(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
液体領域である被密封流体領域を、シールケースに設けたケース側密封環と回転軸に設けた軸側密封環とを具備するメカニカルシールで密封するように構成された軸封装置であって、
被密封流体領域における当該メカニカルシールの両密封環の対向端面である両密封端面に臨む被密封流体端部領域に、被密封流体領域の液体を気化させる加熱手段を設け、
前記加熱手段の近傍であって当該加熱手段を挟んで前記メカニカルシールと反対側の被密封流体端部領域に、当該加熱手段による被密封流体領域の液体の気化を防止する冷却手段を設けたことを特徴とする軸封装置。
前記メカニカルシールが、両密封端面の一方に動圧発生溝を形成して、当該両密封端面を、その間に動圧を発生させることにより非接触状態に保持するように構成された非接触形メカニカルシールであることを特徴とする、請求項1に記載する軸封装置。
前記メカニカルシールが、両密封端面の一方に静圧発生溝を形成して、当該両密封端面を、当該静圧発生溝に被密封流体領域より高圧のシールガスを供給することにより当該両密封端面間に静圧を発生させることによって、非接触状態に保持するように構成された非接触形メカニカルシールであることを特徴とする、請求項1に記載する軸封装置。
前記メカニカルシールよりも大気領域側に第2のメカニカルシールを設けて、前記メカニカルシールと当該第2のメカニカルシールとで閉塞された中間領域にバッファガスを供給し、当該両メカニカルシールにより被密封流体領域と大気領域とを中間領域を介してシールするように構成したことを特徴とする、請求項1に記載する軸封装置。
前記両メカニカルシールが、夫々、シールケースに設けたケース側密封環と回転軸に設けた軸側密封環とを具備して、両密封環の対向端面である両密封端面の一方に形成した動圧発生溝により両密封端面間に動圧を発生させることによって、当該両密封端面間を非接触状態に保持するように構成された非接触形メカニカルシールであることを特徴とする、請求項4に記載する軸封装置。
前記加熱手段が、シールケースの内周部に中空の加熱ジャケットを設けて、この加熱ジャケット内に加熱流体を供給するように構成されていることを特徴とする、請求項1〜5の何れかに記載する軸封装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来軸封装置では、機内領域の液体に固形微粒子等の異物が混入していると、機内側メカニカルシールにおいて、両密封環の接触部分やケース側密封環とOリングとの接触部分に固形微粒子等の異物が侵入して、メカニカルシール機能が低下、喪失する虞れがある。
【0006】
本発明は、このような問題を生じることなく、液体をこれが固形微粒子等の異物を含むものである場合にも良好にシールすることができる軸封装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の目的を達成すべく、液体領域である被密封流体領域を、シールケースに設けたケース側密封環と回転軸に設けた軸側密封環とを具備するメカニカルシールで密封するように構成された軸封装置であって、被密封流体領域における当該メカニカルシールの両密封環の対向端面である両密封端面に臨む被密封流体端部領域に、被密封流体領域の液体を気化させる加熱手段を設けたことを特徴とする軸封装置を提案するものである。
【0008】
かかる軸封装置の好ましい実施の形態にあっては、前記メカニカルシールとして、両密封端面の一方に動圧発生溝を形成して、当該両密封端面を、その間に動圧を発生させることにより非接触状態に保持するように構成された非接触形メカニカルシールを使用し、或いは当該メカニカルシールとして、両密封端面の一方に静圧発生溝を形成して、当該両密封端面を、当該静圧発生溝に被密封流体領域より高圧のシールガスを供給することにより当該両密封端面間に静圧を発生させることによって、非接触状態に保持するように構成された非接触形メカニカルシールを使用する。
【0009】
また、本発明の軸封装置は、前記メカニカルシールよりも大気領域側に第2のメカニカルシールを設けて、前記メカニカルシールと当該第2のメカニカルシールとで閉塞された中間領域にバッファガスを供給し、当該両メカニカルシールにより被密封流体領域と大気領域とを中間領域を介してシールするように構成しておくことができる。この場合、両メカニカルシールは、夫々、シールケースに設けたケース側密封環と回転軸に設けた軸側密封環とを具備して、両密封環の対向端面である両密封端面の一方に形成した動圧発生溝により両密封端面間に動圧を発生させることによって、当該両密封端面間を非接触状態に保持するように構成された非接触形メカニカルシールであることが好ましい。
