(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6863824
(24)【登録日】2021年4月5日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】地震応答解析方法および地震応答解析プログラム
(51)【国際特許分類】
G01M 7/02 20060101AFI20210412BHJP
G06F 30/20 20200101ALI20210412BHJP
【FI】
G01M7/02 J
G06F17/50 612G
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-106177(P2017-106177)
(22)【出願日】2017年5月30日
(65)【公開番号】特開2018-200288(P2018-200288A)
(43)【公開日】2018年12月20日
【審査請求日】2020年5月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】302060926
【氏名又は名称】株式会社フジタ
(74)【代理人】
【識別番号】100089875
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 茂
(72)【発明者】
【氏名】土佐内 優介
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 仁
【審査官】
岡村 典子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−245691(JP,A)
【文献】
豊岡亮洋、他3名,構造形式の差異に着目した慣性力および地盤変位の影響評価,鉄道総研報告,公益財団法人鉄道総合技術研究所,2011年 9月,Vol.25,No.9,P51-56,URL,https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscejseee/65/1/65_1_283/_pdf
【文献】
秀川貴彦,杭−地盤系の非線形性を考慮した杭基礎建物の地震応答性状,平成22年度「大阪大学工業会賞」受賞研究,2014年,P14-18,URL,https://www.jstage.jst.go.jp/article/aijs/76/661/76_661_491/_pdf/-char/ja
【文献】
廣瀬榛名、他2名,杭位置の違いによる群杭の非線形水平地盤抵抗のモデル化,日本建築学会構造系論文集,2016年 8月,第81巻 第726号,P1233-1241,URL,https://www.jstage.jst.go.jp/article/aijs/81/726/81_1233/_pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 7/02
G01V 1/00−99/00
G06F 30/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物と前記建物を支持する複数の杭とからなる構造物と、それぞれの前記杭に対して所定の基準方向毎に設定された自由地盤節点と、を含む連成解析モデルを用い、地震時における前記構造物の応答を解析する地震応答解析方法であって、
それぞれの前記杭から前記基準方向に無限遠方とみなせる位置に前記自由地盤節点を設定し、複数の前記杭における前記基準方向毎の前記自由地盤節点を一点に集約させる、
ことを特徴とする地震応答解析方法。
【請求項2】
前記自由地盤節点を前記杭の長さ方向に複数設定し、
杭長さ方向上の各位置における前記基準方向毎の前記自由地盤節点を一点に集約させる、
ことを特徴とする請求項1記載の地震応答解析方法。
【請求項3】
それぞれの前記自由地盤節点に対して地震時における変位量を入力し、前記自由地盤節点と前記杭との間の地盤ばねのばね定数と、それぞれの前記杭が負担する軸力と、前記変位量とに基づいて、地震時にそれぞれの前記杭に発生する応力を算出する、
ことを特徴とする請求項1または2記載の地震応答解析方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項記載の地震応答解析方法をコンピュータに実行させるための地震応答解析プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震時における構造物の応答を解析する地震応答解析方法および地震応答解析プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自由地盤、杭基礎および建物を一体としてモデル化した地盤−杭−建物連成系を用いて、地震時における構造物(杭基礎および建物)の応答を解析する地震応答解析が提案されている(例えば、下記非特許文献1および2参照)。
