦熱が発生する。この発生した熱により、オイルが昇温する。これにより、オイルの粘度が低くなり、例えば、ギヤがオイルを掻き上げる際の撹拌抵抗を低減することができる。また、この発生した熱により、ケースや回転軸などが昇温すると、線膨張係数の大きいケースが回転軸よりも軸方向に膨張する。この膨張差が大きくなると、ギヤの一方側の側部とケース内の非回転部との間隔が所定の間隔よりも大きくなり、接触部材が非回転部に接触しなくなる。このように、本発明に係るオイルの昇温装置によれば、温度が低いときに、オイルの昇温を促進させることができる。
【0008】
本発明に係るオイルの昇温装置では、ギヤの一方側の側部と回転軸に伴って回転する回転部との間に設けられ、所定の温度以上になると少なくとも回転軸の軸方向に大きくなる温度感応変形部材を備え、温度感応変形部材が回転軸の軸方向に大きくなった場合に、温度感応変形部材によってギヤの一方側の側部とケース内の非回転部との間隔が所定の間隔よりも大きくなることが好ましい。このように構成することで、上述した摩擦熱によって温度感応変形部材の温度が所定の温度以上になった場合、温度感応変形部材が回転軸の軸方向に大きくなることでギヤの一方側の側部とケース内の非回転部との間隔が所定の間隔よりも大きくなるので、接触部材が非回転部に確実に接触しなくなる。
【0009】
本発明に係るオイルの昇温装置は、ケースに収容され、当該ケースに取り付けられたベアリングによって支持される回転軸に設けられるギヤと、ギヤの回転軸の軸方向の少なくとも一方側の側部に設けられ、ギヤの一方側の側部とケース内の非回転部との間隔が所定の間隔以下のときに非回転部に接触する接触部材と、ギヤの一方側の側部と回転軸に伴って回転する回転部との間に設けられ、所定の温度以上になると少なくとも前記回転軸の軸方向に大きくなる温度感応変形部材と、を備え、ギヤは、トルクがかかっている状態のときにスラスト力が発生するギヤであり、ギヤのスラスト力は、ギヤに一方の方向にトルクが加わった場合に非回転部側の方向に発生し、温度感応変形部材が回転軸の軸方向に大きくなった場合に、温度感応変形部材によってギヤの一方側の側部とケース内の非回転部との間隔が所定の間隔よりも大きくなることを特徴とする。
【0010】
本発明に係るオイルの昇温装置では、回転軸(ギヤ)が一方の方向に回転中に、ギヤには非回転部側の方向にスラスト力が発生するので、このスラスト力によって接触部材が非回転部に押し付けられ、この押し付けられた接触部材と非回転部との差回転により摩擦熱が発生する。この発生した熱により、オイルが昇温する。また、この発生した熱により、温度感応変形部材の温度が所定の温度以上になると、温度感応変形部材が軸方向に大きくなる。この大きくなった温度感応変形部材によってギヤの一方側の側部とケース内の非回転部との間隔が所定の間隔よりも大きくなると、接触部材が非回転部に接触しなくなる。このように、本発明に係るオイルの昇温装置によれば、温度が低いときに、オイルの昇温を促進させることができる。
【0011】
本発明に係るオイルの昇温装置では、接触部材は、弾性部材であることが好ましい。特に、接触部材は、皿ばねであることが好ましい。荷重(ギヤのスラスト力)に対して弾性変形する接触部材を用いることにより、スラスト力によって接触部材が非回転部に押し付けられ、この押し付けられた接触部材が弾性変形しつつ非回転部に接触することができる。特に、皿ばねを用いることにより、荷重に対して非線形に弾性変形するので、非回転部に対して接触状態から非接触状態になる接触部材の軸方向の長さ調整を容易に行うことができる。
【0012】
本発明に係るオイルの昇温装置は、車両に設けられ、ギヤのスラスト力は車両のコースティング走行時に非回転部側の方向に発生することが好ましい。このように構成することで、車両のコースティング走行時に、オイルの昇温を促進することでフリクションを低下させることができる。車両のドライブ走行時には、ギヤのスラスト力は非回転部とは反対側の方向に発生するので、接触部材が非回転部に接触せず、駆動トルクをロスするようなことはない。
【0013】
本発明に係るオイルの昇温装置では、車両は、電気自動車であることが好ましい。このように構成することで、エンジンを備えない電気自動車においてオイルの昇温を促進することができる。