【0010】
また、本発明の軸封装置にあっては、前記加熱手段を、シールケースの内周部に中空の加熱ジャケットを設けて、この加熱ジャケット内に加熱流体を供給するように構成しておくことが好ましい。また、前記加熱手段の近傍であって当該加熱手段を挟んで前記メカニカルシールと反対側の被密封流体端部領域に、当該加熱手段による被密封流体領域の液体の気化を防止する冷却手段を設けておくことが好ましい。この場合、冷却手段は、シールケースの内周部に前記加熱ジャケットに近接する冷却ジャケットを設けて、この冷却ジャケット内に冷却流体を供給するように構成しておくことが好ましい。さらに、前記加熱ジャケットと冷却ジャケットとの間には断熱材を装填しておくことが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の軸封装置にあっては、被密封流体領域をシールするメカニカルシールに、当該被密封流体領域の液体が直接に接触せず、当該液体を加熱手段により気化させた気化ガスが接触するように構成されていることから、当該液体が固形微粒子等の異物が含む場合にも、当該異物がメカニカルシールの構成部材間に侵入して当該メカニカルシールのシール機能を低下、喪失させるようなことがなく、良好且つ安定したメカニカルシール機能が発揮される。また、当該液体の気化ガスやバッファガス等のガスを密封するメカニカルシールとして、密封端面が接触しない非接触形メカニカルシールを使用することができるから、端面接触形メカニカルシールを使用する従来軸封装置に比して、回転軸に作用するトルクが小さく、回転軸の動力費を大幅に削減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は本発明に係る軸封装置の一例を示す断面図であり、
図1に示す軸封装置(以下「第1軸封装置」という)M1は、低沸点液(液体アンモニア、LPG等の液化ガス等)を扱うポンプ等の回転機器に装備されるもので、軸方向に縦列するメカニカルシール(以下「第1メカニカルシール」という)1と第2のガスシール(以下「第2メカニカルシール」という)2とで構成されており、低沸点液領域である被密封流体領域(機内領域)Aと大気領域(機外領域)Bとを両メカニカルシール1,2間に形成された中間領域Cを介してシールする(隔離する)ものである。被密封流体領域Aは第1メカニカルシール1によって密封され、中間領域Cは両メカニカルシール1,2によって密封される。
【0014】
低沸点液領域A側の第1メカニカルシール(一次シール)1は、
図1に示す如く、当該回転機器のハウジング3に取り付けられた円筒状のシールケース4と、シールケース4を同心状に貫通する当該回転機器の回転軸5に固定された軸側密封環6と、シールケース4に軸方向に移動可能に保持されたケース側密封環7と、ケース側密封環7を軸側密封環6方向に附勢するスプリング部材8とを具備する、両密封環6,7の対向端面である両密封端面6a,7a間に液体潤滑膜を形成しないメカニカルシールである。また、大気領域B側の第2メカニカルシール(二次シール)2は、前記シールケース4と、前記回転軸5に固定された軸側密封環9と、シールケース4に軸方向に移動可能に保持されたケース側密封環10と、ケース側密封環10を軸側密封環9方向に附勢するスプリング部材11とを具備する、両密封環9,10の対向端面である両密封端面9a,10a間に液体潤滑膜を形成しないメカニカルシールである。
【0015】
両メカニカルシール1,2で閉塞された中間領域Cは、被密封流体領域A及び大気領域Bより高圧のバッファガスG1が供給されたガス領域である。なお、バッファガスG1としては、被密封流体領域Aの低沸点液(液化アンモニア等)に対して不活性であり且つ大気領域Bに漏洩しても支障のない無害なガス、例えば窒素ガスが使用される。
【0016】
両メカニカルシール1,2で構成される第1軸封装置M1は、両ケース側密封環7,10が両軸側密封環6,9の軸方向両側に位置するダブルシール構造をなしており、各メカニカルシール1,2は動圧型の非接触形メカニカルシールに構成されている。
【0017】