図5は、従来技術における自由地盤節点の設定方法を模式的に示す説明図である。
図5は、上記連成解析モデルのうち地中部分を抜き出したものであり、
図5Aは上面視図、
図5Bは側面視図である。
一般に、建物は複数の杭54(
図5の例では杭54A〜54Iの9本)で支持されている。
各杭54A〜54Iの近傍には、それぞれ自由地盤節点56(56x,56y)が設けられている。自由地盤節点56は、解析の目的に応じて1〜複数の基準方向毎に設けられる。
図5Aの例では、連成解析モデルの座標軸に対応して2方向(x方向、y方向)に自由地盤節点56が設けられている。
各杭54A〜54Iと自由地盤節点56x〜56yとは、杭54A〜54I上の節点55と地盤ばね58x,58yで接合している。
また、
図5Bに示すように、自由地盤節点56は、杭54の長さ方向にも複数設けられる。
図5Bの例では、所定の杭長さDごとに13個の自由地盤節点56dが設けられている。それぞれの自由地盤節点56dは、対応する杭長さ方向上の位置にある杭54上の節点55と地盤ばね58dで接合している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】豊岡亮洋、他3名、「構造形式の差異に着目した慣性力および地盤変位の影響評価」、鉄道総研報告、公益財団法人鉄道総合技術研究所、2011年9月、Vol.25、P51−56
【非特許文献2】木村匠、「杭基礎構造物の動的相互作用を考慮した立体振動性状に関する研究」、千葉大学、2009年1月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のように、従来技術では、自由地盤節点の数は「杭本数×基準方向数×杭長さ方向の分割数」となる。したがって、杭本数が多い場合や、杭長さ方向の分割数が多くなる場合には、自由地盤節点の数が比例的に増加することとなる。
このような自由地盤節点数の増加に対応するには、プログラム上で多くのメモリを用意する必要があるという課題がある。また、プログラム上でメモリを用意しようとしても、計算機(パーソナルコンピュータ等)のメモリが不足している場合には、解析を行うことができないという課題がある。
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、その目的は、地震応答解析時におけるモデルを合理化することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の目的を達成するため、請求項1の発明にかかる地震応答解析方法は、建物と前記建物を支持する複数の杭とからなる構造物と、それぞれの前記杭に対して所定の基準方向毎に設定された自由地盤節点と、を含む連成解析モデルを用い、地震時における前記構造物の応答を解析する地震応答解析方法であって、それぞれの前記杭から前記基準方向に無限遠方とみなせる位置に前記自由地盤節点を設定し、複数の前記杭における前記基準方向毎の前記自由地盤節点を一点に集約させる、ことを特徴とする。
請求項2の発明にかかる地震応答解析方法は、前記自由地盤節点を前記杭の長さ方向に複数設定し、杭長さ方向上の各位置における前記基準方向毎の前記自由地盤節点を一点に集約させる、ことを特徴とする。
請求項3の発明にかかる地震応答解析方法は、それぞれの前記自由地盤節点に対して地震時における変位量を入力し、前記自由地盤節点と前記杭との間の地盤ばね要素のばね定数と、それぞれの前記杭が負担する軸力と、前記変位量とに基づいて、地震時にそれぞれの前記杭に発生する応力を算出する、ことを特徴とする。
請求項4の発明にかかる地震応答解析プログラムは、請求項1から3のいずれか1項記載の地震応答解析方法をコンピュータに実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、複数の杭における基準方向毎の自由地盤節点を一点に集約しているので、計算結果に大きな影響を及ぼさずに、モデルの節点数を少なくすることができる。このようなモデルの合理化により、プログラム上のメモリを削減することができ、例えば杭長さ方向の分割数を増やして詳細にモデル化したり、上部構造の柱や梁のモデルを詳細化することが可能となり、地震応答解析の精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】連成解析モデルを模式的に示す説明図である。
【
図2】連成解析モデル10における自由地盤節点の設定方法を模式的に示す説明図である。
【