【0014】
本発明に係るオイルの昇温装置では、非回転部には、摩擦材が設けられ、接触部材は、非回転部に設けられた摩擦材に接触することが好ましい。このように構成することで、接触部材が摩擦材に接触することで摩擦によって効率良く熱を発生させることができ、オイルの昇温を促進させることができる。
【0015】
本発明に係るオイルの昇温装置では、非回転部は、ベアリングのアウターレースであることが好ましい。このようにベアリングの一部を利用して非回転部を構成でき、ギヤと共に回転する接触部材と回転しないアウターレースとの間で差回転を発生させることができる。
【0016】
本発明に係るオイルの昇温装置では、回転部は、ベアリングのインナーレースであることが好ましい。このようにベアリングの一部を利用して回転部を構成でき、回転軸と共に回転するインナーレースとギヤの一方側の側部との間には差回転が発生せず、その間に温度感応変形部材を配置させることができる。
【0017】
本発明に係るオイルの昇温装置では、温度感応変形部材は、形状記憶合金であることが好ましい。形状記憶合金を用いることにより、所定の温度以上になると形状記憶合金が元の形状に戻る(大きくなる)ことで接触部材が非回転部に接触しなくなる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、オイルの昇温を促進させることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図中、同一又は相当部分には同一符号を用いることとする。また、各図において、同一要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0021】
図1〜
図3を参照して、第1実施形態に係るオイルの昇温装置1(以下、「昇温装置1」と記載)について説明する。
図1は、第1実施形態に係る昇温装置1の断面図である。
図2は、第1実施形態に係る昇温装置1の皿ばね10の斜視図である。
図3は、第1実施形態に係る昇温装置1の皿ばね10の弾性変形特性を示すグラフである。
【0022】
昇温装置1は、電気自動車に備えられる減速機を構成するギヤなどの被潤滑部の潤滑用のオイルを昇温する。電気自動車は、駆動源として電動モータ(図示省略)を備えている。電動モータは、電動機として機能するとともに、発電機として機能する。電動モータは、例えば、三相交流タイプのモータ・ジェネレータである。電動モータで発生した動力は、減速機3を介して駆動輪(図示省略)に伝達される。
【0023】
減速機3は、ドライブギヤ4と、このドライブギヤ4に噛み合うドリブンギヤ5とを備える。ドライブギヤ4は、例えば、電動モータの出力軸に取り付けられている。ドリブンギヤ5は、回転軸6(例えば、プロペラシャフト)にスプライン嵌合により取り付けられている。ドリブンギヤ5は、回転軸6の軸方向に摺動可能かつ回転軸6に対して相対回転不能である。ドリブンギヤ5は、例えば、プロペラシャフト、ディファレンシャルギヤ、ドライブシャフトなどを介して駆動輪に連結される。
【0024】
減速機3の各ギヤ4,5は、ヘリカルギヤであり、トルクが加わったときにスラスト力が発生する。ドライブギヤ4は、電気自動車の電動モータが駆動輪を駆動させる時(以下、「ドライブ走行時」と記載)に第1方向D1にスラスト力(ギヤ反力)が発生し、慣性力により電動モータが逆駆動される時(コースティング走行(以下、「コースト走行」と記載)時)に第2方向D2にスラスト力が発生する。一方、ドリブンギヤ5は、電気自動車のドライブ走行時に第2方向D2にスラスト力が発生し、コースト走行時に第1方向D1にスラスト力が発生する。
【0025】
回転軸6の軸方向の一方側の端部は、ベアリング7によって支持されている。ベアリング7のアウターレース7aは、減速機3などを収納するケース9に取り付けられている。ベアリング7のインナーレース7bは、回転軸6に取り付けられている。ベアリング7は、アウターレース7a(特許請求の範囲に記載の非回転部に相当)がケース9に固定されており、インナーレース7b(特許請求の範囲に記載の回転部に相当)が回転軸6と共に回転する。なお、回転軸6の軸方向の他方側の端部は、ベアリング8によって支持されている(