すなわち、両軸側密封環6,9は、密封端面6a,9aを逆方向に向けた状態で回転軸5に取り付けた固定環12に固定されている。各軸側密封環6,9の密封端面6a,9aには、中間領域Cに開口するスパイラル形状又はヘリカル形状等の動圧発生溝6b,9bが形成されている。各ケース側密封環7,10にOリング13,14及びドライブピン15,16を介して保持環17,18を連結し、この保持環17,18をシールケース4にOリング19,20を介して軸方向に移動可能に保持すると共に、シールケース4と保持環17,18との間に前記スプリング部材8,11を装填することにより、当該ケース側密封環7,10を、各々、軸側密封環6,9へと附勢された状態でシールケース4に軸方向に移動可能に保持させている。したがって、各メカニカルシール1,2によれば、各々、両密封端面6a,7a又は9a,10a間に動圧発生溝6b,9bの作用により中間領域CのバッファガスG1による動圧が発生し、この動圧により両密封端面6a,7a又は9a,10aが微小なクリアランスを有する非接触状態で相対回転して、中間領域Cと被密封流体領域A又は大気領域Bとの間がシールされる(隔離される)。
【0018】
而して、第1軸封装置M1にあっては、
図1に示す如く、被密封流体領域Aにおける第1メカニカルシール1の密封端面6a,7aに臨む被密封流体端部領域A1に、被密封流体領域Aの液体(液体アンモニア等の低沸点液)を気化させる加熱手段21を設けてある。
【0019】
この例では、加熱手段21が、
図1に示す如く、シールケース4の内周部であって第1メカニカルシール1の密封端面6a,7aの近傍部分に中空の加熱ジャケット22を取り付けると共に、シールケース4に加熱ジャケット22内に連通する供給路23及び排出路24を形成して、加熱流体F1を供給路23及び排出路24により加熱ジャケット21内に循環供給させるように構成されている。
【0020】
加熱ジャケット22は、回転軸5をこれに近接した同心状態で囲繞する中空円筒体形状をなす金属製のもので、軸方向に適宜間隔を隔てて対向する円環状の第1及び第2側壁22a,22bと、両側壁22a,22bの内周端部間を連結する円筒状の周壁22cとからなり、両側壁22a,22bの外周端部をシールケース4の内周部に取り付けてある。周壁22cの内径は回転軸5の外径より若干大きく設定されていて、周壁22cと回転軸5との対向周面間には、径方向寸法が小さな環状隙間25が形成されている。なお、加熱ジャケット22を挟んで第1メカニカルシール1と反対側(機内側)の被密封流体端部領域A1には、加熱ジャケット22の近傍に配してシールケース4の内周部に取り付けられたラビリンスシール26が設けられている。このラビリンスシール26の内周部は回転軸5の外周面に近接していて、ラビリンスシール26を挟んでそれよりも機内側の被密封流体領域Aとそれよりも機外側の被密封流体端部領域A1との間で低沸点液の流動を抑制して熱移動を抑制するとともに、低沸点液に含まれる固形微粒子等の異物が加熱ジャケット22による加熱領域に侵入するのを可及的に防止する。
【0021】
而して、上記した加熱手段21によれば、加熱ジャケット22内に加熱流体F1を循環供給することにより、加熱ジャケット22の両側壁22a,22b及び周壁22cが加熱されることになる。したがって、加熱ジャケット22に接触している低沸点液が気化して、第1メカニカルシール1の密封端面6a,7aと加熱ジャケット22との間の被密封流体端部領域A1は、低沸点液の気化ガス(例えば、低沸点液が液体アンモニアである場合にはアンモニアガス)が充満する気化ガス領域となる。
【0022】
なお、加熱流体F1の温度、加熱ジャケット22の側壁22a,22b及び周壁22cの厚み及び材質並びに被密封流体端部領域(気化ガス領域)A1の容積は、被密封流体領域Aの低沸点液の性状(気化温度等)に応じて、当該低沸点液が確実に気化されて被密封流体端部領域A1が完全な気化ガス領域となることを条件として、適宜に選定、設定される。
【0023】
ところで、第1軸封装置M1を使用する回転機器が設置されている工場や施設にあっては、一般に、洗浄、空調等のために適宜の高温流体(スチーム、温水、廃熱ガス等)の供給設備や排出設備が装備されていることから、加熱ジャケット22に供給する加熱流体F1として、このように工場や施設で使用され或いは廃棄されるスチーム等の高温流体を利用することが好ましい。
【0024】
以上のように構成された第1軸封装置M1にあって、第1メカニカルシール1の密封端面6a,7aに接触する被密封流体端部領域A1には、低沸点液が加熱ジャケット22との接触により加熱されて気化された気化ガスが充満することになるから、気化ガス領域である当該被密封流体端部領域A1とバッファガス領域である中間領域Cとの間は、動圧型の非接触形メカニカルシールである第1メカニカルシール1により良好にシールされる。また、ガス領域である中間領域Cと大気領域Bとの間も、動圧型の非接触形メカニカルシールである第2メカニカルシール2により良好にシールされる。したがって、被密封流体領域Aが液体領域(低沸点液領域)であるにも拘わらず、ガスシールである動圧型の非接触形メカニカルシール1,2により、被密封流体領域Aと大気領域Bとの間が中間領域Cを介して良好にシールされる。