図3】従来技術と本発明との比較を模式的に示す図である。
【
図4】地震応答解析プログラムを実行するコンピュータ100の構成を示すブロック図である。
【
図5】従来技術における自由地盤節点の設定方法を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に添付図面を参照して、本発明にかかる地震応答解析方法および地震応答解析プログラムの好適な実施の形態を詳細に説明する。
本実施の形態では、本発明にかかる地震応答解析プログラムをコンピュータで実行する場合について説明する。
図4は、地震応答解析プログラムを実行するコンピュータ100の構成を示すブロック図である。
コンピュータ100は、CPU102と、不図示のインターフェース回路およびバスラインを介して接続されたROM104、RAM106、ハードディスク装置108、ディスク装置110、キーボード112、マウス114、ディスプレイ116、プリンタ118、入出力インターフェース120などを有している。
ROM104は制御プログラムなどを格納し、RAM106はワーキングエリアを提供するものである。
ハードディスク装置108は、本発明にかかる地震応答解析プログラムを格納している。
ディスク装置110はCDやDVDなどの記録媒体に対してデータの記録および/または再生を行うものである。
キーボード112およびマウス114は、操作者による操作入力を受け付けるものである。
ディスプレイ116はデータを表示出力するものであり、プリンタ118はデータを印刷出力するものであり、ディスプレイ116およびプリンタ118によってデータを出力する。
入出力インターフェース120は、他の情報機器等との間でデータの授受を行うものである。
【0009】
つぎに、地震応答解析プログラムの詳細について説明する。
地震応答解析プログラムは、建物と建物を支持する複数の杭とからなる構造物と、それぞれの杭に対して所定の基準方向毎に設定された自由地盤節点と、を含む地盤−杭−建物連成系(連成解析モデル)を用い、地震時における構造物の応答を解析する。
本実施の形態では、連成解析モデルへの入力を「地震時の自由地盤変位(変位量)」とし、解析の主な出力として「杭・柱・梁・壁等の各部材における応力と変形」を得るものとする。
【0010】
図1は、実施の形態にかかる連成解析モデル10を模式的に示す説明図である。
図1に示す連成解析モデル10は、建物12、地盤中で建物12を支持する複数の杭14、杭14の遠方に位置する自由地盤160、自由地盤160と杭14とを接続する地盤ばね18を含んでいる。なお、後述するように、自由地盤160は、所定の基準方向毎および杭14の長さ方向に複数設定された自由地盤節点16(
図2参照)で表される。
解析の際には、予め地震時における各深度の自由地盤変位を計算しておき、それを対応する深さ(杭長さ方向上の位置)の自由地盤節点に与える。与えられた自由地盤変位は、地盤ばね18を介して杭14に荷重を作用させる。そして、それらの荷重によって例えば杭14に生じる応力が出力となる。
すなわち、例えば杭14に発生する応力を算出する場合には、それぞれの自由地盤節点16に対して地震時における変位量を入力し、自由地盤節点16と杭14との間の地盤ばね18のばね定数と、それぞれの杭14が負担する軸力と、上記変位量とに基づいて、地震時にそれぞれの杭14に発生する応力を算出する。
【0011】
図1のように、1つの建物12には複数の杭14があるが、平常時(地震力が作用していない時)にそれぞれの杭14がどれだけの軸力(建物重量)を負担しているかは杭14ごとに異なる。また、建物12に地震力が作用した場合には、地震力の大きさによって杭14が負担する軸力も変動する(地震時の杭軸力=平常時の軸力+地震力による変動軸力)。さらに、杭の水平剛性や耐力は、負担する軸力によって異なる。
このため、これらの条件を反映した解析を行い、地震時における構造物の応答をシミュレーションする。
【0012】
例えば、
図1の例では、紙面左方向から右方向に向かって地盤表面に近いほど大きい自由地盤変位と、紙面左方向から右方向に向かう地震力が生じている。
地震力によって建物12が紙面右方向に転倒しようとする力(矢印A)が生じるが、この力により紙面左側の杭14は上方に持ち上げられるため(矢印B)、杭14が負担する軸力は小さくなる傾向がある。一方、紙面右の杭14は、建物12が転倒しようとする力に対して突っ張るため(矢印C)、杭14が負担する軸力は大きくなる傾向がある。
【0013】
つぎに、連成解析モデル10の自由地盤節点について説明する。
図2は、連成解析モデル10における自由地盤節点の設定方法を模式的に示す説明図である。
図2は、
図1の連成解析モデル10のうち地中部分を抜き出したものであり、