図4参照)。
【0026】
ケース9内に収容される減速機3(各ギヤ4,5)、ベアリング7などの被潤滑部は、オイルによって潤滑される。この潤滑は、例えば、減速機3のドリブンギヤ5がオイルに浸漬されており、ドリブンギヤ5の回転によってオイルが掻き上げられて飛散することで行われる。
【0027】
昇温装置1は、減速機3のドリブンギヤ5とベアリング7との間に構成され、ドリブンギヤ5の回転を利用する。昇温装置1は、温度が低いときにドリブンギヤ5に取り付けられた接触部材と非回転部材とを接触させることで摩擦熱によってオイルを昇温し、温度が高くなると接触部材と非回転部材とを接触させない。昇温装置1は、皿ばね10(特許請求の範囲に記載の接触部材に相当)と、摩擦材11と、形状記憶合金12(特許請求の範囲に記載の温度感応変形部材に相当)と、を備えている。
【0028】
皿ばね10は、摩擦材11と接触させる部材である。皿ばね10は、
図3に示すように、荷重に対して非線形に弾性変形する弾性部材である。
図3では、横軸が皿ばね10の潰し代(回転軸6の軸方向の変形量)であり、縦軸が皿ばね10が受ける荷重である。
【0029】
皿ばね10は、中心部に穴が開いた円環状の板を略円錐台状に形成された形状である。皿ばね10の中心部の穴10aの最小部の径(ベアリング7側の径)は、例えば、ベアリング7のアウターレース7aの内径と略同じである。皿ばね10の略円錐台状の上部部分10bは、摩擦材11に接触する部分である。皿ばね10の略円錐台状の底部部分10cは、ドリブンギヤ5の側部(回転軸6の軸方向における一方側の側部)の所定の箇所(ベアリング7のアウターレース7aよりも径方向において外側の箇所)5aに取り付けられる。したがって、皿ばね10は、ドリブンギヤ5(回転軸6)と共に回転する。皿ばね10は、上部部分10bが摩擦材11(ベアリング7のアウターレース7aの側面7c)に対向するように配置されている。
【0030】
弾性変形していない状態の皿ばね10の回転軸6の軸方向の長さ(皿ばね10の高さ)は、電気自動車の冷態時におけるドリブンギヤ5の側部の所定の箇所5aとベアリング7のアウターレース7aに取り付けられた摩擦材11との間隔(回転軸6の軸方向の間隔)よりも少し長い。したがって、冷態時には、皿ばね10は、弾性変形した状態で、上部部分10bが摩擦材11に接触する。
【0031】
摩擦材11は、皿ばね10と接触する部材である。摩擦材11は、例えば、自動車に備えられるクラッチで用いられる摩擦材と同じ材料により形成される。摩擦材11は、ケース9に固定されたベアリング7のアウターレース7aの側面7cに取り付けられる。
【0032】
摩擦材11は、所定の厚みを有する円環状である。摩擦材11の内径は、例えば、ベアリング7のアウターレース7aの内径と略同じである。摩擦材11の外径は、例えば、アウターレース7aの外径と略同じである。
【0033】
形状記憶合金12は、温度が上昇したときに、ドリブンギヤ5とベアリング7との間を広げる部材である。形状記憶合金12は、所定の温度以上になると、元の形状に戻り、少なくとも回転軸6の軸方向に大きくなる。形状記憶合金12としては、所定の温度(変態温度)が潤滑用のオイルの粘度が十分に低くなる温度(例えば、60〜80℃)となる合金が用いられる。
【0034】
形状記憶合金12は、例えば、中心部に穴が開いた円筒状である。形状記憶合金12の内径(中心部の穴の径)は、例えば、ベアリング7のインナーレース7bの内径と略同じである。形状記憶合金12の外径は、例えば、インナーレース7bの外径と略同じである。形状記憶合金12の軸方向の一端部は、ドリブンギヤ5の側部の所定の箇所(ベアリング7のインナーレース7bに対向する箇所)5bに取り付けられる。これにより、形状記憶合金12は、回転軸6と共に回転する(差回転が発生しない)ドリブンギヤ5とベアリング7のインナーレース7bとの間に、他端部がインナーレース7bの側面7dに対向するように配置される。所定の箇所5bは、皿ばね10が取り付けられる箇所5aよりも内周側の箇所である。
【0035】