【0025】
したがって、被密封流体領域Aの低沸点液に固形微粒子等の異物が混入している場合にも、第1メカニカルシール1の密封端面6a,7aには、当該低沸点液が接触せず、これが加熱手段21により気化されて固形微粒子等の異物を含まない気化ガスが接触することから、低沸点液に含まれている固形微粒子等の異物が密封端面6a,7a間や保持環17とケース側密封環7及びシールケース4との間に装填されたOリング13,19の接触部分に侵入してメカニカルシール機能を低下、喪失させるようなことがなく、良好且つ安定したメカニカルシール機能が発揮される。
【0026】
そして、両メカニカルシール1,2が、軸側密封環6,9の密封端面6a,9aとケース側密封環7,10の密封端面7a,10aとが非接触状態に保持される非接触形メカニカルシールであるから、両密封端面が接触状態で相対回転する端面接触形メカニカルシールを使用する従来軸封装置に比して、回転軸5に作用するトルクが大幅に減少し、回転軸の動力費を含むランニングコストが大幅に削減される。
【0027】
さらに、低沸点液を気化させるための加熱源である加熱流体F1を、上記した如く、第1軸封装置M1が使用される回転機器が設置されている工場や施設において装備されている高温流体(スチームや廃熱ガス等)の供給設備や排出設備を利用して調達することができる場合には、当該高温流体を加熱流体F1として使用することにより、加熱手段21のイニシャルコスト、ランニングコストを含めた第1軸封装置M1の設備費、維持管理費を大幅に節減することができる。
【0028】
また、
図2は本発明に係る軸封装置の変形例を示す断面図であり、
図2に示す軸封装置(以下「第2軸封装置」という)M2は、低沸点液(液体アンモニア、LPG等の液化ガス等)を扱うポンプ等の回転機器に装備されるもので、一つのメカニカルシール31で構成されたシングルシールであり、低沸点液領域である被密封流体領域(機内領域)Dと非密封流体領域である大気領域(機外領域)Eとを遮蔽シールするものである。
【0029】
当該メカニカルシール31は、
図2に示す如く、回転機器のハウジング32に取り付けられた円筒状のシールケース33と、シールケース33を同心状に貫通する当該回転機器の回転軸34に固定された軸側密封環35と、シールケース33にOリング36を介して軸方向に移動可能に保持されたケース側密封環37と、ケース側密封環37を軸側密封環35方向に附勢するスプリング部材38とを具備する、両密封環35,37の対向端面である両密封端面35a,37a間に液体潤滑膜を形成しないメカニカルシールであって、シールガス通路39から両密封端面35a,37a間にシールガスG2を供給することにより当該両密封端面35a,37aが非接触状態で相対回転する静圧型の非接触形メカニカルシール(以下「静圧型メカニカルシール」という)である。
【0030】
すなわち、シールガス通路39は、
図2に示す如く、ケース側密封環37の密封端面37aに形成された静圧発生溝39aと、シールケース33とケース側密封環37との対向周面間に形成された環状空間であってOリング40a,40bによってシールされた連通空間39bと、シールケース33に形成されて連通空間39bに連通するケース側通路39cと、ケース側密封環37に形成されて連通空間39bと静圧発生溝39aとを連通する密封環側通路39dとからなり、ケース側通路39cから静圧発生溝39aへとシールガスG2を供給するものである。静圧発生溝39aは、ケース側密封環37の密封端面37aと同心状の円環状をなして断続又は連続する浅い凹溝であり、密封環側通路39dにはオリフィス41が配設されている。シールガスG2としては、被密封流体領域D及び大気領域Eより高圧のガスであって、両領域D,Eに流出しても無害であり且つ被密封流体領域Dの低沸点液に悪影響を及ぼさない不活性なもの(例えば、窒素ガス)が使用される。
【0031】
上記のように構成された静圧型メカニカルシール31によれば、静圧発生溝39aに供給されたシールガスG2により両密封端面35a,37a間に静圧が発生することにより、両密封端面35a,37aが微小なクリアランスを有する非接触状態に保持されて相対回転し、両領域D,E間をシールする(隔離する)。
【0032】
而して、第2軸封装置M2にあっても、