図2Aは上面視図、
図2Bは側面視図である。
図2には、9本の杭14A〜14Iを図示している。上述のように、従来は1つの杭14に対して、それぞれ基準方向毎に自由地盤節点を設定していた。一方、本実施の形態では、各基準方向(x方向、y方向)の自由地盤節点16(16,16y)の位置を、各杭14A〜14Iから無限遠方としている。これにより、各杭14A〜14Iと各基準方向の自由地盤節点16とを結ぶ地盤ばね18の角度が同一とみなせる。そのため、杭14A〜14Iごとに設ける必要があった自由地盤節点16を、無限遠方の節点1つに集約することができる。
すなわち、連成解析モデル10では、それぞれの杭14A〜14Iから基準方向に無限遠方とみなせる位置に自由地盤節点16(16x,16y)を設定し、複数の杭14A〜14Iにおける基準方向毎の自由地盤節点を一点に集約させている。
なお、従来技術と同様、各杭14A〜14Iと自由地盤節点16x,16yとは、杭14A〜14I上の節点15において地盤ばね18x〜18yを介して接続されている。
図2Aでは、図面の視認性が低下するのを防止する観点から、各杭14と各自由地盤節点16との接続線は一部のみ図示している。
【0014】
図2Bに示すように、各杭14の長さ方向における自由地盤節点16については、従来技術と同様に所定の杭長さDごとに自由地盤節点16dが設定されている。
図2Bの例では13個の自由地盤節点16dが設定されており、各自由地盤節点16dは、対応する杭長さ方向上の位置にある杭14上の節点15と地盤ばね18dで接合している。よって、杭長さ方向上の各位置における基準方向毎の自由地盤節点16を一点に集約させていることになる。
したがって、連成解析モデル10の自由地盤節点16の数は「方向×杭長さ方向分割数」となる。解析対象となる杭の本数をN本とすると、従来手法と比較して自由地盤節点数を1/N個に削減することができる。
【0015】
より詳細に、連成解析モデル10を用いた解析について説明する。
図3は、従来技術と本発明との比較を模式的に示す図である。説明の便宜上、
図3では自由地盤節点16を一方向にのみ設定している。
図3Aは、従来技術における自由地盤節点の設定方法である。従来技術では、杭14A〜14Cに対して、それぞれ別個に自由地盤節点16A〜16Cを設定していた。それぞれの杭14A〜14Cと自由地盤節点16A〜16Cとを結ぶ地盤ばね18A〜18Cのばね定数をk、各自由地盤節点16A〜16Cと対応する杭長さ方向上の位置における杭14A〜14Cとの間で生じる相対変位(変位量)をδとすると、変位δが生じた際に各杭14A〜14Cに作用する荷重PA〜PCは、P1=P2=P3=k×δとなる。
【0016】
一方、本実施の形態のように、基準方向における自由地盤節点を1つに集約する場合、杭14A〜14Cと自由地盤節点16との距離が十分に大きくない場合には、解析値にずれが生じることになる。
例えば、
図3Bでは、杭14Aと自由地盤節点16を結ぶ線および杭14Cと自由地盤節点16を結ぶ線と、自由地盤変位の作用する方向線とに角度が生じており、この分杭14A,14Cにおける自由地盤変位が小さくなる(δA=δC=δ×cosθ)。
すなわち、各杭に作用する荷重P1〜P3は
P1 = k×δ1 = k×δ×cosθ
P2 = k×δ2 = k×δ
P3 = k×δ3 = k×δ×cosθ
となり、従来技術と解析結果が異なってしまう。
【0017】
そこで、本実施の形態では、自由地盤節点16を杭14の無限遠方とみなせる距離に設定している。これにより、θが限りなく0度に近づき、cosθ≒1.0となる。よって、P1≒P2≒P3となり、自由地盤節点を集約しても従来技術と同等の出力を得ることができる。
【0018】
以上説明したように、実施の形態にかかる地震応答解析方法および地震応答解析プログラムによれば、複数の杭14A〜14Iにおける基準方向毎の自由地盤節点16x,16yを一点に集約しているので、計算結果に大きな影響を及ぼさずに、モデルの節点数を少なくすることができる。このようなモデルの合理化により、プログラム上のメモリを削減することができ、例えば杭長さ方向の分割数を増やして詳細にモデル化したり、上部構造の柱や梁のモデルを詳細化することが可能となり、地震応答解析の精度を向上させることができる。
なお、本実施の形態では、連成解析モデルに地震時の自由地盤変位を入力し、出力として杭応力を得るものとしたが、本発明の適用はこれに限らず、連成解析モデルを用いた各種パラメータの解析に適用可能である。
【符号の説明】
【0019】
10 連成解析モデル
12 建物
14(14A−14I,14d) 杭
16(16x,16y,16d) 自由地盤節点
18(18x,18y,18d) 地盤ばね