変形している状態(元の形状に回復する前)の形状記憶合金12の回転軸6の軸方向の長さは、電気自動車の冷態時におけるドリブンギヤ5の側部の所定の箇所5bとベアリング7のインナーレース7bの側面7dとの間隔よりも短い。したがって、冷態時には、形状記憶合金12は、インナーレース7bと接触しない。一方、元の形状に回復した形状記憶合金120の回転軸6の軸方向の長さは、電気自動車の冷態時におけるドリブンギヤ5の側部の所定の箇所5bとインナーレース7bとの間隔よりも長くなる。したがって、形状記憶合金12の温度が所定の温度以上になると、形状記憶合金12は、復元力によりドリブンギヤ5とベアリング7との間を広げる。
【0036】
特に、昇温装置1では、ケース9の線膨張係数(線膨張率)と回転軸6の線膨張係数との差に応じた温度上昇に伴う膨張差を利用して、ドリブンギヤ5とベアリング7との間を広げる。例えば、回転軸6が鉄製であり、ケース9がアルミニウム製の場合、回転軸6の線膨張係数が12.1(10
−6/K)であり、ケース9の線膨張係数が23(10
−6/K)である。
【0037】
つまり、ケース9の線膨張係数が回転軸6の線膨張係数よりも大きいので、暖機によって温度が上昇すると、線膨張係数差に応じてケース9が回転軸6よりも膨張し、回転軸6の軸方向においてケース9が回転軸6よりも伸びる。ベアリング7はケース9に取り付けられ、ドリブンギヤ5は回転軸6に取り付けられているので、ケース9が回転軸6よりも伸びると、ケース9に伴ってベアリング7がドリブンギヤ5よりも軸方向に移動し、ベアリング7とドリブンギヤ5との間が広がる。
【0038】
図4および
図5を参照して、昇温装置1の作用について説明する。
図4は、第1実施形態に係る昇温装置1による昇温中の状態を模式的に示す図である。
図5は、第1実施形態に係る昇温装置1による昇温後の状態を模式的に示す図である。
【0039】
まず、
図4を参照して、昇温装置1による昇温中(暖機中)の動作について説明する。例えば、電気自動車の冷態時には温度が低いので、形状記憶合金12は、変形した状態(収縮した状態)であり、ベアリング7のインナーレース7bに接触していない。したがって、形状記憶合金12によって、ベアリング7とドリブンギヤ5との間が広げられていない。また、温度が低いので、ケース9と回転軸6との線膨張係数差に応じたケース9と回転軸6との膨張差が小さい。したがって、ドリブンギヤ5に取り付けられた皿バネ10が、ベアリング7のアウターレース7aに取り付けられた摩擦材11に接触している。
【0040】
特に、電気自動車のコースト走行時には、ドリブンギヤ5に一方向のトルクが加わり、ドリブンギヤ5にはベアリング7側の方向D1にスラスト力が発生する。したがって、摩擦材11に接触している皿ばね10は、スラスト力による荷重を受ける。これにより、皿ばね10は、この荷重によって摩擦材11に押し付けられて、変形する。なお、電気自動車のドライブ走行時には、ドリブンギヤ5に他方の方向にトルクが加わり、ドリブンギヤ5にはベアリング8側の方向D2にスラスト力が発生する。これにより、ドリブンギヤ5がベアリング8側に摺動し、皿ばね10が摩擦材11に接触しない。したがって、電動モータで発生した駆動トルクをロスするようなことはない。
【0041】
皿ばね10は、ドリブンギヤ5(回転軸6)の回転に伴って回転している。一方、摩擦材11は、ケース9に取り付けられたアウターレース7aに設けられているので、回転していない。したがって、接触している皿ばね10と摩擦材11との間で差回転が発生し、摩擦熱が発生する。この発生した熱により、潤滑用のオイルの温度が上昇する。これにより、オイルの粘度が低くなり、例えば、ドリブンギヤ5がオイルを掻き上げる際の撹拌抵抗が低減する。
【0042】
次に、
図5を参照して、昇温装置1による昇温の終了時(暖機の終了時)の動作について説明する。上述した摩擦によって発生する熱により、ケース9や回転軸6の各温度が上昇すると、線膨張係数の大きいケース9が回転軸6よりも膨張する。温度が上昇するほど、このケース9と回転軸6との膨張差(回転軸6の軸方向の伸びの差)が大きくなる。ベアリング7はケース9に取り付けられ、ドリブンギヤ5は回転軸6に取り付けられているので、ケース9と回転軸6との膨張差に応じて、ベアリング7とドリブンギヤ5との間が広がる。
【0043】