図2に示す如く、第1軸封装置M1と同様に、被密封流体領域Dにおける密封端面35a,37aに臨む被密封流体端部領域D1に、被密封流体領域Dの低沸点液(液体アンモニア等)を気化させる加熱手段42を設けてある。
【0033】
この加熱手段42は、第1軸封装置M1の加熱手段21と同一構造をなすものであるから、
図1に示す加熱手段21と同一構成をなす加熱手段42の各構成部材については、
図2において
図1と同一の符号を付すことによって、その詳細は省略する。なお、第2軸封装置M2においても、加熱ジャケット22を挟んで静圧型メカニカルシール31と反対側(機内側)の被密封流体端部領域D1に、第1軸封装置M1と同様のラビリンスシール26が設けられている。
【0034】
而して、以上のように構成された第2軸封装置M2にあっては、第1軸封装置M1と同様に、被密封流体領域Dの低沸点液が加熱ジャケット22に接触することにより気化され、密封端面35a,37aと加熱ジャケット22との間の被密封流体端部領域D1は低沸点液の気化ガスが充満する気化ガス領域となる。
【0035】
したがって、第2軸封装置M2にあっても、静圧型メカニカルシール31により気化ガス領域である被密封流体端部領域D1と大気領域Eとが良好に遮蔽シールされ、被密封流体領域Dの低沸点液に固形微粒子等の異物が混入している場合にも、当該異物が密封端面35a,37a間やケース側密封環37とシールケース33との間に装填されたOリング36,40a,40bの接触部分に侵入してメカニカルシール機能を低下、喪失させるようなことがなく、良好且つ安定したメカニカルシール機能が発揮される。
【0036】
また、静圧型メカニカルシール31が、両密封端面35a,37aが非接触状態で相対回転する非接触形メカニカルシールであるから、端面接触形メカニカルシールを使用する従来軸封装置に比して、回転軸34に作用するトルクが大幅に減少し、回転軸の動力費を含むランニングコストが大幅に削減される。さらに、低沸点液を気化させるための加熱源である加熱流体F1を、第2軸封装置M2が使用される回転機器が設置されている工場や施設において装備されている高温流体(スチームや廃熱ガス等)の供給設備や排出設備を利用して調達することができる場合には、当該高温流体を加熱流体F1として使用することにより、加熱手段42のイニシャルコスト、ランニングコストを含めた第2軸封装置M2の設備費、維持管理費を大幅に節減することができる。
【0037】
ところで、上記軸封装置M1,M2において、加熱手段21,42による気化作用がラビリンスシール26側(機内側)へも及ぶことにより回転機器の性能(ポンプ性能等)への影響があらわれることが懸念される場合には、
図3に示す如く、加熱手段21,42よりラビリングシール26側に冷却手段43を設けて、低沸点液の加熱手段21,42による気化作用が被密封流体端部領域A1,D1からそれよりも機内側の被密封流体領域A,Dへ大きく広がるのを防止するようにしておくことが好ましい。
【0038】
冷却手段43は、上記軸封装置M1,M2において、加熱手段21,42を挟んでメカニカルシール1,31と反対側(機内側)の被密封流体端部領域A1,D1における加熱手段21,42の近傍に配しておくとよい。例えば、冷却手段43は、
図3に示す如く、加熱ジャケット22とラビリンスシール26との間に配して、シールケース4,33の内周部に中空の冷却ジャケット44を取り付けると共に、シールケース4,33に冷却ジャケット44内に連通する供給路45及び排出路46を形成して、冷却流体F2を供給路45及び排出路46により冷却ジャケット44内に循環供給させるように構成される。
【0039】
冷却ジャケット44は、前記加熱ジャケット22と同様形状をなす金属製のもので、軸方向に適宜間隔を隔てて対向する円環状の第1及び第2側壁44a,44bと、両側壁44a,44bの内周端部間を連結し、回転軸5の外周面に近接する円筒状の周壁44cとからなる。冷却ジャケット44における加熱ジャケット22側の第1側壁44aと加熱ジャケット22における冷却ジャケット44側の第2側壁22bとの外周端部間は、両側壁22b,44aを軸方向に適宜間隔を隔てた状態で、連結されている。冷却ジャケット44は、加熱ジャケット22と一体をなして、シールケース4,33の内周部に取り付けられている。
【0040】
このように構成された冷却手段43によれば、冷却ジャケット44内に冷却流体F2を循環供給することにより、冷却ジャケット44の側壁44a,44b及び周壁44cが冷却されて、冷却ジャケット44に接触する低沸点液が加熱手段21,42により気化されることがなく、加熱手段21,42による低沸点液の気化作用が被密封流体端部領域A1,D1からラビリンスシール26側(機内側)へと広がることがない。