また、上述した摩擦によって発生する熱により、形状記憶合金12の温度が上昇する。形状記憶合金12の温度が所定の温度(変態温度)以上になると、形状記憶合金12は、元の形状に戻る(膨張する)。これにより、形状記憶合金12の回転軸6の軸方向の長さが長くなり、形状記憶合金12が、ベアリング7のインナーレース7bの側面7dに接触して、ドリブンギヤ5とベアリング7との間を広げる。この際、形状記憶合金12の復元力がドリブンギヤ5のスラスト力を上回って、ドリブンギヤ5をベアリング8側に摺動させる。上述したケース9と回転軸6との膨張差による作用に加えてこの形状記憶合金12による作用により、ベアリング7とドリブンギヤ5との間が確実に広がる。
【0044】
ベアリング7とドリブンギヤ5との間が広がることで、ドリブンギヤ5の側部の所定箇所5aと摩擦材11(ベアリング7のアウターレース7a)との間隔が大きくなる。この間隔が皿ばね10の回転軸6の軸方向の長さ(皿ばね10の高さ)よりも大きくなると、皿ばね10が摩擦材11に接触しなくなる。これによって、昇温装置1によるオイルの昇温が終了する。
【0045】
なお、電気自動車のコースト走行中、昇温装置1によるオイルの昇温時には、駆動輪からの動力による運動エネルギが、皿ばね10と摩擦材11との摩擦による熱エネルギに変換されて、オイルの昇温に活用される。
【0046】
上述したケース9と回転軸6との温度上昇に伴う膨張差の一例を示す。物体の伸び(回転軸6の軸方向の伸び)をΔL(mm)とし、線膨張係数をα(10
−6/K)とし、物体の長さをL(mm)とし、温度の上昇をΔT(K)とした場合、ΔL=α×L×ΔTである。ここで示す例では、昇温装置1による温度の上昇ΔTを50(K)とし、冷態時の回転軸6の長さL1(
図4参照)を250mmとし、ケース9の長さL2(
図4参照)を300mmとする。この場合、温度の上昇後、回転軸6の伸びΔLは、約0.15(mm)となる。一方、ケース9の伸びΔLは、約0.34(mm)となる。したがって、ケース9と回転軸6との伸びの差(膨張差)は、約0.19(mm)となる。
【0047】
この例の場合、弾性変形していない状態の皿ばね10の回転軸6の軸方向の長さを、例えば、冷態時におけるドリブンギヤ5の側部の所定の箇所5aと摩擦材11との間隔よりも所定の長さ(0.05(mm)〜0.19(mm)の間の任意の長さ)長くなるように設定する。このように設定することで、冷態時には弾性変形した状態で皿ばね10を摩擦材11に接触させることができ、温度の上昇によってケース9と回転軸6との膨張差が大きくなると皿ばね10を摩擦材11に接触させない状態に移行させることができる。
【0048】
第1実施形態に係る昇温装置1によれば、温度が低くかつコースト走行時に皿ばね10を摩擦材11に接触させることにより、被潤滑部を潤滑するオイルの昇温を促進させることができる。これにより、電気自動車において、オイルの昇温が早まり、高粘度のオイルによる摩擦損失を早く低減させることができる。
【0049】
第1実施形態に係る昇温装置1によれば、皿ばね10の弾性特性と、ケース9と回転軸6との線膨張係数差に応じた温度上昇に伴うケース9と回転軸6との膨張差を利用することにより、温度が低いときには皿ばね10を摩擦材11に接触させることができ、温度が高くなると皿ばね10を摩擦材11に接触しないようにすることができる。特に、荷重(スラスト力)に対して非線形に弾性変形する皿ばね10を接触部材として用いることにより、摩擦材11に対して接触状態から非接触状態になる接触部材(皿ばね10)の軸方向の長さ調整(摩擦材11と接触部材とのクリアランス調整)を容易に行うことができる。
【0050】
第1実施形態に係る昇温装置1によれば、回転軸6と共に回転するドリブンギヤ5とベアリング7のインナーレース7bとの間に形状記憶合金12を設けることにより、所定の温度以上になると形状記憶合金12が元の形状に戻ることで皿ばね10を摩擦材11に確実に接触しないようにすることができる。
【0051】
第1実施形態に係る昇温装置1によれば、皿ばね10を接触させる箇所に摩擦材11を設けることにより、皿ばね10と摩擦材11との摩擦によって効率良く熱を発生させることができ、オイルの昇温を促進させることができる。
【0052】