【0041】
したがって、冷却手段43を設けておくことにより、加熱手段21,42により被密封流体領域A,Dの低沸点液を気化させることによって回転機器の性能(ポンプ性能等)が影響を受けるといった懸念は、これを確実に払拭することができる。なお、冷却流体F2の温度及び冷却ジャケット44の構成壁44a,44b,44cの材質は、被密封流体領域Aの低沸点液の性状に応じて、加熱手段21,42による低沸点液の気化を確実に防止できることを条件として、適宜に選定、設定される。また、当該回転機器が設置されている工場や施設で使用され或いは廃棄される低温流体(冷却水、排水等)を利用することができる場合、かかる低温流体を冷却流体F2として使用することが好ましい。
【0042】
ところで、冷却ジャケット44は加熱ジャケット22に可及的に接近して設けておくことが好ましいが、このように両ジャケット22,44を接近させておくと、加熱手段21,42による加熱作用(気化作用)と冷却手段43による冷却作用(気化阻止作用)とが相互に干渉して、加熱ジャケット22による気化作用が冷却ジャケット43による冷却作用により阻害されて被密封流体端部領域A1,D1のガス化が良好に行われない虞れがある。このような虞れがある場合には、
図3に示す如く、加熱ジャケット22と冷却ジャケット44との間、つまり加熱ジャケット22の第2側壁22bと冷却ジャケット44の第1側壁44aとの間に適宜の断熱材47を充填しておくことが好ましい。勿論、加熱手段21,42による加熱作用が冷却手段42による冷却作用によって阻害される虞れがない場合等にあっては、このような断熱材47を設けておくことは必ずしも必要ではない。
【0043】
なお、本発明の構成は上記した各実施の形態に限定されるものではなく、本発明の基本原理を逸脱しない範囲で適宜に改良、変更することができる。
【0044】
例えば、第1軸封装置M1は、特許文献1に開示された軸封装置と同様に、第1メカニカルシール1の密封環6,7と第2メカニカルシール2の密封環9,10とをこれらの軸方向位置関係が同一となるタンデム配置とするタンデムダブルシールに構成することもできる。この場合、第1メカニカルシール1の両密封端面6a,7aの一方に被密封流体端部領域(気化ガス領域)A1に連通する動圧発生溝を形成すると共に、中間領域Cに被密封流体領域Aより低圧で且つ大気領域Bより高圧又は大気領域Bと同圧のバッファガスG1を供給することにより、第1メカニカルシール1を、被密封流体端部領域A1の気化ガスにより密封端面6,7間に動圧が発生されて両密封端面6a,7aが非接触状態で相対回転する動圧型の非接触形メカニカルシールに構成する。
【0045】
また、シングルシールである第2軸封装置M2にあっては、静圧型メカニカルシール31に代えて、上記した第1メカニカルシール1と同様の動圧型の非接触形メカニカルシールを使用することができる。
【0046】
また、回転軸が低速である等のシール条件によっては、本発明の軸封装置を構成するメカニカルシールとして、両密封環の密封端面が接触した状態で相対回転する端面接触形メカニカルシールであって、両密封環の一方又は両方を自己潤滑性に優れた材料(カーボンやグラスファイバー入りのポリテトラフルオロエチレン等)で構成した一般的なドライコンタクトシールや特願2016−166630号に開示される如く密封端面にダイヤモンドコーティングを施した特殊なドライコンタクトシールを使用することも可能である。
【0047】
また、加熱手段21,42及び冷却手段43の構成は任意であり、例えば、加熱ジャケット22及び冷却ジャケット44は、夫々、シールケース4,33に一体形成することもできる。また、加熱手段21,42及び冷却手段43は、夫々、流体F1,F2によりジャケット22,44を加熱、冷却させるものではなく、電気的に加熱、冷却するものに構成することもできる。しかし、上記したように流体F1,F2によりジャケット22,44を加熱、冷却させる場合であって、軸封装置M1,M2が設置される工場、施設において使用され或いは廃棄される高温流体や低温流体を加熱流体F1や冷却流体F2として使用することができる場合には、コスト的に有利である。
【0048】
なお、上述の通り、本発明の軸封装置は、低沸点液を扱う回転機器に使用する場合に運転コストの面で好適なものであるが、もちろん、低沸点液を扱う回転機器に限定されず、沸点の温度が水よりも高い液体等を扱う回転機器に使用してもよい。