第1実施形態に係る昇温装置1によれば、電気自動車におけるコースト走行時に、温度が低いと通常回生に用いられる運動エネルギを活用することでオイルの昇温を促進でき、温度が高くなると回生によって運動エネルギを電気エネルギとして回収させることができる。なお、電気自動車のドライブ走行時には、昇温装置1では皿ばね10を摩擦材11に接触させない構成となっているので、電動モータで発生した駆動トルクをロスさせるようなことはない。
【0053】
なお、上述したように、昇温装置1では、皿ばね10の弾性特性と、ケース9と回転軸6との線膨張係数差に応じたケース9と回転軸6との膨張差を利用することにより、皿ばね10が摩擦材11に接触する状態から接触しない状態にすることができるので、形状記憶合金12を設けない構成としてもよい。
【0054】
図6および
図7を参照して、第2実施形態に係る昇温装置2について説明する。
図6は、第2実施形態に係る昇温装置2の断面図である。
図7は、第2実施形態に係る昇温装置2の接触部材20の斜視図である。
【0055】
昇温装置2は、第1実施形態に係る昇温装置1と比較すると、皿ばね10の代わりに接触部材20を用いる点が異なる。昇温装置2は、接触部材20と、摩擦材11と、形状記憶合金12と、を備えている。
【0056】
接触部材20は、摩擦材11と接触させる部材である。接触部材20は、例えば、鉄などの金属で形成される。接触部材20は、例えば、中心部に穴が開いた円筒状である。接触部材20の内径(中心部の穴20aの径)は、例えば、ベアリング7のアウターレース7aの内径と略同じである。接触部材20の外径は、例えば、アウターレース7aの外径と略同じである。接触部材20の一端部は、ドリブンギヤ5の側部の所定の箇所(ベアリング7のアウターレース7aに対向する箇所)5cに取り付けられる。
【0057】
接触部材20の回転軸6の軸方向の長さ(接触部材20の高さ)は、電気自動車の冷態時におけるドリブンギヤ5の側部の所定の箇所5cとベアリング7のアウターレース7aに取り付けられた摩擦材11との間隔(回転軸6の軸方向における間隔)と略同じかあるいは少し短い。
【0058】
次に、昇温装置2の作用について説明する。ここでは、第1実施形態に係る昇温装置1の作用の説明と異なる点について説明する。例えば、電気自動車の冷態時には温度が低いので、形状記憶合金12は、変形した状態であり、ベアリング7のインナーレース7bに接触していない。したがって、形状記憶合金12によって、ベアリング7とドリブンギヤ5との間が広げられていない。特に、電気自動車のコースト走行時には、ドリブンギヤ5にはベアリング7側の方向D1にスラスト力が発生しているので、昇温装置2では、そのスラスト力によって接触部材20が摩擦材11に押し付けられる。この接触している接触部材20と摩擦材11との間で差回転が発生し、摩擦熱が発生する。この発生した熱により、潤滑用のオイルの温度が上昇する。この際、接触部材20は、第1実施形態に係る皿ばね10のようにスラスト力に応じて弾性変形しない。
【0059】
温度が上昇すると、昇温装置2では、所定の温度以上になった形状記憶合金12が元の形状に戻って膨張する。この膨張した形状記憶合金12によって、ベアリング7とドリブンギヤ5との間が広がり、接触部材20が摩擦材11に接触しなくなる。なお、接触部材20は第1実施形態に係る皿ばね10のようにスラスト力に応じて弾性変形しないので、摩擦材11に対して接触状態から非接触状態になる接触部材20の軸方向の長さ調整(摩擦材11と接触部材20とのクリアランス調整)を容易に行うことができない。そのため、昇温装置2では、第1実施形態のようにケース9と回転軸6との線膨張係数差に応じたケース9と回転軸6との膨張差を利用せずに、形状記憶合金12による作用のみで皿ばね10と摩擦材11とを接触状態から非接触状態に移行させる構成である。
【0060】
このように昇温装置2ではケース9と回転軸6との膨張差を利用しないので、第2実施形態に係る電気自動車ではケース9の線膨張係数が回転軸6の線膨張係数よりも大きくなくてもよく、例えば、回転軸6とケース9とが同じ材料(同じ線膨張係数を有する材料)で形成されてもよい。
【0061】
第2実施形態に係る昇温装置2によれば、温度が低くかつコースト走行時に接触部材20を摩擦材11に接触させることにより、被潤滑部を潤滑するオイルの昇温を促進させることができる。特に、第2実施形態に係る昇温装置2によれば、回転軸6と共に回転するドリブンギヤ5とベアリング7のインナーレース7bとの間に形状記憶合金12も設けることにより、所定の温度以上になると形状記憶合金12が元の形状に戻ることで接触部材20を摩擦材11に接触しないようにすることができる。
【0062】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態では昇温装置1,2を電気自動車に適用したが、駆動源としてエンジンを備える自動車にも適用することができる。また、オイルの昇温を必要とするものであれば、自動車以外に適用することもできる。
【0063】
上記実施形態では昇温装置1,2を減速機3のドリブンギヤ5側に設ける構成としたが、ドライブギヤ4側に設ける構成としてもよいし、あるいは、ドライブギヤ4とドリブンギヤ5の両側に設ける構成としてもよい。また、減速機以外のギヤに設ける構成としてもよい。
【0064】
上記実施形態ではヘリカルギヤ(ドリブンギヤ5)に適用したが、軸方向にスラスト力を発生するギヤであれば、ヘリカルギヤ以外の他のギヤにも適用することができる。
【0065】
上記実施形態では形状記憶合金12を円筒形状とする例を示したが、他の形状としてもよい。例えば、コイルばね状とした場合、回転軸6よりも径が大きい1個のコイルばね状の形状記憶合金を形状記憶合金12と同様の箇所に配置させるか、あるいは、径の小さい複数個のコイルばね状の形状記憶合金を周方向に所定間隔をあけて配置させる。
【0066】
上記実施形態ではベアリング7のアウターレース7a(非回転部)に摩擦材11を設け、接触部材10,20を摩擦材11に接触させて摩擦熱を発生させる構成としたが、摩擦材に代えて樹脂などからなる他の部材を設ける構成としてもよいし、あるいは、摩擦材を設けずに、接触部材10,20をアウターレース7aに直接接触させる構成としてもよい。また、接触部材10,20をケース9の所定の箇所(非回転部)に直接接触させる構成としてもよい。
【0067】
上記実施形態では形状記憶合金12をドリブンギヤ5の側部とベアリング7のインナーレース7b(回転部)の側面7dとの間に配置し、元の形状に戻った形状記憶合金12をインナーレース7bの側面7dに接触させる構成としたが、他の回転部との間に形状記憶合金12を配置してもよく、例えば、回転軸6に周方向に沿って凸部(回転部)を形成し、形状記憶合金12をドリブンギヤ5の側部とその凸部との間に配置し、元の形状に戻った形状記憶合金12を凸部に接触させる構成としてもよい。
【0068】
上記実施形態では昇温装置1,2によって潤滑用のオイルを昇温させる場合に適用したが、油圧制御などに用いられる他のオイルを昇温させる場合にも適用することができる。
【0069】
上記実施形態ではドリブンギヤ5の回転軸6の軸方向における一方側の側部に接触部材(皿ばね10、接触部材20)を設ける構成としたが、ドリブンギヤ5にベアリング7側の方向D1にスラスト力が発生した場合にケース9内の非回転部に接触する構造であれば、ドリブンギヤ5の回転軸6の軸方向における他方側の側部にも接触部材を設ける構成としてもよい。
【0070】
上記第1実施形態では接触部材(弾性部材)として皿ばね10を用いる構成としたが、他の弾性部材を用いてもよい。例えば、弾性部材としてコイルばねを用いる場合、複数個のコイルばねを周方向に所定の間隔をあけて配置させる。
【0071】
上記第2実施形態では接触部材20をドリブンギヤ5と別部材としたが、ドリブンギヤ5の側部に接触部材20に相当する凸部を一体で形成してもよい。
【0072】
また、
図8に示すように、形状記憶合金及び摩擦材を備えないオイルの昇温装置3としてもよい。このオイルの昇温装置3の場合、ケース9と回転軸6との線膨張係数差に応じた温度上昇に伴うケース9と回転軸6との膨張差を利用することにより、温度が低いときには皿ばね10をベアリング7のアウターレース7aに接触させることができ、温度が高くなると皿ばね10をアウターレース7aに接触しないようにすることができる。また、ドリブンギヤ5と共に回転する皿ばね10がアウターレース7aに接触することで、熱を発生させることができる。